JP4104874B2 - 水酸化カルシウムを用いる晶析処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、所定のpH範囲の水酸化カルシウム含有液を用いた、原水中の晶析対象成分を晶析除去する晶析処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
工場などからの排水の水質については厳しい制限がなされているが、その規制は年々厳しくなる傾向にある。電子産業(特に半導体関連)、発電所、アルミニウム工業などから排出される原水中には、フッ素、リンまたは重金属類という、近年厳しい排水基準が設けられている元素が含まれている場合が多い。このため、これらを排水から効率良く除去することが求められており、近年、フッ素、リン、重金属等を除去する技術の1つとして、晶析法が開発されている。
【0003】
フッ素の晶析除去技術としては、フッ素を含む原水に、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩化カルシウム(CaCl2)、炭酸カルシウム(CaCO3)をはじめとするカルシウム化合物を添加し、式(I)に示されるように、難溶性のフッ化カルシウムを生じさせることを基本とする。
Ca2++2F−→ CaF2↓ (I)
特願昭59−63884号(特開昭60−206485号)には、フッ素とカルシウムを含有する種晶を充填した反応槽にフッ素含有原水をカルシウム剤と共に導入して、種晶上にフッ化カルシウムを析出させる、いわゆるフッ化カルシウム晶析法が開示されている。この晶析法においては、一般的に、反応槽の底部から原水を導入し、種晶を流動化させながら上向流で通水して処理を行い、必要に応じて反応槽からの流出水を循環している。この方法の長所としては装置設置面積を低減できること、汚泥発生量が少ないこと等が挙げられる。なお、反応槽内に充填される種晶としては、フッ素とカルシウムを含有する粒子が一般的であるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、砂や活性炭などの微細粒子が用いられる場合もある。
【0004】
また、リンの晶析除去技術としては、リンを含む原水に、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、塩化カルシウム(CaCl2)をはじめとするカルシウム化合物を添加し、式(II)および(III)に示されるように、難溶性のリン酸カルシウムおよびリン酸ヒドロキシアパタイト(以下、リン酸カルシウム等という)を生じさせることを基本とする。
3Ca2++2PO4 3− → Ca3(PO4)2↓ (II)
5Ca2++OH−+3PO4 3−→ Ca5OH(PO4)3↓(III)
リンの晶析除去技術の1つとしては、リンとカルシウムを含有する種晶、または砂や活性炭などの微細粒子を充填した反応槽に、リン含有原水をカルシウム化合物と共に導入して、種晶上にリン酸カルシウムを析出させる、いわゆるリン酸カルシウム晶析法がある。この方法の長所としては、装置設置面積を低減できること、汚泥発生量が少ないこと等が挙げられる。
【0005】
さらに、銅、鉄、鉛などの重金属を原水から除去する場合においても、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性化合物の添加によりpHを上昇させ、金属水酸化物の不溶体を生じさせることにより、これら重金属を晶析除去するという技術が開発されている。
【0006】
上述の様な、フッ素、リンおよび/または重金属を含む原水からこれらを除去する晶析反応は、晶析反応槽を備えた、従来の、公知の晶析反応装置を用い、晶析用薬液として水酸化カルシウムスラリーを用いて行うことができる。そして、晶析反応においては、晶析反応槽内で、晶析用薬液中の晶析反応成分(例えば、フッ化カルシウムを晶析させる場合における「カルシウム」)と、晶析対象成分(例えばフッ素)との存在割合が、晶析化合物の溶解度における過飽和条件の、液中に核が存在しなければ晶析反応を生じない準安定域に制御されることが要求される。
【0007】
水酸化カルシウムスラリーを用いた晶析反応に使用される、従来の晶析反応装置の1態様の概略図を図3に示す。図3の態様においては、晶析反応装置は、内部に種晶2が充填され、原水中の晶析対象成分を晶析反応により除去する晶析反応槽1と、原水を該晶析反応槽1に供給する原水供給手段と、晶析用薬液である水酸化カルシウムスラリーを該晶析反応槽1に供給する晶析用薬液供給手段とを具備しており、さらに、任意に該晶析反応槽1から排出される処理水の少なくとも一部を該晶析反応槽1に返送する処理水循環手段とを具備していてもよい。また、原水供給手段は、原水を貯留する原水タンク3、該原水タンク3と晶析反応槽1とを連結する原水供給ライン4を具備し、該原水供給ライン4には原水移送のためのポンプが介装される。晶析用薬液供給手段は、水酸化カルシウムスラリーを貯留する水酸化カルシウムスラリー貯槽5、該水酸化カルシウムスラリー貯槽5と晶析反応槽1とを連結する水酸化カルシウム供給ライン6を具備し、該水酸化カルシウム供給ライン6には水酸化カルシウム移送のためのポンプが介装されている。水酸化カルシウムスラリーは、水酸化カルシウム供給ライン6に接続されたノズル部分7から、該晶析反応槽1内に供給される。晶析反応槽1で得られる処理水は該晶析反応槽1の上部から処理水排出ライン8を通って排出される。また、図3の態様においては、処理水循環手段として、処理水貯留タンク9と晶析反応槽1を連結する処理水循環ライン10が設けられており、該処理水循環ライン10には処理水移送のためのポンプが介装されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような晶析反応においては、フッ素、リンおよび/または重金属と反応する晶析反応成分として、安価で、反応性も良好である等の観点からカルシウムが採用される場合が多く、さらに、カルシウムを含む晶析用薬液として、安価で、調製が容易である等の観点から水酸化カルシウムスラリーが用いられる場合がある。水酸化カルシウムスラリーは、水酸化カルシウムが水中に懸濁された状態で存在するものであるが、カルシウムが晶析反応槽内での晶析反応において利用されるためには、水中に溶解されたイオンの形態となることが必要となる。
晶析用薬液として水酸化カルシウムスラリーが使用される場合には、晶析反応槽内で、カルシウムがイオンの形態に溶解されるまでに時間を要し、これにより晶析反応の遅れが生じ処理水質が悪化するだけでなく、未反応分が後段の配管、処理施設などの内部で晶析反応を起こし、流路閉塞などの問題を起こす場合がある。この反応時間の遅れによる影響を回避するためには、晶析反応槽内での水酸化カルシウムの滞留時間を、その溶解に充分な長さにすればよいが、滞留時間を長くするためには晶析反応槽の容積を大きくしなければならず、設置面積の増大、建設コストの増加などの問題が生じる。
【0009】
また、スラリーの形態では、溶液の場合と比較して、カルシウムを均一濃度で晶析反応槽内に供給するのが困難であり、晶析反応槽内でカルシウムの高濃度域が生じる場合には過飽和による微細粒子の形成が起こり、また、低濃度域が生じる場合には晶析反応が不充分となり、いずれの場合であっても処理水質の悪化をもたらす。
さらに、スラリーの形態では、溶液の場合と比較して、晶析用薬液供給ラインに接続されたノズル部分から晶析反応槽に供給される、晶析用薬液のディストリビューションが不充分となる傾向が強く、これに起因する部分的な高濃度域の発生による微細粒子の形成や、該ノズル部分、晶析用薬液供給ライン内等での析出物の発生による流路の閉塞を招くという問題も有していた。
【0010】
水酸化カルシウムに水を添加して作成されたスラリーはpHが高いので、目的とする晶析物以外の水酸化物、炭酸化合物等が種晶上に析出する場合があり、これにより、種晶上に晶析化合物を析出させて得られるペレットの純度が低下し、晶析化合物の再利用という点で問題が生じる。また、ペレット純度の低下がペレット強度の低下をもたらし、これにより、晶析反応槽内での流動によるペレットの摩耗に起因して微細粒子が発生し、結果として処理水質の悪化を招くという問題もある。さらに、水酸化物、炭酸化合物が晶析反応槽の液中で形成されることもあり、この場合には、微細粒子の形成による処理水質の悪化を招く。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、フッ素、リンおよび/または重金属をはじめとする晶析対象成分を含む原水を、水酸化カルシウムを用いて晶析処理する晶析処理方法において、晶析用薬液として、水酸化カルシウムに酸を添加して得られた、特定のpH範囲の水酸化カルシウム含有液を使用することによって、晶析反応の遅れを防止し、均一濃度で晶析反応槽にカルシウムを供給し、晶析用薬液の充分なディストリビューションを確保することにより処理水質の悪化を防止し、晶析用薬液を供給するノズル部分等での流路閉塞を防止し、さらに、高pHによるペレット上および/または晶析反応槽液中での不純物の析出を防止できる、晶析処理方法を提供することを目的とする。
また、本発明者らは、水酸化カルシウムに酸を添加して調製される、水酸化カルシウム含有液を特定のpH範囲にすることにより、晶析反応の効率を向上させ、処理水中の晶析対象成分濃度をより低減できることを見出し、これに基づいて、特定のpH範囲の水酸化カルシウム含有液を用いた晶析処理方法を提供することも目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は請求項1として、晶析対象成分を含む原水と、水酸化カルシウム含有液とを晶析反応槽に供給し、該晶析反応槽の内部の種晶上に、該晶析対象成分とカルシウムとの反応物を析出させることにより、晶析対象成分が低減された処理水を生じさせる晶析処理方法において、
該水酸化カルシウム含有液が、水酸化カルシウムに酸を添加して得られた、pH9以下の前記含有液である前記晶析処理方法を提供する。
本発明は請求項2として、水酸化カルシウム含有液が、水酸化カルシウムスラリーに酸を添加することにより調製される、請求項1記載の晶析処理方法を提供する。
本発明は請求項3として、水酸化カルシウムスラリーへの酸の添加が、水酸化カルシウムスラリー貯槽と晶析反応槽とを連結する、水酸化カルシウム供給ライン上で行われる、請求項2記載の晶析処理方法を提供する。
本発明は請求項4として、水酸化カルシウムスラリーへの酸の添加が、水酸化カルシウムスラリー貯槽と晶析反応槽とを連結する、水酸化カルシウム供給ライン上に介装されたpH調整槽で行われる、請求項2記載の晶析処理方法を提供する。
本発明は請求項5として、水酸化カルシウム含有液が、水酸化カルシウムの乾燥固体に酸を添加することにより調製される、請求項1記載の晶析処理方法を提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の方法においては、晶析用薬液として水酸化カルシウム含有液が使用される。本発明における「水酸化カルシウム含有液」とは、水酸化カルシウムに酸を添加して得られた液体であって、一定範囲のpHを有する液体である。該「水酸化カルシウム含有液」は、水酸化カルシウムが完全に溶解された溶液状態でなくても良く、水酸化カルシウムの固体粒子が含有されていても良い。
水酸化カルシウムへの酸の添加は、水酸化カルシウムに酸が添加されるのであれば任意の、公知の方法による添加が可能であり、例えば、水酸化カルシウムスラリーに酸を添加する態様、水酸化カルシウムの乾燥固体に酸を添加する態様またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水酸化カルシウムへの酸の添加の好ましい態様は、水酸化カルシウムスラリーに酸を添加する態様である。
【0014】
本明細書において、「水酸化カルシウムスラリー」とは、水酸化カルシウムの乾燥固体に水または水溶液を添加して形成されるスラリーをいい、使用される水としては、蒸留水、精製水、水道水等任意のソースの水が可能であり、また、水溶液としては、前記水に、酸、アルカリ、これらの塩など任意の化合物が添加された水溶液が可能である。また、本明細書における「水酸化カルシウムの乾燥固体」とは、前記水酸化カルシウムスラリーに対する概念を示すものであり、スラリーを形成していない、粉体、顆粒、塊状物などの固体であれば良く、化合物としての無水物を意味するものではない。
【0015】
水酸化カルシウム含有液の調製に使用される水酸化カルシウムとしては、任意のグレードの水酸化カルシウムを使用することができ、特に限定されるものではない。
水酸化カルシウム含有液の調製に使用される酸としては、特に限定されるものではなく、任意の酸を使用可能である。好ましくは、カルシウムと難溶性の塩を形成させる成分を含まない任意の酸であり、例えば、塩酸等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。より好ましくは、酸は塩酸である。使用される酸は1種類であっても良いし、複数種類の酸が使用されても良い。使用される酸の濃度、添加量等は、水酸化カルシウム含有液が所望のpHとなるように適宜設定される。
【0016】
本発明における、水酸化カルシウム含有液のpH範囲はpH9以下であり、好ましくは、pH8以下であり、より好ましくは、pH8〜4の範囲であり、さらにより好ましくは、pH7〜5の範囲である。
水酸化カルシウム含有液のpHを、上記範囲に調節することにより、水酸化カルシウムをある程度溶解させ、水酸化カルシウムスラリーの場合の前記問題点を解消することが可能となる。ここで、水酸化カルシウムスラリーによる上記問題点を解消するためには、スラリーを溶解させてしまえば良いと考えられ、このような条件であれば、完全な溶解が達成されるような条件、すなわちpHが低い方が晶析処理において良好であると考えられた。
しかし、本発明者らは、晶析処理によって得られる処理水中の晶析対象成分の濃度をより低減させるためには、水酸化カルシウム含有液のpHを所定の範囲に設定するのが有効であることを見出した。すなわち、本発明者らは、水酸化カルシウム含有液のpHを、水酸化カルシウム含有液のpHをpH4未満に低下させるよりも、上述のようにpH8〜4の範囲、さらには、pH7〜5の範囲にすることにより、処理水中の晶析対象成分の濃度を顕著に低減できることを見出した。
理論に拘束されるのは望むものではないが、上記至適pHの存在は、pHを一定範囲にすることにより、水酸化カルシウムの微粒子を完全に溶解させるのではなく、一定量の水酸化カルシウム微粒子を水酸化カルシウム含有液中に残存させることにより、晶析反応槽内において、該微粒子によって晶析反応の反応面積を増大させて晶析反応効率を向上させ、処理水中の晶析対象成分の濃度を低減させるためであると考えられる。
【0017】
本発明の方法で処理される原水は、晶析処理により除去される晶析対象成分を含むものであれば、如何なる由来の原水であっても良く、例えば、半導体関連産業をはじめとする電子産業、発電所、アルミニウム工業などから排出される原水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明における原水中の晶析対象成分としては、晶析反応により晶析し、原水中から除去可能である任意の元素が挙げられ、特に限定されるものではない。また、晶析対象成分となる元素の種類は1種類であっても良いし、2種類以上であっても良い。特に、原水中における存在が問題となるという観点から、本発明の晶析対象成分としては、フッ素、リンおよび重金属元素、並びにこれらの混合物が挙げられる。また、重金属元素としては、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ag、Cd、Hg、Sn、Pb、Teが挙げられるが、これに限定されるものではない。好ましくは、晶析対象成分はフッ素である。
【0018】
晶析対象成分となる元素は、晶析反応により晶析するのであれば、任意の状態で原水中に存在することが可能である。原水中に溶解しているという観点から、晶析対象成分はイオン化した状態であるのが好ましい。晶析対象成分がイオン化した状態としては、例えば、F−、Cu2+等をはじめとする原子がイオン化したもの、メタリン酸、ピロリン酸、オルトリン酸、三リン酸、四リン酸、亜リン酸等をはじめとする晶析対象成分を含む化合物がイオン化したもの、また、重金属等の錯イオンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
図1に本発明の晶析処理方法に使用可能な晶析反応装置の1態様を示し、以下、これに基づいて本発明を詳述する。この態様の晶析反応装置は、内部に種晶2が充填され、原水中の晶析対象成分が低減された処理水を排出する晶析反応槽1と、該原水を晶析反応槽1に供給する原水供給手段と、晶析用薬液である水酸化カルシウム含有液を晶析反応槽1に供給する晶析用薬液供給手段とを具備し、任意に、該晶析反応槽から排出される処理水の少なくとも一部を晶析反応槽1に返送する処理水循環手段を具備する晶析反応装置であって、晶析用薬液供給手段が酸供給ライン11をさらに具備することを特徴とする。
【0020】
晶析用薬液供給手段は、水酸化カルシウム含有液を晶析反応槽に供給できるのであれば任意の態様が可能である。図1および図2においては、晶析用薬液供給手段は、水酸化カルシウムスラリーを貯留する水酸化カルシウムスラリー貯槽5、該水酸化カルシウムスラリー貯槽5と晶析反応槽1とを連結する水酸化カルシウム供給ライン6を具備し、該水酸化カルシウム供給ライン6には水酸化カルシウム移送のためのポンプが介装されている。水酸化カルシウムスラリーは、水酸化カルシウム供給ライン6に連結された酸供給ライン11から供給される酸と、水酸化カルシウム供給ライン6上で混合されて、水酸化カルシウム含有液が形成される。該水酸化カルシウム含有液は、水酸化カルシウム供給ライン6に接続されたノズル部分7から、該晶析反応槽1内に供給される。酸供給ライン11から供給される酸の供給量は、使用される酸の種類、濃度、形成される水酸化カルシウム含有液に望まれるpH等により適宜設定され、特に限定されるものではない。この態様においては、水酸化カルシウム供給ライン6上であって、酸供給ライン11との連結部分の下流に任意に、pHメーターを設置することができる。pHメーターにより測定されるpHの値に応じて、水酸化カルシウムスラリーおよび/または酸の供給量を変動させることが可能となるので、pHメーターの設置が好ましい。
【0021】
晶析用薬液供給手段の他の態様としては、図2の態様のように、水酸化カルシウムスラリー貯槽5と晶析反応槽1を連結する水酸化カルシウム供給ライン6上に、pH調整槽12が介装された態様が挙げられる。
この態様においては、pH調整槽12において、水酸化カルシウムスラリー貯槽5から供給された水酸化カルシウムスラリーと、酸供給ライン11から供給される酸とが混合され、所定のpHを有する水酸化カルシウム含有液が調製され、該水酸化カルシウム含有液が晶析反応槽1に供給される。pH調整槽は任意に、撹拌装置、pHメーターを具備することができる。
【0022】
晶析用薬液供給手段のさらなる態様としては、図2の態様において供給される水酸化カルシウムスラリーの代わりに、水酸化カルシウムの乾燥固体を直接pH調整槽に供給し、水酸化カルシウム含有液を調製するような態様も可能である。また、上述のような、酸供給ライン11が直接水酸化カルシウム供給ライン6に接続される態様、pH調整槽12を使用する態様を任意に組み合わせて使用する態様も本発明の範囲内である。
【0023】
原水供給手段は、原水を晶析反応槽1に供給できるものであれば任意の態様が可能である。図1および図2の態様においては、原水供給手段は、原水を貯留する原水タンク3、該原水タンク3と晶析反応槽1とを連結する原水供給ライン4を具備し、該原水供給ライン4には原水移送のためのポンプが介装されているが、これに限定されるものではない。原水を一旦貯留し、晶析対象成分を一定にできるので、原水供給手段は、図1および図2のように原水タンク3を有する態様が好ましい。
【0024】
晶析反応槽1は、内部に種晶2が充填されており、該種晶2の表面上に、原水に含まれる晶析対象成分と、水酸化カルシウム含有液に含まれるカルシウムとの反応物が析出することにより、原水中の晶析対象成分を低減させ、晶析対象成分の濃度が低下した処理水を排出する。晶析反応槽1は前記機能を有するものであれば、長さ、内径、形状などについては、任意の態様が可能であり、特に限定されるものではない。
晶析反応槽1に充填される種晶2の充填量も、晶析対象成分を晶析反応により除去できるのであれば特に限定されるものではなく、晶析対象成分の濃度、種類、使用されるカルシウム含有液の濃度、pH、また、晶析反応装置の運転条件等に応じて適宜設定される。晶析反応装置においては、晶析反応槽1内に上向流を形成し、該上向流によって種晶2が流動するような流動床の晶析反応槽1が好ましいので、種晶2は流動可能な量で晶析反応槽1に充填されるのが好ましい。
種晶2は、本発明の目的に反しない限りは、任意の材質が可能であり、例えば、ろ過砂、活性炭、金属酸化物の1以上からなる粒子、または、晶析対象成分と晶析反応成分が反応して生じる化合物からなる粒子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。種晶2の上で晶析反応が起こりやすいという観点、また、種晶2の上に晶析対象成分とカルシウムとの反応物が析出して成長した粒子から、より純粋な反応物を回収できるという観点から、晶析反応により生じる化合物と同じ化合物、例えば、原水中の晶析対象成分がフッ素である場合には、フッ化カルシウム(蛍石)が種晶2として使用されるのが好ましい。種晶2の形状、粒径は、晶析反応槽1内での流速、晶析対象成分の濃度等に応じて適宜設定され、本発明の目的に反しない限りは特に限定されるものではない。
【0025】
原水供給ライン4および水酸化カルシウム供給ライン6は晶析反応槽1の任意の部分に接続することができる。本発明の晶析処理方法においては、晶析反応槽1内に上向流を形成して晶析処理を行うと、効率的に反応を行うことができるので、原水供給ライン4および水酸化カルシウム供給ライン6は晶析反応槽1の底部に接続されるのが好ましい。また、図1および図2の態様においては、原水タンク3、原水供給ライン4、水酸化カルシウムスラリー貯槽5、および水酸化カルシウム供給ライン6はそれぞれ1つであるが、これに限定されるものではなく、これらが複数設けられても良い。
【0026】
晶析反応槽1は、晶析反応により生じた晶析対象成分が低減された処理水を該晶析反応槽1の外部に排出する。処理水は、晶析反応槽1における液体の流れに従って任意の部分から排出される。晶析反応槽1内で上向流が形成される場合には、晶析反応槽1の上部から処理水が排出される。図1および図2の態様では、該晶析反応槽1の上部から排出される処理水は、処理水排出ライン8を通って最終的に系外に排出される。処理水排出ライン8には処理水貯留タンク9が介装されているがこの設置は任意であり、通常の排水処理で使用される砂ろ過手段など、その他の手段を設けることも可能である。
【0027】
本発明の方法に使用可能な晶析反応装置は、任意に、処理水循環手段を有することができるが、図1および図2の態様のような、晶析反応槽1から排出される処理水の少なくとも一部を該晶析反応槽1に返送する処理水循環手段を有するのが好ましい。処理水循環手段としては、処理水の少なくとも一部を晶析反応槽1に返送できるものであれば任意の態様が可能であり、特に限定されるものではない。図1および図2の態様においては、処理水循環手段として、処理水貯留タンク9と晶析反応槽1を連結する処理水循環ライン10が設けられており、該処理水循環ライン10には処理水移送のためのポンプが介装されている。
【0028】
処理水循環手段は、処理水を晶析反応槽1に循環させることにより、晶析反応槽1内に供給された原水を希釈すると共に、晶析用薬液と原水を混合し、さらに、晶析反応槽1内で所定の流れ、特に上向流を形成させるものである。よって、晶析反応槽1内で上向流が形成される場合には、図1および図2のように、処理水循環ライン10は晶析反応槽1の底部に接続されるような態様が好ましい。
また、図1および図2の態様において処理水貯留タンク9は、循環される処理水と、系外に排出される処理水との分岐のための手段として機能し、処理水循環手段を形成しているが、処理水循環手段の形成はこの態様に限定されるものではなく、処理水排出ライン8から処理水循環ライン10が直接分岐するような態様など、任意の態様が可能である。
以下、実施例で本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0029】
【実施例】
実施例1〜6
pHが調整された(pH9〜4)水酸化カルシウム含有液を用いた晶析処理の効果
フッ化ナトリウム500mgF/Lを精製水に溶解したものを原水として、図2に示す態様の晶析反応装置で実験を行った。晶析反応槽としては、内径50mm×高さ2500mmの円柱型アクリルカラムを用いた。晶析部には種晶として蛍石(95%フッ化カルシウム含有)を充填量150mLで充填した。原水流量19.6L/時間、循環流量58.9L/時間であった。水酸化カルシウムを精製水と混合して調製された水酸化カルシウムスラリーをpH調整槽において、塩酸(4N)と混合して、pHが9〜4のいずれか(実施例1=pH9、実施例2=pH8、実施例3=pH7、実施例4=pH6、実施例5=pH5、実施例6=pH4)に調製された5%Ca(OH)2水溶液である、水酸化カルシウム含有液を調製し、該水酸化カルシウム含有液を0.51L/時間で晶析反応槽に供給し、上記条件で晶析処理を50時間継続後、処理水中のフッ素濃度を測定した。なお、本実施例および後述する比較例において測定され、表1に示されるフッ素濃度は、処理水に酸を添加して、該処理水中の微細粒子を溶解した後に、該溶解液中のフッ素濃度を測定することにより得られるトータルフッ素濃度である。また、フッ素濃度の測定は、ランタン−アリザリンコンプレキソン吸光光度法に基づいて行われた。
さらに、ノズル部分等での析出物の発生による閉塞等についても目視により確認を行った。
【0030】
比較例1
塩化カルシウムを用いた晶析処理の効果
フッ化ナトリウム500mgF/Lを精製水に溶解したものを原水として、図3に示す態様の晶析反応装置で実験を行った。晶析反応槽としては、内径50mm×高さ2500mmの円柱型アクリルカラムを用いた。晶析部には種晶として蛍石(95%フッ化カルシウム含有)を充填量150mLで充填した。原水流量19.6L/時間、循環流量58.9L/時間であった。晶析用薬液として塩化カルシウム水溶液(35%)を用い、該塩化カルシウム水溶液を0.51L/時間で晶析反応槽に供給し、上記条件で晶析処理を50時間継続後、処理水中のフッ素濃度を測定した。また、ノズル部分等での析出物の発生による閉塞等についても目視により確認を行った。
【0031】
比較例2
pHが調整されていない水酸化カルシウム含有液を用いた晶析処理の効果
晶析用薬液として、pHを調製していない5%Ca(OH)2水溶液(pH13)を使用した以外は、比較例1と同様の方法および装置で晶析処理を行い、処理水中のフッ素濃度およびノズル部分等での析出物の発生による閉塞等の目視確認を行った。
【0032】
比較例3および4
pHが調整された(pH11および10)水酸化カルシウム含有液を用いた晶析処理の効果
水酸化カルシウム含有液のpHがpH11(比較例3)およびpH10(比較例4)に調製されたことを除き、実施例1と同様の方法および装置を用いて晶析処理を行い、処理水中のフッ素濃度およびノズル部分等での析出物の発生による閉塞等の目視確認を行った。
上記、実施例1〜6および比較例1〜4の結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
比較例2の結果から明らかなように、pHを調整していない水酸化カルシウム含有液(水酸化カルシウムスラリー)を用いた場合には、溶液を形成する塩化カルシウムの場合(比較例1)と比べて、処理水中のフッ素濃度が高く、晶析処理が不充分であることが明らかとなった。また、塩化カルシウムを用いた比較例1においては、水酸化カルシウム供給ライン内、ノズル部分(吹き出し部およびノズル内部を含む)における析出物の発生は認められなかったが、pHを調整していない水酸化カルシウム含有液(水酸化カルシウムスラリー)を用いた比較例2においては、水酸化カルシウム供給ライン内、ノズル部分(吹き出し部およびノズル内部を含む)に析出物が発生して流路の閉塞を起こし、安定的な晶析処理を継続するのが困難であることが明らかとなった。
pHを11および10に調整した比較例3および4の場合には、pHを調整しないものと比べて、処理水において若干のフッ素濃度の低減が認められたが、処理水中フッ素濃度は満足できるものではなかった。また、水酸化カルシウム供給ライン内、ノズル部分(吹き出し部およびノズル内部を含む)においても、若干の析出物が認められた。
実施例1〜6においては、晶析処理において使用される水酸化カルシウム含有液のpHを9以下にすることにより、処理水のフッ素濃度の低減が認められた。特に、pH8〜4の範囲においては、塩化カルシウムを晶析用薬液として使用した場合(比較例1)と同程度もしくはそれ以下の処理水フッ素濃度を達成できた。また、実施例1〜6のいずれにおいても、水酸化カルシウム供給ライン内、ノズル部分(吹き出し部およびノズル内部を含む)における析出物の発生は認められなかった。
以上より、本発明の晶析処理方法によると、晶析処理に水酸化カルシウムを用いる場合であっても、良好で、安定的な晶析処理が可能であることが明らかとなった。
【0035】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明は、フッ素、リンおよび/または重金属をはじめとする晶析対象成分を含む原水を、水酸化カルシウムを用いて晶析処理する晶析処理方法において、晶析用薬液として、水酸化カルシウムに酸を添加して得られた、特定のpHの範囲、特にpH9以下の水酸化カルシウム含有液を使用することによって、晶析反応の遅れを防止し、晶析反応槽内に均一濃度でカルシウムを供給し、充分なディストリビューションを確保し、これにより処理水質の悪化を防止し、晶析用薬液を供給するノズル部分等の流路閉塞を防止し、さらに、高pHによるペレット上および/または晶析反応槽液中での不純物の析出を防止することを可能にするという有利な効果を有する。
また、本発明は、水酸化カルシウムに酸を添加して調製される、水酸化カルシウム含有液をpH8〜4の範囲にすることにより、晶析反応の効率を向上させ、処理水中の晶析対象成分濃度を、カルシウムを完全な溶液の状態で使用するのと同等程度またはそれ以下に低減できるという有利な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の方法に使用可能な晶析反応装置の1態様を示す概略図である。
【図2】 図2は、本発明の方法に使用可能な晶析反応装置の1態様を示す概略図である。
【図3】 図3は、従来の晶析反応装置の1態様を示す概略図である。
【符号の説明】
1 晶析反応槽
2 種晶
3 原水タンク
4 原水供給ライン
5 水酸化カルシウムスラリー貯槽
6 水酸化カルシウム供給ライン
7 ノズル部分
8 処理水排出ライン
9 処理水貯留タンク
10 処理水循環ライン
11 酸供給ライン
12 pH調整槽
Claims (5)
- 晶析対象成分を含む原水と、水酸化カルシウム含有液とを晶析反応槽に供給し、該晶析反応槽の内部の種晶上に、該晶析対象成分とカルシウムとの反応物を析出させることにより、晶析対象成分が低減された処理水を生じさせる晶析処理方法において、
該水酸化カルシウム含有液が、水酸化カルシウムに酸を添加して得られた、pH9以下の前記含有液である前記晶析処理方法。 - 水酸化カルシウム含有液が、水酸化カルシウムスラリーに酸を添加することにより調製される、請求項1記載の晶析処理方法。
- 水酸化カルシウムスラリーへの酸の添加が、水酸化カルシウムスラリー貯槽と晶析反応槽とを連結する、水酸化カルシウム供給ライン上で行われる、請求項2記載の晶析処理方法。
- 水酸化カルシウムスラリーへの酸の添加が、水酸化カルシウムスラリー貯槽と晶析反応槽とを連結する、水酸化カルシウム供給ライン上に介装されたpH調整槽で行われる、請求項2記載の晶析処理方法。
- 水酸化カルシウム含有液が、水酸化カルシウムの乾燥固体に酸を添加することにより調製される、請求項1記載の晶析処理方法。
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