JP4100744B2 - ボロン除去用フィルタ及び汚染気体浄化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子産業用クリーンルームなど、微粒子や化学汚染等が問題となる環境に使用されるフィルタ及び汚染気体浄化方法に関し、より詳細には、ボロンを含有する汚染気体より汚染物質を除去し、清浄化するためのフィルタ、並びに汚染気体浄化方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ホウ素を含有するガラス繊維を素材としたHEPAフィルタが長らく使用され、現在も使用されている。最近、HEPAフィルタのガラス繊維濾材からボロン化合物が揮散することが問題として指摘されているが、IC集積度の向上に伴い、微細加工がより微細化する過程の中で課題になり始めたものである。
【0003】
一方、上記の如きフィルタ並びに気体の清浄化方法については、特開平6−198123号公報に先行技術が開示されている。即ち、塵埃微粒子、細菌の他、半導体製造時に発生するガス状、粒子状あるいはミスト状の化学物質の除去を行うために、SO3 H基やCOOH基等を有する強酸性あるいは弱酸性のイオン交換繊維と第4級アンモニウム基等を有する強塩基性イオン交換繊維の使用が好ましいことが記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記先行技術によってもなお以下の点については十分な性能が得られていない。
▲1▼ 微粒子除去のために必須である、ガラス繊維を使用した超高性能フィルタ(HEPAフィルタ)より生じるホウ素化合物の除去。
▲2▼ 陰イオン除去に有効な第4級アンモニウムハイドロキサイド基を有する強塩基性陰イオン交換繊維より発生するトリメチルアミンの除去。
【0005】
即ち、上記▲1▼のHEPAフィルタのガラス繊維から揮散するボロン系物質については、その形態が未だ明確ではないが、ホウ酸(H3BO3 )のみではなくホウ砂(Na2B4O7・10H2O)などの化合物もあり、陰イオン交換繊維濾材ではホウ酸の除去しか期待できない。またホウ酸は解離度の極めて小さい弱酸性物質であるために、ホウ酸に対する陰イオン交換繊維に対する吸着量は、交換基が強塩基の第4級アンモニウム基としても極めて小さい。更に、ボロンに対する選択性が小さいために、気体中に共存する陰イオンの影響を受けて濾材が貫流点に達した場合、陰イオン交換繊維フィルタからの再放出も考えられ、下流側のボロン濃度が上昇する場合もあり得るために、ボロン除去の目的には最良とは言えない。
【0006】
一方、上記▲2▼のトリメチルアミンの発生については、トリメチルアミンは臭気のしきい値が0.03μg/m3 と極めて小さく、その微量が空気に混入してもアミン臭がするとともに機器に悪影響を与える場合があるため、クリーンルームのような閉鎖系では特に除去対策が必要である。
【0007】
従って、本発明の目的は、上記欠点を解消すべく、ボロンに対する選択性と除去率が良好なボロン除去用フィルタ及び汚染気体浄化方法を提供することにある。更には、トリメチルアミンの除去にも有効なボロン除去用フィルタ及び汚染気体浄化方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明者らは、ボロン除去能を有するフィルタ材料に関して鋭意研究したところ、水酸基を有するイオン交換樹脂フィルタがボロン除去に有効であることを見出し、更に研究を進めて、下記の知見を得ることにより、本発明を完成するに至った。即ち、ポリビニルアルコール系繊維の水酸基が、ホウ素化合物中のホウ素に配位してキレート結合を形成することにより、被処理気体中のホウ素化合物を効果的に除去できること、並びに強塩基性陰イオン交換繊維より発生するトリメチルアミンを、強酸性陽イオン交換繊維により効果的に除去できることを見い出した。
【0009】
即ち、本発明のボロン除去用フィルタは、複数の水酸基を有する樹脂繊維を含有するフィルタ層を設けてあり、前記樹脂繊維がイオン交換基を更に有するものであるか、又は、前記フィルタ層がイオン交換基を有する樹脂繊維を更に含有するものであって、前記イオン交換基が強塩基性陰イオン交換基であることを特徴とする。ここで「複数の水酸基を有する」とは、末端のみに水酸基を有するものや、キレート形成が困難な位置に水酸基が存在するのを除く概念である。
【0012】
前記フィルタ層に、強酸性陽イオン交換基を有する陽イオン交換層を積層してあるか、又は前記フィルタ層中に強酸性陽イオン交換基を有する樹脂繊維を混合してあることが、後述の作用効果の点から好ましい。
【0014】
前記イオン交換基を有する樹脂繊維が、相対湿度40%RHの条件下にて、水分率が少なくとも4重量%であることが、後述の作用効果の点から好ましい。
【0015】
一方、本発明の汚染気体浄化方法は、上記いずれかのボロン除去用フィルタを用い、クリーンルームの循環系、又は、クリーンブース、クリーンベンチ、若しくは半導体製造装置の空気取入口に配置して、汚染物質含有気体を透過させることを特徴とする。
【0016】
〔作用効果〕
そして、本発明によると、複数の水酸基を有する樹脂繊維を含有するフィルタ層を設けてあるため、後述の実施例の結果が示すように、汚染気体に含有されるボロン化合物が、樹脂繊維の水酸基とキレート結合等して、ボロン成分を選択的に高い除去率で除去することができる。また、繊維状の材料を用いているため、除去に有効な接触面積が大きく、また、材料の脱落が生じにくい。
その結果、ボロンに対する選択性と除去率が良好なボロン除去用フィルタを提供することができた。
【0017】
前記樹脂繊維がイオン交換基を更に有するものであるか、又は、前記フィルタ層がイオン交換基を有する樹脂繊維を更に含有するものである場合、
上記のようなボロン除去能に加えて、イオン性の汚染物質を除去するためのイオン交換能を付与することができ、しかも、後述の実施例の結果の如く、両方の性能が問題なく発揮できるものとなる。
【0018】
前記イオン交換基が強塩基性陰イオン交換基である場合、
上記のようなボロン除去能に加えて、強塩基性陰イオン交換基によって、ホウ酸の除去性能を向上することができる。
【0019】
前記フィルタ層に、強酸性陽イオン交換基を有する陽イオン交換層を積層してあるか、又は前記フィルタ層中に強酸性陽イオン交換基を有する樹脂繊維を混合してある場合、
強酸性陽イオン交換基を有するフィルタ層を下流側に積層するか陽イオン交換繊維を混合することで、強塩基性陰イオン交換繊維より発生するトリメチルアミンを、前記強酸性陽イオン交換基によって除去することができる。
【0021】
前記イオン交換基を有する樹脂が、相対湿度40%RHの条件下にて、水分率が少なくとも4重量%である場合、
汚染物質は、水分を含んだミスト状の場合もあるが、結晶微粒子の場合もあり、単に結晶粒子がイオン交換繊維に付着するだけではイオン交換による除去はできないが、上記の水分率を有するものでは、繊維表面に存在する水に一旦溶解してイオン化し易くなり、結晶微粒子等に対しても効果的に除去を行うことができる。
【0022】
一方、本発明の汚染気体浄化方法によると、上記いずれかのボロン除去用フィルタを用い、クリーンルームの循環系、又は、クリーンブース、クリーンベンチ、若しくは半導体製造装置の空気取入口に配置することで、上記の作用効果を得ることができる。即ち、キレート結合によりボロン成分を選択的に高い除去率で除去しつつ、付加的な作用効果として、イオン性汚染物質の除去、トリメチルアミンの発生防止、SOx 及び/又はNOx の除去などが可能になる。
その結果、ボロンに対する選択性と除去率が良好な汚染気体浄化方法を提供することができた。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明に用いられる樹脂繊維は、複数の水酸基を有するものであるが、ホウ素とキレート結合可能な水酸基を有する樹脂繊維であれば、イオン交換基などの有無に係わらず、いずれのものも使用することができる。
【0024】
イオン交換基を有さないものとしては、純粋なポリビニルアルコールの他に、その水酸基の一部をアルデヒド類やケトン類と反応させてアセタール化、ホルマール化、ブチラール化、その他ケタール化した誘導体や一部がアシル化された誘導体も含むものが使用でき、特にポリビニールアルコールをホルマール化することにより製造されたポリビニルアルコール繊維(ビニロン繊維)や、ポリビニルアルコールを分子内縮合させることにより、不溶化した架橋ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。
【0025】
ビニロン繊維、或いはポリビニールアルコールを分子内縮合した架橋ポリビニールの繊維では、ポリビニールアルコールの水酸基は100%結合消費することはなく、少なくとも50%程度は残っており、この程度でガラス繊維から揮散するボロンを5年以上阻止する吸着量としては十分である。また、繊維の非結晶領域の比率ができる限り大きいものを使用するのが好ましい。すなわち、結晶領域の水酸基は不活性であり、水酸基とボロン化合物との間のキレート結合が起こらないためである。
【0026】
なお、ポリビニルアルコール系繊維はその繊維強度が高いため、強度の低い樹脂を混合してもなお十分な強度を発揮するため、本発明の主目的であるクリーンルーム等の高風速の気体と接触しても、フィラメントが折損して塵埃となる短繊維を発生することがなく、フィルタとして好適である。
【0027】
本発明では、前記樹脂繊維がイオン交換基を更に有するものであるか、又は、フィルタ層がイオン交換基を有する樹脂繊維を更に含有するものであるのが好ましいが、イオン交換基を有するものとしては、各種イオン交換基を有し、ポリビニルアルコール繊維等を基材樹脂とするものや、通常のイオン交換樹脂繊維を混合したもの等が挙げられる。
【0028】
上記におけるイオン交換基としては、イオン性物質の除去能の点から、スルホン酸基などの強酸性陽イオン交換基、第4級アンモニウムハイドロキサイド基などの強塩基性陰イオン交換基が好ましいが、カルボキシル基や第3級アミノ基のような弱酸性、弱塩基性イオン交換基を有するものも使用可能である。
なお、カルボキシル基や第3級アミノ基のような弱酸性、弱塩基性イオン交換基を有するイオン交換繊維を使用した場合は、これらのイオン基の解離度が数%程度であるために、被処理気体が高風速である場合には、解離が追随できず、その結果汚染物質の除去が十分とは言い難いが、弱酸性、弱塩基性のイオン交換基を有するイオン交換繊維の場合でも、低風速の被処理気体を処理する場合には効果があり、許容される。
【0029】
そして、前述のようにイオン交換繊維を併用することも可能であり、強塩基性陰イオン交換繊維を単独で使用するか、強塩基性陰イオン交換繊維と強酸性陽イオン交換繊維の双方を使用するかは、除去すべき汚染物質の種類によって選択すればよい。
【0030】
本発明のフィルタは、前記水酸基を有する強塩基性陰イオン交換繊維を使用したフィルタ層と前記水酸基を有する強酸性陽イオン交換繊維を使用したフィルタ層を積層して使用することが好ましく、このように構成することにより、各フィルタ層を別々に形成することができ、各フィルタ層をそのイオン交換基に応じて、酸もしくはアルカリで処理した後、水洗することにより再生し、繰返し使用することができる。
【0031】
さらに前記水酸基を有する強塩基性陰イオン交換繊維を使用したフィルタ層が、流入する前記汚染物質含有気体に対して上流側に、前記水酸基を有する強酸性陽イオン交換繊維を使用したフィルタ層が下流側になるように積層したものであることが好ましく、かかる構成を採用することにより強塩基性陰イオン交換繊維に好適に使用される第4級アンモニウム基より発生するトリメチルアミンが空気中に混入することを防止することができる。なお、単に、本発明に使用する強酸性陽イオン交換繊維と強塩基性陰イオン交換繊維を混合してフィルタとしても除去効果はあるが、各イオン交換繊維を別々の層に形成すると共に、強酸性陽イオン交換繊維のフィルタ層層を被処理気体の下流側に位置させることにより、各フィルタ層の再生処理と再使用の容易化とトリメチルアミンのより効果的な除去の双方の効果を得ることができる。各フィルタ層の厚さ、積層する枚数などは、被処理気体中の汚染物質の濃度、気体浄化装置の処理風量や設計風速などにより適宜選択される事項である。
【0033】
本発明において使用する強塩基性陰イオン交換繊維は、ポリビニルアルコール系樹脂とポリエチレンイミンを混合し、紡糸した後第4級化したものであることが好ましく、また、前記水酸基を有する強酸性陽イオン交換繊維は、ポリビニルアルコール系樹脂とポリスチレンスルホン酸を混合し、紡糸したものであることが好ましい。
【0034】
ポリスチレンスルホン酸並びにポリエチレンイミンは、単独では強度が低いため紡糸して繊維を形成することは困難であるが、ポリビニルアルコール系樹脂と混合することにより繊維化が可能となる。このようにして得られた強イオン交換繊維は、上述の汚染物質を除去する官能基を有すると共に各種の形態に加工が可能な強度を有する。ポリスチレンスルホン酸、もしくはポリエチレンイミンとポリビニルアルコール系樹脂の混合比は、用途、繊維の強度等を考慮して決定される。
【0035】
本発明のフィルタに使用する前記水酸基を有する強塩基性陰イオン交換繊維、ならびに前記水酸基を有する強酸性陽イオン交換繊維は、相対湿度が40%RHの条件下において、水分率が少なくとも4重量%であることが好ましい。
従来のイオン交換繊維は、極性基がイオン交換基だけであるため、クリーンルーム等で通常使用される環境条件である相対湿度が40%RHにおいては水分率は極めて低くなる。汚染物質は、水分を含んだミスト状の場合もあるが、結晶微粒子の場合も有る。特に、汚染物質が中性塩の場合には、単に結晶粒子がイオン交換繊維に付着するだけではイオン交換による除去はできず、繊維表面に存在する水に一旦溶解してイオン化し、そのイオンが交換反応を起こす必要がある。従って、繊維の水分率は汚染物質の除去効率に重要な影響を有するファクターである。本発明の強イオン交換繊維はイオン交換基に加えて水酸基を有している。水は水素結合により水酸基に強く吸着されるため、相対湿度が40%RHという乾燥条件下においても繊維表面に4重量%以上残り、その結果、本発明のイオン交換繊維は中性塩をも含む汚染物質を効果的に除去する作用を発揮する。
【0036】
本発明のフィルタは、前記水酸基を有する強塩基性陰イオン交換繊維を使用したフィルタ層、並びに前記水酸基を有する強酸性陽イオン交換繊維を使用したフィルタ層が、それぞれのイオン交換繊維を加工した織布、不織布、抄造より選ばれるものにプリーツ加工を施したものを使用したものであることが望ましい。これらの加工品を製造するに際して、必要なバインダーや、その他の処理剤を使用するとは自由である。かかる加工品が、気体浄化装置への取り付けが容易でありかつ取り扱いやすいこと、高風速の被処理気体に対する形状保持性能が優れていること、等のメリットを有する。また、その他のフィルタの形状としては、平板状、バッグ状、筒状等の種々の形状のものが使用可能である。また、フィルタ層の形成方法としては、ホットメルト、バインダー接着、抄造などの各種製法が、いずれも適用できる。
【0037】
本発明は高風速の汚染物質含有気体の場合であっても汚染物質を除去することが可能な方法を提供するものもある。即ち、汚染物質含有気体を前述の如きフィルタに通過させることにより、上述のような作用により汚染物質を効率的に除去することができる。具体的には、フィルタを通過する気体の風速が0.01m/s以上であっても、除去が可能であり、特に、クリーンルーム内においてHEPAフィルタやULPAフィルタに起因する数μg/m3 以下の微量のホウ素も補足し除去することができる。
【0038】
本発明の適用に関しては、半導体製造時に使用されるクリーンルームの空気導入系や空気循環系並びにクリーンルーム内への設置や、半導体の製造装置に使用されるクリーンブース、クリーンベンチ等の空気清浄化系への使用などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。。
【0039】
【実施例】
以下、本発明の具体的な構成と効果を示す実施例を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1−1
本発明のボロン除去用フィルタを実験室的に作製した。
容器に繊維径約2〜4μmの架橋PVA繊維カット3〜5mmを、約1.0重量%濃度になるように、純水にて調整して叩解して均一分散させた。バインダーとしてはアクリル水溶液(エマルジョン)を上述の濾材繊維重量に対し、約1.0重量%程度だけ混合溶液に投入し、更に均一混合するよう攪拌した。これらの混合繊維溶液をフェルト上に均一に流下させて脱水乾燥することにより90〜110g/m2厚さ約1.0mm程度のボロン除去用フィルタを作製した。尚、乾燥温度は100℃とし、約3分乾燥した後、更に自然乾燥を行なった。
架橋PVAについては、PVAのホルマール化による架橋度は40〜50%、また非結晶領域50%と言われる既存の繊維材料(株式会社ニチビ製)を用いた。
【0041】
実施例1−2
カット長50〜60mmのカット長を有する架橋PVA繊維(株式会社ニチビ製)に対し、20〜25重量%の同一カット長を有する低融点(120〜140℃)ポリエステル繊維を均一に混合した後、ニードルパンチによる目付量100g〜130g/m2の不織布を製造した後、不織布の両面から140℃数秒間熱ロール処理にかけ、不織布からの発塵を完全に阻止した濾材を作製した。
【0042】
試験例1
実施例1−1、及び実施例1−2で得られたフィルタを用いて、比較的クリーンな空気を1パスで濾過したときの、供給空気と濾過空気中のボロン濃度を測定した。なお測定は、超純水に空気を吸収させた後、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて行った。
【0043】
【表1】
【0044】
表1の結果が示すように、抄造型、及びホットメルト型のいずれのフィルタでも、12〜20ng/m3のボロンに対して、高い除去率で除去できることが分かった。
【0045】
試験例2
実施例1−1及び1−2で得られた2 種のフィルタを用いて、ボロン濃度119〜151ng/m3のクリーンルーム内空気を1パスで濾過したときの、供給空気と濾過空気中のボロン濃度を測定した。なお測定は、超純水に空気を吸収させた後、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて行った。
その結果を、表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表2の結果が示すように、抄造型、及びホットメルト型のいずれのフィルタでも、119〜151ng/m3のボロンに対して、高い除去率で除去できることが分かった。
【0048】
実施例2
図1に、本発明のフィルタを使用したクリーンルームの空気清浄システムの1例を示した。なお、強酸性陽イオン交換繊維、強塩基性陰イオン交換繊維は強イオン交換繊維と総称する。これらは、除去すべき汚染物質の種類により単独で又は組み合わせて使用される。
クリーンルームは、室外よりの汚染物質、塵埃の侵入を防止するために、室内の気圧は、大気圧より少し高く設定されている。従って、室内の循環空気と外部より補給する補充空気の双方を浄化することが必要となる。図においてAは室内の汚染空気の流れを、またBは浄化すべき外部より補給される空気の流れを示す。
クリーンルーム1において、作業の結果汚染された空気は、床面15に設けられたグレーティング11を通してブロワ14により吸引される。床面15からブロワまでの間の空気循環経路16に浄化ユニットが設けられており、前記浄化ユニットは活性炭層12、強イオン交換繊維層13より構成されている。また、浄化ユニットとブロワ14の間にはクリーンルーム室内温度を調節するための熱交換器9が設けられている。クリーンルーム1の天井部にはガラス繊維製のHEPAフィルタ2が設けられており、ブロワ14を通じて浄化された空気が供給される。
外部よりの補充空気は、粗フィルタ、中性紙フィルタ3、活性炭層4、強イオン交換繊維層5を通してブロワ6により吸引されHEPAフィルタ7を経由して、熱交換器8、加湿器10により空調された後、室内空気循環系の本発明の強イオン交換繊維フィルタ13と熱交換器9の間で室内空気循環系に接続、供給される。
【0049】
実施例2−1
半導体の製造工場において、上述のクリーンルームの気体浄化装置を使用し、汚染物質の除去効果を測定した。
なお、本発明のOH基を有する強塩基性陰イオン交換繊維はOH−SAEF、OH基を有する強酸性陽イオン交換繊維はOH−SCEFと表示した。図1の浄化装置の強イオン交換繊維フィルタとして、実施例に記載のとおり、OH−SAEF、OH−SCEFを使用した。以下のいずれの実験においても、OH−SAEFとしてはポリビニルアルコール系樹脂とポリエチレンイミンを混合紡糸した後第4級化した繊維を使用し、またOH−SCEFとしてはポリビニルアルコール系樹脂とポリスチレンスルホン酸を混合紡糸した繊維を使用した。
実験は、下記の組成の繊維を使用してフィルタを作成し、クリーンルームの空気循環系に設置し、汚染物質の除去効率をイオン種の濃度を測定することにより行った。
ランNo.1−1:
OH−SAEF/OH−SCEF=1/2にて混合し、目付量が300g/m2 の不織布を製造し、プリーツ加工を施すことにより形成されたユニットフィルタを使用した。
ランNo.1−2:
OH−SAEF、OH−SCEFを使用し、それぞれ600g/m2 の不織布を製造し、被処理空気の上流側がOH−SAEF層、下流側がOH−SCEF層となるように積層してバグフィルタを作成して使用した。
実験は、処理風量が30000m3 /hとなるように設定して行い、汚染物質を構成するイオン種の濃度を測定することによって、除去効率を評価した。
結果を表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3の結果が示すように、汚染物質を構成するアンモニウムイオン、塩素イオン、硫酸イオンが効果的に除去されていることが明らかであると共に、クリーンルームの天井部に設置されているHEPAフィルタに起因するホウ素も併せて除去されていることが分かる。
【0052】
実施例2−2
クリーンルームにおいて、外部よりの補給空気の清浄化について実験を行った。
気体浄化装置に使用したフィルタの構成は以下のとおりである。
第1層 繊維状活性炭濾布 180g/m2
第2層 OH−SAEF不織布使用濾布 600g/m2
第3層 OH−SCEF不織布使用濾布 1000g/m2
濾布面の風速は0.1、0.2、0.3m/sの3条件を選択した。
結果を表4に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
表4の結果が示すように、各イオンとも、問題ない程度まで除去されていることが明らかである。特に、被処理空気の上流側に設けた活性炭層により大気中の窒素酸化物も有効に除去されていることが分かる。
【0055】
実施例2−3
クリーンルーム内において、薬品を使用して作業を行う特定場所から発生するアンモニア、アンモニウムイオンを除去する実験を行った。
使用したフィルタは、OH−SCEF不織布使用濾布であり、目付量は1000g/m2 であった。
結果を表5に示した。
【0056】
【表5】
【0057】
表5の結果が示すように、この実験においても、アンモニウムイオンの他に、HEPAフィルタより発生するホウ素も効果的に除去されていることが分かる。
また表6には特にアンモニアの存在が大きな障害となる現像機、ステッパー等の半導体製造装置に使用するクリーンブースの空気清浄化装置について、本発明のフィルタを適用してその効果を評価した結果を示した。
【0058】
【表6】
【0059】
実施例2−4
この実験においては、OH−SAEF、OH−SCEFを使用したフィルタのホウ素除去効果を、ホウ酸を使用して測定した。測定は、図2に示した装置を使用した。装置は、4%のホウ酸水溶液24を収容し、ホウ酸含有空気を発生するインピンジャー21、超純水26を収容し、未処理のホウ酸含有空気中のホウ酸濃度を測定するインピンジャー22、フィルタユニット27、フィルタを通過し、処理された空気中のホウ酸濃度を測定するための、超純水26を収容したインピンジャー23、並びにインピンジャー22、23に空気を吸引するための吸引ポンプ28,29、流量測定のためのガスメーター30、31より構成されている。
吸引ポンプ28,29は、それぞれ4リットル/minに設定し、フィルタサイズは、フィルタ面の空気通過速度が6cm/secとなるように設定した。
OH−SAEF使用フィルタは300g/m2 の目付量のものを1枚、2枚重ねの2種について、また、OH−SCEF使用フィルタは1000g/m2 の目付量のもの1枚について評価を行った。
結果を表7に示した。
【0060】
【表7】
【0061】
表7の結果が示すように、強塩基性陰イオン交換基を有するOH−SAEF(300g/m2 )を2枚重ねて使用したものがホウ素の除去効果が優れているが、陽イオン交換繊維を使用したものもある程度の除去効果が認められる。これらの結果より、本発明のイオン交換繊維が有する水酸基がホウ素の除去に有効であると考えられる。
【0062】
実施例2−5
第4級アンモニウム基を有する陰イオン交換繊維は、トリメチルアミンを発生する。この実験では、本発明の強酸性陽イオン交換繊維はトリメチルアミンを除去する性能を有していることを確認する。
表8に示した結果は、トリメチルアミンを2.1μg/m3 の濃度で含有する空気を、ラン5−1においては新品のOH−SAEF使用フィルタのみ、ラン5−2においてはOH−SAEF使用フィルタとOH−SCEF使用フィルタを前者を上流側にして積層したフィルタを使用し、ラン5−3においてはラン5−2の条件においてOH−SCEFフィルタをNH3 にて飽和し、それぞれトリメチルアミンの除去効果を測定したものである。フィルタ面の空気通過速度は10cm/sに設定した。ラン5−4は、ラン5−3の条件においてさらにアンモニアを30ppbの濃度となるように添加し、アンモニアが併存する気体中のトリメチルアミンの除去効果を評価したものである。
【0063】
【表8】
【0064】
この結果より、トリメチルアミンは、当然のことながら陰イオン交換繊維では除去できないが、本発明の水酸基を含有する強酸性陽イオン交換繊維により確実に除去できることが分かる。
表9には各種の陽イオン交換繊維のトリメチルアミンの除去効果を評価した結果を示した。実験は、表に記載した重量の繊維を、それぞれ2リットル容量のテトラバック(tetra−bag)に入れ、窒素ガスを2リットル封入し、20℃にて1夜放置し、内部のガス1リットルをサンプリングして液体酸素で冷却しながら濃縮し、得られた試料をFID検出器を備えたガスクロマトグラフ(GC)を用いて分析し、保持時間(retention time)が2.2分と2.5分のピークについてその強度に基づきアミン濃度を求めた。2.2分のピークは標準試料と比較した結果、トリメチルアミンであることが確認された。2.5分のピークは成分の同定は行わず、感度がトリメチルアミンと同じであると仮定して濃度を計算した。
テトラバック中の気体については、臭気も確認した。2.5分のピークを形成する物質もアミン臭を有するものであった。
【0065】
【表9】
【0066】
表9の結果より、第4級アンモニウム基を有するイオン交換繊維からは、トリメチルアミンもしくは同様なアミン臭を有する物質が発生すること、並びに本発明の強酸性陽イオン交換繊維はトリメチルアミン等のアミン類を効果的に吸着除去する効果を有することが分かる。
【0067】
実施例2−6
本発明のフィルタ材料として使用するOH−SAEFを種々の湿度条件において平衡状態にした場合の水分率を測定し、その結果をグラフとして図3に示した。水分率の測定はOH−SAEFを140℃にて30分乾燥し、その後デシケーター中で放冷後重量を測定し、所定湿度条件で平衡状態にした場合との重量差に基づき計算した。
この結果から、環境条件が40%RHという乾燥条件に設定されても本発明の強イオン交換繊維は15%程度の水分率を有しており、結晶粒子状の汚染物質の除去に有効であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】クリーンルーム内の空気浄化装置の構造並びに空気の循環方向をモデル的に示した図。
【図2】本発明のフィルタによるホウ素除去効果を評価するために使用した実験装置を示した図。
【図3】空気中の湿度とその湿度条件下において平衡状態としたときの本発明のフィルタに使用するイオン交換繊維の水分率との関係を示したグラフ。
【符号の説明】
13 ボロン除去用フィルタ
27 ボロン除去用フィルタ
Claims (4)
- 複数の水酸基を有する樹脂繊維を含有するフィルタ層を設けてあり、前記樹脂繊維がイオン交換基を更に有するものであるか、又は、前記フィルタ層がイオン交換基を有する樹脂繊維を更に含有するものであって、前記イオン交換基が強塩基性陰イオン交換基であるボロン除去用フィルタ。
- 前記フィルタ層に、強酸性陽イオン交換基を有する陽イオン交換層を積層してあるか、又は前記フィルタ層中に強酸性陽イオン交換基を有する樹脂繊維を混合してある請求項1に記載のボロン除去用フィルタ。
- 前記イオン交換基を有する樹脂繊維が、相対湿度40%RHの条件下にて、水分率が少なくとも4重量%である請求項1又は2のいずれか1項に記載のボロン除去用フィルタ。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のボロン除去用フィルタを用い、クリーンルームの循環系、又は、クリーンブース、クリーンベンチ、若しくは半導体製造装置の空気取入口に配置して、汚染物質含有気体を透過させる汚染気体浄化方法。
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