JP4096596B2 - 樹脂結合型磁石用組成物及びそれを用いた樹脂結合型磁石 - Google Patents

樹脂結合型磁石用組成物及びそれを用いた樹脂結合型磁石 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂結合型磁石用組成物及びそれを用いた樹脂結合型磁石に関し、更に詳しくは、熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして含有し、可使時間が充分に大きく磁気特性が良好で、しかも耐錆特性、機械的強度などにも優れた樹脂結合型磁石用組成物及びそれを用いた樹脂結合型磁石に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石などが、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器をはじめとする種々の製品にモーターなどとして組込まれ使用されている。これら磁石は、主に焼結法で製造されるが脆く、薄肉化しにくいため複雑形状への成形は困難であり、また焼結時に15〜20%も収縮するため寸法精度を高められず、研磨などの後加工が必要で、用途面において大きな制約を受けている。
【0003】
これに対し、樹脂結合型磁石(ボンド磁石ともいう)は、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂などの熱可塑性樹脂をバインダーとし、磁性粉末を充填して容易に製造できるため、新しい用途展開が繰り広げられている。しかし、こうした熱可塑性樹脂をバインダーとして用いる樹脂結合型磁石は、成形時に200℃以上の高温下に晒されるため、磁気特性、特に保磁力や角型性の低下が免れない特徴があり、成形後の保磁力などの磁気特性の低下を低く抑える樹脂結合型磁石成形品を得るのが難しかった。
【0004】
また、エポキシ樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂などの熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして用いた樹脂結合型磁石も提案されているが、バインダー量が希少であるため圧縮成形法による単純成形品しか得られていない。しかも、機械的強度が低いことから、粉落ち防止用、錆防止用に成形体コーティングが不可欠であった。
【0005】
特開平10−7918号公報には、合成樹脂にN−オキシル類を配合することで、樹脂の保存安定性や硬化性に優れ、経時劣化に伴う着色を抑えるようにした樹脂組成物が記載されている。また、特開2001−11328号公報には、ラジカル硬化性樹脂とレドックス作用を有する金属化合物とを含んだ硬化性樹脂組成物に、フェニルスルフォン酸類とN−オキシル類化合物を必須成分として含有させた硬化性樹脂組成物が開示され、優れた貯蔵安定性を有し、かつ硬化特性を損なわず常温で硬化しうる樹脂組成物が提案されている。
【0006】
しかし、これら公開特許において、N−オキシル類化合物は、ゲル化防止剤あるいは重合防止剤として極めて少量添加されており、遷移金属を多量に含有する樹脂結合型磁石の製造に適した樹脂組成物への応用可能性に関する記載は見当たらない。
【0007】
このように、従来の熱可塑性樹脂を用い射出成形法によって得られた低磁気特性で複雑形状可能な樹脂結合型磁石と、熱硬化性樹脂を用い圧縮成形法によって得られた高磁気特性で単純形状のみである樹脂結合型磁石の、それぞれの欠点を解消しうる技術が求められている。
近年、小型モーター、音響機器、OA機器向けの樹脂結合型磁石には、機器の小型化に伴なって、磁気特性に優れ、かつ可使時間が充分に大きい磁石用組成物が強く要請されているが、従来の樹脂結合型磁石には、これら条件を共に満たすものはなく、成形性、機械的強度などにも優れた、錆びにくい希土類系の樹脂結合型磁石用組成物の出現が切望されていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、熱硬化性樹脂を樹脂バインダーとして含有し、可使時間が充分に大きく磁気特性が良好で、しかも耐錆特性、機械的強度などにも優れた樹脂結合型磁石用組成物及びそれを用いた樹脂結合型磁石を提供することにある。
【0009】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、磁性粉末と樹脂バインダーとからなる樹脂結合型磁石用組成物において、磁性粉末を予めカップリング剤で被覆しておき、樹脂バインダーとして、ラジカル重合反応性の熱硬化性樹脂を主成分とし有機過酸化物を含み、さらにN−オキシル類化合物を含有する樹脂バインダーを用いると、熱硬化性の樹脂バインダー使用時に最も問題となる磁石用組成物の可使時間を充分に大きくでき、さらに、射出成形法やトランスファー成形法などによって成形性よく樹脂結合型磁石用組成物を作製できるだけでなく、特に保磁力や配向度などの磁気特性、機械強さにも優れた樹脂結合型磁石が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1の発明によれば、構成元素中に遷移金属元素を含む磁性粉末(A)と、磁性粉末(A)100重量部に対して5〜50重量部の樹脂バインダー(B)とからなる樹脂結合型磁石用組成物において、磁性粉末(A)が磁性粉末100重量部に対して0.01〜5重量部のカップリング剤(C)で被覆処理されており、かつ樹脂バインダー(B)が、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B−1)を主成分とし、熱硬化性樹脂(B−1)100重量部に対して、0.05〜10重量部の有機過酸化物(B−2)を含、さらに、N−オキシル類化合物(D)ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B−1)100重量部に対して、0.77〜10重量部配合され、30℃の密閉静置状態において120時間以上の可使時間を有することを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、磁性粉末(A)は、その異方性磁場(HA)が4.0MA/m以上であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、磁性粉末(A)が、粒径100μm以下の磁性粉末を、磁性粉末(A)全量に対して30重量%以上含むことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、熱硬化性樹脂(B−1)は、25℃における粘度が5000mPa・s以下であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1又は4の発明において、熱硬化性樹脂(B−1)は、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、有機過酸化物(B−2)は、熱硬化性樹脂を150℃以下の温度で硬化可能とする化合物であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0016】
また、本発明の第7の発明によれば、第1又は6の発明において、有機過酸化物(B−2)は、ジアルキルパーオキサイド系又はパーオキシケタール系化合物であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0017】
また、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、カップリング剤(C)が、アルミニウム系、チタネート系、又はシラン系のカップリング剤から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0018】
また、本発明の第9の発明によれば、第1又は8の発明において、カップリング剤(C)が、磁性粉末(A)100重量部に対して0.01〜5重量部配合されて磁性粉末(A)を被覆していることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0019】
また、本発明の第10の発明によれば、第1の発明において、N−オキシル類化合物(C)は、分子鎖末端に、次の一般式(1)
【0020】
【化3】
Figure 0004096596
【0021】
式(1)中、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基で表される構造、または一般式(2)
【0022】
【化4】
Figure 0004096596
【0023】
式(2)中、式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、およびR16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有する樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0026】
一方、本発明の第11の発明によれば、本発明の第1〜10のいずれかの発明に係る樹脂結合型磁石用組成物を、射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、またはトランスファー成形法から選ばれる少なくとも1種の成形法により成形してなる樹脂結合型磁石が提供される。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の樹脂結合型磁石用組成物及びそれを用いてなる樹脂結合型磁石について詳細に説明する。
【0028】
本発明は、磁性粉末及び樹脂バインダーを含む樹脂結合型磁石用組成物において、予めカップリング剤で磁性粉末を被覆しておき、これにラジカル重合反応性の熱硬化性樹脂を主成分とし有機過酸化物、さらにN−オキシル類化合物を含有させた樹脂バインダーを配合したことを最大の特徴とする樹脂結合型磁石用組成物である。
【0029】
なお、樹脂結合型磁石用組成物の可使時間とは、ポットライフともいわれ、液状樹脂に硬化剤などを加えた時点から粘度が上昇し、成形不可能となるまでの時間、すなわちゲル化・硬化などが起こらず、成形可能な流動性を保っている時間、或いは成形後の機械強さが、組成物の調整直後に成形した成形組成物の機械強さ(初期値)が80%まで低下する時間であって、いずれか早い方の時間を意味する。本発明のような樹脂結合型磁石用組成物の系では、一般的に機械強さが低下する時間の方が早いとされている。
【0030】
1.樹脂結合型磁石用組成物(成分)
A 磁性粉末
本発明の樹脂結合型磁石用組成物に用いられる磁性粉末は、希土類磁性粉末、フェライト、アルニコなど、その構成元素中に希土類および遷移金属元素を含み、通常、樹脂結合型磁石の原料となる各種の磁性粉末を使用でき、特に制限されない。
【0031】
これらは単独でも混合物(ハイブリッド)であってもよく、また異方性磁性粉末だけでなく、等方性磁性粉末も対象となるが、異方性磁場(HA)が、4.0MA/m以上、特に5.0MA/m以上の磁性粉末が好ましい。粒径が100μm以下の磁石粉末を、磁性粉末の全量に対して30重量%以上、特に50重量%以上含む磁性粉末が好ましい。
【0032】
希土類元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)又はルテチウム(Lu)が挙げられ、遷移金属元素としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)及びマンガン(Mn)からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられ、これ以外にクロム(Cr)、バナジウム(V)又は銅(Cu)のいずれかを含有してもよい。
【0033】
特に好ましい希土類元素は、NdまたはSmのいずれか、遷移金属元素は、Fe又はCoのいずれかである。特に、Sm又はNdを、4〜40at.%、Feを50〜90at.%含有するものが好ましい。
【0034】
異方性磁場(HA)が4.0MA/m以上の磁性粉末である希土類−コバルト系、希土類−鉄−ほう素系、希土類−鉄−窒素系の磁性粉の単独もしくは混合粉、またはフェライト系磁性粉との混合系などが挙げられる。
【0035】
Sm−Fe−N系の磁性粉末は、磁性粉として還元拡散法によって得られるSmFe系合金粗粉を窒化処理、微粉砕して製造でき、SmCo系の磁性粉末は、同じく還元拡散法によって得られた粗粉を微粉砕して得られる合金微粉末から製造できる。また、Nd−Fe−B系の磁性粉末は、液体急冷法によって得られた合金粉末、又はHDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)法によって得られた異方性Nd−Fe−B系合金粉末を用いて製造できる。
【0036】
液体急冷法によって得られたNd−Fe−B系や、HDDR法によって得られた異方性Nd−Fe−B系の磁性粉末は、特異な形状を有した比較的大きな粒子を大量に含んでいるため、ジェットミルやボールミル等で粉砕し用いることが望ましい。
【0037】
フェライト系磁性粉末は、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属と酸化鉄を含有するもので、六方晶フェリ強磁性結晶を主相とするM型のフェライト磁石である。具体的には、バリウムフェライト系(BaO・6Fe)、ストロンチウムフェライト系(SrO・6Fe)などが挙げられ、この他に、SrZn2+ Fe1627などで示されるW型の六方晶フェライトも使用できる。これらの中で、特に好ましいのはストロンチウムフェライト系磁性粉末である。
【0038】
希土類−遷移金属系磁性粉末は、異方性磁場が高く、優れた磁気性能を有するが高価である。これに対して、フェライト系磁性粉末は、磁気性能では希土類−遷移金属系磁性粉末に及ばないが、安価で入手しやすい利点がある。このため、希土類−遷移金属系磁性粉末にフェライト系磁性粉末を混合したハイブリッド系磁性粉末として用いることができる。希土類−遷移金属系磁性粉末100重量部に対して、フェライト系磁性粉末10〜70重量部、好ましくは30〜60重量部混合したハイブリッド系磁性粉末が有効である。
【0039】
磁性粉末の粒径は、100μm以下のものを50重量%以上含むと、著しい磁気特性を発揮する。また、等方性よりも磁場中での成形が必至となる異方性の磁性粉末の方が、配向特性の面で効果が著しい。
【0040】
これらの磁性粉末は、無機燐酸などの無機燐酸系化合物で表面処理して用いることができる。無機燐酸系化合物は、上記の磁性粉末に予め処理することで、樹脂バインダー成分の効力を高め、その表面の耐候性を高める化合物である。
【0041】
無機燐酸系化合物は、湿式処理法、乾式処理法のいずれかで磁性粉末の表面を処理し、その後、100℃前後で10〜30時間、加熱処理すれば、より安定して磁性粉末に定着する。
【0042】
無機燐酸系化合物の添加量は、その種類や濃度により異なるが、磁性粉末100重量部に対して0.01〜5重量部、特に0.1〜3重量部が好ましい。添加量が0.01重量部未満の場合は、膜が十分に形成されないため可使時間を延ばすことができず、また5重量部を超えると磁性粉末の密度が低下するばかりでなく、樹脂硬化時に架橋反応が進まず所望の機械的強度が得られない。
【0043】
磁性粉末として希土類−鉄−窒素系の合金粉末を用いた場合、無機燐酸系化合物で表面を処理し、カップリング剤で被覆すれば、樹脂バインダー中に90重量%以上もの割合で高充填化でき、特に優れた可使時間を有する樹脂結合型磁石が得られる。
【0044】
B−1 樹脂バインダー
本発明の樹脂バインダーは、磁性粉末の結合材として働く成分であり、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B−1)を主成分とするものであれば、その種類に限定されることはない。以下、これを熱硬化性樹脂系バインダーと称する。樹脂の形状は、パウダー、ビーズ、ペレット等、特に限定されないが、磁性粉末と均一に混合できるパウダー状が望ましい。
【0045】
熱硬化性樹脂系バインダーとしては、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂であれば、特に限定されるものではないが、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上が使用される。
【0046】
これらの中でも、不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂が好ましい。これらは、比較的低温で、かつ速やかな硬化反応性を示し、射出成形によって容易に樹脂結合型磁石が得られるからである。また、150℃以下の温度では液状であり、25℃における粘度が5000mPa・s以下である樹脂が成形性の面から好適である。
【0047】
不飽和ポリエステル樹脂は、成形時の金型内で硬化することによりバインダーとして働くものであれば、その種類に限定されず、市販されている不飽和ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0048】
例えば、不飽和多塩基酸及び/又は飽和多塩基酸とグリコール類を予備的に重合させ、オリゴマー化やプレポリマー化することで、平均分子量5000程度以下の樹脂に調製できる。不飽和ポリエステル樹脂には、例えばエポキシ樹脂を原料としたノボラック型や、ビスフェノール型のビニルエステル樹脂など、前記の熱硬化性樹脂を混合できる。
【0049】
不飽和多塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などを、また、飽和多塩基酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸あるいはテトラブロム無水フタル酸などが挙げられる。
【0050】
また、グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコール、ペンタエリスリットジアリルエーテル又はアリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0051】
ビニルエステル樹脂は、特に限定されず、例えば、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とをエステル化触媒を用いて反応させて得られる樹脂を使用できる。特に、150℃以下の温度では液状であり、25℃における粘度が5000mPa・s以下のビニルエステル樹脂が成形性の面から好適である。
【0052】
ビニルエステル樹脂の原料となるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、ビスフェノールとホルマリンとの縮合物であるノボラックとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるノボラック型、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添加ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる含アミングリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0053】
また、これらエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応により分子中にエポキシ基を有する化合物でもよい。これらエポキシ化合物は、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0054】
さらに、上記ビニルエステル樹脂の原料となる不飽和一塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸などのハーフエステル等を用いてもよい。さらに、これらの化合物と、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの多価カルボン酸や、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、パルチミン酸などの飽和一価カルボン酸や、フタル酸などの飽和多価カルボン酸またはその無水物や、末端基がカルボキシル基である飽和あるいは不飽和アルキッド等の化合物とを併用してもよい。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみでも、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0055】
上記ビニルエステル樹脂を得るためのエステル化触媒としては、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;塩化リチウム、塩化クロム等の無機塩;2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラメチルホスフォニウムクロライド、ジエチルフェニルプロピルホスフォニウムクロライド、トリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ベンジルトリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ジベンジルエチルメチルホスフォニウムクロライド、ベンジルメチルジフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスフォニウム塩;第二級アミン類;テトラブチル尿素;トリフェニルホスフィン;トリトリールホスフィン;トリフェニルスチビン等が挙げられるが、特に限定されない。これらエステル化触媒は、一種類のみでも、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0056】
また、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物あるいは多価アルコール類とを反応させた後、さらに水酸基含有(メタ)アクリル化合物、および必要に応じて水酸基含有アリルエーテル化合物を反応させて得られる。また、水酸基含有(メタ)アクリル化合物とポリヒドロキシ化合物あるいは多価アルコール類とを反応させた後、さらにポリイソシアネートを反応させてもよい。
【0057】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料となるポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネートおよびその異性体、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートが挙げられる。
【0058】
具体的には、商品名:バーノックD 750、商品名:クリスポンNX(大日本インキ化学工業株式会社製)、商品名:デスモジュールL(住友バイエル社製)、商品名:コロネートL(日本ポリウレタン社製)、商品名:タケネートD102(武田薬品社製)、商品名:イソネート143L(三菱化成社製)等が挙げられ、特に限定されない。これらポリイソシアネートは、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0059】
また、上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料となる多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ビスフェノールAとプロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとの付加物、1,2,3,4−テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサングリコール、1,3−シクロヘキサングリコール、1,4−シクロヘキサングリコール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,6−デカリングリコール、2,7−デカリングリコール等が挙げられるが、特に限定されない。これら多価アルコール類は、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0060】
さらに、上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料となるポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられ、グリセリンエチレンオキシド付加物、グリセリンプロピレンオキシド付加物、グリセリンテトラヒドロフラン付加物、グリセリンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンテトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物等が挙げられるが、特に限定されない。これらポリヒドロキシ化合物は、一種類のみでもよいし、二種類以上を混合してもよい。
【0061】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料となる水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、特に限定されないが、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリル化合物は、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0062】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として、必要に応じて用いられる水酸基含有アリルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、1,2−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オクチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等が挙げられるが、特に限定されない。これら水酸基含有アリルエーテル化合物は、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0063】
また、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂は、特に限定されず、例えば、不飽和あるいは飽和ポリエステルの末端に(メタ)アクリル化合物を反応させて得られる。上記ポリエステルの原料としては、上記不飽和ポリエステル樹脂の原料として例示した化合物と同様の化合物を用いることができる。
【0064】
上記ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料となる(メタ)アクリル化合物としては、例えば、不飽和グリシジル化合物、(メタ)アクリル酸等の不飽和一塩基酸およびそのグリシジルエステル類などが挙げられるが、特に限定されない。これら(メタ)アクリル化合物は、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0065】
これらには、架橋剤を兼ねるモノマー類として次の化合物を配合できる。(I)スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル等のビニルモノマー類、(II)ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルイソフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテトラブロムフタレート等のアリルモノマー類、(III)フェノキシエチルアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類などである。
【0066】
B−2 有機過酸化物
本発明において、有機過酸化物は、前記の熱硬化性樹脂原料の反応を開始させる硬化剤として用いられ、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂に配合される。
【0067】
有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類;アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノニルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、サクシニック酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−ミリスチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2、5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシネオヘキサノエート、クミルパーオキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル類;アセチルシクロヘキシルスルフォニルパーオキサイドや、t−ブチルパーオキシアリルカーボネート等が挙げられる。
【0068】
有機過酸化物は、単独で使用できるものもあるが、炭化水素溶液類、フタル酸エステル類に希釈し、もしくは固形粉末に吸収させて用いてもよい。半減期が10時間となる分解温度が150℃以下である過酸化物、すなわち熱硬化性樹脂を150℃以下の温度で硬化させる化合物が好ましく、この分解温度が40〜135℃の過酸化物が一層好ましい。分解温度が150℃を超える有機過酸化物を用いると、成形体の硬化温度が高くなるので好ましくない。一方、40℃未満の有機過酸化物は、取扱い性が悪く、磁石用組成物の保管特性、生産性を低下させることがある。
【0069】
有機過酸化物の添加量は、希釈率や活性酸素量によって異なるため、厳密には規定できないが、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.05〜10重量部が添加される。不飽和ポリエステル樹脂であれば、0.01〜5重量%添加すればよい。
【0070】
これらの有機過酸化物は、単独又は2種以上の混合系で用いるが、最終的に得られる樹脂結合型磁石用組成物の可使時間をより長く確保するためには、パーオキシケタール系、又はジアルキルパーオキサイド系過酸化物のいずれかを単独で用いることが極めて好ましい。
【0071】
重合防止剤としては、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン等のキノン類;ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、モノ−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン等のハイドロキノン類;ジ−t−ブチル・パラクレゾールハイドロキノンモノメチルエーテル、アルファナフトール等のフェノール類、ナフテン酸銅などの有機ならびに無機の銅塩類;アセトアミジンアセテート、アセトアミジンサルフェート等のアミジン類;フェニルヒドラジン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩などのヒドラジン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムオキザレート、ジ(トリメチルベンジルアンモニウム)オキザレート、トリメチルベンジルアンモニウムマレエート、トリメチルベンジルアンモニウムタータレート、トリメチルベンジルアンモニウムグリコレート等の第4級アンモニウム塩類;フェニル−β−ナフチルアミン、パラベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン等のアミン類;ニトロベンゼン、トリニトロトルエン、ピクリン酸などのニトロ化合物;キノンジオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;ピロガロール、タンニン酸、レゾルシン等の多価フェノール類;トリエチルアミン塩酸塩、ジメチルアニリン塩酸塩、ジブチルアミン塩酸塩等のアミン塩酸塩類などが挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して使用できる。
【0072】
C カップリング剤
磁性粉末は、必要により、無機燐酸系化合物で表面処理した後、アルミニウム系、チタネート系、或いはシラン系などのカップリング剤の1種又は2種以上によって被覆する。これらカップリング剤は、磁性粉末100重量部に対して0.01〜5重量部の割合で添加する。
【0073】
アルミニウム系カップリング剤としては、一般式(5)で示されるようなアルコキシアルミニウムキレート類が挙げられる。
(RO)−Al−O−CR’=CH−COOR”……(5)
(式中、R、R’、R”は同一でも異なっていてもよく、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数が1〜8のアルキル基である。)
【0074】
アルキル基としては、炭素数1〜8であれば、直鎖だけでなく分岐鎖、環状のシクロヘキシル環、ビニル基、ベンジル基を含んでいてもよい。特に好ましいのは、炭素数1〜3のアルキル基を1又は2個もつアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートである。
【0075】
また、チタネート系カップリング剤としては、炭素数1〜5の分岐鎖アルキル基をもつチタネートまたは燐酸エステル系チタネートなどが挙げられる。分岐鎖アルキル基としては、イソプロピル、イソブチルなどが例示できる。燐酸エステル系チタネートは、ジオクチルホスファイト、ジトリデシルホスファイト、ジオクチルパイロホスフェートなどを分子内に含有するチタネートである。
【0076】
具体的には、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル)チタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート等が挙げられる。これらのチタネート系カップリング剤は、単独もしくは二種以上で用いることができる。
【0077】
このうち、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートは、「商品名:プレンアクトKRTTS」として、また、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネートは、「商品名:プレンアクトKR46B」として市販されており、容易に入手できる。
【0078】
これらの中では、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネートが特に好ましい。
【0079】
さらに、シラン系カップリング剤は、アルコキシシラン系モノマーであって、一般式(6)で示されるように、1〜3個の加水分解性基、即ちアルコキシ基と、1〜3個のアルキル基を含有するシランである。
(4−n)−Si−X(n)……(6)
(式中、Rは直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基、或いは含酸素、含窒素又は含硫黄置換基をもつアルキル基のいずれかで、Xは加水分解性基を表し、nは4未満の整数である。)
【0080】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシなどが挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜15であれば、直鎖だけでなく分岐鎖、環状のシクロヘキシル環、ビニル基、ベンジル基を含んでいてもよい。特に好ましいのは、炭素数1〜12のアルキル基、メタクリルオキシアルキル基を1又は2個もつジメトキシシラン又はトリメトキシシランである。
含酸素、含窒素又は含硫黄置換基をもつアルキル基とは、メタクリロキシアルキル、エポキシアルキル、グリシドキシアルキル、アミノアルキル、メルカプトアルキルなどである。
【0081】
アルコキシシラン系モノマーを具体例で示すと、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、へプチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、へプチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン系モノマー;ジメチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルブチルジメトキシシラン、エチルプロピルジメトキシシラン、エチルブチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルプロピルジメトキシシラン、エチルブチルジメトキシシラン、エチルヘプチルジメトキシシラン、エチルヘキシルジメトキシシラン、エチルオクチルジメトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、プロピルブチルジメトキシシラン、プロピルヘキシルジメトキシシラン、プロピルヘプチルジメトキシシラン、プロピルオクチルジメトキシシラン、ブチルペンチルジメトキシシラン、ブチルヘキシルジメトキシシラン、ブチルヘプチルジメトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ヘキシルオクチルジメトキシシラン、ヘキシルデシルジメトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジへプチルジメトキシシラン、ジデシルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルブチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルプロピルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルエチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルプロピルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルプロピルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルエチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルプロピルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ベンジルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、メチルブチルジエトキシシラン、エチルプロピルジエトキシシラン、エチルブチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルプロピルジエトキシシラン、エチルブチルジエトキシシラン、エチルヘプチルジエトキシシラン、エチルヘキシルジエトキシシラン、エチルオクチルジエトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、プロピルブチルジエトキシシラン、プロピルヘキシルジエトキシシラン、プロピルヘプチルジエトキシシラン、プロピルオクチルジエトキシシラン、ブチルペンチルジエトキシシラン、ブチルヘキシルジエトキシシラン、ブチルヘプチルジエトキシシラン、ジヘキシルジエトキシシラン、ヘキシルオクチルジエトキシシラン、ヘキシルデシルジエトキシシラン、ジオクチルジエトキシシラン、ジへプチルジエトキシシラン、ジデシルジエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルブチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルプロピルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルプロピルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルエチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルプロピルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルエチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルプロピルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルエチルジエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルプロピルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、ベンジルメチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン系モノマー;トリメチルメトキシシラン、ジメチルエチルメトキシシラン、ジメチルプロピルメトキシシラン、ジメチルブチルメトキシシラン、ジエチルプロピルメトキシシラン、ジエチルブチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ジエチルプロピルメトキシシラン、ジエチルブチルメトキシシラン、ジエチルヘプチルメトキシシラン、ジエチルヘキシルメトキシシラン、ジエチルオクチルメトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、ジプロピルブチルメトキシシラン、ジプロピルヘキシルメトキシシラン、ジプロピルヘプチルメトキシシラン、ジプロピルオクチルメトキシシラン、ジブチルペンチルメトキシシラン、ジブチルヘキシルメトキシシラン、ジブチルヘプチルメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン、ジヘキシルオクチルメトキシシラン、ジヘキシルデシルメトキシシラン、トリオクチルメトキシシラン、トリへプチルメトキシシラン、トリデシルメトキシシラン、トリビニルメトキシシラン、γ−メタクリロキシジプロピルメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジブチルメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジプロピルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエチルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジプロピルメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルジエチルメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルジプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルジエチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルジプロピルメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエチルメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、ベンジルジメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルエチルエトキシシラン、ジメチルプロピルエトキシシラン、ジメチルブチルエトキシシラン、ジエチルプロピルエトキシシラン、ジエチルブチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、ジエチルプロピルエトキシシラン、ジエチルブチルエトキシシラン、ジエチルヘプチルエトキシシラン、ジエチルヘキシルエトキシシラン、ジエチルオクチルエトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、ジプロピルブチルエトキシシラン、ジプロピルヘキシルエトキシシラン、ジプロピルヘプチルエトキシシラン、ジプロピルオクチルエトキシシラン、ジブチルペンチルエトキシシラン、ジブチルヘキシルエトキシシラン、ジブチルヘプチルエトキシシラン、トリヘキシルエトキシシラン、ジヘキシルオクチルエトキシシラン、ジヘキシルデシルエトキシシラン、トリオクチルエトキシシラン、トリへプチルエトキシシラン、トリデシルエトキシシラン、トリビニルエトキシシラン、γ−メタクリロキシジプロピルメチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジエチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジブチルエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメチルエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジプロピルエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジエチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジエチルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジプロピルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジプロピルエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルジエチルエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルジプロピルエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエチルエトキシシラン、γ−アミノプロピルジプロピルエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエチルエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジプロピルエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメチルエトキシシラン、ベンジルジメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン系モノマーなどが挙げられる。
【0082】
D N−オキシル類化合物
N−オキシル類化合物は、本発明の樹脂結合型磁石用組成物において、その保管中の可使時間をより長くさせるために必須成分として添加され、含窒素環状化合物である5員環のピロリジン系化合物、6員環のピペリジン系化合物などの化合物である。
【0083】
5員環のピロリジン系化合物としては、その化合物の分子鎖末端に、次の一般式(1)
【0084】
【化5】
Figure 0004096596
【0085】
式(1)中、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基で表される。
【0086】
6員環のピペリジン系化合物としては、その化合物の分子鎖末端に、次の一般式(2)
【0087】
【化6】
Figure 0004096596
【0088】
上記の式(2)中、X、X、Xは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、R12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基(好ましくは炭素数1〜5のアルキル基)を表し、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基(好ましくは炭素数1〜12のアルキル基)で表される化合物である。
【0089】
さらに、N−オキシル類化合物としては、上記のほかに、分子鎖末端に、次の一般式(3)
【0090】
【化7】
Figure 0004096596
【0091】
但し、式(3)中、R17、R18は、それぞれ独立して炭素数4以上のアルキル基で表される構造を有する化合物を用いることもできる。
【0092】
遷移金属と有機過酸化物との間には、レドックス反応と称される過酸化物の分解反応が起こり、低温度でも可使時間の著しい低下を招くことが一般に知られている。これらの反応機構を中心に、さらに詳しい実験や試験を進めた結果、本発明のような磁性粉末などを含む系では、レドックス反応のみならず、これに相まってラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂やスチレン等の複雑な反応も生起し、その促進効果も極めて高く、通常の遷移金属単体系の組成物よりも、可使時間が極めて短くなる現象が見出された。
【0093】
さらに、磁性粉末、熱硬化性樹脂を含有する組成物に対して、N−オキシル類化合物を添加すると、この特殊な反応の抑制効果に極めて有効に機能することが突きとめられた。
上記のN−オキシル類としては、式(2)で示される6員環のピペリジン系化合物が好ましい。
【0094】
例えば、ジ−t−ブチルニトロキシル、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−2−エチルヘキサノエート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−ステアレート、1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−4−t−ブチルベンゾエート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)コハク酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジピン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルマロン酸エステル、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)フタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)イソフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)テレフタレート、ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N’−ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジパミド、N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)カプロラクタム、N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ドデシルサクシンイミド、2,4,6−トリス−N−ブチル−N−(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−s−トリアジン等が挙げられるが、特に限定されない。これらN−オキシル類は、一種類のみでも、二種類以上を混合してもよい。
【0095】
中でも好ましいのは、上記の式(2)中、X、X、Xが、それぞれ独立して水素原子、−OH基、−COOH基、−OCOR14基または−NH基を表し、R、R10、R11、R12が、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基、R14が炭素数1〜10のアルキル基で表される構造を有するN−オキシル類化合物である。
【0096】
このような化合物として、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、或いはビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケートが挙げられる。2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシルは、次の一般式(4)で示すことができる。
【0097】
【化8】
Figure 0004096596
【0098】
これらのN−オキシル類化合物は、各種安定剤の中でも、アルキルラジカルと反応後、さらに、パーオキシラジカルとの反応性を有するもの、又はパーオキシラジカルとの反応後、さらに、アルキルラジカルとの反応性を有するものが好ましい。本発明では、このような反応によって、組成物の可使時間をより長く確保できるものと考えられる。アルキルラジカルと反応後、さらに、パーオキシラジカルとの反応性を有するものの代表例が、前記の一般式(4)で示された2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシルである。
【0099】
これらN−オキシル類化合物の添加量は、その種類によって効果が大きく異なるため画一的に規定はできないが、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部とする。添加量が0.1重量部より少ないと、十分な可使時間を確保できない。一方、10重量部より多いと、成形体の密度の低下や表面の荒れを生じるため望ましくない。
【0100】
さらに、これらの他に、例えばナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等のコバルト有機酸塩;アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ジメドン等のβ−ジケトン類;ジメチルアニリン等の芳香族3級アミン類;メルカプタン類;トリフェニルホスフィン、2−エチルヘキシルホスファイト等の燐化合物類;第4級アンモニウム塩類などの促進剤や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、芳香族カルボニル化合物、ピナコン誘導体などと併用しても良い。
【0101】
これら併用されうる添加剤の配合量は、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹100重量部に対して、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部である。
【0102】
E.その他添加剤
樹脂バインダーには、樹脂結合型磁石の用途に応じて、反応性希釈剤、未反応性希釈剤、各種変性剤、増粘剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤などを添加できる。
【0103】
反応性希釈剤としては、スチレン、脂肪酸ジグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0104】
未反応性希釈剤としては、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールが挙げられる。各種変性剤としては、液状ポリサルファイドポリマー、フェノール変性芳香族重合体などが挙げられる。
【0105】
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類、ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸などの脂肪酸類;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛などの脂肪酸塩(金属石鹸類);ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類;ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類;弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物;窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体が挙げられる。
【0106】
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p−第3ブチルフェニルサリシレート、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、3−2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第3ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;蓚酸アニリド誘導体などが挙げられる。
難燃剤としては、三酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、有機臭素化合物、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレンなどが挙げられる。
【0107】
安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系などが挙げられる。
【0108】
2.樹脂結合型磁石組成物
カップリング剤で被覆された磁性粉末は、有機過酸化物を含む樹脂バインダー、N−オキシル化合物と混合され、その他添加剤を配合されて、樹脂結合型磁石用組成物となる。
【0109】
樹脂バインダーは、前記の熱硬化性樹脂である。ラジカル重合反応性を有する熱硬化性の樹脂バインダーを構成する各成分の形態は、常温で液状でも、パウダー、ビーズ、ペレット等であってもよいが、磁性粉末との均一混合性や成形性から考えると、液状であることが望ましい。また、これらの異なる樹脂や異なる分子量、性状のものを1種または2種以上組み合わせて混合しても差し支えない。
【0110】
これら混合されるラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂バインダーの各成分は、重合度や分子量に制約されないが、磁性粉末を加える前の混合調製状態での成形温度における回転粘度測定法での動的粘度が、100〜5000mPa・sの範囲に含まれることが望ましい。粘度は、JIS K7117(液状樹脂の回転粘度計による粘度試験方法)に準じて測定されるが、測定温度は、成形温度(成形時のシリンダー温度)にあわせた恒温漕内で測定される。
【0111】
熱硬化性樹脂バインダーは、300〜3000mPa・sの動的粘度のものがさらに好ましい。この動的粘度が、100mPa・s未満であると、射出成形時に磁性粉末とバインダーの分離現象が生じるため成形できない。また、5000mPa・sを超えると著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き成形困難になるため、本発明の効果が得られない。
【0112】
この動的粘度に調整するために、粘度や性状の異なるラジカル重合反応性を有する数種類の熱硬化性樹脂同士を混合したり、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム等の二価金属の酸化物類や水酸化物類、ジイソシアナート類、アリジリン化合物類、アルミニウムイソプロポキシド等を加えてもよい。
【0113】
熱硬化性樹脂バインダーの添加量は、各構成成分を含めた状態で、磁性粉末100重量部に対して、5〜50重量部の割合で添加されるが、好ましくは7〜15重量部、さらに、10〜13重量部がより好ましい。バインダーの添加量が磁性粉末100重量部に対して5重量部未満の場合は、著しい成形体強度の低下や成形時の流動性の低下を招いて、本発明の効果を得ることができない。また、50重量部を超えると、所望の磁気特性が得られない。
【0114】
その他の添加剤である反応性希釈剤、未反応性希釈剤、各種変性剤、増粘剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤は、樹脂結合型磁石の用途にもよるが、磁石粉末100重量部に対して、0.01〜10重量%配合され、特に0.1〜5重量%が好ましい。
【0115】
上記の方法で樹脂バインダーが混合され、その他の添加剤を配合された樹脂結合型磁石用組成物は、公知の方法で混合される。混合方法は、特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機或いは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機などの混練機を使用して混合できる。
【0116】
得られた樹脂結合型磁石用組成物の形状は、パウダー状、ビーズ状、ペレット状、あるいはこれらの混合物の形態であるが、取扱易さの点で、ペレット状(或いは塊状)が望ましい。
【0117】
樹脂結合型磁石用組成物は、30℃の密閉静置状態において120時間以上の可使時間を有するが、特に、同一条件で350時間以上の可使時間を有する樹脂結合型磁石用組成物が好ましい。
【0118】
3.樹脂結合型磁石
本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、次いで、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂の溶融温度で加熱溶融された後、所望の形状を有する磁石に成形される。
【0119】
成形法としては、従来からプラスチック成形加工などに利用されている射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、トランスファー成形法など各種の成形法が採用できるが、これらの中では、射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、または射出プレス成形法のいずれかが好ましい。
【0120】
混合時の剪断発熱などによって熱硬化性樹脂の硬化が進まないよう、剪断力が弱く、かつ冷却機能を有する混合機を使用することが好ましい。混合により樹脂結合型磁石用組成物が塊状となるので、これを上記の成形法により成形する。
【0121】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0122】
樹脂結合型磁石組成物の原料として下記の材料を用いた。
A 磁性粉末
・磁粉1:SmFeN系磁性粉末[住友金属鉱山(株)製、異方性磁場:16.8MA/m、粒径100μm以下の粒径を99重量%含有]。
・磁粉2:SmCo系磁性粉末[「商品名:RCo合金」、住友金属鉱山(株)製、異方性磁場:19.68MA/m、粒径100μm以下の粒径を99重量%含有]。
・磁粉3:NdFeB系磁性粉末[「商品名:MQP−B」、マグネクエンチインターナショナル製、異方性磁場:5.6MA/m、粒径100μm以下の粒径を62重量%含有]。
・磁粉4:ストロンチウムフェライト系磁性粉末[「商品名:MA−951」、戸田工業(株)製、異方性磁場:2.28MA/m、粒径100μm以下の粒径を99重量%含有]。
・磁粉5:NdFeB系磁性粉末[「商品名:MQP−B」、マグネクエンチインターナショナル製、異方性磁場:5.6MA/m、粒径100μm以下の粒径を31重量%含有]。
【0123】
B 樹脂バインダー
B−1 熱硬化性樹脂
・不飽和ポリエステル樹脂(UPと略す)
UP1、「商品名:ポリセット2212」、日立化成工業(株)製。25℃における粘度:500mPa・s。
UP2、「商品名:ポリセット9164」、日立化成工業(株)製。25℃における粘度:2000mPa・s。
・ビニルエステル樹脂(VE樹脂と略す)
VE樹脂、「商品名:ポリセット6120S」、日立化成工業(株)製。25℃における粘度:500mPa・s。
熱可塑性樹脂(比較用)
・ナイロン12、「商品名:ダイアミド A−1709P」、ダイセル・ヒュルス(株)製、平均分子量は15000以下。
【0124】
B−2 有機過酸化物(硬化剤と略す)
・硬化剤1:パーオキシケタール系過酸化物(1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン)、「商品名:トリゴノックス29A、化薬アグゾ(株)製」、10時間の半減期を得るための分解温度90℃。
・硬化剤2:ジアルキルパーオキサイド系過酸化物[2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3]、「商品名:カヤヘキサYD」、化薬アグゾ(株)製、10時間の半減期を得るための分解温度133℃。
・硬化剤3:アゾ系重合開始剤(2−2’−アゾビスイソブチロニトリル)、「商品名:ABN−R」、日本ヒドラジン工業(株)製。
【0125】
C カップリング剤
C−1 アルミニウム系カップリング剤(Alカップリング剤と略す)
・Alカップリング剤 1;アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート表面処理剤(商品名:プレンアクトAL−M、味の素株式会社製)
C−2 チタネート系カップリング剤(Tiカップリング剤と略す)
・Tiカップリング剤1:イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、
「商品名:プレンアクトKRTTS」、味の素(株)製。
・Tiカップリング剤2:テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、「商品名:プレンアクトKR46B」、味の素(株)製。
C−3 シラン系カップリング剤(Siカップリング剤と略す)
・Siカップリング剤1:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、「商品名:信越シリコーンKBM503」、信越化学工業(株)製。
・Siカップリング剤2:デシルトリメトキシシラン、「商品名:信越シリコーンKBM3103C」、信越化学工業(株)製。
【0126】
D N−オキシル類化合物
・オキシル類1:2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、「商品名:アデカスタブ LA−7RD」、旭電化(株)製。・オキシル類2:ビス(1−オキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、「商品名:Prostab 5415」、チバ・スペシャルティルティ・ケミカルズ社製。
フェニルフォスフォン酸(比較用、PPA化合物と略す)
・PPA化合物:フェニルフォスフォン酸(日産化学工業株式会社製)。
【0127】
樹脂結合型磁石組成物は、次の方法で製造した。
▲1▼カップリング剤での被覆処理
磁性粉100重量部に対して、10重量部のヘキサン等の有機溶媒に所定量の所定の被覆処理用カップリング剤を溶解した後、当該処理溶液と磁性粉とをプラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、20℃)し、−760mmHg、120℃の真空オーブン中で24時間乾燥させ、処理済磁性粉を得た。
【0128】
▲2▼樹脂バインダーの混合、樹脂結合型磁石用組成物の作製
被覆処理済み磁性粉末に、あらかじめ所定の比率になるよう計量混合しておいた熱硬化性樹脂、硬化剤、N−オキシル類化合物などをそれぞれの磁性粉全量に加え(各重量部)、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm、30℃、10分)し、最終の樹脂結合型磁石用ペレットコンパウンドとした。
これにより得られた混合物のうちナイロン12を用いた比較例のみ、20mmφシングル押出機(L/D=25、CR=2.0、回転数=20rpm、5mmφストランドダイ、シリンダー温度200〜220℃、ダイス温度100〜150℃)にて押し出し、ホットカットペレタイザーにてφ5mm×5mmの樹脂結合型磁石用ペレットコンパウンドを作製した。
【0129】
▲3▼射出成形方法
これらのコンパウンドを、インラインスクリュー式またはプランジャー式磁場発生装置付の射出成形機にて、横φ10mm×15mmの円柱試験用樹脂結合型磁石を同一条件(成形温度30〜180℃、金型温度100〜220℃)にて成形した。尚、SmCo系とSmFeN系の磁性粉を使用した時のみ、1.2〜1.6MA/mの磁場中金型内にて成形を行った。
【0130】
樹脂結合型磁石試料は、その特性を下記の要領で測定し、評価した。
▲1▼磁気特性評価
チオフィー型自記磁束計により、試料の磁気特性(保磁力、磁化、角型性、最大磁気エネルギー積、配向度)を常温で測定した。
配向度は、SMM法、即ち、配向度={(成形後の樹脂結合型磁石の磁化)/(磁性粉末100%でのVSMにて測定した磁化×成形後の樹脂結合型磁石の磁性粉末体積率)}×100で表した。従来の方法での限界値は、次の表1の通りであった。よって、これらの限界値以上を「効果あり」と判断した。
【0131】
【表1】
Figure 0004096596
【0132】
▲2▼機械強さ
上記成形条件にて、別途、幅5mm×高さ2mm×長さ10mmの試験片を成形し、JIS K7214(プラスチックの打ち抜きによる剪断試験方法)に準じて剪断打ち抜き強さを測定した。各組成物の調製直後に成形した成形体の機械強さを初期値とした。近年、市場から強く求められている100MPa以上の機械強さを有するものを「効果有り」と判断した。
【0133】
▲3▼可使時間
得られた樹脂結合型磁石用組成物をガラス瓶に充填し、アルミ製の蓋にて密閉した後、30±0.5℃にコントロールされた恒温槽内に入れ、成形後の成形体機械強さが初期値の80%まで低下したときの時間を求めた。なお、不飽和ポリエステル樹脂を用いた比較例のうち、成形体の機械強さの低下をまねく前に、成形不可能となる急激な粘度上昇、固化する現象を示したものは、その固化に達するまでの時間を記した。
【0134】
(実施例1〜18)磁性粉末、Alカップリング剤、樹脂バインダー、有機過酸化物、N−オキシル類化合物の各成分を所定の配合割合で用い、上述の手順・方法にて樹脂結合型磁石用組成物及び磁石を製造し、その特性を評価した。その評価結果を表2〜3に示す。
【0135】
【表2】
Figure 0004096596
【0136】
【表3】
Figure 0004096596
【0137】
(実施例19〜38)
磁性粉末、Tiカップリング剤、樹脂バインダー、有機過酸化物、N−オキシル類化合物の各成分を所定の配合割合で用い、上述の手順・方法にて樹脂結合型磁石用組成物及び磁石を製造し、その特性を評価した。その評価結果を表4〜6に示す。
【0138】
【表4】
Figure 0004096596
【0139】
【表5】
Figure 0004096596
【0140】
【表6】
Figure 0004096596
【0141】
(実施例39〜58)
磁性粉末、Siカップリング剤、樹脂バインダー、有機過酸化物、N−オキシル類化合物の各成分を所定の配合割合で用い、上述の手順・方法にて樹脂結合型磁石用組成物及び磁石を製造し、その特性を評価した。その評価結果を表7〜9に示す。
【0142】
【表7】
Figure 0004096596
【0143】
【表8】
Figure 0004096596
【0144】
【表9】
Figure 0004096596
【0145】
(比較例1〜10)
磁性粉末に、樹脂バインダー、有機過酸化物などの各成分を所定の割合で配合し、上述の手順・方法にて樹脂結合型磁石用組成物及び磁石を製造し、その特性を評価した。その評価結果を表10に示す。比較例8〜10は、カップリング剤の使用量が多すぎる場合である。
【0146】
【表10】
Figure 0004096596
【0147】
これら実施例から、磁性粉末をカップリング剤で被覆後、熱硬化性樹脂、N−オキシル類化合物を配合した本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、粘度の変化のみならず、成形後の機械強さの維持の面でも優れた可使時間を有し、かつ該樹脂結合型磁石用組成物を用いた樹脂結合型磁石は、磁気特性や機械強さ等に優れることが分かる。
これに対し、比較例からは、磁性粉末をカップリング剤で被覆しないか、カップリング剤の使用量が多すぎるので、初期の効果が発揮されないことが分かる。
【0148】
【発明の効果】
本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、カップリング剤で被覆処理した磁性粉末に、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を主体とし、有機過酸化物、さらにN−オキシル類化合物を含有した熱硬化性樹脂バインダーを配合するので、バインダー使用時に樹脂結合型磁石用組成物の可使時間が極めて優れたものになる。さらに、射出成形法などで磁気特性、形状自由度、機械強さ等に優れた樹脂結合型磁石を得られることから、一般家電製品から通信・音響機器、医療機器、一般産業機器にいたる幅広い分野において、その工業的価値は極めて大きい。

Claims (11)

  1. 構成元素中に遷移金属元素を含む磁性粉末(A)と、磁性粉末(A)100重量部に対して5〜50重量部の樹脂バインダー(B)とからなる樹脂結合型磁石用組成物において、磁性粉末(A)が磁性粉末100重量部に対して0.01〜5重量部のカップリング剤(C)で被覆処理されており、かつ樹脂バインダー(B)が、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B−1)を主成分とし、熱硬化性樹脂(B−1)100重量部に対して、0.05〜10重量部の有機過酸化物(B−2)を含、さらに、N−オキシル類化合物(D)ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B−1)100重量部に対して、0.77〜10重量部配合され、30℃の密閉静置状態において120時間以上の可使時間を有することを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物。
  2. 磁性粉末(A)は、その異方性磁場(HA)が4.0MA/m以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石 用組成物。
  3. 磁性粉末(A)は、粒径100μm以下の磁性粉末を、磁性粉末(A)全量に対して50重量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂結合型磁石 用組成物。
  4. 熱硬化性樹脂(B−1)は、25℃における粘度が5000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  5. 熱硬化性樹脂(B−1)は、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1又は4に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  6. 有機過酸化物(B−2)は、熱硬化性樹脂を150℃以下の温度で硬化可能とする化合物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  7. 有機過酸化物(B−2)は、ジアルキルパーオキサイド系又はパーオキシケタール系化合物であることを特徴とする請求項1又は6に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  8. カップリング剤(C)が、アルミニウム系、チタネート系、又はシラン系のカップリング剤から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  9. カップリング剤(C)が、磁性粉末(A)100重量部に対して0.01〜5重量部配合されて磁性粉末(A)を被覆していることを特徴とする請求項1又は8に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  10. N−オキシル類化合物(D)は、分子鎖末端に、次の一般式(1)
    Figure 0004096596
    (式中、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR基、−OCOR基または−NR基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)、または一般式(2)
    Figure 0004096596
    (式中、X、X、およびXは、それぞれ独立して水素原子、−OR13基、−OCOR14基または−NR1516基を表し、R、R10、R11、およびR12は、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基を表し、R13、R14、R15、およびR16は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜16のアルキル基である)で表される構造のうち少なくとも一種の構造を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
  11. 請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂結合型磁石用組成物を、射出成形法、押出成形法、射出圧縮成形法、射出プレス成形法、またはトランスファー成形法から選ばれるいずれかの成形法により成形してなる樹脂結合型磁石。
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