JP3629992B2 - 樹脂結合型磁石用組成物およびこれを用いた磁石 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気特性に優れた樹脂結合型磁石用組成物およびこれを用いた磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】
フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石等はモーターをはじめとする種々の用途に用いられている。これらの磁石は主に焼結法により作られるために、一般に脆く、薄肉のものや複雑な形状のものが得難い。また焼結時の収縮が15〜20%と大きいため寸法精度の高いものが得られず、精度を上げるには研磨等の後加工が必要である。
【0003】
樹脂結合型磁石は、これらの欠点を解決すると共に新しい用途をも開拓するもので、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダーとし、これに磁性粉末を充填したものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、熱可塑性樹脂をバインダーとして用いる樹脂磁石は、成形時に200℃以上の高温にさらされるため、磁気特性、特に保磁力や角型性の低下が免れないので、成形後の磁気特性低下率を低く抑えた磁石成形品が得られなかった。
【0005】
また、エポキシ樹脂やビス・マレイミドトリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂をバインダーとし、これに磁性粉末を充填したものも提案されているが、バインダー量が希少なため圧縮成形法による単純成形品しか得られていなかった。
【0006】
近年、小型モーター、音響機器、OA機器等に用いられる樹脂結合型磁石は、機器の小型化の要請から磁気特性に優れ、かつ複雑形状のものが要求されているが、従来の方法よって得られる樹脂結合型磁石の磁気特性と形状の関係は、上記用途に使用するには不十分であり、樹脂結合型磁石の早期改良が望まれていた。
【0007】
そこで本発明は、従来の熱可塑性樹脂を用い射出成形法によって得られた低磁気特性で複雑形状可能な樹脂結合型磁石と、熱硬化性樹脂を用い圧縮成形法によって得られた高磁気特性で単純形状のみの樹脂結合型磁石のそれぞれの欠点を解消し、特に従来の高温成形時に受ける酸化劣化が原因の磁気特性低下を防止して、配向性が重要となる異方性磁石材料の高配向化を可能にすることで磁気特性に極めて優れるばかりでなく、形状自由度、成形性、機械強さをも優れた樹脂結合型磁石を与える磁石用組成物、およびこれを用いた磁石を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の目的を達成するため種々の検討を行った結果、磁性粉とビニルエステル樹脂との組成物を射出成形法やトランスファー成形法で製造することで特に保磁力や配向度に優れた磁気特性、形状自由度、成形性、機械強さをも有する樹脂結合型磁石が得られることを見いだし本発明を完成するにいたった。
【0009】
即ち、本発明の第1の発明によれば、粒径100μm以下の粒子を50重量%以上含み、かつ異方性磁場(HA)が50kOe以上である磁性粉末と、樹脂バインダーとからなる組成物であって、樹脂バインダーは、ビニルエステル樹脂を主成分とするとともに、150℃以下の温度で硬化可能な過酸化物を含有し、さらに、樹脂バインダーの添加量は、磁性粉末100重量部に対して7〜15重量部であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、樹脂バインダーの主成分であるビニルエステル樹脂が150℃以下において液状であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明の樹脂結合型磁石用組成物を一度硬化させた後、再度粉砕して熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂と再混合したことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物が提供される。
【0010】
上記樹脂バインダーの主成分であるビニルエステル樹脂中には、150℃以下の温度で硬化可能な過酸化物を含有することが好ましい。
【0011】
また、上記樹脂バインダーの主成分であるビニルエステル樹脂は、150℃以下において液状であることが好ましい。
【0012】
また、上記磁性粉末は、粒径100μm以下の粒子を50重量%以上含むことが好ましい。
【0013】
また、上記いずれかの組成物を一度硬化させた後、再度粉砕して熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂と再混合して組成物としてもよい。
【0014】
一方、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係る樹脂結合型磁石用組成物を、射出成形法によって成形してなる樹脂結合型磁石が提供される。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で用いる磁性粉末には、従来の樹脂結合型磁石に用いられている磁性粉が使用できる。例えば、異方性磁場(HA)が、50kOe以上の磁性粉末である希土類−コバルト(R−Co)系、希土類−鉄−ほう素(R−Fe−B)系、希土類−鉄−窒素(R−Fe−N)系の磁性粉を使用することができる。
【0016】
本発明者らは、上記樹脂結合型磁石組成物において、磁性粉として還元拡散法によって得られるSm−Fe系合金粗粉を窒化処理、微粉砕して得られるSm−Fe−N系の合金微粉末、同じく還元拡散法によって得られたSmCo5系合金粗粉を微粉砕して得られる合金微粉末、Nd−Fe−B系の液体急冷法によって得られた合金粉末、HDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)法によって得られた異方性Nd−Fe−B系合金粉末を用いると、特に優れた磁気特性を有する樹脂結合型磁石が得られることを確認している。
【0017】
尚、液体急冷法によって得られたNd−Fe−B系やHDDR法によって得られた異方性Nd−Fe−B系の磁性粉は、特異な形状を有した比較的大きな粒子を多量に含んでいるため、好ましくはジェットミルやボールミル等で粉砕し用いる方が良い。
【0018】
これら磁性粉末の粒径が、粒径100μm以下の粒子を50重量%以上含む組成物において本発明の効果が著しくなる。また、等方性よりも磁場中成形が必至となる異方性の磁性粉の方が、配向特性の面で本発明の効果が著しい。
【0019】
次に、本発明で必須成分のビニルエステル樹脂は、成形時の金型内で硬化して磁性粉末のバインダーとして働くものであり、特にその種類に限定されることはなく、一般的に市販されているビニルエステル樹脂を用いることができる。
【0020】
このビニルエステル樹脂としては、例えば、不飽和一塩基酸とエポキシ樹脂類を分子量5000程度以下に予備的に重合させてオリゴマーやプレポリマー化させた主剤に、架橋剤を兼ねるモノマー類、反応を開始させる硬化剤、長期の保存性を確保するための重合防止剤、その他の添加剤等で構成される。
【0021】
不飽和一塩基酸としては、主なものとして例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、ヒドロキシエチルメタクリレート・マレート、ヒドロキシエチルアクリレート・マレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート・マレート、ヒドロキシプロピルアクリレート・マレート、ジシクロペンタジエン・マレート等が挙げられる。また、エポキシ樹脂類としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、ビスフェノールF型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、臭素化グリシジルエーテル型、ビフェニル型、ナフタレン型、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン等のグリシジルエーテル類、ヒダントイン型、トリグリシジルイソシアヌレート等の含窒素類、フタル酸型、ヘキサヒドロフタル酸型、テトラヒドロフタル酸型、安息香酸型、ダイマー酸型等のグリシジルエステル類、エポキシ化大豆油等の過酢酸酸化類、グリコール型グリシジルエーテル類等が挙げられる。架橋剤を兼ねるモノマー類としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル等のビニルモノマー類、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルイソフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテトラブロムフタレート、等のアリルモノマー類、フェノキシエチルアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類等が挙げられる。
【0022】
硬化剤としては、一般的に有機過酸化物が用いられ、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、α、α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノニルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、サクシニック酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペロキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペロキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペロキシジカーボネート、ジ−ミリスチルペロキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルペロキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルペロキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)ペロキシジカーボネート、ジアリルペロキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルペロキシアセテート、t−ブチルペロキシイソブチレート、t−ブチルペロキシピバレート、t−ブチルペロキシネオデカノエート、クミルペロキシネオデカノエート、t−ブチルペロキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペロキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペロキシラウレート、t−ブチルペロキシベンゾエート、ジ−t−ブチルペロキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2、5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシマレイックアシッド、t−ブチルペロキシイソプロピルカーボネート、クミルペロキシオクトエート、t−ヘキシルペロキシネオデカノエート、t−ヘキシルペロキシピバレート、t−ブチルペロキシネオヘキサノエート、t−ヘキシルペロキシネオヘキサノエート、クミルペロキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル類やアセチルシクロヘキシルスルフォニルペロキサイド、t−ブチルペロキシアリルカーボネート等が挙げられる。
【0023】
これらの有機過酸化物は、その物単独で用いることができる物もあるが、種類によっては炭化水素溶液類やフタル酸エステル類に希釈した状態、もしくは固形粉末に吸収させた状態で用いることがある。いずれにしても、半減期10時間を得るための分解温度が150℃以下の性質を有する過酸化物を使用するのが望ましく、更には、同半減期を得るための温度が40℃以上150℃以下の過酸化物がより望ましい。半減期が150℃を超える物を選択すると、充分な硬化成形体を得るための硬化温度が高くなり本発明の効果が小さくなる。また、40℃よりも低くなると過酸化物自体の取り扱い性が困難になるばかりでなく、本発明の組成物の保管特性が悪くなり生産性に欠ける結果を招く。
【0024】
これら過酸化物の添加量は、希釈率や活性酸素量によって異なるため規定はできないが、一般的にはビニルエステル樹脂に対して0.01〜5wt%が添加される。これらの過酸化物は、単独もしくは2種以上の混合系で用いることができるが、例えばナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等のコバルト有機酸塩、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ジメドン等のβ−ジケトン類、ジメチルアニリン等の芳香族3級アミン類、メルカプタン類、トリフェニルホスフィン、2−エチルヘキシルホスファイト等の燐化合物類、第4級アンモニウム塩類等の促進剤やアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、芳香族カルボニル化合物、ピナコン誘導体等との併用を行っても良い。
【0025】
また、長期の保存性を確保するための重合防止剤としては、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン等のキノン類、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、モノ−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン等のハイドロキノン類、ジ−t−ブチル・パラクレゾールハイドロキノンモノメチルエーテル、アルファナフトール等のフェノール類、ナフテン酸銅等の有機ならびに無機の銅塩類、アセトアミジンアセテート、アセトアミジンサルフェート等のアミジン類、フェニルヒドラジン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩等のヒドラジン類、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムオキザレート、ジ(トリメチルベンジルアンモニウム)オキザレート、トリメチルベンジルアンモニウムマレエート、トリメチルベンジルアンモニウムタータレート、トリメチルベンジルアンモニウムグリコレート等の第4級アンモニウム塩類、フェニル−β−ナフチルアミン、パラベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン等のアミン類、ニトロベンゼン、トリニトロトルエン、ピクリン酸等のニトロ化合物、キノンジオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、ピロガロール、タンニン酸、レゾルシン等の多価フェノール類、トリエチルアミン塩酸塩、ジメチルアニリン塩酸塩、ジブチルアミン塩酸塩等のアミン塩酸塩類等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
本発明に用いるビニルエステル樹脂バインダーは、これらの各種成分以外にも種々の添加剤を加えることができる。例えば、不飽和酸を含む二塩基酸とグリコール類を原料とした不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の各反応性樹脂類や、成形性の改善を目的とした、例えばパラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類、ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類)ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等脂肪酸アミド類、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル、エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類、弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体を1種もしくは2種以上添加することができる。
【0027】
これらの有機添加物以外にも必要に応じ、無機充填剤や顔料等も任意に添加しても良い。無機充填剤としては、例えば、ストロンチウムフェライト系、バリウムフェライト系等のフェライト類磁性粉、鉄等の軟磁性粉、タングステン等の密度調整用高比重金属粉、三酸化アンチモン等の難燃剤、酸化チタン等の顔料等が挙げられる。
【0028】
これら混合されるビニルエステル樹脂バインダーの各成分は、重合度や分子量に制約されることはないが、磁性粉を加える前の混合調製状態での実成形時のシリンダー内における回転粘度測定法での動的粘度が100〜5000mPa・sの範囲に含まれることが好ましい。この粘度に調整するために数種類の粘度や性状の異なるビニルエステル樹脂同士を混合したり、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム等の二価金属の酸化物類や水酸化物類、ジイソシアナート類、アリジリン化合物類、アルミニウムイソプロポキシド等を加えても差し支えない。
【0029】
従って、ビニルエステル樹脂バインダーを構成する各成分の性状は、例えば常温で液状、パウダー、ビーズ、ペレット等特に限定されないが、磁性粉との均一混合性や成形性から考えると混合後に液状になることが望ましい。また、これらの異なる樹脂や異なる分子量、性状の物を1種または2種以上組み合わせて混合することも差し支えない。
【0030】
これらのビニルエステル樹脂を主とする最終混合バインダーの粘度は、JISK7117(液状樹脂の回転粘度計による粘度試験方法)に準じて測定されるが、測定温度は実成形時のシリンダー内温度にあわせた恒温漕内で測定される。そのときの測定値が100〜5000mPa・sであるものを用いるのが望ましいが、中でも300〜3000mPa・sのものが好ましい。この動的粘度が、100mPa・s未満であると射出成形時に磁性粉とバインダーの分離現象が生じるため成形できない。また、5000mPa・s以上であると著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招き成形困難になるため本発明の効果を得ることができない。
【0031】
また、これらのビニルエステル樹脂バインダーの添加量は、各構成成分を含めた状態で、該磁性粉100重量部に対して5重量部以上50重量部未満の割合で添加されるが、好ましくは7以上15重量部以下、さらに、10重量部以上13重量部以下がより好ましい。
【0032】
該化合物の添加量が該磁性粉100重量部に対して3重量部以下の場合は、著しい成形体強度の低下、成形時の流動性の低下を招いて本発明の効果を得ることができない。また、50重量部以上の場合所望の磁気特性が得られない。
【0033】
本発明において、各成分の混合方法は特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して実施される。
【0034】
本発明の組成物は、各成分を混合し、塊状で得られる。得られた組成物は、射出成形機やトランスファー成形機等の各種熱硬化性樹脂用成形機、特に好ましくは射出成形機により成形されるが、射出圧縮成形や射出プレスの機能を付加した成形機で成形しても良い。
【0035】
【実施例】
以下実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、実施例、比較例に用いた各成分の詳細及び試験方法、評価を例示するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、これらに限定されるものでは無い。
【0036】
以下の材料及び方法で樹脂結合型磁石用組成物及び磁石を製造し、評価した。用いた材料を下記に示す。
【0037】
A 磁性粉末
・磁粉1:Sm−Fe−N系磁性粉末(住友金属鉱山(株)製 SmFeN合金粉末)異方性磁場:210kOe、100μm以下粒径含有率99wt%
・磁粉2:Sm−Co系磁性粉末(商品名:RCo5合金、住友金属鉱山(株)製)異方性磁場:246kOe、100μm以下粒径含有率99wt%
・磁粉3:Nd−Fe−B系磁性粉末(商品名:MQP−B、マグネクエンチインターナショナル(株)製)異方性磁場:70kOe、100μm以下粒径含有率62wt%
・磁粉4:Nd−Fe−B系磁性粉末(商品名:MQP−B、マグネクエンチインターナショナル(株)製)異方性磁場:70kOe、100μm以下粒径含有率31wt%
【0038】
B 熱硬化性樹脂および比較例用ナイロン12
・ビニルエステル樹脂(VE樹脂1)
(商品名:エポラックRF−1001H、(株)日本触媒製)
25℃における粘度 220mPa・s
・ビニルエステル樹脂(VE樹脂2)
(商品名:エスターH6650H、三井化学(株)製)
25℃における粘度 600mPa・s
・ナイロン12
(商品名:ダイアミド A−1709P、ダイセル・ヒュルス(株)製)
【0039】
C 硬化剤
・硬化剤1;パーオキシエステル系過酸化物(t−ブチルパーオキシベンゾエート)
(商品名:パーブチルZ、日本油脂(株)製)
10時間の半減期を得るための分解温度104℃
・硬化剤2;ハイドロパーオキサイド系過酸化物
(p−メンタンハイドロパーオキサイド)
(商品名:パーメンタH、日本油脂(株)製)
10時間の半減期を得るための分解温度133℃
・硬化剤3;ハイドロパーオキサイド系過酸化物
(商品名:パークミルH、日本油脂(株)製)
(クメンハイドロパーオキサイド)
10時間の半減期を得るための分解温度158℃
【0040】
次に各成形品の製造方法、評価方法は以下の通り実施した。
【0041】
1.バインダーの粘度調製
各ビニルエステル樹脂の粘度を以下の方法によって調整した。「VE1」は、エバポレーターを用い80℃温浴、減圧雰囲気にてスチレンを揮発減量させて1000mPa・sに増粘し、「VE1’」とした。また、「VE2」は、得られた樹脂にスチレンを適宜追加混合し、25℃の粘度を2000mPa・sに減粘し、「VE2’」とした。
【0042】
2.組成物の混合及び作製
それぞれの磁性粉全量に、所定の熱硬化性樹脂や硬化剤等を所定の比率になるよう添加し(各重量部)、更に添加剤として、磁性粉100重量部に対し0.5重量部のステアリン酸カルシウムを加え、水冷ジャケット付プラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm,30℃)し最終組成物を得た。
【0043】
これらにより得られた混合物を一部の比較例(3,と4)のみ20mmφシングル押出機(L/D=25、CR=2.0、回転数=20rpm、5mmφストランドダイ、シリンダー温度200〜220℃、ダイス温度100℃〜150℃)にて押し出し、ホットカットペレタイザーにてφ5mm×5mmの樹脂結合型磁石用ペレットコンパウンドを作製した。
【0044】
3.射出成形方法
これらのコンパウンドをインラインスクリュー式またはプランジャー式磁場発生装置付射出成形機にて横φ10mm×15mmの円柱試験用樹脂結合型磁石を同一条件(成形温度30〜180℃、金型温度100〜220℃)にて成形し、得られたこれらの磁石成形品を後述の方法にてそれぞれ評価した。尚、SmCo5系とSmFeN系の磁性粉を使用した時のみ15〜20kOeの磁場中金型内にて成形を行った。
【0045】
4.各評価方法
・磁気特性評価
上記射出成形条件にて得られた樹脂結合型磁石試料の磁気特性を、チオフィー型自記磁束計にて常温で測定した。磁気特性のうち保磁力、磁化、角型性、最大磁気エネルギー積、配向度の結果を表1〜表3に示す。尚、配向度はSMM法、即ち、{(成形後の樹脂結合型磁石の磁化)/(磁性粉100%でのVSMにて測定した磁化×成形後の樹脂結合型磁石の磁性粉体積率)×100}で現した。従来の方法での限界値は、表4の通りであった。表4の限界値以上であれば「効果あり」と判断できる。
【0046】
・機械強さ
上記成形条件にて、別途幅5mm×高さ2mm×長さ10mmの試験片を成形し、JIS K7214(プラスチックの打ち抜きによる剪断試験方法)に準じて剪断打ち抜き強さを測定した。その結果を表1〜表3に記した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【表4】
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明の磁性粉末とビニルエステル樹脂とからなる樹脂結合型磁石用組成物を、射出成形法等で製造することにより、磁気特性、形状自由度、機械強さ等に優れた樹脂結合型磁石を提供することができ、一般 家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器にいたる幅広い分野で有用である。
Claims (4)
- 粒径100μm以下の粒子を50重量%以上含み、かつ異方性磁場(HA)が50kOe以上である磁性粉末と、樹脂バインダーとからなる組成物であって、
樹脂バインダーは、ビニルエステル樹脂を主成分とするとともに、150℃以下の温度で硬化可能な過酸化物を含有し、さらに、樹脂バインダーの添加量は、磁性粉末100重量部に対して7〜15重量部であることを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物。 - 樹脂バインダーの主成分であるビニルエステル樹脂が150℃以下において液状であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石用組成物。
- 請求項1又は2に記載の樹脂結合型磁石用組成物を一度硬化させた後、再度粉砕して熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂と再混合したことを特徴とする樹脂結合型磁石用組成物。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂結合型磁石用組成物を、射出成形法によって成形してなる樹脂結合型磁石。
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