JP4096390B2 - 車両の制動制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、補助液圧源をもつX配管構成の液圧回路を有し、各ホイールシリンダに対し自動加圧を行い、両後輪に対しローセレクト制御を行う車両の制動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
補助液圧源をもつX配管構成の液圧回路を有し、各ホイールシリンダに対し自動加圧を行い得る従来技術としては、例えば特開平5−116609号公報に示されるものが知られている。このものは、アンチスキッド制御用の液圧ポンプを用いてトラクション制御を行うものである。
【0003】
具体的には、第1前輪に装着された第1前輪ホイールシリンダと、第2前輪に装着された第2前輪ホイールシリンダと、第1前輪と対角関係にある第1後輪に装着された第1後輪ホイールシリンダと、第2前輪と対角関係にある第2後輪に装着された第2後輪ホイールシリンダと、ブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダとを備えている。マスタシリンダは、第1主液圧路を介して第1前輪ホイールシリンダ及び第1後輪ホイールシリンダに接続されると共に、第2主液圧路を介して第2前輪ホイールシリンダ及び第2後輪ホイールシリンダに接続されている。第1主液圧路には、第1前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1前輪用モジュレータと、第1後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1後輪用モジュレータが、配設されている。また、第2主液圧路には、第2前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2前輪用モジュレータと、第2後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2後輪用モジュレータが、配設されている。
【0004】
第1前輪用モジュレータ及び第1後輪用モジュレータとマスタシリンダの間を結ぶ第1主液圧路には、常開型の第1開閉弁が配設されている。第1前輪用モジュレータ及び第1後輪用モジュレータと第1開閉弁との間には、第1液圧ポンプの吐出側が接続され、第1前輪ホイールシリンダ及び第1後輪ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出するように構成されている。第1液圧ポンプの吸入側は、第1補助液圧路を介してマスタシリンダに接続され、第1補助液圧路には常閉型の第2開閉弁が配設されている。一方、第2前輪用モジュレータ及び第2後輪用モジュレータとマスタシリンダの間を結ぶ第2主液圧路には、常開型の第3開閉弁が配設されている。第2前輪用モジュレータ及び第2後輪用モジュレータと第3開閉弁との間には、第2液圧ポンプの吐出側が接続され、第2前輪ホイールシリンダ及び第2後輪ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出するように構成されている。第2液圧ポンプの吸入側は、第2補助液圧路を介してマスタシリンダに接続され、第2補助液圧路には常閉型の第4開閉弁が配設されている。
【0005】
近時、車両の横すべりを防止する車両横すべり防止装置が注目されている。この横すべり防止制御は、車両の旋回時に車両がオーバーステア傾向になった場合に旋回外側前輪に制動力を与えてオーバーステアを抑制するオーバーステア抑制制御と、車両の旋回時に車両がアンダーステア傾向になった場合に旋回内側後輪及び旋回外側前後輪に制動力を与えてアンダーステアを抑制するアンダーステア抑制制御とに分類される。このような横すべり防止制御は、上記公報に示す液圧回路を用いて行うことができる。即ち、例えばオーバーステア抑制制御の場合、第1及び第2液圧ポンプが駆動されると共に、一方の液圧系統のみの2つの開閉弁が切換えられ(例えば第1開閉弁が閉位置に、第2開閉弁が開位置に夫々切換えられ)、一方の液圧系統内の少なくとも前輪ホイールシリンダに対し、液圧ポンプによりマスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され得る。
【0006】
一方、後輪のアンチスキッド制御時に、例えばスプリット路面走行中の車両の安定性を確保するため、後輪ローセレクト制御を行うことが知られている。この後輪ローセレクト制御は、両後輪の内小さい方の後輪速度に応じて両後輪の制動力を同時制御するもので、上記公報に示す液圧回路を用いて行うことができる。即ち、両後輪の内小さい方の後輪速度に応じて液圧モード(急増圧モード、パルス増圧モード、保持モード、パルス減圧モード、急減圧モード)が設定され、その液圧モードに応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時制御される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
オーバーステア抑制制御時には、前述したように、一方の液圧系統のホイールシリンダのみに対し液圧ポンプの昇圧ブレーキ液が供給可能となり、他方の液圧系統のホイールシリンダには液圧ポンプの昇圧ブレーキ液は供給されない。この状態で、ブレーキペダルが操作されて後輪のアンチスキッド制御が開始し、後輪ローセレクト制御が実行された場合には、自動加圧中の一方の液圧系統の後輪ホイールシリンダの加圧源は液圧ポンプで、自動加圧中でない他方の液圧系統の後輪ホイールシリンダの加圧源はマスタシリンダとなる。つまり、両後輪ホイールシリンダの加圧源が異なるため、両後輪用モジュレータを同時制御しても、両後輪ホイールシリンダの増圧勾配は異なる。その結果、左右後輪間に制動力差が発生し、車両の安定性が損なわれる恐れがある。
【0008】
故に、本発明は、X配管構成の一方の液圧系統のホイールシリンダのみに対し補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ後輪ローセレクト制御が実行されている場合に、両後輪間に制動力差が発生するのを回避することを、その技術的課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するため、請求項1の発明の車両の制動制御装置は、車両の第1前輪に装着し制動力を付与する第1前輪ホイールシリンダと、車両の第2前輪に装着し制動力を付与する第2前輪ホイールシリンダと、前記第1前輪と対角関係にある第1後輪に装着し制動力を付与する第1後輪ホイールシリンダと、前記第2前輪と対角関係にある第2後輪に装着し制動力を付与する第2後輪ホイールシリンダと、ブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生する液圧発生装置と、前記液圧発生装置を前記第1前輪ホイールシリンダ及び前記第1後輪ホイールシリンダに接続する第1液圧路と、前記液圧発生装置を前記第2前輪ホイールシリンダ及び前記第2後輪ホイールシリンダに接続する第2液圧路と、前記第1液圧路に配設され前記第1前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1前輪用モジュレータと、前記第1液圧路に配設され前記第1後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1後輪用モジュレータと、前記第2液圧路に配設され前記第2前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2前輪用モジュレータと、前記第2液圧路に配設され前記第2後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2後輪用モジュレータと、前記各液圧路に加圧ブレーキ液を出力する補助液圧源と、前記各車輪に車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記車輪速度検出手段の検出結果に基づき前記ブレーキペダルの操作時に両後輪の内小さい方の後輪速度に応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御する後輪ローセレクト制御手段と、前記第1液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合に、前記第2液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御する制動制御手段とを備えたものである。
【0010】
請求項1の発明によれば、第1液圧路に対し、補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ両後輪に対しローセレクト制御が実行された場合に、第2液圧路に対して、補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するので後輪ローセレクト制御により両後輪ホイールシリンダの増圧勾配は略同一となる。その結果、左右後輪間に制動力差が発生するのを回避でき、車両の安定性を確保できる。
【0011】
請求項1において、請求項2の発明によれば、前記後輪ローセレクト制御手段は、小さい方の後輪速度に応じて液圧モードを設定し、該液圧モードに応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御し、前記制動制御手段は、前記第1液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合において、前記後輪ローセレクト制御手段により設定された前記液圧モードが増圧モードの時にのみ、前記第2液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御すると、好ましい。
【0012】
上記技術的課題を解決するため、車両の第1前輪に装着し制動力を付与する第1前輪ホイールシリンダと、車両の第2前輪に装着し制動力を付与する第2前輪ホイールシリンダと、前記第1前輪と対角関係にある第1後輪に装着し制動力を付与する第1後輪ホイールシリンダと、前記第2前輪と対角関係にある第2後輪に装着し制動力を付与する第2後輪ホイールシリンダと、ブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダを前記第1前輪ホイールシリンダ及び前記第1後輪ホイールシリンダに接続する第1主液圧路と、前記マスタシリンダを前記第2前輪ホイールシリンダ及び前記第2後輪ホイールシリンダに接続する第2主液圧路と、前記第1主液圧路に配設され前記第1前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1前輪用モジュレータと、前記第1主液圧路に配設され前記第1後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1後輪用モジュレータと、前記第2主液圧路に配設され前記第2前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2前輪用モジュレータと、前記第2主液圧路に配設され前記第2後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2後輪用モジュレータと、前記第1前輪用モジュレータ及び前記第1後輪用モジュレータと前記マスタシリンダの間を結ぶ前記第1主液圧路を開閉する第1開閉弁と、前記第1前輪用モジュレータ及び前記第1後輪用モジュレータと前記第1開閉弁との間に吐出側を接続し、前記第1前輪ホイールシリンダ及び前記第1後輪ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する第1液圧ポンプと、前記第1液圧ポンプの吸入側を前記マスタシリンダに接続する第1補助液圧路と、前記第1補助液圧路を開閉する第2開閉弁と、前記第2前輪用モジュレータ及び前記第2後輪用モジュレータと前記マスタシリンダの間を結ぶ前記第2主液圧路を開閉する第3開閉弁と、前記第2前輪用モジュレータ及び前記第2後輪用モジュレータと前記第3開閉弁との間に吐出側を接続し、前記第2前輪ホイールシリンダ及び前記第2後輪ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する第2液圧ポンプと、前記第2液圧ポンプの吸入側を前記マスタシリンダに接続する第2補助液圧路と、前記第2補助液圧路を開閉する第4開閉弁と、前記各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記車輪速度検出手段の検出結果に基づき前記ブレーキペダルの操作時に両後輪の内小さい方の後輪速度に応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御する後輪ローセレクト制御手段と、前記第1主液圧路に対し、前記第1液圧ポンプにより前記マスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合に、前記第3開閉弁を閉位置とすると共に前記第4開閉弁を開位置に切換え、第2主液圧路に対し、前記第2液圧ポンプにより前記マスタシリンダ内のブレーキ液を昇圧供給する制動制御手段とを備えたものである。
【0013】
請求項3の発明によれば、第1主液圧路に対し、第1液圧ポンプによりマスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され、且つ両後輪に対しローセレクト制御が実行された場合に、第3開閉弁を閉位置とすると共に、第4開閉弁を開位置に切換え、第2主液圧路に対し、第2液圧ポンプによりマスタシリンダ内のブレーキ液を昇圧供給するので、両液圧系統の後輪ホイールシリンダに対し液圧ポンプの加圧ブレーキ液が付与されることから、後輪ローセレクト制御により両後輪ホイールシリンダの増圧勾配は略同一となる。その結果、左右後輪間に制動力差が発生するのを回避でき、車両の安定性を確保できる。
【0014】
請求項3において、請求項4の発明に示すように、前記後輪ローセレクト制御手段は、小さい方の後輪速度に応じて液圧モードを設定し、該液圧モードに応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御し、前記制動制御手段は、前記第1主液圧路に対し、前記第1液圧ポンプにより前記マスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合において、前記後輪ローセレクト制御手段により設定された前記液圧モードが増圧モードの時にのみ、前記第3開閉弁を閉位置とすると共に前記第4開閉弁を開位置に切換えると、好ましい。
【0015】
この構成によれば、第1主液圧路に対し、第1液圧ポンプによりマスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され、且つ両後輪に対しローセレクト制御が実行された場合において、後輪の液圧モードが増圧モード以外の時には、第3開閉弁を開位置、第4開閉弁を閉位置のままとするので、マスタシリンダ液圧を第2液圧ポンプを介することなく第2主液圧路の前輪ホイールシリンダに供給でき、結果、過剰な液圧の上昇を防止することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の車両の運動制御装置の第1の実施形態を示すもので、エンジンEGはスロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを備えた内燃機関で、スロットル制御装置THにおいてはアクセルペダルAPの操作に応じてメインスロットルバルブMTのメインスロットル開度が制御される。また、電子制御装置ECUの出力に応じて、スロットル制御装置THのサブスロットルバルブSTが駆動されサブスロットル開度が制御されると共に、燃料噴射装置FIが駆動され燃料噴射量が制御されるように構成されている。本実施形態のエンジンEGは変速制御装置GS及びディファレンシャルギヤDFを介して車両前方の車輪FL,FRに連結されており、所謂前輪駆動方式が構成されている。
【0018】
次に、制動系については、車輪FL,FR,RL,RRに夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されており、これらのホイールシリンダWfl等にブレーキ液圧制御装置PCが接続されている。尚、車輪FLは運転席からみて前方左側の駆動輪、車輪FRは前方右側の駆動輪を示し、車輪RLは後方左側の従動輪、車輪RRは後方右側の従動輪を示している。ブレーキ液圧制御装置PCは図2に示すように構成されており、これについては後述する。
【0019】
車輪FL,FR,RL,RRには車輪速度センサWSl乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチBS、車両前方の車輪FL,FRの舵角θfを検出する前輪舵角センサSSf、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサYG及び車両のヨーレイトγを検出するヨーレイトセンサYS等が電子制御装置ECUに接続されている。ヨーレイトセンサYSにおいては、車両重心を通る鉛直軸回りの車両回転角(ヨー角)の変化速度、即ちヨー角速度(ヨーレイト)が検出され、実ヨーレイトγとして電子制御装置ECUに出力される。
【0020】
尚、車両後方の車輪RL,RR間に舵角制御装置(図示せず)を設けても良く、これによれば電子制御装置ECUの出力に応じてモータ(図示せず)によって車輪RL,RRの舵角を制御することもできる。
【0021】
本実施形態の電子制御装置ECUは、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM、RAM、入力ポートIPT及び出力ポートOPT等から成るマイクロコンピュータMCPを備えている。上記車輪速度センサWSl乃至WS4、ブレーキスイッチBS、前輪舵角センサSSf、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG等の出力信号は増幅回路AMPを介して夫々入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力ポートOPTからは駆動回路ACTを介してスロットル制御装置TH及びブレーキ液圧制御装置PCに夫々制御信号が出力されるように構成されている。マイクロコンピュータMCPにおいては、メモリROMは図3乃至図7に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。尚、スロットル制御等の各制御毎に、もしくは関連する制御を適宜組合せて複数のマイクロコンピュータを構成し、相互間を電気的に接続しても良い。
【0022】
図2はブレーキ液圧制御装置BCを示すもので、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍力駆動され、マスタリザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL及び車輪FL,RR側の液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるようになっている。つまり、所謂X配管が構成されている。マスタシリンダMCはタンデム型のマスタシリンダで、2つの圧力室が夫々各ブレーキ液圧系統に接続されている。即ち、第1の圧力室MCaは車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統に連通接続され、第2の圧力室MCbは車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に連通接続される。
【0023】
車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、第1の圧力室MCaは主液圧路MF1及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続されている。主液圧路MF1には、常開型の2ポート2位置の電磁開閉弁SC1(所謂カットオフ弁として機能するもので、以下、単に開閉弁SC1という)が配設されている。また、第1の圧力室MCaは補助液圧路MFc1を介して後述する逆止弁CV5,CV6に接続されている。補助液圧路MFcには前述の液圧センサPSが接続されており、マスタシリンダ液圧Pmcが検出される。尚、ブレーキペダルBPの操作状態を検出するセンサとしては、液圧センサPSの代わりに、ブレーキペダルBPのストロークを検出するストロークセンサを用いても良い。
【0024】
分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開型の2ポート2位置の電磁開閉弁PC1及びPC2(以下、単に開閉弁PC1,PC2という)が配設されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が配設されている。逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れのみを許容するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び開閉弁SC1を介してホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいてはマスタシリンダリザーバLRSに戻されるようになっている。従って、ブレーキペダルBPが開放された時に、ホイールシリンダWfr,Wrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、夫々常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁PC5,PC6(以下、単に開閉弁PC5,PC6という)が配設され、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFは補助リザーバRS1に接続されている。
【0025】
補助リザーバRS1には、逆止弁CV6,CV5を介して液圧ポンプHP1の吸入側が接続され、その吐出側は逆止弁CV7及び液圧路MFpを介して開閉弁PC1,PC2の上流側に接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に単一の電動モータMによって駆動され、吸入側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力する。補助リザーバRS1は、マスタシリンダMCのマスタリザーバLRSとは独立して設けられたもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、所定の容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
【0026】
マスタシリンダMCは、補助液圧路MFc1を介して液圧ポンプHP1の吸入側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5は、補助リザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向への流れを許容するものである。また、逆止弁CV6,CV7は、液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。而して、開閉弁SI1は、図2に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸入側との連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸入側が連通するように切り換えられる。
【0027】
また、開閉弁SC1には並列に、リリーフ弁RV1及び逆止弁AV1が配設されている。リリーフ弁RV1は、マスタシリンダMCから開閉弁PC1,PC2方向へのブレーキ液の流れを制限し、開閉弁PC1,PC2側のブレーキ液圧がマスタシリンダ液圧に対し所定の設定圧以上大になった時に、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容するもの(所謂相対圧リリーフ弁)で、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力を越えるのを回避できる。逆止弁AV1は、ホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを許容し、逆方向への流れを禁止するものである。この逆止弁AV1の存在により、開閉弁SC1が閉位置であっても、ブレーキペダルBPが踏み込まれた場合にはホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液圧が増圧される。尚、液圧ポンプHP1の吐出側にダンパDP1が配設され、後輪側のホイールシリンダWrlに至る液圧路にプロポーショニングバルブPV1が介装されている。
【0028】
一方、車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統においても同様に、主液圧路MF2には常開型の電磁開閉弁SC2が、補助液圧路MFc2には常閉型の電磁開閉弁SI2が、配設されている。また、常開型の電磁開閉弁PC3,PC4、常閉型の電磁開閉弁PC7,PC8、逆止弁CV3,CV4,CV8及至CV10、リリーフ弁RV2、逆止弁AV2、リザーバRS2、ダンパDP2及びプロポーショニングバルブPV2も設けられている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動される。
【0029】
上記電動モータM、開閉弁SC1,SC2,SI1,SI2並びに開閉弁PC1及至PC8は、前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、制動操舵制御(オーバーステア抑制制御又はアンダーステア抑制制御)、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御、前後制動力配分制御、トラクション制御等の各種制御が行われる。
【0030】
上記のように構成された本実施形態においては、電子制御装置ECUにより制動操舵制御、ブレーキアシスト制御、アンチスキッド制御等の一連の処理が行なわれ、イグニッションスイッチ(図示せず)が開成されると図3乃至図7等のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。
【0031】
図3は制動制御の作動を示すもので、先ずステップ101にてマイクロコンピュータMCPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号が読み込まれると共に、前輪舵角センサSSfの検出信号(舵角θf)、ヨーレイトセンサYSの検出信号(実ヨーレイトγ)及び横加速度センサYGの検出信号(即ち、実横加速度であり、Gyaで表す)が読み込まれる。
【0032】
続いてステップ103に進み、各車輪の車輪速度Vw** が演算されると共に、各車輪の車輪速度Vw** が微分されて各車輪の車輪加速度DVw** が演算され、フィルター(図示せず)によりノイズが除かれて正規の各車輪の車輪加速度FDVw** が得られる。次いで、ステップ104において、各車輪の車輪速度Vw** に基づき車両の重心位置における推定車体速度(以下重心位置車体速度という)VsoがVso=MAX(Vw** )として演算されると共に、各車輪位置における推定車体速度(以下各輪位置車体速度という)Vso**が求められる。そして、必要に応じ、この各輪位置車体速度Vso**に対し、車両旋回時の内外輪差等に基づく誤差を低減するため正規化が行われる。即ち、正規化車体速度NVso**がNVso**=Vso**(n)−ΔVr**(n)として演算される。ここで、ΔVr**(n)は旋回補正用の補正係数で、例えば以下のように設定される。即ち、補正係数ΔVr**(**は各車輪FR等を表し、特にFWは前二輪、RWは後二輪を表す)は、車両の旋回半径R及びγ・VsoFW(=横加速度Gya) に基づき、基準とする車輪を除き各車輪毎のマップ(図示省略)に従って設定される。例えば、ΔVrFLを基準とすると、これは0とされるが、ΔVrFRは内外輪差マップに従って設定され、ΔVrRLは内々輪差マップに従い、ΔVrRRは外々輪差マップ及び内外輪差マップに従って設定される。更に、車両の重心位置における前後方向の車体加速度(以下重心位置車体加速度という)DVsoが重心位置車体速度Vsoを微分することにより演算される。次いで、ステップ105にて、上記ステップ103及び104で求められた各車輪の車輪速度Vw** と各輪位置推定車体速度Vso**に基づき各車輪の実スリップ率Sa** がSa** =(Vso**−Vw**)/Vso**として求められる。
【0033】
次いで、ステップ106にて重心位置車体加速度DVso及び横加速度センサYGの検出信号の実横加速度Gyaに基づき、路面摩擦係数μが近似的にμ=(DVso2 +Gya2 )1/2 として推定される。尚、この路面摩擦係数μ及び各車輪のホイールシリンダ液圧Pw**の推定値に基づき、各車輪位置の路面摩擦係数μ**も演算しても良い。続いて、ステップ107にて、ヨーレイトセンサYSの検出信号(実ヨーレイトγ)、横加速度センサYGの検出信号(実横加速度Gya)及び重心位置車体速度Vsoに基づき、車体横すべり角速度がDβ=Gya/Vso−γとして求められる。次いで、ステップ108にて車体横すべり角βがβ=∫Dβdtとして求められる。ここで、上記の車体横すべり角βは、車両の進行方向に対する車体のすべりを角度で表したものであり、車体横すべり角速度Dβは車体横すべり角βの微分値dβ/dtである。尚、車体横すべり角βは、進行方向の車速Vx とこれに垂直な横方向の車速Vy の比に基づき、β=tan-1(Vy /Vx )として求めることもできる。
【0034】
次に、ステップ109に進み、制動操舵制御処理を行い、後述するように制動操舵制御に供する目標スリップ率が設定され、後述のステップ118の液圧サーボ制御により、車両の運動状態に応じてブレーキ液圧制御装置PCが制御され、各車輪に対する制動力が制御される。この制動操舵制御は、後述する全ての制御モードにおける制御に対し重畳される。制動操舵制御処理の後ステップ110に進み、アンチスキッド制御開始条件を充足しているか否かが判定され、開始条件を充足し制動操舵時にアンチスキッド制御開始要と判定されると、ステップ111にて制動操舵制御及びアンチスキッド制御の両制御を行なうための制御モードに設定される。
【0035】
ステップ110にてアンチスキッド制御開始条件を充足していないと判定されたときには、ステップ112に進み前後制動力配分制御開始条件を充足しているか否かが判定され、制動操舵制御時に前後制動力配分制御開始と判定されるとステップ113に進み、制動操舵制御及び前後制動力配分制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、充足していなければステップ114に進みトラクション制御開始条件を充足しているか否かが判定される。制動操舵制御時にトラクション制御開始と判定されるとステップ115にて制動操舵制御及びトラクション制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、充足していなければステップ116に進み制動操舵制御開始条件を充足しているか否かが判定される。制動操舵制御開始と判定されるとステップ117にて制動操舵制御モードに設定される。そして、これらの制御モードに基づきステップ118にて液圧サーボ制御が行なわれた後にステップ102に戻る。ステップ116で、制動操舵制御開始と判定されていないときには、ステップ119に進み、全ソレノイドがオフとされる。尚、ステップ111,113,115,117に基づき、必要に応じ、車両の運動状態に応じてスロットル制御装置THのサブスロットル開度が調整されエンジンECの出力が低減され、駆動力が制限される。
【0036】
尚、上記アンチスキッド制御モードにおいては、車両制動時に、車輪のロックを防止するように、各車輪に付与する制動力が制御される。また、前後制動力配分制御モードにおいては、車両の制動時に車両の安定性を維持するように、後輪に付与する制動力の前輪に付与する制動力に対する配分が制御される。そして、トラクション制御モードにおいては、車両駆動時に駆動輪のスリップを防止するように、駆動輪に対し制動力が付与されると共にスロットル制御が行なわれ、これらの制御によって駆動輪に対する駆動力が制御される。
【0037】
次に、図3のステップ109における制動操舵制御処理の詳細を図4を用いて説明する。ここで、制動操舵制御にはオーバーステア(OS)抑制制御及びアンダーステア(US)抑制制御)が含まれ、選択車輪に関しオーバーステア抑制制御及び/又はアンダーステア抑制制御に応じた目標スリップ率が設定される。
【0038】
先ず、ステップ201,202においてオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御の開始終了判定が行われる。
【0039】
ステップ201におけるオーバーステア抑制制御の開始終了判定は、図8の斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行われる。即ち、判定時における車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβの値が制御領域に入ればオーバーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればオーバーステア抑制制御が終了され、図8の矢印の曲線で示したように制御される。そして、制御領域と非制御領域の境界(図8の2点鎖線)から制御領域側に外れるに従って制御量が大となるように各車輪の制動力が制御される。
【0040】
一方、アンダーステア抑制制御の開始・終了判定は、図9の斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行なわれる。即ち、判定時において目標横加速度Gytに対する実横加速度Gyaの変化に応じて、一点鎖線で示す理想状態から外れて制御領域に入ればアンダーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればアンダーステア抑制制御が終了とされ、図9の矢印の曲線で示したように制御される。
【0041】
続いて、ステップ203にてオーバーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、制御中でなければステップ204にてアンダーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、これも制御中でなければそのまま図3のメインルーチンに戻る。ステップ204にてアンダーステア抑制制御中と判定されればステップ205に進み、旋回外側の前輪及び両後輪が選択され、それらの目標スリップ率が夫々アンダーステア抑制制御におけるStufo, Sturo,Sturiに設定される。尚、ここで示したスリップ率(S)の符号については"t" は「目標」を表し、後述の「実測」を表す"a" と対比される。"u" は「アンダーステア抑制制御」を表し、"r" は「後輪」を表し、 "o"は「外側」を、 "i"は「内側」を夫々表す。
【0042】
一方、ステップ203にてオーバーステア抑制制御中と判定されると、ステップ206に進みアンダーステア抑制制御中か否かが判定され、アンダーステア抑制制御中でなければステップ207に進む。ステップ207にて旋回外側の前輪及び両後輪が選択され、それらの目標スリップ率が夫々Stefo, Stero,Steriに設定される。尚、 "e"は「オーバーステア抑制制御」を表す。
【0043】
ステップ206でアンダーステア抑制制御も制御中と判定されると、ステップ208に進み、旋回外側の前輪の目標スリップ率がオーバーステア抑制制御用Stefoに設定され、両後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御用Sturi,Sturoに設定される。即ち、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御が同時に行なわれるときには、旋回外側の前輪はオーバーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定され、後輪は何れもアンダーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定される。
【0044】
尚、何れの場合も旋回内側の前輪(即ち、後輪駆動車における従動輪)は重心位置車体速度Vso設定用のため非制御とされている。
【0045】
上記オーバーステア抑制制御用の目標スリップ率の設定には、車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβが用いられる。即ち、Stefo=K1 ・β+K2 ・Dβ、Sted ro=K3 ・β+K4 ・Dβ、Steri=K5 ・β+K6 ・Dβとして設定される。ここで、K1 乃至K6 は定数で、旋回外側の車輪の目標スリップ率Stefo及びSted roは、加圧方向(制動力を増大する方向)の制御を行なう値に設定され、旋回内側の車輪の目標スリップ率Steriは、減圧方向(制動力を低減する方向)の制御を行なう値に設定される。従って、ブレーキペダルの非操作時には、Steri=0とされる。尚、K3 ≦K1 /5,K4 ≦K2 /5に設定されている。
【0046】
また、アンダーステア抑制制御における目標ステップ率の設定には、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaとの差が用いられる。この目標横加速度GytはGyt=γ(θf)・Vsoに基づいて求められる。ここで、γ(θf)はγ(θf)={(θf/N)・L}・Vso/(1+Kh ・Vso2 )として求められ、Kh はスタビリティファクタ、Nはステアリングギヤレシオ、Lはホイールベースを表す。
【0047】
上記アンダーステア抑制制御に供する目標スリップ率は、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaの偏差ΔGy に基づいて以下のように設定される。即ち、Stufo=K7 ・ΔGyと設定され、定数K7 は加圧方向(もしくは減圧方向)の制御を行なう値に設定される。また、Stud ro及びSturiは夫々K8 ・ΔGy 及びK9 ・ΔGy に設定され、定数K8 ,K9 は何れも加圧方向の制御を行う値に設定される。尚、K8 =K9 ,K7 ≦K9 /2に設定される。
【0048】
次に、図3のステップ118の液圧サーボ制御処理の詳細を図5を用いて説明するが、ここでは各車輪についてホイールシリンダ液圧のスリップ率サーボ制御が行なわれる。
【0049】
先ず、前述のステップ205,207,208にて設定された選択車輪の目標スリップ率St** がステップ301にて読み出される。このフローチャートでは記載を省略したが、アンチスキッド制御中か否かが判定され、そうであれば、目標スリップ率St** にアンチスキッド制御モード用のスリップ率補正量ΔSs** が加算されて目標スリップ率St** が更新される。アンチスキッド制御中でないと判定されると、前後制動力配分制御中か否かが判定され、そうであれば、目標スリップ率St** に前後制動力配分制御モード用のスリップ率補正量ΔSb** が加算されて目標スリップ率St** が更新される。前後制動力配分制御中でないと判定されると、トラクション制御中か否かが判定される。そうであれば、目標スリップ率St** にトラクション制御モード用のスリップ率補正量ΔSr** が加算されて目標スリップ率St** が更新される。
【0050】
そして、ステップ302において選択車輪毎にスリップ率偏差ΔSt** が演算されると共に、ステップ303にて車体加速度偏差ΔDVso**が演算される。具体的には、ステップ302において、選択車輪の目標スリップ率St** と実スリップ率Sa** の差が演算され、スリップ率偏差ΔSt** が求められる(ΔSt** =St** −Sa** )。また、ステップ303において、重心位置車体加速度DVsoと選択車輪における車輪加速度DVw **の差が演算され、車体加速度偏差ΔDVso**が求められる。このときの各車輪の実スリップ率Sa** 及び車体加速度偏差ΔDVso**はアンチスキッド制御、トラクション制御等の制御モードに応じて演算が異なるが、これらについては説明を省略する。
【0051】
続いて、ステップ304に進みスリップ率偏差ΔSt** が所定値Ka と比較され、所定値Ka 以上であればステップ306にてスリップ率偏差ΔSt** の積分値が更新される。即ち、今回のスリップ率偏差ΔSt** にゲインGI** を乗じた値が前回のスリップ率偏差積分値IΔSt** に加算され、今回のスリップ率偏差積分値IΔSt** が求められる。スリップ率偏差|ΔSt** |が所定値Kaを下回るときにはステップ305にてスリップ率偏差積分値IΔSt** はクリア(0)される。次に、ステップ307乃至310において、スリップ率偏差積分値IΔSt** が上限値Kb 以下で下限値Kc 以上の値に制限され、上限値Kb を超えるときはKb に設定され、下限値Kc を下回るときはKc に設定された後、ステップ311に進む。
【0052】
ステップ311においては、各制御モードにおけるブレーキ液圧制御に供する一つのパラメータY**がGs** ・(ΔSt** +IΔSt** )として演算される。ここでGs** はゲインであり、車体横すべり角βに応じて図11の実線で示すように設定される。また、ステップ312において、ブレーキ液圧制御に供する別のパラメーラX**がGd** ・ΔDVso**として演算される。このときのゲインGd** は図11の破線で示すように一定の値である。
【0053】
この後、ステップ313に進み、選択車輪毎に、上記パラメータX**,Y**に基づき、図10に示す制御マップに従って液圧制御モードが設定される。図10においては予め急減圧領域、パルス減圧領域、保持領域、パルス増圧領域及び急増圧領域の各領域が設定されており、ステップ313にてパラメータX**及びY**の値に応じて、何れの領域に該当するかが判定される。尚、非制御状態では液圧制御モードは設定されない(ソレノイドオフ)。
【0054】
ステップ313にて今回判定された領域が、前回判定された領域に対し、増圧から減圧もしくは減圧から増圧に切換わる場合には、ブレーキ液圧の立下りもしくは立上りを円滑にする必要があるので、ステップ314において増減圧補償処理が行なわれる。例えば急減圧モードからパルス増圧モードに切換るときには、急増圧制御が行なわれ、その時間は直前の急減圧モードの持続時間に基づいて決定される。次いで、ステップ315において、後輪のアンチスキッド制御中又は前後制動力配分制御中に旋回中でないと判定された場合、後輪に対しローセレクト制御処理が行われる。ここで、後輪ローセレクト制御とは、後2輪RL,RRの内低速側の後輪の車輪速度(即ち大きい方の後輪のスリップ率)に基づき液圧モードを設定し、その液圧モードに応じて後2輪RL,RRの制動力を同時制御するものである。尚、旋回判定は操舵角σやヨーレートγを用いて行われ、例えばアンチスキッド制御では、車両の旋回時には後輪左右独立制御が実行される。そして、ステップ316にて上記液圧制御モード及び増減圧補償処理に応じて、ブレーキ液圧制御装置PCを構成する各電磁弁のソレノイドが駆動され、各車輪の制動力が制御される。
最後に、図5のステップ316におけるソレノイド駆動処理の詳細について説明する。
【0055】
まずステップ400において、両液圧系統(FR−RL系統とFL−RR系統)共に自動加圧要求有又は自動加圧中か否かが判定される。ここで、自動加圧とは、制動操舵制御やトラクション制御等を意味する。自動加圧要求有又は自動加圧中ならば、ステップ401に進み、液圧制御モードが判定される。液圧制御モードが急増圧モードであると、ステップ402に進み、両系統の開閉弁SI1,SI2がオンとされ開位置とされる。パルス増圧モードであると、ステップ403に進み、両系統の開閉弁SI1,SI2がパルス増圧モードにおける増圧に略同期してオン(開)とされる。具体的には、両系統の開閉弁SI1,SI2がパルス増圧モードにおける増圧出力よりも所定時間先行してオンとされ、増圧出力の終了と共にオフとされる。一方、保持モード、パルス減圧モード及び急減圧モードの場合には、ステップ404に進み、両系統の開閉弁SI1,SI2がオフ(閉)とされる。
【0056】
そして、ステップ405において、開閉弁SC*がオン(閉)とされ、次いでステップ406に進み、モータMがオン(駆動)される。次いで、ステップ407にて、自動加圧(例えば制動操舵制御)における制御対象車輪(選択車輪)か否かが判定され、そうであればステップ408に進み、液圧モードに応じて制御車輪用の制御弁PC*が制御される。非制御対象車輪であると判定されると、ステップ409に進み、その非制御車輪に装着されたホイールシリンダのブレーキ液圧が保持されるように非制御車輪用の制御弁PC*が制御される。
【0057】
一方、ステップ400において、両液圧系統共自動加圧要求有又は自動加圧中と判定されなければ、図7のステップ410に進み、何れか1系統(例えばFR−RR系統)のみ自動加圧要求有又は自動加圧中か否かが判定される。そうであれば、ステップ411に進み、前記1系統の開閉弁SI*(例えば開閉弁SI1)が液圧モードに応じて制御されると共に、開閉弁SC*(例えば開閉弁SC1)がオン(閉)とされる。次いで、ステップ412にて、モータMがオンされる。そして、ステップ413において、後輪ローセレクト制御中か否かが判定される。
【0058】
後輪ローセレクト制御中と判定されると、ステップ414に進み、自動加圧要求無又は自動加圧中でない他系統(例えばFL−RR系統)内の後輪(例えばRR)の液圧モードが判定される。その液圧モードが急増圧モードであると、ステップ415に進み、他系統の開閉弁SI*(例えばSI2)がオン(開)される。また、パルス増圧モードであると、ステップ416に進み、他系統の開閉弁SI*(例えばSI2)がパルス増圧モードにおける増圧に略同期してオン(開)とされる。具体的には、他系統の開閉弁SI*(例えばSI2)がパルス増圧モードにおける増圧出力よりも所定時間先行してオンとされ、増圧出力の終了と共にオフとされる。次いで、ステップ417に進み、急増圧モード及びパルス増圧モードでは、他系統の開閉弁SC*(例えばSC2)がオン(閉)とされ、他系統においても液圧ポンプHP*(例えばHP2)によりマスタシリンダ液圧をホイールシリンダに供給可能となる。そして、ステップ418に進み、液圧ポンプによる他系統の前輪ホイールシリンダ(例えばWfl)の過剰な増圧を防止するため、他系統の前輪ホイールシリンダの液圧を保持するよう制御弁PC*が制御(例えばPC3がオン)され、ステップ421に進む。
【0059】
ステップ414において、他系統の後輪の液圧モードが保持モード、パルス減圧モード及び急減圧モードの場合には、ステップ419に進み、他系統の開閉弁SI*(例えばSI2)がオフ(閉)されると共に、SC*(例えばSC2)がオフ(開)とされる。次いで、ステップ420にて、運転者のブレーキペダル操作量に応じたブレーキ液圧(つまりマスタシリンダ液圧)を他系統の前輪に供給可能にするため、制御弁PC*(例えばPC3、PC7)がオフされた後、ステップ421に進む。尚、ステップ410で1系統のみ自動加圧要求有又は自動加圧中でない(つまり両系統共自動加圧中でない)と判定されると、ステップ421に進む。
【0060】
ステップ421では、各種制御実行中であれば、各車輪の液圧モードに応じて制御弁PC*が制御される。ここで、ステップ418又は420実行後には、他系統の前輪に対してはこのステップが実行されない。また、後輪ローセレクト制御中であれば、図5のステップ315で設定された低速側の後輪の液圧モードに応じて後2輪の制御弁PC*が同時制御される。
【0061】
ここで、1系統のみ自動加圧(つまりポンプ加圧)中に後輪に対しアンチスキッド制御が開始され(又は前後制動力配分制御が開始され)後輪ローセレクト制御が実行された場合、1系統の加圧源は液圧ポンプであるのに対し他系統の加圧源はマスタシリンダMCであり両者は異なる。そのため、後輪ローセレクト制御中に例えばパルス増圧モードが選択されてそのモードに応じて1系統及び他系統の後輪用の制御弁PC2,PC4を同時制御しても、1系統のホイールシリンダWrlの増圧勾配は、他系統のホイールシリンダWrrの増圧勾配と異なる。具体的には、自動加圧中の1系統のホイールシリンダWrlの増圧勾配は、他系統のホイールシリンダWrrの増圧勾配よりも大きくなる。その結果、左右後輪間に制動力差が発生し、車両の安定性が損なわれる恐れがある。
【0062】
これに対し、本実施形態では、前述したように、1系統のみ自動加圧(例えば1系統内の1つのホイールシリンダに対し制動操舵制御が実行)中に後輪ローセレクト制御が実行された場合には、後輪の液圧モードが急増圧モード又はパルス増圧モードであれば、自動加圧中でない他系統の開閉弁SI*を開とし開閉弁SC*を閉とするので、液圧ポンプによりマスタシリンダ液圧が両系統の後輪ホイールシリンダに供給され得る。従って、後輪ローセレクト制御中に両系統の後輪ホイールシリンダWrl,Wrrの増圧勾配が略同一になり、左右後輪間に制動力差が発生するのを回避でき、結果、車両の安定性を維持できる。
【0063】
尚、本実施形態では、液圧ポンプを用いてホイールシリンダを自動加圧する例について説明したが、本発明は、高圧のブレーキ液を蓄圧するアキュムレータを用いてホイールシリンダを自動加圧するものにも適用可能である。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、X配管構成の一方の液圧系統の少なくとも1つのホイールシリンダのみに対し、補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ両後輪に対しローセレクト制御が実行された場合に、他方の液圧系統の少なくとも後輪ホイールシリンダに対しても、補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するので、両液圧系統の後輪ホイールシリンダに対し補助液圧源の加圧ブレーキ液が付与されることから、後輪ローセレクト制御により両後輪ホイールシリンダの増圧勾配は略同一となる。その結果、左右後輪間に制動力差が発生するのを回避でき、車両の安定性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制動制御装置の一実施形態の全体構成図である。
【図2】図1のブレーキ液圧制御装置の一例を示す構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図4】図3の制動操舵制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図3の液圧サーボ制御の詳細を示すフローチャートである。
【図6】図5のソレノイド駆動処理の詳細を示すフローチャートである。
【図7】図5のソレノイド駆動処理の詳細を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態のオーバーステア抑制制御の制御領域を示すグラフである。
【図9】本実施形態のアンダーステア抑制制御の制御領域を示すグラフである。
【図10】本実施形態において、ブレーキ液圧制御に供するパラメータと液圧モードとの関係を示すグラフである。
【図11】本実施形態において、車体横すべり角とパラメータ演算用のゲインとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
FR,FL,RR,RL 車輪
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ
BP ブレーキペダル
MC マスタシリンダ
MF1 主液圧路(第1主液圧路)
MF2 主液圧路(第2主液圧路)
SC1 開閉弁(第1開閉弁)
SC2 開閉弁(第3開閉弁)
HP1 液圧ポンプ(第1液圧ポンプ)
HP2 液圧ポンプ(第2液圧ポンプ)
MFc1 補助液圧路(第1補助液圧路)
MFc2 補助液圧路(第2補助液圧路)
SI1 開閉弁(第2開閉弁)
SI2 開閉弁(第4開閉弁)
PC1〜PC8 開閉弁(モジュレータ)
ECU 電子制御装置

Claims (4)

  1. 車両の第1前輪に装着し制動力を付与する第1前輪ホイールシリンダと、車両の第2前輪に装着し制動力を付与する第2前輪ホイールシリンダと、前記第1前輪と対角関係にある第1後輪に装着し制動力を付与する第1後輪ホイールシリンダと、前記第2前輪と対角関係にある第2後輪に装着し制動力を付与する第2後輪ホイールシリンダと、
    ブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生する液圧発生装置と、
    前記液圧発生装置を前記第1前輪ホイールシリンダ及び前記第1後輪ホイールシリンダに接続する第1液圧路と、前記液圧発生装置を前記第2前輪ホイールシリンダ及び前記第2後輪ホイールシリンダに接続する第2液圧路と、前記第1液圧路に配設され前記第1前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1前輪用モジュレータと、前記第1液圧路に配設され前記第1後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1後輪用モジュレータと、前記第2液圧路に配設され前記第2前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2前輪用モジュレータと、前記第2液圧路に配設され前記第2後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2後輪用モジュレータと、
    前記各液圧路に加圧ブレーキ液を出力する補助液圧源と、
    前記各車輪に車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、
    前記車輪速度検出手段の検出結果に基づき前記ブレーキペダルの操作時に両後輪の内小さい方の後輪速度に応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御する後輪ローセレクト制御手段と、
    前記第1液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合に、前記第2液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御する制動制御手段とを備えた車両の制動制御装置。
  2. 請求項1において、
    前記後輪ローセレクト制御手段は、小さい方の後輪速度に応じて液圧モードを設定し、該液圧モードに応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御し、
    前記制動制御手段は、前記第1液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液が付与され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合において、前記後輪ローセレクト制御手段により設定された前記液圧モードが増圧モードの時にのみ、前記第2液圧路に対し、前記補助液圧源の出力加圧ブレーキ液を付与するように制御する車両の制動制御装置。
  3. 車両の第1前輪に装着し制動力を付与する第1前輪ホイールシリンダと、車両の第2前輪に装着し制動力を付与する第2前輪ホイールシリンダと、前記第1前輪と対角関係にある第1後輪に装着し制動力を付与する第1後輪ホイールシリンダと、前記第2前輪と対角関係にある第2後輪に装着し制動力を付与する第2後輪ホイールシリンダと、
    ブレーキペダルの操作に応じて液圧を発生するマスタシリンダと、
    前記マスタシリンダを前記第1前輪ホイールシリンダ及び前記第1後輪ホイールシリンダに接続する第1主液圧路と、前記マスタシリンダを前記第2前輪ホイールシリンダ及び前記第2後輪ホイールシリンダに接続する第2主液圧路と、
    前記第1主液圧路に配設され前記第1前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1前輪用モジュレータと、前記第1主液圧路に配設され前記第1後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第1後輪用モジュレータと、前記第2主液圧路に配設され前記第2前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2前輪用モジュレータと、前記第2主液圧路に配設され前記第2後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御する第2後輪用モジュレータと、
    前記第1前輪用モジュレータ及び前記第1後輪用モジュレータと前記マスタシリンダの間を結ぶ前記第1主液圧路を開閉する第1開閉弁と、
    前記第1前輪用モジュレータ及び前記第1後輪用モジュレータと前記第1開閉弁との間に吐出側を接続し、前記第1前輪ホイールシリンダ及び前記第1後輪ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する第1液圧ポンプと、
    前記第1液圧ポンプの吸入側を前記マスタシリンダに接続する第1補助液圧路と、
    前記第1補助液圧路を開閉する第2開閉弁と、
    前記第2前輪用モジュレータ及び前記第2後輪用モジュレータと前記マスタシリンダの間を結ぶ前記第2主液圧路を開閉する第3開閉弁と、
    前記第2前輪用モジュレータ及び前記第2後輪用モジュレータと前記第3開閉弁との間に吐出側を接続し、前記第2前輪ホイールシリンダ及び前記第2後輪ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する第2液圧ポンプと、
    前記第2液圧ポンプの吸入側を前記マスタシリンダに接続する第2補助液圧路と、
    前記第2補助液圧路を開閉する第4開閉弁と、
    前記各車輪の車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、
    前記車輪速度検出手段の検出結果に基づき前記ブレーキペダルの操作時に両後輪の内小さい方の後輪速度に応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御する後輪ローセレクト制御手段と、
    前記第1主液圧路に対し、前記第1液圧ポンプにより前記マスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合に、前記第3開閉弁を閉位置とすると共に前記第4開閉弁を開位置に切換え、前記第2主液圧路に対し、前記第2液圧ポンプにより前記マスタシリンダ内のブレーキ液を昇圧供給する制動制御手段とを備えた車両の制動制御装置。
  4. 請求項3において、
    前記後輪ローセレクト制御手段は、小さい方の後輪速度に応じて液圧モードを設定し、該液圧モードに応じて前記第1及び第2後輪用モジュレータを同時に制御し、
    前記制動制御手段は、前記第1主液圧路に対し、前記第1液圧ポンプにより前記マスタシリンダ内のブレーキ液が昇圧供給され、且つ両後輪に対し前記後輪ローセレクト制御手段によるローセレクト制御が実行された場合において、前記後輪ローセレクト制御手段により設定された前記液圧モードが増圧モードの時にのみ、前記第3開閉弁を閉位置とすると共に前記第4開閉弁を開位置に切換える車両の制動制御装置。
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