JP3772422B2 - 車両の運動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の旋回時等において、ブレーキペダルの操作とは無関係に各車輪に対して制動力を付与することにより、車両の運動状態を安定させる車両の運動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、車両の運動特性、特に旋回特性を制御する手段として、制動力の左右差制御により旋回モーメント(ヨーモーメント)を直接制御する手段が注目され、実用化されつつある。例えば、特開平2ー70561号公報には、車両の横力の影響を補償する制動制御手段により車両の安定性を維持する運動制御装置が提案されている。同装置においては、実ヨーレートと目標ヨーレートの比較結果に応じて制動制御手段により車両に対する制動力を制御するように構成されており、例えばコーナーリング時の車両の運動に対しても確実に安定性を維持することができる。
【0003】
一般的に、操舵特性を表す語としてオーバーステアあるいはアンダーステアという語が用いられるが、前者が過大となると、車両の旋回中に後輪の横すべりが大となって車両が所望の旋回半径の内側にはみ出す状態となる。この状態を過度のオーバーステアと呼び、前輪のコーナーリングフォースCFfが後輪のコーナーリングフォースCFrよりも極端に大きく(CFf≫CFr)なったときに生じる。車両VLが旋回半径Rのカーブを旋回するときに必要な横加速度Gyは、車両の速度をVとするとGy=V2 /Rとして求められ、これに車両VLの質量mを乗じた値m・Gyが、旋回半径Rを旋回するときに必要なコーナーリングフォースの合計CF0 となる(CF0 =ΣCF=m・Gy)。従って、旋回半径Rのカーブを旋回するのに必要なコーナーリングフォースの合計CF0 より前輪及び後輪のコーナーリングフォースCFf,CFrの和の方が大となり(CF0 <CFf+CFr)、且つ前輪のコーナーリングフォースCFfが後輪のコーナーリングフォースCFrより極端に大きくなると(CFf≫CFr)、車両VLの旋回半径が小さくなり、車両VLはカーブの内側に回り込み、図13に示す状態となる。
【0004】
また、アンダーステアが過大になると、車両の旋回中に生じる前輪の横すべりが大となり、車両が所望の旋回半径から外側にはみ出す状態となる。これを過度のアンダーステアと呼び、後輪のコーナーリングフォースCFrが前輪のコーナーリングフォースCFfより僅かに大きい場合(CFf<CFr)、あるいは前輪と後輪のコーナーリングフォースCFf,CFrが略釣り合っており且つ、旋回半径Rのカーブを旋回するのに必要なコーナーリングフォースの合計CF0 より前輪及び後輪のコーナーリングフォースCFf,CFrの和の方が小さくなると(CF0 >CFf+CFr)、車両VLの旋回半径が大きくなり、車両VLはカーブの外側にはみ出し、図14に示す状態となる。
【0005】
上記過度のオーバーステアは、例えば車体横すべり角(β)及び車体横すべり角速度(Dβ)に基づいて判定される。車両が旋回中において、過度のオーバーステアと判定されたときには、例えば旋回外側の前輪に制動力が付与され、車両に対し外向きのヨーモーメント、即ち車両を旋回外側に向けるヨーモーメントが生ずるように制御される。これをオーバーステア抑制制御と呼び、安定性制御とも呼ばれる。
【0006】
一方、過度のアンダーステアは、例えば目標横加速度と実横加速度の差、もしくは目標ヨーレートと実ヨーレートの差に基づいて判定される。そして、上記車両VLが旋回中に過度のアンダーステアと判定されたときには、例えば後輪駆動車の場合、旋回外側の前輪及び後2輪に制動力が付与され、車両に対し内向きのヨーモーメント、即ち車両を旋回内側に向けるヨーモーメントが生じるように制御される。これをアンダーステア抑制制御と呼び、コーストレース性制御とも呼ばれる。そして、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御は、制動操舵制御と総称される。
【0007】
上記のような運動制御装置を備えた車両において、制動操舵制御中に更に車両を減速させるために運転者がブレーキ操作を行う場合があり、その場合の対策案が望まれる。これを記載した文献としては、例えば特開平7ー89426号公報がある。
【0008】
この公報には、制動操舵制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合に制動操舵制御を続行させることが開示されている。具体的には、この公報に開示されたものは、推定車体速度の演算を行うために、車両の4つの車輪の内1つの従動車輪を制動操舵制御の制御対象から除外して非制御車輪とし、制動操舵制御中にブレーキが操作され非制御車輪に制動力が付与された時の実スリップ率を演算し、その値を制御車輪の目標スリップ率に加算し、その加算した目標スリップ率に制御車輪の実スリップ率を近づけるようにフィードバック制御を行うものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このものでは、制動操舵制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合に制動操舵制御を続行し、運転者のブレーキ操作量に相当する分だけ加算した制御車輪の目標スリップ率に制御車輪の実スリップ率を近づけるようにフィードバック制御を行うので、制動操舵制御中に運転者がブレーキ操作を行ってから制御車輪の制動力が運転者のブレーキ操作量に相当する分だけ加算した制動力まで至までにはかなりの時間遅れが生じ、結果、運転者に減速不足感を与えることとなる。
【0010】
故に、本発明は、制動操舵制御(運動制御)中に運転者がブレーキ操作を行った場合に、減速応答性を向上させることを、その技術的課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するため、請求項1の発明の車両の運動制御装置は、図1の実線で示すように、車両の前方及び後方の車輪に対し少なくともブレーキペダルの操作に応じて制動力を付与するブレーキ液圧制御装置と、前記車両の運動状態を判定する車両状態判定手段と、前記車両状態判定手段の判定結果に基づき前記ブレーキ液圧制御装置を前記ブレーキペダルの操作とは無関係に制御し、前記車両状態判定手段が前記車両の運動状態が過度のオーバーステア及び過度のアンダーステアの内の少なくとも一方の不安定状態になったと判定した時に、前記車両の運動状態を安定側に修正するために少なくとも1つの車輪に制動力を付与する運動制御手段とを備えた車両の運動制御装置において、前記車両の各車輪に作用する制動力を検出する車輪制動力検出手段と、前記運動制御手段による制御中に前記運動制御手段の制御対象でない非制御車輪の制動力が制御対象である制御車輪の制動力を越えた時に、前記運動制御手段による制御車輪の制御を禁止する運動制御禁止手段とを備えたものである。
【0012】
請求項1によれば、運動制御中に非制御車輪の制動力が制御車輪の制動力を越えた時に、運動制御手段による制御車輪の制御を禁止するので、非制御車輪の制動力が制御車輪の制動力を越えた後、即座に制御車輪に運転者のブレーキ操作量に相当する制動力を付与できる。結果、運動制御中に運転者がブレーキ操作を行ってから制御車輪の制動力が運転者のブレーキ操作量に相当する制動力に至るまでに生じる時間遅れを低減でき、運動制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合における減速応答性が向上する。
【0013】
また、非制御車輪の制動力が制御車輪の制動力よりも小さい時には制御車輪に対し運動制御を続行するので、ブレーキ操作量が小さい時には運動制御を優先させ、車両の安定性を極力確保できる。
【0014】
請求項1において、請求項2及び図1の点線で示すように、前記運動制御手段を、前記車両状態判定手段が前記車両の運動状態が不安定状態と判定した時に、車両のヨーモーメントを安定方向に修正するために全車輪の内第1の車輪に制動力を付与する回頭制御手段と、車両を減速させるために全車輪の内前記第1の車輪を除く第2の車輪に制動力を付与する減速制御手段とから構成し、前記運動制御禁止手段を、前記運動制御手段による制御中に前記非制御車輪の制動力が前記制御車輪の制動力を越えた時に、前記減速制御手段による前記第2の車輪の制御のみを禁止する減速制御禁止手段から構成すると、好ましい。
【0015】
請求項2によれば、運動制御中に非制御車輪の制動力が減速制御の対象である第2の車輪の制動力を越えた時に、減速制御手段による減速制御のみを禁止するので、運動制御中に非制御車輪の制動力が減速制御対象である第2の車輪の制動力を越えた後でも、前記回頭制御が続行され、車両の安定性を確保できる。
【0016】
また、減速制御車輪には、常に減速制御に基づく制動力とブレーキ操作に基づく制動力の内の大きい方が付与されるため、車両の減速性は良好なものとなる。
請求項2において、請求項3及び図1の点線で示すように、前記各車輪の速度を検出する車輪速度センサを更に備え、前記車輪制動力検出手段を、前記車輪速度センサにより検出された各車輪の速度に基づき各車輪の減速度を演算する車輪減速度演算手段から構成し、減速制御禁止手段は、前記運動制御手段による制御中に前記非制御車輪の減速度が前記制御車輪の減速度を越えた時に、前記減速制御手段による前記第2の車輪の制御を禁止すると、好ましい。
【0017】
ここで、車輪の減速度は、車輪に作用する制動力に略一致し、それが大きければ車輪の制動力が大きくなる。
【0018】
請求項3によれば、車輪速度センサの検出結果から演算された車輪減速度に基づき、減速制御手段による制御を禁止するので、マスタシリンダ圧センサやホイールシリンダ圧センサ等の高価な圧力センサを使用することなく、運動制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合において減速応答性を向上させることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図2は本発明の運動制御装置の一実施形態を示すもので、エンジンEGはスロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを備えた内燃機関で、スロットル制御装置THにおいてはアクセルペダルAPの操作に応じてメインスロットルバルブMTのメインスロットル開度が制御される。また、電子制御装置ECUの出力に応じて、スロットル制御装置THのサブスロットルバルブSTが駆動されサブスロットル開度が制御されると共に、燃料噴射装置FIが駆動され燃料噴射量が制御されるように構成されている。本実施形態のエンジンEGは変速制御装置GS及びディファレンシャルギヤDFを介して車両後方の車輪DL,DRに連結されており、所謂後輪駆動方式が構成されているが、本発明における駆動方式をこれに限定するものではない。
【0025】
次に、制動系については、車輪NL,NR,DL,DRに夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されており、これらのホイールシリンダWfl等にブレーキ液圧制御装置PCが接続されている。尚、車輪NLは運転席からみて前方左側の従動輪、車輪NRは前方右側の従動輪を示し、車輪DLは後方左側の駆動側、車輪DRは後方右側の駆動輪を示している。ブレーキ液圧制御装置PCは図3に示すように構成されており、これについては後述する。
【0026】
車輪NL,NR,DL,DRには車輪速度センサWSl乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチBS、車両前方の車輪NL,NRの舵角θfを検出する前輪舵角センサSSf、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサYG及び車両ヨーレイトγを検出するヨーレイトセンサYS等が電子制御装置ECUに接続されている。ヨーレイトセンサYSにおいては、車両重心を通る鉛直軸回りの車両回転角(ヨー角)の変化速度、即ちヨー角速度(ヨーレイト)が検出され、実ヨーレイトγとして電子制御装置ECUに出力される。
【0027】
尚、従動輪側の左右の車輪NL,NRの車輪速度差Vfd(=Vwfr −Vwf1 )に基づき実ヨーレイトγを推定することができるので、車輪速度センサWSl及びWS2の検出出力を利用することとすればヨーレイトセンサYSを省略することができる。更に、車両後方の車輪DL,DR間に舵角制御装置(図示せず)を設けることとしてもよく、これによれば電子制御装置ECUの出力に応じてモータ(図示せず)によって車輪DL,DRの舵角を制御することもできる。
【0028】
本実施形態の電子制御装置ECUは、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM、RAM、入力ポートIPT及び出力ポートOPT等から成るマイクロコンピュータMCPを備えている。上記車輪速度センサWSl乃至WS4、ブレーキスイッチBS、前輪舵角センサSSf、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG等の出力信号は増幅回路AMPを介して夫々入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力ポートOPTからは駆動回路ACTを介してスロットル制御装置TH及びブレーキ液圧制御装置PCに夫々制御信号が出力されるように構成されている。マイクロコンピュータMCPにおいては、メモリROMは図4乃至図8に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。尚、スロットル制御等の各制御毎に、もしくは関連する制御を適宜組合せて複数のマイクロコンピュータを構成し、相互間を電気的に接続することとしてもよい。
【0029】
図3は本実施形態におけるブレーキ液圧制御装置PCを示すもので、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍力駆動され、マスタリザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて前輪側及び後輪側の液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるようになっている。マスタシリンダMCはタンデム型のマスタシリンダで、2つの圧力室が夫々各ブレーキ液圧系統に接続されている。即ち、第1の圧力室MCaは前輪側のブレーキ液圧系統に連通接続され、第2の圧力室MCbは後輪側のブレーキ液圧系統に連通接続される。
【0030】
一対のホイールシリンダWfr,Wfl側の前輪側のブレーキ液圧系統においては、第1の圧力室MCaは主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wflに接続されている。主液圧路MFには、3ポート2位置電磁切換弁(以下、単に切換弁という)STFが配設されている。分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC1及びPC2(以下、単に開閉弁PC1,PC2という)が配設されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が配設されている。
【0031】
逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れのみを許容するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び第1の位置(図示状態)の切換弁STFを介してホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液がマスタシリンダMCに戻されるようになっている。従って、ブレーキペダルBPが開放された時に、ホイールシリンダWfr,Wfl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wflに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、夫々常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁PC5,PC6(以下、単に開閉弁PC5,PC6という)が配設され、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFは補助リザーバRSFに接続されている。
【0032】
補助リザーバRSFには、逆止弁CV9,CV5を介して液圧ポンプHP1の吸入側が接続され、その吐出側は逆止弁CV6及び液圧路MFpを介して開閉弁PC1,PC2の上流側に接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に単一の電動モータMによって駆動され、吸入側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力する。補助リザーバRSFは、マスタシリンダMCのマスタリザーバLRSとは独立して設けられたもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、所定の容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
【0033】
そして、切換弁STFの3つのポートの内第1ポートはマスタシリンダMCに接続され、第2ポートは開閉弁PC1,PC2に接続され、第3ポートは液圧路MFcを介して、液圧ポンプHP1の吸入側の逆止弁CV5と逆止弁CV9との間に連通接続されている。従って、切換弁STFは、図2に示す常態の第1の位置で第1ポートと第2ポートが連通して(第3ポートは遮断)マスタシリンダMCと開閉弁PC1,PC2が連通し、第2の位置で第1ポートと第3ポートが連通して(第2ポートは遮断)マスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸入側が連通するように切り換えられる。また、切換弁STFには並列にリリーフ弁RVFが配設されている。このリリーフ弁RVFは、液圧ポンプHP1から吐出される加圧ブレーキ液が所定の圧力以上になった時に、マスタシリンダMCを介してマスタリザーバLRSにブレーキ液を還流するもので、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力に調圧される。
【0034】
マスタシリンダMCの第1圧力室MCaは、更にバイパス液圧路AM,AMr,AMlを介してホイールシリンダWfr,Wflに接続されている。これらの液圧路AMr,AMlには、常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁(以下、開閉弁という)SB1,SB2と、ホイールシリンダWfr,Wfl方向へのブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁AV1,AV2が配設されている。
【0035】
一方、後輪側のブレーキ液圧系統も、基本的には前輪側のそれと同様であるが、下記の点で異なる。即ち、切換弁STR及びリリーフ弁RVRと並列にホイールシリンダWrr,Wrl方向へのブレーキ液の流れのみを許容する逆止弁AV3が配設されている。
【0036】
上記電動モータM、切換弁STF,STR、開閉弁SB1〜SB4並びに開閉弁PC1及至PC8は前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、制動操舵制御を始めとする各種制御が行われる。例えば制動操舵制御時には、マスタシリンダMCからはブレーキ液圧が出力されないので、電動モータMが駆動されて液圧ポンプHP1,HP2が駆動されると共に、切換弁STF,STRが第2の位置とされ、液圧ポンプの吸入側をマスタシリンダMCに連通接続する。これにより、液圧ポンプによりマスタシリンダMCからブレーキ液が吸入昇圧され、それが開閉弁PC1及至PC4を介してホイールシリンダWFr等に供給される。そして、開閉弁PC1及至PC8が適宜開閉駆動されることによって、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が急増圧、パルス増圧(緩増圧)、パルス減圧(緩減圧)、急減圧及び保持状態とされ、オーバーステア抑制制御及び/又はアンダーステア抑制制御が行われる。ここで、上記制動操舵制御中には、非制御車輪に対応する開閉弁(例えばSB2)のみが開作動される。
【0037】
上記のように構成された本実施形態においては、電子制御装置ECUにより制動操舵制御、アンチスキッド制御、トラクション制御等の一連の処理が行なわれ、イグニッションスイッチ(図示せず)が開成されると図4乃至図8等のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。
【0038】
図4は制動操舵制御の作動を示すもので、先ずステップ101にてマイクロコンピュータMCPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号が読み込まれると共に、前輪舵角センサSSfの検出信号(舵角θf)、ヨーレイトセンサYSの検出信号(実ヨーレイトγ)及び横加速度センサYGの検出信号(即ち、実横加速度であり、Gyaで表す)が読み込まれる。
【0039】
続いてステップ103に進み、各車輪の車輪速度Vw** が演算され、ステップ104にて各車輪の車輪速度Vw** が微分されて各車輪の車輪加速度DVw** が演算され、フィルター(図示せず)によりノイズが除かれて正規の各車輪の車輪加速度FDVw** が得られる。次いで、ステップ105において、各車輪の車輪速度Vw** に基づき車両の重心位置における推定車体速度(以下重心位置車体速度という)VsoがVso=MAX(Vw** )として演算されると共に、各車輪位置における推定車体速度(以下各輪位置車体速度という)Vso**が求められる。更に、必要に応じ、この各輪位置車体速度Vso**に対し、車両旋回時の内外輪差等に基づく誤差を低減するため正規化が行われる。即ち、正規化車体速度NVso**がNVso**=Vso**(n)−ΔVr**(n)として演算される。ここで、ΔVr**(n)は旋回補正用の補正係数で、例えば以下のように設定される。即ち、補正係数ΔVr**(**は各車輪FR等を表し、特にFWは前二輪、RWは後二輪を表す)は、車両の旋回半径R及びγ・VsoFW(=横加速度Gya) に基づき、基準とする車輪を除き各車輪毎のマップ(図示省略)に従って設定される。例えば、ΔVrFLを基準とすると、これは0とされるが、ΔVrFRは内外輪差マップに従って設定され、ΔVrRLは内々輪差マップに従い、ΔVrRRは外々輪差マップ及び内外輪差マップに従って設定される。
【0040】
そして、ステップ106において、車両の重心位置における前後方向の車体加速度(以下重心位置車体加速度という)DVsoが重心位置車体速度Vsoを微分することにより演算されると共に、車両の各車輪位置における前後方向の車体加速度(以下各輪位置車体加速度という)DVso**が正規化各輪位置車体速度NVso**を微分することにより演算される。次いで、ステップ107にて、上記ステップ103及び105で求められた各車輪の車輪速度Vw** と重心位置推定車体速度Vso(あるいは、正規化された各輪位置推定車体速度NVso**)に基づき各車輪の実スリップ率Sa** がSa** =(Vso−Vw**)/Vsoとして求められる。次いで、ステップ108にて重心位置車体加速度DVso及び横加速度センサYGの検出信号の実横加速度Gyaに基づき、路面摩擦係数μが近似的にμ=(DVso2 +Gya2 )1/2 として推定される。尚、この路面摩擦係数μ及び各車輪のホイールシリンダ液圧Pw**の推定値に基づき、各車輪位置の路面摩擦係数μ**も演算しても良い。
【0041】
続いて、ステップ109にて、車体横すべり角速度がDβ=Gy/Vso−γとして求められる。尚、Gyは車両の横加速度、Gy/Vsoは理論上のヨーレート、γは実ヨーレイトを表す。次いで、ステップ110にて車体横すべり角βがβ=∫Dβdtとして求められる。ここで、上記の車体横すべり角βは、車両の進行方向に対する車体のすべりを角度で表したものであり、車体横すべり角速度Dβは車体横すべり角βの微分値dβ/dtである。尚、車体横すべり角βは、進行方向の車速Vx とこれに垂直な横方向の車速Vyの比に基づき、β=tan-1(Vy/Vx)として求めることもできる。
【0042】
次に、図5のステップ111に進み制動操舵制御処理を行い、後述するように制動操舵制御に供する目標スリップ率が設定され、次いで、後述のステップ119の液圧サーボ制御により、車両の運動状態に応じてブレーキ液圧制御装置PCが制御され各車輪に対する制動力が制御される。この制動操舵制御は、後述する全ての制御モードにおける制御に対し重畳される。この後ステップ112に進み、アンチスキッド制御開始条件を充足しているか否かが判定され、開始条件を充足し制動操舵時にアンチスキッド制御開始要と判定されると、ステップ113にて制動操舵制御及びアンチスキッド制御の両制御を行なうための制御モードに設定される。
【0043】
ステップ112にてアンチスキッド制御開始条件を充足していないと判定されたときには、ステップ114に進み前後制動力配分制御開始条件を充足しているか否かが判定され、制動操舵制御時に前後制動力配分制御開始と判定されるとステップ115に進み、制動操舵制御及び前後制動力配分制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、充足していなければステップ116に進みトラクション制御開始条件を充足しているか否かが判定される。制動操舵制御時にトラクション制御開始と判定されるとステップ117にて制動操舵制御及びトラクション制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、制動操舵制御時に何れの制御も開始と判定されていないときには、ステップ118にて制動操舵制御のみを行なう制御モードに設定される。そして、これらの制御モードに基づきステップ119にて液圧サーボ制御が行なわれた後にステップ102に戻る。尚、ステップ113,115,117,118に基づき、必要に応じ、車両の運動状態に応じてスロットル制御装置THのサブスロットル開度が調整されエンジンECの出力が低減され、駆動力が制限される。
【0044】
尚、上記アンチスキッド制御モードにおいては、車両制動時に、車輪のロックを防止するように、各車輪に付与する制動力が制御される。また、前後制動力配分制御モードにおいては、車両の制動時に車両の安定性を維持するように、後輪に付与する制動力の前輪に付与する制動力に対する配分が制御される。そして、トラクション制御モードにおいては、車両駆動時に駆動輪のスリップを防止するように、駆動輪に対し制動力が付与されると共にスロットル制御が行なわれ、これらの制御によって駆動輪に対する駆動力が制御される。
【0045】
次に、図4のステップ111における制動操舵制御処理の詳細を図6を用いて説明する。ここで、制動操舵制御にはオーバーステア抑制制御(OS抑制制御)及びアンダーステア抑制制御(US抑制制御)が含まれ、各車輪に関しオーバーステア抑制制御及び/又はアンダーステア抑制制御に応じた目標スリップ率が設定される。オーバーステア抑制制御としては、車両のヨーモーメントを旋回外方向に修正するために旋回外側の前輪及び旋回内側の後輪の制動力を制御しそれを制御する回頭制御と、車両を減速させるために旋回外側の後輪に制動力を付与しそれを制御する減速制御とがある。また、同様に、アンダーステア抑制制御にも、車両のヨーモーメントを旋回内方向に修正するために旋回内側の後輪に制動力を付与しそれを制御する回頭制御と、車両を減速させるために旋回外側の前輪及び後輪に制動力を付与しそれを制御する減速制御とがある。
【0046】
先ず、ステップ201にて後述するように上記の減速制御の許可判別が行われる。次いで、ステップ201,202においてオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御の開始終了判定が行われる。
【0047】
ステップ202におけるオーバーステア抑制制御の開始終了判定は、図9の斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行われる。即ち、判定時における車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβの値に応じて制御領域に入ればオーバーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればオーバーステア抑制制御が終了され、図9の矢印の曲線で示したように制御される。そして、後述するように、制御領域と非制御領域の境界(図9の2点鎖線)から制御領域側に外れるに従って制御量が大となるように各車輪の制動力が制御される。
【0048】
一方、アンダーステア抑制制御の開始・終了判定は、図10に斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行なわれる。即ち、判定時において目標横加速度Gytに対する実横加速度Gyaの変化に応じて、一点鎖線で示す理想状態から外れて制御領域に入ればアンダーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればアンダーステア抑制制御が終了とされ、図10の矢印の曲線で示したように制御される。
【0049】
続いて、ステップ204にてオーバーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、制御中でなければステップ205にてアンダーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、これも制御中でなければそのまま図5のメインルーチンに戻る。ステップ205にてアンダーステア抑制制御と判定されたときにはステップ206に進み、減速制御許可フラグがONか否かが判定される。ここで、減速制御許可フラグはステップ201で設定される。減速制御許可フラグがONであれば、ステップ207で旋回外側の前輪及び後輪の目標スリップ率が夫々アンダーステア抑制制御における減速制御用Stud fo,Stud roに設定され、旋回内側の後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御における回頭制御用Sturiに設定される。尚、ここで示したスリップ率(S)の符号については"t" は「目標」を表し、後述の「実測」を表す"a" と対比される。"u" は「アンダーステア抑制制御(の回頭制御)」を表し、"ud " は「アンダーステア抑制制御の減速制御」を表し、"r" は「後輪」を表し、 "o"は「外側」を、 "i"は「内側」を夫々表す。
【0050】
ステップ206で減速制御許可フラグがOFFであれば、ステップ208に進み、旋回内側の後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御における回頭制御用Sturiに設定される。つまり、旋回外側の前輪及び後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御における減速制御用に設定されず、後述のステップ415で示すように、旋回外側の前輪及び後輪は非制御とされ、結果、これらの車輪には運転者のブレーキ操作に基づく制動力が付与される。
【0051】
一方、ステップ204にてオーバーステア抑制制御中と判定されると、ステップ209に進みアンダーステア抑制制御中か否かが判定され、アンダーステア抑制制御中でなければステップ210に進む。ステップ210にて減速制御フラグがONか否かが判定され、そうであればステップ211に進み、旋回外側の前輪及び旋回内側の後輪の目標スリップ率が夫々オーバーステア抑制制御の回頭制御用Stefo,Steriに設定され、旋回外側の後輪の目標スリップ率がオーバーステア抑制制御の減速制御用Sted roに設定される。尚、 "e"は「オーバーステア抑制制御(の回頭制御)」を表し、 " ed " は「オーバーステア抑制制御の減速制御」を表す。
【0052】
ステップ210で減速制御許可フラグがOFFであれば、ステップ212に進み、旋回外側の前輪及び旋回内側の後輪の目標スリップ率がオーバーステア抑制制御における回頭制御用Stefo,Steriに設定される。つまり、旋回外側の後輪の目標スリップ率がオーバーステア抑制制御における減速制御用に設定されず、後述のステップ415で示すように、旋回外側の後輪は非制御とされ、結果、これらの車輪には運転者のブレーキ操作に基づく制動力が付与される。
【0053】
一方、ステップ209でアンダーステア抑制制御も制御中と判定されると、ステップ213にて減速制御許可フラグがONか否かが判定され、そうであればステップ214に進む。ステップ214で旋回外側の前輪の目標スリップ率がオーバーステア抑制制御の回頭制御用Stefoに設定され、旋回外側の後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御の減速制御用Stud roに設定され、旋回内側の後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御の回頭制御用Sturiに設定される。即ち、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御が同時に行なわれるときには、旋回外側の前輪はオーバーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定され、後輪は何れもアンダーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定される。
【0054】
ステップ213で減速制御許可フラグがOFFであれば、ステップ215に進み、旋回外側の前輪の目標スリップ率がオーバーステア抑制制御の回頭制御用Stefoに設定され、旋回内側の後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御の回頭制御用Sturiに設定される。つまり、旋回外側の後輪の目標スリップ率がアンダーステア抑制制御の減速制御用に設定されず、旋回外側の後輪は非制御とされ、結果、これらの車輪には運転者のブレーキ操作に基づく制動力が付与される。
【0055】
尚、何れの場合も旋回内側の前輪(即ち、後輪駆動車における従動輪)は推定車体速度設定用のため非制御とされている。
【0056】
上記オーバーステア抑制制御用の目標スリップ率の設定には、車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβが用いられる。回頭制御に供する旋回外側前輪の目標スリップ率Stefoは、Stefo=K1 ・β+K2 ・Dβとして設定され、減速制御に供する旋回外側後輪の目標スリップ率Sted roはSted ro=K3 ・β+K4 ・Dβとして設定され、旋回内側後輪の目標スリップ率Steriは、Steri=K5 ・β+K6 ・Dβとして設定される。ここで、K1 乃至K6 は定数で、旋回外側の車輪の目標スリップ率Stefo及びSted roは、加圧方向(制動力を増大する方向)の制御を行なう値に設定され、旋回内側の車輪の目標スリップ率Steriは、減圧方向(制動力を低減する方向)の制御を行なう値に設定される。また、K3 ≦K1 /5,K4 ≦K2 /5に設定され、減速制御用の目標スリップ率は、回頭制御用の目標スリップ率よりもかなり小さい値に設定されている。つまり、減速制御により車輪に付与する制動力は、回頭制御により車輪に付与する制動力よりもかなり小さい値に設定されている。
【0057】
ここで、オーバーステア抑制制御の回頭制御輪として旋回外側前輪及びその対角輪である旋回内側後輪を選択する理由について簡単に述べる。
【0058】
車両全体のヨーモーメントは、各車輪位置における制動力に基づくヨーモーメントMB** とコーナリングフォースに基づくヨーモーメントMC** の和の総和で表されるが、旋回外側前輪及び旋回内側後輪では、両ヨーモーメントMB** ,MC** の極性(向き)が同じになるため、制動力を付与した時の各車輪位置のヨーモーメントは旋回外向きとなり、常に同じ極性になる。これに対し、例えば旋回外側後輪では、両ヨーモーメントMB** ,MC** の極性(向き)が異なるため、制動力を付与した時の各車輪位置のヨーモーメントは常に旋回外向きとなるとは限らず、常に同じ極性にはならない。
【0059】
また、アンダーステア抑制制御における目標ステップ率の設定には、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaとの差が用いられる。この目標横加速度GytはGyt=γ(θf)・Vsoに基づいて求められる。ここで、γ(θf)はγ(θf)=(θf/N・L)・Vso/(1+Kh ・Vso2 )として求められ、Kh はスタビリティファクタ、Nはステアリングギヤレシオ、Lはホイールベースを表す。
【0060】
上記アンダーステア抑制制御に供する目標スリップ率は、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaの偏差ΔGy に基づいて以下のように設定される。即ち、旋回外側の前輪に対する目標スリップ率Stud foはK7 ・ΔGy と設定され、定数K7 は加圧方向(もしくは減圧方向)の制御を行なう値に設定される。また、後輪に対する目標スリップ率Stud ro及びSturiは夫々K8 ・ΔGy 及びK9 ・ΔGy に設定され、定数K8 ,K9 は何れも加圧方向の制御を行なう値に設定される。尚、K8 =K9 ,K7 ≦K9 /2に設定される。
【0061】
次に、図6のステップ201の減速制御許可判別の詳細を図7を用いて説明する。
【0062】
先ず、ステップ301にて、ブレーキスイッチBSの検出信号及びタイマー(図示せず)の情報に基づき、ブレーキスイッチBSのON時間が比較的短い第1の所定時間T0 (ここでは0.1sec)以内か否かが判定され、そうであればステップ302に進み、減速制御許可フラグがOFFとされる。つまり、ブレーキ遅れを補償するために、ブレーキスイッチBSがONになった瞬間に(オーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御の)減速制御が禁止される。尚、ステップ302が終了すると、図6のステップ207に戻る。
【0063】
また、ステップ301でブレーキスイッチBSのON時間が第1の所定時間T0 以内でないと判定されると、ステップ303に進み、ブレーキスイッチBSのON時間が第1の所定時間T0 よりも長い第2の所定時間T1 (ここでは0.3sec)以内か否かが判定され、そうであればステップ304に進む。ステップ304において、図4のステップ104で演算した各車輪加速度FDVw** の内、非制御輪(ここでは旋回内側前輪) の加速度FDVwNが第1の所定値KG1(ここでは、−0.3G)よりも小さいか否かが判定され、そうであればステップ302に進み、減速制御許可フラグがOFFとされる。ステップ304で非制御輪の加速度FDVwNが第1の所定値KG1以上と判定されると、後述するステップ306に進む。
【0064】
また、ステップ303でブレーキスイッチBSのON時間が第2の所定時間T1 以上と判定されると、ステップ305に進む。ステップ305で、非制御輪の加速度FDVwNが第1の所定値KG1よりも小さい第2の所定値KG2(ここでは、−0.4G)よりも小さいか否かが判定され、そうであればステップ302に進み、減速制御許可フラグがOFFとされる。ステップ305の判定は、ブレーキスイッチが故障した場合の補償用である。ステップ305で、非制御輪の加速度FDVwNが第2の所定値KG2以上と判定されれば、ステップ306に進む。
【0065】
続いてステップ306において、非制御輪の加速度FDVwNが減速制御輪の加速度FDVwCd (オーバーステア抑制制御では旋回外側後輪の加速度,アンダーステア抑制制御では旋回外側前後輪の加速度)よりも小さいか否かが判定される。換言すれば、非制御輪の減速度が減速制御輪の減速度よりも大きいか否かが判定される。つまり、非制御輪に付与される制動力が減速制御輪に付与される制動力よりも大きいか否かが判定される。そうであれば、ステップ302に進み、減速制御許可フラグがOFFとされ、そうでなければステップ307に進む。尚、ステップ306では車輪減速度を比較しているが、その代わりに車輪の実スリップ率を比較しても良い。
【0066】
ステップ307において、重心位置車体加速度DVsoが第2の所定値KG2よりも小さい第3の所定値KG3(ここでは、−0.5G)よりも小さいか否かが判定され、そうであればステップ302に進み、減速制御許可フラグがOFFとされ、そうでなければステップ308に進む。そして、ステップ308で、非制御輪がアンチスキッド制御中か否かが判定され、そうであればステップ302に進み、減速制御許可フラグがOFFとされる。そうでなければステップ309に進み、減速制御許可フラグがONとされ、図6のステップ202に戻る。
【0067】
次に、図5のステップ119の液圧サーボ制御処理の詳細を図8を用いて説明するが、ここでは各車輪についてホイールシリンダ液圧のスリップ率サーボ制御が行なわれる。
【0068】
先ず、前述のステップ207,208,211,212,214,215にて設定された目標スリップ率St** がステップ401にて読み出され、これらがそのまま各車輪の目標スリップ率St** として読み出される。このフローチャートでは記載を省略したが、アンチスキッド制御中か否かが判定され、そうであれば、目標スリップ率St** にアンチスキッド制御モード用のスリップ率補正量ΔSs** が加算されて目標スリップ率St** が更新される。アンチスキッド制御中でないと判定されると、前後制動力配分制御中か否かが判定され、そうであれば、目標スリップ率St** に前後制動力配分制御モード用のスリップ率補正量ΔSb** が加算されて目標スリップ率St** が更新される。前後制動力配分制御中でないと判定されると、トラクション制御中か否かが判定される。そうであれば、目標スリップ率St** にトラクション制御モード用のスリップ率補正量ΔSr** が加算されて目標スリップ率St** が更新される。
【0069】
そして、ステップ402において各車輪毎にスリップ率偏差ΔSt** が演算されると共に、ステップ403にて車体加速度偏差ΔDVso**が演算される。具体的には、ステップ402において、各車輪の目標スリップ率St** と実スリップ率Sa** の差が演算されスリップ率偏差ΔSt** が求められる(ΔSt** =St** −Sa** )。また、ステップ403において、基準車輪(非制御対象の車輪)と制御対象の車輪における車体加速度DVso**の差が演算され、車体加速度偏差ΔDVso**が求められる。このときの各車輪の実スリップ率Sa** 及び車体加速度偏差ΔDVso**はアンチスキッド制御、トラクション制御等の制御モードに応じて演算が異なるが、これらについては説明を省略する。
【0070】
続いて、ステップ404に進みスリップ率偏差ΔSt** が所定値Ka と比較され、所定値Ka 以上であればステップ406にてスリップ率偏差ΔSt** の積分値が更新される。即ち、今回のスリップ率偏差ΔSt** にゲインGI** を乗じた値が前回のスリップ率偏差積分値IΔSt** に加算され、今回のスリップ率偏差積分値IΔSt** が求められる。スリップ率偏差|ΔSt** |が所定値Kaを下回るときにはステップ405にてスリップ率偏差積分値IΔSt** はクリア(0)される。次に、ステップ407乃至410において、スリップ率偏差積分値IΔSt** が上限値Kb 以下で下限値Kc 以上の値に制限され、上限値Kb を超えるときはKb に設定され、下限値Kc を下回るときはKc に設定された後、ステップ411に進む。
【0071】
ステップ411においては、各制御モードにおけるブレーキ液圧制御に供する一つのパラメータY**がGs** ・(ΔSt** +IΔSt** )として演算される。ここでGs** はゲインであり、車体横すべり角βに応じて図12の実線で示すように設定される。また、ステップ412において、ブレーキ液圧制御に供する別のパラメーラX**がGd** ・ΔDVso**として演算される。このときのゲインGd** は図12の破線で示すように一定の値である。
【0072】
この後、ステップ413に進み、各車輪毎に、上記パラメータX**,Y**に基づき、図11に示す制御マップに従って液圧制御モードが設定される。図11においては予め急減圧領域、パルス減圧領域、保持領域、パルス増圧領域及び急増圧領域の各領域が設定されており、ステップ413にてパラメータX**及びY**の値に応じて、何れの領域に該当するかが判定される。尚、非制御状態では液圧制御モードは設定されない(ソレノイドオフ)。
【0073】
ステップ413にて今回判定された領域が、前回判定された領域に対し、増圧から減圧もしくは減圧から増圧に切換わる場合には、ブレーキ液圧の立下りもしくは立上りを円滑にする必要があるので、ステップ414において増減圧補償処理が行なわれる。例えば急減圧モードからパルス増圧モードに切換るときには、急増圧制御が行なわれ、その時間は直前の急減圧モードの持続時間に基づいて決定される。そして、ステップ415にて上記液圧制御モード及び増減圧補償処理に応じて、ブレーキ液圧制御装置PCを構成する各電磁弁のソレノイドが駆動され、各車輪の制動力が制御される。
【0074】
アンダーステア抑制制御中に減速制御許可フラグがオフになった場合には、ステップ208で旋回外側前後輪の減速制御を禁止するが、このとき、このステップ415において、旋回外側前後輪に対応する開閉弁(左旋回の場合PC1,PC3、右旋回の場合PC2,PC4)が閉作動されると共に、開閉弁(左旋回の場合SB1,SB3、右旋回の場合SB2,SB4)が開作動される。その結果、旋回外側前後輪が非制御となり、ブレーキ操作に基づく制動力が旋回外側前後輪に付与される。ここで、制御基準車輪は旋回内側前輪であるため、この場合前輪共に非制御となる。従って、前輪に対応する切換弁STFを第1位置に切り換えることにより、通常ブレーキに移行しても良い。
【0075】
また同様に、オーバーステア抑制制御中に減速制御許可フラグがオフになった場合には、ステップ212で旋回外側後輪の減速制御を禁止するが、このとき、このステップ415において、旋回外側後輪に対応する開閉弁(左旋回の場合PC3、右旋回の場合PC4)が閉作動されると共に、開閉弁(左旋回の場合SB3、右旋回の場合SB4)が開作動される。その結果、旋回外側後輪が非制御となり、ブレーキ操作に基づく制動力が旋回外側前後輪に付与される。
【0076】
以上示したように、本実施形態においては、制動操舵制御中に非制御車輪の制動力が減速制御車輪の制動力よりも大きくなった時に、減速制御車輪に対する減速制御のみを禁止しているが、本発明はこれに限定される必要はなく、回頭制御車輪に対する回頭制御も禁止したり、回頭制御のみを禁止したりしても良い。
【0077】
また、本実施形態では、制動操舵制御中にブレーキスイッチBSがONになった時に、所定時間減速制御車輪に対する減速制御のみを禁止しているが、本発明はこれに限定される必要はなく、回頭制御車輪に対する回頭制御も禁止したり、回頭制御のみを禁止したりしても良い。
【0078】
また、本実施形態では、制動操舵制御中に運転者がブレーキペダルを踏んだ時に、減速制御対象車輪に対する減速制御を禁止している。つまり、制御車輪の数を減らしているため、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ際の板ブレーキ感が極力回避される。
【0079】
【発明の効果】
請求項1によれば、運動制御中に非制御車輪の制動力が制御車輪の制動力を越えた時に、運動制御手段による制御車輪の制御を禁止するので、非制御車輪の制動力が制御車輪の制動力を越えた後、即座に制御車輪に運転者のブレーキ操作量に相当する制動力を付与できる。結果、運動制御中に運転者がブレーキ操作を行ってから制御車輪の制動力が運転者のブレーキ操作量に相当する制動力に至るまでに生じる時間遅れを低減でき、運動制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合における減速応答性が向上する。
【0080】
また、非制御車輪の制動力が制御車輪の制動力よりも小さい時には制御車輪に対し運動制御を続行するので、ブレーキ操作量が小さい時には運動制御を優先させ、車両の安定性を極力確保できる。
【0081】
請求項2によれば、運動制御中に非制御車輪の制動力が減速制御の対象である第2の車輪の制動力を越えた時に、減速制御手段による減速制御のみを禁止するので、運動制御中に非制御車輪の制動力が減速制御対象である第2の車輪の制動力を越えた後でも、前記回頭制御が続行され、車両の安定性を確保できる。
【0082】
また、減速制御車輪には、常に減速制御に基づく制動力とブレーキ操作に基づく制動力の内の大きい方が付与されるため、車両の減速性は良好なものとなる。請求項3によれば、車輪速度センサの検出結果から演算された車輪減速度に基づき、減速制御手段による制御を禁止するので、マスタシリンダ圧センサやホイールシリンダ圧センサ等の高価な圧力センサを使用することなく、運動制御中に運転者がブレーキ操作を行った場合において減速応答性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両の運動制御装置の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明の運動制御装置の実施形態の全体構成図である。
【図3】図2のブレーキ液圧制御装置の一例を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態における制動操舵制御の全体を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態における制動操舵制御の全体を示すフローチャートである。
【図6】図5の制動操舵制御処理の詳細を示すフローチャートである。
【図7】図6の減速制御許可判別処理の詳細を示すフローチャートである。
【図8】図5の液圧サーボ制御の処理を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態のオーバーステア抑制制御の制御領域を示すグラフである。
【図10】本実施形態のアンダーステア抑制制御の制御領域を示すグラフである。
【図11】本実施形態においてブレーキ液圧制御に供するパラメータと液圧制御モードとの関係を示すグラフである。
【図12】本実施形態における車体横すべり角とパラメータ演算用のゲインとの関係を示すグラフである。
【図13】過度のオーバーステアを説明する説明図である。
【図14】過度のアンダーステアを説明する説明図である。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル
NR,NL,DR,DL 車輪
PC ブレーキ液圧制御装置
Claims (3)
- 車両の前方及び後方の車輪に対し少なくともブレーキペダルの操作に応じて制動力を付与するブレーキ液圧制御装置と、前記車両の運動状態を判定する車両状態判定手段と、前記車両状態判定手段の判定結果に基づき前記ブレーキ液圧制御装置を前記ブレーキペダルの操作とは無関係に制御し、前記車両状態判定手段が前記車両の運動状態が過度のオーバーステア及び過度のアンダーステアの内の少なくとも一方の不安定状態になったと判定した時に、前記車両の運動状態を安定側に修正するために少なくとも1つの車輪に制動力を付与する運動制御手段とを備えた車両の運動制御装置において、
前記車両の各車輪に作用する制動力を検出する車輪制動力検出手段と、
前記運動制御手段による制御中に前記運動制御手段の制御対象でない非制御車輪の制動力が制御対象である制御車輪の制動力を超えた時に、前記運動制御手段による制御車輪の制御を禁止する運動制御禁止手段とを備えたことを特徴とする車両の運動制御装置。 - 請求項1において、
前記運動制御手段は、前記車両状態判定手段が前記車両の運動状態が不安定状態と判定した時に、車両のヨーモーメントを安定方向に修正するために全車輪の内第1の車輪に制動力を付与する回頭制御手段と、車両を減速させるために全車輪の内前記第1の車輪を除く第2の車輪に制動力を付与する減速制御手段とを有し、
前記運動制御禁止手段は、前記運動制御手段による制御中による前記非制御車輪の制動力が前記制御車輪の制動力を超えた時に、前記減速制御手段による前記第2の車輪の制御のみを禁止する減速制御禁止手段を有することを特徴とする車両の運動制御装置。 - 請求項2において、
前記各車輪の速度を検出する車輪速度センサを更に備え、
前記車輪制動力検出手段は、前記車輪速度センサにより検出された各車輪の速度に基づき各車輪の減速度を演算する車輪減速度演算手段を有し、
前記減速制御禁止手段は、前記運動制御手段による制御中に前記非制御車輪の減速度が前記制御車輪の減速度を越えた時に前記減速制御手段による前記第2の車輪の制御を禁止することを特徴とする車両の運動制御装置。
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