JP3885362B2 - 車両の制動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液圧ポンプによって低圧リザーバから直接、あるいはマスタシリンダを介してブレーキ液を吸い込みモジュレータを介してホイールシリンダに吐出し種々の制動制御を行なう車両の制動制御装置に関し、特に、制動制御の開始前に液圧ポンプを駆動しホイールシリンダまでの液圧系を予め加圧する制御前加圧手段を備えた車両の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
近時、車両の運動特性、特に旋回特性を制御する手段として、制動力の左右差制御により旋回モーメントを直接制御する手段が注目され、実用に供されつつある。例えば、特開平2−70561号公報には、車両の横力の影響を補償する制動制御手段により車両の安定性を維持する運動制御装置が提案されている。同装置においては、実ヨーレイトと目標ヨーレイトの比較結果に応じて制動制御手段により車両に対する制動力を制御するように構成されており、例えばコーナリング時の車両の運動に対しても確実に安定性を維持することができる。これにより、ブレーキペダルの操作の有無には無関係に各車輪に対して制動力が付与され、所謂制動操舵制御によって、オーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御が行なわれる。
【0003】
また、特開平8−150919号公報には、車両の走行状況に応じた制動力の付与に先立ちポンプを駆動することにより、制動力制御の応答性を悪化することなくアキュムレータの必要性を排除し制動装置の構造を簡略化してコストを低減することを目的として、自動制動機構の作動開始が予測されたときにポンプ手段の駆動を開始するように構成した制動装置が提案されている。これにより、自動制動機構の作動開始が予測されないときにはポンプ手段は駆動されないので、作動流体が不必要に加圧されることが防止され、また自動制動機構の作動開始が予測されたときにはポンプ手段の駆動が開始されるので、自動制動機構の作動開始時にはポンプ手段が既に駆動状態にあり、また、より好ましくは、自動制動機構の作動開始時における作動流体はポンプ手段によって十分に加圧された状態になり、これによりホイールシリンダへ十分な圧力の作動流体が供給される旨、同公報に記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、近時の制動制御装置においては、液圧ポンプによって低圧リザーバから直接、あるいはマスタシリンダを介してブレーキ液を吸い込み、制動制御用のモジュレータを介してホイールシリンダに吐出することによって、種々の制動制御を行なうことができるが、制動制御の開始前に液圧ポンプを駆動しホイールシリンダまでの液圧系を予め加圧しておくことが望ましい。
【0005】
ところで、ブレーキペダル操作に応じて制動作動が行なわれている場合には、ホイールシリンダにブレーキ液圧が供給されているため、予め液圧ポンプを駆動する必要はない。ところが、上記特開平8−150919号公報に記載の制動装置においては、ブレーキペダル操作に応じて制動作動が行なわれている場合でも、自動制動機構の作動開始が予測されたときにはポンプ手段の駆動が開始されることとなる。この結果ポンプ手段の駆動頻度が増え、騒音発生頻度が増える。
【0006】
そこで、本発明は、液圧ポンプによって低圧リザーバから直接、あるいはマスタシリンダを介してブレーキ液を吸い込みモジュレータを介してホイールシリンダに吐出し種々の制動制御を行なう車両の制動制御装置において、制動制御の開始前に適切に液圧ポンプを駆動しホイールシリンダまでの液圧系を予め加圧しておき、所望の制動制御に円滑に移行させると共に、無用な液圧ポンプの駆動を排除し得るようにすることを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を達成するため、本発明の車両の制動制御装置は、請求項1に記載のように、車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記ホイールシリンダの各々との間に介装し前記ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整するモジュレータと、該モジュレータを介して前記ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する液圧ポンプと、前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉すると共に、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する弁装置と、該弁装置及び前記モジュレータを制御し前記各車輪に対する制動力を制御する制動制御手段と、前記ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と前記車両の走行路面の摩擦係数を検出する摩擦係数検出手段と、前記ブレーキ操作量検出手段が検出した前記ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ前記摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、前記制動制御手段による制御開始前に前記液圧ポンプを駆動し、前記液圧ポンプから前記ホイールシリンダに至る液圧系に対し予めブレーキ液圧を付与する制御前加圧手段とを備えることとしたものである。尚、前記弁装置は単一の3ポート2位置切換弁で構成することができるが、前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉する常開の第1の開閉弁と、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する常閉の第2の開閉弁によって構成することとしてもよい。また、前記ブレーキペダルの操作量の検出は、前記マスタシリンダの出力液圧、あるいは前記ブレーキペダルのストロークに基づいて行なうように構成することができる。
【0009】
前記制御前加圧手段は、請求項2に記載のように、前記ブレーキ操作量検出手段が検出した前記ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ前記摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、前記制動制御手段による制御開始前に前記液圧ポンプを駆動し、前記液圧ポンプから前記車両前方の車輪に装着したホイールシリンダに至る液圧系のみに対し予めブレーキ液圧を付与するように構成するとよい。
【0010】
あるいは、車両の制動制御装置を、請求項3に記載のように、車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、前記ホイールシリンダを二組に分割し該二組のホイールシリンダの各々と前記マスタシリンダとの間を第1及び第2のブレーキ液圧系統を介して接続し、該第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整する二組のモジュレータと、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記モジュレータの各々を介して前記ホイールシリンダの各々に昇圧したブレーキ液を吐出する一対の液圧ポンプと、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉すると共に、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの各々の吸込側に連通接続する液圧路を開閉する二組の弁装置と、該弁装置及び前記モジュレータを制御し前記各車輪に対する制動力を制御する制動制御手段と、前記ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、前記車両の走行路面の摩擦係数を検出する摩擦係数検出手段と、前記ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ前記摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、前記制動制御手段による制御開始前に前記液圧ポンプの各々を駆動し、前記液圧ポンプの各々から前記ホイールシリンダに至る液圧系に対し予めブレーキ液圧を付与して制御前加圧を行なう制御前加圧手段とを備え、該制御前加圧手段が、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の何れか一方のブレーキ液圧系統における一方のホイールシリンダに対し前記制御前加圧を行なっているときには、他方のホイールシリンダと前記液圧ポンプとの連通を遮断するように制御する構成としてもよい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。先ず、図2は本発明の制動制御装置の一実施形態を含む車両の全体構成を示すものであり、エンジンEGはスロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを備えた内燃機関で、スロットル制御装置THにおいてはアクセルペダルAPの操作に応じてメインスロットルバルブMTのメインスロットル開度が制御される。また、電子制御装置ECUの出力に応じて、スロットル制御装置THのサブスロットルバルブSTが駆動されサブスロットル開度が制御されると共に、燃料噴射装置FIが駆動され燃料噴射量が制御されるように構成されている。本実施形態のエンジンEGは変速制御装置GSを介して車両前方の車輪FL,FRに連結されており、所謂前輪駆動方式が構成されている。制動系については、車輪FL,FR,RL,RRに夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されており、これらのホイールシリンダWfl等にブレーキ液圧制御装置BCが接続されている。尚、車輪FLは運転席からみて前方左側の車輪を示し、以下車輪FRは前方右側、車輪RLは後方左側、車輪RRは後方右側の車輪を示しており、本実施形態では所謂X配管が構成されている。
【0012】
車輪FL,FR,RL,RRには車輪速度センサWS1乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチBS、車両前方の車輪FL,FRの舵角δf を検出する前輪舵角センサSSf、車両の横加速度を検出する横加速度センサYG及び車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYS等が電子制御装置ECUに接続されている。ヨーレイトセンサYSにおいては、車両重心を通る鉛直軸回りの車両回転角(ヨー角)の変化速度、即ちヨー角速度(ヨーレイト)が検出され、実ヨーレイトγとして電子制御装置ECUに出力される。尚、従動輪側の左右の車輪(本実施形態では車両前方の車輪FL,FR)の車輪速度差Vfd(=Vwfr −Vwfl )に基づき実ヨーレイトγを推定することができるので、車輪速度センサWS1及びWS2の検出出力を利用することとすればヨーレイトセンサYSを省略することができる。
【0013】
本実施形態の電子制御装置ECUは、図2に示すように、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM,RAM、入力ポートIPT及び出力ポートOPT等から成るマイクロコンピュータCMPを備えている。上記車輪速度センサWS1乃至WS4、ブレーキスイッチBS、前輪舵角センサSSf、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG等の出力信号は増幅回路AMPを介して夫々入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力ポートOPTからは駆動回路ACTを介してスロットル制御装置TH及びブレーキ液圧制御装置BCに夫々制御信号が出力されるように構成されている。マイクロコンピュータCMPにおいては、メモリROMは図3乃至図7に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。尚、スロットル制御等の各制御毎に、もしくは関連する制御を適宜組合せて複数のマイクロコンピュータを構成し、相互間を電気的に接続することとしてもよい。
【0014】
上記のブレーキ液圧制御装置BCを含む制動系は、図1に示すように、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍力駆動され、低圧リザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の二つのブレーキ液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。マスタシリンダMCは二つの圧力室を有するタンデム型のマスタシリンダで、一方の圧力室は車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統に連通接続され、他方の圧力室は車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に連通接続されている。尚、マスタシリンダMCの出力側には、その出力液圧(マスタシリンダ液圧)を検出する圧力センサPSが設けられている。この圧力センサPSは本発明のブレーキ操作量検出手段を構成しているが、ブレーキペダルBPのストロークを検出するストロークセンサ(図示せず)を設け、その出力に基づいてブレーキペダルBPの操作量を検出することとしてもよい。
【0015】
本実施形態の車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、一方の圧力室は主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続されている。主液圧路MFには常開の第1の開閉弁SC1(所謂カットオフ弁として機能するもので、以下、単に開閉弁SC1という)が介装されている。また、一方の圧力室は補助液圧路MFcを介して後述する逆止弁CV5,CV6の間に接続されている。補助液圧路MFcには常閉の第2の開閉弁SI1(以下、単に開閉弁SI1という)が介装されている。これらの開閉弁は何れも2ポート2位置の電磁開閉弁で構成されている。分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC1及びPC2(以下、単に開閉弁PC1,PC2という)が介装されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が介装されている。
【0016】
逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容しホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを制限するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び第1の位置(図示の状態)の開閉弁SC1を介してホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいては低圧リザーバLRSに戻されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPが解放されたときに、ホイールシリンダWfr,Wrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、夫々常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁PC5,PC6(以下、単に開閉弁PC5,PC6という)が介装されており、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRS1に接続されている。
【0017】
車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、上記開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6によって本発明にいうモジュレータが構成されている。また、開閉弁PC1,PC2の上流側で分岐液圧路MFr,MFlに連通接続する液圧路MFpに、液圧ポンプHP1が介装され、その吸込側には逆止弁CV5,CV6を介してリザーバRS1が接続されている。また、液圧ポンプHP1の吐出側は、逆止弁CV7及びダンパDP1を介して夫々開閉弁PC1,PC2に接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に一つの電動モータMによって駆動され、吸込側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力するように構成されている。リザーバRS1は、マスタシリンダMCの低圧リザーバLRSとは独立して設けられるもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、後述する種々の制御に必要な容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
【0018】
マスタシリンダMCは液圧路MFcを介して液圧ポンプHP1の吸込側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5はリザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向の流れを許容するものである。また、逆止弁CV6,CV7は液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。而して、開閉弁SI1は、図1に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側との連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側が連通するように切り換えられる。
【0019】
更に、開閉弁SC1に並列に、マスタシリンダMCから開閉弁PC1,PC2方向へのブレーキ液の流れを制限し、開閉弁PC1,PC2側のブレーキ液圧がマスタシリンダMC側のブレーキ液圧に対し所定の差圧以上大となったときにマスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容するリリーフ弁RV1と、ホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁AV1が介装されている。リリーフ弁RV1は、液圧ポンプHP1から吐出される加圧ブレーキ液がマスタシリンダMCの出力液圧より所定の差圧以上大となったときに、マスタシリンダMCを介して低圧リザーバLRSにブレーキ液を還流するもので、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力に調圧される。また、液圧ポンプHP1の吐出側にダンパDP1が配設され、後輪側のホイールシリンダWrlに至る液圧路にプロポーショニングバルブPV1が介装されている。
【0020】
車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統においても同様に、リザーバRS2、ダンパDP2及びプロポーショニングバルブPV2をはじめ、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁SC2(第1の開閉弁)、常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁SI2(第2の開閉弁),PC7,PC8、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC3,PC4、逆止弁CV3,CV4,CV8乃至CV10、リリーフ弁RV2並びに逆止弁AV2が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1,HP2は連続して駆動される。尚、後述のフローチャートにおいては、二つのブレーキ液圧系統に供される開閉弁等を代表して表すときには符号(*)を用いる。
【0021】
上記の構成になる実施形態の作用を説明すると、通常のブレーキ作動時においては、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動モータMは停止している。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれると、バキュームブースタVBによってマスタシリンダMCが倍力駆動され、マスタシリンダMCの二つの圧力室から、マスタシリンダ液圧が夫々車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に出力され、開閉弁SC1,SC2並びに開閉弁PC1乃至PC8を介して、ホイールシリンダWfr,Wrl,Wfl,Wrrに供給される。車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統は同様の構成であるので、以下、代表して車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統について説明する。
【0022】
例えば、ブレーキ作動中にアンチスキッド制御に移行し、例えば車輪FR側がロック傾向にあると判定されると、開閉弁SC1は開位置のままで、開閉弁PC1が閉位置とされると共に、開閉弁PC5が開位置とされる。而して、ホイールシリンダWfrは開閉弁PC5を介してリザーバRS1に連通し、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1内に流出し減圧される。
【0023】
ホイールシリンダWfrがパルス増圧モードとなると、開閉弁PC5が閉位置とされると共に開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が開位置の開閉弁PC1を介してホイールシリンダWfrに供給される。そして、開閉弁PC1が断続制御され、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液は増圧と保持が繰り返されてパルス的に増大し、緩やかに増圧される。ホイールシリンダWfrに対し急増圧モードが設定されたときには、開閉弁PC2,PC5が閉位置とされた後、開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が供給される。そして、ブレーキペダルBPが解放され、ホイールシリンダWfrの液圧よりマスタシリンダ液圧の方が小さくなると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液が逆止弁CV1及び開位置の開閉弁SC1を介してマスタシリンダMC、ひいては低圧リザーバLRSに戻る。このようにして、車輪毎に独立した制動力制御が行なわれる。
【0024】
そして、トラクション制御に移行し、例えば車輪FRの加速スリップ防止制御が行なわれる場合には、開閉弁SC1が閉位置に切り換えられると共に、開閉弁SI1が開位置に切り換えられ、ホイールシリンダWrlに接続された開閉弁PC2が閉位置とされ、開閉弁PC1が開位置とされる。尚、開閉弁PC1が閉位置とされれば、ホイールシリンダWfrの液圧が保持される。
【0025】
而して、ブレーキペダルBPが非操作状態であっても、例えば車輪FRの加速スリップ防止制御時には、液圧ポンプHP1が駆動され、車輪FRの加速スリップ状態に応じて開閉弁PC1,PC5の断続制御により、ホイールシリンダWfrに対し、パルス増圧、パルス減圧及び保持の何れかの液圧モードが設定される。これにより、車輪FRに制動力が付与されて回転駆動力が制限され、加速スリップが防止され、適切にトラクション制御を行なうことができる。このとき、本実施形態においては液圧スタンバイ制御が行なわれ、液圧ポンプHP1(又は、HP2)から制御対象のホイールシリンダに至る液圧系に対し予めブレーキ液圧が付与されるが、これについては後述する。
【0026】
更に、車両の制動操舵制御時においては、例えば過度のオーバーステアを防止する場合には、これに対抗するモーメントを発生させる必要があり、この場合には或る一つの車輪のみに関し制動力を付与すると効果的である。即ち、車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、制動操舵制御時に開閉弁SC1が閉位置に切換えられると共に、開閉弁SI1が開位置に切換えられ、電動モータMが駆動され、液圧ポンプHP1からブレーキ液が吐出される。そして、開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6が適宜開閉制御され、ホイールシリンダWfr,Wrlの液圧がパルス増圧、減圧又は保持され、車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統も含め、前後の車輪間の制動力配分が車両のコーストレース性を維持し得るように制御される。
【0027】
上記開閉弁SC1,SC2,SI1,SI2並びに開閉弁PC1乃至PC8は前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、上記の制動操舵制御を初めとする各種制御が行なわれる。例えば、車両が旋回運動中において、過度のオーバーステアと判定されたときには、例えば旋回外側の前輪に制動力が付与され、車両に対し外向きのヨーモーメント、即ち車両を旋回外側に向けるヨーモーメントが生ずるように制御される。これをオーバーステア抑制制御と呼び、安定性制御とも呼ばれる。また、車両が旋回運動中に過度のアンダーステアと判定されたときには、車両に対し内向きのヨーモーメント、即ち車両を旋回内側に向けるヨーモーメントが生ずるように制御される。これはアンダーステア抑制制御と呼び、コーストレース性制御とも呼ばれる。そして、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御は制動操舵制御と総称される。
【0028】
上記のように構成された本実施形態においては、電子制御装置ECUにより制動操舵制御、アンチスキッド制御等の一連の処理が行なわれ、イグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されると図3乃至図7等のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。図3及び図4は車両の制動制御作動を示すもので、先ずステップ101にてマイクロコンピュータCMPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号が読み込まれると共に、前輪舵角センサSSfの検出信号(舵角δf )、ヨーレイトセンサYSの検出信号(実ヨーレイトγ)及び横加速度センサYGの検出信号(即ち、実横加速度でありGyaで表す)が読み込まれる。
【0029】
次に、ステップ103に進み、各車輪の車輪速度Vw** (**は各車輪FR等を表す)が演算されると共に、これらが微分され各車輪の車輪加速度DVw** が求められる。続いて、ステップ104において各車輪の車輪速度Vw** の最大値が車両重心位置での推定車体速度Vsoとして演算される(Vso=MAX( Vw**))。また、各車輪の車輪速度Vw** に基づき各車輪毎に推定車体速度Vso**が求められ、必要に応じ、車両旋回時の内外輪差等に基づく誤差を低減するため正規化が行われる。更に、推定車体速度Vsoが微分され、車両重心位置での推定車体加速度(符号が逆の推定車体減速度を含む)DVsoが演算される。
【0030】
そして、ステップ105において、上記ステップ103及び104で求められた各車輪の車輪速度Vw** と推定車体速度Vso**(あるいは、正規化推定車体速度)に基づき各車輪の実スリップ率Sa** がSa** =(Vso**−Vw** )/Vso**として求められる。次に、ステップ106おいて、車両重心位置での推定車体加速度DVsoと横加速度センサYGの検出信号の実横加速度Gyaに基づき、路面摩擦係数μが近似的に(DVso2 +Gya2)1/2 として求められる。更に、路面摩擦係数を検出する手段として、直接路面摩擦係数を検出するセンサ等、種々の手段を用いることができる。
【0031】
続いて、ステップ107にて車体横すべり角速度Dβが演算されると共に、ステップ108にて車体横すべり角βが演算される。この車体横すべり角βは、車両の進行方向に対する車体のすべりを角度で表したもので、次のように演算し推定することができる。即ち、車体横すべり角速度Dβは車体横すべり角βの微分値dβ/dtであり、ステップ107にてDβ=Gy /Vso−γとして求めることができ、これをステップ108にて積分しβ=∫(Gy /Vso−γ)dtとして車体横すべり角βを求めることができる。尚、Gy は車両の横加速度、Vsoは車両重心位置での推定車体速度、γはヨーレイトを表す。あるいは、進行方向の車速Vx とこれに垂直な横方向の車速Vy の比に基づき、β=tan-1(Vy /Vx )として求めることもできる。
【0032】
そして、ステップ109に進み制動操舵制御モードとされ、後述するように制動操舵制御に供する目標スリップ率が設定され、後述のステップ117の液圧サーボ制御により、車両の運転状態に応じて各車輪に対する制動力が制御される。この制動操舵制御は、後述する全ての制御モードにおける制御に対し重畳される。この後ステップ110に進み、アンチスキッド制御開始条件を充足しているか否かが判定され、開始条件を充足し制動操舵時にアンチスキッド制御開始と判定されると、初期特定制御は直ちに終了しステップ111にて制動操舵制御及びアンチスキッド制御の両制御を行なうための制御モードに設定される。
【0033】
ステップ110にてアンチスキッド制御開始条件を充足していないと判定されたときには、ステップ112に進み前後制動力配分制御開始条件を充足しているか否かが判定され、制動操舵制御時に前後制動力配分制御開始と判定されるとステップ113に進み、制動操舵制御及び前後制動力配分制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、充足していなければステップ114に進みトラクション制御開始条件を充足しているか否かが判定される。制動操舵制御時にトラクション制御開始と判定されるとステップ115にて制動操舵制御及びトラクション制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、制動操舵制御時に何れの制御も開始と判定されていないときには、図4に示すステップ116にて制動操舵制御開始条件を充足しているか否かが判定される。
【0034】
図4のステップ116において制動操舵制御開始と判定されるとステップ117に進み制動操舵制御のみを行なう制御モードに設定される。そして、これらの制御モードに基づきステップ118にて液圧サーボ制御が行なわれた後ステップ102に戻る。尚、前後制動力配分制御モードにおいては、車両の制動時に車両の安定性を維持するように、後輪に付与する制動力の前輪に付与する制動力に対する配分が制御される。ステップ116において制動操舵制御開始条件も充足していないと判定されると、ステップ119にて液圧スタンバイ制御中か否かが判定される。この液圧スタンバイ制御は、制動制御前に予め制御対象のホイールシリンダにブレーキ液を充填し加圧しておくというもので、本発明の制御前加圧に対応する。従って、この制御モードではブレーキ液圧が付与されていないことが前提であり、例えばアンチスキッド制御時のようにブレーキ液圧が付与されておればブレーキ液が充填されているので、液圧スタンバイ制御は不要となる。
【0035】
ステップ119において液圧スタンバイ制御中と判定されると、更にステップ120にて制御対象が車両前方の車輪F*か否かが判定され、そうであればステップ118にて液圧サーボ制御が行なわれた後ステップ102に戻る。ステップ120において制御対象が前方の車輪F*でないと判定された場合には、車両後方の車輪R*側の開閉弁PC2又は開閉弁PC4がオン(閉位置)とされた後ステップ102に戻る。即ち、車輪F*に対する液圧スタンバイ制御中は、後方の車輪R*については液圧ポンプHP1,HP2等との連通が遮断されるように設定されている。一方、ステップ119にて液圧スタンバイ制御中でないと判定された場合にはステップ122にて全ての電磁弁のソレノイドがオフとされ図1に示す定常状態とされた後ステップ102に戻る。尚、ステップ111,113,115,117に基づき、必要に応じ、車両の運転状態に応じてスロットル制御装置THのサブスロットル開度が調整されエンジンEGの出力が低減され、駆動力が制限される。
【0036】
図5は図4のステップ109における制動操舵制御に供する目標スリップ率の設定の具体的処理内容を示すもので、制動操舵制御にはオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御が含まれ、各車輪に関しオーバーステア抑制制御及び/又はアンダーステア抑制制御に応じた目標スリップ率が設定される。先ず、ステップ201,202においてオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御の開始・終了判定が行なわれる。
【0037】
ステップ201で行なわれるオーバーステア抑制制御の開始・終了判定は、図9に斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行なわれる。即ち、判定時における車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβの値に応じて制御領域に入ればオーバーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればオーバーステア抑制制御が終了とされ、図9に矢印の曲線で示したように制御される。また、後述するように、図9に二点鎖線で示した境界から制御領域側に外れるに従って制御量が大となるように各車輪の制動力が制御される。
【0038】
一方、ステップ202で行なわれるアンダーステア抑制制御の開始・終了判定は、図10に斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行なわれる。即ち、判定時において目標横加速度Gytに対する実横加速度Gyaの変化に応じて、一点鎖線で示す理想状態から外れて制御領域に入ればアンダーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればアンダーステア抑制制御が終了とされ、図10に矢印の曲線で示したように制御される。
【0039】
続いて、ステップ203にてオーバーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、制御中でなければステップ204にてアンダーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、これも制御中でなければステップ209にて液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率が設定された後メインルーチンに戻る。尚、この液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率の設定については、図6を参照して後述する。ステップ204にてアンダーステア抑制制御と判定されたときにはステップ205に進み、各車輪の目標スリップ率が後述するアンダーステア抑制制御用に設定される。ステップ203にてオーバーステア抑制制御と判定されると、ステップ206に進みアンダーステア抑制制御か否かが判定され、アンダーステア抑制制御でなければステップ207において各車輪の目標スリップ率は後述するオーバーステア抑制制御用に設定される。また、ステップ206でアンダーステア抑制制御が制御中と判定されると、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御が同時に行なわれることになり、ステップ208にて同時制御用の目標スリップ率が設定される。
【0040】
ステップ207におけるオーバーステア抑制制御用の目標スリップ率の設定には、車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβが用いられる。また、アンダーステア抑制制御における目標スリップ率の設定には、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaとの差が用いられる。この目標横加速度GytはGyt=γ(θf)・Vsoに基づいて求められる。ここで、γ(θf)はγ(θf)={θf/( N・L)}・Vso/(1+Kh ・Vso2 )として求められ、Kh はスタビリティファクタ、Nはステアリングギヤレシオ、Lはホイールベースを表す。
【0041】
ステップ205における各車輪の目標スリップ率は、旋回外側の前輪がStufoに設定され、旋回内側の前輪がStufiに設定され、旋回内側の後輪がSturiに設定される。ここで示したスリップ率(S)の符号については "t"は「目標」を表し、後述の「実測」を表す "a"と対比される。 "u"は「アンダーステア抑制制御」を表し、 "r"は「後輪」を表し、 "o"は「外側」を、 "i"は「内側」を夫々表す。
【0042】
ステップ207における各車輪の目標スリップ率は、旋回外側の前輪がStefoに設定され、旋回内側の後輪がSteriに設定される。ここで、 "e"は「オーバーステア抑制制御」を表す。そして、ステップ208における各車輪の目標スリップ率は、旋回外側の前輪がStefoに設定され、旋回内側の前輪がStufiに設定され、旋回内側の後輪がSturiに夫々設定される。即ち、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御が同時に行なわれるときには、旋回外側の前輪はオーバーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定され、旋回内側の車輪は何れもアンダーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定される。尚、何れの場合も旋回外側の後輪(即ち、前輪駆動車における従動輪)は推定車体速度設定用のため非制御とされている。
【0043】
オーバーステア抑制制御に供する旋回外側の前輪の目標スリップ率Stefoは、Stefo=K1 ・β+K2 ・Dβとして設定され、旋回内側の後輪の目標スリップ率Steriは”0”とされる。ここで、K1 ,K2は定数で、加圧方向(制動力を増大する方向)の制御を行なう値に設定される。一方、アンダーステア抑制制御に供する目標スリップ率は、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaの偏差ΔGy に基づいて以下のように設定される。即ち、旋回外側の前輪に対する目標スリップ率StufoはK3 ・ΔGy と設定され、定数K3 は加圧方向(もしくは減圧方向)の制御を行なう値に設定される。また、旋回内側の後輪に対する目標スリップ率SturiはK4 ・ΔGy に設定され、定数K4 は加圧方向の制御を行なう値に設定される。同様に、旋回内側の前輪に対する目標スリップ率StufiはK5 ・ΔGy に設定され、定数K5 は加圧方向の制御を行なう値に設定される。
【0044】
図6は図5のステップ209で実行される液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率の設定処理を示すもので、先ず、ステップ301において、圧力センサPSで検出されたマスタシリンダ液圧Pmが所定値Kp1と比較され、この値以下であれば更にステップ302に進み、図3のステップ106で演算された路面摩擦係数μが所定値Kμと比較される。路面摩擦係数μが所定値Kμ以上の高摩擦係数であればステップ303に進み、図7に示すマップに基づき液圧スタンバイ制御を実行する制御領域にあるか否かが判定される。即ち、ステップ303の判定時における車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβの値に応じて、図7に斜線で示す制御領域に入れば液圧スタンバイ制御実行と判定され、制御領域に入らない場合には液圧スタンバイ制御は行なわれない。
【0045】
而して、ステップ303において液圧スタンバイ制御を実行する制御領域にあると判定されたときには、ステップ304にて液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率が設定される。具体的には、オーバーステア抑制制御に供する旋回外側の前輪の目標スリップ率Stefoが、液圧スタンバイ制御用のスリップ率Ststbに設定され、旋回内側の後輪の目標スリップ率Steriは”0”とされる。尚、本実施形態では、アンダーステア抑制制御に供する目標スリップ率に対しては、液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率は設定されない。
【0046】
一方、ステップ301にてマスタシリンダ液圧Pmが所定値Kp1を超えたと判定され、ステップ302にて路面摩擦係数μが所定値Kμ未満と判定され、あるいはステップ303においてスタンバイ制御を実行する制御領域にないと判定されたときには、ステップ305に進み、液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率が設定されることなく、図5のルーチンに戻る。結局、ブレーキペダルBPの操作量が所定量を超えて実質的にブレーキ操作が行なわれていると判定されたときにはホイールシリンダ液圧は十分昇圧されているので、液圧スタンバイ制御を必要とせず、また、車両の走行路面が低摩擦係数路面であるときにも液圧スタンバイ制御を必要としないので、液圧スタンバイ制御用の目標スリップ率が設定されることはない。
【0047】
図8は図4のステップ118で行なわれる液圧サーボ制御の処理内容を示すもので、各車輪についてホイールシリンダ液圧のスリップ率サーボ制御が行なわれる。先ず、前述のステップ205,207,208又は209にて設定された目標スリップ率St** がステップ401にて読み出され、これらがそのまま各車輪の目標スリップ率St** として読み出される。
【0048】
続いてステップ402において、各車輪毎にスリップ率偏差ΔSt** が演算されると共に、ステップ403にて車体加速度偏差ΔDVso**が演算される。ステップ402においては、各車輪の目標スリップ率St** と実スリップ率Sa** の差が演算されスリップ率偏差ΔSt** が求められる(ΔSt** =St** −Sa** )。また、ステップ403においては車両重心位置での推定車体加速度DVsoと制御対象の車輪における車輪加速度DVw** の差が演算され、車体加速度偏差ΔDVso**が求められる。このときの各車輪の実スリップ率Sa** 及び車体加速度偏差ΔDVso**はアンチスキッド制御、トラクション制御等の制御モードに応じて演算が異なるが、これらについては説明を省略する。
【0049】
続いて、ステップ404に進み、各制御モードにおけるブレーキ液圧制御に供する一つのパラメータY**がGs** ・ΔSt** として演算される。ここでGs** はゲインであり、車体横すべり角βに応じて図11に実線で示すように設定される。また、ステップ405において、ブレーキ液圧制御に供する別のパラメータX**がGd** ・ΔDVso**として演算される。このときのゲインGd** は図11に破線で示すように一定の値である。この後、ステップ406に進み、各車輪毎に、上記パラメータX**,Y**に基づき、図12に示す制御マップに従って液圧モードが設定される。図12においては予め急減圧領域、パルス減圧領域、保持領域、パルス増圧領域及び急増圧領域の各領域が設定されており、ステップ406にてパラメータX**及びY**の値に応じて、何れの領域に該当するかが判定される。尚、非制御状態では液圧モードは設定されない(ソレノイドオフ)。
【0050】
ステップ406にて今回判定された領域が、前回判定された領域に対し、増圧から減圧もしくは減圧から増圧に切換わる場合には、ブレーキ液圧の立下りもしくは立上りを円滑にする必要があるので、ステップ407において増減圧補償処理が行われる。例えば急減圧モードからパルス増圧モードに切換るときには、急増圧制御が行なわれ、その時間は直前の急減圧モードの持続時間に基づいて決定される。上記液圧モード及び増減圧補償処理に応じて、ステップ408にて液圧制御ソレノイドの駆動処理が行なわれ、開閉弁PC*等のソレノイドが駆動され、各車輪の制動力が制御される。そして、ステップ409にてモータMの駆動処理が行なわれる。尚、上記の実施形態ではスリップ率によって制御することとしているが、制御目標としてはスリップ率のほか、各車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧等、各車輪に付与される制動力に対応する目標値であればどのような値を用いてもよい。
【0051】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明の車両の制動制御装置においては、制御前加圧手段を備え、ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、制動制御手段による制御開始前に液圧ポンプを駆動し、液圧ポンプからホイールシリンダに至る液圧系に対し予めブレーキ液圧を付与するように構成されており、実質的にブレーキ操作が行なわれていなければ制御前加圧が行なわれるので、所望の制動制御に円滑に移行させることができ、実質的にブレーキ操作が行なわれている場合には制御前加圧が行なわれないので、無用な液圧ポンプの駆動を排除し騒音を低減することができる。特に、制御前加圧を行なう条件として、ブレーキペダルの操作量が所定量以下であることに加え、摩擦係数が所定値以上であることも必要とされているので、路面状態に応じて適切に制御前加圧を行なうことができる。
【0053】
更に、請求項2及び請求項3に記載の制動制御装置においては、制御前加圧が必要なホイールシリンダに至る液圧系のみに対し予めブレーキ液圧を付与するように構成されているので、無用な制御前加圧を排除し騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両の制動制御装置の液圧系を示す構成図である。
【図2】本発明の制動制御装置の一実施形態の全体構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における制動操舵制御に供する目標スリップ率設定の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態における液圧スタンバイ制御に供する目標スリップ率設定の処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態における液圧スタンバイ制御の実行領域を判定するためのマップを示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態における液圧サーボ制御の処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態におけるオーバステア抑制制御の開始・終了判定領域を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態におけるアンダーステア抑制制御の開始・終了判定領域を示すグラフである。
【図11】本発明の一実施形態における液圧制御に供するパラメータ演算用のゲインGs** ,Gd** を示すグラフである。
【図12】本発明の一実施形態に供する制御マップを示すグラフである。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル, MC マスタシリンダ
M 電動モータ, HP1,HP2 液圧ポンプ
RS1,RS2 リザーバ
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ
WS1〜WS4 車輪速度センサ
FR,FL,RR,RL 車輪
SC1,SC2 第1の開閉弁, SI1,SI2 第2の開閉弁
PC1〜PC8 開閉弁
EG エンジン, ECU 電子制御装置
Claims (3)
- 車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記ホイールシリンダの各々との間に介装し前記ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整するモジュレータと、該モジュレータを介して前記ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する液圧ポンプと、前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉すると共に、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する弁装置と、該弁装置及び前記モジュレータを制御し前記各車輪に対する制動力を制御する制動制御手段と、前記ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、前記車両の走行路面の摩擦係数を検出する摩擦係数検出手段と、前記ブレーキ操作量検出手段が検出した前記ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ前記摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、前記制動制御手段による制御開始前に前記液圧ポンプを駆動し、前記液圧ポンプから前記ホイールシリンダに至る液圧系に対し予めブレーキ液圧を付与する制御前加圧手段とを備えたことを特徴とする車両の制動制御装置。
- 前記制御前加圧手段は、前記ブレーキ操作量検出手段が検出した前記ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ前記摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、前記制動制御手段による制御開始前に前記液圧ポンプを駆動し、前記液圧ポンプから前記車両前方の車輪に装着したホイールシリンダに至る液圧系のみに対し予めブレーキ液圧を付与するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両の制動制御装置。
- 車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、前記ホイールシリンダを二組に分割し該二組のホイールシリンダの各々と前記マスタシリンダとの間を第1及び第2のブレーキ液圧系統を介して接続し、該第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整する二組のモジュレータと、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記モジュレータの各々を介して前記ホイールシリンダの各々に昇圧したブレーキ液を吐出する一対の液圧ポンプと、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉すると共に、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの各々の吸込側に連通接続する液圧路を開閉する二組の弁装置と、該弁装置及び前記モジュレータを制御し前記各車輪に対する制動力を制御する制動制御手段と、前記ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量検出手段と、前記車両の走行路面の摩擦係数を検出する摩擦係数検出手段と、前記ブレーキペダルの操作量が所定量以下であり、且つ前記摩擦係数検出手段が検出した摩擦係数が所定値以上であることを条件に、前記制動制御手段による制御開始前に前記液圧ポンプの各々を駆動し、前記液圧ポンプの各々から前記ホイールシリンダに至る液圧系に対し予めブレーキ液圧を付与して制御前加圧を行なう制御前加圧手段とを備え、該制御前加圧手段が、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の何れか一方のブレーキ液圧系統における一方のホイールシリンダに対し前記制御前加圧を行なっているときには、他方のホイールシリンダと前記液圧ポンプとの連通を遮断するように制御することを特徴とする車両の制動制御装置。
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