JP3885361B2 - 車両の制動制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液圧ポンプによって低圧リザーバのブレーキ液をモジュレータを介してホイールシリンダに吐出し種々の制動制御を行なう車両の制動制御装置に関し、特に、液圧ポンプの吸込側に対する補助加圧機能を備えた車両の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
従来より、車両制御時のブレーキペダルの操作力を低減するため倍力装置が利用されており、負圧式のバキュームブースタが普及している。これは、常時エンジンのインテークマニホールドに連通して負圧を導入する定圧室と、この定圧室から遮断し大気に連通する状態及び定圧室に連通して負圧を導入する状態を選択的に設定する変圧室と、定圧室と変圧室との間の連通を断続するバキュームバルブ、及び変圧室と大気との間の連通を断続するエアバルブを有する弁機構と、ブレーキペダルの操作に応じて弁機構を駆動しバキュームバルブ及び/又はエアバルブを開閉することによって、定圧室と変圧室との間にブレーキペダルの操作力に応じた差圧を発生させることにより、ブレーキペダルの操作力を増幅してマスタシリンダに伝達するように構成されている。
【0003】
上記のようなバキュームブースタに関し、例えば特開平5−24533号公報においては、電気的に作動するタンデムブレーキ倍力装置が提案されている。これは、ブレーキペダル非操作時においてもソレノイドバルブの作動によって変圧室を大気に連通させることにより、変圧室と定圧室との間に大きな圧力差を発生させて出力を増大させるように構成されたもので、自動ブレーキに供されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の自動ブレーキに関連し、例えば車両の旋回時にオーバーステアの状態となる場合に、運転者のブレーキ操作とは無関係に旋回外側前輪のホイールシリンダに対し液圧ポンプによってブレーキ液圧を供給してオーバーステアを抑制する制動操舵制御機能等、種々の制動制御機能を有する車両の制動制御装置においては、ブレーキペダル操作とは無関係に自動的に、液圧ポンプの出力液圧によってホイールシリンダに対しブレーキ液圧を付与する、自動加圧が行なわれている。この自動加圧による制動制御が開始したときに液圧ポンプが駆動を開始するが、特に低温時にはブレーキ液の流路抵抗が大となり、所望の増圧勾配を得ることが困難である。このため、自動加圧と同時に、加圧したブレーキ液を液圧ポンプの吸込側に供給して自動加圧を補助する補助加圧機能を付加することが要請されている。
【0005】
このような自動加圧による制動制御に対しては、バキュームブースタの駆動制御と組み合わせることが考えられ、例えば特開平7−81540号公報においてはバキュームブースタの全出力を補助加圧に利用するように構成されていると推察される。同公報の記載内容を理解することは至難であるが、一つのブレーキ液圧系統に対して自動加圧による制動制御のための補助加圧が行なわれているときには、他のブレーキ液圧系統は保持状態とし、ホイールシリンダに対しブレーキ液圧が供給されないように構成されていると推察される。
【0006】
本来、一つのブレーキ液圧系統に対して自動加圧による制動制御が行なわれている場合、他のブレーキ液圧系統は増圧可能な状態としておき、ブレーキペダルが操作されたときには他のブレーキ液圧系統の車輪に対しても直ちに制動力を付与し得るようにしておくことが必要であるが、一つのブレーキ液圧系統に対する補助加圧を行なう際にバキュームブースタの出力が大きい場合には、他のブレーキ液圧系統の車輪に対し大きな制動力が付与されることになる。これは、バキュームブースタの加圧源としてエンジンのインテークマニホールド負圧を利用していることにも起因するが、この負圧が大きく変動するというだけでなく、特にインテークマニホールド負圧が大であるときにバキュームブースタが補助加圧手段として機能すると、切換直後に他のブレーキ液圧系統に対し大きな制動力が付与されることになる。このため、摩擦係数が小さい路面では当該車輪がロック状態となるおそれがある。従って、前掲の特開平7−81540号公報においてはブレーキペダルの非操作時には他のブレーキ液圧系統は保持状態とすることとしたものと推察される。
【0007】
然し乍ら、他のブレーキ液圧系統を保持状態としておくと、ブレーキペダルを操作したときにそのブレーキ液圧系統に対してはブレーキペダルの操作量に対応した制動力を付与することができないということになり、望ましくない。これに対し、前述のように補助加圧時に他のブレーキ液圧系統を保持状態としておき、ブレーキペダルを操作したときに単に増圧状態に切換えるように構成すると、切換直後にブレーキペダルが一挙に前進するためブレーキフィーリング上好ましくない。従って、一つのブレーキ液圧系統に関し補助加圧を行なうときには、他のブレーキ液圧系統は増圧可能な状態としておき、補助加圧手段の出力を所定の圧力範囲内に制御することが望ましい。
【0008】
そこで、本発明は、低圧リザーバのブレーキ液を液圧ポンプによってモジュレータを介してホイールシリンダに吐出し種々の制動制御を行なう車両の制動制御装置において、自動加圧による制動制御のための補助加圧が行なわれるときには、補助加圧手段の出力を所定の圧力範囲内に制御し、適切な制動作動を行ない得るようにすることを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明の車両の制動制御装置は請求項1に記載のように、車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記ホイールシリンダの各々との間に介装し前記ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整するモジュレータと、該モジュレータを介して前記ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する液圧ポンプと、前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉する常開の第1の開閉弁と、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する常閉の第2の開閉弁と、該第2の開閉弁を含む前記液圧ポンプの吸込側に対し、少なくとも当該第2の開閉弁が開位置となったときに、加圧したブレーキ液を供給し補助加圧を行なう補助加圧手段と、該補助加圧手段を制御すると共に前記モジュレータを制御する制動制御手段と、該制動制御手段が少なくとも一つの車輪に対し前記補助加圧手段を制御して自動加圧による制動制御を行っているときには、前記補助加圧手段による補助加圧量を所定の圧力範囲内に調整する補助加圧量調整手段とを備えることとしたものである。
【0010】
また、請求項2に記載のように、前記マスタシリンダを倍力駆動するバキュームブースタを備えたものとし、前記補助加圧手段が、前記ブレーキペダルの操作とは無関係に前記バキュームブースタを少なくとも部分的に駆動する駆動手段を備え、前記補助加圧量調整手段が、前記マスタシリンダの出力液圧、又は前記バキュームブースタに供給する負圧に応じて前記駆動手段を制御するように構成してもよい。尚、前記補助加圧手段として、前記バキュームブースタに代えて、別のモータ駆動の液圧ポンプを用いることとしてもよい。
【0011】
更に、請求項3に記載のように、前記バキュームブースタが、可動壁と、該可動壁の前方に形成し、前記車両に搭載したエンジンのインテークマニホールドに連通して負圧を導入する定圧室と、前記可動壁の後方に形成し、前記定圧室から遮断し大気に連通する状態及び前記定圧室に連通して負圧を導入する状態を選択的に設定する変圧室と、前記ブレーキペダルの操作に応じて、前記定圧室と前記変圧室との間の連通を断続すると共に、前記変圧室と大気との間の連通を断続する弁機構と、前記定圧室内に配置し、前記ブレーキペダルの移動に伴い前記マスタシリンダを駆動すると共に、前記ブレーキペダルとは無関係に前記マスタシリンダを駆動する補助可動壁と、該補助可動壁と前記可動壁との間に形成する補助変圧室とを備え、前記駆動手段が、前記補助変圧室を前記インテークマニホールドに連通して負圧を導入する第1位置と、前記補助変圧室を大気に連通する第2位置とを選択的に切換える切換弁を備えて成り、前記補助加圧量調整手段が、前記切換弁の前記第1位置と前記第2位置の切換割合を前記マスタシリンダの出力液圧、又は前記インテークマニホールドの負圧に応じて調整するように構成することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。先ず、図2は本発明の制動制御装置の一実施形態を含む車両の全体構成を示すものであり、エンジンEGはスロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを備えた内燃機関で、スロットル制御装置THにおいてはアクセルペダルAPの操作に応じてメインスロットルバルブMTのメインスロットル開度が制御される。また、電子制御装置ECUの出力に応じて、スロットル制御装置THのサブスロットルバルブSTが駆動されサブスロットル開度が制御されると共に、燃料噴射装置FIが駆動され燃料噴射量が制御されるように構成されている。本実施形態のエンジンEGは変速制御装置GSを介して車両前方の車輪FL,FRに連結されており、所謂前輪駆動方式が構成されている。制動系については、車輪FL,FR,RL,RRに夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されており、これらのホイールシリンダWfl等にブレーキ液圧制御装置BCが接続されている。尚、車輪FLは運転席からみて前方左側の車輪を示し、以下車輪FRは前方右側、車輪RLは後方左側、車輪RRは後方右側の車輪を示しており、本実施形態では所謂X配管が構成されている。
【0013】
車輪FL,FR,RL,RRには車輪速度センサWS1乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチBS、車両前方の車輪FL,FRの舵角δf を検出する前輪舵角センサSSf、車両の横加速度を検出する横加速度センサYG及び車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYS等が電子制御装置ECUに接続されている。ヨーレイトセンサYSにおいては、車両重心を通る鉛直軸回りの車両回転角(ヨー角)の変化速度、即ちヨー角速度(ヨーレイト)が検出され、実ヨーレイトγとして電子制御装置ECUに出力される。尚、従動輪側の左右の車輪(本実施形態では車両前方の車輪FL,FR)の車輪速度差Vfd(=Vwfr −Vwfl )に基づき実ヨーレイトγを推定することができるので、車輪速度センサWS1及びWS2の検出出力を利用することとすればヨーレイトセンサYSを省略することができる。
【0014】
本実施形態の電子制御装置ECUは、図2に示すように、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM,RAM、入力ポートIPT及び出力ポートOPT等から成るマイクロコンピュータCMPを備えている。上記車輪速度センサWS1乃至WS4、ブレーキスイッチBS、前輪舵角センサSSf、ヨーレイトセンサYS、横加速度センサYG等の出力信号は増幅回路AMPを介して夫々入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力ポートOPTからは駆動回路ACTを介してスロットル制御装置TH及びブレーキ液圧制御装置BCに夫々制御信号が出力されるように構成されている。マイクロコンピュータCMPにおいては、メモリROMは図3乃至図6に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。尚、スロットル制御等の各制御毎に、もしくは関連する制御を適宜組合せて複数のマイクロコンピュータを構成し、相互間を電気的に接続することとしてもよい。
【0015】
上記のブレーキ液圧制御装置BCを含む制動系は、図1に示すように、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍力駆動され、低圧リザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の二つのブレーキ液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。マスタシリンダMCは二つの圧力室を有するタンデム型のマスタシリンダで、一方の圧力室は車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統に連通接続され、他方の圧力室は車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に連通接続されている。尚、マスタシリンダMCの出力側には、その出力液圧(マスタシリンダ液圧)を検出する圧力センサPSが設けられている。
【0016】
本実施形態のバキュームブースタVBは、従前のバキュームブースタと同様の構成であり、可動壁B1を介して定圧室B2と変圧室B3が形成されており、可動壁B1はブレーキペダルBPに連結されている。可動壁B1には、定圧室B2と変圧室B3との間の連通を断続するバキュームバルブ(図示せず)と、変圧室B3と大気との間の連通を断続するエアバルブ(図示せず)から成る弁機構B4が設けられている。そして、定圧室B2は常時エンジンEGのインテークマニホールド(図示せず)に連通し負圧が導入されるように構成されている。一方、変圧室B3は、弁機構B4によって、定圧室B2と遮断され大気に連通する状態と、定圧室B2と連通して負圧が導入される状態が選択されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPの操作に応じて弁機構B4のバキュームバルブ及びエアバルブが開閉し、定圧室B2と変圧室B3との間にブレーキペダルBPの操作力に応じた差圧が生じ、その結果、ブレーキペダルBPの操作力に応じて増幅された出力がマスタシリンダMCに伝達される。
【0017】
本実施形態のバキュームブースタVBにおいては、更に、定圧室B2内に補助可動壁B5が配置され、可動壁B1との間に補助変圧室B6が形成されている。補助可動壁B5はブレーキペダルBPの移動と共にマスタシリンダMC方向に移動し得るが、ブレーキペダルBPとは無関係にマスタシリンダMC方向に移動しこれを駆動し得るように構成されている。即ち、補助変圧室B6は、ブースタ切換弁SBの作動に応じて、大気に連通する状態と、エンジンEGのインテークマニホールド(図示せず)に連通して負圧が導入される状態が選択されるように構成されている。ブースタ切換弁SBは3ポート2位置電磁切換弁で構成されており、図1に示すように、オフ時(常態)の第1位置で補助変圧室B6が定圧室B2と共にエンジンEGのインテークマニホールドに連通接続され、オンとされた第2位置で補助変圧室B6が大気(図1にARで示す)に連通するように切換えられる。
【0018】
而して、ブースタ切換弁SBを介して補助変圧室B6に負圧が導入されておれば補助可動壁B5は可動壁B1に対し一定の距離に維持され、ブレーキペダルBPの移動と共にマスタシリンダMC方向に移動するが、補助変圧室B6が大気に連通すると、負圧の定圧室B2との間に差圧が生じ、その結果、ブレーキペダルBPの操作とは無関係に(仮令、ブレーキペダルBPが非操作状態であっても)、補助可動壁B5の移動に応じてマスタシリンダMCが駆動される。
【0019】
本実施形態の車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、一方の圧力室は主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続されている。主液圧路MFには常開の第1の開閉弁SC1(所謂カットオフ弁として機能するもので、以下、単に開閉弁SC1という)が介装されている。また、一方の圧力室は補助液圧路MFcを介して後述する逆止弁CV5,CV6の間に接続されている。補助液圧路MFcには常閉の第2の開閉弁SI1(以下、単に開閉弁SI1という)が介装されている。これらの開閉弁は何れも2ポート2位置の電磁開閉弁で構成されている。分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC1及びPC2(以下、単に開閉弁PC1,PC2という)が介装されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が介装されている。
【0020】
逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容しホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを制限するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び第1の位置(図示の状態)の開閉弁SC1を介してホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいては低圧リザーバLRSに戻されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPが解放されたときに、ホイールシリンダWfr,Wrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、夫々常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁PC5,PC6(以下、単に開閉弁PC5,PC6という)が介装されており、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRS1に接続されている。
【0021】
車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、上記開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6によって本発明にいうモジュレータが構成されている。また、開閉弁PC1,PC2の上流側で分岐液圧路MFr,MFlに連通接続する液圧路MFpに、液圧ポンプHP1が介装され、その吸込側には逆止弁CV5,CV6を介してリザーバRS1が接続されている。また、液圧ポンプHP1の吐出側は、逆止弁CV7及びダンパDP1を介して夫々開閉弁PC1,PC2に接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に一つの電動モータMによって駆動され、吸込側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力するように構成されている。リザーバRS1は、マスタシリンダMCの低圧リザーバLRSとは独立して設けられるもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、後述する種々の制御に必要な容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
【0022】
マスタシリンダMCは液圧路MFcを介して液圧ポンプHP1の吸込側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5はリザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向の流れを許容するものである。また、逆止弁CV6,CV7は液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。而して、開閉弁SI1は、図1に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側との連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側が連通するように切り換えられる。
【0023】
更に、開閉弁SC1に並列に、マスタシリンダMCから開閉弁PC1,PC2方向へのブレーキ液の流れを制限し、開閉弁PC1,PC2側のブレーキ液圧がマスタシリンダMC側のブレーキ液圧に対し所定の差圧以上大となったときにマスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容するリリーフ弁RV1と、ホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁AV1が介装されている。リリーフ弁RV1は、液圧ポンプHP1から吐出される加圧ブレーキ液がマスタシリンダMCの出力液圧より所定の差圧以上大となったときに、マスタシリンダMCを介して低圧リザーバLRSにブレーキ液を還流するもので、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力に調圧される。また、液圧ポンプHP1の吐出側にダンパDP1が配設され、後輪側のホイールシリンダWrlに至る液圧路にプロポーショニングバルブPV1が介装されている。
【0024】
車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統においても同様に、リザーバRS2、ダンパDP2及びプロポーショニングバルブPV2をはじめ、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁SC2(第1の開閉弁)、常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁SI2(第2の開閉弁),PC7,PC8、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC3,PC4、逆止弁CV3,CV4,CV8乃至CV10、リリーフ弁RV2並びに逆止弁AV2が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1,HP2は連続して駆動される。尚、後述のフローチャートにおいては、二つのブレーキ液圧系統に供される開閉弁等を代表して表すときには符号(*)を用いる。
【0025】
上記の構成になる実施形態の作用を説明すると、通常のブレーキ作動時においては、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動モータMは停止している。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれると、バキュームブースタVBによってマスタシリンダMCが倍力駆動され、マスタシリンダMCの二つの圧力室から、マスタシリンダ液圧が夫々車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に出力され、開閉弁SC1,SC2並びに開閉弁PC1乃至PC8を介して、ホイールシリンダWfr,Wrl,Wfl,Wrrに供給される。車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統は同様の構成であるので、以下、代表して車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統について説明する。
【0026】
例えば、ブレーキ作動中にアンチスキッド制御に移行し、例えば車輪FR側がロック傾向にあると判定されると、開閉弁SC1は開位置のままで、開閉弁PC1が閉位置とされると共に、開閉弁PC5が開位置とされる。而して、ホイールシリンダWfrは開閉弁PC5を介してリザーバRS1に連通し、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1内に流出し減圧される。
【0027】
ホイールシリンダWfrがパルス増圧モードとなると、開閉弁PC5が閉位置とされると共に開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が開位置の開閉弁PC1を介してホイールシリンダWfrに供給される。そして、開閉弁PC1が断続制御され、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液は増圧と保持が繰り返されてパルス的に増大し、緩やかに増圧される。ホイールシリンダWfrに対し急増圧モードが設定されたときには、開閉弁PC2,PC5が閉位置とされた後、開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が供給される。そして、ブレーキペダルBPが解放され、ホイールシリンダWfrの液圧よりマスタシリンダ液圧の方が小さくなると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液が逆止弁CV1及び開位置の開閉弁SC1を介してマスタシリンダMC、ひいては低圧リザーバLRSに戻る。このようにして、車輪毎に独立した制動力制御が行なわれる。
【0028】
そして、トラクション制御に移行し、例えば車輪FRの加速スリップ防止制御が行なわれる場合には、開閉弁SC1が閉位置に切り換えられると共に、開閉弁SI1が開位置に切り換えられ、ホイールシリンダWrlに接続された開閉弁PC2が閉位置とされ、開閉弁PC1が開位置とされる。また、ブースタ切換弁SBが第2位置に切り換えられ、補助変圧室B6が大気に連通し、補助可動壁B5がブレーキペダルBPの操作とは無関係に移動し、マスタシリンダMCが倍力駆動される。従って、液圧ポンプHP1の吸込側には加圧されたブレーキ液が充填された状態となる。即ち、マスタシリンダMC及び開位置の開閉弁SI1を介して導入された低圧リザーバLRSからのブレーキ液が吸引され、前述のバキュームブースタVBの補助加圧機能によって液圧ポンプHP1の吸込側が昇圧される。この状態で、電動モータMによって液圧ポンプHP1が駆動されると、開閉弁PC1を介して駆動輪側のホイールシリンダWfrに対し直ちに加圧ブレーキ液が供給される。尚、開閉弁PC1が閉位置とされれば、ホイールシリンダWfrの液圧が保持される。
【0029】
而して、ブレーキペダルBPが非操作状態であっても、例えば車輪FRの加速スリップ防止制御時には、バキュームブースタVBにより補助加圧が行なわれ、液圧ポンプHP1の吸込側は直ちに加圧され、この加圧された状態で液圧ポンプHP1が駆動され、車輪FRの加速スリップ状態に応じて開閉弁PC1,PC5の断続制御により、ホイールシリンダWfrに対し、パルス増圧、パルス減圧及び保持の何れかの液圧モードが設定される。これにより、車輪FRに制動力が付与されて回転駆動力が制限され、加速スリップが防止され、適切にトラクション制御を行なうことができる。
【0030】
更に、車両の制動操舵制御時においては、例えば過度のオーバーステアを防止する場合には、これに対抗するモーメントを発生させる必要があり、この場合には或る一つの車輪のみに関し制動力を付与すると効果的である。即ち、車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、制動操舵制御時に開閉弁SC1が閉位置に切換えられると共に、開閉弁SI1が開位置に切換えられ、電動モータMが駆動され、液圧ポンプHP1からブレーキ液が吐出される。そして、開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6が適宜開閉制御され、ホイールシリンダWfr,Wrlの液圧がパルス増圧、減圧又は保持され、車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統も含め、前後の車輪間の制動力配分が車両のコーストレース性を維持し得るように制御される。この場合においても、前述と同様に、バキュームブースタVBによる補助加圧が行なわれ、液圧ポンプHP1の吸込側は直ちに加圧され、円滑な液圧制御に移行する。この状態で、電動モータMによって液圧ポンプHP1が駆動されると、開閉弁PC1を介して駆動輪側のホイールシリンダWfrに対し直ちに加圧ブレーキ液が供給される。
【0031】
上記開閉弁SC1,SC2,SI1,SI2並びに開閉弁PC1乃至PC8は前述の電子制御装置ECUによって駆動制御され、制動操舵制御を初めとする各種制御が行なわれる。例えば、車両が旋回運動中において、過度のオーバーステアと判定されたときには、例えば旋回外側の前輪に制動力が付与され、車両に対し外向きのヨーモーメント、即ち車両を旋回外側に向けるヨーモーメントが生ずるように制御される。これをオーバーステア抑制制御と呼び、安定性制御とも呼ばれる。また、車両が旋回運動中に過度のアンダーステアと判定されたときには、車両に対し内向きのヨーモーメント、即ち車両を旋回内側に向けるヨーモーメントが生ずるように制御される。これはアンダーステア抑制制御と呼び、コーストレース性制御とも呼ばれる。そして、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御は制動操舵制御と総称される。
【0032】
上記のように構成された本実施形態においては、電子制御装置ECUにより制動操舵制御、アンチスキッド制御等の一連の処理が行なわれ、イグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されると図3乃至図6等のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。図3は車両の制動制御作動を示すもので、先ずステップ101にてマイクロコンピュータCMPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号が読み込まれると共に、前輪舵角センサSSfの検出信号(舵角δf )、ヨーレイトセンサYSの検出信号(実ヨーレイトγ)及び横加速度センサYGの検出信号(即ち、実横加速度であり、Gyaで表す)が読み込まれる。
【0033】
次に、ステップ103に進み、各車輪の車輪速度Vw** (**は各車輪FR等を表す)が演算されると共に、これらが微分され各車輪の車輪加速度DVw** が求められる。続いて、ステップ104において各車輪の車輪速度Vw** の最大値が車両重心位置での推定車体速度Vsoとして演算される(Vso=MAX( Vw**))。また、各車輪の車輪速度Vw** に基づき各車輪毎に推定車体速度Vso**が求められ、必要に応じ、車両旋回時の内外輪差等に基づく誤差を低減するため正規化が行われる。更に、推定車体速度Vsoが微分され、車両重心位置での推定車体加速度(符号が逆の推定車体減速度を含む)DVsoが演算される。
【0034】
そして、ステップ105において、上記ステップ103及び104で求められた各車輪の車輪速度Vw** と推定車体速度Vso**(あるいは、正規化推定車体速度)に基づき各車輪の実スリップ率Sa** がSa** =(Vso**−Vw** )/Vso**として求められる。次に、ステップ106おいて、車両重心位置での推定車体加速度DVsoと横加速度センサYGの検出信号の実横加速度Gyaに基づき、路面摩擦係数μが近似的に(DVso2 +Gya2)1/2 として求められる。更に、路面摩擦係数を検出する手段として、直接路面摩擦係数を検出するセンサ等、種々の手段を用いることができる。
【0035】
続いて、ステップ107にて車体横すべり角速度Dβが演算されると共に、ステップ108にて車体横すべり角βが演算される。この車体横すべり角βは、車両の進行方向に対する車体のすべりを角度で表したもので、次のように演算し推定することができる。即ち、車体横すべり角速度Dβは車体横すべり角βの微分値dβ/dtであり、ステップ107にてDβ=Gy /Vso−γとして求めることができ、これをステップ108にて積分しβ=∫(Gy /Vso−γ)dtとして車体横すべり角βを求めることができる。尚、Gy は車両の横加速度、Vsoは車両重心位置での推定車体速度、γはヨーレイトを表す。あるいは、進行方向の車速Vx とこれに垂直な横方向の車速Vy の比に基づき、β=tan-1(Vy /Vx )として求めることもできる。
【0036】
そして、ステップ109に進み制動操舵制御モードとされ、後述するように制動操舵制御に供する目標スリップ率が設定され、後述のステップ117の液圧サーボ制御により、車両の運転状態に応じて各車輪に対する制動力が制御される。この制動操舵制御は、後述する全ての制御モードにおける制御に対し重畳される。この後ステップ110に進み、アンチスキッド制御開始条件を充足しているか否かが判定され、開始条件を充足し制動操舵時にアンチスキッド制御開始と判定されると、初期特定制御は直ちに終了しステップ111にて制動操舵制御及びアンチスキッド制御の両制御を行なうための制御モードに設定される。
【0037】
ステップ110にてアンチスキッド制御開始条件を充足していないと判定されたときには、ステップ112に進み前後制動力配分制御開始条件を充足しているか否かが判定され、制動操舵制御時に前後制動力配分制御開始と判定されるとステップ113に進み、制動操舵制御及び前後制動力配分制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、充足していなければステップ114に進みトラクション制御開始条件を充足しているか否かが判定される。制動操舵制御時にトラクション制御開始と判定されるとステップ115にて制動操舵制御及びトラクション制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、制動操舵制御時に何れの制御も開始と判定されていないときには、ステップ116にて制動操舵制御開始条件を充足しているか否かが判定される。
【0038】
ステップ116において制動操舵制御開始と判定されるとステップ117に進み制動操舵制御のみを行なう制御モードに設定される。そして、これらの制御モードに基づきステップ118にて液圧サーボ制御が行なわれた後ステップ102に戻る。尚、前後制動力配分制御モードにおいては、車両の制動時に車両の安定性を維持するように、後輪に付与する制動力の前輪に付与する制動力に対する配分が制御される。ステップ116において制動操舵制御開始条件も充足していないと判定されると、ステップ119にて全ての電磁弁のソレノイドがオフとされ図1に示す定常状態とされた後ステップ102に戻る。尚、ステップ111,113,115,117に基づき、必要に応じ、車両の運転状態に応じてスロットル制御装置THのサブスロットル開度が調整されエンジンEGの出力が低減され、駆動力が制限される。
【0039】
図4は図3のステップ109における制動操舵制御に供する目標スリップ率の設定の具体的処理内容を示すもので、制動操舵制御にはオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御が含まれ、各車輪に関しオーバーステア抑制制御及び/又はアンダーステア抑制制御に応じた目標スリップ率が設定される。先ず、ステップ201,202においてオーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御の開始・終了判定が行なわれる。
【0040】
ステップ201で行なわれるオーバーステア抑制制御の開始・終了判定は、図7に斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行なわれる。即ち、判定時における車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβの値に応じて制御領域に入ればオーバーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればオーバーステア抑制制御が終了とされ、図7に矢印の曲線で示したように制御される。また、後述するように、図7に二点鎖線で示した境界から制御領域側に外れるに従って制御量が大となるように各車輪の制動力が制御される。
【0041】
一方、ステップ202で行なわれるアンダーステア抑制制御の開始・終了判定は、図8に斜線で示す制御領域にあるか否かに基づいて行なわれる。即ち、判定時において目標横加速度Gytに対する実横加速度Gyaの変化に応じて、一点鎖線で示す理想状態から外れて制御領域に入ればアンダーステア抑制制御が開始され、制御領域を脱すればアンダーステア抑制制御が終了とされ、図8に矢印の曲線で示したように制御される。
【0042】
続いて、ステップ203にてオーバーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、制御中でなければステップ204にてアンダーステア抑制制御が制御中か否かが判定され、これも制御中でなければそのままメインルーチンに戻る。ステップ204にてアンダーステア抑制制御と判定されたときにはステップ205に進み、各車輪の目標スリップ率が後述するアンダーステア抑制制御用に設定される。ステップ203にてオーバーステア抑制制御と判定されると、ステップ206に進みアンダーステア抑制制御か否かが判定され、アンダーステア抑制制御でなければステップ207において各車輪の目標スリップ率は後述するオーバーステア抑制制御用に設定される。また、ステップ206でアンダーステア抑制制御が制御中と判定されると、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御が同時に行なわれることになり、ステップ208にて同時制御用の目標スリップ率が設定される。
【0043】
ステップ207におけるオーバーステア抑制制御用の目標スリップ率の設定には、車体横すべり角βと車体横すべり角速度Dβが用いられる。また、アンダーステア抑制制御における目標スリップ率の設定には、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaとの差が用いられる。この目標横加速度GytはGyt=γ(θf)・Vsoに基づいて求められる。ここで、γ(θf)はγ(θf)={θf/( N・L)}・Vso/(1+Kh ・Vso2 )として求められ、Kh はスタビリティファクタ、Nはステアリングギヤレシオ、Lはホイールベースを表す。
【0044】
ステップ205における各車輪の目標スリップ率は、旋回外側の前輪がStufoに設定され、旋回内側の前輪がStufiに設定され、旋回内側の後輪がSturiに設定される。ここで示したスリップ率(S)の符号については "t"は「目標」を表し、後述の「実測」を表す "a"と対比される。 "u"は「アンダーステア抑制制御」を表し、 "r"は「後輪」を表し、 "o"は「外側」を、 "i"は「内側」を夫々表す。
【0045】
ステップ207における各車輪の目標スリップ率は、旋回外側の前輪がStefoに設定され、旋回内側の後輪がSteriに設定される。ここで、 "e"は「オーバーステア抑制制御」を表す。そして、ステップ208における各車輪の目標スリップ率は、旋回外側の前輪がStefoに設定され、旋回内側の前輪がStufiに設定され、旋回内側の後輪がSturiに夫々設定される。即ち、オーバーステア抑制制御とアンダーステア抑制制御が同時に行なわれるときには、旋回外側の前輪はオーバーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定され、旋回内側の車輪は何れもアンダーステア抑制制御の目標スリップ率と同様に設定される。尚、何れの場合も旋回外側の後輪(即ち、前輪駆動車における従動輪)は推定車体速度設定用のため非制御とされている。
【0046】
オーバーステア抑制制御に供する旋回外側の前輪の目標スリップ率Stefoは、Stefo=K1 ・β+K2 ・Dβとして設定され、旋回内側の後輪の目標スリップ率Steriは”0”とされる。ここで、K1 ,K2は定数で、加圧方向(制動力を増大する方向)の制御を行なう値に設定される。一方、アンダーステア抑制制御に供する目標スリップ率は、目標横加速度Gytと実横加速度Gyaの偏差ΔGy に基づいて以下のように設定される。即ち、旋回外側の前輪に対する目標スリップ率StufoはK3 ・ΔGy と設定され、定数K3 は加圧方向(もしくは減圧方向)の制御を行なう値に設定される。また、旋回内側の後輪に対する目標スリップ率SturiはK4 ・ΔGy に設定され、定数K4 は加圧方向の制御を行なう値に設定される。同様に、旋回内側の前輪に対する目標スリップ率StufiはK5・ΔGyに設定され、定数K5は加圧方向の制御を行なう値に設定される。
【0047】
図5は図3のステップ118で行なわれる液圧サーボ制御の処理内容を示すもので、各車輪についてホイールシリンダ液圧のスリップ率サーボ制御が行なわれる。先ず、前述のステップ205,207又は208にて設定された目標スリップ率St** がステップ301にて読み出され、これらがそのまま各車輪の目標スリップ率St** として読み出される。
【0048】
続いてステップ302において、各車輪毎にスリップ率偏差ΔSt** が演算されると共に、ステップ303にて車体加速度偏差ΔDVso**が演算される。ステップ302においては、各車輪の目標スリップ率St** と実スリップ率Sa** の差が演算されスリップ率偏差ΔSt** が求められる(ΔSt** =St** −Sa** )。また、ステップ303においては車両重心位置での推定車体加速度DVsoと制御対象の車輪における車輪加速度DVw** の差が演算され、車体加速度偏差ΔDVso**が求められる。このときの各車輪の実スリップ率Sa** 及び車体加速度偏差ΔDVso**はアンチスキッド制御、トラクション制御等の制御モードに応じて演算が異なるが、これらについては説明を省略する。
【0049】
続いて、ステップ304に進み、各制御モードにおけるブレーキ液圧制御に供する一つのパラメータY**がGs** ・ΔSt** として演算される。ここでGs** はゲインであり、車体横すべり角βに応じて図9に実線で示すように設定される。また、ステップ305において、ブレーキ液圧制御に供する別のパラメータX**がGd** ・ΔDVso**として演算される。このときのゲインGd** は図9に破線で示すように一定の値である。この後、ステップ306に進み、各車輪毎に、上記パラメータX**,Y**に基づき、図10に示す制御マップに従って液圧モードが設定される。図10においては予め急減圧領域、パルス減圧領域、保持領域、パルス増圧領域及び急増圧領域の各領域が設定されており、ステップ306にてパラメータX**及びY**の値に応じて、何れの領域に該当するかが判定される。尚、非制御状態では液圧モードは設定されない(ソレノイドオフ)。
【0050】
ステップ306にて今回判定された領域が、前回判定された領域に対し、増圧から減圧もしくは減圧から増圧に切換わる場合には、ブレーキ液圧の立下りもしくは立上りを円滑にする必要があるので、ステップ307において増減圧補償処理が行われる。例えば急減圧モードからパルス増圧モードに切換るときには、急増圧制御が行なわれ、その時間は直前の急減圧モードの持続時間に基づいて決定される。上記液圧モード及び増減圧補償処理に応じて、ステップ308にて液圧制御ソレノイドの駆動処理が行なわれ、開閉弁PC*等のソレノイドが駆動され、各車輪の制動力が制御される。そして、ステップ309にてモータMの駆動処理、ステップ310にてブースタ切換弁SBの駆動処理が夫々行なわれる。即ち、トラクション制御、制動操舵制御等の自動加圧時にブースタ切換弁SBがオンされる。尚、上記の実施形態ではスリップ率によって制御することとしているが、オーバーステア抑制制御及びアンダーステア抑制制御の制御目標としてはスリップ率のほか、各車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧等、各車輪に付与される制動力に対応する目標値であればどのような値を用いてもよい。
【0051】
次に、図5のステップ310において行なわれるブースタ切換弁SBの駆動処理について、図6を参照して説明する。先ずステップ401において少なくとも一つの車輪が自動加圧による制動制御中であるか否かが判定される。この自動加圧とは、前述のようにトラクション制御、制動操舵制御等に際し液圧ポンプの出力液圧によってホイールシリンダに対しブレーキ液圧を自動的に付与することを意味する。従って、制動操舵制御を含まないアンチスキッド制御時には自動加圧は行なわれず、ステップ414に進みブースタ切換弁SBはオフ(第1位置)とされ、通常の増圧モードとされる。
【0052】
自動加圧による制動制御中であるときにはステップ402,403に進み、圧力センサPSによって検出されたマスタシリンダ液圧Pm が所定の圧力Kp1と所定の圧力Kp2(<Kp1)の範囲内の値であるか否かが判定され、所定の圧力Kp1を超えていると判定されたときにはステップ414に進み、ブースタ切換弁SBはオフ(第1位置)とされる。マスタシリンダ液圧Pm が所定の圧力Kp1と所定の圧力Kp2の範囲内の値と判定されたときには、ステップ404に進みブースタ切換弁SBの制御が開始し、更にステップ405に進む。ステップ403においてマスタシリンダ液圧Pm が所定の圧力Kp2以下であると判定されたときには、そのままステップ405に進む。尚、上限の所定の圧力Kp1としては例えば20 kgf/cm2に設定され、下限の所定の圧力Kp2としては例えば10 kgf/cm2に設定される。
【0053】
ステップ405においては、ブースタ切換弁SBの制御が行なわれている状態か否かが判定され、制御中でなければステップ413に進みブースタ切換弁SBはオン(第2位置)とされる。ブースタ切換弁SBの制御中と判定されると、ステップ406において、ブースタ切換弁SBの駆動デューティ比(オン時間及びオフ時間に対するオン時間の割合)の初期値Dyo(以下、単にデューティ比Dyoという)がマスタシリンダ液圧Pm の値に応じて演算される。例えば、本実施形態においてはステップ406に示すマップがメモリに格納されており、デューティ比Dyはマスタシリンダ液圧Pm が10 kgf/cm2以上で下限のデューティ比Dyo(50%)に固定され、マスタシリンダ液圧Pm が5 kgf/cm2以下で上限のデューティ比Dyo(100%)に固定される。マスタシリンダ液圧Pm が10 kgf/cm2と5 kgf/cm2の間は、デューティ比Dyoは50%と100%の間でマスタシリンダ液圧Pm に比例するように設定されている。
【0054】
そして、ステップ407に進み、そのときのデューティ比Dyoが例えば75%と比較され、これ以下であればステップ408に進み初期値のデューティ比Dyoがそのまま今回のデューティ比Dyiとされる。而して、この今回のデューティ比Dyiに基づきステップ409においてブースタ切換弁SBが切換制御される。一方、ステップ407においてデューティ比Dyoが75%を超えていると判定されたときには、ステップ407からステップ410に進み、デューティ比Dyoが75%を超えている時間tがi・Kt1(ここで、iは整数、Kt1は所定時間で例えば50 msec )と一致しているか否かが判定される。一致していなければそのままステップ412に進むが、一致していれば、ステップ411において、前回のデューティ比Dyi-1(初期値はDyo)に対し所定の変化量ΔDyが加算された値(Dyi-1+ΔDy)が今回のデューティ比Dyiとして設定される。
【0055】
そして、ステップ412に進み、デューティ比Dyiが上限の100%でブースタ切換弁SBが駆動され、その状態で制御開始後所定時間Kt2(例えば、0.3 sec)を経過したか否かが判定され、そうであればステップ413に進みデューティ比制御は終了とされブースタ切換弁SBがオン状態(第2位置)とされる。ステップ412の条件を充足していなければステップ409に進み、そのときのデューティ比Dyiでブースタ切換弁SBが駆動される。このように、ステップ407でデューティ比Dyiが75%を超えると、所定時間Kt1(50msec)毎に変化量ΔDyが加算されるように設定されているので、デューティ比Dyiが上限の100%に固定される迄の時間が短くなる。換言すれば、それだけブースタ切換弁SBの切換制御の回数が少なくなるので、作動騒音が低減される。
【0056】
尚、上記の実施形態ではマスタシリンダMCの出力液圧Pm に応じてブースタ切換弁SBの切換制御を行なうこととしたが、これに代えて、バキュームブースタVBの加圧源たるエンジンEGのインテークマニホールド負圧の大きさに応じてブースタ切換弁SBの切換制御を行なうこととしてもよい。
【0057】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明の車両の制動制御装置においては、少なくとも一つの車輪に対し補助加圧手段を制御して自動加圧による制動制御を行っているときには、その補助加圧量を補助加圧量調整手段によって所定の圧力範囲内に調整するように構成されているので、一つのブレーキ液圧系統に関し自動加圧による制動制御のための補助加圧が行なわれているときにも、補助加圧手段の出力を所定の圧力範囲内に適切に制御することができる。従って、他のブレーキ液圧系統を増圧可能な状態にしておいても、液圧ポンプに対する補助加圧によって他のブレーキ液圧系統の車輪に対し過大な制動力が加わることはなく、補助加圧中にブレーキペダルが操作されたときには直ちに制動力が付与され、適切な制動作動を行なうことができる。
【0058】
また、制動制御装置を請求項2又は3に記載のように構成した場合には、既存の装置に大きな改良を加えることなく補助加圧量を所定の圧力範囲内に調整することができるので、安価な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両の制動制御装置の液圧系を示す構成図である。
【図2】本発明の制動制御装置の一実施形態の全体構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態における制動操舵制御に供する目標スリップ率設定の処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における液圧サーボ制御の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態におけるブースタ切換弁SBの駆動処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態におけるオーバステア抑制制御の開始・終了判定領域を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態におけるアンダーステア抑制制御の開始・終了判定領域を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態における液圧制御に供するパラメータ演算用のゲインGs** ,Gd** を示すグラフである。
【図10】本発明の一実施形態に供する制御マップを示すグラフである。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル, MC マスタシリンダ
M 電動モータ, HP1,HP2 液圧ポンプ
RS1,RS2 リザーバ
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ
WS1〜WS4 車輪速度センサ
FR,FL,RR,RL 車輪
SC1,SC2 第1の開閉弁, SI1,SI2 第2の開閉弁
PC1〜PC8 開閉弁, SB ブースタ切換弁
EG エンジン, ECU 電子制御装置

Claims (3)

  1. 車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、該マスタシリンダと前記ホイールシリンダの各々との間に介装し前記ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整するモジュレータと、該モジュレータを介して前記ホイールシリンダに対し昇圧したブレーキ液を吐出する液圧ポンプと、前記マスタシリンダと前記モジュレータとを連通接続する液圧路を開閉する常開の第1の開閉弁と、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する常閉の第2の開閉弁と、該第2の開閉弁を含む前記液圧ポンプの吸込側に対し、少なくとも当該第2の開閉弁が開位置となったときに、加圧したブレーキ液を供給し補助加圧を行なう補助加圧手段と、該補助加圧手段を制御すると共に前記モジュレータを制御する制動制御手段と、該制動制御手段が少なくとも一つの車輪に対し前記補助加圧手段を制御して自動加圧による制動制御を行っているときには、前記補助加圧手段による補助加圧量を所定の圧力範囲内に調整する補助加圧量調整手段とを備えたことを特徴とする車両の制動制御装置。
  2. 前記マスタシリンダを倍力駆動するバキュームブースタを備え、前記補助加圧手段が、前記ブレーキペダルの操作とは無関係に前記バキュームブースタを少なくとも部分的に駆動する駆動手段を備え、前記補助加圧量調整手段が、前記マスタシリンダの出力液圧、又は前記バキュームブースタに供給する負圧に応じて前記駆動手段を制御するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両の制動制御装置。
  3. 前記バキュームブースタが、可動壁と、該可動壁の前方に形成し、前記車両に搭載したエンジンのインテークマニホールドに連通して負圧を導入する定圧室と、前記可動壁の後方に形成し、前記定圧室から遮断し大気に連通する状態及び前記定圧室に連通して負圧を導入する状態を選択的に設定する変圧室と、前記ブレーキペダルの操作に応じて、前記定圧室と前記変圧室との間の連通を断続すると共に、前記変圧室と大気との間の連通を断続する弁機構と、前記定圧室内に配置し、前記ブレーキペダルの移動に伴い前記マスタシリンダを駆動すると共に、前記ブレーキペダルとは無関係に前記マスタシリンダを駆動する補助可動壁と、該補助可動壁と前記可動壁との間に形成する補助変圧室とを備え、前記駆動手段が、前記補助変圧室を前記インテークマニホールドに連通して負圧を導入する第1位置と、前記補助変圧室を大気に連通する第2位置とを選択的に切換える切換弁を備えて成り、前記補助加圧量調整手段が、前記切換弁の前記第1位置と前記第2位置の切換割合を前記マスタシリンダの出力液圧、又は前記インテークマニホールドの負圧に応じて調整するように構成したことを特徴とする請求項2記載の車両の制動制御装置。
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