JP4091446B2 - 打抜き加工性に優れるFe−Ni系合金の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子材料、特にリードフレーム用材料として好適なプレス打抜き性を向上させたFe−Ni系合金を安定して製造するための製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
Fe−Ni系電子材料、中でも42%Ni−Fe合金(42Ni合金)は、ガラスやセラミックスと熱膨張係数が近似していることから、薄板に加工された後に、打抜きあるいはエッチングされ、ICリードフレームとして使用される。このリードフレームは高い寸法精度が要求されていることから、プレス打抜きの際に発生するバリを極力抑制しなければならない。さらに、バリが発生する場合には金型寿命も短くなってしまうため、打抜き性の改善は、近年、急務となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この打抜き性については、従来からも改善がなされてきている。たとえば、特開昭60−255953、特開昭60−255954、特開昭61−9552、特開昭64−11094では、粒径3μm以下の非金属介在物を組織内に均一に分散させることが提案されている。特開平4−346637、特開平6−184703、特開平9−87808では、微細なMnSを分散させることを提案している。しかしながら、これらの提案では、非金属介在物やMnSの分布状況や形状については考慮していない。たとえそのような介在物が存在していたとしても、介在物の分布に片寄りが生じていたり、形状が角張っていたりすると、打抜き性を阻害する可能性がある。また、特開平9−249943においては、MnSの個数を特定しているものの、その形状については重要視していない。
【0004】
さらに、これらの提案を満足する合金を商業ベースで製造するための手段が確立していたとは言い難い。たとえば、特開平9−249943では、清浄度の高い原料のみで溶解している。たとえ清浄度の高い原料を溶解しても、その原料には通常数百ppmの酸素は必然的に含まれているのが普通で、脱酸工程は必須であると言える。脱酸工程を必要としない溶解方法で製造するためには、非常に高価な原料を購入し、酸素濃度の増加を完全に防止するべく、超高真空度(例えば10−5torr)において溶解する必要があり、原料面、設備面の双方においてコスト高と言える。
【0005】
特開平9−87807では、非金属介在物が所定量に達さない場合は、雰囲気の酸素濃度を高くして、酸化を進めて介在物数を増すことを提案しているが、酸化しすぎた場合は溶鋼表面にスカムを生じてしまい、粗大介在物を巻き込む危険性を常に伴うため得策とは言い難い。このように、従来の提案では、脱酸方法が不確定であり、製品歩留りは著しく低くならざるを得ない。
【0006】
よって、本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、打抜き性に優れたFe−Ni系合金を低コストで安定して製造するための方法を提供することを目的としている。具体的には、本発明の目的は、粒径3μm以下のMnSと粒径3μm以下の酸化物系介在物を、マトリックス中に合計で3000〜10000個/mm2の密度で均一に分散させた打抜き性に優れたFe−Ni系合金の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
図1は材料をパンチで打ち抜いた後の破面を示すもので、パンチが入って来る側に剪断面、パンチが出て行く側に破断面が形成される。剪断面では塑性変形が生じ、破断面では脆性破壊が生じる。材料にはある程度の脆性があった方が加工性に優れるから、板厚に対して剪断面の割合が多くなる材料ではバリが生じ易くなる。よって、(剪断面/板厚)の値が小さい方が良いことになる。また、剪断面と破断面の境界が乱れていると、剪断面の割合が部分的に多くなるから、剪断面と破断面との境界の直線性も打抜き性を評価する指標となる。本発明者等は、以上の原理を踏まえて打抜き性に及ぼす各種の影響を鋭意研究した結果、以下の知見を見い出すに至った。
【0008】
(1)打抜き性を向上させるためには、MnSあるいは酸化物系介在物を圧延方向および板厚方向に対して平行な断面の中に、合計で3000〜10000個/mm2の密度で均一に分散させる必要がある。
(2)MnSまたは酸化物系介在物の粒径は、最終の薄板において0.01〜3μmである必要がある。介在物の粒径が0.01μmを下回ると、介在物が打抜き時に破断の起点となり難くなる。逆に、介在物の粒径が3μmを上回ると、介在物による破断の範囲が大きくなり過ぎて、剪断面と破断面の境界の直線性を乱してしまうとともに、材料に残留応力を生じて経時変形が生じ易くなる。介在物の粒径の好ましい範囲は0.1〜3μmであり、0.1〜2μmであればさらに好適である。
(3)上記のような介在物の分布が圧延方向および板厚と平行な断面中に3000個/mm未満では、打ち抜き性を向上させるに至らず、10000個/mm2を上回ると、剪断面と破断面の境界が乱れる。
(4)MnSまたは酸化物系介在物の形状は球状であることが望ましい。球状の介在物は破断の起点になり易く、また金型との潤滑に効果がある。逆に、尖った形状であると金型に砥粒として作用し、その寿命を低下させてしまう。
【0009】
以上のように合金としての必要な要素は明らかになったが、この合金を安定して低コストで製造することが商業的に重要である。そこで、本発明者等は、上記のような合金を製造するために種々の実験を行い、以下の知見を得るに至った。
【0010】
製品段階で粒径3μm以下のMnSあるいは酸化物系介在物をマトリックス中に分散させるには、脱酸と同時に生成する一次脱酸生成物を完全に浮上除去する必要がある。これは、一次脱酸生成物は比較的大型であり、薄板になった時に粒径3μmを超える介在物を生じさせるからである。また、一次脱酸生成物が存在すると、MnSはそこに優先的に晶出ないし析出して除去されてしまうので、この観点からも、一次脱酸生成物は完全に除去されなければならない。この際、CaO−SiO2系、CaO−Al2O3系のスラグを湯面に浮かべ、積極的に介在物を除去するとより効果的である。
【0011】
微細なMnSを分散させるためには、凝固時の温度低下により生成する酸化物系介在物(二次脱酸生成物)の組成をMnO−SiO2系にすることが効果的であることが判明している。MnSの微細分散についてのメカニズムはまだ不明な点もあるが、次のように推察される。すなわち、凝固が進行すると、溶鋼中のSが比較的溶解度の高いMnO−SiO2系介在物中に溶解し、インゴット中に微細に分散する。その後、インゴットを鍛造し、熱間圧延する際に、再加熱を受け、MnSとMnO−SiO2が分離すると推測される。ただし、これはあくまでも推測であって、かかる効果の有無により本発明が限定されないことは言うまでもない。よって、本発明で用いる脱酸剤の元素はSi及びMnである。
【0012】
本発明の製造方法は、上記知見に基づいてなされたもので、Niを30〜55重量%含むFe−Ni系合金の溶湯に、Si及びMnを投入して酸素濃度を50ppm以下まで下げた後に鋳造し、熱間圧延および冷間圧延を施して圧延方向および板厚方向に対して平行な断面の中に、粒径0.01〜3μmのMnSと粒径0.01〜3μm以下の酸化物系介在物を、マトリックス中に合計で3000〜10000個/mm2の密度で均一分散させることを特徴としている。
【0013】
ここで、上記製造方法では、一次脱酸生成物が浮揚するのが遅いため、これを完全に除去するのに時間がかかってしまうことは否めない。そこで、最も有効な方法は、一次脱酸生成物を生成しないことである。すなわち、Fe−Niが溶け落ちた直後にCを0.1%程度添加し、最低でも20torrの減圧雰囲気にすることでC−O反応を活発に行わせ、酸素濃度を100ppm以下に制御した後、Si及びMnを例えばそれぞれ0.15%、0.5%ほど添加する。そうすることにより、比較的大きな脱酸生成物の生成を回避することができる。また、清浄度に優れる高級鋼を製造する際には、真空溶解後、ESR(Electro Slag Remelting)あるいはVAR(Vacuum Arc Remelting)に代表される特殊溶解を行うと、残留した少量の一次脱酸生成物が完全除去できることから有効である。また、SはMnと結合してMnSを生成する重要な元素であり、さらに、AlはMnSの微細分散を妨げる働きがある。
【0014】
したがって上記本発明の製造方法では、Niを30〜55重量%含むFe−Ni系合金の溶湯にSiおよびMnを投入する前に、該溶湯のAlを0.002重量%以下に調整した後、20torr以下の減圧下でCを用いて予備脱酸して酸素濃度を100ppm以下とし、次いで、S濃度を0.0005〜0.0009重量%に調整することが好ましい。この後、SiおよびMnを投入して酸素濃度を50ppm以下まで下げた後に鋳造し、熱間圧延および冷間圧延を施して、粒径0.01〜3μmのMnSを、マトリックス中に5020〜9890個/mm2の密度で均一分散させる。この場合において、Alを0.002重量%以下とするためには、溶解後大気中で保持することでAlを酸化除去すれば良い。また、添加するCの量は、0.05〜0.2重量%が望ましく、投入するSiおよびMnの総量は、0.17〜0.9重量%が望ましい。さらに、Sの含有量は、溶湯へSを添加するかあるいは脱硫により調整する。
【0015】
また、MnSを微細分散させるために、Ti、Zrの少なくともいずれか一方を添加するとより効果的であることがわかった。この理由についても、現在研究中であるが次のように推察される。まず最初に、凝固時に酸素が過飽和になって微細なTiO2あるいはZrO2介在物が析出する。続いて、溶鋼中のSが過飽和になり、介在物の上に優先的にMnSが析出するためと推測される。ただし、これについても推測であって、かかる作用の有無により本発明が限定されることはない。なお、この場合も、一次脱酸生成物は、MnSの微細分散を阻害する有害物質であるので、積極的に除去しておかなければならない。以上の知見から、本発明では、Si及びMnを投入した後に、TiおよびZrの少なくともいずれか一方を合計で0.0001〜0.01%添加することが好ましい。
【0016】
以上の製造方法により、重量%で、Ni:30〜55%、S:0.0005〜0.0009%、O:50ppm以下、残部Feおよび合金元素ならびに不可避的不純物からなり、圧延方向および板厚方向に対して平行な断面の中に、粒径0.01〜3μmのMnSを、マトリックス中に5020〜9890個/mm2の密度で均一分散させたFe−Ni系合金を得ることが可能である。なお、合金元素としてはSi、Mn、C、Co、Crなどがあり、不可避的不純物としては、N、Ca、Mg、Nbなどがある。以下に本発明で限定されている成分組成の根拠を説明する。
【0017】
Ni:Niはリードフレーム用材料の構成成分としては、最も重要な成分である。Niが30重量%を下回ると、熱膨張係数が大きくなり、リードフレーム用材料としての機能を失う。Niが55重量%を超えるものは、熱膨張係数が大きくなってしまうのみでなく、合金のコスト高につながる。よって、Niの含有量は30〜55%である必要がある。
【0018】
S:SはMnと結びついてMnSを形成し、打ち抜き性を向上させることから、本発明上、重要な元素である。Sの含有量が0.0005重量%未満では十分な数のMnS粒子を生成できず、0.02重量%を超える添加量では、熱間加工性を阻害することから、0.0005〜0.0009重量%の範囲である必要がある。
【0019】
O:溶鋼中のOは、構成成分と結びついて介在物を生成する。もし、それらが、粗大であると打抜き破面を乱すので、極力低減する必要がある。酸素濃度が50ppmを超えると、粗大な一次脱酸生成物の発生が顕著になることが確認されている。よって、最終製品での酸素濃度は50ppm以下とした。好ましくは、30ppm以下である。
【0020】
C脱酸後のO:20torr以下の減圧下で、Cの添加による脱酸を行って酸素濃度を下げた後に、脱酸剤としてのSi及びMnを投入すると、一次脱酸生成物を殆ど生じないことが確認されている。また、C脱酸後の酸素濃度が100ppmを超える状態でSi及びMnを投入すると、粗大な一次脱酸生成物を生じることが確認されている。よって、C脱酸後の酸素濃度は100ppm以下とした。好ましくは、50ppm以下である。また、20torrを超える真空度であると、C−O反応が効果的に進まないため、20torr以下の真空度とした。好ましくは、1torr以下である。
【0021】
Alは極力少ないことが好ましい。Alが0.002%を超えると、脱酸生成物中のAl2O3の割合が増加してくるが、このようなAl2O3を含む介在物にはMnSを微細に分散する効果がない。よって、Alの含有量は0.002重量%以下とした。
TiおよびZrは基本的にSi及びMnと同様、MnSを微細分散させる能力に富む。これは、凝固時に晶出する微細なTiO2あるいはZrO2の上に選択的にMnSが晶出するためである。0.0001重量%未満ではその効果を発揮せず、また、0.01重量%を上回ると、合金の熱膨張係数が大きくなる。よって、TiおよびZrの総含有量は0.0001〜0.01重量%が望ましい。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
表1に示す溶解、鋳造プロセスを用いて13種類の鋼塊を製造し、それらに熱間圧延及び冷間圧延を施し、0.15mm厚の薄板とした。表1において、#1〜#3、#9、#10は一次脱酸生成物を生成しない溶解プロセスであり、それ以外の#4〜#8、#11〜#13は、一次脱酸生成物を生成した後、浮上分離するプロセスである。表1の#1〜#3は、Niを30〜55重量%含むFe−Ni系合金の溶湯にSiおよびMnを投入する前に、該溶湯のAlを0.002重量%以下に調整した後、20torr以下の減圧下でCを用いて予備脱酸して酸素濃度を100ppm以下とし、次いで、S濃度を調整した。表1の試料♯1〜13で「◎」の表記は本発明例を示し、それ以外は本発明を逸脱するものである。
【0023】
各供試材の圧延方向の断面を切断して電子顕微鏡観察し、切断面に観察されるMnSの個数を測定した。この測定結果を表1に併記した。また、打抜き試験は、実験室用500kg精密金型プレス機にて、板厚の3%のクリアランスを設定し、5mm角の穴を圧延方向直角に10mm間隔で5個開けることにより実施した。打抜き後の破面における剪断面/破断面の比率を測定し、5個の平均値が0.75を上回る場合に○、0.75以下の場合に×と評価してこれを表1に併記した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1から判るように、本発明例の♯3,4,6〜8では、いずれも打抜き性に優れ、しかも熱間加工性も良好であることが確認された。これに対して、#9では、Sの含有量が0.0005重量%を下回っているためにMnSの密度が低く、その結果、打抜き性が劣化した。また、#10および#11では、Sの含有量が比較的多いため、MnSの密度が大きくなり過ぎ、その結果、破断面が乱れて打抜き性が劣化するとともに、熱間加工性も劣化した。また、#12では、Alの含有量が0.002重量%を上回っているため、脱酸生成物としてAl2O3が生成し、この生成物はMnSを微細に分散する機能がないためにMnSの密度が低下した。なお、#13では、請求項2の条件を満足するために、打抜き性は良好であったが、Tiの含有量が多過ぎるために熱膨張係数が増加した。
【0026】
なお、MnSの分布状態の測定に関しては、バフ研磨後SPEED法にて電解を行った表面をX線マイクロアナライザーにより50μm×50μmの範囲を各試料10視野観察し、マッピングにてMnSの分布を点としてカウントし、その平均を1mm平方あたりの数として求めた。
【0027】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、微細なMnS及び酸化物系介在物を程良く分散させたFe−Ni合金を安定かつ低コストで製造することができるので、リードフレーム材の打抜き工程でのバリ発生による材料不具合や、ハンドリングによる不具合がなくなるとともに、金型の寿命を大幅に向上することが期待でき、近年のICパッケージ用リードフレーム材の高精細化、高信頼性化および生産効率の向上に対して優れた部品を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 打抜き後の破面を示す断面図である。
Claims (2)
- Niを30〜55重量%含むFe−Ni系合金の溶湯に含有されるAlを0.002重量%以下に調整するとともに、S濃度を0.0005〜0.0009重量%に調整した後、該溶湯に、0.08〜0.30重量%のSiおよび0.09〜0.60重量%のMnを投入し、さらに、CaO−SiO2系あるいはCaO−Al2O3系のスラグを添加して酸素濃度を50ppm以下まで下げた後に鋳造し、熱間圧延および冷間圧延を施して圧延方向および板厚方向に対して平行な断面の中に、MnSを、マトリックス中に5020〜9890個/mm2の密度で均一分散させることを特徴とする打抜き性に優れたFe−Ni系合金の製造方法。
- 前記SiおよびMnを投入した後に、TiおよびZrの少なくともいずれか一方を合計で0.0001〜0.01%添加することを特徴とする請求項1に記載の打抜き性に優れたFe−Ni系合金の製造方法。
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