JP2864964B2 - メッキ性およびハンダ性に優れたFe−Ni系合金冷延板およびその製造方法 - Google Patents

メッキ性およびハンダ性に優れたFe−Ni系合金冷延板およびその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、メッキ性およびハン
ダ性に優れた、特に、銀メッキを施して使用される集積
回路のリードフレーム用素材に適したFe−Ni系合金冷延
板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】集積回路のリードフレーム用素材として
は、半導体素子、ガラスおよびセラミックス等との熱膨
張係数の整合性から、Niを約42wt.%含有し残部がFeから
なる42Ni合金冷延板で代表されるような、Fe−Ni系合金
冷延板が広く使用されている。また、近年では、高強度
化を意図したFe−28wt.%Ni−16.5wt.%CoまたはFe−29w
t.%Ni−6wt.%Co 等の合金冷延板も使用され始めてい
る。
【0003】このようなFe−Ni系合金冷延板からの、集
積回路リードフレーム用素材の製造は、通常、普通造塊
または連続鋳造によって調製されたFe−Ni系合金塊を分
塊圧延し、次いで、熱間圧延および冷間圧延して薄板と
なし、この薄板をスリッタ加工することによって行われ
ている。
【0004】上述のようにして製造された素材の、リー
ドフレームへの加工は、通常、上記素材を、打ち抜きま
たはフォトエッチングによってリードフレーム形状に加
工した後、その表面上に銀メッキを施し、次いで、シリ
コンチップのダイボンディング、ワイヤーボンディン
グ、パッケージングおよび脚部の錫メッキを施すことに
よって行われている。このようにして調製されたリード
フレームを基板に装着するときには、ハンダ付けが施さ
れる。従って、集積回路のリードフレーム用素材として
使用されるFe−Ni系合金冷延板には、メッキ性特に銀メ
ッキ性およびハンダ性に優れていることが強く要求され
ている。
【0005】しかしながら、Fe−Ni系合金冷延板には、
銀メッキ層との密着性が悪く、例えば、集積回路の組立
て工程における、リードフレームへのワイヤーボンディ
ング時の加熱によって、銀メッキ層にフクレが生じた
り、銀メッキ層が剥離する等の問題がある。このような
問題を防止するために、従来は、銀メッキの前処理とし
て、素材表面にニッケルまたは銅のストライクメッキ
(短時間且つ高電流密度のメッキ)を施すことが行われ
ている。
【0006】また、その前工程に施される錫メッキにお
いて、「ウイスカー」と呼ばれている針状の微細結晶が
異常に成長しやすく、そのためにハンダ性が劣化し、例
えば、錫メッキされたリードフレームとハンダとの濡れ
時間が長くなり、結果的にハンダの濡れ面積が所要の性
能を満たさなくなる問題が生ずる。
【0007】上述した問題を解決し、銀メッキ性を改善
する手段として、特開昭62-207845号公報には、Fe−Ni
合金中に、微量のアルミニウムおよびカルシウムを添加
することによって、非金属介在物を大幅に減少させ、且
つ、これらを合金中に微細に分散させて表面疵の発生を
防止し、メッキ性を向上させることからなる方法(以
下、先行技術1という)が開示されている。
【0008】また、特開平3-166340 号公報には、コバ
ルト:0.5 〜22wt.%およびニッケル:22〜32.5wt.%を含
有するFe−Ni系合金冷延板において、珪素およびマンガ
ンの含有量を低減することにより、メッキ性およびハン
ダ性を向上させることからなる方法(以下、先行技術2
という)が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】先行技術1によれば、
ニッケルのストライクメッキなしで3μm の厚さの銀メ
ッキを施した場合におけるメッキ密着性の向上が達成さ
れる。しかしながら、近時、低コスト化の要望から、銀
メッキ層の厚さを3μm よりも更に薄い例えば2μm 以
下にすることが要望されており、先行技術1によって
は、このような薄メッキに対処することはできない。
【0010】更に、先行技術1のように、Fe−Ni合金中
に、アルミニウムおよびカルシウムを複合添加すると、
リードフレーム用素材の製造工程中で施される熱処理時
に、不均一な酸化膜が生成する。その結果、生成した酸
化膜のために、その後に施される錫メッキにおいて、ウ
イスカーが多発し、著しくハンダ性が劣化する問題が生
ずる。更に、アルミニウムおよびカルシウムを複合添加
すると、熱間加工性が劣化するため、合金塊を分塊圧延
してスラブとする際、または、連続鋳造する際に、著し
く疵が発生する結果、製造歩留りが低下する問題が生ず
る。
【0011】先行技術2の場合においても、3μm の厚
さの銀めっきを施した場合におけるメッキ密着性の向上
は達成されるが、例えば2μm 以下の厚さの薄メッキに
対処することはできない。更に、先行技術2において、
ハンダ性の向上は、ハンダの耐候性の面においてのみで
あり、ハンダの濡れ性を改善するには至らない。また、
先行技術2においては、製造工程中において、合金塊を
分塊圧延してスラブにする際、または、連続鋳造する際
に、疵の発生が著しく、従って製造歩留りが低下する問
題が生ずる。
【0012】このようなことから、例えば2μm 以下の
厚さの薄い銀メッキの場合においても、メッキ性および
ハンダ性が共に優れ、且つ、その製造歩留りが高い、特
に、銀メッキを施して使用されるリードフレーム用素材
に適したFe−Ni系合金冷延板の開発が要求されている
が、かかる合金冷延板およびその製造方法はまだ提案さ
れていない。
【0013】従って、この発明の目的は、上述した問題
を解決し、薄い銀メッキの場合においても、メッキ性お
よびハンダ性が共に優れ、且つ、その製造歩留りが高
い、特に、銀メッキを施して使用されるリードフレーム
用素材に適したFe−Ni系合金冷延板およびその製造方法
を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した
観点から、薄い銀メッキの場合においても、メッキ性お
よびハンダ性が共に優れ、且つ、その製造歩留りが高
い、Fe−Ni系合金冷延板およびその製造方法を開発すべ
く、鋭意研究を重ねた。その結果、次の知見を得た。即
ち、38から52wt.%の範囲内のニッケルを含有するFe-Ni
系溶融合金、または、26から32wt.%の範囲内のニッケル
および 1から20wt.%の範囲内のコバルトを含有するFe-N
i 系溶融合金を調製し、電気炉および/または取鍋内に
おいて、前記Fe-Ni 系溶融合金に酸素を供給して、前記
Fe-Ni 系溶融合金中に含有されている、燐、クロム、ニ
オブ、バナジウム、チタン、ホウ素およびタングステン
を酸化させ、生成した酸化物をCaO 系スラグに吸収して
除去し、酸化物の除去によって、上記各元素の含有量を
一定値以下にすれば、メッキ性およびハンダ性に優れ
た、リードフレーム用素材に適したFe-Ni 系合金冷延板
が得られることを知見した。
【0015】この発明は、上述した知見に基づいてなさ
れたものであって、この発明の、メッキ性およびハンダ
性に優れたFe-Ni 系合金冷延板は、本質的に下記からな
っている。 ニッケル : 38 〜 52 wt.%、 コバルト : 1 wt.%未満、 炭素 : 0.10 wt.% 以下、 珪素 : 0.01〜0.20 wt.% 、 マンガン : 0.05〜0.70 wt.% 、 燐 : 0.005 wt.%未満、 硫黄 : 0.004 wt.%以下、 銅 : 0.02 wt.%以下、 クロム : 0.2 wt.%以下、 モリブデン : 0.05 wt.%以下、 アルミニウム: 0.02 wt.%以下、 ニオブ : 0.02 wt.%以下、 バナジウム : 0.02 wt.%以下、 チタン : 0.02 wt.%以下、 ホウ素 : 0.001 wt.%以下、 タングステン: 0.02 wt.%以下、 窒素 : 0.003 wt.%以下、 酸素 : 0.005 wt.%以下、 および、残り、鉄および不可避的不純物。なお、上記成
分組成のうち、ニッケルの含有量を26〜32wt.%となした
上、1 〜20wt.%の量のコバルトを含有させてもよい。ま
た、水素含有量を、2.0ppm以下に限定することが好まし
い。
【0016】この発明の、メッキ性およびハンダ性に優
れたFe-Ni 系合金冷延板の製造方法は、下記ステップか
らなっている。38から52wt.%の範囲内の量のニッケル、
または、26から32wt.%の範囲内の量のニッケルおよび 1
から20wt.%の範囲内の量のコバルトを含有するFe-Ni 系
溶融合金を調製し、電気炉内および/または取鍋内にお
いて、前記Fe-Ni 系溶融合金中に、吹込みまたはスラグ
中への酸化物の添加により酸素を供給して、前記Fe-Ni
系溶融合金中に含有されている、燐、クロム、ニオブ、
バナジウム、チタン、ホウ素、およびタングステンを酸
化させ、生成した酸化物をCaO 系スラグに吸収して除去
し、次いで、前記酸化物が除去されたFe-Ni 系溶融合金
を、インゴットに鋳造するかまたは連続鋳造し、次い
で、熱間圧延し、そして、冷間圧延することにより、メ
ッキ性およびハンダ性に優れたFe-Ni 系合金冷延板を製
造する。
【0017】
【作用】この発明の、メッキ性およびハンダ性に優れた
Fe-Ni 系合金冷延板の化学成分組成を、上述した範囲内
に限定した理由について、以下に述べる。 (1) ニッケル:ニッケルは、本合金冷延板の基本成分で
ある。ニッケル含有量が38wt.%未満または52wt.%を超え
ると、合金冷延板の熱膨張係数が大きくなり過ぎ、半導
体素子、ガラスおよびセラミックス等との整合性が保て
なくなる。従って、ニッケルの含有量は、38〜52wt.%の
範囲内に限定すべきである。なお、合金冷延板中に、後
述するコバルトが 1〜20wt.%含有されている場合には、
ニッケル含有量が26wt.%未満または32wt.%を超えると、
合金冷延板の熱膨張係数が逆に劣化する。従って、コバ
ルトが 1〜20wt.%含有されている場合には、ニッケル含
有量は26〜32wt.%の範囲内に限定すべきである。
【0018】(2) コバルト:ニッケル中には、コバルト
が不可避的不純物として混入することがある。しかしな
がら、コバルト含有量が1wt.%未満では、合金冷延板の
性質に影響を与えることはない。従って、不可避的不純
物として混入するコバルトの含有量は1wt.%未満に限定
すべきである。一方、コバルトには、半導体素子、ガラ
スおよびセラミックス等との整合性を、より高める作用
がある。従って、必要に応じて合金冷延板中に積極的に
コバルトを含有させる。この場合、コバルト含有量が 1
wt.%未満または20wt.%超では、上記作用が得られない。
従って、コバルトを積極的に含有させる場合には、その
含有量を1 〜20wt.%の範囲内に限定すべきである。合金
冷延板の熱膨張係数の観点から、より好ましいコバルト
含有量は、5 〜18wt.%の範囲である。なお、コバルトを
1〜20wt.%の範囲内で積極的に含有させる場合には、ニ
ッケル含有量は26〜32wt.%の範囲内に限定すべきである
こと上述した通りである。
【0019】(3) 炭素:炭素含有量が0.10wt.%を超える
と、熱間加工性が劣化し、分塊圧延時に表面疵発生が著
しくなり、鋼塊内部に微細な割れが発生する結果、ハン
ダ性が劣化する。従って、炭素含有量は、0.10wt.%以下
に限定すべきである。なお、本発明において、熱間加工
性の劣化とは、分塊圧延時または連続鋳造時にインゴッ
トまたはビレットに表面疵が発生し、且つ、合金板内部
に微細な割れの発生することをいい、そして、熱間加工
性の向上とは、上述した分塊圧延時または連続鋳造時に
おけるインゴットまたはビレットの表面疵の発生を少な
くし、且つ、合金板内部の微細な割れの発生を防止する
ことをいう。
【0020】(4) 珪素:珪素は、本合金において、脱酸
のために添加される重要な元素の1つである。しかしな
がら、珪素含有量が 0.01 wt.%未満では、後述する酸素
量を、本発明で規定する0.005 wt.%以下に減少させるこ
とができない。一方、珪素含有量が 0.20wt.% を超える
と、合金鋼帯の熱処理時に不均一な酸化膜が生成し、銀
メッキ性およびハンダ性が劣化する。従って、珪素含有
量は、0.01〜 0.20wt.% の範囲内に限定すべきである。
【0021】(5) マンガン:マンガンは、Fe−Ni系合金
冷延板に、所望の強度を付与する作用を有している。し
かしながら、マンガン含有量が0.70wt.%を超えると、Fe
−Ni系合金冷延板中にマンガンを含有するスピネル酸化
物が生成する結果、銀メッキ性およびハンダ性が劣化す
る。一方、マンガン含有量が0.05wt.%未満では、合金冷
延板に所望の強度を付与することができない。従って、
マンガン含有量は、0.05〜0.70wt.%の範囲内に限定すべ
きである。
【0022】(6) 燐:燐は、合金中のオーステナイト粒
界に偏析して粒界を脆化させ、熱間加工性を劣化させる
元素である。燐含有量が0.005 wt.%以上になると、連続
鋳造時に割れが発生しやすくなる。従って、燐含有量は
0.005 wt.%以下に限定すべきである。より好ましい燐含
有量は、0.001 wt.%以下である。
【0023】(7) 硫黄:硫黄も、合金中のオーステナイ
ト粒界に偏析して粒界を脆化させ、熱間加工性を著しく
劣化させる元素である。硫黄含有量が多いと、合金中の
介在物が多量になり、銀メッキ性およびハンダ性が劣化
する。本発明で意図する熱間加工性の向上のための硫黄
含有量は 0.004wt.%以下である。硫黄含有量が0.004wt.
% を超ると、銀メッキ性およびハンダ性が劣化する。メ
ッキ性向上の観点から、より好ましい硫黄含有量は 0.0
01wt.%以下である。
【0024】(8) 銅、モリブデン、ニオブ、バナジウ
ム、タングステン:銅、モリブデン、ニオブ、バナジウ
ムおよびタングステンの各々の含有量が多くなると、熱
間加工性が劣化し、分塊圧延時における表面疵の発生が
著しくなり、且つ、ハンダ性が劣化する。即ち、銅、ニ
オブ、バナジウムおよびタングステンの各々の含有量が
0.02 wt.% を超え、そして、モリブデン含有量が0.05 w
t.%を超えると、本発明で意図する熱間加工性の向上を
達成することができない。従って、銅、ニオブ、バナジ
ウムおよびタングステンの各々の含有量は0.02 wt.%以
下に限定し、そして、モリブデン含有量は0.05 wt.% 以
下に限定すべきである。なお、ハンダ性向上の観点か
ら、より好ましいモリブデン含有量は0.02 wt.%以下で
あり、そして、より好ましいニオブ含有量は0.01 wt.%
以下である。
【0025】(9) クロム:クロムは、Fe-Ni 系合金の溶
製時に不可避的に混入する不純物の1つである。クロム
含有量が0.2wt.% を超えると、合金鋼帯の熱処理時にク
ロム酸化物が発生し、特に銀メッキ性が劣化する。従っ
て、銀メッキ性向上の観点から、クロム含有量は0.2wt.
% 以下に限定すべきである。なお、フォトエッチング時
におけるエッチング液汚染防止の観点から、より好まし
いクロム含有量は 0.05wt.% 以下であり、そして、耐食
性向上の観点から、好ましいクロム含有量は0.01wt.%以
上である。
【0026】(10) アルミニウム:アルミニウム含有量
が0.02 wt.% を超えて多くなると、合金鋼帯の熱処理時
にアルミニウムの強固な酸化膜が生成して特に銀メッキ
性が劣化し、更に、カルシウムとの共存下において、合
金中に低融点酸化物が生成し、熱間加工性が劣化する。
従って、本発明で意図する銀メッキ性および熱間加工性
の向上の観点から、アルミニウム含有量は0.02 wt.% 以
下に限定すべきである。より好ましいアルミニウム含有
量は0.001 wt.%以下である。
【0027】(11) チタン:チタンは、本合金の溶製時
に不可避的に混入する不純物の1つである。チタン含有
量が0.02wt.%を超えると、Fe- Ni系合金冷延板にチタン
酸化物が生成する結果、銀メッキ性が劣化する。従っ
て、チタン含有量は0.02wt.%以下に限定すべきである。
より好ましいチタン含有量は0.01wt.%以下である。
【0028】(12) ホウ素:ホウ素は、本合金の溶製時
に不可避的に混入する不純物の1つである。ホウ素含有
量が 0.001wt.%を超えると、ハンダ性が劣化する。従っ
て、ホウ素含有量は0.001 wt.%以下に限定すべきであ
る。より好ましいホウ素含有量は0.0005wt.%以下であ
る。
【0029】(13) 窒素:窒素含有量が 0.003wt.%を超
えて多くなると、粒界中に窒化物が析出し、熱加工性が
劣化して、連続鋳造時に表面疵の発生が著しく多くな
る。従って、窒素含有量は 0.003wt.%以下に限定すべき
である。
【0030】(14) 酸素:酸素は、合金中のオーステナ
イト粒界に低融点酸化物として析出して、熱間加工性を
著しく劣化させる元素である。酸素含有量が 0.005wt.%
を超えて多くなと、合金中の介在物が多くなり、銀メッ
キ性およびハンダ性が劣化する。従って、本発明で意図
する熱間加工性、銀メッキ性およびハンダ性の向上の観
点から、酸素含有量は 0.005wt.%以下に限定すべきであ
る。より好ましい酸素含有量は、0.0015wt.%以下であ
る。
【0031】(15) 水素:水素は、本合金冷延板のメッ
キ性に関し、著しく大きな影響を及ぼす元素である。即
ち、水素は、合金の溶製時に不可避的に混入する元素で
あって、その含有量は、従来 2.0ppm を超え、場合によ
っては4〜7ppm も含有されていた。その結果、集積回
路の製造過程における、銀のスポットメッキ後のダイボ
ンディングの加熱時に、水素ガスが放出されて、メッキ
層と下地合金冷延板(リードフレーム材)との界面に移
動し、「フクレ」と呼ばれるメッキ不良が発生する。
【0032】上述した現象は、銀メッキ層の厚さが従来
の3μm 程度で比較的厚い場合には、メッキ層の強度の
点から問題にはならなかった。しかしながら、最近のよ
うに、銀メッキ層の厚さが2μm 以下の薄メッキ化の傾
向になってくると、銀メッキ層の強度が水素ガスの圧力
よりも小さくなる結果、上述した「フクレ」の問題が顕
在化してきた。更に、2.0ppmを超える水素を含有する合
金冷延板をハンダ付けする場合には、ハンダの濡れ性が
劣化する問題も生じた。このように、本合金冷延板にお
いては、極微量の水素が存在していても、メッキ性に対
し悪影響を及ぼす問題があった。
【0033】上述した観点から、水素含有量を2.0ppm以
下とすることが好ましい。水素含有量が2.0ppmを超える
と、本発明で意図するメッキ性が得られなくなる。な
お、水素含有量を上述した量とするためには、溶製時に
おける真空脱ガスを最適化することが必要である。即
ち、見掛けの水素圧を低下させるために、真空脱ガスを
0.1torr またはそれ以下の圧力の高真空度で行うか、ま
たは、底吹き希釈アルゴンガス量を増加させる等の方法
が採られる。
【0034】以上述べたように、Fe−Ni系合金冷延板の
化学成分組成を上述したように規定することによって、
その銀メッキ性、ハンダ性および熱間加工性を向上させ
ることができる。
【0035】次に、この発明のFe−Ni系合金冷延板の製
造方法について述べる。電気炉において、38から52wt.%
の範囲内の量のニッケルを含有する Fe-Ni系溶融合金、
または、26から32wt.%の範囲内の量のニッケルおよび1
から20wt.%の範囲内の量のコバルトを含有するFe-Ni 系
溶融合金を調製する。そして、電気炉内および/または
取鍋内において、酸素の吹き込み、または、スラグ中へ
のミルスケール等の酸化物の添加によって、Fe-Ni 系溶
融合金中に酸素を供給する。その結果、Fe-Ni系溶融合
金中に含有されている燐、クロム、ニオブ、バナジウ
ム、チタン、ホウ素およびタングステン等の不純物は酸
化し、生成した酸化物は、CaO 系スラグに吸収されて除
去される。
【0036】上述した酸化物の除去によって、Fe-Ni 系
溶融合金中の、燐の含有量を0.005wt.%未満となし、ク
ロムの含有量を0.2wt.% 以下となし、そして、ニオブ、
バナジウム、チタンおよびタングステンの含有量を各々
0.002 wt.%以下となす。
【0037】また、Fe-Ni 系溶融合金中の、銅の含有量
が0.02wt.%以下に、モリブデンの含有量が0.05wt.%以下
に、そして、アルミニウムの含有量が0.02wt.%以下にな
るように、原料を選んで調整する。
【0038】上述した成分組成のFe-Ni 系溶融合金をイ
ンゴットに鋳造するかまたは連続鋳造し、次いで、熱間
圧延しそして冷間圧延する。かくして、メッキ性および
ハンダ性に優れたリードフレーム用として好適なFe-Ni
系合金冷延板が製造される。
【0039】
【実施例】次に、この発明の、メッキ性およびハンダ性
に優れたFe-Ni 系合金冷延板およびその製造方法を、こ
の発明の範囲外の比較例と対比しながら、実施例によ
り、更に詳細に説明する。表1に示す原料(以下、A原
料という)または表2に示す原料(以下、B原料とい
う)を使用し、次の製造工程によって、Fe-Ni 系合金冷
延板を調製した。なお、出鋼後の取鍋精錬は、CaO:40w
t.%以下のMgO-CaO 系耐火物からなる取鍋を使用した。
【0040】1.電気炉を使用する下記を含む精錬 原料としての鋼屑およびニッケル地金、コバルト地金の
溶解 造滓 送酸 2.VAD(真空−電弧−脱ガスの略)設備を使用する
下記を含む精錬 造滓 昇熱 3.VOD(真空−酸素−脱炭の省略)設備を使用する
下記を含む精錬 送酸 除滓 送酸脱炭 真空脱炭 脱酸、スラグ脱酸 4.造塊 5.分塊圧延 6.熱間圧延 7.冷間圧延
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】電気炉内における、この発明によるFe−Ni
系溶融合金の精錬のためのプロセスの一例を図1の工程
系統図で、取鍋内における、この発明によるFe−Ni系溶
融合金の精錬のためのプロセスの一例を図2の工程系統
図で各々示す。即ち、攪拌用ガスを吹き込むための底部
プラグを備えた 50t電気炉内において、造滓、鋼屑およ
びニッケル地金の溶解を実施して、Fe-Ni 系溶融合金を
調製した。A原料によって得られた溶融合金(以下A合
金という)の成分組成は表3の通りであり、B原料によ
って得られた溶融合金(以下B合金という)の成分組成
は表4の通りであり、そして、溶解時に生成したスラグ
の成分組成は、表5の通りであった。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】次いで、10〜20Nm3/t の量による送酸を実
施した。送酸後のA合金の成分組成は表6の通りであ
り、B合金の成分組成は表7の通りであり、そして、そ
のときに生成したスラグの成分組成は、表8の通りであ
った。
【0048】
【表6】
【0049】
【表7】
【0050】
【表8】
(wt.%)
【0051】次いで、これを 50t取鍋内に移し、この取
鍋をVAD(真空−電弧−脱ガス)設備内に配置し、こ
こで造滓および加熱を実施した。次いで、前記取鍋をV
OD(真空−酸素−脱炭)設備内に配置し、ここで、下
記条件下で送酸を実施した。
【0052】 真空度 :600 Torr以下、 上吹き酸素ガスの流量 : 26 Nm3/Hr・t
、 ランスと溶融合金の表面との間の距離:900mm 。
【0053】送酸後のA合金の成分組成は表9の通りで
あり、B合金の成分組成は表10の通りであり、そして、
そのときに生成したスラグの成分組成は、表11の通りで
あった。
【0054】
【表9】
【0055】
【表10】
【0056】
【表11】
【0057】このようにして得られたFe−Ni系溶融合金
に対し、取鍋中において、除滓、再造滓・加熱、送酸脱
炭、真空脱炭および脱酸・スラグ脱酸処理を施し、これ
らの処理の施された溶融合金を、インゴットに鋳造し
た。次いで、このように調製したインゴットを、分塊圧
延し、次いで、スラブを表面手入れし、熱間圧延し、そ
の後、脱スケール、冷間圧延、焼鈍を繰り返し、最終的
に調質圧延して、所要の表面粗度を有する、0.15mmの厚
さの合金板を得、その後、歪取り焼鈍を施して、A合金
からなる本発明のFe−Ni系合金冷延板の供試体(以下、
本発明供試体という)No. 1、2、および、B合金から
なる本発明供試体No. 3を調製した。
【0058】比較のために、送酸またはスラグ中への酸
化物の添加による、Fe-Ni 系溶融合金中への酸素の供給
を行わないほかは、上述した本発明におけると同一の工
程によって、0.15mmの厚さを有する本発明の範囲外のFe
−Ni系合金冷延板の供試体(以下、比較用供試体とい
う)No. 1および2を調製した。
【0059】比較用供試体の製造時に、電気炉内におい
てFe-Ni 系溶融合金を調製した際のスラグの成分組成を
表12に示す。
【0060】
【表12】
【0061】本発明供試体 No.1〜3および比較用供試
体 No.1および2の化学成分組成を表13に示す。
【0062】
【表13】
【0063】上述した本発明供試体 No.1〜3および比
較用供試体 No.1および2の各々に対し、下記により、
銀メッキ性、ハンダ性、表面疵の発生状態、内部割れの
発生状態およびウイスカーの発生状態を調べた。
【0064】(1) 銀メッキ性:供試体を脱脂し次いで酸
洗した後、その表面上に厚さ1μm の銀メッキを施し、
次いで、このように銀メッキが施された供試体を450 ℃
の温度で5分間加熱したときの、銀メッキ層に生じたフ
クレの状態を50倍に拡大して調べ、そのフクレ個数に
よって評価した。評価基準は、次の通りである。 ◎ : フクレ個数 0個/4cm2 ○ : フクレ個数 1個/4cm2 △ : フクレ個数 2〜4個/4cm2 × : フクレ個数 5個以上/4cm2
【0065】(2) ハンダ性:供試体を脱脂し次いで酸洗
した後、その表面上に厚さ1.5 μm の錫メッキを施し、
次いで、このように錫メッキが施された供試体を、メニ
スコグラフ法によって、錫:60wt.%、鉛:40 wt.%からな
る成分組成の、温度235 ±5 ℃のハンダ浴中に 2mmの深
さで5秒間浸漬したときの、ハンダ濡れ時間t2によって
評価した。なお、評価は、供試体を大気中において加熱
した場合と加熱しない場合の両方について行った。評価
基準は、次の通りである。 ◎ : 濡れ時間t2 0.5 秒以下 ○ : 濡れ時間t2 0.5 秒超、1.0 秒以下 △ : 濡れ時間t2 1.0 秒超、2.0 秒以下 × : 濡れ時間t2 2.0 秒超
【0066】(3) 表面疵の発生状態:目視観察およびカ
ラーチェックにより、各供試体のスラブの表面に生じた
表面疵の発生状態を調べ、これによって評価した。更
に、溶剤、グラインダー等によって、スラブの表面を、
表面疵が無くなるまで研削し、研削前と研削後のスラブ
の厚さの変化により、表面疵取り量を調べた。評価基準
は次の通りである。 ◎ : 表面疵が極めて少ない ○ : 表面疵が少ない △ : 表面疵が多い × : 表面疵が極めて多い
【0067】(4) 内部割れの発生状態:各供試体中に微
細な内部割れが生じたか否かをUST検査によって調べ
た。 (5) ウイスカーの発生状態:各供試体の表面上に厚さ1.
5 μm の錫メッキを施したときに、針状の微細結晶即ち
ウイスカーが発生したか否かを目視によって調べた。
【0068】本発明供試体 No.1〜3および比較用供試
体 No.1および2の各々の、銀メッキ性、ハンダ性、表
面疵の発生状態、内部割れの発生状態およびウイスカー
の発生状態を表14に示した。
【0069】
【表14】
【0070】比較用供試体No. 1および2は、その精錬
時に酸素の供給を行わなかったので、表16から明らかな
ように、燐、クロム、ニオブ、バナジウム、チタン、ホ
ウ素、タングステン等の酸化による除去が行われず、従
って、これらの元素がほとんど低減されず、また、表14
に示すようにスラグのFeO 活量が低かった。従って、銀
メッキ性およびハンダ性が不良であり、そして、表面疵
が多いために表面疵取り量が多く、且つ、微細な内部割
れおよび錫メッキ時におけるウイスカーが発生した。
【0071】これに対し、本発明供試体 No.1、2およ
び3は、何れも、銀メッキ性およびハンダ性が優れてお
り、そして、表面疵が少ないので表面疵取り量も少な
く、且つ、微細な内部割れおよび錫メッキ時におけるウ
イスカーが発生することもなかった。特に、本発明供試
体 No.1は、燐、ニオブ、チタンおよびホウ素が、より
好ましいレベルまで低減されているために、銀メッキ性
およびハンダ性が一段と優れていた。
【0072】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
薄い銀メッキの場合においても、メッキ性およびハンダ
性が共に優れ、且つ、その製造歩留りが高い、特に、銀
メッキを施して使用される集積回路のリードフレーム用
素材に適したFe−Ni系合金冷延板を製造することができ
る、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電気炉内における、この発明によるFe−Ni系溶
融合金の精錬のためのプロセスの一例を示す工程系統図
である。
【図2】取鍋内における、この発明によるFe−Ni系溶融
合金の精錬のためのプロセスの一例を示す工程系統図で
ある。
フロントページの続き (72)発明者 井上 正 東京都千代田区丸の内一丁目1番2号 日本鋼管株式会社内 (56)参考文献 特開 平4−202642(JP,A) 特開 平4−157136(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C22C 38/00 - 38/60 C21D 8/02 C21D 9/46 C22C 19/03

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ニッケル : 38 〜 52 wt.%、 コバルト : 1 wt.%未満、 炭素 : 0.10 wt.% 以下、 珪素 : 0.01〜0.20 wt.%、 マンガン : 0.05〜0.70 wt.%、 燐 : 0.005 wt.%未満、 硫黄 : 0.004 wt.%以下、 銅 : 0.02 wt.%以下、 クロム : 0.2 wt.%以下、 モリブデン : 0.05 wt.%以下、 アルミニウム: 0.02 wt.%以下、 ニオブ : 0.02 wt.%以下、 バナジウム : 0.02 wt.%以下、 チタン : 0.02 wt.%以下、 ホウ素 : 0.001 wt.%以下、 タングステン: 0.02 wt.%以下、 窒素 : 0.003 wt.%以下、 酸素 : 0.005 wt.%以下、 および、 残り、鉄および不可避的不純物、からなることを特徴と
    する、メッキ性およびハンダ性に優れた Fe-Ni系合金冷
    延板。
  2. 【請求項2】ニッケル : 26 〜 32 wt.%、 コバルト : 1 〜 20 wt.%、 炭素 : 0.10 wt.% 以下、 珪素 : 0.01〜0.20 wt.%、 マンガン : 0.05〜0.70 wt.%、 燐 : 0.005 wt.%未満、 硫黄 : 0.004 wt.%以下、 銅 : 0.02 wt.%以下、 クロム : 0.2 wt.%以下、 モリブデン : 0.05 wt.%以下、 アルミニウム: 0.02 wt.%以下、 ニオブ : 0.02 wt.%以下、 バナジウム : 0.02 wt.%以下、 チタン : 0.02 wt.%以下、 ホウ素 : 0.001 wt.%以下、 タングステン: 0.02 wt.%以下、 窒素 : 0.003 wt.% 以下、 酸素 : 0.005 wt.% 以下、 および、 残り、鉄および不可避的不純物、からなることを特徴と
    する、メッキ性およびハンダ性に優れた Fe-Ni系合金冷
    延板。
  3. 【請求項3】 更に、水素含有量が2.0ppm以下である、
    請求項1または2記載の Fe-Ni系合金冷延板。
  4. 【請求項4】 38から52wt.%の範囲内の量のニッケルを
    含有するFe-Ni 系溶融合金を調製し、電気炉内および/
    または取鍋内において、前記Fe-Ni 系溶融合金中に酸素
    を供給して、前記Fe-Ni 系溶融合金中に含有されてい
    る、燐、クロム、ニオブ、バナジウム、チタン、ホウ
    素、およびタングステンを酸化させ、生成した酸化物を
    CaO 系スラグに吸収して除去し、次いで、前記酸化物が
    除去された7-Ni 系溶融合金を、インゴットに鋳造する
    かまたは連続鋳造し、次いで、熱間圧延し、そして、冷
    間圧延することによりFe-Ni 系合金冷延板を製造するこ
    とを特徴とする、メッキ性およびハンダ性に優れた Fe-
    Ni系合金冷延板の製造方法。
  5. 【請求項5】 26から32wt.%の範囲内の量のニッケル、
    および、1から20wt.%の範囲内のコバルトを含有するFe
    -Ni 系溶融合金を調製し、電気炉内および/または取鍋
    内において、前記Fe-Ni 系溶融合金中に酸素を供給し
    て、前記Fe-Ni系溶融合金中に含有されている、燐、ク
    ロム、ニオブ、バナジウム、チタン、ホウ素、およびタ
    ングステンを酸化させ、生成した酸化物をCaO 系スラグ
    に吸収して除去し、次いで、前記酸化物が除去されたFe
    -Ni 系溶融合金を、インゴットに鋳造するかまたは連続
    鋳造し、次いで、熱間圧延し、そして、冷間圧延するこ
    とによりFe-Ni 系合金冷延板を製造することを特徴とす
    る、メッキ性およびハンダ性に優れた Fe-Ni系合金冷延
    板の製造方法。
  6. 【請求項6】 前記電気炉内および/または取鍋内にお
    ける前記 Fe-Ni系溶融合金中への酸素の供給を、前記 F
    e-Ni系溶融合金中への酸素の吹込みによって行う、請求
    項4または5記載の方法。
  7. 【請求項7】 前記電気炉内および/または取鍋内にお
    ける前記 Fe-Ni系溶融合金中への酸素の供給を、スラグ
    中へのミルスケール等の酸化物の添加によって行う、請
    求項4または5記載の方法。
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