JP4089580B2 - 薄膜の厚さ及び厚さ分布の評価方法 - Google Patents

薄膜の厚さ及び厚さ分布の評価方法 Download PDF

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本発明は、鉄鋼製品や化学製品における表面処理技術、あるいは半導体製品、記録やディスプレー関連製品などの技術分野において、基材表面上に存在する低導電性薄膜の厚さ及び厚さ分布の評価方法に関する。
鉄鋼製品や化学製品における表面処理技術、あるいは半導体製品、記録やディスプレー関連製品など、多くの技術分野において、薄膜付与技術、薄膜制御技術は、特性発現の要である。すなわち、厚さ数オングストローム〜数百ナノメートルの薄膜の特性、物性、膜厚やその分布が性能支配因子となっていることが多い。例えば、シリコン基板のデバイス設計分野では、より高集積度を実現するために、より薄くかつ厚さの均一なゲート酸化膜を目指して開発が進められている。また、金属産業分野の例としては、耐食性を与える目的で施された有機あるいは無機の薄い表面処理皮膜において、膜厚や膜厚の均一性が耐食性に直結する。薄膜技術が重要になればなるほど、その評価技術は製品開発および検査・管理の鍵を握ってくるといっても過言ではない。
その測定方法は、光の干渉を利用する方法、オージェ電子分光法(AES)やX線光電子分光法(XPS)などの表面分析手法とイオンエッチングを組み合わせて深さ方向プロファイルを測定する方法、電子線マイクロアナライザー(EPMA)により膜の構成物質の量を測定する方法、あるいは試料の断面を作製し横方向から透過電子顕微鏡(TEM)で観察する方法などがある。
しかしながらこれらの手法は、短時間で薄膜の膜厚を評価する、あるいは短時間で膜厚の分布を評価するには適しておらず、製品管理としては適当でない場合が多い。AESやXPSは、超高真空を必要としイオンエッチングを行うため、測定に時間がかかる。
TEMは試料作製にさらに長い時間がかかり定常的な評価としては現実的でない。また、TEMは材料の局所的(一例として10μm長さ)な断面での評価に限定され、評価結果の代表性が劣る。
断面試料を作成し、SEMによる断面方向から皮膜を観察し膜厚を評価する方法は、TEMよりも広い範囲で評価可能であり、測定結果の代表性は向上するが、断面作製技術、SEMの空間分解能の観点から、200〜300nmより薄い皮膜の正確な厚さ評価は困難である。
EPMAはAESやXPSよりは短時間での測定が可能であるが、膜厚の分布まで求める場合は時間がかかる。また、EPMAでは入射する電子ビーム径を絞って加速電圧を下げることが困難なため、1μmより小さい領域で極薄膜の膜厚を評価することは困難である。光の干渉を用いる方法は、短時間の測定が可能であるが、空間分解能、すなわち微小部に制限がある。また、この方法は、光の波長により測定できる膜厚に制限があることも不利な点である。
薄膜の厚さ評価結果を、生産ラインにおける製品検査や出荷検査、あるいは薄膜形成条件へのフィードバックに用いる場合、いくらその結果が正確であっても、長時間を要しては現実的でない。また、製品表面上の特定の微小領域における薄膜厚さが検査対象である場合には、微小領域の評価が必要となる。
本発明は、上記の現状を鑑みて、簡便で迅速に、材料表面に存在する薄膜の膜厚及びその分布を評価する方法、特に材料表面に存在する薄膜の微小部の膜厚および、試料面内での膜厚の分布を評価する方法を提供することが課題である。
上記課題を解決する本発明の特徴は以下の通りである。
(1)予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して前記標準試料表面から放出される2次電子量を測定して2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求め、前記で求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を用いて、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚の関係を求める関係調査ステップと、
基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して前記評価対象試料表面から放出される2次電生量を測定し、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求める電圧調査ステップと、
前記電圧調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧及び前記関係調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
(2)モンテカルロシミュレーションを用いて、評価対象試料と同種の低導電性薄膜を有する試料に電子線を照射したときに電子線の薄膜内での拡散深さが膜厚と等しくなる加速電圧を複数の膜厚について求め、前記で求めた電子線の薄膜内での拡散深さが膜厚と等しくなる加速電圧を、前記評価対象試料と同種の低導電性薄膜を有する試料に電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射したときに標準試料表面から放出される2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧とみなして、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚の関係を求める関係調査ステップと、
基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して前記評価対象試料表面から放出される2次電子量を測定し、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求める電圧調査ステップと、
前記電圧調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧及び前記関係調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
(3)予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して標準試料表面から放出される2次電子量を測定し、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求め、さらに前記で求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧よりも低い一定加速電圧において前記複数の標準試料に電子線を照射したときの標準試料表面から放出される2次電子量を測定し、この測定で得られた2次電子量を用いて、一定加速電圧における2次電子発生量と膜厚との関係を求める関係調査ステップと、
基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に電子線を前記一定加速電圧で照射し、前記評価対象試料表面から放出される2次電子量を測定する電子量調査ステップと、
前記電子量調査ステップで求めた2次電子量及び前記関係調査ステップで求めた2次電子発生量と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
(4)予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射したときの標準試料表面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求め、前記で求めた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧を用いて、2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を求める関係調査ステップと、
基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して試料面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求める電圧調査ステップと、
前記電圧調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧及び前記関係調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
(5)予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射したときの標準試料表面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求め、さらに前記で求めた明るさ数値が減少を開始する加速電圧よりも低い一定加速電圧で前記複数の標準試料に電子線を照射したときの走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさ数値を求め、前記で求めた2次電子像の明るさ数値を用いて、2次電子像の明るさ数値と膜厚との関係を求める関係調査ステップと、
基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に電子線を前記一定加速電圧で照射して前記評価対象試料表面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値を求める明るさ調査ステップと、
前記明るさ調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値及び前記関係調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
(6)評価対象試料表面に照射する電子線を、前記評価対象試料表面上を走査しながら照射し、その際に、下記(イ)又は(ロ);
(イ)評価対象試料表面上の各電子線照射位置において加速電圧を逐次変化させて2次電子量を測定し、評価対象試料表面上の各位置における2次電子量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求め、該2次電子量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧から請求項1又は2記載の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
(ロ)評価対象試料表面上の各電子線照射位置において加速電圧を逐次変化させて走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値を求め、評価対象試料表面上の各位置における明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求め、該明るさ数値が減少を開始する加速電圧から請求項4記載の方法で、前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定することを特徴とする、薄膜厚さの試料面内分布の評価方法。
(7)評価対象試料表面に照射する電子線を、前記評価対象試料表面上を走査しながら照射し、
その際に、下記(イ)又は(ロ);
(イ)加速電圧を(3)に記載される一定加速電圧で照射し、電子線照射位置に対応した2次電子量を測定しその2次電子量から(3)記載の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
(ロ)加速電圧を(5)に記載される一定加速電圧で照射し、電子線照射位置に対応した走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値を求めその明るさ数値から(5)記載の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定することを特徴とする、薄膜厚さの試料面内分布の評価方法。
(8)試料表面に照射する電子線の加速電圧は0.01kV〜5kVの範囲内であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の薄膜厚さの評価方法。
(9) (1)〜(5)記載の基材は金属あるいは半導体であり、(1)〜(5)記載の低導電性薄膜は酸化物および/または水酸化物からなることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の薄膜厚さの評価方法。
本発明により、材料の特性の多くを左右する表面の低導電性薄膜の厚さおよびその二次元分布を、既存手法より簡便・迅速、かつ正確に評価できる。
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の特徴は、(1)工業製品上で重要な皮膜の多くが低導電性であることと、(2)電子線照射に対して皮膜物質と下地物質の2次電子放出率の違いに着目し、(3)複数の加速電圧を用いることにより、(4)皮膜厚さの違いを加速電圧に対する2次電子放出率およびその変化の違いとして検出することにある。
発明者らは極低加速SEM技術を利用し種々の薄膜サンプルを調べるうち、薄膜の有無によって材料表面の2次電子像の明るさに違いがあることに気づいた。この明るさの違い(以下コントラスト)は、金属上に導電性の低い酸化物層が存在する場合を例にとると、図1に模式的に示したメカニズムで生じると考えている。
すなわち、通常加速電圧では、図1(a)に示すように、膜物質がある部分、膜物質がない部分のいずれでも、下地物質からの2次電子放出が支配的である。そのため、膜物質がある部分と膜物質がない部分とで2次電子放出量の差は小さい。これに対して、入射電子の加速電圧を、入射後の電子の拡散が皮膜物質内に収まるような条件で選択された場合、図1(b)に示されるように、膜物質がある部分における2次電子放出は膜物質そのもので決定され、膜物質が無い部分における2次電子放出量は下地物質そのもので決定される。このとき、膜物質と下地との2次電子放出量に差が生じる。そのために、膜物質がある部分と無い部分とで物質の違いにより物質コントラストが生じるのである。
さらに、試料に照射する電子線の加速電圧を変化させて、加速電圧に対する2次電子像の明るさ変化を評価したところ、試料表面に存在する薄膜の厚さに応じて、その変化の仕方が異なることがわかった。具体的には、加速電圧を高い方から低い方へ変化させて2次電子像を観察した場合、膜厚が厚い試料ほど高い加速電圧で2次電子発生量(2次電子像の明るさ)が減少し始める。このことを図2の模式図で説明する。
図2は、金属上に該金属よりも導電性の低い物質で構成され、膜厚の異なる薄膜(ここでは酸化物層)を有する試料(2)〜(4)について、加速電圧を高い方から低い方へ変化させたときの2次電子発生量の変化を示す模式図である。膜厚は試料(4)>試料(3)>試料(2)である。皮膜が存在しない試料(1)表面からの2次電子放出量は、実際には加速電圧を低下すると2次電子発生量はわずかずつ変化し、滑らかな曲線となる加速電圧依存性を有しているが、図2では、その変化を無視し、皮膜が存在しない試料(1)の2次電子発生量の加速電圧依存性を、二次電子発生量が一定の直線で示してある。
低導電性の皮膜が表面に存在する試料(2)〜(4)の2次電子発生量の加速電圧依存性は、各々図中に示されるような曲線になる。すなわち、加速電圧が高い領域では、加速電圧を低下しても2次電子発生量の変化は薄膜が存在しない試料(1)と類似しているが、加速電圧をさらに低下すると、ある加速電圧から2次電子発生量は顕著に減少するようになる。これは、前述のように入射電子の試料内での広がりが皮膜内に限定されるようになることで、低導電性の皮膜表面が正に帯電し、2次電子発生量が減少するためと考えられる。ここで注目すべきは、2次電子発生量が減少し始める加速電圧は、試料(4)>試料(3)>試料(2)であることから、導電性の皮膜厚さが増加するに伴って、高い加速電圧で2次電子発生量が減少し始めることである。このような作用を利用して、低導電性皮膜の厚さを評価することができることを知見した。なお、図2では、装置の2次電子検出効率の加速電圧依存性は無視されている。
例えば、2次電子発生量が滑らかな曲線から外れて減少を開始する加速電圧(図2中、▽印ア〜ウで示す。)を求め、膜厚と2次電子発生量が減少を開始する加速電圧の関係を図示すると、図3に示すような特性曲線が得られる。このことから、膜厚が既知の複数の標準試料について、図3に示すような加速電圧と薄膜の膜厚との関係を予め求めておくと、膜厚が未知の試料について、加速電圧を高い方から低い方へ変化させたときの2次電子発生量を測定して図2のような特性図を作成し、2次電子量が滑らかな曲線から外れて減少を開始する加速電圧を求めることで、当該膜厚が未知の試料の膜厚を評価することができる。ここで、標準試料は、評価対象試料と同種又は組成や密度が類似した同系統の種類の薄膜を有するものを使用する。評価対象試料と同種の薄膜を有するものの中から膜厚の異なるものを適宜用いればよい。
発明者らは、SiO2膜について、モンテカルロシミュレーションにより入射電子の試料内での拡散領域を評価したところ、前記の2次電子発生量が減少を開始する加速電圧は、入射電子の拡散がほぼ薄膜内に収まる加速電圧に対応、すなわち、照射する電子線の膜物質内での拡散深さが膜厚と等しくなる加速電圧に対応することがわかった。膜物質の成分・組成・密度が分かっていれば、モンテカルロシミュレーションなどの計算手法により、入射電子の拡散がほぼ薄膜内に収まる加速電圧、つまり二次電子発生量が変化を始める加速電圧を求めることができる。
従って、膜物質の成分、組成が分かっている薄膜については、該薄膜に対して、2次電子発生量が減少を開始する加速電圧と膜厚との関係をあらかじめ求めておかなくても、モンテカルロシミュレーションなどの計算手法により、入射電子の拡散がほぼ薄膜内に収まる加速電圧を求め、前記で求めた加速電圧を2次電子発生量が減少を開始する加速電圧と見なすことで、図3に示すような膜厚と2次電子発生量が減少を開始する加速電圧との関係を示す特性図を得ることができる。この結果と、膜厚が未知の薄膜試料の2次電子量の加速電圧依存性を測定することとを組合わせることにより当該薄膜試料の膜厚を決定できる。
また、図2において、2次電子発生量が減少を開始する加速電圧よりも低い加速電圧、例えば図2中に示す加速電圧Xにおいて、試料(2)〜(4)の2次電子発生量を比較すると、皮膜厚さに対応して2次電子発生量が少くなっていることがわかる。点線Xの加速電圧における試料(2)〜(4)の2次電子発生量を、各々a、b、cとし、加速電圧と2次電子発生量の関係を図示すると、図4のような特性図が得られる。図4より、膜の物質が同じあるいは同系統の場合、適切な加速電圧を選択すれば、2次電子発生量は膜厚に対応していることから、この加速電圧で、2次電子発生量を測定することにより皮膜の厚さを評価できる。上記一定加速電圧における、二次電子発生量と皮膜厚さとの関係をあらかじめ求めておくことにより、膜厚未知の試料の皮膜厚さを決定できる。
ここで、前述の適当な加速電圧(図2中に示す加速電圧X)は、測定対象薄膜の膜厚範囲等を考慮して設定される。測定膜厚範囲が広い場合、一加速電圧では、膜厚が薄い薄膜は2次電子量が薄膜のない場合との差を検出し辛くなり、逆に、膜厚が薄い場合、二次電子発生量が飽和し膜厚の変化を検出し辛くなることがある。このような場合、膜厚の厚い領域では加速電圧Xで行い、膜厚の薄い領域では、前記加速電圧Xより低い加速電圧X1を選定する等、加速電圧を2水準選んでもよい。
これまでは、試料表面上に均一に形成された薄膜を前提として説明した。薄膜が不均一に分布している場合、あるいは厚さが不均一な場合は、入射する電子線を加速電圧を逐次変化させて走査し、電子線照射位置ごとの2次電子発生量を測定し、試料面の各位置毎に2次電子発生量が減少を開始する加速電圧を求めることで、試料面内における皮膜の分布および厚さ分布を評価することができる。通常のSEMと同様に、電子線照射位置に応じた二次元上に画像として皮膜厚さのデータを、例えば色の濃淡(グレースケール化、すなわち明度差だけの付与でもよい。)あるいはカラーにより2次電子発生量を表したり、皮膜厚さを等高線や二次元高さ分布で表すと、薄膜の分布状態、厚さ分布状態を一目で理解することのできるデータを提供することができる。
上記の手法において、本質は2次電子の放出量であるが、前述のように2次電子像の明るさに違いがあるので、SEMを用いて2次電子像の明るさを測定し、それを数値化し、その数値で2次電子放出量の相対的な違いを評価することができる。2次電子像の明るさを数値化して評価することには、(1)簡便であること、(2)皮膜厚さの二次元分布を容易に取得できること、の利点がある。また、(3)SEMが具備する各種表面画像観察機能や元素分析機能を利用して、試料の表面形態や組成分布などを必要に応じて評価できることもある。
本発明に有効な加速電圧範囲は、薄膜の厚さによって決定されるが、薄膜厚さが数nm〜数十nmの極薄膜である場合、入射電子の拡散領域の評価から、加速電圧1kV以下の極低加速電圧で2次電子量発生量、すなわち2次電子像の明るさに大きな変化が現れるため、図2〜図4のような特性図を得るには加速電圧の範囲は、0.1kV〜5kVの低加速〜極低加速電圧領域に限定することが好ましい。そのため、本発明に基づいて皮膜厚さを評価するには、このような極低加速電圧領域で加速電圧を変化させても良好な2次電子像観察を行えるSEMが適している(このようなSEMを、ここでは極低加速SEMと記す)。なお、薄膜厚さが数nm以下の場合は、0.1kVよりもさらに低い加速電圧が有効である。
SEMにて試料面内の平均情報を得る場合は、2次電子量あるいは2次電子像の明るさを観察面内で平均するか、入射電子ビームを広くして測定を行う。極低加速SEMを用いる以外にも、皮膜の平均的な厚さ情報を得る目的には、真空ポンプで引かれた真空容器のなかに、電子線を発生・加速電圧変化・照射する機能、2次電子を検出・量を測定する機能、および試料を保持する機能を有する単純な装置を用いることができる。
発明者らは、上記の知見に基づいて、金属や半導体上の低導電性薄膜に適用し、膜の厚さやその分布の評価に有用であることを確認し、本発明に至った。
以下、本発明の実施の形態について、試料表面に照射する電子線の加速電圧を高い方から低い方に変化させる場合を例に挙げて具体的に説明する。
本発明の評価対象試料は、基材(下地物質)表面の少なくとも一部に薄膜を有しており、該薄膜は基材の導電性よりも低い導電性物質からなる材料である。具体例としては、金属や半導体上にそれより低導電性の皮膜が存在する材料が本発明の対象となる。前述の低導電性皮膜としては、例えば、鋼板などの金属板上の酸化物や水酸化物、あるいは有機化合物や高分子材料を主体とする表面処理皮膜などがある。半導体産業分野では、シリコン等の半導体や金属上の酸化物、有機物等で構成される絶縁皮膜や誘電体皮膜などを挙げることができる。これらの製品の特性が低導電性皮膜の厚さに依存しているものは、本発明の格好の対象である。対象となる低導電性薄膜の厚さは、数nm〜1μm程度である。
評価対象試料は、板材に限定されず、線材やブロック状等でもよいし、単体材料のみならず部品の一部あるいは完成製品の一部であってもよい。
まず、評価対象の材料から必要に応じて試料を切出す。次いで、切出した試料を必要であれば洗浄した後、極低加速SEMを用いて試料表面に電子線を照射し、その表面から放出される2次電子量を測定する。
極低加速SEMとしては、加速電圧0.1kV以上5kV以下の電子線を常時安定して照射できるSEMを用いる。0.1kVよりも低い加速電圧を使用できればさらによい。この加速電圧の範囲で、5nmより良い空間分解能を損なわずに自由に加速電圧を変化させることができるもので、電子線の安定性の観点からショットキー電界放出電子銃を有すること望ましい。2次電子検出器としては、低エネルギーの2次電子を、できれば選択的に、多く検出できるものが望ましい。また、迅速に測定までのセットアップができることから試料準備室を有することが望ましい。一例をあげるとすると、LEO1500シリーズ(LEO社)は、上記の目的に適している。
極低加速SEM以外にも、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)を用いても本発明を達成することができる。LEEMでは入射電子を細く絞らず観察領域前面に照射し、電子レンズを用いて、二次電子の放出位置を拡大して表示する。光学顕微鏡と同じ機能を電子に対して行っている。LEEMを用いて、加速電圧を調整して、低導電性の薄膜の帯電に敏感な低エネルギーの二次電子、例えば5eVを中心とした二次電子を取り込めば、本発明の薄膜の厚さ決定、厚さ分布評価を行うことができる。極低加速SEMと違い、入射電子を細く絞る必要がないので、より低加速電圧0.01kV〜0.1kVを比較的容易に用いることができ、数nm以下の膜厚評価には特に有効である。
試料表面から放出される2次電子量(本明細書では、2次電子放出量とも記載する)の測定は、2次電子を電流として取り込み、その量を数値化する方法が直接的であるが、これに代えて、SEM像の明るさを数値化して評価することが簡便である。以下、2次電子像の明るさを数値化して評価する方法について具体的に説明する。
前記したように、加速電圧を高い方から低い方へ変化させて2次電子放出量が減少を開始する加速電圧化から膜の厚さを推定する場合、皮膜が存在しない場合でも、滑らかな加速電圧依存性がある。また、加速電圧を変化させると、通常、照射電流や検出器の2次電子検出効率も滑らかに変化する。このような測定される2次電子放出量の滑らかな変化があっても、皮膜が存在することによる、加速電圧変化時の2次電子放出量の変化を検知することはできる(図2)が、同一条件で皮膜が存在しない表面での2次電子放出量の加速電圧依存性を測定しておいて、皮膜が存在する試料のデータを規格化することで、より明瞭な加速電圧−2次電子放出量の関係を示す特性図を得ることができる。
一定の加速電圧で得られた2次電子像の明るさから、皮膜厚の分布を定量的に評価するためには、観察・画像取り込み、および数値化の条件を同一にすることが肝要である。皮膜厚と2次電子放出量(あるいは2次電子像の明るさ数値)との関係を予め求めておき、評価対象試料に対してそれと同一条件で評価して得られた結果を比較する必要がある。しかし、いくらすべての条件を一定にしておいても、入射電子量の変化、ビームの絞れ具合、あるいは検出器の特性変化などにより結果が変化することがある。
この対策として、評価対象試料と同時に参照試料について、同様の方法で観察・画像数値化を行い、評価対象試料の結果を参照試料で補正して評価対象試料の膜厚を判定することが現実的である。参照試料としては、表面が変化しにくい安定な物質(例えばSiO2膜付きのSiウエハ)や膜厚が既知の実材料を用いることができる。
補正方法の一例は、2次電子放出量と膜厚の関係を求めたときの、参照試料の二次電子放出量をIo S、膜厚が未知の試料を評価したときの2次電子放出量をIS、とすると、未知試料の2次電子放出量Iobsは、Io SとISから(1)式より補正された2次電子放出量Icに変換するものである。Icから、すでに求めていた2次電子放出量と膜厚との関係(図4)を用いて膜厚を決定することができる。
c=Iobs×Io S/IS …(1)
また、2次電子放出量と膜厚との関係(図4)でなく、2次電子像の明るさ数値と膜厚の関係を求めたときの、参照試料の明るさ数値をLo S、膜厚が未知の試料を評価したときの明るさ数値をLS、とすると、未知試料の明るさ数値Lobsは、Lo SとLSから(2)式より補正された明るさ数値Lcに変換するものである。Lcから、すでに求めていた明るさ数値と膜厚との関係(図4)を用いて膜厚を決定することができる。
c=Lobs×Lo S/LS …(2)
前記試料を、参照試料と共に極低加速SEM内に導入する。SEMは安定化のため、可動状態にした後数時間経過していることがのぞましい。例えば、ショットキー電子銃の電圧をかけた状態で保持しておくことが有効である。SEM観察により膜厚の均一性や薄膜分布をチェックした後、画像を取込む領域を決定する。
一定加速電圧で皮膜厚さ分布を評価する場合、評価対象試料と参照試料とを、同一観察条件にて観察し、同一条件で画像をデジタルデータとして取込む。その際に同一にする観察条件は以下のとおりである。
・加速電圧:対象とする膜厚により変更可能である。例えば、金属上の数〜数十nmの酸化膜では、0.5kV程度の加速電圧が有効である。
・入射電子条件:加速電圧、アパーチャ−、ビーム径(通常最小)、電子の走査範囲(倍率)、走査スピード(一点あたりの電子線照射時間)、走査方法
・検出条件:検出器の条件(印可電圧など)、明るさ、コントラスト、ゲイン、オフセット
・画像取込み条件:取込み点数、取込み時間、明るさ、コントラスト、ゲイン、オフセット
次いで取込んだ画像を、画像処理ソフトウエアで読み込む。このソフトウエアは自作、市販品を問わない。後者の一例は、Adobe製Photoshopである。前記ソフトウエア上で、異物付着部など異常部を除いた画像範囲の明るさを数値化する。数値化方法は問わないが、例えば明るさを256階調に分ける。試料表面の平均情報を得る場合は、前記範囲内の画像データ点数で平均化する方法を採用できる。評価対象試料と参照試料の両方について、同様の方法で画像を数値化する。
2次電子像の明るさ数値と加速電圧との関係(図2に対応する特性図。図2の縦軸のパラメータを明るさ数値に変えたもの。)を求める。皮膜がない表面のデータがある場合は、そのデータにより結果を規格化する。次に、2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求める。2次電子像の明るさ数値と加速電圧との関係は、入射電子線のそれぞれの照射位置について求めるが、皮膜が均一な場合、あるいは皮膜の平均膜厚のみを評価する場合は、すべての照射位置のデータを平均すればよい。
予め求めておいた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧と皮膜膜厚との関係を(図3に対応する特性図。図3の縦軸のパラメータを明るさ数値に変えたもの。)から、平均的な皮膜厚さを決定する。
加速電圧を一定(所定加速電圧)にして膜厚を評価する場合は、予め求めておいた所定加速電圧における2次電子像の明るさ数値と皮膜厚さとの関係(図4に対応する特性図。図4の縦軸のパラメータを明るさ数値に変えたもの。)を用いて、膜厚が未知の試料の前記所定加速電圧における2次電子像の明るさの測定数値に基き、または必要に応じて参照試料の結果を用いて前記数値を補正した上で、図4に対応する特性図に基いて該明るさ数値を膜厚に対応付けることにより試料の膜厚を決定する。
前述の説明では、試料に照射する電子線の加速電圧は、高い方から低い方へ順次変化させて2次電子発生量を測定することで、膜厚が未知の試料の膜厚を決定した(図2〜図4)。
本発明は、試料に照射する電子線の加速電圧は、高い方から低い方へ順次変化させることに代えて、低い方から高い方へ順次変化させることもで、膜厚が未知の試料の膜厚を決定することもできる。
加速電圧を低い方から高い方へ逐次増加していくと、加速電圧が低い領域では、加速電圧を増加するとそれに応じて2次電子発生量が増加する。しかし、加速電圧がある程度以上大きくなると2次電子発生量はほぼ飽和して殆ど増加しなくなる。従って、この場合、2次電子発生量が減少を開始する加速電圧に代えて、2次電子発生量がほぼ飽和して殆ど増加しなくなる加速電圧を求める。すなわち、試料に照射する電子線の加速電圧を低い方から高い方へ順次変化させて、膜厚既知の複数の試料について、2次電子発生量がほぼ飽和して殆ど増加しなくなる加速電圧を求め、さらに該2次電子発生量が殆ど増加しなくなる加速電圧と膜厚との関係を求める。そして、膜厚が未知の試料の表面に、加速電圧を低い方から高い方へ順次変化させて照射し、2次電子発生量が殆ど増加しなくなる加速電圧を求め、該加速電圧と、予め求めた2次電子発生量が増加しなくなる加速電圧と膜厚との関係に基き、該試料の膜厚を決定すればよい。
また、2次電子発生量が減少を開始する加速電圧よりも低い所定の加速電圧における2次電子発生量を求めことに代えて、2次電子発生量が殆ど増加しなくなる加速電圧より低い所定加速電圧における2次電子発生量を測定する。すなわち、試料に照射する電子線の加速電圧を低い方から高い方へ順次変化させたときに、2次電子発生量が殆ど増加しなくなる加速電圧より低い所定加速電圧を選び、該加速電圧において、膜厚が既知の複数の試料の表面に電子線を照射し、発生する2次電子量を測定し、該2次電子発生量と膜厚との関係を求める。そして、膜厚が未知の試料の表面に、前記所定の加速電圧で電子線を照射し、2次電子発生量を求め、該2次電子発生量と、前記で求めた2次電子発生量と膜厚との関係に基き、該試料の膜厚を決定してもい。
本発明によれば、材料の特性の多くを左右する表面の低導電性薄膜の厚さおよびその二次元分布を、既存手法より簡便・迅速、かつ正確に評価できる。
本発明は、表面に薄膜を有する材料の製品検査、出荷品質管理に利用することができる。例えば、膜厚に対応して合否基準を設け、評価結果に基き、製品の合否を判定してもよい。また、膜厚に対応して製品のグレード分けを行い、評価結果に基いて製品の出荷先を適宜の用途に振り分けることができる。
また、本発明は、半導体材料分野や金属材料分野等において、半導体や金属上に低導電性の酸化部及び/又は水酸化物などの薄膜を形成させた材料で、数十nmの領域での膜厚の分布までも評価可能であり、ナノテクノロジーにより開発される材料の評価にも好適に利用できる。
また、本発明は、材料表面に薄膜を付与する製造工程において、薄膜付与工程の製造条件を調整するフィードバック制御にも利用可能である。すなわち、前記評価を行う評価工程を、薄膜形成工程を含む製造工程に組み込み、評価結果に基き、薄膜形成工程の成膜条件を修正するフィードバック制御に反映することもできる。
ここまでは、薄膜の厚さと、二次電子放出量や二次電子像の明るさとの関係で説明したが、薄膜の厚さが何らかの薄膜特性に関連している場合、薄膜の厚さではなく、直接、性能と二次電子放出量や二次電子像の明るさとの関係を求めておき、性能を決定することもでき、工業的には便利である。性能としてはとくに限定されないが一例をあげるとすると、耐磨耗性、耐食性、導電性、耐圧性などである。
次に、本発明を実施例により説明する。
p型半導体のシリコンウエハ上に熱処理により膜厚の異なる3種類の酸化膜(SiO2)を付与した。その膜厚は、10nm、19nmおよび50nmである。また、ふっ酸により、自然酸化膜を除去したシリコンウエハも用意した。SEM(LEO1530)を用い、加速電圧2kV〜0.1kVまで0.1kVステップで変化させ前記試料表面を走査し、各加速電圧で2次電子像をデジタルデータで取り込んだ。各加速電圧で得られた画像の平均明るさを、市販のソフトウエアPhotoshop(Adobe製)を用いて256階調で、平均明るさを求めることで、数値化した。なお、加速電圧に伴う2次電子像の明るさの滑らかな変化部分の影響を軽減するため、自然酸化膜を除去したシリコンウエハの結果を差引いた。
図5は、自然酸化膜を除去したシリコンウエハの結果を差引いたあとの、3種類の酸化膜つきシリコンウエハの、加速電圧に対する2次電子像平均明るさの変化を示す図である。加速電圧を下げていくと、いずれもある加速電圧以下で明るさが減少している。明るさが減少しだす加速電圧は、図5中、「↓」で示している。膜厚10nm、19nmおよび50nmの酸化膜に対して、該加速電圧は、各々0.3kV、0.8kVおよび1.4kVであった。
前記で得られた2次電子像平均明るさが減少しだす加速電圧と膜厚との関係を図6に示す。図6で得られた結果を利用して、膜厚が未知の試料の膜厚を次のようにして決定できる。すなわち、該試料に加速電圧を高い方から低い方に逐次変化させて加速電圧に対応する2次電子像の明るさを求める。さらに自然酸化膜を除去したシリコンウエハの結果で規格化し、2次電子像の明るさが減少を開始する加速電圧を求める。図6から、この加速電圧に対応する膜厚を求めることで、該試料の膜厚を決定することができる。
モンテカルロシミュレーション(ソフトウエア Monte Carlo Simulation (Bulk with Thin Films,May 1997,Kimio Kanda, Hitachi Ltd、電子線垂直入射、入射電子数10000)で、Si上の膜厚50nmのSiO2膜に、加速電圧を変えて電子線を照射したときに、入射電子の拡散領域(拡散深さ)がほぼ該膜厚と同じになる加速電圧を評価したところ、加速電圧1.4kVで入射電子の拡散領域がほぼ該膜厚と同じになることがわかった。図7は該試料の加速電圧1.4kVにおけるシミュレーション結果を示す図である。図7から、加速電圧1.4kVで入射電子の拡散はほぼ酸化膜内に収まっていることがわかる。
他の試料についても同様の評価を行った結果、入射電子の拡散領域がほぼ該膜厚と同じになる加速電圧は、膜厚19nmでは0.7kV、膜厚10nmでは、<0.5kV(0.5kV以下は用いたソフトウエアでは評価できなかった)であった。モンテカルロシミュレーション結果から得られる膜厚50nm、19nmの試料の入射電子の拡散領域がほぼ該膜厚と同じになる加速電圧は、図5において各々前記膜厚に対応する明るさが減少を始める加速電圧にほぼ一致している。従って、図5において、前記2次電子像平均明るさが減少しだす加速電圧に代えて、モンテカルロシミュレーションにより試料の入射電子の拡散領域がほぼ該膜厚と同じになる加速電圧を用いることができ、これによって、膜厚が既知の標準試料を用いることなく、SiO2薄膜の厚さを評価することができる。
連続溶融亜鉛めっき製造ライン(CGL)を用いて常法で合金化溶融亜鉛めっき鋼板を作製し、圧延ロールを用いた調質圧延した後、表面に酸化処理を施した。そのコイルの長手方向中央部付近で板幅中央付近から12mmφに打ち抜いた試料を評価対象とした。試料をアセトン中で超音波洗浄を5分間行い、脱脂した。SEMとして、LEO1530(LEO社製)を用い2次電子像の明るさの加速電圧依存性を評価したところ、加速電圧0.5kVで観察領域内で明るさコントラストが明確に表れることができることがわかった。そこで、加速電圧0.5kVで固定し、2次電子像を観察することで、膜厚の分布を評価した。その他の観察条件は下記のとおりである。
アパーチャ−:30μm、ビーム径(最小)、倍率:1000倍、走査スピード:25.7μ秒/点、データ点数:1024×768、とし、検出器の明るさ、コントラストを一定にした。
取込んだ画像を、市販のソフトウエアAdobe製Photoshopを用いて画像の明るさを、256階調で数値化し、あらかじめ求めておいた、2次電子像の明るさと膜厚との関係から、酸化膜厚の二次元分布を求めた。
図8は、酸化物厚さの分布を明度差で表示したSEMによる2次電子像の例ある。具体的には、図8の2次電子像の右側に例示されるように、膜厚が厚くなるに従い明度が低下するように膜厚に対応して明度を変えて表示してある。図8から、観察視野の右上に明るい領域が多く、従って酸化物厚さが薄い領域が多く存在していることが明瞭にわかる。
本発明は、金属製品や化学製品における表面処理技術、あるいは半導体製品、記録やディスプレー関連製品などの技術分野において、基材表面上に存在する低導電性薄膜の厚さ及び厚さ分布の評価方法に利用できる。
本発明は、表面に薄膜を有する材料の製品検査、出荷品質管理にも利用することができる。
本発明は、半導体材料分野や金属材料分野等において、半導体や金属上に低導電性の酸化物及び/又は水酸化物の薄膜などを形成させるナノテクノロジーにより開発される材料の評価にも利用できる。
本発明は、材料表面に薄膜を付与する製造工程において、薄膜付与工程の製造条件を調整するフィードバック制御にも利用できる。
本発明において、薄い酸化膜層の存在部分を可視化できる機構を示す模式図で、(a)は通常加速電圧における2次電子放出を説明し、(b)は入射電子の加速電圧を、入射後の電子の拡散が皮膜物質内に収まるような低加速電圧に選択されたときの2次電子放出を説明する。 表面に膜厚の異なる低導電性皮膜が存在する試料で、加速電圧を高い方から低い方に変化させたときの加速電圧に対する2次電子発生量量の変化を示す模式図である。 加速電圧を高い方から低い方に変化させたときの2次電子の発生量が減少を開始する加速電圧と皮膜厚さとの関係を示す図である。 2次電子の発生量が減少を開始する加速電圧よりも低い所定加速電圧で電子線を照射したときの二次電子発生量と皮膜厚さとの関係を示す図である。 実施例1において、シリコンウエハ上の膜厚の異なるSiO2膜に対して測定された、2次電子像の明るさの加速電圧依存性を示す図である。 実施例1において、シリコンウエハ上にSiO2膜を付与した試料において、明るさが減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を示す図である。 実施例1において、シリコン上の厚さ50nmのSiO2膜に対して、加速電圧1.4kVで電子線を照射したときのモンテカルロシミュレーションにより評価した電子の拡散領域を示す図である。 実施例2において、合金化溶融亜鉛めっき鋼板上の酸化膜厚の分布を説明する顕微鏡写真の例である。

Claims (9)

  1. 予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して前記標準試料表面から放出される2次電子量を測定して2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求め、前記で求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を用いて、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚の関係を求める関係調査ステップと、
    基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して前記評価対象試料表面から放出される2次電生量を測定し、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求める電圧調査ステップと、
    前記電圧調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧及び前記関係調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
    を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
  2. モンテカルロシミュレーションを用いて、評価対象試料と同種の低導電性薄膜を有する試料に電子線を照射したときに電子線の薄膜内での拡散深さが膜厚と等しくなる加速電圧を複数の膜厚について求め、前記で求めた電子線の薄膜内での拡散深さが膜厚と等しくなる加速電圧を、前記評価対象試料と同種の低導電性薄膜を有する試料に電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射したときに標準試料表面から放出される2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧とみなして、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚の関係を求める関係調査ステップと、
    基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して前記評価対象試料表面から放出される2次電子量を測定し、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求める電圧調査ステップと、
    前記電圧調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧及び前記関係調査ステップで求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
    を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
  3. 予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して標準試料表面から放出される2次電子量を測定し、2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求め、さらに前記で求めた2次電子発生量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧よりも低い一定加速電圧において前記複数の標準試料に電子線を照射したときの標準試料表面から放出される2次電子量を測定し、この測定で得られた2次電子量を用いて、一定加速電圧における2次電子発生量と膜厚との関係を求める関係調査ステップと、
    基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に電子線を前記一定加速電圧で照射し、前記評価対象試料表面から放出される2次電子量を測定する電子量調査ステップと、
    前記電子量調査ステップで求めた2次電子量及び前記関係調査ステップで求めた2次電子発生量と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
    を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
  4. 予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射したときの標準試料表面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求め、前記で求めた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧を用いて、2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を求める関係調査ステップと、
    基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射して試料面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求める電圧調査ステップと、
    前記電圧調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧及び前記関係調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値が減少を開始する加速電圧と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
    を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
  5. 予め表面に評価対象試料と同種又は同系統の低導電性薄膜を有し、膜厚が既知で異なる膜厚の複数の標準試料について、電子線を加速電圧の高い方から低い方に逐次変化させて照射したときの標準試料表面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求め、さらに前記で求めた明るさ数値が減少を開始する加速電圧よりも低い一定加速電圧で前記複数の標準試料に電子線を照射したときの走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさ数値を求め、前記で求めた2次電子像の明るさ数値を用いて、2次電子像の明るさ数値と膜厚との関係を求める関係調査ステップと、
    基材上に低導電性薄膜を有する評価対象試料表面に電子線を前記一定加速電圧で照射して前記評価対象試料表面の走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値を求める明るさ調査ステップと、
    前記明るさ調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値及び前記関係調査ステップで求めた2次電子像の明るさ数値と膜厚との関係を用いて、評価対象試料の薄膜の厚さを決定する膜厚決定ステップと、
    を有することを特徴とする、薄膜厚さの評価方法。
  6. 評価対象試料表面に照射する電子線を、前記評価対象試料表面上を走査しながら照射し、その際に、下記(イ)又は(ロ);
    (イ)評価対象試料表面上の各電子線照射位置において加速電圧を逐次変化させて2次電子量を測定し、評価対象試料表面上の各位置における2次電子量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧を求め、該2次電子量がなめらかな曲線からはずれて減少を開始する加速電圧から請求項1又は2記載の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
    (ロ)評価対象試料表面上の各電子線照射位置において加速電圧を逐次変化させて走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値を求め、評価対象試料表面上の各位置における明るさ数値が減少を開始する加速電圧を求め、該明るさ数値が減少を開始する加速電圧から請求項4記載の方法で、前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
    の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定することを特徴とする、薄膜厚さの試料面内分布の評価方法。
  7. 評価対象試料表面に照射する電子線を、前記評価対象試料表面上を走査しながら照射し、
    その際に、下記(イ)又は(ロ);
    (イ)加速電圧を請求項3に記載される一定加速電圧で照射し、電子線照射位置に対応した2次電子量を測定しその2次電子量から請求項3記載の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
    (ロ)加速電圧を請求項5に記載される一定加速電圧で照射し、電子線照射位置に対応した走査電子顕微鏡による2次電子像の明るさを数値化した明るさ数値を求めその明るさ数値から請求項5記載の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定する、
    の方法で前記評価対象試料表面上の各位置における薄膜の厚さを決定することを特徴とする、薄膜厚さの試料面内分布の評価方法。
  8. 試料表面に照射する電子線の加速電圧は0.01kV〜5kVの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載の薄膜厚さの評価方法。
  9. 請求項1〜5記載の基材は金属あるいは半導体であり、請求項1〜5記載の低導電性薄膜は酸化物および/または水酸化物からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項記載の薄膜厚さの評価方法。
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