近年半導体デバイスは、多層化が進んでおり、下部に形成される素子やシリコン基板と上部に形成される素子との間を導通させるため、下部と上部の素子との間にコンタクトホールを形成し、そのコンタクトホールに導電性材料を注入することが行われている。
このコンタクトホールの形成は、下部の素子やシリコン基板の上に絶縁物質であるアルミナ(Al2O3)のごとき酸化膜を蒸着し、その上にフォトレジストを塗布する。このレジストが塗布された材料を露光装置に装填し、形成すべきコンタクトホールの位置に光を選択的に照射し、その部分を感光させる。
この感光された材料は現像処理等が行われて感光された部分のレジストが取り除かれ、エッチング工程に材料は移される。エッチング工程では、レジストが取り除かれ、酸化膜が露出された部分がエッチングされ、酸化膜には多数のコンタクトホールが穿たれることになる。この後、デバイス材料の表面に残されたレジストは取り除かれ、形成されたコンタクトホール内には導電性材料が注入される。
ところで、コンタクトホール底面の開口具合は、半導体デバイスの動作の良否を左右する。したがって、このコンタクトホールは正確な位置に酸化膜を貫通して形成されなければならない。このホールが完全な孔として形成されていないと、最終的には製作されたデバイスが不良品となり、半導体デバイス製造の歩留まりを悪化させる要因となる。
このため、コンタクトホールを形成する過程では、コンタクトホールの開口度を検査し、その結果を開口度不良に至った製造過程にフィードバックし、不良原因の解消をする必要がある。このコンタクトホールの開口度を測定するために、測長機能を有した走査電子顕微鏡(CD―SEM)やボルテージコントラストによるコンタクトホール底面のチャージ状況判定法が用いられている。
CD―SEMでは、コンタクトホールが形成されている試料領域において電子ビームを照射し、試料から発生した2次電子を検出している。この検出信号に基づいてコンタクトホールの開口径を測定し、測定された開口径に基づいて、形成されたコンタクトホールの良否の判定を行なうようにしている。
ボルテージコントラスト法では、コンタクトホールが形成されている試料領域において電子ビームを走査し、試料から発生した2次電子を検出し、この検出信号を映像信号として走査2次電子像を表示させる。この結果、コンタクトホールが正確に形成されているコンタクトホール部分は、電荷のチャージアップが生じないため、画面上黒く表示される。その一方、その底部にレジストが残っているコンタクトホールでは、チャージアップが生じ、画面上ではこのホール部分が明るく表示され、このような現象によりコンタクトホールの良否の判定を行なうことができる。
このようなCD―SEMによる形状観察や、ボルテージコントラスト法によるコンタクトホールの開口度の良否判定は、コンタクトホールのアスペクトレシオ(ホールの深さ/ホールの開口径)が小さいとき(10/1程度)までは、用いることができる。
ところで、半導体デバイス生産ラインにおいて生産されるチップ内に形成されるコンタクトホール等は、生産技術の進歩により、ホールの開口径が縮小されている。また、その一方、コンタクトホールが形成される酸化膜層の厚さは変化していない。この結果、コンタクトホールにおけるアスペクトレシオの増加を招いている。
このアスペクトレシオが増大してくると、コンタクトホールの底面で発生する信号を検出し、形状判定するCD―SEMによる計測では、底面の計測が難しくなってきている。この理由は、試料表面を形成している物質は絶縁体であり、電子ビームのような荷電粒子ビームの照射により、試料表面がマイナスの電荷でチャージアップ現象が引き起こされることによる。
すなわち、ホール底面からのマイナスの2次電子が、マイナスにチャージアップされた試料表面に形成された電界により、ホールの外側に向かうことが抑制されることによる。その結果、コンタクトホール底面から発生した2次電子を充分検出できなくなることによる。
このため、CD―SEMによる計測では、ホール底面からの信号を検出する目的で、試料表面のチャージを防ぎ、ホール底面からの信号をホール外部に取り出すことが試みられている。しかしながら、アスペクトレシオが大きくなると、試料表面にかかる電界の影響は、ホール内部にまで影響を与えることができなくなる。したがって、ホール底部から発生する信号(例えば2次電子)を検出し、2次元画像としての計測を精度良く実施することが困難となってきた。
ボルテージコントラスト法によるコンタクトホールの検査では、ホールの底部で生じている事象のうち、開口と非開口を判断するために必要な信号のみを利用し、ホール開口度の判定を行なっている。これは、試料底面の不良、この場合は酸化膜の開口不良が発生した場合には、ホール底面に電荷が蓄積し、チャージ現象を引き起こす。
このような現象を観察することでホールの不良を判定することができるため、CD―SEMに比較してアスペクトレシオの大きな試料においても、ホールの開口/非開口の判断を行なうことは可能である。
しかしながら、このボルテージコントラスト法では、試料のコンタクトホールの底面でのチャージ現象を観察するため、チャージ現象が発生する前の段階で、ホールの開口/非開口の判断を行なうことは困難である。このことは、ボルテージコントラスト法による検査が、ホール開口の不良検出には向いているが、デバイス製作のプロセス管理(プロセスの揺らぎの検査)には向いていないことを意味する。
このような状況下で、コンタクトホールが形成されている層を透過しシリコンウェハに流れる電流、すなわち、吸収電流を測定することによってコンタクトホールの開口度の検査を行なうことが試みられている(例えば、特許文献1参照)。
この吸収電流値は、コンタクトホールの開口度に応じて変化する、すなわち、開口度が良好なコンタクトホールが形成されていれば、吸収電流の値が大きくなる。
その一方、コンタクトホールの開口度が悪い場合、たとえば、コンタクトホールの底部にエッチングで取り除かれなかったレジストが残っていたり、エッチング工程で充分な深さまでエッチングが行なわれなかった場合には、吸収電流の値が小さくなり、この吸収電流値によって、コンタクトホールの形成が不充分であることを判定することができる。
ここで、吸収電流値によってコンタクトホール開口度を検査する原理について簡単に説明する。試料物質に電子ビームが照射された場合、それらの相互作用により、2次電子および反射電子等が発生する。電子ビームの加速電圧または物質の材質に依存して、物質から入射電子数以上の電子が物質外へ放出または蓄積されるため、物質中では、放出または蓄積された2次電子等により、ポテンシャルが変化する。
ここで、試料物質を接地した場合、物質には相互作用により生じた2次電子等の放出量を相殺するように、電子が流れることになる。すなわち、入射電子流をIp、2次電子流をIse、反射電子流をIbe、吸収電流をIabとすると、これらの電流の関係は次式で表される。
I
p=I
se+I
be+I
ab
I
ab=I
se−(I
be+I
p)
上式に示したように、吸収電流I
abは、試料に照射される電子ビーム(荷電粒子ビーム)の総量I
pに対して、電子ビームが照射された試料面上の物質の原子番号に応じて発生する反射電子量I
beと、試料原子番号と加速電圧に応じて発生する2次電子信号量I
seとの差分で表される。
特開2000―174077号公報
試料内に吸収される吸収電子量は、試料に照射する電子により発生する反射電子、2次電子等により変化し、その変化量は、試料表面の組成と形状に依存する。酸化物試料等の場合、試料から発生する2次電子量δは、入射電子量と同じになる条件もあるため、吸収電子検出量は0となる場合もある。
高感度で吸収電流計測を実施しようとした場合、検出器系の感度を向上させるか、照射する荷電粒子ビームの電流量を増加させ見かけ上の検出値を増加させる必要がある。検出器系の感度は、初段のI−V変換増幅器の増幅率を大きくすることで対応は可能であるが、感度のみを向上させても、吸収電流計測系全体の安定性を向上させなければ、精度の高い計測はできない。
計測系全体の安定性を向上させる目的で、照射電流量を増加させ、照射電流量を安定にさせることを行ったとしても、照射されるビームにより試料表面上でのチャージアップ現象が激しくなるため、検出感度を向上させることは困難となる。更には、吸収電流量が0の条件の場合の計測では、検出数値が0のため何を計測しているのかが不明確になってしまう。また、計測領域にビームを照射する際、計測領域に見合う大きさのビームを計測領域に的確に照射することは困難である。
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、試料に照射する荷電粒子ビームを計測目的に応じて的確に制御することで、吸収電流検出感度と検出精度を向上させることができる荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法および装置に関するものである。
請求項1の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査し、試料の吸収電流を検出し、吸収電流値に基づいて試料の平面状表面に設けられた構造の検査を行う検査方法において、半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査する際、試料の平面状表面の電子放出率が1となるように、荷電粒子ビームの加速電圧および試料表面電界の強度を制御するようにしたことを特徴としている。
請求項2の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、請求項1の発明において、試料組成ごとの電子放出率データに基づいて、試料の平面状表面の電子放出率が1となるように、荷電粒子ビームの加速電圧および試料表面電界の強度を設定するようにしたことを特徴としている。
請求項3の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、請求項1〜2の発明において、試料の平面状表面物質の組成からの電子放出率が1になる条件を基本とし、試料の平面状表面の電子放出率と試料の平面状表面に設けられた被検査構造の電子放出率との差が大きくなるように、荷電粒子ビームの加速電圧および試料表面電界の強度を設定するようにしたことを特徴としている。
請求項4の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、被計測試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査し、試料の吸収電流を検出し、吸収電流値に基づいて試料の平面状表面に設けられた構造の検査を行う検査方法において、試料上を走査する荷電粒子ビームとして絞られた円形ビームを用い、荷電粒子ビームの走査を、隣り合った円形ビームのほぼ30%以上が重なり合うように行うようにしたことを特徴としている。
請求項5の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、請求項4の発明において、荷電粒子ビームの走査を、隣り合った円形ビームのほぼ30%〜50%が重なり合うようにしたことを特徴としている。
請求項6の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、請求項1〜5の発明において、検出された吸収電流を荷電粒子ビームの電流量で規格化したことを特徴としている。
請求項7の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、被計測試料である半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査し、試料の吸収電流を検出し、吸収電流値に基づいて試料の平面状表面に設けられた構造の検査を行う検査方法において、荷電粒子ビームの所定の照射条件で計測領域で荷電粒子ビームを2次元走査し、計測領域から放出された信号に基づいて、計測領域中のコンタクトホールの面積率を求めると共に、計測領域周辺のコンタクトホールが存在しない領域あるいは標準コンタクトホール部において、計測領域と同一面積の領域で、同一の荷電粒子ビームの照射条件で試料表面から放出された放出信号および試料の吸収電流量を検出し、放出信号および吸収電流量のそれぞれから前記コンタクトホールの面積率分の信号を差し引いてバックグランド信号を得、計測領域で荷電粒子ビームを2次元走査して得られた放出信号および吸収電流量からそれぞれのバックグランド信号を差し引いた信号に基づいて、コンタクトホールの検査を行うようにしたことを特徴としている。
請求項8の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査し、試料の吸収電流を検出し、吸収電流値に基づいて試料の平面状表面に設けられた構造の検査を行う検査装置において、半導体ウェハ試料の上部に制御電極を配置し、半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査する際、試料の平面状表面の電子放出率が1となるように、荷電粒子ビームの加速電圧および制御電極の電位を制御して、試料表面電界の強度を制御するようにしたことを特徴としている。
請求項9の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、請求項8の発明において、検査のために各種信号を計測する条件を設定するための制御装置が備えられており、制御装置の中には、試料組成ごとの電子放出率データに基づいて、試料の平面状表面の電子放出率が1となるように、荷電粒子ビームの加速電圧および試料表面電界の強度を含む計測条件が記憶されていることを特徴としている。
請求項10の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、請求項8〜9の発明において、前記制御装置に記憶されている計測条件は、試料の平面状表面物質の組成からの電子放出率が1になる条件を基本とし、試料の平面状表面の電子放出率と試料の平面状表面に設けられた被検査構造の電子放出率との差が大きくなるように、荷電粒子ビームの加速電圧および試料表面電界の強度が設定されていることを特徴としている。
請求項11の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、被計測試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査し、試料の吸収電流を検出し、吸収電流値に基づいて試料の平面状表面に設けられた構造の検査を行う検査装置において、検査のために各種信号を計測する条件を設定するための制御装置が備えられており、制御装置は、試料上を走査する荷電粒子ビームとして絞られた円形ビームを用い、荷電粒子ビームの走査を、隣り合った円形ビームのほぼ30%以上が重なり合うように、荷電粒子ビームの走査系を制御するように構成されたことを特徴としている。
請求項12の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、請求項11の発明において、前記制御装置は、荷電粒子ビームの走査を、隣り合った円形ビームのほぼ30%〜50%が重なり合うよう制御することを特徴としている。
請求項1の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査する際、試料の平面状表面の電子放出率が1となるように、荷電粒子ビームの加速電圧および試料表面電界の強度を制御するようにしたので、試料表面のチャージアップによる不安定要素を最小とすることができ、安定した試料吸収電流量を正確に計測することができる。
請求項2および3の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、請求項1の発明と同様な効果を得ることができる。
請求項4の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、試料上を走査する荷電粒子ビームとして絞られた円形ビームを用い、荷電粒子ビームの走査を、隣り合った円形ビームのほぼ30%以上が重なり合うように行うようにしたので、計測領域で荷電粒子ビームが照射されない箇所がなくなり、常に再現性が良い安定した計測結果が得られる。
請求項5の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、請求項4の発明と同様な効果が得られる。
請求項6の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、検出された吸収電流を荷電粒子ビームの電流量で規格化したので、荷電粒子ビームの電流量の変動に依存しない計測結果を得ることができる。
請求項7の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査方法は、荷電粒子ビームの所定の照射条件で計測領域で荷電粒子ビームを2次元走査し、計測領域から放出された信号に基づいて、計測領域中のコンタクトホールの面積率を求めると共に、計測領域周辺のコンタクトホールが存在しない領域あるいは標準コンタクトホール部において、計測領域と同一面積の領域で、同一の荷電粒子ビームの照射条件で試料表面から放出された放出信号および試料の吸収電流量を検出し、放出信号および吸収電流量のそれぞれから前記コンタクトホールの面積率分の信号を差し引いてバックグランド信号を得、計測領域で荷電粒子ビームを2次元走査して得られた放出信号および吸収電流量からそれぞれのバックグランド信号を差し引いた信号に基づいて、コンタクトホールの検査を行うようにしたので、吸収電流量のホール面積あたりの信号計測量を得ることができる。
請求項8の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、半導体ウェハ試料の上部に制御電極を配置し、半導体ウェハ試料の所定2次元領域で荷電粒子ビームを走査する際、試料の平面状表面の電子放出率が1となるように、荷電粒子ビームの加速電圧および制御電極の電位を制御して、試料表面電界の強度を制御するようにしたので、試料表面のチャージアップによる不安定要素を最小とすることができ、安定した試料吸収電流量を正確に計測することができる。
請求項9および10の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、請求項8の発明と同様な効果が得られる。
請求項11の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、検査のために各種信号を計測する条件を設定するための制御装置が備えられており、制御装置は、試料上を走査する荷電粒子ビームとして絞られた円形ビームを用い、荷電粒子ビームの走査を、隣り合った円形ビームのほぼ30%以上が重なり合うように、荷電粒子ビームの走査系を制御するように構成したので、計測領域で荷電粒子ビームが照射されない箇所がなくなり、常に再現性が良い安定した計測結果が得られる。
請求項12の発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置は、請求項11の発明と同様な効果が得られる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明に基づく荷電粒子ビームを用いた半導体ウェハ試料の検査装置を示している。この実施の形態の一例として示した装置は、走査電子顕微鏡とその制御系、試料の吸収電流信号検出系、計測条件制御系、計測データ記憶系および計測処理系とより構成されている。
走査電子顕微鏡部分の上部には、電子を発生し加速して電子ビームEBを出射する電子銃1が設けられている。電子銃1から発生し加速された電子ビームEBは、コンデンサレンズ(CL)2と対物レンズ(OL)3とによって集束され、コンタクトホールの開口度を検査する半導体ウェハ試料4に照射される。対物レンズ3の上部には、電子ビームEBを走査するための走査コイル5が設けられている。
上記電子銃1の加速電圧は、加速電圧電源6から印加されるが、その電圧値は、レンズ制御部7によって制御される。レンズ制御部7は、電子銃1の加速電圧に応じてコンデンサレンズ2,対物レンズ3の励磁強度を制御し、加速電圧に応じて最適な励磁強度を各レンズに与える。
コンデンサレンズ2の下部には、電子ビームの電流制限絞り8が配置されている。絞り8の光軸部分には電子ビームEBの通過開口9が穿たれており、開口9を通過した電子ビームEBが対物レンズ3によって集束されて試料4に照射される。この結果、コンデンサレンズ2の励磁強度を変化させれば、開口9を通過する電子ビームの電流密度が変化し、試料に4に照射される電子ビームの電流値を最適化することができる。
例えば、試料4に照射する電子ビーム電流を大きくしたい場合には、レンズ制御部7によってコンデンサレンズ2の励磁強度を強くし、絞り8の開口9を通過する電子ビームの電流密度を高くすればよく、逆に試料4に照射する電子ビーム電流を小さくしたい場合には、レンズ制御部7によってコンデンサレンズ2の励磁強度を弱くし、絞り8の開口9を通過する電子ビームの電流密度を低くすればよい。なお、試料4に照射される電子ビームEBの電流値を変化させるためにコンデンサレンズ2の励磁強度を変化させた場合には、レンズ制御部7によって、対物レンズ3の励磁強度も試料4表面に電子ビームEBがフォーカスされるように変化させられる。
電流制限絞り8の下部には、試料4に照射される電子ビームの開き角を調整するための開き角制御レンズ10が設けられている。電子ビームの開き角は、試料4の観察目的に応じて変化させられるが、コンタクトホールの開口度の検査の際には、できる限り開き角が小さくなるようにレンズ10は調整される。この開き角制御レンズ10もレンズ制御部7によって制御されており、レンズ10の励磁強度は、加速電圧の変化によっても開き角が変化しないように制御される。また、開き角制御レンズ10によって開き角を制御した際、対物レンズ3の励磁強度も試料4表面上に電子ビームがフォーカスされるように制御される。
試料4に照射される電子ビームは、走査コイル5によって2次元方向に偏向を受け、その結果、試料4の所望の2次元領域は電子ビームによって走査される。この電子ビームによって走査される試料の2次元領域は、走査制御部11から走査コイル5に供給される走査信号によって決められる。
試料4への電子ビームの照射により、試料4からは反射電子や2次電子が放出される。この放出された電子は、対物レンズ3の上部に設けられたドーナツ状の検出器12によって検出される。検出器12によって検出された信号は、増幅器13によって増幅された後、A/D変換器14によってディジタル信号に変換され、2次元画像データ記憶装置15に供給されて記憶される。2次元画像データ記憶装置15には、走査制御部11から試料の走査信号が参照信号として供給されている。
試料4の上部には、リング状の制御電極16が設けられており、このの制御電極16には、可変電圧電源17から所望の電圧が印加されている。電源17から制御電極16に印加される電圧値は、レンズ制御部7によって制御される。その結果、制御電極16の電位は、所望の電界強度を試料4の表面上に発生させる。この制御電極16の外側には、ドーナツ状のシールド電極18が配置されているが、このシールド電極18は、制御電極16で発生する電界の試料面上での領域を制御する。
半導体ウェハ試料4は、図示していないがX、Y2方向に移動可能な試料ステージ上の試料ホルダーに固定されており、試料ステージを適宜移動させることにより、試料の計測領域を電子ビームの光軸上に配置することができる。この図示していない試料ホルダーの端部には、試料に照射される電子ビームの電流を検出するためのファラデーカップ19が設けられている。電子ビーム電流を検出する際には、試料ステージが移動させられ、ファラデーカップ19がほぼ光軸上に配置される。
試料4の裏面には図示していない裏面検出端子が設けられており、その端子は試料に流れる微少電荷移動信号を検出する。電荷移動信号は、電流を電圧出力に変換する前置増幅器20に供給される。なお、ファラデーカップ19の出力端子は試料の裏面検出端子に接続されている。増幅器20の出力信号は、A/D変換器21を介して計測データ記憶装置22に供給されて記憶される。前置増幅器20には、走査制御部11から走査信号やブランキング信号のタイミング信号が供給され、前置増幅器制御部23からリフレッシュ信号が供給される。また、A/D変換器21には前置増幅器20からの信号の読み取りのタイミング信号が供給される。
2次元画像データ記憶装置15に記憶されたデータと計測データ記憶装置22に記憶されたデータは、計測結果処理装置24に供給されて所望のデータ処理が実行される。計測結果処理装置24において実行されたデータ処理の結果は、記憶装置25に供給されて記録される。なお、上記したレンズ制御部7,走査制御部11、前置増幅器制御部23は、計測条件制御装置26からのデータに基づいて各レンズや走査コイルの制御を行う。このような構成のシステムの動作を次に説明する。
まず、本実施の形態で計測される試料4は、被計測領域が一定の条件であることが必要である。すなわち、試料は均一の組成および平坦な表面で構成されており、また試料に開口されたホールあるいはその開口部を有していることである。例えば、本実施の形態における被検査試料は、半導体デバイスの製造過程のウェハであり、試料表面はアルミナ(Al2O3)のごとき酸化膜で覆われており、その酸化膜には、多数のコンタクトホールが形成されている。本実施の形態では、試料表面を構成する部分から放出される電子の放出率が、入射電子量と同じになる条件(電子放出率が1.0となる条件)を求めることを、試料の組成情報から得ることが特徴となっている。
さて、図1に示したシステム構成において、計測を実行する際、各レンズ、計測検出系の制御条件は、計測条件制御装置26により求められ、各制御部に指示が出される。例えば、各レンズの励磁強度は、レンズ制御部7により制御される。加速電圧電源6では、レンズ制御部7から指示された加速電圧を発生し、電子銃1に供給して、電子銃1から安定した電子ビーム放出制御が行われる。
電子銃から出射された電子ビームは、照射電流制御レンズとして動作するコンデンサレンズ2と電流制限絞り8により計測に必要な照射電流量に制限される。照射電流制御に必要なコンデンサレンズ制御はレンズ制御部7から行われる。絞り8の開口9を通過し、電流制限された電子ビームは、開き角制御レンズ10により試料面上で必要なビームサイズとなる開き角に制御される。この開き角は、計測条件制御装置26により求められた制御データに基づき、レンズ制御部7が制御する。
対物レンズ3は、開き角制御レンズ10により制御された開き角の時、試料表面上に電子ビームを合焦点させる条件に、レンズ制御部7によって制御される。制御電極16には、計測条件制御装置26で求められた電界強度を試料表面上に発生させるための電位を与えるため、レンズ制御部7によって制御される可変電圧電源17から所定の電圧が印加される。シールド電極18は、制御電極16で発生する電界の試料表面上での領域を制限するように動作する。
試料4の計測領域の制御は、走査制御部11により行われる。走査制御部11は、計測条件制御装置26で指示された試料表面領域を電子ビームで走査するよう、走査コイル5に供給する走査信号を制御する。試料4への電子ビームの照射によって発生した反射電子や2次電子は、放出電子検出器12によって検出される。検出された信号は増幅器13で増幅された後、走査制御部11からの同期信号に同期してA/D変換され、ディジタルデータとして2次元画像データ記憶装置15に供給されて記憶される。
試料4は、図示していない2次元方向に移動可能な試料ステージ上に設けられた試料保持装置に固定され、また、試料ステージ上には、試料裏面検出端子(図示されていない)に接続される、照射電流検出用ファラデーカップ19が設けられている。試料ステージは、電子ビームの照射電流を検出するときには、ファラデーカップ19が光軸上に配置されるように移動し、試料の特定領域を計測する際には、その特定領域が光軸上に配置されるように移動させられる。
前置増幅器20は、試料裏面検出端子から検出される微少電荷移動信号を電圧出力に変換する。また、電子ビーム照射電流の検出時には、ファラデーカップ19からの検出信号を電圧出力に変換する。前置増幅器20から出力される電圧値は、A/D変換器21によってディジタル信号に変換され、計測データ記憶装置22にディジタルデータとして記憶される。
2次元画像データ記憶装置15に記憶されたデータと、計測データ記憶装置22に記憶された計測データは、計測結果処理装置24に供給される。計測結果処理装置24では、計測データに基づいて、あるいは、計測データと画像データとに基づいて計測結果を算出する。算出された計測結果は、記憶装置25に供給されて記憶される。
ここで、計測条件制御装置26では、計測レシピを保管し、計測要求に応じて事前に準備された計測レシピ条件に基づき各制御部に対して制御条件を出力する機能を有している。図2は計測条件制御装置26の内部構成を説明するための図であり、入力情報に基づき生成される制御情報処理の流れを示している。計測レシピの作成においては、新規検査レシピ要求に基づき、試料型式(レシピ名に同じ)、検査工程(被計測物の表面処理状態情報)、計測位置、計測領域等の情報等が入力される。
これら入力された情報に基づき、計測条件制御装置26内に所有している、もしくは、外部の試料情報データベース29から、試料計測領域における表面組成情報やコンタクトホール底面組成情報を得る。なお、試料情報データベースが無い場合には、これら情報を計測条件制御装置26に接続されているキーボードなどの入力手段を用いて直接入力しても良い。
計測条件制御装置26では、入力された情報に基づいて次に説明する動作を実行する。まず、電子放出率制御装置(電子放出率抽出プログラム)30では入力された組成情報を基に各々の試料組成による電子放出率データを抽出する。電子放出率データとは、図3に示すように試料4に照射される電子ビームの加速電圧に応じた電子放出率δの値である。例えば、図3(b)に示した電子放出データは、素材A(Si)のものであり、図3(c)に示した電子放出率データは、素材B(SiO2)のものである。電子放出率データは、各組成に対して計測対象試料の平均原子番号を求める機能と加速電圧と試料表面電界強度から構成されるデータベース群として記録されている。
本実施の形態では、前記したように、試料表面を構成する部分から放出される電子の放出率が、入射電子量と同じになる条件(電子放出率δが1.0となる条件)を、試料の組成情報から得る手段を有することが特徴となっている。この電子放出率は、試料表面を覆う電界強度に比例するが、加速電圧条件を変更することにより、試料組成による電子放出率が変化する。電子放出率制御装置30は、与えられた各組成に対して、以下の計算式で最適加速電圧を求める。なお、以下の計算式で、Vmは加速電圧、δm、Emは物質に依存した定数である。
上記計算式により、試料組成毎に求められた最適加速電圧に対して、試料表面電界強度データベースに登録されている電子放出率データを、試料表面組成毎に求める。試料組成毎の加速電圧、試料表面電界強度に対する組成間での電子放出率差の大きな組み合わせ条件を抽出し、これを計測条件として加速電圧、試料表面電界強度を決定する。なお、加速電圧、試料表面電界強度の決定では、試料表面からの信号放出率が1.0になるような条件とされる。
被測定試料が図3の(b)と(c)に示す電子放出率を有する2つの組成で構成されている場合、試料表面組成から放出される電子放出率を1.0に設定すれば、試料表面部分に電子ビームが照射されている場合には、吸収電子量は0.0pAとなる。したがって、表面組成部に開口されたホール(異なる組成)があれば、ホール部に流れる吸収電子量は、ホール部からの吸収電流量として検出することができる。
なお、図3(d)に示すように、試料組成の違いによる吸収電流値の差分を大きくとることができれば、組成の違いを明確に判断することがたやすくなる。また、試料表面の電界強度を変えた場合、電子放出率曲線は、図3(a)に示すように、変化させることができる。したがって、電子放出率抽出プログラム30によってレンズ制御部7を制御し、レンズ制御部7の制御によって電子銃1の加速電圧電源6と制御電極16の可変電圧電源17の出力電圧は調整され、電子ビームの加速電圧と試料の表面電界の値は、試料組成の違いによる吸収電流の差分が大きくなるような値とされる。なお、試料表面からの信号放出率が1.0となる条件が求まらない場合は、差分計測(後で説明)を実施するレシピ条件が設定される。
本実施の形態における第2の特徴は、被計測領域に対する電子ビームの照射方式に関する。走査条件抽出プログラム31では、所定の照射電流量に制限された電子ビームを試料の被計測領域において2次元走査する条件を設定する。この際、被計測領域全体に電子ビームが照射されることが条件となる。図1に示した実施の形態では、試料4からの情報を走査電子顕微鏡機能を用いて取得しているので、試料に照射される電子ビームは、絞られた円形ビーム(インテンシティーの高いガウシアン分布ビーム)となる。試料に照射される電子ビームは、試料面高さ変化によるビーム形状(サイズ)変化を受けないよう、ビーム開き角を約2mrad以下に狭め、円形ビームとしている。この場合のビームシェイプは、インテンシティーの高いガウシアン分布ビームとなっているが、ビーム開き角を狭くしているためビーム周辺部分でのビーム強度分布は、裾野がのびたような形状となっており、ビームプロファイルを見ると図4のような形状となっている。図7で示したビーム形状は、図4の左に示すビームサイズを表している。この円形ビームは、図5に示すように被計測領域R内で2次元的に走査される。
この走査の際の隣り合った円形ビームの間隔であるが、円形ビームの重なりがないように走査すると、電子ビームが照射されない領域が大きくなり、計測の精度や再現性が悪くなる。したがって、本実施の形態では、図6に示すように、円形ビームBをある割合で重なり合わせ、ビームBが照射されない領域を減少させるようにしている。図6の例では、隣り合ったビームの重なりの割合は30%とされている。
図7には、異なった重なり割合の電子ビームの走査例を示している。この図7(a)はビームの重なり割合が50%、(b)は30%、(c)は25%の例を示している。(c)の25%の例では、ビームBが照射されない領域Sが生じ、計測の精度や再現性に問題を有している。2次元走査領域R全面に円形のビームを照射するための条件は、理論的には円形ビームを30%程度重なり合わせて走査することである。
実際に計測したところ、30%以上のビームの重なり割合の条件から計測時の繰り返し計測精度が向上し始めた。隣り合ったビームの重なりの割合が50%以上となると、計測精度の向上は、他の要因によるところが大きくなることが判明しており、ビームの重なりの割合が大きくなればなるほど走査時間が長くなることを勘案すれば、ビームの重なりの割合は50%程度を上限とすることが望ましい。走査条件抽出プログラム31では、入力された計測領域情報を基に、図5に示す試料上の計測領域を2次元走査する際の電子ビームの走査線数、ビームサイズ、照射電流量、走査時間、ビーム停留時間を求める。走査線数、ビームサイズを求める際には、ビームサイズの30%以上が重なり走査される条件を優先することが必要である(アナログ走査の場合においても、基本的に走査電子顕微鏡は走査線を用いているので走査線数を基本とした算出を行うことができる)。
このようにして求められた加速電圧、試料表面電界強度、照射電流量、ビームサイズに基づきレンズ制御条件抽出プログラム32で各レンズ制御量が決定される。以上により求められた計測条件において、被計測試料表面における試料チャージアップを抑えるための加速電圧、照射電流量、ビーム照射時間(ビーム停留時間)、ビームサイズ、計測領域サイズ、走査線数等が決定される。また、求められたレンズ制御条件、走査系制御条件は、計測レシピと関連付けされ、レシピはレシピデータベース33に記憶され、各レンズ制御量、走査計測制御量は、計測条件制御装置26内のそれぞれのデータベースに記憶される。
同一試料上の異なった領域で同一の検査を繰り返し行う場合には、繰り返しレシピが選択され、選択されたレシピは、計測レシピデータベース33から計測条件を抽出し、各レンズ制御、走査計測制御データベースに記録されている制御量を各制御装置へ設定し計測を実行する。
次に、計測データ処理系では、走査フィールド毎の試料内電荷成分として計測されたデータを記憶する機能(計測データ記憶装置22)を有する。また、各走査フィールド毎の走査領域に応じた試料表面情報(画像情報)を記憶する機能(2次元データ記憶装置15)を有し、更に、走査フィールドサイズ、ディジタル制御ピクセル数、ビームサイズ、照射電流値を記憶する機能(計測条件制御装置26)を有する。このような機能に基づいて計測されたデータから、計測領域に対するホール面積情報の収集等、計測データ処理が実行される。
次に、データ収集条件設定と計測について説明する。計測されたデータを元に以下の計算を行うが、荷電粒子ビーム照射領域に含まれるコンタクトホール領域が未知数の場合、計測データの信頼性は低下する。そのため、計測領域内に構成されるコンタクトホールの領域を明確にし、計測された吸収電流が通過したホール面積の変化を知る必要がある。
本計測手法においては、被計測試料情報を基に計測条件が設定されるが、設定される計測条件には、ビーム加速電圧、照射電流値、試料表面電界強度、ビームスポットサイズ、ビーム停留時間/計測時間、ビーム走査領域が含まれている。本計測手法では、照射するビームを計測領域に2次元面として走査することにより、計測領域を明確に規定することができる。
この実施の形態では、吸収電流計測時に走査される2次元面から得られる2次電子(もしくは、反射電子)情報を、検出器12によって検出する。検出信号は、増幅器13によって増幅された後、A/D変換器14を介して2次元データ記憶装置15に供給されて記憶される。試料から発生した2次電子や反射電子の検出信号は、電子ビームの走査制御に同期した画像情報として記憶される。記憶された画像情報には、コンタクトホールの位置、サイズ等の情報が含まれていることから、画像情報に基づいて、計測領域におけるコンタクトホール領域を抽出することができる。
図8は計測領域における走査領域を示す情報として収集された画像データ35からコンタクトホールHの形状(面積)を画像処理により抽出し、計測領域(ピクセル数)Rに対するコンタクトホールHの占める面積比(ピクセル数)を割り出すフローの概念図である。コンタクトホール領域の抽出には、2次元データのヒストグラムGに対して領域分離のためのスレッショルドレベルLを設定し、ホール領域を抽出している。なお、ホール領域の抽出には、このほかホールエッジ部の輝度変化率から領域分岐点を抽出しても良い。
次に、電子ビームの走査領域に対するフィールドサイズデータから、コンタクトホールの占める面積Qを導き出す。
上式において、Field Size、Pixel Size、ホール面積は、次のように定義される。
Field Size=走査領域面積 X*Y(m2)
Pixel Size=ディジタル走査ピクセル数 X*Y(Pixel)
ホール面積=画像処理により求められた計測領域Rにおけるホール面積Q
計測データ記憶装置22に記録されたデータは、ホールを通過して検出された信号であるため、計測データ比較を行う際には、ホール単位面積あたりの計測値で比較することが望ましい。したがって、計測されたデータ精度を向上させ比較を行うためには、計測データを計測領域におけるホール面積で規格化することで行う。
ここで、規格化された計測データをData(comp)とすると、この規格化されたデータData(comp)は、次の計算式によって規格化される。なお、Data(norm)は計測された生データである。
Data(comp) = Data(norm) * (ホール面積率) [δ・m2/A]
上式によって計算された規格化されたデータData(comp)は、ホールサイズに対する計測データ(単位面積あたりに計測される計測値)となり、ホールの開口率として比較することができる。このような計測データを計測領域におけるホール面積で規格化する処理、規格化されたデータをホールの開口率として比較する処理は、計測結果処理装置24によって実行される。この計測結果処理装置24において処理され、ホールの開口率の比較結果等は、結果記録装置25に記録される。
上記したように、計測精度を向上させるために、計測データの規格化や照射電流の補正を行うようにした。その上で、更に精度良い計測を実施する場合、もしくは、試料表面からの信号放出率δ=1.0の条件が満たされないときには、差分計測を行うことで計測精度を向上させることができる。このデータ差分計測による信号処理について、以下説明する。
差分計測処理とは、コンタクトホール部を計測した条件と同一計測条件でコンタクトホール周辺のホールが無い場所の計測を実施する(オフセット差分)か、もしくは、標準となるコンタクトホール部とのデータを比較する処理を行うことである。この差分計測では、事前にホールが無い部分(もしくは、標準コンタクトホール部)での計測を実施し、標準データを取得する。
この取得された標準データから、コンタクトホール計測地点でのホール面積率分でのデータを減じた値を求める。次に、実際に開口度を求めるためにコンタクトホール部で計測されたデータから、前記ホール面積率分減じたデータを差し引くことにより、ホール部を通過した信号量を抽出することができる。
このように、ビーム照射直前の計測値を計測におけるオフセット値として計測データから引き算することで、ビーム照射時に発生した試料表面での現象による計測誤差を差し引くことができ、試料内電荷変化量を精度良く計測することができることになる。
上記したビーム照射時に発生した試料表面での現象による計測誤差を差し引く処理を、図9に示したフロー図に基づいて説明する。まずホールが形成されていない試料表面上(もしくは、標準コンタクトホール部)で、計測領域と同じ面積で電子ビームの2次元走査を行い、放出電子を検出してリファレンス信号を得、2次元データ記憶装置15に計測値(リファレンス部)38としてに記憶する。次にホールが形成されている計測領域Rで電子ビームの2次元走査を行い、試料4の表面から放出された2次電子や反射電子を検出器12によって検出し、2次元データ記憶装置15に計測値(ホール部)39として記憶すると共に、試料4の裏面から得られた吸収電流を増幅器20によって電圧信号に変換し、A/D変換器21を介して計測データ記憶装置22内に計測値(PCD)40として記憶する。
計測結果処理装置24では、計測値(リファレンス部)38として記憶されたリファレンス信号41から、計測値(ホール部)39に基づいて図8のフローによって求められているホール面積Qに相当するリファレンス信号を引き算し、画像部バックグランド信号BGを得る。計測値(PCD)40として記憶された吸収電流データ42は、画像部バックグランド信号BGとの差分が演算によって求められ、領域Rにおけるホール部の計測信号HSが得られる。この計測信号HSは、画像部バックグランド信号分が除かれているため、より精度の高いものとなる。
次に、照射電流による補正について説明する。試料4の裏面から検出される信号量は、微少電荷の変化であるため電流値として絶対値で表すことが難しい。本発明の実施の形態における計測方式では、被計測試料4と同じ計測経路にファラデーカップ19を配置し、照射電流量を同一尺度で計測する手段を設けている。このため、計測結果として得られる信号には、I−V変換増幅器20で起こりやすい増幅率の誤差による計測誤差成分が無くなるため、計測精度を向上させることができる。
この原理を図10を用いて説明する。図10は試料4に照射される電子ビームと、電子ビームEBによって照射された試料部分から得られる信号を示している。この図10において、電子ビームの電流量Ipの電子ビームEBが試料4に照射されると、前に記述したように、試料4表面から2次電子・反射電子−se・BEが放出される。試料の裏面から検出される吸収電流量の計測において、計測される信号量aeは、ビーム加速電圧と、試料表面電界強度に対する試料組成で変化することが知られており、ある条件範囲では、図10(b)に示すように、照射電流量Ipに比例した吸収電流量aeを得ることができる。吸収電流量aeと照射電流量Ipとの関係は次式によって表すことができる。
ae=Ip−(se・BE)
このことから、計測した吸収電流値aeを照射電流値Ipとの比率で比較することにより、計測毎の照射電流値変化を無視できることとなる。また、同一の検出系で照射電流量と、吸収電流量を計測することで、微少電流の絶対値変換誤差を考慮する必要が無くなり、照射電流量基準に基づく計測結果比較検証を精度良くできることになる。
検出される信号の比較においては、計測される吸収電流量が正負の信号を取ることから、単純に照射電流比で比較することは難しいため、試料4からの信号放出率δで比較を行うことが望ましい。以上のことから、吸収電流値aeを次式に示す計算式によって規格化する。
δ=1−(ae/Ip)
上式によって照射電流Ipで規格化した吸収電流値aeを、信号放出率δとして計測データを比較する処理を行う。実際の装置上で、信号放出率として処理する計算式は、以下のように定義される。なお、下式でPCDは、ファラデーカップ19によって検出された電子ビームの照射電流量であり、(data)は。電子ビームを照射した領域から検出された信号である。
δ=1−(data)/PCD
上記したように、計測精度を向上させるために、計測データの規格化や照射電流の補正を行うようにした。この計測データの規格化や照射電流の補正によって、精度良い計測を実施することができるが、更に精度の向上を達成するため、もしくは、試料表面からの信号放出率δ=1.0の条件が満たされないときには、図9を用いて説明した差分計測を併せて行うことで目的を達成することができる。
以上本発明の一実施形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されない。例えば、走査電子顕微鏡をベースとしたシステムを例に説明したが、イオンビームを走査する走査型イオン顕微鏡をベースとしたシステムにも本発明を適用することができる。