JP4082891B2 - リン酸基含有重合体を含有する固体高分子電解質複合膜及びコーティング剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はリン酸基含有重合体とポリアミド樹脂とを含み、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れた導電性樹脂組成物と、補強材シートとからなる固体高分子電解質複合膜に関する。本発明はまた、リン酸基含有重合体とポリアミド樹脂とを含み、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れた被膜を与えるコーティング剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からポリアミド樹脂として、ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-12、共重合ナイロン等が知られており、衣料材料、成型材料として広く用いられている。しかしこれらは体積固有抵抗、表面固有抵抗が高く、電気絶縁体であるため(例えばナイロン-12の体積固有抵抗は1015Ω・cmオーダー(30℃))、プリンター用ローラー、電気・電子部品、IC用耐熱トレー、衣料などの分野に用いる場合は、静電気を防止するためポリアミド樹脂に帯電防止性を付与する必要がある。
【0003】
しかしナガセケムテックス(株)から商品名トレジンとして市販されているN-メトキシメチル化ナイロン-6は、表面固有抵抗が1012Ω・cm乃至1013Ω・cmオーダーと比較的低い上、耐アルカリ性、耐有機溶剤性、耐グリース性、耐油性、耐熱性(130℃〜200℃)、耐寒性(−60℃〜−70℃)、透明性、及び柔軟性にも優れている。このため合成皮革、繊維加工剤、導電ロール等に使用される他、電気・電子用途のプラスチックの制電剤(例えば特開平8-137186号、特開平8-207428号、特開平8-217619号、特開平9-78012号、特開平9-255992号、特開平10-171212号、特開平11-316470号、特開平11-79966号等)、インク組成物のビヒクル(特公平9-176526号、特公平11-140164号等)、外壁塗装用塗料組成物(特開平10-110136号、特開平10-140029号)、ナイロン製ストッキング用のラン防止剤(特開平10-67965号)等種々の用途が提案されている。またN-メトキシメチル化ナイロンは低級アルコールのみに可溶で、水及び他の有機溶媒には全く不溶であるが、酸性触媒により脱メタノールを伴って架橋し、低級アルコールに対しても不溶になる。
【0004】
しかしN-アルコキシメチル化ナイロンは、電気抵抗値が一般的に望まれる水準よりも高く、また導電性が環境の湿度に影響され易く乾燥状態において帯電防止効果が著しく低下するという問題があった。特にプリンター用ローラー等の電気電子的用途に用いる時に、導電性が湿度に影響されると、ロール表面にトナーによる汚れを生じ、コピー画像を損なう等という問題点が指摘されている。
【0005】
【本発明の解決しようとするとする課題】
従って、本発明の目的は、ポリアミド樹脂を含み、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れた導電性樹脂組成物と、補強材シートとからなる固体高分子電解質複合膜を提供することである。また本発明のもう一つの目的は、ポリアミド樹脂を含み、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れた被膜を与えるコーティング剤を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理して得られる均一な導電性樹脂組成物が、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れることを発見した。本発明者らはまた、(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、(b) ポリアミド樹脂、及び(c) 脂肪族低級アルコールを含むコーティング剤を用いることにより導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れる被膜が得られることを発見した。本発明はかかる発明に基づき完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明の固体高分子電解質複合膜は、(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理して得られる均一組成物である導電性樹脂組成物と、補強材シートとからなることを特徴とする。
【0008】
リン酸基含有不飽和単量体としては、下記一般式(I):
【化5】
(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換もしくは無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表されるものが好ましい。R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであるのが好ましい。リン酸基はアミン塩又はアンモニウム塩を形成していてもよい。
【0009】
ポリアミド樹脂としては、下記一般式 (II) :
【化6】
(ただし一般式 (II) において、R 3 〜R 5 は置換または無置換のアルキレン基を表し、R 6 は置換または無置換のアルキル基を表し、 k とmは重合比を表し、 10 ≦ k ≦ 50 、 50 ≦m≦ 90 であって、 k とmとの和は 100 である。)により表される N- アルコキシアルキル化ポリアミドが好ましく、中でも N- メトキシメチル化ナイロンがより好ましい。
【0010】
従来リン酸基を有する重合体は、重合段階でゲル化が起こりやすく、様々な溶媒に不溶となるためキャスト製膜できないという技術的問題があったが、本発明の好ましい態様によれば、ゲルの生成を伴わずにリン酸基含有重合体が得られる。本発明におけるリン酸基含有重合体は、(a) リン酸基含有不飽和単量体又は(b) リン酸基含有不飽和単量体及び他の不飽和単量体を、その初期濃度が5.0 〜30.0重量%の脂肪族低級アルコール溶液中で、単量体成分に対する重量比が0.005〜0.05の重合開始剤を添加した条件下で重合させ、次いで得られた粗リン酸基含有重合体を貧溶媒を用いて精製したものである。このような製造方法により得られるリン酸基含有重合体は比較的低分子量の重合体であるため、適当な溶剤に溶解させることができる。
【0011】
このようなリン酸基含有重合体、ポリアミド樹脂及び脂肪族低級アルコールを含むポリマー溶液から作製する本発明の導電性樹脂組成物は、30〜80℃の温度範囲で、10-4〜10-2 Scm-1の範囲の高いプロトン伝導性を示すとともに、耐水性、耐溶剤に優れるので、特に燃料電池用の固体高分子電解質として好適である。
【0012】
本発明のコーティング剤は、上述のようなリン酸基含有重合体、ポリアミド樹脂及び脂肪族低級アルコールを含むものである。本発明のコーティング剤を塗布液し、加熱することにより得られるコーティング膜は、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れる。
【0013】
【発明の実施の形態】
[1] 導電性樹脂組成物
本発明の導電性樹脂組成物は、リン酸基含有重合体とポリアミド樹脂とを加熱処理して得られる均一組成物である。
(A) リン酸基含有重合体
本発明において用いるリン酸基含有重合体は、分子内に1個以上の酸性リン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を必須成分として重合してなる。その重合度は比較的低いのが好ましく、これによりポリアミド樹脂と加熱して得られる組成物の均一性が向上する上、導電性も向上する。
(1) リン酸基含有不飽和単量体
分子内に1個以上の酸性リン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体は下記一般式(I) :
【化7】
(ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は置換もしくは無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整数である。)により表すことができる。R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであるのが好ましい。
【0014】
リン酸基は解離していてもよいし、錯塩を形成していても良い。錯塩を形成する場合、電荷を中和させるため、例えば第1級、第2級、第3級及び第4級のアルキル基、アリル基、アラルキル基を含有するアンモニウムイオンやモノ、ジ、トリアルカノールアミン残基と錯塩を形成するのが好ましく、特にN+R7 4-p(OH)p(ここでR7は炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基、炭素数6〜12の脂環族基からなる群から選ばれた少なくとも一種を表し、pは1〜3の正の整数を表す。)が好ましい。
【0015】
一般式(I)で表されるリン酸基含有不飽和単量体の具体例としてはアシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-アシッドホスホオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等とともに同上化合物のアンモニウム塩又はアミン塩が挙げられる。一般式(I)で表されるリン酸基含有不飽和単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0016】
一般式(I)で表されるリン酸基含有不飽和単量体のうち、本発明に好適に使用できる化合物の構造式を表1に示す。またこれらの化合物の物性を表2に示す。これらの化合物はユニケミカル(株)から商品名PhosmerTMとして販売されているものである。ただし本発明に使用できる化合物はこれらに限定されるものではない。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
(2) 共重合し得る他の不飽和単量体
リン酸基含有重合体は一般式(I)により表されるリン酸基含有不飽和単量体と分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるものであってもよい。リン酸基を含有する不飽和単量体と共重合し得る不飽和単量体は次の2群(2-1)、(2-2)に大別できる。
【0020】
(2-1) 酸基を含有する不飽和単量体
酸基を含有する不飽和単量体は、分子内に少なくとも1つの酸基と、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を有する化合物である。酸基としてはスルホン酸基、カルボン酸基及び水酸基が好ましい。酸基としてスルホン酸基、カルボン酸基及び水酸基からなる群から選ばれた少なくとも一種を有する不飽和単量体を用いることにより、ポリアミド樹脂とともに加熱処理して得られる導電性樹脂組成物の均一性及び導電性が向上し、かかる導電性の温度依存性が顕著に低くなる。
【0021】
スルホン酸基を含有する不飽和単量体の例示化合物としては、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸ブチル-4-スルホン酸、(メタ)アクリロオキシベンゼンスルホン酸、ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸、2-アクリル-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。ただしアリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸は、そのアリル基が、degradative chain transferを起こすので、使用量を65wt%未満とするのが好ましい。カルボン酸基を含有する不飽和単量体の例示化合物としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸無水物などが挙げられる。これらは単独でもよいし、2種以上を併用しても良い。好ましくはp-スチレンスルホン酸を用いる。
【0022】
(2-2) 酸基を含有しない不飽和単量体
(2-1)に記載した以外の、常温で気体でない、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する不飽和単量体はすべて対象になるが、中でも(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類や置換又は無置換のスチレン類が好適に使用される。1分子内に複数個のエチレン性不飽和結合を含有するエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジオールジ(メタ)アクリレートやジビニルベンゼンなども複合膜の耐化学薬品性を改良する目的をもって使用される。
【0023】
(3) 各不飽和単量体の使用割合
リン酸基含有不飽和単量体(1)と他の不飽和単量体(2)の使用割合は、(1)/(2)=100/0〜20/80(重量比)の範囲で使用することができるが、好ましくは(1)/(2)=80/20〜50/50である。また他の不飽和単量体(2)の中で、酸基を含有する不飽和単量体(2-1)とそれ以外の不飽和単量体(2-2)の使用割合は、プロトン伝導性にプラス効果をもたらす(2-1)を支配的割合で使用するのが好ましく、(2-1)/(2-2)=100/0〜50/50(重量比)の範囲で使用するのが好ましい。
【0024】
(4) リン酸基含有重合体の調製方法
リン酸基含有不飽和単量体は重合する際にゲル化や会合を起こし易く、様々な溶媒に不溶となってしまい、工業的に製造することは一般的に困難であるが、以下の方法をとることによりゲルの生成を伴わずに重合することが可能となる。
【0025】
重合反応は、原料のリン酸基含有不飽和単量体及び生成するリン酸基含有重合体の双方が溶解する共通溶媒中で、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチル2,2'-アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤、あるいはラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシ・ピバレート等の過酸化物系開始剤等の重合開始剤を用いて、ラジカル重合により行う。
【0026】
重合手順について述べる。まず攪拌器、還流冷却器付き反応器に〔不飽和単量体+溶媒〕からなるポリマー溶液を投入し、40℃〜90℃、好ましくは50℃〜80℃に昇温する。所定温度到達直後に重合開始剤を添加する。このとき若干の発熱があり、重合開始を確認することができる。所定温度に到達してから所定時間経過後(通常2時間程度)に再び重合開始剤を添加し、その後1時間程度重合反応を継続する。反応温度は最初から最後まで一定である必要はなく、重合末期に温度を上げて未反応単量体を極力少なくする方法をとってもよい。
【0027】
溶媒としては脂肪族低級アルコールを使用する。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。好ましくはメタノールである。これらは2種以上併用してもよい。また併用出来る場合はエステル等の溶媒を共存させてもよい。これらの低級アルコール溶媒は溶媒自身の成長連鎖反応定数が大きいために、これら溶媒中では(共)重合体の成長が比較的抑制され、その重合度が大きくなり難く、比較的低重合度の(共)重合体の生成が容易になる。
【0028】
重合溶液は不飽和単量体成分の初期濃度が5.0 〜30.0重量%であるのが好ましく、10.0 〜15.0重量%であるのがより好ましい。重合開始剤のトータル使用量は、単量体成分を1とした場合に重量比で0.005〜0.05であるのが好ましく、0.01〜0.03であるのがより好ましい。重合溶液中の不飽和単量体成分の初期濃度及び重合開始剤の使用量が上記の好ましい範囲にないと、重合体がゲル化して様々な溶媒に不溶となり、ポリアミド樹脂との均一組成物を形成できなくなる等の問題が起こるので好ましくない。
【0029】
反応後の溶液は、所望の低重合度のリン酸基含有重合体だけでなく、遊離したリン酸、未反応の単量体、重合度の不十分な成分等の不純物も含んでいるので、精製を行う。精製は重合溶液の固形分濃度が10 〜80重量%になるまで濃縮し、次いでその濃縮溶液を貧溶媒中に投入することにより粘性固体を析出させ、貧溶媒をデカンテーション法により除去することにより行う。貧溶媒としてはアセトン、水、1,1,1-トリクロロエタン等が好ましい。貧溶媒は反応生成物の有姿の2倍容積〜15倍容積と大過剰量使用する。貧溶媒による粘性固体の洗浄操作は必要に応じて繰り返せばよい。このような精製を行うことにより、上記不純物を除去することができる。その結果、導電性、耐水性、耐薬品性及び透明性に優れた比較的低重合度のリン酸基含有重合体が得られる。貧溶媒で洗浄することにより得られたリン酸基含有重合体からなる固体を再び良溶媒に溶解させ、溶液の形態にしておくのが使用上好ましい。良溶媒としては重合反応時に用いるのと同様の脂肪族低級アルコールが好ましく、メタノールがより好ましい。
【0030】
上述のような方法により得られるリン酸基含有重合体は、比較的低分子量の重合体である。通常は重合体固形分濃度が15 〜25重量%のメタノール溶液にした時に粘度が3 〜30mPaになる程度の重合度であるのが好ましい。このような低重合度のリン酸基含有重合体は、導電率が10-4〜10-2 Scm-1と優れたプロトン伝導性を示す。
【0031】
(B) ポリアミド樹脂
本発明に用いるポリアミド樹脂は、溶剤に対する溶解性を有するものであれば特に限定されない。本発明に用いるポリアミド樹脂は、分子量1,000〜1,000,000が好ましく、より好ましくは2,000〜500,000であり、さらに好ましくは5,000〜150,000である。
【0032】
本発明に好ましく用いることのできるポリアミド樹脂としては、下記一般式(II):
【化8】
により表されるN-アルコキシアルキル化ナイロンが挙げられる。
【0033】
一般式(II)において、R3及びR4はそれぞれ独立に炭素数3〜20の置換又は無置換のアルキレン基を表す。置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン等が挙げられる。R3及びR4としては炭素数5〜11の無置換のアルキレン基が好ましく、n-ペンチレンがより好ましい。
【0034】
R5は炭素数1〜6の置換又は無置換のアルキレン基を表す。置換基としては、R3及びR4と同様のものでよい。好ましいR5はメチレンである。
【0035】
R6は炭素数1〜6の置換又は無置換のアルキル基を表す。置換基としてはR3及びR4と同様のものでよい。好ましいR6はメチルである。
【0036】
kとmは重合比を表し、kとmとの和は100である。10≦k≦50、50≦m≦90であるのが好ましく、20≦k≦30、70≦m≦80であるのがより好ましい。kが10未満だと溶媒溶解性が低下するので好ましくない。また置換基の立体障害のためkを50超にすることは困難である。
【0037】
一般式(II)のN-アルコキシアルキル化ナイロンの具体例としては、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12、共重合ナイロン等をアルコキシメチル化したものが挙げられるが、好ましくはナイロン-6、ナイロン-66のN-メトキシメチル化ナイロン類である。また商品としてはナガセケムテックス(株)から製販されているトレジンF30K、トレジンMF-30、トレジンEF-30T等が挙げられる。
【0038】
(C) 導電性樹脂組成物の製造
本発明の導電性樹脂組成物は、上述のようなリン酸基含有重合体及びポリアミド樹脂を含有するポリマー溶液を加熱処理して得られる。このポリマー溶液は、リン酸基含有重合体を含む溶液と、ポリアミド樹脂を含む溶液とを混合することにより調製する。この時ポリアミド樹脂を溶解させておく溶媒も脂肪族低級アルコールが好ましい。特にN-アルコキシアルキル化ナイロンを使用する場合は脂肪族低級アルコールを用いる。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、中でもメタノールが好ましい。これらは2種以上併用してもよい。また併用出来る場合はエステル等の溶媒を共存させてもよい。リン酸基含有重合体とポリアミド樹脂の比率[(リン酸基含有重合体)/(ポリアミド樹脂)]は、固形分重量ベースで0.05〜5の範囲が好ましく、0.1〜1がより好ましい。当該比率が5を超えるとフィルムの成型が困難になる。一方0.05未満だと導電性が不十分となる。またポリマー溶液の樹脂固形分濃度は5 〜30重量%になるようにするのが好ましい。これにより均一かつ透明度の高いポリマー溶液が得られる。
【0039】
ポリマー溶液を溶媒の沸点±10℃の温度に加熱することにより溶媒を蒸発除去し、次いで100 〜130℃に加熱することにより固体状の均一組成物である本発明の導電性樹脂組成物が得られる。かくして得られる本発明の導電性樹脂組成物は可撓性、透明性を有する非常に均一な組成物であり、相異なる重合体(樹脂)からなる組成物としては非常に珍しい部類のものである。本発明の導電性樹脂組成物は導電率10-2〜10-4S cm-1の優れたプロトン伝導性及び105〜109Ω・cmの表面固有抵抗を有し、しかもプロトン伝導性の温度依存性は小さい。また本発明の導電性樹脂組成物は耐水性及び耐薬品性にも優れている。
【0040】
本発明の導電性樹脂組成物が均一性、耐水性、及び耐溶剤性に優れる理由は必ずしも定かではないが、(イ) ポリアミド樹脂のアミド基とリン酸基含有重合体のリン酸基との縮合反応による架橋に主に起因するものと考えられ、その他に(ロ) リン酸基間の会合により見かけの架橋が生成することも寄与しているものと考えられる。特にポリアミド樹脂としてN-アルコキシアルキル化ナイロンを用いた場合は、(ハ) N-アルコキシアルキル化ナイロンのアルコキシ基とリン酸基含有重合体のリン酸基との縮合反応による架橋に主に起因するものと考えられ、その他(ニ) リン酸基含有重合体のリン酸基がN-アルコキシアルキル化ナイロンの架橋触媒として作用し、N-アルコキシアルキル化ナイロン同士が架橋することも寄与しているものと考えられる。N-アルコキシアルキル化ナイロンを用いた場合は、特に上記(ハ)に起因する架橋密度が高いことが効いているものと考えられる。また上記(ロ)のリン酸基間の会合による見かけの架橋が生成するが故に、リン酸基含有重合体が水不溶性(膨潤性)のゲルになるという研究事実(例えば中前ら;第35回高分子年次大会(1989))から、これが耐水性の向上に寄与する面もあると考えられる。なお本発明の導電性樹脂組成物はリン原子を含有しているが故に、難燃性や無機フィラーの分散性に関しても優れている。
【0041】
[2] 導電性樹脂成型物
本発明の導電性樹脂成型物は本発明の導電性樹脂組成物からなり、上述のリン酸基含有重合体及びポリアミド樹脂を含むポリマー溶液を用いて成型することにより得られる。成型方法は特に限定されず、例えばポリマー溶液をキャストし、溶媒を蒸発させた後、加熱することによりフィルム状に成型する等、公知の方法を用いることができる。基盤等との密着性の観点からキャスト法を用いるのがもっとも好ましい。製膜したフィルム(皮膜)に対してさらに加熱或いは加熱と同時に延伸を施すことにより機械的強度を増すこともできる。
【0042】
キャストフィルムは、ポリマー溶液を水平に設置したガラス板上に流延し、溶媒を蒸発させた後、加熱することにより製造できる。必要に応じて吸水性高分子、ゴム等をブレンドしてもよい。キャストフィルムの厚みは通常30〜500μm、好ましくは50〜200μm程度である。かくして得られる本発明の導電性樹脂フィルムは、導電率10-2〜10-4S cm-1の優れたプロトン伝導性及び105〜109Ω・cmの表面固有抵抗を有する。
【0043】
なお従来の導電性樹脂フィルムは、フィルムの機械的強度、耐水性、耐メタノール性において実用的な物性を得るため、クエン酸、酒石酸、次亜リン酸、パラトルエンスルホン酸などの架橋触媒や、メラミン樹脂、水溶性エポキシ樹脂などの架橋剤を用いて架橋したり、ベーキング処理を施す必要があったが、本発明の導電性樹脂フィルムは上記のような架橋触媒や架橋剤を使用せずとも、耐水性、耐メタノール性を有する。これは上述のようにリン酸基含有重合体とポリアミド樹脂との架橋、ポリアミド樹脂同士の架橋等が要因であると推定している。
【0044】
[3] 固体高分子電解質複合膜
本発明の固体高分子電解質複合膜は、本発明の導電性樹脂組成物と補強材シートとからなり、上述のリン酸基含有重合体及びポリアミド樹脂を含むポリマー溶液を補強材シートに塗布し、溶媒を蒸発させた後、加熱することにより製造することができる。
【0045】
本発明で使用する補強材シートは下記の3群に大別できる。
(1) 無機質繊維からなるシート
ガラス繊維、アルミナ繊維、ロックウール繊維、スラグ繊維などからなる織布、不織布、紙等が挙げられる。無機質繊維からなるシートの坪量は10〜60mg/cm2、好ましくは10〜40mg/cm2で、厚みは1μm〜60μm、好ましくは5μm〜40μmの範囲である。
【0046】
(2) 有機質繊維からなるシート
通常、衣料用に用いられるナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等や、産業用に用いられるアラミド繊維からなる織布、不織布、紙等が挙げられる。ただし、紫外線照射時に複合系の温度が〜100℃まで上昇することがあり得るので、それに耐える耐熱性を有するものであることが必要である。有機質繊維からなるシートの坪量と厚みは、(1)の場合と同じである。ただし、含浸させる単量体組成物がスルホン酸基などの強酸基を有する不飽和単量体を含む場合は、ナイロン繊維からなる織布、不織布、紙等は、耐酸性が弱いため不適である。
【0047】
(3) 樹脂フィルム
汎用樹脂であるポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ3-メチルペンテン樹脂、ナイロン-6樹脂、ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂などや、耐熱性樹脂であるポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などから製膜したフィルムが好ましい。樹脂フィルムは、微孔を有するフィルムでもよいし、微孔を有しないフィルムのどちらでもよいが、前者が好ましい。ただし、含浸させる単量体組成物がスルホン酸基などの強酸基を有する不飽和単量体を含む場合は、ナイロンフィルムは、耐酸性が強くないため不適である。
【0048】
微多孔フィルムの場合は、微孔の孔径が出来るだけ小さい方が好ましく、サブミクロン径であることが好ましい。また全体の開孔率は出来るだけ大きい方が好ましく、40〜50%(対表面積)のものが特に好ましい。樹脂フィルムの厚さは1μm〜40μmが好ましく、5μm〜25μmの範囲がより好ましい。
【0049】
補強材シートと本発明の導電性樹脂組成物との使用割合は、補強材シートの導電性樹脂組成物に対する親和性、換言すれば、導電性樹脂組成物の吸収性によって大きく異なるが、一般的に補強材シート/導電性樹脂組成物=1/20〜1/2(重量比)の範囲である。
【0050】
[4] コーティング剤
本発明のコーティング剤は、上述のリン酸基含有重合体及びポリアミド樹脂を含むポリマー溶液と同様の基本組成からなるものである。
【0051】
コーティング剤として用いる場合は、良溶媒を用いてコーティング剤をコーティングに適した濃度に希釈するのが好ましい。必要に応じて、粘度調整剤等の添加剤を加えても良い。良溶媒としては反応時に用いるのと同様の脂肪族低級アルコールが好ましく、特にメタノールが好ましく、固形分基準で10〜20重量%に希釈するのが好ましい。
【0052】
本発明のコーティング剤を被塗物に対して、固形分基準で1〜10g/m2となるよう塗布し、加熱してコーティング被膜を形成することにより帯電防止性または導電性を付与できる。本発明のコーティング剤は金属板、プラスチック成型物、シートまたはフィルム、繊維、織布または不織布などのいずれにも適用でき、その表面に密着する。
【0053】
【実施例】
以下に実施例を記載して本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)リン酸基含有重合体の調製
表3に示す仕込み組成に従い、リン酸基含有不飽和単量体(Phosmer類)及び他の不飽和単量体を用いて、Phosmer類の単独重合体(重合体No.▲1▼〜▲3▼)、Phosmer類と他の不飽和単量体との共重合体(重合体No.▲4▼〜▲7▼)、及び他の不飽和単量体のみからなる重合体(重合体No.▲8▼,▲9▼)を調製した。還流冷却管、滴下漏斗、温度計及び窒素ガス導入管を接続した自動合成反応装置(内容積500mL、ユニケミカル(株)製)に、表3に示す仕込み組成に従い、各不飽和単量体20gとメタノール180gを仕込み、窒素ガスを導入しながら140〜150 rpmで攪拌し、重合温度63℃まで昇温した。内温が63℃に到達したことを確認後、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5gを投入した。この時若干の重合発熱が起こり、重合開始が確認された。内温が63℃に到達して2時間後に再度AIBN 0.1gを投入し、約1時間残留単量体を重合させて、各重合体を含むメタノール溶液を得た。
【0054】
(2) リン酸基含有重合体の精製
得られた各重合体を含むメタノール溶液を固形分濃度が25重量%(重合体No.▲7▼は50重量%、重合体No.▲8▼は60重量%)になるまで60 〜70℃で加熱濃縮し、次いで、その濃縮溶液を表3にそれぞれ示す量の貧溶媒(重合体No.▲1▼,▲2▼,▲5▼,▲6▼,▲7▼,▲8▼:アセトン、重合体No.▲3▼:水、重合体No▲4▼:1,1,1-トリクロロエタン)中に室温で投入することにより粘性固体を析出させた。この時、ターシャリーブチル・アクリルアミド・スルホン酸のみを原料単量体とする重合体No.▲9▼はアセトン、水及び1,1,1-トリクロロエタンのいずれにも溶解してしまうため、精製が不可能であった。
【0055】
貧溶媒をデカンテーション法により除去し、再度少量のアセトンで粘性固体を洗浄した。得られた固体を再び20gのメタノールに溶解させ、さらにメタノールを加え、固形分が20重量%になるようにした。得られた精製重合体を含むメタノール溶液の粘度、及び精製重合体の酸価を表3に示す(No.▲9▼は未精製物の値)。精製リン酸基含有重合体を含むメタノール溶液は透明性が良好で、低粘度の溶液であった。
【0056】
【表3】
注:(1) 表1及び表2を参照。
(2) メタクリル酸
(3) ターシャリーブチル・アクリルアミド・スルホン酸(三菱レーヨン(株)製)
(4) パラスチレン・スルホン酸(ユニケミカル(株)製)
(5) メタノール
(6) 2,2'-アゾビスイソブチロニトリル
(7) 1,1,1-トリクロロエタン
(8)ビスメトロンVD-K(回転式粘度計、芝浦システム(株)製)により測定 。
【0057】
実施例1〜 14
上記の方法により得られた精製リン酸基含有重合体(No.▲1▼〜▲7▼)の各20重量%メタノール溶液と、N-メトキシメチル化ナイロン-6[トレジンEF-30T、融点:155℃(カタログ値)、脂肪族低級アルコールに対する溶解度:20重量%(カタログ値)、未架橋フィルムの体積固有抵抗値:60℃以上で約109Ω・cm(カタログ値)、ナガセケムテックス(株)製]の20重量%メタノール溶液とを、表4に示す固形分の配合割合に従って混合し、均一で透明性に優れたポリマー溶液(本発明のコーティング剤)を調製した。得られたポリマー溶液を、ポリプロピレン製フィルムで作製した容器に流延し、これを空気流通式乾燥器に入れ、常温から60℃まで昇温して約12時間乾燥した。生成した皮膜をスパチュラで剥離し、透明なフィルムを得た。これを高温空気流通式乾燥器で130℃で3分間熱処理することにより厚さ100μmの導電性樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムは透明度が高くフレキシビリティーに優れていた。また得られた各ポリマー溶液を、メタノールで樹脂固形分15重量%に希釈し、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルム(厚さ0.2mm)に、バーコーターNo. R.D.S.24で塗布し、空気流通式乾燥器を用いて60℃で10分間乾燥することによりキャストフィルムを作製した。その後、空気流通式高温乾燥器を用いて100℃で3分間熱処理することにより厚さ5μmの被覆膜を有する固体高分子電解質複合膜を作製した。
【0058】
比較例1 , 2
リン酸基を含まない重合体(No.▲8▼,▲9▼)を用い、表4に示す固形分の配合割合に従ってトレジンEF-30Tと混合し、ポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を用いて実施例1〜14と同様に導電性樹脂フィルム及び固体高分子電解質複合膜を作製した。比較例1のフィルムは、透明性は高いもののフレキシビリティーに欠けていた。また比較例2のフィルムは白化したが、これはパラスチレンスルホン酸のみからなる重合体はトレジンEF-30Tとの相溶性がないためと考えられる。
【0059】
比較例3
トレジンEF-30Tの20重量%メタノール溶液のみを用いて実施例1〜14と同様に導電性樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムは透明性を有し、フレキシビリティーに優れていた。
【0060】
【表4】
注:(1) ナガセケムテックス(株)製トレジンEF-30T
【0061】
実施例1〜14及び比較例1,2で作製した導電性樹脂フィルムについて、作製途中の60℃/12時間乾燥した段階の表面固有抵抗とさらに130℃/3分間加熱処理した後の表面固有抵抗を、25℃/RH=60%及び25℃/RH=75%において測定した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
注:(1) 表面固有抵抗測定器(東亜電波工業(株)製 SME-8310)により測定。
【0063】
表5から明らかなように、リン酸基含有重合体を含む実施例1〜14の130℃/3分間加熱処理した導電性樹脂フィルムは、25℃/RH=60%の測定では105〜109Ω・cmを示し、25℃/RH=75%の測定では105〜108Ω・cmを示し、いずれも固体高分子電解質として標準的な表面固有抵抗値であった。これに対して比較例1の130℃/3分間加熱処理した導電性樹脂フィルムは、実施例1〜14のフィルムよりも概ね1桁高い表面固有抵抗値を示した。また実施例1〜14の導電性樹脂フィルムの表面固有抵抗値について、25℃/RH=75%での測定値は25℃/RH=60%での測定値よりも概ね1桁小さくなっているが、この環境湿度依存性も標準的なレベルであった。また実施例1〜14では、60℃/12時間乾燥しただけのフィルムに比べて、さらに130℃/3分間の加熱処理したフィルムの表面固有抵抗値は概して高くなっているが、これは前述したようなリン酸基含有重合体とポリアミド樹脂との架橋、ポリアミド樹脂同士の架橋等が起こっていることを示唆しているものと考えられる。
【0064】
実施例1,3,5,7,9,11及び比較例1,2で作製した固体高分子電解質複合膜の表面固有抵抗を25℃/RH=75%において測定した。結果を表6に示す。
【0065】
【表6】
注:(1) 表面固有抵抗測定器(東亜電波工業(株)製 SME-8310)により測定。
【0066】
表6から明らかなように、リン酸基含有重合体を含む実施例1,3,5,7,9,11の固体高分子電解質複合膜は108〜109Ω・cmのオーダーであるのに対して、比較例1の複合膜は1011Ω・cm、比較例2の複合膜は1010Ω・cmと高いことが分かる。
【0067】
また実施例2,4,6,8,10,12,14及び比較例3で作製した導電性樹脂フィルムについて、耐水性及び耐アルコール性を測定した。結果を表7に示す。
【0068】
【表7】
注:(1) 室温の水に3日間浸漬後の状態
(2) 室温のメタノールに3日間浸漬後の状態
(3) 判定基準
◎ : 変化無し
〇 : 僅かに白濁(膨潤・溶解等は無し)
△ : 白化(膨潤・溶解等は無し)
× : 溶解
【0069】
表7から明らかなように、Phosmer類とトレジンEF-30Tを用いた実施例2,4,6のフィルムは耐水性及び耐アルコール性に非常に優れていた。Phosmer類、他の不飽和単量体及びトレジンEF-30Tを用いた実施例8,10,12,14のフィルムは水又はメタノールへの浸漬によって白濁又は白化が起こるものの膨潤はなく、実用上問題ないレベルであった。これに対してトレジンEF-30Tのみを用いた比較例3のフィルムは、耐水性は優れていたもののメタノールへは溶解してしまい、耐メタノール性が非常に劣っていた。
【0070】
実施例2,4,6及び比較例3で作製した導電性樹脂フィルムについて、相対湿度90%及び温度範囲30〜80℃で導電率(プロトン伝導性)を測定した。測定には複素インピーダンス法を用いた。結果を図1(a),(b)に示す。実施例2,4,6のフィルムはいずれも導電率は10-2〜10-4S cm-1のオーダーを示し、リン酸基を官能基とする高分子電解質としては良好な水準にあることが判る。また導電率の温度依存性は小さかった。これに対してトレジンEF-30Tのみを用いた比較例3のフィルムは導電率が10-5S cm-1のオーダーを示し、実施例2,4,6に比べて劣っていた。
【0071】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理することにより、架橋触媒、架橋剤の添加なしでも、導電性、耐水性、耐メタノール性、耐熱性、耐難燃性、強度及び透明性に優れる均一な導電性樹脂組成物が得られる。本発明の導電性樹脂組成物からなる固体高分子電解質は導電率10-2〜10-4S cm-1の優れたプロトン伝導性及び105〜109Ω・cmの表面固有抵抗を有し、プロトン伝導性は温度依存性が小さい。そのため一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに好適に利用できる。特に大電力用途のDMFC(直接メタノール燃料電池)用の固体高分子電解質として好適である。
【0072】
本発明のコーティング剤は各種基材に対する密着性に優れるとともに、得られるコーティング被膜は導電性、耐水性及び耐メタノール性に優れているので、紙、織布、不織布、樹脂フィルム、ガラス等の被覆剤、電気・電子用途及び繊維衣料用途向けの制電剤、導電性ロールへの被覆剤、インク・塗料のビヒクル等として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2,4,6及び比較例3の導電性樹脂フィルムについて、温度T(℃)と導電率log(σ/Scm-1) の関係を示すグラフである。
Claims (15)
- (a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、前記リン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理して得られる均一組成物である導電性樹脂組成物と、補強材シートとからなる固体高分子電解質複合膜。
- 請求項2に記載の固体高分子電解質複合膜において、R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
- 請求項2又は3に記載の固体高分子電解質複合膜において、リン酸基がアミン塩又はアンモニウム塩を形成していることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の固体高分子電解質複合膜において、前記リン酸基含有重合体は、(a) 前記リン酸基含有不飽和単量体単独又は(b) 前記リン酸基含有不飽和単量体及び前記他の不飽和単量体を、その初期濃度が5.0 〜30.0重量%の脂肪族低級アルコール溶液中で、単量体成分に対する重量比が0.005〜0.05の重合開始剤を添加した条件下で重合させ、次いで得られた粗リン酸基含有重合体を貧溶媒を用いて精製したものであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
- 請求項6に記載の固体高分子電解質複合膜において、前記N-アルコキシアルキル化ポリアミドがN-メトキシメチル化ナイロンであることを特徴とする固体高分子電解質複合膜。
- (a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、
(b) ポリアミド樹脂、及び
(c) 脂肪族低級アルコール
を含むことを特徴とするコーティング剤。 - 請求項9に記載のコーティング剤において、R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであることを特徴とするコーティング剤。
- 請求項9又は 10に記載のコーティング剤において、リン酸基がアミン塩又はアンモニウム塩を形成していることを特徴とするコーティング剤。
- 請求項8〜 11のいずれかに記載のコーティング剤において、前記リン酸基含有重合体は、(a) 前記リン酸基含有不飽和単量体単独又は(b) 前記リン酸基含有不飽和単量体及び前記他の不飽和単量体を、その初期濃度が5.0 〜30.0重量%の脂肪族低級アルコール溶液中で、単量体成分に対する重量比が0.005〜0.05の重合開始剤を添加した条件下で重合させ、次いで得られた粗リン酸基含有重合体を貧溶媒を用いて精製したものであることを特徴とするコーティング剤。
- 請求項13に記載のコーティング剤において、前記N-アルコキシアルキル化ポリアミドがN-メトキシメチル化ナイロンであることを特徴とするコーティング剤。
- 請求項8〜 14のいずれかに記載のコーティング剤を用いて、鋼材、ガラス、プラスチック又は繊維にコーティング被膜を形成せしめる方法。
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