JP2003138088A - リン酸基含有重合体を含有する導電性樹脂組成物及びコーティング剤、並びにその導電性樹脂組成物の用途 - Google Patents

リン酸基含有重合体を含有する導電性樹脂組成物及びコーティング剤、並びにその導電性樹脂組成物の用途

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ポリアミド樹脂を含み、導電性、耐水性、耐
薬品性、可撓性及び透明性に優れた導電性樹脂組成物を
提供する。 【解決手段】 (a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個
以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不
飽和単量体を重合してなるか、又は上記リン酸基含有不
飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結
合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸
基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理する
ことにより、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透
明性に優れる均一な導電性樹脂組成物が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はリン酸基含有重合体
とポリアミド樹脂とを含み、導電性、耐水性、耐薬品
性、可撓性及び透明性に優れた導電性樹脂組成物及びそ
の用途に関する。本発明はまた、リン酸基含有重合体と
ポリアミド樹脂とを含み、導電性、耐水性、耐薬品性、
可撓性及び透明性に優れた被膜を与えるコーティング剤
に関する。
【0002】
【従来の技術】従来からポリアミド樹脂として、ナイロ
ン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-12、共重合ナイロン等
が知られており、衣料材料、成型材料として広く用いら
れている。しかしこれらは体積固有抵抗、表面固有抵抗
が高く、電気絶縁体であるため(例えばナイロン-12の
体積固有抵抗は1015Ω・cmオーダー(30℃))、プリン
ター用ローラー、電気・電子部品、IC用耐熱トレー、
衣料などの分野に用いる場合は、静電気を防止するため
ポリアミド樹脂に帯電防止性を付与する必要がある。
【0003】しかしナガセケムテックス(株)から商品名
トレジンとして市販されているN-メトキシメチル化ナ
イロン-6は、表面固有抵抗が1012Ω・cm乃至1013Ω・cm
オーダーと比較的低い上、耐アルカリ性、耐有機溶剤
性、耐グリース性、耐油性、耐熱性(130℃〜200℃)、
耐寒性(−60℃〜−70℃)、透明性、及び柔軟性にも優
れている。このため合成皮革、繊維加工剤、導電ロール
等に使用される他、電気・電子用途のプラスチックの制
電剤(例えば特開平8-137186号、特開平8-207428号、特
開平8-217619号、特開平9-78012号、特開平9-255992
号、特開平10-171212号、特開平11-316470号、特開平11
-79966号等)、インク組成物のビヒクル(特公平9-1765
26号、特公平11-140164号等)、外壁塗装用塗料組成物
(特開平10-110136号、特開平10-140029号)、ナイロン
製ストッキング用のラン防止剤(特開平10-67965号)等
種々の用途が提案されている。またN-メトキシメチル化
ナイロンは低級アルコールのみに可溶で、水及び他の有
機溶媒には全く不溶であるが、酸性触媒により脱メタノ
ールを伴って架橋し、低級アルコールに対しても不溶に
なる。
【0004】しかしN-アルコキシメチル化ナイロン
は、電気抵抗値が一般的に望まれる水準よりも高く、ま
た導電性が環境の湿度に影響され易く乾燥状態において
帯電防止効果が著しく低下するという問題があった。特
にプリンター用ローラー等の電気電子的用途に用いる時
に、導電性が湿度に影響されると、ロール表面にトナー
による汚れを生じ、コピー画像を損なう等という問題点
が指摘されている。
【0005】
【本発明の解決しようとするとする課題】従って、本発
明の目的は、ポリアミド樹脂を含み、導電性、耐水性、
耐薬品性、可撓性及び透明性に優れた導電性樹脂組成物
を提供することである。また本発明のもう一つの目的
は、ポリアミド樹脂を含み、導電性、耐水性、耐薬品
性、可撓性及び透明性に優れた被膜を与えるコーティン
グ剤を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的に鑑み鋭意研究
の結果、本発明者らは、(a) 分子内に1個以上のリン酸
基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸
基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸
基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性
不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してな
るリン酸基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱
処理して得られる均一な導電性樹脂組成物が、導電性、
耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優れることを発
見した。本発明者らはまた、(a) 分子内に1個以上のリ
ン酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するリ
ン酸基含有不飽和単量体を重合してなるか、又は前記リ
ン酸基含有不飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレ
ン性不飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合し
てなるリン酸基含有重合体、(b) ポリアミド樹脂、及び
(c) 脂肪族低級アルコールを含むコーティング剤を用い
ることにより導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透
明性に優れる被膜が得られることを発見した。本発明は
かかる発明に基づき完成したものである。
【0007】すなわち、本発明の導電性樹脂組成物は、
(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン
性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重
合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、
分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の
不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、
及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理して得られる均一組
成物であることを特徴とする。
【0008】リン酸基含有不飽和単量体としては、下記
一般式(I):
【化5】 (ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は
置換もしくは無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整
数である。)により表されるものが好ましい。R1はH又
はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであるのが好まし
い。リン酸基はアミン塩又はアンモニウム塩を形成して
いてもよい。
【0009】ポリアミド樹脂としては、下記一般式(I
I):
【化6】 (ただし一般式(II)において、R3〜R5は置換または無
置換のアルキレン基を表し、R6は置換または無置換の
アルキル基を表し、kとmは重合比を表し、10≦k≦50、
50≦m≦90であって、kとmとの和は100である。)によ
り表されるN-アルコキシアルキル化ポリアミドが好まし
く、中でもN-メトキシメチル化ナイロンがより好まし
い。
【0010】従来リン酸基を有する重合体は、重合段階
でゲル化が起こりやすく、様々な溶媒に不溶となるため
キャスト製膜できないという技術的問題があったが、本
発明の好ましい態様によれば、ゲルの生成を伴わずにリ
ン酸基含有重合体が得られる。本発明におけるリン酸基
含有重合体は、(a) リン酸基含有不飽和単量体又は(b)
リン酸基含有不飽和単量体及び他の不飽和単量体を、そ
の初期濃度が5.0 〜30.0重量%の脂肪族低級アルコール
溶液中で、単量体成分に対する重量比が0.005〜0.05の
重合開始剤を添加した条件下で重合させ、次いで得られ
た粗リン酸基含有重合体を貧溶媒を用いて精製したもの
である。このような製造方法により得られるリン酸基含
有重合体は比較的低分子量の重合体であるため、適当な
溶剤に溶解させることができる。
【0011】このようなリン酸基含有重合体、ポリアミ
ド樹脂及び脂肪族低級アルコールを含むポリマー溶液か
ら作製する本発明の導電性樹脂組成物は、30〜80℃の温
度範囲で、10-4〜10-2 Scm-1の範囲の高いプロトン伝導
性を示すとともに、耐水性、耐溶剤に優れるので、特に
燃料電池用の固体高分子電解質として好適である。
【0012】本発明のコーティング剤は、上述のような
リン酸基含有重合体、ポリアミド樹脂及び脂肪族低級ア
ルコールを含むものである。本発明のコーティング剤を
塗布液し、加熱することにより得られるコーティング膜
は、導電性、耐水性、耐薬品性、可撓性及び透明性に優
れる。
【0013】
【発明の実施の形態】[1] 導電性樹脂組成物 本発明の導電性樹脂組成物は、リン酸基含有重合体とポ
リアミド樹脂とを加熱処理して得られる均一組成物であ
る。 (A) リン酸基含有重合体 本発明において用いるリン酸基含有重合体は、分子内に
1個以上の酸性リン酸基と1個以上のエチレン性不飽和
結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を必須成分と
して重合してなる。その重合度は比較的低いのが好まし
く、これによりポリアミド樹脂と加熱して得られる組成
物の均一性が向上する上、導電性も向上する。 (1) リン酸基含有不飽和単量体 分子内に1個以上の酸性リン酸基と1個以上のエチレン
性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体は下
記一般式(I) :
【化7】 (ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は
置換もしくは無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整
数である。)により表すことができる。R1はH又はCH3
あり、R2はH、CH3又はCH2Clであるのが好ましい。
【0014】リン酸基は解離していてもよいし、錯塩を
形成していても良い。錯塩を形成する場合、電荷を中和
させるため、例えば第1級、第2級、第3級及び第4級
のアルキル基、アリル基、アラルキル基を含有するアン
モニウムイオンやモノ、ジ、トリアルカノールアミン残
基と錯塩を形成するのが好ましく、特にN+R7 4-p(OH)
p(ここでR7は炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜
12の芳香族基、炭素数6〜12の脂環族基からなる群から
選ばれた少なくとも一種を表し、pは1〜3の正の整数
を表す。)が好ましい。
【0015】一般式(I)で表されるリン酸基含有不飽和
単量体の具体例としてはアシッドホスホオキシポリオキ
シエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシ
ッドホスホオキシプロピレングリコールモノ(メタ)ア
クリレート、3-クロロ-2-アシッドホスホオキシプロピ
レングリコールモノ(メタ)アクリレート等とともに同
上化合物のアンモニウム塩又はアミン塩が挙げられる。
一般式(I)で表されるリン酸基含有不飽和単量体は単独
で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0016】一般式(I)で表されるリン酸基含有不飽和
単量体のうち、本発明に好適に使用できる化合物の構造
式を表1に示す。またこれらの化合物の物性を表2に示
す。これらの化合物はユニケミカル(株)から商品名Phos
merTMとして販売されているものである。ただし本発明
に使用できる化合物はこれらに限定されるものではな
い。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】(2) 共重合し得る他の不飽和単量体 リン酸基含有重合体は一般式(I)により表されるリン酸
基含有不飽和単量体と分子内に1個以上のエチレン性不
飽和結合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなる
ものであってもよい。リン酸基を含有する不飽和単量体
と共重合し得る不飽和単量体は次の2群(2-1)、(2-2)に
大別できる。
【0020】(2-1) 酸基を含有する不飽和単量体 酸基を含有する不飽和単量体は、分子内に少なくとも1
つの酸基と、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を
有する化合物である。酸基としてはスルホン酸基、カル
ボン酸基及び水酸基が好ましい。酸基としてスルホン酸
基、カルボン酸基及び水酸基からなる群から選ばれた少
なくとも一種を有する不飽和単量体を用いることによ
り、ポリアミド樹脂とともに加熱処理して得られる導電
性樹脂組成物の均一性及び導電性が向上し、かかる導電
性の温度依存性が顕著に低くなる。
【0021】スルホン酸基を含有する不飽和単量体の例
示化合物としては、アリルスルホン酸、メタアリルスル
ホン酸、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、
(メタ)アクリル酸ブチル-4-スルホン酸、(メタ)ア
クリロオキシベンゼンスルホン酸、ターシャリーブチル
アクリルアミドスルホン酸、2-アクリル-2-アクリルア
ミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
ただしアリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸は、そ
のアリル基が、degradative chain transferを起こすの
で、使用量を65wt%未満とするのが好ましい。カルボン
酸基を含有する不飽和単量体の例示化合物としては、
(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル
酸、イタコン酸、マレイン酸無水物などが挙げられる。
これらは単独でもよいし、2種以上を併用しても良い。
好ましくはp-スチレンスルホン酸を用いる。
【0022】(2-2) 酸基を含有しない不飽和単量体 (2-1)に記載した以外の、常温で気体でない、分子内に
1個以上のエチレン性不飽和結合を有する不飽和単量体
はすべて対象になるが、中でも(メタ)アクリロニトリ
ル、(メタ)アクリル酸エステル類や置換又は無置換の
スチレン類が好適に使用される。1分子内に複数個のエ
チレン性不飽和結合を含有するエチレングリコールジ
(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ
(メタ)アクリレート、ヘキサメチレンジオールジ(メ
タ)アクリレートやジビニルベンゼンなども複合膜の耐
化学薬品性を改良する目的をもって使用される。
【0023】(3) 各不飽和単量体の使用割合 リン酸基含有不飽和単量体(1)と他の不飽和単量体(2)の
使用割合は、(1)/(2)=100/0〜20/80(重量比)の範囲で
使用することができるが、好ましくは(1)/(2)=80/20〜5
0/50である。また他の不飽和単量体(2)の中で、酸基を
含有する不飽和単量体(2-1)とそれ以外の不飽和単量体
(2-2)の使用割合は、プロトン伝導性にプラス効果をも
たらす(2-1)を支配的割合で使用するのが好ましく、(2-
1)/(2-2)=100/0〜50/50(重量比)の範囲で使用するの
が好ましい。
【0024】(4) リン酸基含有重合体の調製方法 リン酸基含有不飽和単量体は重合する際にゲル化や会合
を起こし易く、様々な溶媒に不溶となってしまい、工業
的に製造することは一般的に困難であるが、以下の方法
をとることによりゲルの生成を伴わずに重合することが
可能となる。
【0025】重合反応は、原料のリン酸基含有不飽和単
量体及び生成するリン酸基含有重合体の双方が溶解する
共通溶媒中で、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,
2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチ
ル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ジメチ
ル2,2'-アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤、あ
るいはラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシ
ド、tert-ブチルパーオキシ・ピバレート等の過酸化物
系開始剤等の重合開始剤を用いて、ラジカル重合により
行う。
【0026】重合手順について述べる。まず攪拌器、還
流冷却器付き反応器に〔不飽和単量体+溶媒〕からなる
ポリマー溶液を投入し、40℃〜90℃、好ましくは50℃〜
80℃に昇温する。所定温度到達直後に重合開始剤を添加
する。このとき若干の発熱があり、重合開始を確認する
ことができる。所定温度に到達してから所定時間経過後
(通常2時間程度)に再び重合開始剤を添加し、その後
1時間程度重合反応を継続する。反応温度は最初から最
後まで一定である必要はなく、重合末期に温度を上げて
未反応単量体を極力少なくする方法をとってもよい。
【0027】溶媒としては脂肪族低級アルコールを使用
する。具体的にはメタノール、エタノール、イソプロピ
ルアルコール等が挙げられる。好ましくはメタノールで
ある。これらは2種以上併用してもよい。また併用出来
る場合はエステル等の溶媒を共存させてもよい。これら
の低級アルコール溶媒は溶媒自身の成長連鎖反応定数が
大きいために、これら溶媒中では(共)重合体の成長が
比較的抑制され、その重合度が大きくなり難く、比較的
低重合度の(共)重合体の生成が容易になる。
【0028】重合溶液は不飽和単量体成分の初期濃度が
5.0 〜30.0重量%であるのが好ましく、10.0 〜15.0重
量%であるのがより好ましい。重合開始剤のトータル使
用量は、単量体成分を1とした場合に重量比で0.005〜
0.05であるのが好ましく、0.01〜0.03であるのがより好
ましい。重合溶液中の不飽和単量体成分の初期濃度及び
重合開始剤の使用量が上記の好ましい範囲にないと、重
合体がゲル化して様々な溶媒に不溶となり、ポリアミド
樹脂との均一組成物を形成できなくなる等の問題が起こ
るので好ましくない。
【0029】反応後の溶液は、所望の低重合度のリン酸
基含有重合体だけでなく、遊離したリン酸、未反応の単
量体、重合度の不十分な成分等の不純物も含んでいるの
で、精製を行う。精製は重合溶液の固形分濃度が10 〜8
0重量%になるまで濃縮し、次いでその濃縮溶液を貧溶
媒中に投入することにより粘性固体を析出させ、貧溶媒
をデカンテーション法により除去することにより行う。
貧溶媒としてはアセトン、水、1,1,1-トリクロロエタン
等が好ましい。貧溶媒は反応生成物の有姿の2倍容積〜
15倍容積と大過剰量使用する。貧溶媒による粘性固体の
洗浄操作は必要に応じて繰り返せばよい。このような精
製を行うことにより、上記不純物を除去することができ
る。その結果、導電性、耐水性、耐薬品性及び透明性に
優れた比較的低重合度のリン酸基含有重合体が得られ
る。貧溶媒で洗浄することにより得られたリン酸基含有
重合体からなる固体を再び良溶媒に溶解させ、溶液の形
態にしておくのが使用上好ましい。良溶媒としては重合
反応時に用いるのと同様の脂肪族低級アルコールが好ま
しく、メタノールがより好ましい。
【0030】上述のような方法により得られるリン酸基
含有重合体は、比較的低分子量の重合体である。通常は
重合体固形分濃度が15 〜25重量%のメタノール溶液に
した時に粘度が3 〜30mPaになる程度の重合度であるの
が好ましい。このような低重合度のリン酸基含有重合体
は、導電率が10-4〜10-2 Scm-1と優れたプロトン伝導性
を示す。
【0031】(B) ポリアミド樹脂 本発明に用いるポリアミド樹脂は、溶剤に対する溶解性
を有するものであれば特に限定されない。本発明に用い
るポリアミド樹脂は、分子量1,000〜1,000,000が好まし
く、より好ましくは2,000〜500,000であり、さらに好ま
しくは5,000〜150,000である。
【0032】本発明に好ましく用いることのできるポリ
アミド樹脂としては、下記一般式(II):
【化8】 により表されるN-アルコキシアルキル化ナイロンが挙げ
られる。
【0033】一般式(II)において、R3及びR4はそれぞ
れ独立に炭素数3〜20の置換又は無置換のアルキレン基
を表す。置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基、
ハロゲン等が挙げられる。R3及びR4としては炭素数5
〜11の無置換のアルキレン基が好ましく、n-ペンチレン
がより好ましい。
【0034】R5は炭素数1〜6の置換又は無置換のア
ルキレン基を表す。置換基としては、R3及びR4と同様
のものでよい。好ましいR5はメチレンである。
【0035】R6は炭素数1〜6の置換又は無置換のア
ルキル基を表す。置換基としてはR3及びR4と同様のも
のでよい。好ましいR6はメチルである。
【0036】kとmは重合比を表し、kとmとの和は100
である。10≦k≦50、50≦m≦90であるのが好ましく、2
0≦k≦30、70≦m≦80であるのがより好ましい。kが10
未満だと溶媒溶解性が低下するので好ましくない。また
置換基の立体障害のためkを50超にすることは困難であ
る。
【0037】一般式(II)のN-アルコキシアルキル化ナイ
ロンの具体例としては、ナイロン-6、ナイロン-66、ナ
イロン-12、共重合ナイロン等をアルコキシメチル化し
たものが挙げられるが、好ましくはナイロン-6、ナイロ
ン-66のN-メトキシメチル化ナイロン類である。また商
品としてはナガセケムテックス(株)から製販されている
トレジンF30K、トレジンMF-30、トレジンEF-30T等が挙
げられる。
【0038】(C) 導電性樹脂組成物の製造 本発明の導電性樹脂組成物は、上述のようなリン酸基含
有重合体及びポリアミド樹脂を含有するポリマー溶液を
加熱処理して得られる。このポリマー溶液は、リン酸基
含有重合体を含む溶液と、ポリアミド樹脂を含む溶液と
を混合することにより調製する。この時ポリアミド樹脂
を溶解させておく溶媒も脂肪族低級アルコールが好まし
い。特にN-アルコキシアルキル化ナイロンを使用する場
合は脂肪族低級アルコールを用いる。具体的にはメタノ
ール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げら
れ、中でもメタノールが好ましい。これらは2種以上併
用してもよい。また併用出来る場合はエステル等の溶媒
を共存させてもよい。リン酸基含有重合体とポリアミド
樹脂の比率[(リン酸基含有重合体)/(ポリアミド樹脂)]
は、固形分重量ベースで0.05〜5の範囲が好ましく、0.
1〜1がより好ましい。当該比率が5を超えるとフィル
ムの成型が困難になる。一方0.05未満だと導電性が不十
分となる。またポリマー溶液の樹脂固形分濃度は5 〜3
0重量%になるようにするのが好ましい。これにより均
一かつ透明度の高いポリマー溶液が得られる。
【0039】ポリマー溶液を溶媒の沸点±10℃の温度に
加熱することにより溶媒を蒸発除去し、次いで100 〜13
0℃に加熱することにより固体状の均一組成物である本
発明の導電性樹脂組成物が得られる。かくして得られる
本発明の導電性樹脂組成物は可撓性、透明性を有する非
常に均一な組成物であり、相異なる重合体(樹脂)から
なる組成物としては非常に珍しい部類のものである。本
発明の導電性樹脂組成物は導電率10-2〜10-4S cm-1の優
れたプロトン伝導性及び105〜109Ω・cmの表面固有抵抗
を有し、しかもプロトン伝導性の温度依存性は小さい。
また本発明の導電性樹脂組成物は耐水性及び耐薬品性に
も優れている。
【0040】本発明の導電性樹脂組成物が均一性、耐水
性、及び耐溶剤性に優れる理由は必ずしも定かではない
が、(イ) ポリアミド樹脂のアミド基とリン酸基含有重合
体のリン酸基との縮合反応による架橋に主に起因するも
のと考えられ、その他に(ロ)リン酸基間の会合により見
かけの架橋が生成することも寄与しているものと考えら
れる。特にポリアミド樹脂としてN-アルコキシアルキル
化ナイロンを用いた場合は、(ハ) N-アルコキシアルキル
化ナイロンのアルコキシ基とリン酸基含有重合体のリン
酸基との縮合反応による架橋に主に起因するものと考え
られ、その他(ニ) リン酸基含有重合体のリン酸基がN-ア
ルコキシアルキル化ナイロンの架橋触媒として作用し、
N-アルコキシアルキル化ナイロン同士が架橋することも
寄与しているものと考えられる。N-アルコキシアルキル
化ナイロンを用いた場合は、特に上記(ハ)に起因する架
橋密度が高いことが効いているものと考えられる。また
上記(ロ)のリン酸基間の会合による見かけの架橋が生成
するが故に、リン酸基含有重合体が水不溶性(膨潤性)
のゲルになるという研究事実(例えば中前ら;第35回高
分子年次大会(1989))から、これが耐水性の向上に寄
与する面もあると考えられる。なお本発明の導電性樹脂
組成物はリン原子を含有しているが故に、難燃性や無機
フィラーの分散性に関しても優れている。
【0041】[2] 導電性樹脂成型物 本発明の導電性樹脂成型物は本発明の導電性樹脂組成物
からなり、上述のリン酸基含有重合体及びポリアミド樹
脂を含むポリマー溶液を用いて成型することにより得ら
れる。成型方法は特に限定されず、例えばポリマー溶液
をキャストし、溶媒を蒸発させた後、加熱することによ
りフィルム状に成型する等、公知の方法を用いることが
できる。基盤等との密着性の観点からキャスト法を用い
るのがもっとも好ましい。製膜したフィルム(皮膜)に
対してさらに加熱或いは加熱と同時に延伸を施すことに
より機械的強度を増すこともできる。
【0042】キャストフィルムは、ポリマー溶液を水平
に設置したガラス板上に流延し、溶媒を蒸発させた後、
加熱することにより製造できる。必要に応じて吸水性高
分子、ゴム等をブレンドしてもよい。キャストフィルム
の厚みは通常30〜500μm、好ましくは50〜200μm程度
である。かくして得られる本発明の導電性樹脂フィルム
は、導電率10-2〜10-4S cm-1の優れたプロトン伝導性及
び105〜109Ω・cmの表面固有抵抗を有する。
【0043】なお従来の導電性樹脂フィルムは、フィル
ムの機械的強度、耐水性、耐メタノール性において実用
的な物性を得るため、クエン酸、酒石酸、次亜リン酸、
パラトルエンスルホン酸などの架橋触媒や、メラミン樹
脂、水溶性エポキシ樹脂などの架橋剤を用いて架橋した
り、ベーキング処理を施す必要があったが、本発明の導
電性樹脂フィルムは上記のような架橋触媒や架橋剤を使
用せずとも、耐水性、耐メタノール性を有する。これは
上述のようにリン酸基含有重合体とポリアミド樹脂との
架橋、ポリアミド樹脂同士の架橋等が要因であると推定
している。
【0044】[3] 固体高分子電解質複合膜 本発明の固体高分子電解質複合膜は、本発明の導電性樹
脂組成物と補強材シートとからなり、上述のリン酸基含
有重合体及びポリアミド樹脂を含むポリマー溶液を補強
材シートに塗布し、溶媒を蒸発させた後、加熱すること
により製造することができる。
【0045】本発明で使用する補強材シートは下記の3
群に大別できる。 (1) 無機質繊維からなるシート ガラス繊維、アルミナ繊維、ロックウール繊維、スラグ
繊維などからなる織布、不織布、紙等が挙げられる。無
機質繊維からなるシートの坪量は10〜60mg/cm2、好まし
くは10〜40mg/cm2で、厚みは1μm〜60μm、好ましくは5
μm〜40μmの範囲である。
【0046】(2) 有機質繊維からなるシート 通常、衣料用に用いられるナイロン繊維、ポリエステル
繊維、アクリル繊維等や、産業用に用いられるアラミド
繊維からなる織布、不織布、紙等が挙げられる。ただ
し、紫外線照射時に複合系の温度が〜100℃まで上昇す
ることがあり得るので、それに耐える耐熱性を有するも
のであることが必要である。有機質繊維からなるシート
の坪量と厚みは、(1)の場合と同じである。ただし、含
浸させる単量体組成物がスルホン酸基などの強酸基を有
する不飽和単量体を含む場合は、ナイロン繊維からなる
織布、不織布、紙等は、耐酸性が弱いため不適である。
【0047】(3) 樹脂フィルム 汎用樹脂であるポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹
脂、ポリ3-メチルペンテン樹脂、ナイロン-6樹脂、ポリ
エステル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂などや、耐熱
性樹脂であるポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン
樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、アラミド樹
脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などから製膜したフ
ィルムが好ましい。樹脂フィルムは、微孔を有するフィ
ルムでもよいし、微孔を有しないフィルムのどちらでも
よいが、前者が好ましい。ただし、含浸させる単量体組
成物がスルホン酸基などの強酸基を有する不飽和単量体
を含む場合は、ナイロンフィルムは、耐酸性が強くない
ため不適である。
【0048】微多孔フィルムの場合は、微孔の孔径が出
来るだけ小さい方が好ましく、サブミクロン径であるこ
とが好ましい。また全体の開孔率は出来るだけ大きい方
が好ましく、40〜50%(対表面積)のものが特に好まし
い。樹脂フィルムの厚さは1μm〜40μmが好ましく、5μ
m〜25μmの範囲がより好ましい。
【0049】補強材シートと本発明の導電性樹脂組成物
との使用割合は、補強材シートの導電性樹脂組成物に対
する親和性、換言すれば、導電性樹脂組成物の吸収性に
よって大きく異なるが、一般的に補強材シート/導電性
樹脂組成物=1/20〜1/2(重量比)の範囲である。
【0050】[4] コーティング剤 本発明のコーティング剤は、上述のリン酸基含有重合体
及びポリアミド樹脂を含むポリマー溶液と同様の基本組
成からなるものである。
【0051】コーティング剤として用いる場合は、良溶
媒を用いてコーティング剤をコーティングに適した濃度
に希釈するのが好ましい。必要に応じて、粘度調整剤等
の添加剤を加えても良い。良溶媒としては反応時に用い
るのと同様の脂肪族低級アルコールが好ましく、特にメ
タノールが好ましく、固形分基準で10〜20重量%に希釈
するのが好ましい。
【0052】本発明のコーティング剤を被塗物に対し
て、固形分基準で1〜10g/m2となるよう塗布し、加熱
してコーティング被膜を形成することにより帯電防止性
または導電性を付与できる。本発明のコーティング剤は
金属板、プラスチック成型物、シートまたはフィルム、
繊維、織布または不織布などのいずれにも適用でき、そ
の表面に密着する。
【0053】
【実施例】以下に実施例を記載して本発明の内容をより
具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもの
ではない。 (1)リン酸基含有重合体の調製 表3に示す仕込み組成に従い、リン酸基含有不飽和単量
体(Phosmer類)及び他の不飽和単量体を用いて、Phosm
er類の単独重合体(重合体No.〜)、Phosmer類と他
の不飽和単量体との共重合体(重合体No.〜)、及
び他の不飽和単量体のみからなる重合体(重合体No.,
)を調製した。還流冷却管、滴下漏斗、温度計及び窒素
ガス導入管を接続した自動合成反応装置(内容積500m
L、ユニケミカル(株)製)に、表3に示す仕込み組成に従
い、各不飽和単量体20gとメタノール180gを仕込み、窒素
ガスを導入しながら140〜150 rpmで攪拌し、重合温度63
℃まで昇温した。内温が63℃に到達したことを確認後、
2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5gを投入
した。この時若干の重合発熱が起こり、重合開始が確認
された。内温が63℃に到達して2時間後に再度AIBN 0.1g
を投入し、約1時間残留単量体を重合させて、各重合体を
含むメタノール溶液を得た。
【0054】(2) リン酸基含有重合体の精製 得られた各重合体を含むメタノール溶液を固形分濃度が
25重量%(重合体No.は50重量%、重合体No.は60重
量%)になるまで60 〜70℃で加熱濃縮し、次いで、そ
の濃縮溶液を表3にそれぞれ示す量の貧溶媒(重合体N
o.,,,,,:アセトン、重合体No.:水、重
合体No:1,1,1-トリクロロエタン)中に室温で投入す
ることにより粘性固体を析出させた。この時、ターシャ
リーブチル・アクリルアミド・スルホン酸のみを原料単
量体とする重合体No.はアセトン、水及び1,1,1-トリ
クロロエタンのいずれにも溶解してしまうため、精製が
不可能であった。
【0055】貧溶媒をデカンテーション法により除去
し、再度少量のアセトンで粘性固体を洗浄した。得られ
た固体を再び20gのメタノールに溶解させ、さらにメタ
ノールを加え、固形分が20重量%になるようにした。得
られた精製重合体を含むメタノール溶液の粘度、及び精
製重合体の酸価を表3に示す(No.は未精製物の
値)。精製リン酸基含有重合体を含むメタノール溶液は
透明性が良好で、低粘度の溶液であった。
【0056】
【表3】 注:(1) 表1及び表2を参照。 (2) メタクリル酸 (3) ターシャリーブチル・アクリルアミド・スルホン酸
(三菱レーヨン(株)製) (4) パラスチレン・スルホン酸(ユニケミカル(株)製) (5) メタノール (6) 2,2'-アゾビスイソブチロニトリル (7) 1,1,1-トリクロロエタン (8)ビスメトロンVD-K(回転式粘度計、芝浦システム
(株)製)により測定。
【0057】実施例1〜14 上記の方法により得られた精製リン酸基含有重合体(N
o.〜)の各20重量%メタノール溶液と、N-メトキシ
メチル化ナイロン-6[トレジンEF-30T、融点:155℃
(カタログ値)、脂肪族低級アルコールに対する溶解
度:20重量%(カタログ値)、未架橋フィルムの体積固
有抵抗値:60℃以上で約109Ω・cm(カタログ値)、ナ
ガセケムテックス(株)製]の20重量%メタノール溶液と
を、表4に示す固形分の配合割合に従って混合し、均一
で透明性に優れたポリマー溶液(本発明のコーティング
剤)を調製した。得られたポリマー溶液を、ポリプロピ
レン製フィルムで作製した容器に流延し、これを空気流
通式乾燥器に入れ、常温から60℃まで昇温して約12時間
乾燥した。生成した皮膜をスパチュラで剥離し、透明な
フィルムを得た。これを高温空気流通式乾燥器で130℃
で3分間熱処理することにより厚さ100μmの導電性樹脂
フィルムを作製した。得られたフィルムは透明度が高く
フレキシビリティーに優れていた。また得られた各ポリ
マー溶液を、メタノールで樹脂固形分15重量%に希釈
し、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルム(厚さ
0.2mm)に、バーコーターNo. R.D.S.24で塗布し、空気
流通式乾燥器を用いて60℃で10分間乾燥することにより
キャストフィルムを作製した。その後、空気流通式高温
乾燥器を用いて100℃で3分間熱処理することにより厚さ
5μmの被覆膜を有する固体高分子電解質複合膜を作製
した。
【0058】比較例1,2 リン酸基を含まない重合体(No.,)を用い、表4に
示す固形分の配合割合に従ってトレジンEF-30Tと混合
し、ポリマー溶液を調製した。得られたポリマー溶液を
用いて実施例1〜14と同様に導電性樹脂フィルム及び固
体高分子電解質複合膜を作製した。比較例1のフィルム
は、透明性は高いもののフレキシビリティーに欠けてい
た。また比較例2のフィルムは白化したが、これはパラ
スチレンスルホン酸のみからなる重合体はトレジンEF-3
0Tとの相溶性がないためと考えられる。
【0059】比較例3 トレジンEF-30Tの20重量%メタノール溶液のみを用いて
実施例1〜14と同様に導電性樹脂フィルムを作製した。
得られたフィルムは透明性を有し、フレキシビリティー
に優れていた。
【0060】
【表4】 注:(1) ナガセケムテックス(株)製トレジンEF-30T
【0061】実施例1〜14及び比較例1,2で作製した
導電性樹脂フィルムについて、作製途中の60℃/12時間
乾燥した段階の表面固有抵抗とさらに130℃/3分間加
熱処理した後の表面固有抵抗を、25℃/RH=60%及び25℃
/RH=75%において測定した。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】 注:(1) 表面固有抵抗測定器(東亜電波工業(株)製 SME
-8310)により測定。
【0063】表5から明らかなように、リン酸基含有重
合体を含む実施例1〜14の130℃/3分間加熱処理した
導電性樹脂フィルムは、25℃/RH=60%の測定では105〜1
09Ω・cmを示し、25℃/RH=75%の測定では105〜108Ω・
cmを示し、いずれも固体高分子電解質として標準的な表
面固有抵抗値であった。これに対して比較例1の130℃
/3分間加熱処理した導電性樹脂フィルムは、実施例1
〜14のフィルムよりも概ね1桁高い表面固有抵抗値を示
した。また実施例1〜14の導電性樹脂フィルムの表面固
有抵抗値について、25℃/RH=75%での測定値は25℃/RH
=60%での測定値よりも概ね1桁小さくなっているが、こ
の環境湿度依存性も標準的なレベルであった。また実施
例1〜14では、60℃/12時間乾燥しただけのフィルムに
比べて、さらに130℃/3分間の加熱処理したフィルム
の表面固有抵抗値は概して高くなっているが、これは前
述したようなリン酸基含有重合体とポリアミド樹脂との
架橋、ポリアミド樹脂同士の架橋等が起こっていること
を示唆しているものと考えられる。
【0064】実施例1,3,5,7,9,11及び比較例1,2
で作製した固体高分子電解質複合膜の表面固有抵抗を25
℃/RH=75%において測定した。結果を表6に示す。
【0065】
【表6】 注:(1) 表面固有抵抗測定器(東亜電波工業(株)製 SME
-8310)により測定。
【0066】表6から明らかなように、リン酸基含有重
合体を含む実施例1,3,5,7,9,11の固体高分子電解
質複合膜は108〜109Ω・cmのオーダーであるのに対し
て、比較例1の複合膜は1011Ω・cm、比較例2の複合膜
は1010Ω・cmと高いことが分かる。
【0067】また実施例2,4,6,8,10,12,14及び比較
例3で作製した導電性樹脂フィルムについて、耐水性及
び耐アルコール性を測定した。結果を表7に示す。
【0068】
【表7】 注:(1) 室温の水に3日間浸漬後の状態 (2) 室温のメタノールに3日間浸漬後の状態 (3) 判定基準 ◎ : 変化無し 〇 : 僅かに白濁(膨潤・溶解等は無し) △ : 白化(膨潤・溶解等は無し) × : 溶解
【0069】表7から明らかなように、Phosmer類とト
レジンEF-30Tを用いた実施例2,4,6のフィルムは耐水
性及び耐アルコール性に非常に優れていた。Phosmer
類、他の不飽和単量体及びトレジンEF-30Tを用いた実施
例8,10,12,14のフィルムは水又はメタノールへの浸漬
によって白濁又は白化が起こるものの膨潤はなく、実用
上問題ないレベルであった。これに対してトレジンEF-3
0Tのみを用いた比較例3のフィルムは、耐水性は優れて
いたもののメタノールへは溶解してしまい、耐メタノー
ル性が非常に劣っていた。
【0070】実施例2,4,6及び比較例3で作製した導
電性樹脂フィルムについて、相対湿度90%及び温度範囲
30〜80℃で導電率(プロトン伝導性)を測定した。測定
には複素インピーダンス法を用いた。結果を図1(a),
(b)に示す。実施例2,4,6のフィルムはいずれも導電
率は10-2〜10-4S cm-1のオーダーを示し、リン酸基を官
能基とする高分子電解質としては良好な水準にあること
が判る。また導電率の温度依存性は小さかった。これに
対してトレジンEF-30Tのみを用いた比較例3のフィルム
は導電率が10-5S cm-1のオーダーを示し、実施例2,4,
6に比べて劣っていた。
【0071】
【発明の効果】以上詳述した通り、本発明によれば、
(a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個以上のエチレン
性不飽和結合とを有するリン酸基含有不飽和単量体を重
合してなるか、又は前記リン酸基含有不飽和単量体と、
分子内に1個以上のエチレン性不飽和結合を有する他の
不飽和単量体とを共重合してなるリン酸基含有重合体、
及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理することにより、架
橋触媒、架橋剤の添加なしでも、導電性、耐水性、耐メ
タノール性、耐熱性、耐難燃性、強度及び透明性に優れ
る均一な導電性樹脂組成物が得られる。本発明の導電性
樹脂組成物からなる固体高分子電解質は導電率10-2〜10
-4S cm-1の優れたプロトン伝導性及び105〜109Ω・cmの
表面固有抵抗を有し、プロトン伝導性は温度依存性が小
さい。そのため一次電池用電解質、二次電池用電解質、
燃料電池用電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達
媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに好適に利
用できる。特に大電力用途のDMFC(直接メタノール燃料
電池)用の固体高分子電解質として好適である。
【0072】本発明のコーティング剤は各種基材に対す
る密着性に優れるとともに、得られるコーティング被膜
は導電性、耐水性及び耐メタノール性に優れているの
で、紙、織布、不織布、樹脂フィルム、ガラス等の被覆
剤、電気・電子用途及び繊維衣料用途向けの制電剤、導
電性ロールへの被覆剤、インク・塗料のビヒクル等とし
て好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2,4,6及び比較例3の導電性樹脂フ
ィルムについて、温度T(℃)と導電率log(σ/Scm-1)
の関係を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C09D 177/00 C09D 177/00 177/02 177/02 (72)発明者 神崎 宗裕 奈良県生駒郡三郷町城山台5−11−12 Fターム(参考) 4J002 BG07W BQ00W CL01X CL03X EC036 GH01 HA05 4J038 CG141 CH111 CH131 DH012 GA14 JA18 KA06 NA01 NA04 NA12 NA20 4J100 AB07Q AB16Q AL02Q AL08P AL08Q AL62Q AM02Q AM21Q AP01Q BA02P BA08P BA56Q BA64P BB01P BC43Q CA01 CA03 JA01

Claims (19)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 (a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個
    以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不
    飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不
    飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結
    合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸
    基含有重合体、及び(b) ポリアミド樹脂を加熱処理して
    得られる均一組成物であることを特徴とする導電性樹脂
    組成物。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の導電性樹脂組成物にお
    いて、前記リン酸基含有不飽和単量体は、下記一般式
    (I): 【化1】 (ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は
    置換もしくは無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整
    数である。)により表されることを特徴とする導電性樹
    脂組成物。
  3. 【請求項3】 請求項2に記載の導電性樹脂組成物にお
    いて、R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clであ
    ることを特徴とする導電性樹脂組成物。
  4. 【請求項4】 請求項2又は3に記載の導電性樹脂組成
    物において、リン酸基がアミン塩又はアンモニウム塩を
    形成していることを特徴とする導電性樹脂組成物。
  5. 【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載の導電性
    樹脂組成物において、前記リン酸基含有重合体は、(a)
    前記リン酸基含有不飽和単量体単独又は(b) 前記リン酸
    基含有不飽和単量体及び前記他の不飽和単量体を、その
    初期濃度が5.0〜30.0重量%の脂肪族低級アルコール溶
    液中で、単量体成分に対する重量比が0.005〜0.05の重
    合開始剤を添加した条件下で重合させ、次いで得られた
    粗リン酸基含有重合体を貧溶媒を用いて精製したもので
    あることを特徴とする導電性樹脂組成物。
  6. 【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の導電性
    樹脂組成物において、前記ポリアミド樹脂は、下記一般
    式(II): 【化2】 (ただし一般式(II)において、R3〜R5は置換または無
    置換のアルキレン基を表し、R6は置換または無置換の
    アルキル基を表し、kとmは重合比を表し、10≦k≦50、
    50≦m≦90であって、kとmとの和は100である。)によ
    り表されるN-アルコキシアルキル化ポリアミドであるこ
    とを特徴とする導電性樹脂組成物。
  7. 【請求項7】 請求項6に記載の導電性樹脂組成物にお
    いて、前記N-アルコキシアルキル化ポリアミドがN-メト
    キシメチル化ナイロンであることを特徴とする導電性樹
    脂組成物。
  8. 【請求項8】 請求項1〜7のいずれかに記載の導電性
    樹脂組成物を固体高分子電解質として用いた燃料電池。
  9. 【請求項9】 請求項1〜7のいずれかに記載の導電性
    樹脂組成物と補強材シートとからなる固体高分子電解質
    複合膜。
  10. 【請求項10】 請求項9に記載の固体高分子電解質複合
    膜を用いた燃料電池。
  11. 【請求項11】 請求項1〜7のいずれかに記載の導電性
    樹脂組成物からなる導電性樹脂フィルム。
  12. 【請求項12】 (a) 分子内に1個以上のリン酸基と1個
    以上のエチレン性不飽和結合とを有するリン酸基含有不
    飽和単量体を重合してなるか、又は前記リン酸基含有不
    飽和単量体と、分子内に1個以上のエチレン性不飽和結
    合を有する他の不飽和単量体とを共重合してなるリン酸
    基含有重合体、(b) ポリアミド樹脂、及び(c) 脂肪族低
    級アルコールを含むことを特徴とするコーティング剤。
  13. 【請求項13】 請求項12に記載のコーティング剤におい
    て、前記リン酸基含有不飽和単量体は、下記一般式
    (I): 【化3】 (ただしR1は水素又はアルキル基であり、R2は水素又は
    置換もしくは無置換のアルキル基であり、nは1〜6の整
    数である。)により表されることを特徴とするコーティ
    ング剤。
  14. 【請求項14】 請求項13に記載のコーティング剤におい
    て、R1はH又はCH3であり、R2はH、CH3又はCH2Clである
    ことを特徴とするコーティング剤。
  15. 【請求項15】 請求項13又は14に記載のコーティング剤
    において、リン酸基がアミン塩又はアンモニウム塩を形
    成していることを特徴とするコーティング剤。
  16. 【請求項16】 請求項12〜15のいずれかに記載のコーテ
    ィング剤において、前記リン酸基含有重合体は、(a) 前
    記リン酸基含有不飽和単量体単独又は(b) 前記リン酸基
    含有不飽和単量体及び前記他の不飽和単量体を、その初
    期濃度が5.0 〜30.0重量%の脂肪族低級アルコール溶液
    中で、単量体成分に対する重量比が0.005〜0.05の重合
    開始剤を添加した条件下で重合させ、次いで得られた粗
    リン酸基含有重合体を貧溶媒を用いて精製したものであ
    ることを特徴とするコーティング剤。
  17. 【請求項17】 請求項12〜16のいずれかに記載のコーテ
    ィング剤において、前記ポリアミド樹脂は、下記一般式
    (II): 【化4】 (ただし一般式(II)において、R3〜R5は置換または無
    置換のアルキレン基を表し、R6は置換または無置換の
    アルキル基を表し、kとmは重合比を表し、10≦k≦50、
    50≦m≦90であって、kとmとの和は100である。)によ
    り表されるN-アルコキシアルキル化ポリアミドであるこ
    とを特徴とするコーティング剤。
  18. 【請求項18】 請求項17に記載のコーティング剤におい
    て、前記N-アルコキシアルキル化ポリアミドがN-メトキ
    シメチル化ナイロンであることを特徴とするコーティン
    グ剤。
  19. 【請求項19】 請求項12〜18のいずれかに記載のコーテ
    ィング剤を用いて、鋼材、ガラス、プラスチック又は繊
    維にコーティング被膜を形成せしめる方法。
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