JP4076760B2 - エピスルフィド化合物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なエピスルフィド化合物およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、屈折率とアッベ数が共に高く、かつ耐熱性、透明性なども優れる光学材料を与えることのできる新規なエピスルフィド化合物、およびそれを効率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックはガラスに比較し軽量で割れにくく染色が容易であるため、近年、レンズ等の各種光学用途に使用されている。そして、光学用プラスチック材料としては、ポリ(ジエチレングリコールビスアリルカーボネート) (CR−39)やポリ(メチルメタクリレート)が、一般的に用いられている。しかしながら、これらのプラスチックは1.50以下の屈折率を有するため、それらを例えばレンズ材料に用いた場合、度数が強くなるほどレンズが厚くなり、軽量を長所とするプラスチックの優位性が損なわれてしまう。特に強度の凹レンズは、レンズ周辺が肉厚となり、複屈折や色収差が生じることから好ましくない。さらに眼鏡用途において肉厚のレンズは、審美性を悪くする傾向にある。肉薄のレンズを得るためには、材料の屈折率を高めることが効果的である。一般的にガラスやプラスチックは、屈折率の増加に伴いアッベ数が減少し、その結果、それらの色収差は増加する。従って、高い屈折率とアッベ数を兼ね備えたプラスチック材料が望まれている。
【0003】
このような性能を有するプラスチック材料としては、例えば(1) 分子内に臭素を有するポリオールとポリイソシアネートとの重付加により得られるポリウレタン(特開昭58−164615号公報)、(2) ポリチオールとポリイソシアネートとの重付加により得られるポリチオウレタン(特公平4−58489号公報、特公平5−148340号公報)が提案されている。そして、特に(2)のポリチオウレタンの原料となるポリチオールとして、イオウ原子の含有率を高めた分岐鎖(特開平2−270859号公報、特開平5−148340号公報)や、イオウ原子を高めるためジチアン構造を導入したポリチオール(特公平6−5323号公報、特開平7−118390号公報)が提案されている。さらに、(3) エピスルフィドを重合官能基としたアルキルスルフィドの重合体が提案されている(特開平9−72580号公報、特開平9−110979号公報)。
しかしながら上記(1)のポリウレタンは、屈折率がわずかに改良されているものの、アッベ数が低く、かつ耐光性に劣る上、比重が高く、軽量性が損なわれるなどの欠点を有している。また(2)のポリチオウレタンのうち、原料のポリチオールして高イオウ含有率のポリチオールを用いて得られたポリチオウレタンは、例えば屈折率が1.60〜1.68程度に高められているが、同等の屈折率を有する光学用無機ガラスに比べてアッベ数が低く、さらにアッベ数を高めなければならないという課題を有している。さらに、(3)のアルキルスルフィド重合体は、一例としてアッベ数が36において、屈折率が1.70に高められており、この重合体を用いて得られたレンズは、著しく肉薄、軽量化されているが、屈折率とアッベ数をさらに高めたプラスチック材料が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の課題を解決するためなされたもので、屈折率とアッベ数が共に高く、かつ耐熱性、透明性なども優れる光学材料を与えることのできる新規な化合物およびそれを効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、1,3,5−トリチアン(以下トリチアンと省略)にエピスルフィドの誘導体が結合してなる化合物は新規であり、前記の目的に適合しうること、そしてこの化合物は特定の方法により効率よく得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、一般式 (1)で示される新規なエピスルフィド化合物、
【化3】
(式中nは0〜2の整数を示す。)
および、メルカプト基を有するエピスルフィド化合物と2,4,6−トリメチレン−1,3,5−トリチアンを反応させて前記一般式 (1)で示される新規なエピスルフィド化合物を製造する方法を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の新規なエピスルフィド化合物は一般式 (1)で示され、それより明らかなようにトリチアン環に3つの同一のエピスルフィド含有置換基が結合している。
【化4】
(式中nは0〜2の整数を示す。)
【0008】
一般式(1)のエピスルフィド化合物におけるトリチアン環は原子屈折の高いイオウを高い割合で含有しており本発明の新規エピスルフィド化合物の重合体の屈折率を大きく高める。さらにエピスルフィド化合物の開環重合で生成したエチレンスルフィド連鎖もまた屈折率の増加に寄与する。通常、アモルファス材料のアッベ数はその屈折率の増加とともに減少する傾向にある。イオウを高い割合で含有するポリマーの場合、イオウの電子共鳴が顕著となりアッベ数の大きな低下がよく観測されるが、本発明の新規エピスルフィド化合物ではそのようなことがない。屈折率増加の別の要因として分子容の減少が挙げられ、ポリマーの場合、高い架橋密度や強い分子間力によりそれが発現する。本発明の新規エピスルフィド化合物は3つの重合官能基を有しており、その重合体は特に前者の効果により屈折率が高められる。一般式(1) のエピスルフィド化合物において、nの増加はイオウ含有量と架橋密度を低下させ、屈折率を低下させたポリマーを与えることから、nの範囲は0〜2でなければならない。さらに本発明の新規エピスルフィドを用いて得られたポリマーのガラス転移温度(Tg)は一般式(1)におけるnの増加とともに減少するため、耐熱性の良いポリマーを得るためにもnの範囲は0〜2でなければならない。
【0009】
本発明の一般式(1)で表される新規エピスルフィド化合物としては、具体的に2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン、2,4,6−トリス(エピチオエチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン、2,4,6−トリス(エピチオプロピルチオメチル)−1,3,5−トリチアンなどが挙げられる。
【0010】
これらの本発明の新規エピスルフィド化合物は、トリチアン環の2、4、6位に導入した2,4,6−トリメチレン−1,3,5−トリチアンのメチレン基とメルカプト基を有するエピスルフィド化合物とをエン−チオール反応させる本発明の方法により効率よく製造することができる。
メルカプト基を有するエピスルフィド化合物としては、例えば、3-メルカプトプロペンスルフィド、4-メルカプトブテンスルフィド、5-メルカプトペンテンスルフィド等が挙げられる。
例えば、3-メルカプトプロペンスルフィドはF. P. Doyle等、ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサエティー、2660頁、1960年に記載の方法で調製することができる。
【0011】
本発明の新規エピスルフィド化合物の代表的な製造法として2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン(一般式(1)においてn=0の化合物)の合成をスキーム1に示す。クロロアセトアルデヒドの40重量%水溶液を70重量%硫酸に溶解し−20〜40°Cにて2〜100時間、硫化水素を通じることで2,4,6−トリス(クロロメチル)−1,3,5−トリチアンが得られる。酸性溶媒として硫酸以外に60:40(v/v)95重量%硫酸−酢酸および塩化水素を飽和させた酢酸、エーテル、95重量%エタノールなどを用いることができる。得られた塩素化合物のメタノール溶液に水酸化カリウムを加え−10〜40°Cにて0.5〜10時間、脱塩化水素させることにより2,4,6−トリメチレン−1,3,5−トリチアンが得られ、これをラジカル発生剤の存在下、3-メルカプトプロペンスルフィドと0〜100°Cにて6〜100時間、加熱反応させることで目的物である2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアンが得られる。
【0012】
ラジカル発生剤としてはアゾビスブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、ビス(シクロヘキシルカルボニル)パーオキサイドなどが用いられる。
また、メルカプト基を有するエピスルフィド化合物として3-メルカプトプロペンスルフィド以外に4-メルカプトブテンスルフィド及び5-メルカプトペンテンスルフィドを用いることで2,4,6−トリス(エピチオエチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン及び2,4,6−トリス(エピチオプロピルチオメチル)−1,3,5−トリチアンがそれぞれ得られる。
【0013】
スキーム1
【化5】
※Meはメチル基
【0014】
次に、本発明の新規エピスルフィド化合物を用いて得られる光学材料について説明する。一般式(1)で示される新規エピスルフィド化合物は必須成分であり、一種用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、この新規エピスルフィド化合物は、得られる重合体の物性などを適宜改良するための任意成分として、他のエピスルフィド化合物、エポキシ化合物および単独重合可能なビニルモノマーを含有することができる。
【0015】
上記の適宜用いられるエピスルフィド化合物の例としては、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−3−(β−エピチオプロピルチオメチル)ブタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)ペンタン、1,6−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕エタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−[〔2−(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオエチル〕チオ]エタン等の鎖状有機化合物等;テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアヘキサン、1,5,6−トリス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,5ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,9−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)−5−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,7−ジチアノナン、1,10−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,6−ビス〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ〕−3,6,9−トリチアデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−〔(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル〕−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン等の分岐状有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等;1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル〕スルフィド、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアン等の環状脂肪族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物;1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ベンゼン、1,3および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕プロパン、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(β−エピチオプロピルチオ)フェニル〕スルフォン、4,4’−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ビフェニル等の芳香族有機化合物およびこれらの化合物のエピスルフィド基の水素の少なくとも1個がメチル基で置換された化合物等が挙げられ、これらは単独もしくは二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの使用量は一般式(1)で示される新規エピスルフィド化合物の総量に対して0.01〜50モル%が好ましい。
【0016】
上記の適宜用いられるエポキシ化合物の例としては、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールスルフォン、ビスフェノールエーテル、ビスフェノールスルフィド、ハロゲン化ビスフェノールA、ノボラック樹脂等の多価フェノール化合物とエピハロヒドリンの縮合により製造されるフェノール系エポキシ化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1、3−プロパンジオール、1、4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトール、1、3−および1、4−シクロヘキサンジオール、1、3−および1、4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、ビスフェノルA・エチレンオキサイド付加物、ビスフェノルA・プロピレンオキサイド付加物等の多価アルコール化合物とエピハロヒドリンの縮合により製造されるアルコール系エポキシ化合物;アジピン酸、セバチン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘット酸、ナジック酸、マレイン酸、コハク酸、フマール酸、トリメリット酸、ベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の多価カルボン酸化合物とエピハロヒドリンの縮合により製造されるグリシジルエステル系エポキシ化合物;エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、ビス−(3−アミノプロピル)エーテル、1,2−ビス−(3−アミノプロポキシ)エタン、1,3−ビス−(3−アミノプロポキシ)−2,2’−ジメチルプロパン、1,2−、1,3−および1,4−ビスアミノシクロヘキサン、1,3−および1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,3−および1,4−ビスアミノエチルシクロヘキサン、1,3−および1,4−ビスアミノプロピルシクロヘキサン、水添4,4’−ジアミノジフェニルメタン、イソホロンジアミン、1,4−ビスアミノプロピルピペラジン、m−およびp−フェニレンジアミン、2,4−および2,6−トリレンジアミン、m−およびp−キシリレンジアミン、1,5−および2,6−ナフタレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−(4,4’−ジアミノジフェニル)プロパン等の一級ジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,2−ジアミノプロパン、N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N’−ジメチル−1,2−ジアミノブタン、N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノブタン、N,N’−ジメチル−1,4−ジアミノブタン、N,N’−ジメチル−1,5−ジアミノペンタン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノヘキサン、N,N’−ジメチル−1,7−ジアミノヘプタン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチル−1,2−ジアミノプロパン、N,N’−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N’−ジエチル−1,2−ジアミノブタン、N,N’−ジエチル−1,3−ジアミノブタン、N,N’−ジエチル−1,4−ジアミノブタン、N,N’−ジエチル−1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、2,5−および2,6−ジメチルピペラジン、ホモピペラジン、1,1−ジ−(4−ピペリジル)−メタン、1,2−ジ−(4−ピペリジル)−エタン、1,3−ジ−(4−ピペリジル)−プロパン、1,4−ジ−(4−ピペリジル)−ブタン等のニ級ジアミンとエピハロヒドリンの縮合により製造されるアミン系エポキシ化合物;3、4−エポキシシクロヘキシル−3、4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクリヘキサンジオキサイド、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)−5、5−スピロ−3、4−エポキシシクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3、4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等の脂環式エポキシ化合物;シクロペンタジエンエポキシド、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、ビニルシクロヘキセンエポキシド等の不飽和化合物のエポキシ化により製造されるエポキシ化合物;上述の多価アルコール、フェノール化合物とジイソシアネートおよびグリシドール等から製造されるウレタン系エポキシ化合物等が挙げられ、これらは単独もしくは二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの使用量は一般式(1)で示される新規エピスルフィド化合物の総量に対して0.01〜50モル%が好ましい。
【0017】
上記の適宜用いられる単独重合可能なビニルモノマーの例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ビス(2,2,2−トリメチロールエチル)エーテルのヘキサアクリレート、ビス(2,2,2−トリメチロールエチル)エーテルのヘキサメタクリレート等の1価以上のアルコールとアクリル酸、メタクリル酸のエステル構造を有する化合物;アリルスルフィド、ジアリルフタレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート等のアリル化合物;アクロレイン、アクリロニトリル、ビニルスルフィド等のビニル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、メチルビニルベンゼン、エチルビニルベンゼン、α−クロロスチレン、クロロビニルベンゼン、ビニルベンジルクロライド、パラジビニルベンゼン、メタジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられ、これらは単独もしくは二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの使用量は一般式(1)で示される新規エピスルフィド化合物の総量に対して0.01〜20モル%が好ましい。
【0018】
上記の必須成分および任意成分からなる重合性組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、耐候性改良のため、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、蛍光染料などの添加剤を適宜加えてもよい。また、重合反応向上のための触媒を適宜使用してもよく、例えばアミン類、フォスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸等が効果的である。
【0019】
本発明の新規エピスルフィド化合物を用いて得られる光学材料は、例えば以下に示す方法に従って製造することができる。
まず、上記重合性組成物、および必要に応じて用いられる各種添加剤を含む均一な組成物を調製する。次いで、この組成物を公知の注型重合法を用いて、ガラス製または金属製のモールドと樹脂性のガスケットを組み合わせた型の中に注入し、加熱して硬化させる。この際、成形後の樹脂の取り出しを容易にするためにあらかじめモールドを離型処理したり、この組成物に離型剤を混合してもよい。重合温度は、使用する化合物により異なるが、一般には−20〜+150°Cで、重合時間は0.5〜72時間程度である。重合後離型された重合体は通常の分散染料を用い、水もしくは有機溶媒中で容易に染色できる。この際さらに染色を容易にするために、染料分散液にキャリアーを加えてもよく、また加熱しても良い。このようにして得られた光学材料は、これに限定されるものではないが、プラスチックレンズ等の光学製品として特に好ましく用いられる。
【0020】
【実施例】
次に、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で得られた新規エピスルフィド化合物の物性、および応用例、比較応用例で得られた重合体の物性は、以下に示す方法にしたがって測定した。
【0021】
<新規エピスルフィド化合物の物性>
屈折率 (nD)、アッベ数 (ν D): アタゴ社製アッベ屈折率計DR−M4を用いて25°Cにて測定した。
<重合体の物性>
1) 屈折率 (nD)、アッベ数 (ν D): 上記と同様にして測定した。
2) 外 観: 肉眼により観察した。
3) 耐熱性: リガク社製TMA装置により0.5 mmφのピンを用いて98 mN (10 gf)の荷重でTMA測定を行ない、10℃/minの昇温で得られたチャートのピーク温度により評価した。
4) 透明性: 日立社製紫外分光器UV−330を用いて550 nmにおける光線透過率により評価した。
【0022】
実施例1
2,4,6 −トリス(エピチオメチルチオメチル)− 1,3,5 −トリチアン (T1) ( 一般式 (1) において n=0) の製造例
70重量%(v/v)硫酸 (100 mL)に0°Cにて硫化水素を30分バブリングし、40重量%クロロアセトアルデヒド (17.5 mL)を0°Cにて7.5時間で滴下し、さらにこの温度を維持しながら硫化水素を24時間バブリングした。上層の水溶液をデカンテーションし、残査のジクロロメタン (150 mL)可溶分を水洗 (25 mL × 3回)、無水硫酸マグネシウム上で乾燥、ろ過し、溶媒溜去により淡黄色の粗生成物 (9.5 g)を得た。この粗生成物をヘキサン (40 mL × 4回)、ヘキサン/エーテル (6/1) (50 mL × 2回)、加熱ヘキサン (30 mL × 2回)で洗浄し、真空乾燥することで白色結晶の2,4,6−トリス(クロロメチル)−1,3,5−トリチアン (2.50 g)を得た。この化合物 (0.3 g, 1.06 mmol)のメタノール (25 mL)溶液に水酸化カリウム (0.62 g, 11 mmol)のメタノール溶液 (5 mL)を激しく攪拌しながら室温にて一度に加え、室温にて75分攪拌した。水 (30 mL)で希釈した反応混合物のジクロロメタン (20 mL × 5回)抽出液を無水硫酸マグネシウム上で乾燥、ろ過した。濾液から溶媒を溜去し、黄色い油状残査として2,4,6−トリメチレン−1,3,5−トリチアン (150 mg)を得た。この化合物 (0.47 g)のベンゼン (1 mL)溶液に3−メルカプトプロペンスルフィド (1.14 g)とアゾビスブチロニトリル (0.2 mg)を加え、アルゴン雰囲気で40°Cで2時間攪拌した。反応混合物から溶媒を溜去し得られた残査をクロロフォルム/メタノールから再結晶し2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン(411 mg)の結晶 (mp=55〜56°C)を得た。
以下にこの化合物の構造特定のための分析結果を示す。
1H−NMR (溶媒:CDCl3 、内部標準物質:TMS): δ2.27 (d, 3H), δ2.59 (d, 3H),δ2.76 (m, 3H),δ3.19-3.29 (m, 12H),δ4.37〜4.63 (t, t, m, 3H)。IR (KBr錠剤法): 620, 660, 710, 740, 800, 860, 920, 1060, 1095, 1190, 1250, 1420, 1440 cm-1。
【0023】
実施例2
2,4,6 −トリス(エピチオプロピルチオメチル)− 1,3,5 −トリチアン (T3) ( 一般式 (1) において n=2) の製造例
実施例1において3−メルカプトプロペンスルフィドおよびアゾビスブチロニトリルの代わりにそれぞれ5−メルカプトペンテンスルフィド (1.45 mg)およびシクロヘキシルカルボニルパーオキサイド (0.3 mg)を用いた以外は実施例1と同様の操作により2,4,6−トリス(エピチオプロピルチオメチル)−1,3,5−トリチアン (T3) (481 mg)を得た。この化合物の屈折率 (nD)は1.696、アッベ数 (ν D)は30.1であった。
以下にこの化合物の構造特定のための分析結果を示す。
1H−NMR (溶媒:CDCl3 、内部標準物質:TMS): δ2.29 (d, 3H), δ2.44−2.52 (m, 12H), δ2.58 (d, 3H), δ2.74 (m, 3H), δ3.12−3.16 (m, 6H), δ3.25−3.31 (m, 6H), δ4.39−4.66 (t, t, m, 3H)。IR (KBr錠剤法): 620, 658, 714, 738, 803, 861, 918, 1064, 1099, 1185, 1244, 1444, 1446 cm-1。
【0024】
応用例1
重合体からなる光学材料の製造
実施例1で得られたT1 (0.05)モルと重合触媒であるテトラ(ノルマルブチル)フォスフォニウムブロマイド(CT1) 2×10-5 モルの混合物を60°Cにて均一に攪拌し、二枚のレンズ成形用ガラス型に注入し、70°Cで10時間、その後80°Cで5時間、さらに100°Cで3時間加熱重合させてレンズ形状の重合体を得た。得られた重合体の諸物性を表1に示す。表1から、本応用例1で得られた重合体は無色透明であり、屈折率 (nD)は1.796と非常に高く、アッベ数 (ν D)も30と高い (低分散)ものであり、耐熱性 (135°C)および透明性 (92%)に優れたものであった。従って、得られた重合体は光学材料として好適であった。
【0025】
応用例2〜5
重合体からなる光学材料の製造
本発明の新規エピスルフィド化合物 (C1成分)、それ以外のエピスルフィド化合物、エポキシ化合物および/またはビニルモノマー (C2成分)、および重合触媒を表1に示すように使用して、重合条件を適宜変更した以外は、応用例1と同様の操作を行い、レンズ形状の重合体を得た。これらの重合体の諸物性を表1に示す。表1から、本応用例2〜5で得られた重合体も無色透明であり、屈折率 (nD)は1.709〜1.778と非常に高く、アッベ数 (ν D)も31〜36と高い (低分散)ものであり、耐熱性 (111〜141°C)、透明性 (89〜96%)に優れたものであった。
【0026】
応用比較例1
重合体からなる光学材料の製造
表1に示すようにペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート (CE5) 0.1 モル、m−キシリレンジイソシアネート (CE6) 0.2モルおよびジブチルスズジクロライド (CT5) 1.0×10-4モルの混合物を均一に撹拌し、二枚のレンズ成形用ガラス型に注入し、50°Cで10時間、その後60°Cで5時間、さらに120°Cで3時間加熱重合させてレンズ形状の重合体を得た。得られた重合体の諸物性を表1に示す。表1から、本応用比較例1の重合体は無色で透明性(92%)も良かったが、nD/ν Dが1.59/36と屈折率が低く、耐熱性も86°Cと劣っていた。
【0027】
応用比較例2、3
重合体からなる光学材料の製造
表1に示した原料組成物を使用した以外は、応用比較例1と同様の操作を行ない、レンズ形状の重合体を得た。これらの重合体の諸物性を表1に示す。表1から、本応用比較例2の重合体はnD/ν Dが1.67/28といずれも低く、耐熱性 (94°C)は比較的良好であるが、着色が見られ透明性(81%)が低かった。本応用比較例3の重合体は、ν Dが36と比較的高く、耐候性に優れており、無色で透明性(89%)も良かったが、耐熱性 (90°C)が劣り、nDが1.70とそれほど高くなく、また、重合体は脆弱であった。
【0028】
【表1】
【0029】
(表1の略号)
T1: 2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン
T2: 2,4,6−トリス(エピチオエチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン
T3: 2,4,6−トリス(エピチオプロピルチオメチル)−1,3,5−トリチアン
CE1: ビス(エピチオメチル)スルフィド
CE2: 2,2−ビス(4−(2−グリシジルオキシ)エトキシフェニル)プロパン
CE3: シクロヘキセンオキサイド
CE4: ビス(2−アクリロキシエチル)−1,4−キシリルカルバメート
CE5: ペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート
CE6: m−キシリレンジイソシアネート
CE7: 1,3,5−トリメルカプトベンゼン
CT1: テトラ(ノルマルブチル)フォスフォニウムブロマイド
CT2: トリエチルアミン
CT3: 2,4,6−トリジメチルアミノフェノール
CT4: 三弗化ホウ素−ピリジン錯体
CT5: ジブチルスズジクロライド
【0030】
【発明の効果】
本発明のエピスルフィド化合物は、トリチアン環を中心にエピスルフィド基含有の反応性置換基が3つ結合している新規化合物であって、光学材料の原料として好適に用いられる。また、本発明の新規なエピスルフィド化合物を用いて得られる光学材料は、屈折率、アッベ数が高く、耐熱性、透明性に優れているので眼鏡レンズ、カメラレンズ等のレンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク、磁気ディスク等に用いられる記録媒体基板、着色フィルター、赤外線吸収フィルター等の光学製品を作製する材料として好適である。
Claims (5)
- 一般式 (1)で示されるエピスルフィド化合物が、2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン、2,4,6−トリス(エピチオエチルチオメチル)−1,3,5−トリチアンまたは2,4,6−トリス(エピチオプロピルチオメチル)−1,3,5−トリチアンである請求項1に記載のエピスルフィド化合物。
- 前記メルカプト基を有するエピスルフィド化合物が、3-メルカプトプロペンスルフィド、4-メルカプトブテンスルフィドまたは5-メルカプトペンテンスルフィドである請求項3に記載のエピスルフィド化合物を製造する方法。
- 一般式 (1)で示されるエピスルフィド化合物が、2,4,6−トリス(エピチオメチルチオメチル)−1,3,5−トリチアン、2,4,6−トリス(エピチオエチルチオメチル)−1,3,5−トリチアンまたは2,4,6−トリス(エピチオプロピルチオメチル)−1,3,5−トリチアンである請求項3に記載のエピスルフィド化合物を製造する方法。
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