本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、帽子の湾曲した庇に刺繍縫い等の縫製を容易に行うことができるようにしたミシンを提供しようとするものであり、そのために被縫製体を保持するのに適した保持枠を提供しようとするものである。更には、帽子の庇に限られることなく、その他の湾曲した被縫製体を保持するのに適した保持枠及びそれを用いたミシンを提供しようとするものである。
本発明の請求項1に係る保持枠は、ミシンの釜土台の周りで回動可能にかつその回動軸方向に直線移動可能に、被縫製体を保持するための、保持枠であって、円周の全周に満たない範囲で、円周の全周に満たない寸法の湾曲形状からなる被縫製体を保持する受け枠部であって、前記被縫製体の形状に適合する開口を有すると共に、前記被縫製体の複数の辺縁を所定箇所毎に保持する複数の保持部材を前記開口の周囲に備えた前記受け枠部と、該受け枠部に保持された前記被縫製体を該受け枠部に固定するための固定手段とを具備することを特徴とすることを特徴とする。
本発明によれば、保持枠における受け枠部は、円周の全周に満たない範囲で、円周の全周に満たない寸法の湾曲形状からなる被縫製体を保持するように構成されている。これにより、縫製対象である円周の全周に満たない寸法の湾曲形状からなる被縫製体、つまり、筒物でないものに適合して、該被縫製体を確実に保持できる。そして、該受け枠部に保持された前記被縫製体を該受け枠部に固定するための固定手段を具備していることにより、受け枠部に保持された被縫製体を固定し、縫い動作時に不都合なく保持枠を動かすことができる。
また、前記受け枠部は、前記被縫製体の形状に適合する開口を有すると共に、前記被縫製体の複数の辺縁を所定箇所毎に保持する複数の保持部材を前記開口の周囲に備えているので、各保持部材で囲まれる空間で該受け枠部が開口され、刺繍範囲が広く確保されることとなり、円周の全周に満たない寸法の湾曲形状からなる被縫製体の周辺部の際まで刺繍することができる。
縫製対象である湾曲した被縫製体は、典型例として、キャップ帽子の庇の構成体であり、表生地と、裏生地と、その間に挟み込まれた所定カーブで湾曲した芯材とからなる。保持枠を、刺繍データに基づいて2軸駆動(直線駆動と回転駆動)しつつ縫い動作を行うことで、該保持枠に保持された湾曲した庇の構成体に所望の刺繍縫いを行うことができる。この刺繍縫い動作を庇の構成体を仮縫いあるいは接着剤等で仮止めした状態で行えば、庇の構成体の一体化のための縫い付け作業と、装飾縫い(刺繍縫いや、特殊な糸を使った飾り縫い等)とが同時に行える。従って、工程の簡略化を図ることができる。勿論、湾曲した庇に対する刺繍縫いを自動化できるので、その点でも工程の簡略化を図ることができる。
一実施態様として、前記保持部材は、前記被縫製体の前記複数の辺縁を前記所定箇所毎に嵌合または把持することで該被縫製体を保持する。
一実施態様として、前記保持部材は、前記被縫製体の形状に合わせて前記受け枠部におけるその配置位置を調整可能である。これにより、大きき、形の異なる庇に対応できる。
一実施態様として、前記固定手段は、前記受け枠部に取り付けられたクランプ部材を含み、該クランプ部材は、前記受け枠部にセットされた前記被縫製体の縁部を把持する位置と該把持を解除する位置のいずれかに切り替え可能である。
本発明の請求項5に係る保持枠は、ミシンの釜土台の周りで回動可能にかつその回動軸方向に直線移動可能に、被縫製体を保持するための、保持枠であって、円周の全周に満たない範囲で、縫製対象である湾曲した被縫製体を保持する受け枠部と、該受け枠部に保持された前記被縫製体を該受け枠部に固定するための固定手段とを具備し、前記固定手段は、前記被縫製体を該受け枠部にロックするためのロック部材を含み、該ロック部材は、アクチュエータの駆動に応じてロック位置とアンロック位置の一方に選択的に制御されることを特徴とする。これにより、保持枠に保持した庇が外れないようにロックすることと、このロックを解除すること(アンロック)が、人手を介さずにアクチュエータの駆動により自動的に行え、作業効率がアップする。
本発明の請求項6に係る保持枠は、ミシンの釜土台の周りで回動可能にかつその回動軸方向に直線移動可能に、被縫製体を保持するための、保持枠であって、円周の全周に満たない範囲で、円周の全周に満たない寸法の湾曲形状からなる被縫製体を保持する受け枠部と、該受け枠部に保持された前記被縫製体を該受け枠部に固定するための固定手段とを具備し、前記固定手段は、前記被縫製体を該受け枠部にロックするためのロック部材と、前記受け枠部に対する前記被縫製体の固定を解除する方向に前記ロック部材を付勢する付勢手段とを含み、前記ロック部材により前記被縫製体を前記受け枠部に固定するロック位置にあっては該付勢手段の付勢力に抗してロックし、該ロックを解除するとき前記付勢手段の付勢により前記被縫製体の固定を解除する方向に前記ロック部材が動かされることを特徴とする。これにより、ロック部材によるロックを解除するとき付勢手段によりロック部材が被縫製体の固定を解除する方向に動かされるため、ロック部材を手動操作する際の手間が省け、被縫製体の受け枠部への固定と取り外しをワンタッチで簡単に行える。
一実施態様として、前記ミシンは前記釜土台の周りで回動可能かつその回動軸方向に直線移動可能な駆動環を有しており、前記保持枠は前記駆動環に対して着脱可能に装着されることにより前記ミシンに対して着脱可能である。これにより、保持枠が着脱可能であるため、例えば、少なくとも2つの保持枠を用意しておき、1つの保持枠をミシンにセットして庇に対する刺繍縫いを行っているときに、ミシンから外したもう1つの保持枠に次に刺繍縫作業する庇を取り付けておくことができ、刺繍縫いが終わったら、保持枠をミシンから外して、次に刺繍縫作業する庇を取り付け済みのでもう1つの保持枠をミシンに取り付けて、即座に次の刺繍縫作業を行うことができるので、効率がアップする。特にミシンヘッド及び釜土台(シリンダベッド)が複数基備えられた多頭ミシンにあっては効果大である。なお、このように保持枠を着脱式にする場合、ロック部材を制御する前記アクチュエータとの分離が困難な場合は、アクチュエータを採用することなく、ロック部材は手動式でロック又はロック解除するようにするとよい。
一実施態様として、前記被縫製体は、帽子の庇用の庇構成体である。この場合、前記保持枠は、前記庇構成体の庇前部を後向きにして該庇構成体を前記受け枠部にセットできるように構成してもよいし、それとは反対に、前記庇構成体の庇前部を前向きにして該庇構成体を前記受け枠部にセットできるように構成してもよい。後者の場合、前記受け枠部は、前記セットされた庇構成体の前縁部の少なくとも1箇所を保持する保持部材を含み、前記セットされた庇構成体の後縁部の両端部をそれぞれ係止するために1対のストッパを更に具備するとよい。このように庇構成体の後縁部の両端部をストッパで止めることにより、保持部材によってセットされた庇構成体の前縁部の少なくとも1箇所を保持するだけでも、該前向きにセットされた庇構成体を安定して支持することができる。
本発明に係るミシンは、上記のような保持枠を具備することを特徴とする。
以下、添付図面を参照して本発明のいくつかの実施例について詳細に説明しよう。
まず、本発明を1針単頭刺繍ミシンに適用した一実施例につき図1〜図7を参照して説明する。
図1は1針単頭刺繍ミシン全体の斜視図である。ミシンテーブル1の上面にミシンアーム2が設置されている。ミシンテーブル1は前方部が分断されていてその前側テーブル1aが所定高さだけ下方に降ろされている。ミシンアーム2の下方には上面がミシンテーブル1の上面の高さと略同一に設定されたシリンダベッド(釜土台)4が設置されている。シリンダベッド(釜土台)4の先端部の内部には、針棒との協働によって本縫いを行う回転釜が収納されており、その上面は針板9により覆われている。なお、前側テーブル1aの中央において前後に長く穿設された孔1bは、前側テーブル1aをミシンテーブル1と同じ高さにセットした際にシリンダベッド(釜土台)4を逃がすためのものである。ミシンアーム2の前端部に設けられたミシンヘッド3には1本の針棒が上下駆動可能に支持されている。
ミシンアーム2の下方にはY方向駆動体5がテーブル1上に設けられている。Y方向駆動体5はその左右両端がそれぞれミシンテーブル1の下面に設置されたY方向駆動ユニット(図示せず)のキャリアに結合されており、両駆動ユニットの駆動によってY方向(前後方向)に移動駆動されるようになっている。また、このY方向駆動体5の内部にはX方向駆動ユニットが組み込まれており、Y方向駆動体5内部においてX方向に移動可能に支持されたX方向駆動プレート6(図2参照)が、右端部に固定されたX方向駆動用モータ7の駆動により、X方向に移動駆動されるようになっている。Y方向駆動体5の略中央部下面には、縫製対象である湾曲した被縫製体を保持するための保持枠8が取り付けられている。本実施例では、縫製対象である湾曲した被縫製体は、図7(a),(b)に示すような帽子の庇構成体Vである。この庇構成体Vは、前述したように芯材が予め所定のカーブに湾曲されており、表生地と裏生地とによって該芯材を挟み込んでなるもので、図7(b)の斜視図に示すように全体として予め所定のカーブに湾曲されている。なお、例えば、表生地と裏生地とを重ねあわせて、庇の後縁部(帽子に縫いつける部分)を除く縁部が縫い合わされて、袋状とされたものの中に湾曲した芯材を入れて、該庇構成体Vが構成されている。
図2は保持枠8の部分を拡大して示す平面図であり、図3はその正面図である。また、図2のA−A線断面図つまり保持枠8を側面から見た図が図4に示されており、図2のB−B線断面図つまり保持枠8の断面図が図5に示されている。更に、図6は保持枠8の斜視図である。
図2〜図5に示すように、シリンダベッド(釜土台)4の両側に位置する1対の取付板11が、Y方向駆動体5の下面に取り付けられており、Y方向駆動体5と共にY方向に動く。この取付板11の前端に支持板12が固定され、該支持板12の前面にて駆動環10が回転可能に支持されている。支持板12の後面にはリニアガイド14が固定されており、このリニアガイド14が、シリンダベッド4の下面に固定されたリニアレール16にスライド嵌合している。これによって支持板12(及び駆動環10)は、Y方向に安定的に前後移動するが、X方向には動かない。
図3に示すように、支持板12の前面において、駆動環10の内周面に沿う所定の配置で、3つのローラ15が回転自由に取付けられている。そして、該駆動環10の内周面が該3つのローラ15によって回転自由に支持されている。詳しくは、各ローラ15の外周には突条15aが周設されており、これが駆動環10の内周に周設された溝10aに嵌合し、駆動環10が環の円周に沿って回転可能となっている。駆動環10の外周にはワイヤ17が巻き掛けられ、その両端がそれぞれX方向駆動ユニットのX方向駆動プレート6に対して1対の固定部材18を介して連結されている。したがって、X方向駆動用モータ7の駆動によってX方向駆動プレート6がX方向に移動すると、これに応じて駆動環10がワイヤ17を介して回転駆動される。本実施形態の保持枠8は、駆動環10の前端に複数のボルト20により取り付けている。これにより、駆動環10のX方向駆動に応じた回転運動とY方向駆動に応じたこの回転軸に沿う直線運動とに伴い、保持枠8が回動し、またY方向に直線運動する。
保持枠8は、全体的に円筒状をなす受け枠部27と該受け枠部27に取り付けられた保持部材21a,21b,21cとで構成され、更に、押え部材28(すなわちロック部材)を含んでいる。すなわち、保持枠8の主要部は受け枠部27で構成されており、該受け枠部27が複数のボルト20により上記駆動環10に取り付けられることで、該保持枠8が駆動環10に取り付けられている。受け枠部27は、全体的に円筒状をなしてはいるが、完全な円筒ではなく、円筒の側周面の一部が比較的大きく取り除かれて開口部が形成されている。この開口部をカバーするように縫製対象である構成体Vが該受け枠部27にセットされ、次に説明するように該受け枠部27の3か所に設けられた保持部材21a,21b,21cに嵌合して保持される。この開口部は、受け枠部27にセットされた縫製対象である構成体Vに対する、ミシンヘッド2からシリンダベッド4内の釜に向けて繰り出される針の通過を許すためのものである。よって、この開口部の広がりは該受け枠部27にセットされた被縫製構成体Vに対する刺繍可能範囲を規定している。故に、この開口部が該受け枠部27に保持される被縫製構成体Vつまり庇の形状に略沿った形状となっていると、刺繍可能範囲を広くとることができ、庇の可及的広範囲に刺繍を施すことができるようになるので、好ましい。
受け枠部27においては、この開口部の周縁部に3つの保持部材21a,21b,21cが設けられている。これらの保持部材21a,21b,21cの受け枠部27に対する取付位置は後述するように調整可能となっている。1つの保持部材21aは受け枠部27の開口部の前端中央部に、他の2つの保持部材21b,21cは該開口部の左右対称位置にそれぞれ配置されている。
図6あるいは図2等に示すように、各保持部材21a〜21cは、受け枠部27への取付部となる基板22とこれを両側から挟むようにして取り付けられた1対のガイド板23とで構成されている。この1対のガイド板23の間に出来た溝が、庇の構成体Vの辺縁部を嵌合して保持する嵌合溝125となる。
図7(a)は、表生地、裏生地、芯材からなる庇の構成体Vの平面図である。同図に示すように、湾曲した庇構成体Vを受け枠部27にセットしたとき、庇の前縁部が前縁の保持部材21aの嵌合溝125に嵌合し、庇の左右縁部が左右縁の保持部材21b,21cの嵌合溝125にそれぞれ嵌合するようになっている。基板22の端縁が嵌合溝125の底をなしている。嵌合溝125に嵌合した庇構成体Vは、該溝125の両側壁をなす1対のガイド板23と、底をなす基板22の端縁とにより、3方向の動きが係止されることで、受け枠部27に移動不能に保持される。
左右1対の保持部材21b,21cの各々においては、その基板22にボルト取付け用の長孔H(図4〜図6参照)が2箇所で形成されており、該長孔Hに通したボルト24を受け枠部27のネジ孔に螺着することで、該保持部材21b,21cを受け枠部27に取り付けるようになっており、その際に、ボルト24を弛めた状態で長孔Hに沿って保持部材21b,21cを適宜動かすことによって受け枠部27に対する該保持部材21b,21cの配置(取付け位置)を調整することができるようになっている。長孔Hの長さ方向は、駆動環10の円周方向つまり受け枠部27の回動方向に沿っており、両保持部材21b,21cは受け枠部27に対してその周方向にそれぞれの配置位置を調整可能となっている。これにより、縫製対象である庇構成体Vの横方向のサイズ(図7(a)のx)に適合するように左右1対の保持部材21b,21cの配置を調整し、該構成体Vを受け枠部27においてしっかりと保持することができる。なお、この実施例では、庇構成体Vの前縁部を保持する保持部材21aの配置は、所定位置に固定され、調整不可となっている。これは、庇構成体Vの前縁部を、保持部材21aの嵌合溝125内に嵌合させてその底に押し付けた状態でセットし、その後縁部を押えアーム25の先端の押え部材28(ロック部材)で押え付けてロックすることで、庇構成体Vの前後に関するガタツキが出ないようにすることができるからである。しかし、これに限定されることなく、必要に応じて、前縁部を保持する保持部材21aの受け枠部27に対する配置も調整できるようにしてもよい。
上述した3箇所の保持部材21a〜21cによって、受け枠部27にセットされた被縫製構成体Vの左右回動方向の動きに対しては、左右1対の保持部材21b,21cによって動かないようにしっかりと保持され、回動軸に沿う直線方向の一方の動き(テーブル1の後方に向かう動き)に対しては、構成体Vの前縁部を保持する保持部材21aによって係止されてしっかりと保持される。また、被縫製構成体Vの面に垂直な上下方向の動きに対しては、各保持部材21a〜21cによってがたつかないようにしっかりと保持される。
さらに、受け枠部27には、押えアーム25が軸26に枢支されて揺動可能に配置されている。この押えアーム25とその先端部分に取り付けられた押え部材28とが、受け枠部27に保持された被縫製構成体Vを該受け枠部27に固定するための固定手段として機能する。受け枠部27において、前縁部の保持部材21aに向き合う箇所に、支承面27aが形成されており、該支承面27aの上方に押えアーム25の先端部分の押え部材28(すなわちロック部材)が位置する。この押え部材28は押えアーム25に設けた長孔によって前後方向(受け枠部27の軸方向)の位置調整が可能に取り付けられている。この位置調整の仕組みは、前述した保持部材21b,21cの位置調整の仕組みと同じであってよいため、詳細説明は省略する。これにより、縫製対象である庇構成体Vの前後方向のサイズ(図7(a)のy)に適合するように押え部材28の配置を調整し、該構成体Vを受け枠部27においてしっかりと保持することができる。
図4及び図5に示すように、受け枠部27の外側には開口部の反対側にエアシリンダのようなアクチュエータ31が配置され、その基端が駆動環10に揺動可能に連結されている。アクチュエータ31の駆動ロッド32の先端が、押えアーム25に一体に連結された駆動アーム部分30に軸支されている。例えば、アクチュエータ31であるエアシリンダは図示しない方向切り替え弁を介して図示しないエア圧送源に接続されており、ミシン操作者の足元に設置された図示しないフットスイッチを押すたびに、アクチュエータ31のロッド32の突出動と後退動が交互に作動する。ロッド32を突出させると、押えアーム25の駆動アーム部分30が軸26の回りで図4で時計方向に回動し、これに伴い、押えアーム25の先端の押え部材28が支承面27aの方向に下向きに動き、押えアーム25は全体として図4に実線で示す姿勢となる。これにより、押え部材28が受け枠部27に保持された庇構成体Vを、支承面27aの箇所で、上から押え付けて、押え部材28と支承面27aとの間で挟み込んで、固定する(ロックする)。一方、ロッド32が後退すると、押えアーム25の駆動アーム部分30が軸26の回りで図4で反時計方向に回動し、押えアーム25が図4に想像線で示す姿勢となって、庇構成体Vのロックが解除される。
縫製対象たる庇構成体Vを受け枠部27にセットするに際しては、庇構成体Vの前縁部中央を保持部材21aの嵌合溝125に嵌入させるとともに、左右両側の縁部をそれぞれ保持部材21b,21cの嵌合溝125に嵌入させる。そして、フットスイッチのオンによって押えアーム25を図4の時計方向に回動させ、その先端の押え部材28により庇構成体Vの後縁部の凹んだ中央部を押え付ける。押え部材28の詳細は、図5に示すように、受け枠部27に保持された庇構成体Vを上から押え付けるための突当て片28aと、先端縁より少し突出した案内片28bとで構成されており、主に、突当て片28aによる押え付けによって受け枠部27に保持された庇構成体Vの固定(ロック)がなされる。こうして、受け枠部27に保持された庇構成体Vは、ばたつきを生じないように受け枠部27に対して確実に保持・装着される。
なお、図7(c)には、表生地Vaと裏生地Vbとの間に芯材Vcを有する庇構成体Vを、押え部材28によって押え付けてロックした状態を例示する拡大断面図が示されている。図示のように、表生地Vaと裏生地Vbの後縁端はその間に挟み込まれた芯材Vcの後縁端よりも適量長くなっており、押え部材28の突当て片28aは、芯材Vcの後縁端を係止するように、表生地Vaと裏生地Vbのみからなる箇所を上から押え付ける。そのために、押え部材28の突当て片28aは、芯材Vcの厚みに略対応する厚みを有する。勿論、突当て片28aよりも少し突出している案内片28bにより、芯材Vcを含む部分を上から適宜押え付けることができる。
このように、庇構成体Vを受け枠部27に保持するに際して、保持部材21a〜21cと押え部材28(ロック部材)により該庇構成体Vの周縁部のごくわずかな部分を保持するだけでよいため、庇構成体Vの他の部分は全て刺繍縫いの対象とすることができる。つまり、前述の通り、受け枠部27における保持部材21a〜21cと押え部材28以外の範囲は、できるだけ開口部となるように、開口部を広く形成することができ、刺繍範囲を広く確保することができる。
なお、刺繍縫いその他の縫い動作を行うときは、針の上下動に同期して、所望の縫いパターンに応じてX方向駆動ユニット及びY方向駆動ユニットを駆動して駆動環10すなわち保持枠8を回動させると共に軸方向に直線移動させることで、保持枠8に保持された庇構成体Vに対して該所望の縫いパターンが縫い上げられるようにする。
押え部材28は、アクチュエータ31でロック/アンロック制御する例に限らず、手動操作でロック/アンロック制御するようにしてもよい。その場合の実施例を図8〜図10により説明する。
図8の平面図及び図9の側面図に示すように、受け枠部27の上面に固定されたガイド部材40によってスライダ41が前後方向のスライド可能に支持されており、その先端に押え部材28が固定されている。スライダ41はガイド部材40の端面との間に装着されたコイルバネ43の弾撥力によって手前方向(保持部材21aから離間する方向)に付勢されている。スライダ41の上面にはラチェットギヤ41aが形成されている。そしてその上方にて軸支されたラチェットレバー44は、その先端の爪44aがラチェットギヤ41aに係合する方向に図示しない捩じりばねにより付勢されている。このように、図8〜図10に示す第2の実施例においては、受け枠部27に保持された被縫製構成体Vを固定するための固定手段が、押え部材28を手動操作するためのスライダ41とラチェット機構とコイルバネ43などによって構成されている。
庇構成体Vのロックの際には、スライダ41の端部の操作部41bを押して、押え部材28が構成体Vに当接するまでスライドさせ、その位置でラチェットギヤ41aに爪44aが係合することでその位置でロック完了となる(図10(b))。ロック解除の際はラチェットレバー44の押圧部44bを押せばラチェットが外れ、コイルバネ43の弾撥力によってスライダ41が手前にスライドし、ロックが解除される(図10(a))。このように、ロック解除時にはラチェットレバー44を押圧するワンタッチ操作を行うだけで、圧縮状態となっていたコイルバネ43の伸張復元力により、即座に、スライダ41が手前にスライドさせられ、これに伴い、押え部材28がロック解除する方向に自動的にスライドされる。従って、ロック/ロック解除の手動操作を楽にかつワンタッチで速やかに行うことができる。
図11〜図14は、保持枠8によって囲まれた略円筒状空間内に円弧状に湾曲した受け板201を挿入・配置した実施例を示すもので、図11は平面図、図12は正面図である。図13及び図14は受け板201に関連する構成を抽出して示す平面図及び正面図である。受け板201に関連する構成以外は、図8〜図10と同様であるため、受け板201に関連する構成についてのみ説明する。
図13及び図14に示すように、支持板12の前面に2本のステー200が取り付けられ、このステー200の先端上面にかまぼこ型に湾曲した受け板201が取り付けられている。受け板201には取付孔204が設けられており、この取付孔204にねじ202を通してステー200の先端上面に螺合することで、受け板201が固定されている。受け板201の中央部には前後に細長い透孔203が形成されている。この透孔203は、シリンダベッド4(釜土台)内に設けられた釜の位置に対応しており、上方のミシンヘッド3から針板9の針孔205に出入りするミシン針の通過を許すものである。
図11及び図12に見られるように、受け板201は、保持枠8の受け枠部27内の略円筒状空間内に挿入されており、上述のように支持板12に固定されているので、該保持枠8つまり受け枠部27と共に直線移動可能であるが一緒には回動しないようになっている。この受け板201の上面は、受け枠部27にセットされた庇構成体Vにはほとんど接触することがなく、針が刺し込まれるときに庇構成体Vの一部が触れることがあるかもしれないにしても、庇構成体Vを支承することを目的とするものではない。むしろ、受け板201によって受け枠部27の開口部を下方でカバーすることにより、庇構成体Vを保持枠8にセットする際にその比較的大きな開口部から庇構成体Vが抜け落ちるのを防止し、庇構成体Vの取付け作業に便ならしめる役割を果たすものである。
上記各実施例では、保持枠8は駆動環10に対して複数のボルト20を介して容易には取外しできないように固定されているが、これに限らず、保持枠8を着脱自在に取り付けるようにしてもよい。また、複数のミシンヘッド3を有する多頭ミシンに本発明を適用してもよい。また、湾曲した庇構成体Vへの刺繍(縫製)専用に特化されたミシンとして構成する場合に限らず、被縫製物を取り付けて動かすための駆動枠体を種々のタイプの駆動枠体のうちのいずれかに任意に取り替えることのできる多用途タイプのミシンにおいても本発明を適用することができる。図15乃至図17に示す実施例は、このような種々の変形例を適用してなるもの、すなわち、本発明を多頭ミシンに適用した例、及び保持枠8を着脱自在に取り付けるようにした例、及び駆動枠体の取替えを可能にした例を示すものであり、図15は平面図、図16は図15のC−C線断面図である。なお、図15乃至図17に示す実施例では、これらの変形例を一緒に実施した例を示しているが、これに限らず、これらの変形例を適宜択一的に採用してもよいのは勿論である。
図15は、図示しない複数(4個)のミシンヘッドの各々に対応して、X方向に所定間隔を空けて4基のシリンダベッド(釜土台)104を設置してなる4頭立て刺繍ミシンにおいて、本発明実施例に係る枠駆動ユニット100を取付け、さらに該枠駆動ユニット100に設置された4基の各駆動環107にそれぞれ保持枠118をセットした状態を示している。
各シリンダベッド104を横切る方向に長尺のY方向駆動体105が延びており、これは前述のY方向駆動体5と同様にミシンテーブル101上でY方向に(前後に)直線駆動される。また、図16に示すように、Y方向駆動体105の内部でX方向にスライド駆動されるX方向スライド体106が設けられている。
図16に示すように、前述の支持板12と同様の支持板108が各シリンダベッド104毎に設けられ、各支持板108には前述の駆動環10と同様の駆動環107が前述と同様に回転自在にそれぞれ取り付けられている。前述の支持板12が1対の取付板11に取付けられているのと同様に、各支持板108は1対の取付板111にそれぞれ取付けられている。これら各支持板108毎のつまり各駆動環107毎の1対の取付板111は、X方向に長尺な1つの連結板110に連結されている。この連結板110の上面には、同じくX方向に長尺な1つの駆動板112がX方向にスライド可能に係合している。そして、前述のワイヤ17と同様に、各駆動環107に巻回されたワイヤの両端がそれぞれ駆動板112の前縁に連結されており、駆動板112のX方向の直線移動に応じて各駆動環107が回動される。前記保持枠8と同様に被縫製体つまり庇構成体Vを保持するための保持枠118が、各駆動環107に対してそれぞれ着脱自由に取り付けられるようになっている。そして、連結板110はY方向駆動体105の基部にネジ115の締め付けによって固定され、駆動板112はX方向スライド体106に対してネジ116の締め付けによって固定される。よつて、X方向スライド体106がX方向に直線移動するとき、連結板110及びそこに固定された各支持板108は動かず、駆動板112がX方向に直線移動してこれに応じて各駆動環107及びそこに取り付けられた各保持枠118が回動される。また、Y方向駆動体105がY方向に直線移動するときは、シリンダベッド104を除き、図15,図16に示された各要素(駆動環107及び保持枠118を含む)がY方向に直線移動する。
各駆動環107においては、その上部二箇所にロック機構121がそれぞれ設けられており、対応する保持枠118を該二箇所のロック機構121を介して装着する。保持枠118の基部にはリテーナ部120が固定的に形成されており、保持枠118を駆動環107に装着する時はリテーナ部120を人手で把持して駆動環107に押し込むと、保持枠118の基部若しくはリテーナ部120に設けられた図示しないロック部材がロック機構121に係合してロックされ、こうして保持枠118が駆動環107に固定される。保持枠118を駆動環107から取り外すときは、両側のロック機構121のリリースレバー122を押下げることで、ロック解除し、バネ部材123の弾力により保持枠118をポンと前に押出し、簡単に取り外せるようになっている。なお、ロック機構121それ自体は公知のこの種のロック機構を用いてよいため、その詳細説明は省略する。
各保持枠118の構成は、前述した保持枠8と略同様の構成であってよいが、多頭式にあっては全体の重量が増すため、駆動源にかかる負荷が増す、そこで重量軽減のために、図16に示されるように、保持枠118を構成する受け枠部127の開口部の反対側(つまり下側)を大きく切欠くのがよい。勿論、このような反対側(つまり下側)の大きな切欠きは、前述の実施例における受け枠部27においても設けてもよい。また、受け枠部127に保持する庇構成体Vをロックするための押え部材28(ロック部材)は、図8〜図10に示した実施例と同様に、バネ付勢されたスライダ41とラチェット機構及びラチェットレバー44などから構成される手動操作式のものを用いるとよい。アクチュエータ31を用いると保持枠118の着脱構造が複雑化するからである。なお、図16に示す例では、受け枠部127の開口部の左右辺縁部に設ける保持部材(図2その他における21b,21c)は、1辺につき2個の保持部材21b1,21b2を設けている。このように1辺につき2分割した保持部材21b1,21b2を用いると、被縫製体すなわち庇構成体Vの形状の変化に適合させ易いという利点がある。
図17は、4基の駆動環107を上記支持板108及び取付板111を介して連結してなる連結板110及びそれにスライド係合する駆動板112からなる枠駆動ユニット100を、ミシン本体から取り外した状態を示しており、また、各駆動環107から保持枠118を取り外した状態を示している。この枠駆動ユニット100をミシンに着脱するときは、図17に示すようにすべての駆動環107から保持枠118を取り外した状態で、その着脱作業を行うのがやり易い。かかるユニット100をミシンに取り付けるときは、各駆動環107に各シリンダベッド104を嵌入するようにして連結板110をシリンダベッド104の上に置き、Y方向駆動体105の下面にネジ115(図16参照)の締め付けによって固定する。次に、上部の駆動板112をY方向駆動体105のX方向スライド体106に対してネジ116(図16参照)で締め付けることによって固定する。そして、それぞれ予め被縫製体すなわち庇構成体Vをセットした保持枠118を各駆動環107に嵌め込み、ロック機構121を介して固定する。
このように保持枠118は駆動環107に対して着脱可能になっているため次のように効率的な作業が行える。各駆動環107にセットされた保持枠118に保持されている庇構成体Vに対して刺繍縫いを施している間に、別の保持枠118に次に刺繍すべき庇構成体Vを装着しておく。刺繍が完了したら各保持枠118を駆動環107から取り外し、庇構成体Vを既に装着してある前記別の保持枠118を駆動環107にセットし、該駆動環107にセットされた保持枠118に保持されている庇構成体Vに対して即座に次の刺繍縫い作業を行う。この刺繍が実行されている間に、さきほど駆動環107から取り外した保持枠118に保持されている刺繍済みの庇構成体Vを取り外して、未刺繍の庇構成体Vと入れ替えておく。このように保持枠118を交換してゆくことで極めて効率良く刺繍作業を進めることができる。
なお、ミシンを通常の平刺繍や、帽子や袋物等の筒物への刺繍など、他の用途に使用する場合は、各保持枠118を各駆動環107から取り外し、前述のネジ115,116を外して、複数の駆動環107を支持板108及び取付板111を介して連結してなる連結板110及びそれにスライド係合する駆動板112からなる枠駆動ユニット100を、ミシンから取り外す。そして、その代わりに、通常の平刺繍用の枠ユニットや、帽子や袋物等の筒物刺繍枠ユニットなど、目的の機能の枠ユニットをミシンに取付け、前述のネジ115,116等を介して締め付け固定する。つまり、各種の機能の枠ユニットは、前述のネジ115,116等を介して同じ箇所で締め付け固定されるようになっていることで、交換可能となっている。
なお、各実施例において、受け枠部27,127に設ける保持部材21a,21b,21c,21b1,21b2の嵌合溝125の底をバネ付勢により常時突出しうるようにしておくとよい。そうすれば、嵌合溝125に嵌め込まれる被縫製構成体Vのサイズが多少変化しても、バネ付勢により嵌合溝125の底が被縫製構成体Vの縁に常時当接するように自動調整されることになり、便利である。
なお、本発明は、帽子の庇に限らず、予め湾曲した形状を持ち、かつ、駆動環に取り付けられた保持枠8又は118の円周の全周に満たない範囲のサイズからなる、その他各種の被縫製体に対する刺繍縫いや飾り縫い、その他の縫い作業のためにも応用できる。また、その場合、被縫製体は必ずしも複数枚の生地又は芯材とで構成されていなければならないわけではなく、1枚の素材からなっていてもよい。
なお、受け枠部27,127に設ける保持部材21a,21b,21c,21b1,21b2とロック部材28の構造若しくは構成は、上記実施例に示したものに限らず、要は、被縫製構成体を受け枠部に保持し固定することのできる構造若しくは構成であれば、如何なるものであってよい。
例えば、上記実施例では、受け枠部27,127に設ける保持部材21a,21b,21c,21b1,21b2とロック部材28は、異なる構造からなっているが、これらは実質的に同様な構造からなっていても差し支えない。例えば、ロック部材28を、保持部材21b又は21cと同様の構造からなる可動式の嵌合溝125を形成する部材で構成してもよい。その場合は、ロック部材28に相当する可動式の保持部材(嵌合溝形成部材)の可動範囲を比較的大きくとっておくとよい。そして、被縫製構成体Vを受け枠部27にセットするときは、ロック部材28に相当する可動式の保持部材(嵌合溝形成部材)を比較的大きく後退させておき、被縫製構成体Vの前縁部及び左右側縁部を保持部材21a〜21cの嵌合溝125に嵌合して該被縫製構成体Vを受け枠部27に保持させ、最後に、ロック部材28に相当する可動式の保持部材(嵌合溝形成部材)を被縫製構成体Vの方に前進させてその嵌合溝内に被縫製構成体Vの縁部を嵌めこみ、該可動式の保持部材(嵌合溝形成部材)をねじ締めして固定すればよい。この場合、多少操作が面倒であり、また、固定する力が十分発揮されるとは限らないが、固定手段としての役割を果たすので、本発明の範囲に含まれる。
上記各実施例においては、保持枠(8,118)において被縫製体Vである帽子の庇を後向きにセットするように、該保持枠(8,118)が、受け枠部(27,127)、保持部材(21a〜21c)、押え部材(28)等を含んで構成されているが、これに限らず、被縫製体Vである帽子の庇を前向きにセットするように該保持枠(8,118)の受け枠部等の構成を変更してもよい。そのように帽子の庇(庇構成体V)を前向きにセットするように構成した保持枠8Aの実施例につき図18〜図22を参照して説明する。図18はそのような保持枠8Aの一構成例を示す平面図、図19はその正面図、図20は図19と同様の正面図を動作状態を説明するために部分的に示す図である。また、図21と図22は該保持枠8Aの側面図をそれぞれ異なる動作状態に関して示している。
図18に示すように、保持枠8Aの主要部を構成する受け枠部301は、上記各実施例と同様に前記駆動環10(又は107)に取り付けられる。なお、保持枠8Aを駆動環10(又は107)に対して着脱容易に構成する場合は、例えば前述の図16の実施例と同様な取付構造とされるが、この点については図18〜図22においては示していない。しかし、図18〜図22の例をそのように設計変更することは図16等を参照して既に説明した事項から容易に実施できるであろう。また、上記各実施例と同様に、駆動環10(又は107)は、取付板11(又は111)を具えた支持板12(又は108)に取り付けられる。この支持板12(又は108)により先の構造及び保持枠8Aを駆動するための機構は、既に説明した各実施例と同様であるため、図18〜図22では図示を省略する。
図18、19、21、22に示すように、受け枠部301は円筒形で、その先端は斜状に形成してある。受け枠部301には、上方部に開口部が形成してあるとともに、下方部には軽量のための抜き穴が形成してある。受け枠部301の開口部の奥側中央部には保持部材302が固定してある。保持部材302は、開口部に延出する部分にて、受け枠部301に対して庇の前部を前向きにしてセットした庇構成体Vの根元(後部)中央の部分を押えるものであり、これにより該セットした庇構成体Vの浮き上がりを防止するものである。
受け枠部301の両側方には、庇構成体Vの側方部をそれぞれ2か所で把持するために、2つのクランプ機構303a、303bがそれぞれ設けてある。各側毎のクランプ機構303a、303bは同一構成であるため、便宜上、同一符号を付し、一側に設けられるクランプ機構303a、303bのみにつき説明する。また、一側に設けられる各クランプ機構303a、303bは、具体的形状は幾分異なるにしても略同様な構成であるため、便宜上、手前寄りのクランプ機構303aについてのみ詳しく説明する。クランプ機構303aは、受け枠部301に位置調整可能に固定された基板304aを有し、基板304aの先端部にはガイド板305aが固定してある。基板304aには支持部材306aが固定してある。支持部材306aには、ガイド板305aとで庇構成体Vの側方部を挟持する挟持片307aを備えたクランプ部材308aがシャフト309aによって回動自由に軸支してある。シャフト309aにはトーションバネ310aが設けてあり、クランプ部材308aは挟持片307aがガイド板305aに当接する回動方向に付勢されている。クランプ部材308aにはワイヤ312の一端が連結してあり、後述するロックレバー316の操作によってワイヤ312が動かされることにより、クランプ部材308aがトーションバネ310aの付勢力に抗して挟持片307aがガイド板305aから離間する方向に回動されるようになっている。なお、前寄りのクランプ機構303aは庇構成体Vの形状(庇の前部の形状)に対応するように、基板304a、ガイド板305a、挟持片307aの先端部が斜状に形成してある。また、後側のクランプ機構303bのガイド板305bには庇構成体Vの根元部の両端の位置を決める(あるいはガイドする)ストッパ311がそれぞれ設けてある。
各クランプ機構303a、303b毎に設けられたワイヤ312(合計で4本)の他端は受け枠部301の下方部に設けた摺動部材313の腕部に連結してある。摺動部材313にはロッド314が嵌挿してあり、摺動部材313はロッド314に沿った摺動が可能となっている。ロッド314は受け枠部301に固定部材315を介して設けてある。固定部材315には、ロックレバー316がパチン錠式に二位置に切り替え可能に設置されている。ロックレバー316のリンク・アーム316aは摺動部材313に固定された係合部材317の係合凹部に係合してある。これにより、図21に示すようにロックレバー316を奥側へ起こした状態では、摺動部材313は奥側に位置しており、クランプ機構303a、303bのクランプ部材308a、308bは、トーションバネ310a、310bの付勢によって、図19に示すように挟持片307a、307bがガイド板305a、305bとで庇構成体Vを挟持する位置つまりクランプ位置に位置する。一方、図22に示すようにロックレバー316を手前側へ寝かした状態にすると、ロックレバーのリンク・アーム316aに引張られて摺動部材313が手前に移動し、トーションバネ310a、310bの付勢力に抗してワイヤ312が引かれてクランプ部材308a、308bが図20に示す状態に回動され、クランプが解かれる(アンクランプ位置となる)。この状態では、トーションバネ310a、310bの付勢力によりワイヤ312を戻そうとする方向に力が作用しても、その方向の動きに対してはロックレバー316がロックされた状態となるので、動かず、アンクランプ位置が保持される。他方、人手により、ロックレバー316を、前述のように奥側へ起こすように回動させれば、容易にロックが解除され、前述のクランプ位置に切り替えることができる。
受け枠部301の上面には、ガイド部材318によって前後方向にスライド可能に支持されたスライダ319が設けてあり、スライダ319の先端には押えアーム320が固定してある。スライダ319はガイド部材318の端部との間に設けたコイルバネ321によって手前方向に付勢されている。スライダ319の上面にはラチェットギヤ322が設けてあり、その上方に軸支したラチェットレバー323の先端がラチェットギヤ322に係合するようになっている。ガイド部材318の上面に固定したバネ部材324は、ラチェットレバー323の先端をラチェットギヤ322に係合する方向に付勢するためのものである。押えアーム320の左右端付近にはピン325がそれぞれ立設してあり、ピン325には押え皿326が上下動自由に設けてある。押え皿326は押えアーム320のガイド部320aとで庇構成体Vの先端(庇の前部の先端)を挟持するもので、押え皿326は図示しないコイルバネによって下向きに付勢されている。図22では、押えアーム320が手前寄りに位置している状態を示し、一方、図21では、押えアーム320がそれよりも奥に位置している状態を示す。受け枠部301にセットされた庇構成体Vを保持するために、押えアーム320を図22の位置から図21の位置へスライドさせるときは、両ピン325の上方部を指で奥側へ押す。これにより、押えアーム320がスライダ319とともに、ラチェットギヤ322とラチェットレバー323の先端との係合位置を移しながらスライドされることとなる。一方、押えアーム320を図21の位置から図22の位置へ戻すときは、ラチェットレバー323を回動して、その先端とラチェットギヤ322との係合を解除させる。これにより、スライダ319がコイルバネ321に引っ張られて、押えアーム320とともに図22の位置へと戻ることとなる。
図18〜図22に示す保持枠8Aの受け枠部301に庇構成体Vをセットするには次の手順で行えばよい。まず、図22に示すように、ロックレバー316を手前側に寝かしてアンクランプ位置とし、各クランプ機構303a、303bのクランプ部材308a、308bを開放位置(図20に示す状態)に設定するとともに、ラチェットレバー323を回動して押えアーム320を手前に戻した状態にする。次に、庇構成体Vを受け枠部301の開口部にセットする。このとき、庇構成体Vの根元中央の部分を保持部材302の下に差し入れるとともに、庇構成体Vの根元部の両端を後側のクランプ機構303bのストッパ311に当接させた状態にセットする。このように庇構成体Vの根元部の両端を、両側のストッパ311にそれぞれ当接させることよって、前向きにセットする庇構成体Vを傾きなくセットできることとなる。次に、押えアーム320を奥寄りにスライドさせて、押えアーム320のガイド部320aと押え皿326との間で庇構成体Vの先端を挟持するようにする。それから、ロックレバー316を奥側へ起こしてクランプ位置とし、これに従ってクランプ機構303a、303bのクランプ部材308a、308bを回動させてクランプ部材308a、308bの挟持片307a、307bとガイド板305a、305bとの間で庇構成体Vの両側方部を挟持する。これにより、図21に示すように保持枠8Aに庇構成体Vがしっかりと保持されることとなる。
このように、図18〜図22に示す実施例によれば、帽子の庇からなる庇構成体Vをセットする向きを前向きとして、庇構成体Vの根元部の両端を位置決めするストッパ311を設けたため、庇構成体Vの根元部の両端を各ストッパ311に当接させてセットすることによって、前向きにセットする庇構成体Vを傾きなく容易にセットできることとなる。さらに、庇構成体Vの前部先端を挟持するために押えアーム320をスライドさせるときにも、庇構成体Vの根元部の両端がストッパ311に当接する方向への力が加わるために、不用意に庇構成体Vが傾くことがない、という利点がある。
なお、図18〜図22に示す実施例において、クランプ部材308a、308bを回動させる摺動部材313の移動をロックレバー316の手動操作にて行ったが、エアシリンダなどの駆動源を設けて摺動部材313を自動で駆動するようにしてもよい。同様に、押えアーム320(スライダ319)のスライドをエアシリンダなどの駆動源にて自動でスライド駆動させるようにしてもよい。
ところで、図18〜図22に示す実施例において、駆動環10の内周面を支持する3つのローラ15a〜15c(図19)は、図3等に示されるローラ15と同様の機能を果たすものであるが、この実施例では、そのうち上側2つのローラ15a,15bが図3等に示されるローラ15とは異なり、前方に長く延びた形状となっていて、その先端付近のローラ部にて受け枠部301の内周面を支持して受け枠部301の回転を案内するようになっている(図18)。これにより、受け枠部301の回転がより安定されるようになる、という利点がある。
なお、図18〜図22に示す実施例に従って構成される又はそれを基にして適宜変形して構成される保持枠8Aは、帽子の庇からなる庇構成体Vに適用する場合に限らず、その他適宜の被縫製構成体Vに対しても適宜適用可能であるのは勿論である。
以上説明したように、本発明によれば、保持枠における受け枠部は、円周の全周に満たない範囲で、縫製対象である湾曲した被縫製体を保持するように構成されているので、湾曲した被縫製体が完全な筒状物でないものであってもその形状に適合して、該被縫製体を確実に保持できる。また、該受け枠部に保持された前記被縫製体を該受け枠部に固定するためのロック部材を具備することにより、受け枠部に保持された被縫製体をロックし、縫い動作時に不都合なく保持枠を動かすことができる。また、縫い作業工程の簡略化又は効率化を図ることができる。更に、本発明及び/又は実施例によれば、上述したような種々の利点を有する。