JP4064315B2 - 誘導結合プラズマトーチ及び元素分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘導結合プラズマトーチ、及び元素分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機化合物、珪素樹脂、酸化ビスマス、酸化アンチモン等を成分として含有する、モールディングコンパウンドやシリコン基板封止材等の電子材料が、デバイス製造において良く用いられている。そして、これらの材料に含有される不純物が、デバイスの動作、性能に影響を与えることが知られている。このことは、デバイス製造の歩留りや製品の信頼性にも関わることであり、デバイスの製造工程においては、材料に含有される不純物の低減が求められている。特に、半導体素子は、近年の集積度の向上にともない、材料に含有される不純物の低減が強く求められている。
【0003】
そこで、デバイス製造に用いられるこれらの材料を、例えば誘導結合プラズマ法(以下、ICP法とする場合がある。)やフレームレス原子吸光法等の元素分析方法により分析し、材料中の不純物含有量を管理することが重要となっている。
【0004】
このICP法やフレームレス原子吸光法等の元素分析方法による分析の場合、分析前に、デバイス製造に用いられる材料などの試料を、分析が可能な溶液にする必要がある。特に、試料中の不純物元素を分析する場合には、主成分である有機化合物や珪素樹脂等を取り除くための前処理をするのが一般的である。
【0005】
例えば、従来は、試料中から有機化合物等の主成分を除去するために、白金製容器又は石英製容器中で700℃以上の高温に加熱して試料を灰化し、そして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製容器に移し替えて硝酸溶液に溶かすといった前処理を行い、その後、元素分析を行っていた。
【0006】
しかし、このような従来の元素分析前の前処理には以下のような問題点がある。
石英製容器は耐熱性に優れるが、耐酸性に劣り、一方、PTFE製容器は、耐酸性に優れるが、耐熱性に劣る。そのため、従来は、上記のように加熱処理と、酸溶解処理とで異なる容器を用いる必要があった。しかし、容器の移し替えには時間がかかり、また、移し替えの際には不純物混入のリスクがあるという問題があった。特に、有機化合物、珪素樹脂、酸化ビスマス、酸化アンチモン等の成分を複数含む材料を前処理する場合、非常に多くの元素分析前処理用容器を用いることとなり、不純物混入のリスクが非常に高くなる上に、作業が非常に煩雑になるという問題があった。
【0007】
また、分析のバックグランドをそろえるために元素分析前処理用容器は入念に洗浄する必要がある。したがって、従来のように前処理で複数の容器を用いる場合には、容器の洗浄のために、多大な労力及び時間が必要となるという問題があった。
【0008】
さらに、白金製容器を用いた場合では、白金製容器中に存在する不純物元素が分析試料に混入し、その影響により分析結果にバラツキが発生し、精密な元素分析を確実に行うことができないという問題があった。
【0009】
一方、前処理後の元素分析、特にICP法による元素分析においても、以下のような問題点がある。
すなわち、ICP法による元素分析装置においては、誘導結合プラズマトーチのノズルから、分析中に、不純物が混入すると、その影響により、分析結果にバラツキが発生し、精密な元素分析を確実に行うことができないという問題がある。
【0010】
また、ICP法による元素分析装置においては、通常、誘導結合プラズマトーチのノズルとして、石英製のノズルが用いられる(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、ノズルが石英製であると、耐酸性に劣るため耐久性に問題があった。特に、誘導結合プラズマトーチのノズルが石英製であると、シリコン元素の精密な分析が困難であるという問題があった。
【0011】
【非特許文献1】
ヴァンデカステーレ(C.Vandecasteele)・他1名共著、原口・他3名共訳「微量元素分析の実際」,丸善株式会社,平成7年9月20日発行,p.126−127
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、元素分析前処理用容器であって、耐熱性と、耐酸性等の耐薬品性に優れ、かつ高純度な元素分析前処理用容器、及びこれを用いた元素分析方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、ICP法による分析装置で用いられる誘導結合プラズマトーチであって、精密な元素分析を可能とし、かつ耐久性に優れる誘導結合プラズマトーチ、及びこれを具備するICP法による元素分析装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、元素分析の前処理で使用される容器であって、該容器が、化学気相成長(CVD)法によって製造されたセラミック容器であることを特徴とする元素分析前処理用容器を提供する。
【0014】
このように、元素分析前処理用容器を、化学気相成長(CVD)法によって製造されたセラミック容器とすれば、該容器は純度の高いものであるため、これを、元素分析の前処理に用いれば、容器由来の汚染が殆どなく、前処理後の元素分析を精密に行うことが可能となる。しかも、この容器は、耐熱性、耐薬品性に優れるものであるため、加熱処理、酸溶解処理等の複数の工程を含む前処理を、複数の容器を用いることなく、一つの容器を用いて行うことが可能である。したがって、容器の移し替えに伴う不純物混入のリスクを低減することができ、この観点からも精密な元素分析を行うためには有利である。さらに、容器の移し替えに要していた時間や、容器の洗浄に要していた時間及び労力を削減することができ、コスト低減及び作業の合理化等の効果もある。
【0015】
この場合、前記セラミック容器が、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製のいずれかの容器であることが好ましい。
【0016】
このような、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製のいずれかのセラミック容器は、耐熱性と、耐薬品性に特に優れており、結果として耐久性に優れ長寿命である。
【0017】
また、本発明は、少なくとも、試料の加熱処理工程、酸溶解処理工程を含む前処理を行い、その後、元素分析を行う方法であって、前記前処理を、上記本発明の一つの元素分析前処理用容器を用いて行うことを特徴とする元素分析方法を提供する。そして、この場合、前記試料を、有機化合物及び/又は珪素樹脂とすることができる。
【0018】
本発明の元素分析前処理用容器は、耐熱性、耐酸性に優れるものであるため、従来のように加熱処理工程と酸溶解処理工程とで異なる複数の容器を用いる必要がなく、上記のように、例えば有機化合物、珪素樹脂等の試料を分析する場合の前処理を、一つの元素分析前処理用容器を用いて行うことが可能である。したがって、従来のように、加熱処理工程と酸溶解処理工程とで異なる容器を用いて前処理を行う場合と比較して、工程時間を大幅に短縮することができ、また不純物混入のリスクを少なくすることができる。そのため、有機化合物、珪素樹脂等の試料の前処理を迅速に行うことができ、しかも、その後の元素分析を、精密に行うことができる。
【0019】
さらに、本発明は、少なくとも、試料の臭化水素酸溶解処理工程、臭化物加熱蒸発除去工程、酸溶解処理工程を含む前処理を行い、その後、元素分析を行う方法であって、前記前処理を、上記本発明の一つの元素分析前処理用容器を用いて行うことを特徴とする元素分析方法を提供する。そして、この場合、前記試料を、酸化ビスマス及び/又は酸化アンチモンとすることができる。
【0020】
本発明の元素分析前処理用容器は、耐熱性、耐薬品性に優れるものであるため、例えば酸化ビスマス、酸化アンチモン等の試料を分析する場合の前処理である、臭化水素酸溶解処理工程、臭化物加熱蒸発除去工程、酸溶解処理工程を含む前処理で用いるのにも好適である。すなわち、この前処理を、各工程で異なる複数の容器を用いることなく、一つの容器を用いて行うことが可能である。したがって、複数の異なる容器を用いて前処理を行う場合と比較して、工程時間を大幅に短縮することができ、また不純物混入のリスクを少なくすることができる。そのため、酸化ビスマス、酸化アンチモン等の試料の前処理を迅速に行うことができ、しかも、その後の元素分析を精密に行うことができる。
【0021】
この場合、前記元素分析方法を、誘導結合プラズマ(ICP)法又はフレームレス原子吸光法とすることができる。
【0022】
本発明の元素分析前処理用容器は、誘導結合プラズマ(ICP)法又はフレームレス原子吸光法による元素分析の前処理に用いるのに特に適しており、これを用いて前処理を行うことで、高感度な元素分析を安定して行うことができる。
【0023】
さらに、本発明は、少なくとも、誘導コイルとノズルを具備する、ICP法による元素分析装置で用いられる誘導結合プラズマトーチであって、前記ノズルが、CVD法によって製造されたセラミックノズルであることを特徴とする誘導結合プラズマトーチを提供する。
【0024】
このように、ノズルが、CVD法によって製造されたセラミックノズルである誘導結合プラズマトーチは、純度が高いものであるためノズル由来の汚染が少なく、また耐久性にも優れるものである。したがって、この誘導結合プラズマトーチを具備するICP法による元素分析装置を用いて、元素分析を行えば、精密な元素分析を長期間行うことができる。
【0025】
この場合、前記セラミックノズルが、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製のいずれかのノズルであることが好ましい。
【0026】
このように、セラミックノズルが、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製のいずれかのノズルであれば、耐熱性と、耐薬品性に特に優れており、結果として耐久性に優れ長寿命である。
【0027】
さらに、上記本発明の誘導結合プラズマトーチを具備することを特徴とするICP法による元素分析装置が提供される。
【0028】
このように、本発明の誘導結合プラズマトーチを具備したICP法による元素分析装置は、誘導結合プラズマトーチ由来の汚染も少なく、精密な元素分析を確実に行うことができるものである。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の元素分析前処理用容器は、化学気相成長(CVD)法によって製造されたセラミック容器である。
【0030】
このような元素分析前処理用容器は、例えば、以下のような図1に示す方法によって製造することができる。
先ず、CVD法により、所望の形状の容器が得られるように成形された耐熱性基材11上にセラミックを蒸着させてセラミック層10aを堆積する。そして、蒸着反応終了後、それらを室温まで冷却して炉から取り出す(図1(a)参照。)。
この冷却の際、耐熱性基材11とセラミック層10aは、それぞれ熱膨張係数の違いから両者の間に隙間を生じる。この隙間を利用して、セラミック層10aを耐熱性基材11から引き抜いて分離することができ、それによってセラミック容器10を得ることができる(図1(b)参照。)。
【0031】
このように元素分析前処理用容器を、化学気相成長(CVD)法によって製造することで、純度の高いセラミック容器にできる。したがって、これを、元素分析の前処理に用いれば、容器由来の試料の汚染が殆どなく、前処理後の元素分析を精密に行うことが可能となる。しかも、この容器は、耐熱性、耐薬品性に優れるものであり、また、急速な加熱及び冷却にも十分耐えうるものであるので、加熱処理、酸溶解処理等の複数の工程を有する前処理を、複数の容器を用いることなく、一つの容器を用いて行うことが可能である。したがって、容器の移し替えに伴う不純物混入のリスクを低減することができ、この観点からも精密な元素分析を行うためには有利である。さらに、容器の移し替えに要していた時間や、容器の洗浄に要していた時間及び労力を削減することができ、コスト低減の効果もある。
【0032】
尚、セラミック容器としては、例えば、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製等の容器が挙げられるが、これらの容器は、耐熱性と、耐薬品性に特に優れており、また耐久性にも優れ長寿命であるため好ましい。その中でも、AlN製容器や、PBN製容器は、耐フッ化水素酸耐性に特に優れるものである。また、シリコン元素を成分として含まず、しかも、純度が高くて容器由来の汚染がほとんどないため、これらの容器を用いることで、従来は困難であったシリコン元素の微量分析を、高精度で行うことができる。
【0033】
そして、本発明は、以上のような元素分析前処理用容器を用いて、以下のような元素分析方法を提供する。
例えば、有機化合物及び/又は珪素樹脂といった試料に含まれる不純物元素を分析する場合は、本発明は、少なくとも、試料の加熱処理工程、酸溶解処理工程を含む前処理を行い、その後、元素分析を行う方法であって、前記前処理を、上記本発明の一つの元素分析前処理用容器を用いて行うことを特徴とする元素分析方法である。
【0034】
上記のように、有機化合物、珪素樹脂といった試料に含まれる不純物元素を分析する場合は、加熱処理、酸溶解処理を含む前処理を行い、有機化合物、珪素樹脂を除去した溶液(測定用試料)にした後に、不純物元素の分析を行う。具体的には、有機化合物の場合は、硫酸分解の後に電気炉等で加熱して有機化合物を除去し、その後硝酸等を加えて溶液とする。また、珪素樹脂の場合には、フッ化水素酸を加えた後に加熱して珪素樹脂を除去し、その後硝酸等を加えて溶液とする。
【0035】
本発明の元素分析前処理用容器は、耐熱性、耐酸性に優れるものであるため、従来のように加熱処理工程と酸溶解処理工程とで異なる複数の容器を用いる必要がなく、前処理を、一つの元素分析前処理用容器を用いて行うことが可能である。したがって、従来のように、加熱処理工程と酸溶解処理工程とで異なる容器を用いて前処理を行っていた場合と比較して、工程時間を大幅に短縮することができ、また不純物混入のリスクを少なくすることができる。そのため、前処理を迅速に行うことができ、しかも、その後の元素分析を、精密に行うことができる。
【0036】
また、例えば、酸化ビスマス及び/又は酸化アンチモンといった試料に含まれる不純物元素を分析する場合、本発明は、少なくとも、試料の臭化水素酸溶解処理工程、臭化物加熱蒸発除去工程、酸溶解処理工程を含む前処理を行い、その後、元素分析を行う方法であって、前記前処理を、上記本発明の一つの元素分析前処理用容器を用いて行うことを特徴とする元素分析方法である。
【0037】
上記のように、試料に対して、臭化水素酸溶解処理工程、臭化物加熱蒸発除去工程、酸溶解処理工程を含む前処理を行い、酸化ビスマス、酸化アンチモンを除去した溶液(測定用試料)にした後に、不純物元素の分析を行う。
【0038】
本発明の元素分析前処理用容器は、耐熱性、耐薬品性に優れるものであるため、このような前処理で用いるのにも好適である。すなわち、この前処理を、各工程で異なる複数の容器を用いることなく、一つの容器を用いて行うことが可能である。したがって、複数の異なる容器を用いて前処理を行う場合と比較して、工程時間を大幅に短縮することができ、また不純物混入のリスクを少なくすることができる。そのため、前処理を迅速に行うことができ、しかも、その後の元素分析を精密に行うことができる。
【0039】
ここで、デバイス等の製造工程における材料には、有機化合物、珪素樹脂等の試料と、酸化ビスマス、酸化アンチモン等の試料とが混合して含有されていることも多い。本発明の元素分析前処理用容器は、上記のように異なる前処理をする試料が混合して含有されている試料を分析するのに、特に有効である。すなわち、デバイス等の材料に含有される不純物元素を分析するのに、有機化合物、珪素樹脂等や、酸化ビスマス、酸化アンチモン等を除去した溶液(測定用試料)にする前処理を、一つの元素分析前処理用容器で行うことができるため、不純物混入のリスクが減り、しかも、作業が大幅に効率化できるのである。
【0040】
尚、誘導結合プラズマ(ICP)法又はフレームレス原子吸光法による元素分析の前処理には、耐熱性、耐薬品性を有し、かつ高純度である本発明の元素分析前処理用容器は特に適しており、これを用いて前処理を行うことで、高感度な元素分析を安定して行うことができる。
【0041】
さらに、本発明は、少なくとも、誘導コイルとノズルを具備する、ICP法による元素分析装置で用いられる誘導結合プラズマトーチであって、前記ノズルが、CVD法によって製造されたセラミックノズルであることを特徴とする誘導結合プラズマトーチを提供する。
【0042】
このような、本発明の誘導結合プラズマトーチの一例を、図2を参照して説明する。
この誘導結合プラズマトーチ20は、CVD法によって製造された多管構造のセラミックノズル22に誘導コイル21が巻き付けられた構造となっている。そして、このセラミックノズル22は、プラズマガス導入口25、補助ガス導入口24、測定用試料導入口23を具備する。
この誘導結合プラズマトーチを、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)による装置で用いる場合を例に挙げて説明する。誘導コイル21に電流を流すと、誘導電場が発生する。ここに、プラズマガス導入口25よりアルゴンガス等のプラズマガスを導入すると、その原子が電離してプラズマ状態となる。このプラズマ中に、測定用試料導入口23から、霧状の測定試料を導入してキャリアガスによってプラズマ中心部に導くと、測定用試料の霧は熱エネルギーによって励起されイオン化される。この後、不図示のシステムにより、真空においてイオンを収束して、質量分離することにより測定用試料の定量を行う。
【0043】
このように、ノズルが、CVD法によって製造されたセラミックノズルである誘導結合プラズマトーチは、純度が高いものであるためノズル由来の汚染が少なく、また、耐熱性及び耐酸性に優れるものであるので耐久性にも優れる。したがって、この誘導結合プラズマトーチを具備するICP法による元素分析装置を用いて、元素分析を行えば、精密な元素分析を長期間行うことができる。
【0044】
特に、セラミックノズルが、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製のいずれかのノズルであれば、耐熱性と、耐薬品性に特に優れており、結果として耐久性に優れるものである。その中でも、AlN製ノズルや、PBN製ノズルは、従来使われていた石英ノズルを用いた場合には困難であったシリコン元素の分析を高精度で行うことができる。
【0045】
このように、上記本発明の誘導結合プラズマトーチを具備したICP法による元素分析装置は、誘導結合プラズマトーチ由来の汚染も少なく、精密な元素分析を確実に、かつ長期間安定して行うことができるものである。
【0046】
尚、ICP法による元素分析装置に用いる誘導結合プラズマトーチのノズルとして、φ20mmのPBN製ノズルを用いる事により、不純物としてシリコン元素を含む水溶液を、1ppbまで測定できた。
従来の石英製ノズルにおいてはシリコン元素の精密分析は困難であったのと比較して、極めて有用であることが判る。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明する。
(実施例1)
モールディングコンパウンドについて元素分析を行った。
元素分析前に、以下の前処理を行った。
先ず、試料としてモールディングコンパウンド1gを容積20mlのPBN製容器に採取して0.5mlの硫酸により電熱器上で分解した。次に、電気炉で700℃まで加熱して灰化した。次に、フッ化水素酸と臭化水素酸を加えて溶解した。次に、その溶解液を電熱器上で加熱して,残渣のケイ素とアンチモンの酸化物を揮散させて除去した。次に、この容器に少量の硝酸を加えて残渣を溶解して回収し、2mlの定容とし、測定用試料とした。
以上の前処理後、元素分析を行った。
その結果、得た値は前処理に石英製容器とPTFE製容器を用いた時の値と比較して、Thが74%、Uが91%となったが、標準偏差はいずれも数%以下となりバラツキが少ないことが確認できた。
また、前処理に要した時間は、2時間程度であり、従来の石英製容器とPTFE製容器を用いた場合には、4時間程度であったことと比較すると大幅に前処理の時間を短縮できた。
【0048】
(実施例2)
アルキルアミノシランについて元素分析を行った。
元素分析前に、以下の前処理を行った。
先ず、試料としてアルキルアミノシラン2.0gを20mlのPBN製容器に採取して電熱器で穏やかに加熱し、試料を揮散させた。次に,それぞれ1.5mlの硝酸とフッ化水素酸とを加えて残存するケイ素化合物を除去し、容器内の残留物を乾固させた。乾固の後,容器を電熱器から降ろして0.05mlの硝酸と0.95mlの水を数回に分けて加えて溶解した。次いで,内標準にストロンチウムを10ppm含む希硝酸を0.020ml加えて混合した後、容器内の溶液を回収して0.45μmのメンブランフィルターでろ過して、測定用試料とした。
以上の前処理後、元素分析を行った。
分析の結果、標準添加した14元素(Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Zn、Pb、Na、K、Li、Co)の回収率は90〜109%であり、また、標準偏差はいずれも数%以下となりバラツキが少ないことが確認できた。
尚、この前処理は、石英製容器では耐フッ化水素酸耐性が劣り、またPTFE製容器では耐熱性が劣るため、石英製容器及びPTFE製容器を用いて行うことはできない。また、白金製容器は、金属汚染の恐れがあり、高精度の元素分析を行うには好ましくない。
【0049】
(実施例3)
アミノ基含有シロキサン化合物を用いて元素分析を行った。
元素分析前に、以下の前処理を行った。
試料としてアミノ基含有シロキサン化合物の水溶液5.0gを20mlのPBN容器に採取してフッ化水素酸を加え、電熱器で穏やかに加熱して過剰のフッ化水素酸と主成分の水を揮散除去した。次いで,加熱を強くしてフッ化物の塩となったアミノ基含有のシロキサンを揮散させた。この処理ではシロキサン化合物は白煙を生じてPBN容器から消失した。
容器を室温まで冷却して少量の硝酸と水を総量で1ml加えた。
この溶液を回収して0.45μmのメンブレンフィルターでろ過して測定用試料とした。
以上の前処理後、元素分析を行った。
分析の結果、標準添加した14元素(Al、Ca、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Zn、Pb、Na、K、Li、Co)のうち、Cu、Pb、Co、Crの回収率は30%以下、Niは50%、その他の元素は60〜80%となったが、標準偏差はいずれも数%以下となりバラツキが少ないことが確認できた。尚、この前処理は、石英製容器では耐フッ化水素酸性が劣り、またPTFE製容器では耐熱性が劣るため、石英製容器及びPTFE製容器を用いて行うことはできない。また、白金製容器は、金属汚染の恐れがあり、高精度の元素分析を行うためには好ましくない。
【0050】
(実施例4)
酸化ビスマス及び酸化アンチモンを用いて元素分析を行った。
元素分析の前に、以下の前処理を行った。
先ず、試料として酸化ビスマス及び酸化アンチモンの粉末1〜1.5gを、7mlの臭化水素酸を用い20mlのPBN製容器内で溶解した。次に、その溶解液を数ml以下に濃縮して2ml程度として、電熱器上に載せた。そして、石英製容器を逆さまにしてPBN製容器にかぶせた後,電熱器を加熱して主成分の臭化物を石英製容器の内壁に回収した。次に、PBN容器に少量の硝酸を加え、煮沸して、PBN製容器に残った元素を回収した。
以上の前処理後、元素分析を行った。
その結果、試料溶解時に酸化ビスマスに添加した10〜300ppmのAl、Ca、Mg、Si、Feの平均回収率は95〜104%であり、酸化アンチモンに添加した0.3〜10ppbのTh、Uの平均回収率はそれぞれ70%および90%であり、また標準偏差はいずれも数%以下となりバラツキが少ないことが確認できた。
また、前処理に要した時間は、1時間程度であり、従来の石英製容器とPTFE製容器を用いた場合には、4時間程度であったことと比較すると大幅に前処理の時間を短縮できることが判る。
【0051】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
例えば、上記実施例では、元素分析前処理用容器として、PBN製容器を用いた場合を例に挙げ説明しているが、本発明はこれに限定されず、例えばAlN製、SiC製、SiN製等のCVD法によって製造されたセラミック容器であれば良い。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、元素分析前処理用容器として、CVD法によって製造されたセラミック容器を用いることで、石英製容器の耐酸性やPTFE製容器の耐熱性の欠点を補って,種々の無機および有機系やそれらを混合した組成物の元素分析を目的とした前処理を一つの容器で行うことを可能とする。その結果、試料の前処理に伴う工程の煩雑性や時間の短縮も図れ、また、測定精度を高めることができる。
また、ICP法による元素分析装置で用いられる誘導結合プラズマトーチのノズルとして、CVD法によって製造されたセラミックノズルを用いることで、精密な元素分析を、安定して長期間行うことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の元素分析前処理用容器の製造方法の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の誘導結合プラズマトーチの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
10…セラミック製容器、 10a…セラミック層、
11…耐熱性基材、
20…誘導結合プラズマトーチ、 21…誘導コイル、
22…セラミックノズル、 23…測定用試料導入口、
24…補助ガス導入口、 25…プラズマガス導入口。
Claims (3)
- 少なくとも、誘導コイルとノズルを具備する、ICP法による元素分析装置で用いられる誘導結合プラズマトーチであって、前記ノズルが、CVD法によって製造されたセラミックノズルであることを特徴とする誘導結合プラズマトーチ。
- 前記セラミックノズルが、AlN製、SiC製、SiN製、熱分解窒化ホウ素(PBN)製のいずれかのノズルであることを特徴とする請求項1に記載の誘導結合プラズマトーチ。
- 請求項1又は請求項2に記載の誘導結合プラズマトーチを具備することを特徴とするICP法による元素分析装置。
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