JP3753805B2 - 半導体試料の分解装置および試料分解方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は各種半導体用ウェハーを分解するための装置およびその分解方法に関し、更に詳しくは、半導体結晶中の極微量の不純物を分析するための試料溶液を調製する装置に関わる。
【0002】
【従来の技術】
シリコン結晶、ガリウムヒ素結晶は、半導体素子基板として使用されているが、しかし、この結晶の中にナトリウム、カリウム、鉄、銅などの不純物が存在すると、例えその量が超微量であっても、素子の電気的特性は大きな影響を受けることが知られている。したがって、超LSIの素子特性を高めるためには、これらの不純物の含有量をできるかぎり低く抑えることが要請されている。
【0003】
また、近年の微細化に伴い、シリコンウェハー表面近傍の結晶性は、その特性を制御する極めて重要なファクターであることが明らかになりつつある。すなわち、表面近傍のいわゆる活性層(10μm)では、酸素析出物などの微少欠陥が、耐圧等の電気的特性に影響を及ぼすことや、イオン注入などのプロセスで表面から混入した金属不純物が、その後の熱処理時にまた表面まで拡散し、析出欠陥などを作るなど深刻な問題となりつつあり、表面近傍の特性を検討する上で、1ppt〜0.1ppt迄計測可能な金属不純物の高感度検出方法が切望されている。
【0004】
半導体結晶中の不純物量を測定するためには、通常、フレームレス原子吸光分析装置が使用されている。従来、フレームレス原子吸光分析装置に供する試料溶液を調整するためには、以下のような方法が採用されているが、これらの方法はいずれも問題がある。即ち、半導体結晶をフッ化水素酸(フッ酸)と硝酸との混合溶液で直接分解し、分解液を蒸発乾固して残渣を得た後、この残渣に純水を加えて一定容量に希釈してフレームレス原子吸光分析用の試料溶液とする方法。あるいは半導体結晶をフッ化水素酸(フッ酸)と硝酸との混合溶液を100℃で加熱し、酸蒸気で分解し、そのままフレームレス原子吸光分析用の試料溶液とする方法である。
【0005】
しかし、これらの方法で半導体結晶を分析するために使用される試薬は、高純度に精製することが極めて困難であり、例えば非沸騰蒸留法やイオン交換法で精製した試薬でも、すでに10ppt以上の不純物(Na,K等)を含有している。
【0006】
また、酸蒸気に用いるHNO3は68%であり、この状態で蒸気を発生させると、蒸気が飽和するまでに1時間以上を要し、分解に時間がかかる問題があった。更に、ウェハーの大口径化に伴い、用いる薬液量が多くなることは汚染量を増やすことになるなどの問題が生じる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は蒸気問題点を解決するためになされたものであり、試薬や環境からの汚染を引き起こすことなく、半導体用結晶試料を迅速分解してフレームレス原子吸光分析や誘導結合プラズマ(ICP)質量分析用の試料となる半導体結晶の分解溶液を調整することができる半導体結晶の分解装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明に関わる半導体結晶の分解方法は、鋭意研究を施す間に、筆者らは、分解時に白色沈殿が生じ、この物質が(NH4 )2 SiF6 であることを発見した。これは、図1に示すX線回析図において、(NH4 )2 SiF6 の基準データのピークとある溶液のX線回析図のピークが一致したことによる。更に、溶媒が常にHNO3 リッチで進行することで、極めて分解が容易になることも見いだした。
【0009】
すなわち、密閉容器内での珪素材に関わる反応は、以下の反応式に従うことが判明した。
3Si+4HNO3+18HF→3H2SiF6+4NO+8H2O
6HF+SiO2→H2SiF6+2H2O
H2SiF6→SiF4+2HF
一方、硝酸イオンは上記化学反応時に、過剰の電子の存在により、以下のようなアンモニウムイオンに還元され、その結果ケイフッ化アンモニウムが形成される。
NO3 −+10H++8e−→NH4 ++3H2O
2NH4 ++H2SiF6→(NH4)SiF6+2H+
【0010】
アンモニウム塩は、非常に強い錯形成能力を有しており、H2 SiF6 が揮発除去できるのに対し、表面に付着する、しかし、このアンモニウム塩は、酸蒸気のみで形成されるので、大変純度の高い物質である。この物質中には極微量の不純物が含まれており、これを所定の方法で分析する。
【0011】
更に、形成されたアンモニウム塩をブロム水・塩素水・王水のような非常に酸化力を有する蒸気により、アンモニウムを酸化し、再びH2[SiF4]・2FおよびNH4OHとして揮発除去できることを見いだした。
【0012】
この発明の方法によれば、従来方法に比べて著しく短い時間でかつ外部汚染も少なく、結晶試料の分解作業を行うことができる。また本発明の試料分解装置は、本発明を実施するためのものであり、密閉容器・密閉容器内に設けられた試料設置台・分解溶液を蒸発乾固させる手段などの部材から構成されている。
【0013】
この様に本発明結晶を、硝酸による酸化作用を用いて迅速に試料を分解することを特徴とする。酸としては、98%硝酸として発煙硝酸・あるいは、硝酸・フッ化水素酸系において、金属元素を加えNOxを含む硝酸蒸気を生じさせる反応がある。また、有機溶媒や硝酸を用いて、HNO3を脱水分解させることにより、NOxを含む硝酸蒸気を反応させる系であってもよい。試料表面に存在する酸蒸気の濃度が常にHNO3:HF=2:1〜3:1になることで、分解は速やかに行われる。
【0014】
即ち、図2に98%HNO3(発煙硝酸)、68%HNO3、50%HFの水に吸収される吸収酸濃度を示す。横軸が時間、縦軸が水に吸収する吸収酸濃度(%)である。50%HFに比べ68%HNO3は吸収酸濃度が低くHFの吸収酸濃度が支配的となる。従って硝酸の酸化速度が遅くなりSiとの反応が遅くなり、この反応中に外部からの汚染物が混入しやすくなる。これに対し、98HNO3は50%HFに比べ吸収酸濃度が高く、HNO3の吸収酸濃度が支配的となる。従ってSiとの反応が迅速に進み外部からの影響が少ない。よって結晶中に含まれる極微量の不純物も分析することが可能となる。
【0015】
大部分の存在する珪素はアンモニア化合物として表面に残存する。このSiから(NH4 )2 SiF6 への反応により、従来の酸蒸気分解法に比較し、10分の1以上の時間が短縮され、また表面の平滑度も2倍以上向上した。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に関わる一実施例を図面を参照して説明する。図3はこの発明に関わる半導体結晶を分解する方法を実施する上で有用な分解装置の構成を示したブロック図である。
【0017】
密閉容器1は、蓋1aを有し中央には半導体基板を支持する容器2および、基板Wを設置するための設置部2aが設けられ、該設置部2aの周囲に取り付けられた環状の弾性押さえ片2bに押さえつけるように構成されている。容器3aにはHFが、3bにはHNO3 が満たされている。
【0018】
また該密閉容器1は、加熱手段4を有する。試料載置後、この加熱手段を操作することにより、容器3a、3b内のHF、HNO3 が蒸発し容器2のSiウェハーに吸収され、分解は速やかに行なわれる。これら、加熱手段は汚染防止の観点から、容器1の外部に配設されることが好ましい。また、必要に応じては、容器2を加熱するために設けてもよい。
【0019】
この装置においては、容器2内の酸液は、常にHNO3 :HF=2:1〜3:1の比であることが好ましい。蒸発に関して、不純物は蒸気圧の関係で蒸発しないので得られた酸蒸気の純度は極めて高い。
【0020】
なお、以上の説明は試料が半導体結晶である場合に主眼にして行ったが、この装置および方法はこれに限定されるものでなく、石英ガラスのような珪素材であっても適用できることは、その原理からして明らかである。
【0021】
【実施例】
実施例1
比抵抗1.5オームcm、厚み625μmのリンドープシリコンウェハーを10g用意した。この試料表面を洗浄後、容器2に収納した。分解溶液としてそれぞれ50%フッ化水素酸200mlと98%発煙硝酸200mlを選び、それぞれ別々に容器3a,3bに収納した。密閉容器1の空間体積は、約5000cm3 であった。
【0022】
なお、密閉容器1、容器2、容器3a、3bはいずれもテフロン(登録商標:フッ素樹脂)製であった。加熱手段(赤外ランプ)を作動するとともに、各酸液を120℃で30分間加熱した。ウェハーの溶解が確認された。即ち、(NH4)2SiF6の存在が確認された。
【0023】
次に(NH4 )2 SiF6 を0.2mlの純水に溶解し得られた試料溶液をNa、Kは原子吸光装置(Perkin−Elmer:5100ZL)にかけて、またFe、Cr、NiはICPMS(セイコー:SPQ6500)で分析を行った。測定条件は以下の通りである。
【0024】
(原子吸光法)乾燥:120℃、30秒。灰化:Naは600℃、Kは700℃。原子化:Naは2500℃、Kは2700℃、それぞれ4秒間。キャリアガス:アルゴンで0.3ml/分、ただし原子化のときは流通しない。測定波長:Naは589.0nm、Kは766.5nm。
【0025】
(ICPMS法)乾燥:120℃、40秒。灰化:400℃、30秒。600℃、40秒。原子化:2500℃、5秒間。キャリアガス:アルゴンで流量は、1.2ml/分。測定質量:56Fe、63Cu、59Ni、52Cr。
【0026】
以上の結果、Na:0.005ppt、K:0.003ppt、Fe:0.008ppt、Cr:0.005pptであった。
比較例1
実施例1で用いたウェハーと同種類のウェハーを、図3に示す試料分解装置に設置し50%フッ化水素酸200cm3 、60%硝酸を用意し、実施例1と同様のウェハーの分解を行った。
【0027】
2時間後、密閉容器を開放して試料の確認を行った。フッ化水素蒸気は試料表面に点在した液滴となり、シリコン表面にはケイフッ化アンモニウムの白色沈殿が形成されたが不均一な分解であり測定は困難であった。
【0028】
実施例2
試料としてCzウェハー2種類(4.5Ωcm・ボロンドープ、1Ωcm・リンドープ)およびHAIウェハー(1Ωcm・リンドープ)およびEpiウェハー(4.5Ωcm・ボロンドープ)を用意した。表層10μm活性層の分析を行った。これを脱イオン水20mlを加え、実施例1と同様の条件で、分解時間を20分とし表層10μmの分析を行った。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
Czウェハーでは、検出されなかったが、HAI、Epiウェハーでは、金属不純物で汚染されていることが明らかとなった。
比較例2
実施例2と同様の試料を、高純度硝酸8mlおよび高純度フッ化水素酸4mlで、直接分解を行った。その結果を表2に示す。Czウェハーでは、試薬のブランクとほぼ同様の値となり、薬液汚染が支配的となり測定は困難であった。
【0031】
【表2】
【0032】
また、この実施例2および比較例2で用いたCzウェハーでのエッチング後の表面粗さを表面粗さ計(タリサリーフ)で測定した図を図4、5に示す。実施例では、Rmax:1.1μmに対し、比較例ではRmax:4μmと四倍以上の表面粗さの向上が得られた。
【0033】
実施例3
試料として、Czウェハー(4.5Ωcm・ボロンドープ)の表面のみならずバルクとしての分析を行うためCzウェハーを10g用意した。ウェハーの分解材として、Noxガス+フッ化水素酸(実施例3−1)、フッ化ニトロシル+フッ化水素酸(実施例3−2)発煙硝酸+塩酸(実施例3−3)、硝酸+フッ化水素酸+シリコン(実施例3−4)および比較例として、68%硝酸+フッ化水素酸を用意し、密閉容器内で各硝酸イオンおよびフッ化物イオンを吸収させ、ウェハーの分解を行った。各結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
実施例3−1〜3−4では、分解時間が比較例と比べ、1/2〜1/10の短縮が行われるようになった。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本願の発明によれば、従来困難であった結晶の分解を迅速にし、しかも低汚染の分解溶液を供給することが可能となった、従って、本発明方法および装置によれば、従来方法および装置に比較して高能率で結晶試料の分解を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (NH4 )2 SiF6 のX線回析図
【図2】 酸蒸気の吸収曲線図
【図3】 本願発明装置を示す図
【図4】 本発明法によるエッチング(10μm深さ)後の表面粗さを示す図
【図5】 従来法(直接分解法)によるエッチング(10μm深さ)後の表面粗さを示す図
【符号の説明】
1:密閉容器、1a:蓋、2:半導体支持容器、2a:試料設置部、3:分解溶媒配管、3a:発煙硝酸、NoxなどのNo3 - 発生装置、3b:フッ化水素酸(F- 発生装置)、4:ヒーター
Claims (2)
- 密閉容器内に、珪素質物質を載置した分析試料容器及び硝酸を収納する容器とフッ化水素酸を収納する容器とをそれぞれ硝酸及びフッ化水素酸とを接触させることなく隔離状態で収納した後、該密閉容器を加温し、該硝酸と該フッ化水素酸を蒸発させて硝酸リッチの酸蒸気を形成し、珪素質分析試料の表層を(NH4)2SiF6からなるアンモニウム塩化合物として形成させることを特徴とする半導体試料の試料分解方法。
- 密閉空間系を構成する密閉容器であって、少なくとも密閉可能な開放部を有し、内部に分析試料容器及び分解用溶液である硝酸を収納する容器と分解用溶液であるフッ化水素酸を収納する容器を収容するとともに、分析試料容器を載置可能な段差が配置され、かつ該段差が下部あるいは横部に収容貯留される該試料分解溶液を収納する容器と所定の間隔を有し、該密閉容器を加温し、該硝酸と該フッ化水素酸を蒸発させて硝酸リッチの酸蒸気を形成することによって、珪素質分析試料の表層を(NH4)2SiF6からなるアンモニウム塩化合物として形成させることを特徴とする半導体試料の分解装置。
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