JP4055622B2 - 布帛印刷装置及びそれに用いるプラテン - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラテンの支持面上にセットされた布帛にインクを吐出して所望画像を印刷する布帛印刷装置に関する。
【０００２】
【従来の技術】
この種の布帛印刷装置においては、紙等への印刷と異なり、布帛をセットする支持部いわゆるプラテンの上面への布帛の固定が難しい。即ち、布帛の場合は表面に皺による凹凸が発生し易く、布帛の平面度が損なわれ易い。そして、プラテン上で布帛が平坦に保持されていないと、インクを吐出しての印刷精度が劣化してしまい、場合によってはインク吐出ヘッドが布帛に接触するような事態も発生する。
【０００３】
このような布帛印刷における布帛の保持として、例えば、特許文献１には、インクジェット捺染装置において、金属製無端ベルトに粘着性を有する両面テープもしくはシートを貼り付けて、その粘着力により布帛を固定して搬送するものが記載されている。この粘着性両面テープもしくはシートは、内側（搬送ベルト側）が強粘着性で外側（布帛側）が弱粘着性の粘着層にて形成されており、両端が貼り合わされたリング状に形成されている。布帛は、別途設けられた貼り付けローラによって粘着シートを介して搬送ベルトに固着され、捺染時の布帛の平坦性が確保される構成となっている。また、粘着シートの粘着力が劣化した場合には、両面粘着シートの貼り替えが可能となっている。
【０００４】
また、特許文献２には、インクジェット捺染装置において、金属製無端ベルトに両面接着シート（接着フィルム）が貼り付けられ、この両面接着シートに布帛を接着して搬送する方法が記載されている。両面接着シートの粘着力が劣化した時には、このシートを剥がして、新しい両面接着シートを近傍に設置されているロールから引き出して搬送ベルトに貼り付けることができる構成となっている。
【０００５】
【特許文献１】
特開２０００−１９８９７０号公報
【特許文献２】
特開平６−２２０７８１号公報
【０００６】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献１及び特許文献２に記載のものは何れも、粘着性のあるシートをベルトに貼付して、その粘着力により布帛を固定して搬送するものである。このため、プラテン上に布帛をセットするような布帛印刷装置において、プラテンの表面に粘着シートを設け、この粘着シート上に布帛をセットするように構成すると、次のような問題が生じてくる。
【０００７】
即ち、粘着力により布帛を保持する構成においては、布帛に皺による凹凸が生じた場合、その布帛を端から粘着力に抗して引き剥がし、皺が発生しないように慎重にプラテン上に再度セットする必要がある。このため、布帛のセット及び位置合わせの作業性が極めて悪くなるという問題が生じる。また、布帛の皺取りや印刷後の布帛の除去の際に、布帛を粘着力に抗して引き剥がすので、布帛に毛羽立ち等が発生し易いという問題もある。
【０００８】
また、プラテンの表面に粘着シートを設けると、埃や布帛から発生する毛羽等が粘着シートに付着し易く、頻繁にプラテン表面をクリーニングしたり、または頻繁に粘着シートを交換する必要がある。このため、コスト高になると共にメンテナンス性が悪化するという問題も生じる。
【０００９】
そこで、本発明は、プラテンの支持面上にセットされた布帛の皺を簡単に除去して凹凸を無くし布帛を平面度よく確実に保持することができ、しかもその作業性に優れメンテナンス性も良好な布帛印刷装置を提供することを目的とする。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項１に記載の布帛印刷装置は、布帛をセット及び除去可能であって、布帛のセットのために布帛を下方から支持する支持面を有しているプラテンと、前記支持面上の布帛にインクを吐出するインク吐出部とを備えており、前記プラテンは、前記支持面の中央領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の少なくとも一方向における両端部近傍領域の布帛に対する静止摩擦係数よりも大きい部分を有することを特徴とするものである。
【００１１】
このような構成によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の中央領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が働く部分があるので、この摩擦力によって布帛が保持される。粘着力による保持と異なり単に摩擦力による保持なので、手で軽く布帛の表面を撫でて皺を伸ばすだけで布帛の凹凸が除去され、この状態で摩擦力により布帛の平面度が保持される。
【００１２】
また、支持面の少なくとも両端部近傍領域における静止摩擦力は相対的に小さいので、布帛が支持面より大きい場合でも、支持面の両端部近傍領域に接触する布帛の両側部分に対しては実質的に摩擦力の影響がない。これにより、プラテンに対する布帛の取付け、位置合わせ及び取外しの際に、布帛を支持面から浮かして布帛の両側部分だけを支持面の両端部近傍領域に接触させれば、布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。これにより、布帛の取付け、位置合わせ及び取外しが容易となる。
【００１３】
また、支持面は粘着力でなく単に摩擦力により布帛を保持しているので、その支持面は埃などが付着し難く、頻繁に清掃する必要がない。
【００１４】
本発明の請求項２に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンにおいては、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の前記両端部近傍領域における布帛に対する静止摩擦係数よりも大きいことを特徴とするものである。
【００１５】
このような構成によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に取り除くことができる。
【００１６】
本発明の請求項３に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンにおいては、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、当該領域内において実質的に一様であることを特徴とするものである。
【００１７】
このような構成によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が均一に働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に均一に取り除くことができる。
【００１８】
本発明の請求項４に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンには、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域に、シート状部材が貼付又は載置されていることを特徴とするものである。
【００１９】
このような構成によると、支持面上のシート状部材によって布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、前述と同様に布帛の皺を簡単に伸ばすことによって布帛の凹凸が除去され、この状態で摩擦力により布帛の平面度が保持される。また、このシート状部材は、汚れたら新しいものと取り替えることが可能で、メンテナンスも容易である。さらに、シート状部材を用いる場合は、セットされる布帛の素材種類に応じて取り替えられるので、汎用性が高い。
【００２０】
本発明の請求項５に記載の布帛印刷装置は、前記両端部近傍領域が、各端部から１ｍｍ〜１０ｍｍ離れた位置までの領域であることを特徴とするものである。
【００２１】
このような構成によると、布帛に対する静止摩擦力の小さい両端部近傍領域を適切に設定することによって、この両端部近傍領域を除いた領域における布帛の保持面積を充分に大きく確保し、かつ、両端部近傍領域では前述と同様に布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。
【００２２】
本発明の請求項６に記載の布帛印刷装置は、前記支持面の前記少なくとも一方向における両端部の上側部分が、円弧状となっていることを特徴とするものである。
【００２３】
このような構成によると、プラテンの両端部の円弧状の部分において、布帛の両側部分をさらにスムーズに滑らすことが可能となる。また、布帛を支持面にセットした際に、両端部の円弧状の部分によって、布帛の両側部分の盛り上がりが防止される。
【００２４】
本発明の請求項７に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンが、前記布帛をセットする位置と前記インク吐出部により印刷が行われる位置との間を相対的に移動可能であることを特徴とするものである。
【００２５】
このような構成によると、プラテンに布帛をセットした後、布帛をインク吐出部の位置に移動させることによって、布帛の取付け、位置合わせ及び取外し作業が行い易くなる。
本発明の請求項８に記載のプラテンは、布帛をセット及び除去可能であって、布帛のセットのために布帛を下方から支持する支持面を有しているプラテンと、前記支持面上の布帛にインクを吐出するインク吐出部とを備え、支持面上の布帛に印刷を行う布帛印刷装置に使用されるプラテンであって、前記支持面の中央領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の少なくとも一方向における両端部近傍領域の布帛に対する静止摩擦係数よりも大きい部分を有することを特徴とする。
本発明の請求項９に記載のプラテンは、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の前記両端部近傍領域における布帛に対する静止摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。
本発明の請求項１０に記載のプラテンは、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、当該領域内において実質的に一様であることを特徴とする。
本発明の請求項１１に記載のプラテンは、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域に、シート状部材が貼付又は載置されていることを特徴とする。
【００２６】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を説明する。なお、本実施の形態に係る布帛印刷装置は、いわゆるインクジェットプリンタである。
【００２７】
［プリンタ全体構成］
図１は、本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタの全体的な構成を示す正面図である。図１に示すようにインクジェットプリンタ１は、枠体上のフレーム２を備えている。フレーム２は、プリンタ１の底部に位置する水平部２ｈと、水平部２ｈの両端から垂直に立ち上がる垂直部２ｖとを有している。
【００２８】
左右の垂直部２ｖの上部同士を連結するように、スライドレール３が水平に支架されている。スライドレール３にはキャリッジ４が、スライドレール３の長手方向（主走査方向）に沿って摺動自在に備えられている。このキャリッジ４の下面には、４色のインクを吐出させるために各色ごとに配設された計４個の圧電式のインクジェットヘッド５が設けられている。
【００２９】
左右の垂直部２ｖの上部にはそれぞれプーリ６，７が支持され、一側のプーリ６には、垂直部２ｖによって支持されるモータ８のモータ軸が連結されている。両プーリ６，７の間には無端ベルト９が架け渡されており、キャリッジ４はこの無端ベルト９の適宜の部分に固定される。
【００３０】
このような構成により、一側のプーリ６がモータ８の駆動により正逆回転されると、それに伴ってキャリッジ４がスライドレール３の長手方向（主走査方向）に沿って直線往復駆動され、この結果、インクジェットヘッド５の往復移動が行われる。
【００３１】
左右の垂直部２ｖには、インクタンク２０を着脱可能に搭載する搭載部１０が形成されている。２つの搭載部１０は２色ずつのインクタンク２０を装着できるようになっており、このインクタンク２０の内部に形成されているインク袋が可撓性チューブ２８によって、インクジェットヘッド５のそれぞれの上部に位置する４つのサブタンク３０と接続される。なお、４つのサブタンク３０はインクジェットヘッド５とそれぞれ連通しているため、インクタンク２０からインクジェットヘッド５にインクが供給される。
【００３２】
フレーム２の水平部２ｈの上にはスライド機構１１が設置され、このスライド機構１１の上にプラテン１２が支持される。このプラテン１２には布帛を、その印刷したい部分が上面に来るように位置決めして、且つピンと張った皺のない平坦な状態でセットできるようになっている。本実施の形態のインクジェットプリンタ１は、縫製済みＴシャツにインクジェット印刷を行うものである。
【００３３】
また、プラテン１２を図１の紙面垂直方向（スライド機構１１におけるスライド方向であって、インクジェットプリンタ１の副走査方向）に往復移動させるために、プラテン搬送機構が配設されている。このプラテン搬送機構については図示しないが、ラック、ピニオン機構や、無端ベルトを用いた機構などを適用することができる。
【００３４】
初期状態においてプラテン１２は前方（図１の紙面で表方向）に移動されており、作業者がプラテン１２に布帛をセットして、印刷開始指令を出すと、プラテン１２は後方（図１の紙面で裏方向）に移動される。そして、プラテン１２が前方に間欠移動されると共に、この間欠移動の間にインクジェットヘッド５が往復移動されて、布帛への印刷が行われる。そして、印刷が終了すると、プラテン１２は前方の初期位置まで移動される。ここで作業者がプラテン１２から布帛を取外す。
【００３５】
図１に示すように、４個のインクジェットヘッド５は、４色のインク（マゼンタ、イエロー、シアン、ブラック）に対応して、キャリッジ４の往復移動方向に沿って並設されており、それぞれに対応したインクタンク２０と可撓性チューブ２８でサブタンク３０を介して連結されている。
【００３６】
インクジェットヘッド５は、その下面がプラテン１２の上面との間に少量の隙間を形成するように配置されており、布帛に画像を印刷する際にプラテン１２にセットされた布帛の印刷したい部分がその隙間に搬送される。この構成で、インクジェットヘッド５がキャリッジ４によって往復移動されつつ布帛上に吐出ノズルから各色のインクを吐出することで、所望のカラー画像を布帛に形成できるようになっている。
【００３７】
また、インクジェットプリンタ１はカバー１３を備えており、インクジェットヘッド５やスライド機構１１等を覆って保護できるようになっている。なお、図１においては、カバー１３の内部の様子を詳細に示すために、カバー１３を鎖線で描いて透視的に図示している。カバー１３の前面の図１中右上部には、液晶パネルや操作ボタンを備える操作パネル１４が配設されている。
【００３８】
［プラテンの構成］
図２は、プラテンの構成を示す平面図であり、図３は、図２におけるＡ−Ａ断面図である。図２及び図３において、鎖線で示された布帛５０は木綿布素材のＴシャツであり、胸部又は背部の印刷したい面がプラテン１２上にセットされる。即ち、筒状又は袋状をなす布帛５０の開口部（Ｔシャツの裾部）からプラテン１２が相対的に挿入されるようにして、布帛５０をプラテン１２に被せることになる。
【００３９】
図２及び図３に示すように、布帛５０を設置する支持部であるプラテン１２は、一般的に金属製で略正方形の板状に形成され、例えば一辺が５０ｃｍ〜６０ｃｍ程度のものである。そして、このプラテン１２の上面１２ａには、シート状部材である木綿布４０が、例えば両面接着テープにより取り替え可能に貼付されている。なお、木綿布４０の裏面に粘着テープ付き又は粘着層を有するもの、或いは木綿布４０を適宜な係止具を介してプラテン１２の上面１２ａに載置する構成でもよい。また、木綿布４０は、その素材繊維や織り方などが実質的に一様なものである。
【００４０】
なお、シート状部材としては、木綿布４０以外にも、多少毛羽立ちのある繊維、例えば綿、綿混紡、ウール、ウール混紡、化学繊維などを素材とした織布或いは不織布などが使用可能である。また、セーム皮などの皮革類、ゴム類や軟質合成樹脂類のシートなども使用可能である。
【００４１】
そして、木綿布４０は、この表面にセットされる布帛５０に対して静止摩擦力を発生させる。Ａ４サイズ６２３．７ｃｍ2の厚手のメリヤス編み布帛を互いに密着させると、約３０ｇ重の水平方向の力を保持することができる。ここから、０．０４８（ｃｍ2／ｇ）という値が得られる。これに基づいて算出すると、シート状部材の静止摩擦係数は、セットされる布帛の材質種類により異なるが、０．０２５〜０．１が好ましい範囲である。
【００４２】
図２及び図３に示すように、木綿布４０はプラテン１２の外形よりも若干小さく形成されている。即ち、プラテン１２の上面１２ａにおける四辺の各端部１２ｂは、幅ｓの領域でプラテン１２が露出している。領域の幅ｓは１ｍｍ〜１０ｍｍが好ましく、さらに好ましくは約５ｍｍ程度である。また、プラテン１２の各端部１２ｂの上側部分は、円弧状となるようにＲ面加工が施されている。
【００４３】
［プラテン上での布帛の保持作用］
続いて、プラテン１２上での布帛５０の保持作用について以下に説明する。図４は、プラテンの要部を示す図２におけるＢ−Ｂ拡大断面図であり、（ａ）は布帛の取付け、位置合わせ及び取外し時の状態を示した図であり、（ｂ）は布帛の皺が除去される状態を示した図であり、（ｃ）は布帛が平坦に保持された状態を示した図であり、（ｄ）は比較例としてプラテンの端部にＲ面加工がない場合の状態を示した図である。
【００４４】
まず、図４（ａ）に示すように、プラテン１２の端部１２ｂの領域には木綿布４０が存在せず、この端部１２ｂにおいては静止摩擦力が実質的に働かない。このため、布帛５０がプラテン１２より大きい場合でも、プラテン１２の端部１２ｂの領域に接触する布帛５０の側部５０ａ（もう一方の側部も同様）に対しては実質的に摩擦力の影響がない。これにより、プラテン１２に対する布帛５０の取付け、位置合わせ及び取外しの際に、布帛５０をプラテン１２上の木綿布４０から浮かして布帛５０の側部５０ａだけをプラテン１２の端部１２ｂの領域に接触させれば、布帛５０の側部５０ａをスムーズに滑らすことが可能となる。これにより、布帛５０の取付け、位置合わせ及び取外しが容易となり、作業性を大幅に向上させることができる。
【００４５】
次に、図４（ｂ）に示すように、布帛５０をプラテン１２上に降ろしてセットした際に、木綿布４０によって布帛５０に対して静止摩擦力が働くので、この摩擦力によって布帛５０が保持される。ここで布帛５０に皺Ｐが生じていても、粘着力による保持と異なり単に摩擦力による保持なので、図４（ｂ）に矢印で示すように、手で軽く布帛５０の表面を撫でるだけで、図４（ｃ）に示すように、皺Ｐを伸ばして布帛５０の凹凸を簡単に均一に除去することができる。そして、この状態で大きな摩擦力により布帛５０の平面度を確実に保持することができる。
【００４６】
また、木綿布４０は粘着力でなく単に摩擦力により布帛５０を保持しているので、その木綿布４０は埃などが付着し難く、頻繁に清掃する必要がない。なお、埃などが溜まった場合でも、叩くだけで容易に除去清掃することができる。また、この木綿布４０は汚れたら新しいものと取り替えることができ、メンテナンスも容易である。さらに、セットされる布帛５０の素材種類に応じて、別のシート状部材に取り替えることによって、汎用性を高めることができる。
【００４７】
なお、プラテン１２の端部１２ｂがＲ面となっているので、前述した図４（ａ）の状態の際に、Ｒ面によって布帛５０の側部５０ａをさらにスムーズに滑らすことが可能となる。また、図４（ｄ）に示すように、プラテン１２の端部１２ｂにＲ面がない場合、布帛５０をプラテン１２上にセットした際に、布帛５０の側部５０ａがプラテン１２の端部１２ｂの角縁に引っ掛かり、布帛５０の側部５０ａが盛り上がってしまう危惧がある。これに対して、図４（ｃ）に示すように、プラテン１２の端部１２ｂがＲ面となっていると、このＲ面に沿って布帛５０の側部５０ａを滑らかに屈曲させることができ、布帛５０の側部５０ａが盛り上がるのを防止することができる。これにより、インクジェットヘッド５のヘッド面が布帛５０に接触するような不具合を防止することができる。
【００４８】
なお、図１で前述したように、プラテン１２はインクジェットヘッド５に対して前方の初期位置まで移動可能であるから、プラテン１２に対する布帛５０の取付け、位置合わせ及び取外し作業が行い易くなる。
【００４９】
次に、図５の（ａ）〜（ｄ）は、シート状部材の変形例を示すプラテンの平面図である。上述した実施の形態においては、プラテン１２上のシート状部材として、実質的に一様な摩擦力を発揮する木綿布４０を貼付した例について説明したが、摩擦力が必ずしも一様でなくてもよい。即ち、プラテン１２上のシート状部材として、（ａ）は市松模様の木綿布４１、（ｂ）は散点模様の木綿布４２、（ｃ）はストライプ模様の木綿布４３、（ｄ）は円環状模様の木綿布４４を設けたものである。これらの模様は素材繊維や織り方を部分的に変えることにより形成することができる。このように、摩擦力が部分的に異なるようなシート状部材でもよい。更に、木綿布以外の材質によるシート状部材でもよく、例えば、綿混紡、ウール、ウール混紡不織布、化繊材、皮革類（セーム皮など）、樹脂、ゴム類などのシート状部材を適用することが可能であり、これらシート状部材は被印刷媒体の材質との相性によって選択すればよい。
【００５０】
なお、以上説明した実施の形態は、プラテン１２上にシート状部材を貼付したものだが、プラテン１２の表面自体が静止摩擦力を発揮するように構成してもよい。例えば、プラテン１２の表面を粗面に加工するなどである。一方、シート状部材を貼付又は載置するだけでなく、板状、箱状の部材をはめ込み式、埋め込み式として脱着可能にすることも可能である。また、前述したように、摩擦力を実質的に一様或いは部分的にしてもよい。この場合でも、布帛５０を摩擦力によって保持することが可能である。但し、プラテン１２の表面に突起部などを形成するものは、スムーズな皺取りの点から好ましくない。
【００５１】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな設計変更が可能なものである。例えば、実施の形態においては、プラテンの四辺の各端部に摩擦力が働かない領域を設けたが、プラテンにセットされるのがＴシャツのような筒状又は袋状の布帛の場合、摩擦力が働かない領域は、布帛の挿脱方向と直交する方向における両端部だけでもよい。また、セットされる布帛としては、Ｔシャツのような筒状又は袋状の布帛のみならず、大小にかかわらずハンカチのような一片の布帛であってもよい。また、布帛の保持に特殊な機構を必要としないので、例えばフレームで押える或いはクリップで挟む等、他の布帛固定方法との併用も可能である。
【００５２】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項１および８の発明によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の布帛に対する大きな静止摩擦力によって布帛を保持することができる。粘着力による保持と異なり単に摩擦力による保持なので、手で軽く布帛の表面を撫でて皺を伸ばすだけで布帛の凹凸を簡単に除去することができ、この状態で摩擦力により布帛を平面度よく確実に保持することができる。これにより、布帛の皺取りの作業性を大幅に向上させることができる。またこの際、粘着力による保持と違い、布帛に毛羽立ち等が発生する危惧もない。
【００５３】
また、支持面は粘着力でなく単に摩擦力により布帛を保持しているので、その支持面は埃などが付着し難く、頻繁に清掃する必要がない。また、埃などが溜まった場合でも、叩くだけで容易に除去清掃することができる。従って、メンテナンス性が良好で低コストでもある。
【００５４】
また、支持面の少なくとも両端部における静止摩擦力を相対的に小さくすることによって、布帛が支持面より大きい場合でも、支持面の両端部に接触する布帛の両側部分に対しては実質的に摩擦力の影響をなくすことができる。これにより、布帛を支持面から浮かして布帛の両側部分だけを支持面の両端部に接触させれば、布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。従って、布帛の取付け、位置合わせ及び取外しが容易となり、作業性を大幅に向上させることができる。
また、請求項２及び９の発明によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に取り除くことができる。
また、請求項３及び１０の発明によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が均一に働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に均一に取り除くことができる。
また、請求項４及び１１の発明によると、支持面上のシート状部材によって布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、前述と同様に布帛の皺を簡単に伸ばすことによって布帛の凹凸が除去され、この状態で摩擦力により布帛の平面度が保持される。また、このシート状部材は、汚れたら新しいものと取り替えることが可能で、メンテナンスも容易である。さらに、シート状部材を用いる場合は、設置される布帛の素材種類に応じて取り替えられるので、汎用性が高い。
また、請求項５の発明によると、布帛に対する静止摩擦力の小さい両端部近傍領域を適切に設定することによって、この両端部近傍領域を除いた領域における布帛の保持面積を充分に大きく確保し、かつ、両端部近傍領域では前述と同様に布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。
【００５５】
また、請求項６の発明によると、布帛の両側部分をさらにスムーズに滑らすことが可能となる。さらに、布帛を支持面にセットした際に、両端部の円弧状の部分によって、布帛の両側部分の盛り上がりが防止されるので、インク吐出部のヘッド面が布帛に接触するような不具合を防止することができる。
また、請求項７の発明によると、プラテンに布帛をセットした後、布帛をインク吐出部の位置に移動させることによって、布帛の取付け、位置合わせ及び取外し作業が行い易くなる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタの全体的な構成を示す正面図である。
【図２】 図１に示すプラテンの構成を示す平面図である。
【図３】 図２におけるＡ−Ａ断面図である。
【図４】 プラテンの要部を示す図２におけるＢ−Ｂ拡大断面図であり、（ａ）は布帛の取付け、位置合わせ及び取外し時の状態を示した図であり、（ｂ）は布帛の皺が除去される状態を示した図であり、（ｃ）は布帛が平坦に保持された状態を示した図であり、（ｄ）は比較例としてプラテンの端部にＲ面加工がない場合の状態を示した図である。
【図５】 （ａ）〜（ｄ）はそれぞれシート状部材の変形例を示すプラテンの平面図である。
【符号の説明】
１ インクジェットプリンタ
４ キャリッジ
５ インクジェットヘッド
１１ スライド機構
１２ プラテン（支持部）
１２ａ プラテンの上面（支持面）
１２ｂ プラテンの端部
４０，４１，４２，４３，４４ 木綿布（シート状部材）
５０ 布帛
５０ａ 布帛の側部
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラテンの支持面上にセットされた布帛にインクを吐出して所望画像を印刷する布帛印刷装置に関する。
【０００２】
【従来の技術】
この種の布帛印刷装置においては、紙等への印刷と異なり、布帛をセットする支持部いわゆるプラテンの上面への布帛の固定が難しい。即ち、布帛の場合は表面に皺による凹凸が発生し易く、布帛の平面度が損なわれ易い。そして、プラテン上で布帛が平坦に保持されていないと、インクを吐出しての印刷精度が劣化してしまい、場合によってはインク吐出ヘッドが布帛に接触するような事態も発生する。
【０００３】
このような布帛印刷における布帛の保持として、例えば、特許文献１には、インクジェット捺染装置において、金属製無端ベルトに粘着性を有する両面テープもしくはシートを貼り付けて、その粘着力により布帛を固定して搬送するものが記載されている。この粘着性両面テープもしくはシートは、内側（搬送ベルト側）が強粘着性で外側（布帛側）が弱粘着性の粘着層にて形成されており、両端が貼り合わされたリング状に形成されている。布帛は、別途設けられた貼り付けローラによって粘着シートを介して搬送ベルトに固着され、捺染時の布帛の平坦性が確保される構成となっている。また、粘着シートの粘着力が劣化した場合には、両面粘着シートの貼り替えが可能となっている。
【０００４】
また、特許文献２には、インクジェット捺染装置において、金属製無端ベルトに両面接着シート（接着フィルム）が貼り付けられ、この両面接着シートに布帛を接着して搬送する方法が記載されている。両面接着シートの粘着力が劣化した時には、このシートを剥がして、新しい両面接着シートを近傍に設置されているロールから引き出して搬送ベルトに貼り付けることができる構成となっている。
【０００５】
【特許文献１】
特開２０００−１９８９７０号公報
【特許文献２】
特開平６−２２０７８１号公報
【０００６】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献１及び特許文献２に記載のものは何れも、粘着性のあるシートをベルトに貼付して、その粘着力により布帛を固定して搬送するものである。このため、プラテン上に布帛をセットするような布帛印刷装置において、プラテンの表面に粘着シートを設け、この粘着シート上に布帛をセットするように構成すると、次のような問題が生じてくる。
【０００７】
即ち、粘着力により布帛を保持する構成においては、布帛に皺による凹凸が生じた場合、その布帛を端から粘着力に抗して引き剥がし、皺が発生しないように慎重にプラテン上に再度セットする必要がある。このため、布帛のセット及び位置合わせの作業性が極めて悪くなるという問題が生じる。また、布帛の皺取りや印刷後の布帛の除去の際に、布帛を粘着力に抗して引き剥がすので、布帛に毛羽立ち等が発生し易いという問題もある。
【０００８】
また、プラテンの表面に粘着シートを設けると、埃や布帛から発生する毛羽等が粘着シートに付着し易く、頻繁にプラテン表面をクリーニングしたり、または頻繁に粘着シートを交換する必要がある。このため、コスト高になると共にメンテナンス性が悪化するという問題も生じる。
【０００９】
そこで、本発明は、プラテンの支持面上にセットされた布帛の皺を簡単に除去して凹凸を無くし布帛を平面度よく確実に保持することができ、しかもその作業性に優れメンテナンス性も良好な布帛印刷装置を提供することを目的とする。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項１に記載の布帛印刷装置は、布帛をセット及び除去可能であって、布帛のセットのために布帛を下方から支持する支持面を有しているプラテンと、前記支持面上の布帛にインクを吐出するインク吐出部とを備えており、前記プラテンは、前記支持面の中央領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の少なくとも一方向における両端部近傍領域の布帛に対する静止摩擦係数よりも大きい部分を有することを特徴とするものである。
【００１１】
このような構成によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の中央領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が働く部分があるので、この摩擦力によって布帛が保持される。粘着力による保持と異なり単に摩擦力による保持なので、手で軽く布帛の表面を撫でて皺を伸ばすだけで布帛の凹凸が除去され、この状態で摩擦力により布帛の平面度が保持される。
【００１２】
また、支持面の少なくとも両端部近傍領域における静止摩擦力は相対的に小さいので、布帛が支持面より大きい場合でも、支持面の両端部近傍領域に接触する布帛の両側部分に対しては実質的に摩擦力の影響がない。これにより、プラテンに対する布帛の取付け、位置合わせ及び取外しの際に、布帛を支持面から浮かして布帛の両側部分だけを支持面の両端部近傍領域に接触させれば、布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。これにより、布帛の取付け、位置合わせ及び取外しが容易となる。
【００１３】
また、支持面は粘着力でなく単に摩擦力により布帛を保持しているので、その支持面は埃などが付着し難く、頻繁に清掃する必要がない。
【００１４】
本発明の請求項２に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンにおいては、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の前記両端部近傍領域における布帛に対する静止摩擦係数よりも大きいことを特徴とするものである。
【００１５】
このような構成によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に取り除くことができる。
【００１６】
本発明の請求項３に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンにおいては、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、当該領域内において実質的に一様であることを特徴とするものである。
【００１７】
このような構成によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が均一に働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に均一に取り除くことができる。
【００１８】
本発明の請求項４に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンには、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域に、シート状部材が貼付又は載置されていることを特徴とするものである。
【００１９】
このような構成によると、支持面上のシート状部材によって布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、前述と同様に布帛の皺を簡単に伸ばすことによって布帛の凹凸が除去され、この状態で摩擦力により布帛の平面度が保持される。また、このシート状部材は、汚れたら新しいものと取り替えることが可能で、メンテナンスも容易である。さらに、シート状部材を用いる場合は、セットされる布帛の素材種類に応じて取り替えられるので、汎用性が高い。
【００２０】
本発明の請求項５に記載の布帛印刷装置は、前記両端部近傍領域が、各端部から１ｍｍ〜１０ｍｍ離れた位置までの領域であることを特徴とするものである。
【００２１】
このような構成によると、布帛に対する静止摩擦力の小さい両端部近傍領域を適切に設定することによって、この両端部近傍領域を除いた領域における布帛の保持面積を充分に大きく確保し、かつ、両端部近傍領域では前述と同様に布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。
【００２２】
本発明の請求項６に記載の布帛印刷装置は、前記支持面の前記少なくとも一方向における両端部の上側部分が、円弧状となっていることを特徴とするものである。
【００２３】
このような構成によると、プラテンの両端部の円弧状の部分において、布帛の両側部分をさらにスムーズに滑らすことが可能となる。また、布帛を支持面にセットした際に、両端部の円弧状の部分によって、布帛の両側部分の盛り上がりが防止される。
【００２４】
本発明の請求項７に記載の布帛印刷装置は、前記プラテンが、前記布帛をセットする位置と前記インク吐出部により印刷が行われる位置との間を相対的に移動可能であることを特徴とするものである。
【００２５】
このような構成によると、プラテンに布帛をセットした後、布帛をインク吐出部の位置に移動させることによって、布帛の取付け、位置合わせ及び取外し作業が行い易くなる。
本発明の請求項８に記載のプラテンは、布帛をセット及び除去可能であって、布帛のセットのために布帛を下方から支持する支持面を有しているプラテンと、前記支持面上の布帛にインクを吐出するインク吐出部とを備え、支持面上の布帛に印刷を行う布帛印刷装置に使用されるプラテンであって、前記支持面の中央領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の少なくとも一方向における両端部近傍領域の布帛に対する静止摩擦係数よりも大きい部分を有することを特徴とする。
本発明の請求項９に記載のプラテンは、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の前記両端部近傍領域における布帛に対する静止摩擦係数よりも大きいことを特徴とする。
本発明の請求項１０に記載のプラテンは、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、当該領域内において実質的に一様であることを特徴とする。
本発明の請求項１１に記載のプラテンは、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域に、シート状部材が貼付又は載置されていることを特徴とする。
【００２６】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を説明する。なお、本実施の形態に係る布帛印刷装置は、いわゆるインクジェットプリンタである。
【００２７】
［プリンタ全体構成］
図１は、本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタの全体的な構成を示す正面図である。図１に示すようにインクジェットプリンタ１は、枠体上のフレーム２を備えている。フレーム２は、プリンタ１の底部に位置する水平部２ｈと、水平部２ｈの両端から垂直に立ち上がる垂直部２ｖとを有している。
【００２８】
左右の垂直部２ｖの上部同士を連結するように、スライドレール３が水平に支架されている。スライドレール３にはキャリッジ４が、スライドレール３の長手方向（主走査方向）に沿って摺動自在に備えられている。このキャリッジ４の下面には、４色のインクを吐出させるために各色ごとに配設された計４個の圧電式のインクジェットヘッド５が設けられている。
【００２９】
左右の垂直部２ｖの上部にはそれぞれプーリ６，７が支持され、一側のプーリ６には、垂直部２ｖによって支持されるモータ８のモータ軸が連結されている。両プーリ６，７の間には無端ベルト９が架け渡されており、キャリッジ４はこの無端ベルト９の適宜の部分に固定される。
【００３０】
このような構成により、一側のプーリ６がモータ８の駆動により正逆回転されると、それに伴ってキャリッジ４がスライドレール３の長手方向（主走査方向）に沿って直線往復駆動され、この結果、インクジェットヘッド５の往復移動が行われる。
【００３１】
左右の垂直部２ｖには、インクタンク２０を着脱可能に搭載する搭載部１０が形成されている。２つの搭載部１０は２色ずつのインクタンク２０を装着できるようになっており、このインクタンク２０の内部に形成されているインク袋が可撓性チューブ２８によって、インクジェットヘッド５のそれぞれの上部に位置する４つのサブタンク３０と接続される。なお、４つのサブタンク３０はインクジェットヘッド５とそれぞれ連通しているため、インクタンク２０からインクジェットヘッド５にインクが供給される。
【００３２】
フレーム２の水平部２ｈの上にはスライド機構１１が設置され、このスライド機構１１の上にプラテン１２が支持される。このプラテン１２には布帛を、その印刷したい部分が上面に来るように位置決めして、且つピンと張った皺のない平坦な状態でセットできるようになっている。本実施の形態のインクジェットプリンタ１は、縫製済みＴシャツにインクジェット印刷を行うものである。
【００３３】
また、プラテン１２を図１の紙面垂直方向（スライド機構１１におけるスライド方向であって、インクジェットプリンタ１の副走査方向）に往復移動させるために、プラテン搬送機構が配設されている。このプラテン搬送機構については図示しないが、ラック、ピニオン機構や、無端ベルトを用いた機構などを適用することができる。
【００３４】
初期状態においてプラテン１２は前方（図１の紙面で表方向）に移動されており、作業者がプラテン１２に布帛をセットして、印刷開始指令を出すと、プラテン１２は後方（図１の紙面で裏方向）に移動される。そして、プラテン１２が前方に間欠移動されると共に、この間欠移動の間にインクジェットヘッド５が往復移動されて、布帛への印刷が行われる。そして、印刷が終了すると、プラテン１２は前方の初期位置まで移動される。ここで作業者がプラテン１２から布帛を取外す。
【００３５】
図１に示すように、４個のインクジェットヘッド５は、４色のインク（マゼンタ、イエロー、シアン、ブラック）に対応して、キャリッジ４の往復移動方向に沿って並設されており、それぞれに対応したインクタンク２０と可撓性チューブ２８でサブタンク３０を介して連結されている。
【００３６】
インクジェットヘッド５は、その下面がプラテン１２の上面との間に少量の隙間を形成するように配置されており、布帛に画像を印刷する際にプラテン１２にセットされた布帛の印刷したい部分がその隙間に搬送される。この構成で、インクジェットヘッド５がキャリッジ４によって往復移動されつつ布帛上に吐出ノズルから各色のインクを吐出することで、所望のカラー画像を布帛に形成できるようになっている。
【００３７】
また、インクジェットプリンタ１はカバー１３を備えており、インクジェットヘッド５やスライド機構１１等を覆って保護できるようになっている。なお、図１においては、カバー１３の内部の様子を詳細に示すために、カバー１３を鎖線で描いて透視的に図示している。カバー１３の前面の図１中右上部には、液晶パネルや操作ボタンを備える操作パネル１４が配設されている。
【００３８】
［プラテンの構成］
図２は、プラテンの構成を示す平面図であり、図３は、図２におけるＡ−Ａ断面図である。図２及び図３において、鎖線で示された布帛５０は木綿布素材のＴシャツであり、胸部又は背部の印刷したい面がプラテン１２上にセットされる。即ち、筒状又は袋状をなす布帛５０の開口部（Ｔシャツの裾部）からプラテン１２が相対的に挿入されるようにして、布帛５０をプラテン１２に被せることになる。
【００３９】
図２及び図３に示すように、布帛５０を設置する支持部であるプラテン１２は、一般的に金属製で略正方形の板状に形成され、例えば一辺が５０ｃｍ〜６０ｃｍ程度のものである。そして、このプラテン１２の上面１２ａには、シート状部材である木綿布４０が、例えば両面接着テープにより取り替え可能に貼付されている。なお、木綿布４０の裏面に粘着テープ付き又は粘着層を有するもの、或いは木綿布４０を適宜な係止具を介してプラテン１２の上面１２ａに載置する構成でもよい。また、木綿布４０は、その素材繊維や織り方などが実質的に一様なものである。
【００４０】
なお、シート状部材としては、木綿布４０以外にも、多少毛羽立ちのある繊維、例えば綿、綿混紡、ウール、ウール混紡、化学繊維などを素材とした織布或いは不織布などが使用可能である。また、セーム皮などの皮革類、ゴム類や軟質合成樹脂類のシートなども使用可能である。
【００４１】
そして、木綿布４０は、この表面にセットされる布帛５０に対して静止摩擦力を発生させる。Ａ４サイズ６２３．７ｃｍ2の厚手のメリヤス編み布帛を互いに密着させると、約３０ｇ重の水平方向の力を保持することができる。ここから、０．０４８（ｃｍ2／ｇ）という値が得られる。これに基づいて算出すると、シート状部材の静止摩擦係数は、セットされる布帛の材質種類により異なるが、０．０２５〜０．１が好ましい範囲である。
【００４２】
図２及び図３に示すように、木綿布４０はプラテン１２の外形よりも若干小さく形成されている。即ち、プラテン１２の上面１２ａにおける四辺の各端部１２ｂは、幅ｓの領域でプラテン１２が露出している。領域の幅ｓは１ｍｍ〜１０ｍｍが好ましく、さらに好ましくは約５ｍｍ程度である。また、プラテン１２の各端部１２ｂの上側部分は、円弧状となるようにＲ面加工が施されている。
【００４３】
［プラテン上での布帛の保持作用］
続いて、プラテン１２上での布帛５０の保持作用について以下に説明する。図４は、プラテンの要部を示す図２におけるＢ−Ｂ拡大断面図であり、（ａ）は布帛の取付け、位置合わせ及び取外し時の状態を示した図であり、（ｂ）は布帛の皺が除去される状態を示した図であり、（ｃ）は布帛が平坦に保持された状態を示した図であり、（ｄ）は比較例としてプラテンの端部にＲ面加工がない場合の状態を示した図である。
【００４４】
まず、図４（ａ）に示すように、プラテン１２の端部１２ｂの領域には木綿布４０が存在せず、この端部１２ｂにおいては静止摩擦力が実質的に働かない。このため、布帛５０がプラテン１２より大きい場合でも、プラテン１２の端部１２ｂの領域に接触する布帛５０の側部５０ａ（もう一方の側部も同様）に対しては実質的に摩擦力の影響がない。これにより、プラテン１２に対する布帛５０の取付け、位置合わせ及び取外しの際に、布帛５０をプラテン１２上の木綿布４０から浮かして布帛５０の側部５０ａだけをプラテン１２の端部１２ｂの領域に接触させれば、布帛５０の側部５０ａをスムーズに滑らすことが可能となる。これにより、布帛５０の取付け、位置合わせ及び取外しが容易となり、作業性を大幅に向上させることができる。
【００４５】
次に、図４（ｂ）に示すように、布帛５０をプラテン１２上に降ろしてセットした際に、木綿布４０によって布帛５０に対して静止摩擦力が働くので、この摩擦力によって布帛５０が保持される。ここで布帛５０に皺Ｐが生じていても、粘着力による保持と異なり単に摩擦力による保持なので、図４（ｂ）に矢印で示すように、手で軽く布帛５０の表面を撫でるだけで、図４（ｃ）に示すように、皺Ｐを伸ばして布帛５０の凹凸を簡単に均一に除去することができる。そして、この状態で大きな摩擦力により布帛５０の平面度を確実に保持することができる。
【００４６】
また、木綿布４０は粘着力でなく単に摩擦力により布帛５０を保持しているので、その木綿布４０は埃などが付着し難く、頻繁に清掃する必要がない。なお、埃などが溜まった場合でも、叩くだけで容易に除去清掃することができる。また、この木綿布４０は汚れたら新しいものと取り替えることができ、メンテナンスも容易である。さらに、セットされる布帛５０の素材種類に応じて、別のシート状部材に取り替えることによって、汎用性を高めることができる。
【００４７】
なお、プラテン１２の端部１２ｂがＲ面となっているので、前述した図４（ａ）の状態の際に、Ｒ面によって布帛５０の側部５０ａをさらにスムーズに滑らすことが可能となる。また、図４（ｄ）に示すように、プラテン１２の端部１２ｂにＲ面がない場合、布帛５０をプラテン１２上にセットした際に、布帛５０の側部５０ａがプラテン１２の端部１２ｂの角縁に引っ掛かり、布帛５０の側部５０ａが盛り上がってしまう危惧がある。これに対して、図４（ｃ）に示すように、プラテン１２の端部１２ｂがＲ面となっていると、このＲ面に沿って布帛５０の側部５０ａを滑らかに屈曲させることができ、布帛５０の側部５０ａが盛り上がるのを防止することができる。これにより、インクジェットヘッド５のヘッド面が布帛５０に接触するような不具合を防止することができる。
【００４８】
なお、図１で前述したように、プラテン１２はインクジェットヘッド５に対して前方の初期位置まで移動可能であるから、プラテン１２に対する布帛５０の取付け、位置合わせ及び取外し作業が行い易くなる。
【００４９】
次に、図５の（ａ）〜（ｄ）は、シート状部材の変形例を示すプラテンの平面図である。上述した実施の形態においては、プラテン１２上のシート状部材として、実質的に一様な摩擦力を発揮する木綿布４０を貼付した例について説明したが、摩擦力が必ずしも一様でなくてもよい。即ち、プラテン１２上のシート状部材として、（ａ）は市松模様の木綿布４１、（ｂ）は散点模様の木綿布４２、（ｃ）はストライプ模様の木綿布４３、（ｄ）は円環状模様の木綿布４４を設けたものである。これらの模様は素材繊維や織り方を部分的に変えることにより形成することができる。このように、摩擦力が部分的に異なるようなシート状部材でもよい。更に、木綿布以外の材質によるシート状部材でもよく、例えば、綿混紡、ウール、ウール混紡不織布、化繊材、皮革類（セーム皮など）、樹脂、ゴム類などのシート状部材を適用することが可能であり、これらシート状部材は被印刷媒体の材質との相性によって選択すればよい。
【００５０】
なお、以上説明した実施の形態は、プラテン１２上にシート状部材を貼付したものだが、プラテン１２の表面自体が静止摩擦力を発揮するように構成してもよい。例えば、プラテン１２の表面を粗面に加工するなどである。一方、シート状部材を貼付又は載置するだけでなく、板状、箱状の部材をはめ込み式、埋め込み式として脱着可能にすることも可能である。また、前述したように、摩擦力を実質的に一様或いは部分的にしてもよい。この場合でも、布帛５０を摩擦力によって保持することが可能である。但し、プラテン１２の表面に突起部などを形成するものは、スムーズな皺取りの点から好ましくない。
【００５１】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな設計変更が可能なものである。例えば、実施の形態においては、プラテンの四辺の各端部に摩擦力が働かない領域を設けたが、プラテンにセットされるのがＴシャツのような筒状又は袋状の布帛の場合、摩擦力が働かない領域は、布帛の挿脱方向と直交する方向における両端部だけでもよい。また、セットされる布帛としては、Ｔシャツのような筒状又は袋状の布帛のみならず、大小にかかわらずハンカチのような一片の布帛であってもよい。また、布帛の保持に特殊な機構を必要としないので、例えばフレームで押える或いはクリップで挟む等、他の布帛固定方法との併用も可能である。
【００５２】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項１および８の発明によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の布帛に対する大きな静止摩擦力によって布帛を保持することができる。粘着力による保持と異なり単に摩擦力による保持なので、手で軽く布帛の表面を撫でて皺を伸ばすだけで布帛の凹凸を簡単に除去することができ、この状態で摩擦力により布帛を平面度よく確実に保持することができる。これにより、布帛の皺取りの作業性を大幅に向上させることができる。またこの際、粘着力による保持と違い、布帛に毛羽立ち等が発生する危惧もない。
【００５３】
また、支持面は粘着力でなく単に摩擦力により布帛を保持しているので、その支持面は埃などが付着し難く、頻繁に清掃する必要がない。また、埃などが溜まった場合でも、叩くだけで容易に除去清掃することができる。従って、メンテナンス性が良好で低コストでもある。
【００５４】
また、支持面の少なくとも両端部における静止摩擦力を相対的に小さくすることによって、布帛が支持面より大きい場合でも、支持面の両端部に接触する布帛の両側部分に対しては実質的に摩擦力の影響をなくすことができる。これにより、布帛を支持面から浮かして布帛の両側部分だけを支持面の両端部に接触させれば、布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。従って、布帛の取付け、位置合わせ及び取外しが容易となり、作業性を大幅に向上させることができる。
また、請求項２及び９の発明によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に取り除くことができる。
また、請求項３及び１０の発明によると、布帛をプラテンにセットした際に、支持面の両端部近傍領域を除いた領域の布帛に対して大きな静止摩擦力が均一に働くので、その領域における布帛の皺をより簡単に均一に取り除くことができる。
また、請求項４及び１１の発明によると、支持面上のシート状部材によって布帛に対して大きな静止摩擦力が働くので、前述と同様に布帛の皺を簡単に伸ばすことによって布帛の凹凸が除去され、この状態で摩擦力により布帛の平面度が保持される。また、このシート状部材は、汚れたら新しいものと取り替えることが可能で、メンテナンスも容易である。さらに、シート状部材を用いる場合は、設置される布帛の素材種類に応じて取り替えられるので、汎用性が高い。
また、請求項５の発明によると、布帛に対する静止摩擦力の小さい両端部近傍領域を適切に設定することによって、この両端部近傍領域を除いた領域における布帛の保持面積を充分に大きく確保し、かつ、両端部近傍領域では前述と同様に布帛の両側部分をスムーズに滑らすことが可能となる。
【００５５】
また、請求項６の発明によると、布帛の両側部分をさらにスムーズに滑らすことが可能となる。さらに、布帛を支持面にセットした際に、両端部の円弧状の部分によって、布帛の両側部分の盛り上がりが防止されるので、インク吐出部のヘッド面が布帛に接触するような不具合を防止することができる。
また、請求項７の発明によると、プラテンに布帛をセットした後、布帛をインク吐出部の位置に移動させることによって、布帛の取付け、位置合わせ及び取外し作業が行い易くなる。
【図面の簡単な説明】
【図１】 本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンタの全体的な構成を示す正面図である。
【図２】 図１に示すプラテンの構成を示す平面図である。
【図３】 図２におけるＡ−Ａ断面図である。
【図４】 プラテンの要部を示す図２におけるＢ−Ｂ拡大断面図であり、（ａ）は布帛の取付け、位置合わせ及び取外し時の状態を示した図であり、（ｂ）は布帛の皺が除去される状態を示した図であり、（ｃ）は布帛が平坦に保持された状態を示した図であり、（ｄ）は比較例としてプラテンの端部にＲ面加工がない場合の状態を示した図である。
【図５】 （ａ）〜（ｄ）はそれぞれシート状部材の変形例を示すプラテンの平面図である。
【符号の説明】
１ インクジェットプリンタ
４ キャリッジ
５ インクジェットヘッド
１１ スライド機構
１２ プラテン（支持部）
１２ａ プラテンの上面（支持面）
１２ｂ プラテンの端部
４０，４１，４２，４３，４４ 木綿布（シート状部材）
５０ 布帛
５０ａ 布帛の側部
Claims (11)
- 布帛をセット及び除去可能であって、布帛のセットのために布帛を下方から支持する支持面を有しているプラテンと、
前記支持面上の布帛にインクを吐出するインク吐出部とを備えており、
前記プラテンは、前記支持面の中央領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の少なくとも一方向における両端部近傍領域の布帛に対する静止摩擦係数よりも大きい部分を有することを特徴とする布帛印刷装置。 - 前記プラテンにおいては、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の前記両端部近傍領域における布帛に対する静止摩擦係数よりも大きいことを特徴とする請求項１に記載の布帛印刷装置。
- 前記プラテンにおいては、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、当該領域内において実質的に一様であることを特徴とする請求項２に記載の布帛印刷装置。
- 前記プラテンには、前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域に、シート状部材が貼付又は載置されていることを特徴とする請求項１〜３のいずれか１項に記載の布帛印刷装置。
- 前記両端部近傍領域が、各端部から１ｍｍ〜１０ｍｍ離れた位置までの領域であることを特徴とする請求項１〜４のいずれか１項に記載の布帛印刷装置。
- 前記支持面の前記少なくとも一方向における両端部の上側部分が、円弧状となっていることを特徴とする請求項１〜５のいずれか１項に記載の布帛印刷装置。
- 前記プラテンが、前記布帛をセットする位置と前記インク吐出部により印刷が行われる位置との間を相対的に移動可能であることを特徴とする請求項１〜６のいずれか１項に記載の布帛印刷装置。
- 布帛をセット及び除去可能であって、布帛のセットのために布帛を下方から支持する支持面を有しているプラテンと、前記支持面上の布帛にインクを吐出するインク吐出部とを備え、支持面上の布帛に印刷を行う布帛印刷装置に使用されるプラテンであって、
前記支持面の中央領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の少なくとも一方向における両端部近傍領域の布帛に対する静止摩擦係数よりも大きい部分を有することを特徴とするプラテン。 - 前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、前記支持面の前記両端部近傍領域における布帛に対する静止摩擦係数よりも大きいことを特徴とする請求項８に記載のプラテン。
- 前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域における布帛に対する静止摩擦係数が、当該領域内において実質的に一様であることを特徴とする請求項９に記載のプラテン。
- 前記支持面の前記両端部近傍領域を除いた領域に、シート状部材が貼付又は載置されていることを特徴とする請求項８〜１０のいずれかに記載のプラテン。
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