JP4054278B2 - 高強度コークスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コークスの製造方法に関し、詳しくは、コークス炉で乾留して得られるコークスの強度、歩留りを向上するためのコークス炉装入用配合炭の粉砕・調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高炉用コークスは、多数の銘柄の石炭を配合し粉砕した後、あるいは多数の銘柄の石炭をそれぞれ粉砕し配合した後、コークス炉に装入して乾留することにより製造される。この際、コークス炉に装入する配合炭の粒度は、3mm以下の質量比が70〜90%になるように粉砕を調整する。
【0003】
一般に、コークス炉に装入する石炭の微粉砕は、複数銘柄の石炭で構成される配合炭の性状を均一にするために行われ、所定の条件範囲では、石炭を微粉砕するほどコークス強度が向上することが知られている。
【0004】
しかし、石炭を微粉砕し過ぎると、コークス炉に装入する際に嵩密度の低下をもたらし、コークス強度が低下する要因となる。その理由は、コークス炉内の嵩密度の低下により、石炭粒子間の空隙が大きくなり、乾留過程で石炭粒子間の接着が悪化しコークス中に脆弱部が形成されるためである。また嵩密度低下により、コークス炉への石炭装入量が低下しコークスの生産性が低下するという問題も生じる。
【0005】
そこで、このようなコークス強度に大きく影響する石炭の粉砕や配合石炭の粒度調整の方法に関して、コークス強度向上の観点から幾つかの方法が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0006】
例えば、特許文献1には、2種類以上の石炭を石炭性状に応じて別々に粉砕し、性状別に粒度分布を調整する冶金用コークスの製造方法が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1記載の製造方法は、強度の低下を抑制しつつ気孔率の向上を図ることを目的とするものであり、この製造方法においては、コークス強度が所望のレベルに達しない恐れがある。
【0008】
また、特許文献2には、安価な石炭を大量に配合することを目的として、反射率(Ro)に応じて粉砕粒度を調整し、強度の高いコークスを製造する方法が開示されている。具体的には、反射率0.8未満の石炭を5mm篩下が実質的に100%でかつ3mm篩下が80%以上となるように微粉砕し、反射率0.8以上の石炭を全体として反射率が0.8%未満の石炭よりも粗くなるように粗粉砕する粉砕方法が記載されている。
【0009】
この特許文献2には、配合炭全体の粒度を3mm以下の質量比が80±5%にし、反射率0.8以上の石炭の中でも、ギーセラー流動性試験における最高流動度(MF)が3以上かつトータルイナート(JIS M8816「石炭の微細組織成分および反射率測定方法」に記載のイナーチニット成分の百分率)が20%未満の石炭を最も粗粉砕することが好ましいことが示されている。
【0010】
しかし、特許文献2記載の粉砕方法によっても、コークスの強度は、DIで83程度であり、所望強度のコークスが得られない恐れがある。
【0011】
特許文献3には、高強度コークスを得ることが可能なコークス炉装入用石炭として、非微粘結炭粒子を20〜80質量%含み、該粒子の粒径が所定の範囲にある石炭が記載されている。さらに、特許文献4及び5には、複数銘柄の石炭を性状(コークス化度)に応じて複数のグループに分け、所定粒度となるように粉砕してコークス炉装入用石炭を得る方法が記載されている。
【0012】
しかし、上記特許文献3、4及び5記載の石炭又は方法によっても、所望強度のコークスが得られない恐れがある。
【0013】
このように、コークスの製造においては、主として、各種銘柄の石炭を粉砕することにより、配合石炭の粒度が所定粒度となるように調整して、コークス特性の向上を図っているが、コークス強度の点でみると、上記特許文献記載のいずれの方法においても、期待する強度レベルに達しない恐れがある。
【0014】
【特許文献1】
特開平11−181441号公報
【特許文献2】
特開2000−336373号公報
【特許文献3】
特開2001−181644号公報
【特許文献4】
特開2001−181650号公報
【特許文献5】
特開2001−279254号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
上述のとおり、従来の石炭の粒度調整だけではコークス強度の向上に限界があり、また、上記特許文献2に記載されるような、石炭の組織中のイナート(軟化溶融しない不活性物質の組織)のトータル含有量(以下、トータルイナートという場合もある。)に基づく石炭の粉砕方法に関しても、十分なコークス強度が得られないという課題があった。しかし、高炉における操業の効率化および安定化の要求から、高炉用コークスのさらなる強度向上が求められている。
【0016】
そこで、本発明は、上述したような実情に鑑み、コークス炉に装入する配合炭における石炭のイナート組織の形態とコークス強度の関係に着目し、石炭のイナート組織のサイズに応じて配合炭の粉砕、配合を制御することにより、配合炭を構成する石炭銘柄または性状およびその配合質量比率を変えることなく、また石炭装入密度を低下させることなく、従来の強度限界を超える強度を有するコークスを製造する高強度コークスの製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0018】
(1) 1種または2種以上の異なる銘柄の石炭からなる配合炭をコークス炉に装入後、乾留してコークスを製造する方法において、
(A)石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比が異なる複数銘柄の石炭を用いて、粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%]、なお、αは中心値(X)に対する偏差を示す)および石炭装入密度(Y[乾炭ベース、t/m 3 ])が一定の条件で、粉砕した後の石炭における3mm以下の質量比がX−α%の場合およびX+α%の場合において、それぞれ乾留して得られたコークスの冷間強度(DI)を測定し、これらの差から粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])内におけるコークス強度の変化量(ΔDI150/15)を求め、
(B)複数銘柄の石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比と、粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])内におけるコークス強度の変化量ΔDI150/15との関係において、該ΔDI150/15が急激に変化した前記粗大イナート組織の累積体積比の臨界値を基準値Zとし、
(C)該基準値Z以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を、粉砕した後の3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比より2〜14%多くなるように粉砕し、かつ、前記基準値Z未満の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を、粉砕した後の3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比より2〜14%少なくなるように粉砕し、かつ該粉砕後の各銘柄の石炭を配合して得られる配合炭全体の粒度が配合炭全体の3mm以下の質量比が70%以上になるように配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【0019】
(2)1種または2種以上の異なる銘柄の石炭からなる配合炭をコークス炉に装入後、乾留してコークスを製造する方法において、
(A)石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比が異なる複数銘柄の石炭を用いて、粉砕後の石炭における6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%]、なお、βは中心値(X’)に対する偏差を示す)および石炭装入密度(Y[乾炭ベース、t/m 3 ])が一定の条件で、粉砕した後の石炭における6.7mm以上の質量比がX’−β%の場合およびX’+β%の場合において、それぞれ乾留して得られたコークスの冷間強度(DI)を測定し、これらの差から粉砕後の石炭における6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%])内におけるコークス強度の変化量(ΔDI150/15)を求め、
(B)複数銘柄の石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比と、粉砕後の石炭における6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%])内におけるコークス強度の変化量ΔDI150/15との関係において、該ΔDI150/15が急激に変化した前記粗大イナート組織の累積体積比の臨界値を基準値Zとし、
(C)該基準値Z以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を粉砕した後の6.7mm以上の質量比が配合炭全体の6.7mm以上の質量比より1〜10%少なくなるように粉砕し、かつ、前記基準値Z未満の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を、粉砕した後の6.7mm以上の質量比が配合炭全体の6.7mm以上の質量比より1〜10%多くなるように粉砕し、かつ該粉砕後の各銘柄の石炭を配合して得られる配合炭全体の粒度が配合炭全体の6.7mm以上の質量比が15%以下になるように配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
【0020】
(3)前記(C)において、前記基準値以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有し、かつ、全膨張率が35体積%以上である銘柄の石炭を、粉砕した後の3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比より2〜4%多くなるように粉砕することを特徴とする上記(1)に記載の高強度コークスの製造方法。
【0021】
(4)前記(C)において、前記基準値以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有し、かつ、全膨張率が35体積%以上である銘柄の石炭を、粉砕した後の6.7mm以上の質量比が配合炭全体の6.7mm以上の質量比より1〜4%少なくなるように粉砕することを特徴とする上記(2)に記載の高強度コークスの製造方法。
【0023】
(5)前記基準値が下記(1)式で示されることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の高強度コークスの製造方法。
【0024】
【数2】
【0025】
但し、Zは基準値(%)、Xは粉砕した後の石炭における3mm以下または6.7mm以上の質量比(%)の中心値、Yは石炭装入密度(乾炭ベース、t/m3)、a,b,cは少なくとも3条件以上の粉砕後の石炭における3mm以下または6.7mm以上の質量比(X)および石炭装入密度(Y)における基準値Zとの関係を求め、これらを基に設定される定数を示す。
【0030】
【発明の実施の形態】
石炭中に存在するイナート組織は、コークス炉での乾留過程で軟化溶融する組織(ビトリニット、およびエグジニット)に比べて揮発分が低く、乾留後のコークス中にほぼそのままの形態で残留する。そのため、石炭中に存在するイナート組織と軟化溶融する組織とでは、コークス炉での乾留時において収縮率が異なり、この収縮率の差によって両組織の界面に応力が発生し、コークス中に残留したイナート組織の内部あるいは周辺にクラックが発生する。
【0031】
図1に、コークス中に残留したイナート組織とその周辺の組織の一例を示す。
【0032】
コークス中に残留したイナート組織のサイズは、0.1μmから10mm程度の幅広い範囲で存在し、石炭中のイナート組織がほぼ同じ形態で残存したものである。ここで、イナート組織のサイズとは、イナートの絶対最大長のことである(以下、同様とする)。
【0033】
図1に示すように、コークス中に残留したmmオーダー(1.0mm以上)サイズの粗大イナート組織には、イナート組織の内部または周辺に、mmオーダー(1.0mm以上)サイズの大きなクラックが生成し得る。
【0034】
グリフィスの破壊条件式(例えば、「J.F.Knott(宮本博訳)、破壊力学の基礎、p.107、培風館(1977)」、参照)によると、大きなサイズのクラックは、小さなサイズのクラックよりも低い応力で進展・拡大するため、粗大イナート組織の内部あるいは周辺に生成したmmオーダーの大きなクラックは、コークスが衝撃を受けた際の脆性破壊の起点(欠陥)となりやすい。そのため、このようなmmオーダーの大きなクラックが多数存在するコークスは、著しく強度が低下し、容易に粉化する。
【0035】
そこで、本発明者は、コークスの強度低下の原因となるコークス中に生じる大きなクラックを低減させるためには、コークス炉に装入する前に石炭を粉砕処理して石炭中の粗大イナート組織のサイズを低減すれば良いことに着目し、各種銘柄の石炭を粉砕した後、コークス炉で乾留して得られたコークスの強度を測定し、石炭中に存在するイナート組織のサイズ(特定サイズのイナート組織の累積体積比)がコークスの強度(DI)に与える影響について調査した。
【0036】
図2に、種々の条件で石炭を粉砕してコークス炉で乾留した場合での、コークス中に残留したサイズが+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比とコークス強度(DI)との関係を示す。なお、この際、粉砕した石炭の炉装入密度を0.85t/m3一定とし、乾留して得られたコークス中に残留した全サイズのイナート組織の累積体積比を42%一定とした。前記全サイズのイナート組織の累積体積比(以下、総イナート比率という場合もある)は、JIS M8816(1992)に示される方法に準じて測定されるイナーチニットグループの容量百分率である。
【0037】
図2から、+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比が小さくなると、コークス強度(DI)が、著しく向上していることが解かる。
【0038】
また、同様に、図3には、種々の条件で石炭を粉砕してコークス炉で乾留した場合での、コークス中に残留した総イナート比率(全サイズのイナート組織の累積体積比)とコークス強度(DI)との関係を示す。なお、この際、粉砕した石炭の炉装入密度を0.85t/m3一定とし、乾留して得られたコークス中に残留した+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比は10%一定とした。
【0039】
図3から、コークス強度(DI)は、コークス中に残留した総イナート比率によらず、ほぼ一定(DI:85)であることが解かる。
【0040】
図2および3の結果は、コークス強度(DI)を支配する因子が、コークス中に残留した総イナート比率ではなく、+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比であることを意味している。
【0041】
さらに、図4には、コークス炉に装入する石炭の粉砕により、コークス中に残留した+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比を低減した場合としない場合とでの、コークス中におけるイナート組織の形態とコークス強度(DI)との対応関係を示す。なお、写真でマーキングされた部分が+1.5mmの粗大イナート組織である。
【0042】
この図からも、+1.5mmの粗大イナート組織の存在量(比)の低減が、コークス強度を著しく高めることが解かる。
【0043】
なお、図2〜4においては、コークス中に残留した+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比について調査したが、本発明者は、粗大イナート組織のサイズを+1.0mmとしても実験的に同様な結果を確認した。
【0044】
以上の本発明者の調査結果から、コークス中に残留したイナート組織において、+1.0mmの粗大イナート組織の存在量(累積体積比)の低減が、コークス強度を著しく高めることが判明した。この知見を基に、コークス炉装入前の石炭を粗大イナート組織の累積体積比に応じて粉砕制御することが、本発明における第1の特徴である。
【0045】
さらに、コークス炉に装入する石炭中のイナート組織の存在形態は、石炭の銘柄によって様々であり、石炭の銘柄に関わらず一様に粉砕するのが、必ずしも粗大イナート組織の粉砕、低減に有効に結びつかない恐れがある。
【0046】
そこで、本発明者は、実際の石炭の粉砕工程において、+1.0mmの粗大イナート組織をより効果的に粉砕し、その累積体積比を低減するため、各種銘柄の石炭におけるイナート組織の存在形態を調査した。
【0047】
図5は、粉砕前の石炭粒度(原炭粒度)と、コークス中に残留した総イナート比率、及び、+1.5mmのイナート組織の累積体積比との関係を示すものである。
【0048】
この図から、+6.7mmの石炭(原炭)中に、+1.5mmの粗大イナートが濃縮されていることが解かる。
【0049】
さらに、表1に、3つの銘柄について、総イナート比率と+1.5mmのイナート組織の累積体積比を調査した結果を示す。
【0050】
この表から、石炭の銘柄の違いにより、原炭中の+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比が大きく異なることが解かる。
【0051】
図5及び表1から、+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比は、石炭の銘柄又は石炭(原炭)の粒度によって、大きく異なることが判明した。なお、図5及び表1においては、+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比について調査したが、本発明者は、粗大イナート組織のサイズを+1.0mmとしても、その累積体積比は、+1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比と同じく、石炭の銘柄又は石炭粒度によって、大きく異なることを、実験的に確認した。
【0052】
そこで、本発明においては、上記実験結果及び確認を踏まえ、各種銘柄の石炭の中でも、特に、+1.0mmの粗大イナート組織が濃縮されている石炭を粉砕の対象とし、通常、石炭(原炭)は、JIS規格に従って作製された篩によって篩い分けられるので、JIS規格(JIS Z8801、網ふるい)における篩目6.7mm(呼び寸法)を、粉砕対象石炭の好ましい臨界粒径として採用した。また、石炭の銘柄としては、特に限定されず、本発明が実施可能な範囲であれば、公知のものを適宜選択して用いればよい。
【0053】
このように、JIS規格で規定する篩目で則り、石炭(原炭)を粉砕するための好ましい石炭粒径を+6.7mmと規定した点が、本発明における第2の特徴である。
【0054】
なお、発明者らは、+6.7mmよりも大きな呼び寸法の篩い、例えば+8.0mmや+9.5mmの石炭(原炭)粒子中にも粗大イナート組織が濃縮されていることを確認しているが、篩い目が大きくなるほど、前記石炭(原炭)粒子の存在割合は小さくなり、また、測定誤差も大きくなる。一方、+6.7mmよりも小さな呼び寸法の篩い、すなわち、+5.6mmや+4.75mmの石炭(原炭)粒子中にも粗大イナート組織がある程度は濃縮されているが、+6.7mmの石炭(原炭)粒子に比べると粗大イナート組織の濃縮度は低い。このような理由で、本発明においては、粉砕の対象とする石炭(原炭)粒度は、+6.7mmとするのが好ましい。
【0055】
本発明において、粗大イナート組織とは、そのサイズが絶対最大長さで1.0mm以上、好ましくは、1.5mm以上のイナート組織とする。これは、このようなサイズの粗大イナート組織を有するコークスは強度が低下する、つまり、ドラム試験での落下衝撃の際に、粗大イナート組織の内部又は周辺において大きなクラックが発生し、より早く進展、拡大するためである。
【0056】
また、本発明において、単一銘柄の石炭中またはコークス中に存在するイナート組織の量を表す指標として、イナート組織の累積体積比を用いる。
【0057】
通常、2次元断面における面積比は、3次元空間における体積比として扱うことができるので、顕微鏡による断面観察写真の画像解析などによりイナート組織の累積面積比を求め、これをイナート組織の累積体積比として扱うことができる。
【0058】
これは、JIS M8816(1992)の石炭の微細組織成分及び反射率測定方法において、研磨試料の2次元断面における各微細組織成分の含有率を容量百分率として扱うのと同様の考え方である。
【0059】
各銘柄の石炭を乾留して得られたコークス中に存在する粗大イナート組織の累積面積比を具体的に求める場合、例えば、以下のような方法によって求められる。
【0060】
(1)石炭を原炭のまま、あるいは所定粒度に粉砕した後、乾留しコークスを製造する。ここで乾留は、好ましくは、炉温を1000℃〜1300℃とし、炭中温度が700℃〜1200℃に到達するまで乾留することが好ましい。
【0061】
(2)コークスを採取し、その切断面を樹脂埋めして顕微鏡により写真撮影をする。
【0062】
(3)コークスの切断面写真において、絶対最大長が1mm以上の粗大イナート組織をマーキングし、画像解析ソフトを用いて、マーキングした領域(累積面積)が、切断面写真の全領域(面積)に占める割合Si(%)を計測する。
【0063】
(4)切断面写真において、コークス壁と気孔を2値化し、気孔の領域(累積面積)が切断面写真の全領域(面積)に占める割合Sp(%)を計測する。
【0064】
(5)切断面写真における粗大イナートの累積面積比:X(%)=Si/(100−Sp)×100を求める。
【0065】
なお、上記の方法は、石炭の乾留後にコークス中に存在する粗大イナート組織の累積体積比を測定する方法であるが、石炭中のイナート組織は、乾留によりコークス化してもほとんど変化せず、ほぼ同じ形態で残存するので、上記と同様な方法で、石炭中に存在する粗大イナート量を測定することもできる。
【0066】
石炭中に存在する粗大イナート量を上記の方法により測定する場合は、上記(3)において、「切断面写真の全領域(面積)」の代わりに、「観察領域内における石炭粒子の面積和」を用い、石炭粒子中の気孔は無視し得るほど少ない(Spはほぼ0%)ため上記(4)の工程は不要となる。この方法は、前者の方法よりもイナート組織の判別が容易であり、測定時間が短いという長所がある。しかし、発明者らの検討によると、石炭中のイナート組織は、コークス化してもほとんど同じ形態で残存するものの、厳密には、その一部は乾留過程において分離したり、あるいは溶融したりして、イナート組織のサイズが多少変わる場合がある。したがって、測定の容易性または測定精度・信頼性などの要求に応じて、どちらの方法を用いるかは、適宜選択すればよい。
【0067】
各銘柄の石炭の粉砕条件を決定するための指標となる、粗大イナート組織に関する基準値(所定のコークス強度向上効果を得るためのイナート組織累積体積比の臨界値。なお、この定義については後述する。)は、例えば、上記の方法などで測定された各銘柄の石炭中、または、当該石炭をコークス炉で乾留して得られたコークス中に存在する粗大イナート組織の累積体積比の測定値とコークス強度との関係に基づいて設定できる。
【0068】
本発明では、コークス炉装入前の配合炭を構成する各銘柄の石炭(原炭)を基準値に基づいて所定の粉砕条件で粉砕する、例えば、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭(原炭)については、他の銘柄の石炭(原炭)に比べて微粉砕を相対的に強めに実施するなどにより、コークス強度を所定強度まで向上することができる。ちなみに本願明細書において、配合炭とは、配合前の石炭を粉砕し、配合した石炭のことを意味する。
【0069】
しかし、上述した通り、コークス強度は、配合炭のコークス炉での装入密度によっても影響を受け、通常、嵩密度の低下にともない粒子間接着が悪化するため、コークス強度は低下する。
【0070】
したがって、このような問題をなくすため、各銘柄の石炭の配合割合に基づいて各銘柄の石炭の粉砕条件を調整するか、または、各銘柄の石炭の粉砕条件に基づいて各銘柄の石炭の配合割合を調整することにより、特定銘柄の石炭を粉砕後に配合炭全体のコークス炉での装入密度を所定値以上とすることが好ましい。例えば、粗大イナート組織の累積体積比が上記基準値以上の銘柄の石炭を微粉砕することにより配合炭全体のコークス炉での装入密度が低下するが、他の上記基準値未満の銘柄の石炭を粉砕しないか、または、粗粉砕することにより、配合炭全体の装入密度または粒度を所定範囲内に確保することができる。
【0071】
なお、コークス炉での配合炭全体の装入密度(または粉砕後の配合炭粒度)の基準値は、従来から知られているコークス強度と装入密度(または粉砕後の配合炭粒度)との関係から設定できる。
【0072】
なお、粗大イナート組織の累積体積比が上記基準値以上の銘柄の石炭を微粉砕した後、上記基準値未満の粗粉砕した銘柄の石炭と配合せずに単味で乾留しても高強度コークスを得ることができる場合は、微粉砕した石炭のみを乾留しても良い。
【0073】
微粉砕は、装入密度低下を招き、コークス強度低下の要因として作用するため、微粉砕による強度向上効果と装入密度低下効果の両方を考慮して、微粉砕した石炭のみを装入して乾留するか、粗粉砕した銘柄の石炭と組み合わせて配合して乾留するかを適宜選択するのが好ましい。
【0074】
次に、石炭(原炭)の粉砕条件を決定するための具体的な方法について説明する。
【0075】
本発明において、石炭(原炭)の粉砕により、石炭中またはコークス中の+1.0mmの粗大イナート組織の累積体積比を基準値未満に低減するが、この基準値は、石炭の銘柄や性状によって異なるので、あらかじめ、銘柄別又はグループ別に、粗大イナート組織の累積体積比とコークス強度との関係を求めておき、これに基づき上記基準値を設定する。
【0076】
通常、上記関係は、図6に模式的に示すように、コークス強度は、粗大イナート組織の累積体積比(Z)の増大に伴い、ほぼ直線的に減少するから、基準値は、例えば、粗大イナート組織の累積体積比の低減幅(X1−X2=ΔZ)とコークス強度(DI)の向上幅(DI2−DI1=ΔDI)に基づいて、以下のように設定することができる。
【0077】
図7に、粗大イナート組織の累積体積比(横軸)が異なる複数銘柄の石炭を用いて、これらを粉砕した後の3mm以下の石炭の質量比を、例えば、80%から90%に変化させた場合(この変化(増加)で、粗大イナート組織の低減程度がわかる。)のコークス冷間強度(DI)の変化(すなわち、3mm以下が90%の石炭を乾留して得られたコークスのDIと、3mm以下が80%の石炭を乾留して得られたコークスのDIの差:ΔDI150/15、縦軸)を調査した結果を示す。
【0078】
この図から、ある銘柄の石炭における粗大イナート組織の累積体積比を境に、粉砕による強度DI変化(ΔDI150/15)が急激に大きくなることが解かる。このような粗大イナート組織の累積体積比の境を、所定のコークス強度向上効果が得られるための基準値(臨界値)とする。
【0079】
すなわち、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭においては、石炭の粉砕による粗大イナート組織の累積体積比の低減によるコークス強度の増大量(向上幅)が大きく、一方、粗大イナート組織の累積体積比が基準値未満の銘柄の石炭においては、粗大イナート組織の累積体積比の低減によるコークス強度の増大量(向上幅)は小さい。
【0080】
このように、粗大イナート組織の累積体積比と石炭中3mm以下の質量比の所定範囲内におけるコークス強度の変化量との関係から、石炭の粗大イナート組織の累積体積比の低減(石炭の微粉砕強化)によりコークス強度の増大量が大きく変化するような粗大イナート組織の累積体積比の臨界値を上記基準値として採用することができる。
【0081】
なお、上記図7においては、粉砕による石炭中の粗大イナート組織の累積体積比低減に対するコークス強度向上量を評価するに当たって、その石炭粉砕粒度として3mm以下の質量比を用いたが、これに代えて6.7mm以上の質量比を採用し、同様な関係グラフを作成し基準値を決めることもできる。なお、石炭粉砕粒度として3mm以下の質量比は、通常のコークス製造操業において、原料の均一化または装入密度とコークス強度との関係から所定コークス強度を維持するための管理指標として用いられている。
【0082】
一方、上述のように+1.0mmの粗大イナート組織は、JIS規格(JISZ8801、網ふるい)における篩目で6.7mm以上の粒径の石炭(原炭)に濃縮されているため、粉砕による石炭中の粗大イナート組織低減に対するコークス強度向上量をより高い精度および信頼性をもって評価するために、粉砕石炭中の6.7mm以上の質量比を採用する方が好ましい。
【0083】
石炭粉砕粒度として6.7mm以上の質量比を採用して上記図7の関係グラフを作成する場合には、石炭中粗大イナート組織の累積体積比(横軸)が異なる複数銘柄の石炭を用いて、石炭粉砕後の6.7mm以上の質量比を10%から3%に変化させた場合(この変化(減少)で、石炭中粗大イナート組織の低減程度がわかる。)のコークス冷間強度(DI)の変化(すなわち、6.7mm以上が3%の石炭を乾留して得られたコークスのDIと、6.7mm以上が10%の石炭を乾留して得られたコークスのDIの差:ΔDI150/15、縦軸)から作成できる。
【0084】
本発明の実施形態において、例えば、以下のようにして各銘柄の石炭粉砕条件を決定するための指標として、粗大イナート組織の累積体積比に関する基準値を設定することができる。
【0085】
先ず、石炭中粗大イナート組織の累積体積比が異なる複数銘柄の石炭を用いて、粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])および石炭装入密度(Y[乾炭ベース、t/m3])が一定の条件で、図7に示すような粗大イナート組織の累積体積比と粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])内におけるコークス強度の変化量(ΔDI150/15)との関係グラフを作成し、ΔDI150/15が急激に変化した粗大イナート組織の累積体積比の臨界値を基準値とする。
【0086】
ΔDI150/15は、石炭装入密度Y[乾炭ベース、t/m3]を一定条件とし、粉砕した後の石炭における3mm以下の質量比がX−α%の場合およびX+α%の場合において、それぞれ乾留して得られたコークスの冷間強度(DI)を測定し、これらの差(ΔDI150/15)をとることにより求められる。なお、上記αは、粉砕した後の石炭における3mm以下の質量比の中心値(X)に対する偏差を示すが、コークスの冷間強度(DI)の変化量(ΔDI)が求まる範囲であれば、特に規定するものではない。
【0087】
なお、上記の実施形態は、石炭粉砕粒度として、3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])を採用した例であるが、これに代えて6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%])を用いても良く、この場合、上述の通り、粉砕による石炭中粗大イナート組織低減に対して、コークス強度向上量をより高い精度および信頼性をもって評価できる。
【0088】
この様に、各銘柄の石炭粉砕条件を決定するための指標となる、粗大イナート組織に関する基準値は、図7に示すような関係グラフでコークスの冷間強度(DI)の変化量(ΔDI)が大きいところ、つまり、微粉砕(粗大イナート組織の低減)によるコークス強度の向上効果が小さい領域において粗大イナート組織の累積体積比が設定されるため、この基準値の設定に多少のばらつきがあっても、コークス強度の向上効果に与える影響は無視できる。
【0089】
上記の通り、各銘柄の石炭粉砕条件を決定するための指標となる、粗大イナート組織の累積体積比に関する基準値は、粉砕した後の石炭粒度(3mm以下または6.7mm以上の質量比(XまたはX’))および石炭装入密度(Y)[乾炭ベース、t/m3]によって変化するが、予め、少なくとも3条件以上の粉砕後の石炭粒度(3mm以下または6.7mm以上の質量比(XまたはX’))および石炭装入密度(Y)[乾炭ベース、t/m3]における基準値との関係、すなわち図7に示すような関係グラフを求めておけば、上記基準値を前記XおよびYを変数とする計算式を基に設定することが可能となる。
【0090】
本発明者らの検討結果によれば、上記粗大イナート組織の累積体積比に関する基準値は以下のような式で表すことができる。
【0091】
【数3】
【0092】
ここで、Xは粉砕後の石炭における3mm以下または6.7mm以上の質量比(%)、Yは石炭装入密度(乾炭ベース、t/m3)、a,b,cはそれぞれ定数を示す。
【0093】
上記XおよびYにおいて、少なくとも3水準以上の条件でそれぞれ図7に示すような関係グラフを作成し、それぞれの粗大イナート量の基準値Z(%)を予め求めておくことにより上記(1)式は決められる。
【0094】
例えば、Xを3mm以下の質量比とし、その変化量(α)を5とし、水準1:X=80%、Y=0.80、水準2:X=85%、Y=0.85、水準3:X=82%、Y=0.81の3水準における図7に示すような関係グラフから、発明者らが求めた上記(1)式の各定数は、a=−0.4、b=20、c=27であった。
【0095】
また、Xを6.7mm以上の質量比とし、その変化量(α)を2とし、水準1:X=10%、Y=0.80、水準2:X=6%、Y=0.85、水準3:X=8%、Y=0.81の3水準における図7に示すような関係グラフから、発明者らが求めた上記(1)式の各定数は、a=0.6、b=20、c=−11であった。
【0096】
次に、上記基準値に基づいて各銘柄の石炭を所定粒度に粉砕する場合の実施形態として、その粉砕粒度範囲について説明する。
【0097】
前記粉砕の第1の実施形態としては、前記基準値以上の粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を粉砕した後の3mm以下の質量比をA(%)、前記基準値未満の粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を粉砕した後の3mm以下の質量比をB(%)、粉砕した後の配合炭全体の3mm以下の質量比をL(%)とする場合に、以下の関係を満足するように粉砕を行なう。
【0098】
【数4】
【0099】
前記粉砕の第2の実施形態としては、前記基準値以上の粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を粉砕した後の6.7mm以上の質量比をA’(%)、前記基準値未満の粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を粉砕した後の6.7mm以上の質量比をB’(%)、粉砕した後の配合炭全体の6.7mm以上の質量比をL’(%)とする場合に、以下の関係を満足するように粉砕を行なう。
【0100】
【数5】
【0101】
上記(2)または(3)式により、様々な配合炭粒度、装入密度に応じて、粗大イナート組織の累積体積比に関する基準値を規定することが可能であり、微粉砕を強化すべき石炭と微粉砕しない又は粗粉砕すべき石炭を様々な操業条件に応じて容易に判別することが可能となる。
【0102】
A<L+2、または、A’>L’−1の場合は、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭中、ひいては配合炭全体中の粗大イナート組織の累積体積比を十分に減らすことができないので、強度の高いコークスを得ることができにくくなり得る。一方、A>L+14、または、A’<L’−10の場合は、著しく微粉砕する必要があり、粉砕によるコークス強度向上効果に比べて、微粉の発生に起因する発塵量増大、炉壁へのカーボン付着などの操業上の問題発生、電力コストの増加、時間あたりの処理量の低下などを考慮すると工業的に得策でないため、好ましくない。
【0103】
したがって、本発明では、上記(2)式において、L+2≦A≦L+14を満足するように、つまり、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭を粉砕した後の3mm以下の質量比(A)が配合炭全体の3mm以下の質量比(L)より2〜14%多くなるように粉砕することを必要条件とする。
【0104】
または、上記(3)式において、L’−10≦A’≦L’−1を満足するように、つまり、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭を粉砕後、6.7mm以上の質量比(A’)が配合炭全体の6.7mm以上の質量比(L’)より1〜10%少なくなるように粉砕することを必要条件とする。
【0105】
また、B>L−2、または、B’<L’+1の場合は、粗い石炭粒子が少ないため、配合炭の装入密度が大きく低下する可能性があるため、好ましくない。一方、B<L−14、または、B’>L’+10の場合は、著しく粗い石炭粒子が多くなってしまい、コークス強度が低下し得るため好ましくない。
【0106】
したがって、本発明では、上記(2)式において、L−14≦B≦L−2を満足するように、つまり、粗大イナート組織の累積体積比が基準値未満の銘柄の石炭を粉砕した後の3mm以下の質量比(B)が配合炭全体の3mm以下の質量比(L)より2〜14%少なくなるように粉砕することを必要条件とする。
【0107】
または、上記(3)式において、L’+1≦B’≦L’+10を満足するように、つまり、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭を粉砕した後の6.7mm以上の質量比(B’)が配合炭全体の6.7mm以上の質量比(L’)より1〜10%多くなるように粉砕することを必要条件とする。
【0108】
また、配合炭全体の3mm以下の質量比が70%未満、または、配合炭全体の6.7mm以上の質量比が15%超になると、粗粒が多すぎて著しくコークス強度が低下する場合があるので、配合炭の目標とする所望の粉砕粒度は、配合炭全体の3mm以下の質量比が70%以上、または、配合炭全体の6.7mm以上の質量比が15%以下であることが好ましい。また、上限は特に規定するものではない。
【0109】
本発明においては、上記のように各銘柄の石炭毎に上記基準値に応じて粉砕する他、上記基準値以上の銘柄の石炭からなるグループと基準値未満の銘柄の石炭からなるグループの2つのグループに分け、グループ毎に上記基準値に応じて粉砕してもよい。
【0110】
また、石炭の銘柄によって石炭化度が異なり、これにより粉砕後の配合炭の粒度分布に少なからず影響を与える可能性が考えられる。この問題をなくすために、特に石炭化度が大きく異なる複数銘柄の石炭を、イナート組織の累積体積比によりグループ分けして粉砕する場合は、石炭化度も考慮してグループ化するのが好ましい。
【0111】
なお、一般に石炭化度を表す指標として、ビトリニットの最大反射率(R0、JIS M8816)、揮発分(JIS M8814)等が知られており、本発明においても石炭の石炭化度を測定する場合にこれらの方法を用いてもよいが、特に、ビトリニットの最大反射率または平均反射率を用いるのが好ましい。 次に、石炭の全膨張率を考慮した場合の粉砕方法について説明する。一般的に、石炭を細粒化すると膨張性が低下する。膨張性の高い石炭と低い石炭とを配合する実際のコークス製造プロセスにおいて、膨張性の高い石炭を極端に微粉砕すると配合炭全体の膨張性の低下を招き、著しくコークス強度を低下させる恐れがある。
【0112】
そこで、本発明者らが各銘柄の石炭の粗大イナート組織と、全膨張率(JISM8801(1993))、3mm以下の質量比およびコークス強度の関係について検討した結果、粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭のうちで、石炭の全膨張率が35体積%以上の銘柄の石炭を粉砕した後の3mm以下の質量比C(%)または6.7mm以上の質量比C’(%)、粉砕した後の配合炭全体の3mm以下の質量比をL(%)または6.7mm以上の質量比L’(%)とする場合に、以下の(4)式または(5)式を満足するように粉砕を行なうとコークス強度がより向上することを見出した。
【0113】
【数6】
【0114】
【数7】
【0115】
C<L+2、または、C’>L−1の場合は、上記コークス強度の向上効果を充分発揮することができなくなるため好ましくない。一方、C>L+4、または、C’<L’−4の場合は、膨張性が大きく低下しコークス強度が低下するため好ましくない。
【0116】
よって、本発明において粗大イナート組織の累積体積比が基準値以上の銘柄の石炭のうちで、全膨張率が35%以上の銘柄の石炭を粉砕する際に、上記(4)式において、L+2≦C≦L+14を満足するように、つまり、当該銘柄の石炭を粉砕した後の3mm以下の質量比(C)が配合炭全体の3mm以下の質量比(L)より2〜4%多くなるように粉砕することが好ましい。
【0117】
または、上記(5)式において、L’−4≦C’≦L−1を満足するように、つまり、当該銘柄の石炭を粉砕した後の6.7mm以上の質量比(C’)が配合炭全体の6.7mm以上の質量比(L’)より1〜4%少なくなるように粉砕することが好ましい。
【0118】
【実施例】
(実施例1)
石炭中の粗大イナート組織に起因するコークス中の粗大イナート量の測定を目的として、あらかじめ配合前の各銘柄の石炭を3mm以下の質量比は85%、装入密度(乾炭)は0.85(t/m3)の一定条件で乾留炉に装入し乾留することによりコークスを製造した。その結果から、図7と同様な粗大イナート量(1.0mm以上の粗大イナート組織の体積比)とコークス強度の変化量ΔDI150/15の関係グラフを作成し、ΔDIの大きい点(粗大イナート組織の体積比)を粗大イナート量の基準値として確認したところ、その基準値は10%であった。
【0119】
コークス中の1mm以上の粗大イナート組織の累積体積比(粗大イナート量)が基準値(10%)以上かつ全膨張率が35体積%以上の石炭A、粗大イナート量が基準値(10%)以上かつ全膨張率が35体積%未満の石炭B、粗大イナート量が基準値(10%)未満の石炭Cを、所定の粒度に粉砕した後、質量ベースでA:B:C=1:1:1となるように配合して、配合炭全体の3mm以下の質量比が77%になるようにした。その後、配合炭を実炉をシミュレートできる乾留炉に装入しコークスを製造し、乾留後のコークスのドラム強度DI150/15(ドラム150回転後に残った粒径15mm以上の粒子の割合;JIS K2151(1993))を測定した。A、B、Cの石炭性状(粗大イナート量(1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比)、全膨張率、トータルイナート(全てのイナート組織の累積体積比))を表1に、石炭A,石炭B,石炭C、およびこれらの石炭からなる配合炭における粉砕後の3mm以下の質量比を表2に示す。
【0120】
また、本発明範囲内または範囲外の各条件でおこなった実施例および比較例により得られたコークスのドラム強度DI150/15を図8に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
実施例1は、粗大イナート量が基準値(10%)以上の石炭A、Bを配合炭全体の3mm以下の質量比よりも6%大きな83質量%になるように微粉砕し、粗大イナート量が基準値(10%)未満の石炭Cを配合炭全体の3mm以下の質量比よりも12%小さな65質量%になるように粗粉砕した例である。
【0124】
実施例2は、実施例1の粗大イナート量が基準値(10%)以上の石炭のうち、全膨張率が35%以上の石炭Aを配合炭全体の3mm以下の質量比よりも2%大きな79質量%になるように微粉砕し、全膨張率が35%未満の石炭Bを配合炭全体の3mm以下の質量比よりも10%大きな87質量%になるように微粉砕し、粗大イナート量が基準値(10%)未満の石炭Cを配合炭全体の3mm以下の質量比よりも12%小さな65質量%になるように粗粉砕した例である。
【0125】
比較例1は、石炭A、B、Cともに3mm以下の質量比を77%に粉砕した例である。
【0126】
比較例2では、トータルイナートを粉砕条件決定の基準に用い、トータルイナートの大きな石炭Cの3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比よりも10%大きな87質量%になるように微粉砕し、トータルイナートの小さな石炭A、Bの3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比よりも5%小さな72質量%になるように粗粉砕した例である。
【0127】
図8に示すように、実施例のコークスはいずれも、比較例のコークスよりも明らかに高いDI150/15を示す。そして、実施例1のコークスよりも実施例2のコークスの方がより高いDI150/15を示す。以上より本発明の明確な効果を確認した。
【0128】
また比較例2では比較例1に比べて強度が低下しており、トータルイナートを粉砕条件決定の基準に用いると強度が低下する恐れがあることを確認した。
【0129】
(実施例3)
石炭中の粗大イナート組織に起因するコークス中の粗大イナート量の測定を目的として、あらかじめ配合前の各銘柄の石炭を6.7mm以上の質量比は7%、装入密度(乾炭)は0.79(t/m3)の一定条件で乾留炉に装入し乾留することによりコークスを製造した。その結果から、石炭粉砕粒度として6.7mm以上の質量比を採用し、図7と同様な粗大イナート量(1.0mm以上の粗大イナート組織の体積比)とコークス強度の変化量ΔDI150/15の関係グラフを作成し、ΔDIの大きい点(粗大イナート組織の体積比)を粗大イナート量の基準値として確認したところ、その基準値は9%であった。
【0130】
コークス中の1mm以上の粗大イナート組織の累積体積比(粗大イナート量)が基準値(9%)以上かつ全膨張率が35体積%以上の石炭D、粗大イナート量が基準値(9%)以上かつ全膨張率が35体積%未満の石炭E、粗大イナート量が基準値(9%)未満の石炭Fを所定の粒度に粉砕した後、質量ベースでD:E:F=1:1:1となるように配合して、配合炭全体の6.7mm以上質量比が7%になるようにした。その後、配合炭を実炉をシミュレートできる乾留炉に装入しコークスを製造し、乾留後のコークスのドラム強度DI150/15(JIS K2151(1993))を測定した。D、E、Fの石炭性状(粗大イナート量(1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比)、全膨張率、トータルイナート(全てのイナート組織の累積体積比))を表3に、石炭D,石炭E,石炭F、およびこれらの石炭からなる配合炭における粉砕後の6.7mm以上の質量比を表4に示す。また、本発明範囲内または範囲外の各条件でおこなった実施例および比較例で得られたコークスのドラム強度DI150/15を表4に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
実施例3は、粗大イナート量が基準値(9%)以上の石炭D、Eを配合炭全体の6.7mm以上の質量比よりも2%小さな5質量%になるように微粉砕し、粗大イナート量が基準値(9%)未満の石炭Fを配合炭全体の6.7mm以上の質量比よりも4%大きな11質量%になるように粗粉砕した例である。
【0134】
実施例4は、粗大イナート量が基準値(9%)以上の石炭のうち全膨張率が35%以上の石炭Dを配合炭全体の6.7mm以上の質量比よりも1%小さな6質量%になるように微粉砕し、全膨張率が35%未満の石炭Eを配合炭全体の6.7mm以上の質量比よりも3%小さな4質量%になるように微粉砕し、粗大イナート量が基準値(10%)未満の石炭Fを配合炭全体の6.7mm以上の質量比よりも4%大きな11質量%になるように粗粉砕した例である。
【0135】
比較例3は、石炭D、E、Fともに6.7mm以上の質量比を7%に粉砕した例である。
【0136】
表4に示すように、実施例のコークスはいずれも、比較例のコークスよりも明らかに高いコークスのドラム強度DI150/15を示す。そして、実施例3のコークスよりも実施例4のコークスの方がより高いDI150/15を示す。以上より本発明の明確な効果を確認した。
【0137】
【発明の効果】
本発明によれば、コークス強度の低下をもたらす粗大なイナート組織の累積体積比を低減して、使用する石炭銘柄および配合比率を変えることなく、また、石炭装入密度を低下させることなく、強度の高いコークスを得ることが可能な高強度コークスの製造方法を提供することができる。
【0138】
したがって、本発明を用いれば、安価かつ低品位である非微粘結炭の使用比率を上昇させても、良好なコークス強度が維持できるため、コークスの製造費を低減できるという顕著な効果をもたらす
【図面の簡単な説明】
【図1】 コークス中に存在するイナート組織とその周辺の組織を示す図である。
【図2】 +1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比とコークス強度(DI)との関係を示す図である。
【図3】 +1.5mmの粗大イナート組織の累積体積比は一定とし、コークス中の総イナート比率を変えた場合の、コークス強度(DI)を示す図である。
【図4】 コークス中の+1.5mmの粗大イナート組織の存在量(比)の低減前後の対比で、イナート組織の存在態様とコークス強度(DI)との対応関係を示す図である。
【図5】 粉砕前の石炭粒度(原炭粒度)と、総イナート比率、及び、+1.5mmのイナート組織の累積体積比との関係を示す図である。
【図6】 粗大イナート組織の累積体積比とコークス強度との関係を模式的に示す図である。
【図7】 粗大イナート組織の累積体積比(横軸)が異なる複数銘柄の石炭を用い、粉砕後の石炭粒度において、3mm以下の微粉の質量比を80%から90%に変化させた場合における変化を示す図である。
【図8】 本発明の実施例および比較例におけるコークスのドラム強度の測定結果を示した図である。
Claims (5)
- 1種または2種以上の異なる銘柄の石炭からなる配合炭をコークス炉に装入後、乾留してコークスを製造する方法において、
(A)石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比が異なる複数銘柄の石炭を用いて、粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%]、なお、αは中心値(X)に対する偏差を示す)および石炭装入密度(Y[乾炭ベース、t/m 3 ])が一定の条件で、粉砕した後の石炭における3mm以下の質量比がX−α%の場合およびX+α%の場合において、それぞれ乾留して得られたコークスの冷間強度(DI)を測定し、これらの差から粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])内におけるコークス強度の変化量(ΔDI150/15)を求め、
(B)複数銘柄の石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比と、粉砕後の石炭における3mm以下の質量比の所定範囲(X±α[%])内におけるコークス強度の変化量ΔDI150/15との関係において、該ΔDI150/15が急激に変化した前記粗大イナート組織の累積体積比の臨界値を基準値Zとし、
(C)該基準値Z以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を、粉砕した後の3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比より2〜14%多くなるように粉砕し、かつ、前記基準値Z未満の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を、粉砕した後の3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比より2〜14%少なくなるように粉砕し、かつ該粉砕後の各銘柄の石炭を配合して得られる配合炭全体の粒度が配合炭全体の3mm以下の質量比が70%以上になるように配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。 - 1種または2種以上の異なる銘柄の石炭からなる配合炭をコークス炉に装入後、乾留してコークスを製造する方法において、
(A)石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比が異なる複数銘柄の石炭を用いて、粉砕後の石炭における6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%]、なお、βは中心値(X’)に対する偏差を示す)および石炭装入密度(Y[乾炭ベース、t/m 3 ])が一定の条件で、粉砕した後の石炭における6.7mm以上の質量比がX’−β%の場合およびX’+β%の場合において、それぞれ乾留して得られたコークスの冷間強度(DI)を測定し、これらの差から粉砕後の石炭における6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%])内におけるコークス強度の変化量(ΔDI150/15)を求め、
(B)複数銘柄の石炭中の絶対最大長さで1.0mm以上の粗大イナート組織の累積体積比と、粉砕後の石炭における6.7mm以上の質量比の所定範囲(X’±β[%])内におけるコークス強度の変化量ΔDI150/15との関係において、該ΔDI150/15が急激に変化した前記粗大イナート組織の累積体積比の臨界値を基準値Zとし、
(C)該基準値Z以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を粉砕した後の6.7mm以上の質量比が配合炭全体の6.7mm以上の質量比より1〜10%少なくなるように粉砕し、かつ、前記基準値Z未満の前記粗大イナート組織の累積体積比を有する銘柄の石炭を、粉砕した後の6.7mm以上の質量比が配合炭全体の6.7mm以上の質量比より1〜10%多くなるように粉砕し、かつ該粉砕後の各銘柄の石炭を配合して得られる配合炭全体の粒度が配合炭全体の6.7mm以上の質量比が15%以下になるように配合することを特徴とする高強度コークスの製造方法。 - 前記(C)において、前記基準値以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有し、かつ、全膨張率が35体積%以上である銘柄の石炭を、粉砕した後の3mm以下の質量比が配合炭全体の3mm以下の質量比より2〜4%多くなるように粉砕することを特徴とする請求項1に記載の高強度コークスの製造方法。
- 前記(C)において、前記基準値以上の前記粗大イナート組織の累積体積比を有し、かつ、全膨張率が35体積%以上である銘柄の石炭を、粉砕した後の6.7mm以上の質量比が配合炭全体の6.7mm以上の質量比より1〜4%少なくなるように粉砕することを特徴とする請求項2に記載の高強度コークスの製造方法。
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