JP4051110B2 - ヨウ化トリフルオロメタンの製造方法 - Google Patents

ヨウ化トリフルオロメタンの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ヨウ化トリフルオロメタンの製造方法に関するものである。さらに、詳しくは、金属の塩を炭素質担体に担持した触媒の存在下に、酸素を共存させてトリフルオロメタンとヨウ素を反応させることを特徴とするヨウ化トリフルオロメタンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヨウ化トリフルオロメタンは、ハロン1301やハロン1211などを代替する消火剤として期待されているのみならず、トリフルオロメチル基を導入する原料として界面活性剤、農薬、医薬品などのフッ素含有合成中間体として極めて有用な化合物である。従来使用されてきたハロン1301やハロン1211などの消火剤はオゾン層を破壊したり、地球を温暖化する作用があり、近年の環境保護の法規制によって使用不可能となりつつある。しかし、ヨウ化トリフルオロメタンは、大気寿命が非常に短かく、オゾン層の破壊や地球温暖化の作用が限りなく小さいのでその消火剤としての使用が期待されている。
【0003】
従来いくつかのヨウ化トリフルオロメタンの製造方法が公知である。例えば、ジャーナル オブ ケミカル ソサエティー(J.Chem.Soc.)第584ページ(1951年)や、ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem.)第833ページ(1967年)には、トリフルオロ酢酸のアルカリ金属塩や銀塩をヨウ素と反応させる方法が報告されている。さらに、ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(J.Org.Chem.)第2016ページ(1958年)や、特開平2−262529号公報には、トリフルオロアセチルハライドとヨウ化カリウムやヨウ化リチウムを反応させる方法が報告されている。
【0004】
しかしながら、これらの従来法は、いずれもトリフルオロ酢酸およびその誘導体を原料とする方法である。これらの原料は高価であり、さらにトリフルオロ酢酸のアルカリ金属塩を原料とする場合には、水分の除去が大切で結晶水の除去まで厳しく行う必要があり、それでも収率は約70%程度と低く効率的ではない。この収率を改善するため、しばしば高価な銀塩が使用されるが、工業プロセスとして必ずしも有利な方法とは言い難い。
【0005】
また、特開昭52−68110号公報には、トリフルオロメタンとヨウ素との反応により、ヨウ化トリフルオロメタンを製造する方法が開示されている。特開昭52−68110号公報の製法は、活性炭あるいは活性アルミナにアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属塩を担持した触媒の存在下にトリフルオロメタンとヨウ素を反応させヨウ化トリフルオロメタンを製造する方法である。しかしながら、本発明者らがこの報告に基づき忠実に再現実験を繰り返して行った結果、開示された技術はカーボンの析出が起こり、1〜2日の反応で触媒活性が極端に低下すること、また回収されるヨウ素の中に高分子のポリマーと推定されるペースト状の不純物が極めて多く精製が著しく困難であり、リサイクルするための複雑な設備が不可欠であることが判り、工業プロセスとして成り立たないことが判った。即ち、特開昭52−68110号公報に開示された触媒は、触媒寿命が非常に短く、実用にはほど遠いという致命的な欠陥が明らかとなった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述の報告に開示されたヨウ化トリフルオロメタンの製造方法は、原料のトリフルオロ酢酸やその誘導体が高価であるとか、収率が低いため高価な銀塩を使用したりする必要があった。また、トリフルオロメタンを原料とする製造方法ではカーボンの析出が起こり、触媒寿命が短く、さらに回収されるヨウ素にはペースト状の不純物が多く、精製、リサイクルするための複雑な設備が不可欠となるといった致命的な欠陥を有していた。それ故、従来の欠点を克服した安価なヨウ化トリフルオロメタンの製造方法の開発が望まれていた。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、副生物が少なく、工業的実施が可能な安価なヨウ化トリフルオロメタンの製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、こうした現状に鑑み、トリフルオロメタンとヨウ素を反応させるヨウ化トリフルオロメタンの製造方法について鋭意検討した。その結果、金属の塩を炭素質担体に担持した触媒の存在下に、酸素を共存させながらトリフルオロメタンとヨウ素を反応させると驚くべきことに、触媒寿命が長期に亘って保持されること、かつヨウ化トリフルオロメタンおよび副生成物であるヨウ化ペンタフルオロエタンに転化しなかったヨウ素がペースト状の不純物を含まず、ほとんど高純度なヨウ素として回収され、そのままリサイクルできることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、金属の塩を炭素質担体に担持した触媒の存在下に、酸素を共存させてトリフルオロメタンとヨウ素を反応させることを特徴とするヨウ化トリフルオロメタンの製造方法に関するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、金属の塩を炭素質担体に担持した触媒は、長期にわたって安定な活性を示し、高い転化率と経済的に満足できる選択性を示す高性能な触媒系となる。本発明によれば、本発明の触媒の存在下に、酸素を共存させてトリフルオロメタンとヨウ素を反応させるだけでヨウ化トリフルオロメタンを効率的に製造できる。本発明によれば、反応系に供給されたヨウ素は、ヨウ化トリフルオロメタンおよび副生成物であるヨウ化ペンタフルオロエタンに転化したヨウ素原子を除いて、反応後に単に冷却するだけで高純度のヨウ素として回収される。
【0011】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
【0012】
本発明において使用される触媒は、炭素質担体に金属の塩を担持したものである。
【0013】
本発明における炭素質担体とは、活性炭、グラファイト、繊維状活性炭、カーボンモレキュラーシーブスなどである。活性炭は、通常、木材、褐炭、泥炭を塩化亜鉛、リン酸などで処理して乾燥するか、あるいは木炭などを水蒸気で活性化して造られるが、一般に入手できる市販品を使用できる。グラファイトは、天然に産出するか、通常、無煙炭、ピッチなどをアーク炉で高温加熱して造られるが、一般に入手できる市販品を使用できる。また、繊維状活性炭は、セルロース系、アクリロニトリル系、フェノール系繊維などを酸化処理、炭化、賦活して造られるが、いずれの方法で作られた繊維状活性炭でも使用できる。カーボンモレキュラーシーブスは、例えば、ガスレビュー No.177 第1ページ(1988年)に記載されているように、植物系の材料から炭をつくり、これから数段階の工程を経て本来の穴を埋め、穴の大きさを揃えたものである。
【0014】
これら炭素質担体は必要ならば、これらの混合物を用いても差し支えない。炭素質担体の形状は、粉状、粒状、塊状などのものが知られ、いずれの形状のものも使用できるが、好ましくは2〜15mm程度の大きさの球状、柱状、タブレット状、粒状のものがよい。これら炭素質担体は、必要ならば炭素質担体にしばしば含まれるアミン、灰分などの除去のために硝酸、塩酸、リン酸などにより処理しても何ら差し支えない。なお一般に、触媒の担体として用いられるアルミナ、シリカ、チタニアなどは、ヨウ化トリフルオロメタンを生成する活性が低かったり、本発明の反応条件下で担体が分解する場合があり好ましくない。
【0015】
本発明において、使用される金属は、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属、アルカリ金属および貴金属、アルカリ土類金属および貴金属、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属および貴金属である。
【0016】
アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、これらのうち好ましくはカリウム、ルビジウム、セシウムである。これらの金属は、各々単独でも使用できるが、より好ましくはカリウムとセシウム、またはカリウムとルビジウムの組み合わせがよい。
【0017】
アルカリ土類金属としては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられるが、好ましくはマグネシウム、カルシウム、バリウムおよび/またはこれらの混合物である。これらアルカリ土類金属はアルカリ金属と組み合わせて使用されるが、好ましくはアルカリ金属およびアルカリ土類金属としてマグネシウムとの組み合わせがよい。
【0018】
本発明において使用される貴金属としては、例えば白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウムを挙げることができる。これらの貴金属は単独で使用してもよいが、これらの貴金属の混合物として用いてもよい。これらの貴金属のうち、白金、ロジウムがより好ましい。これらの貴金属は、アルカリ金属および貴金属、アルカリ土類金属および貴金属、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属および貴金属の組み合わせで使用されるが、好ましくはアルカリ金属と貴金属の組み合わせであり、さらに好ましくはアルカリ金属と貴金属の組み合わせとしてカリウム、セシウムおよび白金、またはカリウム、ルビジウムおよび白金がよい。
【0019】
本発明によれば、これらの金属は金属の塩として炭素質担体に担持される。アルカリ金属、アルカリ土類金属および貴金属の塩は、通常、溶媒への溶解度、取り扱いの容易さ、試薬としての入手の容易さ、安定性および乾燥工程や熱分解工程の挙動などを考慮して、金属の塩を形成する原料、例えば金属の水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドなどから選択して使用できる。使用できる金属の塩の具体例として、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等、ハロゲン化物としては、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム等、硝酸および炭酸塩としては、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム、硝酸セシウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等、カルボン酸塩としては、酢酸カリウム、ぎ酸カリウム、酢酸ルビジウム、ぎ酸ルビジウム、酢酸セシウム、ぎ酸セシウム等、アルコキシドとしては、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ルビジウムメトキシド、ルビジウムエトキシド、セシウムメトキシド、セシウムエトキシドなどが挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化バリウム等、ハロゲン化物としては、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム等、硝酸塩としては、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム等、カルボン酸塩としては、酢酸マグネシウム、ぎ酸マグネシウム、酢酸バリウムなどが挙げられる。
【0020】
使用できる貴金属の塩としては、例えば、白金の塩として、四塩化白金酸アンモニウム、六塩化白金酸アンモニウム、六塩化白金酸六水和物、テトラアンミン白金塩化物等、ルテニウムの金属の塩として、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヘキサアンミンルテニウム塩化物、ヘキサアンミンルテニウム臭化物、クロロペンタアンミンルテニウム塩化物等、ロジウムの金属の塩としては、塩化ロジウム、酸化ロジウム、硝酸ロジウム、ヘキサクロロロジウム酸アンモニウム、四酢酸二ロジウム、ヘキサアンミンロジウム塩化物等、パラジウムの金属の塩としては、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、四塩化パラジウム酸アンモニウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、イリジウムの金属の塩としては、塩化イリジウム、臭化イリジウム、硫化イリジウムなどが挙げられる。
【0021】
本発明において、前述の金属の塩を炭素質担体に担持する方法は特に限定されないが、例えば、常圧あるいは減圧下に担体を金属の塩の溶液に含浸させる含浸担持法、担体を金属の塩の溶液に浸漬した後、撹拌しながら沈殿剤を加え、担体上に金属の塩の沈殿を作る沈着法、金属の塩の溶液に沈殿剤を加え沈殿を作った後、これに、炭素質担体を加えて、混練する混練法などによって調製すればよい。これらの担持法のうち、工程の簡略さや経済性を考慮して含浸担持法が好ましい。
【0022】
含浸担持法で本発明の触媒を調製するには、例えば以下のようにして調製すればよい。まず、所定量の金属の塩を溶媒に溶解する。溶解する際の温度は室温でよいが、必要なら適宜加熱して金属の塩を溶解する。使用する溶媒は、水、有機溶媒またはこれらの混合物である。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール類などのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物が挙げられる。これら溶媒のうち経済性、安全性を考慮して水、メタノール、アセトンがより好ましい。使用する溶媒量は、炭素質担体、金属の塩、溶媒の種類により大幅に異なるため、特に限定することは困難であるが、例えば活性炭を担体に使用した場合、活性炭100gに対して50〜1000mlが適当である。次に、金属の塩を溶解した溶媒の中に所定量の炭素質担体を浸漬する。浸漬時間は2時間以上であれば良く、一晩静置してもよい。浸漬後に溶媒が残らない場合は、そのまま通常の乾燥機に入れ80〜150℃で予備乾燥する。浸漬後に溶媒が残っている場合には、例えば湯浴中フラスコで溶媒を蒸発乾固したり、ロータリーエバポレーターで、徐々に減圧にして、溶媒を蒸発させ、しかる後に前述したように、乾燥機で予備乾燥する。二種以上の金属の塩を担持するときは、金属がアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属ならば、溶媒に二種以上の金属を同時に溶解して前述の方法で同時に担持しても差し支えない。一方、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属と貴金属を担持する場合は、各々別々に担持する操作を繰り返して行うのが好ましい。本発明によれば、担持する順序は、貴金属を担持して、しかる後にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を担持するのがより好ましい。
【0023】
本発明においては、金属の塩を炭素質担体に担持した後、さらに乾燥、焼成して使用する。乾燥および焼成はそれぞれ別々に行っても、乾燥と焼成を同時に実施してもよい。乾燥および焼成の条件については、金属の種類、担体の種類、担持方法などによって大幅に変化するため限定することは困難であるが、例えば前述した乾燥機で予備乾燥した担持触媒を反応管に充填し、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを供給しながら、100〜200℃でまず1〜3時間乾燥する。しかる後に400℃以上750℃以下の温度で、1時間以上5時間以下の時間、焼成を実施する。焼成温度が750℃を越える温度では、しばしば金属の塩の不必要な凝集、蒸発などが起こり、触媒活性が低下するため好ましくない。
【0024】
本発明における炭素質担体に担持する金属の炭素質担体への担持量は、触媒全重量に対して0.1重量%以上50重量%以下である。0.1重量%未満の場合は、十分な触媒活性が得られず、50重量%を越えても触媒活性が向上する効果は小さい。
【0025】
本発明によれば、貴金属とアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の原子比が0.001以上1.0以下である。0.001未満の場合は貴金属を添加した触媒寿命の延長効果が小さく、1.0を越えると貴金属が高価であるため経済性が失われ好ましくない。
【0026】
本発明において、使用される原料は、トリフルオロメタン、ヨウ素および酸素である。トリフルオロメタンの純度に特に制限はないが、望ましくは97%以上のものを用いるのが好ましい。ヨウ素は、通常の市販品を使用できる。酸素は、純酸素や空気を用いれば良く、必要に応じて反応に不活性なガス、例えば窒素、ヘリウム、アルゴンなどで希釈することも差し支えない。
【0027】
本発明の反応形式については、特に制限がなく、例えば固定床、流動床、移動床のいずれを採用してもよいが、製造プロセスの簡易さから、好ましくは固定床がよい。反応を固定床で行うには、例えば次のようにすればよい。すなわち、先に調製した触媒を充填した反応管に原料を連続的に気体で供給し反応させる。原料の供給方法としては、所定反応温度に維持した反応管に予め混合した原料を気体で供給する。通常、ヨウ素は固体であるため、加熱、溶融し、液体としたヨウ素の中にトリフルオロメタンをバブリングさせ、トリフルオロメタンとヨウ素の混合ガスを発生させ、しかる後に酸素を添加し、所定量のヨウ素を反応系へ供給するのがよい。
【0028】
本発明において、使用するヨウ素/トリフルオロメタンのモル比は、0.05以上10以下であり、好ましくは0.05以上3以下である。0.05未満であると選択率が低くなり、10を越えると反応で使用されない回収ヨウ素が多くなり工業的に好ましくない。
【0029】
本発明において、使用する酸素/トリフルオロメタンの体積比は、0.01以上1.0以下である。0.01未満であると触媒の活性低下が著しく、触媒寿命が極端に短くなるばかりでなく、反応後分離する固体中のヨウ素純度が低下する。1.0を越えると触媒担体の炭素質担体が燃焼するため好ましくない。
【0030】
本発明の方法によれば、反応は300℃以上750℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下の温度で実施される。300℃未満の温度では、反応速度が著しく低く、750℃を越えるとヨウ化トリフルオロメタンの分解が生じるため実用的ではない。
【0031】
本発明における反応圧力は特に限定されないが、原料および生成物の物性を考慮すると、常圧以上、2MPa以下で実施するのが好ましい。
【0032】
本発明によれば、反応装置の材質としては、炭素鋼、鋳鉄、ステンレス鋼、銅、ニッケルまたはハステロイなどが挙げられる。これらのうち炭素鋼、鋳鉄、ステンレス鋼、銅、およびニッケルはスケールが発生したり、腐食が認められ、本発明の反応条件下の温度に暴露される反応管および関連装置の材質は、ハステロイが好ましい。
【0033】
本発明の方法によれば、反応管を通った反応ガスは冷却され気体と固体に分離される。気体は、常法に従って加圧蒸留により、未反応のトリフルオロメタンと生成したヨウ化トリフルオロメタンに分離され、未反応のトリフルオロメタンは回収し、原料として再利用され、ヨウ化トリフルオロメタンは製品となる。蒸留は、バッチ式で実施しても連続式で実施しても一向に差し支えない。一方、固体は、未反応のヨウ素である。未反応のヨウ素とは、ヨウ化トリフルオロメタンおよび副生成物であるヨウ化ペンタフルオロエタンなどに転化したヨウ素原子を除くヨウ素分子である。本発明において特異的なことは、未反応のヨウ素をほとんど高純度のヨウ素分子として回収できることである。酸素を共存させない場合に認められるペースト状不純物は全く生成しない。このことは共存させる酸素が高分子量のポリマーと推定されるペースト状の不純物の生成を抑制しているものと信ぜられる。このため回収されたヨウ素は、精製することなく、そのままリサイクルすることができる。工業的には、例えば掻き取り装置を備えた気固分離搭でヨウ素を分離回収し、再び直接ヨウ素蒸発器へ循環し再利用することが可能となる。よって、回収のためのわずらわしい精製工程が不必要となり、経済性に優れたシンプルなプロセスとなる。
【0034】
一方、酸素を添加しない場合や炭素質担体以外の担体を用いた場合には、前述したように回収されるヨウ素の中に高分子量のポリマーと推定されるペースト状の不純物が極めて多い。この回収ヨウ素から、蒸留操作や昇華によってヨウ素の回収を試みたが、ペースト状のため回収率は極めて低く約73〜80%に止まった。また、回収ヨウ素をそのまま反応に供してみたが、トリフルオロメタンの転化率、ヨウ化トリフルオロメタンの選択率、収率の大幅な低下が認められた。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を具体的に実施例にて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0036】
また、表現の簡略化のため、原料のトリフルオロメタン、ヨウ素および酸素と各生成物は、以下のように略記する。
【0037】
トリフルオロメタン ;CHF3
酸素 ;O2
ヨウ素 ;I2
ヨウ化トリフルオロメタン ;CF3I
ヨウ化ペンタフルオロエタン;C2F5I
テトラフルオロメタン ;CF4
以下の実施例中で示す転化率および選択率は、次式で表わされる。
【0038】
転化率(%)=転化したCHF3のモル数/供給したCHF3のモル数×100選択率(%)=各生成物のモル数/転化したCHF3のモル数×100
実施例1
触媒の調製
(1)活性炭担体触媒の調製方法
(a)所定量の貴金属の塩を400gの水に溶解した溶液に300gの活性炭を加え、一晩浸漬した。浸漬後、貴金属の塩の溶液は全て活性炭に吸着され残っていなかった。この活性炭をバットに移し、乾燥機中90〜110℃で6時間、予備乾燥した。
【0039】
(b)所定量のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩を400gの水に溶解した溶液に、(a)で調製した活性炭を再び加え一晩浸漬した。浸漬後、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩の溶液が少量残存していたため、ロータリーエバポレーターで徐々に減圧にして水を除去した。
【0040】
(c)その後、再びこの活性炭をバットに移し、乾燥機中90〜110℃で6時間、予備乾燥した。予備乾燥後、乾燥器に充填し、窒素ガスを流通下、150℃で1時間乾燥し、さらに、550℃で1時間焼成して触媒を調製した。
【0041】
貴金属の塩を担持しない場合は、(a)を除き、(b)および(c)工程のみを行って触媒を調製した。
【0042】
(2)グラファイト、カーボンモレキュラーシーブス担体触媒の調製方法
前述の(1)の(b)および(c)と同様の方法で触媒を調製した
(3)活性アルミナ、シリカ、チタニア担体触媒の調製方法
前述の(2)と全く同様の方法で触媒を調製した。
【0043】
尚、金属の塩は、市販品試薬を使用した。炭素質担体は、以下に記載の担体をそのまま使用した。
【0044】
活性炭 ;武田薬品(株)製、白鷺C2
グラファイト ;和光純薬(株)製、グラファイト粉末のプレス成形品
カーボンモレキュラーシーブス;武田薬品(株)製、モルシーボン
活性アルミナ ;住友化学(株)製、KHS−46
シリカ ;富士シリシア(株)製、CARiACT−Q−50
チタニア ;堺化学(株)製、CS−300−24
調製した触媒と金属の担持量を以下の表1に示す。
【0045】
【表1】
Figure 0004051110
【0046】
実施例2〜5
内径25mmのハステロイC製反応管に実施例1で調製した触媒A、B、C、Dの一部を100cc充填した。反応管を昇温し、反応温度およびCHF3、I2とO2の混合ガスを表2に示すように供給した。反応ガスは、冷却管を通して冷却し、気体と固体に分離した後、気体をガスクロマトグラフィーにより分析した。反応開始から所定時間後の反応ガスの分析結果を表3に示した。一方、反応ガスを冷却し分離した固体は、いずれも金属光沢のある黒紫色の板状結晶であった。これを日本工業規格 K8920に従いヨウ素の含量を分析した結果、いずれの回収ヨウ素のヨウ素含量も98%以上であった。
【0047】
表3の結果から、活性炭にアルカリ金属の塩類と貴金属の塩、アルカリ金属の塩とアルカリ土類金属の塩および貴金属の塩を担持した触媒は、活性および選択性に優れた寿命の長い触媒となることが判る。
【0048】
実施例6〜8
実施例1で調製した触媒E、F、Gの一部を使用し、表2に示すような条件で反応した。反応の結果を表3に示す。一方、反応ガスを冷却し分離した固体は、いずれも金属光沢のある黒紫色の板状結晶であった。これを実施例2〜5と同様にヨウ素の含量を分析した結果、いずれの回収ヨウ素のヨウ素含量も98%以上であった。
【0049】
表3に示した結果から、活性炭にアルカリ金属の塩類、アルカリ金属の塩類およびアルカリ金属の塩を担持した触媒は活性および選択性に優れた触媒となることが判る。
【0050】
実施例9〜12
実施例1で調製した触媒H、I、J、Kの一部を使用し、表2に示すような条件で反応した。反応の結果を表3に示す。一方、反応ガスを冷却し分離した固体は、いずれも金属光沢のある黒紫色の板状結晶であった。これを実施例2〜5と同様にヨウ素の含量を分析した結果、いずれの回収ヨウ素のヨウ素含量も98%以上であった。
【0051】
表3の結果から、活性炭にアルカリ金属の塩を担持したとき、カリウム金属は高い選択性を示し、セシウム金属塩は高活性を示すことが判る。また、アルカリ土類金属の塩を担持した触媒系では活性が小さいことが判る。
【0052】
実施例13
実施例1で調製した触媒Fの一部と酸素の代わりに空気を使用し、表2に示すような条件で反応した。反応の結果を表3に示す。一方、反応ガスを冷却し分離した固体は、いずれも金属光沢のある黒紫色の板状結晶であった。これを実施例2〜5と同様にヨウ素の含量を分析した結果、いずれの回収ヨウ素のヨウ素含量も98%以上であった。
【0053】
実施例14〜16
実施例1で調製した触媒L(グラファイト)、M(グラファイト)、N(カーボンモレキュラーシーブス)の一部を使用し、表2に示すような条件で反応した。反応の結果を表3、表4に示す。一方、反応ガスを冷却し分離した固体は、いずれも金属光沢のある黒紫色の板状結晶であった。これを実施例2〜5と同様にヨウ素の含量を分析した結果、いずれの回収ヨウ素のヨウ素含量も98%以上であった。
【0054】
実施例17〜18
実施例2および4で回収された金属光沢のある黒紫色板状のヨウ素を、そのまま反応原料として使用し、反応を行った。それ以外は、実施例2と全く同様の方法で反応を行った。その結果、表4に示すように実施例2とほぼ同様の反応成績が得られた。
【0055】
比較例1〜4
実施例1で調製した触媒E、F、H(活性炭)、およびM(グラファイト)の一部を用いて、酸素を添加せずに、表2に示すような条件で反応した。反応結果を表4に示す。表4の結果から、酸素を共存させないと触媒寿命が著しく短いことが判る。一方、反応ガスを冷却し分離した個体は、高分子のポリマーと推定されるペースト状の不純物を含み、ヨウ素回収は蒸留や昇華の操作は著しく困難であった。これを実施例2〜5と同様にヨウ素の含量を分析した結果、いずれの回収ヨウ素中のヨウ素含量も72〜85%であった。
【0056】
比較例5
実施例1で調製した触媒O(活性アルミナ)の一部を使用し、酸素を添加せずに、表2に示すような条件で反応した。反応の結果を表4に示す。表4の結果から、活性アルミナを担体とした触媒系では本反応は進行しない。
【0057】
比較例6〜8
実施例1で調製した触媒O(活性アルミナ)、P(シリカ)、Q(チタニア)の一部を使用し、表2に示すような条件で反応した。反応結果を表4に示す。表4の結果から、酸素共存下でも炭素質担体以外の触媒系では本発明は進行しない。一方、反応ガスを冷却し分離された固体は、いずれも気体と固体に分離する分離器から掻き取りが困難な黒褐色の泥状固体であった。実施例2〜5と同様に回収ヨウ素を分析した結果、純度は85〜93%であった。
【0058】
比較例9
比較例1において、反応時間50時間を経過した後、反応条件をそのままに保ちながら、CHF3およびI2の代わりに窒素を120cc/min.、酸素を8cc/min.として5時間反応系に供給し、触媒の賦活を試みた。その後、再び比較例1の条件でCHF3およびI2の供給を行い、反応を行ったが、触媒活性は戻らなかった。
【0059】
【表2】
Figure 0004051110
【0060】
【表3】
Figure 0004051110
【0061】
【表4】
Figure 0004051110
【0062】
【発明の効果】
金属の塩を炭素質担体に担持した触媒の存在下に、酸素を共存させてトリフルオロメタンとヨウ素を反応させる本発明により、触媒活性および選択性を維持したまま、飛躍的に触媒寿命を延長させることが可能となった。さらに、ヨウ化トリフルオロメタンおよび副生成物であるヨウ化ペンタフルオロエタンに転化しなかったヨウ素原子はペースト状の不純物を含むこと無く、全て高純度のヨウ素として回収し、そのまま繰り返し反応に使用できる。高価なトリフルオロ酢酸やその誘導体を用いる従来のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法と比較して、本発明は非常に安価にかつシンプルなプロセスによりヨウ化トリフルオロメタンを製造でき、工業的に極めて有用である。

Claims (15)

  1. アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の塩を炭素質担体に担持した触媒の存在下に、酸素を共存させてトリフルオロメタンとヨウ素を反応させることを特徴とするヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  2. アルカリ金属および貴金属の塩、アルカリ土類金属および貴金属の塩、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属および貴金属の塩を炭素質担体に担持した触媒の存在下に、酸素を共存させてトリフルオロメタンとヨウ素を反応させることを特徴とするヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  3. アルカリ金属が、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも1種以上である請求項1または請求項2に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  4. アルカリ土類金属が、マグネシウム、バリウムおよびカルシウムから選ばれる少なくとも1種以上である請求項1または請求項2に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  5. アルカリ金属が、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも2種以上である請求項1または請求項2に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  6. 貴金属が、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよびイリジウムから選ばれる少なくとも1種以上である請求項2に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  7. アルカリ金属が、カリウムおよびセシウムまたはカリウムおよびルビジウムであり、貴金属が白金である請求項2に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  8. アルカリ金属、アルカリ土類金属、貴金属の塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、貴金属の水酸化物、ハロゲン化物、硝酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩またはアルコキシドである請求項1または請求項2に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  9. アルカリ金属、アルカリ土類金属、貴金属の担持量が、触媒全重量に対して、0.1重量%以上50重量%以下である請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  10. 貴金属とアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の原子比が、0.001以上1.0以下である請求項2、請求項6または請求項7のいずれか1項に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  11. 炭素質担体が、活性炭、グラファイト、繊維状活性炭およびカーボンモレキュラーシーブスから選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  12. 酸素の共存量が、トリフルオロメタンに対する酸素の体積比(酸素/トリフルオロメタン)として、0.01以上1.0以下である請求項1に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  13. ヨウ素とトリフルオロメタンのモル比(ヨウ素/トリフルオロメタン)が、0.05以上10以下である請求項1に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  14. 未反応のヨウ素を高純度のヨウ素分子として回収し、再使用することを特徴とする請求項1に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
  15. トリフルオロメタンとヨウ素を反応させる温度が、300℃以上750℃以下である請求項1に記載のヨウ化トリフルオロメタンの製造方法。
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