JP4050006B2 - 繊維強化樹脂板材及びその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、不織布から形成された表面層を有する繊維強化樹脂板材及びその板材の製造方法に関するものである。特に、X線撮影用カセッテ、とりわけ当該カセッテのフロント板に好適に使用される繊維強化樹脂板材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、X線カセッテの外板にはアルミ板よりもX線透過率に優れ、軽量である、炭素繊維強化樹脂製のものが提案されている(特公昭58−70733号公報)。しかしながら、X線撮影の現場では乱暴にX線カセッテが取り扱われることも多く、その際に炭素繊維強化樹脂製の外板表面が硬いもので引っかかれたり、ぶつけられたりして外板表面に疵や凹みが残ってしまい、外観品位が著しく劣る等の欠点があった。
【0003】
そのような問題の防止策として、表面に微細な凹凸模様を形成したりすることが、提案されている。しかし、このような防止策を施しても、一定レベル以上の力が表面に加わった場合には疵や凹みが残ってしまうことが多い。
【0004】
また、近年のデジタル画像処理技術により、従来はX線カセッテの内部にはX線写真フィルムが収納されていたものが、蓄積性蛍光体シートも使用されている。炭素繊維強化樹脂製の外板は導電性を有するため、蓄積性蛍光体シートを画像読み取り装置にて処理する際に外板表面が帯電した場合など、静電気により挿入されている蓄積性蛍光体シートに影響を及ぼしたりする。
【0005】
特開昭60−32615号公報には、炭素繊維と熱硬化樹脂からなる一方向引き揃え炭素繊維プリプレグ積層体等の表面に、外観模様に意匠性を与える素材と樹脂からなる層を配置し、加熱加圧してX線診断装置用板材を製造する方法が記載されている。また、特開平7−181629号公報には、炭素繊維等で補強された繊維強化樹脂でフロント板を構成し、その周辺のフレーム部を熱可塑性樹脂で成形したX線撮影用カセッテが記載されているが、これらはいずれも上記問題を解決しようとするものではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は従来技術の問題点を解決し、表面が疵付きにくい繊維強化樹脂板材又は表面が疵付いた場合でも簡単に補修できる繊維強化樹脂板材を提供することにある。また、帯電による導電性蓄積性蛍光体への影響を極力少なくすることができる繊維強化樹脂板材を提供することにある。更に、X線カセッテ用外板に適した繊維強化樹脂板材を提供することにある。本発明の他の目的は、上記繊維強化樹脂板材の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、主として繊維強化樹脂にて成形され、芯材層の少なくとも片面に表面層を配置した板材において、芯材層を構成する繊維強化樹脂が一方向に引き揃えられた繊維強化樹脂からなり、表面層が樹脂含浸された無機繊維又は有機繊維の不織布からなり、かつ芯材層中には体積抵抗率が1×107Ω-cm以上の高抵抗シート状材料層を配置していることを特徴とするX 線撮影用カセッテのフロント板に使用される繊維強化樹脂板材である。また、本発明は、無機繊維又は有機繊維の不織布を、一方向引揃え繊維プリプレグと共に樹脂に含浸させて、樹脂含浸された不織布からなる表面層と芯材層の一部からなる予備シートを作成し、該予備シートと、芯材層を構成する残りの一方向引揃え繊維プリプレグと、体積抵抗率が1×107Ω-cm以上の高抵抗シート状材料とを、芯材層の少なくとも片面に表面層を有し、かつ芯材層中に該高抵抗シート状材料層を有するように積層配置し、これを一体成形することを特徴とする上記の繊維強化樹脂板材の製造方法である。
【0008】
本発明の繊維強化樹脂板材は、表面層及び芯材層からなる。芯材層は主として繊維強化樹脂層から構成され、その中間層中には体積抵抗率の大きな高抵抗シート状材料層を有する。表面層は芯材層の両面又は一面に、好ましくは両面に設けられる。芯材層の厚みは、500〜2000μmの範囲内にあることが好ましく、一つの表面層の厚みが50〜250μmの範囲内にあることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において、芯材層を構成する繊維強化樹脂に使用される強化繊維としては、各種繊維を使用することができるが、X線透過性の優れる炭素繊維が好ましい。そして、繊維強化樹脂層は強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグシートを積層、硬化する方法で形成することが望ましい。一方向引揃え繊維を使用することにより、X線撮影における透過ムラを極力抑制できる。これに対して、例えばクロス繊維を使用した場合には、織目によって透過するX線量が変化し不均一になる傾向となる。プリプレグシートは複数枚積層してもよく、互いに強化繊維の方向が交差するように積層すれば、強度の異方性が減少し、平均した強度を示す。
【0010】
また、繊維強化樹脂に使用される樹脂としては、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂などを挙げることができる。好ましくは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂であり、この場合、硬化剤が必要により使用される。
【0011】
繊維強化樹脂中の繊維含有率は55〜75重量%の範囲がよく、より好ましくは40〜80重量%の範囲である。
【0012】
芯材層の中に配置する体積抵抗率の大きな高抵抗シート状材料の材質としては、体積抵抗率が1×107Ω-cm以上である必要があるが、1×107〜1×1017Ω-cm、好ましくは1×109〜1×1013Ω-cmの範囲であることがよい。
具体的にはポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂、アラミド絶縁紙、非木材繊維系絶縁紙、木材繊維系絶縁紙、上質紙、クラフト紙などが挙げられる。好ましくは、アラミド絶縁紙、非木材繊維系絶縁紙、木材繊維系絶縁紙、上質紙、クラフト紙等の紙系のシートである。高抵抗シート状材料は1枚であっても、2枚以上であってもよく、また、芯材層の中に配置する高抵抗シート状材料層は、1層であっても、2層以上であってもよいが、一層を芯材層のほぼ中間層となる位置に配置することが好ましい。この高抵抗シート状材料の厚みはX線透過率に影響を与えない程度の厚みとして、具体的には200μm以下であるが、好ましくは30〜150μmの範囲内とすることがよい。体積抵抗率の大きな高抵抗シート状材料を介在させることにより、X線撮影の記録媒体として蓄積性蛍光体を使用する場合においても、読取などによって該蛍光体が帯電しても、X線撮影用カセッテの帯電を防止して、取扱者が感電することを抑制できる。
【0013】
芯材層の少なくとも一面側に配置する不織布の材質としては、有機繊維、無機繊維又はこれらの混合繊維のいずれであってもよく、また、天然繊維又は合成繊維についても限定されず広く使用することができる。具体的には、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維などが挙げられる。かかる表面層を設けることにより、芯材を被覆し、キズ付きを防止すると共に、均質な外観にすることができる。炭素繊維不織布、とりわけピッチ系短繊維不織布を使用すると、キズが付きにくく、仮にキズが付いても温風等をかけることにより復元することができるので好ましい。
【0014】
不織布に含浸させる樹脂としては熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不織布ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン樹脂などが挙げられる。好ましくは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である。
表面層の繊維含有率は10〜70重量%の範囲がよく、さらに好ましくは25〜55重量%の範囲である。また、平均の繊維長は1〜30mm程度がよい。
【0015】
芯材層の表面に設ける表面層は、芯材層の両表面又は片面に設けるが、使用態様によって、両表面に設けるか、片面に設けるを決めることができる。例えば、本発明の繊維強化樹脂板を使用して箱状のものを作るための板として使用する場合は、箱状体となったとき、表面に露出する面に表面層を設けることが有利である。しかし、このような場合であっても、X線撮影用カセッテのように箱状体の内面にも弾力性があることが望ましい場合は、この面にも表面層を設けることが有利である。かかる場合は、一方の表面層と他方の表面層とは、材質や厚みが異なることができる。
【0016】
本発明の繊維強化樹脂板材の層構造は、表面層と芯材層を有し、芯材層は繊維強化樹脂層と高抵抗シート材料層を有する構造であるが、表面層の厚み(両面に配置するときは、片面の厚み)は50〜250μm、好ましくは100〜200μmであり、芯材層の厚みは500〜2000μm、好ましくは700〜1500μmの範囲内とすることがよく、高抵抗シート材料層の厚みは200μm以下、好ましくは30〜150μmの範囲内とすることがよい。繊維強化樹脂板材の全体厚みは、用途によって異なるが、800〜2500μm、好ましくは1000〜2000μmの範囲内とすることがよい。
【0017】
本発明の繊維強化樹脂板材を、製造する方法としては以下に記すような公知の方法が採用できる。
表面層となる不織布に樹脂を含浸して作成したマット状プリプレグシートの上に、強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグシートを積層し、さらに高抵抗シート状材料を積層し、その上に強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグシート、マット状プリプレグシートを順番に積層した後、ホットプレス装置やオートクレーブ装置等を用いて、加熱、加圧成形することにより製造することができる。なお、マット状プリプレグシートは片側表面だけに配置してもよいし、また表裏で異なるマット素材のマット状プリプレグシートを使用してもよい。更に、強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグシートを積層する際には板材の剛性に応じて繊維方向を一方向だけで積層してもよいし、繊維方向が交差するように積層してもよいし、二方向以上になるように積層してもよい。
【0018】
次に、上記のような公知の製造方法を改良した製造方法に係る本発明について説明する。
無機繊維又は有機繊維の不織布を、一方向引揃え繊維プリプレグと共に樹脂に含浸させて表面層及び芯材層の一部からなる予備シートを予め作成し、その後a)予備シートと、b)芯材層を構成する残りの一方向引揃え繊維プリプレグと、c)高抵抗シート状材料を、所定の層構造となるように積層配置し、これを一体成形する製造方法である。より具体的には、表面層が下にくるようにa)予備シートを用意し、その上にb)残りの一方向引揃え繊維プリプレグの約1/2と、c)高抵抗シート状材料と、b)残りの一方向引揃え繊維プリプレグの約1/2とを置き、更に、両表面に表面層を配置する場合は、もう一枚のa)予備シートを表面層が上にくるように置き、これらを一体成形する製造方法である。この場合、2枚以上のa)予備シート、b)一方向引揃え繊維プリプレグ又はc)高抵抗シート状材料を使用する場合は、それぞれが同一のものでなくても差し支えない。
【0019】
成形方法は、使用する樹脂の種類等によって異なるが、有利にはこのように積層された積層体を、離型処理を施したアルミ製金型に置き、ホットプレスにて使用される樹脂に合わせて、加圧力、温度を設定して硬化する。使用される樹脂がエポキシ樹脂の場合、面圧30〜50×104Pa、温度120〜140℃にて60〜120分加圧、加温することで、板状成形物を得る。
【0020】
【実施例】
次に図面を参照して本発明の板材を説明する。
図1は、両表面に表面層を配置した本発明の繊維強化樹脂板材の層構造の一例を示す断面図である。マット状プリプレグシートからなる表面層1、高抵抗シート状材料層3と、一方向に引き揃えたプリプレグシートからなる繊維強化樹脂層2から構成されている。繊維強化樹脂層2は、有利には繊維の配列方向を90°ずらした複数のプリプレグシートを積層されている。図2は、片面に表面層を配置した本発明の繊維強化樹脂板材の層構造の一例を示す断面図である。マット状プリプレグシートからなる表面層1、高抵抗シート状材料層3と、一方向に引き揃えたプリプレグシートからなる繊維強化樹脂層2から構成されている。繊維強化樹脂層2は、有利には繊維の配列方向を90°ずらした複数のプリプレグシートを積層されている。
【0021】
実施例1
図1に示す繊維強化樹脂板材を製造するため、マット目付30g/m2のマット状のピッチ系短繊維不織布(株式会社ドナック製:ドナカーボ)と、プリプレグ目付150g/m2の一方向引揃え炭素繊維プリプレグシートとをエポキシ樹脂含浸、硬化させて表面層及び芯材層の一部からなる予備シートを得た。次に、この予備シートのマット状のピッチ系短繊維不織布層を下にして金型上に配置し、その上に、上記と同じプリプレグ目付150g/m2の一方向引揃え炭素繊維プリプレグシートを3枚(繊維方向を互いに90°ずらした)、厚み0.1mmの絶縁処理を施した絶縁紙、上記と同じ炭素繊維プリプレグシートを3枚、最後にマット状のピッチ系短繊維不織布層を上にした上記予備シートを、順次積層した。この積層物を離型処理を施したアルミ製金型に挟み、面圧30〜50×104Paにて加圧しながら室温から130℃まで5℃/minで昇温させ、130℃に達した後、120分間保持して板材を成形した。板材の厚みは約1.4mmであった。
【0022】
得られた繊維強化樹脂板材の表面を鉛筆硬度試験による見かけの表面硬度を測定したところ、6Hであった。また、この板材の表面を先を丸めた鉄筆でこすり、幅5mm、深さ0.01mm程度の凹み疵を付けた。この部分をヒートガンにて150℃程度の温風を吹きかけところ、凹み疵は消えた。更に、この板材を静電気試験機にて絶縁性能を測定したところ、5kV以上の絶縁を有していた。
【0023】
実施例2
実施例1と同じ材料である目付が150g/m2で炭素繊維とエポキシ樹脂から構成される強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグシートと、マット目付30g/m2で炭素繊維とエポキシ樹脂から構成されるマット状プリプレグシートと、厚み0.1mmの絶縁処理を施した絶縁紙を、図2に示す片面に表面層を配置した積層構造となるように、順次積層した。次に、積層体を離型処理を施したアルミ製金型に挟み、面圧30〜50×104Paにて加圧しながら室温から130℃まで5℃/minで昇温させ、130℃に達した後120分間保持して板材を成形した。板材の厚みは1.25mm程度であった。
【0024】
この板材の表面層側表面を鉛筆硬度試験による見かけに表面硬度を測定したところ、6Hであった。また、この板材の表面層側表面を先を丸めた鉄筆でこすり、幅5mm、深さ0.01mm程度の凹み疵を付けた。この部分をヒートガンにて150℃程度の温風吹きかけところ、凹み疵は消えた。更に、この板材を静電気試験機にて絶縁性能を測定したところ、5kV以上の絶縁を有していた。
【0025】
比較例
実施例1と同じ材料である目付が150g/m2で炭素繊維とエポキシ樹脂から構成される強化繊維を一方向に引き揃えたプリプレグシートのみを積層した。この積層物を離型処理を施したアルミ製金型に挟み、面圧30〜50×104Paにて加圧しながら室温から130℃まで5℃/minで昇温させ、130℃に達した後120分間保持して板材を成形した。板材の厚みは1.25mm程度であった。
【0026】
この板材の表面硬度は、5Hであった。鉄筆で付けた凹み疵(幅5mm、深さ0.01mm)部分へ、ヒートガンにて150℃程度の温風吹きかけた試験では、凹み疵は消えなかった。静電気試験機による絶縁性能は、4.5kV未満であった。
【0027】
【発明の効果】
本発明の繊維強化樹脂板材は、表面にマット状の表面層が配置され、かつ板厚の中間部分には体積抵抗率の大きな高抵抗シート状材料を配置することにより、表面が疵付きにくく、かつ表面が疵付いた場合でも簡単に補修できる。また、帯電による導電性蓄積性蛍光体への影響を極力少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の繊維強化樹脂板材の層構造を示す断面図である。
【図2】 本発明の繊維強化樹脂板材の他の一例の層構造を示す断面図である。
【符号の説明】
1 表面層
2 繊維強化樹脂層
3 高抵抗シート状材料層
Claims (3)
- 主として繊維強化樹脂にて成形され、芯材層の少なくとも片面に表面層を配置した板材において、芯材層を構成する繊維強化樹脂が一方向に引き揃えられた繊維強化樹脂からなり、表面層が樹脂含浸された無機繊維又は有機繊維の不織布からなり、かつ芯材層中に体積抵抗率が1×107Ω-cm以上の高抵抗シート状材料層を配置してなる X 線撮影用カセッテのフロント板に使用される繊維強化樹脂板材。
- 芯材層の厚みが500〜2000μmの範囲内にあり、一つの表面層の厚みが50〜250μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の繊維強化樹脂板材。
- 無機繊維又は有機繊維の不織布を、一方向引揃え繊維プリプレグと共に樹脂に含浸させて、樹脂含浸された不織布からなる表面層と芯材層の一部からなる予備シートを作成し、該予備シートと、芯材層を構成する残りの一方向引揃え繊維プリプレグと、体積抵抗率が1×107Ω-cm以上の高抵抗シート状材料とを、芯材層の少なくとも片面に表面層を有し、かつ芯材層中に該高抵抗シート状材料層を有するように積層配置し、これを一体成形することを特徴とする請求項1に記載された繊維強化樹脂板材の製造方法。
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