JP4041964B2 - プリズム様シートの製造方法及び装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、プリズム様シートの製造方法及び装置に係り、特に液晶表示装置の視野角を拡大するために用いられるプリズム様シートの製造方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置は、液晶自体が角度依存性を有するため、良好な表示品質が得られる視野角が狭く、見る角度により表示の明暗が反転したり、輝度が極端に低下又は上昇したりする。この為、従来より、液晶表示装置の視野角を拡大するためにシート面に図10のような断面三角の凸列1がほぼ平行に配列されたプリズム列2を有するプリズム様シート3が用いられている。
【0003】
従来のプリズム様シートの製造方法としては、ローラ表面にプリズム列の形状が形成されたエンボスローラと、表面が平滑なバックアップローラとからなる一対のニップローラの何れかを熱ローラとし、このニップローラで乾膜状態の熱可塑性シートをニップすることにより、熱可塑性シートにエンボスローラのプリズム列の形状を熱転写する方法がある。
【0004】
また、転写によらないプリズム様シートの製造方法としては、例えば特許文献1に、熱可塑性の溶液キャスティングフイルムと粘着材層と一軸延伸フイルムとの積層体を溶剤の沸点以上の温度で加熱して一軸延伸フイルムを熱収縮させることにより溶液キャスティングフイルムに微細な凸凹を形成させた後、積層体から一軸延伸フイルムを剥離する方法がある。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−221854号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、熱によってエンボスローラのプリズム列を熱可塑性シートに転写する方法は、微細な凸凹を転写するには限界があるので、転写精度が悪くなるという欠点がある。例えば、ニップ力が解除されたときに、熱可塑性シートの弾性により凸列と凸列の間の凹部が元に戻ろうとするので、プリズム列の高さが設計寸法よりも低くなってしまい、設計値に近似したアスペクト比のプリズム列が形成できないという欠点がある。また、大きなニップ力が必要であることから、均一な厚みのプリズム様シートを製造するには大きな装置剛性が必要になり、装置コストが高くなる。しかも、装置剛性の改良には限界があるので、結局、プリズム様シート厚みの均一精度を十分に得ることができないという欠点がある。
【0007】
また、特許文献1の方法は、粘着層や一軸延伸フイルムを溶液キャスティングフイルムに積層させたり剥離させたりする工程があるため、工程が複雑化するという欠点がある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて成されたもので、アスペクト比や均一厚み等の製品品質に優れたプリズム様シートを製造でき、しかも複雑な工程を必要としないプリズム様シートの製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決する為の手段】
本発明は、前記目的を達成する為に、シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造方法において、走行又は回転する支持体上に高分子溶液を流延してシートを製膜する溶液製膜工程と、前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップして、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状を転写する転写工程と、前記プリズム列が転写されたシートを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記目的を達成する為に、シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造装置において、走行又は回転する支持体上に高分子溶液を流延してシートを製造する溶液製膜装置と、前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップして、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状を転写する転写装置と、前記プリズム列の形状が転写されたシートを乾燥する乾燥装置と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、支持体上に高分子溶液を流延してシートを製膜し、支持体から剥離したシートを転写部材と支持部材とでニップしてシート面の支持体面側に転写部材のプリズム列の形状を転写する。溶液製膜工程の支持体上でシートに含有される溶媒等の揮発成分(以下、単に『揮発分』という)の一部が揮発するが、支持体から剥離された直後のシートは、まだ残留揮発分が多くウエットな軟膜状態にあり弾性も殆どない。
【0012】
特に、支持体から剥離されたシートの残留揮発分の濃度は反支持体面側よりも支持体面側の方が大きく、それだけ軟膜状態なので、支持体面側への転写精度が良くなる。これにより、転写工程において、転写部材の転写面に形成されたプリズム列の形状をシート面に精度良く転写することができる。このときに、乾膜の熱可塑性シートの熱転写のような大きなニップ力を必要としないので、ニップ力によりローラが撓んでシートの厚みが不均一化するのを抑制できる。ここで使用する転写部材としては、プリズム列の形状が形成された版型を使用し、版型に対向させて平板な支持部材を配置することもできるが、製造の完全連続化という観点からはロール面にプリズム列の形状が形成されたエンボスローラと、それに対向するバックアップローラとでなる一対のニップローラで構成することが好ましい。
【0013】
プリズム列の形状が転写されたシートは、次に乾燥工程で乾燥される。乾燥工程では、シート中の揮発分が蒸発して乾燥され、表面に転写されたプリズム列が固定化されたプリズム様シートが製造される。この場合、残留揮発分が多い支持体面側にプリズム列を転写した方が、乾燥によりシートが収縮したときに良好なプリズム列が形成され易い。
【0014】
更には、この乾燥により、シートが収縮するので、プリズム列における凸列の頂点同士の距離であるピッチ寸法を転写時よりも小さくすることができる。このときに、プリズム列のピッチ方向の収縮と高さ方向の収縮の両方が起きるので、設計したアスペクト比に近いピッチ寸法と高さ寸法を有するプリズム列を得ることができる。このように、乾燥工程では、プリズム列のピッチ寸法も高さ寸法も転写時よりも小さくなるので、これを考慮して転写部材に形成されるプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法を、製造されたプリズム様シートに形成されるプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法よりも大きくしておくことが好ましい。シートに形成されるプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法に対して転写部材に形成するプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法をどの程度の倍率にするかは、乾燥によって収縮する収縮率を予め測定しておいて、収縮率を吸収する倍率にすればよい。
【0015】
また、本発明は、前記目的を達成する為に、シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造方法において、走行又は回転する支持体上に複数の高分子溶液を重層流延してシートを製膜すると共に、該シートの支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように前記複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜する溶液製膜工程と、前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップして、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状を転写する転写工程と、前記プリズム列が転写されたシートを乾燥する乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記目的を達成する為に、シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造装置において、走行又は回転する支持体上に複数の高分子溶液を重層流延してシートを製膜すると共に、該シートの支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように前記複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜する溶液製膜装置と、前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップすると共に、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状が転写されるように前記転写部材と前記支持部材とを配置した転写装置と、前記プリズム列の形状が転写されたシートを乾燥する乾燥装置と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、上記したように、支持体から剥離された直後のシートは、まだ残留揮発分が多くウエットな軟膜状態にあり弾性も殆どなく、転写工程において、転写部材の転写面に形成されたプリズム列の形状をシート面に精度良く転写することができる。更に本発明では、シートの支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜するようにした。
【0018】
即ち、生産性を上げるために流延速度をアップすると、高分子溶液(ドープ)がダイスリットを通過するときに、流れの乱れが大きくなる。この場合、シートの支持体面側は支持体に接しているため、上記した流れの乱れがあってもシート表面の凸凹はフラット化される。しかし、空気に接する面である反支持体面側は凸凹が残ってしまい転写するときに転写部材の面がフラットであっても凸凹の影響で転写不良になる。この転写不良は高分子溶液中のポリマー濃度(ドープ濃度)を下げることで改善するが、流延速度を上げるためには自己支持性をよくしなくてはならずシート中に含有されるポリマー平均濃度を上げる必要がある。従って、転写精度と流延速度とは相反する条件が要求される。しかし、本発明のように、シートの支持体面側の固形分濃度を反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜することで、これらの相反する両方を両立できることが分かった。
【0019】
本発明の態様によれば、軟膜状態の指標として残留揮発分で管理することが好ましく、転写時におけるシートの残留揮発分は、シートの固形分を1としたときに0.3〜3.0の範囲であることが好ましい。残留揮発分が0.3未満ではシートが硬過ぎて転写精度が悪くなると共に転写するのに大きなニップ力を必要とする。また、残留揮発分が3.0を越えるとシートが軟らか過ぎて転写精度が悪くなる。
【0020】
本発明の態様によれば、転写工程では、転写部材の転写面温度をT1 、支持部材の支持面温度をT2 、転写時のシートの表面温度をT3 としたときに、転写直前の各温度が0°C≦T3 −T1 ≦50°C且つ0°C≦T3 −T2 ≦50°Cを満足することが好ましい。これにより、プリズム列のコーナ部に発生しやすいひげ状の剥離ムラを解消できると共に、転写部材の転写面の汚れを防止できる。
【0021】
本発明の態様によれば、乾燥工程では、シートの残留揮発分が、前記シートの固形分を1としたときに0.1以下になるまでは無接触乾燥を行うと共に、無接触乾燥による前記シートの収縮量は、無接触乾燥の入口における収縮前のシート面積を1としたときに出口における収縮後のシート面積が0.5〜0.9になるように乾燥条件を設定することが好ましい。例えば収縮量が0.5とは、無接触乾燥前に比べて半分になったことを意味する。これは、シートの残留揮発分が前記0.1を越える状態においては、シートに転写されたプリズム列の形状が完全に固化していないため、その後の工程においてガイドローラ等に接触するとプリズム列が変形する虞があるためである。また、シートの収縮量が前記0.5未満のように、収縮量が大き過ぎるとシート面にプリズム列とは別の皺が寄り易く好ましくない。また、シートの収縮量が0.9を越えると乾燥によりプリズム列のピッチを小さくするという効果を十分に得ることができない。
【0022】
本発明の態様によれば、転写工程と乾燥工程との間に、プリズム列の形状が転写されたシートを該プリズム列に沿った方向に一軸延伸する延伸工程を有することが好ましい。例えば、シートの搬送方向にプリズム列を形成しておいて、シートをプリズム列に沿った方向に一軸延伸すれば、シートの幅方向が収縮するので、プリズム列のピッチを一層小さくすることができる。この場合、シートをプリズム列に沿った方向に1.1〜3.0倍に一軸延伸させることが好ましい。一軸延伸量が1.1倍未満では一軸延伸によりプリズム列のピッチを小さくするという効果を得ることができない。また、3.0倍を越えると、シートが破断する虞があるだけでなく、シートの幅方向寸法がシート搬送方向で一定しなくなるので、プリズム列の凸列同士の平行性が損なわれる。
【0023】
本発明の態様によれば、転写部材はロール面にプリズム列の形状が形成されたエンボスローラであると共に、支持部材はロール面が平滑なバックアップローラであることが好ましい。
【0024】
本発明の態様によれば、溶液製膜装置で重層流延を行う流延ダイは、単層ダイの入口に複数の高分子溶液が合流するフィードブロックを備えたフィードブロックダイ方式、又は複数のマニホールドを有して該マニホールドの内部で複数の高分子溶液が合流するマルチマニホールドダイ方式の何れかであることが好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下添付図面に従って本発明に係るプリズム様シートの製造方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0026】
図1は、本発明のプリズム様シートの製造装置10の全体構成図であり、主として、溶液製膜装置12、転写装置14、一軸延伸・無接触乾燥装置16、耳部裁断機18、ローレット装置20、接触式乾燥装置22、接触式冷却装置24、及び巻取装置26で構成される。尚、図1では、溶液製膜装置12を複数の高分子溶液(ドープ)を重層流延可能なように複数のドープ供給装置13を設けた例で示したが、単層流延の場合には1つのドープ供給装置13を使用する。
【0027】
図1に示すように、溶液製膜装置12のドープ供給装置13では、ミキシングタンク28に貯留されたポリマーの所定量と溶媒タンク30に貯留された溶媒との所定量が、それぞれ定量ポンプ32,34によりスタティックミキサ36に送られて混合溶解され、高分子溶液(ドープ)が調製される。この場合、ポリマーと溶媒を混合する温度は、−10°C〜55°Cの範囲であることが好ましく、通常は室温で実施する。ポリマーと溶媒との比率は、最終的に得られる高分子溶液の濃度によって決定されるが、一般には、ポリマー量は調製する高分子溶液の5〜30重量%であることが好ましく、8〜25重量%であることが更に好ましく、10〜20重量%であることが最も好ましい。また、ポリマーに必要な添加剤を添加してもよい。調製された高分子溶液は、連続ろ過装置38を介して送液管40により流延ダイ42に送られる。尚、もう一つのドープ供給装置13の構成も上記したと同様なので、図1では「ドープ供給装置」とのみ示してある。また、この高分子溶液の調製において、重層流延する場合には、ポリマーを溶媒で溶解する際のポリマー量又は溶媒量を変えることで、それぞれのドープ供給装置13、13で調製する高分子溶液の固形分濃度を調整し、支持体面側(流延バンド44に接触する面)に流延する高分子溶液の固形分濃度が反支持体面側に流延する高分子溶液の固形分濃度よりも相対的に高くなるようにする。そして、単層流延の場合には単層用の流延ダイ42に送られ、重層流延の場合には重層用の流延ダイ42に送られる。
【0028】
重層流延ダイ42としては、図2に示すように、マニホールド80を1つ備えた単層ダイ81の入口82に、2つの高分子溶液の流路83、83が合流する合流部84を有するフィードブロック85を接続するフィードブロックダイ方式、或いは図3に示すように、2つのマニホールド80、80を有し、各マニホールド80に供給された2つの高分子溶液をそれぞれの流路83、83を介して合流部84に合流させるマルチマニホールドダイ方式を好適に使用することができる。更には、図4に示すように、マニホールド80を1つ備えた単層ダイ81を2つ並べて、逐次重層流延するようにしてもよい。尚、図2〜図4の重層流延ダイは、2層流延の例で示してあるが、重層する高分子溶液の数に応じて、フィードブロックの流路数、マルチマニホールドダイのマニホールド数、或いは逐次重層流延する単層ダイの数を変えればよい。また、図2〜図4の符号44は流延バンドである。
【0029】
流延ダイ42の下方には、図1のように、支持体としてステンレススチール製の流延バンド44が配置されており、流延バンド44は流延部側回転ドラム46および非流延部側回転ドラム48に巻き掛けられ、流延バンド44が流延部側回転ドラム46と非流延部側回転ドラム48との間を矢印A方向に周回走行する。流延部側回転ドラム46と非流延部側回転ドラム48との間には、流延バンド44を弛まないように支持する複数の支持ローラ50が設けられる。そして、流延ダイ42から流延バンド44上に流延された高分子溶液の流延膜は、流延バンド44が略一回り周回走行する間に、流延膜中の揮発分(主として溶媒)の一部が揮発して薄膜状のシート52が製膜される。
【0030】
溶剤製膜で使用される高分子溶液のポリマー種類としては、ポリオレフィン類(例、ノルボルネン系ポリマー)、ポリアミド類(例、芳香族ポリアミド)、ポリスルホン類、ポリエーテル類(ポリエーテルスルホン類やポリエーテルケトン類を含む)、ポリスチレン類、ポリカーボネート類、ポリアクリル酸類、ポリアクリルアミド類、ポリメタクリル酸類(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリメタクリルアミド類、ポリビニルアルコール類、ポリウレア類、ポリエステル類、ポリウレタン類、ポリイミド類、ポリビニルアセテート類、ポリビニルアセタール類(例、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール)やセルロース誘導体(例、セルロースの低級脂肪酸エステル)が用いられる。本発明はセルロースの低級脂肪酸エステルを使用する場合に特に有効である。セルロースの低級脂肪酸エステルの低級脂肪酸とは、炭素数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)、又は4(セルロースブチレート)であることが好ましい。更に好ましくはセルロースアセテートであり、セルローストリアセテート(酸化度:58.0〜62.5%)が特に好ましい。セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのようなセルロースの混合脂肪酸エステルを用いてもよい。
【0031】
溶剤製膜で使用される高分子溶液の溶媒としては、0°C〜55°Cの範囲の温度(高分子溶液を使用するときに予定している温度)において、ポリマーが溶媒により溶解又は膨潤するポリマーと溶媒との組み合わせを用いることができる。ポリマーと溶媒により膨潤しないと、冷却溶解法(特開平9−95544号公報参照)を用いても溶解させることは殆ど不可能である。溶媒は、水系と溶剤系があるが、有機溶剤を好適に使用できる。有機溶剤の例としては、ハロゲン化炭化水素類(例、メチレンクロライド)、ケトン類(例、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル類(例、メチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、アミルアセテート、ビチルアセテート)、エーテル類(例、ジオキサン、ジオキソラン、THF、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル)、炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン)、及びアルコール類(例、メタノール、エタノール)が含まれる。溶媒は前述したように、ポリマーを溶解又は膨潤する液体である。従って、具体的な溶媒の種類は、使用するポリマーの種類の応じて選択するのが好ましい。例えば、ポリマーがセルローストリアセテート、ポリカーボネート類やポリスチレン類の場合には、アセトンや酢酸メチルが好ましい溶媒として用いられる。また、ノルボルネン系のポリマーの場合には、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、アセトンや、メチルエチルケトンが好ましい溶媒として用いられる。ポリメチルメタクリレートがポリマーの場合には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアセテート、ブチルアセテートやメタノールが好ましい溶媒として用いられる。2種類以上の溶媒を混合して使用してもよい。溶媒の沸点は、20°C〜300°Cであることが好ましく、40°C〜100°Cであることが最も好ましい。
【0032】
溶液製膜装置12で製膜されたシート52は、流延部側回転ドラム46の近傍に配置された転写装置14に送られることにより流延バンド44から剥離されると共に、シート52の支持体面側(流延バンド44に接触する面)にプリズム列が転写される。転写装置14は、シート52の支持体面側に配置されたエンボスローラ54と、シート52の反支持体面側に配置されたローラ面が平滑なバックアップローラ56とでなる一対のニップローラ54、56で構成される。図5に示すように、エンボスローラ54のローラ面の周方向には、断面三角な環状の凸列54A(プリズム)がほぼ平行に形成されたプリズム列54Bの形状が形成され、シート52をエンボスローラ54とバックアップローラ56とでニップ搬送することにより、図6のようにシートの搬送方向に沿ったプリズム列の形状がシート面の支持体側面に転写される。エンボスローラ54に形成するプリズム列54Bは、図7に示すように、ピッチ寸法(P)と高さ寸法(D)で規定され、製品であるプリズム様シートの仕様によって異なるが、一般的には、ピッチ寸法(P)が5〜100μmであり、高さ寸法(D)が5〜100μmである。但し、本発明の場合には、溶剤製膜によって製膜された軟膜状態のシート52にプリズム列を転写した後、乾燥することでシート52が収縮するので、この収縮によってピッチ寸法や高さ寸法も転写時の寸法よりも小さくなる。従って、この乾燥時における収縮を考慮して、エンボスローラ54に形成されるプリズム列54Bのピッチ寸法と高さ寸法は、製造されたプリズム様シートに形成されるプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法よりも大きくしておくことが好ましい。具体的には、乾燥によって収縮するピッチ方向の収縮率と高さ方向の収縮率を予め測定しておいて、エンボスローラ54に形成されるプリズム列54Bのピッチ寸法と高さ寸法をそれぞれの収縮率を吸収する倍率にすればよい。この場合、プリズム列のピッチ寸法と高さ寸法の異なるエンボスローラ54を複数用意しておいて、プリズム様シートに形成するプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法、乾燥条件、更には後記するシートの一軸延伸によるピッチ寸法の変化に応じて使い分けるとよい。エンボスローラ54のローラ面にプリズム列を形成する方法としては、フォトリソグラフィー、機械加工、放電加工、レーザ加工等、エンボスローラ54の材質やプリズム列54Bの形状に応じて公知の各種方法を採用できる。
【0033】
尚、転写装置14は、シート52の反支持体側面にプリズム列が転写されるようにエンボスローラ54とバックアップローラ56とを配置することも可能であるが、本発明のように、シート52の支持体面側にプリズム列が転写されることが好ましい。これは、流延バンド44から剥離されたシート52の残留揮発分の濃度は反支持体面側よりも支持体面側の方が大きいため、支持体面側は反支持体側面よりも軟膜状態であり、反支持体側面は支持体面側より硬くなっている。従って、軟膜状態にある支持体面側に転写した方が転写精度が良くなるだけでなく、比較的硬膜状態の反支持体面側をバックアップローラ56で支持した方がシート52を安定して支持できるので、転写精度が一層良くなる。更には、後工程の乾燥時において、シートが収縮したときに硬膜状態の反支持体面と軟膜状態の支持体面との収縮差により、ピッチ寸法の小さいプルズム列が形成され易い。転写時におけるシートの残留揮発分は、シート52の固形分を1としたときに0.1〜3.0の範囲であることが好ましく、0.3〜2.0の範囲がより好ましい。残留揮発分が0.1未満ではシート52が硬過ぎて転写精度が悪くなると共に転写するには大きなニップ力を必要とする。また、残留揮発分が3.0を越えるとシート52が軟らか過ぎて転写精度が悪くなる。
【0034】
また、重層流延する場合には、シート52の支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるようにすることが必要である。これは、ドープ及びシートにおけるポリマー濃度において、転写精度と流延速度とは相反する条件が要求されるが、本発明のように、シートの支持体面側の固形分濃度を反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜することで、これらの相反する両方を両立できるからである。2層流延の場合に支持体面側に流延される高分子溶液の固形分濃度と、反支持体面側に流延される高分子溶液の固形分濃度の濃度比は、反支持体面側の高分子溶液の固形分濃度を1としたときに、支持体面側の高分子溶液の固形分濃度が1.1倍〜1.5倍の範囲になることが好ましい。
【0035】
転写装置14は、エンボスローラ54のローラ面温度をT1 、バックアップローラ56のローラ面温度をT2 、転写時のシート52の表面温度をT3 としたときに、次式(1)を満足することが好ましい。
【0036】
【数1】
0°C≦T3 −T1 ≦50°C且つ0°C≦T3 −T2 ≦50°C…(1)
これにより、シート52の転写部分がエンボスローラ54から離れるときに、シート52に転写されたプリズム列のコーナ部に発生し易いひげ状の剥離ムラを防止できると共に、剥離によるエンボスローラ54のローラ面の汚れを防止できる。この場合、エンボスローラ54のローラ面温度T1 とバックアップローラ56のローラ面温度T2 との温度差(以下「ローラ温度差」という)を5°C以内、好ましくは2°C以内にすることが好ましい。更には、エンボスローラ54のローラ幅方向のローラ面温度分布とバックアップローラ56のローラ幅方向のローラ面温度分布は、転写する範囲においてローラ面平均温度に対して±5°C以内、好ましくは±2°C以内であることが好ましい。特に、エンボスローラ54のローラ幅方向のローラ面温度分布が大きいと、転写後のシート52の幅方向厚みのバラツキが大きくなり易い。このような温度条件を得るには、例えば、エンボスローラ54とバックアップローラ56のローラ内にそれぞれ通水パイプ(不図示)を内蔵し、この通水パイプをそれぞれロータリージョイント(不図示)を介して熱媒体供給装置(不図示)に連結させる。そして、熱媒体をローラ54、56との間で循環させることにより、エンボスローラ54とバックアップローラ56のローラ面温度を制御する。尚、温度条件を得る方法としては、媒体循環方式に限定されるものではない。
【0037】
転写装置14でプリズム列の形状が転写されたシート52は、一軸延伸・無接触乾燥装置16に送られて、シート52の搬送方向、即ちプリズム列に沿った方向に一軸延伸されると共に、シート52に残留する残留揮発分の無接触乾燥が行われる。図8は、主として、一軸延伸・無接触乾燥装置16を示したもので、図1とはシート52の搬送方法が逆になっている。図8に示すように、一軸延伸・無接触乾燥装置16は、上記した転写装置14側から順に一軸延伸ゾーン58と、無接触乾燥ゾーン60とに区画される。一軸延伸ゾーン58は、乾燥風の供給口62と排出口64を有するケーシング66で覆われ、ゾーン58内のシート搬送方向上流端に転写装置14が配置され、下流端が無接触乾燥ゾーン60を覆うケーシング68のシート搬送入口69に接続される。無接触乾燥ゾーン60には、搬送されるシート52の搬送方向に沿って、シート52の上側と下側に複数の乾燥風吹出器70が対向配置されると共に、シート52を搬送する搬送装置72が設けられる。そして、シート52を挟んで対向配置される乾燥風吹出器72から吹き出される乾燥風により、シート52を空中に支持しながら、シート52を表面と裏面の両方から乾燥する。搬送装置72は、後工程で裁断するシート52の幅方向両端部(以下『シートの耳部』という)を支持し、製品となるシート中央部には接触しない搬送方式であればよく、例えばピンテンター方式やクリップテンター方式を好適に使用できる。ピンテンター方式の搬送装置72は、シート52の両耳部側位置に一対の移動チェーン74を配設し、この移動チェーン74に、多数のピンが植設されたピンプレート(不図示)を支持したもので、ピンをシート52の耳部に刺すことにより、シート52を幅方向にテンションをかけながら搬送する。クリップテンター方式はピンの代わりにクリンプでシート52の耳部を支持するもので、基本的な搬送機構は同じである。そして、この搬送装置72によるシート52の搬送速度を転写装置14によるニップ搬送速度よりも速くしてシート52の搬送方向にテンションを付与することにより、一軸延伸ゾーン58を搬送されるシート52を搬送方向に一軸延伸する。シート52を搬送方向、即ちプリズム列に沿った方向に一軸延伸すれば、シート52の幅方向が収縮するので、プリズム列のピッチ寸法を転写時よりも小さくすることができる。この場合、シート52をプリズム列に沿った方向に1.1〜3.0倍に一軸延伸させることが好ましく、1.5〜2.0倍がより好ましい。一軸延伸が1.1倍未満で一軸延伸によりプリズム列のピッチ寸法を小さくするという効果が殆どなく、3.0倍を越えると、シート52が破断する虞があるばかりでなく、シート幅がシート搬送方向において一定でなくなるので、プリズム列の各列同士の平行性が損なわれる。従って、搬送装置72のシート搬送速度と転写装置14のニップ搬送速度との関係もシート52を1.1〜3.0倍に一軸延伸できるように設定することが必要である。
【0038】
また、無接触乾燥ゾーン60では、シート52の残留揮発分が、シート52の固形分を1としたときに0.1以下になるまでは無接触乾燥を行うと共に、無接触乾燥によるシート52の収縮量が無接触乾燥ゾーン60の入口における収縮前のシート52の面積を1としたときに出口におけるシート面積が0.5〜0.9になるように、より好ましくは0.7〜0.8になるように乾燥条件を設定することが好ましい。これは、残留揮発分が0.1以下にならない状態で後工程でガイドローラ等の機器にシート52が接触すると、プリズム列の形状が変形する虞があるためである。また、シート52の収縮量が0.5未満のように、収縮量が大き過ぎるとシート面にプリズム列とは別の皺が寄り易く好ましくない。また、シート52の収縮量が0.9を越えると乾燥によりプリズム列のピッチを小さくするという効果を殆ど得ることができない。
【0039】
一軸延伸・無接触乾燥装置16で一軸延伸と無接触乾燥が行われたシート52は、シート52の耳部のうちのピンやクリップで支持された部分が裁断機18(図1参照)でシート搬送方向に裁断される。裁断機18としては、回転刃式のものでもカッター刃式のものでも他のものでもよい。裁断後のシート52の耳部には、シートの両耳部位置に配設された一対のローレット装置20により5〜50μm高さの突起を有するローレットが施される。ローレット装置20によりローレットが施されたシート52は、接触式乾燥装置22で乾燥された後、接触式冷却装置24で室温まで冷却され、巻取装置26に巻き取られる。このように、シート52の両耳部にローレットを施しておけば、図1のように、接触式乾燥装置22や接触式冷却装置24が、乾燥距離や冷却距離を確保するためにシート52の支持体面と反支持体面とが交互にガイドローラ76に接触するローラ配置であっても、プリズム列がガイドローラ76に接触する際に変形するのを抑制できる。従って、シート52に形成するプリズム列の高さ寸法に応じて、5〜50μmの範囲内においてローレットの突起高さがプリズム列の高さよりも同等以上になるようにすることが好ましい。また、シート52の両耳部にローレットを施しておけば、巻取装置26に巻き取られるときに巻きズレが発生しないので、巻取り時におけるプリズム列の変形を抑制できる。
【0040】
尚、本実施の形態では、溶液製膜装置12の支持体として、流延バンド44の例で説明したが、図9に示すように、流延ドラム78を使用してもよい。
【0041】
【実施例】
[A]試験Aは、表1に示す組成の高分子溶液と表2に示すエンボスローラを用いて、実施例では図1の装置により平均厚みが80μmのプリズム様シートを製造し、比較例では従来技術で説明した熱転写方式の装置により平均厚みが80μmプリズム様シートを製造し、 実施例と比較例の品質を評価した。
【0042】
【表1】
Figure 0004041964
【0043】
【表2】
Figure 0004041964
【0044】
製造されたプリズム様シートの評価方法としては、転写精度とシート厚みのバラツキの2項目で行った。転写精度は、エンボスローラのアスペクト比(P:D)とプリズム様シートのアスペクト比(P:D)が近い方が良いと評価した。転写形状実測方法は、キーエンス社製の超深度形状測定顕微鏡VK8500を用いてプリズム列のうちの10個の凸列のピッチ寸法と高さ寸法について測定し、平均値で表した。また、シート厚みのバラツキは、接触式厚み計を用いてプリズム様シートの幅方向厚み分布を測定して最大値と最小値の差をΔdとし、Δdが2μm未満であれば○(バラツキ小さい)、Δdが2〜4μmであれば△(バラツキ普通)、Δdが4μm超えると×(バラツキ大きい)とした。
(実施例1)
本発明による実施例1では、エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度を5°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ20:10となった。また、シート厚みのバラツキも小さく○の評価であった。
(比較例1)
従来法による比較例1では、実施例1と同じ表1の高分子溶液で製造した80μmの乾膜シート(熱可塑性シート)に、表2のエンボスローラでプリズム列を熱転写した。エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度を140°Cとした。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)20μm、高さ寸法(D)6μmで、アスペクト比(P:D)が20:6となり、プリズム列の高さ方向の熱転写精度が悪かった。また、シート厚みのバラツキも大きく×の評価であった。
(比較例2)
比較例2では、熱転写精度を上げるために、エンボス時のシート搬送速度を10m/分まで遅くした。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法20μm、高さ寸法8μmで、アスペクト比(P:D)が20:8となり、比較例1に比べて改善されたが、実施例1よりも劣っていた。また、比較例2の場合、シート搬送速度を実施例1の1/3以下に遅くしなくてはならないので、生産効率の点で劣る。また、シート厚みのバラツキは△で普通の評価であった。
[B]試験Bは、本発明におけるエンボスローラ、バックアップロール、シートに関する好ましい温度条件を調べた。即ち、表1に示す組成の高分子溶液と表2に示すエンボスローラを用いて、図1の装置により平均厚みが80μmのプリズム様シートを製造したときに、エンボスローラのローラ面温度T1 、バックアップローラのローラ面温度T2 、転写時のシートの表面温度T3 が、転写精度、シート厚みのバラツキ、及びひげ状の剥離ムラの発生にどのように影響するかを調べた。
【0045】
評価方法は、転写精度、シート厚みのバラツキについては試験Aと同様であり、ひげ状の剥離ムラはシートを切断し、その断面を光学顕微鏡で観察(100倍)することにより評価した。
(試験1)
試験1では、エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度T1 (平均)を5°C、エンボスローラの幅方向のローラ面温度分布を2°C、バックアップローラのローラ面温度T2 (平均)を3°C、バックアップローラの幅方向のローラ面温度分布を2°C、転写時のシートの表面温度T3 (平均)を15°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。即ち、0°C≦T3 −T1 ≦50°C且つ0°C≦T3 −T2 ≦50°C、及び両ローラのローラ温度差と各ローラの温度分布の全てが本発明の好ましい条件を満足するようにした。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ20:10となり、ひげ状の剥離ムラもなかった。
(試験2)
試験2では、エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度T1 (平均)を20°C、エンボスローラの幅方向のローラ面温度分布を2°C、バックアップローラのローラ面温度T2 (平均)を23°C、バックアップローラの幅方向のローラ面温度分布を2°C、転写時のシートの表面温度T3 (平均)を15°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。即ち、試験1との条件と比較したときに、0°C≦T3 −T1 ≦50°C且つ0°C≦T3 −T2 ≦50°Cを満足しない場合である。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ20:10となったが、シート厚みのバラツキも大きく×の評価であり、ひげ状の剥離ムラも観察された。
(試験3)
試験3では、エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度T1 (平均)を5°C、エンボスローラの幅方向のローラ面温度分布を11°C、バックアップローラのローラ面温度T2 (平均)を3°C、バックアップローラの幅方向のローラ面温度分布を2°C、転写時のシートの表面温度T3 (平均)を15°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。即ち、エンボスローラの幅方向のローラ面温度分布がローラ面平均温度より5°C以上になる場合である。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ20:10であり、ひげ状の剥離ムラもなかったが、シート厚みのバラツキが大きく×の評価であった。
(試験4)
試験4では、エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度T1 (平均)を5°C、エンボスローラの幅方向のローラ面温度分布を2°C、バックアップローラのローラ面温度T2 (平均)を3°C、バックアップローラの幅方向のローラ面温度分布を9°C、転写時のシートの表面温度T3 (平均)を15°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。即ち、バックアップローラの幅方向のローラ面温度分布がローラ面平均温度より5°C以上になる場合である。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ20:10であり、ひげ状の剥離ムラもなかったが、シート厚みのバラツキが△の評価であった。
【0046】
試験3と試験4を比較して分かることは、シート厚みのバラツキに対する影響は、バックアップローラのローラ面温度分布よりもエンボスローラのローラ面温度分布の方が大きく影響するということである。
[C]試験Cは、図1において重層流延として構成された装置を用い、固形分濃度の異なる2種類の高分子溶液を2層同時重層流延した場合と、1種類の高分子溶液を単層流延した場合に、同じ品質のプリズム様シートを得ることのできる製造速度を比較した。尚、単層流延の場合には、溶液製膜装置のドープ供給装置を1個とし、重層流延ダイを単層流延ダイに交換しただけで、その他の装置は図1と同じにした。また、使用した高分子溶液は、表4の高分子溶液Aと表5の高分子溶液Bの2種類を使用した。シートへのプリズム列の転写は、使用したエンボスローラは表2と同じものを使用した。そして、シート乾燥後にシート厚みが80μmのプリズム様シートが得られるようにした。
【0047】
【表3】
Figure 0004041964
【0048】
【表4】
Figure 0004041964
【0049】
製造されたプリズム様シートの評価方法は、試験[A]、試験[B]と同様である。
(実施例2)
本発明による実施例2では、エンボス時のシート搬送速度を45m/分、エンボスローラのローラ面温度を20°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。また、2層同時重層流延条件として、支持体面側に表4の固形分濃度の高い高分子溶液を乾燥後で膜厚が60μmになるようにすると共に、反支持体面側に表3の固形分濃度の低い高分子溶液を乾燥後で膜厚が20μmになるようにした。即ち、シートの支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるようにし、固形分濃度の高い支持体面側に転写した。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ2:1になった。また、シート厚みのバラツキも小さく○の評価であった。
(比較例3)
比較例3では、エンボス時のシート搬送速度を35m/分、エンボスローラのローラ面温度を20°C、転写時におけるシートの残留揮発分を1.0、一軸延伸量を1.5倍、無接触乾燥の収縮量を0.7倍とした。また、比較例3では重層流延せずに表4の高分子溶液を乾燥後の膜厚で80μmになるようにした。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)8μmで、アスペクト比(P:D)がエンボスローラと同じ2:1になった。また、シート厚みのバラツキも小さく○の評価であった。
(比較例4)
比較例4では、比較例3におけるエンボス時のシート搬送速度を45m/分に速度を速めた以外は、比較例3と同じ条件で行った。その結果、プリズム様シートに形成されたプリズム列のピッチ寸法(P)16μm、高さ寸法(D)6μmで、アスペクト比(P:D)が2:0.75になりエンボスローラのアスペクト比(P:D)2:1よりも高さ寸法(D)の転写率が悪くなった。また、シート厚みのバラツキが△の評価であった。
【0050】
以上の試験結果から分かるように、実施例2の重層流延によって、比較例3の単層流延と同じ品質のプリズム様シートを製造する場合、エンボス時のシート搬送速度を約1.3倍速くすることができ、それだけ製造速度を上げることができる。また、比較例3と4との対比から分かるように、単層流延の場合には、エンボス時のシート搬送速度を実施例2と同じ速度まで速くすると、製造されるプリズム様シートの品質が低下する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のプリズム様シートの製造装置の全体構成図
【図2】重層流延ダイの一例を示す模式図
【図3】重層流延ダイの別の態様を示す模式図
【図4】重層流延ダイの更に別の態様を示す模式図
【図5】転写装置に設けられるエンボスローラのプリズム列を説明する断面図
【図6】エンボスローラのプリズム列をシートに転写している状態図
【図7】エンボスローラに形成されるプリズム列の形状を説明する説明図
【図8】一軸延伸・無接触乾燥装置を説明する説明図
【図9】溶液製膜装置の支持体の別態様として流延ドラムを説明する説明図
【図10】プリズム様シートに形成されたプリズム列を説明する説明図
【符号の説明】
10…プリズム様シートの製造装置、12…溶液製膜装置、14…転写装置、16…一軸延伸・無接触乾燥装置、18…裁断機、20…ローレット装置、22…接触式乾燥装置、24…接触式冷却装置、26…巻取装置、42…流延ダイ、44…流延バンド、52…シート、54…エンボスローラ、54A…凸列、54B…プリズム列、56…バックアップローラ、78…流延ドラム

Claims (14)

  1. シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造方法において、
    走行又は回転する支持体上に高分子溶液を流延してシートを製膜する溶液製膜工程と、
    前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップして、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状を転写する転写工程と、
    前記プリズム列が転写されたシートを乾燥する乾燥工程と、
    を有することを特徴とするプリズム様シートの製造方法。
  2. シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造方法において、
    走行又は回転する支持体上に複数の高分子溶液を重層流延してシートを製膜すると共に、該シートの支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように前記複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜する溶液製膜工程と、
    前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップして、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状を転写する転写工程と、
    前記プリズム列が転写されたシートを乾燥する乾燥工程と、
    を有することを特徴とするプリズム様シートの製造方法。
  3. 前記転写工程では、転写時における前記シートの残留揮発分が、該シートの固形分を1としたときに0.1〜3.0の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプリズム様シートの製造方法。
  4. 前記転写工程では、前記転写部材の転写面温度をT1 、前記支持部材の支持面温度をT2 、転写時のシートの表面温度をT3 としたときに、転写直前の各温度が、
    0°C≦T3 −T1 ≦50°C且つ0°C≦T3 −T2 ≦50°Cを満足することを特徴とする請求項1〜3の何れか1に記載のプリズム様シートの製造方法。
  5. 前記乾燥工程では、前記シートの残留揮発分が、該シートの固形分を1としたときに0.1以下になるまでは無接触乾燥を行うと共に、無接触乾燥による前記シートの収縮量は前記無接触乾燥の入口における収縮前のシート面積を1としたときに出口における収縮後のシート面積が0.5〜0.9になるように乾燥条件を設定することを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載のプリズム様シートの製造方法。
  6. 前記転写工程と前記乾燥工程との間に、前記プリズム列の形状が転写されたシートを該プリズム列に沿った方向に一軸延伸する延伸工程を有することを特徴とする請求項1〜5何れか1に記載のプリズム様シートの製造方法。
  7. 前記延伸工程では、前記シートを前記プリズム列に沿った方向に1.1〜3.0倍に一軸延伸させることを特徴とする請求項1〜6の何れか1に記載のプリズム様シートの製造方法。
  8. シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造装置において、
    走行又は回転する支持体上に高分子溶液を流延してシートを製造する溶液製膜装置と、
    前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップして、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列を転写する転写装置と、
    前記プリズム列の形状が転写されたシートを乾燥する乾燥装置と、
    を有することを特徴とするプリズム様シートの製造装置。
  9. シート面にプリズム列を有するプリズム様シートの製造装置において、
    走行又は回転する支持体上に複数の高分子溶液を重層流延してシートを製膜すると共に、該シートの支持体面側の固形分濃度が反支持体面側の固形分濃度よりも相対的に高くなるように前記複数の高分子溶液の固形分濃度を調整して製膜する溶液製膜装置と、
    前記シートを前記支持体から剥離した後、転写面にプリズム列の形状が形成された転写部材と支持部材とで前記シートをニップすると共に、該シート面の支持体面側に前記転写部材のプリズム列の形状が転写されるように前記転写部材と前記支持部材とを配置した転写装置と、
    前記プリズム列の形状が転写されたシートを乾燥する乾燥装置と、
    を有することを特徴とするプリズム様シートの製造装置。
  10. 前記転写装置と前記乾燥装置との間に、前記プリズム列の形状が転写されたシートを該プリズム列に沿った方向に一軸延伸する延伸装置を設けたことを特徴とする請求項8又は9のプリズム様シートの製造装置。
  11. 前記転写部材はロール面に前記プリズム列の形状が形成されたエンボスローラであると共に、前記支持部材はロール面が平滑なバックアップローラであることを特徴とする請求項8〜10の何れか1のプリズム様シートの製造装置。
  12. 前記転写部材に形成されるプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法は、製造されたプリズム様シートに形成されるプリズム列のピッチ寸法と高さ寸法よりも大きいことを特徴とする請求項8〜11の何れか1に記載のプリズム様シートの製造装置。
  13. 前記溶液製膜装置で重層流延を行う流延ダイは、単層ダイの入口に複数の高分子溶液が合流するフィードブロックを備えたフィードブロックダイ方式、又は複数のマニホールドを有して該マニホールドの内部で複数の高分子溶液が合流するマルチマニホールドダイ方式の何れかであることを特徴とする請求項9に記載のプリズム様シートの製造装置。
  14. 前記溶液製膜装置で重層流延を行う流延ダイは、複数の単層ダイを配列して逐次重層流延する単層ダイ配列方式であることを特徴とする請求項9に記載のプリズム様シートの製造装置。
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