JP4039229B2 - 希土類−鉄−硼素系合金、ならびに磁気異方性永久磁石粉末およびその製造方法 - Google Patents

希土類−鉄−硼素系合金、ならびに磁気異方性永久磁石粉末およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、希土類−鉄−硼素系合金、磁気異方性永久磁石粉末およびその製造方法、ならびに、当該磁気異方性永久磁石粉末を用いた異方性ボンド磁石およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高性能永久磁石として代表的な希土類−鉄−硼素系希土類磁石は、三元系正方晶化合物であるR2Fe14B型結晶相を主相として含む組織を有し、優れた磁石特性を発揮する。ここで、Rは希土類元素およびイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素であり、FeやBの一部は他の元素によって置換されていても良い。
【0003】
このような希土類−鉄−硼素系希土類磁石は、焼結磁石とボンド磁石とに大別される。焼結磁石は、希土類−鉄−硼素系磁石合金の微粉末(平均粒径:数μm)をプレス装置で圧縮成形した後、焼結することによって製造される。これに対して、ボンド磁石は、通常、希土類−鉄−硼素系磁石合金の粉末(粒径:例えば100μm程度)と結合樹脂との混合物(コンパウンド)をプレス装置内で圧縮成形することによって製造される。
【0004】
焼結磁石の場合、比較的粒径の小さい粉末を用いるため、個々の粉末粒子が磁気的異方性を有している。このため、プレス装置で粉末の圧縮成形を行うとき、粉末に対して配向磁界を印加し、それによって、粉末粒子が磁界の向きに配向した成形体を作製することができる。
【0005】
一方、ボンド磁石の場合は、用いる粉末粒子の粒径が結晶粒径を超えた大きさを持つため、通常、磁気的異方性を示すことがなく、各粉末粒子を磁界で配向させることはできなかった。従って、粉末粒子が特定方向に配向した異方性ボンド磁石を作製するには、個々の粉末粒子が磁気的異方性を示す磁性粉末を作製する技術を確立する必要がある。
【0006】
異方性ボンド磁石用の希土類合金粉末を製造するため、現在、HDDR(Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)処理が検討されている。「HDDR」は、水素化(Hydrogenation)、不均化(Disproportionation)、脱水素化(Desorption)、および再結合(Recombination)を順次実行するプロセスを意味している。このHDDR処理によれば、まず、希土類−鉄−硼素系合金(母合金)の鋳片または粉末をH2ガス雰囲気またはH2ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度500℃〜1000℃に保持し、それによって、上記合金中に水素を吸蔵させる。この水素吸蔵により、R2Fe14B相は希土類の水素化物や鉄基硼化物などに分解する。その反応式は、以下の通りである。
【0007】
2Fe14B+2H2 ⇔ 2RH2+Fe2B+12Fe、または
2Fe14B+2H2 ⇔ 2RH2+Fe3B+11Fe
【0008】
その後、温度500℃〜1000℃で脱水素処理を行った後、冷却することによって合金磁石粉末を得る。この脱水素処理により、上記の水素化物や鉄基硼化物などから再びR2Fe14B相が生成される。
【0009】
水素化前において比較的大きなサイズ(粒径:数十μm以上)を有していたR2Fe14B結晶粒の各々は、HDDR処理により、多数の細かいR2Fe14B結晶粒(粒径0.1〜1μm程度)の集合体に変化する。このようにして形成された非常に微細なR2Fe14B結晶粒の集合体を「再結晶集合組織」と呼ぶ。再結晶集合組織中の微細なR2Fe14B結晶粒は、もとの大きなR2Fe14B結晶粒の結晶方位を記憶している。このため、粉砕や分級によってHDDR処理後の合金粉末の粒径をHDDR処理前の結晶粒径程度以下の範囲にすれば、各粉末粒子に含まれる微細なR2Fe14B結晶粒の結晶方位は特定の方向に整列するため、磁気的異方性を発揮することができる。また、「再結晶集合組織」中の微細なR2Fe14B結晶粒は単磁区臨界粒径に近いサイズを有しているため、高い保磁力を発揮することもできる。
【0010】
以下、図19(a)〜(e)を参照しながら、HDDR処理を説明する。
【0011】
図19(a)は、希土類−鉄−硼素系の母合金1の一部を模式的に示している。母合金1は多結晶であるため、その中に多数の粒界3が存在し、各結晶粒の結晶方位2は必ずしも一方向にそろっていない。母合金1に対して粗粉砕工程を行い、図19(b)に示すように、各々が単一の結晶方位を有する程度の大きさを持った粉末粒子5を形成する。粉末粒子5の粒径が大きすぎると、各粉末粒子5は多結晶状態になり、粉末粒子5に含まれる結晶粒の方位が一つにそろわなくなる。ここで、粉末粒子5の集合体を粗粉砕粉4と称することにする。
【0012】
次に、粗粉砕粉4に対してHDDR処理を施し、各粒子5に再結晶集合組織を与える。図19(c)は、各粉末粒子5内に再結晶集合組織7が形成された状態を示している。なお、図19(d)は、再結晶集合組織7の拡大図であり、組織内の各結晶粒の結晶方位2が一方向に配向していることを示している。
【0013】
次に、図19(e)に示すように、粉末粒子5の凝集を解くか、微粉砕することにより、磁気異方性を有する合金粉末9を得ることができる。
【0014】
上述のようなHDDR処理を施すことによって、再結晶集合組織を持つ希土類−鉄−硼素系合金粉末を製造する方法は、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0015】
【特許文献1】
特公平6−82575号公報
【特許文献2】
特公平7−68561号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、HDDR処理によって作製された磁性粉末(以下、「HDDR粉末」と称する)には、以下のような問題がある。
【0017】
まず、HDDR粉末の磁化を高めるために、母合金の段階で、高温で長時間の均質化処理(例えば、1100℃、20時間)が必須であった。これは、母合金組織が微細であると、HDDR処理前の原料粉末が多結晶となり、粉末粒子が磁気的に等方的になるからである。
【0018】
また、母合金の全体にわたってHDDR処理を進行させるには、水素を母合金の内部にまで充分に拡散させる必要がある。そのためには水素化処理の時間を長くしなければならない(例えば、800℃、6時間)が、水素化処理の時間が長くなるほど、飽和磁化が低下する傾向がある。この理由は、水素化処理時間が長くなると、前述の化学式で示される可逆反応が繰り返し起こり、母合金のR2Fe14B相の結晶方位の記憶が次第に失われてゆく結果、最終的に得られる「再結晶集合組織」の磁気的異方性が低下してしまうからである。
【0019】
一方、水素化処理の時間を短くすると、HDDR処理が不完全になり、微細なR2Fe14B相の生成が不充分となるため、高い保磁力HcJが得られず、残留磁束密度Brも低くなるという問題が生じる。
【0020】
この問題を解決するため、母合金にGaなどを添加することが提案されている。特に母合金にGaを添加した場合、水素化処理の時間を長くしても、母合金中におけるR2Fe14B相の結晶方位の記憶が失われにくくなる。その結果、保磁力HcJおよび残留磁化Jrの両方を充分なレベルにまで向上させることができる。
【0021】
しかしながら、Gaは高価であり、水素化処理のための熱処理を長時間行うことも製造コストを増加させる。HDDR粉末の性能を高めつつ、低コストで量産するには、高価なGaの添加が不要となり、しかも、短い水素化処理時間で必要な磁石特性を得ることが強く求められている。
【0022】
上記特許文献1および特許文献2では、母合金として高周波溶解炉などで溶解、鋳造して製造したいわゆる合金インゴットを用いた場合について説明しているが、近年ではストリップキャスティング法にて得られた薄板状原料(合金鋳塊)にHDDR処理を施した粉末を用いてボンド磁石を得る方法も提案されている(特許第3213638号)。
【0023】
しかしストリップキャスティング法にて得られる合金鋳塊は、実質的にα−Fe相を含有せず、均質な組織を有するものの、結晶粒のサイズが小さすぎるため、ボンド磁石に用いる粉末粒度では各粉末粒子の磁気的異方性が低く、実用化に至っていないのが現状である。
【0024】
本発明は、かかる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、実質的にGaを添加しなくとも、前記母合金の均質化処理の省略および水素化処理時間の短縮を可能とし、保磁力HcJおよび残留磁化Jrの両方を向上させることが可能な希土類−鉄−硼素系合金、磁気異方性磁石粉末およびその製造方法、更に異方性ボンド磁石およびその製造方法を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気異方性磁石粉末の製造方法は、希土類−鉄−硼素系合金の溶湯を冷却することによって母合金を作製する工程と、前記母合金に対してHDDR処理を施す工程とを包含する磁気異方性磁石粉末の製造方法であって、前記母合金を作製する工程は、前記合金の溶湯を冷却部材に接触させることにより、前記合金の溶湯を冷却し、内部に希土類リッチ相が分散した複数のR2Fe14B型結晶(Rは希土類元素およびイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素)を含む凝固合金層を形成する工程を含む。
【0026】
好ましい実施形態において、前記凝固合金層を形成する工程は、前記冷却部材に接触する側に第1組織層を形成した後、前記第1組織層上に更に前記合金の溶湯を供給することにより、前記R2Fe14B型結晶を前記第1組織層上に成長させて第2組織層を形成することを含む。
【0027】
好ましい実施形態において、前記第1組織層は、主として短軸方向平均サイズが20μm未満のR2Fe14B型結晶である。
【0028】
好ましい実施形態において、前記第2組織層におけるR2Fe14B型結晶の短軸方向平均サイズは20μm以上、長軸方向平均サイズは100μm以上である。
【0029】
なお、本明細書において、合金組織中のR2Fe14B型結晶の個々の領域は、結晶方位が同じ領域を意味するものである。すなわち、「結晶方位が同じ領域」とは、合金の断面組織を偏光顕微鏡で観察したとき、観察像中のコントラストが同じ領域であるものとする。
【0030】
好ましい実施形態において、前記凝固合金層は、第1組織層と第2組織層とを有し、前記第1組織層の比率が体積比で10%未満である。
【0031】
好ましい実施形態において、前記第2組織層における希土類リッチ相は、前記R2Fe14B型結晶の内部において、平均50μm以下の間隔で分散している。
【0032】
好ましい実施形態において、前記母合金中に含まれるα−Fe相の比率は、5体積%以下である。
【0033】
好ましい実施形態において、前記母合金中に含まれる希土類元素の濃度は、26質量%以上32質量%以下である。
【0034】
好ましい実施形態において、前記母合金中に含まれるGaの濃度は、0.6質量%以下である。
【0035】
好ましい実施形態において、前記第1組織層を形成する際の合金溶湯の冷却は、10℃/s以上1000℃/s以下、過冷却100℃以上300℃以下の条件で行い、前記第2組織層を形成する際の合金溶湯の冷却は、1℃/s以上500℃/s以下の条件で行う。
【0036】
好ましい実施形態において、前記第1組織層の冷却部材接触部に空隙部を形成する。
【0037】
好ましい実施形態において、前記合金の溶湯が冷却部材に届く時点における前記溶湯の温度は約1300℃以下である。
【0038】
好ましい実施形態において、前記凝固合金層の形成は、遠心鋳造法によって行う。
【0039】
好ましい実施形態において、前記母合金に対してHDDR処理を施す工程は、前記母合金の温度を550℃以上900℃以下の範囲に昇温させた後に水素と反応させる工程を含んでいる。
【0040】
本発明の希土類−鉄−硼素系合金は、第1組織層と、第1組織層上に内部に希土類リッチ相が分散した複数のR2Fe14B型結晶(Rは希土類元素およびイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素)を形成した第2組織層を有し、前記第1組織層の比率が体積比で10%未満であるとともに、前記R2Fe14B型結晶の短軸方向平均サイズが20μm以上110μm以下であり、前記希土類リッチ相が前記R2Fe14B型結晶の内部において平均50μm以下の間隔で分散している。
【0041】
好ましい実施形態において、前記合金中に含まれるα−Fe相の比率は、5体積%以下である。
【0042】
好ましい実施形態において、希土類元素の濃度が26質量%以上32質量%以下である。
【0043】
好ましい実施形態において、Gaの濃度が0.6質量%以下である。
【0044】
本発明の磁気異方性希土類−鉄−硼素系合金粉末は、平均粒径が10μm以上300μm以下であり、粒径50μm以下の粉末粒子における希土類元素濃度が、粒径50μmを超える粉末粒子における希土類元素濃度を超えない。
【0045】
好ましい実施形態においては、水素処理によって脆化されている。
【0046】
本発明の磁気異方性希土類−鉄−硼素系合金磁石粉末は、希土類元素の濃度が26質量%以上32質量%以下、α−Fe相の比率が5体積%以下、Gaの濃度が0.6質量%以下であり、HDDR処理によって形成された微細集合組織を含んでいる。
【0047】
本発明の異方性ボンド磁石の製造方法は、上記いずれかの製造方法によって作製された磁気異方性磁石粉末を用意する工程と、前記磁気異方性磁石粉末を結合剤と混合し、配向磁界中で成形する工程とを包含する。
【0048】
本発明の異方性ボンド磁石は、上記の磁気異方性希土類−鉄−硼素系合金磁石粉末を含む。
【0049】
本発明のモータは、上記の異方性ボンド磁石を備えている。
【0050】
【発明の実施の形態】
本発明者は、HDDR処理の対象となる母合金の金属組織構造が水素化処理に要する時間に大きな影響を及ぼすことを見出し、本発明を想到するに至った。本発明者は、種々の組織形態を有する母合金に対するHDDR処理を行い、得られたHDDR粉末の磁気特性を評価したところ、図1(d)に示すような金属組織を有する母合金を用いた場合には、主相であるR2Fe14B型結晶が粗大であっても、短時間で水素化処理を遂行することができ、その結果、飽和磁化の低下を招くことなく、保磁力増加を達成できることを見出した。
【0051】
図1(d)は、本発明の磁気異方性磁石粉末の製造に用いる母合金の金属組織を模式的に示している。この母合金は、比較的大きな柱状結晶の内部に微細な希土類リッチ相(図中、黒いドット状領域として示されている)が分散した構造を有している。このような、内部に希土類リッチ相が分散した複数の柱状結晶を含む母合金は、希土類−鉄−硼素系合金の溶湯を冷却部材に接触させ、合金溶湯を冷却することによって形成することができる。合金の組成は、R2Fe14B型結晶の化学量論比に近く、必要に応じて種々の元素が添加されたものを使用し得る。例えば、母合金の組成をRx100-z-y-zyz(質量比)で表現した場合、Rは希土類元素およびイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素、TはFeおよび/またはCo、Bは硼素、Mは添加元素である。x、z、およびyを質量比率とすると、それぞれ、26≦x≦32、0.95≦y≦1.20、および0.01≦z≦2を満足することが好ましい。Mは、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、Ta、W、およびPbからなる群から選択された少なくとも1種の元素である。また、Bの一部はC、N、Si、P、および/またはSで置換してもよい。
【0052】
以下、図1(a)から(d)を参照しながら、上記母合金の好ましい作製方法を詳細に説明する。
【0053】
まず、図1(a)に示すように、合金の溶湯Lを冷却部材(例えば銅製の冷却板や冷却ロール)に接触させることにより、冷却部材に接触する側に微細な初晶(R2Fe14B)を含む第1組織層を薄く形成する。この後、あるいは第1組織層を形成しつつ、第1組織層上に更に上記合金の溶湯Lを供給することにより、第1組織層上に柱状結晶(R2Fe14B型結晶)を成長させる(図1(b))。この柱状結晶は、溶湯の供給を継続しながら最初よりも冷却速度の低い状況下で合金溶湯を冷却することによって作製される。その結果、図1(c)に示すように、比較的ゆっくりと供給される合金溶湯中の希土類元素が下方に位置する大きな柱状結晶の粒界に拡散しないうちに凝固が進行し、内部に希土類リッチ相が分散した柱状結晶が大きく成長することになる。このように、凝固初期において初晶を形成するときは冷却速度を相対的に速くし、その後の結晶成長に際しては冷却速度を遅くすることにより、最終的には、図1(d)に示すように粗大な柱状結晶を含む第2組織層が得られる。
【0054】
本発明における合金の第1組織層は、HDDR処理後においては、磁粉が大きな磁化を発揮するためには不要かつ有害である。しかし、第1組織層は、その表面が第2組織層の凝固核となり、更には第2組織層の冷却速度を制御するという重要な役割を果たしており、本発明においては必須である。合金全体に占める第1組織層の比率は、体積比で10%未満、より好ましくは5%未満である。なお、後述するように第1組織層と第2組織層との間には、短軸方向の平均サイズが異なるという差異が存在する。このため、顕微鏡による合金断面を観察すれば、各組織層の厚さ比率を容易に測定できるので、その厚さ比率から体積比を測定するができる。
【0055】
第2組織層を安定して形成するためには、凝固速度を厳密に制御する必要がある。凝固速度が大きすぎると、凝固組織が微細になってしまうが、逆に凝固速度が小さくなりすぎると、α−Feが生成してしまう。
【0056】
第1組織層は、主として微細なR2Fe14B型結晶から構成され、その結晶粒径は、短軸方向平均サイズで20μm未満である。また、偏光顕微鏡による光学的な結晶方位観察では、R2Fe14B型結晶の結晶方位は特定することができない。
【0057】
一方、第2組織層は、主として粗大なR2Fe14B型結晶から構成され、その結晶粒径は、短軸方向平均サイズで20μm以上であり、長軸方向平均サイズは100μm以上である。
【0058】
偏光顕微鏡によれば、第2組織層のR2Fe14B型化合物が存在する部分において、R2Fe14B型化合物の結晶学的なC面に起因する迷図模様または冷却部材に平行な縞模様が観察される。第2組織層におけるR2Fe14B型化合物のC軸は冷却部材に対し略平行に配向している。言い換えると、このC軸は、結晶の短軸方向とほぼ一致している。
【0059】
更に詳述すると、第2組織層における柱状結晶の短軸方向平均サイズは20μm〜110μmであることが好ましく、60〜110μmであることが更に好ましく、70〜100μmであることが最も好ましい。第2組織層における柱状結晶の短軸方向平均サイズを上記の範囲内に設定することにより、後述する実施例のように保磁力および残留磁化のいずれもが向上する。
【0060】
各々異なる短軸方向平均サイズを有する第1組織層と第2組織層とは、それらが所定の比率で形成されるときに良好な磁気特性を示す。上述のように、合金全体に占める第1組織層の体積比が10%未満、より好ましくは5%未満のときに、良好なる磁気特性が発揮される。
【0061】
第2組織層を構成するR2Fe14B型結晶の内部には、平均50μm以下の間隔で希土類リッチ相が分散している。上記間隔は、好ましくは平均20μm〜平均50μmの範囲にあり、更に好ましくは平均30μm〜平均50μmの範囲にある。
【0062】
本明細書においては、第1組織層および第2組織層におけるR2Fe14B型結晶の短軸方向の平均サイズを、以下の測定方法によって定義する。すなわち、合金の厚さ方向の断面を、偏光顕微鏡写真(図17及び図18参照)で観察し、冷却部材接触面と平行な切断線を設定する。そして、この切断線が各々R2Fe14B型結晶を横切る個数(No)を数える。R2Fe14B型結晶の短軸方向の平均サイズは、切断線長さ(Lo)を用いて、Lo/Noによって表現される。
【0063】
本明細書では、冷却部材接触面から厚さ方向に平行移動した切断線に沿って短軸方向の平均サイズを測定し、その値が20μm未満の範囲を第1組織層と、20μm以上の範囲を第2組織層とする。そして、各々の組織層の厚さが合金全体の厚さに占める割合に基づいて、上記の体積比を算出することができる。
【0064】
なお、第2組織層におけるR2Fe14B型結晶の短軸方向平均サイズとは、上記測定法によって測定された短軸方向サイズのうち、合金の厚さ方向中央部における値である。
【0065】
また、第2組織層内における希土類リッチ相の間隔は、以下の測定方法によって求める。
【0066】
合金の厚さ方向の断面を反射電子線像(図24から図26)で観察すると、希土類リッチ相が白く観察される。この反射電子線像上において、冷却部材接触面と平行な切断線を設定する。切断線が白い希土類リッチ相を横切る個数Nを数え、切断線長さLとから、希土類リッチ間隔=L/Nで求めることができる。なお、切断線を入れる位置は、合金の厚さ方向の中央部に設定し、数点の視野から求めた値の平均値を算出する。
【0067】
微細な初晶の集合体である第1組織層を形成する際の合金溶湯の冷却は、10℃/s以上1000℃/s以下、過冷却100℃以上300℃以下の条件で行うことが好ましい。過冷却により、Fe初晶の析出を抑制できる。一方、第2組織層を形成する際の合金溶湯の冷却は、溶湯を供給しつつ、1℃/s以上500℃/s以下の条件で行うことが好ましい。
【0068】
冷却速度は、溶湯を冷却部材上に供給する速度によって調節されるため、上述のような合金組織を得るには、溶湯供給量の調節が可能な冷却方法を採用することが重要である。より詳細には、本発明の合金組織を得るには、冷却部材(鋳型など)の上に溶湯を均一に少量づつ供給することが望ましい。このため、溶湯を液滴化して分散・噴霧する冷却方法を行うことが好ましい。例えば、溶湯流にガスを噴き当てて噴霧する方法や、遠心力によって液滴を飛散させる方法を採用することができる。
【0069】
第2組織層の冷却速度をより容易に制御するためには、以下の方法を採ることができる。すなわち、第1組織層を形成する段階で、第1組織層内に空隙を形成し、第1組織層の実質的な伝熱断面積を小さくする方法である。これにより、第2組織層の形成時に溶湯供給量を少なく調整せずとも、第2組織層の冷却速度は、伝熱面積の減少に伴って小さくなる。なお、第1組織層における空隙の形成と溶湯供給量の調整とを同時に行うこともできる。
【0070】
図27(a)から(e)を参照しながら、第1組織層に空隙を形成する場合の母合金の好ましい作製方法を説明する。
【0071】
まず、図27(a)に示すように、溶湯液滴を冷却部材上に供給し、最初期の微細なR2Fe14B型結晶を生成する。図27(b)は、空隙の形成状態を示す。凝固層の上には、次に供給された溶湯が存在している。
【0072】
溶湯の供給により、図27(c)に示すように第1組織層上に大きなR2Fe14B型結晶が生成し始め、第1組織層から第2組織層への遷移が生じる。図27(d)および(e)は、第2組織層の成長の様子を示している。冷却面の空隙は、凝固終了後も残存する。
【0073】
なお、第1組織層に空隙を形成するためには、比較的粘性の高い溶湯を噴霧供給すれば良い。具体的には、溶湯の温度を通常の合金鋳造時における1450℃よりも低下させ、冷却部材に届く時点の温度を1300℃程度以下にする方法がある。
【0074】
溶湯の温度制御は、噴霧液滴化した後、飛行中に放熱させる方法を採ることができる。具体的には、不活性ガスに満たされた炉内雰囲気を大気圧程度に維持する方法や、不活性ガスで溶湯を噴霧する方法を採ることができる。不活性ガスとしては、一般的にはArガスが用いられるが、Heガスを用いてもよい。Heガスを用いることにより、溶湯液滴の放熱が促進される。
【0075】
第1組織層における空隙の存在比率は、冷却部材と母合金との接触面で示すことができる。母合金を厚さ方向の断面組織を観察すれば、冷却部材との接触面と空隙部を容易に区別できるので、冷却面の長さに対する空隙部の占める長さを比として表すことができる。本発明の合金では、空隙率が20%〜70%の範囲内にある。
【0076】
本発明における溶湯冷却方法で重要な他の点は、生成した溶湯の液滴を冷却部材上において高い収率で回収する(凝固合金の形成に効率よく用いる)ことにある。収率を高めるには、平板状の冷却部材の上にガス噴霧で溶湯の液滴を吹き付ける方法や、回転する円筒ドラム状の冷却部材の内壁に溶湯の液滴を飛散させる方法(遠心鋳造法)を用いることが望ましい。
【0077】
上記の組織構造を持つ凝固合金は、ストリップキャスト法や合金インゴット法などの従来方法によっては得られなかった。以下、従来の方法によって作製される凝固合金(母合金)の結晶成長を説明する。
【0078】
まず、図2(a)から(c)を参照しながら、ストリップキャスト法による結晶成長を説明する。ストリップキャスト法では、冷却速度が速いため、高速で回転する冷却ロールなどの冷却部材に接触した合金溶湯Lは、接触面から急速に冷却され、凝固してゆく。大きな冷却速度を得るためには合金溶湯Lの量を少なくする必要があり、また、ストリップキャスト装置の構造上、溶湯の逐次供給を行うことができない。その結果、冷却部材上の溶湯Lの厚さは冷却過程で増加せず、略一定であり、その一定の厚さを有する溶湯Lの内部において冷却部材との接触面から結晶成長が急速に進行してゆくことになる。冷却速度が速いため、柱状結晶の短軸方向サイズは、図2(a)から(c)に示すように小さく、最終的に得られる凝固合金の金属組織は微細である。希土類リッチ相は柱状組織の内部には存在せず、粒界に分散している。ストリップキャスト合金では、結晶粒のサイズが小さすぎるため、結晶方位の揃った領域が小さく、ボンド磁石に用いる粉末粒度では、各粉末粒子の磁気的異方性が低下するという問題がある。
【0079】
次に、図3(a)から(d)を参照しながら、従来のインゴット法による結晶成長を説明する。インゴット法では、冷却速度が比較的遅いため、冷却部材に接触した合金溶湯Lは、接触面からゆっくりと冷却され、凝固してゆく。静止状態の溶湯Lの内部において、まず、冷却部材との接触面にFe初晶が生成され、その後、図3(b)および(c)に示すように、Feのデンドライド結晶が成長してゆく。最終的には、包晶反応により、R2Fe14B型結晶相が形成されるが、その内部には磁石特性を劣化させるα−Fe相が残存することになる。凝固合金の金属組織は粗大であるが、体積比率で2%を超えるような量の粗大なα−Fe相が残存する。α−Feを低減するためには、均質化処理を行う必要がある。具体的には、インゴット合金中のα−Fe相やR2Fe17相などを拡散させ、これらの相を可能な限り消滅させ、実質的にR2Fe14B相とR−rich相の2相からなる組織にする必要がある。均質化熱処理は、窒素を除く不活性ガス雰囲気中または真空中において、1100℃〜1200℃の範囲の温度で1〜48時間行われる。このような均質化処理は、製造コストを増大させるという問題がある。一方、α−Feの生成を抑制するには、原料合金中に含まれる希土類の組成量を化学量論比よりも充分に大きくすることが必要であるが、希土類の含有量が多くなると、最終的に得られる磁石の残留磁化が低下し、また、耐食性が劣化するという問題もある。
【0080】
本発明で用いる母合金(図1及び図27参照)は、化学量論比に近い希土類含有量であっても、α−Feが生成されにくいという利点がある。このため、希土類含有量を従来よりも低減することが可能である。更に、本発明で用いる母合金は、主相のサイズがストリップキャスト合金に比べて大きいため、HDDR処理によって高い磁気異方性を発現させることができ、磁気異方性磁石粉末の母合金として好適である。
【0081】
このような組織を持つ母合金によれば、希土類元素の濃度を26質量%以上32質量%以下の範囲に設定した場合でも、熱処理前の母合金(as−cast)中に含まれるα−Fe相が微細であり、その比率を5体積%以下に抑制することが可能である。このため、従来のインゴット合金に必要であった母合金に対する均質化熱処理を行わなくとも、HDDR粉末の磁気特性、特に保磁力に悪影響を及ぼすことがない。
【0082】
次に、各種の組織構造を有する上記母合金に対してHDDR処理を行った場合に、どのような差異が生じるかを説明する。
【0083】
図4(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理前の時刻T1における組織を模式的に示している。図示するように、従来のインゴット合金におけるR2Fe14B型結晶相は粗大であるが、ストリップキャスト合金におけるR2Fe14B型結晶相の短軸粒径は小さい。また、本発明による母合金では、R2Fe14B型結晶相の平均粒径はストリップキャスト法による母合金におけるR2Fe14B型結晶相の平均粒径よりも大きく、R2Fe14B型結晶相の内部に希土類リッチ相が分散している点に特徴がある。
【0084】
図5(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理開始後の時刻T2における組織を模式的に示している(T1<T2)。図中の斜線は、水素化による反応が生じている部分を示している。この反応は、主相の格子欠陥や表層部の水素吸蔵に伴って発生したクラックなどを経由した水素拡散によって進行する。水素は格子欠陥だけではなく、結晶粒界を介しても拡散しやすいため、水素化反応は、R2Fe14B型結晶相の粒界部から内部に向かって進行する。
【0085】
図6(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理開始後の時刻T3における組織を模式的に示している(T2<T3)。図6(a)および(b)からわかるように、短軸粒径の小さなストリップキャスト合金では水素化反応が速やかに進行している。一方、従来のインゴット合金では、大きなR2Fe14B型結晶粒の内部には水素化反応が充分に進んでいない部分が多く存在している。これに対し、本発明による母合金では、結晶粒径が大きいにもかかわらず、比較的早い段階で水素化反応が広い領域で進行している。このように本発明による母合金で水素化反応が速やかに進行する理由は、R2Fe14B型結晶粒の内部に分散する希土類リッチ相が水素拡散の経路を形成するためであると考えられる。
【0086】
図7(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理の途中における組織を模式的に示している。HDDR処理開始後の時刻T4における組織を模式的に示している(T3<T4、T4は例えば30〜60分)。従来のインゴット合金の場合、この段階では水素化による反応が進んでいない部分が存在しているが、本発明による母合金では、略全体で水素化反応が充分に進行している。なお、水素化反応が進んだ領域では、その後の適切な脱水素処理により、前述した再結晶集合組織が生成されることになる。
【0087】
図8は、HDDR処理における水素化処理時間Tと残留磁束密度Brおよび保磁力HcJとの関係を示すグラフである。グラフにおける○、●、および▲のデータは、それぞれ、本発明による合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金に関している。合金の組成は、Nd:27.5質量%、Zr:0.1質量%、B:1.0質量%、およびFe:残余であった。HDDR処理の前には、0.3MPaの水素雰囲気中で2時間の水素脆化処理を行った後、425μm以下のサイズに粗粉砕した。その後のHDDR処理の条件は、以下の通りである。
【0088】
まず、圧力0.1MPaの水素雰囲気(850℃)でグラフに示す時間だけ水素化処理を行い、その後、アルゴンガスによる置換を5分間行った。次に、850℃で30分間、圧力1.0kPaのアルゴン雰囲気中で脱水素処理を行った後、室温まで冷却した。
【0089】
図8からわかるように、水素化処理の初期段階においては、処理時間の増加に従って保磁力HcJは増加するが、やがて飽和する。本発明による合金の場合、水素化処理の時間が1時間以下であっても、充分に高い保磁力を示している。これは、水素が粗粉砕粉末の内部にまで速やかに拡散し、早い段階で水素化反応が完了することを意味している。一方、ストリップキャスト合金やインゴット合金の場合は、保磁力が飽和レベルに達する時間が長い。特に、インゴット合金の場合、2時間以上の水素化処理を行わないと、充分な保磁力は得られなかった。
【0090】
残留磁束密度Brは、水素化処理時間の経過に伴ってピーク値を示した後、水素化処理時間が長くなるほど低下した。これは、前述したように、水素化処理時間が長くなるほど、水素化および脱水素化の可逆反応が何度も繰り返され、母合金における結晶方位の記憶が徐々に消失してゆくためである。
【0091】
本発明の合金を用いる場合は、他の合金の場合に比べて短い水素化処理時間で充分に高い保磁力HcJを得ることができるため、保磁力HcJおよび残留磁化Jrの両方が優れたレベルにあるHDDR粉末を得ることが可能になる。
【0092】
図9は、残留磁化Jrおよび保磁力HcJの平均粉末粒度依存性を示すグラフである。グラフにおける○、●、および▲のデータは、それぞれ、本発明による合金従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金に関している。
【0093】
保磁力は平均粉末粒径が大きい場合に相対的に低くなっているが、本発明による合金の場合、平均粉末粒径が大きい場合でも残留磁化Jrの低下は少ない。これは、本発明の場合、母合金の結晶粒径が大きく、より広い範囲で結晶方位のそろった再結晶集合組織が形成されているためと考えられる。また、本発明の場合は、平均粉末粒径が大きくなっても保磁力は低下していない。
【0094】
[実施例1]
まず、以下の表1に示す組成の母合金を遠心鋳造法によって作製した。具体的には、回転する円筒型冷却部材の内側に対して、希土類−鉄−硼素系合金の溶湯(温度:約1300℃)を遠心力で飛散させた。こうして、図1(d)に示すような組織を有する母合金を作製した。表1に記載している各組成に関する数値は、質量比率である。
【0095】
【表1】
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【0096】
図17および図18は、本発明による母合金の偏光顕微鏡写真を示している。図17は、冷却部材との接触面近傍の組織断面を示しており、図18は、厚さ方向中央部の組織断面を示している。各図の上方が冷却面、下方が放冷面(自由面)側を示している。図からわかるように、接触面から100μm程度までの領域では微細な結晶組織(第1組織層)が形成されているが、接触面から100μm程度離れた内部側の領域(第2組織層)では大きな柱状結晶が形成されている。一方、自由面の近傍では、一部に微細な組織が観察されるが、大部分は粗大な結晶である。なお、合金鋳片の厚さは5〜8mmであり、その大部分は、粗大な柱状結晶の第2組織層から構成されている。なお、第1組織層と第2組織層との境界は、場所によって明瞭な部分と不明瞭な部分とが存在するが、上記のように第1組織層は冷却部材との接触面から100μm程度までの領域に形成され、合金鋳片厚さ方向の数%程度までである。第1組織層の厚さは、冷却条件によって合金鋳片の厚さの5%程度になることもあるが、10%未満にすることが望ましい。
【0097】
希土類含有量の異なる合金の試料の組織構造を比較したところ、希土類元素濃度が高い合金ほど、結晶サイズが小さくなっていることがわかった。
【0098】
粗大な結晶粒の組成像を観察したところ、希土類リッチ相が分散していることが確認できた。粗大な結晶粒中に分散する希土類リッチ相は、母合金中の希土類含有量が多くなるほど、多く観察された。また、α−Fe相は観察されなかった。
【0099】
次に、上記の各種組成を有する母合金に対して、水素脆化による粗粉砕を行った。具体的には、200℃で100分、水素雰囲気で水素脆化処理を行った後、めのう乳鉢で解砕し、ふるい分級によって425μm以下のサイズを有する粗粉砕粉を得た。
【0100】
この後、10グラム程度の粗粉砕粉に対して、HDDR処理を行った。具体的には、水素化処理(昇温レート:15℃/分、処理温度:800℃、処理時間:1時間、雰囲気:水素雰囲気)→雰囲気置換(処理温度:800℃、処理時間:5分、雰囲気:アルゴン、アルゴン流量:5リッター/分)→脱水素処理(処理温度:800℃、処理時間:1時間、雰囲気:アルゴン、アルゴン圧力:2kPa)の条件で実行した。
【0101】
HDDR処理後の合金について、ふるい分級を行った後、VSMを用いて粒度毎に磁気特性を評価した。試料はパラフィンとともに磁界中で加熱・冷却して固定し、約5MPaのパルス磁界で着磁した後、減磁曲線を測定した。
【0102】
図10は、試料No.3から5の試料について、粗粉砕粉の粒度別Nd濃度を示している。グラフの縦軸はNd濃度(Nd concentration、質量%)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。試料No.4や試料No.5などのNd含有量が多い試料では、微粉(例えば、粒径50μm以下)におけるNd濃度が、粗粉におけるNd濃度よりも低くなっている。これに対し、BやZrの濃度は、グラフに示していないが、粒度依存性を示さなかった。
【0103】
Nd濃度の粒度依存性は、従来のインゴット合金やストリップキャスト合金におけるNd濃度の粒度依存性とは反対の傾向を示している。すなわち、従来のインゴット合金やストリップキャスト合金の場合は、微粉(例えば、粒径50μm以下)におけるNd濃度が、粗粉におけるNd濃度よりも高くなるのが一般的である。
【0104】
従来のインゴット合金やストリップキャスト合金では、Ndなどの希土類元素は、R2Fe14B型結晶の化学量論比よりも高い濃度で粒界に存在する一方、主相結晶粒内においてはR2Fe14B型結晶の化学量論比で決まる値で存在する。水素脆化は希土類元素濃度の高い粒界部分を膨張させ、その部分から割れやすくするため、水素脆化によって作製した粗粉砕粉末中の微粉(粒径:50μm以下)は、粒界に由来する微粉末を含有する可能性が高く、その結果、希土類含有量は相対的に高くなる傾向がある。
【0105】
これに対し、本発明による母合金では、粗大な結晶粒の内部に希土類リッチ相が分散しているため、粒界における希土類元素濃度が希土類リッチ相の分散した主相内部に比べて必ずしも高いといえない状態になっていると考えられる。また、母合金の主相結晶粒の内部においては、50μm程度(例えば10μm)以下の間隔をおいて希土類リッチ相が分散しているため、小さな粉末粒子中には、希土類リッチ相が少ない可能性もある。
【0106】
以上のことから、本発明による母合金の粗粉砕粉において、平均粒径50μm以下の微細な粉末粒子に含まれる希土類の濃度は、平均粒径50μmを超える粉末粒子中に含まれる希土類の濃度以下になっている。このことは、図10からわかるように、母合金の希土類含有量が高い場合に顕著である。
【0107】
水素脆化・粗粉砕処理後の合金について、真空中で800℃1時間の熱処理を行い、水素を合金から外部を放出させた後、VSMにより、原料粉末の粒度別の磁化(外部磁界Hex:1.2MAm-1)を測定した。
【0108】
図11は、試料No.1から4の試料に関する磁化(Magnetization、テスラ)の粒度依存性を示している。
【0109】
磁化は、粒度依存性を有しており、粒径が大きいほど、磁化が小さくなる傾向がある。粒度毎の組成変動はほとんどないため、粒径が大きくなるほど、結晶の配向度が低下していると考えられる。
【0110】
図12は、母合金中(HDDR処理前の原料粉末中)のCo含有量が磁化に与える影響を示し、図13は、母合金中(HDDR処理前の原料粉末中)のGa含有量が磁化に与える影響を示している。図14は、試料No.1から4について、HDDR処理後の磁気特性を示している。CoおよびGaを添加していない試料(Nd−Fe−B−Zr系合金)であっても、Nd含有量が高ければ、高い磁化が得られることがわかる。
【0111】
図15は、Co添加の効果をHDDR処理後の粉末について示している。Co添加量が2原子%の場合(グラフ中で「○」のデータ)、磁化は低下するが、保磁力の増加は顕著である。Co添加量が5原子%の場合(グラフ中で「□」のデータ)、磁化の低下は少なくなるが、保磁力向上の程度も小さくなる。
【0112】
図16は、Ga添加の効果をHDDR処理後の粉末について示している。Gaの添加は残留磁化にはほとんど影響を与えないが、保磁力はGa添加量に応じて増加することがわかる。
【0113】
これらの図から、CoやGaの添加は、本発明による粗粉砕粉末の磁化を向上させることに対しては特に寄与していないことがわかる。従って、本発明によれば、磁化向上を目的としてCoゃGaを添加する必要は無くなる。
【0114】
従来、HDDR粉末を得るには、母合金中にCoおよびGaを添加することが好ましいと考えられてきたが、以上の実験結果から明らかなように、本発明では、CoやGaを添加していない場合でも充分に優れた磁気異方性磁石粉末を得ることができる。ただし、磁気特性の温度依存性を少なくするには、Coの添加が効果的であり、またCoの添加は耐候性向上に役立つため、用途に応じては、Coを添加することが好ましい。例えば希土類Rの含有量が32質量%の母合金にCoを添加する場合は、耐候性の観点から、Co含有量を1質量%以上に設定することが望ましい。
【0115】
なお、本発明の場合、上述したように、Gaを添加すると若干の磁気特性向上が図れるが、本発明の目的を達成するためにおいては必ずしも必須ではない。
【0116】
こうして作製したHDDR粉末を公知の結合剤と混合し、磁界中で成形すれば、磁石特性に優れた異方性ボンド磁石を得ることができる。この異方性ボンド磁石は、各種モータやアクチュエータの永久磁石に適用して優れた特性を発揮することが可能である。
【0117】
[実施例2]
まず、前記表1に記載している試料No.10の組成と同一の組成を有するストリップキャスト合金およびインゴット合金を作製した。次に、各合金に対して水素化処理による脆化を施し、425μm以下に粗粉砕した。この後、以下の条件でHDDR処理を行った。
【0118】
まず、炉内を真空にした後、アルゴンガスで復圧し、大気圧(0.1MPa)のアルゴンガスを流気しつつ、試料を850℃まで加熱した。次に、試料温度を850℃に保持しながら、アルゴンガスによる流気を停止し、水素ガスの流気を開始した。毎分、炉内容積の約20%に相当する量の水素ガスを炉内に導入しつつ、排気した(圧力は一定に保持)。このような状態を2時間保持した後、炉内温度を略一定に維持したまま、水素の導入を停止し、代わりにアルゴンガスを炉内に導入した。このようなアルゴンガスの導入を5分間行い、炉内の雰囲気をアルゴンガスで置換した。更に、ロータリポンプで炉内を減圧し、炉内のアルゴンガス圧力を2kPaにまで低下させ、その状態で1時間保持した。その後、炉内にアルゴンガスを供給し、炉内のアルゴンガス圧力を大気圧まで上昇させ、冷却工程を行った。
【0119】
このHDDR工程は、非水素ガス雰囲気中で試料を高温(550℃以上900℃以下)に加熱した後、水素を炉内に供給し、水素化工程を開始する点に特徴を有している。合金の温度を充分に上昇させてから、炉内に水素を導入することにより、HDDR処理が過剰に進行することを抑制できる。本発明による母合金は、従来の合金に比べて水素と反応しやすいため、高温に上昇させるまで水素と反応させず、HDDR処理の進行を少し遅らせることが好ましい。
【0120】
以上のHDDR処理によって得られた粉末状の試料をふるいで分級した後、VSMを用いて試料の残留磁化Jrおよび保磁力HcJを粒度ごとに測定した。測定結果を図20に示す。本発明による母合金(本発明)、ストリップキャスト合金(比較例1)、およびインゴット合金(比較例2)に関する測定結果を比較すると、本発明による母合金の磁気特性が粒度の広い範囲にわたって優れていることがわかる。また、上記のHDDR処理を行うことにより、本発明の母合金については磁化が増加することがわかる。
【0121】
次に、上記のHDDR処理を行う前に、母合金に対して1120℃で8時間の熱処理を行った場合の測定結果を図21に示す。HDDR処理で到達する温度よりも高い温度での熱処理をHDDR工程の前に行うことにより、HDDR処理後の残留磁化Jrが向上するという効果が得られた。
【0122】
[実施例3]
質量比率で27.0Nd−1.0Dy−15.0Co−0.6Ga−0.1Zr−1.0B−残部Feの組成を持つ合金溶湯を用意し、この溶湯を遠心噴霧によって冷却板上に堆積させ、合金(母合金)を作製した。このとき、冷却部材との接触面にはいずれの条件でもおよそ50%の空隙を形成させた。溶湯の噴霧量を変化させることにより、冷却板上での堆積レートを調節した。噴霧量が増加するほど、堆積レートも増加し、合金溶湯の冷却速度は低くなる。逆に、噴霧量が低下すると、堆積レートが小さくなるので、合金溶湯の冷却速度は速くなる。こうして、種々の冷却速度で母合金を作製した。
【0123】
これらの母合金の断面を顕微鏡で観察し、画像処理によって主相の粒径および希土類リッチ相の分散間隔を測定した。分散間隔の決定は、具体的には、冷却基板と平行な切断線を用いる切断法によって行った。
【0124】
母合金の作製後、特別の高温熱処理を施すことなく、水素脆化を行い、粒径425μm以下のサイズに粗粉砕した。その後、HDDR処理を行った。HDDR処理は、次のようにして行った。
【0125】
まず、炉内を大気圧(0.1MPa)の水素ガスで流気しつつ、試料を800℃まで加熱し、800℃で2時間保持した。次に、水素の導入を停止し、代わりにアルゴンガスを炉内に導入した。このようなアルゴンガスの導入を5分間行い、炉内の雰囲気をアルゴンガスで置換した後、炉内のアルゴンガス圧力を1kPaにまで低下させ、その状態で1時間保持した。その後、炉内にアルゴンガスを供給し、炉内のアルゴンガス圧力を大気圧まで上昇させ、冷却工程を行った。このHDDR工程は、水素ガス雰囲気中で試料を加熱する点で、実施例2におけるHDDR工程と異なっている。
【0126】
図22は、本発明による母合金における主相の短径およびHDDR処理後の磁気特性について、堆積レートの依存性を示すグラフである。このグラフからわかるように、堆積レートが大きくなるほど、主相短径も大きくなっている。堆積レートが60μm/sを超えて大きくなると、磁気特性が低下するため、堆積レートは60μm/s以下に設定することが好ましい。
【0127】
図23(a)は、本発明による母合金における主相短径とHDDR処理後の磁気特性との関係を示すグラフであり、図23(b)は、この母合金における希土類リッチ相の分散間隔とHDDR処理後の磁気特性との関係を示すグラフである。
【0128】
図24から図26は、それぞれ、溶湯を冷却して母合金を作製する際の合金堆積レートが34μm/s、47μm/s、および62μm/sの場合における本発明の母合金の反射電子線像写真である。これらの写真から、母合金の堆積レートが大きいほど、希土類リッチ相の分散間隔(space of R-rich)が大きくなっていることがわかる。具体的には、合金堆積レートが34μm/s、47μm/s、および62m/sの場合、それぞれ、平均の分散間隔は19μm、43μm、および56μmであった。写真の暗い部分が主相を示し、明るい部分が希土類リッチ相を示している。また、黒い部分はα−Feを示している。なお、写真上における8mmの長さが現実の50μmに相当する。
【0129】
【発明の効果】
本発明によれば、高価なGaを添加しなくとも、効果的にHDDR処理を実行でき、しかも、磁気異方性に優れた大きな再結晶集合組織を生成できるため、HDDR粉末の保磁力HcJおよび残留磁化Jrの両方を向上させることができる。また、母合金への均質化熱処理の省略、及びHDDR処理における水素化処理時間を短縮することが可能になるため、製造コストを低減し、製造時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(d)は、本発明の磁気異方性磁石粉末の製造に用いる母合金の金属組織が形成される過程を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、ストリップキャスト法による母合金の金属組織が形成される過程を模式的に示す断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、従来のインゴット法による母合金の金属組織が形成される過程を模式的に示す断面図である。
【図4】(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理前の時刻T1における組織を模式的に示している
【図5】(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理開始後の時刻T2における組織を模式的に示す図である(T1<T2)。
【図6】(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理開始後の時刻T3における組織を模式的に示す図である(T2<T3)。
【図7】(a)から(c)は、それぞれ、本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理開始後の時刻T4における組織を模式的に示す図である(T3<T4)。
【図8】残留磁化Jrおよび保磁力HcJとHDDR処理時間との関係を示すグラフである。
【図9】残留磁化Jrおよび保磁力HcJと平均粉末粒度との関係を示すグラフである。
【図10】試料No.3から5について、粗粉砕粉の粒度別Nd濃度を示すグラフである。グラフの縦軸はNd濃度(Nd concentration、質量%)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図11】試料No.1から4について、粗粉砕粉の粒度別磁化を示すグラフである。グラフの縦軸は磁化J(Magnetization、テスラ)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図12】試料No.3、6、7について、粗粉砕粉の粒度別磁化を示すグラフである。グラフの縦軸は磁化J(Magnetization、テスラ)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図13】試料No.7、10、12、13について、粗粉砕粉の粒度別磁化を示すグラフである。グラフの縦軸は磁化J(Magnetization、テスラ)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図14】試料No.1から4の試料について、HDDR処理後の磁気特性を示すグラフである。グラフの縦軸は、残留磁化Jr(Remanence、テスラ)と保磁力HcJ(Intrinsic coercivity、MAm-1)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図15】試料No.3、6、7について、HDDR処理後の磁気特性を示すグラフである。グラフの縦軸は、残留磁化Jr(Remanence、テスラ)と保磁力HcJ(Intrinsic coercivity、MAm-1)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図16】試料No.7、10、12、13について、HDDR処理後の磁気特性を示すグラフである。グラフの縦軸は、残留磁化Jr(Remanence、テスラ)と保磁力HcJ(Intrinsic coercivity、MAm-1)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図17】本発明による母合金の偏光顕微鏡写真であり、冷却部材との接触面近傍の組織断面を示している。
【図18】本発明による母合金の偏光顕微鏡写真であり、厚さ方向中央部の組織断面を示している。
【図19】(a)から(e)は、HDDR処理を説明する模式図である。
【図20】本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、HDDR処理を行ったときの磁気特性を示すグラフである。グラフの縦軸は、残留磁化Jr(Remanence、テスラ)と保磁力HcJ(Intrinsic coercivity、MAm-1)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図21】本発明の母合金、従来のインゴット合金、およびストリップキャスト合金について、1020℃の熱処理およびHDDR処理を行ったときの磁気特性を示すグラフである。グラフの縦軸は、残留磁化Jr(Remanence、テスラ)と保磁力HcJ(Intrinsic coercivity、MAm-1)であり、横軸は平均粉末粒度(Particle size、μm)である。
【図22】 本発明による母合金における主相の短径およびHDDR処理後の磁気特性について、堆積レート依存性を示すグラフである。グラフの縦軸は主相平均短径(Width of grain、[μm])、残留磁化Jr(Remanence、[テスラ])と保磁力HcJ(Intrinsic coercivity、MAm-1)であり、横軸は堆積レート(μm/s)である。
【図23】(a)は、本発明による母合金における主相の短径とHDDR処理後の磁気特性との関係を示すグラフであり、(b)は、この母合金における希土類リッチ相間隔とHDDR処理後の磁気特性との関係を示すグラフである。(a)のグラフの横軸は、主相平均短径であり、(b)のグラフの横軸は、希土類リッチ相の分散間隔である。
【図24】溶湯を冷却して母合金を作製する際の合金堆積レートが34μm/sの場合における本発明の母合金の反射電子線像写真である。
【図25】溶湯を冷却して母合金を作製する際の合金堆積レートが47μm/sの場合における本発明の母合金の反射電子線像写真である。
【図26】溶湯を冷却して母合金を作製する際の合金堆積レートが62μm/sの場合における本発明の母合金の反射電子線像写真である。
【図27】(a)〜(e)は、本発明の磁気異方性磁石粉末の製造に用いる母合金の金属組織が形成される過程を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 母合金
2 結晶方位
3 粒界
4 粗粉砕粉
5 各粉末粒子
7 再結晶集合組織
9 合金粉末(HDDR粉末)

Claims (21)

  1. 希土類−鉄−硼素系合金の溶湯を冷却することによって母合金を作製する工程と、前記母合金に対してHDDR処理を施す工程とを包含する磁気異方性磁石粉末の製造方法であって、
    前記母合金を作製する工程は、
    前記合金の溶湯を冷却部材上に供給し、前記冷却部材に接触させることにより、前記合金の溶湯を冷却し、内部に希土類リッチ相が分散した複数のR2Fe14B型結晶(Rは希土類元素およびイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素)を含む凝固合金層を形成する工程を含み、
    前記凝固合金層を形成する工程は、
    主として短軸方向平均サイズが20μm未満のR 2 Fe 14 B型結晶を含む第1組織層を前記冷却部材に接触する側に形成した後、前記第1組織層上に更に前記合金の溶湯を供給することにより、前記R 2 Fe 14 B型結晶を前記第1組織層上に成長させて第2組織層を形成することを含み、
    前記第2組織層を形成するときにおける前記合金の溶湯の冷却速度は、前記第1組織層を形成するときにおける冷却速度よりも低くする、磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  2. 前記第2組織層におけるR2Fe14B型結晶の短軸方向平均サイズは20μm以上、長軸方向平均サイズは100μm以上である請求項に記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  3. 前記凝固合金層は、第1組織層と第2組織層とを有し、前記第1組織層の比率が体積比で10%未満である請求項1または2に記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  4. 前記第2組織層における希土類リッチ相は、前記R2Fe14B型結晶の内部において、平均50μm以下の間隔で分散している請求項1から3のいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  5. 前記母合金中に含まれるα−Fe相の比率は、5体積%以下である請求項1からのいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  6. 前記母合金中に含まれる希土類元素の濃度は、26質量%以上32質量%以下である請求項1からのいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  7. 前記母合金中に含まれるGaの濃度は、0.6質量%以下である請求項1からのいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  8. 前記第1組織層を形成する際の合金溶湯の冷却は、10℃/s以上1000℃/s以下、過冷却100℃以上300℃以下の条件で行い、
    前記第2組織層を形成する際の合金溶湯の冷却は、1℃/s以上500℃/s以下の条件で行う請求項1から7のいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  9. 前記第1組織層の冷却部材接触部に空隙部を形成する請求項1から8のいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  10. 前記合金の溶湯が冷却部材に届く時点における前記溶湯の温度は約1300℃以下である請求項に記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  11. 前記凝固合金層の形成は、遠心鋳造法によって行う請求項1から10のいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  12. 前記母合金に対してHDDR処理を施す工程は、
    前記母合金の温度を550℃以上900℃以下の範囲に昇温させた後に水素と反応させる工程を含んでいる請求項1から11のいずれかに記載の磁気異方性磁石粉末の製造方法。
  13. 第1組織層と、第1組織層上に内部に希土類リッチ相が分散した複数のR2Fe14B型結晶(Rは希土類元素およびイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素)を形成した第2組織層を有し、前記第1組織層の比率が体積比で10%未満であり、
    前記第1組織層は、主として短軸方向平均サイズが20μm未満のR 2 Fe 14 B型結晶 を含み、
    前記R2Fe14B型結晶の短軸方向平均サイズが20μm以上110μm以下であり、
    前記希土類リッチ相が前記R2Fe14B型結晶の内部において平均50μm以下の間隔で分散している希土類−鉄−硼素系合金。
  14. 前記合金中に含まれるα−Fe相の比率は、5体積%以下である請求項13に記載の希土類−鉄−硼素系合金。
  15. 希土類元素の濃度が26質量%以上32質量%以下である請求項13または14に記載の希土類−鉄−硼素系合金。
  16. Gaの濃度が0.6質量%以下である請求項13から15のいずれかに記載の希土類−鉄−硼素系合金。
  17. 請求項13に記載の希土類−鉄−硼素系合金の粉末であって、
    平均粒径が10μm以上300μm以下であり、
    粒径50μm以下の粉末粒子における希土類元素濃度が、粒径50μmを超える粉末粒子における希土類元素濃度を超えない磁気異方性希土類−鉄−硼素系合金粉末。
  18. 水素処理によって脆化された請求項17に記載の磁気異方性希土類−鉄−硼素系合金粉末。
  19. 請求項1から12のいずれかに記載の製造方法によって作製された磁気異方性磁石粉末を用意する工程と、
    前記磁気異方性磁石粉末を結合剤と混合し、配向磁界中で成形する工程と、
    を包含する異方性ボンド磁石の製造方法。
  20. 請求項17または18に記載の磁気異方性希土類−鉄−硼素系合金磁石粉末を含む異方性ボンド磁石。
  21. 請求項20に記載の異方性ボンド磁石を備えたモータ。
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