JP3583116B2 - 鉄基希土類合金磁石およびその製造方法 - Google Patents

鉄基希土類合金磁石およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種モータやアクチュエータに好適に使用される永久磁石の製造方法に関し、特に複数の強磁性相を有する鉄基希土類合金磁石の製造方法に関している。
【0002】
【従来の技術】
近年、家電用機器、OA機器、および電装品等において、より一層の高性能化と小型軽量化が要求されている。そのため、これらの機器に使用される永久磁石については、磁気回路全体としての性能対重量比を最大にすることが求められており、例えば残留磁束密度Bが0.5T(テスラ)以上の永久磁石を用いることが要求されている。しかし、従来の比較的安価なハードフェライト磁石によっては、残留磁束密度Bを0.5T以上にすることはできない。
【0003】
現在、0.5T以上の高い残留磁束密度Bを有する永久磁石としては、粉末冶金法によって作製されるSm−Co系磁石が知られている。Sm−Co系磁石以外では、粉末冶金法によって作製されるNd−Fe−B系磁石や、液体急冷法によって作製されるNd−Fe−B系急冷磁石が高い残留磁束密度Bを発揮することができる。前者のNd−Fe−B系焼結磁石は、例えば特開昭59−46008号公報に開示されており、後者のNd−Fe−B系急冷磁石は例えば特開昭60−9852号公報に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Sm−Co系磁石は、原料となるSmおよびCoのいずれもが高価であるため、磁石価格が高いという欠点を有している。
【0005】
Nd−Fe−B系磁石の場合は、安価なFeを主成分として(全体の60重量%〜70重量%程度)含むため、Sm−Co系磁石に比べて安価ではあるが、その製造工程に要する費用が高いという問題がある。製造工程費用が高い理由のひとつは、含有量が全体の10原子%〜15原子%程度を占めるNdの分離精製や還元反応に大規模な設備と多大な工程が必要になることである。また、粉末冶金法による場合は、どうしても製造工程数が多くなる。
【0006】
これに対し、液体急冷法によって製造されるNd−Fe−B系急冷磁石は、溶解工程→液体冷却工程→熱処理工程といった比較的簡単な工程で得られるため、粉末冶金法によるNd−Fe−B系磁石に比べて工程費用が安いという利点がある。しかし、液体急冷法による場合、バルク状の永久磁石を得るには、急冷合金から作製した磁石粉末を樹脂と混ぜ、ボンド磁石を形成する必要があるので、成形されたボンド磁石に占める磁石粉末の充填率(体積比率)は高々80%程度である。また、液体急冷法によって作製した急冷合金は、磁気的に等方性である。
【0007】
以上の理由から、液体急冷法を用いて製造したNd−Fe−B系急冷磁石は、粉末冶金法によって製造した異方性のNd−Fe−B系焼結磁石に比べてBが低いという問題を有している。
【0008】
Nd−Fe−B系急冷磁石の特性を改善する手法としては、特開平1−7502号公報に記載されているように、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Ti、V、およびCrからなる群から選択された少なくとも1種の元素とを複合的に添加することが有効である。このような元素の添加によって、保磁力HcJと耐食性とが向上するが、残留磁束密度Bを改善する有効な方法は、ボンド磁石の密度を向上すること以外に知られていない。また、Nd−Fe−B系急冷磁石中に6原子%以上の希土類元素が含まれる場合、多くの先行技術によれば、溶湯の急冷速度を高めるため、ノズルを介して冷却ロールに溶湯を噴射するメルトスピニング法が使用されている。
【0009】
Nd−Fe−B系磁石の場合、希土類元素の濃度が比較的に低い組成、すなわち、Nd3.8Fe77.219(原子%)の近傍組成を持ち、FeB型化合物を主相とする磁石材料が提案されている(R. Coehoorn等、J. de Phys, C8,1998, 669〜670頁)。この永久磁石材料は、液体急冷法によって作製したアモルファス合金に対して結晶化熱処理を施すことにより、軟磁性であるFeB相および硬磁性であるNdFe14B相が混在する微細結晶集合体から形成された準安定構造を有しており、「ナノコンポジット磁石」と称されている。このようなナノコンポジット磁石については、1T以上の高い残留磁束密度Bを有することが報告されているが、その保磁力HcJは160kA/m〜240kA/mと比較的低い。そのため、この永久磁石材料の使用は、磁石の動作点が1以上になる用途に限られている。
【0010】
また、ナノコンポジット磁石の原料合金に種々の金属元素を添加し、磁気特性を向上させる試みがなされているが(特開平3−261104号公報、米国特許4,836,868号、特開平7−122412号公報、国際出願の国際公開公報WO00/03403、W.C.Chan, et.al. ”THE EFFECTS OF REFRACTORY METALS ON THE MAGNETIC PROPERTIES OF α−Fe/RFe14B−TYPE NANOCOMPOSITES”, IEEE, Trans. Magn. No. 5, INTERMAG. 99, Kyongiu, Korea pp.3265−3267, 1999)、必ずしも充分な「コスト当りの特性値」は得られていない。また、ナノコンポジット磁石において実用に耐えられる大きさの保磁力が得られていないため、実使用において充分な磁気特性を発現できない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い保磁力(例えばHcJ≧550kA/m)を維持しながら、残留磁束密度B≧0.80Tを満足する優れた磁気特性を持つ鉄基合金磁石を安価に製造し得る永久磁石の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明による鉄基希土類合金磁石は、組成式が(Fe1−m100−x−y−zTi(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素)で表現され、組成比率x、y、zおよびmが、それぞれ、
10<x≦17原子%、
7≦y<10原子%、
0.5≦z≦6原子%、および
0≦m≦0.5
を満足し、20nm〜200nmの平均粒径を有するR14Q型化合物結晶粒と、前記R14Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界に存在する強磁性鉄基硼化物とを含有し、前記強磁性鉄基硼化物は、前記粒界または亜粒界に分散した状態またはフィルム状の状態で存在し、前記R14Q型化合物結晶粒の表面の少なくとも一部を覆っている。
【0013】
ある好ましい実施形態において、組成比率x、y、およびzが、それぞれ、10<x≦15原子%、7≦y≦9.3原子%、および1.5≦z≦5原子%を満足する。
【0014】
ある好ましい実施形態において、前記R14Q型化合物および強磁性鉄基硼化物を含む全結晶相の体積比率は全体の95%以上であり、アモルファス相の体積比率は全体の5%以下である。
【0015】
ある好ましい実施形態において、前記R14Q型化合物の体積比率は、全体の65%以上85%以下である。
【0016】
ある好ましい実施形態において、前記R14Q型化合物結晶粒におけるTi濃度は2原子%以下であり、前記R14Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界におけるTi濃度は、前記R14Q型化合物結晶粒におけるTi濃度より高い。
【0017】
ある好ましい実施形態において、前記R14Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界におけるTi濃度は7原子%以上である。
【0018】
ある好ましい実施形態において、前記粒界または亜粒界の厚さ方向に沿って測定した前記強磁性鉄基硼化物のサイズは50nm以下である。
【0019】
ある好ましい実施形態において、前記強磁性鉄基硼化物は、前記R14Q型化合物結晶粒の粒界において平均厚さ20nm以下のフィルムを形成している。
【0020】
ある好ましい実施形態において、前記強磁性鉄基硼化物は、前記R14Q型化合物結晶粒の粒界において分散し、平均長軸長さが1nm〜50nmである。
【0021】
ある好ましい実施形態において、任意断面におけるR14Q型化合物結晶粒の平均サイズは、前記任意断面における強磁性鉄基硼化物の平均サイズよりも大きい。
【0022】
ある好ましい実施形態では、組成比率xおよびzが、それぞれ、10<x≦14at%、0.5≦z≦4at%を満足する。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記鉄基硼化物は、FeBおよび/またはFe23を含んでいる。
【0024】
ある好ましい実施形態において、上記鉄基希土類合金磁石は、厚さは10μm以上300μm以下の薄帯形状を有している。
【0025】
ある好ましい実施形態において、上記鉄基希土類合金磁石は、粉末化されている。粉末粒子の平均粒径は30μm以上250μm以下であることが好ましい。
【0026】
ある好ましい実施形態では、残留磁束密度Br≧0.80T、最大エネルギ積(BH)max≧100kJ/m、固有保磁力HcJ≧480kA/mの硬磁気特性を有している。
【0027】
ある好ましい実施形態では、残留磁束密度Br≧0.85T、最大エネルギ積(BH)max≧120kJ/m、固有保磁力HcJ≧480kA/mの硬磁気特性を有している。
【0028】
本発明によるボンド磁石は、上記鉄基希土類合金磁石の粉末を含む磁石粉末を樹脂で成形されたことを特徴とする。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の鉄基希土類合金磁石(ナノコンポジット磁石)は、Tiを含有する希土類−鉄−硼素系合金の溶湯を冷却し、それによって凝固した急冷合金から形成されている。この急冷凝固合金は、微結晶相を含むものであるが、必要に応じて加熱され、更に結晶化が進められる。
【0030】
一般に、希土類元素Rの濃度を10原子%程度よりも低くすると、硬磁性を担うRFe14B型化合物相の体積比率が減少するだけでなく、RFe14B型化合物相に先立ってα−Feが析出するため、α−Feが粗大化しやすくなる。α−Feは磁化が高いため、最終的な磁石全体としての磁化は増加するが、粗大なα−Feを含むことで減磁曲線の角形性および保磁力が低下してしまい、実用に耐える永久磁石は得られない。従来、金属元素の添加により、全ての結晶相を細かくすることにより、粗大化しやすいα−Feを微細化して保磁力を増加させる試みはあるが、得られる保磁力は不充分であった。
【0031】
本発明者は、希土類元素Rの濃度が10原子%未満、B濃度が10〜17原子%の領域において、適量のTiを添加すると、Feの析出・粗大化を抑制しつつ、合金溶湯の冷却中にR14Q型化合物結晶をまず析出させ、次に鉄基硼化物を析出させることができることを見出した。また、このようにして軟磁性相に優先して硬磁性相を析出・成長させることにより、硬磁性相であるR14Q結晶粒の粒界に強磁性鉄基硼化物の不均一核を生成することができる。このため、合金の結晶化過程において、強磁性鉄基硼化物は界面エネルギの増加を避けつつ、R14Q型化合物結晶粒の表面を包み込むように成長させれば、複数の核から成長した鉄基硼化物は、過渡的には分散した状態にあるが、やがてはR14Q型化合物結晶粒の表面で部分的に合体して、1種のフィルムまた層を形成する。このようにして、鉄基硼化物のフィルムがR14Q型化合物結晶粒の表面の少なくとも一部を覆うかたちとなる。
【0032】
本発明によれば、硬磁性相であるR14Q型化合物結晶粒が軟磁性相である鉄基硼化物の薄いフィルム(平均厚さ20nm以下)および/または微粒子(長軸方向サイズ:1〜50nm)によって相互に隔離されたナノコンポジット構造が実現する。R14Q型化合物結晶粒は、交換相互作用によって軟磁性相と磁気的に結合し、交換スプリング磁石として機能する組織が発現している。なお、硬磁性相と軟磁性相との交換結合は主として界面で発生するので、硬磁性相を覆うようにしてフィルム状に存在する軟磁性相の磁気モーメントが磁気的に拘束されることになり、優れた磁気特性を得ることが可能となる。しかし、この磁気的な結合は、粒界に存在する弱磁性相または非磁性相によって弱められていると考えられ、その結果、充分な保磁力が確保されると推測される。
【0033】
図1(a)および(b)は、本発明に係るナノコンポジット磁石の組織を模式的に示している。図1(a)は、本発明におけるRFe14B相および粒界相を模式的に示す断面図である。鉄基硼化物(Fe−B)は粒界相中に存在する。図1(b)は、RFe14B相および鉄基硼化物を示す斜視図である。鉄基硼化物は、微細に分散した状態、および/またはフィルム状に連なった状態で粒界に存在し、RFe14B相の表面を覆っている。言い換えると、RFe14B相の粒界に存在する鉄基硼化物は、一部では連続的であり、また一部では不連続である。
【0034】
このように本発明では、強磁性の鉄基硼化物をR14Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界で成長させ、鉄基硼化物でR14Q型化合物結晶粒の表面を少なくとも部分的に覆うため、R14Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界に細かな(または薄い)鉄基硼化物が存在するという特異なコンポジット磁石組織を得ることが可能になる。
【0035】
本発明者の実験によると、強磁性の鉄基硼化物がR14Q型化合物結晶粒の粒界で薄いフィルムを形成し、このフィルムがR14Q型化合物相結晶粒の表面を薄く覆う場合に、ナノコンポジット磁石として特に優れた特性が発揮されるようである。本発明の場合、粒界に薄く存在する軟磁性相の体積比率は、磁石合金全体の10体積%以上40体積%以下である。
【0036】
上述のような構造は、Tiの添加により、R14Q型化合物結晶粒を他の軟磁性結晶粒よりも優先的に析出・成長させ、その後に、R14Q型化合物結晶粒の隙間(粒界部分)に鉄基硼化物を析出させることによって実現される。R14Q型化合物結晶粒が充分に析出・成長した後に、その粒界部分に軟磁性相が成長するため、粒界部分での軟磁性相の成長はR14Q型化合物結晶粒によって制限される。このようにして形成された軟磁性相の結晶格子は、硬磁性相の結晶格子に整合していない。この点でも、本発明の構成は、FeB/RFe14B系ナノコンポジット磁石の構成と異なっている。Rが2〜6原子%、Bが15〜20原子%含まれるFeB/RFe14B系ナノコンポジット磁石の場合は、軟磁性のFeBが先に析出した後、硬磁性のRFe14Bが相変態過程を経て形成されるため、FeBの結晶格子がRFe14Bの結晶格子に対して部分的に整合していることが観察される。
【0037】
本発明では、合金溶湯中に略均一に存在したTiは、R14Q型化合物結晶粒の析出・成長に伴い、R14Q型化合物結晶粒の粒界相内に押しやられ、粒界相に濃縮されてゆく。これは、TiがR14Q型化合物結晶粒内に安定して存在できないためと考えられる。粒界相に濃縮されたTiは、実験データによれば、粒界または亜粒界において5原子%以上30原子%以下の濃度で存在するが、その存在形態は不明である。
【0038】
以下、本発明の鉄基希土類合金磁石をより詳細に説明する。
【0039】
本発明の鉄基希土類合金磁石は、好適には、その組成式が組成式が(Fe1−m100−x−y−zTiで表現される。ここで、TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを含まない1種以上の希土類金属元素である。組成比率を規定するx、y、zおよびmは、それぞれ、10<x≦17原子%、7≦y<10原子%、0.5≦z≦6原子%、および0≦m≦0.5を満足する。この合金磁石は、交換相互作用によって磁気的に結合したR14Q型化合物結晶粒および強磁性鉄基硼化物を含有している。強磁性鉄基硼化物は、R14Q型化合物結晶粒の粒界また亜粒界においてフィルム状に成長した状態で存在し、全体としてR14Q型化合物相結晶粒の表面を覆っている。
【0040】
本発明の鉄基希土類合金磁石は、希土類元素の組成比率が全体の10原子%未満であるにもかかわらず、強磁性の鉄基硼化物が主相の粒界に析出しているため、磁化(残留磁束密度)がTiを添加しない場合と同等のレベルを維持するか、または増加し、減磁曲線の角形性が向上している。
【0041】
本発明の鉄基希土類合金磁石では、強磁性相である主相の結晶粒を軟磁性相である鉄基硼化物が薄く覆っているため、各主相結晶粒が交換相互作用によって結合し、合金全体として優れた減磁曲線の角形性を発揮する。
【0042】
本発明の鉄基希土類合金磁石は、好適には、NdFe14B相の飽和磁化と同等、または、それよりも高い飽和磁化を有する鉄基硼化物やα−Feを含有している。この鉄基硼化物は、例えば、FeB(飽和磁化1.5T)やFe23(飽和磁化1.6T)である。ここで、RFe14Bの飽和磁化は、RがNdの場合に約1.6Tであり、α−Feの飽和磁化は2.1Tである。
【0043】
通常、Bの組成比率xが10原子%を超え、しかも希土類元素Rの組成比率yが6原子%以上8原子%以下の範囲にある場合、Tiを添加しないと、RFe23が生成される。このような組成範囲において、本発明では、Tiを添加することにより、RFe23の代わりに、RFe14BとFe23やFeBを生成することができる。これらの鉄基硼化物は磁化向上に寄与する。なお、本明細書における「FeB」は、FeBと識別しにくいFe3.5Bも含むものとする。
【0044】
なお、本発明では、急冷合金中に粗大なα−Feをほとんど析出させず、微細なR14Q型化合物相を有する組織、あるいは、微細なR14Q型化合物相を有する組織とアモルファス相が混在した組織が作製される。なお、本明細書における「アモルファス相」とは、原子配列が完全に無秩序化した部分によってのみ構成される相だけではなく、結晶化の前駆体や微結晶(サイズ:数nm以下)、または原子クラスタを部分的に含んでいる相をも含むものとする。具体的には、X線回折や透過電子顕微鏡観察によって結晶構造を明確に同定できない相を広く「アモルファス相」と称することにする。そして、X線回折や透過電子顕微鏡観察によって結晶構造を明確に同定できる構造を「結晶相」と称することとする。
【0045】
従来、本発明が対象とするような組成に類似する組成(すなわち、本発明の組成からTiを除いた組成)を有する合金溶湯を比較的ゆっくりと冷却すると、α−Feが多く析出した合金組織が得られるため、その後の結晶化熱処理でα−Feが粗大化してしまうという問題があった。α−Feなどの軟磁性相が粗大化すると、磁石特性が大きく劣化し、到底実用に耐える永久磁石は得られない。
【0046】
Tiを添加した場合のみ、硬磁性相が他の相よりも優先的に析出・成長し、強磁性の鉄基硼化物が主相結晶粒の粒界に析出する。そして、析出した鉄基硼化物が部分的に結合して連続的なフィルムを形成し、そのフィルムで主相結晶粒の表面を薄く覆った組織が形成される。
【0047】
なお、Tiに代えて、Nb、V、Crなどの金属元素を添加した場合は、α−Fe相が析出するような比較的高い温度領域でα−Fe相の粒成長が著しく進行し、α−Fe相の磁化方向が硬磁性相との交換結合によって有効に拘束されなくなる結果、減磁曲線の角形性が大きく低下する。また、Tiに代えて、Nb、Mo、Wを添加した場合、α−Feが析出しない比較的低い温度領域で熱処理を行なえば、減磁曲線の角形性に優れた良好な硬磁気特性を得ることが可能である。しかし、このような温度で熱処理を行なった合金では、RFe14B型微細結晶相が非磁性のアモルファス相中に分散して存在していると推定され、ナノコンポジット磁石の構造は形成されていない。また、更に高い温度で熱処理を行なうと、アモルファス相中からα−Fe相が析出してしまう。このα−Fe相は、Tiを添加した場合と異なり、析出後、急激に成長し、粗大化する。このため、α−Fe相の磁化方向が硬磁性相との交換結合によって有効に拘束されなくなり、減磁曲線の角形性が大きく劣化してしまうことになる。
【0048】
また、Tiに代えて、VやCrを添加した場合は、Tiに比べ、これらの添加金属がFeに対して容易に固溶し、添加金属の磁気モーメントが鉄の磁気モーメントと反強磁性的に結合するため、磁化が大きく低下してしまう。
【0049】
上記の各元素と異なり、Tiを添加した場合は、α−Fe相の析出・成長のキネティクス(kinetics)が遅くなり、析出・成長に時間を要するため、α−Fe相の析出・成長が完了する前にNdFe14B相の析出・成長が開始すると考えられる。このため、α−Fe相が粗大化する前にNdFe14B相が均一に分散した状態で大きく成長する。
【0050】
このようにTiを添加した場合のみ、α−Fe相の粗大化を適切に抑制し、強磁性の鉄基硼化物を形成することが可能になる。更に、Tiは、液体急冷時にFe初晶(後にα−Feに変態するγ−Fe)の晶出を遅らせ、過冷却液体の生成を容易にする元素としてホウ素や炭素とともに重要な働きをするため、合金溶湯を急冷する際の冷却速度を10℃/秒〜10℃/秒程度の比較的低い値にしても、粗大なα−Feを析出させることなく、RFe14B型結晶相を60体積%以上含む急冷合金(RFe14B型結晶相以外には鉄基硼化物を含むことがある)を作製することが可能になる。
【0051】
[組成の限定理由]
Qは、その全量がB(硼素)から構成されるか、または、BおよびC(炭素)の組み合わせから構成される。Qの総量に対するCの割合は0.25以下であることが好ましい。
【0052】
Qの組成比率xが10原子%以下になると、急冷時の冷却速度が10℃/秒〜10℃/秒程度と比較的低い場合、RFe14B型結晶相とアモルファス相とが混在する急冷合金を作製することが困難になり、その後に熱処理を施しても400kA/m未満のHcJしか得られない。また、液体急冷法の中でも工程費用が比較的安いストリップキャスト法を採用できなくなり、永久磁石の価格が上昇してしまうことになる。一方、Qの組成比率xが17原子%を超えると、鉄基硼化物の析出がRFe14B相の析出と同時期に開始するため、鉄基硼化物が粗大化してしまう。その結果、鉄基硼化物相がRFe14Bの粒界または亜粒界に均一に分散またはフィルム状に広がったナノコンポジット組織が得られず、磁気特性が劣化する。
【0053】
以上のことから、Qの組成比率xは10原子%を超え、17原子%以下となるように設定することが好ましい。より好ましい組成比率xの上限は、16原子%であり、更に好ましい組成比率xの上限は15原子%である。
【0054】
なお、Q全体に対するCの比率pは、原子比で、0以上0.25以下の範囲にあることが好ましい。TiB相の析出抑制や金属組織の微細化といったC添加の効果を得るには、Cの比率pが0.01以上であることが好ましい。pが0.01よりも少なすぎると、C添加の効果がほとんど得られない。一方、pが0.25よりも大きくなりすぎると、α−Fe相の生成量が増大して、磁気特性が劣化するという問題が生じる。比率pの下限は、0.02であることが好ましく、pの上限は0.20以下であることが好ましい。比率pは0.08以上0.15以下であることが更に好ましい。
【0055】
Rは、希土類元素(イットリウムを含む)の群から選択された1種以上の元素である。LaまたはCeが存在すると、RFe14B相のR(典型的にはNd)がLaやCeで置換され、保磁力および角形性が劣化するため、LaおよびCeを実質的に含まないことが好ましい。ただし、微量のLaやCe(0.5原子%以下)が不可避的に混入する不純物として存在する場合は磁気特性上問題なく、実質的に含まないと言える。より具体的には、Rは、PrまたはNdを必須元素として含むことが好ましく、その必須元素の一部をDyおよび/またはTbで置換してもよい。Rの組成比率yが全体の6原子%未満になると、保磁力の発現に必要なRFe14B型結晶構造を有する化合物相が充分に析出せず480kA/m以上の保磁力HcJを得ることができなくなる。また、Rの組成比率yが10原子%以上になると、強磁性を有する鉄基硼化物やα−Feの存在量が低下し、代わりにBリッチの非磁性相の存在量が増加するため、ナノコンポジット構造が形成されず、磁化が低下する。故に、希土類元素Rの組成比率yは6原子%以上10原子%未満の範囲、例えば、7原子%以上9.5原子%以下に調節することが好ましい。より好ましいRの範囲の上限は9.3原子%、更に好ましいRの範囲の上限は9.0原子%である。好ましいRの範囲の下限は7.5原子%であり、更に好ましいRの範囲の下限は、8.0原子%である。本発明では、このようにRの濃度が低いが、Tiの働きにより、RFe14B相が他の相よりも優先的に析出・成長するため、合金溶湯中のRがRFe14B相の生成に有効に利用され、粒界部分ではRが低濃度化される。その結果、粒界相におけるR濃度が0.5原子%以下となり、硬磁性相中におけるR濃度(11原子%程度)に比較して格段に低くなる。Rがこのようにして有効に硬磁性相(RFe14B相)の形成に用いられるため、本発明では、Rの組成比率が10原子%よりも少なく、硬磁性相(RFe14B相)の体積比率が65原子%以上85原子%以下となるにもかかわらず、粒界に存在する軟磁性相との交換結合によって優れた硬磁気特性が発現する。なお、本明細書におけるRFe14B相などの構成相の体積比率は、メスバウアースペクトル分光法で測定した値である。
【0056】
Tiは、前述した効果を得るためには必須の元素であり、保磁力HcJおよび残留磁束密度Bの向上および減磁曲線の角形性の改善に寄与し、最大エネルギ積(BH)maxを向上させる。
【0057】
Tiの組成比率zが全体の0.5原子%未満になると、Ti添加の効果が充分に発現しない。一方、Tiの組成比率zが全体の6原子%を超えると、結晶化熱処理後も残存する非磁性相の体積比率が増すため、残留磁束密度Bの低下を招来しやすい。以上のことから、Tiの組成比率zは0.5原子%以上6原子%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましいzの範囲の下限は1.0原子%であり、より好ましいzの範囲の上限は5原子%である。更に好ましいzの範囲の上限は4原子%である。
【0058】
また、Qの組成比率xが高いほど、Q(例えば硼素)を過剰に含むアモルファス相が形成されやすいので、Tiの組成比率zを高くすることが好ましい。TiはBに対する親和性が強く、硬磁性相の粒界にフィルム状に濃縮される。Bに対するTiの比率が高すぎると、非磁性であるTiBが多く析出することに加えて、鉄基硼化物の体積比率が減少するため、磁化を低下させる可能性がある。また、Bに対するTiの比率が低すぎると、被磁性のBリッチアモルファス相が多く生成されてしまう。実験によれば、0.05≦z/x≦0.4を満足させるように組成比率を調節することが好ましく、0.1≦z/x≦0.35を満足させることがより好ましい。更に好ましくは0.13≦z/x≦0.3である。
【0059】
Feは、上述の元素の含有残余を占めるが、Feの一部をCoおよびNiの一種または二種の遷移金属元素(T)で置換しても所望の硬磁気特性を得ることができる。Feに対するTの置換量が50%を超えると、0.7T以上の高い残留磁束密度Bが得られない。このため、置換量は0%以上50%以下の範囲に限定することが好ましい。なお、Feの一部をCoで置換することによって、減磁曲線の角形性が向上するとともに、RFe14B相のキュリー温度が上昇するため、耐熱性が向上する。CoによるFe置換量の好ましい範囲は0.5%以上40%以下である。
【0060】
種々の効果を得る為、0〜10原子%程度の範囲で金属元素Mを添加しても良い。Mは、Al、Si、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Pt、Pb、AuおよびAgからなる群から選択された1種以上の元素である。
【0061】
次に、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0062】
[合金溶湯の急冷装置]
本実施形態では、例えば、図2に示す急冷装置を用いて原料合金を製造する。酸化しやすい希土類元素RやFeを含む原料合金の酸化を防ぐため、不活性ガス雰囲気中で合金製造工程を実行する。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができる。なお、窒素は希土類元素Rと比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
【0063】
図2の装置は、真空または不活性ガス雰囲気を保持し、その圧力を調整することが可能な原料合金の溶解室1および急冷室2を備えている。図2(a)は全体構成図であり、図2(b)は、一部の拡大図である。
【0064】
図2(a)に示されるように、溶解室1は、所望の磁石合金組成になるように配合された原料20を高温にて溶解する溶解炉3と、底部に出湯ノズル5を有する貯湯容器4と、大気の進入を抑制しつつ配合原料を溶解炉3内に供給するための配合原料供給装置8とを備えている。貯湯容器4は原料合金の溶湯21を貯え、その出湯温度を所定のレベルに維持できる加熱装置(不図示)を有している。
【0065】
急冷室2は、出湯ノズル5から出た溶湯21を急冷凝固するための回転冷却ロール7を備えている。
【0066】
この装置においては、溶解室1および急冷室2内の雰囲気およびその圧力が所定の範囲に制御される。そのために、雰囲気ガス供給口1b、2b、および8bとガス排気口1a、2a、および8aとが装置の適切な箇所に設けられている。特にガス排気口2aは、急冷室2内の絶対圧を30kPa〜常圧(大気圧)の範囲内に制御するため、ポンプに接続されている。
【0067】
溶解炉3は傾動可能であり、ロート6を介して溶湯21を貯湯容器4内に適宜注ぎ込む。溶湯21は貯湯容器4内において不図示の加熱装置によって加熱される。
【0068】
貯湯容器4の出湯ノズル5は、溶解室1と急冷室2との隔壁に配置され、貯湯容器4内の溶湯21を下方に位置する冷却ロール7の表面に流下させる。出湯ノズル5のオリフィス径は、例えば0.5〜2.0mmである。溶湯21の粘性が大きい場合、溶湯21は出湯ノズル5内を流れにくくなるが、本実施形態では急冷室2を溶解室1よりも低い圧力状態に保持するため、溶解室1と急冷室2との間に圧力差が形成され、溶湯21の出湯がスムーズに実行される。
【0069】
冷却ロール7は、熱伝導度の点から、Al合金、銅合金、炭素鋼、真鍮、W、Mo、青銅から形成され得る。ただし、機械的強度および経済性の観点から、Cu、Fe、またはCuやFeを含む合金から形成することが好ましい。冷却ロール7の直径は例えば300〜500mmである。冷却ロール7内に設けた水冷装置の水冷能力は、単位時間あたりの凝固潜熱と出湯量とに応じて算出し、調節される。
【0070】
図2に示す装置によれば、例えば合計10kgの原料合金を10〜20分間で急冷凝固させることができる。こうして形成した急冷合金は、例えば、厚さ:10〜300μm、幅:2mm〜3mmの合金薄帯(合金リボン)22となる。
【0071】
[急冷法]
まず、前述の組成式で表現される原料合金の溶湯21を作製し、図2の溶解室1の貯湯容器4に貯える。次に、この溶湯21は出湯ノズル5から減圧Ar雰囲気中の水冷ロール7上に出湯され、冷却ロール7との接触によって急冷され、凝固する。急冷凝固方法としては、冷却速度を高精度に制御できる方法を用いる必要がある。
【0072】
本発明による磁石の組織形態は、合金溶湯を冷却する際、核生成頻度が高い高温度領域において、硬磁性相であるRFe14Q相を析出させることによって容易に獲得することができる。このため、as−cast(熱処理前)の急冷合金に含まれるRFe14Q相の体積比率を60%以上にすることができる。このような組織形態を得るには、合金溶湯の冷却速度を1×10〜10℃/秒とすることが好ましく、1×10〜1×10℃/秒とすることが更に好ましい。
【0073】
合金の溶湯21が冷却ロール7によって冷却される時間は、回転する冷却ロール7の外周表面に合金が接触してから離れるまでの時間に相当し、その間に、合金の温度は低下し、過冷却液体状態になる。その後、過冷却状態の合金は冷却ロール7から離れ、不活性雰囲気中を飛行する。合金は薄帯状で飛行している間に雰囲気ガスに熱を奪われる結果、その温度は更に低下する。本発明では、雰囲気ガスの圧力を30kPa〜常圧の範囲内に設定しているため、雰囲気ガスによる抜熱効果が強まり、NdFe14BなどのR14Q型化合物を合金中に均一微細に析出・成長させることができる。なお、適切な量のTiを原料合金中に添加していない場合には、上述したような冷却過程を経た急冷合金中には、α−Feが優先的に析出・成長するため、最終的に得られる磁石特性が劣化してしまうことになる。
【0074】
本実施形態では、ロール表面速度を10m/秒以上30m/秒以下の範囲内に調節し、かつ、雰囲気ガスによる二次冷却効果を高めるために雰囲気ガス圧力を30kPa以上にすることによって、平均粒径50nm以下の微細なR14Q型化合物相を60体積%以上含む急冷合金を作製している。
【0075】
なお、本発明で用いる合金溶湯の急冷法は、上述の片ロール法に限定されず、双ロール法、ガスアトマイズ法、ノズルやオリフィスによる流量制御を行なわない方法であるストリップキャスト法、更には、ロール法とガスアトマイズ法とを組み合わせた冷却法などであってもよい。
【0076】
上記急冷法の中でも、ストリップキャスト法の冷却速度は比較的低く、10〜10℃/秒である。本実施形態では、適切な量のTiを合金に添加することにより、ストリップキャスト法による場合でもFe初晶を含まない組織が大半を占める急冷合金を形成することができる。ストリップキャスト法は、工程費用が他の液体急冷法の半分以下程度であるため、片ロール法に比べて大量の急冷合金を作製する場合に有効であり、量産化に適した技術である。原料合金に対してTiを添加しない場合や、元素Tiの代わりにMn、Mo、Ta、および/またはWを添加した場合には、ストリップキャスト法を用いて急冷合金を形成しても、Fe初晶を多く含む金属組織が生成するため、所望の金属組織を形成することができない。
【0077】
[熱処理]
本実施形態では、熱処理をアルゴン雰囲気中で実行する。好ましくは、昇温速度を5℃/秒〜20℃/秒として、550℃以上850℃以下の温度で30秒以上20分以下の時間保持した後、室温まで冷却する。この熱処理によって、残存アモルファス相中に準安定相の微細結晶が析出・成長し、ナノコンポジット組織構造が形成される。本発明によれば、熱処理の開始前の時点(as−cast)で既に微細なRFe14B結晶相(NdFe14B型結晶相)が全体の60体積%以上存在しているため、α−Fe相や他の結晶相の粗大化が抑制され、NdFe14B型結晶相以外の各構成相(軟磁性相)が均一に微細化される。熱処理後におけるRFe14B結晶相(NdFe14B型結晶相)が合金中に占める体積比率は65〜85%である。
【0078】
なお、熱処理温度が550℃を下回ると、熱処理後もアモルファス相が多く残存し、急冷条件によっては、保磁力が充分なレベルに達しない場合がある。また、熱処理温度が850℃を超えると、各構成相の粒成長が著しく、残留磁束密度Bが低下し、減磁曲線の角形性が劣化する。このため、熱処理温度は550℃以上850℃以下が好ましいが、より好ましい熱処理温度の範囲は570℃以上820℃以下である。
【0079】
本発明では、急冷合金中に充分な量のNdFe14B型化合物相が均一かつ微細に析出している。このため、急冷合金に対して敢えて結晶化熱処理を行なわない場合でも、急冷凝固合金自体が充分な磁石特性を発揮し得る。そのため、結晶化熱処理は本発明に必須の工程ではないが、これを行なうことが磁石特性向上のためには好ましい。なお、従来に比較して低い温度の熱処理でも充分に磁石特性を向上させることが可能である。
【0080】
熱処理雰囲気は、合金の酸化を防止するため、50kPa以下のArガスやNガスなどの不活性ガスが好ましい。1.0kPa以下の真空中で熱処理を行っても良い。
【0081】
熱処理前の急冷合金中には、RFe14B相およびアモルファス相以外に、FeB相、Fe23相、およびRFe23相等の準安定相が含まれていても良い。その場合、熱処理によって、RFe23相は消失し、RFe14B相の飽和磁化と同等、または、それよりも高い飽和磁化を示す鉄基硼化物(例えばFe23)やα−Feを結晶成長させることができる。
【0082】
熱処理を経て、最終的な磁石合金中には、RFe14B(R14Q)型化合物相が65体積%以上85体積%以下含まれる。具体的には、R濃度が9原子%の場合、R14Q型化合物相の体積比率は全体の75%程度であり、R濃度が8原子%の場合、R14Q型化合物相の体積比率は全体の68%程度である。一方、磁石中において、軟磁性相は10体積%以上35体積%以下の割合で含まれる。
【0083】
また、R14Q型化合物および強磁性鉄基硼化物を含む全結晶相の体積比率は全体の95%以上であり、アモルファス相の体積比率は全体の5%以下である。
【0084】
本発明の場合、最終的に鉄基硼化物のような軟磁性相が存在していても、軟磁性相は硬磁性相の周りに薄いフィルム状に存在しているため、各構成相が交換相互作用によって磁気的に結合し、優れた磁気特性が発揮される。
【0085】
本発明では、粒界相のほとんとが強磁性の鉄基硼化物(FeBなど)から構成されており、他の相としては強磁性のα−Feが含まれている。具体的には、粒界相に占める鉄基硼化物の体積比率は70%以上である。一方、Ndなどの希土類元素Rは粒界相にほとんど存在しておらず、硬磁性相の生成に有効に利用されている。このような組織構造は、Rの組成比率xが10原子%よりも少なく、かつ、Qの組成比率xが10原子%を超える組成領域において、適切な量のTiを添加することによって初めて得られるものである。もしもTiを添加する代わりに、他の金属元素を添加した場合には、仮に粒界相が形成されたとしても、その粒界相は磁化の低いアモルファスになりやすく、ナノコンポジット磁石の特性を発揮させることは困難である。また、Tiを添加した場合でも、Qの組成比率xが10原子%以下の場合は、粒界に磁化の高い軟磁性相が形成されず、コンポジット相間の交換結合によって磁石特性を発現するナノコンポジット磁石にはならない。
【0086】
なお、熱処理後におけるR14Q型化合物相の平均結晶粒径は、単磁区結晶粒径である300nm以下となる必要があり、20nm以上200nm以下であることが好ましく、20nm以上100nm以下であることが更に好ましい。
【0087】
これに対して、鉄基硼化物フィルムの平均厚さが50nmを超えると、各構成相間に働く交換相互作用が弱まり、減磁曲線の角形性が劣化するため、(BH)maxが低下してしまう。以上のことから、粒界または亜粒界の厚さ方向に沿って計測した鉄基硼化物相の平均サイズ(フィルムの平均厚さ)は、50nm以下であることが好ましい。鉄基硼化物相の上記平均サイズは30nm以下であることが更に好ましく、20nm以下であることが最も好ましい。
【0088】
なお、熱処理前に急冷合金の薄帯を粗く切断または粉砕しておいてもよい。熱処理後、得られた磁石を微粉砕し、磁石粉末(磁粉)を作製すれば、その磁粉から公知の工程によって種々のボンド磁石を製造することができる。ボンド磁石を作製する場合、鉄基希土類合金磁粉はエポキシ樹脂やナイロン樹脂と混合され、所望の形状に成形される。このとき、ナノコンポジット磁粉に他の種類の磁粉、例えばSm−Fe−N系磁粉やハードフェライト磁粉を混合してもよい。
【0089】
上述のボンド磁石を用いてモータやアクチュエータなどの各種の回転機を製造することができる。
【0090】
本発明の磁石磁末を射出成形ボンド磁石用に用いる場合は、平均粒度が200μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粒径は30μm以上150μm以下である。また、圧縮成形ボンド磁石用に用いる場合は、粒度が300μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粒径は30μm以上250μm以下である。更に好ましい範囲は50μm以上200μm以下である。
【0091】
なお、本発明による磁石粉末の表面にカップリング処理や化成処理、鍍金などの表面処理を施すことにより、ボンド磁石成形時の成形性や、得られるボンド磁石の耐食性および耐熱性を改善できる。また、成形後のボンド磁石表面に樹脂塗装や化成処理、鍍金などの表面処理を施した場合も、粉末の表面処理と同様にボンド磁石の耐食性および耐熱性を改善できる。
【0092】
【実施例】
(実施例1)
NdFe78.710.3Ti(原子比率)の合金組成を有するように、純度99.5%以上のB、Fe、Ti、およびNdの材料を用いて総量が30グラムとなるように秤量し、石英るつぼ内に投入した。
【0093】
石英るつぼは、底部に直径0.8mmのオリフィスを有しているため、上記原料は石英るつぼ内で溶解された後、合金溶湯となってオリフィスから下方に排出されることになる。原料の溶解は、圧力が35kPaのアルゴン雰囲気下において高周波加熱法を用いて行った。本実施例では溶湯温度を1500℃に設定した。
【0094】
合金溶湯の湯面を26.7kPaのアルゴンガスで加圧することによって、オリフィスの下方0.7mmの位置にある銅製ロールの外周面に対して溶湯を噴出させた。ロールは、その外周面の温度が室温程度に維持されるように内部が冷却されながら高速で回転する。このため、オリフィスから噴出した合金溶湯はロール周面に接触して熱を奪われつつ、周速度方向に飛ばされることになる。合金溶湯はオリフィスを介して連続的にロール周面上に噴出するため、急冷によって凝固した合金は薄帯状に長く延びたリボン(幅:2〜3mm、厚さ:20〜50μm)の形態を持つことになる。
【0095】
本実施例で採用する回転ロール法(単ロール法)の場合、冷却速度はロール周速度および単位時間当たりの溶湯流下量によって規定される。この溶湯流下量は、オリフィス径(断面積)と溶湯圧力とに依存する。本実施例では、流下レートを約0.5〜1kg/分とし、ロール表面速度を20m/秒に設定した。
【0096】
上述の急冷方法で得られた急冷合金の組織をCuKαの特性X線によって調べたところ、ハローパターン中にNdFe14Bの回折ピークが僅かに観察された。これにより、急冷合金中には、アモルファス相中に微細なNdFe14Bが存在していることを確認した。
【0097】
次に、上記の急冷合金をアルゴンガス中で熱処理した。660℃にて急冷合金を10分間保持した後、室温まで冷却した。その後、振動型磁力計を用いて各試料の磁気特性を測定した。下記の表1は、この測定結果を示している。
【0098】
【表1】
Figure 0003583116
【0099】
図3は、上記試料の減磁曲線を示している。
【0100】
熱処理後の合金組織をCuKαの特性X線によって調べたところ、ハローパターンは消失し、NdFe14B、Fe23およびα−Feの回折ピークが観察された。図4は、熱処理後の合金の粉末X線回線のパターンを示している。
【0101】
次に、熱処理後の微細金属組織を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察した。その結果、平均粒径150nm程度の結晶粒、および、その粒界に存在する20nm程度の微細結晶粒が観察された。図5に熱処理後の合金について撮影したTEM写真(倍率:12万5000倍)の暗視野像を示す。
【0102】
次に、TEMによって観察された結晶粒の合金組成をTEM−EDXにて調べた。その結果、平均粒径150nmの結晶粒はNdFe14Bであることが判明した。NdFe14B結晶粒の粒界に存在する20nm程度の結晶粒については、相の同定が出来なかった。このことから、鉄基硼化物は極めて微細な粒子として上記粒界に分散しているか、薄いフィルム(層)の状態で存在していることがわかる。
【0103】
次に、機械研磨を行なうことにより、熱処理後の急冷合金を角柱状のロッド状の試料に加工した。更に、このロッド状試料の先端部分を電解研磨によって細くして針状化した。この針状化試料の金属組織をアトム・プローブ(AP)やアトム・プローブ電界イオン顕微鏡(APFIM)によって調べた。その結果、主相であるNdFe14B相の他に、鉄基硼化物および極微量の鉄が存在していることが確認でき、また、鉄基硼化物相中のTi濃度がNdFe14B相中のTi濃度より多く、鉄基硼化物相中のTi濃度はNdFe14B相中のTi濃度の約3倍であることもわかった。
【0104】
AP分析によってカウントされる累積イオン数のプロットを行い、プロットされる総イオン個数が約12700個に達した時点でAP分析を中断し、針状化試料先端部のFIM像を撮影した。このFIM像を図6に示す。
【0105】
図6における像の中央部は、プローブホールに相当している。得られたFIM像では、暗い部分に明るい島状の領域が分散して存在している様子が示されているが、本像の撮影条件から、暗い母相がNdFe14B相に相当し、明るい島状領域が鉄基硼化物相に相当していると判断できる。すなわち、熱処理後の試料合金中には、合金中に硼化物が細かく分散していることがわかる。ただし、微細な鉄基硼化物相の組成をTEMで分析することはできなかった。
【0106】
鉄基硼化物の存在形態を3次元的に正確に把握するには、針状化試料の深さ方向に沿って多数のFIM像を比較的短い間隔で撮影し、それらのFIM像を深さ方向に沿って配列する画像処理を行えばよい。
【0107】
鉄基硼化物相は、TEM像およびFIM像のいずれからも、10nm程度の断面サイズを有していることがわかっている。このため、鉄基硼化物がNdFe14B結晶粒内部に存在していれば、TEMによる相同定が可能であるが、本発明者の実験では、そのような同定結果は得られなかった。このことは、鉄基硼化物がNdFe14B結晶粒内部に存在するのではなく、NdFe14B結晶粒の粒界または亜粒界において細かく分散した状態か、あるいは、部分的に連続してフィルムを形成した状態で存在していることを示している。
【0108】
このようにポーラスなフィルム状の鉄基硼化物をTEM像やFIM像として観察した場合、NdFe14B結晶粒や鉄基硼化物を横切る任意の断面において、鉄基硼化物は相互に隔離した微細結晶粒(任意断面上におけるサイズ:1〜20nm)として観察される。
【0109】
本発明によれば、合金溶湯の結晶化に際してRFe14B相が最初に晶出し、次いで、鉄基硼化物相が晶出する。このため、アモルファス母相に分散して存在するRFe14B相の結晶粒表面を不均一核として鉄基硼化物相が生成すると考えられる。RFe14B相結晶粒の表面に析出した鉄基硼化物相は、界面エネルギの増加を避けるため、RFe14B相結晶粒の表面を包むように成長し、その結果、一部の鉄基硼化物が互いに合体してフィルム状となり、RFe14B結晶粒の少なくとも一部を覆うことになると考えられる。
【0110】
本発明によれば、このようにして、軟磁性であるフィルム状の鉄基硼化物が硬磁性であるRFe14B相結晶粒を包み込んだ新規なナノコンポジット磁石構造が得られる。このような組織構造を持つことにより、優れた磁石特性が発揮されるものと考えられる。
【0111】
(実施例2)
下記の表2に示す合金組成を有するように、純度99.5%以上のB、C、Fe、Ti、V、Cr、およびNdの材料を用いて総量が30グラムとなるように秤量し、石英るつぼ内に投入した。表において、「bal」は「残部」を意味している。
【0112】
石英るつぼは、底部に直径0.8mmのオリフィスを有しているため、上記原料は石英るつぼ内で溶解された後、合金溶湯となってオリフィスから下方に排出することになる。原料の溶解は、アルゴン雰囲気下において高周波加熱法を用いて行った。本実施例では溶湯温度を1400℃に設定した。
【0113】
合金溶湯の湯面を30kPaのアルゴンガスで加圧することによって、オリフィスの下方に位置する銅製ロールの外周面に対して溶湯を噴出させた。本実施例では、流下レートを約0.4kg/分とし、ロール表面速度を20m/秒に設定した。こうして、幅1.0mm、厚さ50μmの急冷合金薄帯を作製した。
【0114】
上記急冷合金の組織を粉末XRD法によって調べたところ、急冷合金はアモルファス相から構成されていることを確認した。
【0115】
次に、上記の急冷合金を長さ20mm程度に切断した後、アルゴンガス中で熱処理した。熱処理は表2に示す温度で10分間保持することにより行った。
【0116】
熱処理後の組織を粉末XRD法によって調べたところ、NdFe14B、FeB、およびFe23の回折ピークが観察された。また、透過型電子顕微鏡を用いて合金の金属組織を調べたところ、NdFe14B相と、FeB相とが混在することを確認した。NdFe14B相は、平均結晶粒径50〜150nmの結晶粒として存在し、FeB相は、NdFe14B相の粒界領域(厚さ:数nm〜20nm)内に存在していた。
【0117】
振動型磁力計を用いて各試料の磁気特性を測定したところ、表2に示す結果が得られた。
【0118】
【表2】
Figure 0003583116
【0119】
APFIM分析により、NdFe14B相に含まれるTiの濃度を測定した。具体的には、まず、熱処理後の急冷合金に対して機械研磨を行うことにより、角柱状のロッド状の試料に加工した後、そのロッド状試料の先端部分を電解研磨によって細くして針状化した。そして、この針状化試料の金属組織をAP分析によって調べた。
【0120】
図7は、試料No.2におけるNd、B、およびTiの深さ方向積算濃度分布を示している。図7のグラフでは、AP分析によってカウントされる累積イオン数が深さ方向に応じてプロットされている。カウントされた原子の個数が深さ方向に沿って増加している領域では、その原子が存在していることを意味しており、逆に、カウントされた原子の個数が深さ方向に沿って一定の領域では、その原子が存在していないことを意味している。
【0121】
図7のグラフには、Nd、B、Tiのカウント数を示す曲線の勾配が変化している部分(屈曲点)が観察される。この屈曲点によって測定領域を12個の領域1〜12に分け、各領域1〜12におけるNd濃度、B濃度、およびTi濃度を計算した。計算結果を図8(a)および(b)に示す。図8(a)のグラフでは、縦軸がTi濃度、横軸がNd濃度であり、図8(b)のグラフでは、縦軸がTi濃度、横軸がB濃度である。
【0122】
図8(a)からわかるように、Nd濃度が8〜14原子%の領域では、Ti濃度が2原子%以下であることがわかる。Nd濃度が8〜14原子%の領域は、NdFe14B相が存在した領域であるので、NdFe14B相に含まれるTiの濃度は2原子%以下であることがわかる。
【0123】
一方、図8(b)からわかるように、B濃度が25〜35原子%の領域におけるTi濃度は7原子%以上である。B濃度が25〜35原子%の領域は、鉄基硼化物が存在した領域(粒界領域)であるので、粒界領域(粒界相)におけるTi濃度は7原子%以上であることがわかる。
【0124】
各試料について、上記の方法で測定した添加金属M(Ti、Cr、V)の濃度を表3に示す。
【0125】
【表3】
Figure 0003583116
【0126】
表3からわかるように、実施例(添加元素がTiの場合)では、NdFe14B型化合物結晶粒におけるTi濃度は2原子%以下であり、また、NdFe14B型化合物結晶粒の粒界または亜粒界におけるTi濃度は、NdFe14B型化合物結晶粒におけるTi濃度よりも高く、8原子%以上を示している。また、NdFe14B(RFe14B)相におけるTi濃度と粒界相におけるTi濃度の差は、6原子%以上も存在している。これに対し、比較例(添加元素がCr、Vの場合)では、NdFe14B型相におけるCr濃度やV濃度は2原子%を越えている。
【0127】
NdFe14B型化合物中のTiなどの添加元素Mの濃度が2原子%を超えると、NdFe14B型化合物結晶粒の磁化が大きく低下する。このような磁化の低下を避けるには、NdFe14B型化合物結晶粒におけるTi濃度を2原子%以下にすることが好ましく、1.8原子%以下にすることが更に好ましい。更に磁化を高めるという観点からは、1.65原子%以下にすることが最も好ましい。
【0128】
なお、比較例では、粒界領域におけるCr濃度やV濃度は、実施例の粒界領域におけるTi濃度と同レベルであるが、比較例の場合、Tiを添加していないため、組織構造が実施例とは大きく異なっていると考えられる。すなわち、比較例では、NdFe14B型化合物結晶粒の薄い粒界相中に磁化の高い鉄基硼化物が微細に分散する組織またはフィルム状に存在する組織は形成されていないと推測される。この理由は、比較例では、NdFe14B型化合物結晶粒をα−Feに優先して析出させるというTi添加の効果が生じないためであると考えられる。
【0129】
また、Tiに代えてCrやVを添加した比較例では、粒界領域に高い磁化を有する鉄基硼化物が充分に生成されず、また、Tiを添加した場合に比較して、CrやVが多く含まれるNdFe14B型化合物相が生成されることにより、磁化が低下するため、最終的な磁石の残留磁束密度Brが0.8Tよりも低くなった。
【0130】
なお、本発明の鉄基希土類合金磁石では、粒界領域に存在する鉄基硼化物が硬磁性結晶粒を覆うという特殊な組織構造を有しているため、耐食性が向上する利点も得られる。一般に、硬磁性を担うR14Q型化合物相は酸化しやすいRを高濃度に含んでいるため、そのままでは耐酸化性および耐食性に劣るが、本発明では、R濃度の低い粒界相が鉄基硼化物がR14Q型化合物の結晶粒を覆っているため、酸化や腐食の進行が粒界領域で停止し、過剰な酸化や腐食が効果的に防止される。粒界領域に比較的高い濃度で存在するTiも化学的に安定度の高い金属であるため、このTiの存在によっても耐酸化性および耐腐食性は更に向上していると考えられる。また、上記構造により、交換結合が適切に調節され、保磁力と残留磁束密度のバランスがとれた優れた磁石が得られる。
【0131】
【発明の効果】
本発明によれば、Tiを添加した合金溶湯の急冷を行なうことにより、磁石に必要な希土類元素の量を低減しながら保磁力および磁化が充分に高い優れた磁気特性を発揮する永久磁石が得られる。
【0132】
また、本発明によれば、Tiを添加することにより、液体急冷法を用いて急冷合金を作製する際に、冷却速度を低下させても、液体冷却工程時のα−Fe相の析出が抑制される。したがって、ストリップキャスト法のように比較的冷却速度が遅く、量産化に適した液体急冷法を用いることが可能になるため、製造コストの低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)および(b)は、本発明による鉄基合金磁石の組織を模式的に示す図である。
【図2】(a)は、本発明による鉄基希土類合金磁石のための急冷合金を製造する方法に用いる装置の全体構成例を示す断面図であり、(b)は急冷凝固が行われる部分の拡大図である。
【図3】実施例の試料について得られた減磁曲線を示すグラフである。
【図4】実施例の試料について得られた熱処理後のX線回折パターンを示すグラフである。
【図5】本発明の実施例について、熱処理後の微細金属組織を観察した透過型電子顕微鏡の写真(倍率:12万5000倍)である。
【図6】本発明の実施例について、針状化試料の金属組織をアトム・プローブ電界イオン顕微鏡(APFIM)によって観察したFIM像の写真である。
【図7】試料No.2におけるNd、B、およびTiの深さ方向濃度分布を示すグラフである。
【図8】図7のグラフにおける領域1〜12のNd濃度およびB濃度とTi濃度との関係を示すグラフであり、(a)は、縦軸がTi濃度、横軸がNd濃度のグラフであり、(b)は、縦軸がTi濃度、横軸がB濃度のグラフである。
【符号の説明】
1b、2b、8b、および9b 雰囲気ガス供給口
1a、2a、8a、および9a ガス排気口
1 溶解室
2 急冷室
3 溶解炉
4 貯湯容器
5 出湯ノズル
6 ロート
7 回転冷却ロール
21 溶湯
22 合金薄帯

Claims (18)

  1. 組成式が(Fe1-mm100-x-y-zxyTiz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以上の元素、RはLaおよびCeを実質的に含まない1種以上の希土類金属元素)で表現されており、組成比率x、y、zおよびmが、それぞれ、
    10<x≦17原子%、
    7≦y<10原子%、
    0.5≦z≦6原子%、および
    0≦m≦0.5
    を満足し、
    20nm〜200nmの平均粒径を有するR214Q型化合物結晶粒と、前記R214Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界に存在する強磁性鉄基硼化物とを含有し、
    前記強磁性鉄基硼化物は、前記粒界または亜粒界に分散した状態またはフィルム状の状態で存在し、前記R214Q型化合物結晶粒の表面の少なくとも一部を覆っており、
    前記R 2 14 Q型化合物結晶粒と前記強磁性鉄基硼化物とが磁気的に結合したナノコンポジット構造を有する鉄基希土類合金磁石。
  2. 組成比率x、y、およびzが、それぞれ、
    10<x≦15原子%、
    7≦y≦9.3原子%、および
    1.5≦z≦5原子%、
    を満足する請求項1に記載の鉄基希土類合金磁石。
  3. 前記R214Q型化合物および強磁性鉄基硼化物を含む全結晶相の体積比率は全体の95%以上であり、
    アモルファス相の体積比率は全体の5%以下である請求項1または2に記載の鉄基希土類合金磁石。
  4. 前記R214Q型化合物の体積比率は、全体の65%以上85%以下である請求項3に記載の鉄基希土類合金磁石。
  5. 前記R214Q型化合物結晶粒におけるTi濃度は2原子%以下であり、
    前記R214Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界におけるTi濃度は、前記R214Q型化合物結晶粒におけるTi濃度より高い請求項1から4のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  6. 前記R214Q型化合物結晶粒の粒界または亜粒界におけるTi濃度は、7原子%以上である請求項5に記載の鉄基希土類合金磁石。
  7. 前記粒界または亜粒界の厚さ方向に沿って測定した前記強磁性鉄基硼化物の平均サイズは50nm以下である、請求項1から6のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  8. 前記強磁性鉄基硼化物は、前記R214Q型化合物結晶粒の粒界において平均厚さ20nm以下のフィルムを形成している請求項1から7のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  9. 前記強磁性鉄基硼化物は、前記R214Q型化合物結晶粒の粒界に存在し、平均長軸長さが1nm〜50nmである請求項1から7のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  10. 任意断面におけるR214Q型化合物結晶粒の平均サイズは、前記任意断面における強磁性鉄基硼化物の平均サイズよりも大きい請求項1から9のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  11. 組成比率xおよびzが、それぞれ、
    10<x≦14at%、
    0.5≦z≦4at%
    を満足する請求項1から10のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  12. 前記鉄基硼化物は、Fe3Bおよび/またはFe236を含んでいる請求項1から11のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  13. 厚さが10μm以上300μm以下の薄帯形状を有している請求項1から12のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  14. 粉末化されている請求項1から12のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  15. 粉末粒子の平均粒径が30μm以上250μm以下である請求項14に記載の鉄基希土類合金磁石。
  16. 残留磁束密度Br≧0.80T、最大エネルギ積(BH)max≧100kJ/m3、固有保磁力HcJ≧480kA/mの硬磁気特性を有している請求項1から15のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  17. 残留磁束密度Br≧0.85T、最大エネルギ積(BH)max≧120kJ/m3の硬磁気特性を有している請求項16に記載の鉄基希土類合金磁石。
  18. 請求項14または15に記載された鉄基希土類合金磁石の粉末を含む磁石粉末を樹脂で成形したボンド磁石。
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