JP2002064009A - 鉄基希土類合金磁石およびその製造方法 - Google Patents

鉄基希土類合金磁石およびその製造方法

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JP2002064009A JP2000250947A JP2000250947A JP2002064009A JP 2002064009 A JP2002064009 A JP 2002064009A JP 2000250947 A JP2000250947 A JP 2000250947A JP 2000250947 A JP2000250947 A JP 2000250947A JP 2002064009 A JP2002064009 A JP 2002064009A
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alloy
magnet
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Toshio Mitsugi
敏夫 三次
Hirokazu Kanekiyo
裕和 金清
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Sumitomo Special Metals Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 希土類元素が少ないながらも高い磁化を示
し、減磁曲線の角形性にも優れた鉄基希土類合金磁石を
提供する。 【解決手段】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-zx
yz表現される鉄基希土類合金磁石である。TはCoお
よびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Q
はB(硼素)およびC(炭素)からなる群から選択され
た1種以上の元素、RはLaおよびCeを含まない1種
以上の希土類金属元素、MはTiである。x、y、z、
およびmは、それぞれ、10<x≦20原子%、6≦y
<10原子%、0.1≦z≦12原子%、および0≦m
≦0.5の関係を満足する。この磁石は、結晶化熱処理
前の急冷凝固状態にある段階から、Ti基ホウ化物相を
含有しており、このTi基ホウ化物相の働きにより、優
れた磁石特性を発揮し得る組織構造が形成される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種モータやアク
チュエータに好適に使用される鉄基希土類合金磁石およ
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、家電用機器、OA機器、および電
装品等において、より一層の高性能化と小型軽量化が要
求されている。そのため、これらの機器に使用される永
久磁石については、磁気回路全体としての性能対重量比
を最大にすることが求められており、例えば残留磁束密
度Brが0.5T(テスラ)以上の永久磁石を用いるこ
とが要求されている。しかし、従来の比較的安価なハー
ドフェライト磁石によっては、残留磁束密度Brを0.
5T以上にすることはできない。
【0003】現在、0.5T以上の高い残留磁束密度B
rを有する永久磁石としては、粉末冶金法によって作製
されるSm−Co系磁石が知られている。Sm−Co系
磁石以外では、粉末冶金法によって作製されるNd−F
e−B系磁石や、液体急冷法によって作製されるNd−
Fe−B系急冷磁石が高い残留磁束密度Brを発揮する
ことができる。前者のNd−Fe−B系磁石は、例えば
特開昭59−46008号公報に開示されており、後者
のNd−Fe−B系急冷磁石は例えば特開昭60−98
52号公報に開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、Sm−
Co系磁石は、原料となるSmおよびCoのいずれもが
高価であるため、磁石価格が高いという欠点を有してい
る。
【0005】Nd−Fe−B系磁石の場合は、安価なF
eを主成分として(全体の60重量%〜70重量%程
度)含むため、Sm−Co系磁石に比べて安価ではある
が、その製造工程に要する費用が高いという問題があ
る。製造工程費用が高い理由のひとつは、含有量が全体
の10原子%〜15原子%程度を占めるNdの分離精製
や還元反応に大規模な設備と多大な工程が必要になるこ
とである。また、粉末冶金法による場合は、どうしても
製造工程数が多くなる。
【0006】これに対し、液体急冷法によって製造され
るNd−Fe−B系急冷磁石は、溶解工程→液体冷却工
程→熱処理工程といった比較的簡単な工程で得られるた
め、粉末冶金法によるNd−Fe−B系磁石に比べて工
程費用が安いという利点がある。しかし、液体急冷法に
よる場合、バルク状の永久磁石を得るには、急冷合金か
ら作製した磁石粉末を樹脂と混ぜ、ボンド磁石を形成す
る必要があるので、成形されたボンド磁石に占める磁石
粉末の充填率(体積比率)は高々80%程度である。ま
た、液体急冷法によって作製した急冷合金は、磁気的に
等方性である。
【0007】以上の理由から、液体急冷法を用いて製造
したNd−Fe−B系急冷磁石は、粉末冶金法によって
製造した異方性のNd−Fe−B系焼結磁石に比べてB
rが低いという問題を有している。
【0008】Nd−Fe−B系急冷磁石の特性を改善す
る手法としては、特開平1−7502号公報に記載され
ているように、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、および
Wからなる群から選択された少なくとも一種の元素と、
Ti、V、およびCrからなる群から選択された少なく
とも一種の元素とを複合的に添加することが有効であ
る。このような元素の添加によって、保磁力HcJと耐食
性とが向上するが、残留磁束密度Brを改善する有効な
方法は、ボンド磁石の密度を向上すること以外に知られ
ていない。
【0009】Nd−Fe−B系磁石の場合、希土類元素
の濃度が比較的に低い組成、すなわち、Nd3.8Fe
77.219(原子%)の近傍組成を持ち、Fe3B型化合
物を主相とする磁石材料が提案されている(R. Coehoor
n等、J. de Phys, C8,1998, 669〜670頁)。この永久磁
石材料は、液体急冷法によって作製したアモルファス合
金に対して結晶化熱処理を施すことにより、軟磁性であ
るFe3B相および硬磁性であるNd2Fe14B相が混在
する微細結晶集合体から形成された準安定構造を有して
おり、「ナノコンポジット磁石」と称されている。この
ようなナノコンポジット磁石については、1T以上の高
い残留磁束密度Brを有することが報告されているが、
その保磁力HcJは160kA/m〜240kA/mと比
較的低い。そのため、この永久磁石材料の使用は、磁石
の動作点が1以上になる用途に限られている。
【0010】また、ナノコンポジット磁石の原料合金に
種々の金属元素を添加し、磁気特性を向上させる試みが
なされているが(特開平3-261104号公報、特許第272750
5号公報、特許第2727506号公報、国際出願の国際公開公
報WO003/03403、W.C.Chan, et.al. "THE EFFECTS OF
REFRACTORY METALS ON THE MAGNETIC PROPERTIES OFα-
Fe/R2Fe14B-TYPE NANOCOMPOSITES", IEEE, Trans. Mag
n. No. 5, INTERMAG.99, Kyongiu, Korea pp.3265-326
7, 1999)、必ずしも充分な「コスト当りの特性値」は
得られていない。
【0011】本発明は、上記事情に鑑みてなされたもの
であり、その目的とするところは、高い保磁力(例えば
cJ≧480kA/m)を維持しながら、残留磁束密度
r≧0.7Tを満足する優れた磁気特性を持つ鉄基合
金磁石を安価に製造し得る永久磁石の製造方法を提供す
ることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明による鉄基希土類
合金磁石は、組成式が(Fe1-mm100-x-y-zx y
z(TはCoおよびNiからなる群から選択された1
種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択され
た1種以上の元素、RはLaおよびCeを含まない1種
以上の希土類金属元素、MはTi)で表現され、組成比
率x、y、z、およびmが、それぞれ、10<x≦20
原子%、6≦y<10原子%、0.1≦z≦12原子
%、および0≦m≦0.5を満足し、R2Fe14B型化
合物相、強磁性相、およびTi基ホウ化物相を含有す
る。
【0013】前記強磁性相の平均サイズは1nm以上1
00nm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0014】好ましい実施形態において、前記強磁性相
は、鉄基ホウ化物相およびα−Fe相を含む。
【0015】好ましい実施形態において、前記鉄基ホウ
化物相は、Fe3Bおよび/またはFe236を含んでい
る。
【0016】組成比率xおよびzは、それぞれ、13≦
x≦20原子%および3.0≦z≦12原子%を満足す
ることが好ましい。
【0017】好ましい実施形態では、前記Ti基ホウ化
物相がTiB2を含んでいる。
【0018】組成比率xおよびzが、z/x≧0.1を
満足することが好ましい。
【0019】前記Rの組成比率yは9.5原子%以下で
あることが好ましい。
【0020】前記Rの組成比率yは9.1原子%以下で
あってもよい。
【0021】ある好ましい実施形態において、前記磁石
は、厚さが10μm以上300μm以下の薄帯形状を有
している。
【0022】ある好ましい実施形態において、前記磁石
は粉末化されている。
【0023】ある好ましい実施形態においては、粉末粒
子の平均粒径が30μm以上250μm以下である。
【0024】好ましい実施形態においては、保磁力HcJ
≧480kA/m、残留磁束密度B r≧0.7Tの硬磁
気特性を有している。
【0025】本発明によるボンド磁石は、上記何れかの
鉄基希土類合金磁石の粉末を含む磁石粉末を樹脂で成形
したものである。
【0026】本発明による鉄基希土類合金磁石の製造方
法は、組成式が(Fe1-mm100- x-y-zxyz(T
はCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の
元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以
上の元素、RはLaおよびCeを含まない1種以上の希
土類金属元素、MはTi)で表現され、組成比率x、
y、z、およびmが、それぞれ、10<x≦20原子
%、6≦y<10原子%、0.1≦z≦12原子%、お
よび0≦m≦0.5を満足する合金の溶湯を作製する工
程と、前記合金の溶湯を急冷することによって、少なく
ともTi基ホウ化物相およびアモルファス相が混在する
急冷合金を作製する急冷工程と、前記急冷合金を結晶化
し、それによって、R2Fe14B型化合物相、強磁性
相、およびTi基ホウ化物相を含有し、前記強磁性相の
平均サイズが1nm以上100nm以下の範囲内にある
組織を形成する工程とを包含する。
【0027】本発明による鉄基希土類合金磁石の製造方
法は、Fe、Q(QはBおよびCからなる群から選択さ
れた1種以上の元素)、R(Rは希土類元素)、および
Tiを含有する合金溶湯を作製する工程と、前記合金溶
湯を冷却し、Ti基ホウ化物相およびアモルファス相を
含む凝固合金を作製する工程と、前記凝固合金を加熱す
ることによって、R2Fe14B型結晶構造を持つ化合物
相結晶相を成長させ、その後にα−Fe相結晶相の成長
を開始させる工程とを包含する。
【0028】ストリップキャスト法を用いて前記合金溶
湯を冷却することが好ましい。
【0029】本発明によるボンド磁石の製造方法は、上
記何れかの製造方法によって作製された磁石粉末を用意
する工程と、前記磁石粉末を用いてボンド磁石を作製す
る工程とを包含する。
【0030】本発明による鉄基希土類合金磁石用急冷合
金は、組成式が(Fe1-mm100- x-y-zxyz(T
はCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の
元素、QはBおよびCからなる群から選択された1種以
上の元素、RはLaおよびCeを含まない1種以上の希
土類金属元素、MはTi)で表現され、組成比率x、
y、z、およびmが、それぞれ、10<x≦20原子
%、6≦y<10原子%、0.1≦z≦12原子%、お
よび0≦m≦0.5を満足し、Ti基ホウ化物相および
アモルファス相を含む。
【0031】本発明による鉄基希土類合金磁石用急冷合
金は、Fe、Q(QはBおよびCからなる群から選択さ
れた1種以上の元素)、R(Rは希土類元素)、および
Tiを含有する合金溶湯を冷却することによって作製さ
れ、Ti基ホウ化物相およびアモルファス相を含み、熱
処理によってα−Fe相結晶相の成長開始より先にR 2
Fe14B型結晶構造を持つ化合物相結晶相が成長する組
織を有している。
【0032】本発明による鉄基希土類合金磁石は、上記
鉄基希土類合金磁石用急冷合金を加熱することによって
作製されたものである。
【0033】本発明による鉄基希土類合金磁石は、R2
Fe14B型化合物相、鉄基ホウ化物相、α−Fe相、お
よびTi基ホウ化物相が同一組織内に混在していること
を特徴とする。
【0034】
【発明の実施の形態】本発明の鉄基希土類合金磁石は、
Fe、Q(QはBおよびCからなる群から選択された1
種以上の元素)、R(Rは希土類元素)、およびTiを
含有する鉄基合金溶湯を冷却することによって、Ti基
ホウ化物相およびアモルファス相を含む凝固合金を作製
した後、この凝固合金を加熱し、結晶化させることよっ
て製造される。
【0035】本発明者は、鉄基希土類合金へ適切な量の
Tiを添加し、急冷凝固合金のアモルファス相中にTi
およびホウ素の化合物相(Ti基ホウ化物相)を形成す
ることにより、結晶化熱処理でTi基ホウ化物相の周囲
に微細な結晶粒が析出し、Ti基ホウ化物相から離れた
領域で相対的に大きな結晶粒が析出することを見出し
た。
【0036】このようなTi基ホウ化物相の働きを利用
することにより、α−Fe相の粗大化を抑制するととも
に、磁化の高い鉄基ホウ化物相を成長させ、それによっ
て複合型磁石の特性を向上させることができる。
【0037】まず、図1を参照しながら本発明の特徴部
を詳細に説明する。図1の左側部分は、本発明による急
冷凝固合金の組織構造を示しており、右側部分は、結晶
熱処理後の合金組織構造を示している。この図は、透過
型顕微鏡(TEM)観察に基づいて作成したものである
が、各構成相(結晶粒)の大きさは必ずしも現実の大き
さに対応していない。
【0038】図1に示されるように、本発明による急冷
凝固合金は、Ti基ホウ化物相(TiB2相)がアモル
ファス相中に分散した構造を有している。TiB2相以
外の結晶相はアモルファス相中で特に明瞭には観察され
ず、原料合金の溶湯を急冷することによりTiB2相が
優先的に析出したことがわかる。このTiB2相は柱状
もしくは板状の形状を有しており、そのサイズは、約
0.5〜1μm×約5μm程度である。
【0039】このような組織構造を持つ急冷凝固合金に
対して結晶化熱処理を行なうと、アモルファス相から複
数種類の強磁性相が析出・成長する。熱処理後の合金
は、TiB2相以外に、Nd2Fe14B相、Fe236
またはFe3B相、およびα−Fe相が混在した組織構
造を有している。
【0040】こうして得た磁石合金で注目すべき点は、
TiB2相の周囲近傍において相対的に小さな粒径(2
0〜40nm)の結晶相が形成され、TiB2相から離
れた領域において相対的に大きな粒径(50〜100n
m)の結晶相が形成されることにある。そして、このよ
うな組織を持つことにより、保磁力および残留磁束密度
が向上し、また、減磁曲線の角形性が優れたものとな
る。
【0041】次に、図2(a)〜(c)を参照する。図
2(a)は、アモルファス相中にTi基ホウ化物相が形
成されている状態を示す模式的断面図である。図2
(b)は、図示されている領域のTi濃度およびB濃度
の分布を示しており、図2(c)は、同領域のNd濃度
およびFe濃度の分布を示している。各元素の濃度分布
は、Energy Dispersive X-ray Spectroscopyによって得
られた実測値に基づいてグラフ化されている。
【0042】図2(b)および図2(c)からわかるよ
うに、Ti基ホウ化物相が形成されている領域では、T
iおよびBの濃度が高く、NdおよびFeの濃度が低
い。また、B濃度はTi基ホウ化物相の周囲近傍領域で
低く、Ti基ホウ化物相から離れるにつれて増大してい
る。一方、Ti濃度は、Ti基ホウ化物相の近傍で高
く、Ti基ホウ化物相から離れるにつれて低下してい
る。
【0043】以上のことから、次のことが成立すると考
えられる。
【0044】本発明の合金組成範囲のように、合金溶湯
中に過剰なホウ素(B)が存在している場合、適切な量
のTiが添加され、また、急冷速度が適切に制御される
と、急冷過程でTiB2などのTi基ホウ化物相がアモ
ルファス相中に分散した急冷凝固合金が得られる。この
ようにしてTiB2などのTi基ホウ化物相が急冷合金
中に生成されると、その周囲近傍領域では、Ti基ホウ
化物相形成のためにBが消費され、B濃度の低下が生じ
る。NdやFeがTi基ホウ化物相に固溶しないと仮定
すると、Ti基ホウ化物相の周囲近傍領域では、Ndお
よびFeが豊富で、しかもBの不足した状態になりやす
い。このような状態では、Nd2Fe14Bが成長しやす
くなる。その結果、Nd2Fe14Bの析出・成長温度が
低下し、結晶化熱処理に際してはα−Fe相の析出・成
長が生じる前に、充分な量のNd 2Fe14B相を生成す
ることが可能になる。すなわち、Tiを鉄基希土類合金
に添加することによってTi基ホウ化物相をアモルファ
ス中に生成すると、α−Fe相の析出を抑制しつつ、N
2Fe14B相を優先的に析出・成長させることが可能
になる。
【0045】実験によると、結晶化熱処理工程の初期段
階(温度の比較的低い段階)において、Ti基ホウ化物
相の近傍でNd2Fe14B相が多く析出し、その後、熱
処理温度の上昇にともなって、Ti基ホウ化物相から離
れた領域(Bリッチ領域)に強磁性の鉄基ホウ化物相が
生成される。そして、熱処理温度が更に上昇してゆく
と、Ti基ホウ化物相から離れた領域にα−Fe相が成
長する。
【0046】磁気特性を評価する実験によると、Ti濃
度の増加に伴って保磁力HcJは単調に増加するが、残留
磁束密度Brは適当なTi濃度で極大化した後、所定の
濃度以上のTiが添加されると却って低下する傾向があ
る。このように、Ti濃度の増加に伴って保磁力HcJ
増加してゆく主な理由は、Ti濃度の増加に従って、急
冷合金中に析出するTi基ホウ化物相の数や大きさが増
加し、Nd2Fe14B相の生成量が増加するためと考え
られる。
【0047】なお、Tiを添加しなかった場合は、Nd
2Fe14B相の析出に先だってα−Fe相が析出し、成
長しやすい。その結果、結晶化熱処理工程が完了した段
階でα−Fe相は粗大化しており、磁石特性が劣化す
る。
【0048】以下、本発明の鉄基希土類合金磁石をより
詳細に説明する。
【0049】本発明の鉄基希土類合金磁石は、好適に
は、その組成式が(Fe1-mm100- x-y-zxyz
表現される。ここで、TはCoおよびNiからなる群か
ら選択された1種以上の元素、QはB(ホウ素)および
C(炭素)からなる群から選択された1種以上の元素、
RはLaおよびCeを含まない1種以上の希土類金属元
素、MはTiである。
【0050】組成比率を規定するx、y、z、およびm
は、それぞれ、10<x≦20原子%、6≦y<10原
子%、0.1≦z≦12原子%、および0≦m≦0.5
の関係を満足することが好ましい。
【0051】このように本発明の鉄基希土類合金磁石
は、Tiを添加した希土類−鉄−硼素(または炭素)系
合金から構成されており、希土類元素の組成比率が全体
の10原子%未満であるにもかかわらず、Tiの添加に
よって磁化(残留磁束密度)が同等のレベルを維持する
か、または増加し、減磁曲線の角形性が向上するという
予想外の効果が発揮される。
【0052】本発明の鉄基希土類合金磁石では、軟磁性
相(α−Feや鉄基ホウ化物などの強磁性相)の平均結
晶粒径が1nm以上50nm以下の範囲にあるため、各
構成粒子が交換相互作用によって結合する結果、硬磁性
のR2Fe14B型化合物相以外にα−Fe相や鉄基ホウ
化物相のような軟磁性相が存在していても、合金全体と
しては優れた減磁曲線の角形性を示すことが可能にな
る。
【0053】また、本発明では、R2Fe14B型化合物
相の飽和磁化と同等、または、それよりも高い飽和磁化
を有する鉄基ホウ化物相やα−Fe相を生成することが
できる。生成される鉄基ホウ化物相は、例えば、Fe3
B(飽和磁化1.5T)やFe236(飽和磁化1.6
T)である。ここで、R2Fe14Bの飽和磁化は約1.
6Tであり、α−Fe相の飽和磁化は2.1Tである。
【0054】通常、Bの組成比率xが10原子%を超
え、しかも希土類元素Rの組成比率yが6原子%以上8
原子%以下の範囲にある場合、R2Fe233が生成され
るが、このような組成範囲にある原料合金を用いる場合
であっても、本発明のようにTiを添加することによっ
て、R2Fe233の代わりにFe236やα−Fe相を
生成することができる。これらの鉄基ホウ化物相は磁化
向上に寄与する。
【0055】本発明者の実験によれば、Tiを添加した
場合だけ、V、Cr、Mn、Nb、Moなどの他の種類
の金属を添加した場合と異なり、磁化の低下が生じず、
むしろ磁化が向上することがわかった。また、Tiを添
加した場合には、前述の他の添加元素と比べ、減磁曲線
の角形性が特に良好なものとなった。これらのことか
ら、Ti基ホウ化物相の形成が、磁化の低いホウ化物相
の生成を抑制する上で重要な働きをしていると考えられ
る。
【0056】また、Tiを添加した場合は、α−Fe相
が析出する温度よりも高い温度領域において各構成相の
粒成長が抑制され、優れた硬磁気特性が発揮される。そ
して、R2Fe14B相やα−Fe相以外の強磁性相を生
成し、それによって、合金内に3種類以上の強磁性相を
含む組織を形成することが可能になる。これに対し、N
b、V、Crなどの金属元素を添加した場合は、α−F
e相が析出するような比較的高い温度領域でα−Fe相
の粒成長が著しく進行し、α−Fe相の磁化方向が硬磁
性相との交換結合によって有効に拘束されなくなる結
果、減磁曲線の角形性が大きく低下する。
【0057】なお、Nb、Mo、Wを添加した場合、α
−Fe相が析出しない比較的低い温度領域で熱処理を行
なえば、減磁曲線の角形性に優れた良好な硬磁気特性を
得ることが可能であるが、このような温度で熱処理を行
なった合金では、R2Fe14B型微細結晶相が非磁性の
アモルファス相中に分散して存在していると推定され、
ナノコンポジット磁石の構成は形成されていない。ま
た、更に高い温度で熱処理を行なうと、アモルファス相
中からα−Fe相が析出する。このα−Fe相は、Mを
添加した場合と異なり、析出後、急激に成長し、粗大化
する。このため、α−Fe相の磁化方向が硬磁性相との
交換結合によって有効に拘束されなくなり、減磁曲線の
角形性が大きく劣化してしまうことになる。
【0058】一方、VやCrを添加した場合は、これら
の添加金属がFeに固溶し、反強磁性的に結合するた
め、磁化が大きく低下してしまう。また、VやCrを添
加した場合、熱処理に伴う粒成長が充分に抑制されず、
減磁曲線の角形性が劣化する。
【0059】このようにTiを添加した場合のみ、α−
Fe相の粗大化を適切に抑制し、強磁性の鉄基ホウ化物
相を形成することが可能になる。更に、Tiは、液体急
冷時にFe初晶(後にα−Fe相に変態するγ−Fe)
の晶出を遅らせ、過冷却液体の生成を容易にする元素と
してホウ素や炭素とともに重要な働きをするため、合金
溶湯を急冷する際の冷却速度を102℃/秒〜104℃/
秒程度の比較的低い値にしても、α−Fe相を析出させ
ることなく、R2Fe14B型結晶相とアモルファス相と
が混在する急冷合金を作製することが可能になる。この
ことは、種々の液体急冷法の中から、特に量産に適した
ストリップキャスト法の採用を可能にするため、低コス
ト化にとって重要である。
【0060】合金溶湯を急冷して原料合金を得る方法と
して、ノズルオリフィスによる溶湯の流量制御を行なわ
ずに溶湯をタンディッシュから直接に冷却ロール上に注
ぐストリップキャスト法は生産性が高く、製造コストの
低い方法である。R−Fe−B系希土類合金の溶湯をス
トリップキャスト法によっても達成可能な冷却速度範囲
でアモルファス化するには、通常、B(ホウ素)を10
原子%以上添加する必要がある。このようにBを多く添
加した場合は、急冷合金に対して結晶化熱処理を行った
後も、B濃度の高い非磁性のアモルファス相が金属組織
中に残存し、均質な微細結晶組織が得られない。その結
果、強磁性相の体積比率が低下し、磁化の低下を招来す
る。しかしながら、本発明のようにTiを添加すると、
上述した現象が観察されるため、予想外に磁化が向上す
る。
【0061】[組成の限定理由]Qは、その全量がB
(ホウ素)から構成されるか、または、BおよびC(炭
素)の組み合わせもしくはC単独から構成される。Qの
組成比率xが10原子%以下になると、急冷時の冷却速
度が102℃/秒〜104℃/秒程度と比較的低い場合、
粗大な結晶粒が析出するため、その後に熱処理を施して
も480kA/m未満のHcJしか得られない。また、液
体急冷法の中でも工程費用が比較的安いストリップ・キ
ャスト法を採用できなくなり、永久磁石の価格が上昇し
てしまうことになる。また、Qの組成比率xが20原子
%を超えると、結晶化熱処理後も残存するアモルファス
相の体積比率が増し、同時に、構成相中で最も高い飽和
磁化を有するα−Fe相の存在比率が減少するため、残
留磁束密度Brが低下してしまう。以上のことから、Q
の組成比率は10原子%を超え、20原子%以下の範囲
に設定することが好ましい。
【0062】Rは、LaおよびCeを実質的に含まない
希土類元素である。LaまたはCeが存在すると、保磁
力および角形性が劣化する。ただし、微量のLaやCe
(0.5原子%以下)が不可避的に混入する不純物とし
て存在する場合は問題ない。より具体的には、Rは、P
rまたはNdを必須元素として含むことが好ましく、そ
の必須元素の一部をDyおよび/またはTbで置換して
もよい。Rの組成比率yが全体の6原子%未満になる
と、保磁力の発現に必要なR2Fe14B型結晶構造を有
する化合物相が充分に析出せず、480kA/m以上の
保磁力HcJを得ることができなくなる。また、Rの組成
比率yが10原子%以上になると、強磁性を有する鉄基
ホウ化物相やα−Fe相の存在量が低下し、これらが残
留磁束密度Brの向上に寄与しなくなる結果、0.7T
以上のBrを得ることができなくなる。また、Ti添加
の効果を得るためには、希土類元素Rの組成比率yは6
原子%以上10原子%未満の範囲に調節することが好ま
しい。より好ましいRの範囲は6.5原子%以上9.5
原子%以下であり、更に好ましいRの範囲は7.5原子
%以上9.1原子%以下である。
【0063】MはTiである。Tiは、Ti基ホウ化物
相の生成に必須の元素であり、前述した作用効果を奏
し、それによって保磁力HcJおよび残留磁束密度Br
向上、および減磁曲線の角形性の改善に寄与し、最大エ
ネルギー積(BH)maxを向上させる。
【0064】Tiの組成比率zが全体の0.1原子%未
満になると、Ti基ホウ化物相が生成されず、本発明の
効果が充分に発現しない。一方、Tiの組成比率zが全
体の12原子%を超えると、結晶化熱処理後も残存する
アモルファス相の体積比率が増すため、残留磁束密度B
rの低下を招来する。以上のことから、組成比率zは
0.1原子%以上12原子%以下の範囲とすることが好
ましい。更に好ましいTi濃度の範囲の下限は3原子%
であり、更に好ましいTi濃度の範囲の上限は8.0原
子%である。また、Qの組成比率xが高いほど、Qを過
剰に含むアモルファス相が形成されやすいので、Ti濃
度を高くすることが好ましい。具体的には、z/x≧
0.1を満足させるように組成比率を調節することが好
ましく、z/x≧0.2を満足させることがより好まし
い。
【0065】Feは、上述の元素の含有残余を占める
が、Feの一部をCoおよびNiの一種または二種の遷
移金属元素(T)で置換しても所望の硬磁気特性を得る
ことができる。Feに対するTの置換量が50%を超え
ると、0.7T以上の高い残留磁束密度Brが得られな
い。このため、置換量は0%以上50%以下の範囲に限
定することが好ましい。なお、Feの一部をCoで置換
することによって、保磁力HcJが向上するとともに、R
2Fe14B相のキュリー温度が上昇するため、耐熱性が
向上する。CoによるFe置換量の好ましい範囲は0.
5%以上40%以下である。
【0066】次に、図面を参照しながら、本発明の好ま
しい実施形態を説明する。
【0067】本実施形態では、例えば、図3に示す急冷
装置を用いて原料合金を製造する。酸化しやすい希土類
元素RやFeを含む原料合金の酸化を防ぐため、不活性
ガス雰囲気中で合金製造工程を実行する。不活性ガスと
しては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用
いることができる。なお、窒素は希土類元素Rと比較的
に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希
ガスを用いることが好ましい。
【0068】[液体超急冷装置]図3の装置は、真空ま
たは不活性ガス雰囲気を保持し、その圧力を調整するこ
とが可能な原料合金の溶解室1および急冷室2を備えて
いる。図3(a)は全体構成図であり、図3(b)は、
一部の拡大図である。
【0069】図3(a)に示されるように、溶解室1
は、所望の磁石合金組成になるように配合された原料2
0を高温にて溶解する溶解炉3と、底部に出湯ノズル5
を有する貯湯容器4と、大気の進入を抑制しつつ配合原
料を溶解炉3内に供給するための配合原料供給装置8と
を備えている。貯湯容器4は原料合金の溶湯21を貯
え、その出湯温度を所定のレベルに維持できる加熱装置
(不図示)を有している。
【0070】急冷室2は、出湯ノズル5から出た溶湯2
1を急冷凝固するための回転冷却ロール7を備えてい
る。
【0071】この装置においては、溶解室1および急冷
室2内の雰囲気およびその圧力が所定の範囲に制御され
る。そのために、雰囲気ガス供給口1b、2b、および
8bとガス排気口1a、2a、および8aとが装置の適
切な箇所に設けられている。特にガス排気口2aは、急
冷室2内の絶対圧を真空〜50kPaの範囲内に制御す
るため、ポンプに接続されている。
【0072】溶解炉3は傾動可能であり、ロート6を介
して溶湯21を貯湯容器4内に適宜注ぎ込む。溶湯21
は貯湯容器4内において不図示の加熱装置によって加熱
される。
【0073】貯湯容器4の出湯ノズル5は、溶解室1と
急冷室2との隔壁に配置され、貯湯容器4内の溶湯21
を下方に位置する冷却ロール7の表面に流下させる。出
湯ノズル5のオリフィス径は、例えば0.5〜2.0m
mである。溶湯21の粘性が大きい場合、溶湯21は出
湯ノズル5内を流れにくくなるが、本実施形態では急冷
室2を溶解室1よりも低い圧力状態に保持するため、溶
解室1と急冷室2との間に圧力差が形成され、溶湯21
の出湯がスムーズに実行される。
【0074】冷却ロール7は、Cu、Fe、またはCu
やFeを含む合金から形成することが好ましい。Cuや
Fe以外の材料で冷却ロールを作製すると、急冷合金の
冷却ロールに対する剥離性が悪くなるため、急冷合金が
ロールに巻き付くおそれがあり好ましくない。冷却ロー
ル7の直径は例えば300〜500mmである。冷却ロ
ール7内に設けた水冷装置の水冷能力は、単位時間あた
りの凝固潜熱と出湯量とに応じて算出し、調節される。
【0075】図3に示す装置によれば、例えば合計10
kgの原料合金を10〜20分間で急冷凝固させること
ができる。こうして形成した急冷合金は、例えば、厚
さ:10〜300μm、幅:2mm〜3mmの合金薄帯
(合金リボン)22となる。
【0076】[液体急冷法]まず、前述の組成式で表現
される原料合金の溶湯21を作製し、図3の溶解室1の
貯湯容器4に貯える。次に、この溶湯21は出湯ノズル
5から減圧Ar雰囲気中の水冷ロール7上に出湯され、
水冷ロール7との接触によって急冷され、凝固する。急
冷凝固方法としては、冷却速度を高精度に制御できる方
法を用いる必要がある。
【0077】本実施形態の場合、溶湯21の冷却凝固に
際して、冷却速度を1×102〜1×108℃/秒とする
ことが好ましく、5×103〜1×106℃/秒とするこ
とが更に好ましい。
【0078】合金の溶湯21が冷却ロール7によって冷
却される時間は、回転する冷却ロール7の外周表面に合
金が接触してから離れるまでの時間に相当し、その間
に、合金の温度は低下し、凝固する。その後、凝固した
合金は冷却ロール7から離れ、不活性雰囲気中を飛行す
る。合金は薄帯状で飛行している間に雰囲気ガスに熱を
奪われる結果、その温度は更に低下する。
【0079】本実施形態では、ロール表面速度を4m/
秒以上50m/秒以下の範囲内に調節することによっ
て、Ti基ホウ化物相を含み、それ以外の部分は略アモ
ルファス状態にある急冷合金を作製している。ロール表
面周速度が4m/秒未満では、結晶相が発生・成長する
ため、目的とする鉄基希土類合金磁石特性が得られなく
なるので好ましくない。一方、ロール表面周速度が50
m/秒を超えると、急冷合金全体がアモルファス相とな
るため、後の結晶化熱処理工程を行なう場合、結晶化プ
ロセスが急激に進行し、組織の制御が困難になるため好
ましくない。好ましいロール急冷速度の範囲は5m/秒
以上30m/秒以下であり、より好ましいロール急冷速
度の範囲は7m/秒以上20m/秒以下でる。
【0080】なお、本発明で用いる合金溶湯の急冷法
は、上述の片ロール法に限定されず、双ロール法、ガス
アトマイズ法、ストリップキャスト法、更には、ロール
法とガスアトマイズ法とを組み合わせた冷却法などであ
ってもよい。
【0081】上記急冷法の中でも、ストリップキャスト
法の冷却速度は比較的低く、102〜104℃/秒であ
る。本実施形態では、適切な量のTiを合金に添加する
ことにより、ストリップキャスト法による場合でもFe
初晶を含まない凝固組織が大半を占める急冷合金を形成
することができる。ストリップキャスト法は、工程費用
が他の液体急冷法の半分程度以下であるため、片ロール
法に比べて大量の急冷合金を作製する場合に有効であ
り、量産化に適した技術である。原料合金に対してTi
を添加しない場合や、Tiの代わりにCr、V、Mn、
Mo、Ta、および/またはWを添加した場合には、ス
トリップキャスト法を用いて急冷合金を形成しても、F
e初晶を多く含む金属組織が生成するため、所望の金属
組織を形成することができない。
【0082】[熱処理]本実施形態では、熱処理をアル
ゴン雰囲気中で実行する。好ましくは、昇温速度を5℃
/秒〜20℃/秒として、550℃以上850℃以下の
温度で30秒以上20分以下の時間保持した後、室温ま
で冷却する。この熱処理によって、アモルファス相中に
準安定相の微細結晶が析出・成長し、ナノコンポジット
組織構造が形成される。本発明によれば、Ti基ホウ化
物相の働きにより、α−Fe相よりも先にNd2Fe14
B型結晶相が成長し、α−Fe相の粗大化が防止される
とともに、磁化の高い鉄基ホウ化物相が生成されるた
め、磁石特性が向上する。
【0083】なお、熱処理温度が550℃を下回ると、
2Fe14B型結晶相が析出しないため、保磁力が発現
しない。また、熱処理温度が850℃を超えると、各構
成相の粒成長が著しく、残留磁束密度Brが低下し、減
磁曲線の角形性が劣化する。このため、熱処理温度は5
50℃以上850℃以下が好ましいが、より好ましい熱
処理温度の範囲は570℃以上820℃以下である。
【0084】熱処理雰囲気は、合金の酸化を防止するた
め、50kPa以下のArガスやN 2ガスなどの不活性
ガスが好ましい。0.1kPa以下の真空中で熱処理を
行っても良い。
【0085】熱処理前の急冷合金中には、Ti基ホウ化
物相およびアモルファス相以外に、Fe3B相、Fe23
6相、R2Fe14B相、およびR2Fe233相等の準安
定相が僅かに含まれていても良い。その場合、熱処理に
よって、R2Fe233相は消失し、R2Fe14B相の飽
和磁化と同等、または、それよりも高い飽和磁化を示す
鉄基ホウ化物相(例えばFe236)やα−Fe相を結
晶成長させることができる。
【0086】最終的には、軟磁性相の平均結晶粒径が1
nm以上50nm以下の組織(ナノコンポジット構造)
が得られる。なお、磁気特性向上の観点から、軟磁性相
の平均結晶粒径は5nm以上50nm以下の範囲にある
ことが好ましい。本発明の場合、α−Fe相や鉄基ホウ
化物相のような軟磁性相が存在していても、軟磁性相と
硬磁性相とが交換相互作用によって磁気的に結合するた
め、優れた磁気特性が発揮される。
【0087】なお、熱処理前に急冷合金の薄帯を粗く切
断または粉砕しておいてもよい。
【0088】熱処理後、得られた鉄基希土類合金磁石を
微粉砕し、磁石粉末(磁粉)を作製すれば、その磁粉か
ら公知の工程によって種々のボンド磁石を製造すること
ができる。ボンド磁石を作製する場合、ナノコンポジッ
ト磁粉はエポキシ樹脂やナイロン樹脂と混合され、所望
の形状に成形される。このとき、ナノコンポジット磁粉
に他の種類の磁粉、例えばSm−Fe−N系磁粉やハー
ドフェライト磁粉を混合してもよい。
【0089】上述のボンド磁石を用いてモータやアクチ
ュエータなどの各種の回転機を製造することができる。
【0090】本発明のナノコンポジット磁末を射出成形
ボンド磁石用に用いる場合は、粒度が150μm以下に
なるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末
の平均粒径は1μm以上100μm以下である。また、
圧縮成形ボンド磁石用に用いる場合は、粒度が300μ
m以下になるように粉砕することが好ましく、より好ま
しい粉末の平均粒径は30μm以上250μm以下であ
る。さらに好ましい範囲は50μm以上150μm以下
である。
【0091】(実施例と比較例)まず、下記の表1に示
す組成を有する試料(No.1〜No.6)の各々につ
いて、純度99.5%以上のB、C、Fe、Co、T
i、およびNdの材料を用いて総量が30gグラムとな
るように秤量し、石英るつぼ内に投入した。ここで、試
料No.1〜No.5は本発明の実施例に相当し、試料
No.6は比較例に相当する。
【0092】
【表1】
【0093】表1において、例えば「M」と表示してい
る欄の「Ti8」は、8原子%のTiを添加したことを
示し、「−」の表示は、Tiを添加していないことを示
している。
【0094】溶湯作製に用いた石英るつぼは、底部に直
径0.8mmのオリフィスを有しているため、上記原料
は石英るつぼ内で溶解された後、合金溶湯となってオリ
フィスから下方に滴下することになる。原料の溶解は、
圧力が1.33kPaのアルゴン雰囲気下において高周
波加熱法を用いて行った。本実施例では、溶湯温度を1
500℃に設定した。
【0095】合金溶湯の湯面を26.7kPaのArガ
スで加圧することによって、オリフィスの下方0.7m
mの位置にある銅製ロールの外周面に対して溶湯を噴出
させた。ロールは、その外周面の温度が室温程度に維持
されるように内部が冷却されながら高速で回転する。こ
のため、オリフィスから滴下した合金溶湯はロール周面
に接触して熱を奪われつつ、周速度方向に飛ばされるこ
とになる。合金溶湯はオリフィスを介して連続的にロー
ル周面上に滴下されるため、急冷によって凝固した合金
は薄帯状に長く延びたリボン(幅:2〜3mm、厚さ:
20〜50μm)の形態を持つことになる。
【0096】本実施例で採用する回転ロール法(単ロー
ル法)の場合、冷却速度はロール周速度および単位時間
当たりの溶湯流下量によって規定される。この溶湯流下
量は、オリフィス径(断面積)と溶湯圧力とに依存す
る。本実施例では、オリフィスを直径0.8mm、溶湯
圧力を26.7kPa、流下レートを約0.5〜1kg
/分とした。
【0097】本実施例では、表1に示すように、ロール
速度(ロール表面速度Vs)を設定した。
【0098】このようにして行った液体急冷法によって
作製された急冷合金の組織をCuKαの特性X線によっ
て調べたところ、いずれの試料もアモルファス相が大半
を占める合金であることを確認した。透過電子顕微鏡写
真に基づいて確認したところ、急冷凝固合金中にはアモ
ルファス相と結晶相(TIB2相)とが混在した組織が
形成されていた。
【0099】次に、No.1〜No.8の急冷合金をA
rガス中で熱処理した。具体的には、表1の最右欄に示
す熱処理温度で各急冷合金を6分間保持した後、室温ま
で冷却した。その後、振動型磁力計を用いて各試料の磁
気特性を測定した。下記の表2は、この測定結果を示し
ている。
【0100】
【表2】
【0101】表2からわかるように、実施例の磁気特性
は、比較例の磁気特性に比較して極めて優れたものであ
った。
【0102】図4は、No.1(実施例)およびNo.
6の試料(比較例)の減磁曲線を示している。図4に示
されるグラフの縦軸は磁化を示し、横軸は減磁界Hの強
度を示している。図4からわかるように、実施例の減磁
曲線の角形性は比較例の角形性に比較して極めて良好で
ある。比較例の場合、α−Fe相の結晶粒径が大きいた
めに角形性が劣化しているものと考えられる。図5およ
び図6は、それぞれ、No.1(実施例)およびNo.
6の試料(比較例)の熱処理前後におけるX線回折パタ
ーンを示している。
【0103】図5からわかるように、Tiを添加した実
施例の場合、熱処理前(as−spun)における合金
では結晶性を示す回折ピークはほとんど観察されない
が、透過電子顕微鏡観察によれば、前述のようにTiB
2が析出している。660℃で6分間の熱処理を行なっ
た後には、Nd2Fe14B型結晶構造を持つ化合物相の
生成を示す回折ピークが観察されている。このとき、α
−Fe相の回折ピークも観察されているが、その強度は
大きくない。熱処理温度が780℃の場合は、α−Fe
相の回折ピークの強度が相対的に増加しており、α−F
e相の結晶化温度はNd2Fe14Bの結晶化温度よりも
高いと推定される。
【0104】これに対し、Tiを添加していない場合、
図6に示されるように、660℃で6分間の熱処理を行
なった後、Nd2Fe14B型結晶構造を持つ化合物相の
生成を示す回折ピークは観察されず、α−Fe相の回折
ピークが明確に観察された。このことは、Nd2Fe14
B相の結晶化よりも先にα−Fe相が析出・成長してい
ることを示している。熱処理温度が780℃の場合、α
−Fe相の回折ピークの強度が非常に強くなり、α−F
e相の粗大化が生じている。
【0105】図7および図8は、試料No.3の合金の
透過電子顕微鏡写真である。図7(a)は、急冷凝固後
における合金中のTiB2相を示し、図7(b)は、6
00℃6分の熱処理後における合金中のTiB2相を示
している。図8(a)は、上記の熱処理後における合金
中のTiB2相の周囲近傍の結晶相を示し、図8(b)
は、上記の熱処理後における合金中のTiB2相から離
れた領域の結晶相を示している。
【0106】図7および図8からわかるように、結晶化
熱処理前からTiB2相が存在し、結晶化熱処理後は、
TiB2相の周囲近傍領域に粒径の比較的小さい結晶相
が形成され、TiB2相から離れた領域に粒径の比較的
に大きな結晶相が形成されている。
【0107】
【発明の効果】本発明によれば、急冷凝固合金中にTi
基ホウ化物相を生成することにより、必要な希土類元素
の量を低減しながら、R2Fe14B型化合物相の体積比
率を増大させることによって保磁力を高め、しかも、磁
化の高い強い強磁性相を形成することによって残留磁束
密度を充分に向上させた鉄基希土類合金磁石が提供され
る。
【0108】また、本発明によれば、Tiを原料合金に
添加することより、液体急冷法を用いて急冷合金を作製
する際に、比較的遅い冷却速度でもα−Fe相の析出を
抑制することができるため、液体急冷工程時のα−Fe
相の生成が抑制され、減磁曲線の角形性が良好なものと
なる。また、ストリップキャスト法のように、比較的冷
却速度が遅く、量産化に適した液体急冷法を用いること
が可能になるため、製造コストの低減に極めて有効であ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による急冷凝固合金の組織を示してお
り、右側部分は、結晶化熱処理前(as−spun)に
おける合金の組織構造を示し、左側部分は結晶化熱処理
後の合金の組織構造を示している。
【図2】(a)は、アモルファス相中にTi基ホウ化物
相が形成されている状態を示す模式的断面図であり、
(b)は、図示されている領域のTi濃度およびホウ素
濃度の分布を模式的に示すグラフであり、(c)は、同
領域のNd濃度およびFe濃度の分布を模式的に示すグ
ラフである。
【図3】(a)は、本発明による鉄基希土類合金磁石の
ための急冷合金を製造する方法に用いる装置の全体構成
例を示す断面図であり、(b)は急冷凝固が行われる部
分の拡大図である。
【図4】No.1(実施例)およびNo.6の試料(比
較例)の減磁曲線を示すグラフである。
【図5】No.1(実施例)の熱処理前後におけるX線
回折パターンを示すグラフである。
【図6】No.6の試料(比較例)の熱処理前後におけ
るX線回折パターンを示すグラフである。
【図7】本発明の実施例について、結晶化熱処理前後に
おけるTiB2相を示す透過電子顕微鏡写真である。
(a)は急冷凝固後における合金中のTiB2相を示
し、(b)は600℃6分の熱処理後における合金中の
TiB2相を示している。
【図8】本発明の実施例について、結晶化熱処理後の合
金組織を示す透過電子顕微鏡写真である。(a)は60
0℃6分の結晶化熱処理後における合金中のTiB2
の周囲近傍の結晶相を示し、(b)は上記結晶化熱処理
後における合金中のTiB2相から離れた領域の結晶相
を示している。
【符号の説明】
1b、2b、8b、および9b 雰囲気ガス供給口 1a、2a、8a、および9a ガス排気口 1 溶解室 2 急冷室 3 溶解炉 4 貯湯容器 5 出湯ノズル 6 ロート 7 回転冷却ロール 21 溶湯 22 合金薄帯
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C22C 38/00 303 C22C 45/02 A 45/02 H01F 1/08 A H01F 1/06 1/04 H 1/08 1/06 A Fターム(参考) 4E004 DB02 TA01 TA03 4K017 AA04 BA06 BB06 BB12 BB13 DA04 EA03 EK01 4K018 AA27 BB07 BC01 BD01 KA46 5E040 AA03 AA04 AA19 BB04 BB05 BD00 CA01 HB07 HB11 NN01 NN06 NN12 NN13

Claims (22)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-zx
    yz(TはCoおよびNiからなる群から選択された1
    種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択され
    た1種以上の元素、RはLaおよびCeを含まない1種
    以上の希土類金属元素、MはTi)で表現され、組成比
    率x、y、z、およびmが、それぞれ、 10<x≦20原子%、 6≦y<10原子%、 0.1≦z≦12原子%、および 0≦m≦0.5 を満足し、R2Fe14B型化合物相、強磁性相、および
    Ti基ホウ化物相を含有する鉄基希土類合金磁石。
  2. 【請求項2】 前記強磁性相の平均サイズは1nm以上
    100nm以下の範囲内にある請求項1に記載の鉄基希
    土類合金磁石。
  3. 【請求項3】 前記強磁性相は、鉄基ホウ化物相および
    α−Fe相を含む請求項1または2に記載の鉄基希土類
    合金磁石。
  4. 【請求項4】 前記鉄基ホウ化物相は、Fe3Bおよび
    /またはFe236を含んでいることを特徴とする請求
    項3に記載の鉄基希土類合金磁石。
  5. 【請求項5】 組成比率xおよびzが、それぞれ、13
    ≦x≦20原子%および3.0≦z≦12原子%を満足
    する請求項1から4のいずれかに記載の鉄基希土類合金
    磁石。
  6. 【請求項6】 前記Ti基ホウ化物相がTiB2を含ん
    でいることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記
    載の鉄基希土類合金磁石。
  7. 【請求項7】 組成比率xおよびzが、z/x≧0.1
    を満足する請求項1から6のいずれかに記載の鉄基希土
    類合金磁石。
  8. 【請求項8】 前記Rの組成比率yが9.5原子%以下
    であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記
    載の鉄基希土類合金磁石。
  9. 【請求項9】 前記Rの組成比率yが9.1原子%以下
    であることを特徴とする請求項8に記載の鉄基希土類合
    金磁石。
  10. 【請求項10】 厚さが10μm以上300μm以下の
    薄帯形状を有している請求項1から9のいずれかに記載
    の鉄基希土類合金磁石。
  11. 【請求項11】 粉末化されている請求項1から9のい
    ずれかに記載の鉄基希土類合金磁石。
  12. 【請求項12】 粉末粒子の平均粒径が30μm以上2
    50μm以下である請求項11に記載の鉄基希土類合金
    磁石。
  13. 【請求項13】 保磁力HcJ≧480kA/m、残留磁
    束密度Br≧0.7T(テスラ)の硬磁気特性を有する
    請求項1から12のいずれかに記載の鉄基希土類合金磁
    石。
  14. 【請求項14】 請求項11または12に記載された鉄
    基希土類合金磁石の粉末を含む磁石粉末を樹脂で成形し
    たボンド磁石。
  15. 【請求項15】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-zx
    yz(TはCoおよびNiからなる群から選択された
    1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択さ
    れた1種以上の元素、RはLaおよびCeを含まない1
    種以上の希土類金属元素、MはTi)で表現され、組成
    比率x、y、zおよびmが、それぞれ、 10<x≦20原子%、 6≦y<10原子%、 0.1≦z≦12原子%、および 0≦m≦0.5 を満足する合金の溶湯を作製する工程と、前記合金の溶
    湯を急冷することによって、少なくともTi基ホウ化物
    相およびアモルファス相が混在する急冷合金を作製する
    急冷工程と、前記急冷合金を結晶化し、それによって、
    2Fe14B型化合物相、強磁性相、およびTi基ホウ
    化物相を含有し、前記強磁性相の平均サイズが1nm以
    上100nm以下の範囲内にある組織を形成する工程と
    を包含する鉄基希土類合金磁石の製造方法。
  16. 【請求項16】 Fe、Q(QはBおよびCからなる群
    から選択された1種以上の元素)、R(Rは希土類元
    素)、およびTiを含有する合金溶湯を作製する工程
    と、 前記合金溶湯を冷却し、Ti基ホウ化物相およびアモル
    ファス相を含む凝固合金を作製する工程と、 前記凝固合金を加熱することによって、R2Fe14B型
    結晶構造を持つ化合物相結晶相を成長させ、その後に、
    α−Fe相結晶相の成長を開始させる工程と、を包含す
    る鉄基希土類合金磁石の製造方法。
  17. 【請求項17】 ストリップキャスト法を用いて前記合
    金の溶湯を冷却する請求項15または16に記載の鉄基
    希土類合金磁石の製造方法。
  18. 【請求項18】 請求項15から17のいずれかに記載
    の製造方法によって作製された磁石粉末を用意する工程
    と、 前記磁石粉末を用いてボンド磁石を作製する工程とを包
    含するボンド磁石の製造方法。
  19. 【請求項19】 組成式が(Fe1-mm100-x-y-zx
    yz(TはCoおよびNiからなる群から選択された
    1種以上の元素、QはBおよびCからなる群から選択さ
    れた1種以上の元素、RはLaおよびCeを含まない1
    種以上の希土類金属元素、MはTi)で表現され、組成
    比率x、y、zおよびmが、それぞれ、 10<x≦20原子%、 6≦y<10原子%、 0.1≦z≦12原子%、および 0≦m≦0.5 を満足し、Ti基ホウ化物相およびアモルファス相を含
    む鉄基希土類合金磁石用急冷合金。
  20. 【請求項20】 Fe、Q(QはBおよびCからなる群
    から選択された1種以上の元素)、R(Rは希土類元
    素)、およびTiを含有する合金溶湯を冷却することに
    よって作製され、Ti基ホウ化物相およびアモルファス
    相を含み、熱処理によってα−Fe相結晶相の成長開始
    より先にR2Fe14B型結晶構造を持つ化合物相結晶相
    が成長する組織を有している鉄基希土類合金磁石用急冷
    合金。
  21. 【請求項21】 請求項20に記載の鉄基希土類合金磁
    石用急冷合金を加熱することによって作製された鉄基希
    土類合金磁石。
  22. 【請求項22】 R2Fe14B型化合物相、鉄基ホウ化
    物相、α−Fe相、およびTi基ホウ化物相が同一組織
    内に混在している鉄基希土類合金磁石。
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