JP4036410B2 - 電子放出素子とその製造方法と電子源及び画像形成装置 - Google Patents
電子放出素子とその製造方法と電子源及び画像形成装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP4036410B2 JP4036410B2 JP04919299A JP4919299A JP4036410B2 JP 4036410 B2 JP4036410 B2 JP 4036410B2 JP 04919299 A JP04919299 A JP 04919299A JP 4919299 A JP4919299 A JP 4919299A JP 4036410 B2 JP4036410 B2 JP 4036410B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- electron
- emitting device
- surface conduction
- manufacturing
- thin film
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Landscapes
- Electrodes For Cathode-Ray Tubes (AREA)
- Cathode-Ray Tubes And Fluorescent Screens For Display (AREA)
- Cold Cathode And The Manufacture (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷陰極型等の電子放出素子とその製造方法及び、該電子放出素子を用いた電子源、該電子源を用いた画像形成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電子放出素子としては大別して熱陰極電子放出素子と冷陰極電子放出素子を用いた2種類のものが知られている。冷陰極電子放出素子には電界放出型(以下、「FE型」という。)、金属/絶縁層/金属型(以下、「MIM型」という。)や、表面伝導型電子放出素子等がある。FE型の例としてはW.P.Dyke & W.W.Dolan,“Field emission",Advance in Electron Physics,8,89(1956)あるいはC.A.Spindt,“"Physical Properties of thin-film field emission cathodes with molybdenium cones",J.Appl.Phys.,47,5248(1976)等に開示されたものが知られている。
【0003】
MIM型の例としてはC.A.Mead,“Operation of Tunnel-Emission Devices",J.Apply.Phys.,32,646(1961)等に開示されたものが知られている。
【0004】
また、表面伝導型電子放出素子型の例としては、M.I.Elinson,Radio Eng.Electron Phys.,10,1290,(1965)等に開示されたものがある。
【0005】
表面伝導型電子放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより、電子放出が生ずる現象を利用するものである。この表面伝導型電子放出素子としては、前記エリンソン等によるSnO2 薄膜を用いたもの、Au薄膜によるもの[G.Ditmmer,Thin Solid Films,9,317(1972)]、In2 O3 /SnO2 薄膜によるもの[M.Hartwell and C.G.Fonsted,IEEE Trans.ED Conf.,519(1975)]、カーボン薄膜によるもの[荒木久 他:真空、第26巻、第1号、22頁(1983)]等が報告されている。
【0006】
これらの表面伝導型電子放出素子の典型的な例として、前述のM.ハートウェルの素子構成を図13に模式的に示す。同図において、1は絶縁性基板である。また、4は導電性薄膜で、H型形状のパターンに、スパッタで形成された金属酸化物薄膜等からなり、後述の通電フォーミングと呼ばれる通電処理により電子放出部5が形成される。尚、図中の素子電極間隔Lは、0.5〜1mm、Wは、0.1mmで設定されている。
【0007】
従来、これらの表面伝導型電子放出素子においては、電子放出を行う前に導電性薄膜4を予め通電フォーミングと呼ばれる通電処理によって電子放出部5を形成するのが一般的であった。即ち、通電フォーミングとは前記導電性薄膜4の両端に直流電圧あるいは非常にゆっくりとした昇電圧例えば1V/分程度を印加通電し、導電性薄膜4を局所的に破壊、変形もしくは変質せしめ、電気的に高抵抗な状態にした電子放出部5を形成することである。尚、電子放出部5は導電性薄膜4の一部に亀裂が発生し、その亀裂付近から電子放出が行われる。前記通電フォーミング処理をした表面伝導型電子放出素子は、上述導電性薄膜4に電圧を印加し、電子放出素子に電流を流すことにより、上述電子放出部5より電子を放出せしめるものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
電子放出素子については、電子放出素子を適用した画像形成装置が、明るい表示画像を安定して提供できるよう、更に安定な電子放出特性及び電子放出の効率向上が要望されている。ここでの効率は、表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極に電圧を印加した際に、両電極間を流れる電流(以下、「素子電流」という。)と、真空中に放出される電流(以下、「電子放出電流」という。)との比で評価されるものであり、効率のよくするために、素子電流が小さく、放出電流が大きい電子放出素子が望まれている。
【0009】
ここで、安定的に制御し得る電子放出特性と効率の向上がなされれば、例えば蛍光体を形成した画像形成部材とする画像形成装置においては、低電流で明るい高品位な画像形成装置、例えばフラットテレビが実現できる。また、低電流化にともない、画像形成装置を構成する駆動回路等のローコスト化も図れる。
【0010】
しかしながら、上述のM.ハートウェルの電子放出素子にあっては、安定な電子放出特性及び電子放出効率について、必ずしも満足のゆくものが得られておらず、これを用いて高輝度で動作安定性に優れた画像形成装置を提供するのは極めて難しいというのが実状である。
【0011】
従って、上記のような応用に用いられる電子放出素子、特に表面伝導型電子放出素子は、実用的な印加電圧に対して良好な電子放出特性を有し、長時間にわたって、その特性を保持し続けられることが必要である。
【0012】
本出願人等は、詳細な検討の結果、電子放出素子、特に表面伝導型電子放出素子の素子電流の最大到達値は、電子放出部が形成される領域と絶縁性基板とが接触する領域の材料によって変化し、例えばアルミナ(Al2 O3 )のように酸化物1モルあたりの生成自由エネルギーの大きな酸化物材料を含む割合が多い硝子材料(基板材料)が、電子放出部の下地にある場合は、表面伝導型電子放出素子の素子電流の最大到達値が低く、その結果電子放出量が小さいために輝度が低下することがわかった。
【0013】
本発明は、上記問題を鑑み、良好な電子放出特性と電子放出電流の増加による高輝度を実現する電子放出素子、特に表面伝導型電子放出素子の構成とそれを用いた電子源及び画像形成装置を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述した課題を解決するために鋭意検討を行って成されたものであり、下述する構成のものである。
【0015】
即ち、本発明の電子放出素子の製造方法は、絶縁性基板上に形成された対向する一対の素子電極と、前記一対の素子電極間に形成された電子放出部を有する導電性薄膜とを備えた表面伝導型電子放出素子の製造方法であって、
絶縁性基板上に、炭素により還元される金属酸化物とSiO 2 とを含む層を形成する工程と、
前記層上に導電性薄膜を形成する工程と、
前記導電性薄膜に通電処理を行い、前記導電性薄膜に電子放出部を形成する工程と、
前記電子放出部が形成された前記導電性薄膜上に炭素又は炭素化合物を堆積させる工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
上記本発明の電子放出素子の製造方法において、前記金属酸化物は、その1モルあたりの標準生成自由エネルギーの値が同一温度のSiO 2 の1モルあたりの標準生成自由エネルギーの値よりもその絶対値が小さいことが望ましい。
【0019】
上記本発明の電子放出素子の製造方法において、前記金属酸化物は、Cs2O、K2O、Na2O、Cu2O、BaO、CaO、MgO、SrO、PbO、NiO、SnO、CoO、Cr2O3、In2O3、Fe2O3、WO2、MnO2 から選ばれる酸化物であることが望ましい。
【0022】
本発明の電子源の製造方法は、入力信号に応じて電子を放出する電子源の製造方法であって、前記絶縁性基板上に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面伝導型電子放出素子の製造方法により表面伝導型電子放出素子を複数個配置したことを特徴とする。
【0024】
上記本発明の電子源の製造方法において、前記絶縁性基板に配置した互いに電気的に絶縁されたm本のX方向配線とn本のY方向配線とに、前記表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極とを接続した前記表面伝導型電子放出素子を複数個配列することが望ましい。
【0025】
本発明の画像形成装置の製造方法は、入力信号に基いて画像を形成する画像形成装置の製造方法であって、少なくとも、前記絶縁性基板に対向する蛍光膜を備えた画像形成部材と、上記本発明の電子源の製造方法により形成された電子源とを対向配置することを特徴とする。
【0028】
本発明の表面伝導型電子放出素子によれば、安定した電子放出特性を長時間にわたって保持し得る電子放出素子を実現できる。
【0029】
更に、本発明の画像形成装置によれば、長時間にわたり安定で良好で画像を形成できる。
【0030】
以下、本発明を説明する。
【0031】
本出願人が各種酸化物を下地基板に用いた検討によると、素子電流If及び電子放出電流Ieを増加させる下地基板としてはCs2 O,K2 O,Na2 O,Cu2 O,BaO,CaO,MgO,SrO,PbO,NiO,SnO,CoO,Cr2 O3 ,In2 O3 ,Fe2 O3 ,WO2 ,MnO2 の単一酸化物あるいはシリカ(SiO2 )との複合酸化物であった。
【0032】
これらの材料は以下の式に示すように、金属酸化物(Mx Oy )カーボン(C)によって容易に還元が進行する材料であることが分かった。
【0033】
Mx Oy +yC≧xM+yCO
さらに本出願人による詳細な検討によると、これらの材料はある特定の温度で比較すると、上記反応における反応の標準生成自由エネルギー変化が、シリカ(SiO2 )の反応の標準生成自由エネルギー変化より小さく、その変化量の絶対値が小さい材料ほど素子電流が大きいことがわかった。これは素子電流を得るための処理(活性化と呼ぶ)において上記酸化物の還元のされやすさが関与していることを示している。
【0034】
特に後述する活性化行程は炭素あるいは炭素化合物の堆積であることが確認されているが、この時に上記反応式に示されるような基板の酸化物と炭素との還元反応が同時に進行していることが考えられる。この炭素あるいは炭素化合物の堆積と、還元反応によって形成される炭素あるいは炭素化合物の形態が還元されやすい酸化物材料を用いることで従来より素子電流を増大させる構成をとりうることが予想される。
【0035】
またこれらの材料は、単一組成の酸化物で用いてもよいが、むしろシリカ(SiO2 )との複合酸化物を用いた方が輝度、寿命、安定性に優れる場合もあった。
【0036】
【発明の実施の形態】
次に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0037】
本発明を適用し得る表面伝導型電子放出素子の基本的構成には大別して、平面型及び垂直型の2つがある。
【0038】
(平面型表面伝導型電子放出素子)
まず、平面型表面伝導型電子放出素子について説明する。
【0039】
図1は、本発明を適用可能な平面型表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は断面図である。
【0040】
図1において、1は絶縁性基板、2と3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部、6は酸化物被膜である。
【0041】
絶縁性基板1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少したガラス、青板ガラス、青板ガラスにスパッタ法等により形成したSiO2 を積層したガラス基板及びアルミナ等のセラミックス及びSi基板等を用いることができる。
【0042】
対向する素子電極2,3の材料としては、一般的な導体材料を用いることができる。これは例えばNi,Cr,Au,Mo,W,Pt,Ti,Al,Cu,Pd等の金属或は合金、及びPd,Ag,Au,RuO2 ,Pd−Ag等の金属或は金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体、In2 O3 −SnO2 等の透明導電体、及びポリシリコン等の半導体導体材料等から適宜選択することができる。
【0043】
素子電極間隔L、素子電極長さW、導電性薄膜4の形状等は、応用される形態等を考慮して、設計される。素子電極間隔Lは、好ましくは、数千オングストロームから数百マイクロメートルの範囲とすることができ、より好ましくは、素子電極間に印加する電圧等を考慮して、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの範囲とすることができる。
【0044】
素子電極長さWは、電極の抵抗値、電子放出特性を考慮して、数マイクロメートルから数百マクロメートルの範囲とすることができる。素子電極2,3の膜厚dは、数百オングストロームから数マイクロメートルの範囲とすることができる。
【0045】
尚、図1に示した構成順の絶縁性基板1上に、酸化物被膜6、対向する素子電極2,3、導電性薄膜4の順であるだけでなく、絶縁性基板1上に、導電性薄膜4、対向する素子電極2,3、酸化物被膜6の順や、絶縁性基板1上に、導電性薄膜4、酸化物被膜6、対向する素子電極2,3の順に積層した構成とすることもできる。
【0046】
導電性薄膜4には、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜を用いるのが好ましい。その膜厚は、素子電極2,3へのステップカバレージ、素子電極2,3間の抵抗値及び後述するフォーミング条件等を考慮して適宜設定される。一般に、導電性薄膜4の熱的安定性は電子放出特性の寿命を支配する重要なパラメータであり、導電性薄膜4の材料としてより高融点な材料を用いるのが望ましい。しかしながら、通常、導電性薄膜4の融点が高いほど後述する通電フォーミングが困難となり、電子放出部形成のためにより大きな電力が必要となる。さらに、その結果得られる電子放出部は、電子放出し得る印加電圧(しきい値電圧)が上昇するという問題が生じる場合がある。
【0047】
本発明においては、導電性薄膜4の材料として特に高融点のものを必要とはせず、比較的低いフォーミング電力で良好な電子放出部が形成可能な材料・形態のものを選ぶことができる。
【0048】
上記条件を満たす材料の例として、Ni,Au,PdO,Pd,Pt等の導電材料をRs(シート抵抗)が102 から107 Ω/□の抵抗値を示す膜厚で形成したものが好ましく用いられる。なおシート抵抗Rsは、厚さがt、幅がwで長さがlの薄膜の抵抗Rを、R=(Rs(l/w))とおいたときの値である。上記抵抗値を示す膜厚はおよそ5ナノメートルから50ナノメートルの範囲にあり、この膜厚範囲において、それぞれの材料の薄膜は微粒子膜の形態を有している。ここで述べる微粒子膜とは、複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造は、微粒子が個々に分散配置した状態あるいは微粒子が互いに隣接、あるいは重なり合った状態(いくつかの微粒子が集合し、全体として島状構造を形成している場合も含む)をとっている。微粒子の粒径は、0.数nmから数百nmの範囲、好ましくは、1nmから20nmの範囲である。
【0049】
なお、本明細書では頻繁に「微粒子」という言葉を用いるので、その意味について説明する。
【0050】
小さな粒子を「微粒子」と呼び、これよりも小さなものを「超微粒子」と呼ぶ場合がある。「超微粒子」よりもさらに小さく原子の数が数百個程度以下のものを「クラスター」と呼ぶことは広く行われている。
【0051】
しかしながら、それぞれの境界は厳密なものではなく、どのような性質に注目して分類するかにより変化する。また「微粒子」と「超微粒子」を一括して「微粒子」と呼ぶ場合もあり、本明細書中での記述はこれに沿ったものである。
【0052】
例えば、「実験物理学講座14 表面・微粒子」(木下是雄 編、共立出版 1986年9月1日発行)では次のように記述されている。
【0053】
「本稿で微粒子と言うときにはその直径がだいたい2〜3μm程度から10nm程度までとし、特に超微粒子というときは粒径が10nm程度から2〜3nm程度までを意味することにする。両者を一括して単に微粒子と書くこともあってけっして厳密なものではなく、だいたいの目安である。粒子を構成する原子の数が2個から数十〜数百個程度の場合はクラスターと呼ぶ。」(195ページ 22〜26行目)
付言すると、新技術開発事業団の“林・超微粒子プロジェクト”での「超微粒子」の定義は、粒径の下限はさらに小さく、次のようなものであった。
【0054】
「創造科学技術推進制度の“超微粒子プロジェクト”」(1981〜1986)では、粒子の大きさ(径)がおよそ1〜100nmの範囲のものを“超微粒子”(ultra fine particle)と呼ぶことにした。すると1個の超微粒子はおよそ100〜108個くらいの原子の集合体ということになる。原子の尺度でみれば超微粒子は大〜巨大粒子である。」(「超微粒子−創造科学技術−」林主税、上田良二、田崎明 編;三田出版 1988年 2ページ1〜4行目)「超微粒子よりさらに小さいもの、すなわち原子が数個〜数百個で構成される1個の粒子は、ふつうクラスターと呼ばれる」(同書2ページ12〜13行目)
上記のような一般的な呼び方をふまえて、本明細書において「微粒子」とは多数の原子・分子の集合体で、粒径の下限は0.数nm〜1nm程度、上限は数μm程度のものを指すこととする。
【0055】
さて、前に例示した導電性薄膜4の材料のなかでも、PdOは、有機Pd化合物の大気中焼成により、容易に薄膜形成できること、半導体であるため比較的電気伝導度が低く、上記範囲のシート抵抗の抵抗値Rsを得るための膜厚のプロセスマージンが広いこと、電子放出部形成後、容易に還元して金属Pdとすることができるので、膜抵抗を低減し、耐熱性も上昇すること、等から好適な材料である。しかしながら、本発明の効果はPdOに限られることなく、また、上記例示した材料に限られるものではない。
【0056】
つぎに、電子放出部5は、導電性薄膜4の一部に形成された高抵抗の亀裂により構成され、導電性薄膜4の膜厚、膜質、材料及び後述する通電フォーミング等の手法等に依存したものとなる。電子放出部5の内部には、0.数nmから数十nmの範囲の粒径の導電性微粒子が存在する場合もある。この導電性微粒子は、導電性薄膜4を構成する材料の元素の一部、あるいは全ての元素を含有するものとなる。電子放出部5及びその近傍の導電性薄膜4には、後述する活性化工程を経た場合、炭素及び炭素化合物を有する。この炭素及び炭素化合物の役割については、導電性薄膜4の一部として機能し、また、電子放出部5を構成する物質として電子放出特性を支配することが分かっているが、詳細は明らかではない。
【0057】
前述したとおり、酸化物被膜6は、単一金属元素の酸化物に限らず、複数の金属元素を含む複合酸化物であってもよい。
【0058】
例えば、K2 O,Na2 O,Cs2 Oは、絶対温度700K〜2000Kの範囲で標準生成自由エネルギーの値が、シリカの生成自由エネルギーの絶対値より小さいため、電子放出部を形成する材料としては標準生成自由エネルギーの値が、用いる酸化物より大きな材料、例えばC,Si,Al,Ti,Zrで容易に還元することが可能である。特にC(カーボン)は反応に伴う酸化生成物がCOガスであるため、反応界面において固体の酸化物をつくらない。このため界面反応を持続させることができるだけでなく、カーボンが金属、酸化物を固溶しづらいため、すぐに還元生成物をその表面上に析出するので、電子放出部形成材料としてきわめて理想的な材料として特記しておく。
【0059】
また、酸化物被膜6に用いる前述のK2 O,Na2 O,Cs2 Oなどの標準生成自由エネルギーの値が、シリカの生成自由エネルギーの絶対値より小さい材料の多くは、大気中の水分と反応し、潮解性を持つものが多く、単一組成で使用するには困難なものが多い。このためこれらの材料を用いる場合は、混合酸化膜(母材+金属酸化物)の構成で用いる方がより望ましい。この時の望ましい母材としては、シリカ(SiO2 )、アルミナ(Al2 O3 )、マグネシア(MgO)等の材料があげられる。
【0060】
一方、例えばTiO,ZrO,Al2 O3 等の標準生成自由エネルギーがきわめて大きい材料を、単一組成の酸化物として用いる場合は、前記C,Si,Al等では容易に還元できない。例えばAl2 O3 は、炭素Cで還元するには絶対温度約2000K必要であり、実際にこの温度に反応界面の温度を上げることは実用的ではない。
【0061】
本目的である電子源の素子電流向上の目的では、アルカリ金属(1A族)、アルカリ土類金属(2A族)、6A族、7A族、8族、1B族、2B族及びSn,Pb,Sb,Bi,Pの単一組成酸化物あるいは前記酸化物が望ましい。
【0062】
これらの酸化物は、スパッタ等の真空蒸着手法を用いて、基板1上に形成する手法が一般的であるが、さらに簡便な方法として、アルコキシド系の化合物やスピンコート材料を用いて焼成により酸化物をつくる方法がある。
【0063】
(垂直型表面伝導型電子放出素子)
次に、垂直型表面伝導型電子放出素子について説明する。
【0064】
図2は、本発明の表面伝導型電子放出素子を適用できる垂直型表面伝導型電子放出素子の一例を示す模式図である。
【0065】
図2においては、図1に示した部位と同じ部位には図1に付した符号と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図において、21は絶縁材の段さ形成部である。また、基板1、素子電極2及び3、導電性薄膜4、電子放出部5、酸化物被膜6は、前述した平面型表面伝導型電子放出素子の場合と同様の材料で構成することができる。段さ形成部21は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成されたSiO2 等の絶縁性材料で構成することができる。段さ形成部21の膜厚は、先に述べた平面型表面伝導型電子放出素子の素子電極間隔Lに対応し、数100nmから数十μmの範囲とすることができる。この段さ形成部21の膜厚は、段さ形成部21の製法、及び、素子電極間に印加する電圧を考慮して設定されるが、数10nmから数μmの範囲が好ましい。
【0066】
また、導電性薄膜4は、素子電極2及び3と段さ形成部21の作成後に、該素子電極2,3の上に積層される。電子放出部5は、図2においては、段さ形成部21に形成されているが、作成条件、フォーミング条件等に依存し、形状、位置ともこれに限られるものでない。
【0067】
上述の表面伝導型電子放出素子の製造方法としては様々な方法があるが、その一例を図3に模式的に示す。
【0068】
以下、図1及び図3を参照しながら製造方法の一例について説明する。図3においても、図1に示した部位と同じ部位には図1に付した符号と同一の符号を付し、重複する説明を省略している。
【0069】
(1)絶縁性基板1を、洗剤、純水及び有機溶剤等を用いて十分に洗浄し、基板1に、スパッタ蒸着法により酸化物被膜6を形成する(図3(a))。なお、形成された酸化物被膜6は金属酸化物を主成分とし、一部炭酸塩や水酸化物を含むこともある。しかしながら、一般に炭酸塩や水酸化物は加熱された場合、酸化物に変化し、最終的な融点(ないし昇華点)は酸化物の状態で決まるため、特に問題になることはない。また、酸化物薄膜6の形成法は、スパッタ蒸着法に限るものではなく、他の真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、CVD法等、アルコキシド系塗布材によって形成される場合もある。
【0070】
(2)ホトリソグラフィ技術によって、適当にパターニングを行い、素子電極2,3を蒸着法にて形成し、この基板1に、有機金属溶液を塗布して、有機金属薄膜を形成する。有機金属溶液には、前述の導電性膜4の材料の金属を主元素とする有機金属化合物の溶液を用いることができる。有機金属薄膜を加熱焼成処理し、リフトオフ、エッチング等によりパターニングし、導電性薄膜4を形成する(図3(b))。ここでは、有機金属溶液の塗布法を挙げて説明したが、導電性薄膜4の形成法はこれに限られるものでなく、真空蒸着法、スパッタ法、化学的気相堆積法、分散塗布法、ディッピング法、スピンナー法等を用いることもできる。
【0071】
(3)続いて、フォーミング工程を施す。このフォーミング工程の方法の一例として、通電フォーミング処理による方法を説明する。素子電極2,3間に、不図示の電源を用いて、通電を行うと、導電性薄膜4の部位に、構造の変化した電子放出部5が形成される(図3(c))。通電フォーミングによれば導電性薄膜4に局所的に破壊、変形もしくは変質等の構造の変化した部位が形成される。該部位が電子放出部5を構成する。また、通電フォーミング前に酸化物被膜6を形成した場合は、同時に酸化物被膜6も局所的に破壊、変形もしくは変質等の構造の変化を起こす場合がある。
【0072】
通電フォーミングの際の素子電極2,3への印加電圧波形の例を図4に示す。
【0073】
電圧波形は、パルス波形が、好ましい。これにはパルス波高値を定電圧としたパルスを連続的に印加する図4(a)に示した波形電圧を印加する手法と、パルス波高値を増加させながら、電圧パルスを印加する図4(b)に示した波形電圧を印加する手法がある。
【0074】
図4(a)におけるT1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔である。通常T1は1マイクロ秒〜10ミリ秒、T2は、10マイクロ秒〜100ミリ秒の範囲で設定される。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、表面伝導型電子放出素子形態に応じて適宜選択される。このような条件のもと、例えば、数秒から数十分間電圧を印加する。パルス波形は三角波に限定されるものではなく、矩形波など所望の波形を採用することができる。
【0075】
図4(b)におけるT1及びT2は、図4(a)に示したのと同様とすることができる。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度づつ、増加させることができる。
【0076】
通電フォーミング処理の終了は、パルス間隔T2中に、導電性薄膜2を局所的に破壊、変形しない程度の電圧を印加し、電流を測定して検知することができる。例えば0.1V程度の電圧印加により流れる素子電流を測定し、抵抗値を求めて、1MΩ以上の抵抗を示した時、通電フォーミングを終了させる。
【0077】
(4)フォーミング処理を終えた素子には、活性化工程と呼ばれる処理を施すのが好ましい。活性化工程とは、この工程により、素子電流If、放出電流Ieが、著しく変化する工程である。
【0078】
活性化工程は、例えば、有機物質のガスを含有する雰囲気下で、通電フォーミングと同様に、パルスの印加を繰り返すことで行うことができる。この雰囲気は、例えば油拡散ポンプやロータリーポンプなどを用いて真空容器内を排気した場合に、雰囲気内に残留する有機ガスを利用して形成することができる他、イオンポンプなどにより一旦十分に排気した真空中に、適当な有機物質のガスを導入することによっても得られる。このときの好ましい有機物質のガス圧は、前述の応用の形態、真空容器の形状や、有機物質の種類などにより異なるため、場合に応じ適宜設定される。適当な有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、ニトリル類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることができ、具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCn H2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCn H2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、ベンゾニトリル、アセトニトリル、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できる。この処理により、雰囲気中に存在する有機物質から、炭素あるいは炭素化合物が素子上に堆積し、素子電流If、放出電流Ieが、著しく変化するようになる。
【0079】
活性化工程の終了判定は、素子電流Ifと放出電流Ieを測定しながら、適宜行う。なおパルス幅、パルス間隔、パルス波高値などは適宜設定される。
【0080】
炭素及び炭素化合物とは、例えばグラファイト(いわゆるHOPG,PG,GCを包含する、HOPGはほぼ完全なグラファイトの結晶構造、PGは結晶粒が20nm程度で結晶構造がやや乱れたもの、GCは結晶粒が2nm程度になり結晶構造の乱れがさらに大きくなったものを指す)、非晶質カーボン(アモルファスカーボン、及びアモルファスカーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を指す)であり、その膜厚は、50nm以下の範囲とするのが好ましく、30nm以下の範囲とすることがより好ましい。
【0081】
(5)このような工程を経て得られた電子放出素子は、安定化工程を行うことが好ましい。この安定化工程は、真空容器内の有機物質排気する工程である。真空容器内の圧力は、1〜3×10-7Torr以下が好ましく、さらに1×10-8Torr以下が特に好ましい。真空容器を排気する真空排気装置は、装置から発生するオイルが素子の特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いるのが好ましい。具体的には、ソープションポンプ、イオンポンプ等の真空排気装置を挙げることができる。さらに真空容器内を排気するときには、真空容器全体を加熱して、真空容器内壁や、電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくするのが好ましい。この時の加熱条件は、80〜200℃で5時間以上が望ましいが、特にこの条件に限るものではなく、真空容器の大きさや形状、電子放出素子の構成などの諸条件により、適宜選ばれる条件により行う。
【0082】
安定化工程を行った後の、駆動時の雰囲気は、上記安定化処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではなく、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少低下しても、十分安定な特性を維持することができる。
【0083】
このような真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制でき、結果として素子電流If、放出電流Ieが、安定する。
【0084】
上述した工程を経て得られた本発明を適用可能な電子放出素子の基本特性について図5、図6を参照しながら説明する。
【0085】
図5は、真空処理装置の一例を示す模式図であり、この真空処理装置は測定評価装置としての機能をも兼ね備えている。図5においても、図1に示した部位と同じ部位には図1に付した符号と同一の符号を付している。図5において、55は真空容器であり、56は排気ポンプである。
【0086】
また、真空容器55内には電子放出素子が配されている。即ち、1は電子放出素子を構成する基板であり、2及び3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部、6は酸化物被膜である。また、51は、電子放出素子に素子電圧Vfを印加するための電源、50は素子電極2,3間の導電性薄膜4を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、54は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極である。また、53はアノード電極54に電圧を印加するための高圧電源、52は素子の電子放出部5より放出される放出電流Ieを測定するための電流計である。一例として、アノード電極の電圧を1kV〜10kVの範囲とし、アノード電極と電子放出素子との距離Hを2mm〜8mmの範囲として測定を行うことができる。
【0087】
真空容器55内には、不図示の真空計等の真空雰囲気下での測定に必要な機器が設けられていて、所望の真空雰囲気下での測定評価を行えるようになっている。排気ポンプ56は、ターボポンプ、ロータリーポンプ等からなる通常の高真空装置系と、更にイオンポンプ等からなる超高真空装置系とにより構成されている。ここに示した電子源基板を配した真空処理装置の全体は、不図示のヒーターにより、200℃まで加熱できる。
【0088】
図6は、図5に示した真空処理装置を用いて測定された放出電流Ie、素子電流Ifと素子電圧Vfの関係を模式的に示した図である。図6においては、放出電流Ieが素子電流Ifに比べて著しく小さいので、任意単位で示している。なお、縦・横軸ともリニアスケールである。
【0089】
図6からも明らかなように、本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子は、放出電流Ieに関して対する三つの特徴的性質を有する。
【0090】
即ち、(i)本素子はある電圧(しきい値電圧と呼ぶ)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。つまり、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子である。
【0091】
(ii)放出電流Ieが素子電圧Vfに単調増加依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
【0092】
(iii)アノード電極54に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。つまり、アノード電極54に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
【0093】
以上の説明より理解されるように、本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子は、入力信号に応じて、電子放出特性を容易に制御できることになる。この性質を利用すると複数の電子放出素子を配して構成した電子源、画像形成装置等、多方面への応用が可能となる。
【0094】
図6においては、素子電流Ifが素子電圧Vfに対して単調増加する(以下、「MI特性」という。)例を実線に示した。素子電流Ifが素子電圧Vfに対して電圧制御型負性抵抗特性(以下、「VCNR特性」という。)を示す場合もある(不図示)。これらの特性は、前述の工程を制御することで制御できる。
【0095】
図7は、素子電極間に印加する一定の素子電圧Vfで、長時間駆動したときの放出電流Ieの時間変化を示したものである。図中、実線で示したのは本発明による電子放出素子、破線で示したのは酸化物被膜6を形成しない比較用の素子のものである。製作当初の放出電流Ieの半減時間を参考に提示している。
【0096】
本発明によれば、基板1と電子放出部5の間に形成された酸化物被膜6によって、高い電子放出電流を取り出すことが可能な電子源を作成することが可能となり、その結果きわめて高輝度な電子放出素子を形成することが可能となった。
【0097】
以上のように本発明に係わる電子放出素子は、長時間にわたって安定かつ高輝度な電子放出特性を有するため、多方面への応用が期待できる。
【0098】
(電子放出素子の応用例)
本発明を適用可能な電子放出素子の応用例について以下に述べる。本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子の複数個を基板上に配列し、例えば電子源、あるいは画像形成装置が構成できる。
【0099】
電子放出素子の配列については、種々のものが採用できる。
【0100】
一例として、並列に配置した多数の電子放出素子の個々を両端で接続し、電子放出素子の行を多数個配し(行方向と呼ぶ)、この配線と直交する方向(列方向と呼ぶ)で、該電子放出素子の上方に配した制御電極(グリッドとも呼ぶ)により、電子放出素子からの電子を制御駆動するはしご状配置のものがある。これとは別に、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数個配し、同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続するものが挙げられる。このようなものは所謂単純マトリクス配置である。まず単純マトリクス配置について以下に詳述する。
【0101】
本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子については、前述したとおり(i)乃至(iii)の特性がある。即ち、表面伝導型電子放出素子からの放出電子は、しきい値電圧以上では、対向する素子電極間に印加するパルス状電圧の波高値と巾で制御できる。一方、しきい値電圧以下では、殆ど放出されない。この特性によれば、多数の電子放出素子を配置した場合においても、個々の素子に、パルス状電圧を適宜印加すれば、入力信号に応じて、表面伝導型電子放出素子を選択して電子放出量を制御できる。
【0102】
(電子源)
以下この原理に基づき、本発明を適用可能な電子放出素子を複数配して得られる電子源基板について、図8を用いて説明する。図8において、81は電子源基板、82はX方向配線、83はY方向配線である。84は表面伝導型電子放出素子、85は結線である。尚、表面伝導型電子放出素子84は、前述した平面型あるいは垂直型のどちらであってもよい。
【0103】
m本のX方向配線82は、DX1 ,DX2 ,..DXm からなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。Y方向配線83は、DY1 ,DY2 ,..DYn のn本の配線よりなり、X方向配線82と同様に形成される。これらm本のX方向配線82とn本のY方向配線83との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0104】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO2 等で構成される。例えば、X方向配線82を形成した基板81の全面或は一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線82とY方向配線83の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が、適宜設定される。X方向配線82とY方向配線83は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0105】
表面伝導型電子放出素子84を構成する一対の電極(不図示)は、m本のX方向配線82とn本のY方向配線83と導電性金属等からなる結線85によって電気的に接続されている。
【0106】
配線82と配線83を構成する材料、結線85を構成する材料及び一対の素子電極を構成する材料は、その構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。これら材料は、例えば前述の素子電極の材料より適宜選択される。素子電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、素子電極に接続した配線は素子電極ということもできる。
【0107】
X方向配線82には、X方向に配列した表面伝導型電子放出素子84の行を、選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線83には、Y方向に配列した表面伝導型電子放出素子84の各列を入力信号に応じて、変調するための不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0108】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。
【0109】
(画像形成装置)
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像形成装置について、図9と図10及び図11を用いて説明する。図9は、画像形成装置の表示パネルの一例を示す模式図であり、図10は、図9の画像形成装置に使用される蛍光膜の模式図である。図11は、NTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行うための駆動回路の一例を示すブロック図である。
【0110】
図9において、81は電子放出素子を複数配した電子源基板、91は電子源基板81を固定したリアプレート、96はガラス基板93の内面に蛍光膜94とメタルバック95等が形成されたフェースプレートである。92は支持枠であり、該支持枠92には、リアプレート91、フェースプレート96が接着材としてのフリットガラス等を用いて接続されている。98は外囲器であり、例えば大気中、あるいは窒素中で、400〜500℃の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。
【0111】
また、84は、図1における電子放出部に相当する。82,83は、表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極と接続されたX方向配線及びY方向配線である。
【0112】
外囲器98は、上述の如く、フェースプレート96、支持枠92、リアプレート91で構成される。リアプレート91は主に基板81の強度を補強する目的で設けられるため、基板81自体で十分な強度を持つ場合は別体のリアプレート91は不要とすることができる。即ち、基板81に直接支持枠92を封着し、フェースプレート96、支持枠92及び基板81で外囲器98を構成しても良い。一方、フェースプレート96、リアプレート91間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器98を構成することもできる。
【0113】
図10は、蛍光膜94の一部を示す模式図である。蛍光膜94は、モノクロームの場合は蛍光体のみから構成することができる。カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体の配列によりブラックストライプあるいはブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電材101と蛍光体102とから構成することができる。ブラックストライプ、ブラックマトリクスを設ける目的は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体102間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜94における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。ブラックストライプの材料としては、通常用いられている黒鉛を主成分とする材料の他、導電性があり、光の透過及び反射が少ない材料を用いることができる。
【0114】
ガラス基板93に蛍光体を塗布する方法は、モノクローム、カラーによらず、沈澱法、印刷法等が採用できる。蛍光膜94の内面側には、通常メタルバック95が設けられる。メタルバック95を設ける目的は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート96側へ鏡面反射させることにより輝度を向上させること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光体を保護すること等である。メタルバックは、蛍光膜作製後、蛍光膜の内面側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる。)を行い、その後Alを真空蒸着等を用いて堆積させることで作製できる。
【0115】
フェースプレート96には、更に蛍光膜94の導電性を高めるため、蛍光膜94の外面側に透明電極(不図示)を設けてもよい。この場合にはメタルバック95はなくてもよい。
【0116】
前述の外囲器98に封着を行う際には、カラーの場合は各色蛍光体と電子放出素子とを対応させる必要があり、十分な位置合わせが不可欠となる。
【0117】
図9に示した画像形成装置は、例えば以下のようにして製造される。
【0118】
外囲器98は、前述の安定化工程と同様に、適宜加熱しながら、イオンポンプ、ソープションポンプなどのオイルを使用しない排気装置により不図示の排気管を通じて排気し、10-7Torr程度の真空度の有機物質の十分少ない雰囲気にした後、封止が成される。外囲器98の封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行うこともできる。これは、外囲器98の封止を行う直前あるいは封止後に、抵抗加熱あるいは高周波加熱等を用いた加熱により、外囲器98内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、例えば1×10-5ないしは1×10-7Torrの真空度を維持するものである。ここで、表面伝導型電子放出素子のフォーミング処理以降の工程は、適宜設定できる。
【0119】
(表示パネルの駆動回路)
次に、単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した表示パネルに、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路の構成例について、図11を用いて説明する。図11において、111は画像表示パネル、112は走査回路、113は制御回路、114はシフトレジスタである。115はラインメモリ、116は同期信号分離回路、117は変調信号発生器、Vx及びVaは直流電圧源である。
【0120】
表示パネル111は、端子Dox1乃至Doxm、端子Doy1乃至Doyn、及び高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。端子Dox1乃至Doxmには、表示パネル内に設けられている電子源、即ち、M行N列の行列状にマトリクス配線された表面伝導型電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動するための走査信号が印加される。
【0121】
端子Dy1乃至Dynには、前記走査信号により選択された一行の表面伝導型電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御するための変調信号が印加される。高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、例えば10K[V]の直流電圧が供給されるが、これは表面伝導型電子放出素子から放出される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与するための加速電圧である。
【0122】
走査回路112について説明する。同回路は、内部にM個のスイッチング素子を備えたもので(図中、S1乃至Smで模式的に示している)ある。各スイッチング素子は、直流電圧源Vxの出力電圧もしくは0[V](グランドレベル)のいずれか一方を選択し、表示パネル111の端子Dx1乃至Dxmと電気的に接続される。S1乃至Smの各スイッチング素子は、制御回路113が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものであり、例えばFETのようなスイッチング素子を組み合わせることにより構成することができる。
【0123】
直流電圧源Vxは、本例の場合には表面伝導型電子放出素子の特性(電子放出しきい値電圧)に基づき、走査されていない素子に印加される駆動電圧が電子放出しきい値電圧以下となるような一定電圧を出力するよう設定されている。
【0124】
制御回路113は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行われるように各部の動作を整合させる機能を有する。制御回路113は、同期信号分離回路116より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscan及びTsft及びTmryの各制御信号を発生する。
【0125】
同期信号分離回路116は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から同期信号成分と輝度信号成分とを分離するための回路で、一般的な周波数分離(フィルター)回路等を用いて構成できる。同期信号分離回路116により分離された同期信号は、垂直同期信号と水平同期信号より成るが、ここでは説明の便宜上Tsync信号として図示した。前記テレビ信号から分離された画像の輝度信号成分は便宜上DATA信号と表した。該DATA信号はシフトレジスタ114に入力される。
【0126】
シフトレジスタ114は、時系列的にシリアルに入力される前記DATA信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのもので、前記制御回路113より送られる制御信号Tsftに基づいて動作する(即ち、制御信号Tsftは、シフトレジスタ114のシフトクロックであるということもできる。)。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子N素子分の駆動データに相当)のデータは、Id1乃至IdnのN個の並列信号として前記シフトレジスタ114より出力される。
【0127】
ラインメモリ115は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶するための記憶装置であり、制御回路113より送られる制御信号Tmryに従って適宜Id1乃至Idnの内容を記憶する。記憶された内容は、I′d1乃至I′dnとして出力され、変調信号発生器117に入力される。
【0128】
変調信号発生器117は、画像データI′d1乃至I′dnの各々に応じて表面伝導型電子放出素子の各々を適切に駆動変調するための信号源であり、その出力信号は、端子Doy1乃至Doynを通じて表示パネル111内の表面伝導型電子放出素子に印加される。
【0129】
前述したように、本発明を適用可能な電子放出素子は放出電流Ieに対して以下の基本特性を有している。即ち、電子放出には明確なしきい値電圧Vthがあり、Vth以上の電圧を印加された時のみ電子放出が生じる。電子放出しきい値以上の電圧に対しては、素子への印加電圧の変化に応じて放出電流も変化する。このことから、本素子にパルス状の電圧を印加する場合、例えば電子放出しきい値以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出しきい値以上の電圧を印加する場合には電子ビームが出力される。その際、パルスの波高値Vmを変化させることにより出力電子ビームの強度を制御することが可能である。また、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御することが可能である。従って、入力信号に応じて、電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等が採用できる。電圧変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器117として、一定長さの電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いることができる。
【0130】
パルス幅変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器117として、一定の波高値の電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いることができる。
【0131】
シフトレジスタ114やラインメモリ115は、デジタル信号式のものをもアナログ信号式のものをも採用できる。画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行われれば良いからである。
【0132】
デジタル信号式を用いる場合には、同期信号分離回路116の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これには116の出力部にA/D変換器を設ければ良い。これに関連してラインメモリ115の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器117に用いられる回路が若干異なったものとなる。即ち、デジタル信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器117には、例えばD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付加する。パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器117には、例えば高速の発振器及び発振器の出力する波数を計数する計数器(カウンタ)及び計数器の出力値と前記メモリの出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合わせた回路を用いる。必要に応じて、比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を表面伝導型電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0133】
アナログ信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器117には、例えばオペアンプなどを用いた増幅回路を採用でき、必要に応じてレベルシフト回路などを付加することもできる。パルス幅変調方式の場合には、例えば、電圧制御型発振回路(VCO)を採用でき、必要に応じて表面伝導型電子放出素子の駆動電圧まで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0134】
このような構成をとり得る本発明を適用可能な画像表示装置においては、各電子放出素子に、容器外端子Dox1乃至Doxm、Doy1乃至Doynを介して電圧を印加することにより、電子放出が生ずる。高圧端子Hvを介してメタルバック95、あるいは透明電極(不図示)に高圧を印加し、電子ビームを加速する。加速された電子は、蛍光膜94に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0135】
ここで述べた画像形成装置の構成は、本発明を適用可能な画像形成装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号については、NTSC方式を挙げたが入力信号はこれに限られるものではなく、PAL、SECAM方式などの他、これよりも、多数の走査線からなるTV信号(例えば、MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式をも採用できる。
【0136】
本発明の画像形成装置は、テレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システムやコンピューター等の表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることができる。
【0137】
【実施例】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される範囲内での各要素の置換や設計変更がなされたものをも包含する。
【0138】
[実施例1]
本発明に係わる基本的な表面伝導型電子放出素子の構成は、図1(a),(b)の平面図及び断面図と同様である。
【0139】
本発明に係わる表面伝導型電子放出素子の製造法は、基本的には図3と同様である。以下、図1、図3を用いて、本発明に係わる素子の基本的な構成及び製造法を説明する。
【0140】
図1において、1は基板、2と3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部、6は酸化物被膜である。
【0141】
以下、順をおって製造方法の説明を図1及び図3に基づいて説明する。
【0142】
(工程−a)
清浄化した青板ガラス上にSYMETRIX社製の酸化セシウム塗布材料を用いて、引き上げ速度200mm/minでディップコーティングを行った。この基板を120℃で30分乾燥した後、470℃で30分前焼成を行い、550℃で60分本焼成を行い厚さ約800Åの酸化物被膜6を形成した。
【0143】
(工程−b)
厚さ0.5マイクロメートルのシリコン酸化膜をスパッタ法で形成した基板1上に、素子電極2,3と所望の素子電極間ギャップLとなるべきパターンをホトレジスト(RD−2000N−41 日立化成社製)で形成し、真空蒸着法により、厚さ5ナノメートルのTi、厚さ100ナノメートルのNiを順次堆積した。ホトレジストパターンを有機溶剤で溶解し、Ni/Ti堆積膜をリフトオフし、素子電極間隔Lは3マイクロメートルとし、素子電極の幅Wを300マイクロメートル、を有する素子電極2,3を形成した。
【0144】
(工程−c)
本工程に係わる電子放出素子の導電性薄膜4のマスクは、素子間電極ギャップL及びこの近傍に開口を有するマスクであり、このマスクにより不図示の膜厚100ナノメートルのCr膜を真空蒸着により堆積・パターニングし、そのうえに有機Pd(ccp4230 奥野製薬(株)製)をスピンナーにより回転塗布し、300℃で12分間の加熱焼成処理をした。また、こうして形成された主元素として、パラジウムPdよりなる微粒子からなる導電性薄膜4の膜厚は10ナノメートル、シート抵抗値は2×104 Ω/□であった。なおここで述べる微粒子膜とは、上述したように、複数の微粒子が集合した膜であり、その微細構造として、微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接、あるいは、重なり合った状態(島状も含む)の膜をさし、その粒径とは、前記状態で粒子形状が認識可能な微粒子についての径をいう。
【0145】
(工程−d)
Cr膜及び焼成後の導電性薄膜4を酸エッチャントによりエッチングして所望のパターンを形成した。
【0146】
以上の工程により基板1上に、酸化物層6、素子電極2,3、導電性薄膜4を形成した。
【0147】
(工程−e)
次に、測定評価装置に設置し、真空ポンプにて排気し、2×10-5Torrの真空度に達した後、素子に素子電圧Vfを印加するための不図示の電源より、素子の素子電極2,3間に電圧を印加し、通電フォーミングを行った。通電フォーミング処理の電圧波形は、図4(b)に示したものである。
【0148】
図中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔であり、本実施例ではT1を1ミリ秒、T2を10ミリ秒とし、矩形波の波高値(フォーミング時のピーク電圧)は0.1Vステップで昇圧し、フォーミング処理を行った。また、フォーミング処理中は、同時に、0.1Vの電圧で、T2間の抵抗測定パルスを挿入し、抵抗を測定した。尚フォーミング処理の終了は、抵抗測定パルスでの測定値が、約1Mオーム以上になった時とし、同時に、素子への電圧の印加を終了した。
【0149】
この後、素子を1.0×10-9Torr超高真空中に保持した。
【0150】
(工程−f)
続いて、トルニトリルをアンプルに封じたものをスローリークバルブを通して真空内に導入し、1.0×10-6Torrを維持した。次にフォーミング処理した素子に、図12に示した波形で波高値±Vphを14Vで、印加期間T1,周期T2として活性化処理をした。
【0151】
活性化処理とは、前述したように、(図5に示した装置)の測定評価装置内で、素子電極間に、パルス電圧をこの時、素子電流If及び放出電流Ieを測定しながら、印加した。効率η(Ie×100/If)(%)が、約30分で最大になったため、通電を停止し、スローリークバルブを閉め、活性化処理を終了した。
【0152】
(工程−g)
こうして、電子放出部5を形成し電子放出素子を作製し、電子放出特性(図7)を評価した。なお、アノード電極と電子放出素子間の距離を4mm、アノード電極の電位を1000V、電子放出特性測定時の真空装置内の真空度を1×10-8Torrとし、素子の電極2及び3の間に素子電圧を14V印加した。本実施例の酸化物被膜6を形成した素子は、図7に示すように比較として用いた酸化物被膜6を形成しない素子に比べ、明らかに従来の電子放出電流Ieよりいずれも初期値が大きく、高輝度な電子放出特性を示し、図7に示したように比較用素子の放出電流Ieが半減する駆動時間においても、本実施例の素子の放出電流Ieは従来より値が大きくまた劣化速度が小さかった。
【0153】
さらに、導電性薄膜4の材料として上記PdOの他、Pd,Ni,Pt,Auのスパッタ膜を用い、また酸化物薄膜6として上記Cs2 Oの他、K2 O,Na2 Oの酸化物をCVD法で形成した薄膜を用いた種々の組み合わせによっても、同様の効果が得られた。
【0154】
[実施例2]
本実施例では本発明に係わる基本的な表面伝導型電子放出素子の構成は、図1(a),(b)の平面図及び断面図と同様である。不安定な酸化物被膜を酸化物被膜6として用いるために、次のような工夫を行った。
【0155】
(工程−a)
最初に、SYMETRIX社製の酸化バリウム塗布材料と酸化シリコン塗布材料を混合し、焼成後の酸化シリコンの成分比が50%以上となるように組成を適当に調整した。清浄化した青板ガラス上に前述の溶液を用いて引き上げ速度200mm/minでディップコーティングを行った。この基板を120℃で30分乾燥した後、470℃で30分前焼成を行い、550℃で60分本焼成を行い厚さ約80nmの酸化物層6を形成した。
【0156】
(工程−b)から(工程−g)まで、実施例1と同様の工程を行った。
【0157】
さらに、導電性薄膜4の材料として上記PdOの他、Pd,Ni,Pt,Auのスパッタ膜を用い、また酸化物被膜6として上記BaOの他、CaO,CeO,MgOの酸化物をスパッタ蒸着ないしCVD法で形成した薄膜を用いた種々の組み合わせによっても、同様の効果が得られた。
【0158】
以上のように本実施例においても、長時間にわたり安定な電子放出特性が得られた。
【0159】
[実施例3]
本実施例では、テレビジョン放送をはじめとする種々の画像情報源より提供される画像情報を表示できるように構成した表示装置の一例を示す。図9に示した画像形成装置を図11に示した駆動回路を用いて、NTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行った。
【0160】
本表示装置においては、とりわけ表面伝導型放出素子を電子ビーム源とするディスプレイパネルの薄形化が容易なため、表示装置の奥行きを小さくすることができる。それに加えて、表面伝導型放出素子を電子ビーム源とするディスプレイパネルは、大画面化が容易で、輝度が高く、視野角特性にも優れるため、本表示装置は臨場感にあふれ、迫力に富んだ画像を視認性良く、表示することが可能である。
【0161】
本実施例における表示装置は、NTSC方式のテレビ信号に応じたテレビ画像を良好に、かつ長時間安定して表示することができた。
【0162】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の表面伝導型電子放出素子によれば、高い電子放出電流を取り出すことが可能な電子放出素子を提供できる。
【0163】
さらには、入力信号に応じて電子を放出する電子源においては、上記の電子放出素子を、基板上に複数個配置して電子源を構成することにより、また、個々の素子の両端を配線に接続した電子放出素子の行を複数もち、更に、変調手段を有している配置法、あるいは、基板に、互いに、電気的に、絶縁されたm本のX方向配線とn本のY方向配線とに、該電子放出素子の一対の素子電極とを接続した電子放出素子を複数個配列した配置とする電子源とすることで、各電子放出素子が、良好な電子放出特性を長時間にわたり保持し得る電子源を提供できる。
【0164】
また、画像形成装置においては、画像形成部材と前記電子源より構成され、入力信号に基づいて画像を形成するため、電子放出特性の安定性と寿命の向上がなされ、例えば蛍光体を画像形成部材とする画像形成装置においては、高品位な画像形成装置、例えばカラーフラットテレビが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に好適な基本的な表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式的平面図及び断面図である。
【図2】本発明に好適な基本的な垂直型表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図3】本発明に好適な表面伝導型電子放出素子の製造方法の一例である。
【図4】本発明に好適な通電フォーミングの電圧波形の例である。
【図5】電子放出特性を測定するための測定評価装置の概略構成図である。
【図6】本発明に好適な表面伝導型電子放出素子の放出電流Ie及び素子電流Ifと素子電圧Vfの関係の典型的な例である。
【図7】本発明に係わる表面伝導型電子放出素子の駆動時間による放出電流Ieの変化を示す典型的な例である。
【図8】本発明の電子放出素子を単純マトリクス状に配置した電子源である。
【図9】本発明の画像形成装置の表示パネルの概略構成図である。
【図10】本発明の画像形成装置に用いる蛍光膜である。
【図11】画像形成装置をNTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行う例の駆動回路のブロック図である。
【図12】本発明に好適な活性化パルスの形状である。
【図13】従来の表面伝導型電子放出素子の平面図である。
【符号の説明】
1 基板
2,3 素子電極
4 導電性薄膜
5 電子放出部あるいは電子放出部形成材料
6 酸化物薄膜
21 段さ形成部
50 素子電極2,3間の導電性薄膜を流れる素子電流Ifを測定するための電流計
51 電子放出素子に素子電圧Vfを印加するための電源
52 素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを測定するための電流計
53 アノード電極54に電圧を印加するための高圧電源
54 アノード電極
55 真空装置
56 排気ポンプ
81 電子源基板
82 X方向配線
83 Y方向配線
84 表面伝導型電子放出素子
85 結線
91 リアプレート
92 支持枠
93 ガラス基板
94 蛍光膜
95 メタルバック
96 フェースプレート
97 高圧端子
98 外囲器
101 黒色導電材
102 蛍光体
111 表示パネル
112 走査回路
113 制御回路
114 シフトレジスタ
115 ラインメモリ
116 同期信号分離回路
117 変調信号発生器
Vx及びVa 直流電圧源
151 層間絶縁層
152 コンタクトホール
171 Cr膜
Claims (6)
- 絶縁性基板上に形成された対向する一対の素子電極と、前記一対の素子電極間に形成された電子放出部を有する導電性薄膜とを備えた表面伝導型電子放出素子の製造方法であって、
絶縁性基板上に、炭素により還元される金属酸化物とSiO2とを含む層を形成する工程と、
前記層上に導電性薄膜を形成する工程と、
前記導電性薄膜に通電処理を行い、前記導電性薄膜に電子放出部を形成する工程と、
前記電子放出部が形成された前記導電性薄膜上に炭素又は炭素化合物を堆積させる工程と、を有することを特徴とする表面伝導型電子放出素子の製造方法。 - 前記金属酸化物は、その1モルあたりの標準生成自由エネルギーの値が同一温度のSiO2の1モルあたりの標準生成自由エネルギーの値よりもその絶対値が小さいことを特徴とする請求項1に記載の表面伝導型電子放出素子の製造方法。
- 前記金属酸化物は、Cs2O、K2O、Na2O、Cu2O、BaO、CaO、MgO、SrO、PbO、NiO、SnO、CoO、Cr2O3、In2O3、Fe2O3、WO2、MnO2から選ばれる酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面伝導型電子放出素子の製造方法。
- 入力信号に応じて電子を放出する電子源の製造方法であって、前記絶縁性基板上に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面伝導型電子放出素子の製造方法により表面伝導型電子放出素子を複数個配置したことを特徴とする電子源の製造方法。
- 請求項4に記載の電子源の製造方法において、前記絶縁性基板に配置した互いに電気的に絶縁されたm本のX方向配線とn本のY方向配線とに、前記表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極とを接続した前記表面伝導型電子放出素子を複数個配列したことを特徴とする電子源の製造方法。
- 入力信号に基いて画像を形成する画像形成装置の製造方法であって、少なくとも、前記絶縁性基板に対向する蛍光膜を備えた画像形成部材と、請求項4又は5に記載の電子源の製造方法により形成された電子源とを対向配置することを特徴とする画像形成装置の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP04919299A JP4036410B2 (ja) | 1999-02-25 | 1999-02-25 | 電子放出素子とその製造方法と電子源及び画像形成装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP04919299A JP4036410B2 (ja) | 1999-02-25 | 1999-02-25 | 電子放出素子とその製造方法と電子源及び画像形成装置 |
Publications (3)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2000251635A JP2000251635A (ja) | 2000-09-14 |
JP2000251635A5 JP2000251635A5 (ja) | 2007-08-02 |
JP4036410B2 true JP4036410B2 (ja) | 2008-01-23 |
Family
ID=12824163
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP04919299A Expired - Fee Related JP4036410B2 (ja) | 1999-02-25 | 1999-02-25 | 電子放出素子とその製造方法と電子源及び画像形成装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4036410B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP5063715B2 (ja) * | 2010-02-04 | 2012-10-31 | 株式会社日立ハイテクノロジーズ | 電子源,電子銃、それを用いた電子顕微鏡装置及び電子線描画装置 |
-
1999
- 1999-02-25 JP JP04919299A patent/JP4036410B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2000251635A (ja) | 2000-09-14 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3624041B2 (ja) | 導電性フリットを用いた画像表示装置 | |
JP2000311579A (ja) | 電子放出素子、電子源及び画像形成装置 | |
JP2001319561A (ja) | 電子源及び画像表示装置 | |
JP4036410B2 (ja) | 電子放出素子とその製造方法と電子源及び画像形成装置 | |
JP3320303B2 (ja) | 電子放出素子と電子源と画像形成装置の製造方法および電子放出素子 | |
JP3559689B2 (ja) | 電子放出素子、電子源、画像形成装置及びそれらの製造方法 | |
JP3397711B2 (ja) | 電子放出素子、電子源及び画像形成装置 | |
JP3062991B2 (ja) | 電子放出素子、電子源及び画像形成装置の製造方法 | |
JP3320363B2 (ja) | 電子放出素子、電子源、画像形成装置、及び電子放出素子の製造方法 | |
JP3524278B2 (ja) | 画像形成装置 | |
JPH09223457A (ja) | 電子源基板、その製造方法、及び画像形成装置 | |
JP2000243225A (ja) | 電子放出素子及びそれを用いた電子源,画像形成装置 | |
JPH10188854A (ja) | 画像形成装置及びその製造方法 | |
JP3285736B2 (ja) | 画像形成装置 | |
JP2000082384A (ja) | 電子放出素子、電子源及び画像形成装置並びに電子放出素子の製造方法 | |
JPH09277586A (ja) | 電子源、画像形成装置及びその製造方法 | |
JP2000173453A (ja) | 電子放出素子、電子源、画像形成装置の製造方法 | |
JPH11250804A (ja) | 画像形成装置の製造方法 | |
JPH09219163A (ja) | 配線形成方法、該方法により形成したマトリクス配線、電子源の製造方法、電子源及び画像表示装置 | |
JP3459720B2 (ja) | 電子源の製造方法および画像形成装置の製造方法 | |
JP2000243258A (ja) | 電子放出素子、電子源、画像形成装置及びそれらの製造方法 | |
JPH09330676A (ja) | 電子放出素子、電子源、及び画像形成装置 | |
JPH11339635A (ja) | 電子放出素子、電子源および画像形成装置 | |
JPH1039788A (ja) | 電子源基板、及び画像表示装置 | |
JPH09283010A (ja) | 電子源、画像形成装置、及びそれらの製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20060227 |
|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20060227 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20070614 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20070903 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20071002 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20071025 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20071029 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20101109 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20101109 Year of fee payment: 3 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20111109 Year of fee payment: 4 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20121109 Year of fee payment: 5 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131109 Year of fee payment: 6 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |