JP4031886B2 - Ni−Zn系フェライトの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、1〜10 MHzの周波数帯域でのコアロスが小さいNi−Zn系フェライトの製造方法に関するものである。
この発明で得られたNi−Zn系フェライトは、特に1〜10 MHzの高周波帯域で使用されるスイッチング電源用メイントランス、中でも薄型形状のコアを用いた低背型トランス用のコア材料やチップトランス、薄膜トランスのように巻線と磁性材料が一体構造となっているトランス用のコア材料として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
スイッチング電源は、これまで 100〜200 kHz 帯域の周波数で使用されるのが一般的であり、このようなスイッチング電源のトランス材料としては、従来からMn−Zn系フェライトが用いられてきた。
ところが、最近では、電子機器の小型・軽量化に伴い、さらに高い周波数帯域でもコアロスの小さい磁性材料が必要となってきている。
【0003】
このような要求に対しては、Mn−Zn系フェライトでも、基本組成や微量添加物、粉砕方法、焼成方法等に工夫を加えることにより、2〜3 MHz程度の周波数帯域までであれば、コアロスが小さく、かつ所望の温度特性を有する材料となる。
しかしながら、従来のMn−Zn系フェライトでは、2〜3 MHzを超える高周波帯域においてコアロスが小さいものを安定して得ることは困難であった。
ここに、コアロスとは、ヒステリシス損失、渦電流損失および残留損失の和を意味する。
【0004】
そこで、2〜3 MHzを超える高周波帯域ではMn−Zn系フェライトに代わるトランス材料として、高周波帯域でのコアロスが小さくかつ高い抵抗のNi−Zn系フェライトが注目されている。
【0005】
なお、部品の小型化、自動実装化という最近の傾向に伴い、小型インダクタンス素子および小型トランス部品のチップ化が進んでおり、このようなチップ部品では、巻線や電極端子と磁性材料を一体構造とするため、それに用いる磁性材料として高い比抵抗を示すNi−Zn系フェライトが既に使用されている。
しかしながら、従来のNi−Zn系フェライトは、励磁電流の微弱な信号処理用に開発されたものであるため、スイッチング電源用トランスのように大電流で励磁するとヒステリシス損失が大きくなるという問題があった。
【0006】
この点、発明者らは先に、特開平10−256024号公報において、高周波帯域で小さなコアロスを示すNi−Zn系フェライトを提案した。この技術は、基本成分の一つとしてCoOを用いることによってNi−Zn系フェライトの高周波帯域でのコアロスを小さくしようとするものであり、実際、CoOを用いることによって、CoOを含有しないNi−Zn系フェライトよりも小さなコアロスを得ることができた。
【0007】
しかしながら、この技術では、図1に示すように、コアロスが最小値を示す温度Tmin が低下して(曲線A:特開平10−256024号公報の請求項1の発明に相当)、トランスの動作温度である80〜100 ℃から逸脱してしまう。
この点、ZnOの配合比を調整することによって温度特性を制御することができるけれども、この場合には、曲線B(特開平10−256024号公報の請求項3の発明に相当)で示すように、トランスの動作温度域におけるコアロスが大きくなるという不利があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記の問題を有利に解決するもので、1〜10 MHzの高周波帯域において大電流で励磁してもコアロスの小さい〔例えば100 ℃、Bm ×f≦40 kHz・Tの条件下(ここでBm :駆動時の最大磁束密度、f:駆動周波数)で、コアロスが180 kW/m3 未満〕Ni−Zn系フェライトの有利な製造方法を提案することを目的とする。
ここに、コアロスが小さいほど発熱し難く、また比抵抗が高いほど優れた絶縁性を示す。
【0009】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、特開平10−256024号公報で問題となったCoを含有するNi−Zn系フェライトのコアロスの温度特性に注目して、鋭意研究を重ねた結果、焼成条件を工夫することにより、トランスの動作温度域において小さなコアロスが安定して得られることを突き止め、この発明を完成させるに至ったのである。
【0010】
すなわち、この発明は、焼成後の成分組成が、
Fe2O3 換算で48〜51 mol%の酸化鉄、
ZnO換算で18〜28 mol%の酸化亜鉛、
CoO換算で0.1 〜2 mol%の酸化コバルトおよび
Ni O換算で 22 〜 32 mol %の酸化ニッケル
を満足する組成になるように調整した基本原料中に、同じく焼成後、MoO3換算で1重量部(基本原料:100 重量部に対し)以下を満足する量の酸化モリブデンを添加配合したNi−Zn系フェライトの焼成用原料を、成形後、焼成、冷却することによってNi−Zn系フェライトを製造するに際し、
焼成温度を1000〜1130℃の温度範囲にすると共に、焼成工程の均熱過程の後半少なくとも 30 分間および冷却過程中 500℃に至るまでの間における雰囲気中の酸素濃度を5 vol%以下とすることを特徴とするNi−Zn系フェライトの製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
まず、この発明において、Ni−Zn系フェライト原料の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
酸化鉄:48〜51 mol%(Fe2O3 換算)
酸化鉄の含有量が、Fe2O3 換算で 48mol%に満たないと、高周波駆動時の100 ℃におけるヒステリシス損失を小さくすることができず、一方 51mol%を超えると、電気抵抗が急激に低下して渦電流損失が増大するだけでなく、Ni−Zn系フェライトの長所の一つであるコアへの直接巻線ができなくなる不利が生じる。より好ましい酸化鉄の含有量は Fe2O3換算で48.5〜50 mol%であり、この範囲で最も小さなコアロスを安定して得ることができる。
【0012】
酸化亜鉛:18〜28 mol%(ZnO換算)
酸化亜鉛の含有量が、1 mol%未満ではヒステリシス損失を小さくすることができず、一方 30mol%を超えると高周波帯域でのコアロスが大きくなり、100 ℃において残留損失の著しい増大を招く(特に3MHz 以上で顕著となる)。より好ましい酸化亜鉛の含有量はZnO換算で18〜28 mol%であり、この範囲で最も小さなコアロスを安定して得ることができる。そこで、この発明では、酸化亜鉛の含有量は Zn O換算で 18 〜 28 mol %での範囲に限定した。
【0013】
酸化コバルト:0.1 〜2 mol%(CoO換算)
酸化コバルトは Co O換算で 0.1 mol %以上含有させるが、含有量が2 mol%を超えると、コアロスが最小値を示す温度(Tmin)を80〜100 ℃に調整することが難しくなる。
【0014】
酸化鉄、酸化亜鉛および酸化コバルト以外の基本成分は酸化ニッケル(NiO)であり、その好適含有量は19〜50 mol%である。
酸化ニッケル(NiO換算)の含有量が19 mol%未満では、高周波でのコアロスが大きくなるために 100℃での残留損失が増大し、一方 50mol%を超えるとヒステリシス損の増大を招く。より好ましい酸化ニッケルの含有量はNiO換算で22〜32 mol%であり、この範囲で最も小さなコアロスを安定して得ることができる。そこで、この発明では、酸化ニッケルの含有量は Ni O換算で 22 〜 32 mol %での範囲に限定した。
【0015】
以上、基本原料の成分組成について説明したが、この発明では、コアロスの小さなNi−Zn系フェライトを得るために、上述したような基本原料に加えてさらに、副原料として酸化モリブデンを含有させる。
酸化モリブデン:1重量部以下(MoO3換算)
酸化モリブデンは、コアロスの低下に有効に寄与するが、含有量が上記した基本原料 100重量部に対し1重量部を超えると結晶粒の異常粒成長を起こし易くなってコアロス低下効果が得られなくなる。より好ましくはMoO3換算で0.15〜0.6 重量部、さらに好ましくは0.25〜0.45重量部である。
【0016】
以上、フェライトの成分組成範囲について説明したが、この発明では、焼成して得られたNi−Zn系フェライトについて、その平均結晶粒径を 0.5〜4μm の範囲に制限することが好ましい。というのは、平均粒径が 0.5μm より小さいと、成形前の原料粉末を 0.5μm 以下に微粉砕する必要があるため、粉砕に長時間を要し製造効率が悪化する上に、粉砕媒体からの不純物の混入量が多くなるため、コアロスなどの磁気特性が変動し易くなる。また、微粉の成形は欠陥が生じ易く成形歩留りが低下するなど、安定に製造することが非常に困難になるという問題がある。一方、平均結晶の粒径が4μm より大きいと、残留損失が増大し高周波帯域でのコアロスが大きくなるからである。
【0017】
さらに、Ni−Zn系フェライトの焼結密度は、理論密度の85%以上とすることが好ましい。というのは、焼結密度が85%未満では、実効的な磁性体占有率が低いため、十分にコアロスを小さくすることができないからである。
【0018】
さて、上述した酸化モリブデン添加によるNi−Zn系フェライトのコアロス改善機構は、発明者らの検討によれば、以下のように説明できる。
すなわち、焼成温度域に沸点を持つMoO3(単体での沸点:1257℃)を添加すると、焼成時にMoO3の一部が粒界から蒸発し、粒界に残留する圧縮応力が緩和され、これによりヒステリシス損失が小さくなると推測できる。また、MoO3は、低融点酸化物(単体での融点:795 ℃)であり、焼成時の昇温過程で液相を生じて焼結体の緻密化を促進し、焼成時の均熱過程では結晶粒径の均一化に寄与する。その結果、残留損失の原因となる粗大結晶粒(>4μm )の比率が低下し、高周波帯域でのコアロスが小さくなると推測される。
【0019】
さらに、Coフェライトは、負の結晶磁気異方性を持つため、Ni−Zn系フェライトに酸化コバルトを含有させるとCoOが固溶し、結晶粒内の結晶磁気異方性がほぼゼロとなる。その結果、高周波帯域でのコアロスが小さくなると推測される。
【0020】
しかしながら、特開平10−256024号公報に開示の方法のように、大気中で焼成する場合には、CoOの固溶に伴うコアロスの低下幅は温度によって異なり、室温付近では著しい低下効果が得られるものの、80〜120 ℃の温度域では室温付近ほどの低下効果は得られない。その結果、コアロスが最小値を示す温度(Tmin)が室温付近にシフトする。
一般に、トランスに使用するフェライトコアは、トランスの熱暴走を防ぐためにTmin =80〜100 ℃となるように材料設計するため、CoOの導入に伴うTmin の変動を抑制する必要がある。前述した特開平10−256024号公報では、CoOを含有するNi−Zn系フェライトのTmin を80〜100 ℃にするために、ZnO, NiOの配合比を調整したが、このような方法では所望の温度特性は得られるものの、ヒステリシス損失が増大してコアロスが全体的に増大するという問題があった。
【0021】
そこで、発明者らは、CoOの導入に伴うコアロスの低下効果が温度によって異なる理由を明らかにするために、CoO含有量の異なるNi−Zn系フェライトのコアロスを、周波数f: 200Hz〜5MHz 、印加磁束密度Bm :20 mT、測定温度T:23〜140 ℃の種々の範囲にわたって測定し、コアロス成分を解析した。
コアロスを測定周波数で割って1周期当たりのコアロスを求め、これらの周波数特性を調べた結果、CoO含有材では 100 kHz以下の周波数帯域にコアロスのピークが存在すること、ピーク強度はCoO含有量と共に増大すること、ピークを示す周波数は測定温度によって変化すること、T=60〜140 ℃にかけてピークを示す周波数が温度と共に高周波側にシフトするため、高周波側の裾野に当たる1MHz 付近のコアロスも温度と共に増大することなどが明らかになった。
【0022】
さらに、ピークを示す周波数と温度の関係のアレニウスプロットより、緩和時間τ∞=2×16-16(sec)、活性化エネルギーEa =0.9 (eV)の緩和現象に起因する損失ピークであることが判った。J.Phys.Sco.Jpn.18,p1441 (1963)によると、同様のτ∞およびEa を持つ緩和現象がCoOを含有するNi−Znフェライトの損失係数 tanδでも測定されており、緩和現象の原因はCo2+イオンとCo3+イオンの間の電子の拡散によるものと結論付けられている。
【0023】
以上の考察から、発明者らは、酸化コバルトを含有するNi−Zn系フェライトのコアロスの温度特性を改善するためには、Co2+−Co3+イオン間の電子拡散を抑制する必要があり、このためにはNi−Zn系フェライト中のCo3+濃度を極力低く抑えることが有効である、というこの発明の基礎となる考えに到達した。
【0024】
量論組成( Fe2O3=50 mol%)のNi−Zn系フェライトの場合、CoOはCo2+としてスピネル格子中に存在するが、 Fe2O3<50 mol%の非量論組成ではCo3+とCo2+が共存する。従って、Co3+濃度を極力低く抑える方法としては Fe2O3≧50 mol%とすることが有効であるが、 Fe2O3>51 mol%になるとFe2+の濃度が高くなり、Fe3+−Fe2+間の電子の移動に伴う比抵抗の低下とこれに伴う渦電流損失の増大などの問題が生じるため、Fe2O3 濃度をむやみに増加させることはできない。
そこで、 Fe2O3=48〜51 mol%の範囲のままでCo3+濃度を低く抑える方法としては、焼成雰囲気中の酸素濃度を低くする方法が考えられる。この方法であれば、 Fe2O3, NiO, ZnOなどの他の基本成分の配合比を変えることなく、Co3+濃度を抑制することができる。
【0025】
以上のように、この発明のNi−Zn系フェライトは、酸化モリブデンの熱的性質を利用したコアロスの改善とフェライト中のCo3+濃度の抑制によるコアロスの温度特性の適正化を実現したものである。
従って、この発明に係るNi−Zn系フェライトの製造方法では、焼成過程における均熱温度(焼成温度)を1000〜1130℃の範囲に維持し、かつ、少なくとも焼成工程の途中から冷却工程中 500℃に至るまでの間における雰囲気中の酸素濃度を5 vol%以下の範囲に調整することが重要である。
【0026】
というのは、焼成温度が1000℃未満では、焼結密度および結晶粒径が小さいためにヒステリシス損失の増大を招き、一方1130℃を超えると、結晶粒径が粗大化して残留損失が増大するだけでなく、焼結体の緻密化が進み過ぎてMoO3の蒸発が抑制される結果、ヒステリシス損失の低下効果も得られなくなるからである。
また、焼成工程の途中から冷却工程中 500℃に至るまでの間における雰囲気中の酸素濃度が5 vol%を超えると十分なCo3+濃度の抑制効果が得られないからである。なお、酸素濃度があまりに低すぎると、粒界に異相が析出してヒステリシス損失が大きくなるおそれがあるので、酸素濃度の下限は0.001vol%程度とすることが好ましい。
【0027】
さらに、酸素濃度を5 vol%以下の範囲に調整する温度域は、焼成過程の全温度域に適用しても良いが、昇温初期の酸素濃度が低いと成形体中のバインダーが急激に蒸発してコアにクラックが生じ易くなるため、均熱過程以降に酸素濃度を下げる方が望ましい。とはいえ、酸素濃度を下げる時期が遅くなると、コアの内部まで均一にCo3+濃度を抑制することが難しくなるので、1000〜1130℃の温度範囲において最低でも30分は低酸素雰囲気とすることが望ましい。また、冷却過程での再酸化を防ぐために、少なくとも 500℃までは酸素濃度の低い雰囲気中で冷却する必要がある。
【0028】
すなわち、図2示すように、昇温工程中、バインダーの分解が終了する約600 ℃まではむしろ雰囲気中の酸素濃度は高い方が望ましいが、その後焼成温度である1000〜1130℃までの昇温過程および均熱過程の前半の雰囲気については酸素濃度が5 vol%以下であっても5 vol%超であってもどちらでもかまわない。しかしながら、均熱過程の後半少なくとも30分間および冷却過程 500℃に至るまでの間における雰囲気中の酸素濃度は5 vol%以下にすることが不可欠である。なお、 500℃以下の温度域については、昇温過程および均熱過程の前半と同様、雰囲気中の酸素濃度は5 vol%以下であっても5 vol%超であってもどちらでもかまわない。
【0029】
以上、この発明に従う焼成工程について説明したが、この焼成工程に至るまでの過程については、常法に従えば良い。
すなわち、まず基本原料を混合したのち、 800〜950 ℃程度の温度で数時間焼成(仮焼)し、ついで酸化モリブデンを添加したのち、粉砕、混合し、乾燥後、バインダーを添加してから造粒する。また、仮焼品に酸化モリブデンを添加したのち、粉砕し、ついでバインダー添加後、混合、乾燥しても良い。
なお、酸化コバルトの添加は、酸化モリブデンの添加と同時に行っても良く、また基本原料はそれぞれの金属の酸化物や炭酸塩を用いることができる。
ついで、所定の形状に成形するわけであるが、かかる成形方法としては、通常の圧縮成形法は勿論のこと、焼成用原料にバインダーを添加してペースト状にしたのち、これをドクターブレード法およびペースト印刷法等によって積層体とするような方法であっても良い。
【0030】
このように、この発明では、Coを含有するNi−Zn系フェライトで問題となっていたトランスの動作温度域におけるコアロスの増大を抑制して、適正な温度特性を得るために、焼成中の雰囲気中酸素濃度を調整して焼結体中のCo3+濃度を抑制したものであり、かくして図1中に曲線Cで示すように、トランスの動作温度域におけるコアロスの低下を実現し、所望のコアロスの温度特性を実現したものである。
この点、特開平10−256024号公報のような大気中焼成では、焼結体中のCo3+濃度の制御ができないため、所望のコアロスの温度特性を得るためにはヒステリシス損失を犠牲にしてZnO量を増す必要があったが、この発明により基本組成を変えることなく温度特性の適正化が可能となった。
【0031】
実施例1
焼成後に表1に示す基本成分組成となるように、 Fe2O3, ZnO, CoO(またはCo3O4)およびNiOを秤量し、湿式混合したのち、 850℃で3時間仮焼してNi−Zn系フェライト仮焼粉を得た。次に、この仮焼粉に対し、表1に示す量だけMoO3を添加したのち、湿式粉砕し、乾燥後、バインダーとしてPVAを添加して造粒したのち、成形圧力:1ton/cm2 で成形し、外径:24mm, 内径:12mm, 高さ:5mmのトロイダル形状の成形体を得た。
ついで、この成形体を、空気中で1120℃まで昇温し、3時間保持後、空気と窒素ガスを混合して酸素濃度:1 vol%とした雰囲気中にてさらに 1.5時間保持したのち、同雰囲気にて約 100℃まで冷却し、Ni−Zn系フェライトを得た。
かくして得られたNi−Zn系フェライトのコアロス(3MHz, 10mT, 100 ℃)を測定した結果を、表1に併記する。
【0032】
【表1】
【0033】
同表から明らかなように、この発明の適正成分組成範囲を満足するものはいずれも、3MHz, 10mT,100 ℃におけるコアロスが 37 kW/m3 以下の優れた特性値を得ることができた。
【0034】
実施例2
表1のNo.2と同じ基本成分組成となるように、 Fe2O3, ZnO, CoO(またはCo3O4)およびNiOを秤量し、湿式混合したのち、 950℃で2時間仮焼してNi−Zn系フェライト仮焼粉を得た。次に、この仮焼粉:100 重量部に対し、MoO3を 0.3重量部添加したのち、湿式粉砕し、乾燥後、バインダーとしてPVAを添加して造粒したのち、成形圧力:1ton/cm2 で成形し、外径:24mm, 内径:12mm, 高さ:5mmのトロイダル形状の成形体を得た。
ついで、得られた成形体を、空気中で1000〜1130℃の焼成温度まで昇温したのち、酸素濃度が2 vol%の雰囲気に替えてから1〜10時間焼成したのち、同雰囲気にて約100 ℃まで冷却し、焼結密度および平均結晶粒径の異なるNi−Zn系フェライトを得た。
かくして得られたNi−Zn系フェライトの平均結晶粒径、相対焼結密度および1MHz ,20 mT,100 ℃におけるコアロスについて調べた結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
同表から明らかなように、この発明の好適な粒径および焼結密度範囲を満足するものはいずれも、1MHz, 20mT,100 ℃におけるコアロスが 140 kW/m3以下の優れた特性値を示している。
【0037】
なお、平均結晶粒径は以下のようにして求めた。
Ni−Zn系フェライトの破断面のSEM写真あるいは研磨後の光学顕微鏡写真等に対角線を引き、対角線と直交する結晶粒の数を求め、以下の式で計算した。
ここで、対角線と直交する結晶粒の個数は20〜40個になるように、写真の倍率を選定した。
また、相対焼結密度は、アルキメデス法で測定した焼結密度と理論密度を用いて以下の式より求めた。
【0038】
実施例3
表1のNo.2と同じ基本成分組成となるように、 Fe2O3, ZnO, CoO(またはCo3O4)およびNiOを秤量し、湿式混合したのち、 900℃で3時間仮焼してNi−Zn系フェライト仮焼粉を得た。次に、この仮焼粉:100 重量部に対し、MoO3を 0.5重量部添加したのち、湿式粉砕し、乾燥後、バインダーとしてPVAを添加して造粒した後、成形圧力:1ton/cm2 で成形し、外径:24mm, 内径:12mm, 高さ:5mmのトロイダル形状の成形体を得た。
ついで、得られた成形体を、空気中で表3に示す焼成温度まで昇温し、同じく表3に示す酸素濃度に調整したのち、3時間焼成した。その後、焼成時と同じ雰囲気で約 100℃まで冷却してNi−Zn系フェライトを得た。
かくして得られたNi−Zn系フェライトのコアロス(3MHz, 20mT,100 ℃)を測定した結果を、表3に併記する。
【0039】
【表3】
【0040】
同表から明らかなように、この発明の適正焼成温度および酸素濃度を満足するものはいずれも、3MHz, 20mT,100 ℃におけるコアロスが 500 kW/m3以下の優れた特性値が得られている。
【0041】
実施例4
表1のNo.2と同じ基本成分組成となるように、 Fe2O3, ZnO, CoO(またはCo3O4)およびNiOを秤量し、湿式混合したのち、 900℃で3時間仮焼してNi−Zn系フェライト仮焼粉を得た。次に、この仮焼粉:100 重量部に対し、MoO3を 0.4重量部添加したのち、湿式粉砕し、乾燥後、バインダーとしてPVAを添加して造粒したのち、成形圧力:1ton/cm2 で成形し、外径:24mm, 内径:12mm, 高さ:5mmのトロイダル形状の成形体を得た。
ついで、得られた成形体を、表4 に示すような条件で焼成、冷却して、Ni−Zn系フェライトを得た。
かくして得られたNi−Zn系フェライトのコアロス(3MHz, 20mT, 80℃)を測定した結果を、表4に併記する。
【0042】
【表4】
【0043】
同表から明らかなように、この発明に従い、適正な時期に酸素濃度を低減したものはいずれも、3MHz, 20mT,80℃におけるコアロスが 500 kW/m3以下と優れた特性値を得ることができた。
【0044】
実施例5
表5に示すように、この発明に従い製造したNi−Zn系フェライト(表1のNo.2と同じ)ならびにNo.2と類似の条件で製造された(a) CoOを含有しないNi−Zn系フェライト、(b) CoOは含有するが、大気中で焼成されたNi−Zn系フェライトおよび(c) 特開平10−256024号公報に開示の方法でZnO量を低減したNi−Zn系フェライトについて、コアロス(3MHz, 10mT, 100 ℃)の温度特性について調べた結果を図3に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
同図に示したとおり、(a) CoOを含有しないNi−Zn系フェライトでは全温度域においてコアロスが大きいが、(b) のようにCoOを含有させることで室温付近におけるコアロスを低下することができた。一方、(c) のようにTmin =80℃にするためにZnO量を低減すると、(a) よりは低コアロスになるものの、(b) に比べると23〜100 ℃の温度域でコアロスが大きくなる。
これに対し、この発明の方法で製造した場合には、(b) の小さなアロスを維持したままTmin を高温側にシフトすることができ、高周波電源用トランス材料として良好な温度特性を有するNi−Zn系フェライトを得ることができた。
【0047】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、1〜10 MHzの高周波数帯域で大電流で励磁した場合においても、トランスの動作温度域においてコアロスの小さなNi−Zn系フェライトを安定して得ることができる。
従って、この発明のNi−Zn系フェライトは、1〜10 MHzで使用するスイッチング電源チップトランスや薄膜トランスのような巻線と磁性体が一体化した構造を有するトランスのコア材料として偉功を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 コアロスの温度特性を比較して示したグラフである。
【図2】 昇温、均熱および冷却工程における好適雰囲気を示した図である。
【図3】 発明例と比較例について、コアロスの温度特性を比較して示したグラフである。
Claims (1)
- 焼成後の成分組成が、
Fe2O3 換算で48〜51 mol%の酸化鉄、
ZnO換算で18〜28 mol%の酸化亜鉛、
CoO換算で0.1 〜2 mol%の酸化コバルトおよび
Ni O換算で 22 〜 32 mol %の酸化ニッケル
を満足する組成になるように調整した基本原料中に、同じく焼成後、MoO3換算で1重量部(基本原料:100 重量部に対し)以下を満足する量の酸化モリブデンを添加配合したNi−Zn系フェライトの焼成用原料を、成形後、焼成、冷却することによってNi−Zn系フェライトを製造するに際し、
焼成温度を1000〜1130℃の温度範囲にすると共に、焼成工程の均熱過程の後半少なくとも 30 分間および冷却過程中 500℃に至るまでの間における雰囲気中の酸素濃度を5 vol%以下とすることを特徴とするNi−Zn系フェライトの製造方法。
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