JP4029265B2 - リチウム電池用負極材料及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウム電池用負極及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウム電池は、携帯電話、ノ−ト型パソコン等のモバイル型電子機器に幅広く利用されている。このため、リチウム電池にあっては、低コスト化と電池性能の向上に対する要請は大きい。
【0003】
ところで、リチウム電池における負極としては、黒鉛、結晶化度の低い炭素等の各種の炭素材料が広く用いられている。しかしながら、炭素材料からなる電極は、使用可能な電流密度が低く、しかもリチウムの黒鉛層間化合物であるLiC6の放電容量は理論値で372mAh/gに過ぎない。しかも、炭素材料粉末の密度が小さいことから、単位体積当たりに充填できる炭素材料粉末には限界がある。
【0004】
このため、電池性能をより向上させるためには、炭素材料よりも密度が高く、理論放電容量の大きい物質を負極材料として用いることが望まれる。例えば、錫、珪素、銀、アルミニウム等の元素、あるいはこれらの窒化物、酸化物等は、リチウムと合金を形成することにより、リチウムを吸蔵することができ、その吸蔵量は一般に炭素よりはるかに大きい値を示す。
【0005】
しかしながら、これらの物質を負極材料とする場合には、充電、放電のサイクルを繰り返すうちに、リチウムの吸蔵・放出に伴う大きな膨張・収縮により電極の瓦解を生じ易くなる。例えば、錫の場合には、リチウムの吸蔵により約300%の膨張を生じる。
【0006】
従って、上記した物質を負極材料とする場合には、大きな初期放電容量は得られるものの、充放電を繰り返すうちに微粉化し、その結果、放電容量が大きく低下してしまう。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の主な目的は、高い放電容量を維持しつつ、優れたサイクル特性を発揮できるリチウム電池用負極材料を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、これらの問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、メカニカルアロイングによって得られる銀、錫及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末、又はこれに更に第三成分を加えた複合粉末は、リチウム電池用負極材料として、高い放電容量と優れたサイクル特性を有するものであることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のリチウム電池用負極及びその製造方法を提供するものである。
1. 銀、錫及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末、又は銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末からなるリチウム電池用負極材料。
2. 複合粉末が、メカニカルアロイングによって形成された微細粉末である上記項1に記載のリチウム電池用負極材料。
3. 銀、錫及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末が、銀10〜85原子%及び錫15〜90原子%からなるものである上記項1又は2に記載のリチウム電池用負極材料。
4. 銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末が、銀5〜60原子%、錫15〜90原子%、及び第三成分40原子%以下からなるものである上記項1又は2に記載のリチウム電池用負極材料。
5. 銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末における第三成分が、鉄、コバルト、ニッケル、銅、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、亜鉛、アルミニウム、アンチモン及び稀土類元素から選ばれた少なくとも一種の成分である上記項1、2又は4に記載のリチウム電池用負極材料。
6. 銀及び錫からなる原料物質、又は銀、錫及び第三成分からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理して、銀、錫及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末、又は銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末を形成することを特徴とするリチウム電池用負極材料の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のリチウム電池用負極材料は、銀、錫及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末、又は銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末である。
【0011】
この様な複合粉末は、リチウムと化合物を形成しやすい銀、錫及びこれらの合金、又はこれに更に第三成分を加えた成分により内部構造がなるものであり、リチウムの吸蔵・放出が容易である。しかも、該複合粉末は、銀、錫及びこれらの合金が均一に分散して錫の偏析が抑制されており、銀と錫の合金については、AgにSnが固溶した合金相、Ag3Sn、Ag4SnなどのAg−Snの金属間化合物相、SnにAgが固溶した合金相などから形成され、組成が連続的に変化することで、リチウム吸蔵・放出に伴う体積の膨張と収縮で生じる内部応力を吸収緩和して、微粉化が防止されるものと考えられる。
【0012】
また、更に第三成分を加えてなる複合粉末については、銀、錫及びこれらの合金からなる複合粉末と錫の含有量が同一の場合に、高価な材料である銀の使用量を減少して、電極特性を維持しながら、低コスト化を実現させることができる。
【0013】
上記した複合粉末の内で、銀、錫及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末については、銀10〜85原子%程度及び錫15〜90原子%程度からなることが好ましく、銀20〜70原子%程度及び錫30〜80原子%程度からなることがより好ましい。
【0014】
また、銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散してなる複合粉末については、銀5〜60原子%程度、錫15〜90原子%程度、及び第三成分40原子%程度以下からなることが好ましく、銀10〜60原子%程度、錫20〜70原子%程度、及び第三成分10〜40原子%程度からなることがより好ましい。この様な複合粉末における第三成分としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、亜鉛、アルミニウム、アンチモン、稀土類元素等を例示でき、これらの成分を一種単独で又は二種以上混合して用いることができる。特にこれらの内で、鉄又はコバルトを第三成分とする場合には、銀の使用量を減少させた上で、電極特性を維持しながら、電極の長寿命化を図ることができる。
【0015】
銀、錫、これらの合金からなる複合粉末、又は銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金からなる複合粉末は、一次粒子径が1μm以下の微細な構造であることが好ましい。この様に複合粉末中の一次粒子が微細化していることにより、複合粉末中の構成元素が微細に均一に分散し、その結果、リチウムが吸蔵脱離しやすく、その際の体積変化を緩和することができる。更に、一次粒子同士の接触面積が増えて高充填化し、電流の通過が容易になり、更に、負極集電体と複合粉末とがなじみ良く接続し、より集電効果を高めることができる。
【0016】
該複合粉末の二次凝集物の粒度は特に限定的でないが、通常はレ−ザ回折法による粒径で最大が38〜150μm程度であることが好ましく、20〜105μm程度であることがより好ましい。また、該二次凝集物の平均粒径は、45μm程度以下であることが好ましく、10μm程度以下であることがより好ましい。
【0017】
該複合粉末の比表面積についてもは特に限定されないが、通常は、BET法による比表面積が3000〜20000cm2/g程度であることが好ましく、5000〜15000cm2/g程度であることがより好ましい。
【0018】
また、界面活性剤及び油脂分の含有量は、通常1質量%程度以下、特に0.5質量%程度以下であることが好ましい。これらの数値範囲に設定すれば、より優れた放電特性を効果的に得ることが可能となる。
【0019】
本発明負極材料の有効成分である上記した複合粉末は、銀、錫及びこれらの合金、又は銀、錫、その他の第三成分及びこれらの合金が均一に分散したものであり、錫の偏析がなく、錫酸化物等も含まなれない。この様な複合粉末は、例えば、X線マイクロアナリシス法で観察した場合にも、各成分が均一に分散し、独立した錫相の存在は確認できない。尚、合金の組成については特に限定はなく、異なる組成比の合金が混在しても良い。
【0020】
この様な複合粉末は、銀及び錫からなる原料物質、又は銀、錫及び第三成分からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って、好ましくは一次粒子径を1μm以下とすることによって製造することができる。
【0021】
メカニカルアロイング処理自体は公知の方法をそのまま適用すれば良い。例えば、原料混合物を機械的接合力により混合・付着を繰返しながら複合化(一部合金化)させることによって目的とする複合粉末を得ることができる。使用する装置としては、一般に粉体分野で使用される混合機、分散機、粉砕機等をそのまま使用することができる。具体的には、ライカイ機、ボ−ルミル、振動ミル、アジテ−タ−ミル等が例示される。特に、ネットワ−ク間に存在する電池活物質を主成分とする粉末の積み重なりを少なくするためには、複合化操作中に重なり合ったり、凝集したりした粉末を1粒子づつに効率良く分散させる必要があるので、せん断力を与えることのできる混合機を用いることが望ましい。これらの装置の操作条件は特に限定されるものではない。
【0022】
上記した複合粉末からなる本発明の負極材料は、リチウム電池用の負極材料として有用である。リチウム電池用負極の具体的な構成は、負極材料として本発明材料を用いる他は、公知のものと同様でよい。例えば、必要に応じて樹脂系バインダ−、導電助材等を配合し、銅箔集電体等の公知の集電体上に電極層を形成させて一体化することによって負極を作製することができる。さらに、公知のリチウムイオン電池の電池要素(正極、セパレ−タ−、電解液等)を用い、公知のリチウムイオン電池の組立方法に従ってリチウムイオン電池を製造することができる。
【0023】
【発明の効果】
本発明の負極材料は、優れた放電容量、特に電池単位体積当たりの高い放電容量を有し、しかも充放電を繰り返した場合にも微粉化や担持体からの脱落が無く、炭素材料と同等のサイクル特性を維持することができる。
【0024】
このため、本発明の負極材料は、安定した長寿命の充放電サイクル特性を発揮できるものとして有用性の高いものである。
【0025】
【実施例】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより詳細に説明する。
【0026】
実施例1
(1)複合粉末の合成
銀粉末(福田金属箔粉工業製)と錫粉末(福田金属箔粉工業製)を図1に示す各比率(原子%)となるように混合し、滑剤としてステアリン酸「F2000」(新日本理化製)を0.5質量%添加し、フリッチェ製遊星ボ−ルミルに投入し、メカニカルアロイングすることにより、一次粒子径が1μm以下の微細粒子が凝集した状態であって、二次凝集の最大粒径が45μm以下、平均粒径が8.10μmである、銀、錫及びこれらの合金相が均一に分散した複合粉末を得た。
(2)電極・電池の作製及び評価
ポリビニリデンフルオライド(PVdF)をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させたペ−スト10質量%、複合粉末85質量%及びカ−ボンブラック5質量%を添加、混合し、スラリ−を調製した。
【0027】
次いで、電解銅箔(福田金属箔粉工業製)に上記スラリ−をのせて、ドクタ−ブレ−ドでラミネ−トし、シ−ト化した。この作製したシ−トを10分間、80℃で乾燥させ、NMPを揮発させた後、ロ−ルプレスをして、強固に密着接合させた。これを1cm2の円形ポンチで抜き取り、これを120℃で12時間以上の真空乾燥させて試験電極とした。
【0028】
ドライボックス中で、試験電極をカソ−ドとし、金属リチウムをアノ−ドとし、1モルのLiPF6/エチレンカ−ボネ−ト(EC)+ジメチルカ−ボネ−ト(DMC)(EC:DMC=1:2(体積比))溶液を電解液とし、コイン型電池(CR2032タイプ)を作製した。
【0029】
放電容量評価は次のようにして実施した。まず、上記電池を、0.2mA/cm2 の定電流で1.0Vに達するまで充電し、10分間の休止後、0.20mA/cm2 の定電流で0Vに達するまで放電させた。これを、1サイクルとして、繰り返して、放電容量を調べた。その結果を図1に示す。
【0030】
図1の結果から明らかなように、銀の量が10〜85原子%の本発明複合粉末を用いた負極では、初期放電容量が高く、しかも50サイクル後の放電容量も十分保持されていることから、その実用化が期待できるものである。
【0031】
実施例2
以下の方法で、銀と錫の複合粉末の結晶度合いの違いによる電池特性の違いについて調べた。
【0032】
まず、実施例1と同様の方法でメカニカルアロイング処理を行い、複合粉末を調製した。
【0033】
次いで、得られた複合粉末をアルゴンガス雰囲気下400℃で300分間熱処理した。
【0034】
メカニカルアロイング処理後の複合粉末と熱処理後の複合粉末について、X線回折装置「Rigaku RINT2100」(リガク製)及びX線マイクロアナライザ(島津製作所製)により合金化の有無等を確認した。X線回折パターンを図2に示す。
【0035】
X線回折の結果、熱処理後の複合粉末は、メカニカルアロイング処理後の複合粉末と比べて結晶化度は高くなっていたが、X線マイクロアナリシス法による分析では錫の偏析が認められた。これに対して、メカニカルアロイング処理後の複合粉末は、X線回折の結果、結晶化の程度は若干低いものの、銀、錫及びこれらの合金の存在が認められ、X線マイクロアナライザによる分析では錫の偏析は全く認められず、各成分が均一に分散したものであった。
【0036】
各粉末を負極材料として用い、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製した。この電池を用いて実施例1と同様にして充放電試験を実施した。
【0037】
図3の結果から明らかなように、錫が偏析した熱処理後の複合粉末については、サイクルの増加とともに放電容量が急激に低下し、所望のサイクル特性が得られなかった。これに対して、錫が偏析していないメカニカルアロイング処理後の複合粉末については、良好なサイクル特性を示した。
【0038】
実施例3
以下の方法により、粉末組成の違いによる電池特性の違いについて調べた。
【0039】
原料として、銀粉末、錫粉末、鉄粉末及びコバルト粉末を用い、図4〜7に示した各原子組成となるように原料成分を混合し、実施例1との方法で、メカニカルアロイング法によって複合粉末を調製した。
【0040】
得られた各粉末を負極材料として用い、実施例1と同様にしてコイン型電池を作製した。この電池を用いて実施例1と同様にして充放電試験を行った。その結果を図4〜7に示す。
【0041】
図4と図6の結果から明らかなように、メカニカルアロイングにより得られた鉄と錫の複合粉末、或いはコバルトと錫の複合粉末の放電容量は、サイクルの増加とともに急激に低下し、所望のサイクル特性が得られなかった。
【0042】
これに対して、図5と図7の結果から明らかなように、メカニカルアロイングにより得られた、銀、錫、鉄及びこれらの合金相が均一に分散した複合粉末と、銀、錫、コバルト及びこれらの合金相が均一に分散した複合粉末については、鉄量又はコバルト量が36.4原子%まで、銀52原子%と錫48原子%からなる原料(Ag52Sn48)から得られた銀、錫及びこれらの合金相が均一に分散した複合粉末と同等の放電容量を維持し、この複合粉末と同等のサイクル特性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における充放電試験の結果を示すグラフ。
【図2】実施例2におけるX線回折結果を示すグラフ。
【図3】実施例2における充放電試験の結果を示すグラフ。
【図4】実施例3における鉄と錫の複合粉末の充放電試験の結果を示すグラフ。
【図5】実施例3における銀、錫、鉄及びこれらの合金相が均一に分散した複合粉末の充放電試験の結果を示すグラフ。
【図6】実施例3におけるコバルトと錫の複合粉末の充放電試験の結果を示すグラフ。
【図7】実施例3における銀、錫、コバル及びこれらの合金相が均一に分散した複合粉末の充放電試験の結果を示すグラフ。
Claims (3)
- 銀及び錫からなる原料物質、又は銀、錫及び第三成分からなる原料物質を混合し、一次粒子径が1μm以下となるまでメカニカルアロイング処理を行って得られる銀10〜85原子%及び錫15〜90原子%からなる複合粉末、又は銀10〜60原子%、錫20〜70原子%及び第三成分10〜40原子%からなる複合粉末
からなるリチウム電池用負極材料。 - 銀10〜60原子%、錫20〜70原子%及び第三成分10〜40原子%からなる複合粉末における第三成分が、鉄、コバルト、ニッケル、銅、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、亜鉛、アルミニウム、アンチモン及び稀土類元素から選ばれた少なくとも一種の成分である請求項1に記載のリチウム電池用負極材料。
- 銀及び錫からなる原料物質、又は銀、錫及び第三成分からなる原料物質を混合し、一次粒子径が1μm以下となるまでメカニカルアロイング処理して、銀10〜85原子%及び錫15〜90原子%からなる複合粉末、又は銀10〜60原子%、錫20〜70原子%及び第三成分10〜40原子%からなる複合粉末を形成することを特徴とするリチウム電池用負極材料の製造方法。
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