JP4028388B2 - プロモーター - Google Patents
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Description
本発明は、目的遺伝子の産物を簡便に、かつ安価に高発現させうる、新規なプロモーターおよび該プロモーターを用いたタンパク質の製造方法に関する。
背景技術
有用遺伝子産物を遺伝子工学的に製造する場合、目的に応じて、培養手法が確立された大腸菌、枯草菌、酵母などの微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞などを宿主として用い、かかる宿主に適したプロモーターを利用した発現系が利用されている。なかでも、大腸菌を宿主とし、lacプロモーターやその誘導体等を用いた発現系は、その操作の容易性の観点から、よく使用されている系の1種である。
しかしながら、lacプロモーターやその誘導体を用いた発現系には、遺伝子産物の発現の際に、遺伝子発現の誘導を行なう必要があるため、工業的に不利であるという欠点を有する。例えば、lacプロモーター、tacプロモーターなどは、遺伝子発現の誘導に高価なIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を必要とするため、工業規模での実施には不利であるという欠点を有する。
同様に、キシロースオペロンに由来するプロモーターを利用し、バチルス属細菌を宿主とする発現系が利用されているが、その発現誘導にもキシロースの添加を必要としているため工業規模での実施には不利である。
一方、ファージλプロモーターの温度誘導を用いる発現ベクターも、一般的に使用されている。
しかしながら、組換遺伝子産物の温度誘導された過剰発現は、
(a)迅速な温度シフトアップを達成することの困難性、
(b)より高い培養温度での不溶性インクルージョンボディーを形成する可能性の増大、および
(c)熱ショック時の大腸菌におけるいくつかのプロテアーゼの誘導、
などの点で不利な場合がある。
枯草菌は定常期特異的反応として、アミラーゼ、プロテアーゼなど多くの分解酵素を生産、分泌することが知られている。この定常期特異的な発現機構を利用して宿主が十分生育した後、定常期でのみ遺伝子を発現することができれば宿主に対する負担を軽減し、外来遺伝子の発現を効率良く行なうことができる。しかしながら、そのような機構を利用した遺伝子発現の手法は、いまだ確立されていない。
従って、遺伝子発現を人為的に誘導しなくても、効率のよい発現が可能な手法が望まれている。
発明の目的
本発明は、遺伝子発現を人為的に誘導しなくても、該遺伝子を高レベルで定常期特異的に発現することができるプロモーター、組換えDNA、遺伝子発現用ベクター、発現ベクター、及び形質転換細胞、並びに操作が簡便であり、かつ安価に行ないうる、タンパク質の製造方法及びそのキットを提供することを目的とする。
発明の概要
本発明の要旨は、
〔1〕 以下からなる群より選択される単離されたDNA:
(a)配列表の配列番号1〜6のいずれかに示された塩基配列を有するDNA若しくはその断片であって、かつグラム陽性菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNA;及び
(b)(a)のDNA若しくはその断片にストリンジェントな条件下、ハイブリダイズ可能であって、かつグラム陽性菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNA、
〔2〕 外来遺伝子の上流に配置された場合、誘導物質の非存在下に該遺伝子を定常期特異的に発現しうる、前記〔1〕記載の単離されたDNA、
〔3〕 前記〔1〕記載のDNAと外来遺伝子とが、該外来遺伝子が発現可能な状態で配置されてなる組換えDNA、
〔4〕 外来遺伝子が、タンパク質をコードする核酸、アンチセンスRNAをコードする核酸及びリボザイムをコードする核酸からなる群より選択された核酸である、前記〔3〕記載の組換えDNA、
〔5〕 前記〔1〕記載のDNAを含有してなる遺伝子発現用ベクター、
〔6〕 ベクターが、プラスミドベクター、ファージベクター及びウイルスベクターからなる群より選択された1種である、前記〔5〕記載の遺伝子発現用ベクター、
〔7〕 前記〔3〕記載の組換えDNAを含有してなる発現ベクター、
〔8〕 ベクターが、プラスミドベクター、ファージベクター及びウイルスベクターからなる群より選択された1種である、前記〔7〕記載の発現ベクター、
〔9〕 前記〔3〕記載の組換えDNA、又は前記〔7〕記載の発現ベクターを保持してなる形質転換細胞、
〔10〕 前記〔9〕記載の形質転換細胞を培養する工程、及び得られた培養物からタンパク質を採取する工程を包含することを特徴とする、タンパク質の製造方法、並びに
〔11〕 前記〔1〕記載のDNA、又は前記〔5〕記載の遺伝子発現用ベクターを含有してなる、タンパク質製造用キット、
に関する。
発明の詳細な説明
本発明のDNAとしては、枯草菌のバチルス サブチリス(Bacillus subtilis)DB104株〔ジーン(Gene)、第83巻、第215〜233頁(1989)〕由来の定常期特異的に発現する遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の上流に局在し、かつプロモーター活性を呈するエレメントを含むDNAを使用することができる。本発明は、前記DNAの下流に外来遺伝子(目的遺伝子ともいう)を配置した場合、発現誘導物質の非存在下で、目的遺伝子産物を培地1リットル当たり100〜500mgの高レベルで発現することができるという、本発明者らの驚くべき知見に基づく。
本発明のDNAとしては、配列表の配列番号1〜6のいずれかに示された塩基配列を有するDNAが挙げられる。より好ましくは、グラム陽性菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNA、さらに好ましくは、後述のように、バチルス属細菌又は大腸菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNAである。
本明細書において、「プロモーター」とは、転写開始点(+1)から約10〜30塩基対上流にあって、正確な位置からRNAポリメラーゼに転写を開始させる機能を担っているプリブナウボックス(Pribnow box)、TATAボックス又はTATAボックス類似の領域が含まれるが、必ずしもこれらの領域の前後に限定されるものではなく、この領域以外に、発現調節のためにRNAポリメラーゼ以外のタンパク質が会合するために必要な領域を含んでいてもよい。また、本明細書中で「プロモーター領域」と記載する場合があるが、かかる用語は、本明細書におけるプロモーターを含む領域のことをいう。
本明細書において、「プロモーター活性」とは、プロモーターの下流に発現可能な状態で遺伝子を配置し、得られた構築物を宿主に導入した際、宿主内または宿主外において該遺伝子の発現産物を生産する能力および機能を有することを示す。
一般的に、前記「プロモーター活性」は、下記:
▲1▼ 定量または確認が容易なタンパク質をコードした遺伝子(以下、レポーター遺伝子ともいう)の上流に測定対象のDNAを連結するステップ、
▲2▼ 得られた構築物を宿主に導入するステップ、
▲3▼ 得られた形質転換細胞を培養して、該タンパク質を発現させるステップ、及び
▲4▼ 該タンパク質の発現量を測定するステップ
のプロセスにより、測定することができる。また、「プロモーター活性」の有無は、例えば、プロモーター配列を有すると思われる配列をレポーター遺伝子の上流に連結し、宿主に導入した際、宿主内または宿主外において該遺伝子の遺伝子産物の発現を確認することにより実施でき、ここで、発現が認められた場合、そのプロモーターは導入した宿主においてプロモーター活性を有することの指標となる。
本明細書において、「定常期特異的プロモーター」とは、対数増殖期を経た後、定常期においてのみ転写を行なうプロモーターをいう。すなわち、「定常期特異的プロモーター」は、IPTGなどに代表される誘導物質を用いて誘導することなく、該プロモーターの下流に配置された遺伝子を定常期でのみ発現させうる。
本発明のDNAには、定常期特異的にプロモーター活性が認められるものであれば、前記配列番号1〜6のいずれかに示された塩基配列を有する単離されたDNAの断片も含まれる。ここで、「断片」は、定常期特異的にプロモーター活性が認められる範囲内で適宜選択することができる。かかる断片は、前記ステップ▲1▼〜▲4▼のプロセスにより選択することができる。
本発明のDNAには、さらに、配列番号1〜6のいずれかに示された塩基配列において、少なくとも1塩基、具体的には、1又は複数個の塩基の置換、欠失、挿入、又は付加を有する塩基配列を有し、かつ定常期特異的にプロモーター活性を有するDNAも含まれる。一般的に、短い配列を有するDNAにおいて、少なくとも1塩基に変異(置換、欠失、挿入、又は付加)を有するDNAは、その活性が変化することもあるが、前記ステップ▲1▼〜▲4▼のプロセスにより定常期特異的にプロモーター活性が認められた「変異を有するDNA」は、本発明に包含される。かかる変異は、天然由来の変異及び人為的に導入された変異のいずれであってもよい。
人為的な変異の導入方法としては、慣用の部位特異的変異導入法などにより行なうことができる。部位特異的変異を導入する方法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法〔ギャップド デュプレックス(gapped duplex)法、ヌクレイック アシッズ リサーチ(Nucleic Acids Research)、第12巻、第9441〜9456頁(1984)〕、dut(dUTPase)とung(ウラシル−DNAグリコシラーゼ)遺伝子を欠損した宿主を利用する方法〔クンケル(Kunkel)法、プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA(Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA)、第82巻、第488〜492頁(1985)〕、アンバー変異を利用したPCRによる方法(国際公開第98/02535号パンフレット)等を用いることができる。
また、本発明のDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNA、又は本発明のDNAを基に、例えば、常法により設計し化学的に合成したオリゴヌクレオチドプローブ若しくはプライマーを用いて得られたDNAであって、かつ定常期特異的にプロモーター活性を有するDNA、好ましくは、グラム陽性菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNAも本発明に包含される。
かかるDNAは、例えば、前記ステップ▲1▼〜▲4▼のプロセスにより定常期特異的にプロモーター活性が認められたものを選択すればよい。該オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列には特に限定はないが、前記DNA又は該DNAに相補的な塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下にハイブリダイズするものであればよい。
ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第2版〔サンブルーク(Sambrook)ら、Molecular cloning,A laboratory manual 2nd edition、1989年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)社発行〕等の文献に記載の条件が挙げられ、6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルト〔Denhardt’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕と100μg/mlサケ精子DNAとを含む溶液中、用いるプローブのTm−25℃の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。
また、プライマーの塩基配列にも特に限定はなく、通常のPCRの反応条件において、前記DNA又は該DNAに相補的な塩基配列を有するDNAにアニーリングし、DNAポリメラーゼによる伸長反応を開始できるものであればよい。
オリゴヌクレオチドプローブ又はプライマーのTmは、例えば、下記式:
(式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブ又はプライマーの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブ又はプライマー中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)
により求められる。
また、オリゴヌクレオチドプローブ又はプライマーの鎖長が18塩基より短い場合、Tmは、例えばA+T(アデニン+チミン)残基の含有量と2℃との積と、G+C残基の含有量と4℃との積との和〔(A+T)×2+(G+C)×4〕により推定することができる。
前記オリゴヌクレオチドプローブ又はプライマーの鎖長は、特に限定されないが、非特異的なハイブリダイゼーション及び非特異的なアニーリングを防止する観点から、好ましくは6塩基以上、更に好ましくは10塩基以上であることが望ましい。また、オリゴヌクレオチドの合成の観点から、好ましくは100塩基以下であり、更に好ましくは30塩基以下であることが望ましい。
オリゴヌクレオチドの設計は当業者に公知であり、例えば、ラボマニュアルPCR、第13〜16頁、1996年宝酒造社発行を参考に設計することができる。また市販のソフト、例えば、OLIGOTM Primer Analysis software(宝酒造社製)を使用することができる。
また、前記オリゴヌクレオチドの合成は、公知の方法を用いて合成することが可能である。例えば、DNAシンセサイザー394型〔アプライド バイオシステム(Applied Biosystem)社製〕を用いて、ホスホアミダイト法による合成ができる。他にもリン酸トリエステル法、H−ホスホネート法、チオホスホネート法等を用いて合成することができる。
本発明のDNAにより、さらに、前記DNAと外来遺伝子とが、該外来遺伝子が発現可能な状態で配置されてなる組換えDNAが提供される。かかる組換えDNAも本発明に含まれる。
外来遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、タンパク質(例えば、酵素、サイトカイン類又は抗体等)をコードする核酸、アンチセンスRNAをコードする核酸及びリボザイムをコードする核酸などが挙げられる。かかる外来遺伝子の起源は、特に限定されないが、例えば、細菌類、酵母類、放線菌類、糸状菌類、子嚢菌類、担子菌類等の微生物;植物;昆虫;動物等が挙げられ、更に目的に応じ、人工的に合成した遺伝子も挙げられる。
より具体的には、例えば、インターロイキン(interleukin、IL)1〜12遺伝子、インターフェロン(interferon、IFN)α、β若しくはγ遺伝子、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor、TNF)遺伝子、コロニー刺激因子(colony−stimulating factor、CSF)遺伝子、エリスロポエチン(erythropoietin)遺伝子、形質転換増殖因子(transforming growth factor、TGF)−β遺伝子、免疫グロブリン(immunoglobulin、Ig)遺伝子、組織プラスミノーゲン活性化因子(tissue plasminogen activator、t−PA)遺伝子、ウロキナーゼ(urokinase)遺伝子、西洋ホタルルシフェラーゼ(Western firefly luciferase)遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本明細書でいう「リボザイム」とは、特定のタンパク質のmRNAを切断するものをいい、これら特定のタンパク質の翻訳を阻害するものをいう。リボザイムは特定のタンパク質をコードした遺伝子の配列より設計可能である。例えば、ハンマーヘッド型リボザイムは、フェブス レター(FEBS Letter)、第228巻、第228〜230頁(1988)に記載の方法を用いて作製されうる。また、ハンマーヘッド型リボザイムだけでなく、ヘアピン型リボザイム、デルタ型リボザイムなどのリボザイムの種類に関わらず、特定のタンパク質のmRNAを切断するもので、これら特定のタンパク質の翻訳を阻害するものであれば、本明細書におけるリボザイムに含まれる。
本発明のDNAは、遺伝子発現を人為的に誘導しなくても、該遺伝子を高レベルで発現することができるプロモーター活性を呈するため、特にタンパク質をコードする核酸である外来遺伝子の発現に好適である。
また、本発明のDNAにより、当該DNAを含有してなる遺伝子発現用ベクターが提供される。かかる遺伝子発現用ベクターも本発明に含まれる。
本発明の遺伝子発現用ベクターによれば、本発明のDNAを含有しているため、目的遺伝子産物を、例えばタンパク質の場合、培地1リットル当たり100〜500mgのレベルで発現することができ、かつ目的遺伝子産物をその使用目的などに応じて容易に発現させることが可能になる。
本発明の遺伝子発現用ベクターにおいて、ベクターとしては、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクターおよび該ベクターの一部から成るベクター断片が挙げられる。前記ベクター、ベクター断片は、宿主として用いられる細胞により適宜選択することができる。
宿主として用いられうる細胞としては、特に限定はないが、グラム陽性菌が挙げられる。グラム陽性菌の例として、形質転換系が確立されているバチルス属細菌が挙げられる。具体的には、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バチルス リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス スピーシーズ(Bacillus sp.)などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらバチルス属細菌に変異処理などを行い、得られたものも宿主として用いることができる。また宿主として大腸菌も使用できる。大腸菌は形質転換系が確立されており、また様々な遺伝子型の大腸菌が作製され、そのいずれもが入手容易であることから形質転換用宿主として広く用いられている。具体的には、大腸菌 K−12(Escherichia coli K−12)系統のHB101株、C600株、JM109株、DH5α株、DH10B株、XL−1BlueMRF’株、TOP10F株などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これら大腸菌に変異処理などを行い、得られたものも宿主として用いることができる。
前記ベクターとしては、例えば、宿主がバチルス属細菌である場合、プラスミドベクターとして、pHY、pUB110、pE194などが、ファージベクターとして、φ105、SPβなどが挙げられる。また、宿主が大腸菌である場合、プラスミドベクターとして、pUC18、pUC19、pBluescript、pETなどが、ファージベクターとして、λgt10、λgt11などのラムダファージベクターなど挙げられる。これらベクターを適宜選択し、本発明のDNAを含めることにより、定常期特異的に外来遺伝子を発現させることが可能な、本発明の遺伝子発現用ベクターを構築することができる。
本発明の遺伝子発現用ベクターの構築には、前記モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第2版などに記載の手法を利用することができる。また、例えば、後述の実施例に記載の構築に従って作製することができる。
本発明の遺伝子発現用ベクターは、rrnBT1T等のターミネーター、選択可能なマーカー遺伝子などを含んでもよい。
選択可能なマーカー遺伝子としては、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子などが挙げられる。
また、本発明の遺伝子発現用ベクターは、目的遺伝子産物の使用目的に応じて、例えば、目的遺伝子の産物の単離操作の簡便化をはかるために、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質などの異種タンパク質との融合タンパク質として発現できるような配列、あるいはヒスチジンタグなどが付加されたタンパク質として発現できるようなタグ配列を含有してもよい。
さらに、本発明により、前記組換えDNAを含有した発現ベクターが提供される。かかる発現ベクターも本発明に含まれる。また、本発明の発現ベクターには、前記遺伝子発現用ベクターに目的遺伝子を組み込むことにより得られた構築物をも含まれる。
また、本発明の発現ベクターには、前記遺伝子発現用ベクターで挙げられたベクターと同様のベクターを使用できる。
本発明の発現ベクターは、(a)前記組換えDNAを適当なベクターに組み込むこと、(b)前記遺伝子発現用ベクターに目的遺伝子を組み込むこと、あるいは(c)前記遺伝子発現用ベクター断片に目的遺伝子を連結すること、により作製することができる。
また、本発明の組換えDNA及び発現ベクターにより、さらに、前記組換えDNAを保持してなる形質転換細胞、あるいは前記発現ベクターを保持してなる形質転換細胞も提供することができる。
宿主としては、前出「宿主として用いられうる細胞」と同様な細胞が挙げられる。
組換えDNAの宿主への導入は、例えば、遺伝子工学実験、第12頁〜第23頁、(社)日本アイソトープ協会編、平成3年発行;ビロロジー(Virology)、第52巻、第456頁(1973);モレキュラー アンド セルラー バイオロジー(Molecular and Cellular Biology)、第7巻、第2745頁(1987);ジャーナル オブ ザ ナショナル キャンサー インスティテュート(Journal of the National Cancer Institute)、第41巻、第351頁(1968);エンボ ジャーナル(EMBO Journal)、第1巻、第841頁(1982)等に記載の方法により行なうことができる。
発現ベクターの宿主への導入は、例えば、sponteneous competence法〔遺伝子工学実験、第12〜23頁、(社)日本アイソトープ協会編、平成3年発行〕、リン酸カルシウム法〔モレキュラー アンド セルラー バイオロジー、第7巻、第2745頁(1987)〕、電気穿孔法〔プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第81巻、第7161頁(1984)〕、DEAE−デキストラン法〔メソッズ イン ヌクレイック アシッズ リサーチ(Methods in Nucleic Acids Research)、第283頁、カラムら編、1991年CRCプレス社発行〕、リポソーム法〔バイオテクニークス(BioTechniques)、第6巻、第682頁(1989)〕等により行なうことができる。
さらに、本発明の形質転換細胞によれば、形質転換細胞を培養して、得られた培養物からタンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の製造方法が提供される。かかる「タンパク質の製造方法」も本発明に含まれる。
より具体的には、
(I)a)本発明のDNAの下流にタンパク質をコードする核酸が発現可能に配置された組換えDNA、又は
b)該組換えDNAを含有したベクター
を用いて、宿主細胞を形質転換する工程、
(II)(I)で得られた形質転換細胞を培養して、得られた培養物から該タンパク質を採取する工程、
により、タンパク質を製造することができる。
形質転換細胞の培養は、宿主として用いられた細胞、発現対象のタンパク質の性質などにより適宜選択することができる。
得られたタンパク質は、慣用のタンパク質の精製手段により精製することができる。かかる精製手段としては、例えば、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等が挙げられる。
また、本発明のタンパク質の製造方法には、本発明のDNA又は本発明の遺伝子発現用ベクターを含有した、タンパク質の製造用キットを構築し、使用することができる。かかるキットにより、より簡便にタンパク質の製造を行なうことができる。
実施例
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
ここで、本発明において用いられるBacillus subtilis各株の関係および特徴について以下に示す。
B.subtilis Marburg 168株:組換えDNA実験における、枯草菌宿主として汎用されている菌株の親株。
B.subtilis DB104株:B.subtilis Marburg 168株の誘導体の1つであり、ヒスチジン要求株である。栄養要求性以外の変異(nprR2、nprE18、aprED3)はUOT1285株と同一である。
B.subtilis UOT1285株:B.subtilis Marburg 168株の誘導体の1つであり、トリプトファンおよびリジン要求株である。栄養要求性以外の変異(nprR2、nprE18、aprED3)はDB104株と同一である。
実施例1 枯草菌DNAチップを用いた定常期特異的発現遺伝子の探索
枯草菌ゲノムデータベース(http://genolist.pasteur.fr/SubtiList/genome.cgi)のDNA配列情報を用い、枯草菌の全ORFについて各々のほぼ全長を増幅できるようなPCRプライマーを設計した。これらのプライマーを用いてBacillus subtilis Marburg 168株〔モレキュラー アンド ジェネラル ジェネティクス(Molecular & General Genetics)、第152巻、第65〜69頁(1977)〕のゲノムDNAに対して96ウェルプレート中でTaKaRa Ex Taq又はTaKaRa Z−Taq(共に宝酒造社製)を用いて、PCRを行った。
得られたPCR産物を精製し、アガロースゲル電気泳動で純度及びサイズを確認した後、吸光度測定によりDNA濃度を算出した。
得られたDNA断片溶液をイソプロパノール沈澱によって濃縮し、1.0μg/mlのDNA断片を、国際公開第00/26404号パンフレットに記載の方法に準じてスライドグラス上に固定化し、DNAチップを作製した。
Bacillus subtilis UOT1285株〔ジャーナル オブ ジェネラル マイクロバイオロジー(Journal of General Microbiology)、第135巻、第1335〜1345頁(1989)〕を50mlの2×SG〔1.6% Nutrient Broth、0.05% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、1mM Ca(NO3)2・4H2O、0.1mM MnCl2・4H2O、0.001mM FeSO4・7H2O、0.1% グルコース〕中、37℃で培養し、培養開始3、4、5時間後にそれぞれ培養液の一部を取り、遠心分離により集菌した。得られた菌体をTRIZOL試薬〔ギブコ ビーアールエル(GIBCO BRL)社製〕に懸濁し、ガラスビーズを加えてMINI−BEADBEATER〔バイオスペック プロダクツ(BIOSPEC PRODUCTS)社製〕で菌体を破砕後、TRIZOL試薬のプロトコールに従って、クロロホルム抽出、イソプロパノール沈澱によりRNAを回収した。回収したRNAはRNase−free DNase I(宝酒造社製)で処理した後、フェノール/クロロホルム抽出、次いでエタノール沈澱で回収した結果、約90〜100μg得られた。これをテンプレート用RNAとした。
上記で調製したテンプレート用RNA 15μgを用い、Cy3−dUTP〔アマシャム ファルマシア バイオテク(Amersham Pharmacia Biotech)社製〕を用いて逆転写酵素反応を行い、Cy3で標識されたcDNAプローブを調製した。
次に、上記で作製したDNAチップをプレハイブリダイゼーション液(4×SSC、0.2%SDS、5×デンハルト溶液、1mg/ml denatured salmon sperm DNA)中、室温で2時間のプレハイブリダイゼーション後、2×SSC次いで0.2×SSCで洗浄し、乾燥させた。続いて、denatured salmon sperm DNA濃度を0.1mg/mlとしたほかは、プレハイブリダイゼーション液と同じ組成のハイブリダイゼーション液中で、上記で調製したCy3標識cDNAプローブを用いて、65℃、一晩、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後、0.2%SDS含有2×SSC中、55℃で30分2回、65℃で5分、更に0.05×SSC中、室温で5分間洗浄し、乾燥した。
このハイブリダイゼーションしたDNAチップについてDNAチップ解析装置Affymetrix 418 Array Scanner〔アフィメトリックス(Affymetrix)社製〕で蛍光検出した。この蛍光検出では、画像上、シグナル強度は青<緑<黄<橙<赤<白の連続した色段階で表現される。
得られた画像データについて、発現データ解析ソフトウェアImaGene〔バイオディスカバリー(BioDiscovery)社製〕を用いて、該ソフトウェアに添付の説明書に従い、シグナル強度の測定及び解析を行った。尚、数値化されたCy3のシグナル強度を、rRNAのシグナルを内部標準として調整した値で比較し、枯草菌の生育ステージ毎の遺伝子の発現シグナルを計測した。その結果、培養3時間後での発現シグナルが強い遺伝子や、培養5時間後に発現シグナルが強い遺伝子が認められ、ORFによって発現パターンが明らかに異なっていることが分かった。
これらの発現シグナルの違いを更に詳細に検討するため、培養3時間後の発現シグナルを分母として4時間後、5時間後の相対的な発現量比を算出し、発現量の生育ステージ特異性を観た。主な遺伝子の結果を表1に示す。
表1から明らかなように、定常期である培養5時間後での発現量が著しく増大している遺伝子が認められた。
実施例2 枯草菌マクロメンブレンを用いた定常期特異的発現遺伝子の探索
実施例1で調製したテンプレート用RNA 15μgを用い、DIG−11−dUTP〔ロシュ ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics)社製〕を用いて逆転写酵素反応を行い、ジゴキシゲニン(以下、DIGと略す)で標識されたcDNAプローブを調製した。
次に、このDIG標識cDNAプローブを用いて、Bacillus subtilis DNA array〔ユーロゲンティック(EUROGENTEC)社製、以下マクロメンブレンと記す、B.subtilis Marburg 168株由来推定ORFs〕に対してハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは、DIG Easy Hyb Granules(ロシュ ダイアグノスティックス社製)の溶液中で、42℃、30分間、プレハイブリダイゼーション後、更に42℃、一晩、ハイブリダイゼーションを行った。次いで、DIG Wash and Block Buffer及びDetection kit(共にロシュ ダイアグノスティックス社製)を用いて検出した。検出結果は、感光フィルムに現像されるが、これを画像解析装置 Model GS−700 Imaging Densitometer〔バイオラッド(BioRad)社製〕で、画像解析ソフト Adobe Photoshop〔アドビ(Adobe)社製〕による画像取り込みを行い、画像解析ソフト MultiAnalyst(バイオラッド社製)を用いて、該ソフトウェアに添付の説明書に従い、シグナル強度を測定及び解析を行った。尚、数値化されたDIGのシグナル強度により、枯草菌の生育ステージ毎の遺伝子の発現シグナルを計測した。その結果、培養3時間後での発現シグナルが強い遺伝子や、培養5時間後に発現シグナルが強い遺伝子が認められ、ORFによって発現パターンが明らかに異なっていることが分かった。
これらの発現シグナルの違いを更に詳細に検討するため、培養3時間後の発現シグナルを分母として4時間後、5時間後の相対的な発現量比を算出し、発現量の生育ステージ特異性を観た。主な遺伝子の結果を表2に示す。
表2から明らかなように、定常期である5時間後での発現量が著しく増大している遺伝子が認められた。
実施例3 定常期特異的プロモーターのスクリーニング
定常期特異的プロモーターのスクリーニングには、実施例1及び実施例2での探索をそれぞれ2回ずつ行い、得られた結果から、定常期である5時間後での発現量が著しく増大していた遺伝子を総合的に判断し、23種の遺伝子(acoA、acoL、iolJ、sigF、sipW、spoIIB、spoIIIAH、spoIVA、yabS、ybcO、ybcP、ybcQ、ybcS、ybcT、ybdA、ybdD、yfiA、ygaB、yjdB、yngJ、yobH、yqxA、yrzE)を選出し、以下の実験に使用した。
定常期特異的プロモーターのスクリーニングは、定常期特異的発現遺伝子のプロモーター領域を含むと考えられる上記23種類の遺伝子のDNA断片を外来遺伝子に連結し、遺伝子発現用ベクターをそれぞれ構築することにより行った。
遺伝子発現用ベクターの構築は、市販のゲル精製及びプラスミド精製用の酵素、ゲル精製用キット及びプラスミド精製用キットを用いた。また、特に明記しないかぎり、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル 第2版(サンブルークら、1989年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー プレス社発行)に記載の方法で行った。
まず、上記23種類の遺伝子の定常期特異的発現遺伝子のSD配列よりさらに上流域に存在するプロモーターを含むと考えられる約180bpのDNA断片を増幅するために、実施例1に記載の枯草菌ゲノムデータベース(http://genolist.pasteur.fr/SubtiList/genome.cgi)の配列を基にして、23種類の遺伝子のそれぞれの上流領域を増幅するためのプライマーを設計した(計46種類のプライマー)。また、増幅後の操作を簡便にするため、設計したプライマーの両サイドにそれぞれ制限酵素KpnIサイトとEcoRIサイトを導入した。
尚、acoA遺伝子のプロモーター領域と考えられるDNA断片を増幅するためのプライマー配列は、配列表の配列番号7(プライマーaAF1)及び配列番号8(プライマーaAR1)に、spoIIB遺伝子のプロモーター領域と考えられるDNA断片を増幅するためのプライマー配列は配列番号9(プライマーspBF1)及び配列番号10(プライマーspBR1)に、ybcO遺伝子のプロモーター領域と考えられるDNA断片を増幅するためのプライマー配列は配列番号11(プライマーybOF1)及び配列番号12(プライマーybOR1)に、yjdB遺伝子のプロモーター領域と考えられるDNA断片を増幅するためのプライマー配列は配列番号13(プライマーyjBF1)及び配列番号14(プライマーpjBR1)に、yngJ遺伝子のプロモーター領域と考えられるDNA断片を増幅するためのプライマー配列は配列番号15(プライマーynJF1)及び配列番号16(プライマーynJR1)に、yrzE遺伝子のプロモーター領域と考えられるDNA断片を増幅するためのプライマー配列は配列番号17(プライマーyrEF1)及び配列番号18(プライマーyrER1)に示す。
次に、ISOPLANT kit〔ニッポンジーン(NIPPON GENE)社製〕を用いて、該キットに添付の説明書に従って、バチルス サブチリス DB104株〔ジーン(Gene)、第83巻、第215〜233頁(1989)〕よりゲノムDNAを調製した。
得られたゲノムDNAを鋳型として、上記設計したプライマーを用い、PCR反応を、94℃で30秒、50℃で1分、72℃で1分を1サイクルとして、20サイクル行なった。
こうして増幅されたプロモーターを含むと考えられる23種類のDNA断片を、以下に用いた。
定常期特異的プロモーターをスクリーニングするための外来遺伝子として、国際公開第98/56926号パンフレットに記載のピロコッカス フリオサス(Pyrococcus furiosus)由来の超耐熱性プロテアーゼPFUS遺伝子を用いた。
国際公開第98/56926号パンフレットに記載の超耐熱性プロテアーゼPFUS遺伝子を含有するプラスミドpSPO124ΔCを保有する菌株、Bacillus subtilis DB104/pSPO124ΔC(FERM BP−6294)を、10μg/mlカナマイシン含有LB培地 5ml中、37℃で一晩培養した後、集めた菌体よりQIAGEN Plasmid Mini kit〔キアゲン(QIAGEN)社製〕を用いて、該キットに添付の説明書に従い、プラスミドpSPO124ΔCを調製した。その際、4mg/ml Lysozymeを添加したkitに添付されているbuffer P1に懸濁した菌体は、37℃で30分間処理を行った。
得られたプラスミドpSPO124ΔCを鋳型として、バチルス サブチリス由来のズブチリシンEをコードするaprE遺伝子のSD配列、分泌シグナル、超耐熱性プロテアーゼPFUS構造遺伝子を含む5448bpのDNA断片を、プライマーPLF1(配列番号19)及びプライマーPLR1(配列番号20)を用いたPCRにより増幅した。これをベクター断片とし、以下に用いた。
以下、yngJ遺伝子のプロモーター領域を含むDNA断片を例として示す。
上記で増幅されたyngJ遺伝子のプロモーター領域を含むと考えられるDNA断片を、制限酵素KpnIとEcoRI(共に宝酒造社製)とで消化し、精製した。得られたDNA断片を、制限酵素KpnIとEcoRIとで消化したベクター断片と混合してライゲーション行い、この反応液を用い、バチルス サブチリス DB104株を形質転換した。これを、1%スキムミルク及び10μg/mlカナマイシン含有のLBプレートにまき、37℃、16時間、静置培養を行った。
得られたカナマイシン耐性の形質転換体について、上記180bpのDNA断片が挿入されているクローンを選択するため、上記プロモーター領域を含むDNA断片を増幅できるプライマーUBF1(配列番号21)及びプライマーSBPR1(配列番号22)を設計した。この2つのプライマーの組合わせで、1mM PMSFを含有する反応液中、TaKaRa Ex Taq(宝酒造社製)を用いたPCR反応を、94℃で30秒、55℃で1分、72℃で1分を1サイクルとして、20サイクル行った。
こうして180bpのDNA断片が挿入されたクローンを選択した。選択した形質転換体よりプラスミドを調製し、これをpND20と命名した。
また、他の22種類のDNA断片についても同様の操作を行い、形質転換体が得られたクローンの中からプロモーター配列がpND20とは異なる18種類のクローンを得た。この形質転換体よりプラスミドを調製した(合計19種類)。
実施例4 定常期特異的発現ベクターによる超耐熱性プロテアーゼの生産
(1)超耐熱性プロテアーゼPFUS遺伝子を含有するプラスミドで形質転換したバチルス サブチリスの培養と粗酵素液の調製
実施例3で作製した、超耐熱性プロテアーゼPFUS遺伝子を含有するプラスミドpND20を導入したバチルス サブチリス DB104株(Bacillus subtilis DB104/pND20)を、10μg/mlカナマイシン含有TKRBS1培地(20mg/ml ポリペプトン、2mg/ml 酵母エキス、10mg/ml 肉エキス、40mg/ml グルコース、20μg/ml FeSO4・7H2O、20μg/ml MnSO4・5H2O、2μg/ml ZnSO4・7H2O)1ml中、37℃で培養した。培養開始後、4、7、10、13日後にそれぞれ100μlの培養液を採取し、95℃で30分間熱処理後、遠心分離により上清を集め、粗酵素液とした。
また、他の18種類のプラスミドをそれぞれ1種類ずつ導入したバチルス サブチリス DB104株についても、同様に、粗酵素液を調製した。
(2)超耐熱性プロテアーゼ生産能の比較
超耐熱性プロテアーゼPFUSの活性測定はSuc−Ala−Ala−Pro−Phe−p−NA〔シグマ(Sigma)社製〕を基質とし、酵素による加水分解反応によって生成するp−ニトロアニリンを分光学的に測定することによって行なった。
すなわち、酵素活性を測定しようとする酵素標品を100mMリン酸緩衝液(pH7.0)で適度に希釈し、その試料溶液 50μlに1mM Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−p−NA溶液〔100mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて調製〕50μlを加え、95℃で30分間反応させた。その後、氷冷して反応を停止した後、405nmにおける吸光度を測定し、p−ニトロアニリンの生成量を求めた。
酵素1単位は、95℃において1分間に1μmolのp−ニトロアニリンを生成する酵素量とした。
更に、得られた酵素活性をもとに発現された酵素タンパク質量を、超耐熱性プロテアーゼPFUSのタンパク質重量当たりの比活性を9.5単位(unit)/mgとして算出した。
実施例4−(1)で調製した各粗酵素液を酵素標品とし、超耐熱性プロテアーゼ活性を測定した。その結果、6種類のプラスミド(pND1、pND6、pND10、pND19、pND20、pND23)で超耐熱性プロテアーゼPFUSの発現が認められた。この6種類のプラスミドに組込まれたプロモーター領域の塩基配列をそれぞれ配列表の配列番号1〜6に示す。更に、これら発現が認められた6種類のプラスミドについて、Bacillus subtilis DB104/pSPO124ΔCでの発現量を1とした場合の相対値を表3に示す。
表3から明らかなように、pSPO124ΔCと比較して、pND6で約1.2倍、pND10で約1.5倍以上、pND20では約2倍以上に超耐熱性プロテアーゼPFUS発現量が増加した。pND6では培養初期の4日目では、超耐熱性プロテアーゼPFUSの発現がほとんど認められず、培養後期の10日目ではpSPO124ΔCよりも発現量は大となった。
超耐熱性プロテアーゼPFUSの発現が認められたプラスミドについて、超耐熱性プロテアーゼPFUSの発現量が最大となった培養日数と生産量を、プロモーターの起源となる遺伝子名とともに表4に示す。表中の生産量は培養液1リットル当たりのmg数で示す。
表4から明らかなように、pSPO124ΔCと比較してpND6、pND10、pND20では、より短期間の培養日数で、より多くの超耐熱性プロテアーゼPFUSが生産された。
実施例5 定常期特異的発現ベクターによる、アルカリプロテアーゼ、ニトロフェニルホスファターゼ、ピロリドンカルボキシルペプチダーゼおよびメチオニルアミノペプチダーゼの生産
(1)ベクターの調製
前述の実施例3において構築されたプラスミドのうち、pND1、pND6、pND10、pND19およびpND23、ならびにコントロールとしてpSPO124ΔCをそれぞれ鋳型として、リポーター遺伝子であるプロテアーゼPFUS遺伝子を除いた領域、すなわち、プロモーター領域、SD配列、分泌シグナル、ベクターを含む領域を、プライマーNDF1(配列番号23)およびプライマーNDR1(配列番号24)を用いたPCRにより増幅した。得られた増幅断片を、制限酵素SpeIおよびMluI(共に宝酒造社製)とで消化し、精製した。これをベクター断片とし、以下に用いた。
(2)リポーター遺伝子の調製および発現ベクターの構築
(i)アルカリプロテアーゼ遺伝子
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation)より、超好熱菌Aeropyrum pernix K1株由来アルカリプロテアーゼ遺伝子を保有するプラスミドA2GR7310を譲受した。これを鋳型として、アルカリプロテアーゼをコードする領域を、プライマーAP1F1(配列番号25)およびプライマーAP1R1(配列番号26)を用いたPCRにより増幅した。得られた増幅断片を、制限酵素SpeIおよびMluI(共に宝酒造社製)とで消化し、精製した。これをリポーター遺伝子断片とし、以下に用いた。
リポーター遺伝子として用いたA.pernix由来アルカリプロテアーゼ遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号33に示す。
前記リポーター遺伝子断片を、pND6、pND10およびpSPO124ΔC由来のベクター断片とそれぞれライゲーションし、得られた組換えプラスミド(発現ベクター)をそれぞれpND6A1、pND10A1およびpSPOA1と命名した。
(ii)ニトロフェニルホスファターゼ遺伝子
独立行政法人 製品評価技術基盤機構より、超好熱菌Aeropyrum pernix K1株由来ニトロフェニルホスファターゼ遺伝子を保有するプラスミドA2GR0030を譲受した。これを鋳型として、ニトロフェニルホスファターゼをコードする領域を、プライマーAP7F1(配列番号27)およびプライマーAP7R1(配列番号28)を用いたPCRにより増幅した。得られた増幅断片を、制限酵素SpeIおよびMluI(共に宝酒造社製)とで消化し、精製した。これをリポーター遺伝子断片とし、以下に用いた。
リポーター遺伝子として用いたA.pernix由来ニトロフェニルホスファターゼ遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号34に示す。
前記リポーター遺伝子断片を、pND10、pND23およびpSPO124ΔC由来のベクター断片とそれぞれライゲーションし、得られた組換えプラスミド(発現ベクター)をそれぞれpND10A7、pND23A7およびpSPOA7と命名した。
(iii)ピロリドンカルボキシルペプチダーゼ遺伝子
独立行政法人 製品評価技術基盤機構より、超好熱菌Pyrococcus horikoshii OT3株由来ピロリドンカルボキシルペプチダーゼ遺伝子を保有するプラスミド2708を譲受した。これを鋳型として、ピロリドンカルボキシルペプチダーゼをコードする領域を、プライマーPH1F1(配列番号29)およびプライマーPH1R1(配列番号30)を用いたPCRにより増幅した。得られた増幅断片を、制限酵素SpeIおよびMluI(共に宝酒造社製)とで消化し、精製した。これをリポーター遺伝子断片とし、以下に用いた。
リポーター遺伝子として用いたP.horikoshii由来ピロリドンカルボキシルペプチダーゼ遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号35に示す。
前記リポーター遺伝子断片を、pND10、pND19およびpSPO124ΔC由来のベクター断片とそれぞれライゲーションし、得られた組換えプラスミド(発現ベクター)をそれぞれpND10P1、pND19P1およびpSPOP1と命名した。
(iv)メチオニルアミノペプチダーゼ遺伝子
独立行政法人 製品評価技術基盤機構より、超好熱菌Pyrococcus horikoshii OT3株由来メチオニルアミノペプチダーゼ遺伝子のPCR増幅断片PH0628PCRを譲受した。これを鋳型として、メチオニルアミノペプチダーゼをコードする領域を、プライマーPH2F1(配列番号31)およびプライマーPH2R1(配列番号32)を用いたPCRにより増幅した。得られた増幅断片を、制限酵素SpeIおよびMluI(共に宝酒造社製)とで消化し、精製した。これをリポーター遺伝子断片とし、以下に用いた。
リポーター遺伝子として用いたP.horikoshii由来メチオニルアミノペプチダーゼ遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号36に示す。
前記リポーター遺伝子断片を、pND1、pND19およびpSPO124ΔC由来のベクター断片とそれぞれライゲーションし、得られた組換えプラスミド(発現ベクター)をそれぞれpND1P2、pND19P2およびpSPOP2と命名した。
(3)形質転換体の作製およびリポーター遺伝子の発現
上記実施例5−(2)において作製した、それぞれの発現ベクターを用い、バチルス サブチリス DB104株をそれぞれ形質転換した。これを、1%スキムミルクおよび10μg/mlカナマイシン含有LBプレートにまき、37℃、16時間、静置培養を行った。
得られたカナマイシン耐性形質転換体より、上記酵素をコードする遺伝子が挿入されているクローンを選択し、1mlの10μg/mlカナマイシン含有TKRBS1培地中、37℃で培養した。培養10日後(アルカリプロテアーゼのみ7日後)の培養液を95℃、30分間熱処理後、遠心分離により上清を回収し、粗酵素液(酵素標品)とした。
(4)活性測定
(i)アルカリプロテアーゼ
アルカリプロテアーゼの活性測定は、ゼラチン〔ナカライテスク(nacalaitesque)社製〕を基質として、以下のようにして行なった。
酵素活性を測定しようとする酵素標品を50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)にて適度に希釈し、これとSDS−PAGEローディングバッファーとを混合し、室温で30分以上放置した。これを、0.05%ゼラチンを含むSDS含有10%ポリアクリルアミドゲルに負荷し、電気泳動を行った。泳動後、50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)にてゲルを洗浄した。洗浄したゲルを、50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中、95℃で3時間保温した。その後、氷冷して反応を停止した後、クマシーブルー染色し、画像解析ソフト Adobe Photoshop(アドビ社製)にてゲル像を画像ファイル化し、NIHイメージソフトにて活性シグナルを数値化した。
(ii)ニトロフェニルホスファターゼ
ニトロフェニルホスファターゼの活性測定は、p−ニトロフェニルリン酸(シグマ社製)を基質として、以下のようにして行なった。
酵素活性を測定しようとする酵素標品を、1mM ZnCl2を含む100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)にて適度に希釈し、その試料溶液50μlに2mM p−ニトロフェニルリン酸溶液〔1mM ZnCl2を含む100mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)にて調製〕50μlを加え、95℃で10分間反応させた。その後、氷冷して反応を停止し、Piper Phosphate Assay Kit〔モレキュラー プローブ(Molecular Probe)社製〕を用いて、544nmの励起光による590nmにおける蛍光発光を測定し、遊離リン酸の生成量を求めた。
(iii)ピロリドンカルボキシルペプチダーゼ
ピロリドンカルボキシルペプチダーゼの活性測定は、ピログルタミン酸−4−メチル−クマリル−7−アミド(以下、Pyr−MCAと略す)〔ペプチド研究所(PEPTIDE INSTITUTE)製〕を基質として、以下のようにして行なった。
酵素活性を測定しようとする酵素標品を、10mM DTTおよび1mM EDTAを含む50mM リン酸緩衝液(pH7.0)にて適度に希釈し、その試料溶液 50μlに0.2mM Pyr−MCA溶液〔10mM DTTおよび1mM EDTAを含む50mM リン酸緩衝液(pH7.0)にて調製〕50μlを加え、95℃で30分間反応させた。その後、氷冷して反応を停止し、355nmの励起光による460nmにおける蛍光発光を測定し、MCAの生成量を求めた。
酵素1単位は、95℃において1分間に1μmolのMCAを生成する酵素量とした。
(iv)メチオニルアミノペプチダーゼ
メチオニルアミノペプチダーゼの活性測定は、Met−Ala−Ser〔バッヘム(BACHEM)社製〕を基質として、以下のようにして行なった。
酵素活性を測定しようとする酵素標品を、0.5mM CoCl2を含む100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)にて適度に希釈し、その試料溶液5μlに1mM Met−Ala−Ser〔0.5mM CoCl2を含む100mM リン酸カリウム緩衝(pH7.5)にて調製〕45μlを加え、75℃で5分間反応させた。その後、氷冷し、10μlの100mM EDTAを加えて反応を停止した後、50μlの混合溶液A〔0.18mg/ml L−アミノ酸オキシダーゼ、50μg/ml ペルオキシダーゼおよび0.18mg/ml o−ジアニシジンを含む100mM リン酸カリウム緩衝(pH7.5)〕を加え、37℃で10分間反応させた。その後、氷冷して反応を停止し、450nmにおける吸光度を測定した。
(5)産生能の比較
上記実施例5−(4)で測定した各酵素標品の酵素活性より、培養液中の総酵素活性を算出した。
aprE遺伝子のプロモーターを有する発現ベクター(pSPOA1、pSPOA7、pSPOP1およびpSPOP2)による発現量ををそれぞれ1とした、各発現ベクターでの相対発現量を、以下の表5に示す。
産業上の利用の可能性
本発明により、遺伝子発現を誘導しなくても、該遺伝子を高レベルで定常期特異的に発現することができるプロモーターが提供される。
【配列表】
Claims (2)
- (1)以下の(a)〜(c)からなる群より選択される組換えDNA及び/又は発現ベクターを保持してなる形質転換細胞を培養する工程:
(a)配列表の配列番号1〜6のいずれかに示された塩基配列を有するDNAであって、かつ枯草菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNAと、タンパク質をコードする外来遺伝子が発現可能な状態で配置されてなる組換えDNA;
(b)(a)のDNAにストリンジェントな条件下、ハイブリダイズ可能であって、かつ枯草菌において定常期特異的にプロモーター活性を呈する単離されたDNAと、タンパク質をコードする外来遺伝子が発現可能な状態で配置されてなる組換えDNA;及び
(c)(a)又は(b)の組換えDNAを含む発現ベクター、並びに
(2)得られた培養物から、定常期特異的に発現された外来遺伝子によってコードされるタンパク質を採取する工程
を包含することを特徴とする、タンパク質の製造方法。 - 組換えDNAが、配列表の配列番号1〜6のいずれかに示された塩基配列を有するDNAと、外来遺伝子が発現可能な状態で配置されてなる組換えDNAである、請求項1記載の製造方法。
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