JP4024384B2 - 抵抗体ペースト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体ワニスに導電剤を分散した、電気抵抗体を製造するための抵抗体ペーストに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来基板に印刷される抵抗体は、有機溶剤に溶解したエポキシ樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂からなるバインダー樹脂に、導電剤やその他の添加物を加え、混合、分散して抵抗体ペーストを調製し、その抵抗体ペーストを基板上に塗布、乾燥、硬化することによって作製されている。
近年は、車載用途を中心とした高温環境下における使用の要求に対し、バインダー樹脂として、耐熱性の高いポリイミド樹脂が使用されるようになってきた(特開平3−233904号公報、特開平7−22214号公報)。
【0003】
高温環境下における用途に対応するため、ポリイミド樹脂をバインダー樹脂として使用すると、ポリイミド樹脂およびそのポリイミド前駆体は、ジメチルフォルムアミドやN−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのN、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤にしか溶解しない。また、前記のような有機溶剤を使用しても、その溶解度が小さいため、ワニス中の樹脂固形分比率を高くすることは困難である。そのため、そのようなポリイミド樹脂ワニスおよびそのポリイミド前駆体ワニスを用いて作製した抵抗体ペーストにおいては、所定の抵抗値の抵抗体とするために、所定の塗布厚みを要するから、繰り返し印刷するなどの繁雑な作業が必要となっている。
【0004】
また、前記のようなN、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤は、水の溶解度が無限に近く、空気中の水分を容易に吸収する。ポリイミド樹脂ワニスおよびそのポリイミド前駆体ワニスにおいて、水分の吸収は樹脂の溶解性を低下させる働きがある。そのため、抵抗体ペーストの製造工程や印刷塗布工程等において有機溶剤が吸湿することにより、ポリイミド樹脂およびそのポリイミド前駆体が分離したり、溶出したりする問題が生じやすい。また、分離、溶出には至らない場合においても、抵抗体ペーストの分散性が低下し、導電剤やその他の添加物が凝集することによって、抵抗体表面の面精度の低下が引き起こされる。その結果、抵抗値のバラツキや接点ブラシとの接触部の磨耗が著しくなり、製品特性上大きな問題となる。これらを解消するためには、製造現場の湿度をコントロールするための設備導入をする必要があり、大幅なコストアップとなってしまう。
さらに、N、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤は、製造工程で使用するプラスチック製の治具を溶解するため、装置のメンテナンス等に多大な労力が必要となり、大量生産を行う上で障害となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上に鑑み、バインダー樹脂を改良して、生産性に優れ、取り扱いが容易な抵抗体ペーストを提供することを目的とする。
本発明は、また高温における抵抗値変動の少ない抵抗体を与える抵抗体ペーストを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、抵抗体ペーストに使用するバインダー樹脂に関して検討を加えた結果、分子構造に非対称構造を持たせ、分子鎖の剛直性を低減した式(1)で表されるジアミンと、式(2)で表されるカルボン酸からなるポリイミド前駆体を使用することにより、前記のようなN、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤のみならず、その他の有機溶剤にも溶解可能であり、かつポリイミド前駆体の濃度が高い抵抗体ペーストを調製することができることを見出した。また、そのポリイミド前駆体を硬化反応させたものは、従来のポリイミド樹脂と同等の耐熱性が得られることを見出した。
【0007】
【化2】
【0008】
(式中R1、R2は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、R3〜R6は水素原子または炭素数1〜5のアルキル基、mは0〜10の整数である。)
すなわち、本発明の抵抗体ペーストは、有機溶剤に溶解したポリイミド前駆体ワニス、および導電剤、必要に応じて加える無機粒子からなる抵抗体ペーストにおいて、前記ポリイミド前駆体ワニス中のポリイミド前駆体が式(1)で表されるジアミンと式(2)で表されるカルボン酸からなることを特徴とする。
本発明の抵抗体ペーストを基板に塗布した塗膜を硬化させて得られる抵抗体中のバインダー樹脂は、以下の式(3)で表される。
【0009】
【化3】
【0010】
(式中nは10〜5000の整数である。)
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、有機溶剤に高濃度で溶解された上記ポリイミド前駆体をバインダー樹脂として使用することにより、従来のポリイミド樹脂では困難であった、生産性に優れ、取り扱いが容易な抵抗体ペーストを得ることができる。また、このペーストを用いることにより、高温における抵抗値変動の少ない抵抗体を得ることが可能となる。
本発明者らの検討によれば、ポリイミド前駆体ワニス中のポリイミド前駆体濃度は、5wt%以上80wt%以下であることが好ましい。これより濃度が低いと、塗布装置の調整だけでは、所定の抵抗体厚を得ることが困難となり、そのために繰り返し塗布する必要が生じ、生産性の点で利点が無くなってしまう。反対に、前記範囲より濃度が高いと、ポリイミド前駆体を安定的に溶解することが困難となり、また、有機溶剤の選択により溶解が可能となっても、ペースト粘度が高く生産性に劣ってしまう。生産性を考慮すると、より好ましい濃度範囲は、35wt%から55wt%の範囲である。この範囲であれば、ファインパターン形成に使用するスクリーン印刷の印刷適性に優れた抵抗体ペーストを容易に得ることが可能となる。
【0012】
使用する有機溶剤は、ブチルセルソルブ、フェニルセルソルブなどのセルソルブ類、酢酸エチルセルソルブ、酢酸ブチルセルソルブなどの酢酸セルソルブ類、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのカルビトール類、酢酸エチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトールなどの酢酸カルビトール類、ジメチルカルビトール(ジグライム)、ジエチルカルビトールなどのカルビトールジエーテル類、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類、γ―ブチロラクトンなどのエステル類など、沸点が150℃以上の有機溶剤であることが好ましい。これは、連続的な生産を行う上で、沸点が150℃未満の有機溶剤を使用すると、有機溶剤の揮発が著しく、抵抗体ペーストの粘度が安定しないためである。また、本発明に用いる前記ポリイミド前駆体樹脂は、N、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤、その他の有機溶剤のどちらにも溶解可能である。しかし、抵抗値の安定性、製造装置のメンテナンスなどを考慮すると、ブチルセルソルブ、フェニルセルソルブなどのセルソルブ類、酢酸エチルセルソルブ、酢酸ブチルセルソルブなどの酢酸セルソルブ類、メチルカルビトール、エチルカルビトールなどのカルビトール類、酢酸エチルカルビトール、酢酸ブチルカルビトールなどの酢酸カルビトール類、ジメチルカルビトール(ジグライム)、ジエチルカルビトールなどのカルビトールジエーテル類、シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類、γ―ブチロラクトンなどのエステル類など、N、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤以外の有機溶剤であることが好ましい。ただし、N、SあるいはPを分子中に含む極性の強い有機溶剤を使用した方が、ポリイミド前駆体樹脂の溶解性は高くなるため、膜厚を厚くしたい場合には、より高濃度のポリイミド前駆体ワニスを得るために、極性の強い有機溶剤を使用することもできる。
【0013】
本発明に用いられる導電剤としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、グラファイト等様々な種類、および量のカーボン、金、銀、銅等様々な種類、および量の金属粒子を使用することができる。
抵抗値、膜硬度、摩擦係数、粘度などを調整する目的で、無機粒子を加えて分散することもできる。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、亜鉛華、酸化鉄、フェライト、チッ化アルミニウムなどが用いられる。無機粒子の形状は、真球状、針状、フレーク状などが用いられる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
《実施例 1》
ポリイミド前駆体として、前記の式(1)においてR1、R2=H、m=1であるジアミンと、式(2)においてR3=H、R4=CH3、R5=CH3、R6=Hであるカルボン酸を65:35の重量比で用いる。
【0015】
《実施例 2》
ポリイミド前駆体として、前記の式(1)においてR1、R2=H、m=1であるジアミンと、式(2)においてR3=H、R4=CH3、R5=CH3、R6=Hであるカルボン酸を65:35の重量比で用いる。
【0016】
《実施例 3》
ポリイミド前駆体として、前記の式(1)においてR1、R2=CH3、m=1であるジアミンと、式(2)においてR3=H、R4=CH3、R5=CH3、R6=Hであるカルボン酸を65:35の重量比で用いる。
【0017】
《比較例 1》
ポリイミド前駆体として、以下の式(4)で表されるジアミンと、式(2)においてR3=H、R4=CH3、R5=CH3、R6=Hであるカルボン酸を65:35の重量比で用いる。
【0018】
《比較例 2》
ポリイミド前駆体として、以下の式(5)で表されるジアミンと、式(2)においてR3=H、R4=CH3、R5=CH3、R6=Hであるカルボン酸を65:35の重量比で用いる。
【0019】
【化4】
【0020】
実施例1および実施例2、実施例3、比較例1、比較例2のポリイミド前駆体をイソホロン、メチルカルビトール、トリグライム、γ―ブチロラクトン、およびN−メチルピロリドンの各有機溶剤に40wt%の割合で加えてポリイミド前駆体ワニスの調製を試みた。その結果を、表1に示す。溶解したワニスを○で、不溶解のワニスを×でそれぞれ表した。
【0021】
【表1】
【0022】
実施例1のトリグライムに溶解したポリイミド前駆体ワニス、実施例2のイソホロンに溶解したポリイミド前駆体ワニス、実施例3のメチルカルビトールに溶解したポリイミド前駆体ワニス、比較例1のN−メチルピロリドンに溶解したポリイミド前駆体ワニス、比較例2のトリグライムに溶解したポリイミド前駆体ワニスのそれぞれをバインダー樹脂として、バインダー樹脂100重量部に対して、導電性カーボン(デグサ・ジャパン(株)Printex L)23重量部を配合し、これを23℃55%RHの環境下で3本ロールミルにより混練、分散して5種類の抵抗体ペーストを製造した。
これらの抵抗体ペーストを350メッシュのスクリーン版を用いて、あらかじめ一対の電極を形成したセラミック性の絶縁基板上に、前記一対の電極間にまたがるように印刷し、乾燥後300℃において2時間硬化してポリイミド樹脂抵抗体を製造した。
表2に各実施例および比較例で得られた抵抗体ペーストの粘度、印刷時の連続印刷性、抵抗体の硬化膜厚、および150℃で500時間放置後の面積抵抗値の変化率を示す。なお、抵抗体ペーストの粘度は、市販のE型粘度計を用いて測定した。また、連続印刷性は、350メッシュのスクリーン版を使用して、連続して印刷した際に、インキがはじいて所定の印刷パターン精度が得られなくなるまでの時間で評価した。
【0023】
【表2】
【0024】
実施例1〜3においては、本発明のポリイミド前駆体を使用することによって、連続印刷性に優れ、抵抗値変動の少ない抵抗体を得ることができた。これに対し、比較例1のポリイミド前駆体を使用した場合は、N−メチルピロリドン溶剤にしか溶解せず、連続印刷性の乏しい抵抗体となった。この理由は、N−メチルピロリドンがNを分子中に含む極性の強い有機溶剤であるために、空気中の水分を吸収することによって、抵抗体ペーストの分散性が低下したこと、また、スクリーン印刷版の乳剤がN−メチルピロリドンによって溶解したことなどが原因と考えられる。また、比較例2のポリイミド前駆体を使用した場合は、N−メチルピロリドンの他にトリグライムにも溶解可能であったが、分子鎖の剛直性を低下させ過ぎたために、耐熱性が低下し抵抗値変動率が大きい抵抗体となったと考えられる。
【0025】
《実施例 4》
前記式(1)および式(2)におけるR1、R2=H、m=5、R3=CH3、R4=CH3、R5=CH3、R6=CH3であるポリイミド前駆体を87:13の重量比で固形分濃度70wt%でメチルカルビトールに溶解したワニスをバインダー樹脂とした。バインダー樹脂100重量部に対して、導電性カーボン(デグサ・ジャパン(株)Printex L)23重量部を配合し、これを23℃55%RHの環境下で3本ロールミルにより混練、分散して抵抗体ペーストを製造した。この抵抗体ペーストを350メッシュのスクリーン版を用いてあらかじめ一対の電極を形成したセラミック性の絶縁基板上に印刷し、乾燥後300℃において2時間硬化してポリイミド樹脂抵抗体を製造した。
【0026】
《実施例 5》
実施例4においてポリイミド前駆体ワニスの濃度を7wt%とする他は、実施例4と同様の手法で抵抗体ペーストを得、それを用いてポリイミド樹脂抵抗体を製造した。
【0027】
《比較例3》
実施例4においてポリイミド前駆体ワニスの濃度を2wt%とする他は、実施例4と同様の手法で抵抗体ペーストを得、それを用いてポリイミド樹脂抵抗体を製造した。
【0028】
《比較例4》
実施例4においてポリイミド前駆体ワニスの濃度を85wt%とする他は、実施例4と同様の手法で抵抗体ペーストを得、それを用いてポリイミド樹脂抵抗体を製造した。
【0029】
表3に実施例4、5、および比較例3、4で得られた抵抗体ペーストの粘度、印刷時の連続印刷性、抵抗体の硬化膜厚、および150℃で500時間放置後の面積抵抗値の変化率を示す。なお、抵抗体ペーストの粘度は、市販のE型粘度計を用いて測定した。また、連続印刷性は、350メッシュのスクリーン版を使用して、連続して印刷した際に、スクリーン版の目詰まりが観察されるまでの時間で評価した。
【0030】
【表3】
【0031】
実施例4および5においては、適当な範囲のポリイミド前駆体樹脂の濃度範囲で、150℃以上の沸点の有機溶剤に溶解することによって、抵抗体ペーストの粘度はスクリーン印刷に適した粘度となり、有機溶剤の揮発も少ないために、最低必要な連続生産時間8時間以上の連続生産性が得られ、硬化後の膜厚も抵抗体として適した膜厚を得ることができた。これに対し、比較例3のように、ポリイミド前駆体樹脂の濃度が低い場合には、得られる膜厚が薄く、抵抗体として必要な膜厚を得るために繰り返し印刷する必要が生じた。また、比較例4のように、ポリイミド前駆体樹脂の濃度が高い場合には、濃度が高いために印刷が困難である上に、スクリーン版の目図まりも著しく、連続生産が困難となる。沸点が低い有機溶剤を使用した場合は、有機溶剤が揮発するために、版の目図まりが著しく、連続生産を行うことができない。高温における抵抗値変動に関しては、どのような濃度範囲、有機溶剤を使用しても変化率の少ない抵抗体を得ることができた。
【0032】
以上の実施例では、導電剤として導電性カーボンを用いたが、これ以外に、金、銀、銅等の金属粒子を用いても、同様の効果を得ることができた。また、式(1)で表されるジアミンと式(2)で表されるカルボン酸の配合比として、両者の混合物を100重量部とした場合に、式(1)で表されるジアミンの配合量を65重量部と87重量部の配合比を用いて説明したが、これ以外に、20重量部および99重量部の配合比を用いても、同様の効果を得ることができた。また、導電剤の配合比として、ポリイミド前駆体ワニス100重量部に対して23重量部を用いたが、これ以外に、0.5重量部および150重量部の配合比を用いても、同様の効果を得ることができた。また、無機粒子の配合を行わなかったが、シリカ、アルミナ、酸化鉄等の無機粒子を配合しても、同様の効果を得ることができた。
【0033】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、有機溶剤に高濃度で溶解されたポリイミド前駆体樹脂をバインダー樹脂として使用することにより、従来のポリイミド樹脂では困難であった、生産性に優れ、取り扱いが容易な抵抗体ペーストを得ることができる。この抵抗体ペーストを用いることにより、高温における抵抗値変動の少ない抵抗体を得ることが可能となる。
Claims (8)
- 前記ポリイミド前駆体において、前記ポリイミド前駆体を100重量部とした場合に、前記ジアミンの配合量が20〜99重量部の範囲であることを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
- 前記導電剤の重量比が、前記ポリイミド前駆体ワニス100重量部に対して、0.5重量部以上150重量部以下であることを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
- 前記導電剤が導電性カーボンであることを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
- さらに無機粒子を含むことを特徴とする請求項1記載の抵抗体ペースト。
- 前記有機溶剤の沸点が150℃以上である請求項1記載の抵抗体ペースト。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の抵抗体ペーストの硬化膜からなる抵抗体。
- 請求項7記載の抵抗体及び1対の電極を有する抵抗。
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