JP4023592B2 - 固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,タンタル又はアルミニウム等の弁作用金属を使用した固体電解コンデンサにおいて,これに使用するコンデンサ素子と,その製造方法とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に,この種の固体電解コンデンサに使用するコンデンサ素子を製造するに際しては,以下に述べる方法を採用している。
【0003】
すなわち,先ず,タンタル等のような弁作用金属の粉末を,図1に示すように,多孔質の陽極チップ体1に,当該陽極チップ体1における一端面1aからタンタル等のような弁作用金属による陽極ワイヤ2が突出するように固め成形したのち焼結し,次いで,この多孔質の陽極チップ体1を,図2に示すように,りん酸水溶液等の化成液A中に,当該陽極チップ体1における一端面1aを上向きにし且つこの一端面1aが液面A′より適宜深さHだけ沈むように浸漬し,この状態で,前記化成液A中の電極Bと,前記陽極ワイヤ2との間に直流電流を印加するという陽極酸化処理を行うことにより,前記陽極チップ体1における各金属粒子の表面に五酸化タンタル等の誘電体膜3を形成するとともに,前記陽極ワイヤ2の陽極チップ体1に対する付け根部における適宜長さHの部分にも,五酸化タンタル等の誘電体膜を形成する。
【0004】
次いで,前記陽極チップ体1を,図3に示すように,硝酸マンガン水溶液Cに対し,当該陽極チップ体1における一端面1aを上向きにし且つこの一端面1aが略液面C′の付近に位置する深さまで浸漬して,硝酸マンガン水溶液Cを陽極チップ体1の内部まで浸透したのち硝酸マンガン水溶液Cから引き揚げて焼成することを複数回にわたって繰り返すことにより,前記陽極チップ体1における誘電体膜3の表面に,二酸化マンガン等の金属酸化物による固体電解質層4を形成する。
【0005】
次いで,前記陽極チップ体1における表面のうち前記一端面1aを除く部分に,グラファイト層を下地とし銀又はニッケル等の金属層を上層とする陰極膜を形成するという採用している。
【0006】
ところで,前記したコンデンサ素子の製造行程において,二酸化マンガン等の金属酸化物による固体電解質層4を形成するとき,硝酸マンガン水溶液Cが,前記陽極ワイヤ2における付け根部に適宜な長さHにわたって形成した五酸化タンタル等の誘電体膜3を越えてその上方における部分にまで伝い上がることにより,陽極ワイヤ2における表面のうち前記五酸化タンタル等の誘電体膜3を形成されている部分及びこれよりも先の部分にも,二酸化マンガン等の固体電解質層4が形成されることになるから,固体電解コンデンサの完成品として組み立てるに際して,前記陽極ワイヤ2を,図4及び図5に二点鎖線で示すように,金属板製の陽極側リード端子7,7′に対して溶接等にて固着したとき,この陽極側リード端子7,7′に対して前記したように陽極ワイヤ2の付け根部にまで形成される固体電解質層4が接触することになって,電気的なショートが発生し,多数の不良品が発生するのであった。
【0007】
そこで,従来は,前記陽極酸化処理による五酸化タンタル等の誘電体膜3を形成する工程の前か,或いは,誘電体膜3を形成する工程の後において,前記陽極ワイヤ2における付け根部に,図4に示すように,フッ素樹脂等の撥水性を有する合成樹脂製のリング体5を被嵌・装着するか,或いは,図5に示すように,撥水性を有する合成樹脂を溶剤に溶解した状態で塗布したのち乾燥することによって被膜6を形成し,この状態で,前記した硝酸マンガン水溶液Cへの浸漬・引き揚げ・焼成にて固体電解質層4を形成する工程を行うことにより,硝酸マンガン水溶液が陽極ワイヤ2における付け根部の部分にまで伝い上がることを,ひいては,陽極ワイヤ2における付け根部にまで固体電解質層4が形成されることを,前記撥水性合成樹脂のリング体5又は被膜6にて防止するようにして,固体電解コンデンサの完成品として組み立てる場合における不良品の発生率を低減するようにしている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,前者のように,陽極ワイヤ2における付け根部に対して,合成樹脂のリング体5を被嵌・装着する方法は,陽極チップ体1における一端面1aからリング体5の上面までの高さ寸法Sを,小さく,且つ,略一定にすることができるから,前記陰極膜を形成する工程を終わったコンデンサ素子において,その陽極ワイヤ2に対して,図4に二点鎖線で示すように,陽極リード端子7を固着して固体電解コンデンサとしての完成品にする場合に,この陽極リード端子7から陽極チップ体1の一端面1aまで首下寸法Lを小さくでき,完成品としての固体電解コンデンサにおける小型化及び大容量化を図ることができるという利点を有する。
【0009】
しかし,その反面,以下に述べるような問題を有する。
【0010】
すなわち,前記陽極ワイヤ2に対して被嵌・装着したリング体5は,これを陽極チップ体1における一端面1a に対して接触しただけであることにより,このリング体5の下面と陽極チップ体1の一端面1a との間に隙間が,陽極チップ体1の一端面1a に存在する凹凸のために,必然的にできている。
【0011】
これに加えて,前記陽極ワイヤ2の外周面とこれに被嵌したリング体5の内周面との間にも,リング体5の陽極ワイヤ2に対する被嵌作業を容易にすることのために当該リング体5における貫通孔の内径を陽極ワイヤ2の直径よりも大きくすることのため,及び,当該リング体5を素材の板材から打ち抜くときに発生するバリ等のために隙間が必然的にできている。
【0012】
このために,前記陽極チップ体1を,固体電解質層4を形成するための工程において,図3に示すように,硝酸マンガン水溶液C等の固体電解質用溶液に浸漬したとき,この硝酸マンガン水溶液等の固体電解質用溶液が,毛細管現象により,前記リング体5の下面と陽極チップ体1の一端面1aとの間における隙間内に流入し,次いでリング体5の内周面と陽極ワイヤ2の外周面との間における隙間内を通って,リング体5の上面側にまで伝い上がることになるから,前記硝酸マンガン水溶液の伝い上がりをリング体4にて完全に阻止することができず,ひいては,固体電解質層が陽極ワイヤ2のうち前記リング体5の上面側の部分にも形成されることになるから,固体電解コンデンサの完成品として組み立てる場合における不良品の発生率がまだ可成り高いのである。
【0013】
しかも,前記リング体5は,陽極チップ体1における一端面1aに対して接触しているだけであることにより,陽極チップ体1の一端面1aのうち前記リング体5に接触している部分には,誘電体層及び固体電解質層がその各々に工程において同時に形成されることになるから,陽極ワイヤ2に対してこれを曲げるような外力が作用したときに,前記陽極チップ体1の一端面1aのうちリング体5に接触している部分における誘電体層及び固体電解質層が破損し,この間に絶縁破壊が発生し,不良品になるおそれも大きいのであった。
【0014】
これに対し,後者のように,陽極ワイヤ2における付け根部に対して,溶剤にて溶解した合成樹脂の塗布・乾燥により被膜6を形成する方法は,この被膜6を,陽極チップ体1の一端面1aと陽極ワイヤ2の外周面との両方に対して隙間なく完全に密着することができることができるから,硝酸マンガン水溶液の陽極ワイヤ2への伝い上がりを確実に阻止でき,しかも,陽極チップ体1の一端面1aのうち前記被膜6の部分に誘電体層及び固体電解質層が形成されることを確実に阻止できる。
【0015】
しかし,その反面,
1.合成樹脂を溶剤に溶解した状態で塗布したとき,この溶剤に溶解した合成樹脂が,乾燥するまでの間に,陽極チップ体1における多孔質の組織内に奥深く染み込むことになり,この部分に固体電解質層を形成することができず,固体電解質層を形成することができない領域が前記溶剤に溶解した合成樹脂の染み込にて増大するから,コンデンサの容量が減少する。
2.陽極ワイヤ2における付け根部に対して,溶剤に溶解した合成樹脂を陽極ワイヤ2の全周囲にわたって塗布することに多大の手数を必要としてコストの大幅なアップを招来する。
3.陽極ワイヤ2における付け根部に対して,溶剤に溶解した合成樹脂を塗布するときにおける塗布量の精度が低いことにより,被膜6における陽極チップ体1の一端面1aからの高さ寸法S′が,大きくなるばかりか,この高さ寸法S′に大きなバラ付きが存在することになり,前記陽極ワイヤ2に対して,図5に二点鎖線で示すように,陽極リード端子7′を固着して固体電解コンデンサの完成品にする場合に,この陽極リード端子7′から陽極チップ体1の一端面1aまで首下寸法L′を,前記被膜6における高さ寸法S′が大きくなること,及びその高さ寸法S′の大きなバラ付きに応じて大きくしなければならないから,完成品としての固体電解コンデンサの容量が決められている場合にはその大型化を招来し,また,固体電解コンデンサの大きさが決められている場合には,その小容量化を招来する。
という問題があった。
【0016】
本発明は,これらの問題を解消することを技術的課題とするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
この技術的課題を達成するため本発明のコンデンサ素子は,
「弁作用金属の粉末を焼結した陽極チップ体と,この陽極チップ体における一端面から突出する陽極ワイヤとから成り,前記陽極ワイヤのうち陽極チップ体に対する付け根部に,撥水性を有する熱可塑性合成樹脂製のリング体を被嵌して成るコンデンサ素子において, 前記陽極ワイヤに対して被嵌したリング体は,前記陽極ワイヤが嵌まる貫通孔から半径方向外向きに延びて外周面に到達するようにした切り開き溝を設けて成る構成であり,更に,前記リング体は,前記陽極ワイヤに被嵌し且つ前記陽極チップ体における一端面に接当した状態で加熱溶融され,前記切り開き溝は,前記加熱溶融にて埋められている。」
ことを特徴としている。
【0018】
また,本発明の製造方法は,
「弁作用金属の粉末を焼結して成る陽極チップ体における一端面に固着した陽極ワイヤの付け根部に,撥水性を有する熱可塑性合成樹脂製のリング体を,当該リング体にその中心の貫通孔から半径方向外向きに延びて外周面に到達するようにした切り開き溝を設けた構成にして被嵌する工程,
次いで,前記リング体を,陽極ワイヤに被嵌し且つ前記陽極チップ体における一端面に接当した状態で加熱溶融して,この加熱溶融にて前記切り開き溝を埋める工程,
前記工程に前後して,前記陽極チップ体に対して化成液への浸漬しての陽極酸化処理にて誘電体膜を形成する工程,
これらの工程に次いで,前記陽極チップ体に対して固体電解質用溶液への浸漬・引き揚げ・焼成にて固体電解質層を形成する工程,
を備えている。」
ことを特徴としている。
【0019】
【発明の作用・効果】
陽極ワイヤのうち陽極チップ体に対する付け根部に被嵌したリング体を,陽極ワイヤに被嵌し且つ前記陽極チップ体の一端面に接当した状態で加熱溶融することにより,このリング体は,その加熱溶融によって,陽極チップ体の一端面における形状の通りに変形しながら当該一端面に対して,陽極チップ体における多孔質の組織内に浸透することがないか,或いは多孔質の組織内への浸透が極めて少ない状態のもとで,恰も熱融着するというように,隙間なく密着することになる。
【0020】
これに加えて,前記リング体は,陽極ワイヤにおける外周面の全体に対しても,その加熱溶融によって,当該リング体を素材の板材から打ち抜くときに発生するバリを消失し,且つ,当該リング体における貫通孔の内径を縮めながら,恰も熱融着するというように,隙間なく密着することになる。
【0021】
従って,本発明によると,陽極チップ体に対する固体電解質層の形成に際して,固体電解質用溶液が,前記リング体の上面側にまで伝い上がることを確実に阻止でき,換言すると,固体電解質層が陽極ワイヤのうちリング体の上面側の部分に形成されることを確実に防止できるから,固体電解コンデンサの完成品として組み立てるに際して,陽極ワイヤに固着する陽極側リード端子と前記固体電解質層との間が電気的にショートして不良品になるという不良品の発生率を,コンデンサ容量の減少を招来することなく,大幅に低減できる。
【0022】
しかも,前記リング体は,陽極チップ体の一端面と陽極ワイヤの外周面との両方に対して隙間なく密着していることで,前記陽極チップ体における一端面のうちリング体の部分に,固体電解質層が形成されることを阻止できるから,コンデンサ素子としての取り扱い中に陽極ワイヤに対してこれを曲げるような外力が作用したときに,この部分に絶縁破壊が発生するおそれを確実に回避できて,コンデンサ素子としての製造中等で発生する絶縁破壊による不良品の発生を大幅に低減できる。
【0023】
その上,本発明によると,陽極ワイヤにリング体を被嵌したのち加熱するだけで良く,工程が至極簡単であるから,コストのアップを僅少にとどめることができ,更に,陽極チップ体における一端面から前記リング体の上面までの高さ寸法を,リング体の当初における厚さ寸法を越えることがないように低くできるとともに,高さ寸法のバラ付きを小さくでき,ひいては,固体電解コンデンサとしての完成品に組み立てるに際して,陽極ワイヤに対して陽極リード端子を固着する場合に,陽極チップ体の一端面から陽極リード端子までの首下長さ寸法を小さくできるから,完成品としての固体電解コンデンサの大型化,或いは,固体電解コンデンサの小容量化を回避できる。
【0024】
これらに加えて,本発明は,前記リング体を,前記陽極ワイヤが嵌まる貫通孔から半径方向外向きに延びて外周面に到達するようにした切り開き溝を設け,この切り開き溝を,前記した加熱溶融にて埋めるという構成にしたことにより,このリング体を陽極ワイヤに対して被嵌するときに,このリング体を陽極ワイヤに対して串刺し状に通すようにすることなく,陽極ワイヤの付け根部に対して横方向から嵌め込むことができ,そして,前記リング体における切り開き溝は,当該リング体を加熱溶融したときにおいて埋まることで,このリング体が陽極ワイヤの全周囲に対して密着するとともに,このリング体の全周囲が陽極チップにおける一端面に対して密着することになるから,リング体の陽極ワイヤへの被嵌することが,前記した所定の効果を保った状態のもとで,容易にできる。
この場合,前記切り開き溝における幅寸法を,請求項3に記載したように,貫通孔の部分において陽極ワイヤの直径と等しくするかこれよりも小さく,リング体の外周の部分において陽極ワイヤの直径よりも大きく構成することが,加熱溶融による陽極ワイヤ及び陽極チップに対する密着性と,陽極ワイヤへの被嵌作業の容易性との両方の観点から好ましい。
【0025】
また,前記リング体を,請求項2に記載したように,透明の合成樹脂製にしたことにより,このリング体が陽極チップ体の一端面と陽極ワイヤの外周面とに密着しているか否かの点,及び,固体電解質層を形成するに際して固体電解質用溶液が前記リング体と陽極チップ体及び陽極ワイヤとの間に侵入しているか否かの点を,外観から識別できるから,良否の選別が容易にできる利点がある。
【0026】
更にまた,請求項5に記載したように,前記リング体に対する加熱溶融を,真空中で行うか,或いは,不活性ガスの雰囲気で行うことにより,前記リング体を加熱溶融する処理に際して,陽極体チップ体における金属粉末の表面及び陽極ワイヤの表面に酸化膜が発生したり,誘電体膜に変質が発生したりすることを確実に回避乃至低減できる利点がある。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施の形態を,タンタル固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子に適用した場合の図面(図6〜図9)について説明する。
【0028】
先ず,タンタルの粉末を,図6に示すように,多孔質の陽極チップ体1に固め形成したのち焼結し,且つ,この陽極チップ体1における一端面1aからタンタルによる陽極ワイヤ2を突出する。
【0029】
一方,例えば,融点が約270℃のフッ素樹脂等のように,撥水性を有する透明な熱可塑性合成樹脂による素材の板材より,図6に示すように,貫通孔8aを備えたリング体8を,打ち抜くよって製作しておき,このリング体8を,前記陽極酸化処理を終わった陽極チップ体1において,その一端面1aから突出する陽極ワイヤ2のうち陽極チップ体1に対する付け根部に対して,図7に示すように,当該リング体8が前記陽極チップ体1における一端面1aに接当するように被嵌する。
【0030】
次いで,この陽極チップ体1の全体を,図示しない密閉容器内に入れて,この密閉容器内を真空にするか,窒素ガス又はアルゴンガス等のような不活性ガスの雰囲気にした状態で,約30分の時間だけ,前記リング体8の合成樹脂における融点か,或いはこれよりも高い温度,例えば,約270〜300℃に加熱し,この温度で約30分間維持したのち常温まで冷却する。
【0031】
この加熱にて前記リング体8は,一旦溶融して,陽極チップ体1の一端面1aにおける形状の通りに変形することにより,陽極チップ体1の一端面1aに対して,恰も熱融着するように隙間なく密接することができる。
【0032】
この場合,前記リング体8の加熱溶融であることにより,溶融した合成樹脂が陽極チップ体1における多孔質の組織内に浸透することを皆無にできるか,或いは多孔質の組織内への浸透を極めて少なくできる。
【0033】
これに加えて,前記リング体8は,これを加熱溶融したとき,当該リング体8を素材の板材から打ち抜くときに発生するバリが消失するとともに,その貫通孔8aの内径が陽極ワイヤ2に対して縮まることになるから,陽極ワイヤ2における外周面の全体に対して,恰も熱融着するように,隙間なく密接することができるのである(図8及び図9参照)。
【0034】
次いで,前記陽極チップ体1を,前記従来と同様に,りん酸水溶液等の化成液Aに,当該陽極チップ体1における一端面1aのリング体8の箇所に液面A′が来る深さまで浸漬し,この状態で,前記化成液A中の電極Bと,前記陽極ワイヤ2との間に直流電流を印加するという陽極酸化処理を行うことにより,前記陽極チップ体1における各金属粒子の表面に五酸化タンタル等の誘電体膜3を形成する。
【0035】
なお,前記誘電体膜3を形成するという陽極酸化処理の工程は,図2に示すように,前記リング体8を被嵌したのち加熱溶融する工程の前において行うことにより,前記陽極ワイヤ2の陽極チップ体1に対する付け根部における適宜長さHの部分にも,五酸化タンタル等の誘電体膜を形成し,その後で前記リンク体8を被嵌するようにしてもよい。
【0036】
次いで,前記陽極チップ体1を,前記従来と同様に,図3に示すように,硝酸マンガン水溶液Cに対し,当該陽極チップ体1における一端面1aを上向きにし且つこの一端面1aが略液面C′の付近に位置する深さまで浸漬して,硝酸マンガン水溶液Cを陽極チップ体1の内部まで浸透したのち硝酸マンガン水溶液Cから引き揚げて焼成することを複数回にわたって繰り返すことにより,前記陽極チップ体1における誘電体膜3の表面に,二酸化マンガン等の金属酸化物による固体電解質層4を形成する。
【0037】
前記したように,陽極チップ体1の一端面1aから突出の陽極ワイヤ2における付け根部に対して予め被嵌・装着され,且つ,この被嵌した状態で加熱溶融したリング体8は,陽極チップ体1の一端面1aと陽極ワイヤ2の外周面との両方に対して密着していることにより,前記固体電解質層4を形成する工程において,固体電解質用溶液であるところの硝酸マンガン水溶液が,リング体8と陽極チップ体1の一端面1a及び陽極ワイヤ2の外周面との間を通って当該リング体8の上面側にまで伝い上がることを確実に阻止することができるから,固体電解質層が陽極ワイヤ2のうちリング体8の上面側の部分にまでも形成されることを確実に低減できる。
【0038】
しかも,前記リング体8は,陽極チップ体1の一端面1aと陽極ワイヤ2の外周面との両方に対して密着していることにより,前記陽極チップ体1における一端面1aのうちリング体8の部分に,誘電体膜3を形成する工程において誘電体膜が形成されること,及び,固体電解質層4を形成する工程において固体電解質層が形成されることを略完全に阻止できるから,コンデンサ素子としての取り扱い中に陽極ワイヤ2に対してこれを曲げるような外力が作用したときに,この部分に絶縁破壊が発生するおそれを確実に回避できる。
【0039】
これに加えて,前記リング体8は,陽極チップ体1の一端面1aに密着していることで,その間に,前記固体電解質層4を形成する工程において,硝酸マンガン水溶液が侵入することを阻止することにより,前記陽極チップ体1を前記硝酸マンガン水溶液C中に浸漬するとき,図3に二点鎖線で示すように,硝酸マンガン水溶液Cにおける液面C″を前記リング体8の位置にするというように,多少深くしても良いことになるから,前記陽極チップ体1を前記硝酸マンガン水溶液に浸漬する深さの精度を下げることができる利点もある。
【0040】
一方,前記リング体8を,透明の合成樹脂製にしたことにより,このリング体8が陽極チップ体1の一端面1aと陽極ワイヤ2の外周面との両方に密着しているか否かの点,及び,前記固体電解質層4を形成するに際して硝酸マンガン水溶液が前記リング体4と陽極チップ体1及び陽極ワイヤ2との間に侵入しているか否かの点,並びに,前記誘電体膜3の形成に際して化成液が前記リング体8と陽極チップ体2との間に侵入しているか否かの点を,外観から確実に識別できるから,良否の選別が容易にできる。
【0041】
このように,固体電解質層4を形成する工程を完了すると,前記従来と同様に,前記陽極チップ体1における表面のうち前記一端面1aを除く部分に,グラファイト層と下地とし銀又はニッケル等の金属層を上層とする陰極膜を形成することにより,コンデンサ素子に仕上げられる。
【0042】
ところで,前記の実施の形態において,固体電解質層4を形成するときにおける焼成温度が約230℃程度であることから,前記リング体8に使用する熱可塑性合成樹脂としては,前記した焼成温度よりも高い融点を有するものに選択することが好ましい。
【0043】
また,このリング体8を一旦溶融する場合における加熱処理を,前記したように,真空中で行うか,或いは,窒素ガス又はアルゴンガス等のような不活性ガスの雰囲気の中で行うことにより,前記リング体8の加熱処理に際して,陽極チップ体1における金属粉末の表面,及び,陽極ワイヤ2の表面に酸化膜が発生したり,或いは,誘電体膜3に変質が発生したりすることを確実に回避乃至低減できる。
【0044】
本発明においては,以上に述べたことを前提として,前記リング体8として,図10に 示すように構成したリング体8′を使用するのである。
【0045】
本発明において使用するこのリング体8′は,前記陽極ワイヤ2が嵌まる貫通孔8a′から半径方向外向きに延びて外周面に到達するようにした切り開き溝8b′を設けて,この切り開き溝8b′を,前記した加熱溶融にて埋めるという構成したものである。
【0046】
この構成によると,陽極ワイヤ2に対してリング体8′を被嵌・装着するときに,このリング体8′を陽極ワイヤ2に対して串刺し状に通すようにすることなく,陽極ワイヤ2の付け根部に対して,図10に矢印aで示すように,横方向から嵌め込むことができ,そして,前記リング体8′における切り開き溝8b′は,リング体8′を加熱溶融したときにおいて埋まることにより,リング体8′が陽極ワイヤ2の全周囲について密着するとともに,当該リング体8′の全周囲が陽極チップ1における一端面1aに対して密着することになるから,リング体8′の陽極ワイヤへの被嵌・装着が,所定の効果を保った状態のもとで,容易にできる。
【0047】
また,このリング体8′の切り開き溝8b′における幅寸法Wは,加熱溶融による陽極ワイヤ2及び陽極チップ1に対する密着性と,陽極ワイヤ2への被嵌作業の容易性との両方を考慮して,貫通孔8aの部分では,陽極ワイヤ2の直径と等しくするかこれよりも小さくする一方,リング体8′の外周の部分では陽極ワイヤ2の直径よりも大きくすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】多孔質の陽極チップ体を示す斜視図である。
【図2】前記陽極チップ体に対して誘電体膜を形成するための陽極酸化処理を行っている状態を示す図である。
【図3】前記陽極チップ体に対して固体電解質層を形成している状態を示す図である。
【図4】従来の場合において,前記陽極チップ体の陽極ワイヤに合成樹脂のリング体を被嵌・装着した状態を示す斜視図である。
【図5】従来の場合において,前記陽極チップ体の陽極ワイヤに合成樹脂の被膜を形成した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明において陽極チップ体とリング体とを示す斜視図である。
【図7】本発明において陽極チップ体の陽極ワイヤにリング体を被嵌・装着した状態を示す斜視図である。
【図8】本発明において前記陽極ワイヤに被嵌・装着したリング体を加熱溶融した後の状態示す斜視図である。
【図9】図8のIX−IX視拡大断面図である。
【図10】本発明において使用するリング体を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 陽極チップ体
1a 陽極チップ体の一端面
2 陽極ワイヤ
3,3′ 誘電体膜
4 固体電解質層
8,8′ リング体
8a,8a′ 貫通孔
8b′ 切り開き溝
Claims (5)
- 弁作用金属の粉末を焼結した陽極チップ体と,この陽極チップ体における一端面から突出する陽極ワイヤとから成り,前記陽極ワイヤのうち陽極チップ体に対する付け根部に,撥水性を有する熱可塑性合成樹脂製のリング体を被嵌して成るコンデンサ素子において, 前記陽極ワイヤに対して被嵌したリング体は,前記陽極ワイヤが嵌まる貫通孔から半径方向外向きに延びて外周面に到達するようにした切り開き溝を設けて成る構成であり,更に,前記リング体は,前記陽極ワイヤに被嵌し且つ前記陽極チップ体における一端面に接当した状態で加熱溶融され,前記切り開き溝は,前記加熱溶融にて埋められていることを特徴とする固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子。
- 前記請求項1の記載において,前記リング体は,透明合成樹脂製であることを特徴とする固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子。
- 前記請求項1又は2の記載において,前記リング体における切り開き溝の幅寸法は,貫通孔の部分において陽極ワイヤの直径と等しくするかこれよりも小さく,リング体の外周の部分において陽極ワイヤの直径よりも大きく構成されていることを特徴とする固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子。
- 弁作用金属の粉末を焼結して成る陽極チップ体における一端面に固着した陽極ワイヤの付け根部に,撥水性を有する熱可塑性合成樹脂製のリング体を,当該リング体にその中心の貫通孔から半径方向外向きに延びて外周面に到達するようにした切り開き溝を設けた構成にして被嵌する工程,
次いで,前記リング体を,陽極ワイヤに被嵌し且つ前記陽極チップ体における一端面に接当した状態で加熱溶融して,この加熱溶融にて前記切り開き溝を埋める工程,
前記工程に前後して,前記陽極チップ体に対して化成液への浸漬しての陽極酸化処理にて誘電体膜を形成する工程,
これらの工程に次いで,前記陽極チップ体に対して固体電解質用溶液への浸漬・引き揚げ・焼成にて固体電解質層を形成する工程,
を備えていることを特徴とする固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子の製造方法。 - 前記請求項4の記載において,前記リング体に対する加熱溶融を,真空中で行うか,或いは,不活性ガスの雰囲気で行うことを特徴とする固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子の製造方法。
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