しかしながら、以上説明した従来例においては、振動体の共振特性を調整するために、電気抵抗素子または圧電素子に電源が接続され、その電源からの電力によって振動体のばね部を加熱しまたは弾性変形させることにより、振動体の共振特性が調整される。そのため、この従来例では、電力が、振動体を振動させるためのみならず、その振動体の共振特性を調整するためにも消費されてしまい、消費電力が増加する傾向があった。
このような事情を背景として、本発明は、光が入射する反射面が形成された振動体を揺動軸線まわりに振動させて揺動させることにより、反射面からの反射光を走査する光スキャナにおいて、電力消費の節減を容易に図りつつ、振動体の共振周波数を制御することを課題としてなされたものである。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきである。
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈されるべきである。
(1) 光が入射する反射面の揺動により、その反射面からの反射光を走査する光スキャナであって、
前記反射面を有する振動体と、
その振動体に装着され、変位と電荷との間において変換を行う第1の変換素子を有する駆動源と、
前記第1の変換素子に電荷を供給することにより、前記振動体をそれの共振周波数と実質的に同じ駆動周波数で駆動し、それにより、前記振動体を揺動軸線まわりに捩じり振動させる駆動手段と、
前記振動体に装着され、変位と電荷との間において変換を行う第2の変換素子と、
その第2の変換素子からの電荷放出量を制御することによってその第2の変換素子の剛性を制御し、それにより、前記振動体の共振周波数を制御する共振周波数制御手段と
を含む光スキャナ。
一般に、光スキャナにおいては、振動体の共振周波数が常に正規値に維持されることが要望される。しかし、振動体の共振周波数は、その振動体の製造ばらつきに伴う形状ばらつきに起因し、正規値でない値をとり得る。さらに、振動体の共振周波数は、その振動体の温度によって変化する。さらに、振動体の共振周波数は、経時的にも変化する。
したがって、反射面の角度は、その反射面からの反射光が光検出器に入射する場合と、本来の用途を実現する場合とで互いに異なる。よって、入射光の強度を反射面の角度に応じ、その反射光が光検出器に入射するための角度においては大きくなり、本来の用途を実現するための角度においては小さくなるように変化させれば、光検出器からの要求と本来の用途実現のための要求とを一緒に満足させることが可能となる。
この変換素子からの電荷放出量を制限すれば、その変換素子に発生し得る変位が制限され、その結果、その変換素子の剛性が増加する。したがって、この変換素子からの電荷放出量を制御すれば、その変換素子の剛性を制御することが可能となる。よって、このような性質を有する変換素子を振動体に装着すれば、その変換素子からの電荷放出量を制御することにより、振動体の剛性を制御することが可能となり、ひいては、その振動体の共振周波数を制御することが可能となる。
本発明に係る光スキャナは、光が入射する反射面の揺動により、その反射面からの反射光を走査する光スキャナであって、
前記反射面を有する振動体と、
その振動体に装着され、変位と電荷との間において変換を行う第1の変換素子を有する駆動源と、
前記第1の変換素子に電荷を供給することにより、前記振動体をそれの共振周波数と実質的に同じ駆動周波数で駆動し、それにより、前記振動体を揺動軸線まわりに捩じり振動させる駆動手段と、
前記振動体に装着され、変位と電荷との間において変換を行う第2の変換素子と、
その第2の変換素子からの電荷放出量を制御することによってその第2の変換素子の剛性を制御し、それにより、前記振動体の共振周波数を制御する共振周波数制御手段と、
前記第1の変換素子として使用される現実の変換素子および前記第2の変換素子として使用される現実の変換素子と前記駆動手段および共振周波数制御手段との間の接続状態を、第1の変換素子として使用されてきた現実の変換素子が第2の変換素子として使用され、かつ、第2の変換素子として使用されてきた現実の変換素子が第1の変換素子として使用されるように切り換える切換手段と
を含む。
本発明によれば、同じ現実の変換素子を、酷使度が高いために劣化が発生し易い環境において使用し続けずに済むため、同じ現実の変換素子が継続的に第1の変換素子として使用される場合に比較し、第1の変換素子の寿命が結果的に延長される。
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈されるべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきである。
以上説明した知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、振動体を揺動軸線まわりに捩じり振動させて揺動させるための第1の変換素子とは別の第2の変換素子が同じ振動体に装着される。この光スキャナにおいては、さらに、共振周波数制御手段が設けられ、この共振周波数制御手段により、第2の変換素子からの電荷放出量が制御されることによってその第2の変換素子の剛性が制御され、それにより、振動体の共振周波数が制御される。
したがって、この光スキャナによれば、第2の変換素子により、共振周波数の制御のために追加的に消費される電力の節減を図りつつ、振動体の共振周波数を制御することが可能となる。
例えば、共振周波数の制御のために第2の変換素子に受動素子(コイル、コンデンサ)を付加する方式によれば、外部からの電力供給は不要である。これに対し、能動リアクタンス回路を付加する方式においても、第2の変換素子への直接的電荷供給を外部から行うのではなく、リアクタンス値の制御用の電力消費があれば足りる。
(2) 前記共振周波数制御手段は、前記振動体の振動特性に基づき、前記電荷放出量を制御する(1)項に記載の光スキャナ。
この光スキャナによれば、第2の変換素子からの電荷放出量を振動体の振動特性との関係において適正化することが容易となる。ここに、「振動特性」は、例えば、振動体の実際の共振周波数を意味するように定義したり、その実際の共振周波数の、正規の振動周波数からのずれ量を意味するように定義したり、振動体が振動する振幅を意味するように定義することが可能である。
(3) 前記共振周波数制御手段は、第1および第2の端子間における可変リアクタンス素子のリアクタンス値が第3の端子に加えられる電気信号によって変化する能動可変リアクタンス回路を含み、その能動可変リアクタンス回路が前記第1および第2の端子において前記第2の変換素子に並列に接続される(1)または(2)項に記載の光スキャナ。
本項における「能動可変リアクタンス回路」は、例えば、コイルを主体として構成したり、コイルとコンデンサとの直列回路を主体として構成することが可能である。
コイルを主体として「能動可変リアクタンス回路」を構成する場合には、例えば、インダクタンス値が固定されたコイル(インダクタ)にバラクタを並列に接続することによって「能動可変リアクタンス回路」の一例を構成することが可能である。この例においては、そのバラクタの第3の端子に印加される電気信号を制御することにより、コイルとバラクタとの並列回路のリアクタンス値を制御することが可能である。
(4) 前記共振周波数制御手段は、前記第2の変換素子に並列に接続されたコイルまたは抵抗を含み、かつ、コンデンサとしての第2の変換素子と共同して、反共振周波数が変更可能である反共振回路を構成する(1)または(2)項に記載の光スキャナ。
一般に、反共振回路を使用する場合には、それの共振周波数の所において、反共振回路のインピーダンスが極大化し、その反共振回路に流れる電流が極小化する。このような反共振回路の共振周波数を反共振周波数という。
このような反共振回路は、前述の第2の変換素子をコンデンサとして用い、かつ、そのコンデンサとコイルまたは抵抗とを互いに並列に接続することによって構成することが可能である。このように構成された反共振回路は、さらに、可変コイル、可変抵抗器、可変コンデンサ、可変容量ダイオード等、可変素子を用いることにより、反共振周波数が変更可能であるように構成することが可能である。
以上説明した知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、前記(1)または(2)項における共振周波数制御手段が、第2の変換素子に並列に接続されたコイルまたは抵抗を含み、かつ、コンデンサとしての第2の変換素子と共同して、反共振周波数が変更可能である反共振回路を構成する。
(5) 前記第1の変換素子として使用される現実の変換素子と、前記第2の変換素子として使用される現実の変換素子とは、物理的に相互に置換可能である(1)ないし(4)項のいずれかに記載の光スキャナ。
前記(1)ないし(4)項のいずれかに係る光スキャナにおいては、第1の変換素子と第2の変換素子とは、変位と電荷との間において変換を行う点で互いに共通しており、一方、変位から電荷への変換と、電荷から変位への変換とを同じ素子で可逆的に行い得る素子が既に存在する。そのような素子の一例は圧電素子である。したがって、第1の変換素子と第2の変換素子とをそれぞれ、互いに種類が同じ素子によって構成することが可能である。
このような知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、第1の変換素子として使用される現実の変換素子と、第2の変換素子として使用される現実の変換素子とが、物理的に相互に置換可能とされる。
(6) さらに、前記第1の変換素子として使用される現実の変換素子および前記第2の変換素子として使用される現実の変換素子と前記駆動手段および共振周波数制御手段との間の接続状態を切り換えることにより、第1の変換素子として使用されてきた現実の変換素子が第2の変換素子として使用され、かつ、第2の変換素子として使用されてきた現実の変換素子が第1の変換素子として使用されることとなる切換手段を含む(5)項に記載の光スキャナ。
一般に、振動体を振動させるための変換素子は、他の電気素子と同様に、寿命が有限である。一方、酷使度が互いに異なる環境において互いに異なる複数の変換素子がそれぞれ使用される状況においては、同じ変換素子を同じ環境において使用し続ける場合より、複数の変換素子を互いに異なる複数の使用環境の間において交換して使用する場合の方が、それら複数の変換素子の寿命が全体として延長される。
一方、前記(5)に係る光スキャナに従い、第1の変換素子として使用される現実の変換素子と、第2の変換素子として使用される現実の変換素子とを、物理的に相互に置換可能であるように選択すれば、同じ現実の変換素子を第1の変換素子として使用する状態と、第2の変換素子として使用する状態とを択一することが可能となる。
また、ある現実の変換素子が第1の変換素子として使用される環境と、第2の変換素子として使用される環境とを互いに比較すれば、前者の環境において現実の変換素子に印加される電圧の方が、後者の環境において現実の変換素子に発生する電圧より高いなどの理由により、前者の環境の方が後者の環境より、現実の変換素子が使用される環境が厳しい。そのため、同じ現実の変換素子でも、第1の変換素子として使用される場合の方が、第2の変換素子として使用される場合より、酷使度が高く、寿命も短い傾向がある。
以上説明した知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、第1の変換素子として使用される現実の変換素子および第2の変換素子として使用される現実の変換素子と駆動手段および共振周波数制御手段との間の接続状態を切り換える切換手段が設けられる。この切換手段によって接続状態が切り換えられれば、第1の変換素子として使用されてきた現実の変換素子が第2の変換素子として使用され、かつ、第2の変換素子として使用されてきた現実の変換素子が第1の変換素子として使用されることとなる。
したがって、この光スキャナによれば、同じ現実の変換素子を、酷使度が高いために劣化が発生し易い環境において使用し続けずに済むため、同じ現実の変換素子が継続的に第1の変換素子として使用される場合に比較し、第1の変換素子の寿命が結果的に延長される。
この光スキャナにおいては、切換手段が前記接続状態を切り換える態様として、前記接続状態が同じ状態に維持される継続時間が設定時間に達したならば、切換手段が前記接続状態を切り換える態様を採用したり、第1の変換素子として使用される現実の変換素子の劣化度(例えば、現実の変換素子が発生可能な最大変位量の減少量)が設定値に達したならば、切換手段が前記接続状態を切り換える態様を採用することが可能である。
(7) さらに、前記振動体が振動する振幅を検出する振幅検出器を含み、前記共振周波数制御手段は、その検出された振幅に基づいて前記電荷放出量を制御する(1)ないし(6)項のいずれかに記載の光スキャナ。
振動体の共振周波数の実際値が正規値からずれているにもかかわらず、正規の共振周波数と同じ周波数で振動体が振動させられると、その振動体の振幅の実際値が、正規値、すなわち、振動体の共振周波数の実際値が正規値と一致するときにおける振動体の振幅より減少する。このように、振動体の共振周波数と振幅との間に一定の関係があるのであり、この事実を利用すれば、振動体の振幅に基づいてその振動体の共振周波数の変動を把握することが可能である。
このような知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、振動体が振動する振幅に基づき、第2の変換素子からの電荷放出量が制御される。それにより、第2の変換素子ひいては振動体の剛性が制御される。
(8) 前記振幅検出器は、前記振動体に装着され、変位と電荷との間において変換を行う第3の変換素子を含む(7)項に記載の光スキャナ。
変位と電荷との間において変換を行う変換素子を第3の変換素子として振動体に装着すれば、その振動体の変位に応じた電荷がその第3の変換素子に発生し、その発生した電荷に基づき、振動体の変位およびその振動体の振幅を検出することが可能である。
このような知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、変位と電荷との間において変換を行う第3の変換素子を用いることにより、振動体の振幅が検出される。
(9) 前記振幅検出器は、前記反射光を検出する光検出器を含む(7)項に記載の光スキャナ。
振動体の振幅が変動すれば、その振動体の反射面からの反射光の走査角(振れ角)も変動する。一方、反射面からの反射光を検出すれば、走査角を検出することが可能である。例えば、反射光が特定の定位置を前回通過してから今回通過するまでの時間を検出することにより、走査角を検出することが可能である。したがって、反射面から反射光を検出すれば、振動体の振幅を検出することが可能である。
このような知見に基づき、本項に係る光スキャナにおいては、振動体の反射面からの反射光が検出されることにより、振動体の振幅が検出される。
(10) 前記振動体は、
前記反射面が形成された反射ミラー部と、
その反射ミラー部を捩じり振動させるためにその反射ミラー部に連結された複数本のばね部であって、前記揺動軸線上において前記反射ミラー部を隔てて互いに対向する2個の対向位置においてそれぞれ複数本ずつ、かつ、前記揺動軸線に関して対称的に配置されたものと
を含む(1)ないし(9)項のいずれかに記載の光スキャナ。
(11) 前記第2の変換素子は、前記複数本のばね部のうち、前記2個の対向位置のいずれか一方に配置された複数本のばね部にそれぞれ装着された(10)項に記載の光スキャナ。
この光スキャナにおいては、反射ミラー部を隔てた2個の対向位置のいずれか一方に複数本、揺動軸線に関して対称的に配置された複数本のばね部にそれぞれ、第2の変換素子が装着される。したがって、この光スキャナによれば、それら複数本のばね部の一部のみに第2の変換素子が装着される場合に比較し、第2の変換素子によって振動体の剛性をその振動体の全体についてできる限り一様に制御することが容易となる。
よって、この光スキャナによれば、振動体の剛性が揺動軸線に関して非対称的に分布してしまい、その結果、振動体の振れ角の対称性が損なわれてしまう事態の発生を容易に回避し得る。
(12) 前記第2の変換素子は、前記複数本のばね部のうち、前記反射ミラー部を隔てて互いに対向する2対の対角位置のうちの一方に属する2個の対角位置にそれぞれ配置された複数本のばね部にそれぞれ装着された(10)項に記載の光スキャナ。
この光スキャナにおいては、振動体に装着される複数の第2の変換素子が、揺動軸線を隔てた両側に同数ずつ配置されるとともに、その揺動軸線と交差する姿勢で反射ミラー部を通過する軸線を隔てた両側にも同数ずつ配置される。
したがって、この光スキャナによれば、少ない数の第2の変換素子により、振動体の剛性をその全体について一様に制御することが容易となる。
(13) 前記第1および第2の変換素子は、共に、圧電素子である(1)ないし(12)項のいずれかに記載の光スキャナ。
(14) 光束の走査によって画像を形成する画像形成装置であって、
前記光束を出射する光源と、
(1)ないし(13)項のいずれかに記載の光スキャナを有し、その光スキャナにより、前記光源から出射した光束を走査する走査部と
を含む画像形成装置。
この画像形成装置によれば、前記(1)ないし(13)項のいずれかに係る光スキャナにより、振動体の共振周波数が節電型で制御され、それにより、外部から当該画像形成装置に入力される入力画像信号に同期させて当該画像形成装置の走査を行うことが可能となる。
一方、入力画像信号と画像形成装置の走査とを同期させることができない場合には、画像フレームを一時的に保存するバッファと、走査タイミングに応じてそのバッファから画像フレームを読み出す読み出し回路系とを画像形成装置に設けることが必要となる。
これに対し、本項に係る画像形成装置によれば、上述のバッファも読み出し回路系も必要とすることなく、入力画像信号と画像形成装置の走査とを同期させることが可能となる。
特に、同じ画像形成装置が複数の光スキャナによって光束を2次元的に走査し、かつ、それら光スキャナがいずれも共振型光スキャナである場合には、それら共振型光スキャナの走査を同期させることが必要である。これに対し、本項に係る画像形成装置によれば、少なくとも一つの光スキャナの共振周波数が制御可能となるため、複数の共振型光スキャナによって光束を2次元的に走査する形式の画像形成装置において、それら共振型光スキャナの走査を同期させることが可能となる。
(15) 前記走査部は、前記光束を第1方向に走査する第1走査と、その第1方向と交差する第2方向に前記第1走査より低速で前記光束を走査する第2走査とを行うものであり、前記光スキャナは、前記第1走査を行うために使用される(14)項に記載の画像形成装置。
この画像形成装置においては、前記(1)ないし(13)項のいずれかに係る光スキャナにより、第2走査より高速で光束を走査する第1走査が行われる。したがって、この画像形成装置によれば、形成される画像の品質を低下させることなく、第1走査の走査周波数を増加させることが容易となる。
(16) 前記走査部によって走査された光束は、眼の網膜に入射し、それにより、前記画像がその網膜上に投影される(14)または(15)項に記載の画像形成装置。
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1には、本発明の第1実施形態に従う網膜走査型ディスプレイ装置が系統的に表わされている。この網膜走査型ディスプレイ装置(以下、「RSD」と略称する。)は、レーザビームを、それの波面および強度を適宜変調しつつ、観察者の眼10の瞳孔12を経て網膜14の結像面上に入射させる。このRSDによれば、その結像面上においてレーザビームが2次元的に走査され、それにより、その網膜14上に画像が直接に投影される。
このRSDは、光源ユニット20を備え、さらに、その光源ユニット20と観察者の眼10との間において走査装置24を備えている。
光源ユニット20は、3原色(RGB)を有する3つのレーザ光を1つのレーザ光に結合して任意色のレーザ光を生成するために、赤色のレーザ光を発するRレーザ30と、緑色のレーザ光を発するGレーザ32と、青色のレーザ光を発するBレーザ34とを備えている。各レーザ30,32,34は、例えば、半導体レーザとして構成することが可能である。
各レーザ30,32,34から出射したレーザ光は、各コリメート光学系40,42,44によって平行光化された後に、波長依存性を有する各ダイクロイックミラー50,52,54に入射させられる。その後、それらダイクロイックミラー50,52,54により、各レーザ光が波長に関して選択的に反射・透過させられる。
具体的には、Rレーザ30から出射した赤色レーザ光は、コリメート光学系40によって平行光化された後に、ダイクロイックミラー50に入射させられる。Gレーザ32から出射した緑色レーザ光は、コリメート光学系42を経てダイクロイックミラー52に入射させられる。Bレーザ34から出射した青色レーザ光は、コリメート光学系44を経てダイクロイックミラー54に入射させられる。
それら3つのダイクロイックミラー50,52,54にそれぞれ入射した3原色のレーザ光は、それら3つのダイクロイックミラー50,52,54を代表する1つのダイクロイックミラー54に最終的に入射して結合され、その後、結合光学系56によって集光される。
以上、光源ユニット20のうち光学的な部分を説明したが、以下、電気的な部分を説明する。
光源ユニット20は、コンピュータを主体とする信号処理回路60を備えている。信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、各レーザ30,32,34を駆動するための信号処理と、レーザビームの走査を行うための信号処理とを行うように設計されている。
各レーザ30,32,34を駆動するため、信号処理回路60は、外部から供給された映像信号に基づき、網膜14上に投影すべき画像上の各画素ごとに、レーザビームにとって必要な色と強度とを実現するために必要な駆動信号を、各レーザドライバ70,72,74を介して各レーザ30,32,34に供給する。レーザビームの走査を行うための信号処理については後述する。
以上説明した光源ユニット20は、結合光学系56においてレーザビームを出射する。そこから出射したレーザビームは、光伝送媒体としての光ファイバ82と、その光ファイバ82の後端から放射させられるレーザビームを平行光化するコリメート光学系84とをそれらの順に経て走査装置24に入射すわ。
走査装置24は、水平走査系100と垂直走査系102とを備えている。
水平走査系100は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを水平な複数の走査線に沿って水平にラスタ走査する水平走査(これが前述の「第1走査」の一例である。)を行う光学系である。これに対し、垂直走査系102は、表示すべき画像の1フレームごとに、レーザビームを最初の走査線から最後の走査線に向かって垂直に走査する垂直走査(これが前述の「第2走査」の一例である。)を行う光学系である。水平走査系100は、垂直走査系102より高速にすなわち高周波数でレーザビームを走査するように設計されている。
具体的に説明するに、水平走査系100は、本実施形態においては、機械的偏向を行うミラーを備えた弾性体の振動によってそのミラーを揺動させる光スキャナ104を備えている。光スキャナ104は、信号処理回路60から供給される水平同期信号に基づいて制御される。
図2には、光スキャナ104が組立て状態で、斜視図で示されている。これに対し、図3には、光スキャナ104が分解斜視図で示されている。図2および図3に示すように、光スキャナ104は、本体部110がベース112に装着されて構成されている。
本体部110は、シリコン等、弾性を有する材料を用いて形成されている。本体部110の厚さは、約100μmとされている。本体部110は、図3の上部に示すように、概略的には、光が通過し得る貫通穴114を有して薄板長方形状を成している。本体部110は、外側には固定枠116を備え、一方、内側には、反射面120が形成された反射ミラー部122を有する振動体124を備えている。
このような本体部110の構成に対応して、ベース112は、図3の下部に示すように、本体部110との装着状態において固定枠116が装着されるべき支持部130と、振動体124と対向する凹部132とを有するように構成されている。凹部132は、本体部110をベース112に装着した状態において、振動体124が振動によって変位してもベース112と干渉しない形状を有するために形成されている。
図3に示すように、反射ミラー部122の反射面120は、それの対称中心線でもある揺動軸線134を中心として揺動させられる。振動体124は、さらに、その反射ミラー部122からそれと同一面上に延びて、その反射ミラー部122を固定枠116に接合するはり部140を備えている。本実施形態においては、反射ミラー部122の両側から一対のはり部140,140がそれぞれ互いに逆向きに延び出している。
各はり部140は、1個のミラー側板ばね部142と、一対の枠側板ばね部144,144と、それらミラー側板ばね部142と一対の枠側板ばね部144,144とを互いに接続する接続部146とを含むように構成されている。
各はり部140においては、ミラー側板ばね部142が、反射ミラー部122のうち揺動軸線134上において互いに対向する一対の縁の一方から、対応する接続部146まで延びている。接続部146は、揺動軸線134と直交する方向に延びている。さらに、各はり部140においては、一対の枠側板ばね部144が、対応する接続部146の端部から、揺動軸線134に対して互いに逆向きにオフセットする姿勢で、揺動軸線134に沿って固定枠116まで延びている。
各はり部140においては、図3に示すように、一対の枠側板ばね部144,144のそれぞれに、固定枠116に及ぶ姿勢で、圧電体150,152,154,156が取り付けられている。各圧電体150,152,154,156は、図4に示すように、圧電素子160を主体として構成されている。
圧電素子160は、薄板状を成して振動体124の片面に貼り付けられている。圧電素子160は、その貼付面と直角な方向において上部電極162と下部電極164とによって挟まれており、それにより、各圧電体150,152,154,156が構成されている。図3および図4に示すように、上部電極162と下部電極164とはそれぞれ、各リード線166により、固定枠116に設置された一対の入力端子168,168に接続されている。
図3に示すように、本実施形態においては、4個の圧電体150,152,154,156が、反射ミラー部122を隔てた一対の対向位置に2個ずつ、かつ、揺動軸線134に関して互いに線対称的に配置されている。それら4個の圧電体150,152,154,156のうち、一方の対向位置に配置されている2個の圧電体150,154(図3において右側に位置する)が第1対を成し、他方の対向位置に配置されている2個の圧電体152,156(図3において左側に位置する)が第2対を成している。
本実施形態においては、第1対を成す2個の圧電体150,154がそれぞれ駆動源として機能し、振動体124を揺動軸線134のまわりに捩じり振動させて揺動させる。そのため、各圧電体150,154においては、上部電極162と下部電極164とに電圧が印加され、それにより、その印加方向と直交する向きすなわち長さ方向の変位が各圧電体150,154に発生させられる。
この変位により、図5に示すように、はり部140に屈曲すなわち反りが発生する。この屈曲は、はり部140のうち固定枠116との接続部を固定端とする一方、反射ミラー部122との接続部を自由端として行われる。その結果、その屈曲の向きが上向きであるか下向きであるかにより、自由端が上向きまたは下向きに変位する。
第1対を成す2個の圧電体150および154は、それぞれの圧電素子160の自由端が互いに逆向きに変位するように屈曲させられる。その結果、反射ミラー部122は、図5に示すように、揺動軸線134のまわりに回転させられる。
以上要するに、各枠側板ばね部144は、それに貼り付けられた圧電素子160の直線変位を屈曲運動に変換する機能を有し、接続部146は、各枠側板ばね部144の屈曲運動をミラー側板ばね部142の回転運動に変換する機能を有しているのである。そのミラー側板ばね部142の回転運動によって反射ミラー部122が回転させられる。
本実施形態においては、第1対を成す2個の圧電体150および154を互いに逆向きに変位させることにより、反射ミラー部122にそれの揺動軸線134まわりの往復回転運動すなわち揺動運動が発生させられる。このことを実現するために、第1対を成す2個の圧電体150および154に交番電圧が互いに逆位相で印加される。その結果、第1対を成す2個の圧電体150および154の一方が、図3において下向きに撓んだ場合には、他方が、同図において上向きに撓むこととなる。
上述の制御を実現するために、水平走査系100は、図1に示す水平走査駆動回路180を備えている。この水平走査駆動回路180においては、図6に示すように、発振器182が、信号処理回路60から入力された水平同期信号に基づき、交番電圧信号を発生させる。発振器182は、振動体124の正規の共振周波数(設計値)と同じ周波数で交番電圧信号を発生させる。発振器182は、固定された周波数で交番電圧信号を発生させるように設計されている。
図6に示すように、発振器182は、位相シフタ184およびアンプ186を経た第1経路を経て、第1対を成す2個の圧電体150,152の一方である圧電体150に接続される一方、位相反転回路188、位相シフタ190およびアンプ192を経た第2経路を経て、第1対を成す2個の圧電体150および154の他方である圧電体154に接続されている。
位相反転回路188は、発振器182から入力された交番電圧信号を、それの位相を反転させて位相シフタ190に供給する。この位相反転回路188は、上記第2経路のみに設けられるため、圧電体150と154とでは、対応するアンプ186,192から供給される交番電圧信号の位相が互いに逆となる。
いずれの経路においても、位相シフタ184,190は、前記映像信号と反射ミラー部122の振動とが互いに同期するように、圧電体150,154に供給されるべき交番電圧信号の位相を変化させるために設けられている。
本実施形態においては、前述の第2対を成す2個の圧電体152,156が、振動体124の剛性を制御してそれの実際の共振周波数を制御するために振動体124に貼り付けられている。図5に示すように、それら2個の圧電体152および156は、振動体124の捩じり振動に伴い、各圧電体152,156の圧電素子160の自由端が互いに逆向きに変位するように屈曲させられる。
各圧電体152,156は、その変位を電荷に変換する性質を有するが、その変換によって各圧電体152,156に発生した電荷の放出が制限されると、各圧電体152,156の変位も制限される。本実施形態においては、各圧電体152,156からの電荷放出量が制御されることにより、各圧電体152,156の剛性、ひいては、対応する各枠側板ばね部144,144の剛性が制御される。この制御については、後に詳述する。
以上説明した光スキャナ104によって水平走査されたレーザビームは、図1に示すように、リレー光学系194によって垂直走査系102に伝送される。
図1に示すように、このRSDは、ビームディテクタ200を定位置に備えている。ビームディテクタ200は、光スキャナ104によって偏向されたレーザビーム(すなわち、主走査方向において走査されたレーザビーム)を検出することにより、そのレーザビームの主走査方向における位置を検出するために設けられている。ビームディテクタ200の一例は、ホトダイオードである。
ビームディテクタ200は、レーザビームが所定の位置に到達したことを示す信号をBD信号として出力し、その出力されたBD信号は信号処理回路60に供給される。このビームディテクタ200から出力されたBD信号に応答し、信号処理回路60は、ビームディテクタ200がレーザビームを検出した時期から設定時間が経過するのを待って、必要な駆動信号を各レーザドライバ70,72,74に供給する。これにより、各走査線ごとに、画像表示開始タイミングが決定され、その決定された画像表示開始タイミングで画像表示が開始される。よって、画像信号とレーザビーム走査位置との対応が確実となる。
以上、水平走査系100を説明したが、垂直走査系102は、図1に示すように、機械的偏向を行う揺動ミラーとしてのガルバノミラー210を備えている。ガルバノミラー210には、水平走査系100から出射したレーザビームがリレー光学系194によって集光されて入射するようになっている。このガルバノミラー210は、垂直走査駆動回路211により、ガルバノミラー210に入射したレーザビームの光軸と交差する回転軸線まわりに揺動させられる。このガルバノミラー210の起動タイミングおよび回転速度は、信号処理回路60から供給される垂直同期信号に基づいて制御される。
以上説明した水平走査系100と垂直走査系102との共同により、レーザビームが2次元的に走査され、その走査されたレーザビームによって表現される画像が、リレー光学系214を経て観察者の眼10に照射される。本実施形態においては、リレー光学系214が、光路上において複数個の光学素子216,218を並んで備えている。
図7に示すように、本実施形態においては、反射ミラー部122を隔てた2個の対向位置の一方に配置された2個の圧電体150,154が共に駆動源として機能する一方、他方の対向位置に配置された2個の圧電体152,156が共に、振動体124の共振周波数を制御する機能を有する。
それら2個の圧電体152,156には共振周波数制御回路230が接続され、この共振周波数制御回路230には前記信号処理回路60が接続されている。信号処理回路60は、コンピュータ232を主体として構成されている。コンピュータ232は、CPU234とROM236とRAM238とが図示しないバスによって互いに接続されて構成されている。
図8に示すように、共振周波数制御回路230は、コイル(インダクタンス)としての可変コイル242を備えている。その可変コイル242と圧電体152,156とは、接地端子244に対して互いに並列に接続されている。これにより、本実施形態においては、それら可変コイル242とコンデンサ(キャパシタンス)としての圧電体152,156とにより、反共振周波数が変更可能である反共振回路246が構成されている。
図9には、可変コイルと圧電体152,156とを含む反共振回路246によって圧電体152,156の力係数が変更される様子が等価的な電気回路図で示されている。図9においては、コンデンサを表わす記号が2個存在するが、図9において右側の記号は、圧電体152,156の電気的特性、すなわち、電気容量を表わしており、一方、左側の記号は、圧電体152,156の機械的性質、すなわち、弾性要素を表わしている。
図10には、駆動源としての圧電体150,154によって振動が励起される圧電体152,156の振動周波数(以下、「励起周波数fe」という。これは、駆動源としての圧電体150,154の振動周波数fと等しい。)と、圧電体152,156に流れ得る電流Iとの関係の一例がグラフで表わされている。
図10の(a)および(b)に共通に示すように、励起周波数feが反共振周波数F0に一致するとき、反共振回路246のインピーダンスが極大となり、圧電体152,156に流れ得る電流Iが極小となる。電流Iが少ないほど、圧電体152,156の変位が制限され、それにより、圧電体152,156ひいては振動体124の剛性が増加する。特に電流Iが完全に0であれば、理論的には圧電体152,156が完全な剛体として機能する。一方、振動体124の剛性が増加するほど、振動体124の共振周波数f0が上昇する。したがって、電流Iが少ないほど、共振周波数f0が上昇することになる。このように、電流Iと共振周波数f0との間に一定の関係が成立する。
なお、本実施形態においては、反共振周波数F0における電流Iが0よりわずかに大きいように反共振回路246が設計されており、反共振周波数F0においては圧電体152,156の変位がわずかに許容される。
次に、励起周波数feが振動体124の共振周波数f0の設計値f0des(実際値と一致するか否かを問わない。)と等しいときに圧電体152,156に流れ得る電流(以下、「対応電流」という。)Iを考察する。
この対応電流Iは、図10の(a)および(b)に示すように、反共振周波数F0をそれの初期値Fointから一方向(図10の例においては、励起周波数feが増加する方向)にずらせば、設計共振周波数f0desが反共振周波数F0より低い場合には電流I1から電流I3に増加し、高い場合には電流I2から電流I4に減少する。逆に、対応電流Iは、反共振周波数F0を初期値F0intから逆方向(図10の例においては、励起周波数feが減少する方向)にずらせば、それを上記一方向にずらす場合とは逆向きに変化する。
したがって、設計共振周波数f0des(固定値)と反共振周波数F0(可変値)との大小関係が逆転しない限り、反共振周波数F0と対応電流Iとの間に一定の関係が成立する。一方、前述のように、対応電流Iと共振周波数f0との間にも一定の関係が成立する。よって、反共振周波数F0の制御によって共振周波数f0の制御が実現できる。
さらに、本実施形態においては、可変コイル242のインダクタンス値Hが変更可能とされている。インダクタンス値Hの変更は、例えば、可変コイル242のタップを切り換えたり、可変コイル242に対して鉄心を出し入れすることによって行うことが可能である。インダクタンス値Hが変更されれば、それに応じて反共振周波数F0が低下または上昇させられる。
本実施形態においては、振動体124の反射面120の振幅が検出され、その検出値に基づき、振動体124の共振周波数の実際値f0actをそれが設計値f0desと等しくなるように補正するのに適当な反共振周波数Fの補正量ΔFが決定される。その決定された補正量ΔFに基づいてインダクタンス値Hが補正される。
なお付言すれば、本実施形態においては、反射面120の振幅が、その反射面120からの反射光、すなわち、光スキャナ104によって走査されたレーザビーム(以下、単に「走査ビーム」ともいう。)の最大偏向角度である走査ビームの振れ角θを意味する用語として使用される。
図11には、このような共振周波数制御を実行するためにROM236に予め記憶されている共振周波数制御プログラムの内容が概念的にフローチャートで表わされている。
この共振周波数制御プログラムはコンピュータ232によって繰返し実行される。各回の実行時には、まず、ステップS1(以下、単に「S1」で表わす。他のステップについても同じとする。)において、反射面120の揺動中、その反射面120の振幅に相当する走査ビームの振れ角θが検出される。この振幅検出については後に詳述する。
図12には、振れ角θの経時的変化の一例がグラフで表わされている。この例においては、時刻t=t0のときに、振れ角θの実際値θactが設計値θdecに一致していたが、その後、時刻t=t1のときに、振動体124の共振周波数f0の実際値f0actが設計値fodesより低下したために、振れ角θの実際値θactが設計値θdesより減少している。
次に、図11のS2において、その検出された振れ角θに基づき、反共振回路246の反共振周波数F0の補正量ΔFが決定される。補正量ΔFは、振れ角θの検出値(実際値θact)が設計値θdesに接近するように決定される。
振れ角θの実際値θactが設計値θdesより減少した場合には、その原因として、振動体124の共振周波数f0の実際値f0actが設計値f0desより上昇したことと、低下したこととの双方が考えられる。しかし、一般には、設計値f0desより低下したことが原因であると考えられる。
したがって、振れ角θの実際値θactが検出されれば、振動体124の共振周波数f0の実際値f0actが設計値f0desより減少しているか否かが判明し、さらに、その実際値f0actを設計値f0desに接近させるために反共振回路246の反共振周波数F0を補正すべき向きも判明する。すなわち、反共振周波数F0の補正量ΔFの符号も判明するのである。
さらに、その補正量ΔFの絶対値については、振れ角θの実際値θactの、設計値θdesからのずれ量をフィードバックすることにより、一挙に決定したり、設定変化量ずつ段階的に変化するように決定することが可能である。
続いて、図11のS3において、上記決定された補正量ΔFに基づき、可変コイル242のインダクタンス値Hが補正される。具体的には、補正量ΔFに基づき、インダクタンス値Hの補正量ΔHが決定され、その決定された補正量ΔHでインダクタンス値Hを補正するための信号が反共振回路246に対して出力される。
以上で、この共振周波数制御プログラムの一回の実行が終了する。
そのようにインダクタンス値Hが補正されれば、反共振回路246の反共振周波数F0の実際値F0actが補正される。この補正により、対応電流Iの大きさが補正され、それにより、振動体124の共振周波数f0の実際値f0actが設計値f0desに接近するように補正される。
図13には、図11におけるS1の詳細が振幅検出ルーチンとしてフローチャートで概念的に表されている。この振幅検出ルーチンにおいては、ビームディテクタ200を利用して振れ角θが検出される。以下、この振幅検出ルーチンを図13を参照して具体的に説明するが、それに先立ち、この振幅検出ルーチンの実行によって反射面120の振幅すなわち振れ角θが検出される原理を図14および図15を参照して説明する。
図14および図15にはそれぞれ、光スキャナ104から走査ビームが放出される光路が示されている。さらに、各紙面に直角な仮想走査面上に走査ビームが照射される照射点が、走査ビームの各瞬間における角度である走査角φに応じて移動する様子も示されている。走査角φの最大値が振れ角θに該当する。
図14には、振れ角θの実際値θactが設計値θdesと一致する場合、すなわち、光スキャナ104による走査振幅が正常である場合に、走査ビームが揺動する様子が示されている。
図14に示すように、走査角φが0から増加して設計値θdesに到達するまでに経過する時間は、走査ビームの走査周期を「T」で表わせば、T/4に等しい。したがって、走査角φが0から増加して、走査ビームがビームディテクタ200に入射する角度αに到達するまでに経過する時間を「ts」で表わし、さらに、走査角φが、角度αから増加して設計値θdesに到達するまでに経過する時間を「tm」で表わせば、時間tsは、
ts=T/4−tm
なる式で誘導できる。
ここに、時間tmは、走査ビームがビームディテクタ200に前回入射した時期から、今回入射した時期までの経過時間tbmの半値として測定することが可能である。したがって、その経過時間tbmを測定すれば、時間tsを検出することが可能である。
これに対し、図15には、振れ角θの実際値θactが設計値θdesより小さい場合、すなわち、光スキャナ104による走査振幅が異常である場合に、走査ビームが揺動する様子が示されている。
図15に示すように、走査角φが0から増加して角度αに到達するまでに経過する時間を「ts’」で表わし、さらに、走査角φが、角度αから増加して実際値θactに到達するまでに経過する時間を「tm’」で表わせば、時間ts’は、
ts’=T/4−tm’
なる式で誘導できる。
ここに、図14における時間tsと図15における時間ts’とを長さに関して互いに比較すると、図14に示す場合と図15に示す場合とで、走査ビームがビームディテクタ200に入射する角度αが互いに共通するにもかかわらず、走査ビームがビームディテクタ200を通過するときの速度が、図15に示す場合の方が図14に示す場合より、遅い。したがって、振れ角θの実際値θactが小さいほど、走査角φが0から増加して角度αに到達するまでに経過する時間が長くなる。すなわち、時間ts’の方が時間tsより長いのである。
以上の説明から明らかなように、時間tsが判明すれば、それに応じて振れ角θの実際値θactを検出することが可能なのである。
以上説明した知見に基づき、図13に示す振幅検出ルーチンにおいては、まず、S31において、時間tbmが0にセットされる。次に、S32において、ビームディテクタ200からBD信号が入力されたか否か、すなわち、走査ビームがビームディテクタ200に入射したか否かが判定される。
今回は、BD信号が入力されなかったと仮定すれば、S32の判定がNOとなり、直ちにこの振幅検出ルーチンの一回の実行が終了する。これに対し、今回は、BD信号が入力されたと仮定すれば、S32の判定がYESとなり、S33に移行する。
このS33においては、時間tbmが設定増分Δtだけ増加させられ、続いて、S34において、次のBD信号が入力されるのが待たれる。次のBD信号が入力されるまで、S33の実行が繰り返され、その間、時間tbmが設定増分Δtずつ順次増加させられる。
次のBD信号が入力されたならば、S34の判定がYESとなり、S35において、時間tbmの現在値が判定値t0より短いか否かが判定される。以下、このS35の機能を具体的に説明する。
本実施形態においては、ビームディテクタ200から互いに時期的に隣接して入力された2個のBD信号の時間間隔tbmに基づいて振幅が検出されるが、走査ビームがビームディテクタ200を前回通過してから今回再び通過するまでの経路が、図14からも明らかなように、2種類存在する。すなわち、走査ビームが、ビームディテクタ200から、走査角φが0である照射点を通過して、再びビームディテクタ200に戻る第2の経路と、ビームディテクタ200から、走査角φが振れ角θの実際値θactと一致する点を通過して、再びビームディテクタ200に戻る第1の経路とが存在するのである。
第1の経路は、第2の経路より長さが短い。一方、図14に示すように、最終的に取得すべき物理量は、時間tsであるが、本実施形態においては、まず、時間tbmを取得することが必要である。その時間tbmは、第1の経路に対応するから、図13のS35において判定される時間tbmが基準値t0より短くはない場合には、その時間tbmが、第2の経路に対応する時間である可能性があるという理由で、除外されるようになっている。
そして、今回は、時間tbmの現在値が基準値t0より短くはないと仮定すれば、S35の判定がNOとなり、直ちにこの振幅検出ルーチンの一回の実行が終了する。これに対し、今回は、時間tbmの現在値が基準値t0より短いと仮定すれば、S35の判定がYESとなり、S36において、時間tbmの現在値に基づき、前述の原理に従い、振れ角θの実際値θactが演算される。
以上で、この振幅検出ルーチンの一回の実行が終了する。
本実施形態においては、反射ミラー部122を隔てた2個の対向位置のいずれか一方に2本、揺動軸線134に関して線対称的に配置された2本の枠側板ばね部144にそれぞれ2個の圧電体152,156が装着される。したがって、本実施形態によれば、それら2本の枠側板ばね部144の一方のみに圧電体が装着される場合に比較し、圧電体によって振動体124の剛性をその振動体124の全体についてできる限り一様に制御することが容易となる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、光スキャナ104が前記(1)項に係る「光スキャナ」の一例を構成し、レーザビームが同項における「光」の一例を構成し、圧電体150,154がそれぞれ同項における「第1の変換素子」の一例を構成し、水平走査駆動回路180が同項における「駆動手段」の一例を構成し、圧電体152,156がそれぞれ同項における「第2の変換素子」の一例を構成し、共振周波数制御回路230が(1)ないし(4)項のいずれかにおける「共振周波数制御手段」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、ビームディテクタ200が、前記(7)項における「振幅検出器」の一例と、前記(9)項における「光検出器」の一例とをそれぞれ構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、反射ミラー部122が前記(10)項における「反射ミラー部」の一例を構成し、4本の枠側板ばね部144が同項における「複数本のばね部」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、圧電体152,156が前記(11)項または(12)項における「第2の変換素子」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、光源ユニット20が前記(14)項における「光源」の一例を構成し、走査装置24が前記(14)または(15)項における「走査部」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、2個の圧電体150,154によって振動体124が加振される。さらに、反射面120の振幅がビームディテクタ200を用いて検出される。
これに対し、本実施形態においては、図16に示すように、圧電体150のみによって振動体124が加振される。さらに、反射面120の振幅が、圧電体154によって検出される。圧電体154は、それに発生した変位に応じた電荷を発生させるため、その発生させられた電荷の量に基づき、反射面120の振幅が検出される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、圧電体150が前記(1)項における「第1の変換素子」の一例を構成し、圧電体154が前記(7)項における「振幅検出器」の一例と、前記(8)項における「第3の変換素子」の一例とをそれぞれ構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、圧電体152,154が前記(11)項または(12)項における「第2の変換素子」の一例を構成しているのである:
次に、本発明の第3実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、反射ミラー部122を隔てた2個の対向位置の一方に配置された2本の枠側板ばね部144,144にそれぞれ、振動体124の共振周波数f0を制御するための圧電体152,156が装着されている。
これに対し、本実施形態においては、図17に示すように、4個の圧電体150,152,154,156のうち、反射ミラー部122に関する2対の対角位置のうちの一方にそれぞれ配置された2個の圧電体150,156が、互いに逆位相で振動させられて振動体124を加振する駆動源として使用される。残りの2個の圧電体152,154は、別の一対の対角位置にそれぞれ配置されていて、振動体124の共振周波数f0を制御するために使用される。
このように、本実施形態においては、振動体124の共振周波数f0を制御するために振動体124に装着される2個の圧電体152,154が、揺動軸線134を隔てた両側に1個ずつ配置されるとともに、その揺動軸線134と交差する姿勢で反射ミラー部122を通過する軸線を隔てた両側にも1個ずつ配置される。
したがって、本実施形態によれば、少ない数の圧電体152,154により、振動体124の剛性をその全体について一様に制御することが容易となる。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、圧電体150,156が前記(1)項における「第1の変換素子」の一例を構成し、圧電体152,154が同項における「第2の変換素子」の一例と、前記(11)または(13)項における「第2の変換素子」の一例とをそれぞれ構成しているのである。
次に、本発明の第4実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態と共通する要素が多いため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1実施形態においては、2個の圧電体150,154はそれぞれ恒久的に駆動源として使用される一方、残りの2個の圧電体152,156はそれぞれ恒久的に、振動体124の共振周波数f0を制御する制御素子として使用される。
ところで、同じ圧電素子が駆動源として使用される環境と、制御素子として使用される環境とを互いに比較すれば、前者の環境において圧電素子に印加される電圧の方が、後者の環境において圧電素子に発生する電圧より高いなどの理由により、前者の環境の方が後者の環境より、圧電素子が使用される環境が厳しい。そのため、同じ圧電素子でも、駆動源として使用される場合の方が、制御素子として使用される場合より、酷使度が高く、寿命も短い傾向がある。
以上説明した知見に基づき、本実施形態においては、駆動源として使用される圧電素子および制御素子として使用される別の圧電素子と、水平走査駆動回路180および共振周波数制御回路230との間の接続状態が、設定条件が成立すれば、別の状態に切り換えられる。具体的には、これまで駆動源として使用されてきた圧電素子が制御素子として使用され、かつ、これまで制御素子として使用されてきた別の圧電素子が駆動源として使用されることとなる。
したがって、本実施形態によれば、同じ圧電素子を、酷使度が高いために劣化が発生し易い環境において使用し続けずに済むため、同じ圧電素子が継続的に駆動源として使用される場合に比較し、その圧電素子の寿命が結果的に延長される。
以上説明した作用効果を実現するために、具体的には、本実施形態においては、図18に示すように、4個の圧電体150,152,154,156と、水平走査駆動回路180と、共振周波数制御回路230との間に切換回路260が設けられている。
この切換回路260は、常には、2個の圧電体150,154(他の圧電体でも可。)を水平走査駆動回路180に接続し、かつ、2個の圧電体152,156(他の圧電体でも可。)を共振周波数制御230に接続する通常状態(これが「第1の接続状態」の一例である。)にある。
これに対し、接続状態を切り換えることが信号処理回路60によって指令されれば、切換回路260は、2個の圧電体150,154(他の圧電体でも可。)を共振周波数制御回路230に接続し、かつ、2個の圧電体152,156(他の圧電体でも可。)を水平走査駆動回路180に接続する切換状態(これが「第2の接続状態」の一例である。)に移行する。
このような接続状態の切換えを行うために、本実施形態においては、図19にフローチャートで概念的に表わされている接続状態切換プログラムがコンピュータ232によって繰返し実行される。
この接続状態切換プログラムの各回の実行時には、まず、S101において、第1実施形態におけると同様にして、反射面120の振幅が検出される。具体的には、振れ角θの実際値θactが検出される。
次に、S102において、その検出された振れ角θの実際値θactがしきい値θthより大きいか否かが判定される。振れ角θが正常であるか否かが判定されるのである。今回は、実際値θactがしきい値θthより大きいと仮定すれば、判定がYESとなり、S103において、接続状態を切り換えることが不要であると判定される。その後、直ちにこの接続状態切換プログラムの一回の実行が終了する。
これに対し、今回は、実際値θactがしきい値θthより大きくはないと仮定すれば、S102の判定がNOとなり、S104において、接続状態を切り換えることが必要であると判定される。
その後、S105において、接続状態を通常状態から切換状態に切り換えることを指令する切換信号が切換回路260に対して出力される。
以上で、この接続状態切換プログラムの一回の実行が終了する。
なお付言するに、この接続状態切換プログラムは、接続状態切換モードの実行時に実行される。この接続状態切換モードの実行時においては、駆動源としての圧電体に印加される電圧は一定値である。この接続状態切換モードは、光スキャナ104による駆動開始時や駆動終了時の、光走査を行っていない時に実行される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、4個の圧電体150,152,114,156が、前記(5)項における「現実の変換素子」の一例を構成し、切換回路260が前記(6)項における「切換手段」の一例を構成しているのである。
次に、本発明の第5実施形態を説明する。ただし、本実施形態は、第1実施形態ないし第4実施形態と共通する要素が多く、異なるのは共振周波数制御回路に関する要素のみであるため、異なる要素についてのみ詳細に説明し、共通する要素については、同一の符号または名称を使用して引用することにより、詳細な説明を省略する。
第1ないし第4実施形態においては、共振周波数制御回路230が、可変コイル242を主体として構成されている。これに対し、本実施形態においては、図20に示すように、共振周波数制御回路310が、インダクタンス値が固定された固定コイル312とバラクタ314(可変容量ダイオード)との並列回路316を主体として構成されている。
具体的には、図20に示すように、この共振周波数制御回路310においては、第1および第2の端子320,322間に固定コイル312が配置されている。この固定コイル312にバラクタ314が並列に接続されている。バラクタ314の容量は、そのバラクタ314に接続された第3の端子324に印加される電気信号(例えば、電圧信号)の変化に応じて変化する。固定コイル312とバラクタ314との並列回路316は、第1および第2の端子320,322において、圧電体152,156に並列に接続されている。本実施形態においては、並列回路316と圧電体152,156との並列回路が反共振回路を構成する
第3の端子324に前記信号処理回路60が接続されており、結局、固定コイル312とバラクタ314との並列回路316のリアクタンス値が信号処理回路60によって制御され、ひいては、上記反共振回路の反共振周波数F0が信号処理回路60によって制御される。その結果、振動体124の共振周波数f0が走査ビームの実際の振れ角θに基づいて制御される。
以上の説明から明らかなように、本実施形態においては、共振周波数制御回路310が前記(1)項における「共振周波数制御手段」の一例を構成し、バラクタ314が前記(3)項における「可変リアクタンス素子」の一例を構成し、並列回路316が同項における「能動可変リアクタンス回路」の一例を構成しているのである。
さらに、本実施形態においては、固定コイル312が前記(4)項における「コイル」の一例を構成し、並列回路316と圧電体152,156との並列回路が同項における「反共振回路」の一例を構成しているのである。
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[課題を解決するための手段]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。