JP4019709B2 - エンジンベンチシステム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンにダイナモメータを直結してエンジンの各種性能試験を行うためのエンジンベンチシステムに係り、特にダイナモメータの制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のエンジンベンチシステムでは図5に示すようにエンジン1とトランスミッション(ATあるいMT、MTの場合はクラッチ付)2を組み合わせ、シャフト3を介してダイナモメータ4と結合している。
【0003】
エンジン側はスロットルアクチェータ(ACT)5によりスロットル開度をコントロールする。ダイナモ4側には回転検出器6、トルク検出器(ロードセル)7を設け、この検出によりダイナモ4の速度、トルクの制御を実施する。このシステムによりエンジン1の耐久性や性能(燃費、排ガス計測等)、ECU適合等の試験をしている。
【0004】
但し、このようなシステムでは、機械の共振点が低く、ダイナモ側からエンジン側へ高応答なトルク特性をもってトルク伝達ができない、あるいはエンジン側の高応答な挙動をダイナモ側へ伝達することができないため、エンジンや車両関連部品の過渡性能試験が完成車両を使用しないと実施できない問題があった。
【0005】
このような課題を解決する手段として、最近、図6に示すように、エンジン1とダイナモ4を高剛性のシャフト8で直結することで、ダイナモ4からエンジン1に対して高い周波数特性までのトルク加振を可能にし、実車に近い状態での過渡再現を実施することにより、車両レスでのエンジン試験を可能にするシステムが考えられている。
【0006】
図7は、エンジンベンチシステムのダイナモメータ制御装置の基本構成図を示す。エンジン1とダイナモ4をシャフト8で機械結合した機構に対して、軸トルクメータ9によるエンジン軸トルク検出と、図示省略する回転検出器によるダイナモ4の速度検出を行い、コントローラ10はダイナモ速度または軸トルクを指令値とし、軸トルク検出値またはダイナモ速度検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、この演算結果としてダイナモトルク指令を求める。インバータ11は、コントローラ10からのダイナモトルク指令に応じた電流出力でダイナモ4を駆動することでダイナモ4にダイナモトルク指令に一致したトルクを発生させる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このようなシステムでは、エンジン−ダイナモ間のトルク伝達性能が良いため、エンジンが発生するトルク脈動がダイナモの制御性能に大きく影響を与えることになる。
【0008】
例えば、エンジン−ダイナモ間のトルク伝達性能が振動数100Hz程度まであるとすると、4気筒のエンジンでは、3000回転(rpm)までエンジン脈動の影響を受けるため、実際の運転領域が影響範囲になってしまう。
【0009】
そのため、エンジンが発生する脈動トルクの把握が重要となるが、従来はエンジン脈動を直接測定する手段がなく、定格上の理論値を使用していた。但し、脈動トルクはエンジンのスロットル開度や回転数により大きく変動するため、過渡的な脈動トルクの把握はできていなかった。
【0010】
本発明の目的は、エンジン−ダイナモ間が高剛性シャフトで結合された高応答なエンジンベンチシステムにおいて、エンジンが発生する過渡的な脈動トルクを高い精度で検出および検出した脈動トルクの影響を取り除いたダイナモメータ制御を可能にし、ひいては高精度のエンジン試験ができるようにしたエンジンベンチシステムを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
(発明の原理的な説明)
エンジンベンチシステムのダイナモメータ制御装置として、μ設計法により設計したものを、本願出願人は既に提案している。
【0012】
この提案は、まず、制御対象システムであるエンジン−ダイナモ制御系のモデル化を行う。ここでは図8に示す5慣性系のモデル化例を示す。このエンジン−ダイナモ系モデルにおいて、各パラメータは、以下の表に示す意味である。
【0013】
【表1】
【0014】
このモデル化は適用する制御対象で制御に大きく寄与する機械パラメータを利用してモデル化を行うもので、5慣性系に限ったものではなく、4慣性系、3慣性系でもよい。
【0015】
次に、ダイナモメータの制御装置の設計には、前記モデルの運動方程式を次式のように展開する。なお、θxは機械要素xの回転位相角である。
【0016】
【数1】
【0017】
この運動方程式を基にしたエンジン−ダイナモ制御系の等価ブロックを示したのが図9であり、図7のインバータも含めた5慣性系の等価ブロック構成の場合を示す。
【0018】
この図9の等価ブロックによれば、エンジン−ダイナモ制御系の伝達特性を厳密に定義でき、この伝達特性を基に軸トルクTpfやダイナモ速度ωdを検出信号として図7のコントローラにフィードバックすることで高応答を得ることができる。
【0019】
ここで、図9の等価ブロックの1つの入力になるエンジントルクTeにはエンジン1の定格上の理論値を使用すると、前記のようにエンジンが発生する脈動トルクの影響を受け、広い回転数範囲で高応答が得られなくなる。
【0020】
そこで、本発明では、図9の等価ブロックにおいて、エンジントルクから軸トルクまでの伝達特性とは逆の伝達特性をもつエンジントルクオブザーバを用意し、このオブザーバには図9の等価ブロックに得られる軸トルクを入力として出力にエンジントルク推定値を求め、これをエンジン脈動計測情報として利用したり、図9の等価ブロックのエンジントルクTeとして与えることにより、過渡的なエンジンの脈動による影響を取り除くものである。
【0021】
(1)エンジンとダイナモメータを高剛性シャフトで結合し、
エンジン−ダイナモ制御系の慣性系がもつ機械パラメータを使用して該制御系のモデル化を行い、このモデルを基にした運動方程式からμ設計法により設計したダイナモメータ制御装置によりダイナモメータの速度制御をするエンジンベンチシステムにおいて、
前記ダイナモメータ制御装置は、
前記ダイナモメータの速度指令に対して、ダイナモ速度検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、ダイナモトルク指令を得るコントローラと、
前記ダイナモメータの速度制御時のエンジントルクおよび前記コントローラに得るダイナモトルク指令を入力とし、少なくとも3慣性系のエンジン−ダイナモ制御系の伝達特性K(S)を有して軸トルク検出値および前記ダイナモ速度検出値を得る伝達特性演算器と、
前記伝達特性演算器に得る軸トルク検出値を入力とし、前記伝達特性K(S)とは逆の伝達特性を有してエンジントルク推定値を得るエンジントルクオブザーバを備えたことを特徴とする。
【0022】
(2)エンジンとダイナモメータを高剛性シャフトで結合し、
エンジン−ダイナモ制御系の慣性系がもつ機械パラメータを使用して該制御系のモデル化を行い、このモデルを基にした運動方程式からμ設計法により設計したダイナモメータ制御装置によりエンジンの軸トルク制御をするエンジンベンチシステムにおいて、
前記ダイナモメータ制御装置は、
前記エンジンの軸トルク指令に対して、エンジンの軸トルク検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、ダイナモトルク指令を得るコントローラと、
前記エンジンの軸トルク制御時のエンジントルクおよび前記コントローラに得るダイナモトルク指令を入力とし、少なくとも3慣性系のエンジン−ダイナモ制御系の伝達特性K(S)を有して前記軸トルク検出値を得る伝達特性演算器と、
前記伝達特性演算器に得る軸トルク検出値を入力とし、前記伝達特性K(S)とは逆の伝達特性を有してエンジントルク推定値を得るエンジントルクオブザーバを備えたことを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1を示す装置構成図であり、μ設計法で設計したダイナモ速度制御装置の場合である。
【0024】
コントローラ21は、エンジンの試験内容に応じてパターン設定されるダイナモ速度指令に対して、ダイナモ速度検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、ダイナモトルク指令を図7のエンジン−ダイナモ制御系がもつ伝達特性K(S)に与える。このコントローラ21は、従来のPID制御、またはH∞制御、μ設計法による制御特性をもつものにされる。
【0025】
伝達特性演算器22は、コントローラ21からのダイナモトルク指令とエンジン1が発生するエンジントルクの検出値からエンジン−ダイナモ制御系の伝達特性K(S)を有してダイナモ速度を検出し、コントローラ21へのフィードバック信号にする。この伝達特性演算器22は、前記のμ設計法を利用してダイナモーエンジン制御系の厳密な制御特性が得られるように設計したものである。
【0026】
エンジントルクオブザーバ23は、図9の等価ブロックにおいて、エンジントルクから軸トルクまでの伝達特性とは逆の伝達特性をもち、伝達特性演算器22に得られる軸トルクを入力として出力にエンジントルク推定値を求める。
【0027】
図2は、ダイナモメータ速度制御で、エンジントルクから伝達特性検出までの伝達特性(ゲイン特性)を示す。この例では100Hz近傍までほぼフラットに推移してその後減衰している。この特性の逆特性を図1のエンジントルクオプサーバ23に適用することにより、軸トルク検出からエンジントルクを推定することができる。
【0028】
このエンジントルク推定値は、エンジン脈動計測情報として利用することができる。
【0029】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2を示す装置構成図であり、μ設計法で設計した軸トルク制御装置の場合である。
【0030】
コントローラ24は、エンジンの試験内容に応じてパターン設定される軸トルク指令に対して、軸トルク検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、ダイナモトルク指令を図5のエンジン−ダイナモ制御系がもつ伝達特性K(S)に与える。
【0031】
伝達特性演算器25は、コントローラ21からのダイナモトルク指令とエンジン1が発生するエンジントルクの検出値からエンジン−ダイナモ制御系の伝達特性K(S)を有して軸トルクを検出し、コントローラ21へのフィードバック信号にする。この伝達特性演算器25は、前記のμ設計法を利用してダイナモーエンジン制御系の厳密な制御特性が得られるように設計したものである。
【0032】
エンジントルクオブザーバ26は、図9の等価ブロックにおいて、エンジントルクから軸トルクまでの伝達特性とは逆の伝達特性をもち、伝達特性演算器25に得られる軸トルクを入力として出力にエンジントルク推定値を求める。
【0033】
図4は、軸トルク制御で、エンジントルクから軸トルク検出までの伝達特性(ゲイン特性)を示す。この例では100Hz近傍まで20dB/decでゲインが増加している。この特性の逆特性を図3のエンジントルクオプサーバ26に適用することにより、軸トルク検出からエンジントルクを推定することができる。
【0034】
このエンジントルク推定値は、エンジン脈動計測情報として利用することができる。
【0035】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、ダイナモ速度制御時および軸トルク制御時にエンジントルクから軸トルク検出の特性を利用して過渡的なエンジン脈動トルクを推定できる。μ設計法により演算器の軸トルク検出から直接的に推定するため誤差が少なく、リアルタイムで把握できる。そのため、本発明で対象としているようなエンジンベンチシステムでの良好なダイナモ制御の設計に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1を示すダイナモメータ速度制御装置の構成図。
【図2】実施形態1におけるダイナモメータ速度制御時の軸トルク伝達特性の例。
【図3】本発明の実施形態2を示す軸トルク制御装置の構成図。
【図4】実施形態2におけるエンジンの軸トルク制御時の軸トルク伝達特性の例。
【図5】従来のエンジンベンチシステムの構成図。
【図6】従来の他のエンジンベンチシステムの構成図。
【図7】ダイナモメータ制御装置の構成図。
【図8】エンジン−ダイナモ制御系のモデル化例。
【図9】エンジン−ダイナモ制御系のブロック図。
【符号の説明】
1…エンジン
4…ダイナモメータ
8…シャフト
10、21、24…コントローラ
11…インバータ
22、25…伝達特性演算器
23、26…上位マンマシン装置
Claims (2)
- エンジンとダイナモメータを高剛性シャフトで結合し、
エンジン−ダイナモ制御系の慣性系がもつ機械パラメータを使用して該制御系のモデル化を行い、このモデルを基にした運動方程式からμ設計法により設計したダイナモメータ制御装置によりダイナモメータの速度制御をするエンジンベンチシステムにおいて、
前記ダイナモメータ制御装置は、
前記ダイナモメータの速度指令に対して、ダイナモ速度検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、ダイナモトルク指令を得るコントローラと、
前記ダイナモメータの速度制御時のエンジントルクおよび前記コントローラに得るダイナモトルク指令を入力とし、少なくとも3慣性系のエンジン−ダイナモ制御系の伝達特性K(S)を有して軸トルク検出値および前記ダイナモ速度検出値を得る伝達特性演算器と、
前記伝達特性演算器に得る軸トルク検出値を入力とし、前記伝達特性K(S)とは逆の伝達特性を有してエンジントルク推定値を得るエンジントルクオブザーバを備えたことを特徴とするエンジンベンチシステム。 - エンジンとダイナモメータを高剛性シャフトで結合し、
エンジン−ダイナモ制御系の慣性系がもつ機械パラメータを使用して該制御系のモデル化を行い、このモデルを基にした運動方程式からμ設計法により設計したダイナモメータ制御装置によりエンジンの軸トルク制御をするエンジンベンチシステムにおいて、
前記ダイナモメータ制御装置は、
前記エンジンの軸トルク指令に対して、エンジンの軸トルク検出値をフィードバック信号として自動制御演算を行い、ダイナモトルク指令を得るコントローラと、
前記エンジンの軸トルク制御時のエンジントルクおよび前記コントローラに得るダイナモトルク指令を入力とし、少なくとも3慣性系のエンジン−ダイナモ制御系の伝達特性K(S)を有して前記軸トルク検出値を得る伝達特性演算器と、
前記伝達特性演算器に得る軸トルク検出値を入力とし、前記伝達特性K(S)とは逆の伝達特性を有してエンジントルク推定値を得るエンジントルクオブザーバを備えたことを特徴とするエンジンベンチシステム。
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