JP4014144B2 - 車体フード用パネル構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、歩行者保護における頭部の衝撃耐性に優れ、さらに曲げ剛性や張り剛性などの剛性に優れたアルミニウム合金製や鋼製などの金属製の車体フード用パネル構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車などの車体部材のパネル構造体には、アウターパネル(外装パネル、外板、以下単にアウターと言う)とインナーパネル(内装パネル、内板、以下単にインナーと言う)とが、空間を介した閉断面構造をとって組み合わされたパネル構造体が汎用されている。
【0003】
この内、特に、自動車のフード、ルーフ、ドアなどのパネル構造体部分には、アウターと、このアウターを補強するためにアウターの車体下側に設けられたインナーとが、機械的、溶接、樹脂等の接着剤などの手段により結合された車体フード用パネル構造体が用いられる。
【0004】
これら車体フード用パネル構造体の、特にインナー、およびインナーとアウターの両方には、従来から使用されていた鋼材とともに、あるいは鋼材に代わって、軽量化のために、AAないしJIS規格による3000系、5000系、6000系、7000系等の高強度で高成形性のアルミニウム合金(以下、アルミニウムを単にAlということもある)が使用され始めている。
【0005】
さらに、近年、歩行者保護の観点から、フードの設計要件として頭部衝突時の安全性が要求される傾向にあり、ビーム型フード構造に関しいくつかの開示された技術(特開平7−165120号公報、特開平7−285466号公報、特開平5−139338号公報)がある。また、EEVC(European Enhanced Vehicle−Safety Committee)において、大人頭部と子供頭部の衝突耐性に関し、フードが具備すべき条件として、各々HIC(頭部性能基準)値1000以下を条件としている(EEVC Working Group 17 Report,Improved test Methods to evaluate pedestrian protection afforded by passengercars,December 1998に記載)。
【0006】
そして、フードにおいて、インナー、および、アウターに対して優れた特性をもつ技術について、本発明者等は、波型インナーについて、既に波形断面が規則的な場合と不規則なスプライン型インナーの場合について、特許出願を行っている(特許出願第2001−378764号:現段階では未公開であり公知ではない)。図12(a)、(b)に波型インナーを用いたフード構造の概略図を示す。図12に示すように、波型インナー102は、ビーム型インナー及びコーン型インナーに比較して、アウター104からエンジン等の剛体構造物までのクリアランスが小さくても、HIC値低減がより可能であり、歩行者保護に好適の構造であることを開示したものである。即ち、この先願に係る発明は、歩行者保護に優れた車体フード用パネル構造体100として構成したものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、歩行者保護に有益なインナー形状について、さらなる検討が必要であり、歩行者保護に対して更に有益となるインナー形状を備える車体フード用パネル構造が望まれており、以下に示す観点において更に精査する必要があった。
すなわち、頭部の衝撃耐性は、一般には下式のHIC値(頭部性能基準)により評価される(自動車技術ハンドブック第3分冊試験評価編1992年6月15日第2版自動車技術会編)。
【0008】
HIC=[1/(t2−t1)∫t1t2adt]2.5(t2−t1)
ただし、aは頭部重心における3軸合成加速度(単位はG)、t1、t2は0<t1<t2となる時刻でHIC値が最大となる時間で、作用時間(t2−t1)は15msec以下と決められている。
【0009】
前記したように、EEVC Working Group 17 Reportにおいて、大人頭部と子供頭部の衝突耐性に関し、フードが具備すべき条件として、各々HIC値1000以下を条件としている。この中で、頭部衝突試験時の頭部衝突速度は40km/hrで、大人頭部(重量4.8kg、外径165mm、衝突角65度)と子供頭部(重量2.5kg、外径130mm、衝突角50度)とが設定されている。
【0010】
そして、頭部衝突時において、歩行者頭部は、はじめにアウターへ衝突し、次に変形が進みインナーを介してエンジンルーム内のエンジン等の剛体構造物に反力が伝わり、頭部には過大な衝撃力が生じる。頭部には、主にアウターとの衝突により生じる加速度第1波(衝突開始からほぼ5msecまでの間に生じる)と、インナーが剛体構造物と衝突する際に生じる加速度第2波(衝突開始からほぼ5msec経過以後に生じる)が作用する。加速度第1波の大きさは主にアウターの弾性剛性で決まり、加速度第2波の大きさは主にインナーの弾塑性剛性で決まる。頭部の運動エネルギーは、これらのアウターとインナーの変形エネルギーにより吸収されるが、頭部の移動距離がアウターとエンジン等の剛体構造物とのクリアランスを超えると、頭部は剛体構造物からの反力を直接受けることになり、HIC値の制限値1000を大幅に越える過大な衝撃力を受け、致命的なダメージを受けることになる。
【0011】
そのため、以下に示す(1)〜(3)の問題点について改善することが望まれていた。
(1)まず,アウターとエンジン等の剛体構造物とのクリアランスが大きい程、頭部の移動距離を大きくでき、HIC値低減には有利であるが、フードの設計上おのずと限界があり、小さなクリアランスで、頭部の移動距離が小さくてもHIC値低減可能な車体フード用パネル構造体が求められている。
【0012】
特に、大人の頭部衝突では、子供の頭部衝突に比較し衝突条件が厳しく、アウターから剛体構造物面へのクリアランスについて、設計上の許容範囲を超えた過大なクリアランスを設ける必要があり、問題となっている(EEVC Working Group 17 Reportに記載)。
【0013】
さらに、子供頭部と大人頭部のどちらも衝突する可能性がある、WAD1500(車体先端の地面からフード衝突位置までの輪郭線の距離が1500mmのライン)のライン上において、衝突特性の異なる子供と大人の両者についてHIC値1000以下を満足するのは、極めて困難であり、問題点としてあげられている。特に大型セダンのフードでは、WAD1500のラインが、アウターと剛体面とのクリアランスが小さくなるエンジン直上にあり、有効な対策が求められている(EEVC Working Group 17 Reportに記載)。
【0014】
(2)頭部衝突位置について、ビーム型フード構造の場合はフレーム直上の位置で、また、コーン型フード構造の場合はコーン頂点部の位置で、HIC値は大きくなる。これは、これらの部位では局部剛性が高く、剛体構造物と衝突しても変形が小さく、その剛体構造物からの高い反力を受けるためである。安全性の観点から、衝突部位によらず概ね均質なHIC値がえられる車体フード用パネル構造体が求められていた。
【0015】
(3)車体フード用パネルの材料としては、軽量化可能なアルミニウム材を適用しても頭部衝突耐性が優れていることがあげられる。フードの軽量化にはしばしばアルミニウム材が用いられるが、この場合鋼材を使用する場合に比較し、歩行者保護の観点では、一般的には不利と考えられる。それは、アルミニウム材のヤング率と比重が、双方とも鋼材の約3分の1で、頭部の運動エネルギーをフードで吸収するには、パネル構造体としてのアルミニウム製フードの膜剛性と重量が鋼製フードに比較し不足することに起因する。
【0016】
板材の曲げ剛性は、ET3(ヤング率E,板厚Tとする)に比例し、膜剛性はETに比例する。鋼材(ヤング率Es,板厚Ts,比重γs)をアルミニウム材(ヤング率Ea,板厚Ta,比重γa)に置き換える場合には、通常曲げ剛性が同一になるように板厚が決定され、この場合、
EaTa3=EsTs3
Ea/Es=1/3
であり、
Ta/Ts=31/3=1.44
となる。
そして、アルミニウム合金製フードと鋼製フードの膜剛性比は、
【0017】
(EaTa)/EsTs =1.44/3=0.48
となり、同じく重量比は、
(Taγa)/(Tsγs)=1.44/3=0.48
となり、アルミニウム合金製フードの膜剛性と重量比は、鋼製フードの0.48倍しかない。この結果、頭部とフードとの衝突問題では、頭部の移動距離が増加し、剛体構造物に衝突しやすくなるとともに、加速度第1波でのアウターによるエネルギー吸収が少なく、加速度第2波が増加するため、従来のフード構造ではHIC値が増加し、HIC値の制限値を満足させることが非常に難しくなる。
【0018】
勿論、前記板材の曲げ剛性を表す式から示されるTaをTsの3倍にすれば、膜剛性比、重量比とも鋼製フードと同等となるが、コストが上がりすぎ設計としては成立しない。このように、フードにアルミニウム合金材を適用し、この条件で頭部衝突での制約条件を満足させるのは、かなり困難である。勿論、アルミニウム合金材でこの条件が満足される車体フード用パネル構造体が見つかれば、この構造を採用した鋼製フードではHIC値のさらなる低下が図られることになる。すなわち、頭部衝突での制約条件を満足する車体フード用パネル構造体にアルミニウム材の適用が求められていた。
【0019】
本発明は、前記問題点に鑑み創案されたものであり、歩行者保護の観点から、(1)頭部移動距離が小さくてもHIC値の低減が可能であり、また、(2)フードへの衝突部位によらずHIC値が概ね均一となり、さらに、(3)アルミニウム合金製フードでも、十分HIC値を低減できる車体フード用パネル構造体を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために、本発明の車体フード用パネル構造体の請求項1の要旨として以下のように構成した。すなわち、アウターパネルとインナーパネルとが空間を介した接合断面構造をとって結合された車体フード用パネル構造体であって、前記アウターパネルと前記インナーパネルの少なくともいずれかが、アルミニウム合金製、または鋼製の金属であり、前記インナーパネルは、周縁部を除く全面に前記アウターパネルに対面する位置で、そのアウターパネルに対向する方向に凹凸となる波型ビードを備え、前記波型ビードは、前記凹に平坦部を有し、前記凸の頂部を、樹脂層を接着材として、ちどり状または分散した位置で前記アウターパネルと接続し、かつ、前記波型ビードは、前記凹凸を波長とした場合、その波長をp、歩行者の頭部外径をdとした時、0.7<p/d<1.7を満足する長さの比となるように構成されたものである。
【0021】
このように構成されることにより、波型となる凹凸を備えるインナーパネルを用いた車体フード用パネル構造体の、アウターやインナーを薄肉化しても、車体フード用パネル構造体の張り剛性を格段に高めることが可能である。また、曲げ剛性や捩じり剛性についても、形成した凹凸により十分な剛性が得られ、この結果、外部荷重に対するフードの変形を抑制できる。なお、波型ビードの凹凸に平坦部を有することにより、平坦部がないものに比較して、断面係数を向上することが可能となる。また、歩行者保護における頭部衝突において、衝突耐性向上の観点から、断面形状が凹凸である場合、またはスプライン形状(関数で表される曲線)と直線とから表現される形状である場合、波型ビードの波長pの好適範囲は、頭部外径dを用いて0.7<p/d<1.7とすることで、この範囲であればHIC値低減に効果がある。平坦部は、凹の少なくとも一部に形成されていることでも構わない。
【0022】
更に、本発明の車体フード用パネル構造体は、前記のごとく、パネル構造体としての剛性を高めることができるので、請求項5に記載のように、アウターパネルやインナーパネルの素材として、軽量なアルミニウム合金を用いることが可能となる。
【0023】
また、請求項2の記載のように、前記車体フード用パネル構造体において、前記波型ビードは、下に突となる前記凹の少なくとも一つが、前記インナーパネルと対面して車体側に配置された剛体構造物に対して、対面して配置される構成とした。
このように構成されることにより、インナーパネルを変形させるような衝撃が発生した場合に、その波型ビードの下に突となる部位が、剛体構造物である例えばエンジンに接触したとき、その下に突となる部位から上に突となる部位までの変形範囲となる空間を確実に確保できる。なお、ここでいう凹の少なくとも一つとは、その一つの凹全部が剛体構造物に対面することはもちろんのこと、複数の凹の一部分が剛体構造物に複数対面することで、実質的に一つの凹が対面するように構成されるものであっても構わない。
【0024】
また、これらの効果を達成する上で、請求項3の記載のように、前記波型ビードは、スプライン関数で表される曲線部分と直線部分により表現される形状である構成とし、前記波型ビードの形状がスプライン関数で表わされる曲線部分と直線部分とにより表現される断面形状であることが好ましい。
【0025】
また、同様に、請求項4の記載のように、前記波型ビードが、パネル構造体の長手方向に対し平行方向または斜め方向、あるいはパネル構造体の略中心に対し同心円状、これらの組み合わせである2重波状、から選択される配列で設けられている構成が好ましい。
【0027】
また、請求項5に記載のごとく、歩行者保護における頭部衝突において、衝突耐性向上の観点から、断面形状が凹凸である場合、またはスプライン形状と直線とから表現される形状である場合、波型ビードの波高hの好適範囲は、頭部外径dを用いて0.15<h/d<0.3とすることで、この範囲であればHIC値の低減に効果がある。
なお、前記インナーパネルに、局部的に補強板を設けることにより、この補強部位での頭部衝突耐性を高めることができる。
【0028】
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1および図2に示すように、車体フード用パネル構造体1は、アウターパネル4と、インナーパネル2とが、空間Aiを介して接合断面構造(閉断面構造)をとって結合されている。この車体フード用パネル構造体1は、インナーパネル2の波型ビード2Aにおいて、アウターパネル4に対面する側の頂部2cとなる位置に、樹脂層7を配置し、この樹脂層7を接着材として、波型ビード2Aaの頂部2cと、緩やかな円弧状に成形されたアウターパネル4の裏面4aとを互いに接合し、空間Aiを介して一体化されている。
【0029】
車体フード用パネル構造体1としての一体化は、前記接着剤とともに、インナーパネル2の周縁部(2s,2s,2f,2r)と、アウターパネル4における周縁部となるヘム部4bをヘム(曲げ)加工することにより固着して行われている。
【0030】
なお、樹脂層7は、樹脂の特性や種類を選択することにより、制振や消音(遮音)、衝撃緩衝効果などを持たせることも可能である。そして、これらの効果を向上させるため、波型ビード2Aの頂部2cのみではなく、樹脂やクッション材(図示せず)などを、インナーパネル2とアウターパネる4との空間Aiに充填するようにしても良い。
【0031】
また、インナーパネル2とアウターパネル4とを一体化した車体フード用パネル構造体1は、公知のコーン型フード構造やビーム型フード構造と同様に、ヒンジレインフォースメント、ラッチレインフォースメン(図示せず)などの補強部材によって、局部補強される構成としても構わない。さらに、アウターパネル4と、インナーパネル2との空間Aiを介する接合断面構造(閉断面構造)は、インナーパネル2が完全にアウターパネル4と密閉する状態で接合されることや、インナーパネル2の任意の部分にトリミングした空間ないし切欠き部分(円、矩形など空間部分の形状は問わない)を設けた状態で接合される構成であっても良い。
【0032】
つぎに、インナーパネル2の構成について説明する。
図2および図3(a)に示すように、インナーパネル2は、アウターパネル4の対向する方向に凹2a、凸2bからなる波型ビード2Aが形成されている。そして、この波型ビード2Aは、その凹2a、凸2bの少なくとも一方に、平坦部3が形成されている。なお、平坦部3が形成されていない側の凹2a、または、凸2bの曲線形状は、サイン曲線状の波型、またはサインn乗波によって規定されるものでもよい。また、サイン曲線上に、又はサインn乗曲線上に、小さな凹凸を設けたり、小さな波を重ねたりして、局部剛性を調整してもよい。さらに、サイン波、スプライン波、折板波、スプライン波と直線により表現される波形状などからなる波型ビード2Aの局部には、エンジンルーム内の剛体構造物の形状を考慮し、インナーパネル2の表面に局部的に剛体構造物の形状を投影する場合が考えられる。
【0033】
さらに、その凹2a、凸2bを波型とした場合に、その波長は、頭部外径の0.7倍から1.7倍の範囲に好適範囲があり、波高は0.15倍から0.3倍の範囲に好適範囲がある。エンジンルーム内の部品配置を考慮すると波型は規則波型であるより不規則波型であるほうが実用的であり、波型の断面形状は、頭部衝突時にインナーパネル2とエンジンなどの剛体構造物とが接する部位に波型の下面(凹2a)が配置され、インナーパネル2がクッションの役割を果たせるよう考慮される。なお、ここでいう凹2aの少なくとも一つとは、その一つの凹全部が剛体構造物に対面することはもちろんのこと、複数の凹2aの一部分が剛体構造物に複数対面することで、実質的に一つの凹2aが対面するように構成されるものであっても構わない。
【0034】
(インナーパネル2の断面形状)
図3(a)に示すように、インナーパネル2は、ここでは、凹2aの頂部側となる位置に平坦部3が形成されている。この平坦部3は、波型ビード2Aの下に突となる位置で、一点鎖線で示す凹凸中心線から下となる位置に形成されるものであれば良く、剛性を備えるものであれば、その凹凸中心線から上となる位置に形成されても良い。なお、図3(a)では、波型ビード2Aの凹2a全てとなる位置に、その平坦部3が形成されている例を示しているが、間欠的に形成される構成としても構わない。
【0035】
また、図3(a)では、平坦部3が同じ高さ位置に配置されるように構成されているが、その設置される高さ位置は、異なるように構成されても構わない。平坦部3の設置高さが異なることで、平坦部3の直線長さが変わり、剛性を調整することが可能となる。さらに、ここでは、凹2a、凸2bは、一定周期、一定の波高(幅、高さ、斜面の傾斜角度等の構成を含む)において、上に突と下に突を繰り返すように構成されているが、所定の剛性を備えることができれば、一定周期、一定の高さでなくても構わないものである。したがって、波高、周期が異なる凹凸としても構わない。そして、平坦部3は、ここでは、下に突となる凹2aに形成された例として説明したが、上に突となる凸2bあるいは上下両方の凹2a、凸2bに形成される構成としても構わない。なお、平坦部3の構成位置は、凹2a、凸2bを一周期とする波型としたときのいずれか一部に形成される構成としても構わない。
【0036】
また、インナーパネル2の波型ビード2Aは、図3(b)ないし図4(e)に示す構成としても構わない。なお、図3(b)ないし図4(e)に示す波型ビード2B〜2Jでは、形状的な説明をして、他の設置位置などの構成についでは、すでに図3(a)において説明したのでここでは省略する。
【0037】
図3(b)に示すように、波型ビード2Bの平坦部3bは、下に突となる頂部側でその頂部の中央側を凹ませた位置に形成される構成としても良い。
図3(c)に示すように、波型ビード2Cの平坦部3cは、下に突となる頂部側でその頂部の中央側を凹ませた両側位置に形成される構成としても良い。
そして、図3(d)に示すように、波型ビード2Dの平坦部3dは、一点鎖線で示す凹凸中心線上に形成され、その凹凸中心線上の幅寸法を、一周期の凹凸曲線で示した位置に対応する幅寸法より長くなるように構成しても構わない。
【0038】
図4(a)に示すように、波型ビード2Fの平坦部3fは、直線的に結ばれて形成され、下に突となる頂部に形成される構成としても良い。
また、図4(b)に示すように、波型ビード2Gの平坦部3gは、傾斜した状態で構成されても構わない。
さらに、図4(c)に示すように、波型ビード2Hの平坦部3hは、下に突となる頂部の位置にハット形状となるように形成される構成としても良い。
また、図4(d)に示すように、波型ビード21の平坦部3iは、下に突となる頂部側でその頂部の中央側を曲線として突出させた両側に形成される構成としても良い。
そして、図4(e)に示すように、波型ビード2Jの平坦部3jは、凹凸中心線から下に突と上に突となる周期が異なる形状において、下に突となる頂部に形成された構成としても構わない。
【0039】
なお、図3および図4に示す形状以外であっても、凹2a,凸2bの一方に形成された平坦部を備える構成で、所定の条件を満たすものであれば、その形状は特に限定されるものではない。また、波型ビード2A〜2Jは、凹2a,凸2bの一方に形成された平坦部3〜3jを備えるものであれば、スプライン関数で示すスプライン形状であっても良い。なお、スプライン関数で示されるスプライン形状とは、任意の点列を結ぶ曲線部分および直線部分(平坦部)により表現されるものである。
【0040】
また、波型ビード2A〜2Jは、その平面視における形状については、例えば、図1、図5に示すように、長方形状あるいは楕円形状など、特に限定されるものではなく、まったく任意の平面形状として示される構成であっても構わない。また、波型ビード2A〜2Jの凹2a,凸2bの一方に平坦部3〜3jを形成する場合、その波型ビード2A〜2Jの平面視における形状の全部に形成することなく、一部であっても構わない。
【0041】
(インナーパネルの凹凸分布状態)
つぎに、図5ないし図8を参照してインナーパネル2における波型ビード2A(2B〜2J)の凹2a,凸2bの分布状態を説明する。なお、図5ないし図9では、形状および構成は異なるが、凹2a、凸2bについての分布、構成、形状の説明であるため、同一の符号を付して説明する。
また、図5ないし図8では、インナーパネル2の外周部は省略しており、またインナーパネル2全体の曲率は概略図のため省略し、平面的な図面で凹凸分布形状の概要を示す。図の上下方向が、車体の長手方向と一致しており、上側が運転席側、下側が車体の先端側である。図面の左右の方向が、車体の幅方向になる。
【0042】
図5(a)、(b)に示すように、凹2a,凸2bの分布形状が規則的な場合で、図上凹2aは、楕円形状をしているが、楕円形状にこだわるわけでなく、実設計ではこの形状を柔軟に変化させるほうが実用的である。また、エンジンルーム内の不規則な部品配置を考慮すると、波型ビード2Aの凹2a,凸2bの分布形状は、複雑な凹凸形状になる場合も考えられる。
【0043】
すなわち、図8(a)、(b)に示すように、凹2a,凸2bは、車体内部に設置されるエンジンなどの剛体構造物(図示せず)に対応した平面形状として構成されると都合がよい。このとき、下に突となる凹2aの少なくとも一つが、車体側に配置されたエンジンなどの剛体構造物(図示せず)に対して、対面して配置されることにすると都合が良い。これは、インナーパネル2を変形させるような衝撃が発生した場合に、その波型ビード2A〜2Jの下に突となる凹2aの部位が、剛体構造物(図示せず)に接触したとき、その下に突となる凹2aの部位から上に突となる凸2bの部位までの変形範囲となる空間を確実に確保できる。そのため、衝突してきた物体(頭部など)に対して衝撃を緩和することができる。
【0044】
なお、図6(a)、(b)に示すように、インナーパネル2の略中心位置から同心円状に凹2a,凸2bが形成されるように構成することや、また、同心楕円状に凹2a,凸2bが形成されるように構成する分布状態としても構わない。
【0045】
頭部衝突の方向は、車体長手方向で、衝突時に頭部はフード上を車体長手方向にころがっていく。そのため、頭部衝突エネルギーを効率よく吸収するためには、凹2a,凸2bの方向も車体長手方向にのびた形状であることが求められる。このような効果を期待し、凹2a,凸2bの方向は概ね車体の長手方向になるよう考慮されると都合が良い。そのため、図7(a)に示すように、凹2a、凸2bは、インナーパネル2の長手(上下)方向に一様な形状で連続して分布する構成とすることや、あるいは、図7(b)に示すように、凹2a、凸2bは、インナーパネル2の長手(上下)方向に異なる形状で分布する構成としても構わない。
【0046】
(3次元形状)
断面形状がスプライン形状の場合で、波の凹凸分布が規則的な場合を図9(a)に、不規則な凹凸を含む場合を図9(b)に示す。図の左手前が車体の前方側、図面の右上が運転席側である。上記の理由から、凹2a、凸2bの方向は車体の長手方向にのびる形状を最適形状としたとき、長手方向に規則的に連続している場合であっても、長手方向に不規則な連続となる場合であっても構わないものである。なお、波型ビード2A〜2J(図3、図4参照)の断面形状は、折板形状、スプライン曲線と直線とで表現される形状等であっても概ね同様の効果が得られる。
【0047】
(適用金属)
次に、本発明でパネルに用いる金属は、通常汎用されるAl合金板や高張力鋼板などが適宜採用される。但し、樹脂については、材料強度などの特性からして、本発明で目的とする剛性を持たせるためには、厚みが極端に厚くなるため、現段階の実用レベルでは、非現実的であり本発明パネルには適用し難い。
また、車体の更なる軽量化のためには、Al合金を適用することが好ましい。車体フード用パネル構造体1であれば、高張力鋼板を使用せずとも、あるいは特別に高強度のAl合金を使用せずとも、十分高剛性化することができる。
【0048】
この点、本発明の車体用に使用されるインナーパネル2ないしアウターパネル4に用いるAl合金自体としては、通常、この種パネル用途に汎用される、AAないしJIS規格による、3000系、5000系、6000系、7000系等の耐力の比較的高い汎用(規格)Al合金板から選択して用いることが好ましい。これらAl合金板は、圧延加工などの常法により製造され、適宜調質処理されて用いられる。
【0049】
(剛性向上の機構)
次に、この波型ビード2A〜2Jの存在によって、また、インナーパネル2を波型とすることによって、パネルの局部的な曲げ剛性を高め、インナーパネル2ないし車体フード用パネル構造体1としての剛性を高める機構を以下に説明する。
【0050】
まず、張り剛性とは、アウターパネル4中央部での集中荷重に対する局部剛性であり、集中荷重は、アウターパネル4からインナーパネル2の方向で、アウターパネル4面に垂直に作用する荷重である。
【0051】
次に、曲げ剛性とは、図10(a)に示す車体フード用パネル構造体1への曲げ荷重に対する剛性で、曲げ荷重は、主として車体フード用パネル構造体1の先端部に、垂直方向に作用する曲げ荷重Fbである。この曲げ荷重Fbは、車体フード用パネル構造体1の運転席側端部A、B点と車体先端側の中央部C点の3点を支持点とし、車体先端側の両端部D、E点に作用する集中荷重で、曲げ剛性Kbは、この曲げ荷重Fbに対する荷重点(D、E点)での変位Ubとの比で定義される値(Kb=Fb/Ub)である。
【0052】
更に、捩り剛性とは、図10(b)に示す車体フード用パネル構造体1への捩り荷重に対する剛性で、捩り荷重は、主として車体フード用パネル構造体1の車体先端側に、垂直方向(下方から上方)に向けて作用する荷重Ftである。この捩り荷重Ftは、車体フード用パネル構造体1の運転席側端部A、B点と車体先端側の両端部E点の3点を支持点とし、先端部の両端部D点に作用する集中荷重で、捩り剛性Ktとは,この捩り荷重Ftに対する荷重点(D点)での変位Utとの比で定義される値(Kt=Ft/Ut)である。
【0053】
これらの剛性に対し、先ず、張り剛性に関しては、波型ビード2A〜2Jを備えるインナーパネル2を組み込んだ車体フード用パネル構造体1は、コーン型フード構造に比較して、波型ビード中央部の凹凸により局部曲げ剛性が増加するとともに、インナーパネル2とアウターパネル4との接着部面積が増加し、アウターパネル4からインナーパネル2への荷重伝達が広範囲に分散されるため、荷重点での変位が抑制され、この結果張り剛性が増加する。
【0054】
また、曲げ剛性に関しては、車体フード用パネル構造体1は、コーン型フード構造に比較し、波型形状により曲げ剛性向上に有効な断面部面積が増加し、この結果、車体フード用パネル構造体1の曲げ剛性が向上する。
【0055】
更に、捩り剛性に関しては、コーン型フード構造(図示せず)および、車体フード用パネル構造体1で採用している閉断面構造が、捩り剛性アップにつながり、基本的には従来のビーム型フード構造に比較し約2倍の捩り剛性がある。ただし、波型ビード2A〜2Jの中央部の凹凸は、捩り剛性をやや低下させる方向に作用するため、車体フード用パネル構造体1の捩り剛性が、コーン型フード構造の捩り剛性に比較し同等、若しくはやや低めの値となる。しかしながら、閉断面構造の場合、もともと捩り剛性が高く、やや低下したとしても、設計条件を十分に満足できる。
【0056】
このように、車体フード用パネル構造体1は、張り剛性と曲げ剛性に関しコーン型フード構造を上回るが、捩り剛性に関してはコーン型フード構造を若干下回るものの、設計条件は十分満足しているため、総合的に、車体フード用パネル構造体1の設計要求に対し高い剛性を有する車体フード用パネル構造体1を提供できる。
【0057】
アウターパネル4とインナーパネル2は、解析モデル上、接着部に4mmの隙間があいているモデルを例として説明しているが、現実には車体フード用パネル構造体1の適切な張り剛性をえるために、最小限の接着部が必要である。別途検討の結果、がた振動を阻害しないためには、接触断面形状が比較的局部的な面積で、極めて柔なスポンジ状の接着材を用いて、波型ビード2A〜2Jの頂部2cにちどり状に、または分散して配置されたような構造が好ましいことが確認された。接着部の断面積が増加し、または接着材の剛性が増加すると、アウターパネル4とインナーパネル2とは一体となって振動しやすくなり、がた振動がなくなり、その結果加速度第2波が増加し、HIC値は増加する傾向が確認された。
【0058】
(波長pと波高hの好適な範囲)
波型ビード2A〜2Jにおける凹2a、凸2bの波長と波高がHIC値に及ぼす影響について以下に示す。アウターパネル4の板厚は、1mm、インナーパネル2の板厚は0.8mmで、通常考えられる値を設定している。子供の頭部衝突での解析結果について、波長がHIC値に及ぼす影響と、波高がHIC値に及ぼす影響とから、HIC値低減に効果のある波長pの好適な範囲は、頭部外径dを用いて0.7<p/d<1.7となり、波高hの好適な範囲は、同じく頭部外径dを用いて0.15<h/d<0.3となる。
【0059】
まず、波長pがこの範囲より小さい場合には、波型ビード2A〜2Jの車体(フード)の長手方向の曲げ剛性が高くなるものの、車体(フード)の幅方向の曲げ剛性が低下し、頭部衝突時のインナーパネル2の剛性は低下し、HIC値は増加する。また、波長pがこの範囲より大きい場合には、フード(車体)の幅方向の曲げ剛性が高くなるものの、フード(車体)長手方向の曲げ剛性が低下し、頭部衝突時のインナーパネル2の剛性は低下し、HIC値は増加する。このように、波長pには好適範囲が存在し、その範囲は、概ね頭部外径を基準にその前後の値が好ましい。これは、頭部衝突時に、頭部を概ね1つの波でささえる構造が、頭部を柔らかく受け止める変形を生じ、その結果HIC値低減が図られるからである。
【0060】
次に、波高hに関しては、波高hがこの範囲より小さい場合には、波型ビード2A〜2Jの局部曲げ剛性が不足し、頭部衝突エネルギーを吸収できず、頭部は剛体面に衝突しHIC値は増加する。波高hがこの範囲より大きい場合には、波型ビード2A〜2Jの局部曲げ剛性が過大となり、車体フード用パネル構造体1の剛性が高すぎるためにHIC値は増加する。このように、波高hにも好適範囲が存在し、波型ビード2A〜2Jの断面形状は前記の好適範囲で設計することが好ましい。
【0061】
なお、クリアランスが一定の場合、大人頭部衝突でのHIC値は、子供頭部衝突でのHIC値に比較し増加するものの、この場合の波長p、波高hの好適範囲は、子供頭部衝突の場合とおおむね同様であると考えられる。
【0062】
(歩行者保護における頭部衝突耐性向上のメカニズム)
一方、歩行者保護における頭部とフードとの衝突での課題解決について、波型ビード2A〜2Jは、頭部の運動エネルギーを極めて良好に吸収可能で、HIC値を大幅に下げることが可能である。これは、前記した通り、頭部衝突時に、頭部を概ね1つの波でささえる構造となり、頭部を柔らかく受け止めたときに変形を生じ、その結果HIC値の低減が図られ、加速度第2波が減少し、HIC値が減少する。そして、頭部衝突時に、アウターパネル4とインナーパネル2とが、がた振動を生じ、頭部加速度波形を撹乱させ、その結果加速度第2波を大幅に低減でき、HIC値が減少する等の理由による。
【0063】
なお、エンジン直上部に頭部が衝突する場合などで、アウターパネル4と剛体面とのクリアランスが不足する場合が考えられるが、このような場合に、波型ビード2A〜2Jにおいてインナーパネル2の該当部に局部的に補強板を設け、局部剛性を高めることにより、衝突耐性が高まり、わずかな重量増加のみで、HIC値を低減できる。
【0064】
また、アウターパネル4とインナーパネル2との柔な接合方法を適用し、波型ビード2A〜2Jの山部(頂部2c)に局部的な接着部をちどり状に、または分散させて設けることにより、歩行者保護での頭部衝突に際し、アウターパネル4とインナーパネル2のがた振動をそこなわず、この結果、頭部加速度波形が撹乱され、HIC値を低下させることが可能となる。
【0065】
なお、スプライン型インナーパネル(インナーパネル2)を適用することにより、エンジンルーム内のエンジン、バッテリ、ラジエータ等の剛な部品の配置を考慮したより現実的な設計が可能となる。エンジンルーム内にはエンジン、バッテリ、ラジエータ等の堅い剛体構造物があり、波型ビード2A〜2Jの設計ではこれらの部品の配置を考慮した設計が必要となる。これらの部品の配置は車により千差万別であり、波型ビード2A〜2Jにおけるインナーパネル2の断面形状は、単純で規則的な波型から、波長、波高、波形が不規則に変化する波型形状に修正する必要が生じる。このため、波型の断面形状は主としてスプライン関数のような任意の3次元形状を表せる形状関数で定義されるスプライン形状(スプライン型インナーパネル)であることが好ましい。
【0066】
図11に示すように、フード(車体)の長手方向のある断面での断面形状で、アウターパネル4、インナーパネル2(スプライン型インナーパネル)、エンジンルーム内の剛体構造物を表している。まず、インナーパネル2と剛体構造物面との位置関係は、頭部衝突時に波の谷部が剛体構造物面で概ね均等に衝突し、剛体構造物面からの反力が波型ビード2A〜2Jの全面に伝わるよう配慮する。このため、アウターパネル4と剛体構造物面とのクリアランスが小さく頭部と剛体構造物との衝突が避けられない部位B1では、スプライン波型の谷部D1、D2で均等に支持されるような断面形状としなければならない(B2、B3、B4も同様である)。また、クリアランスが十分あり剛体構造物との衝突が発生しない部位A1では、波長を大きくとり、波型の谷部D2、D3で均等に支持されるような断面形状としなければならない。
【0067】
この部位で波長を短くし、波数を複数にすると、インナーパネル2の車体幅方向の曲げ剛性が低下し、鉛直方向の変位が増加し、頭部衝突耐性が低下するため、D2からD3までを1つの波でつなげなければならない(A2も同様である)。ただし、HIC値が低く許容できる範囲での波を設けることは問題ない。なお、C1、C2、C3、C4、C5の波の谷部での頭部衝突では、はじめに荷重がインナーパネル2の山部(凸2b)に伝わり、その後インナーパネル2の谷部(凹2a)を介して剛体面に伝わるため、頭部衝突耐性は、山部に衝突したときと概ね同様となる。このように、スプライン型インナーパネル(インナーパネル2)では、車ごとに異なるエンジンルーム内の剛体構造物の配置によらず、概ね一定の頭部衝突耐性を実現できる。
【0068】
なお、エンジンルーム内の剛体構造物の配置は非常に複雑であり、スプライン波の波高、波長は、車幅、また車長手方向に柔軟に変化させるため、スプライン型インナーパネルの形状は複雑な曲面となる。
さらに、クリアランスが不足し、頭部衝突耐性が不足する部位については、インナーパネル2に補強板を張り付けたり、スプライン型インナーパネルに、局部的に凹凸(いわゆるエンボス加工)をつけたり,または小さな波をフード(車体)の長手方向に重ねることにより、インナーパネル2の局部剛性を増加でき、頭部衝突耐性が改善される。
【0069】
また、アウターパネル4が鋼製、インナーパネル2がアルミニウム合金製である波型ビード2A〜2Jを適用することにより、軽量かつ頭部衝突耐性の高い車体フード用パネル構造体1を提供でき、特に高い頭部衝突耐性が要求される大人頭部衝突において効力を発揮する。
さらに、アウターパネル4が鋼製、インナーパネル2がアルミニウム合金製であるコーン型フード構造を適用することにより、軽量かつ頭部衝突耐性の車体フード用パネル構造体1を提供でき、特に高い頭部衝突耐性が要求される大人頭部衝突において効力を発揮する。
【0070】
さらに、大型セダン等の車体フード用パネル構造体1では、子供と大人の両方の頭部衝突を満足する必要があり、ここでは軽量かつ経済的な車体フード用パネル構造体1としては、アウターパネル4が鋼製、インナーパネル2がアルミニウム合金製の車体フード用パネル構造体1として用いられることが好適となることを明らかにする。
【0071】
Okamoto(Concept of hood design for possible reduction in head injury,14thESV conference,1994)によれば、理想的な頭部加速度波形として、加速度第1波が200G程度であれば、HIC値は1000程度になるという知見が得られている。解析を実施したところ、子供頭部衝突で板厚0.7mmの鋼製アウターパネル4に衝突した場合がおおむねこの場合に相当し、HIC値は1000となる。
【0072】
アウターパネル4に必要な機能は、加速度第1波をできるだけ上げ、アウターパネル4による衝突エネルギーの吸収により、頭部の鉛直方向変位をできるだけ小さくし、インナーパネル2と剛体構造物面との衝突による加速度第2波を小さく抑えることであると言える(ただし、板厚の上限値は鋼製の場合に約0.7mm程度となり、この板厚を超えると子供頭部衝突時の加速度第1波のみでHIC値は1000を超え不適当となる)。アウターパネル4によるエネルギー吸収を向上させるには、アウターパネル4の重量と膜剛性が必要となり、経済性を考えると材質は鋼が好適となる。鋼と等価な曲げ剛性を仮定した場合、軽量化が可能なアルミニウム合金は、軽量であることが逆にネックとなりアウターパネル材としては不適当となる。
【0073】
一方、インナーパネル2に必要な機能は、頭部とアウターパネル4との衝突で消費された衝突エネルギーの残りの衝突エネルギーを吸収し、エンジン等の剛体構造物面からの反力に起因する加速度第2波を小さくおさえることにある。波型ビード2A〜2Jを前提とすれば、頭部が剛体面と接するまで変形すれば、HIC値は1000を大きく超えるため、インナーパネル2に要求される機能は、インナーパネル2の曲げ変形により残りの衝突エネルギーを所定のクリアランス内で十分吸収することである。この場合、軽量で高い曲げ剛性が得られるアルミニウム合金が材料として好適となる。このような理由により、子供と大人の両方の頭部衝突を満足する必要がある大型セダン等の車体フード用パネル構造体1では、アウターパネル4が鋼製、インナーパネル2がアルミニウム合金製の波型ビード2A〜2Jを備える構造が、軽量かつ経済的な車体フード用パネル構造体1となる。
【0074】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明に係る車体フード用パネル構造体は、以下に示す優れた効果を奏する。
請求項1から請求項5に記載の本発明の波型ビードを備えるインナーパネルおよびこれを用いた車体フード用パネル構造体により、車体フード用パネル構造体の軽量化の観点から、車体フード用パネル構造体の張り剛性を格段に高めることができ、捩り剛性と曲げ剛性についても十分な剛性を有することが可能となる。また、歩行者保護の観点から、アウターパネルと剛体構造物へのクリアランスが小さくてもHIC値低減可能で、車体フード用パネル構造体への衝突部位によらずHIC値が概ね均一で、さらにアルミ製フードでも十分HIC値を低減できる頭部衝突耐性に優れた車体フード用パネル構造体を提供できる。
【0075】
さらに、歩行者保護に関し、頭部と車体フード用パネル構造体の衝突における衝撃耐性を高められ、安全性を向上でき、頭部移動距離が小さくてもHIC値の低減を行うことを可能とし、また、車体フード用パネル構造体への衝突部位によらずHIC値が概ね均一となり、さらに、アルミニウム合金板を備えろ車体フード用パネル構造体でも、十分HIC値を低減できること等を実現できる。
【0076】
しかも、車体フード用パネル構造体は、インナーパネルを前記のような波型ビードとする簡単な構成であり、従来のように、インナーパネルの板厚を増すことなく、張り剛性や曲げ剛性を高められ、軽量化が可能である。また、平板状パネルから波型状となるパネルへのプレス成形は容易であり、インナーパネル自体の製作が容易である。
【0077】
また、車体フード用パネル構造体は、インナーパネルを変形させるような衝撃が発生した場合に、その波型ビードの下に突となる部位が、剛体構造物である例えばエンジンに接触したとき、その下に突となる部位から上に突となる部位までの変形範囲となる空間を確実に確保でき、頭部衝撃に対して緩和することが可能となる。
【0078】
請求項3に記載の車体フード用パネル構造体は、断面形状がスプライン形状および直線により表現される波型ビードにより、フードの静剛性を高めることができ、また歩行者保護に於ける頭部衝突での頭部加速度を低下できる。
請求項4に記載の車体フード用パネル構造体は、前記複数本の波型ビードが、パネル構造体の長手方向に対し平行方向または斜め方向、あるいはパネル構造体の略中心に対し同心円状、これらの組み合わせである2重波状、から選択される配列で設けられている波型ビードにより、フードの静剛性を高めることができ、また歩行者保護に於ける頭部衝突での頭部加速度を低下できる。
【0079】
請求項5に記載の車体フード用パネル構造体は、波高と波長が好適範囲に該当する波型ビードにより、HIC値が大幅に低下し、頭部衝突耐性にすぐれたフード構造を提供できる。なお、インナーパネルの一部に設けられた補強板により、アウターと剛体面のクリアランスが小さい部位の頭部衝突耐性を局部的に向上できる車体フード用パネル構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車体フード用パネル構造体を模式的に示した分解斜視図である。
【図2】本発明に係る車体フード用パネル構造体の断面構造を模式的に示す断面図である。
【図3】(a)、(b)、(c)、(d),(e)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける平坦部の位置を模式的に示す模式図である。
【図4】(a)、(b)、(c)、(d),(e)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける平坦部の位置を模式的に示す模式図である。
【図5】(a)、(b)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける凹凸の分布状態を示す模式図である。
【図6】(a)、(b)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける凹凸の分布状態を示す模式図である。
【図7】(a)、(b)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける凹凸の分布状態を示す模式図である。
【図8】(a)、(b)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける凹凸の分布状態を示す模式図である。
【図9】(a)、(b)は本発明に係る車体フード用パネル構造体の波型ビートにおける凹凸の3次元状態を模式的に示す模式図である。
【図10】(a)、(b)は本発明に係る車体フード用パネル構造体のインナーパネルへの曲げ加重および捩じり加重に対する状態を説明する模式図である。
【図11】本発明に係る車体フード用パネル構造体を車体側に取り付けた状態でインナーパネルおよびアウターパネルの各部位についての衝撃状態を説明するための模式図である。
【図12】(a)、(b)は従来の波型インーを用いた波型フード構造の概略図を示す。
【符号の説明】
1 車体フード用パネル構造体
2 インナーパネル
2a 凹
2b 凸
2c 頂部
2A 波型ビード
3 平坦部
4 アウターパネル
7 樹脂層
Claims (5)
- アウターパネルとインナーパネルとが空間を介した接合断面構造をとって結合された車体フード用パネル構造体であって、
前記アウターパネルと前記インナーパネルの少なくともいずれかが、アルミニウム合金製、または鋼製の金属であり、
前記インナーパネルは、周縁部を除く全面に前記アウターパネルに対面する位置で、そのアウターパネルに対向する方向に凹凸となる波型ビードを備え、
前記波型ビードは、前記凹に平坦部を有し、前記凸の頂部を、樹脂層を接着材として、ちどり状または分散した位置で前記アウターパネルと接続し、かつ、
前記波型ビードは、前記凹凸を波長とした場合、その波長をp、歩行者の頭部外径をdとした時、0.7<p/d<1.7を満足する長さの比となるように構成されたことを特徴とする車体フード用パネル構造体。 - 前記波型ビードは、下に突となる前記凹の少なくとも一つが、前記インナーパネルと対面して車体側に配置された剛体構造物に対して、対面して配置されることを特徴とする請求項1に記載の車体フード用パネル構造体。
- 前記波型ビードは、スプライン関数で表される曲線部分と直線部分により表現される形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体フード用パネル構造体。
- 前記波型ビードは、パネル構造体の長手方向に対し平行方向または斜め方向、あるいはパネル構造体の略中心に対し同心円状、これらの組み合わせである2重波状から選択される配列で設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の車体フード用パネル構造体。
- 前記波型ビードは、その凹凸を波長とした場合、その波高をh、歩行者の頭部外径をdとした時、0.15<h/d<0.3を満足する長さの比となるように構成されたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の車体フード用パネル構造体。
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