JP4011498B2 - 鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造及びその接合用梁ブラケット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄骨建造物における鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造に関する。より詳しくは、角形断面の鉄骨柱とH形断面の梁本体とを鉄骨柱側に設置される梁ブラケットを介して連結する鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨建造物に地震等の外力が作用した場合には、鉄骨柱と鉄骨梁との接合部に最も大きな曲げ荷重が作用する。したがって、鉄骨柱と鉄骨梁との溶接部における破壊が問題となるが、この溶接部の破壊は、変形性能が低く、脆性的で急激な破壊になりやすいため、地震時における緊急避難の機会を奪うことにもなりかねない。そこで、梁ブラケットと鉄骨柱との溶接部での破壊を回避すべく、その溶接部から離れた位置に地震等の外力に対して該溶接部より先に塑性化し、かつ変形性能の大きい塑性化領域を設けたものが開示されている(特許文献1)。しかしながら、この従来技術は、鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造として、いわゆる内ダイヤフラム工法ないし通しダイヤフラム工法を採用し、梁ブラケットを構成するフランジ部の幅寸法や厚さの変化によって、地震等の外力に対して溶接部より先に塑性化する塑性化領域を形成するために必要とされる耐力に関する相対的な差分を確保するという手法を採用したため、次のような技術的制約が伴った。すなわち、梁ブラケットを構成するフランジ部の厚さを変化させるとの手法の場合には、その加工のための手間や費用が大きく嵩んだ。また、フランジ部の幅寸法を変化させるとの手法の場合には、フランジ部の幅寸法のみの変化により前記差分を形成するため、幅寸法を相当量変化させる必要があった。延いては、鉄骨柱と鉄骨梁の幅寸法に関しても、それに見合った大きな寸法差が必要とされた。その結果、鉄骨柱と鉄骨梁との間の所定の幅寸法差を形成するために、鉄骨柱の幅寸法を、それ自体の強度としては必要以上に大きな寸法にせざるを得ないという制約が伴った。
【0003】
一方、鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造自体に関して、鉄骨柱と鉄骨梁を接合する接合金物の両側部に設けた縦リブを介して梁本体に作用する荷重を鉄骨柱の梁本体と平行な側面に面内力として伝達することにより、従来のダイヤフラムを省略して作業性を改善したものが開示されている(特許文献2)。しかしながら、この従来技術では、地震エネルギの吸収に関しては特段の対策がとられておらず、前記接合金物に対して梁本体のフランジ部を直に溶接したり、継手プレートを使用して梁本体のフランジ部を接合金物に対して直にボルト接合するという手法が採用されていた。このため、地震時には、最も大きい曲げ荷重が作用する接合金物と鉄骨柱との溶接部や、接合金物と梁本体との連結部において応力集中が起りやすく、それらの脆性的で急激な破壊により地震時における緊急避難の機会を奪うことにもなりかねないという前述の問題が残った。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−140978号公報
【特許文献2】
特開平5−33391号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて発明したものであり、鉄骨柱と梁本体との溶接部からの破壊を回避するために必要とされる溶接部と塑性化領域との耐力に関する相対的な差分を簡便に確保することができ、しかも梁本体と梁ブラケットとの接合部の断面形状を簡便かつ正確に一致させることができ、両者の強固かつ安定的な結合状態がきわめて容易に得られる鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1及び請求項2の本発明では、角形断面の鉄骨柱とH形断面の梁本体とを連結するための梁ブラケットを、梁本体と同じ断面形状からなるH形鋼部材と、このH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部と該平板部の両側部に垂直状態に固着又は一体形成された連結用プレートとからなる仕口金物とによって構成するとともに、前記H形鋼部材のフランジ部自体の端部は鉄骨柱側に溶接することなく、前記連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に溶接することにより前記梁ブラケットを鉄骨柱側に固着し、かつ、前記梁ブラケットを構成するH形鋼部材の、前記連結用プレートにより補強された被補強部分と前記梁本体との連結部との間に、前記連結用プレートと鉄骨柱との溶接部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成して、地震エネルギを前記溶接部より先行して吸収させるという技術手段を採用した。前記連結用プレートは、前記平板部の両側部に垂直状態に溶接してもよいし(請求項3)、前記平板部の両側部に断面L字状に一体形成してもよいし(請求項4)、前記平板部の両側部に断面T字状に一体形成してもよい(請求項5)。また、前記平板部は、前記H形鋼部材に沿って分割構成したものでもよい(請求項6)。すなわち、平板部は、1枚の板体から構成したものでもよいし、H形鋼部材に沿って分割した左右の板体をそれぞれH形鋼部材の両側部に固着するように構成したものでもよい。平板部の少なくとも一方の側部を傾斜させ、その平板部の断面を前記塑性化領域へ向けて縮小させることも可能である(請求項7)。前記H形鋼部材のフランジ部と前記仕口金物を構成する平板部とを重合して固着する固着手段としては、溶接でもよいし(請求項8)、ボルトとナットによる締付け固定でもよいし(請求項9)、それらの両手段を組合わせたものでもよい(請求項10)。
【0007】
本発明によれば、地震エネルギを前記溶接部より先行させて上述の塑性化領域により吸収させることにより、急激な破壊を回避して地震時における緊急避難の機会を確保できる点で大きな効果があるだけでなく、次の点でもきわめて大きな特徴を有する。すなわち、前記梁ブラケットは、梁本体と同じ断面形状からなるH形鋼部材と、このH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部と該平板部の両側部に垂直状態に固着又は一体形成された連結用プレートとからなる前記仕口金物とによって構成したので、H形鋼部材として梁本体と同じH形鋼材を使用することが可能である。しかも、そのH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部の両側部に垂直状態に固着又は一体形成された連結用プレートの介在によって、鉄骨柱と梁本体側との溶接長を必要に応じて大きく設定できるので、該溶接部からの破壊を回避するために必要とされる溶接部と塑性化領域との耐力に関する相対的な差分を簡便に確保することができる。以上のように、本発明によれば、前記H形鋼部材を介して梁ブラケットと梁本体との接合面の断面形状を簡便に一致させることができるので、その接合面に設置される継ぎ手プレートとの間の密着性が良好であることから、両者の強固かつ安定的な結合状態がきわめて容易に得られる。
【0008】
そして、何よりも、建築鋼材として使用されるH形鋼材に関しては、その外形寸法上のばらつきの解消を期待することは技術コスト的に困難であり、呼称寸法が同じでもメーカー等によって外形寸法に微妙な差が存するのが実状であるため、従来技術では避けることが困難であった梁ブラケットと梁本体との接合部における寸法差に基づくガタに起因する不完全な結合状態の問題を払拭できる点で、大きな利点を有する。さらに、前記梁ブラケットは、梁本体と同じ断面形状からなるH形鋼部材と前記仕口金物とによって構成したので、梁本体側の寸法の多少の変更には、仕口金物側の適応寸法に融通性をもたせることにより対応可能なことから、より少ない数の種類を用意することにより対応が可能となる。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、角形断面の鉄骨柱とH形断面の鉄骨梁との接合部に広く適用することが可能である。本発明では、鉄骨柱の内部に設置される従来のダイヤフラム等は省略が可能なことから、中空状の角筒体からなる鉄骨柱だけでなく、内部にコンクリート等の詰物をした角筒体からなる鉄骨柱にも適用が可能である。前記塑性化領域は、梁ブラケットを構成する前記H形鋼部材の、前記連結用プレートの設置より補強された被補強部分と前記梁本体との連結部との間に、地震エネルギの吸収に適した所定の広さをもって形成される。塑性化領域は、連結用プレートと鉄骨柱との溶接部及び梁ブラケットの前記連結用プレートの設置により補強された被補強部分より先行して塑性変形を起すように塑性化に関する耐力を相対的に低く設定する。連結用プレートは、平板部の両側部に垂直状態に溶接されたものでもよいし、平板部の両側部に断面L字状に一体形成されたものでもよいし、平板部の両側部に断面T字状に一体形成されたものでもよい。また、その平板部は、1枚の板体から構成したものでもよいし、H形鋼部材に沿って分割した左右の板体をそれぞれH形鋼部材の両側部に固着するように構成したものでもよい。因みに、連結用プレートが平板部の両側部に断面L字状に一体形成された仕口金物は、市販のアングル材から切出すことも可能である。また、連結用プレートが平板部の両側部に断面T字状に一体形成された仕口金物は、市販のH形鋼材から切出すことも可能である。このように、連結用プレートが平板部の両側部に一体形成される仕口金物を採用する場合には、連結用プレートと平板部との間の溶接時に伴う熱変形の問題を回避することができる。
【0010】
具体的には、連結用プレートを備えた仕口金物の固着により梁ブラケットを構成するH形鋼部材の断面係数が部分的に増加することから、塑性化領域の形成に十分な耐力の差分を容易に確保でき、連結用プレートにより補強された被補強部分と梁本体との連結部との間に、地震エネルギを吸収するに必要な広さを有するスペースをあけるだけでも、塑性化領域を簡便に形成することができる。因みに、梁ブラケットを構成するH形鋼部材は、梁本体と同じメーカーの同じ種類のH形鋼材を使用するのが外形寸法の一致性やコスト面からみて最適であるが、梁本体と同じ断面形状のものであれば、他の鋼材から構成することも可能である。なお、前記平板部の両方あるいは一方の側部を傾斜させたり板厚を変えて平板部自体の断面を塑性化領域へ向けて縮小してもよい。この場合には、前述の連結用プレートの設置による平板部、延いてはH形鋼部材の断面係数の部分的な増加に基づく耐力の差分に加えて、平板部自体の断面変化による耐力の差分が加算されることから、より的確に塑性化領域を形成することができる。また、その平板部を塑性化領域へ向けて張出すことにより、塑性化が最初に開始される位置を塑性化領域中の任意の位置に設定することができ、外力の増加に伴って塑性化される範囲をより大きく設定することも可能である。なお、最上階の上側の梁ブラケットに関しては、連結用プレートが上方に突出しないように、そのH形鋼部材を仕口金物の平板部のみを用いて鉄骨柱のトッププレート側に溶接するようにしてもよい。
【0011】
【実施例】
以下、図面を用いて本発明の実施例に関して説明する。図1は本発明の第1実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した立面図であり、図2はその平面図である。また、図3〜図11は前記第1実施例に使用された梁ブラケットを構成する各部材及びその組立状態を示したもので、図3及び図4はH形鋼部材、図5〜図8は仕口金物、図9〜図11はそれらのH形鋼部材と仕口金物との組立てにより形成された梁ブラケットをそれぞれ示したものである。図中、1は角形断面からなる鉄骨柱であり、2はH形鋼からなる梁本体である。本実施例では、図2に示したように、鉄骨柱1の周囲の2面に梁本体2を接合した場合を例示したが、3面あるいは4面に接合する場合でも、場合によっては1面に接合する場合でも本発明の適用が可能なことはいうまでもない。鉄骨柱1には、各梁本体2に対応して、それらの梁本体2を鉄骨柱1に連結支持するための梁ブラケット3が設置され、該梁ブラケット3を介して鉄骨柱1と梁本体2とを接合する接合構造が採用されている。
【0012】
次に、前記梁ブラケット3に関して詳細に説明する。図3は梁ブラケット3を構成するH形鋼部材を示した正面図であり、図4はその平面図である。図中、4はH形鋼部材であり、このH形鋼部材4は、前記梁本体2と同じH形鋼材からなり、上下のフランジ部5,6と、それらのフランジ部5,6を連結する中央のウェブ部7とから構成される。なお、図示のように、上下のフランジ部5,6にはボルト挿通孔8、ウェブ部7にボルト挿通孔9が形成されている。
【0013】
図5は梁ブラケット3を構成する仕口金物を示した正面図であり、それぞれ図6はその平面図、図7は右側面図、図8は左側面図である。図中、10は仕口金物であり、H形鋼部材4の上下のフランジ部5,6に対して重合状態で固着される平板部11とその平板部11の両側部に垂直状態に溶接される連結用プレート12,13とから構成される。なお、本実施例では、平板部11及び連結用プレート12,13は、梁本体2との接合部へ向けて縮小するテーパ状に形成した。図中、14は、それらの平板部11と連結用プレート12,13との接続部に施した隅肉溶接や部分溶込み溶接による溶接部を示したものである。
【0014】
図9は前記H形鋼部材4と仕口金物10との組立てによって形成された梁ブラケット3を示した正面図であり、図10はその平面図、図11はA−A断面図である。本実施例では、図9及び図10で図示したように、H形鋼部材4の上下のフランジ部5,6に対して仕口金物10の平板部11を重合させ、図11の溶接部15で示したように、それらの上下のフランジ部5,6と平板部11との間を隅肉溶接等の溶接手段により固着することにより梁ブラケット3を組立構成している。
【0015】
以上のように組立構成された梁ブラケット3は、本実施例では2組使用し、図1及び図2に示したように、それぞれの連結用プレート12,13の端部を鉄骨柱1の角部近傍の溶接部16〜18で示した部分に溶接することにより、鉄骨柱1側の所定位置に固着される。そして、現場において梁本体2の端部を接合する場合には、その梁本体2の端部をH形鋼部材4の端部に接合した状態で、それらの梁本体2側とH形鋼部材4側の、上下のフランジ部19,20とフランジ部5,6及びウェブ部21とウェブ部7との間の各表裏面に継ぎ手プレート22〜26を渡し、さらにそれらの継ぎ手プレート22〜26に形成した各ボルト挿通孔を介して、対応する梁本体2側の上下のフランジ部19,20あるいはウェブ部21に形成されたボルト挿通孔、及びH形鋼部材4側の上下のフランジ5,6あるいはウェブ7に形成されたボルト挿通孔8,9にそれぞれボルト27〜29を挿通してナット30,31により締付けることにより、強固に連結することができる。
【0016】
しかして、図1及び図2に示したように、梁ブラケット3を介して鉄骨柱1と梁本体2が接合された場合には、その梁ブラケット3を構成するH形鋼部材4の、連結用プレート12,13により補強された被補強部分と梁本体2との連結部との間に、連結用プレート12,13と鉄骨柱1との溶接部16,17より先行して塑性変形を起す塑性化領域32が形成され、地震エネルギを前記溶接部16,17より先行して吸収することになる。すなわち、連結用プレート12,13にも継ぎ手プレート22〜25にも補強されないH形鋼部材4の部分が塑性化領域32として最初に降伏して塑性変形を始め、地震エネルギを吸収することになる。そして、その塑性化領域32を広くとれば、塑性変形量を増やすことができ、地震エネルギをより多く吸収し得る塑性変形が可能となる。因みに、連結用プレート12,13によるH形鋼部材4への補強作用は、その連結用プレート12,13が両側部に垂直状態に溶接された平板部11をH形鋼部材4のフランジ部5,6に重合して固着することにより、連結用プレート12,13の有する補強作用が前記平板部11を介してH形鋼部材4へ伝達されることによることはいうまでもない。なお、本実施例では、平板部11の端部が塑性化領域32内へ張出しているので、その分、塑性化の開始位置が塑性化領域32の中央寄りになる。
【0017】
図12〜図17は本発明の第2実施例を示したものである。図12〜図16はその第2実施例に使用された梁ブラケットを構成する各部材及びその組立状態を示したもので、図12は仕口金物、図13及び図14はH形鋼部材、図15及び図16はそれらのH形鋼部材と仕口金物との組立てにより形成された梁ブラケットをそれぞれ示したものである。図12に示したように、本実施例に係る仕口金物33は、その平板部34の一方の側部のみを傾斜させ、それらの両側部に連結用プレート35,36を垂直状態に溶接するようにした点で、前記第1実施例と異なる。これに伴い、図14に示したように、H形鋼部材37の上下のフランジ部38,39の一方の側部に溶接用の切欠部40を形成した。そして、平板部34をH形鋼部材37の上下のフランジ部38,39に重合状態に溶接することにより、図15に示した梁ブラケット41を組立形成する場合には、図16のC−C断面図に溶接部42で示したように切欠部40に隅肉溶接を行う。図17は本実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。本実施例では、2個の梁ブラケット41を、それぞれ連結用プレート35,36の端部を鉄骨柱43の角部近傍に対して溶接部44〜46で示した位置に完全溶込み溶接を行うことにより所定位置に固着した。そして、前記第1実施例の場合と同様に、梁ブラケット41を構成するH形鋼部材37の端部に梁本体47を連結した場合に、その連結部と前記H形鋼部材37の、連結用プレート35,36により補強された被補強部分との間に、連結用プレート35,36と鉄骨柱43との溶接部44〜46より先行して塑性変形を起す塑性化領域48が形成され、地震エネルギを先行して吸収するように構成した。
【0018】
図18〜図21は本発明の第3実施例を示したものである。図18〜図20はその第3実施例に使用された仕口金物を示したもので、図18はその正面図、図19は平面図、図20は右側面図である。また、図21は本実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。本実施例では、図19に示したように仕口金物を二分割し、2つの仕口金物49,50から構成した点で、特徴を有する。それぞれの仕口金物49,50は、平板部51,52の外側部に垂直状態に連結用プレート53,54を溶接することにより構成される。そして、図21に示したように、それらの仕口金物49,50をH形鋼部材55の上下のフランジ部に重合状態に溶接して梁ブラケット56を構成した上、以上の実施例と同様に、連結用プレート53,54の端部を鉄骨柱57に溶接し、H形鋼部材55の端部に梁本体58を連結すれば、その連結部と前記H形鋼部材55の連結用プレート53,54により補強された被補強部分との間に、連結用プレート53,54と鉄骨柱57との溶接部より先行して塑性変形を起す塑性化領域59が形成される。
【0019】
図22は本発明の第4実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。図示のように、本実施例の梁ブラケット60の場合には、仕口金物61を構成する平板部62に大きな開口部63を形成し、その開口部63の内周部に隅肉溶接することによりH形鋼部材64との溶接強度を補強し得るように構成したものである。
【0020】
図23〜図27は本発明の第5実施例を示したものである。図23はその第5実施例に使用された仕口金物の平面図、図24はH形鋼部材の正面図、図25はその平面図、図26は仕口金物とH形鋼部材とからなる梁ブラケットの組立状態をそれぞれ示したものである。また、図27は本実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。本実施例では、図23及び図25に示したように、仕口金物65の平板部66とH形鋼部材67の上下のフランジ部68,69に共通のボルト挿通孔70,71を形成し、図26に示したように、それらのボルト挿通孔70,71を介してボルト72を挿通してナットにより締付け固定することにより梁ブラケット73を組立形成する。なお、平板部66とH形鋼部材67の上下のフランジ部68,69との固着力を補強するため、更に前記実施例と同様の溶接を付加してもよい。図27に示したように、本実施例の場合にも、前記実施例と同様の塑性化領域74が形成される。
【0021】
なお、図28及び図29は仕口金物の平板部に関する他の実施例を示した斜視図である。図示のように、本実施例に係る仕口金物75,76は、その平板部77,78に切欠部79,80を形成し、その切欠部79,80の内周縁に隅肉溶接することによりH形鋼部材との溶接長さを増やして、溶接強度の強化を図ったものである。
【0022】
図30〜図35は本発明の第6実施例を示したものである。図30はその第6実施例に使用された仕口金物を示した正面図であり、図31はその平面図、図32は右側面図、図33は左側面図である。また、図34は仕口金物とH形鋼部材とからなる梁ブラケットの組立状態を示した正面図であり、図35はその平面図である。本実施例に係る仕口金物はH形鋼部材に沿って対称的に分割構成された形態を示したもので、図30〜図33は、その片方の仕口金物81aを示したものである。図示のように、仕口金物81aは、平板部82aの端部に連結用プレート83aを断面L字状に一体形成したものから構成され、この点で特徴を有する。図34に示したように、対称的に形成された仕口金物81a,81bは、H形鋼部材84の上下のフランジ部85,86をそれぞれ挟んで上下に対称的に溶接されるとともに、図35に示したように、H形鋼部材84の上下のフランジ部85,86の両側部に対しても左右に対称的に溶接される。すなわち、本実施例では、図35に示したように、H形鋼部材84に沿って平板部を平板部82aと平板部82bとに左右に分割構成し、その両端部に連結用プレート83aと連結用プレート83bとを対称的に形成したものである。なお、仕口金物81a,81bの上下のフランジ部85,86に対する溶接において、それらのフランジ部85,86を挟んで上下に位置する平板部82a,82b相互間の部分の溶接作業は困難なことから、上下の平板部82a,82b間あるいは連結用プレート83a,83bを適宜の手段により連結するようにしてもよい。因みに、本実施例に係る仕口金物81a,81bでは、平板部82a,82bと連結用プレート83a,83bとが断面L字状に一体形成されることから、市販のアングル材を活用して図示の形状に切出して使用することも可能である。しかして、以上のように組立て形成された梁ブラケット87は、前述の実施例と同様に、H形鋼部材84を介して梁本体側に連結され、同様の機能を奏することになる。
【0023】
図36は本発明の第7実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した正面図であり、図37はその平面図である。本実施例に係る梁ブラケット88は、前記第6実施例の変形例であり、第6実施例に係る梁ブラケット87では、仕口金物81a,81bのH形鋼部材84の上下のフランジ部85,86に対する固着手段として溶接を用いたのに対して、この梁ブラケット88では、図37に示したように、前記溶接に加えて、あるいは前記溶接に代えて、ボルトとナットを用いた固着手段89a,89bを採用したものである。他の構成においては基本的に異なるところはなく、同様の機能を奏する。
【0024】
図38は本発明の第8実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した斜視図であり、図39はその右側面図である。図示のように、本実施例に係る梁ブラケット90では、H形鋼部材91に沿って対称的に分割構成された仕口金物92a,92bを使用する形態を示した。すなわち、本実施例に係る仕口金物92a,92bは、H形鋼部材91に沿って分割構成された平板部93a,93bのそれぞれの端部に対称的に連結用プレート94a,94bを断面T字状に一体形成したものから構成され、この点で特徴を有する。そして、それらの仕口金物92a,92bは、図示のようにH形鋼部材91の上下のフランジ部95,96の両側部に対して対称的に溶接され、本実施例に係る梁ブラケット90が形成される。因みに、本実施例に係る仕口金物92a,92bでは、平板部93a,93bと連結用プレート94a,94bとが断面T字状に一体形成されることから、市販のH形鋼材を活用して、その長手方向の中央部から切断した上、図示の形状に切出して使用することも可能である。しかして、以上のように組立て形成された梁ブラケット90は、前述の実施例と同様に、H形鋼部材91を介して梁本体側に連結され、同様の機能を奏することになる。
【0025】
図40は本発明の第9実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した斜視図であり、図41はその右側面図である。図示のように、本実施例に係る梁ブラケット97は、前記第8実施例の変形例であり、第8実施例に係る梁ブラケット90では、仕口金物92a,92bのH形鋼部材91の上下のフランジ部95,96に対する固着手段として溶接を用いたのに対して、この梁ブラケット97では、前記溶接に加えて、あるいは前記溶接に代えて、ボルトとナットを用いた固着手段98a,98bを採用したものである。他の構成においては基本的に異なるところはなく、同様の機能を奏する。なお、以上の第6実施例〜第9実施例においては、仕口金物の平板部をH形鋼部材に沿って分割構成した場合に関して説明したが、一体的な平板部に変更することが可能なことはいうまでもない。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)梁ブラケットを構成するH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部の両側部に垂直状態に連結用プレートを固着又は一体形成し、それらの連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に溶接するという接合構造を採用したので、その連結用プレートの介在により鉄骨柱と梁本体側との溶接長を必要に応じて大きく設定できることから、溶接部からの破壊を回避するために必要とされる溶接部と塑性化領域との耐力に関する相対的な差分を簡便に確保することができる。
(2)連結用プレートと鉄骨柱との溶接部に先行して塑性化領域から変形する、いわゆる塑性ヒンジが形成される結果、より多くの地震エネルギの吸収が可能になり、溶接部の破壊のように脆性的で急激な破壊は回避されることから、骨組み構造として粘りが付与され、地震時における緊急避難のための時間的余裕を確保することができる。
(3)本発明に係る梁ブラケットは、梁本体と同じ断面形状からなるH形鋼部材と、このH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部と該平板部の両側部に垂直状態に固着又は一体形成された連結用プレートとからなる仕口金物とによって構成したので、H形鋼部材として梁本体と同じメーカーの同じ種類のH形鋼材を使用することが可能なことから、梁ブラケットと梁本体との接合部における寸法差に基づくガタに起因する不完全な結合状態の問題を簡便かつ的確に払拭することができる。
(4)したがって、メーカー等により外形寸法に微妙な差が存するH形鋼材の実状に左右されることなく、梁ブラケットと梁本体との接合面に設置される継ぎ手プレートとの間の密着性が確保されることから、両者の強固かつ安定的な結合状態がきわめて容易に得られる。
(5)仕口金物を構成する平板部の両方あるいは一方の側部を傾斜させて、その平板部自体の断面を塑性化領域へ向けて縮小すれば、連結用プレートの設置による平板部、延いてはH形鋼部材の断面係数の部分的な増加に基づく耐力の差分に加えて、平板部自体の断面の変化による耐力の差分が加算されることから、より的確に塑性化領域を形成することができる。
(6)仕口金物を構成する平板部と連結用プレートとを断面L字状あるいは断面T字状に一体形成するようにすれば、それらの部材間の溶接時に伴う熱変形の問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した立面図である。
【図2】 同接合部分の平面図である。
【図3】 第1実施例に係るH形鋼部材を示した正面図である。
【図4】 同H形鋼部材の平面図である。
【図5】 第1実施例に係る仕口金物を示した正面図である。
【図6】 同仕口金物の平面図である。
【図7】 同仕口金物の右側面図である。
【図8】 同仕口金物の左側面図である。
【図9】 第1実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した正面図である。
【図10】 同梁ブラケットを示した平面図である。
【図11】 図9のA−A断面図である。
【図12】 本発明の第2実施例に係る仕口金物を示した平面図である。
【図13】 第2実施例に係るH形鋼部材を示した正面図である。
【図14】 図13のB−B断面図である。
【図15】 第2実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した正面図である。
【図16】 図15のC−C断面図である。
【図17】 第2実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。
【図18】 本発明の第3実施例に係る仕口金物を示した正面図である。
【図19】 同仕口金物の平面図である。
【図20】 同仕口金物の右側面図である。
【図21】 第3実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。
【図22】 本発明の第4実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。
【図23】 本発明の第5実施例に係る仕口金物を示した平面図である。
【図24】 第5実施に係るH形鋼部材を示した正面図である。
【図25】 同H形鋼部材の平面図である。
【図26】 第5実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した平面図である。
【図27】 第5実施例に係る鉄骨柱と鉄骨梁との接合部分を示した平面図である。
【図28】 仕口金物の平板部に関する他の実施例を示した斜視図である。
【図29】 仕口金物の平板部に関する他の実施例を示した斜視図である。
【図30】 本発明の第6実施例に係る仕口金物を示した正面図である。
【図31】 同仕口金物の平面図である。
【図32】 同仕口金物の右側面図である。
【図33】 同仕口金物の左側面図である。
【図34】 第6実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した正面図である。
【図35】 同梁ブラケットの平面図である。
【図36】 本発明の第7実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した正面図である。
【図37】 同梁ブラケットの平面図である。
【図38】 本発明の第8実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した斜視図である。
【図39】 同梁ブラケットの右側面図である。
【図40】 本発明の第9実施例に係る梁ブラケットの組立状態を示した斜視図である。
【図41】 同梁ブラケットの右側面図である。
【符号の説明】
1…鉄骨柱、2…梁本体、3…梁ブラケット、4…H形鋼部材、5,6…フランジ部、7…ウェブ部、8,9…ボルト挿通孔、10…仕口金物、11…平板部、12,13…連結用プレート、14〜18…溶接部、19,20…フランジ部、21…ウェブ部、22〜26…継ぎ手プレート、27〜29…ボルト、30,31…ナット、32…塑性化領域、33…仕口金物、34…平板部、35,36…連結用プレート、37…H形鋼部材、38,39…フランジ部、40…切欠部、41…梁ブラケット、42…溶接部、43…鉄骨柱、44〜46…溶接部、47…梁本体、48…塑性化領域、49,50…仕口金物、51,52…平板部、53,54…連結用プレート、55…H形鋼部材、56…梁ブラケット、57…鉄骨柱、58…梁本体、59…塑性化領域、60…梁ブラケット、61…仕口金物、62…平板部、63…開口部、64…H形鋼部材、65…仕口金物、66…平板部、67…H形鋼部材、68,69…フランジ部、70,71…ボルト挿通孔、72…ボルト、73…梁ブラケット、74…塑性化領域、75,76…仕口金物、77,78…平板部、79,80…切欠部、81a,81b…仕口金物、82a,82b…平板部、83a,83b…連結用プレート、84…H形鋼部材、85,86…フランジ部、87,88…梁ブラケット、89a,89b…固着手段、90…梁ブラケット、91…H形鋼部材、92a,92b…仕口金物、93a,93b…平板部、94a,94b…連結用プレート、95,96…フランジ部、97…梁ブラケット、98a,98b…固着手段
Claims (10)
- 角形断面の鉄骨柱とH形断面の梁本体とを鉄骨柱側に設置される梁ブラケットを介して連結する鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造において、前記梁ブラケットを、前記梁本体と同じ断面形状からなるH形鋼部材と、このH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部と該平板部の両側部に垂直状態に固着又は一体形成された連結用プレートとからなる仕口金物とによって構成するとともに、前記H形鋼部材のフランジ部自体の端部は鉄骨柱側に溶接することなく、前記連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に溶接することにより前記梁ブラケットを鉄骨柱側に固着し、かつ、前記梁ブラケットを構成するH形鋼部材の、前記連結用プレートにより補強された被補強部分と前記梁本体との連結部との間に、前記連結用プレートと鉄骨柱との溶接部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成して、地震エネルギを前記溶接部より先行して吸収するように構成したことを特徴とする鉄骨柱と鉄骨梁との接合構造。
- 角形断面の鉄骨柱とH形断面の梁本体とを接合する梁ブラケットであって、前記梁本体と同じ断面形状からなるH形鋼部材と、このH形鋼部材のフランジ部に対して重合状態で固着される平板部と該平板部の両側部に垂直状態に固着又は一体形成された連結用プレートとからなる仕口金物とによって構成されるとともに、前記H形鋼部材のフランジ部自体の端部は鉄骨柱側に溶接することなく、前記連結用プレートの端部を鉄骨柱の角部近傍に溶接することにより鉄骨柱側に固着され、その梁ブラケットを構成するH形鋼部材の、前記連結用プレートにより補強された被補強部分と前記梁本体との連結部との間に、前記連結用プレートと鉄骨柱との溶接部より先行して塑性変形を起す塑性化領域を形成して、地震エネルギを前記溶接部より先行して吸収するように構成したことを特徴とする鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記連結用プレートは、前記平板部の両側部に垂直状態に溶接された請求項2に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記連結用プレートは、前記平板部の両側部に断面L字状に一体形成された請求項2に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記連結用プレートは、前記平板部の両側部に断面T字状に一体形成された請求項2に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記平板部は、前記H形鋼部材に沿って分割構成された請求項2〜5のいずれか一項に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記仕口金物を構成する平板部の少なくとも一方の側部を傾斜させ、その平板部の断面を前記塑性化領域へ向けて縮小した請求項2〜6のいずれか一項に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記H形鋼部材のフランジ部と前記仕口金物を構成する平板部とを重合して溶接により固着した請求項2〜7のいずれか一項に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記H形鋼部材のフランジ部と前記仕口金物を構成する平板部とを重合してボルトとナットにより締付けて固着した請求項2〜8のいずれか一項に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
- 前記H形鋼部材のフランジ部と前記仕口金物を構成する平板部とを重合して溶接するとともにボルトとナットにより締付けて固着した請求項2〜8のいずれか一項に記載の鉄骨柱と鉄骨梁との接合用梁ブラケット。
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