JP4006808B2 - 耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は耐熱変形型自己融着エナメル線及びその耐熱変形型自己融着エナメル線を素線として撚合わせて成る耐熱変形型リッツ線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年におけるパソコン、ワープロ、カラーテレビ等の発展には誠に目覚ましいものがある。
【0003】
このようなパソコン、ワープロ、カラーテレビ等のディスプレイ装置はブラウン管方式のものと液晶方式のものとに大別される。これらのうちブラウン管方式のディスプレイ装置は大型で且つ繊細な画面が要求されるパソコン、ワープロ、カラーテレビ等に採用されている。また液晶方式のディスプレイ装置は小型のパソコン、ワープロ、カラーテレビ等に採用されている。
【0004】
さて、ブラウン管方式のディスプレイ装置には偏向ヨークコイルが設置されている。
【0005】
この種の偏向ヨークコイルの製造は、まず自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線を用いて鞍形状のコイルを巻線し、次にその得られた巻線コイルを通電加熱することにより線間を熱融着させると共に所定の鞍形状に熱成形するようになっている。
【0006】
ここにおいて自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線の融着層材料としては種々なものが用いられているが、広く実用されているのは共重合ポリアミド樹脂と熱可塑性エポキシ樹脂(フェノキシ樹脂)の2種である。
【0007】
これらのうち共重合ポリアミド樹脂を融着層とした自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線を用いて巻線、熱融着して得られる熱融着コイルは、その線間接着性及び耐熱変形防止性が優れている。これに対して熱可塑性エポキシ樹脂(フェノキシ樹脂)を融着層とした自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線を用いて巻線、熱融着して得られる熱融着コイルは、熱融着した偏向ヨークコイルの初期歪み(偏向ヨークコイルの捩じれ)が小さく、その結果熱融着偏向ヨークコイルの耐捩じれ防止性が優れている。
【0008】
一方、最近のブラウン管方式のディスプレイ装置は走査周波数の上昇、仕様温度の上昇等の気運にある。
【0009】
このため最近のブラウン管方式のディスプレイ装置に用いられる偏向ヨークコイルのマグネットワイヤは、融着層として線間接着性及び耐熱変形防止性が優れた共重合ポリアミド樹脂を用いた自己融着エナメル線若しくは自己融着製リッツ線が多用されるようになってきている。
【0010】
ところで融着層として共重合ポリアミド樹脂を用いた自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線の耐熱変形防止性が優れているのは熱軟化が高く、しかもその熱軟化を越えると優れた線間接着性を発揮するためである。
【0011】
ここにおいて仕様温度の上昇に対処するには当然ながら融着層の耐熱変形温度を高くする必要がある。即ち、自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線の融着層の耐熱変形温度を高くするには、従来の共重合ポリアミド樹脂より熱軟化点の高い共重合ポリアミド樹脂を用いる必要がある。
【0012】
しかし融着層材料として熱軟化点の高い共重合ポリアミド樹脂を用いた自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線は当然ながら低温領域における熱融着性が低下し、その結果巻線して得られた偏向ヨークコイルの熱融着作業性及び熱成形作業性が悪化する。
【0013】
一方、熱融着偏向ヨークコイルの熱変形は、実際にはコイル寸法には殆ど現れず、ティスプレー装置に組み込んだ時の色ずれ量(コンバーゼンス変化量)として現れることが大半である。
【0014】
これは高温放置時に、偏向ヨークコイルの熱融着、熱成形時の残留王力が偏向ヨークコイル線間の接着力を上回ったときに微小な変形を起こし、それがティスプレー装置に組み込んだ時の大きな色ずれ量(コンバーゼンス変化量)となって現れるものと考えられる。
【0015】
従って偏向ヨークコイル線間の接着力は、常温下で高く且つ高温下でも高く、しかも高温放置後でも高いことが色ずれ量(コンバーゼンス変化量)の低減対策上望ましい訳である。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかし従来の自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線を偏向ヨークコイルとしたときには、高温下の線間接着力が低下が大きく、また高温熱処理を受けると線間接着力が低下してしまうという難点があった。
【0017】
例えば、理論的には自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線は熱軟化点以上の温度で熱融着し、しかも一旦熱融着した偏向ヨークコイルは熱軟化点以下の温度では熱変形しない筈である。例えば、自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線は130〜140℃以上の温度で熱融着し、しかも一旦熱融着した偏向ヨークコイルは熱軟化点の130〜140℃以下の温度では熱変形しない筈である。
【0018】
しかしながら共重合ポリアミド樹脂を融着層とした自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線を用いて巻線、熱融着して得られる熱融着偏向ヨークコイルの熱変形は、用いた共重合ポリアミド樹脂の熱軟化点より20〜30℃低い温度から始まるのである。つまり熱軟化点が130〜140℃の共重合ポリアミド樹脂を融着層とした自己融着エナメル線若しくは自己融着性リッツ線を用いて巻線、熱融着して得られる熱融着偏向ヨークコイルの熱変形開始温度は、100〜120℃である。
【0019】
本発明はかかる点に立って為されたものであって、その目的とするところは前記した従来技術の欠点を解消し、偏向ヨークコイルを巻線した段階ではその融着層材料の熱軟化点以上の温度で熱融着でき、しかも一旦熱融着した偏向ヨークコイルはその熱融着温度に加熱しても熱変形しないようにすることができる耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、エナメル線の絶縁皮膜上に融着層を設けて成る自己融着エナメル線において、前記融着層に100重量部の共重合ポリアミド樹脂と0.3〜5.0重量部の2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)が配合されていることを特徴とする耐熱変形型自己融着エナメル線及びそれを素線として撚合わせて成る耐熱変形型リッツ線にある。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型りッツ線の実施の形態について説明する。
【0022】
本発明の耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線において融着層としては、共重合ポリアミド樹脂100重量部に対して2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)を0.3〜5.0重量部配合して成るものであることが好ましい。
【0023】
ここにおいて共重合ポリアミド樹脂100重量部に対して2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)の配合量を0.3〜5.0重量部としたのは、0.3重量部以下の配合では酸化防止の効果が小さく、その結果高温放置後の接着力の向上効果が小さいためである。逆に、5.0重量部以上では酸化防止の効果が配合量に比例しなくなり且つ塗装作業性が悪化するためである。
【0024】
即ち、本発明は、驚くべきことにエナメル線の絶縁皮膜上に共重合ポリアミド樹脂と2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)とから成る融着層を設けることにより、偏向ヨークコイルを巻線した段階ではその融着層材料の熱軟化点の温度で熱融着でき、しかも一旦熱融着した偏向ヨークコイルとした段階ではその熱融着温度下に加熱しても熱変形しないようにすることができる自己融着エナメル線及びリッツ線を見い出したことにある。
【0025】
換言すれば本発明は、エナメル線の絶縁皮膜上に共重合ポリアミド樹脂と2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)から成る融着層を設けることにより、高温熱処理後の偏向ヨークコイルの線間接着強度の低下を完全に抑止し、それにより熱融着偏向ヨークコイルの熱変形開始温度を熱軟化点の温度まで高めることができることにある。
【0026】
ここにおいて配合した2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)は、共重合ポリアミド樹脂が高温熱処理等により熱酸化劣化を受けたときに生成する熱分解ラジカルを補足して熱劣化を抑止し、それにより融着層の初期及び高温熱処理後の接着性、伸び特性、耐熱変形性等を顕著に高めることができるのである。
【0027】
【実施例】
次に本発明の耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線の実施例を比較例と共に説明する。
【0028】
(ベース自己融着性塗料の用意)
日本リルサン株式会社の共重合ポリアミド樹脂であるM−1422を15重量部採取し、またクレゾール/工業用キシロールの混合溶媒を85重量部を採取し、次にこれらを溶解装置に入れて加熱、攪拌することにより樹脂分15%のベース自己融着性塗料を作成した。
【0029】
(実施例及び比較例の自己融着性塗料の作成)
上記のベース共重合ポリアミド樹脂塗料に各種の添加剤を配合することにより実施例及び比較例の自己融着性塗料を作成した。
【0030】
(実施例及び比較例の自己融着エナメル線の作成)
まず、導体径φ0.16mmの銅線上に、ポリエステルイミド塗料を塗布、焼き付けすることにより、皮膜厚さが20μmのポリエステルイミドエナメル線を作成した。
【0031】
次に、この絶縁厚さが20μmのポリエステルイミドエナメル線上に、実施例及び比較例の自己融着性塗料を塗布、焼き付けすることにより、融着層厚さが10μmの実施例及び比較例の自己融着ポリエステルイミドエナメル線を作成した。
【0032】
図1はかくして得られた実施例1の耐熱変形型自己融着エナメル線の拡大断面図を示したものである。
【0033】
図1において1は導体、2はポリエステルイミド層、3は融着層である。
【0034】
(リッツ線の作成)
まず、実施例及び比較例の自己融着エナメル線をそれぞれ7本ずつ用意した。
【0035】
次に、これら7本の低歪・耐熱変形型自己融着エナメル線を撚合わせすることにより実施例及び比較例のリッツ線を得た。
【0036】
図2はかくして得られた実施例1の耐熱変形型リッツ線の断面図を示したものである。
【0037】
図2において数字記号は図1と同じである。
【0038】
(配合組成及び特性試験結果)
実施例及び比較例の自己融着性塗料配合量、フィルム特性、自己融着エナメル線特性及び偏向ヨークコイル特性を試験した。
【0039】
特性試験は次のように行った。
【0040】
▲1▼フィルム特性試験
フィルムは融点、伸びについて試験した。
【0041】
融点はDSCにより測定した。
【0042】
またフィルムの伸びは、長さ10mm、幅5mm、厚さ0.05mmの試験片を採取し、特殊引張試験装置にて1mm/minの速度で引張り、その切断伸びを測定した。
【0043】
▲2▼エナメル線特性
JIS−C−3003に準じて行った。
【0044】
接着力試験は、まず実施例及び比較例の自己融着エナメル線を外径φ5mmの巻き付け棒に20ターンを密に巻き付けることによりヘリカルコイルを作成し、次にこれらのヘリカルコイルを高温で10分加熱することにより熱融着し、最後にその熱融着したヘリカルコイルを引っ張り試験機にて引っ張り、その線間剥離荷重を接着力として測定した。
【0045】
これらの熱融着温度−接着力のグラフを図3に示す。
【0046】
▲3▼DY特性(DYは偏向ヨークコイルの略である)
DY特性は、まず実施例及び比較例の自己融着エナメル線の7本の素線を撚合わせてリッツ線とし、次にこれらのリッツ線により偏向ヨークコイルを巻線、熱融着、熱成形した。最後に、それらの熱融着、熱成形した偏向ヨークコイルをCRTに組み込んでから、コンバーゼンス試験装置によりコンバーゼンスを測定した。
【0047】
表1はこれらの試験結果を示したものである。
【0048】
表1においてPHRはPart Per Hundred Resinの略であって、共重合ポリアミド樹脂100重量部に対する配合量(重量部)である。
【0049】
【表1】
【0050】
(比較例1の評価)
フイルムは、熱処理後の伸びが小さいという難点がある。
【0051】
自己融着エナメル線は、熱劣化後の接着力がかなり小さく且つ高温下での接着力も小さいという難点がある。
【0052】
偏向ヨークコイルは、120℃で熱処理後のコンバーゼンス変化量が大きいという難点がある。
【0053】
(比較例2の評価)
フイルムは、熱処理後の伸びが試験した中で最も小さいという難点がある。
【0054】
自己融着エナメル線は、熱劣化後の接着力が小さく且つ高温下での接着力も小さく、しかも高温中の接着力保持性も悪い。
【0055】
その上偏向ヨークコイルも、コンバーゼンスが大きいという難点がある。
【0056】
(比較例3の評価)
フイルムは、熱処理後の伸びが小さいという難点がある。
【0057】
自己融着エナメル線は、熱劣化後の接着力が小さく且つ高温下での接着力も小さく、しかも高温中の接着力保持性も悪い。
【0058】
その上偏向ヨークコイルも、熱処理後のコンバーゼンスが試験した中で最も大きいという難点がある。
【0059】
(実施例1〜4の評価)
フイルムは、熱処理後の伸びも大きいという特長がある。
【0060】
また、自己融着エナメル線は、熱劣化後の接着力が大きく且つ高温下での接着力も大きいという特長がある。
【0061】
その上偏向ヨークコイルは、熱処理後のコンバーゼンス変化量が小さいという特長がある。
【0062】
【発明の効果】
本発明の耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線の融着層は、フィルムとしたときには熱処理後の伸びが大きいという特長があり、それにより自己融着エナメル線及びリッツ線としたときには初期接着力が大きく且つ熱劣化後の接着力が大きく、しかも高温下での接着力が大きいという特長を有し、それらにより偏向ヨークコイルとしたときには熱処理後のコンバーゼンス変化量が小さいという特長があり、工業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の耐熱変形型自己融着エナメル線の拡大断面図を示したものである。
【図2】本発明の耐熱変形型リッツ線の断面図を示したものである。
【図3】熱融着ヘリカルコイルの熱融着温度−接着力の関係を示したグラフである。
【符号の説明】
1 導体
2 ポリエステルイミド層
3 融着層
Claims (2)
- エナメル線の絶縁皮膜上に融着層を設けて成る自己融着エナメル線において、前記融着層に100重量部の共重合ポリアミド樹脂と0.3〜5.0重量部の2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)が配合されていることを特徴とする耐熱変形型自己融着エナメル線。
- 複数本の素線を撚合わせて成るリッツ線において、該複数本の素線の一部若しくは全部が、エナメル線の絶縁皮膜上に100重量部の共重合ポリアミド樹脂と0.3〜5.0重量部の2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第3ブチルフェノール)若しくはブチルヒドロキシアニソール(BHA)が配合されている融着層を設けて成る自己融着エナメル線であることを特徴とする耐熱変形型リッツ線。
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JP01920298A JP4006808B2 (ja) | 1998-01-30 | 1998-01-30 | 耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線 |
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JPH11219621A JPH11219621A (ja) | 1999-08-10 |
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JP01920298A Expired - Lifetime JP4006808B2 (ja) | 1998-01-30 | 1998-01-30 | 耐熱変形型自己融着エナメル線及び耐熱変形型リッツ線 |
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JP2009126986A (ja) * | 2007-11-27 | 2009-06-11 | Totoku Electric Co Ltd | 高耐熱性自己融着塗料および高耐熱性自己融着絶縁電線 |
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1998
- 1998-01-30 JP JP01920298A patent/JP4006808B2/ja not_active Expired - Lifetime
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