JP3993521B2 - 氷結晶成長阻害活性を有する担子菌の培養液 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体培地中で担子菌を培養することを特徴とする氷結晶成長阻害活性を有する培養液の製造方法、その方法により得られる培養液、その培養液を用いる食品および生体材料の凍結保存方法、ならびに本発明の方法に使用される南極エノキ等に関する。
【0002】
【従来の技術】
種々の食品を冷凍にして保存したりすることは、日常的に行われているが、十分にそれら品質を保持できていない。保存中に氷結晶が再結晶化することによって、それらの組織を破壊し、鮮肉や鮮魚などの美味しさを低下させてしまうからである。また、アイスクリームなどの氷菓子などは、長期的保存によって、時間とともにザラザラな舌触りになってしまう。このような現象は、冷凍保存中における氷結晶の再結晶化(氷の拡大化)に起因している。このような現象を防止するためには氷結晶成長阻害活性を有する物質を添加することが必要である。
【0003】
種々の冷凍食品や食材を冷凍する際に、この再結晶化を阻害する活性を持った不凍タンパク質(antifreeze protein; AFP)を原材料に添加あるいは食材に凍み込ませる事によって、氷結晶の成長を阻害し、食品品質を向上させることが提案されている。
【0004】
AFPは多くの低温環境下で生息している生物種によって生産されるタンパク質である。その生物種とは、南極海や低温環境下に生息している魚、極寒地域で生息あるいは栽培されている植物、極寒の間、土壌中で越冬する甲虫の幼虫、低温に適応する微生物などである。これまでに植物由来のAFP(特許文献1および特許文献2参照、地衣類由来のAFP(特許文献2参照)、魚由来のAFP(特許文献3および特許文献4参照)、昆虫由来のAFP(特許文献5参照)などの報告がある。
【0005】
これら生物種由来のAFPは、様々な応用技術に利用できることが明らかにされている。このタンパク質の生産には、直接生物種より抽出して得る方法と、その遺伝子を大腸菌に組み込んで、組換え大腸菌をパイロットプラントにおいて大量生産する系が確立されている。組換えDNA技術により生成された不凍剤ペプチドが開示されており、これをアイスクリームのような食品に適用できるとの報告がある(特許文献6参照)。
【0006】
しかしながら、これまでに報告されている魚類や植物、細菌、昆虫のAFPは微量にしか発現していないものや多量に発現していても栽培あるいは漁獲量の問題やその発現が季節に影響されることで、工業化するのは非常に困難である。また、遺伝子組換え技術によって、人為的に製造することが容易になっているが、遺伝子組換え体を使用した食品は、消費者に受け入れ難いのが現状である。そこで、魚や植物などから直接大量に抽出して生産する系についても検討されているが、それらの生物は冬の低温下にしか組織ないに生産していないので、冬季に大量に確保しないと、1年中AFPを生産する系を確立することは不可能である。冬季にのみAFPを得ようとすれば、大量に魚や植物を採取しなければならず、生物資源保護の面からも問題を生じ、その確保はかなり困難であると考えられる。一方、微生物(組換え微生物も含む)由来のAFPであれば、パイロットプラントによって年中生産できるが、これまでに安全性の高い微生物由来のAFPは皆無であった。
【0007】
AFPのほかに氷結晶成長阻害活性を有するものとしては、機械類に使用される不凍液の成分であるエチレングリコール等が挙げられるが、食品や生体材料に使用することは安全性や毒性の面から問題がある。
【0008】
【特許文献1】
国際公開WO98/04148公報
【特許文献2】
国際公開WO99/37673公報
【特許文献3】
国際公開WO96/11586公報
【特許文献4】
国際公開WO97/02343公報
【特許文献5】
国際公開WO99/00493公報
【特許文献6】
国際公開WO90/13571公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、年中生産が可能で、安全性についても問題のない氷結晶成長阻害活性を有する物質を工業的規模で得ることが課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
上記事情に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ね、南極大陸より分離された担子菌エノキを液体培養し、低温に晒すことによって得られる培養液が強力な氷結晶成長阻害活性を有することを初めて見出し、本発明を完成するに至った。本発明によれば、氷結晶成長阻害活性を有する担子菌の培養液を年中しかも大量に製造することができ、工業化が容易であり、エノキなどの食用担子菌を用いることができるため、安全性や毒性においても問題がない。
【発明の実施の形態】
すなわち、本発明は、
(1)下記工程:
(a)南極エノキ Flammulina velutipes KUAF-1 (独立行政法人産業技術総合研究所受託番号FERM P−19242)を15℃ないし30℃にて液体培地で培養して増殖させること、次いで
(b)工程(a)で得られた菌体を0℃ないし15℃未満にて液体培地で培養すること
を特徴とする、氷結晶成長阻害活性を有する培養液の製造方法;
(2)工程(a)を15℃ないし25℃で行ない、工程(b)を0℃ないし10℃で行なうことを特徴とする(1)記載の方法;
(3)液体培地が酵母エキスとグルコースを含むYG培地、ペプトンと酵母エキスとデキストロース(グルコース)を含むPDY培地およびペプトンとデキストロース(グルコース)を含むPD培地からなる群より選択される(1)または(2)記載の方法;
(4)工程(a)を16〜20℃で6〜8日間行ない、工程(b)を2〜6℃で6〜8日間行ない、液体培地が酵母エキスとグルコースを含むYG培地、ペプトンと酵母エキスとデキストロース(グルコース)を含むPDY培地およびペプトンとデキストロース(グルコース)を含むPD培地からなる群より選択されるものである、(1)記載の方法;
(5)(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法により得られる培養液;
(6)食品または生体材料の凍結保存における保護剤として使用される(5)記載の培養液;
(7)(6)記載の培養液を食品または生体材料に接触させることを特徴とする食品または生体材料の凍結保存方法、凍結保存における保護方法、あるいは氷結晶成長阻害方法;ならびに
(8)南極エノキ Flammulina velutipes KUAF-1 (独立行政法人産業技術総合研究所受託番号FERM P−19242)
を提供するものである。
【0010】
本発明は、1の態様において、
(a)担子菌を液体培地で培養して増殖させること、次いで、
(b)工程(a)で得られた菌体を工程(a)よりも低い温度にて液体培地で培養すること
を特徴とする、氷結晶成長阻害活性を有する培養液の製造方法を提供する。
担子菌としてはいずれの種類のものであっても使用可能であるが、低温環境下でもよく生育する担子菌が好ましく、また安全性の面からは食用担子菌(食用キノコ)、例えば、シメジ、エノキ、ヒラタケ、マッシュルーム等が好ましい。したがって、本発明において好ましい担子菌は低温でもよく生育するシメジ、エノキ、ヒラタケ、マッシュルーム等の食用担子菌(食用キノコ)であり、さらに好ましい担子菌は、南極で生息しているエノキの1種であるFlammulina velutipes KUAF-1(独立行政法人産業技術総合研究所に寄託され、平成15年2月28日に受託番号FERM P−19242を付与された)である。
【0011】
上記のごとく、本発明の氷結晶成長阻害活性を有する担子菌培養液の製造方法は、
(a)担子菌を液体培地で培養して増殖させる工程、および
(b)工程(a)で得られた菌体を工程(a)よりも低い温度にて液体培地で培養する工程
を特徴とする。
まず、工程(a)(増殖工程ともいう)において菌体の増殖に適した培養温度(増殖温度ともいう)にて菌体を増殖させてできるだけ多くの菌体を得ておき、その後の工程(b)(誘導工程ともいう)において増殖工程よりも低い培養温度(誘導温度ともいう)にて氷結晶成長阻害活性を有する物質を培養液中に大量に誘導生産させる。このような温度シフトを行なわない場合には、本発明の所定の目的を達成することができない。例えば、増殖温度のまま担子菌を培養すると氷結晶成長阻害活性が得られないか、あるいは活性が微量であり、誘導温度のまま担子菌を培養すると菌体の増殖が不十分で、やはり培養液の氷結晶成長阻害活性が不十分となり、実用的でない。増殖温度は使用担子菌の増殖に適した温度範囲であればよく、通常には15℃〜30℃、好ましくは15℃〜25℃である。担子菌Flammulina velutipes KUAF-1の場合には好ましい増殖温度は約16℃ないし約20℃、より好ましくは約18℃である。増殖温度での培養期間は菌体が十分に生育するに十分な期間とする。増殖温度での培養期間が短すぎると菌体が十分に得られず、後で氷結晶成長阻害活性を有する物質を誘導してもその量が不十分となってしまう。増殖温度での培養期間が長すぎると菌体の自己消化等による死滅などによりかえって菌体収量が減少する。増殖温度での培養期間は使用担子菌にもよるが一般的には3ないし14日、好ましくは5ないし10日であり、担子菌Flammulina velutipes KUAF-1の場合には増殖温度での好ましい培養期間は約6ないし約8日、より好ましくは約7日である。
【0012】
本発明の方法においては、増殖温度で一定期間培養を行なってできるだけ多くの菌体を得た後、培養温度を低下させて氷結晶成長阻害活性を有する物質を誘導生産させて培養液を得る。誘導温度は使用担子菌にもよるが、一般的には0℃〜15℃未満、好ましくは0℃ないし10℃である。担子菌Flammulina velutipes KUAF-1の場合には、好ましい誘導温度は約2℃ないし約6℃、より好ましくは約4℃である。誘導温度が高すぎると誘導が不十分となり、低すぎると菌の代謝活性が低下して好ましくない。誘導温度での培養期間は使用担子菌にもよるが一般的には3ないし14日、好ましくは5ないし10日であり、担子菌Flammulina velutipes KUAF-1の場合には約6ないし約8日、より好ましくは約7日である。この培養期間が長すぎると菌体から分泌される各種分解酵素の作用により氷結晶成長阻害活性を有する物質が分解されてしまう等の弊害が生じ、あまり長時間の培養は経済的にも好ましくない。またこの培養期間が短すぎると氷結晶成長阻害活性を有する物質の誘導が不十分となり好ましくない。
【0013】
上述のごとく、本発明の担子菌の液体培養は、増殖温度と、その後の増殖温度よりも低温の誘導温度で行なうことが特徴である。かかる温度シフトは2段階またはそれ以上の段階により行なうこともできるが、一般的には増殖温度と誘導温度からなる2段階で行うのが簡便であり実用上十分である。連続的に温度を低下させていくことも本発明に包含される。また、例えば、培養温度で培養して得られた菌体を、新たな培地に移して誘導温度で培養してもよい。これらの温度シフトの様式は使用担子菌の種類、培養条件等により適宜選択されうる。例えば、増殖温度と誘導温度からなる2段階の温度を採用する場合、担子菌を15〜30℃、好ましくは15℃〜25℃の増殖温度で3ないし14日、好ましくは5ないし10日液体培養し、次いで、増殖した該担子菌を0℃〜15℃未満、好ましくは0℃ないし10℃の誘導温度で3ないし14日、好ましくは5ないし10日液体培養することにより氷結晶成長阻害活性を有する培養液を得ることができる。好ましい担子菌Flammulina velutipes KUAF-1を用いる場合には、16〜20℃、より好ましくは18℃の増殖温度で6〜8日、より好ましくは7日液体培養し、次いで、増殖した担子菌Flammulina velutipes KUAF-1を2℃〜6℃未満、より好ましくは4℃の誘導温度で6〜8日、より好ましくは7日液体培養することにより氷結晶成長阻害活性を有する培養液を得ることができる。
【0014】
本発明の氷結晶成長阻害活性を有する培養液の製造方法において、担子菌を液体培地で好気的に培養する。通気量は担子菌が十分に生育できる量とするのが一般的である。好気的な培養方法は当業者に公知であり、担子菌の種類、培養規模等に応じて適宜選択、変更されうる。例えば、フラスコに液体培地を入れ、これにスラント培養物から1白金耳接種し、シェーカーにて振盪しながら行なってもよい。また、タンク培養などの大規模培養の場合には滅菌した空気をポンプにて液体培地に送り込むのが適当である。
【0015】
本発明の氷結晶成長阻害活性を有する培養液の製造方法に使用される液体培地は、担子菌を増殖させ、氷結晶成長阻害活性を有する物質を生産させることのできるものであればいかなるものであってもよいが、主に使用担子菌の種類によって選択される。菌体の増殖し易さ、得られる氷結晶成長阻害活性の高さ、培地調製のし易さおよび価格、ならびに食品や生体材料への適用等を勘案すると、天然成分を含有する毒性のない培地が適当であり、酵母エキス+グルコース(YG)培地、ペプトン+デキストロース(グルコース)(PD)培地、ペプトン+酵母エキス+デキストロース(グルコース)(PYD)培地、酵母エキス+麦芽エキス(YM)培地等が好ましい培地として挙げられる(培地組成については表1参照)。担子菌としてFlammulina velutipes KUAF-1を用いる場合、YG培地、PD培地、PYD培地が好ましい。増殖工程と誘導工程において同じ培地中で引き続き行なうのが操作の簡便性・経済性等から一般的であるが、増殖工程と誘導工程において異なる培地を用いてもよい。
【0016】
本発明は、もう1つの態様において、上記製造方法により製造された氷結晶成長阻害活性を有する担子菌の培養液を提供する。本発明の方法において、氷結晶成長阻害活性を有する物質は菌体外に分泌されるので、培養液をそのまま使用することができる。また、後述するように、本発明の方法により生産される氷結晶成長阻害活性を有する物質の分子量は10000以上なので、当業者に公知の方法、例えば、分子量カットオフ約10000の膜を用いて培養液を限外濾過する、あるいはセロハンチューブ等で透析を行なう、あるいは分子ふるいクロマトグラフィーにかける等の方法により培養液を分画し、さらに公知の方法で濃縮することもできる。培養液やこのような濃縮物を凍結乾燥して粉末製品として用いることもできる。本明細書において、「培養液」、「氷結晶成長阻害活性を有する培養液」という場合、本発明の方法により得られる氷結晶成長阻害活性を有する物質を含有する担子菌培養液ならびに上記の濃縮物や凍結乾燥製品等をいうものとする。
【0017】
本発明の方法により得られる培養液中の氷結晶成長阻害活性を有する物質は、低温で誘導されること、分子量が10000以上の画分に存在することから、タンパク質と推定される。
【0018】
本発明の担子菌培養液は、安全性の高い食用キノコを用いて得ることができるので、食品や生体材料を含む広範な対象に適用することができる。主な用途は凍結保存時の保護剤、および氷結晶成長阻害剤である。
まず、本発明の培養液の食品への適用について説明する。本明細書において「食品」という場合、生食品、加工食品を包含し、さらに食品素材・材料も包含する。本発明の培養液の適用例の1つとして、冷凍食品への適用があり、本発明の培養液を食品と接触させて食品を凍結保存して、凍結による食品のテクスチュアの破壊が抑制され、舌触りや歯触りなどの食感を含めた品質を向上させることができる。本発明の培養液は広範な食品に適用できるが、なかでもアイスクリーム等の氷菓子に応用してその食感を向上させることができる。また、本発明の培養液を食品と接触させ、保護作用を発揮させることにより、これまで凍結不可能であった食品を凍結可能なものとすることもできる。
【0019】
同様に、本発明の培養液を生体材料の凍結保存に利用することもできる。本明細書において「生体材料」という場合、細胞、組織、器官、臓器、および血液、唾液、精液、リンパ液、尿などの体液等を包含する。本発明の培養液を保護剤として用いてこれらの生体材料と接触させて凍結保存し、凍結による破壊から生体材料を保護することができる。
【0020】
また、本発明の培養液を化粧品に添加してもよい。
さらなる用途として、本発明の培養液を機器等の結露防止用のコーティング剤として用いることもでき、土壌に散布して霜を防止することもできる。
【0021】
本発明の培養液はそのまま用いてもよく、担体、賦形剤あるいは希釈剤等と混合して組成物の形態として使用してもよい。また、担子菌培養液をそのまま凍結乾燥して用いてもよく、凍結乾燥品を他の公知の担体、賦形剤等混合して組成物としてもよい。さらに本発明の培養液およびその凍結乾燥品を他の公知の氷結晶成長阻害物質と混合して使用してもよい。当業者は使用目的・用途に応じて種々の組成物を調合することができる。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、本発明の担子菌由来の培養液を対象に接触させることを特徴とする対象の凍結保存方法、対象の凍結保存における保護方法、あるいは対象の氷結晶成長阻害方法を提供する。好ましい対象としては、食品および生体材料が挙げられる。
なお、本明細書において、培養液と「接触」させるとは、培養液中の氷結晶成長阻害活性を有する物質の作用が対象に及ぼされるように培養液を対象に密着させることをいう。例えば、本発明の培養液を食品や生体材料にまぶしてもよく、均質になるまで食品や生体材料中に混合、分散させてもよくあるいは練り込んでもよい。食品や生体材料が液体の場合にはこれに溶解させることもできる。
【0023】
さらに本発明は、本発明の担子菌培養液の製造に適した担子菌Flammulina velutipes KUAF-1(独立行政法人産業技術総合研究所に寄託され、平成15年2月28日に受託番号FERM P−19242を付与された)も提供する。
【0024】
【実施例】
次に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【0025】
実施例:南極エノキ Flammulina Velutipes KUAF-1 の培養液の製造
I.実験方法
実験に用いた一般的方法につき説明する。
1.培養方法
PDA寒天培地(pH 6.0)に保存していた南極エノキ(Flammulina velutipes KUAF-1)の菌糸体を1白金耳取り、50 ml容三角フラスコに入った各種培地10 mlに植菌し、18℃、120rpmで回転培養を行なった。なお、今回使用した各種培地は、表1にまとめた。
18℃で1週間培養後、同一培地にてそのまま4℃に温度を下げて1週間培養を行なった。
【0026】
【表1】
【0027】
2.各種測定法
a)氷結晶の形態観察
温度制御が可能な装置LK−600PM(リンカム社製)の付いた位相差顕微鏡BX50(オリンパス社製)のステージ上のガラスシャーレを20℃に保ち、その上にサンプル1μL添加し、100℃/分の速度で、−40℃まで冷却した。同速度で−5℃まで加温し、それから5℃/分の速度で温度を徐々に上げて氷の結晶を単結晶にした。それから、温度を1℃/分の速度で低下させ、氷を再結晶化し、その形態を観察した。
【0028】
b)熱ヒステレシス測定(TH;℃)
氷結晶の形態観察と同様に、単結晶にした氷結晶を1℃/分の速度で低下させる時に、氷結晶が成長し始める時間を測定した。下記の式でTHを算出した。
TH=60−1(℃/s)×測定時間(s)
なお、a)およびb)とも、培養上澄み液を分子量10000でカットできるセントリカットで濃縮後、タンパク質量を100μg/ml(CBB法、ピアス社製キットを用いて測定)に調製後測定を行った。
【0029】
II.結果
各種培地にてFlammulina velutipes KUAF-1を18℃で1週間培養し、次いで、4℃で1週間培養して得た培養液を用いて、氷結晶形態を調べ、熱ヒステレシス(TH)測定を行なった結果を図1に示す。氷結晶の形態に関しては、いずれの培地を用いた場合にも、18℃で1週間培養しただけでは氷結晶の形態変化は見られなかったが(図1中欄)、さらに4℃で1週間培養すると、YG培地、PDY培地およびPD培地の培養液の場合には氷結晶の形態が岩型になり、氷結晶成長阻害活性を有する物質が氷結晶に結合することにより形態を変化させ、成長を阻害したことが示唆された(図1右欄)。YM培地の場合にも若干の氷結晶の形態変化が見られた(図1右欄)。さらに、これらの培養液を用いてTHの測定を行なった結果も図1に示す。18℃で1週間培養しただけではいずれの培養液に関してもTHの上昇はわずかで(図1中欄)、氷結晶成長阻害活性を有する物質の生産が無いかあるいはごく微量であることが示された。その後4℃で1週間培養した場合には、いずれの培養液を用いた場合にもTHの上昇が見られ(図1右欄)、特にYG培地、PDY培地、PD培地およびYM培地の培養液の場合に高いTH値が示され、氷結晶成長阻害活性を有する物質が多く生産されたことが示された。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、氷結晶成長阻害活性を有する担子菌培養液を年中しかも大量に製造することができ、工業化が容易であり、安全性の高い食用担子菌を用いることができるため、安全性や毒性においても問題がない。本発明の培養液は食品や生体材料の氷結晶成長阻害等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 各種培地にてFlammulina velutipes KUAF-1を18℃で1週間、次いで、4℃で1週間培養し、得られた培養液を用いて氷結晶の形態を観察した結果を示す。左欄は培地のみのコントロールであり、中欄は18℃で1週間培養後の結果を示し、右欄は18℃で1週間培養後、4℃で1週間培養した場合の結果を示す。氷結晶形態の下に、その培養液を用いた場合のTHの値を示す。
Claims (8)
- 下記工程:
(a)南極エノキFlammulina velutipes KUAF-1(独立行政法人産業技術総合研究所受託番号FERM P−19242)を15℃ないし30℃にて液体培地で培養して増殖させること、次いで
(b)工程(a)で得られた菌体を0℃ないし15℃未満にて液体培地で培養すること
を特徴とする、氷結晶成長阻害活性を有する培養液の製造方法。 - 工程(a)を15℃ないし25℃で行ない、工程(b)を0℃ないし10℃で行なうことを特徴とする請求項1記載の方法。
- 液体培地が酵母エキスとグルコースを含むYG培地、ペプトンと酵母エキスとデキストロース(グルコース)を含むPDY培地およびペプトンとデキストロース(グルコース)を含むPD培地からなる群より選択される請求項1または2記載の方法。
- 工程(a)を16〜20℃で6〜8日間行ない、工程(b)を2〜6℃で6〜8日間行ない、液体培地が酵母エキスとグルコースを含むYG培地、ペプトンと酵母エキスとデキストロース(グルコース)を含むPDY培地およびペプトンとデキストロース(グルコース)を含むPD培地からなる群より選択されるものである、請求項1記載の方法。
- 請求項1ないし4のいずれか1項記載の方法により得られる培養液。
- 食品または生体材料の凍結保存における保護剤として使用される請求項5記載の培養液。
- 請求項6記載の培養液を食品または生体材料に接触させることを特徴とする食品または生体材料の凍結保存方法、凍結保存における保護方法、あるいは氷結晶成長阻害方法。
- 南極エノキFlammulina velutipes KUAF-1(独立行政法人産業技術総合研究所受託番号FERM P−19242)。
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