JP3972526B2 - スチレン系樹脂組成物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はグラフト化されたゴム質重合体がスチレン系マトリックス樹脂中に分散したゴム変性スチレン系樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは耐衝撃性、とりわけ面衝撃強度に著しく優れ、しかも光沢及び剛性に優れたスチレン系樹脂組成物とその製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
HIPSのようなゴム変性スチレン系樹脂は、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂として現在広く用いられている。この様なHIPSに代表されるゴム変性スチレン系樹脂は、一般に分散ゴム粒子径が1μm以上と大きく、その結果成形品の光沢に劣るという欠点を有していた。
そこで、HIPSの光沢と耐衝撃性とを兼備する樹脂の開発が進められており、例えば、特開平5−1122号公報には、HIPS中のグラフトゴム粒子を粒径0.5〜1.0ミクロンまで小さくし、光沢と耐衝撃性とを兼備させる技術が開示されている。
また、特開平4−180907号公報には、透明性、剛性及び耐衝撃性に優れた樹脂組成物として、ゴム成分にスチレンとメタクリル酸メチルとをグラフト重合させる技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平5−1122号公報記載の技術においては、ゴム粒子径を小さくすることにより光沢はある程度向上するものの、小粒径化に伴う衝撃強度の低下が著しいため、ゴム粒子径を小さくし、かつ衝撃強度の高い製品を得るためには、製品中のゴム含量を一般のHIPSよりも増やさなければならず、その結果、スチレン系樹脂の特徴である剛性が低下するものであった。また、この様に小粒径のゴム成分を多量に使用すると、衝撃強度に関し、ノッチ付きのアイゾット衝撃強度は高いにもかかわらず、実用的に重要な面衝撃強度は低いという課題をも有していた。
【0004】
また、特開平4−180907号公報記載の樹脂組成物は、透明性を有するために光沢は良好なものとなるものの、透明性を持たせるために粒子径は一層小さくなり、その結果、耐衝撃性が充分でなく用途が制限されるものであった。
本発明が解決しようとする課題は、光沢、剛性および面衝撃強度に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、この様な状況に鑑み鋭意研究した結果、特定の二種のゴム成分を溶解した混合ゴム質重合体に、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとをグラフト共重合させ、分散ゴム粒子の体積基準のメジアン径を小さくして架橋度を高めることにより優れた成形品光沢を有しながらも剛性や実用衝撃強度を著しく高められることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、スチレン系単量体とアクリル系単量体との共重合体(A)をマトリックス相とし、かつ、ジエン系ゴム質重合体にスチレン系単量体とアクリル系単量体とがグラフト共重合したゴム粒子(B)を分散粒子とするスチレン系樹脂組成物において、共重合体(A)が、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを、重量基準で前者/後者=95/5〜50/50となる割合で共重合したものであって、ジエン系ゴム質重合体がジエン系単量体の単独重合体(b1)又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)とを含有し、重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40の範囲で用い、ゴム粒子(B)が、分散媒としてDMFを用い、散乱式粒度分布測定装置で測定される組成物中の体積基準のメジアン径が0.5〜0.9μmの範囲であって、かつ組成物の[25℃でのトルエン不溶分含有率/25℃でのトルエン膨潤指数]の値が1.2〜2.5(重量%)なる範囲のものであることを特徴とするスチレン系樹脂組成物、及び、該スチレン系樹脂組成物の製造方法に関する。
【0007】
本発明においてマトリックス相を形成するスチレン系単量体とアクリル系単量体との共重合体(A)は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを、重量基準で前者/後者=95/5〜50/50となる割合で共重合したものである。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが50重量%を越える場合には、組成物の流動性が低下し、金型面の転写性が悪くなることから成形品光沢が著しく低下する。また、5重量%未満の場合には、成形品の衝撃強度や剛性が低下する。
【0008】
また、前記特開平4−180907号公報に記載の樹脂組成物の如く、マトリックス中のアクリル酸アルキルエステル量が40〜70重量%といったアクリル成分量の多いものは、成形品を再度溶融後ポリスチレンなどに配合して再利用すること、即ち、リサイクルができないといった実用上大きな欠点を有する他、溶剤に対して侵食を受け易く、例えば、成形品に印刷を施した場合に、インキの溶媒の侵食を受けて割れが生じやすい、という所謂、耐薬品性に劣るという欠点を有していた。
【0009】
従って、成形品の光沢、衝撃強度及び剛性という本発明の性能を保持し乍ら、回収品をポリスチレンへ配合するようなリサイクル使用が可能になる点、また、耐薬品性が良好となる点から共重合体(A)は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを、重量基準で前者/後者=95/5〜81/19となる割合で共重合したものが好ましい。
【0010】
ここで、スチレン系単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、ターシャリーブチルスチレン、o−ブロムスチレン、m−ブロムスチレン、p−ブロムスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられ、なかでもスチレンが好ましい。
【0011】
また、(メタ)アクリル酸アルキルは、本発明のスチレン系樹脂組成物に面衝撃強度と、剛性とを付与する必須成分であり、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−iso−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられるが、特にコストと、面衝撃強度及び剛性等の性能の点でメタアクリル酸メチルが好ましい。また、これらの(メタ)アクリル酸アルキルはそれぞれ単独で使用してもよいし、また、2種以上を併用してもよいが、特に光沢の点からメタアクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸−n−ブチルとを併用することが好ましい。この際、(メタ)アクリル酸−n−ブチルの使用量は、特に制限されないが、原料単量体全重量100部に対して、1〜8重量部、なかでも2〜5重量部であることが好ましい。
【0012】
また、マトリックスを形成する共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で更にその他の共重合可能な単量体としては、例えば(メタ)アクリロニトリル等のビニル−シアン化合物類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸等の重合性不飽和脂肪酸;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−p−ブロモフェニルマレイミド、N−o−クロルフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等に代表される不飽和カルボン酸無水物類;アリルアミン、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸−アミノプロピル等のアミノ基含有不飽和化合物類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等アクリルアミド系化合物が挙げられる。
このその他の共重合可能な単量体の使用割合は特に制限されるものではないが、共重合体(A)を形成する全単量体成分中5重量%以下となる割合であることが好ましい。
【0013】
次に、前記マトリックス中に分散するゴム粒子(B)は、ジエン系ゴム質重合体にスチレン系単量体とアクリル系単量体とがグラフト共重合したグラフト共重合体であり、散乱式粒度分布測定装置で測定される組成物中の体積基準のメジアン径が0.5〜0.9μmの範囲であることを特徴としており、また、組成物全体として[25℃でのトルエン不溶分含有率/25℃でのトルエン膨潤指数]の値が1.2〜2.5(重量%)なる範囲にあることを特徴としている。
【0014】
即ち、散乱式粒度分布測定装置で測定されるゴム粒子(B)の体積基準のメジアン径が0.5〜0.9μmの範囲にあることにより、成形品光沢が非常に優れたものとなる。また、通常、この様に分散粒子径が小さく成る場合は、グラフトポリマーの架橋体含量が低下し、組成物中の[25℃でのトルエン不溶分含有率/25℃でのトルエン膨潤指数]の値は1.0(重量%)未満となるが、本発明においては、この値が1.2〜2.5(重量%)なる範囲となることにより成形品の剛性や衝撃強度、とりわけ面衝撃強度が飛躍的に向上する。
【0015】
ここで、「25℃でのトルエン不溶分含有率」とは、試料1gを精秤し、トルエン100mlに25℃で24時間かけて溶解させた後、膨潤した不溶分を取り出し乾燥、得られた乾燥樹脂の重量を前記試料に対する百分率で示した値であり、本発明においては13〜20重量%であることが好ましい。
【0016】
また、「25℃でのトルエン膨潤指数」とは、試料1gを精秤し、トルエン100mlに25℃で24時間かけて溶解させた後、膨潤した不溶分を取り出し、この不溶分の重量測定、次いで、この不溶分を乾燥し、不溶分重量を乾燥樹脂重量で割った値である。
【0017】
本発明においては、前記した通り組成物中の[25℃でのトルエン不溶分含有率/25℃でのトルエン膨潤指数]の値が、1.2〜2.5(重量%)なる範囲にあるが、1.2(重量%)を下回る場合には、剛性、衝撃強度は低いものとなり、また、2.5(重量%)を上回る場合には、剛性は良好となるものの面衝撃強度に劣ったものとなる。本発明においては、更に面衝撃強度及びアイゾット衝撃強度がより一層良好となる点から1.2〜2.0(重量%)なる範囲であることが好ましい。
【0018】
また、分散粒子たるゴム粒子(B)は、ジエン系ゴム質重合体にスチレン系単量体とアクリル系単量体とがグラフト共重合したものであり、ここでジエン系ゴム質重合体は、ジエン系単量体の単独重合体(b1)、又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)とを、重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40の範囲で併用してグラフト共重合に供する。
【0019】
本発明で用いるゴム質重合体(b1)は、既述の通りジエン系単量体の単独重合体であり、例えばポリブタジエンがあり、ローシスポリブタジエンやハイシスポリブタジエンが挙げられる。また、スチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)としては、ブロック結合でもランダム結合でも良い。ここで、スチレン系単量体とジエン系単量体との共重合ゴムを構成するスチレン系単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、ターシャリーブチルスチレン、o−ブロムスチレン、m−ブロムスチレン、p−ブロムスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン等が挙げられるが、中でもスチレンがジエン系モノマーとの反応性に優れる点から好ましい。
【0020】
一方、上記スチレン系単量体と反応させるジエン系単量体としては、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられるが、中でもブタジエンがスチレン系モノマーとの反応性に優れる点から好ましい。
【0021】
従って、共重合体(b2)としては、スチレン構造単位を重量基準で15%以下の範囲で含有するスチレン−ブタジエン共重合ゴムが好ましい。
【0022】
上記重合体(b1)又は共重合体(b2)は、ジエン系単量体に基づく不飽和結合のうちの1,2−ビニル結合の割合が8〜35重量%のものが、スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分含有率が上昇し、更に、製造時の高温下での架橋の進行を抑制でき、グラフト化率と架橋の程度とのバランスが良好となってゴム弾性が向上するため、好ましい。
【0023】
また、重合体(b1)又は共重合体(b2)は、5重量%スチレン溶液粘度が30〜50センチポイズのものが耐衝撃性の向上効果が大きく、かつ製造に際してゴム粒子径のコントロールが容易な点で好ましく、特に25℃での5重量%スチレン溶液粘度が30〜45センチポイズで、かつ100℃でのLローター使用によるムーニー粘度が20〜80のものが好ましい。
【0024】
次に、上記重合体(b1)又は共重合体(b2)と併用する、共重合体(b3)とはスチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体である。共重合体の結合様式はブロック結合かテーパードブロック結合であることが好ましい。
【0025】
上記共重合体(b3)は、ジエン系単量体に基づく不飽和結合のうちの1,2−ビニル結合の割合が8〜35重量%のものが、スチレン系樹脂組成物のトルエン不溶分含有率が上昇し、更に、製造時の高温下での架橋の進行を抑制でき、グラフト化率と架橋の程度とのバランスが良好となってゴム弾性が向上するために耐衝撃性が著しく向上する点から好ましい。この場合、1,2−ビニル結合の残りはシスおよびトランス結合を形成している。
【0026】
更に、本発明で用いる共重合体(b3)は、5重量%スチレン溶液粘度が5〜50センチポイズのものが耐衝撃性の向上効果が大きく、かつ製造に際してゴム粒子径のコントロールが容易な点で好ましく、特に25℃での5重量%スチレン溶液粘度が8〜40センチポイズで、かつ100℃でのLローター使用によるムーニー粘度が20〜80のものが好ましい。
【0027】
以上、詳述したゴム質重合体(b1)又は共重合体(b2)及び共重合体(b3)は、スチレン系単量体(a1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に溶解させた後、これらをグラフト共重合することによりゴム粒子(B)が形成される。
【0028】
この、マトリックス中に存在するゴム粒子(B)の形状は、特に制限されるものではないが、ゴム粒子の内部構造は所謂「サラミ構造」の形態をとることが衝撃強度、特に面衝撃強度の点から好ましい。
【0029】
更に具体的には、組成物中のゴム粒子(B)の分散状態としては、サラミ構造を有するゴム粒子(B1)とコアシェル構造を有するゴム粒子(B2)が共存しており、かつ、透過型電子顕微鏡写真(10000倍)で粒子1000個を観察した場合のゴム粒子(B1)とゴム粒子(B2)との存在比が(B1)/(B2)=70/30〜95/5なる割合であることが光沢と面衝撃強度とのバランスが良好となり好ましい。即ち、本発明においては、粒径が小さいにも係わらず、大部分のゴム粒子がサラミ構造を有することから光沢をおとさず面衝撃強度に優れた成形品が得られる。また、サラミ構造を有するゴム粒子(B1)の他のゴム粒子(B)がコアシェル構造を有するゴム粒子(B2)であることから成形品の光沢はより優れたものとなる。
【0030】
また、組成物中のゴム粒子(B)は、前記した通り、散乱式粒度分布測定装置で測定される組成物中の体積基準のメジアン径が0.5〜0.9μmの範囲であるが、この際粒度分布は、1ピークを示すことが光沢と面衝撃強度の点から好ましい。即ち、本発明では、重合体(b1)又は共重合体(b2)及び共重合体(b3)は、スチレン系単量体(a1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に溶解させた後、これらを共重合させることにより、ゴム質を2種併用しても得られるゴム粒子(B)の粒度分布は1ピークとなり、それにより光沢と剛性及び面衝撃強度とのバランスをとることができる。
【0031】
また、本発明におけるゴム粒子(B)は、グラフト共重合の原料成分として、上記各成分のみならず、その他の共重合可能な単量体も本発明の効果を損なわない範囲で併用し得る。
【0032】
ここで用いるその他の共重合可能な単量体としては、例えば(メタ)アクリロニトリル等のビニル−シアン化合物類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、桂皮酸等の重合性不飽和脂肪酸;N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−オクチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−p−ブロモフェニルマレイミド、N−o−クロルフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等に代表される不飽和カルボン酸無水物類;アリルアミン、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸−アミノプロピル等のアミノ基含有不飽和化合物類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等アクリルアミド系化合物が挙げられる。
【0033】
本発明の組成物を製造する方法としては、既述の通り、ジエン系ゴム質重合体、スチレン系単量体(a1)、アクリル系単量体(a2)、及び必要に応じてその他の共重合可能なモノマーとを塊状−懸濁重合、溶液重合又は塊状重合によりグラフト共重合させればよいが、なかでも連続塊状重合が生産性とコスト面から好ましい。
【0034】
また、重合体(b1)又は共重合体(b2)及び共重合体(b3)を、スチレン系単量体(a1)及びアクリル系単量体(a2)に相溶化させ、次いで、これらをグラフト共重合させる具体的方法としては、以下に詳述する本発明の製造方法によることが好ましい。
【0035】
即ち、ジエン系単量体の単独重合体(b1)又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、
スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)と、
スチレン系単量体(a1)と、
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)との混合溶液を、
可動部分のない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器を組み込んでなる連続塊状重合ライン内で連続塊状重合することが、ゴム粒子(B)の粒径を均一にかつ小さくできる点から好ましい。
【0036】
ここで、ゴム質重合体(b1)又は共重合体(b2)と、共重合体(b3)との使用比率は、重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40であることが、最終的に得られるゴム粒子(B)の粒子径と形状の調整が容易となる点、即ち、ゴム粒子(B)中のサラミ構造体含有率を高めながらも平均粒子径を小さくでき、結果、本発明の目的とする光沢と剛性及び面衝撃強度を兼備させることができる。また、重合体(b1)又は共重合体(b2)と、共重合体(b3)との合計重量中のスチレン含有量は、8〜20重量%となる範囲であることが光沢と面衝撃強度とのバランスが良好となる点から好ましい。
【0037】
重合体(b1)又は共重合体(b2)と、共重合体(b3)とを、スチレン系単量体(a1)及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)に相溶化させた後、グラフト共重合させる際の各成分の使用割合は、特に限定されるものではないが、通常(b’)/[(a1)+(a2)]の重量比が3/97〜16/84であり、また、スチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)とを、重量基準で(a1)/(a2)=95/5〜50/50、好ましくは95/5〜81/19となる割合で使用することが、本発明の効果が顕著なものとなり好ましい。
【0038】
本発明の製造方法を更に詳述すれば、重合体(b1)又は共重合体(b2)と、共重合体(b3)と、スチレン系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)とを、上記使用割合に従って、各原料成分を溶解させた後、1個以上の攪拌式反応器で重合させた後、静的ミキシングエレメントを有する管状反応器に導入することが、得られる組成物の均一性や、グラフトゴム粒子の粒径を前記した範囲に調整し易い点から好ましい。
【0039】
また、静的ミキシングエレメントを有する管状反応器、即ち、可動部分のない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器を組み込んでなる連続塊状重合ラインとしては、
a.撹拌式反応器と、
b.撹拌式反応器から続き可動部分の全くない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている1個以上の管状反応器からなる初期重合ラインと、
c.初期重合ラインから続き可動部分の全くない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている1個以上の管状反応器からなる主重合ラインと、
d.初期重合ラインと主重合ラインとの間で分枝して初期重合ライン内に戻る還流ライン
とによって構成される重合ラインであることが好ましい。
【0040】
以下に、この連続塊状重合ラインを用いてのスチレン系樹脂組成物の製法の一例を図1により説明する。
【0041】
図1は、静的ミキシングエレメントを有する管状反応器を組み込んだ連続塊状重合ラインの一例を示す工程図である。
【0042】
プランジャーポンプ(1)によって供給される重合体(b1)又は共重合体(b2)と、共重合体(b3)と、スチレン系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)とを必須成分として含む混合溶液は、まず攪拌式反応器(2)へ送り、攪拌下で初期グラフト重合させた後、ギアポンプ(3)により、静的ミキシングエレメントを有する管状反応器(4),(5)および(6)とギアポンプ(7)とを有する循環重合ライン(I)に送る。
【0043】
尚、攪拌式反応器(2)での初期グラフト重合と循環重合ライン(I)と組み合わせることで、ゴム粒子に余分な剪断が加わらずゴム粒子のより効率的な微細化が可能となり、重合工程でのポリマー組成を均一化出来る点で好ましい。この場合の初期グラフト重合は、スチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)の合計の重合転化率が、該反応器(2)の出口において10〜28重量%、好ましくは14〜24重量%となる様に実施される。また攪拌式反応器(2)としては、例えば攪拌式槽型反応器、攪拌式塔型反応器等が挙げられ、攪拌翼としては、例えばアンカー型、タービン型、スクリュー型、ダブルヘリカル型等の攪拌翼が挙げられる。
【0044】
本発明では、反応器での上記混合溶液の粘性を低下させる為に溶剤を使用してもよく、その使用量は原料モノマーの合計100重量部に対して5〜20重量部である。溶剤の種類としては、通常、塊状重合法で使用されているトルエン、エチルベンゼン、キシレン等が適している。
【0045】
また、本発明では、上記混合溶液中に共重合体(A)の分子量調節のために連鎖移動剤を添加すると好ましい。該連鎖移動剤の添加量は、通常原料モノマーの合計に100重量部に対して0.005〜0.5重量部の範囲である。上記の様に動的攪拌下に初期グラフト重合された混合溶液は、次いで循環重合ライン(I)内を循環しながらグラフト重合されると共に、その一部は連続的に静的ミキシングエレメントを有する管状反応器(8)、(9)および(10)が直列に組み込まれた非循環重合ライン(II)に送られる。
【0046】
循環重合ライン(I)内での混合溶液中のゴム粒子は、該循環重合ライン(I)内を循環しながら静的に混合されて安定化し、粒子径も固定化してくる。この場合、該循環重合ライン(I)での混合溶液の還流比(R)と(a1)及び(a2)の合計の重合転化率が重要な因子となる。還流比Rは、非循環重合ライン(II)に流出せずに循環重合ライン(I)内を還流する混合溶液の流量をF1 (リットル /時間)とし、循環重合ライン(I)から非循環重合ライン(II)に流出する混合溶液の流量F2 (リットル/時間)とした場合、通常R=F1 /F2 が3〜15の範囲であり、なかでも管状反応器での圧力損失が小さく、生成するゴム質重合体粒子が安定で、粒径を小さくすることができ、かつゴム変性共重合樹脂中のスチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸アルキル(a2)の含有比率を一定に保つことができる点でR=5〜10の範囲が特に好ましい。
【0047】
また、該循環重合ライン(I)でのグラフト重合は、該循環重合ライン(I)出口での(a1)と(a2)の合計の重合転化率が、通常35〜55重量%、好ましくは40〜50重量%になる様に重合させる。重合温度としては120〜135℃が適している。
【0048】
循環重合ライン(I)でグラフト重合された混合溶液は、次いで非循環重合ライン(II)に供給され、通常140〜160℃の重合温度でスチレン系単量体(a1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)の合計の転化率が60〜85重量%となるまで連続的にグラフト重合される。
【0049】
次に、この混合溶液はキアポンプ(11)により予熱器、次いで脱揮発槽に送られ、減圧下にて未反応単量体および溶剤を除去した後、ペレット化することにより目的とするスチレン系樹脂組成物が得られる。この際、予熱器および脱揮発槽内での転化率の上昇が7重量%以下になる条件で予熱および脱揮発を行うと好ましい。
【0050】
本発明で用いる静的ミキシングエレメントを有する管状反応器の内部に固定されている複数のミキシングエレメントとしては、例えば管内に流入した重合液の流れの分割と流れ方向を変え、分割と合流を繰り返すことにより重合液を混合するものが挙げられる。このような管状反応器としては、例えば、SMX型、SMR型のスルザー式の管状ミキサー、ケニックス式のスタティックミキサー、東レ式の管状ミキサー等が挙げられるが、特にSMX型、SMR型のスルザー式の管状ミキサーが好ましい。
【0051】
循環重合ライン(I)や非循環重合ライン(II)に組み込まれるこれらの管状反応器の数は、上記の如き管状反応器の場合、その長さやミキシングエレメントの構造等による異なるので特に限定されないが、ミキシングエレメントを4個以上有する該管状反応器を4〜15個、好ましくは6〜10個組み合せて用いる。このうち循環重合ライン(I)内に組み込む該管状反応器の数は、通常1〜10個、好ましくは2〜6個である。
【0052】
本発明で原料として用いる混合溶液には、必要に応じて重合開始剤として分解した際にフリーラジカルを放出する有機過酸化物を添加すると、比較的低い温度でのグラフト化と反応の促進が行えるので好ましい。その添加量は原料モノマーの合計100重量部に対して0.005〜0.04重量部の範囲である。
【0053】
ここで用いる有機過酸化物としては、半減期が10時間になる温度が75〜170℃のものが好ましく、その具体例としては 1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、1,1-ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ−t−ブチルパーオキシ−2−メチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ゛−t−ブチルパ−オキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ジ−t−ブチルパーオキシオクタン、n−ブチル−4,4-ジ−t−ブチルパーオキシバレレート、2,2-ジ−t−ブチルパーオキシブタン等のパーオキシケタール類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキメタトルエ−ト、ジ−t−ブチルジパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル−2,5-ジベンゾイルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジークミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等のパーオキシエステル類等が挙げられ、単独あるいは2種以上組み合せて用いられる。
【0054】
この様にして得られるスチレン系樹脂組成物は、既述の通り、25℃でのトルエン不溶分含有率が13〜20重量%、25℃でのトルエン膨潤指数が10〜15であることが好ましく、また、その比率[25℃でのトルエン不溶分含有率/25℃でのトルエン膨潤指数]の値は1.2〜2.5である。
【0055】
また、該樹脂組成物中のマトリックス相である(a1)と(a2)との共重合体は、重量平均分子量(Mw)が14万〜20万で、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnが1.8〜2.5のものが好ましく、なかでも重量平均分子量(Mw)が16〜18万のもの耐衝撃性、剛性及び耐薬品性に優れる点から特に好ましい。
【0056】
本発明の組成物には、上記した共重合体(A)とゴム粒子(B)に加え、更に、シリコーンオイルを併用することにより、成形品の光沢を一層向上させることができる。シリコーンオイルとしては、特に限定されるものではないが、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等が挙げられる。該シリコーンオイルを配合する方法としては、特に制限されないが、重合体(b1)又は共重合体(b2)と、共重合体(b3)と、スチレン系単量体(a1)と、アクリル酸アルキルエステル(a2)とを含有する原料混合溶液に溶解せしめ、詳述したグラフト共重合を行う方法が好ましい。
【0057】
また、剛性並びに面衝撃性を損なわない範囲で、共重合体(A)とゴム粒子(B)に加え、更に、スチレン構造単位を重量基準で30〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との熱可塑性ブロック共重合体(C)を含有させることにより、特に共押出しシートやフィルム等の用途における衝撃強度を向上させることができる。この共重合体(C)を構成する、スチレン系単量体およびジエン系単量体は、前記した(b1)〜(b3)にて例示したものが何れも使用できる。配合方法としては、前記シリコーンオイルの場合と同様、重合原料の混合溶液に溶解せしめ、前記重合を行う方法、又は共重合体(A)とゴム粒子(B)との組成物を製造した後、押出機で溶融混練する方法があるが、後者の押出機で溶融混練する方法が、共重合体(C)の配合量の調節が容易である点から好ましい。
【0058】
また、本発明においては、共重合体(A)とゴム粒子(B)に加え、更に、イソパラフィン系重合体を併用させることにより、可塑性を付与すると共に、成形品の剛性及び耐油性を高められる他、成形品の光沢を飛躍的に向上させることができる。
【0059】
イソパラフィン系重合体は、特に限定されるものではないが、イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン、イソヘプテン、イソオクテン等に代表されるイソオレフィンを主たる成分とする原料成分の重合体、これらイソオレフィンの2種上の共重合体、これらイソオレフィンとその他のオレフィンとの共重合体又はその変性物等が挙げられ、その具体的構造は、イソアルキレン単位を繰り返し単位とする構造を主構造とするもの、イソアルキレンと1−アルケンと2−アルケンとの共重合体、又はイソアルキレン単位を繰り返し単位とする構造のマレイン酸変性体若しくは5硫化燐変性体等が挙げられる。
【0060】
これらのイソオレフィン系重合体の中でも特に耐油性、可塑化の効果の点からイソブチレンと1−ブテンと2−ブテンとの共重合体、又はポリイソブチレンが好ましい。また、前者の共重合においては、通常、原料イソブチレン中に、イソブチレンの他、1−ブテン、2−ブテン等のモノマーをも含有する為、これらを重合して得られる液状で粘性のある液体として用いてもよい。
【0061】
また、得られるイソパラフィン系重合体は、分子内の不飽和結合を水素添加しないもの、又は水素添加したものでも良い。また、イソオレフィンの重合体の変性物を得るには、当該イソオレフィンを、マレイン酸、5硫化燐等の不飽和結合含有単量体と共に重合させるか、イソオレフィンを重合させた後、ポリマー中に存在する不飽和結合に、前記不飽和結合単量体を反応させればよい。
【0062】
イソパラフィン系重合体の配合方法は、他の配合成分と同様、重合原料溶液中に溶解させて、重合を行う方法が好ましい。
【0063】
これらのイソパラフィン系重合体は、特に分子量等については制限されるものではないが、通常、BM型粘度計による粘度が20〜10,000cps(38℃)であることが好ましく、なかでも50〜3,000cpsの範囲が樹脂(A)と混合する時の混合分散性、或いは(a1)〜(a3)の各成分との相溶性に優れ、更に衝撃強度、成形品の光沢や伸びの点からも好ましい。また、同様の理由から平均分子量200〜3,000であることが好ましい。
【0064】
さらに、本発明の組成物には、必要に応じて、ミネラルオイル等の可塑剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、長鎖脂肪酸、そのエステルもしくはその金属塩等の離型剤、などの如き公知の添加剤を併用しても良い。これらの配合方法は、前記した各配合成分と同様、重合原料溶液中に溶解させて、重合を行う方法が好ましい。
【0065】
このようにして得られる本発明のスチレン系樹脂組成物は、さらに通常用いられる酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、補強材等を配合することが出来る。
【0066】
具体例としては、例えばミネラルオイル、エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、有機ポリシロキサン、高級脂肪酸及びその金属塩、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ガラス繊維等が挙げられ、それぞれ単独又は併用して用いることが出来る。また、耐候性向上用に通常用いられている添加剤の具体例としては、チヌビンP、チヌビン327(日本チバガイギー(株))などに代表されるベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、スミライザ−GMまたはGS(住友化学工業(株))、イルガノックス1076(日本チバガイギー(株))に代表されるヒンダードフェノール系の酸化防止剤、サノールLSー770に代表されるヒンダードアミン系の光安定剤、トリスノニルフェニルホスファイトに代表されるリン系酸化防止剤、ジミリスチルチオジプロピオネートに代表される有機イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
【0067】
また、本発明のスチレン系樹脂組成物は、射出成形、シートやフィルム成形品に適した単軸押出成形、二軸延伸押出成形、インフレ−ション押出成形、異形押出成形、真空成形、圧空成形、吹込成形などの成形方法により各種成形品にして使用することが出来る。その用途は広範なものに及び、例えば冷蔵庫の内装材料、テレビやエヤコンのハウジング、クリーナーボックス、などの家庭電気・器具類の部品;複写機、プリンター、ファクシミリ、パソコンなどのOA機器の各種部品;食品容器;医療器具類の部品;食品のシート包装容器等として用いられる。
【0068】
更に本発明のスチレン系樹脂組成物には、必要に応じてポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂、ゴム変性スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン−無水マレイン酸共重合樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂を適宜添加することもできる。これらのなかでも、特にポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂、ゴム変性スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂が、本発明のスチレン系樹脂組成物との相溶性に優れる点から好ましい。
【0069】
また、本発明のスチレン系樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂、ゴム変性スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂に対する相溶性が良好である為、本発明のスチレン系樹脂組成物の成形加工時に発生するランナー部分やスケルトン部分のリサイクルに好適である。更に、その他の用途として、ゴム変性ポリスチレン樹脂及びゴム変性スチレン−メタクリル酸メチル共重合樹脂のブレンド物に本発明の樹脂組成物を添加することで相溶化剤として働き、ブレンド物の物性低下を防止することもできる。
【0070】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。ただし、例中の部はすべて重量部を、また%はすべて重量%を示す。
【0071】
尚、前記ゴム質重合体の平均粒子径、分散ゴム粒子の形状、トルエン不溶分含有率とトルエンによる膨潤指数の測定方法、及び物性評価方法を以下に記す。
【0072】
1.樹脂中のゴム質重合体の平均粒子径
分散媒としてDMFを用い、散乱式粒度分布測定装置で測定される組成物中の体積基準のメジアン径を測定した。
2.樹脂中のゴム質重合体の形状
樹脂の超薄切片法による透過型電子顕微鏡写真(10000倍)をとり、写真中の粒子1000個について分散ゴムの形状を観察し、サラミ構造のものの数とコアシェル構造のものの数とを求めた。
【0073】
3.トルエン不溶分含有率およびトルエンによる膨潤指数
スチレン系樹脂組成物1gを精秤し、トルエン100 ml に25℃で24時間かけて溶解させた後、溶解液を遠心管に移し、10℃以下、12000rpm で30分間遠心分離を行ない、上澄液をデカンテーションにより除いた後、トルエンで膨潤した不溶分の重さを測定する。次に60℃の真空乾燥器で24時間乾燥させ、得られたトルエン不溶分の重さを測定し、以下の式によりトルエン不溶分含有率を算出する。
【0074】
【式2】
トルエン不溶分含有率=[乾燥後のトルエン不溶分の重さ/スチレン系樹脂組成物の重さ]×100(重量%)
また、膨潤指数は次式により算出する。
【0075】
【式3】
膨潤指数=膨潤したトルエン不溶分の重さ/乾燥後のトルエン不溶分の重さ
【0076】
4.流動性
JIS K-7210に準拠してMFRの値を測定した。
【0077】
5.アイゾット衝撃値
JIS K-6871に準拠しノッチ付きを測定した。また、実用強度の評価として、幅が3.2mmの試験片を用いて、ノッチ部の対称平面を試験片支持台の上面に一致させ、なおかつ衝撃方向の裏側にノッチ部がくるように試験片を支持台に取り付けて逆ノッチを測定した。
6.面衝撃強度
30mm単軸押出機にて0.4mm厚のシートを作成し、JIS K-7211に準拠しデュポン衝撃強度を測定した。
【0078】
7.曲げ強さ及び曲げ弾性率
JIS K-7113に準拠し試験速度を毎分50mmとしてその値を求めた。但し、試験片はJIS K-6732記載の引張試験片を用いた。
8.光沢
ダンベル試験片を射出成形により製作し、その試験片のゲート部側の平面と末端部側の平面の光沢を JIS Z-8741(入射角60度)に準拠して測定した。
【0079】
9.成形品の耐薬品性試験
JIS 1号ダンベル(厚み3mm、全長175mm)の表面に、酢酸エチル及びIPAを主成分とするグラビアインキを塗布した。この試験片の片端を固定し、逆の片端に200gの分銅を吊るして、23℃、50%湿度下で一定時間放置後の試験片を外観観察し、以下の基準に従って評価した。
【0080】
○:試験片に発生したクラックの数 0〜15
△:試験片に発生したクラックの数 16〜40
×:試験片が破断
【0081】
実施例1
本実施例では図1に示すように配列された装置を用いた。スチレン、メタクリル酸メチル、ゴム質重合体および溶媒を含む混合溶液を、プランジャーポンプ(1)によって20リットルの攪拌式反応器(2)へ送り、攪拌翼による動的混合下に初期グラフト重合した。次いでこの混合溶液をギアポンプ(3)によって循環重合ライン(I)に送る。循環重合ライン(I)は入口から順に内径2.5インチ管状反応器(スイス国ゲブリューダー・ズルツァー社製SMX型スタティックミキサー・静的ミキシングエレメント30個内蔵)(4)、(5)および(6)と混合溶液を循環させるためのギアポンプ(7)から構成されている。管状反応器(6)とギアポンプ(7)の間には非循環重合ライン(II)に続く出口が設けられている。非循環重合ライン(II)には入口から順に上記と同様の管状反応器(8)、(9)および(10)とギアポンプ(11)が直列に連結されている。
【0082】
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔25℃における5%スチレン溶液粘度(以下、5%SVと略す):32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:5/95 〕6.4部、スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62 〕1.6部、スチレン85部、メタクリル酸メチル15部およびエチルベンゼン10部から成る混合溶液を調製し、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.02部のn−ドデシルメルカプタンおよび有機過酸化物として単量体混合物100部に対して0.025部のt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1.5部のミネラルオイル(島貿易社製、S-250)を加え、上記装置を用いて以下の条件下で連続的に塊状重合させた。
【0083】
混合溶液の連続的な供給量:10リットル/時間
攪拌式反応器(2)での反応温度:120℃
循環重合ライン(I)での反応温度:135℃
非循環重合ライン(II)での反応温度:140〜160℃
還流比 :R=F1/F2=5
重合させて得られた混合溶液を熱交換器で225 ℃まで加熱し、50mmHgの減圧下で揮発性成分を除去した後、ペレット化して本発明のスチレン系樹脂組成物を得た。
【0084】
このようにして得られたスチレン系樹脂組成物を射出成形して試験片を作成し、各種物性を測定した。該樹脂の分析データおよび物性の測定結果を第1表に示す。
【0085】
尚、実施例1で得られたスチレン系樹脂組成物の超薄切片法による透過型電子顕微鏡写真(10000倍)を図2に示す。
【0086】
実施例2
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:5/95 〕6.4部、スチレン−ブタジエンブロック共重合ゴム〔5%SV:32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:40/60 〕1.6部、スチレン85部、メタクリル酸メチル15部およびエチルベンゼン10部から成る混合溶液を用いた以外は実施例1と同様にして本発明のスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第1表に示す。
【0087】
実施例3
ローシスポリブタジエン〔 5%SV:35センチポイズ 〕5.6部、スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62 〕2.4部、スチレン90部、メタクリル酸メチル10部およびエチルベンゼン10部から成る混合溶液を用いた以外は実施例1と同様にして本発明のスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第1表に示す。
【0088】
実施例4
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:5/95 〕6.4部、スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62 〕1.6部、スチレン85部、メタクリル酸メチル15部およびエチルベンゼン10部から成る混合溶液を調製し、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.025部のn−ドデシルメルカプタン、およびミネラルオイルにかえて1.5部のイソパラフィン系共重合体(出光石化製、出光ポリブテン35R)を加える他は実施例1と同様にして本発明のスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第1表に示す。
【0089】
実施例5
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:5/95 〕6.4部、スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62 〕1.6部、スチレン83部、メタクリル酸メチル15部、アクリル酸ブチル2部およびエチルベンゼン10部から成る混合溶液を調製し、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.025部のn−ドデシルメルカプタンを加える他は実施例1と同様にして本発明のスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第1表に示す。
【0090】
実施例6
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:5/95 〕6.4部、スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62 〕1.6部、スチレン65部、メタクリル酸メチル30部、アクリル酸ブチル5部およびエチルベンゼン10部から成る混合溶液を調製し、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.025部のn−ドデシルメルカプタンを加える他は実施例1と同様にして本発明のスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第1表に示す。
【0091】
比較例1
ローシスポリブタジエン〔 5%SV:35センチポイズ 〕8部、スチレン92部、及びエチルベンゼン10部からなる混合溶液を用い、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.01部のn−ドデシルメルカプタンおよび有機過酸化物として単量体混合物100部に対して0.02部のt−ブチルパーオキシベンゾエート、1.5部のミネラルオイル(島貿易社製、S-250)を加え、上記装置を用いて以下の条件下で連続的に塊状重合させた。
【0092】
混合溶液の連続的な供給量:10リットル/時間
攪拌式反応器(2)での反応温度:130℃
循環重合ライン(I)での反応温度:135℃
非循環重合ライン(II)での反応温度:140〜170℃
還流比:R=F1/F2=5
重合させて得られた混合溶液を熱交換器で225℃まで加熱し、50mmHgの減圧下で揮発性成分を除去した後、ペレット化してスチレン系樹脂組成物を得た。分析データ及び物性の測定結果を第1表に示す。
【0093】
比較例2
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62〕10部、スチレン85部、メタクリル酸メチル15部、及びエチルベンゼン12部からなる混合溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第1表に示す。
【0094】
比較例3
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:10センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:38/62〕10部、スチレン48部、メタクリル酸メチル52部、及びエチルベンゼン10部からなる混合溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。尚、光沢の測定については、得られた樹脂組成物にチタンホワイトを押出機を用い溶融混練し、不透明な成形品として測定した。結果を第1表に示す。
【0095】
比較例4
ローシスポリブタジエン〔5%SV:25センチポイズ〕8部、スチレン92部、及びエチルベンゼン10部からなる混合溶液を用い、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.015部のn−ドデシルメルカプタンを用いた以外は比較例1と同様にしてスチレン系樹脂組成物を得た。比較例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。結果を第2表に示す。
【0096】
比較例5
スチレン−ブタジエン共重合ゴム〔5%SV:32センチポイズ、スチレン/ブタジエン重量比:5/95〕8部、スチレン30部、メタクリル酸メチル65部、アクリル酸ブチル5部、及びエチルベンゼン14部からなる混合溶液を用い、さらに、連鎖移動剤として単量体混合物100部に対して0.025部のn−ドデシルメルカプタンを用いた以外は実施例1と同様にしてスチレン系樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして射出成形品を作成し各種物性を測定した。尚、光沢の測定については、得られた樹脂組成物にチタンホワイトを押出機を用い溶融混練し、不透明な成形品として測定した。結果を第2表に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【発明の効果】
本発明によれば、光沢、剛性および面衝撃強度に優れたスチレン系樹脂組成物を提供できる。特に、マトリックス中のアクリル成分が少ない場合には、更に、成形品の光沢、衝撃強度及び剛性という本発明の性能を保持し乍ら、回収品をポリスチレンへ配合するようなリサイクル使用が可能になる他、成形品の耐薬品性も著しく良好となる。
従って、本発明のスチレン系樹脂組成物は、各種成形品に好適に使用できるが、特にシート成形品とした場合にはその光沢、耐衝撃性及び剛性が著しく優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、静的ミキシングエレメントを有する管状反応器を組み込んだ連続塊状重合ラインの1例を示す工程図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた本発明のスチレン系樹脂組成物の超薄切片法による透過型電子顕微鏡写真(10000倍)である。
【符号の説明】
(1):プラジャーポンプ
(2):撹拌式反応器
(3):ギヤポンプ
(4):静的ミキシングエレメントを有する管状反応器
(5):静的ミキシングエレメントを有する管状反応器
(6):静的ミキシングエレメントを有する管状反応器
(7):ギヤポンプ
(8):静的ミキシングエレメントを有する管状反応器
(9):静的ミキシングエレメントを有する管状反応器
(10):静的ミキシングエレメントを有する管状反応器
(11):ギヤポンプ
(I):循環重合ライン
(II):非循環重合ライン
Claims (7)
- スチレン系単量体とアクリル系単量体との共重合体(A)をマトリックス相とし、かつ、ジエン系ゴム質重合体にスチレン系単量体とアクリル系単量体とがグラフト共重合したゴム粒子(B)を分散粒子とするスチレン系樹脂組成物において、
共重合体(A)が、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを、重量基準で前者/後者=95/5〜50/50となる割合で共重合したものであって、
ジエン系ゴム質重合体が、ジエン系単量体の単独重合体(b1)又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、
スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)とを含有し、
重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40の範囲で用いたものであり、
ゴム粒子(B)が、分散媒としてDMFを用い、散乱式粒度分布測定装置で測定される組成物中の体積基準のメジアン径が0.5〜0.9μmの範囲であって、かつ組成物の[25℃でのトルエン不溶分含有率/25℃でのトルエン膨潤指数]の値が1.2〜2.5(重量%)の範囲であることを特徴とするスチレン系樹脂組成物。 - ゴム粒子(B)として、サラミ構造を有するゴム粒子(B1)とコアシェル構造を有するゴム粒子(B2)が共存しており、かつ、透過型電子顕微鏡写真(10000倍)で粒子1000個を観察した場合のゴム粒子(B1)とゴム粒子(B2)との存在比が(B1)/(B2)=70/30〜95/5なる割合である請求項1記載の組成物。
- ゴム粒子(B)が、散乱式粒度分布測定装置で測定される体積基準の粒度分布が1ピークを示すものである請求項1又は2記載の組成物。
- 共重合体(A)が、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを、重量基準で前者/後者=95/5〜81/19となる割合で共重合したものである請求項1、2又は3記載の組成物。
- 請求項1〜4の何れか1項記載のスチレン系樹脂組成物の製造方法であって、
ジエン系単量体の単独重合体(b1)又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、
スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)とを、
重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40の範囲で用い、更にスチレン系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)と混合した混合溶液を、
可動部分のない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器を組み込んでなる連続塊状重合ライン内で連続塊状重合することを特徴とするスチレン系樹脂組成物の製造方法。 - ジエン系単量体の単独重合体(b1)又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、
スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)とを、
重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40の範囲で用い、更にスチレン系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)とを溶解させた後、1個以上の撹拌式反応器で重合させた後、菅状反応器に導入する請求項5記載の製造方法。 - ジエン系単量体の単独重合体(b1)又はスチレン構造単位を重量基準で15%以下となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b2)と、
スチレン構造単位を重量基準で20〜50%となる割合で有するスチレン系単量体とジエン系単量体との共重合体(b3)とを、
重量基準で[(b1)又は(b2)]/(b3)=95/5〜60/40の範囲で用い、更にスチレン系単量体(a1)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a2)とを含有する混合溶液を、
a.攪拌式反応器と、
b.攪拌式反応器から続き可動部分の全くない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている1個以上の管状反応器からなる初期重合ラインと、
c.初期重合ラインから続き可動部分の全くない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている1個以上の管状反応器からなる主重合ラインと、
d.初期重合ラインと主重合ラインとの間で分枝して初期重合ライン内に戻る還流ラインと
によって構成される重合ラインを用い、初期重合ラインから出る初期重合液流の一部を還流ラインを経て還流させ、一方、還流されなかった初期重合液流を主重合ラインにおいて重合する請求項6記載の製造方法。
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