JP3971128B2 - 弾性表面波素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、弾性表面波素子に関する。より詳細には、圧電基板上に設けられたインターディジタルトランスデューサ(以下「IDT」と記載する)の電極が、Ti下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜とからなる弾性表面波素子に関する。
【0002】
【従来技術】
固体の表面に沿って伝搬する弾性波を弾性表面波といい、これを利用した振動素子を弾性表面波素子という。弾性表面波素子は、弾性表面波フィルタや弾性表面波共振子として、テレビや携帯電話などの電気通信機器において広く活用されている。
【0003】
図13は、フィルタとして構成された従来の弾性表面波素子130の斜視図である。弾性表面波素子130は、圧電基板131と、その上に設けられた入力用のIDT132および出力用のIDT133からなる。圧電基板131は、電界を加えることにより歪みが生じ、また、歪みが加えられることにより電界を生じる性質、すなわち圧電効果を示す圧電材料からなる基板である。IDT132は、一対の電極132a,132bとからなり、当該電極132a,132bは、所定のピッチd’で交互に配された電極指132a’,132b’を有する。同様に、IDT133は、一対の電極133a,133bとからなり、当該電極133a,133bは、所定のピッチd’で交互に配された電極指133a’,133b’を有する。
【0004】
このような構成の弾性表面波素子130において、IDT132に交流電圧を印加すると、隣り合う電極指132a’と電極指132b’との間に交流電界が発生する。すると、圧電効果により、電極指132a’と電極指132b’との間の領域の圧電基板に歪みが生じ、IDT132全体によって表面波W’が励振される。励振される表面波W’の周波数は複数にわたるが、電極指ピッチd’と等しい波長の表面波W’が最も強く励振される。そして、表面波W’が圧電基板131を伝搬してIDT133形成領域に到達すると、圧電効果により電極指133a’と電極指133b’との間に交流電界が発生する。これに誘起されて、IDT133から交流電流が出力される。電極指ピッチd’の広狭は、弾性表面波素子130の周波数特性を左右するところ、ある特定の周波数しか通さないという特性を利用することによって、弾性表面波素子130を帯域フィルタとして使用することが可能となる。
【0005】
従来の弾性表面波素子130において、IDT132,133を構成する電極132a,132b,133a,133bの材料としては、電気抵抗が小さいうえに安価で加工が容易なAlが主に用いられてきた。また、弾性表面波素子130では、励振すべき表面波W’が高周波になるほど、電極指132a’,132b’,133a’,133b’を細く且つ薄く設計する必要がある。しかしながら、高周波への対応を図るべく電極指132a’,132b’,133a’,133b’をAlによって細薄に形成すると、電極指132a’,132b’,133a’,133b’において、エレクトロマイグレーションやストレスマイグレーションの発生が顕著となり、耐電力性が劣化するという問題が生じていた。特に近年では、弾性表面波素子は、携帯電話用のデュプレクサに代表されるような、より大電力が供給される用途にも使用されるようになり、IDT132,133の耐電力性に関しては更なる向上が求められている。また、現在の携帯電話に使用されている弾性表面波フィルタの通過周波数帯域は700〜1000MHzであるところ、特にこの周波数帯域において、弾性表面波フィルタの耐電力性の向上が強く求められている。
【0006】
例えば、特開昭62−163408号公報、特開昭64−80113号公報、特開平4−288718号公報、特開平5−90268号公報、特開平8−32404号公報、特開平8−148966号公報、特開平10−93368号公報、再公表特許WO99/16168号公報には、そのような要求を満たすことを目的とする手法が開示されている。これらを原理的な観点より分類すると、▲1▼電極指を構成するAlに異種金属を添加することによって、電極指の強度を高める手法(特開昭62−163408号公報、特開昭64−80113号公報)、▲2▼電極指を構成するAlの結晶粒を小さくして粒界を多数形成することによって、電極指に作用する応力を構造的に緩和させる手法(特開平8−32404号公報、特開平8−148966号公報)、▲3▼電極指を構成するAlについて、その結晶方向を一定に配向させるか単結晶にすることによって、電極指の強度を高める手法(特開平5−90268号公報、特開平10−93368号公報、再公表特許WO99/16168号公報)、及び、▲4▼電極指を3層以上の積層構造とすることによって、電極指の強度を高める手法(特開平4−288718号公報)に分けられる。
【0007】
より具体的には、▲1▼の手法は、主電極材料であるAlに対して、Cu,Ti,Ni,Mg,Pd等の耐マイグレーション特性(耐電力性)を向上させる添加物を微量に添加することによって、電極材料の強度を高めようとするものである。▲2▼の手法は、Alに対して、所定の2または3種の元素を添加することによって結晶粒を細かくし、多くの粒界を発生させることにより、応力を分散させて耐電力性を向上させようとするものである。▲3▼の手法は、圧電基板上にTiあるいはCr膜等の金属を下地膜として形成し、その上にAlを一定の結晶方向に配向させることによって、主電極材料であるAlについて、結晶構造的にストレスマイグレーション耐性を向上させようとするものである。▲4▼の手法は、IDTを、下地膜、Al膜および他の金属膜からなる3層以上の多層構造化することによって、電極指の機械的強度を高めようとするものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、▲1▼〜▲3▼の手法により例えば携帯電話用途の弾性表面波フィルタを作製すると、いずれも、デュプレクサに代表されるような大電力が供給される用途に利用できる程の耐電力性を確保することは難しいことが確認された。これに対して、▲4▼の手法によると、十分な耐電力性得られることが確認された。ただし、▲4▼の手法は、多層構造であるために、製造コストが高くなるとともに、歩留まりが低下するという問題がある。
【0009】
このように、従来の技術によると、簡易な電極構造では耐電力性を十分に向上することができず、十分な耐電力性を確保するためには電極構造を3層以上に多層化する必要があり、そのような多層化は製造コスト等の観点より好ましくなかった。
【0010】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、以上に述べた問題点を解消ないし軽減することを課題とし、耐電力性に優れ、且つ、歩留まりよく製造可能な弾性表面波素子を提供することを目的としている。特に、現在の携帯電話用途では主流となっている、通過周波数帯域が700〜1000MHzの弾性表面波フィルタとして機能する弾性表面波素子において、耐電力性に優れ、且つ、安価に製造できるものを実現することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の側面によると、圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、当該インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有しており、電極は、圧電基板上に100〜200nmの膜厚で設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含むことを特徴とする弾性表面波素子が提供される。
【0012】
本発明の第2の側面によると、圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、当該インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有しており、電極は、当該電極指の厚みに対して25〜60%の膜厚比率で圧電基板上に設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含むことを特徴とする弾性表面波素子が提供される。
【0013】
弾性表面波素子のIDTの形成においては、従来の手法▲3▼として既述したように、IDTの主電極材料であるAl膜の下地膜として、圧電基板上にTi膜を成膜する技術が知られている。しかしながら、従来のTi下地膜は、その上に積層されるAl膜について高配向を達成することを目的としており、極薄に成膜されなければならない。膜厚が増すほど、当該膜表面の凹凸の程度が著しくなり、その上に積層されるAl膜の配向性が劣化するからである。例えば、特開平5−90268号公報では、高配向のAl膜を形成すべく、Ti下地膜は0.1〜50nmの膜厚で形成されている。
【0014】
これに対し本発明者らは、積層Al膜の高配向を確保するために求められる膜厚制限を超えてTi下地膜を形成することによりIDTの耐電力性を向上することができる、という新たな知見を得た。そして、この新たな知見に基づいて本発明が案出された。なお、従来の薄いTi下地膜に積層される場合よりも、本発明におけるAl合金膜の配向性は低下しているのにも拘わらず、IDTの耐電力性を向上することが可能である。したがって、本発明の作用は従来とは異なる原理に基づくものであると考えられる。
【0015】
本発明の第1および第2の側面において下地膜として用いられるTiは、機械的強度において非常に優れており、Al合金よりも強硬である。したがって、Ti下地膜の膜厚を厚くし、電極指の総厚に対するTi下地膜の膜厚比率を大きくすることによって、電極全体の機械的強度が高められる。その結果、弾性表面波素子のIDTないし電極指に生じ易いストレスマイグレーションに対する耐性を向上することができる。一方、Tiの電気抵抗率は42.0μΩ・cm(20℃)であり、Alの2.66μΩ・cmと比較して極めて大きいため、IDTないし電極指におけるTi下地膜の膜厚比率を過剰に大きくした場合、IDTないし電極指の電気抵抗が不当に大きくなり、作製された弾性表面波素子の電気的特性は劣化する傾向にある。以上を勘案して発明者らが行った実験によると、IDTの電極指におけるTi下地膜が、100〜200nmの厚みを有する場合、或いは、電極指の総厚に対して25〜60%の膜厚比率で形成される場合に、IDTについて、良好な電気的特性ないしフィルタ特性を維持しつつ耐電力性を向上できることが判明した。そして、700〜1000MHzの通過周波数帯域を有する弾性表面波素子においても、本発明の構成によって、耐電力性を向上することができ、且つ、歩留まりよく製造することができることを確認した。
【0016】
なお、本発明者らは、100nm以上のTi下地膜の上に積層されるAl合金の配向性について、確認実験を行っている。具体的には、42°YカットX伝搬LiTaO3基板上に、Ti下地膜と、98.0wt%Al―2.0wt%Cu合金とからなる電極を形成した構造において、Ti下地膜の膜厚を20〜120nmの範囲で変化させて、Al合金膜についてAl(111)ロッキングカーブの半値幅を測定し、当該合金の配向性を評価した。なお、本測定では、Ti下地膜厚の20〜120nmの範囲における変化に対応して、Al合金の膜厚を400〜270nmの範囲で適宜変化させることによって、電極質量が一定となるように調整した。すなわち、本測定においては、電極質量一定において、電極厚は420〜390nmの範囲で異なっている。図1は、Ti下地膜の膜厚変化に対するAl(111)ロッキングカーブの半値幅の変化を表すグラフである。図1に示すグラフによると、Al(111)ロッキングカーブの半値幅は、Ti下地膜の膜厚が40nmあたりで、再公表特許WO99/16168号公報に示されている高配向の目安である2.1°を超えている。そして、Ti下地膜厚が100nm以上では3.0°以上となり、もはやAl合金膜が高配向ではないことが確認できる。
【0017】
本発明の第1および第2の側面では、Ti下地膜上に積層される金属としてはAl合金が用いられる。Al合金膜は純Al膜よりも配向性が低下する傾向にあるが、薄いTi下地膜に配向性の高いAl膜を形成するよりも、厚いTi下地膜に機械的強度の高いAl合金を積層した構造の方が、全体として電極指の強度が高まり、IDTないし電極指の耐電力性は向上する。
【0018】
本発明の第1および第2の側面において、好ましくは、Al合金膜を構成する結晶の粒径は、電極指の幅の1/3以下とする。このような構成は、耐電力性の向上を図る上で好適である。弾性表面波によって生じる応力がIDTに伝わると、一般に、その応力はIDTの電極指を構成する結晶粒の粒界に集中するが、結晶粒を小さくすることにより結晶粒の界面、即ち粒界を増加させると、そのような応力は分散され、その結果、IDTないし電極指の耐電力性は向上する。
【0019】
これに対し、上述の特開平5−90268号公報および再公表特許WO99/16168号公報に開示の弾性表面波素子のIDTでは、Al膜の配向性の向上が図られ、電極膜の結晶粒は大きく成長している。仮に、完全な単結晶により電極指が構成されるのであれば、粒界が存在しないので極めて耐電力性が高い電極指が形成されると予測される。しかしながら、実際は、完全な単結晶膜を形成するのは極めて困難であり、種々の条件を最適化して単結晶化を図ったとしても、電極指内には結晶粒界が僅かに生じてしまう。僅かに生ずる粒界には、極めて強い応力が集中してしまい、マイグレーションが誘発されて耐電力性の向上が妨げられる場合がある。このような不具合を回避すべく、本発明では、電極指を構成するAl合金の結晶の粒径を電極指の幅の1/3以下とし、多数の粒界によって、電極指に作用する応力を分散することとしているのである。
【0020】
好ましくは、Al合金膜は、Alと、Cu、Mg、Ti、Pd、Wからなる群より選択される金属とからなる。Al合金を構成するためにAlに添加される金属がCuの場合には、合金中の当該Cuの濃度は0.5〜3.0wt%であるのが好ましい。一方、Mgの場合には、合金中の当該Mgの濃度は0.1〜3.0wt%であるのが好ましい。これ以上に添加濃度が高くなると、製造プロセスにおいて、反応性イオンエッチングによる電極パターンの形成が困難となる傾向にあるので、好ましくない。これに加えて、電気抵抗が不当に増大することによってフィルタ特性の劣化が生じるという理由においても、好ましくない。なお、弾性表面波素子の製造プロセス中のウエハ切断工程において、切削水による電極の腐食が低減されるという観点からは、Al―Mg合金はAl―Cu合金よりも好ましい。
【0021】
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0022】
図2は、本発明に係る弾性表面波素子10の斜視図である。弾性表面波素子10は、圧電基板11と、その上に設けられた入力用のIDT12および出力用のIDT13からなる。圧電基板11は、電界を加えることにより歪みが生じ、また、歪みが加えられることにより電界を生じる性質、すなわち圧電効果を示す圧電材料により構成された基板である。IDT12は、一対の電極14,15とからなり、当該電極14,15は、所定のピッチdで交互に配された電極指16,17を有する。同様に、IDT13は、一対の電極18,19とからなり、当該電極18,19は、所定のピッチdで交互に配された電極指20,21を有する。電極14,15の電極指ピッチdと、電極18,19の電極指ピッチdとは、同一としてもよいし、異ならしめてもよい。
【0023】
図3は、図2に示す弾性表面波素子10の一本の電極指16およびその付近の断面図である。電極指16は、圧電基板11上に設けられたTi下地膜16aと、このTi下地膜16a上に積層されたAl合金膜16bとからなる。Al合金膜16bを構成する結晶粒16b’の粒径は、電極指16の幅Lの1/3以下とされている。同様に、電極指17,20,21も、Ti下地膜17a,20a,21aと、その上に積層されたAl合金膜17b,20b,21bとからなる。また、Al合金膜17b,20b,21bを構成する結晶粒の粒径も、対応する電極指の幅の1/3以下とされている。
【0024】
圧電基板11としては、水晶基板、LiNbO3基板、LiTaO3基板、Li4B2O7などを用いることができる。IDT12,13は、圧電基板11上において、蒸着法やスッパッタリングなどによりTi下地膜を成膜し、その上に、同じく蒸着法やスッパッタリングなどによりAl合金膜を成膜した後、当該積層構造をフォトリソグラフィや反応性エッチングにより所定形状にパターンニングすることによって形成される。Ti下地膜16a,17a,20a,21aは、100〜200nmの厚みで設けられており、Al合金膜16b,17b,20b,21bは、Ti下地膜16a,17a,20a,21a上において300〜133nmの厚みで設けられている。本実施形態では、IDT12の電極指16,17およびIDT13の電極指20,21の周期すなわち形成ピッチdは約5μmであり、このような構成によって弾性表面波素子10の通過周波数帯域は700〜1000MHzとされている。Al合金は、Alに対して微量のCu、Mg、Ti、Pd、Wを添加したものを用いることができる。例えばCuの場合には、その添加量は合金全体に対して0.5〜3.0wt%であり、Mgの場合には0.1〜3.0wt%である。
【0025】
このような構成の弾性表面波素子10において、IDT12に交流電圧を印加すると、圧電効果により、IDT12の隣合う電極指16と電極指17との間の領域の圧電基板に歪みが生じ、表面波Wが励振される。そして、表面波Wが圧電基板10を伝搬してIDT13が形成されている領域に到達すると、圧電効果により生ずる電界に誘起されて、IDT13から交流電流が出力される。
【0026】
本発明に係る弾性表面波素子10の電極14,15,18,19においては、当該電極の厚みに対する膜厚比率が25〜60%であって、従来よりも厚い100〜200nmであるTi下地膜16a,17a,20a,21aが設けられているところ、これらTi下地膜に積層されたAl合金膜16b,17b,20b,21bは、従来と異なり、高配向膜ではなくなっている。その理由の1つは、図1のグラフに関して既に説明したように、Ti下地膜が100nm以上であると、Al合金膜の配向性が劣化することにある。これに加えて、積層される膜が純AlではなくAl合金であることも理由の1つであると考えられる。Ti下地膜16a,17a,20a,21a上の積層膜が高配向でなくとも、下記実施例でも示すように、本発明に係る弾性表面波素子10のIDT12,13は、良好な耐電力性を有する。
【0027】
【実施例】
次に、本発明について実施例を説明する。
【0028】
【実施例1】
<弾性表面波素子の作製>
圧電基板としての42°YカットX伝搬LiTaO3基板上に、スパッタリングによりTi下地膜を成膜し、更にその上に、スパッタリングにより99.5wt%Al―0.5wt%Cu合金を積層し、両薄膜をフォトリソグラフィおよび反応性イオンエッチングによりパターン加工することによって2層構造のIDTを形成し、北米の携帯電話システムであるAMPS(Advanced Mobile Phone System)の送信フィルタ(通過帯域825〜849MHz)用途であって、ラダー型構成の弾性表面波フィルタを作製した。IDT電極指の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、写真撮影した。図4は、当該写真を模した断面図である。図4に示すように、1本の電極指断面は3個の結晶粒で占められていた。ただし、図4に示す電極指におけるTi下地膜の厚みは120nmである。
【0029】
<測定>
本実施例では、Ti下地膜の厚み(電極指厚に対する比率)を変えて、IDTについて最大入力電力および3dB通過帯域幅を測定し、IDTの耐電力性およびフィルタ特性の変化を調べた。ここで最大入力電力とは、デバイスに印加する電力を順次上げていったときに、特性が劣化する直前の電力をいうものとする。本測定では、Ti下地膜厚を仮に0nmとしたときのAl合金膜厚を430nmとし、IDT全体の質量を一定に保つように、Ti下地膜厚の変化に応じてAl合金膜厚を調整した。測定は、85℃の環境温度下で、3dB通過帯域の高周波端に電力を印加することによって行った。
【0030】
<測定結果>
Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する最大入力電力の変化を図5に示す。図5によると、Ti下地膜を厚くするほど最大入力電力が上昇し、IDTの耐電力性が向上していることが判る。特に、Ti下地膜の膜厚比率が50%以上において、携帯電話の仕様を満足できる程度の耐電力性(最大入力電力2.5w以上)を有することが確認された。Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する3dB帯域幅の相対変化を図6に示す。図6では、Ti下地膜厚が0nmであるとした場合の3dB帯域幅を100%としている。図6によると、Ti下地膜を厚くするにつれて3dB帯域幅が相対的に低下する傾向にあることが判る。本測定により、Ti下地膜の膜厚比率が60%以下において、相対的な3dB帯域幅が96%以上であり、携帯電話の仕様を満足できることが確認された。以上の結果より、弾性表面波素子のIDTにおいて、主電極材料として99.5wt%Al―0.5wt%Cu合金を用いる場合には、耐電力性を向上させつつ良好なフィルタ特性を得るための最適なTi下地膜の膜厚比率の範囲は、50%以上60%以下であることが理解されよう。
【0031】
【実施例2】
99.5wt%Al―0.5wt%Cu合金に代えて99.0wt%Al―1.0wt%Cu合金を用いた以外は実施例1と同様の方法により弾性表面波フィルタを作製した。そして、Ti下地膜の厚み(電極指厚に対する比率)を変えて、IDTについて最大入力電力および3dB帯域幅を測定し、IDTの耐電力性およびフィルタ特性の変化を調べた。
【0032】
Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する最大入力電力の変化を図7に示す。図7によると、Ti下地膜を厚くするほど最大入力電力が上昇し、IDTの耐電力性が向上していることが判る。特に、Ti下地膜の膜厚比率が35%以上において、携帯電話の仕様を満足できる程度の耐電力性(最大入力電力2.5w以上)を有することが確認された。Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する3dB帯域幅の相対変化を図8に示す。図8によると、Ti下地膜を厚くするにつれて3dB帯域幅が相対的に低下する傾向にあることが判る。本測定により、Ti下地膜の膜厚比率が50%以下において、携帯電話の仕様を満足できる程度の3dB帯域幅(相対値96%以上)を確保できることが確認された。以上の結果より、本実施例では、耐電力性を向上させつつ良好なフィルタ特性を得るための最適なTi下地膜の膜厚比率の範囲は、35%以上50%以下であることが理解されよう。
【0033】
【実施例3】
99.5wt%Al―0.5wt%Cu合金に代えて98.0wt%Al―2.0wt%Cu合金を用いた以外は実施例1と同様の方法により弾性表面波フィルタを作製した。実施例1と同様の方法により、IDT電極指の断面を透過型電子顕微鏡で観察し、写真撮影した。図9は、当該写真を模した断面図である。図9に示すように、1本の電極指断面は9個の結晶粒で占められていた。すなわち、実施例3の電極指は、実施例1のそれよりも、小さな結晶粒で構成されていた。ただし、図9に示す電極指におけるTi下地膜の厚みは120nmである。そして、実施例1と同様の方法により、Ti下地膜の厚み(電極指厚に対する比率)を変えて、最大入力電力および3dB帯域幅を測定し、IDTの耐電力性およびフィルタ特性の変化を調べた。
【0034】
Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する最大入力電力の変化を図10に示す。図10によると、Ti下地膜を厚くするほど最大入力電力が上昇し、耐電力性が向上していることが判る。特に、Ti下地膜の膜厚比率が25%以上において、携帯電話の仕様を満足できる程度の耐電力性(最大入力電力2.5w以上)を有することが確認された。Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する3dB帯域幅の相対変化を図11に示す。図11によると、Ti下地膜を厚くするにつれて当該3dB帯域幅が相対的に低下する傾向にあることが判る。本測定により、Ti下地膜の膜厚比率が50%以下において、携帯電話の仕様を満足できる程度の3dB帯域幅(相対値96%以上)を確保できることが確認された。以上の結果より、本実施例では、耐電力性を向上させつつ良好なフィルタ特性を得るための最適なTi下地膜の膜厚比率の範囲は、25%以上50%以下であることが理解されよう。
【0035】
以上の実施例1〜3で得られた6つのデータ、即ち、Al合金中のCu濃度0.5wt%,1.0wt%,2.0wt%の各々における、最大入力電力2.5Wを確保するための最小Ti膜厚比率、及び、相対的な3dB帯域幅96%以上を確保するための最大Ti膜厚比率を用いて、Ti下地膜の膜厚比率の最適領域の評価を行った。その評価に用いたグラフを図12に示す。図12によると、Al合金中のCu濃度が0.5wt%より低くなると、当該濃度における最適なTi膜厚比率の範囲(斜線範囲)が極端に狭くなり、設計自由度がなくなるとともに、製造余裕度が小さくなることが予想され、作製歩留まりを悪くする原因となると考えられる。したがって、Al合金中のCu濃度の下限としては、最適なTi膜厚比率の範囲が10%程度確保できる0.5wt%が適当である。また、Al合金中のCu濃度を高めると、Ti下地膜の膜厚比率の最適範囲が広くなる傾向にあり、設計自由度が増すことが判る。ただし、本発明者らは、Al合金中のCu濃度を高くするにつれて、製造プロセスにおいて、反応性エッチングによるIDTパターニングが難しくなり、IDTの加工性の観点からは、Cu濃度は事実上3%が上限であることを確認している。
【0036】
以上を総合的に勘案すると、電極指厚に対するTi下地膜の膜厚比率は、全体として25〜60%の範囲であるのが望ましいことが理解されよう。なお、Ti下地膜厚を仮に0nmとしたときのAl合金膜厚を430nmとし、IDT全体の質量を一定に保つようにTi下地膜厚の変化に応じてAl合金膜厚が調整されたIDTを有する上述の実施例においては、Ti下地膜の電極指厚に対する膜厚比率が25〜60%であることは、Ti下地膜が100〜200nmの厚みを有することに相当する。
【0037】
【実施例4】
Al―Cu合金に代えてAl―Mg合金を用いた以外は実施例1と同様の方法により作製した弾性表面波フィルタの構造において、Al合金中のMg濃度およびTi下地膜の厚み(電極指厚に対する比率)を変えて、実施例1〜3に準じて最大入力電力および3dB帯域幅を測定し、IDTの耐電力性およびフィルタ特性の変化を調べた。その結果、合金中のMgの最適濃度は0.1〜3.0wt%であることが求められた。例えば、Ti下地膜の膜厚比率30.8%(Ti下地膜120nm、Al合金膜270nm)の構成において、Al合金中のMg濃度が0.4wt%および1.0wt%では、IDTの最大入力電力は共に2.5Wであった。
【0038】
以上のまとめとして、本発明の構成およびそのバリエーションを以下に付記として列挙する。
【0039】
(付記1) 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、当該インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有しており、
前記電極は、前記圧電基板上に100〜200nmの膜厚で設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含むことを特徴とする弾性表面波素子。
(付記2) 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、当該インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有しており、
前記電極は、当該電極の厚みに対して25〜60%の膜厚比率で前記圧電基板上に設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含むことを特徴とする弾性表面波素子。
(付記3) 前記Al合金膜を構成する結晶の平均粒径は、前記各電極指の幅の1/3以下である、付記1または2に記載の弾性表面波素子。
(付記4) 前記Al合金膜は、Alと、Cu、Mg、Ti、Pd、Wからなる群より選択される金属とを含む、付記1から3のいずれか1つに記載の弾性表面波素子。
(付記5) 前記Al合金膜に含まれるCuの濃度は、0.5〜3.0wt%である、付記4に記載の弾性表面波素子。
(付記6) 前記Al合金膜に含まれるMgの濃度は、0.1〜3.0wt%である、付記4に記載の弾性表面波素子。
(付記7) 700〜1000MHzの通過周波数帯域を有するフィルタとして構成されている、付記1から6のいずれか1つに記載の弾性表面波素子。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、下地膜として100〜200nmのTiを用い、上層膜をAl合金とすることにより、IDTの耐電力性を向上できる。また、本発明よれば、電極指厚に対するTi下地膜の膜厚比率を25〜60%とすることによっても、IDTの耐電力性を向上できる。これらの結果、携帯電話のデュプレクサに代表される耐電力性が要求されるフィルタとしての弾性表面波素子を、安価に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ti下地膜の膜厚変化に対するAl(111)ロッキングカーブの半値幅の変化を表すグラフである。
【図2】本発明に係る弾性表面波素子の斜視図である。
【図3】図2に示す弾性表面波素子の電極指およびその付近の断面図である。
【図4】実施例1に係る電極指断面のTEM写真を模した図である。
【図5】実施例1に係る弾性表面波素子について、Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する最大入力電力の変化を表したグラフである。
【図6】実施例1に係る弾性表面波素子について、Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する3dB帯域幅の相対変化を表すグラフである。
【図7】実施例2に係る弾性表面波素子について、Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する最大入力電力の変化を表したグラフである。
【図8】実施例2に係る弾性表面波素子について、Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する3dB帯域幅の相対変化を表すグラフである。
【図9】実施例3に係る電極指断面のTEM写真を模した図である。
【図10】実施例3に係る弾性表面波素子について、Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する最大入力電力の変化を表したグラフである。
【図11】実施例3に係る弾性表面波素子について、Ti下地膜の膜厚比率の変化に対する3dB帯域幅の相対変化を表すグラフである。
【図12】Al合金中のCu濃度の変化に対するTi下地膜の最適膜厚比率範囲の変化を表すグラフである。
【図13】従来の弾性表面波素子の斜視図である。
【符号の説明】
10,130 弾性表面波素子
11,131 圧電基板
12,13,132,133 IDT
14,15,18,19 電極
16,17,20,21 電極指
16a,17a,20a,21a Ti下地膜
16b,17b,20b,21b Al合金膜
W 表面波
d 電極指ピッチ
Claims (7)
- 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、当該電極の厚みに対して50%の膜厚比率で前記圧電基板上に設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含み、
前記Al合金膜は、0.5〜2wt%の濃度のCuを含む、弾性表面波素子。 - 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、当該電極の厚みに対して50〜60%の膜厚比率で前記圧電基板上に設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含み、
前記Al合金膜は、0 . 5wt%の濃度のCuを含む、弾性表面波素子。 - 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、当該電極の厚みに対して25〜50%の膜厚比率で前記圧電基板上に設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含み、
前記Al合金膜は、2wt%の濃度のCuを含む、弾性表面波素子。 - 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、当該電極の厚みに対して35〜50%の膜厚比率で前記圧電基板上に設けられたTi下地膜と、当該Ti下地膜上に積層されたAl合金膜と、を含み、
前記Al合金膜は、1〜2wt%の濃度のCuを含む、弾性表面波素子。 - 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、Ti下地膜とこの上に積層されたAl合金膜とを含み、
前記Al合金膜は、1〜2wt%の濃度のCuを含み、
前記電極の厚みに対する前記Ti下地膜の厚みの比率はy 1 %〜50%であり、
y 1 =−10x+45(xは前記Al合金膜中のCu濃度で単位はwt%)である、弾性表面波素子。 - 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、Ti下地膜とこの上に積層されたAl合金膜とを含み、
前記Al合金膜は、0 . 5〜1wt%の濃度のCuを含み、
前記電極の厚みに対する前記Ti下地膜の厚みの比率はy 2 %〜50%であり、
y 2 =−30x+65(xは前記Al合金膜中のCu濃度で単位はwt%)である、弾性表面波素子。 - 圧電基板と、この圧電基板上に形成されたインターディジタルトランスデューサとを備え、
前記インターディジタルトランスデューサは、複数の電極指を備える電極を有し、
前記電極は、Ti下地膜とこの上に積層されたAl合金膜とを含み、
前記Al合金膜はCuを含み、
前記Al合金膜中のCu濃度、および、前記電極の厚みに対する前記Ti下地膜の膜厚比率は、横軸にCu濃度x [ wt% ] を与え且つ縦軸に膜厚比率y [ % ] を与える2次元直交座標グラフにおいて、座標(x=0 . 5,y=50)と、座標(x=1,y=35)と、座標(x=2,y=25)と、座標(x=2,y=50)と、座標(x=1,y=50 )と、座標(x=0 . 5,y=60)と、前記座標(x=0 . 5,y=50)とを順に線分で結んでなる領域以内にあり、
最大入力電力は2 . 5wt以上であり、
3dB通過帯域幅は、前記Ti下地膜の厚さを仮に0nmとしたときの3dB通過帯域幅を100%として、96%以上である、弾性表面波素子。
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