JP5094933B2 - 弾性表面波素子および通信装置 - Google Patents

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Description

本発明は、弾性表面波素子および通信装置に関するものである。より詳しくは、通過帯域の挿入損失と耐電力性とを同時に改善した弾性表面波素子およびその弾性表面波素子を用いた通信装置に関するものである。
近年、電波を利用する電子機器のフィルタ,遅延線,発振器等の構成素子として多くの弾性表面波装置が用いられている。特に、小型・軽量でかつフィルタとしての急峻遮断性能が高い弾性表面波フィルタ(以下、SAWフィルタとも表記する。)は、移動体通信分野において、携帯端末装置のRF段およびIF段のフィルタとして多用されるようになって来ており、低損失かつ通過帯域外の遮断特性として、高い減衰特性と広い帯域幅とが要求されている。
携帯電話等のRF段に用いるフィルタの1種には、同一圧電基板上に複数個の一端子対の弾性表面波共振子を配設し、弾性表面波共振子を直並列に梯子状に接続したラダー型(梯子型)弾性表面波フィルタが知られている。このラダー型弾性表面波フィルタは小型であるとともに低損失であり、急峻な減衰特性のフィルタが実現できるため、携帯電話等のRF弾性表面波フィルタとして広く使用されている。
このような、ラダー型フィルタの場合、比帯域幅BW/fo(BW;通過帯域幅、fo;中心周波数)は、フィルタを構成する弾性表面波共振子の共振周波数frと反共振周波数faとの差であるΔf(=fa−fr)を共振周波数で規格化したものでほぼ決定される。
また近年、携帯電話システムの急激な変化に伴って、システム側の要求スペックもより厳しいものになり、従来よりも、広帯域でより矩形に近く、急峻性に優れた通過帯域特性を持つ弾性表面波フィルタが切望されている。弾性表面波フィルタの通過帯域の急峻性は、やはりΔf(=fa−fr)で決定され、Δfの小さい弾性表面波共振子を用いることにより、急峻性に優れた通過帯域特性が得られることが分かっている。上記の比帯域幅および通過帯域の急峻性を決定するΔfは圧電基板の材料定数である電気機械結合係数と電極パターンの膜厚に大きく依存し、所望の比帯域幅を得るために最適な電気機械結合係数を有する圧電基板と電極膜厚の組み合わせを選択してフィルタを作製する必要がある。
また、SAWフィルタの通過帯域の挿入損失は、直列共振子と並列共振子の容量比によって設計することができるが、ある減衰量を実現するためには、これを構成する弾性表面波共振子の共振抵抗と反共振抵抗の比によってほぼ決定されてしまい、そして、これはまた圧電基板材料と電極膜厚に大きく依存している。
特開2002−100952号公報
しかしながら、圧電基板の最適基板方位を見出すことは、SAWフィルタの開発にさらに圧電基板の開発が加わることになり、SAWフィルタの完成までに非常に多大な開発期間を要することとなるため、顧客の要求に満足できなくなるという問題点があった。そこ
で、従来より、圧電基板には止むを得ず一般的な基板・方位のものを採用し、電極構造で改善する方法が検討されている。
電極構造は、上記の説明のとおり、ラダー型電極が有望視されているが、従来の弾性表面波共振子をラダー接続した弾性表面波装置は、直列腕を構成する弾性表面波共振子と並列腕を構成する弾性表面波共振子とが、交互に信号線上に接続され、いわゆる梯子(ラダー)状に接続された構造が一般的に用いられている。
しかしながら、従来の電極構造による電気特性の改善方法は、一般に各共振子のIDT電極の対数,電極の周期や交差幅,反射器の電極本数等を変更する程度であり、若干の改善は見られるものの、フィルタに対する高い要求仕様を満たすような改善は見られず、品質的に問題のある弾性表面波装置になってしまうという問題があった。
これに対して、図8に従来の弾性表面波素子の要部断面図を示すように、圧電基板12の上に形成されるIDT電極のフィンガー13およびバスバー14について、バスバー14の下地導体膜18aの一部に膜厚の厚い領域(膜厚増加領域)18bを設け、バスバー14とフィンガー13部との間に弾性表面波の伝搬速度の差を設けることにより、フィンガー13部へ弾性表面波を効率的に閉じ込め、これにより弾性表面波共振子から漏洩する弾性表面波を少なくすることにより、通過帯域内の挿入損失を改善するという構造が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
しかし、このようにすることによると、フィンガー13部へ弾性表面波が効率的に閉じ込められるものの、共振する周波数が1点に集約されるため、結果的に弾性表面波フィルタが狭帯域なものとなってしまうという問題点があった。また同時に、弾性表面波が伝搬路内に効率的に閉じ込められるため、入力電力が大きくなった場合にはフィンガー13の端部が弾性表面波の機械的振動により破壊する確率が大きくなってしまい、耐電力寿命が短くなってしまうという問題点もあった。
本発明は以上のような従来の問題点を解決すべくなされたものであり、その目的は、圧電基板やそのカット方位については従来の一般的な圧電基板を使用した状態で、低損失でかつ広い通過帯域を有し、また、IDT電極のフィンガーの端部での耐電力性を改善した弾性表面波素子を提供することにある。
本発明の弾性表面波素子は、圧電基板と、前記圧電基板上に配置されたIDT電極と、を備えた弾性表面波素子であって、前記IDT電極は、前記圧電基板上に配置された下地導体膜と前記下地導体膜上に配置された導体膜とを含む第1のバスバーと、前記第1のバスバーから前記圧電基板を伝搬する弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に伸びている前記下地導体膜からなる第1のフィンガーと、を有し、前記第1のバスバーは、前記第1のフィンガー側に膜厚漸増領域を有しており、前記膜厚漸増領域において、前記導体膜の膜厚が漸増していることを特徴とするものである。
本発明の弾性表面波素子によれば、フィンガーおよびバスバーを有しており、このバスバーが前記フィンガー側に膜厚漸増領域を有している、IDT電極および反射器電極の少なくとも一方を有することにより、バスバーに膜厚漸増領域において質量分布ができ、バスバーによって共振子内に弾性表面波を閉じ込めることができるとともに共振子内に閉じ込める弾性表面波の振幅強度をフィンガーからバスバーの方向に徐々に減衰させることができ、これによって弾性表面波素子が共振する周波数にも広がりができるため、低損失でかつ広帯域な弾性表面波素子を実現することができる。
また、本発明の弾性表面波素子によれば、バスバーが、下地導体膜上に異なる導体膜が積層されて膜厚が漸増しているときには、フィンガーと膜厚漸増領域を有するバスバーとを構成する導体膜を同時に作製する場合に比べて、非常に簡便に精度良く膜厚漸増領域を有するバスバーを作製することができる。
フィンガーと膜厚漸増領域を有するバスバーとを構成する導体膜を同時に作製する場合は、フィンガーとバスバーとで膜厚が異なるため、一旦、バスバーの最大膜厚まで導体膜を作製し、その後、所望の共振周波数となるようにフィンガーとなる部分の導体膜のみを薄くする必要がある。このとき、フィンガーの寸法は、例えば圧電基板にタンタル酸リチウム単結晶を用い、約2GHzで動作する弾性表面波素子を作製する場合であれば、フィンガーの幅および隣り合うフィンガーとの距離がともに約0.5μm程度となり、非常に微
細で精度の高い加工が要求されるが、導体膜の膜厚が厚いほど加工精度は悪くなる。従って、バスバーの最大膜厚まで導体膜を作製し、フィンガー形状を加工した後、フィンガー部分の膜厚を薄くする工程をとる場合は、フィンガーの幅や断面形状等を制御するのが難しい。また、バスバーの最大膜厚まで導体膜を作製し、フィンガーが形成される領域の導体膜を薄く加工した後、フィンガー形状を加工する場合は、フィンガー形状を加工する導体膜が段差を持っているため、フォトリソグラフィの精度が悪くなり、やはり精度の高い加工をすることが困難となる。
これに対し、膜厚漸増領域を有するバスバーを、下地導体膜上に異なる導体膜が形成された膜厚が漸増しているものとすることにより、下地導体膜を用いてフィンガーを高精度の加工で形成することができるとともに、バスバーの膜厚漸増領域および厚膜部分を導体膜を積層して形成することによって、非常に簡便に精度良く所望の構造のバスバーを作製することができる。
また、バスバーの膜厚漸増領域および厚膜部分が導体膜であることにより、バスバーを構成する導体膜の膜厚が増加するためシート抵抗が小さくなり、IDT電極または反射器電極の電気抵抗に起因する挿入損失を小さくすることができる。従って、本発明の弾性表面波素子によれば、膜厚漸増領域が存在することによって低損失かつ広帯域になる効果に加えて、容易に精度良く作製でき、さらに電気抵抗に起因する挿入損失を小さくした弾性表面波素子を得ることができる。
また、導体膜からなる膜厚漸増領域の起点より上部の構造を、IDT電極および反射器電極のいずれか一方に形成する場合には、IDT電極と反射器電極との間に導体膜の質量による弾性表面波の速度差を設けることができる。ここで、IDT電極と反射器電極とでは、同一ピッチで電極を設計すると、反射効率の最大となる周波数がこの2つで若干異なるために共振周波数付近でリップル等の現象として現れる。しかしながら、本発明における構造を採用することで、両電極の反射効率の最大点を合わせることが可能となり、組み合わせ方によって、リップルのない低損失・広帯域なフィルタ特性を得ることができる。
また、本発明の弾性表面波素子によれば、バスバーが、下地導体膜上に絶縁体膜が積層されて膜厚が漸増しているときには、膜厚漸増領域の起点より上部の構造を、通常は一直線上に配置されるIDT(Inter Digital Transducer)電極のバスバーおよび反射器電極のバスバーに渡って連続的に両者を接続する絶縁体膜のパターンで形成することができる。これにより、IDT電極のバスバーと反射器のバスバーとの間から弾性表面波が漏洩するのを効果的に防止することができる。従って、本発明の弾性表面波素子によれば、膜厚漸増領域が存在するために低損失かつ広帯域になる効果に加えて、さらにIDT電極のバスバーと反射器のバスバーとの間から弾性表面波が漏洩するのを防止することにより、損失をさらに改善した弾性表面波素子を得ることができる。
また、絶縁体膜からなる膜厚漸増領域の起点より上部の構造を、IDT電極および反射器電極のいずれか一方に形成する場合には、前述の導体膜の場合と同様に両電極の反射効率の最大点を合わせることが可能となるので、組み合わせ方によって、リップルのない低損失・広帯域なフィルタ特性を得ることができる。
また、本発明の弾性表面波素子によれば、バスバーが、下地導体膜上に半導体層が積層されて膜厚が漸増している構造とすることができる。ここで半導体層は、直流的に見ると導体であるが、弾性表面波素子に形成されたフィルタの通過帯域付近の周波数では充分に高抵抗であるという周波数特性を持った層をいうものである。このような周波数特性は主に半導体層中のキャリアの移動度の周波数特性によるものである。キャリアの移動度の周波数特性は半導体層の結晶性,結晶粒径,不純物密度等を調整することで、所望の値に設定することができる。このような材料からなる半導体膜を用いることにより、膜厚漸増領域の起点より上部の構造を、通常は一直線上に配置されるIDT電極のバスバーおよび反射器電極のバスバーに渡って連続的に両者を接続する半導体膜のパターンで形成することができ、これにより、IDT電極のバスバーと反射器のバスバーとの間から弾性表面波が漏洩するのを効果的に防止することができるとともに、製造プロセスにおける急激な温度変化により焦電効果のために発生するIDT電極および反射器電極の電荷を効率的に逃がすことが可能となり、圧電基板の焦電性に起因する焦電破壊による各電極へのダメージを防止する効果を得ることができる。従って、本発明の弾性表面波素子によれば、膜厚漸増領域が存在するために低損失かつ広帯域になる効果に加えて、さらにIDT電極のバスバーと反射器のバスバーとの間から弾性表面波が漏洩するのを防止することにより損失をさらに改善し、かつ、焦電破壊によるダメージを防止した弾性表面波素子を得ることができる。
また、半導体膜からなる膜厚漸増領域の起点より上部の構造を、IDT電極および反射器電極のいずれか一方に形成する場合には、前述の導体膜および絶縁体膜の場合と同様に両電極の反射効率の最大点を合わせることが可能となるので、組み合わせ方によって、リップルのない低損失・広帯域なフィルタ特性を得ることができる。
また、IDT電極と反射器電極とでは弾性表面波の伝搬速度が異なるが、本発明の弾性表面波素子によれば、IDT電極と反射器電極とで膜厚が異なるときには、IDT電極と反射器電極とのそれぞれで弾性表面波を閉じ込めるために最適の膜厚とすることができる。
また、以上のような弾性表面波を閉じ込める効果はバスバーの質量によって発現させるため、IDT電極と反射器電極とで最適な質量を装荷するために膜厚漸増領域の起点より上部の構造を同一の材料で異なる膜厚で構成することもできるが、本発明の弾性表面波素子によれば、IDT電極と反射器電極とで材料が異なるときには、それぞれの電極パターンを加工する際に材料のエッチングレート差によって異なる膜厚として作製することが容易である。
また、本発明の弾性表面波素子によれば、IDT電極と反射器電極とでバスバーの形状が異なるときには、バスバーの長手方向にも質量分布ができることとなるため、共振子内に閉じ込められる弾性表面波の振幅強度に広がりができ、これによって弾性表面波素子が共振する周波数にも広がりができるため、低損失でありかつ広帯域な弾性表面波素子を実現することができる。
そして、本発明の弾性表面波素子は、良好な通過帯内特性を有するものであるので、この本発明の弾性表面波素子を有する受信回路および本発明の弾性表面波装置を有する送信
回路の少なくとも一方を備えた本発明の通信装置によれば、本発明の弾性表面波素子による良好なフィルタ特性を利用しつつ、低損失フィルタであることにより同じ出力パワーを得るために必要な入力パワーを低減することができるため、パワーアンプの消費電力を削減でき、消費電力を抑えた通信装置を実現することができる。
本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例1における弾性表面波素子を示す断面図である。 本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例1の上面図である。 本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例2の上面図である。 本発明の効果を説明する弾性表面波共振子のインピーダンス特性を示す線図である。 本発明の実施例で作製した弾性表面波装置の帯域通過特性を示す線図である。 本発明の弾性表面波素子の実施の形態の他の例を示す上面図である。 本発明の弾性表面波素子の実施の形態の他の例を示す上面図である。 従来の弾性表面波素子を示す断面図である。
以下、本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、あるいは電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものであるので、これらに限定されるものではない。
<実施の形態の例1>
図2に本発明の弾性表面波装置の実施の形態の例1における弾性表面波素子の上面図を示す。また、この例1における弾性表面波素子の図2のA−A’線断面図を図1に示す。図1に示すように、圧電基板2上にはフィンガー3およびバスバー4が形成されており、バスバー4は膜厚漸増領域5を有している。また、これらは、図2に示すように、IDT電極6および反射器電極7を構成している。
ここで、図4は本発明の弾性表面波素子を用いて作製した1ポート弾性表面波共振子のインピーダンス特性(実線)を従来の弾性表面波素子によるインピーダンス特性(破線)と比較した例を示す線図である。図4において、横軸は任意の周波数で規格化した周波数(単位:MHz)を、縦軸は図の左側がインピーダンス|Z|(単位:Ω)を、右側が位相(単位:°)を表す。そして、破線の特性曲線は、図8に示すようにほぼ垂直な断面形状をもつ膜厚増加領域18bを形成したバスバーを有する従来例の結果を示し、実線の特性曲線は、図1に示すように膜厚漸増領域5を形成したバスバーを有する実施例の結果を示している。図4に示す結果から分かるように、インピーダンスが極大値となる共振周波数と呼ばれる周波数近辺のインピーダンス特性のピーク部分の広がりが両者で異なっており、本発明の弾性表面波素子を用いた場合の方がより広く、また、ピーク部分のインピーダンスがより低くなっている。具体的には、最小挿入損失で0.26dBの改善、−2.5dBで
の通過帯域幅で3.0MHzの改善があった。また、位相特性についても本発明の実施例の
方がより急峻な特性を示している。
また、図5は図4で示したインピーダンス特性の弾性表面波共振子を梯子型に接続して形成した梯子型(ラダー型)フィルタの帯域通過特性の例を示す線図である。図5において、横軸は規格化した周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、一点鎖線の特性曲線は、図8に示すようにほぼ垂直な断面形状をもつ膜厚増加領域18bを形成したバスバーを有する従来例の結果を示し、実線の特性曲線は、図1に示すように膜
厚漸増領域5を形成したバスバーを有する実施例の結果を示している。図5に示す結果から分かるように、本発明の実施例(実線)は従来例(一点鎖線)に比べて低損失でかつ広帯域なフィルタ特性を示している。
本発明の弾性表面波素子1において、圧電基板2としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。
また、フィンガー3およびバスバー4には、アルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。これら積層膜の成膜方法としては、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
このフィンガー3およびバスバー4をパターニングする方法としては、フィンガー3およびバスバー4の成膜後にフォトリソグラフィを行ない、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行なう方法がある。または、フィンガー3およびバスバー4の成膜前に圧電基板2上にフォトレジストを形成しフォトリソグラフィを行なって所望のパターンを開口した後、積層膜を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された積層膜ごと除去するリフトオフプロセスを行なってもよい。
バスバー4上の膜厚漸増領域5は、下地導体膜8a上に異なる導体膜8bを積層して形成することができる。導体膜8bには、アルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、またはこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料から成る層との積層膜を用いることができる。これら積層膜の成膜方法としては、スパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
膜厚漸増領域5を形成する方法としては、下地導体膜8a上に導体膜8bが形成される部分が開口しており端部が逆テーパー形状を有するフォトレジストパターンを作製し、その上からスパッタリング法により成膜を行なった後、フォトレジストパターンを除去する方法(リフトオフ法)が挙げられる。この場合、スパッタリングによってスパッタリングターゲットから圧電基板2付近に到達した原子がパターン開口の上部から逆テーパー形状に沿って回り込んで成膜されるため、フォトレジストパターン除去後に得られる導体膜8bのパターン端部を逆テーパー形状に対向するように傾斜させた、すなわち膜厚漸増領域5を有する形状とすることができる。この場合、導体膜8bは下地導体膜8aと同じ材料を用いても、異なる材料を用いても、問題なく加工することができる。
また、下地導体膜8aとはエッチャントが異なる材料を積層してもよい。この場合、下地導体層8aを加工した後、その上に下地導体層8aとは異なるエッチャントを持つ材料を成膜し、これを下地導体層8aへの影響の小さいエッチャントにより加工することにより膜厚漸増領域5の起点より上部の構造である導体膜8bを作製することができる。
また、IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4とで膜厚,材料,形状が異なっていても構わない。IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4とでは弾性表面波の伝搬速度が異なるため、IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4とで膜厚,材料,形状を異ならせることにより、それぞれに最適の効果を発揮するように設計することができる。
また、下地導体膜8a上に、IDT電極6および反射器電極7のいずれか一方のバスバー4上の膜厚漸増領域5の起点より上部の構造である導体膜8bを形成しても構わない。この場合には、本発明の効果として説明したように、それぞれの電極6,7の反射効率の
最大点を合わせることが可能となり、組み合わせ方によって、リップルのない低損失・広帯域なフィルタ特性を得ることができる。
また、膜厚漸増領域5の起点から上部の構造である導体膜8bは図1では断面台形形状で示したが、この他にも断面三角形状や断面に曲線を含む形状等、膜厚漸増領域が存在すればどのような形状でも構わない。また、バスバー4の起点から膜厚漸増領域4の起点までの距離は、弾性表面波素子の作製精度や電気特性からの設計から、適当な距離に設定することができる。
また、膜厚漸増領域5の起点から上部の構造8bの上面から見た形状は、図2では長方形状のものを示したが、図6に図2と同様の平面図で示すように導体膜8bの一部の幅を小さくした形状としたり、図7に図2と同様の平面図で示すように三角形状としたりしても、あるいはバスバー4の長手方向における中央部が最も膨らんだ曲線を持つ形状としても構わない。これは、バスバー4の長手方向では、弾性表面波の強度分布が中央部で最も強いため、弾性表面波を効率的にバスバー4内に閉じ込めるためには、中央部分が最も広くなるように、膜厚漸増領域5の起点から上部の構造である導体膜8bを設けることがより効率的であるからである。これらのような形状の導体膜8bによれば、前述の膜厚漸増領域5によって形成したのと同様な弾性表面波の速度分布を、さらにバスバー4の長手方向にも設けることができるために、より大きな弾性表面波の速度分布を得ることができる。
<実施の形態の例2>
本例では断面構造は図1に示した例と同様であるが、膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを絶縁体膜により形成した。また、その絶縁体膜(膜厚漸増領域5の起点より上部の構造)8bの形状は図3に上面図で示すようなものにし、IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4とを、膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを連続的に形成することにより両者のバスバー4を接続した構造とした。このような構造とすることにより、IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4との間から弾性表面波が漏洩するのを効果的に防止することができる。
絶縁体膜8bの材料としては酸化シリコン,窒化シリコン,酸窒化シリコン,金属酸化物,金属窒化物,金属珪化物等を用いることができる。また、金属間化合物からなる絶縁体材料を用いてもよい。これらの材料は密度が高いため、薄い膜厚で弾性表面波を閉じ込める効果が得られ、効率的である。また、感光性ポリイミド等の樹脂を用いてもよい。これらの材料は感光性によりフォトリソグラフィによって加工することができ、また、露光条件や現像条件を最適化することにより膜厚漸増領域5を作製することが容易である。
<実施の形態の例3>
本例では断面構造は図1に示した例と同様であるが、膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを半導体膜により形成した。また、その半導体膜(膜厚漸増領域5の起点より上部の構造)8bの形状は図3に上面図で示すようなものにし、IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4とを膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを連続的に形成することにより両者のバスバー4を接続した構造とした。このような構造とすることにより、IDT電極6のバスバー4と反射器電極7のバスバー4との間から弾性表面波が漏洩するのを効果的に防止することができるとともに、製造プロセスにおける急激な温度変化により焦電効果のために発生するIDT電極6および反射器電極7の電荷を効率的に逃がすことが可能となり、圧電基板2の焦電性に起因する焦電破壊による各電極6,7へのダメージを防止する効果を得ることができる。
半導体膜8bの材料としてはシリコン等の4族半導体や酸化亜鉛、酸化銅等の酸化物半
導体を用いることができる。これらの材料は微量に異なる元素を添加したり、組成比を制御したりすることにより適当な抵抗値とすることができる。
<第1の実施例>
まず、38.7°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶基板から成る圧電基板2(基板厚みは250μm)の一方主面に、スパッタリング法により基板側からTi/Al−1質量
%Cu/Ti/Al−1質量%Cuからなる4層の下地導体膜8aを成膜した。膜厚はそれぞれ6nm/104nm/6nm/104nmである。次に、この下地導体膜8aをフォトリソグラフィとRIEとによりパターニングして、それぞれフィンガー3およびバスバー4を有するIDT電極6と反射器電極7とを具備する共振子を複数有し、それらをラダー型に接続し、入出力電極(図示せず)を有する弾性表面波素子を形成した。このときのエッチングガスにはBClおよびClの混合ガスを用いた。フィンガー3の線幅および隣り合うフィンガー3間の距離はどちらも約0.5μmである。
次に、膜厚漸増領域5の起点から上部の構造8bを形成する領域のみを開口したフォトレジストパターンをフォトリソグラフィによって形成し、次に、スパッタリング法により下地導体膜8a側からTi/Alからなる2層の導体膜を成膜し(膜厚はそれぞれ200n
m/900nmである。)、その後、アセトンに浸漬しフォトレジストパターンを除去する
ことにより(リフトオフ法)、膜厚漸増領域5の起点から上部の構造8bを作製することにより、本発明の弾性表面波素子1を得た。
その際、フォトレジストにはAZ5214−E(クラリアントジャパン株式会社製)を用い、フォトレジストパターンの端面を逆テーパー形状に形成した。本フォトレジスト材料は1度露光した後熱処理を行ない、再び圧電基板2の全面を紫外光で露光することにより、最初に露光した領域のみを現像液に溶けないようにすることができ、逆テーパー形状を作製するのに適している。逆テーパー形状をもつフォトレジストパターンを用いてリフトオフ工程を実施すると、導体膜の成膜時にパターン開口上部から逆テーパー形状に沿ってスパッタリングによってスパッタリングターゲットから圧電基板2の付近に到達した原子が回り込むため、できた導体膜パターンの端面を容易に概略斜面形状とすることができる。
また、比較例として、圧電基板2に対してほぼ垂直な端面形状をもつフォトレジストパターンを用いて、電子ビーム蒸着法により本発明の実施例と同様の下地導体膜18a側からTi/Alからなる2層の導体膜を成膜し、その後、アセトンに浸漬しフォトレジストパターンを除去することにより、図8に示すように従来と同様のほぼ垂直な端面形状をもつ膜厚増加領域18bを形成したバスバー14を有する弾性表面波素子を作製した。
このようにして作製した本発明の実施例と比較例について、図5にその周波数特性を線図で示す。図5の線図において、横軸は規格化した周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、一点鎖線の特性曲線は従来のほぼ垂直な断面形状をもつ膜厚増加領域18bを形成したバスバー14を有する比較例の結果を示し、実線の特性曲線は膜厚漸増領域5を形成したバスバー4を有する実施例の結果を示している。図5に示す結果から分かるように、この本発明の実施例の弾性表面波素子は、比較例のものに比べて非常に良好な通過帯域内挿入損失を有しており、帯域幅も広く取ることができた。
<第2の実施例>
本実施例では弾性表面波素子の断面図は図1と同様であるが、膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを半導体膜により形成し、図3に示したようにIDT電極6と反射器電極7とを連続的に形成した半導体膜8bによって接続した構造とした。この半導体膜8bの製造方法は前述と同様である。半導体膜8bの材料には微量にホウ素を添加したシリコ
ンを用いた。
その結果、本実施例においても第1の実施例と同様の良好な通過帯域内挿入損失を有し、帯域幅も広く取ることができた。また、第1の実施例では工程中に焦電破壊が生じる場合があったが、本実施例においては生じなかった。
なお、本発明は以上の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを導電体膜と半導体膜との積層構造により作製し、半導体膜のみがIDT電極6と反射器電極7とを接続するパターンとしても構わない。この場合、半導体より比較的比重の大きな導体を用いることにより全体として薄い膜厚で弾性表面波を閉じ込める膜厚とすることができるため、作製の効率が良く、かつ、半導体膜によりIDT電極6と反射器電極7とが接続されているため、焦電破壊を防止することができる。
また、反射器電極7をIDT電極6を構成する櫛歯状電極のどちらか一方と接続しても構わない。この場合は、膜厚漸増領域5の起点より上部の構造8bを導体膜で形成する場合でも図3に示した例のように反射器電極7とIDT電極6とを接続したパターンとすることができるため、弾性表面波が反射器電極7とIDT電極6との間から漏洩するのを効果的に防止することができ、かつ、シート抵抗が小さくなることによる挿入損失の改善効果を同時に得ることができるため、より低損失な弾性表面波素子とすることができる。
また、図3等では反射器電極7およびIDT電極6の左右で同じ形状のバスバー4を形成した例を示したが、バスバー4の形状は左右で異なっていても構わない。バスバー4の形状については、所望の特性を得るために最適な形状をとることができる。
また、実施例等ではラダー型フィルタの場合について説明したが、DMS型フィルタ,トランスバーサル型フィルタ,IIDT型フィルタ等、弾性表面波を扱う弾性表面波素子であれば本発明の範囲内である。
1:弾性表面波素子
2:圧電基板
3:フィンガー
4:バスバー
5:膜厚漸増領域
6:IDT電極
7:反射器電極
8a:下地導体膜
8b:膜厚漸増部の起点より上部の構造(導体膜,絶縁体膜,半導体膜)

Claims (9)

  1. 圧電基板と、前記圧電基板上に配置されたIDT電極と、を備えた弾性表面波素子であって、
    前記IDT電極は、前記圧電基板上に配置された下地導体膜と前記下地導体膜上に配置された導体膜とを含む第1のバスバーと、前記第1のバスバーから前記圧電基板を伝搬する弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に伸びている前記下地導体膜からなる第1のフィンガーと、を有し、
    前記第1のバスバーは、前記第1のフィンガー側に膜厚漸増領域を有しており、前記膜厚漸増領域において、前記導体膜の膜厚が漸増していることを特徴とする弾性表面波素子。
  2. 前記導体膜は、平面視したときの前記第1のバスバーの長手方向の中央部における幅と平面視したときの前記第1のバスバーの長手方向の端部における幅とが異なっていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
  3. 前記導体膜は、平面視したときの前記第1のバスバーの長手方向の中央部における幅が最も大きいことを特徴とする請求項2記載の弾性表面波素子。
  4. 前記弾性表面波の伝搬方向に沿って前記IDT電極と並んで配置された反射器電極をさらに備え、
    前記反射器電極は、第2のバスバーと前記第2のバスバーから前記弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に伸びている第2のフィンガーとを有していることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
  5. 前記第1のバスバーと前記第2のバスバーは、膜厚が異なることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波素子。
  6. 前記第1のバスバーと前記第2のバスバーは、材料が異なることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波素子。
  7. 前記第1のバスバーと前記第2のバスバーは、形状が異なることを特徴とする請求項4記載の弾性表面波素子。
  8. 圧電基板と、前記圧電基板上に配置されたIDT電極と、を備えた弾性表面波素子であ
    って、
    前記IDT電極は、前記圧電基板上に配置された下地導体膜と前記下地導体膜上に配置された絶縁体膜とを含む第1のバスバーと、前記第1のバスバーから前記圧電基板を伝搬する弾性表面波の伝搬方向と直交する方向に伸びている前記下地導体膜からなる第1のフィンガーと、を有し、
    前記第1のバスバーは、前記第1のフィンガー側に膜厚漸増領域を有しており、前記膜厚漸増領域は、前記絶縁体膜の膜厚が漸増することにより形成され
    前記絶縁体膜は、平面視したときの前記第1のバスバーの長手方向の中央部における幅が前記長手方向の端部における幅よりも大きいことを特徴とする弾性表面波素子。
  9. 請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の弾性表面波素子を有する、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
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