JP3968978B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、橙ないし赤色系蛍光色素として有用な新規のベンゾピラン系化合物と、これを用いた有機電界発光素子に関するものである。有機電界発光素子として、詳しくは有機正孔輸送層や有機電子輸送層などの有機発光層に、電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、蛍光色素は、樹脂、染料、インクなどの種々の材料の着色に利用されているが、近年その蛍光効率を利用して、薄膜発光素子等の電子機器分野への用途が開発されている。蛍光性色素については種々の構造及び発光色の色素が知られているが、特に橙〜赤色に高輝度で発光し、更に堅牢性の優れた化合物は少ない。
【0003】
ベンゾピラン系化合物が有機電界発光素子の発光色素(有機EL素子)として用いられることは広く知られている。例えば、特開平10−60427には、下式(D−1)に示すジュロリジン構造を有するベンゾピラン系化合物を使用して赤色発光が得られた例が開示されている。
【0004】
【化2】
【0005】
また、特開平6−316649号公報には、下記(D―2)に示すベンゾピラン系化合物を使用して赤色蛍光が得られた例が開示されている。
【0006】
【化3】
【0007】
しかし、かかる化合物を使用した有機EL素子は、発光効率が低く駆動電圧が高い為、有機EL素子の色素として満足し得るものではない。
なお、特開昭57−3860号公報には、樹脂用着色剤に適した色素として下記(D−3)に示すベンゾピラン系化合物が挙げられているが、該化合物は環構造の一部にイミノ基を有するため加水分解しやすく、化学的安定性が不充分である。
【0008】
【化4】
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
かかる事情に鑑み、本発明は駆動電圧が低く、堅牢性、発光効率などの特性が優れ、かつ化合物自体の化学的安定性の高い、橙ないし赤色の新規な蛍光性色素を用いた有機電界発光素子素子の提供を目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、鋭意検討を重ね、モルホリン構造を有する新規なベンゾピラン系化合物が、優れた性能を有する橙ないし赤色系蛍光性色素であることを知り本発明を達成した。
すなわち本発明は、基板上に、陽極、有機層、および陰極が順次積層されてなる有機電界発光素子において、該有機層に下記一般式(I)
【0011】
【化5】
【0012】
(式中、R1 〜R4 は各々独立に水素原子または任意の置換基を表す。なおR1 〜R4 の内、隣り合う任意の基が結合して環を形成していてもよい。)
で示されるベンゾピラン系化合物からなる色素を含有することを特徴とする、有機電界面発光素子に存する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るベンゾピラン系化合物について説明する。本発明の化合物は前記一般式(I)で示される構造を有するものであって、モルホリン環を有することが特徴である。
【0014】
一般式(I)においてR1〜R4は各々同一でも異なっていてもよく、水素原子または任意の置換基である。
該置換基としては、例えばシアノ基;ニトロ基;水酸基;アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、およびジフェニルアミノ基などの、置換されていてもよいアミノ基;フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、クロロフェニル基などの、置換されていてもよいアリール基;フェノキシ基、メチルフェノキシ基などの、置換されていてもよいアリールオキシ基;チオール基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基などの、置換されていてもよいチオール基;トリメチルシリル基、トリメトキシシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基などの、置換されていてもよいシリル基;トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基、t−ブチルジフェニルシリルオキシ基などの、置換されていてもよいシロキシ基;カルボキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの、置換されていてもよいカルボニル基;置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいアルコキシ基などが挙げられる。
R1〜R4として、好ましくは水素原子、置換されても良いアルキル基、または置換されても良いアルコキシ基を表す。
R1〜R4がアルキル基を表す場合は、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜8程度の直鎖もしくは分岐のアルキル基が挙げられる。
【0015】
これらのアルキル基は、置換されていても良く、置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基が挙げられ、置換アルキル基の総炭素数は1から8が好ましい。 置換アルキル基の具体例としては、例えば、トリフルオロメチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−(iso)プロポキシエチル基等のアルコキシ置換アルキル基等が挙げられる。
【0016】
R1〜R4がアルコキシ基を表す場合は、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、2−エチルヘキトキシ基等の炭素数1〜8程度の直鎖もしくは分岐のアルコキシ基が挙げられる。
これらのアルコキシ基は、置換されていても良く、置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基が挙げられ、置換アルキル基の総炭素数は1から8が好ましい。 置換アルキル基の具体例としては、例えば、トリフルオロメトキシ基等のハロゲン置換アルコキシ基;2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2−(iso)プロポキシエトキシ基等のアルコキシ置換アルコキシ基等が挙げられる。
【0017】
なお、R1〜R4のアルキル基およびアルコキシ基のアルキル部分はシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等のシクロアルキル構造であってもよく、該環構造は前述したような置換基を有していても、もちろんかまわない。
またR1〜R4の内、隣り合う任意の置換基が結合して、環を形成していてもよい。このような環として例えばベンゼン環、シクロヘキサン環、ジオキサン環などの環が挙げられ、好ましくは5または6員環である。
【0018】
この様な本発明化合物の代表例を下記に示すが、本発明化合物はこれらに限定されるものではない。
【0019】
【化6】
【0020】
【化7】
【0021】
つぎに、一般式(I)で示される化合物からなる色素を用いた有機電界発光素子について、図面を参照しながら説明する。
本発明の有機電界発光素子は対向する陽極と陰極の間に有機層を有し、該有機層が一般式(I)の化合物からなる色素を含むことを特徴とする。
【0022】
図1は本発明に用いられる一般的な有機電界発光素子の構造例を模式的に示す断面図であり、1は基板、2は陽極、4は正孔輸送層、5は電子輸送層、7は陰極を各々表わす。
尚、本発明における「有機層」とは、陽極と陰極の間に位置する、実質的に有機物からなる層を意味し、これらの層は本発明の性能を損なわない範囲で無機物を含んでも良い。具体的には、例えば図1で表される構造の素子における正孔輸送層4や電子輸送層5などが「有機層」に相当する。
【0023】
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリヤ性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0024】
基板1上には陽極2が設けられるが、陽極2は正孔輸送層への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、あるいは、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。陽極2は異なる物質で積層して形成することも可能である。陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度である。不透明でよい場合は陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0025】
陽極2の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層の材料に要求される条件としては、陽極からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層の発光を消光するような物質を含まないことが必要とされる。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子にはさらに耐熱性が要求される。従って、Tgとして70℃以上の値を有する材料が望ましい。
【0026】
このような正孔輸送材料としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4',4"-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J. Lumin., 72-74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun., 2175頁、1996年)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)ビフェニル−4,4’−ジアミン等、ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報)、チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報)、トリアミン化合物(特開平5−239455号公報)、ビスジピリジルアミノビフェニル、N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報)、フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報)、シラザン化合物(米国特許第4,950,950号公報)、シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報)、ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報)、2,2',7,7'-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9'-スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth. Metals, 91巻、209頁、1997年)等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、各々、混合して用いてもよい。
【0027】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7− 53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym. Adv. Tech., 7巻、33頁、1996年)等の高分子材料が挙げられる。
上記の正孔輸送材料を塗布法あるいは真空蒸着法により前記陽極2上に積層することにより正孔輸送層4を形成する。
【0028】
塗布法の場合は、正孔輸送材料を1種または2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して正孔輸送層を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
【0029】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた、陽極が形成された基板1上に正孔輸送層4を形成させる。
正孔輸送層4の膜厚は、通常、10〜300nm、好ましくは30〜100nmである。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。
【0030】
正孔輸送層4の上には電子輸送層5が設けられる。電子輸送層5に用いられる電子輸送性材料としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、注入された電子を効率よく正孔輸送層4の方向へ輸送することができることが必要である。そのためには、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れトラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。
【0031】
このような条件を満たす材料としては、テトラフェニルブタジエンなどの芳香族化合物(特開昭57−51781号公報)、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、混合配位子アルミニウムキレート錯体(特開平5−198377号公報、特開平5−198378号公報、特開平5−214332号公報、特開平6−172751号公報)、シクロペンタジエン誘導体(特開平2−289675号公報)、ペリノン誘導体(特開平2−289676号公報)、オキサジアゾール誘導体(特開平2−216791号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ペリレン誘導体(特開平2−189890号公報、特開平3−791号公報)、クマリン化合物(特開平2−191694号公報、特開平3−792号公報)、希土類錯体(特開平1−256584号公報)、ジスチリルピラジン誘導体(特開平2−252793号公報)、p−フェニレン化合物(特開平3−33183号公報)、チアジアゾロピリジン誘導体(特開平3−37292号公報)、ピロロピリジン誘導体(特開平3−37293号公報)、ナフチリジン誘導体(特開平3−203982号公報)、ビススチリルアリーレン誘導体(特開平2−247278号公報)、(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾールの金属錯体(特開平8−315983号公報)、シロール誘導体(日本化学会第70春季年会, 2D1 02及び2D1 03, 1996年)等が挙げられる。
【0032】
電子輸送層5の膜厚は、通常、10〜200 nm、好ましくは30〜100 nmである。
電子輸送層5も正孔輸送層と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
前記一般式(I)で表される化合物は、正孔輸送層4および/または電子輸送層5にドープされ発光する。例えば、電子輸送層5にドープされた場合、前述の電子輸送材料がホスト材料の役割を果たし、正孔輸送層4にドープされた場合は、前述の芳香族アミン系化合物やヒドラゾン化合物などの正孔輸送材料がホスト材料として働く。
【0033】
前記一般式(I)で表されるベンゾピラン系化合物がドープされる領域は、正孔輸送層4及び/又は電子輸送層5の、層全体であってもその一部分であってもよく、各層の膜厚方向において均一にドープされても、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば、電子輸送層5中の、正孔輸送層4との界面近傍にのみドープしたり、逆に、陰極界面近傍にドープしてもよい。なお、前記一般式(I)で表される化合物のドープされる量は、ホスト材料に対して10-3〜10重量%が好ましい。
【0034】
前記一般式(I)で表されるベンゾピラン系化合物は溶液状態で強い蛍光を示し、ホスト材料にドープされた場合素子の発光効率が向上する。特に、このベンゾピラン系化合物はホスト材料にドープされた場合、580nmより長波長の可視光を効率よく得ることができるため好ましい。
【0035】
前記一般式(I)で表されるベンゾピラン系化合物の、電子輸送層5および/または正孔輸送層4へのドープは、ホストとなる層の形成方法に準じ、塗布法あるいは真空蒸着法による該層形成時に行われる。
塗布の場合は、例えば電子輸送材料と、前記一般式(I)で表されるベンゾピラン系化合物、さらに必要により、電子のトラップや発光の消光剤とならないバインダー樹脂や、レベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し溶解した塗布溶液を調整し、スピンコート法などの方法により正孔輸送層4上に塗布し、乾燥して電子輸送層5を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔/電子移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、50重量%以下が好ましい。
【0036】
真空蒸着法の場合には、例えば、電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、前記一般式(I)で表されるベンゾピラン系化合物を別のるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-6Torr程度にまで排気した後、各々のるつぼを同時に加熱して蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板上に層を形成する。また、他の方法として、上記の材料を予め所定比で混合したものを同一のるつぼを用いて蒸発させてもよい。
【0037】
正孔輸送層4にドープする場合も、同様に行う。
陰極7は、電子輸送層5に電子を注入する役割を果たす。陰極7として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。さらに、陰極と発光層または電子輸送層の界面にLiF 、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl. Phys. Lett., 70巻,152頁,1997年;特開平10− 74586号公報;IEEE Trans. Electron. Devices,44巻,1245頁,1997年)。陰極7の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0038】
図1の構成の素子では、正孔輸送層4は陽極2から正孔を受け取る(正孔注入)機能と、受け取った正孔を電子輸送層5へ運ぶ(正孔輸送)機能を果たしており、電子輸送層5もまた、陰極7から電子を受け取る(電子注入)機能と、受け取った電子を正孔輸送層4へ運ぶ(電子輸送)機能を果たしている。
しかし本発明の素子の、さらなる発光特性や駆動安定性の向上のために、例えば図2に示すように、電子輸送層5と陰極7の間に電子注入層6を設けたり、図3に示すように、陽極2と正孔輸送層4の間に陽極バッファー層3を設けるなど、機能毎に層を分ける構造、すなわち機能分離型の素子にすることも可能である。
【0039】
図2および図3に示すように、電子輸送層5と陰極7の間に電子注入層6を設けることにより、素子の発光効率をさらに向上させることが可能である。この電子注入層6に用いられる材料には、陰極からの電子注入が容易で、電子の輸送能力がさらに大きいことが要求される。この様な電子輸送材料としては、既に電子輸送層材料として挙げた8−ヒドロキシキノリンのアルミ錯体、オキサジアゾール誘導体(Appl. Phys. Lett., 55巻, 1489頁, 1989年他)やそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの樹脂に分散した系(Appl. Phys. Lett., 61巻, 2793頁, 1992年)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2-t-ブチル9,10-N,N'-ジシアノアントラキノンジイミン(Phys. Stat. Sol. (a), 142巻, 489頁, 1994年)、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0040】
電子注入層6の膜厚は、通常、5〜200nm、好ましくは10〜100nmである。
さらに、正孔注入の効率をさらに向上させ、かつ、有機層全体の陽極への付着力を改善させる目的で、正孔輸送層4と陽極2との間に陽極バッファ層3を挿入することも行われている(図3)。陽極バッファ層3を挿入することで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果がある。陽極バッファ層に用いられる材料に要求される条件としては、陽極とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、すなわち、融点及びガラス転移温度が高く、融点としては 300℃以上、ガラス転移温度としては 100℃以上が要求される。さらに、イオン化ポテンシャルが低く陽極からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが挙げられる。
【0041】
この目的のために、これまでにポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63−295695号公報)、ヒドラゾン化合物、アルコキシ置換の芳香族ジアミン誘導体、p−(9−アントリル)−N,N−ジ−p−トリルアニリン、ポリチエニレンビニレンやポリ−p−フェニレンビニレン、ポリアニリン(Appl. Phys. Lett., 64巻、1245頁,1994年)、ポリチオフェン(Optical Materials, 9巻、125頁、1998年)、スターバスト型芳香族トリアミン(特開平4-308688号公報)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(Synth. Met., 91巻、73頁、1997年)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(J.Phys. D, 29巻、2750頁、1996年)が報告されている。
【0042】
上記陽極バッファ層材料としてよく使用される化合物としては、ポルフィリン化合物またはフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は中心金属を有していてもよいし、無金属のものでもよい。好ましいこれらの化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる:
ポルフィン
5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン
5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンコバルト(II)
5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン銅(II)
5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン亜鉛(II)
5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンバナジウム(IV)オキシド
5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン29H,31H−フタロシアニン
銅(II)フタロシアニン
亜鉛(II)フタロシアニン
チタンフタロシアニンオキシド
マグネシウムフタロシアニン
鉛フタロシアニン
銅(II)4,4’,4'',4''' −テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン
陽極バッファ層の場合も、正孔輸送層と同様にして薄膜形成可能であるが、無機物の場合には、さらに、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法が用いられる。
【0043】
以上の様にして形成される陽極バッファ層3の膜厚は、通常、3〜100nm、好ましくは10〜50nmである。
尚、図1とは逆の構造、すなわち、基板上に陰極7、電子輸送層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2および図3に示した前記各層構成とは逆の構造に積層することも可能である。
【0044】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
本発明の有機電界発光素子によれば、有機層にモルホリン構造を有する新規なベンゾピラン系化合物を含むために、駆動電圧が低く、発光効率、素子の安定性に優れた橙ないし赤色の有機電界発光が得られる。
【0045】
【実施例】
以下に実施例及び試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
実施例1
1)合成例
ベンゾピラン化合物(DYE−1)を、以下の方法にて合成した。
【0046】
【化8】
【0047】
ホルミル体A0.3g(1.5mmol)と2−ベンズイミダゾリルアセトニトリル0.23g(1.5mmol)のジメチルホルムアミド(DMF)2.5ml溶液に、ピペリジン0.17gと酢酸0.015gを加え、室温で24時間反応させた。反応後、水と少量のメタノールを加え、析出した結晶を濾別した。得られた黄色結晶0.386gには化合物Bが含まれることが、マススペクトル(MS)測定により判明した。
【0048】
得られた粗生成物B0.1gのジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)1ml溶液に、マロノニトリル0.02gを加え、140℃で2時間反応させた。反応終了後、水を添加し、得られた結晶を濾別した。
得られた結晶0.1gには化合物Cが含まれることがMS測定より判明した。化合物C0.08gのエタノール2ml溶液に濃塩酸0.5mlと水0.5mlを加え、40〜50℃で15時間反応させた。反応後、水を加え、塩化メチレンで抽出し、有機層を水洗、乾燥、濃縮して、赤褐色の結晶0.2gを得た。
【0049】
この粗生成物をカラム精製し、0.05gの結晶を得た。この化合物はMS測定の結果、目的物である化合物(DYE−1)であることがわかった。化合物Dの各種スペクトル測定結果は以下の通りである。
最大値(吸収スペクトル)
546nm(溶媒:塩化メチレン 2×10-5M)
最大値(蛍光スペクトル)
571nm(546nmで励起 溶媒:塩化メチレン 2×10-5M)
2)素子製造例
図2に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0050】
ガラス基板1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を 120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて 2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、超純水による水洗、界面活性剤を用いた超音波洗浄、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行って、真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が1.5×10-6Torr(約2.0×10-4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。
【0051】
正孔輸送層4の材料として、下記に示す構造式の4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(HT−1)
【0052】
【化9】
【0053】
をセラミックるつぼに入れ、るつぼの周囲のタンタル線ヒーターで加熱して蒸着を行った。この時のるつぼの温度は、260〜280℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.2x10-6Torr(約1.6x10-4Pa)で、蒸着速度0.2nm/秒で膜厚60nmの正孔輸送層4を得た。
次に、電子輸送層5(発光層)の材料として、下記に示す構造式のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(EM−1)
【0054】
【化10】
【0055】
と前記合成例にて得られたベンゾピラン系化合物(DYE−1)
【0056】
【化11】
【0057】
とを上記正孔輸送層4の上に同様にして100:1.5の割合で共蒸着を行なった。この時のるつぼの温度はそれぞれ285〜300℃、315〜330℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.0×10-6Torr(約1.3x10-4Pa)、EM−1の蒸着速度は0.2nm/秒で、全膜厚は30nmであった。
続いて、電子注入層6の材料として前述のアルミニウムの8−ヒドリキシキノリン錯体を上記電子輸送層5の上に蒸着した。この時のるつぼの温度は285〜300℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は8.0x10-7Torr(約1.1x10-4Pa)、蒸着速度は0.2nm/秒で、膜厚は45nmであった。
【0058】
上記の正孔輸送層3から電子注入層6を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
ここで、電子注入層6までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして 2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が3.0x10-6Torr(約4.0x10-4Pa)以下になるまで排気した。陰極7として、先ず、フッ化マグネシウム(MgF2)をモリブデンボートを用いて、蒸着速度0.1nm/秒、真空度6.0x10-6Torr(約8.0x10-4Pa)で、1.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、アルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度 0.3nm/秒、真空度1.0x10-5Torr(約1.3x10-3Pa)で膜厚40nmのアルミニウム層を形成した。さらに、その上に、陰極の導電性を高めるために銅を、同様にモリブデンボートを用いて加熱して、蒸着速度 0.4nm/秒、真空度8.0x10-6Torr(約1.1x10-33Pa)で膜厚40nmの銅層を形成して陰極7を完成させた。以上の3層型陰極7の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0059】
以上の様にして、2mmx2mm のサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表−1に示す。表−1において、発光輝度は250mA/cm2の電流密度での値、発光効率は 100cd/m2での値、輝度/電流は輝度−電流密度特性の傾きを、電圧は 100cd/m2での値を各々示す。ELスペクトルのピーク極大波長とCIE色度座標値(JIS Z8701)をあわせて示す。この素子は、鮮明な橙色の一様な発光を示した。発光ピークの波長は590nm、CIE色度座標値はx=0.53、y=0.44であった。なおホスト材料である8−ヒドロキシキノリン錯体(EM−1)の発光ピークの波長は530nmである。
【0060】
従ってベンゾピラン系化合物DYE−1をドープすることにより発光波長を変えることができ、さらに長波長の発光を効率よく得ることができた。
比較例1
発光層にDYE−1の代わりに前記式(D―2)の化合物を1.7重量%ドープすること以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子の発光特性を表−1に示す。この素子も590nmに発光ピークを持ち、橙色の発光を示したが、発光開始電圧及び駆動電圧が高く、発光効率は低かった。
【0061】
【表1】
【0062】
【発明の効果】
本発明のモルホリン構造を有するベンゾピラン系化合物は、有機EL素子用の色素として優れた蛍光性色素であり有用である。特に、モルホリン構造をもたない公知の色素と比較し、駆動電圧が低く発光効率の高い有機EL素子が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機電界発光素子の一例を示した模式断面図。
【図2】有機電界発光素子の別の例を示した模式断面図。
【図3】有機電界発光素子の別の例を示した模式断面図。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 正孔輸送層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 陰極
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