JP3967642B2 - 車両用操舵制御システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車等の車両の操舵制御システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の操舵装置、特に自動車用の操舵装置において、近年、その更なる高機能化の一端として、操舵ハンドルの操作角(ハンドル操作角)と車輪操舵角とを1:1比率に固定せず、ハンドル操作角の車輪操舵角への変換比(舵角変換比)を車両の運転状態に応じて可変とした、いわゆる可変舵角変換比機構を搭載したものが開発されている。車両の運転状態としては、例えば、車両速度(車速)を例示でき、高速運転時においては舵角変換比を小さくすることにより、ハンドル操作角の増加に対して操舵角が急激に大きくならないようにすれば、高速走行の安定化を図ることができる。他方、低速走行時には、逆に舵角変換比を大きくすることで、一杯まで切るのに必要なハンドルの回転数を減少させることができ、車庫入れや縦列駐車あるいは幅寄せなど、操舵角の大きい運転操作を非常に簡便に行なうことができる。
【0003】
舵角変換比を可変化する機構としては、例えば特開平11−334604号公報に開示されているように、ハンドル軸と車輪操舵軸とを、ギア比が可変な歯車式伝達部にて直結したタイプのものがあるが、この構成は、歯車式伝達部のギア比変更機構が複雑になる欠点がある。そこで、モータにより車輪操舵軸を回転駆動するタイプのものが、例えば特開平11−334628号公報等に提案されている。具体的には、角度検出部が検出するハンドル操作角と車両運転状態とに応じて定まる舵角変換比とに基づいて、コンピュータ処理により最終的に必要な車輪操舵角を演算し、その演算された車輪操舵角が得られるように、ハンドル軸から機械的に切り離された車輪操舵軸をモータにより回転駆動する。
【0004】
このような操舵制御方式においては、車輪操舵軸の回転をハンドル軸の回転に追従させるために、操舵軸角度位置と目標角度位置との隔たりに応じて操舵軸駆動モータの回転速度をPWM制御により調整することが行なわれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような操舵制御方式においては、自動車運転中になされる頻繁なハンドル操作により、車輪操舵軸の回転動作を司るモータの駆動頻度が非常に高くなる。従って、このモータを長期にわたって安定に作動させることが、この種の操舵制御方式を採用する自動車のメンテナンス性を向上させる上で重要である。例えば、過負荷等による過電流状態が長時間続くと、モータの性能劣化につながりやすくなる。そこで、モータに通電される電流値を電流センサによりモニタし、過電流状態が検出された場合はモータへの通電を制限する等により、モータを適度に保護しながら使用することが有効となる。
【0006】
しかしながら、モータの制御方式としてPWM制御が採用されている場合、電源電圧をスイッチングする際に、誘導性負荷特有の大きなフライホイール電流が生じ、電流検出精度が低下してしまう問題が生ずる。
【0007】
本発明は、車輪操舵軸の駆動モータをPWM制御する場合において、モータに通電される電流検出を正確に行なうことができる車両用操舵制御システムを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
本発明は、操舵用のハンドル軸に与えられる操作角と車両の運転状態とに応じて、車輪操舵軸に与えるべき操舵角を決定し、当該操舵角が得られるように車輪操舵軸を操舵軸駆動モータにより回転駆動するようにした車両用操舵制御システムにおいて、上記の課題を解決するために、
ハンドル軸の角度位置(ハンドル軸角度位置)を検出するハンドル軸角度検出部と、
車輪操舵軸の角度位置(操舵軸角度位置)を検出する操舵軸角度検出部と、
車両の運転状態を検出する運転状態検出部と、
検出されたハンドル軸角度位置と車両の運転状態とに基づいて車輪操舵軸の目標角度位置を決定し、該操舵軸角度位置が目標角度位置に近づくように、モータの動作を制御する操舵制御部と、
操舵軸駆動モータに通電される電流を検出する電流センサと、を備え、
操舵制御部は、車輪操舵軸の回転をハンドル軸の回転に追従させるために、操舵軸角度位置と目標角度位置との隔たりに応じて操舵軸駆動モータの回転速度をPWM制御のデューティ比により調整するものであり、
操舵軸駆動モータは、直流電源を用いて、各々一方の端にて結合され他方の端が通電端子とされた2相のコイルを対として通電がなされ、そのコイル対への通電端子の一方を第一端子、他方を第二端子としたとき、PWM制御方式として、第一端子を直流電源の第一極に接続した状態で非スイッチングとし、第二端子を直流電源の第二極に接続した状態でスイッチングする第一の方式と、
第一端子を直流電源の第一極に接続し第二端子を直流電源の第二極に接続した第一接続状態と、第一端子を直流電源の第二極に接続し第二端子を直流電源の第一極に接続した第二接続状態とが交互に切り替わるようにスイッチングする第二の方式と、が定められ、
操舵制御部は、操舵軸駆動モータの通電電流が基準値よりも低い第一駆動状態では第一の方式となり、また、操舵軸駆動モータの通電電流が基準値よりも高い第二駆動状態では第二の方式となるように、PWM制御方式を切り替えるPWM制御切り替え手段を有することを特徴とする。
【0009】
本発明においては、操舵軸駆動モータに通電される電流を電流センサにより検出するとともに、操舵軸駆動モータをPWM制御により回転制御する。そして、該モータの、通電に関与する2相のコイル対のスイッチング方式を、上記のように操舵軸駆動モータの通電電流値(すなわち回転速度)に応じて使い分けることにより、車輪操舵軸の駆動モータがスイッチングされているにもかかわらず、モータに通電される電流検出を常に正確に行なうことができる。
【0010】
具体的には、モータの通電電流レベルが、所定の閾値よりも高い第二駆動状態(特に、急ハンドルを切ったときに生じやすい)では、上記の第二の方式を採用する。この方式の要旨は、コイル対の第一端子と第二端子との直流電源への接続極性が所定のデューティ比により交互に切り替わるようにスイッチングする点にある。方式としては方形波交流通電と類似しているが、印加電圧波形における正半波期間と負半波期間との比率がデューティ比に応じて任意に調整され、両半波の差分に応じてモータ駆動のための平均電圧レベルを生ずる。この第二の方式は、2つのコイルが正又は負のいずれかの極性にて電源にほぼ常時接続されているために、スイッチングに伴なう電源へのフライバック電流(フライホイール電流)がほとんど生じない利点がある。従って、電源からモータへ供給される電流を電流センサにより検出する際に、スイッチングによるフライホイール電流の影響を受けにくく、検出精度を高めることができる。従って、急ハンドル時のような、モータの通電電流レベル(モータの負荷あるいは回転速度にも反映される)が高くなる場合に有利であることは明らかである。
【0011】
他方、本発明の対象となる操舵制御システムにおいては、車輪操舵軸の回転をハンドル軸の回転に追従させるために、操舵軸角度位置と目標角度位置との隔たりに応じて操舵軸駆動モータの回転速度をPWM制御のデューティ比により調整する。従って、追従制御が進んで操舵軸角度位置が目標角度位置に接近してくると、オーバーシュートしないように、モータの回転を低速で精密に制御する必要がある。上記第二の方式は、こうした低速領域での精密制御には余り向かない欠点がある。その理由は以下の通りである。すなわち、モータのコイルのスイッチングにはFETやバイポーラトランジスタなどの半導体スイッチング素子が用いられるが、このような半導体スイッチング素子に、PWM制御に使用される急峻なスイッチング波形を与えると、出力波形は必ずしも急峻なエッジを示さず、図16に示すような遅れδtを生ずる。この遅れは、pn接合容量の電荷放電の影響を受けやすいスイッチOFF時に特に生じやすい(従って、高速スイッチングが要求される場合は、接合容量放電の影響がバイポーラトランジスタよりは生じにくいFETを用いることが有利である)。
【0012】
上記第二の方式では、コイル対の極性反転時に、各コイルのスイッチングを司る半導体スイッチング素子のON/OFFを同時に切り替える必要がある。しかし、正極性用の切替信号と負極性用の切り替え信号とを、対応するスイッチング素子に同時に与えると、上記遅れδtの影響により、短時間ではあるが2つの極性の通電経路が同時に電源接続される不具合を生ずる。そのため、正極性用切替信号と負極性用切替信号との間には、上記遅れδtを見込んで一定のインターバルを設定する必要がある。該インターバル期間はいずれのコイルも通電されないデッドタイムとなるので、図17に示すように、PWM制御においては、このデッドタイムよりもON期間が短くなるデューティ比ηは意味を持たない。従って、第二の方式によるモータの特性は低負荷回転側での直線性が悪くなり、例えば目標角度位置への漸近制御を行なうには不向きである。また、デッドタイムの存在により、上記第二の方式により無理に低負荷回転側での制御を行なおうとすると、振動が発生しやすくなる欠点もある。
【0013】
そこで、本発明においては、モータの通電電流レベルが低くなる低負荷回転領域(第一駆動状態)においては、前記の第一の方式を用いる。該第一の方式は、PWM制御のスイッチングにおいては、両コイルを同一極性で通電しながら、電源電圧の印加が所定のデューティ比にてON/OFFされる。従って、第二の方式のような極性切り替えに伴なうデッドタイムの設定を考慮する必要がないので、図18に示すように、モータの特性は、低負荷回転領域でも直線性が良好となり、操舵軸角度位置が目標角度位置に近づくときの最終段階や、ゆっくりとハンドルを切った場合などに好適である。また、振動も生じにくい。他方、この方式では、スイッチングがOFFになるときは、コイルには電源電圧が印加されないので、フライバック電流が生じやすいが、デューティ比が小さい第一駆動状態では、これはほとんど問題にならない(発明の実施の形態においては、これを計算例で示している)。
【0014】
本発明の車両用操舵制御システムには、電流センサによる電流検出結果に基づいて、操舵軸駆動モータへの通電を制限するモータ作動制限手段を設けることができる。このようにすると、例えば電流センサによる電流検出結果が操舵軸駆動モータの過電流状態を示すものとなったとき、モータへの通電が適切に制限され、過度の温度上昇等が抑制されるので、モータ寿命を向上させることができる。そして、本発明により、電流制限が必要となる可能性がある第二駆動状態では、PWM方式として前記第二の方式を採用することにより、モータに通電される電流の検出を正確に行なうことができ、ひいては、モータ作動制限手段を常に最適な状態で機能させることができる。他方、電流制限の必要性が生じにくい第一駆動状態では、前記第一の方式を採用することにより、低負荷回転での制御性も両立できる。
【0015】
本発明の車両用操舵制御システムは、ハンドル軸と車輪操舵軸とが機械的に分離された構造を採用することができる。この場合、ハンドル軸への手動操作力が車輪操舵軸に直接伝達されるように、両軸を一体回転可能にロック結合したロック状態と、該ロック結合を解除したアンロック状態との間で切り替え可能なロック機構を設けておくことができる。このようにすると、システム上のトラブルにより所期の操舵制御が行なえなくなったときは、ハンドル軸と車輪操舵軸とをロック結合することにより、ハンドルによるマニュアル操舵が可能となり、車両の運転を問題なく継続できる。そして、モータ作動制限手段は、ロック機構をロック状態とし操舵軸駆動モータを停止させるロック制御手段を有するものとして構成できる。この通電制限も、例えば前述のロック機構を用いて行なうことが可能である。つまり、ハンドル軸と車輪操舵軸とをロック結合することにより、モータの動作を容易に制限もしくは休止させることができる。例えば、操舵軸駆動モータが過電流状態となったときは、ハンドル軸と車輪操舵軸とをロック結合して操舵可能な状態を確保しつつ、モータへの通電を制限もしくは停止し、温度上昇を未然に防ぐことができる。
【0016】
なお、PWM制御の方式切り替えは、モータの通電電流が基準値よりも高いか低いか(境界値はどちらに含めてもよい)により行なう。この場合、前記電流センサによる電流検出値と予め定められた閾値とを比較して、その比較結果に基づきPWM制御方式を切り替える方式が、電流レベルを直接検出して判断するので正確であり、本発明に好適に採用できる。しかし、モータの通電電流を反映したほかのパラメータが閾値より高くなるかどうかにより切り替えの判定を行なうようにしてもよい。例えば、パワーステアリング装置を搭載した自動車等においては、車輪操舵軸の回転負荷が車両走行状態(例えば車速)等によって大きく変化せず、モータの負荷も影響を受けにくい。従って、モータの通電電流は、モータの回転数(回転速度)によってほぼ一義的に決まるので、この回転速度を電流検出値に代えて用いることが可能である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明が適用される車両用操舵制御システムの、全体構成の一例を模式的に示したものである(なお、本実施形態において「車両」は自動車とするが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない)。該車両用操舵制御システム1は、操舵用ハンドル2に直結されたハンドル軸3と、車輪操舵軸8とが機械的に分離された構成を有する。車輪操舵軸8はアクチュエータとしてのモータ6により回転駆動される。車輪操舵軸8の先端はステアリングギアボックス9内に延び、該車輪操舵軸8とともに回転するピニオン10がラックバー11を軸線方向に往復動させることにより、車輪13,13の転舵角が変化する。なお、本実施形態の車両用操舵制御システム1においては、ラックバー11の往復動が、周知の油圧式、電動式あるいは電動油圧式のパワーアシスト機構12により駆動補助されるパワーステアリングが採用されている。
【0018】
ハンドル軸3の角度位置φは、ロータリエンコーダ等の周知の角度検出部からなるハンドル軸角度検出部101により検出される。他方、車輪操舵軸8の角度位置θは、同じくロータリエンコーダ等の角度検出部からなる操舵軸角度検出部103により検出される。また、本実施形態においては、自動車の運転状態を検出する運転状態検出部として、車速Vを検出する車速検出部(車速センサ)102が設けられている。車速検出部102は、例えば車輪13の回転を検出する回転検出部(例えばロータリエンコーダやタコジェネレータ)で構成される。そして、操舵制御部100が、検出されたハンドル軸3の角度位置φと車速Vとに基づいて、車輪操舵軸8の目標角度位置θ’を決定し、該車輪操舵軸8の角度位置θが目標角度位置θ’に近づくように、モータドライバ18を介してモータ6の動作を制御する。
【0019】
なお、ハンドル軸3と車輪操舵軸8との間には、両者を一体回転可能にロック結合したロック状態と、該ロック結合を解除したアンロック状態との間で切り替え可能なロック機構19が設けられている。ロック状態では、ハンドル軸3の回転角が変換されることなく(つまり、舵角変換比が1:1)車輪操舵軸8に伝達され、マニュアルステアリングが可能となる。該ロック機構19のロック状態への切り替えは、異常発生時などにおいて操舵制御部100からの指令によりなされる。
【0020】
図2は、モータ6による車輪操舵軸8の駆動部ユニットの構成例を、自動車への取付状態にて示すものである。該駆動部ユニット14において、ハンドル2(図1)の操作によりハンドル軸3を回転させると、モータケース33がその内側に組み付けられたモータ6とともに一体的に回転するようになっている。本実施形態においては、ハンドル軸3は、ユニバーサルジョイント319を介して入力軸20に連結され、該入力軸20がボルト21,21を介して第一カップリング部材22に結合されている。この第一カップリング部材22にはピン31が一体化されている。他方、ピン31は、第二カップリング部材32の一方の板面中央から後方に延びるスリーブ32a内に係合してはめ込まれている。他方、筒状のモータケース33は、第二カップリング部材32の他方の板面側に一体化されている。なお、符号44はゴムあるいは樹脂にて構成されたカバーであり、ハンドル軸3と一体的に回転する。また、符号46は、コックピットパネル48に一体化された駆動部ユニット14を収容するためのケースであり、符号45は、カバー44とケース46との間をシールするシールリングである。
【0021】
モータケース33の内側には、コイル35,35を含むモータ6のステータ部分23が一体的に組み付けられている。該ステータ部分23の内側には、モータ出力軸36がベアリング41を介して回転可能に組み付けられている。また、モータ出力軸36の外周面には永久磁石からなる電機子34が一体化されており、この電機子34を挟む形でコイル35,35が配置されている。なお、コイル35,35からは、モータケース33の後端面に連なるように給電端子50が取り出され、該給電端子50において給電ケーブル42によりコイル35,35に給電がなされる。
【0022】
後述の通り、本実施形態においてモータ6はブラシレスモータであり、給電ケーブル42は、該ブラシレスモータの各相のコイル35,35に個別に給電する素線を集合させた帯状の集合ケーブルとして構成されている。そして、モータケース33の後端側に隣接する形でハブ43aを有するケーブルケース43が設けられ、その中に給電ケーブル42が、ハブ43aに対してゼンマイ状に巻かれた形で収容されている。給電ケーブル42の、給電端子50に接続されているのと反対の端部は、ケーブルケース43のハブ43aに固定されている。そして、ハンドル軸3がモータケース33ひいては給電端子50とともに正方向又は逆方向に回転すると、ケーブルケース43内の給電ケーブル42は、ハブ43aへの巻き付き又は繰り出しを生じさせることにより、上記モータケース33の回転を吸収する役割を果たす。
【0023】
モータ出力軸36の回転は、減速機構7を介して所定比率(例えば1/50)に減速された上で車輪操舵軸8に伝達される。本実施形態において減速機構7は、ハーモニックドライブ減速機にて構成してある。すなわち、モータ出力軸36には、楕円型のインナーレース付ベアリング37が一体化され、その外側に変形可能な薄肉の外歯車38がはめ込まれている。そして、この外歯車38の外側に、カップリング40を介して車輪操舵軸8が一体化された内歯車39,139が噛み合っている。内歯車39,139は、同軸的に配置された内歯車(以下、第一内歯車ともいう)39と内歯車(以下、第二内歯車ともいう)139とからなり、第一内歯車39がモータケース33に固定されて該モータケース33と一体回転する一方、第二内歯車139はモータケース33に非固定とされ、該モータケース33に対して相対回転可能とされている。第一内歯車39はこれと噛み合う外歯車38との歯数差がゼロであり、外歯車38との間での相対回転を生じない(つまり、回転するモータ出力軸36に対して、第一内歯車39ひいてはモータケース33及びハンドル軸3が、遊転可能に結合されているともいえる)。他方、第二内歯車139は外歯車38よりも歯数が大きく(例えば2)、内歯車139の歯数をN、外歯車38と内歯車139との歯数差をnとすると、モータ出力軸36の回転をn/Nに減速した形で車輪操舵軸8に伝達する。また、内歯車39,139は、本実施形態においては、コンパクト化を図るために、ハンドル軸3の入力軸20、モータ出力軸36及び車輪操舵軸8が同軸的に配置されている。
【0024】
次に、ロック機構19は、ハンドル軸3に対して相対回転不能なロックベース部(本実施形態においてはモータケース33)側に固定されたロック部材51と、ロック受けベース部(本実施形態においては、モータ出力軸36側)に設けられたロック受け部材52とを有する。図3に示すように、ロック部材51は、ロック受け部材52に形成されたロック受け部53に係合するロック位置と、該ロック受け部53から退避したアンロック位置との間で進退可能に設けられている。本実施形態においては、車輪操舵軸8と一体的に回転するロック受け部材52の周方向にロック受け部53が所定の間隔で複数形成され、ロック部材51の先端に設けられたロック部51aが、車輪操舵軸8の回転角位相に応じて、それら複数のロック受け部53の任意の1つのものに選択的に係合するようになっている。ハンドル軸3はモータケース33に対し(本実施形態では、カップリング22及びピンにより)相対回転不能に結合されている。ロック部材51とロック受け部材52とが非係合(非ロック状態)の場合は、モータ出力軸36はモータケース33に対して回転し、その回転が外歯車38を経て第一内歯車39及び第二内歯車139にそれぞれ伝達される。モータケース33に固定された第一内歯車39は、前述の通り外歯車38に対して相対回転しないので、結果的にハンドル軸3と同速で回転する(つまり、ハンドル操作に追従して回転する)。また、第二内歯車139は、モータ出力軸36の回転を車輪操舵軸8に減速して伝達し、車輪操舵軸8の回転駆動を担う。他方、ロック部材51とロック受け部材52とが係合してロック状態になると、モータ出力軸36はモータケース33に対して相対回転不能となる。そして、減速機構7の内歯車39,139のうち、第一内歯車39がモータケース33に固定されているから、第一内歯車39、外歯車38及び第二内歯車139の順でハンドル軸3の回転が車輪操舵軸8に直接伝達されることとなる。
【0025】
なお、本実施形態においては、ロック受け部材52は、モータ出力軸36の一端の外周面に取り付けられ、各ロック受け部53は、該ロック受け部材52の外周面から半径方向に切れ込む凹状に形成されている。また、図2に示すように、ロック部材51は、モータケース33に設けられた回転ベース300に対し、車輪操舵軸8とほぼ平行な軸線周りに回転可能に取り付けられ、その後端部55aが結合されている。また、ソレノイド55の付勢が解除されたときに、ロック部材51を元の位置に弾性復帰させる弾性部材54が設けられている。ソレノイド55の付勢及び付勢解除の動作により、ソレノイド55aの先端に設けられた凸部55aとロック部材51の一端部51bに形成された溝部を介してロック部材51の先端に形成されたロック部51aが、前記したロック/アンロックのためにロック受け部材52に対し接近/離間する。なお、ソレノイド55の付勢時がロック状態となるかアンロック状態となるかは選択可能であるが、本実施形態では、ソレノイド55の付勢時にアンロックとなるように定めてある。これによると、電源遮断時等においてソレノイド55が付勢解除されたとき、弾性部材54の作用によりロック状態となり、マニュアル操舵が可能となる。
【0026】
図4は、操舵制御部100の電気的構成の一例を示すブロック図である。操舵制御部100の要部をなすのは2つのマイコン110及び120である。主マイコン110は、主CPU111、制御プログラムを格納したROM112、CPU111のワークエリアとなる主CPU側RAM113及び入出力インターフェース114を有する。また、副マイコン120は、副CPU121、制御プログラムを格納したROM122、副CPU121のワークエリアとなる副CPU側RAM123及び入出力インターフェース124を有する。車輪操舵軸8を駆動するモータ6(アクチュエータ)の動作制御を直接行なうのは主マイコン110であり、副マイコン120は、必要なパラメータ演算等、モータ6の動作制御に必要なデータ処理を主マイコン110と並行して行なうとともに、そのデータ処理結果を主マイコン110との間で通信することにより、主マイコン110の動作が正常であるかどうかを監視・確認し、必要に応じて情報の補完を行なう補助制御部としての機能を果たす。本実施形態において主マイコン110と副マイコン120とのデータ通信は、入出力インターフェース114,124間の通信によりなされる。なお、両マイコン110及び120は、自動車の運転終了後(すなわち、イグニッションOFF後)においても、図示しない安定化電源からの電源電圧Vcc(例えば+5V)の供給を受け、RAM113,123あるいはEEPROM(後述)115の記憶内容が保持されるようになっている。
【0027】
ハンドル軸角度検出部101、車速検出部102及び操舵軸角度検出部103の各出力は、主マイコン110及び副マイコン120の入出力インターフェース114,124にそれぞれ分配入力される。本実施形態では、いずれの検出部もロータリエンコーダで構成され、そのエンコーダからの計数信号が図示しないシュミットトリガ部を経て入出力インターフェース114,124のデジタルデータポートに直接入力されている。また、主マイコン110の入出力インターフェース114には、前述のロック機構19の駆動部をなすソレノイド55が、ソレノイドドライバ56を介して接続されている。
【0028】
モータ6はブラシレスモータ、本実施形態では3相ブラシレスモータにて構成され、PWM制御により回転速度が調整される。また、モータドライバ18には、モータ6の電源となる車載バッテリー57が接続されている。モータドライバ18が受電するバッテリー57の電圧(電源電圧)Vsは、自動車の各所に分散した負荷の状態や、オルターネータの発電状態により随時変化する(例えば9〜14V)。本実施形態においては、このような変動するバッテリー電圧Vsを、安定化電源回路を介さず、モータ電源電圧として直接使用する。操舵制御部100は、このように相当幅にて変動する電源電圧Vsの使用を前提として、モータ6の制御を行なうので、電源電圧Vsの検出部が設けられている。本実施形態では、モータ6への通電経路(ドライバ18の直前)から電圧検出用の分岐経路が引き出され、そこに設けられた分圧抵抗60,60を経て電圧検出信号を取り出している。該電圧検出信号はコンデンサ61により平滑化された後、電圧フォロワ62を経て入出力インターフェース114,124のA/D変換機能付入力ポート(以下、A/Dポートという)に入力される。
【0029】
また、過電流発生の有無など、モータ6の通電状態を監視するために、モータ6への通電経路上に電流検出部が設けられている。具体的には、経路上に設けられたシャント抵抗(電流検出抵抗)58の両端電圧差を電流センサ70により検出し、入出力インターフェース114,124のA/Dポートに入力するようにしている。電流センサ70は、例えば図6に示すように、シャント抵抗58の両端電圧を、電圧フォロワ71,72を介して取り出し、オペアンプ73と周辺の抵抗器74とからなる差動増幅器75により増幅して出力するものである。差動増幅器75の出力は、シャント抵抗58を流れる電流値に比例したものとなるので、これを電流検出値Isとして用いることができる。なお、シャント抵抗以外にも、ホール素子や電流検出コイルなど、電磁的な原理に基づいて電流検出するプローブを用いてもよい。
【0030】
電流センサ70が出力する電流検出値Isは、比較器104にて基準値IRと比較され、該基準値IRよりも電流検出値Isが小さい場合には、モータ6のPWM制御方式が前述の第一の方式に設定され、Isよりも大きい場合には同じく第二の方式に設定される。本実施形態においては、電流センサ70による電流検出値Isの出力が比較器104に分岐入力され、基準値IRと比較される。比較器104は、IsがIRよりも大きいかあるいは小さいかに応じた二値の出力を行なう。この比較器104の出力を受けて主マイコン110は、Is<IRであれば第一の方式を選択するフラグ値(例えば「1」)を、Is>IRであれば第二の方式を選択する選択するフラグ値(例えば「0」)を、RAM113のPWM方式選択フラグにセットする。なお、比較器104はオペアンプで構成され、チャタリング防止のための不感帯を正帰還抵抗により形成してある。なお、IsとIRとの比較を、主マイコン110においてソフトウェア的に行うことももちろん可能である。この場合、Isの値を主マイコン110に入力し、IRとの大小比較を行って、その比較結果に応じてフラグ値を同様にセットする処理を行う。なお、不感帯処理については、前回のIsの測定結果と今回のIsの測定結果との大小関係を比較できるようにしておき、今回のIsが増加側に動いてきたときの閾値と、減少側に動いてきたときとの閾値とを互いに異ならせることにより、不感帯を形成する。なお、前回のIsの測定結果と今回のIsの測定結果との組み合わせ毎に、フラグ値をマップの形で記憶しておき、常時そのマップを参照してフラグ値を決定するようにしてもよい。
【0031】
図4に戻り、両マイコン110,120のRAM113,123には、それぞれ以下のようなメモリエリアが形成されている。
(1)車速(V)検出値メモリ:車速センサ102からの現在の車速Vの検出値を記憶する。
(2)ハンドル軸角度位置(φ)カウンタメモリ:ハンドル軸角度位置検出部101をなすロータリエンコーダからの計数信号をカウントし、ハンドル軸角度位置φを示すそのカウント値を記憶する。なお、ロータリエンコーダは回転方向の識別が可能なものを使用し、正方向回転の場合はカウンタをインクリメントし、逆方向回転の場合はデクリメントする。
(3)舵角変換比(α)算出値メモリ:車速検出値に基づいて算出された舵角変換比αを記憶する。
(4)目標操舵軸角度位置(θ’)算出値メモリ:現在のハンドル軸角度位置φと舵角変換比αとの値から、例えばφ×αにより算出された操舵軸角度位置の目標値、すなわち目標操舵軸角度位置θ’の値を記憶する。
(5)操舵軸角度位置(θ)カウンタメモリ:操舵軸角度検出部103をなすロータリエンコーダからの計数信号をカウントし、操舵軸角度位置θを示すそのカウント値を記憶する。
(6)Δθ算出値メモリ:目標操舵軸角度位置θ’と現在の操舵軸角度位置θとの隔たりΔθ(=θ’−θ)の算出値を記憶する。
(7)電源電圧(Vs)検出値メモリ:モータ6の電源電圧Vsの検出値を記憶する。
(8)デューティ比(η)決定値メモリ:モータ6をPWM通電するための、Δθと電源電圧Vsとに基づいて決定されたデューティ比ηを記憶する。
(9)電流(Is)検出値メモリ:電流センサ70による電流Isの検出値を記憶する。
(10)PWM方式選択フラグ(前述)。
【0032】
そして、上記主マイコン110は、ROM112に記憶された制御プログラムにより、本発明の以下の各手段として機能する(副マイコン120も、ROM122に記憶された制御プログラムにより、主マイコン監視用に同様の処理が実行される)。
▲1▼PWM制御切り替え手段:PWM方式選択フラグの値を参照して、PWM方式を第一の方式と第二の方式との間で切り替える。
▲2▼モータ作動制限手段:電流センサ70の異常判定結果を受けた場合に、ロック機構19のロック用ソレノイド55の付勢状態を切り替えて、ハンドル軸3と車輪操舵軸8とをロック結合状態とし、モータ6を停止させる(ロック制御手段)。
【0033】
また、主マイコン110の入出力インターフェース114には、運転終了時(つまり、イグニッションOFF時)における車輪操舵軸8の角度位置、すなわち終了角度位置を記憶するためのEEPROM115が第二の記憶部として設けられている。該EEPROM115(PROM)は、主CPU111が主CPU側RAM112に対するデータ読出し/書込みを行なう第一の動作電圧(+5V)においては、主CPU111によるデータの読出しのみが可能であり、他方、第一の動作電圧(+5V)とは異なる第二の動作電圧(本実施形態では、第一の動作電圧より高い電圧が採用される:例えば+7V)を設定することにより主CPU111によるデータの書込みが可能となるものであり、主CPU111が暴走しても内容が誤って書き換えられることがない。第二の動作電圧は、EEPROM115と入出力インターフェース114との間に介在する図示しない昇圧回路によって生成される。
【0034】
以下、車両用操舵制御システム1の動作について説明する。
図12には、主マイコン110による制御プログラムの主ルーチンの処理の流れを示すものである。S1は初期化処理であり、前回イグニッションスイッチをOFFにしたときの終了処理にてEEPROM115に書き込まれている車輪操舵軸8の終了角度位置(後述)を読み出し、該終了角度位置を、処理開始に際しての車輪操舵軸8の初期角度位置として設定することを要旨とする。具体的には、終了角度位置を示すカウンタ値を、前述の操舵軸角度位置カウンタメモリにセットする。なお、後述するEEPROM115へのデータ書込み完了フラグは、この時点でクリアしておく。
【0035】
初期化処理が終了すれば、S2に進んで操舵制御処理となる。該操舵制御処理は、パラメータサンプリングの間隔を均一化するために、一定の周期(例えば数百μs)にて繰り返し実行される。その詳細を、図13により説明する。S201においては、現在の車速Vの検出値をリードし、次いでS202ではハンドル軸角度位置φをリードする。そして、S203においては、車速Vの算出値から、ハンドル軸角度位置φを目標操舵軸角度位置θ’に変換するための舵角変換比αを決定する。舵角変換比αは、車速Vに応じて異なる値が設定される。具体的には、図10に示すように、車速Vが一定以上に大きい状態では、舵角変換比αは小さく設定され、車速Vが一定以下に小さい低速走行時には舵角変換比αは大きく設定される。本実施形態では、図9に示すような、種々の車速Vに対応した舵角変換比αの設定値を与えるテーブル130をROM112(122)に格納しておき、このテーブル130を参照して現在の車速Vに対応する舵角変換比αを補間法により算出する。なお、本実施形態においては、車両の運転状態を示す情報として車速Vを用いているが、これ以外にも、車両が受ける横圧や路面の傾斜角等を車両の運転状態を示す情報としてセンサにより検出し、その検出値に応じて舵角変換比αを特有の値に設定することが可能である。また、車速Vに応じて舵角変換比αの基本値を決定し、上記のような車速以外の情報に基づいて、その基本値を随時補正して使用することも可能である。
【0036】
S204では、検出されたハンドル軸角度位置φに、決定された舵角変換比αを乗じて目標操舵軸角度位置θ’を算出する。そして、S205において、現在の操舵軸角度位置θを読み取る。S206では、操舵軸角度位置カウンタから求められた現在の操舵軸角度位置θと目標操舵軸角度位置θ’との隔たりΔθ(=θ’−θ)を算出する。さらにS207においては、現在の電源電圧Vsの検出値を読み取る。
【0037】
モータ6は、目標操舵軸角度位置θ’と現在の操舵軸角度位置θとの差Δθが縮小するように車輪操舵軸8を回転駆動する。そして、操舵軸角度位置θが目標操舵軸角度位置θ’に迅速かつスムーズに近づくことができるように、Δθが大きいときはモータ6の回転速度を大きくし、逆にΔθが小さいときはモータ6の回転速度を小さくする。基本的にはΔθをパラメータとした比例制御であるが、オーバーシュートやハンチング等を抑制し、制御の安定化を図るために、Δθの微分あるいは積分を考慮した周知のPID制御を行なうことが望ましい。
【0038】
モータ6は前述の通りPWM制御されており、回転速度は、そのデューティ比ηを変更することにより調整される。電源電圧Vsが一定であれば、デューティ比により回転速度をほぼ一義的に調整できるが、本実施形態では前述の通り電源電圧Vsは一定でない。従って、電源電圧Vsも考慮してデューティ比ηを定めるようにする。例えば、図11に示すように、種々の電源電圧VsとΔθとの各組み合わせに対応したデューティ比ηを与える二次元のデューティ比変換テーブル131をROM112(122)に格納しておき、電源電圧Vsの検出値とΔθの算出値に対応するデューティ比ηの値を読み取って用いることができる。なお、モータ6の回転速度は負荷によっても変動する。この場合、電流センサ70によるモータ電流Isの検出値を元に、モータ負荷の状態を推定し、デューティ比ηを補正して用いることも可能である。
【0039】
次に、S209に進み、電流検出処理となる。ここでは、電流センサ70が出力するモータ6の電流検出値をリードする。そして、電流検出値Isが規定の条件を超えて大きくなったときは過電流と判断し、前記と同様にハンドル軸3と車輪操舵軸8とのロックを行なって、モータ6を停止させる。例えば、電流検出値Isが、規定値よりも高い状態が一定時間以上継続する場合は過電流と判断して、上記のロック機構19を作動させることができる(この場合、過電流状態が解消されれば、ロックを解除する)。
【0040】
ここまでの処理は、図4の主マイコン110と副マイコン120との双方にて並列的に実行される。例えば、主マイコン110の動作が正常であるかどうかは、主マイコン110のRAM113に記憶された各パラメータの演算結果を副マイコン120に随時転送し、副マイコン120側にて、RAM123の記憶内容と照合することにより、異常発生の有無を監視させることができる。他方、主マイコン110側では、決定されたデューティ比ηを元にPWM信号を生成する。そして、操舵軸角度検出部103をなすロータリエンコーダからの信号を参照してモータドライバ18に対し、通電に関与する相のコイルをスイッチングするFET(図7)へ該PWM信号を出力することにより、モータ6をPWM制御する。
【0041】
図8に戻り、S3ではイグニッションスイッチがOFFされているかどうかを確認し、もしOFFされている場合はS4の終了処理となる。すなわち、イグニッションスイッチがOFFになっている場合は、自動車の運転が終了したことを意味するから、主マイコン110において操舵軸角度位置カウンタに記憶されている、車輪操舵軸8の終了角度位置を読み出し、これをEEPROM115に格納し、さらに、RAM113に設けられたデータ書込み完了フラグをセットして処理を終了する。
【0042】
以下、モータ6のPWM制御の実施形態について詳しく説明する。モータ6は前述の通り、3相ブラシレスモータにて構成されている。図2に示すコイル35,35は、図5に示すように、120゜間隔で配置された3相のコイルU,V,Wからなり、これらのコイルU,V,Wと、電機子34との相対的な角度関係が、モータ内に設けられた角度センサをなすホールICにより検出される。そして、これらホールICの出力を受けて、図1のモータドライバ18は、図5に示すように、コイルU,V,Wの通電を、W→U(1)、U→V(3)、V→W(5)のごとく循環的に順次切り替える(正方向回転の場合:逆方向回転の場合は、上記の逆順のスイッチングとなる)。図8(b)に、正方向回転の場合の、各相のコイルの通電シーケンスを示している(「H」が通電、「L」が非通電を表す:逆方向回転の場合は、図の左右を反転したシーケンスとなる)。図中の括弧書きの数字は、図5の対応する番号における電機子34の角度位置を表している。
【0043】
図4に戻り、モータ6の回転制御は、上記コイルU,V,Wの各相の通電切り替えシーケンスに、駆動制御部100(本実施形態では、主マイコン110)からのPWM信号によるデューティ比制御シーケンスが重畳された形で行なわれる。図7は、モータドライバ18の回路例を示すもので、コイルU,V,Wの各端子u,u’,v,v’,w、w’に対応したFET(半導体スイッチング素子)75〜80が、周知のH型ブリッジ回路を構成するように配線されている(符号87〜92は、コイルU,V,Wのスイッチングに伴なう誘導電流のバイパス経路を形成するフライホイールダイオードである)。ANDゲート81〜86によりモータ側のホールIC(角度センサ)からのスイッチング信号と駆動制御部100からのPWM信号との論理積信号を作り、これを用いてFET75〜80をスイッチング駆動すれば、通電に関与する相のコイルを選択的にPWM通電することができる。
【0044】
なお、駆動制御部100側においてFET75〜80にPWM信号を順次与えるためのタイミングは、ホールIC(角度センサ)からの信号を駆動制御部100に分配することにより認識させてもよいが、本実施形態では、別途ロータリエンコーダを用いてこれを検出している。このロータリエンコーダはモータ出力軸36の回転角度を検出するものであり、その角度検出値は減速後の車輪操舵軸8の角度位置と一義的な対応関係を有する。そこで、本実施形態では、このロータリエンコーダを操舵軸角度検出部103として利用する。
【0045】
図8(a)は、上記のロータリエンコーダを模式的に示すもので、ブラシレスモータの通電シーケンスを制御するために、時系列的な出現順序が定められたコイル通電パターンを各々特定するためのビットパターンが、円板の周方向に一定の角度間隔で形成されたものである。本実施形態においては、3相ブラシレスモータを使用しているので、図8(b)に示すコイルU,V,Wの通電シーケンスが得られるように、その(1)〜(6)(図5参照)の通電パターンに対応した6種類のビットパターンが、円板の周方向に30゜間隔で形成されている。従って、モータ6の電機子34が回転すると、これと同期回転する上記ロータリエンコーダからは、現在通電されるべきコイルを特定するビットパターンが刻々出力される。そこで、駆動制御部100は、このエンコーダのビットパターンを読み取ることにより、PWM信号を送るべきコイルの端子(すなわち、図7のFET75〜80)を自発的に決定することができる。なお、本実施形態において、PWM波形の1波長の長さは例えば50μs程度に設定されている。
【0046】
なお、モータ出力軸36の回転は減速されて車輪操舵軸8に伝達されるから、車輪操舵軸8が1回転する間に、ロータリエンコーダが設けられるモータ出力軸36は複数回回転する。従って、モータ出力軸36の絶対角度位置のみを示すエンコーダのビットパターンからは、車輪操舵軸8の絶対角度位置を知ることはできない。従って、図4に示すように、RAM113(123)内に、ビットパターン変化の検出回数を計数するカウンタ(操舵軸角度位置カウンタ)を形成し、操舵軸角度位置(θ)をそのカウント数から求めるようにしてある。従って、操舵軸角度検出部103は機能的にはインクリメント型ロータリエンコーダに相当するものとみなすことができる。なお、モータ出力軸36の絶対角度位置についてはビットパターンの種別により読み取ることができるから、そのビットパターンの変化順序をモニタすれば、モータ出力軸36ひいては車輪操舵軸8の回転方向(すなわち、ハンドルを切る向きである)を知ることができる。従って、車輪操舵軸8の回転方向が正であれば上記のカウンタをインクリメントし、逆であればカウンタをデクリメントする。
【0047】
PWM制御方式は第一の方式と第二の方式の2通りがあり、PWM方式選択フラグ(図4)のセット値を参照して随時切り替えられる。すなわち、電流検出値Isと基準値IRとの比較により、Is<IRとなる第一駆動状態(すなわち、モータが低負荷回転する状態)においては、図14に示す第一の方式が採用される。他方、Is>IRとなる第一駆動状態(すなわち、モータが高負荷回転する状態)においては、図15に示す第二の方式が採用される。
【0048】
既に説明した通り、相U,V,Wの各コイルは、U→V、V→W、W→Uの順で、各々一方の端にて結合され他方の端が通電端子とされた2相のコイルを対として通電がなされる。例えば、コイル対U→Vの通電時について考えると、図7のH型ブリッジ回路において、コイルU側である第一端子を直流電源の正極(第一極)に接続した極性と、コイルV側である第二端子を直流電源の負極(第二極)に接続した極性との2通りの電源接続極性がある。前者の極性では、スイッチu(FET75)とスイッチv’(FET78)とをONにし、後者の極性では、スイッチu’(FET76)とスイッチv(FET77)とをONにする。
【0049】
図14の第一の方式は、電圧印加の極性を一方に固定しつつ、コイル対の第一端子を車載バッテリー(直流電源)57の第一極(例えば正極)に接続した状態で非スイッチングとし、第二端子を同じく第二極(例えば負極:接地接続も負極接続と概念的に等価とみなす)に接続した状態で、前述の処理にて決定されたデューティ比ηによりスイッチングする方式である。例えば図14のU→V通電時のタイムチャートにおいては、コイルU側のスイッチu(FET75)を連続的にONとし、V側のスイッチv’(FET78)をスイッチングしている。そして、U→V、V→W、W→Uと通電対象となるコイル対が切り替えられると、図のごとく、使用されるスイッチは対応するものが順次選択されて、同様のスイッチングがなされる。
【0050】
この方式は既に詳述した通り、スイッチング制御のデッドタイムが生じないので、デューティ比ηの小さい低負荷回転時においても速度制御の直線性が良好である。しかし、電流センサ70により電流検出を行なう際に、スイッチングに伴なうフライホイール電流の影響を受けやすいので、比較的大電流となる高負荷回転時の制御方式としては不向きである。このことは、各相の端子間電圧を計算してみることによっても、簡単に確認できる。一例として、U→V通電時で考え、各相の端子間電圧をVU、VV、VWとし、電源電圧VSとすると、U相は常時ONであるからVU=VSである。また、V相はデューティ比ηにてスイッチングされるから、VVは、ON時は接地レベルとなり、OFF時は電源電圧と等しくなるから、平均的にはVV=(1−η)VSとなる。そして、U相及びV相とスター結線されているW相は接地側が常時オープンであるから、VWはVUとVVとの平均的な電圧レベルと等しくなる。すなわち、VW=(VU+VV)/2である。電流センサ70による電流検出値Isは、3相の平均的な端子間電圧を反映したものとなるが、その値は、(3/2)VS×(2−η)となり、受電する電源電圧が一定であっても、スイッチングのデューティ比ηによって、モータの端子間電圧自体が変化してしまうことがわかる。これは、前述のフライホイール電流の影響を受けるためである。しかし、デューティ比ηが小さい場合は影響が小さく、低負荷回転時においては問題にならない。
【0051】
他方、図15の第二の方式は、コイル対の第一端子を車載バッテリー(直流電源)57の第一極に接続し第二端子を直流電源の第二極に接続した第一接続状態と、同じく第一端子を第二極に接続し第二端子を直流電源の第一極に接続した第二接続状態(つまり、第一接続状態と極性を反転した状態)とが交互に切り替わるようにスイッチングする方式である。例えば図15のU→V通電時のタイムチャートにおいては、スイッチv及びu’(FET77,76)をONとし、スイッチv’及びu(FET78,75)をOFFした第一接続状態と、ON/OFFを逆転させた第二接続状態とを交互に切り替えている。そして、第一接続状態の継続時間τと第二接続状態の継続期間τ’との和が一定とされ、それらτとτ’との時間比率によりスイッチングのデューティ比ηが設定される。ここでも、U→V、V→W、W→Uと通電対象となるコイル対が切り替えられると、図のごとく、使用されるスイッチは対応するものが順次選択されて、同様のスイッチングがなされる。
【0052】
この方式は、スイッチング制御のデッドタイムを生じるが、フライホイール電流の影響を受けにくいので、デューティ比ηの大きい高負荷回転時において、電流センサ70による電流検出を高精度にて行なうことができる利点がある。以下、各相の端子間電圧の計算により、このことを確認する。同様に、U→V通電時で考え、各相の端子間電圧をVU、VV、VWとし、電源電圧VSとすると、U相とV相はデューティ比η及び1−ηにてスイッチングされるから、それぞれ平均的には、VU=η・VS及びVV=(1−η)VSとなる。VWはVUとVVとの平均的な電圧レベルと等しくなるので、VW=(VU+VV)/2である。3相の平均的な端子間電圧を計算すると、その値は、(1/2)VSとなり、スイッチングのデューティ比の影響を全く受けないことがかわる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両用操舵制御システムの全体構成を模式的に示す図。
【図2】駆動部ユニットの一実施例を示す縦断面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】本発明の車両用操舵制御システムの電気的構成の一例を示すブロック図。
【図5】本発明の実施形態に使用する3相ブラシレスモータの動作説明図。
【図6】電流センサの回路例を示す図。
【図7】3相ブラシレスモータのドライバ部分の一例を示す回路図。
【図8】図5の3相ブラシレスモータに使用するロータリエンコーダの説明図。
【図9】舵角変換比と車速との関係を与えるテーブルの模式図。
【図10】車速に応じて舵角変換比を変化させるパターンの一例を示す模式図。
【図11】モータ電源電圧と角度偏差Δθとによりデューティ比を決定するための二次元テーブルの模式図。
【図12】本発明の車両用操舵制御システムにおけるコンピュータ処理の主ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図13】図12の操舵制御処理の詳細の一例を示すフローチャート。
【図14】モータのPWM制御の第一の方式の例を示すタイムチャート。
【図15】モータのPWM制御の第二の方式の例を示すタイムチャート。
【図16】PWM制御の第二の方式においてデッドタイムが発生する理由を説明する図。
【図17】第二の方式のデューティ比とモータ電流との関係を模式的に示す図。
【図18】第一の方式のデューティ比とモータ電流との関係を模式的に示す図。
【符号の説明】
3 ハンドル軸
6 モータ(アクチュエータ)
8 車輪操舵軸
58 シャント抵抗
70 電流センサ
100 操舵制御部
110 主マイコン(PWM制御切替手段、モータ作動制限手段)
101 ハンドル軸角度検出部
103 操舵軸角度検出部
Claims (4)
- 操舵用のハンドル軸に与えられる操作角と車両の運転状態とに応じて、車輪操舵軸に与えるべき操舵角を決定し、当該操舵角が得られるように前記車輪操舵軸を操舵軸駆動モータにより回転駆動するようにした車両用操舵制御システムにおいて、
前記ハンドル軸の角度位置(以下、ハンドル軸角度位置という)を検出するハンドル軸角度検出部と、
前記車輪操舵軸の角度位置(以下、操舵軸角度位置という)を検出する操舵軸角度検出部と、
前記車両の運転状態を検出する運転状態検出部と、
検出されたハンドル軸角度位置と車両の運転状態とに基づいて前記車輪操舵軸の目標角度位置を決定し、該操舵軸角度位置が前記目標角度位置に近づくように、前記モータの動作を制御する操舵制御部と、
前記操舵軸駆動モータに通電される電流を検出する電流センサと、を備え、
前記操舵制御部は、前記車輪操舵軸の回転を前記ハンドル軸の回転に追従させるために、前記操舵軸角度位置と前記目標角度位置との隔たりに応じて前記操舵軸駆動モータの回転速度をPWM制御のデューティ比により調整するものであり、
前記操舵軸駆動モータは、直流電源を用いて、各々一方の端にて結合され他方の端が通電端子とされた2相のコイルを対として通電がなされ、そのコイル対への通電端子の一方を第一端子、他方を第二端子としたとき、PWM制御方式として、
前記第一端子を前記直流電源の第一極に接続した状態で非スイッチングとし、前記第二端子を前記直流電源の第二極に接続した状態でスイッチングする第一の方式と、
前記第一端子を前記直流電源の第一極に接続し前記第二端子を前記直流電源の第二極に接続した第一接続状態と、前記第一端子を前記直流電源の第二極に接続し前記第二端子を前記直流電源の第一極に接続した第二接続状態とが交互に切り替わるようにスイッチングする第二の方式と、が定められ、
前記操舵制御部は、前記操舵軸駆動モータの通電電流が基準値よりも低い第一駆動状態では前記第一の方式となり、また、前記操舵軸駆動モータの通電電流が基準値よりも高い第二駆動状態では前記第二の方式となるように、前記PWM制御方式を切り替えるPWM制御切り替え手段を有することを特徴とする車両用操舵制御システム。 - 前記操舵制御部は、前記電流センサによる電流検出結果に基づいて、前記操舵軸駆動モータへの通電を制限するモータ作動制限手段を有する請求項1に記載の車両用操舵制御システム。
- 前記ハンドル軸と前記車輪操舵軸とが機械的に分離されてなり、
前記ハンドル軸への手動操作力が前記車輪操舵軸に直接伝達されるように、両軸を一体回転可能にロック結合したロック状態と、該ロック結合を解除したアンロック状態との間で切り替え可能なロック機構が設けられ、
前記モータ作動制限手段は、前記ロック機構を前記ロック状態とし前記操舵軸駆動モータを停止させるロック制御手段を有する請求項2記載の車両用操舵制御システム。 - 前記PWM制御切り替え手段は、前記電流センサによる電流検出値と予め定められた閾値とを比較して、その比較結果に基づき前記PWM制御方式の切り替える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両用操舵制御システム。
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