JP3963217B2 - 車両横転防止装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、操舵時における車両の横転を防止する車両横転防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、車両横転防止装置としては、例えば、特開平9−323521号公報に記載されているものが知られている。
この従来例の車両横転防止装置は、荷重検出手段および操舵状態検出手段からの検出情報に基づき、左右車輪間の荷重差が設定荷重差以上になったことを検出すると、安全手段として、サスペンションのロール剛性を増大させるようにロール剛性調整手段を作動させることにより、車両のロールを抑制し、これにより車両の横転を防止するというものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、サスペンションの機能上ロールを零にすることはできないため、上述の従来例におけるように、操舵操作により車両に所定のロールが発生した時点で全てのサスペンションのロール剛性を増大させると、操舵時における外輪側の車体の沈み込みが規制された状態となるため、その後さらに車両のロール角が増加すると車両の重心位置における遠心力の分力である外輪側押し付け力が減少して内輪側ジャッキアップ力(内輪側を持ち上げる方向の力)が増加する方向に変化することから、車両のロール角が増加するにつれて車両の重心高が増加する方向に変化することになる。
このように、車体にロールモーメントが作用している状態で車両の重心高が増加すると、車体に加わるロールモーメントが増大し、これにより、車両が横転し易い状態となる。
さらに、操舵の切り返し時においては、車体の揺り戻しによりロール角の変動幅が大きくなるため、慣性力によりさらに車両が横転し易い状態となる。
【0004】
本発明は、上述の従来の問題点に着目してなされたもので、車両が横転する虞がある運転状態となった時には、車両のばね上質量の位置エネルギーを減少させる方向にサスペンション剛性を制御することにより、操舵時に車体に加わるロールモーメントを減少させて車両の横転防止効果を高めることができる車両横転防止装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項記載の車両横転防止装置は、摩擦部材の摩擦力によって伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替え可能なワンウエイ剛性切替機構を備えたショックアブソーバと、車両の運転状態を検出する運転状態検出手段と、該運転状態検出手段で検出された運転状態から車両が横転する虞がある運転状態であるか否かの予測判定を行う横転判定手段と、該横転判定手段で車両が横転する虞がある運転状態であるとの予測判定がなされた時は、少なくとも外輪側の前記ワンウェイ剛性切替機構を伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替えるサスペンション制御手段と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
この請求項の発明では以上のように構成されるため、ショックアブソーバにワンウエイ剛性切替機構を追加するのみで、伸行程側のサスペンション剛性のみを大とすることができ、これにより、横転防止制御が可能となる。
【0010】
請求項記載の車両横転防止装置は、前記サスペンション制御手段は、左右両側の前記ワンウェイ剛性切替機構を伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替えることを特徴とする。よって、操舵操作による車体に加わるロールモーメントが減少し、従って、車両の横転防止効果を高めることができるようになる。
【0011】
請求項記載の車両横転防止装置は、請求項1または2に記載の車両横転防止装置において、前記運転状態検出手段は、少なくとも車速を検出する車速検出手段と、操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段を備え、前記車両横転判定手段は、前記車速検出手段で検出された車速と前記操舵角速度検出手段で検出された操舵角速度を所定のしきい値と比較することにより車両が横転する虞がある運転状態であるか否かを予測判定するように構成されていることを特徴とする。この請求項の発明では以上のように構成されるため、例えば、車速および操舵角速度が共に所定のしきい値をそれぞれ越えた場合にのみ、車両が横転する虞がある運転状態であるとの予測判定がなされることにより、正確な予測が可能となる。従って、不必要なサスペンション制御がなされることにより車両の乗り心地を悪化させることを防止できるようになる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(発明の実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1の構成を図1〜7に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態1の車両横転防止装置の制御ブロック図、図2、3は車両を懸架するサスペンションとしてのショックアブソーバを示す縦断面図、図4はショックアブソーバのピストン速度に対する減衰力特性図、図5はショックアブソーバの減衰力可変特性図、図6は車両横転防止判断制御の内容を示すフローチャート、図7は車両横転防止判断解除制御の内容を示すフローチャートである。
【0013】
本発明の実施の形態1の車両横転防止装置は、図1に示すよう、運転状態検出手段1と、横転判定手段2と、サスペンション制御手段3と、サスペンション剛性調整手段4とを備えている。
さらに詳述すると、前記運転状態検出手段1は、車両が横転する虞があるか否か判断材料を検出するもので、車速センサで構成される車速検出部(車速検出手段)11と、横加速度センサ、ヨーレートセンサ、前後加速度センサで構成される加速度検出部12と、操舵角を検出する操舵角センサで構成される操舵角検出部13aと操舵角信号から操舵角速度を演算する操舵角速度演算部13bで構成される操舵角速度検出手段と、で構成されている。
【0014】
前記横転判定手段2は、記憶部21と、しきい値演算部22と、比較部23と、判定部24とで構成されている。
前記記憶部21では、前記車速検出部11で検出された車速V、前記加速度検出部12でそれぞれ検出された横加速度GI、ヨーレートY、前後加速度Gh、および、前記操舵角速度演算部13bで演算された操舵角速度SVがそれぞれ記憶される。
【0015】
前記しきい値演算部22では、前記記憶部21に記憶された車速Vに応じて、その時点の車速V状態で操舵が行われた場合に車両が横転に到る虞がある操舵角速度しきい値SVOと、操舵角速度SVは操舵角速度しきい値SVO未満であるが横転に到る虞がある横加速度しきい値GI1および横転に到る虞がない横加速度しきい値GI0と、操舵角速度SVは操舵角速度しきい値SVO未満でありかつ横転に到る虞がある横加速度しきい値GI1と横転に到る虞がない横加速度しきい値GI0のいずれにも該当しない状態であっても横転に到る虞があるヨーレートしきい値Y0および前後加速度しきい値Gh0の演算が行われる。
【0016】
前記比較部23では、前記記憶部21に記憶された車速V、横加速度GI、ヨーレートY、前後加速度Ghと、予め設定された車速しきい値V0および前記しきい値演算部22で演算された横加速度しきいGI0、GI1、ヨーレートしきい値Y0、前後加速度しきい値Gh0との比較が行われる。
そして、前記判定部24では、前記各比較結果に基づいて横転防止制御を開始(ON)するか否かの判定が行われる。
【0017】
前記サスペンション制御手段3では、前記判定部24の判定結果に基づいてサスペンション剛性調整手段4を構成する各ショックアブソーバF/R、F/L、R/R、R/Lの減衰力特性調整機構の制御が行われる。
【0018】
次に、前記サスペンション剛性調整手段4を構成するショックアブソーバの減衰力特性調整機構を図2、3に基づいて説明する。なお、図2は圧行程の減衰力特性がミディアムで伸行程側の減衰力特性がミディアムのノーマルポジション状態を示し、図3は圧行程の減衰力特性がソフトで伸行程側の減衰力特性がハードの横転防止ポジション状態を示すもので、両図において、41はシリンダチューブ、42はピストンロッド、43はピストン、44はコントロールバルブであり、前記ピストン43はピストンロッド42の下端部に組み付けられていてシリンダチューブ41内を上部室Aと下部室Bとに画成している。
【0019】
前記ピストン43には、ショックアブソーバの圧行程において中減衰力を発生させる圧側中減衰バルブ45aと圧行程において低減衰力を発生させる圧側低減衰バルブ45b、および、伸行程において高減衰力を発生させる伸側高減衰バルブ46aと伸行程において中減衰力を発生させる伸側中減衰バルブ46bが組み付けられている。
【0020】
そして、前記圧側中減衰バルブ45aと伸側高減衰バルブ46aはそれぞれ上部室Aと下部室Bとの間を常時連通する圧側第1連通路Iと伸側第1連通路IIの途中に設けられている一方、前記圧側低減衰バルブ45bと伸側中減衰バルブ46bは、コントロールバルブ44を介して上部室Aと下部室Bとの間を連通する圧側第2連通路III と伸側第2連通路IVの途中に設けられている。
【0021】
前記コントロールバルブ44は、ピストンロッド42内に回転自在に設けられていて、図示を省略したステップモータによりコントロールロッド44aを介して回動させることにより、図2に示すように圧側第2連通路III を閉じて伸側第2連通路IVを開いたノーマルポジション状態と、図3に示すように伸側第2連通路IVを閉じて圧側第2連通路III を開いた横転防止ポジション状態との切り替えが行われるようになっている。
【0022】
即ち、図2に示すノーマルポジション状態では、圧行程時に、下部室B内の作動流体が圧側第1連通路Iの途中に設けられた圧側中減衰バルブ45aを開弁して上部室Aに流入することで、中減衰力特性(圧側ミディアム)となり、また、伸行程時に、上部室A内の作動流体が伸側第2連通路IVの途中に介装された伸側中減衰バルブ46bを開弁して下部室Bに流入することで、中減衰力特性(伸側ミディアム)となる(実線で示す図4のピストン速度に対する減衰力特性図参照)。
【0023】
また、図3に示す横転防止ポジション状態では、圧行程時に、下部室B内の作動流体が圧側第2連通路III の途中に設けられた圧側低減衰バルブ45bを開弁して上部室Aに流入することで、低減衰力特性(圧側ソフト)となる一方、伸行程時に、上部室A内の作動流体が伸側第1連通路IIの途中に介装された伸側高減衰バルブ46aを開弁して下部室Bに流入することで、高減衰力特性(伸側ハード)となる(点線で示す図4のピストン速度に対する減衰力特性図参照)。
【0024】
なお、前記コントロールバルブ44を図4に示す横転防止ポジション状態から、図2に示すノーマルポジション状態まで回動させていくことにより、図5の減衰力可変特性図に示すように、伸行程側の減衰力特性がハードから徐々にミディアムに変更される一方、圧行程側の減衰力特性がソフトから徐々にミディアムに変更されるようになっている。
【0025】
次に、横転防止判断制御の内容を図6のフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS101では、記憶部21に記憶された車速V、操舵角速度SV、横加速度GI、ヨーレートY、前後加速度Ghの読み込みが行われる。
続くステップS102では、比較部23および判定部24において、読み込まれた車速Vが車速しきい値V0を越えているか否かを判定し、NO(V≦V0)である時は、車両が横転する虞がないものとして、これで一回のフローを終了し、また、YES(V>V0)である時は、操舵状態によっては車両が横転する虞があるため、操舵状態を判定するステップS103に進む。
【0026】
このステップS103では、比較部23および判定部24において、読み込まれた操舵角速度SVが操舵角速度しきい値SV0を越えているか否かを判定し、YES(SV>SV0)である時は、車両が横転する虞があるため、ステップS107に進み、横転防止制御を開始(ON)させる。なお、この横転防止制御の内容は後に詳述する。
前記ステップS103の判定がNO(SV≦SV0)である時は、車速Vおよび操舵角速度SVによる判断では一応車両が横転する虞がないとの判定がなされたが、路面の傾斜状態や操舵角等の他の状況によっては、車両が横転する場合もあり得るため、さらに判断を確実に行うため、ステップS104に進む。
【0027】
このステップS104では、比較部23および判定部24において、読み込まれた横加速度GIと横加速度しきい値GI0、GI1とを比較する。一方の横加速度しきい値GI0は車両が横転する虞が全くない横加速度の値であり、従って、横加速度GIがこの横加速度しきい値GI0以下である場合は、これで一回のフローを終了する。また、もう一方の横加速度しきい値GI1は、車両が横転する虞がある横加速度の値であり、従って、横加速度GIがこの横加速度しきい値GI1以上である場合は、横転防止制御を開始するステップS107に進む。
【0028】
また、横加速度GIが、両横加速度しきい値GI0、GI1の範囲内にある時は、ステップS105に進み、比較部23および判定部24において、読み込まれたヨーレートYがヨーレートしきい値Y0を越えているか否かを判定し、NO(Y≦Y0)である時は、車両が横転する虞がないため、これで一回のフローを終了し、また、YES(Y>Y0)である時は、さらにステップS106に進み、判定部23および判定部24において、読み込まれた前後加速度Ghが前後加速度しきい値Gh0を越えているか否かを判定し、NO(Gh≦Gh0)である時は、車両が横転する虞がないため、これで一回のフローを終了し、また、YES(Gh>Gh0)である時は、下り坂走行時や急ブレーキ操作等により車両が横転する虞があるため、横転防止制御を開始するステップS107に進む。
【0029】
このステップS107では、横転防止制御を開始(ON)する。
この横転防止制御が開始(ON)されると、サスペンション制御手段3において、ショックアブソーバを図2に示すノーマルポジション状態から、図3に示す横転防止ポジションに切り替える制御がなされる。即ち、横転防止制御が開始されると、伸行程側の減衰力特性がハード(サスペンション剛性−大)で、圧行程側の減衰力特性がソフト(サスペンション剛性−小)の状態となる。
【0030】
以上のように、直進走行状態から操舵が行われ、横転防止制御が開始(ON)されると、横転防止ポジション(伸側ハード、圧側ソフト)に切り替えられることで、図8のシュミレーション結果の制御ON−操舵時(▲2▼−(ロ))に示すように、操舵操作に基づくロール挙動による内輪側車体の浮き上がりが、内輪側ショックアブソーバの伸側減衰力ハード特性(剛性−大)により抑制されると共に、操舵操作に基づくロール挙動による外輪側車体の沈み込みが、外輪側ショックアブソーバの圧側減衰力ソフト特性(剛性−小)により加速される結果、車両重心高H1onが、図8の制御OFF−操舵時(▲1▼−(ロ))における車両重心高H1offよりは低くなり、これにより、車両のばね上質量の位置エネルギーが減少する方向に作用する。
従って、操舵時に車体に加わるロールモーメントが減少し、これにより、操舵時における車両の横転防止効果を高めることができるようになるという効果が得られる。
【0031】
次に、図8の制御ON−操舵時(▲2▼−(ロ))の状態から、切り返し操舵が行われた結果、横転防止制御が開始(ON)されると、図8の制御OFF−切り返し時(▲2▼−(ハ))に示すように、切り返し操舵に基づくロール挙動による内輪側車体の浮き上がりが、内輪側ショックアブソーバの伸側減衰力ハード特性(剛性−大)により抑制されると共に、切り返し操舵に基づくロール挙動による外輪側車体の沈み込みが、外輪側ショックアブソーバの圧側減衰力ソフト特性(剛性−小)により加速される結果、車両重心高H2onが、図8の制御ON−操舵時(▲2▼−(ロ))における車両重心高H1onより更に低くなる。
【0032】
即ち、切り返し操舵時においては、図8の制御ON−操舵時(▲2▼−(ロ))に少し浮き上がった方の切り返し内輪側車体は大きく沈み込むと共に、大きく沈み込んだ方の切り返し外輪側車体の浮き上がりが抑制される結果、切り返し操舵時における車両重心高H2onが操舵時の車両重心高H1onよりは更に低くなる。
従って、車両のばね上質量の位置エネルギーが減少する方向に作用することで、切り返し操舵時に車体に加わるロールモーメントが減少し、これにより、切り返し操舵時における車両の横転防止効果を高めることができるようになるという効果が得られる。
【0033】
なお、横転防止制御が開始されない程度の操舵操作が行われた後に、切り返し操舵が行われた結果、横転防止制御が開始された場合においても、同様に車両の横転防止効果を高めることができることはもちろんである。
また、横転防止制御が開始(ON)された状態で、路面からのバウンド入力等で車体がバウンドすると、伸側ハード、圧側ソフトの減衰力特性により、ショックアブソーバは縮む方向に動くことになり、従って、車体が挙動する度に車体重心高が低くなる方向に作用する。
また、シュミレーションの結果によると、伸側減衰力特性として、ピストン速度(最大制御力応答相対速度)が0.05m/s以下で、そのショックアブソーバが受け持つばね上重量の70%以上の力を発生すると効果があり、0.03m/s以下のピストン速度ではばね上重量以上の力を発生させると車両重心高の上昇を抑えて大きな効果を発揮した。
【0034】
次に、横転防止判断制御のうち、解除判断制御の内容を図7のフローチャートに基づいて説明する。
ステップS201では、記憶部21に記憶された車速V、操舵角速度SV、横加速度GI、の読み込みが行われる。
続くステップS202では、比較部23および判定部24において、読み込まれた車速Vが解除用車速しきい値VE未満に低下した否かを判定し、YES(V<VE)である時は、車両が横転する虞がないものとして、横転防止制御を解除(OFF)するステップS205に進み、また、NO(V≧VE)である時は、操舵角速度SVの値および横加速度GIの値によっては依然車両が横転する虞があるため、ステップS203に進む。
【0035】
このステップS203では、比較部23および判定部24において、読み込まれた操舵角速度SVが解除用操舵角速度しきい値SVE未満となったか否かを判定し、NO(SV≧SVE)である時は、依然車両が横転する虞があるため、これで一回のフローを終了し、また、YES(SV<SVE)である時は、さらに横加速度GIによる判断を行うため、ステップS204に進む。
【0036】
このステップS204では、比較部23および判定部24において、読み込まれた横加速度GIが解除用横加速度しきい値GIE未満となったか否かを判定し、NO(GI≧GIE)である時は、依然車両が横転する虞があるため、これで一回のフローを終了し、また、YES(GI<GIE)である時は、車両が横転する虞がなくなっているため、ステップS205に進んで、横転防止制御を解除(OFF)する。
【0037】
次に、本発明の他の実施の形態を説明する。なおこの他の発明の実施の形態の説明にあたっては、前記発明の実施の形態1と同様の構成部分は同一の符号をつけてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
(発明の実施の形態2)
この発明の実施の形態2の車両横転防止装置は、図9のピストン速度に対する減衰力特性図および図10の減衰力可変特性図に示すように、圧行程側の減衰力特性はミディアム特性に固定で、伸行程側の減衰力特性のみをハード特性とソフト特性との間で無段階切り替え可能なショックアブソーバ(サスペンション剛性調整手段4)を用いるようにした点が、前記発明の実施の形態1とは相違したものである。
【0038】
従って、この発明の実施の形態2では、操舵時および切り返し操舵時における内輪側車体の浮き上がりが、内輪側ショックアブソーバの伸側減衰力ハード特性(剛性−大)により抑制される結果、車両重心高が低くなる方向に作用し、これにより、車両のばね上質量の位置エネルギーが減少する。
従って、車体に加わるロールモーメントが減少し、これにより、操舵時および切り返し操舵時における車両の横転防止効果を高めることができるようになる。
【0039】
(発明の実施の形態3)
この発明の実施の形態3の車両横転防止装置は、サスペンション剛性調整手段4を構成するショックアブソーバが、摩擦部材の摩擦力によって伸行程側のサスペンション剛性のみを切り替え可能なワンウエイ剛性切替機構5を備えている点が、前記発明の実施の形態1、2とは相違したものであり、その構成を図11、12に基づいて説明する。
【0040】
図11は横転防止制御停止(OFF)時の状態を示すショックアブソーバの要部を示す縦断面図、図12は横転防止制御開始(ON)時の状態を示すショックアブソーバの要部を示す縦断面図であり、両図において41はシリンダチューブ、42はピストンロッド、47はアウタチューブ、48はロッドガイド、49はガイドブッシュ、50はオイルシール、51はワンウエイ剛性切替機構組込部材(以後、機構組込部材と略称する)、52はソレノイド、53はスプール、54はリターンスプリング、55は摩擦部材、56は押圧スプリング、57は作動案内部材を示す。
【0041】
さらに詳述すると、前記機構組込部材51は、異径の環状に形成されていて、その下端小径部51aをシリンダチューブ41の上端開口部内に挿入し上端大径部51bとの境界部に形成された環状段部51cをシリンダチューブ41の開口端部41aに係止させた状態で組み込まれている。また、機構組込部材51の中空部内も異径で、上から順に大径穴部51d、中間径穴部51e、小径穴部51fが形成され、各境界部にそれぞれ環状段部51g、51hが形成されている。
【0042】
前記ロッドガイド48はその外周部を機構組込部材51の上端開口部に係止させた状態でアウタチューブ47内に挿入され、その上部に前記オイルシール50を係止させ、この状態でアウタチューブ47の上端かしめ部47aを内側にかしめることにより、該かしめ部47aとシリンダチューブ41の開口端部41aとの間にオイルシール50とロッドガイド48と機構組込部材51の外周部を軸方向に挟持する状態で組み付け固定されている。
【0043】
前記ソレノイド52は、機構組込部材51の大径穴部51d内で環状段部51g側にスペーサ52aを介装した状態で該環状段部51gとロッドガイド48との間に軸方向挟持状態で組み付け固定され、前記スプール53は、ソレノイド52の内側で該ソレノイド52の下端部とスペーサ52aとの間を跨ぐ状態で軸方向移動可能に組み込まれている。
【0044】
一方、前記中間径穴部51e内には前記摩擦部材55の作動を案内する作動案内部材57が装着されていて、この作動案内部材57は環状段部51hとスペーサ52aとの間に挟持された状態で固定されている。また、作動案内部材57は、その内面がその中途部から上端部に向かうにつれてその穴径が減少する方向に傾斜する環状テーパ面57aが形成されている。
【0045】
また、前記スプール53は、作動案内部材57の上端面とロッドガイド48との間の規制された範囲において軸方向移動可能となっていると共に、前記リターンスプリング54により作動案内部材57に当接する方向、即ち、ソレノイド52から下方へ遠ざかる方向に押圧付勢されている。
【0046】
前記摩擦部材55は、摩擦係数が大きくかつ可撓性を有する材料で環状に構成され、前記作動案内部材57内に軸方向移動可能に収容されている。また、この摩擦部材55は、下端部を残して周方向に複数に分割形成されていて、外周面はその中途部から上が前記作動案内部材57の環状テーパ面57aに沿った先細り状の環状テーパ面55aに形成されている。
【0047】
そして、この摩擦部材55は、前記押圧スプリング56により上方へ向けて押圧付勢されており、この押圧付勢力で摩擦部材55が上方に移動すると作動案内部材57の環状テーパ面57aに案内されることで、摩擦部材55の上部が縮径して内周面がピストンロッド42の外周面に当接する方向に案内されるようになっている(図12参照)。
【0048】
ところが、摩擦部材55の上端面がスプール53の内側下端面に当接すると共に、摩擦部材55を上向きに押圧付勢する押圧スプリング56の付勢力より、スプール53を下方へ押圧付勢するリターンスプリング54の付勢力の方が大に設定されており、これにより、図11に示すように、リターンスプリング54の押圧付勢力で下方へ押圧されて作動案内部材57に当接したスプール53により、摩擦部材55の上昇が阻止された状態となっている。従って、この状態では、摩擦部材55の内周面とピストンロッド42との間には所定の隙間wが形成された状態となっている。
【0049】
この発明の実施の形態3は上述のように構成されるため、横転防止制御の停止(OFF)時には、ソレノイド52への通電を解除状態とすることにより、図11に示すように、摩擦部材55の内周面とピストンロッド42との間には所定の隙間wが形成された状態となっており、これにより、ピストンロッド42に対する摩擦部材55の摩擦力Fは0の状態(剛性−小)となっている。従って、ショックアブソーバの本来の減衰力のみが作用する状態となる。
【0050】
次に、横転防止制御の開始(ON)時には、ソレノイド52への通電を開始することにより、図12に示すように、ソレノイド52の吸引力でスプール53がリターンスプリング54の付勢力に抗して上方へ持ち上げられるため、それまで規制されていた摩擦部材55が押圧スプリング56の押圧力で上方へ押し上げられることで、作動案内部材57の環状テーパ面57aに案内されて摩擦部材55の上部が縮径し、これにより、内周面がピストンロッド42の外周面に当接した状態となる。
【0051】
このため、ショックアブソーバの伸行程においては、ピストンロッド42と作動案内部材57との間に摩擦部材55を食い込ませる方向に摩擦力が作用するため、くさび効果により、摩擦部材55とピストンロット42との間に大きな摩擦力(FT =大)(剛性−大)を発生させる一方、ショックアブソーバの圧行程においては、摩擦部材55の食い込みを解除する方向に摩擦力が作用するため、くさび効果がなくなって摩擦部材55とピストンロット42との間に摩擦力FT がほとんど作用しない状態(FC ≒0)(剛性−小)となる。
【0052】
従って、この発明の実施の形態3では、操舵時および切り返し操舵時における内輪側車体の浮き上がりが、内輪側ショックアブソーバにおける大きな伸行程側剛性により抑制され、車両重心高が低くなる方向に作用することで車両のばね上質量の位置エネルギーが減少するため、車体に加わるロールモーメントが減少し、これにより、操舵時および切り返し操舵時における車両の横転防止効果を高めることができるようになる。
【0053】
以上発明の実施の形態1を図面により説明したが、具体的な構成はこれらの発明の実施の形態に限られるものではない。
例えば、発明の実施の形態1では、横転防止制御開始(ON)時に、伸行程側のサスペンション剛性を大とすると同時に、圧行程側のサスペンション剛性を小とし、また、発明の実施の形態2、3では、伸行程側のサスペンション剛性のみ大とするようにしたが、圧行程側のサスペンション剛性のみを小とするだけでも、発明の実施の形態1で説明したように、操舵および切り返し操舵に基づくロール挙動による外輪側車体の沈み込みが、外輪側ショックアブソーバの小さな圧行程側剛性により加速される結果、車両重心高が低くなる方向に作用することで車両のばね上質量の位置エネルギーが減少するため、車体に加わるロールモーメントが減少し、これにより、操舵時および切り返し操舵時における車両の横転防止効果を高めることができるようになる。
【0054】
また、発明の実施の形態では、作動流体の流通を規制し、または摩擦力を発生させることによって、ショックアブソーバの伸行程側の剛性を大にし、これにより、操舵および切り返し操舵に基づくロール挙動による内輪側車体の浮き上がりを抑制するようにしたが、ロック機構によりショックアブソーバの伸行程側へのストロークを完全に停止状態とすることにより、内輪側車体の浮き上がりを完全に停止させ、これにより、車両重心高を低下させる効果をさらに高めることができるようになる。
【0056】
次に、上述の各発明の実施の形態から把握される請求項以外のより好ましい形態について説明する。
(イ)請求項に記載の車両横転防止装置において、前記運転状態検出手段として、車速を検出する車速検出手段および操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段の他に、車両の横加速度を検出する横加速度検出手段を備え、前記車両横転判定手段は、前記車速検出手段で検出された車速と前記操舵角速度検出手段で検出された操舵角速度を所定のしきい値と比較することにより車両が横転する虞がある運転状態であるか否かを予測判定した結果、横転する虞なしとの判定がされた時は、さらに前記横加速度検出手段で検出された横加速度を所定のしきい値と比較することにより車両が横転する虞がある運転状態であるか否かを予測判定するように構成されていることを特徴とする手段とした。このように構成することにより、路面の傾斜状態や操舵角等の他の状況によっては依然車両が横転する虞がある場合においても、車両の横転を防止することができ、これにより、横転防止判断をより正確に行うことができるようになる。
【0057】
(ロ)前記(イ)項に記載の車両横転防止装置において、前記運転状態検出手段として、車速を検出する車速検出手段、操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段、および車両の横加速度を検出する横加速度検出手段の他に、ヨーレートを検出するヨーレート検出手段備え、前記横加速度検出手段で検出された横加速度を所定のしきい値と比較した結果横転する虞なしとの判定がなされた時は、さらに前記ヨーレート検出手段で検出されたヨーレートを所定のしきい値と比較することにより車両が横転する虞があるか否かを予測判定するように構成されていることを特徴とする手段とした。
このように構成することにより、車輪のスリップ状況等によっては依然車両が横転する虞がある場合においても、車両の横転を防止することができ、これにより、横転防止判断をより正確に行うことができるようになる。
【0058】
(ハ)前記(ロ)項に記載の車両横転防止装置において、前記運転状態検出手段として、車速を検出する車速検出手段、操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段、車両の横加速度を検出する横加速度検出手段、およびヨーレートを検出するヨーレート検出手段の他に、前後加速度を検出する前後加速度検出手段を備え、前記ヨーレート検出手段で検出されたヨーレートを所定のしきい値と比較した結果横転する虞なしとの判定がなされた時は、さらに前記前後加速度検出手段で検出された前後加速度を所定のしきい値と比較することにより車両が横転する虞があるか否かを予測判定するように構成されていることを特徴とする手段とした。
このように構成することにより、下り坂走行時や急ブレーキ操作等によっては依然車両が横転する虞がある場合においても、車両の横転を防止することができ、これにより、横転防止判断をより正確に行うことができるようになる。
【0059】
(ニ)前記サスペンション剛性調整手段が、減衰力特性を少なくともハードとソフトの2段階以上に独立して調整可能に構成されることにより伸行程側のストローク状態を独立に制御可能に構成されたショックアブソーバで構成され、該ショックアブソーバの伸行程側の減衰力特性をハード特性とし、および/または、圧行程側の減衰力特性をソフト特性とすることにより、伸行程側のサスペンションのサスペンション剛性を増大させ、および/または、圧行程側のサスペンションのサスペンション剛性を減少させる方向に調整制御することにより、車両のばね上質量の位置エネルギーを減少させるように構成されていることを特徴とする手段とした。このように構成することにより、ショックアブソーバの減衰力調整のみで、車両の横転を防止できるようになる。
【0060】
(ホ)摩擦部材の摩擦力によって伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替え可能なワンウエイ剛性切替機構を備えたショックアブソーバにより前記サスペンション剛性調整手段が構成され、前記ワンウエイ剛性切替機構は、ソレノイドの非通電状態では第1付勢手段によりピストンロッドに当接しない方向に前記摩擦部材が押圧付勢され、ソレノイドへの通電状態では第1付勢手段の付勢力を解除することにより第2付勢手段の付勢力でピストンロッドに当接する方向に前記摩擦部材が押圧付勢されるように構成され、前記摩擦部材がくさび状に形成されることにより、ソレノイドへの通電状態でショックアブソーバの伸行程においては前記第2付勢手段による付勢力とくさび効果により前記摩擦部材がピストンロッドに当接する方向に作用し、圧行程においては前記第2付勢手段の付勢力に抗してくさび効果が解除されるように構成されていることを特徴とする手段とした。このように構成することにより、ショックアブソーバにワンウエイ剛性切替機構を追加するのみで、伸行程側のサスペンション剛性のみを大とすることができ、これにより、横転防止制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態1の車両横転防止装置の制御ブロック図である。
【図2】発明の実施の形態1の車両横転防止装置におけるショックアブソーバのノーマルポジション状態を示す縦断面図である。
【図3】発明の実施の形態1の車両横転防止装置におけるショックアブソーバの転倒防止ポジション状態を示す縦断面図である。
【図4】発明の実施の形態1の車両横転防止装置におけるショックアブソーバのピストン速度に対する減衰力特性図である。
【図5】発明の実施の形態1の車両横転防止装置におけるショックアブソーバの減衰力可変特性図である。
【図6】発明の実施の形態1の車両横転防止装置における車両転倒防止判断制御内容を示すフローチャートである。
【図7】発明の実施の形態1の車両横転防止装置における車両転倒防止解除判断制御内容を示すフローチャートである。
【図8】発明の実施の形態1の車両横転防止装置におけるシュミレーション結果を示す図である。
【図9】発明の実施の形態2の車両横転防止装置におけるショックアブソーバのピストン速度に対する減衰力特性図である。
【図10】発明の実施の形態2の車両横転防止装置におけるショックアブソーバの減衰力可変特性図である。
【図11】発明の実施の形態3の車両横転防止装置におけるショックアブソーバの転倒防止制御停止時の状態を示す要部の縦断面図である。
【図12】発明の実施の形態3の車両横転防止装置におけるショックアブソーバの転倒防止制御開始時の状態を示す要部の縦断面図である。
【符号の説明】
1 運転状態検出手段
11 車速検出部(車速検出手段)
13b 操舵角速度演算手段(操舵角速度検出手段)
2 横転判定手段
3 サスペンション制御手段
4 サスペンション剛性調整手段

Claims (3)

  1. 摩擦部材の摩擦力によって伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替え可能なワンウエイ剛性切替機構を備えたショックアブソーバと、
    車両の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
    該運転状態検出手段で検出された運転状態から車両が横転する虞がある運転状態であるか否かの予測判定を行う横転判定手段と、
    該横転判定手段で車両が横転する虞がある運転状態であるとの予測判定がなされた時は、少なくとも外輪側の前記ワンウェイ剛性切替機構を伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替えるサスペンション制御手段と、
    を備えていることを特徴とする車両横転防止装置。
  2. 前記サスペンション制御手段は、左右両側の前記ワンウェイ剛性切替機構を伸行程側のサスペンション剛性のみを高める方向に切り替えることを特徴とする請求項に記載の車両横転防止装置。
  3. 前記運転状態検出手段は、少なくとも車速を検出する車速検出手段と、操舵角速度を検出する操舵角速度検出手段を備え、
    前記車両横転判定手段は、前記車速検出手段で検出された車速と前記操舵角速度検出手段で検出された操舵角速度を所定のしきい値と比較することにより車両が横転する虞がある運転状態であるか否かを予測判定するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両横転防止装置。
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