JP3961739B2 - 転がり軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、真空中やクリーン環境および貧潤滑状態等で使用される転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
軸受を真空中やクリーン環境および貧潤滑状態等で使用する場合、潤滑方法が問題となる。
【0003】
従来、真空中やクリーン環境では潤滑のため、Ag,MoS2,およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの固体潤滑剤が使用される。また、貧潤滑下では、耐摩耗性および耐焼付き性の向上のため、CrN,TiN等の硬質膜が用いられることが多かった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、固体潤滑剤を用いる場合には、固体潤滑剤自身の摩耗が大きく、硬質膜を用いる場合には、潤滑性に問題があるために寿命が短くなるケースが多かった。
【0005】
この問題を解決するためには、低摩擦(潤滑性あり)で耐摩耗性および耐焼付き性に優れるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜を金属上に形成する手法が有効であるが、転がり軸受に使用するには、従来の成膜方法では、基板−膜間の密着性が低いため、早期に剥離するという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、軌道面に形成されたDLC膜の密着性が高く、早期剥離が起こらない転がり軸受を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の転がり軸受は、内,外輪、転動体および保持器を有し、この内,外輪、転動体および保持器のうちの少なくともいずれかの転がり接触する軌道部にダイヤモンドライクカーボン膜が形成された転がり軸受において、
上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜で、珪素含有量が30at%以下であり、
上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、上記軌道部上に形成した厚さ30μm以上の窒化層上に形成されており、
上記窒化層が、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を有していて、
上記窒化層の凹凸がイオン衝撃処理によって形成されていることを特徴としている。
【0008】
この発明では、潤滑性,耐摩耗性,耐焼付き性に優れたダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜であって、珪素含有量が30at%以下としたから、特に耐摩耗性が優れる。
【0009】
また、請求項2の発明の転がり軸受は、請求項1項記載の転がり軸受において、上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、上記軌道部に対する30N以上の密着力を有する。
【0010】
また、上記DLC膜を、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を有している窒化層上に形成したことで、密着性が高く、早期剥離が起こらないことが実験で確かめられた。
【0011】
上記窒化層は、イオン衝撃による凸部の形成が容易であり、凸部がより微細でかつ単位面積当たりの凸部の占有面積率が大きくなり、DLC膜との接触面積が非常に増大し、密着性が向上する。なお、窒化層の凹凸が100nmを越えると、DLC膜表面に凹凸が現れて平滑性が損なわれる一方、凹凸が10nmを下回ると接触面積の増大が不足する。また、上記凹凸の平均幅が300nm以下であることにより、この凹凸による機械的な投錨(アンカー)効果により、窒化層とDLC膜との一層強固な結合が得られる。
【0012】
ダイヤモンドライクカーボン膜としては、1.0μm以上、好ましくは、1.5μm〜5μmの厚みのものが転がり軸受としては有効である。さらに、母材の鋼としては、拡散層硬さがHv500以上であることが転がり軸受として望まれる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0014】
図1に、この発明の転がり軸受の実施形態の断面を示す。この転がり軸受1は、内輪2と外輪3の間に複数の玉4が円周方向に配列されている。この内輪2と外輪3は、ステンレス鋼(SUS440)等の耐熱,耐食材料からなり、玉4は、窒化珪素(Si34)を主体とするセラミックスからなる。
【0015】
上記外輪3の表面には、厚さ30μmの窒化層11が形成されている。この窒化層11は、たとえば、ガス窒化処理によって形成される。また、この窒化層11の表面には、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸が形成されている。この窒化層11表面の凹凸は、たとえば、アルゴンガスを用いたイオン衝撃処理によって形成される。なお、ここで、この凹凸の高さとは、この凹凸の底から頂点までの距離をいう。また、この凹凸の幅とは、凸部が半球状の場合には底の最大径(凸部の底面形状が楕円の場合は長軸径)に相当する水平方向の距離をいう。また、ここで、上記凹凸の平均高さの範囲を10〜100nmとしたのは、10nm未満では機械的なアンカー効果が得られず密着性が不足する一方、100nmを越えると平滑な膜が得られないからである。さらに、上記凸部の大きさが所定のものであっても、凸部の面積が少なければ、膜の密着性には効果が得られない。凹凸面に占める凸部の面積割合は、凹凸面の面積を100%とすると、凸部の占める面積は30%以上であるのが好ましい。また、上記イオン衝撃処理では、密閉容器内の圧力を10-3〜20torr程度とする。圧力が10-3torr未満では加熱が不十分になり、20torrを越えると微細な凹凸ができない。なお、このイオン衝撃処理で使用する処理用ガスとしては、アルゴンの他に、ヘリウム,ネオン,クリプトン,キセノン,ラドンの1種または2種以上からなる希ガスを利用できる。さらに、鉄系母材の場合、水素を加えて行うと被処理材表面の酸化を防ぐことができる。この状態でイオン衝撃を与える。イオン衝撃を与える手段としてはグロー放電またはイオンビームを利用できる。放電電圧200〜1000V,電流0.5〜3.0Aで、処理時間30〜60分でイオン衝撃を行うと、均一で微細なナノオーダの凹凸ができる。イオン衝撃を与えている時に被処理材を硬さが低下しない温度(200℃以上は必要)にまで加熱すると、さらに均一で微細なナノオーダの凹凸ができる。
【0016】
そして、この外輪3の窒化層11上に、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜5が3μmの厚さで形成されている。この硬質膜5は、例えば、プラズマCVDによって、形成できる。より詳しくは、この硬質膜5は、珪素と水素および珪素と炭素を主要成分とした珪素化合物ガス(Si(CH3)4:テトラメチルシラン)を主体としたガス中、100〜550℃の雰囲気で放電処理を行って形成される。この雰囲気温度が、100℃より低いと放電が不安定となり、550℃より高くなると、窒化拡散層を含めた母材の硬さの低下をもたらし、膜の密着力を低下させる。なお、上記プラズマCVDで使用する珪素化合物ガスは、珪素と水素または珪素と炭素を主要成分としたものでもよい。
【0017】
また、上記内輪2の表面にも、上記窒化層11と同様にして形成された厚さ30μmの窒化層12が形成され、この窒化層12の表面にも、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸が形成されている。そして、この窒化層12上に、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜7が3μmの厚さで形成されている。この硬質膜7は、前述の硬質膜5と同様の方法で形成されている。
【0018】
さらに、玉4の表面にも、同様に、厚さ30μmの窒化層13が形成され、この窒化層13の表面にも、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸が形成されている。そして、この窒化層13上に、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜6が3μmの厚さで形成されている。
【0019】
上記構成の転がり軸受1によれば、外輪3,内輪2,玉4を被覆する硬質膜5,7,6を、潤滑性,耐摩耗性,耐焼付き性に優れたダイヤモンドライクカーボン膜のうちでも、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜であって、珪素含有量が30at%以下としたから、特に耐摩耗性が優れる。
【0020】
より詳しくは、図4に示すように、油潤滑,回転速度1200rpm,面圧3.4GPa,膜圧3μmという条件下で、転がり寿命試験を行った結果、Si含有量が10〜30at%の範囲内であれば、寿命に至るまでの繰り返し回数が1×108に達した。これに対し、Si含有量が5at%,40at%では、1×107未満であった。
【0021】
また、上記硬質膜5,7,6を、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を有している窒化層11,12,13上に形成したことで、密着性が高く、早期剥離が起こらないことが実験で確かめられた。
【0022】
上記窒化層11,12,13は、イオン衝撃による凸部の形成が容易であり、凸部がより微細でかつ単位面積当たりの凸部の占有面積率が大きくなり、硬質膜5,7,6との接触面積が非常に増大し、密着性が向上する。なお、窒化層11,12,13の凹凸が100nmを越えると、硬質膜5,7,6の表面に凹凸が現れて平滑性が損なわれる一方、凹凸が10nmを下回ると接触面積の増大が不足する。また、上記凹凸の平均幅が300nm以下であることにより、この凹凸による機械的な投錨(アンカー)効果により、窒化層11,12,13と硬質膜5,7,6との一層強固な結合が得られる。
【0023】
この実施形態の転がり軸受によれば、(油潤滑、回転数1200rpm、繰り返し回数:108打切り)という試験条件下で、面圧3.4GPaまで使用可能であった。より詳しくは、図2における膜C,膜D(本発明品)の実験結果を参照、なお、密着力が4N,10Nである膜A,膜B(従来品)は、面圧3.4GPaでは、それぞれ、繰り返し回数106,107未満で剥離した。
【0024】
また、従来のように、上記窒化膜を形成すること無しで、ダイヤモンドライクカーボン膜を形成した対比例では、面圧1.6GPa,2.1GPaにおいてDLC膜の早期剥離が起こった。また、この実施形態の転がり軸受によれば、DLC膜無しの転がり軸受に比較して、無潤滑下での軸受寿命が3倍以上であった。例えば、図3に示すように、本発明膜で内,外輪をコーティングし、玉をセラミック製とした場合の本発明サンプル1,2では、コーティング膜無しの場合のサンプル1に比べて、トルク寿命比が3倍以上になった。ここで、軸受のトルク値が上昇して初期の3倍に達した時点を、トルク寿命が尽きた時点とした。なお、従来膜で内,外輪をコーティングしたサンプル1,2では、本発明サンプル1,2の寿命比が3分の2以下となった。
【0025】
尚、上記実施形態では、外輪3,内輪2の全面に、硬質膜5,7を形成したが、軌道部分だけに硬質膜5,7を形成してもよい。また、上記実施形態では、外輪3,玉4,内輪2のすべてに硬質膜5,6,7を形成したが、すくなくともいずれか1つだけに形成した場合であっても所定の耐摩耗性向上効果が得られる。また、上記実施形態では、玉4をセラミック製としたが、耐熱,耐食性のある金属材料(例えば、JIS規格SKH4,SKH51,SUS440C,SUS630,SUS304あるいはSAE規格M50等)を採用できる。内輪2,外輪3においても、SUS440Cを使用しているが、上記他の鋼材を使用してもよい。しかしながら、鋼材としては、拡散層硬さがHv500以上であることが望ましい。
【0026】
【発明の効果】
以上より明らかなように、請求項1の発明の転がり軸受は、内、外輪、転動体および保持器を有し、この内、外輪、転動体および保持器のうちの少なくともいずれかの転がり接触する軌道部にダイヤモンドライクカーボン膜が形成された転がり軸受において、上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜で、珪素含有量が30at%以下であり、上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、上記軌道部上に形成した厚さ30μm以上の窒化層上に形成されており、上記窒化層が、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を有していて、上記窒化層の凹凸がイオン衝撃処理によって形成されている。
【0027】
この請求項1の発明では、潤滑性,耐摩耗性,耐焼付き性に優れたダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)を、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜であって、珪素含有量が30at%以下としたから、特に耐摩耗性が優れる。
【0028】
また、請求項2の発明の転がり軸受は、請求項1項記載の転がり軸受において、上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、上記軌道部に対する30N以上の密着力を有する。
【0029】
また、上記DLC膜を、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を有している窒化層上に形成したことで、密着性が高く、早期剥離が起こらないことが実験で確かめられた。
【0030】
上記窒化層は、イオン衝撃による凸部の形成が容易であり、凸部がより微細でかつ単位面積当たりの凸部の占有面積率が大きくなり、DLC膜との接触面積が非常に増大し、密着性が向上する。なお、窒化層の凹凸が100nmを越えると、DLC膜表面に凹凸が現れて平滑性が損なわれる一方、凹凸が10nmを下回ると接触面積の増大が不足する。また、上記凹凸の平均幅が300nm以下であることにより、この凹凸による機械的な投錨(アンカー)効果により、窒化層とDLC膜との一層強固な結合が得られる。
【0031】
ダイヤモンドライクカーボン膜としては、1.0μm以上、好ましくは、1.5μm〜5μmの厚みのものが転がり軸受としては有効である。さらに、母材の鋼としては、拡散層硬さがHv500以上であることが転がり軸受として望まれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の転がり軸受の実施の形態の断面図である。
【図2】 本発明(膜密着力30N,45N)と従来例(膜密着力4N,10N)との比較寿命試験結果を示す特性図である。
【図3】 トルク寿命比試験結果を示す特性図である。
【図4】 コーティング膜のSi含有量と軸受寿命との関係を示す試験結果特性図である。
【符号の説明】
1…転がり軸受、2…内輪、3…外輪、4…玉、5,6,7…硬質膜、
11,12,13…窒化層。

Claims (4)

  1. 内,外輪、転動体および保持器を有し、この内,外輪、転動体および保持器のうちの少なくともいずれかの転がり接触する軌道部にダイヤモンドライクカーボン膜が形成された転がり軸受において、
    上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、硬質非晶質炭素−水素−珪素膜で、珪素含有量が30at%以下であり、
    上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、上記軌道部上に形成した厚さ30μm以上の窒化層上に形成されており、
    上記窒化層が、10〜100nmの高さで平均幅300nm以下の凹凸を有していて、
    上記窒化層の凹凸がイオン衝撃処理によって形成されていることを特徴とする転がり軸受。
  2. 上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、上記軌道部に対する30N以上の密着力を有することを特徴とする請求項1項記載の転がり軸受。
  3. 上記ダイヤモンドライクカーボン膜が、1.0μm以上の厚みを有することを特徴とする請求項1項記載の転がり軸受。
  4. 上記ダイヤモンドライクカーボン膜が形成される軌道部が、拡散層硬さがHv500以上の鋼であることを特徴とする請求項1項記載の転がり軸受。
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