JP4178826B2 - 転動装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受、ボールねじ、およびリニアガイド等の転動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドライクカーボン(以下「DLC」と略称する。)膜は、その表面がダイヤモンドに準ずる硬さ(10GPa以上の塑性変形硬さ)を有し、摺動抵抗に関しても、摩擦係数が0.2以下と、二硫化モリブデンやフッ素樹脂と同程度に小さい。そのため、DLC膜は転動装置の軌道面等に形成する新たな耐摩耗性被膜として注目されている。
【0003】
転がり軸受の軌道輪の軌道面または転動体の軌道面にDLC膜を形成することは、例えば特開平9−144764号公報、特開2000−136828号公報、特開2000−205277号公報、特開2000−205279号公報、特開2000−205280号公報等に記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
転がり軸受の軌道面等に形成されたDLC膜には、高い接触応力によって軌道面等から剥離し易いという問題点がある。国際公開WO99/14512(特表2001−516857号公報)には、この問題点を解決するために、軸受鋼からなる軌道面に、金属層、移行帯(金属カーバイド層と金属層との交互層)、金属混合DLC層をこの順に設けることが記載されている。しかしながら、この方法には更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、軌道溝の軌道面および/または転動体の転動面にDLC層が形成されている転動装置において、高い接触応力が付与されてもDLC層が剥離することなく、高い耐摩耗性が得られるようにすることを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、相対的に内側に配置された内方部材および外側に配置された外方部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより内方部材および外方部材の一方が他方に対して相対移動する転動装置において、前記内方部材および/または外方部材の鉄鋼材料で形成された軌道溝に、或いは転動体の鉄鋼材料で形成された転動面に、(1)クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、硅素(Si)、ニッケル(Ni)、および鉄(Fe)の少なくともいずれかの元素を含む組成の下地層と、(2)前記下地層の構成元素と炭素(C)とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側よりも大きい中間層と、(3)アルゴンと炭素とからなり、アルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるダイヤモンドライクカーボン層と、がこの順に形成されてなる、表面にダイヤモンドライクカーボン層を含む三層構造の層を有することを特徴とする転動装置
【0007】
記下地層は、格子定数が鉄と類似の元素からなる膜であり、鉄鋼材料で形成された軌道溝或いは転動面との密着性に優れている。この下地層に前記構成の中間層を介して前記構成のDLC層を形成することにより、高い接触応力が付与されてもDLC層が剥離することが防止される。すなわち、前記下地層、その上に中間層、さらにその上にDLC層が形成されてなる三層構造の層(表面にDLC層を含む層)を軌道溝或いは転動面に設けることにより、高い接触応力が付与されてもDLC層が剥離することが防止される。
【0008】
前記下地層の厚さは例えば40nm〜500nm、前記中間層の厚さは例えば40nm〜500nm、前記DLC層の厚さは例えば0.22μm〜4.0μm、3層合計の厚さは例えば0.3μm〜5.0μmとする。3層合計の厚さは0.8μm〜2.0μmであることが好ましい。
前記DLC層は、炭素以外に前記添加成分を含有することで、等価弾性定数が鉄鋼材料と同等以下になるため、繰り返し応力が付与されても、鉄鋼材料で形成された軌道溝或いは転動面から剥離され難くなる。このDLC層の等価弾性定数は80GPa以上240GPa以下にすることが好ましい。80GPa未満であると、DLC層の表面硬さが低くなって耐摩耗性が低下する。240GPaを超えると鉄鋼材料よりも高い等価弾性定数となるため、繰り返し応力の付与によって鉄鋼材料で形成された軌道溝或いは転動面から剥離され易くなる。
【0009】
ここで、DLC膜は、ダイヤモンド構造のSP3結合とグラファイト構造のSP2結合が混在しているアモルファス構造であり、SP3結合は硬さを付与し、SP2結合は摺動性(潤滑性)を付与する。そのため、SP3結合とSP2結合の割合によってDLC膜の性質は変化する。すなわち、SP3結合が多いDLC膜は硬いが摺動性が低くなり、SP2結合が多いDLC膜は摺動性は高いが膜強度が低くなる傾向にある。本発明では、炭素以外に前記添加成分を所定範囲で含有するDLC層を形成することで、DLC層のSP3結合とSP2結合のバランスを良好にし、転動装置として好適な摺動性と強度を得ている。
【0010】
前記DLC層は、プラズマCVD法やスパッタリング法等のように、水素、アルゴン、または窒素を気体の状態で供給可能な成膜法により形成することができるが、特に、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(以下「UBMS」と略称する。)法により形成することが好ましい。
UBMS法は、非平衡な磁場分布を有するマグネトロンカソードを使用することにより、通常のマグネトロンスパッタリング法(バランスドマグネトロンスパッタリング法)と比較して基板(被成膜面)の近傍でのプラズマ密度を高くすることができるため、成膜時の基板温度を低くすることができる。また、基板に負の電力を印加して行うバイアススパッタリングにより、硬いDLC層が形成できるという利点もある。特に、UBMS法によるバイアススパッタリングは、ターゲット電力とバイアス電圧の制御および気体導入量の制御によって、DLC層の組成を制御し易いため、特に好ましい成膜法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の転動装置の実施形態として、図1に示す転がり軸受を作製した。この転がり軸受は、内径30mm、外径62mmの深玉軸受であり、内輪(内方部材)1、外輪(外方部材)2、玉(転動体)3、および保持器4からなる。内輪1、外輪2、および玉3は、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼2種)で形成し、内輪1の軌道溝11を含む外周面10全体、外輪2の軌道溝21を含む内周面20全体、および玉3の表面全体に、下記の方法で薄膜を形成した。保持器4としては、低炭素鋼からなる波形保持器を使用した。
【0012】
成膜装置としては、(株)神戸製鋼所のUBMS装置「504」を使用した。ターゲットとしてクロムとカーボン(炭素)をこの装置の所定位置に設置した。先ず、被成膜物である内輪1、外輪2、および玉3を溶剤により洗浄して、油分を除去した後に乾燥させた。
次に、これらを成膜装置のターンテーブルに載置して、被成膜物の表面をスパッタリングによりクリーンにして活性化する処理(ボンバード処理)を行った。このボンバード処理は、ターゲット電力0の状態でチャンバ内の圧力を10-2Pa程度にし、チャンバ内にアルゴンガスを導入して、被成膜物に負の電力をかけ、15分間アルゴンプラズマでスパッタリングすることにより行った。
【0013】
次に、クロムのターゲット電力を「−」にし、被成膜物には、これより大きな負のバイアス電圧(−50V〜−100V)をかけて、チャンバ内にアルゴンガスを導入してUBMSを行った。これにより、内輪1の軌道溝11を含む外周面10全体、外輪2の軌道溝21を含む内周面20全体、および玉3の表面全体に、下地層としてクロム薄膜を厚さ0.2μmで形成した。
【0014】
次に、クロムのターゲット電力を徐々に小さくするとともに、カーボンのターゲット電力を徐々に大きくしながら、チャンバ内にアルゴンガスを導入して、被成膜物のバイアス電圧はそのままでUBMSを行った。
これにより、内輪1の軌道溝11を含む外周面10全体、外輪2の軌道溝21を含む内周面20全体、および玉3の表面全体の各下地層(クロム薄膜)の上に、中間層として、クロムと炭素とからなり炭素含有率が徐々に大きくなる薄膜を厚さ0.3μmで形成した。クロムおよびカーボンのターゲット電力の制御は、中間層の膜厚が0.3μmとなった時点で、クロムのターゲット電力が0になるように行った。
【0015】
次に、カーボンのターゲット電力を印加し、クロムのターゲット電力を0とした状態で、チャンバ内にアルゴンガスを導入し続けながら成膜した。これにより、内輪1の軌道溝11を含む外周面10全体、外輪2の軌道溝21を含む内周面20全体、および玉3の表面全体の各中間層(「クロム+カーボン」薄膜)の上に、アルゴンを含有するDLC層を厚さ2μmで形成した。
【0016】
その結果、図2に示すように、SUJ2からなる部材5の面(すなわち、内輪1の外周面10全体、外輪2の内周面20全体、および玉3の表面全体)に、クロム薄膜からなる下地層6、アルゴンを含有する「クロム+カーボン」薄膜からなる中間層7、アルゴンを含有するDLC層8がこの順に形成された。
ここで、DLC層8の成膜時のアルゴン供給量を変化させて、DLC層8のアルゴン含有率が種々の値となっている内輪1、外輪2、玉3を作製した。そして、DLC層8のアルゴン含有率が同じである内輪1、外輪2、玉3を組み合わせて転がり軸受を組み立て、アキシャル荷重:600N、回転速度:8000rpm、潤滑剤:スピンドル油(3マイクロリットル塗布)の条件で回転させて、焼き付きが生じるまでの時間を調べた。なお、DLC層中のアルゴン含有率の測定は、蛍光X線分析法により行った。
【0017】
その結果から得られた、焼き付き時間とDLC層中のアルゴン含有率との関係を示すグラフを図3に示す。このグラフから分かるように、DLC層中のアルゴン含有率が0.02質量%以上であると焼き付き時間が12時間以上となり、DLC層中のアルゴン含有率が1.0質量%以上であると焼き付き時間が20時間以上となっている。
【0018】
アルゴンを含有しないDLC層では焼き付き時間が3時間程度なので、DLC層中のアルゴン含有率を0.02質量%以上とすることで、アルゴンを含有しないDLC層の場合の4倍以上の耐焼き付き性が得られる。なお、DLC層中のアルゴン含有率が5.0質量%を超えると、DLC層をなす炭素の結晶構造が疎になって、耐摩耗性が低下する。
【0019】
したがって、この実施形態の転がり軸受によれば、SUJ2で形成された内輪1の軌道溝11、外輪2の軌道溝21、および玉3の表面全体に、クロム薄膜からなる下地層6、アルゴンを含有する「クロム+カーボン」薄膜からなる中間層7、アルゴンを含有するDLC層8がこの順に形成され、DLC層8中のアルゴン含有率を0.02質量%以上5.0質量%以下とすることにより、潤滑剤を極少量しか使用できない或いは潤滑剤を全く使用できない場合であっても高い耐摩耗性が得られる。
【0020】
上記実施形態では、最表面に形成するDLC層に炭素以外の添加成分としてアルゴンを含有させている以下に、前記添加成分として水素を含有するDLC層を最表面に形成した場合の、DLC層の水素含有率と表面の耐摩耗性との関係について説明する。
この関係を調べるためにボールオンディスク試験を行った。先ず、この試験用の試験片として、SUJ2製のディスク(円板)状の試験片(直径:62mm、厚さ:7mm、表面粗さ:0.004Ra)91を用意した。また、直径8mmのSUJ2製のボール92を用意した。
【0021】
図4に示すように、ディスク状の試験片91には表面にDLC層を含む3層構造の層93を形成した。この層93は、試験片91側から順に、クロム薄膜からなる下地層、「クロム+カーボン」薄膜からなる中間層、水素を含有するDLC層で構成されている。
この層93の成膜は、下地層および中間層の形成までは上述の成膜方法と同じ方法で行い、水素を含有するDLC層の形成は、チャンバ内にメタンガスを導入することにより行った。このメタンガスの導入量を変化させることにより、水素含有率が異なるDLC層を3層構造の層93の最表面に有する各試験片91を得た。
【0022】
得られた各試験片91を用い、滑り速度:2.5m/s、面圧:2.5GPa、潤滑:無潤滑の条件でボールオンディスク試験を行い、ロードセルを用いて摺動抵抗値(摩擦係数)を測定した。なお、DLC層中の水素含有率の測定は、グロー放電発光分析法により行った。
その結果から得られた、摩擦係数とDLC層中の水素含有率との関係を示すグラフを図5に示す。このグラフから分かるように、DLC層中の水素含有率が0.1質量%以上であると摩擦係数が0.15以下となっている。水素を含有しないDLC層では摩擦係数が0.30であるため、DLC層中の水素含有率を0.1質量%以上とすることで、摩擦係数を水素を含有しないDLC層の場合の1/2以下にすることができる。すなわち、水素を0.1質量%以上含有するDLC層を最表面に形成することで、水素を含有しないDLC層が最表面に形成されている場合よりも良好な耐摩耗性が得られる。
【0023】
なお、本発明は、転がり軸受以外の転動装置(例えば、ボールねじやリニアガイド)にも適用できる。ボールねじでは、ねじ軸が内方部材であり、ナットが外方部材である。リニアガイドでは、案内レールおよびスライダの一方が内方部材であって、他方が外方部材である。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、軌道溝の軌道面および/または転動体の転動面にDLC層が形成されている転動装置において、高い接触応力が付与されてもDLC層が剥離することなく、高い耐摩耗性が得られるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の転動装置の一実施形態に相当する転がり軸受を示す断面図である。
【図2】本発明で形成する層構成を示す断面図である。
【図3】実施形態の試験結果から得られた、焼き付き時間とDLC層中のアルゴン含有率との関係を示すグラフである。
【図4】ボールオンディスク試験の試験片を示す図である。
【図5】実施形態の試験結果から得られた、摩擦係数とDLC層中の水素含有率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪
11 内輪の軌道溝
10 内輪の外周面
2 外輪
21 外輪の軌道溝
20 外輪の内周面
3 玉(転動体)
4 保持器
5 SUJ2からなる部材
6 下地層
7 中間層
8 DLC層
91 ディスク状試験片
92 ボール
93 表面にDLC層を含む3層構造の層

Claims (4)

  1. 相対的に内側に配置された内方部材および外側に配置された外方部材と、両部材の軌道溝間に転動自在に配設された複数個の転動体と、を少なくとも備え、転動体が転動することにより内方部材および外方部材の一方が他方に対して相対移動する転動装置において、
    前記内方部材および/または外方部材の鉄鋼材料で形成された軌道溝に、或いは転動体の鉄鋼材料で形成された転動面に、
    クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、硅素(Si)、ニッケル(Ni)、および鉄(Fe)の少なくともいずれかの元素を含む組成の下地層と、
    前記下地層の構成元素と炭素(C)とを含有し、炭素の含有率が下地層の反対側で下地層側よりも大きい中間層と、
    アルゴンと炭素とからなり、アルゴンの含有率が0.02質量%以上5質量%以下であるダイヤモンドライクカーボン層と、
    がこの順に形成されてなる、表面にダイヤモンドライクカーボン層を含む三層構造の層を有することを特徴とする転動装置。
  2. 前記下地層の厚さは40nm〜500nm、前記中間層の厚さは40nm〜500nm、前記DLC層の厚さは0.22μm〜4.0μm、3層合計の厚さは0.3μm〜5.0μmである請求項1記載の転動装置。
  3. 前記DLC層の等価弾性定数は80GPa以上240GPa以下である請求項1または2記載の転動装置。
  4. 前記DLC層は、アンバランスドマグネトロンスパッタリング法により形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の転動装置。
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