JP2004339564A - 摺動部材および皮膜形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】DLC皮膜を破損させることなくこれに微小な凹部を設けることを可能にし、低い摩擦係数と優れた耐摩耗性とを確保する。
【解決手段】アンバランスドマグネトロンスパッタリング法により、基材1の表面に、金属層4を下層とし、金属と炭素との混合層5を上層とする中間層2を積層し、中間層2の上にダイヤモンドライクカーボンの皮膜(DLC皮膜)3を形成する。DLC皮膜3を成膜する際、基材1に印加する負のバイアス電圧を150〜600Vに設定し、DLC皮膜3の表面を、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの微小な凹部6を集合させた形状とし、該凹部6をオイル溜りとして機能させる。また、所望により固体潤滑材の皮膜をDLC皮膜上に積層し、前記凹部6のアンカー効果により固体潤滑材の皮膜とDLC皮膜との密着性を高める。
【選択図】 図1
【解決手段】アンバランスドマグネトロンスパッタリング法により、基材1の表面に、金属層4を下層とし、金属と炭素との混合層5を上層とする中間層2を積層し、中間層2の上にダイヤモンドライクカーボンの皮膜(DLC皮膜)3を形成する。DLC皮膜3を成膜する際、基材1に印加する負のバイアス電圧を150〜600Vに設定し、DLC皮膜3の表面を、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの微小な凹部6を集合させた形状とし、該凹部6をオイル溜りとして機能させる。また、所望により固体潤滑材の皮膜をDLC皮膜上に積層し、前記凹部6のアンカー効果により固体潤滑材の皮膜とDLC皮膜との密着性を高める。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面処理を施した摺動部材、特に基材表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の皮膜を形成してなる摺動部材と前記DLC皮膜の形成方法ととに関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドライクカーボンの皮膜(以下、DLC皮膜という)は、高硬度と低摩擦係数とを有することから、各種摺動部材、工具、磁気記録媒体、磁気ヘッドなどの保護膜として多く用いられるようになってきている。
ところで、このDLC皮膜を設けた部材を摺動部材として用いる場合は、より一層の低摩擦係数化(低μ化)が求められており、例えば、特許文献1には、基材表面にCVDコーティング法によりDLC皮膜を形成した後、レーザ照射を行って、開口面積が10〜100μm2で、最大深さが0.1〜1μmの微小凹部を面積率5〜30%の範囲で表面に分散させて、前記微小凹部をオイル溜りとして用いることが記載されている。
また、特許文献2には、基材表面にスパッタリング法により、平均径2nm以上のグラファイトクラスターを含む低硬度DLC層と平均径1nm以下のグラファイトクラスターを含む高硬度DLC層とを交互に積層し、前記グラファイトクラスターを潤滑材として機能させることが記載されている。
【0003】
なお、特許文献3には、基材表面に、カソードアークイオンプレーティング法により、4〜7μmの微小凹凸を有するCrN層を形成した後、このCrN層の表面に固体潤滑膜を積層形成して、基材に対する固体潤滑膜の密着性をアンカー効果により高めることが記載されている。この特許文献3に記載の被覆構造によれば、固体潤滑膜により十分に低い摩擦係数を確保することができるので、前記CrN層に代えてDLC皮膜を設ければ、耐摩耗性に著しく優れしかも摩擦係数も十分に低い摺動部材が得られるものと期待される。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−254808号公報
【特許文献2】
特開2001−261318号公報
【特許文献3】
特開2000−239829号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に記載される低μ化対策によれば、DLC皮膜を形成した後、レーザ照射を行って微小な凹部を形成するため、せっかく形成したDLC皮膜が破壊、損傷してしまう危険があり、DLC皮膜の安定維持に問題が残る。また、微小な凹部の面積率が5〜30%と低いため、オイル溜りとしての機能は不十分で、油潤滑下で使用される部品、例えば、エンジンのピストンリングなどに用いた場合に、あまり低μ化効果は期待できない。
また、特許文献2に記載される低μ化対策によれば、グラファイトクラスターによる自己潤滑作用に期待するものであるため、低μ化効果を高めようとすると、グラファイトクラスターの含有量を増加させなければならず、その分、硬度低下を来して耐摩耗性が犠牲になる。
さらに、特許文献3に記載される被覆構造におけるCrN層に代えてDLC皮膜を設ける考え方によれば、DLC皮膜に微小な凹凸を形成する有効な方法が従来確立されていないため、その実現は困難であった。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その第1の課題とするところは、DLC皮膜を破損させることなくこれに微小な凹部を設けることを可能にし、もって油潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる摺動部材を提供することである。また、第2の課題とするところは、基材に対する固体潤滑皮膜の密着性を犠牲にすることなくDLC皮膜と固体潤滑皮膜との被覆構造を実現し、もって無潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる摺動部材を提供することである。さらに、第3の課題とするところは、DLC皮膜に微小な凹部を容易にかつ安定して形成できる皮膜形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、スパッタリング法により得られるDLC皮膜の表面形状について鋭意検討した結果、DLC皮膜の表面形状と基材に印加する負のバイアス電圧との間に密接な相関があり、基材に印加する負のバイアス電圧が約120V以下では微小な凸部を集合させた表面形状となるのに対し、それより高いバイアス電圧を印加すると微小な凹部を集合させた表面形状になることを見出した。
本発明は、上記した知見に基いてなされたもので、上記第1の課題を解決するための、第1の発明としての摺動部材は、基材の表面に、スパッタリング法によりダイヤモンドライクカーボンの皮膜を形成してなる摺動部材において、前記ダイヤモンドライクカーボンの皮膜(DLC皮膜)が、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの微小な凹部を集合させた表面形状を有していることを特徴とする。
また、上記第2の課題を解決するための、第2の発明としての摺動部材は、上記第1の発明におけるDLC皮膜の表面に、固体潤滑材の皮膜を積層形成したことを特徴とする。
さらに、上記第3の課題を解決するための、第3の発明としての皮膜形成方法は、カーボンをターゲットとして、スパッタリング法により基材表面にDLC皮膜を成膜する際、基材に印加する負のバイアス電圧を150〜600Vに設定することを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。
図1および図2は、本発明に係る摺動部材の1つの実施の形態を示したものである。同図において、1は基材、2は、後述のアンバランストマグネトロンスパッタリング法により基材1の表面に積層形成された中間層、3は、同じく後述のアンバランストマグネトロンスパッタリング法により中間層2の表面に積層形成されたダイヤモンドライクカーボン皮膜(DLC皮膜)である。中間層2は、ここでは金属の層4を下層とし、前記金属と炭素との混合層5を上層とする2層構造となっており、一方、DLC皮膜3は、微小なディンプル状凹部6を集合させた表面形状を有している。なお、図2は、原子間顕微鏡(AFM)により表面状態を観察した結果を示したものである。
【0009】
本実施の形態において、上記基材1の種類は任意であり、鉄系材料であっても、非鉄系材料であっても、あるいはセラミックスであってもよい。
また、上記中間層2の金属層4を構成する金属としては、Cとの親和力の強い金属、例えばCr、Ti、Nv、V、W、Mo等を選択するのが望ましい。上層の混合層5は、前記した金属とCとの混合層であり、金属層4に近接するほど金属の割合が多く、DLC皮膜3に近接するほどCの割合が多くなるように、金属とCとの混合比が設定されている。
中間層2を構成する金属層4並びに混合層5の厚さ、およびDLC皮膜3の厚さは、用途(使用条件)に応じて適宜大きさとするが、一例として金属層4、混合層5、DLC皮膜3の厚さは、それぞれ0.1〜0.5μm、1〜2μm、0.5〜1.5μmに設定される。
【0010】
上記DLC皮膜3の表面の凹部6は、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの極めて小さな大きさとなっている。凹部6の大きさ(直径および深さ)が前記した範囲の下限より小さい場合は、オイル溜りとしての機能が不十分であり、逆に前記した範囲の上限よりも大きい場合は、境界潤滑が多くなって摩擦係数が高くなり、その上、耐摩耗性も低下する。
【0011】
このように構成した摺動部材においては、DLC皮膜3の表面が微小な凹部6を集合させた形状となっているので、オイル溜りとしての機能は十分となる。また、この凹部6は、その大きさが極めて小さく、しかも集合する状態で存在するので、境界潤滑の発生が抑制され、したがって、油潤滑下での摩擦係数は十分に低くなる。さらに、この微小な凹部6は、スパッタリング法による成膜により形成されるので、後加工により凹部を形成する場合のようにDLC皮膜3が破損することはなく、したがって、耐摩耗性に優れたDLC皮膜3が安定維持される。また、本実施の形態においては特に、基材1とDLC皮膜3との間に金属を含む中間層2を介在させているので、基材1に対するDLC皮膜3の密着性は十分となり、摺動部材としての耐久性は著しく向上する。
【0012】
図3および図4は、上記した中間層2およびDLC皮膜3を基材1の表面に形成するためのアンバランストマグネトロンスパッタリング装置の1つの実施の形態を示したものである。両図において、10は真空槽であり、この真空槽10内の周辺側の4箇所には蒸発源11が配置され、また、真空槽10内の中央には、上記した基材1の多数を支持する基材ホルダ12が配設されている。
各蒸発源11は、ターゲット13とこのターゲット13の背面側に配置された磁石14とからなっており、そのターゲット13には、真空槽10外に配置した電源15から負のバイアス電圧が印加されるようになっている。本実施の形態において、前記4箇所のターゲット13のうちの2つは固体炭素から、残りの2つはCr,Ti等の純金属からそれぞれなっており、以下では、説明の便宜のため、炭素ターゲットを13A、金属ターゲットを13Bと表記する。
【0013】
一方、基材ホルダ12は、駆動手段により回転駆動される回転テーブル16を備えている。この回転テーブル16上の外周側には、駆動手段により回転駆動される複数の回転軸16が配列されており、各基材1は、この回転軸17にセットされるようになっている。すなわち、各基材1は、自転しながら回転テーブル16の軸線回りに公転運動をするようになっている。また、基材ホルダ12には、各基材1に負のバイアス電圧を印加する電源18が接続されている。
真空槽10には、該真空槽10内を排気するための排気口19と該真空槽10内にArガスを導入するためのガス導入口20とが設けられており、排気口19は真空ポンプに、ガス導入口20はArガス源にそれぞれ配管接続されている。なお、21は、真空槽10内を予熱するためのヒータである。
【0014】
成膜を行うには、蒸発源11のターゲット13に固体炭素および純金属を、基材ホルダ12に基材1をそれぞれセットした後、真空槽10内を所定の真空度となるまで真空排気し、さらにヒータ21により真空槽10内を所定の温度に予熱する。そして先ず、金属ターゲット13Bに所定の電力を供給し、基材1にバイアス電圧を印加することなくガス導入口20から真空槽10内にArガスを導入する。すると、イオン化したAr(Ar+)が金属ターゲット13Bに衝突して金属ターゲット13Bから金属原子がはじき飛ばされる。このとき、磁石14により形成される非平衡磁場によりArプラズマP(図3)が基材1側まで到達しており、これにより前記金属原子は、Ar+のアシストもあって効率よくかつ高密度に基材1の表面に堆積し、基材1の表面には、上記した下層の金属層4(図1)が形成される。
【0015】
そして、金属層4が所定厚さに形成されるタイミングで、金属ターゲット13Bに供給する電力を次第に低下させる一方で、炭素ターゲット13Aに供給する電力を次第に増加させる。すると、金属ターゲットBからはじき飛ばされた金属原子と炭素ターゲット13Aからはじき飛ばされた炭素原子とが、基材1側へ引き込まれ、混合する状態で基材1の上に堆積する。これにより、前記金属層4の表面には、上記した上層の混合層5(図1)が積層形成される。
【0016】
その後は、金属ターゲット13Bに供給する電力をゼロに落とす一方で、基材1に150〜600V範囲の負のバイアス電圧を印加する。すると、炭素ターゲット13Aからはじき出された炭素原子は、図4に示すように、Ar+のアシストもあって効率よくかつ高密度に基材1の表面に堆積し、これにより基材1の表面には、上記したDLC皮膜3(図1)が形成され、これにて成膜は完了する。
【0017】
なお、上記したスパッタリング法の実施に際しては、事前にイオンエッチング処理を行って基材1の表面を洗浄するのが望ましい。このイオンエッチング処理は、上記したArプラズマP(図3)を発生させ、このArプラズマP内のAr+を基材1に衝突させることにより実施可能である。
また、上記したDLC皮膜3の成膜に際しては、DLC皮膜3の硬さを高めるため、真空槽10内に、別途設けたガス導入口22(図3)から反応性ガスを導入するようにしもよい。
【0018】
図5は、本発明に係る摺動部材の他の実施の形態を示したものである。本実施の形態の特徴とするところは、上記アンバランストマグネトロンスパッタリング法により基材1の表面に形成したDLC皮膜3上にさらに、固体潤滑材(MoS2、NbS2等)の皮膜30を積層形成した点にある。
この固体潤滑材の皮膜(固体潤滑膜)30を形成する方法は任意であるが、上記したアンバランストマグネトロンスパッタリング装置(図3)をそのまま用いることができる。この場合は、蒸発源11を構成するターゲット13の1つを固体潤滑材に置換すればよく、これにより、真空槽10の真空を破ることなく効率よく固体潤滑膜30を形成することができる。
【0019】
このようにDLC皮膜3上に固体潤滑膜30を形成した場合は、固体潤滑膜30により摩擦係数が著しく低くなるので、無潤滑下での摺動においても低摩擦係数を確保できる。しかも、この固体潤滑膜30の下側には硬質のDLC皮膜3が存在するので、耐摩耗性も十分となる。また、このDLC皮膜3は、上記したようようにその表面形状が微小凹部6の集合となっているので、該微小凹部6のアンカー効果により基材1に対する固体潤滑膜30の密着性が向上し、摺動部材としての耐久性も十分となる。
【0020】
【実施例】
上記基材1としてSCM15の浸炭材からなるブロックを用いて、その表面を鏡面に仕上げ、図3に示したアンバランストマグネトロンスパッタリング装置を用いて、表1に示す条件で真空排気、予熱、前処理、成膜を順に行い、基材表面にDLC皮膜を μm厚さに形成した。表1から明らかなように、本実施例においては、成膜工程において基材1に印加する負のバイアス電圧を50V、100V、150V、200V、400V、600Vの6段階に変化させている。
【0021】
【表1】
【0022】
そして、得られた試料について、走査電子顕微鏡(SEM)により表面状態を観察するとともに、原子間力顕微鏡(AFM)により表面の凹凸の大きさを定量的に求めた。
また、得られた試料について、ブロックオンリング(LFW)摩擦摩耗試験を行い、DLC皮膜の表面凹凸の大きさと摩耗量並びに摩擦係数との相関を求めた。摩擦摩耗試験は、図6に示すように、SNCM420製のリング40を油浴(オイル:5W−30、浴温:室温)41中に半浸漬して、これを回転数160rpmで回転させ、この回転するリング40にブロック42のDLC皮膜面(摺動面)42aを1200Nの荷重で30分押付ける条件で行った。
【0023】
SEMによりDLC皮膜の表面状態を観察した結果、基材に印加する負のバイアス電圧が50Vおよび100Vでは微小な凸部を集合させた表面形状となっているのに対し、負のバイアス電圧が150V以上になると、逆に微小な凹部を集合させた表面形状となることが判った。また、負のバイアス電圧を200Vから600Vまで高めていくと、その凹形状が次第にならされ、負のバイアス電圧が800Vになると、著しい肌荒れを起こすことが判った。
また、AFMによりDLC皮膜の表面の凹凸の大きさを定量的に求めた結果、凸部および凹部の直径(最大径)は、負のバイアス電圧の変化(50〜800V)によらず、ほぼ0.5〜1.0μm範囲に収まっていたが、凸部の高さおよび凹部の深さは、負のバイアス電圧の変化に大きく依存することが判った。
【0024】
図7は、AFMによる凸部の高さおよび凹部の深さの測定結果を示したものである。これより、DLC皮膜は、負のバイアス電圧120V付近を境に、それよりも負のバイアス電圧が低い場合には凸部を集合させた表面形状に、それよりも負のバイアス電圧が大きい場合には凹部を集合させた表面形状になっていること明らかである。このように凸部の集合から凹部の集合へと変化するのは、負のバイアス電圧の上昇に応じて基材表面に対するAr+の衝撃エネルギーが強まる結果、一旦形成されたDLC皮膜表面から炭素原子が弾き飛ばされたためと推定される。
一方、凸部の高さは負のバイアス電圧が高くなるほど低くなるのに対し、凹部の深さは、負のバイアス電圧200V付近までは、負のバイアス電圧が高くなるほど深くなるが、200V付近から600V付近までは、逆に負のバイアス電圧が高くなるほど浅くなっている。このように凹部の深さが逆に浅くなるのは、イオン衝撃が強くなり過ぎる結果、DLC皮膜自体の結合の破壊が進むためと推定される。なお、負のバイアス電圧が800Vでは凹部の深さが著しく深くなっているが、この段階では、DLC皮膜の表面がランダムにえぐられ、全体として肌荒れを起こしている。
【0025】
図8は、摩擦摩耗試験により得られた摩耗量に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示したものである。これより、摩耗量は、凸部の高さが低く、凹部の深さが深いほど少なくなる傾向にあることが明らかである。ただし、凹部の深さが100nmでは摩耗量が著しく増加しており、凹部の深さが30nmを超えると、摩耗量が逆に増加することが予想されるので、凹部の深さは30nm以下にするのが望ましい。また、凹部の深さが10nmよりも浅いと、凸部を集合させた表面形状の摩耗量と大きな差がなくなるので、凹部の深さは10nm以上とするのが望ましい。
【0026】
図9は、摩擦摩耗試験により得られた摩擦係数に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示したものである。これより、摩擦係数は、凸部の高さが低く、凹部の深さが深いほど小さくなる傾向にあることが明らかである。ただし、凹部の深さが100nmでは摩擦係数が著しく高くなっており、凹部の深さが30nmを超えると、摩擦係数が逆に増加することが予想されるので、凹部の深さは、摩擦係数の面からも30nm以下にするのが望ましい。また、凹部の深さが10nmよりも浅いと、凸部を集合させた表面形状の摩擦係数と大きな差がなくなるので、凹部の深さは10nm以上とするのが望ましい。
【0027】
【発明の効果】
以上、説明したように、第1の発明としての摺動部材によれば、DLC皮膜を破損させることなくこれに微小な凹部を設けているので、油潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる。
また、第2の発明としての摺動部材によれば、基材に対する固体潤滑皮膜の密着性を犠牲にすることなくDLC皮膜と固体潤滑皮膜との被覆構造を実現できるので、無潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる。
さらに、第3の発明としての皮膜形成方法によれば、DLC皮膜に微小な凹部を容易にかつ安定して形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1つの実施形態である摺動部材の表層部の組織を模式的に示す断面図である。
【図2】本摺動部材の表面形状を原子間力顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡写真である。
【図3】本摺動部材を得るためのアンバランストマグネトロンスパッタリング装置の構造を模式的に示す平面図である。
【図4】アンバランストマグネトロンスパッタリング法による成膜原理を示す模式図である。
【図5】本発明の他の実施形態である摺動部材の表層部の組織を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施例で行った摩擦摩耗試験の方法を示す模式図である。
【図7】原子間力顕微鏡によるDLC皮膜の表面凹凸の観察結果を示したもので、凸部の高さおよび凹部の深さに及ぼす負のバイアス電圧の影響を示すグラフである。
【図8】摩擦摩耗試験の結果を示したもので、摩耗量に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示すグラフである。
【図9】摩擦摩耗試験の結果を示したもので、摩擦係数に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基材
2 中間槽
3 DLC皮膜
4 金属層
5 混合層
6 凹部
10 アンバランストマグネトロンスパッタリング装置の真空槽
18 バイアス電圧印加用電源
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面処理を施した摺動部材、特に基材表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)の皮膜を形成してなる摺動部材と前記DLC皮膜の形成方法ととに関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドライクカーボンの皮膜(以下、DLC皮膜という)は、高硬度と低摩擦係数とを有することから、各種摺動部材、工具、磁気記録媒体、磁気ヘッドなどの保護膜として多く用いられるようになってきている。
ところで、このDLC皮膜を設けた部材を摺動部材として用いる場合は、より一層の低摩擦係数化(低μ化)が求められており、例えば、特許文献1には、基材表面にCVDコーティング法によりDLC皮膜を形成した後、レーザ照射を行って、開口面積が10〜100μm2で、最大深さが0.1〜1μmの微小凹部を面積率5〜30%の範囲で表面に分散させて、前記微小凹部をオイル溜りとして用いることが記載されている。
また、特許文献2には、基材表面にスパッタリング法により、平均径2nm以上のグラファイトクラスターを含む低硬度DLC層と平均径1nm以下のグラファイトクラスターを含む高硬度DLC層とを交互に積層し、前記グラファイトクラスターを潤滑材として機能させることが記載されている。
【0003】
なお、特許文献3には、基材表面に、カソードアークイオンプレーティング法により、4〜7μmの微小凹凸を有するCrN層を形成した後、このCrN層の表面に固体潤滑膜を積層形成して、基材に対する固体潤滑膜の密着性をアンカー効果により高めることが記載されている。この特許文献3に記載の被覆構造によれば、固体潤滑膜により十分に低い摩擦係数を確保することができるので、前記CrN層に代えてDLC皮膜を設ければ、耐摩耗性に著しく優れしかも摩擦係数も十分に低い摺動部材が得られるものと期待される。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−254808号公報
【特許文献2】
特開2001−261318号公報
【特許文献3】
特開2000−239829号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に記載される低μ化対策によれば、DLC皮膜を形成した後、レーザ照射を行って微小な凹部を形成するため、せっかく形成したDLC皮膜が破壊、損傷してしまう危険があり、DLC皮膜の安定維持に問題が残る。また、微小な凹部の面積率が5〜30%と低いため、オイル溜りとしての機能は不十分で、油潤滑下で使用される部品、例えば、エンジンのピストンリングなどに用いた場合に、あまり低μ化効果は期待できない。
また、特許文献2に記載される低μ化対策によれば、グラファイトクラスターによる自己潤滑作用に期待するものであるため、低μ化効果を高めようとすると、グラファイトクラスターの含有量を増加させなければならず、その分、硬度低下を来して耐摩耗性が犠牲になる。
さらに、特許文献3に記載される被覆構造におけるCrN層に代えてDLC皮膜を設ける考え方によれば、DLC皮膜に微小な凹凸を形成する有効な方法が従来確立されていないため、その実現は困難であった。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その第1の課題とするところは、DLC皮膜を破損させることなくこれに微小な凹部を設けることを可能にし、もって油潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる摺動部材を提供することである。また、第2の課題とするところは、基材に対する固体潤滑皮膜の密着性を犠牲にすることなくDLC皮膜と固体潤滑皮膜との被覆構造を実現し、もって無潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる摺動部材を提供することである。さらに、第3の課題とするところは、DLC皮膜に微小な凹部を容易にかつ安定して形成できる皮膜形成方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、スパッタリング法により得られるDLC皮膜の表面形状について鋭意検討した結果、DLC皮膜の表面形状と基材に印加する負のバイアス電圧との間に密接な相関があり、基材に印加する負のバイアス電圧が約120V以下では微小な凸部を集合させた表面形状となるのに対し、それより高いバイアス電圧を印加すると微小な凹部を集合させた表面形状になることを見出した。
本発明は、上記した知見に基いてなされたもので、上記第1の課題を解決するための、第1の発明としての摺動部材は、基材の表面に、スパッタリング法によりダイヤモンドライクカーボンの皮膜を形成してなる摺動部材において、前記ダイヤモンドライクカーボンの皮膜(DLC皮膜)が、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの微小な凹部を集合させた表面形状を有していることを特徴とする。
また、上記第2の課題を解決するための、第2の発明としての摺動部材は、上記第1の発明におけるDLC皮膜の表面に、固体潤滑材の皮膜を積層形成したことを特徴とする。
さらに、上記第3の課題を解決するための、第3の発明としての皮膜形成方法は、カーボンをターゲットとして、スパッタリング法により基材表面にDLC皮膜を成膜する際、基材に印加する負のバイアス電圧を150〜600Vに設定することを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。
図1および図2は、本発明に係る摺動部材の1つの実施の形態を示したものである。同図において、1は基材、2は、後述のアンバランストマグネトロンスパッタリング法により基材1の表面に積層形成された中間層、3は、同じく後述のアンバランストマグネトロンスパッタリング法により中間層2の表面に積層形成されたダイヤモンドライクカーボン皮膜(DLC皮膜)である。中間層2は、ここでは金属の層4を下層とし、前記金属と炭素との混合層5を上層とする2層構造となっており、一方、DLC皮膜3は、微小なディンプル状凹部6を集合させた表面形状を有している。なお、図2は、原子間顕微鏡(AFM)により表面状態を観察した結果を示したものである。
【0009】
本実施の形態において、上記基材1の種類は任意であり、鉄系材料であっても、非鉄系材料であっても、あるいはセラミックスであってもよい。
また、上記中間層2の金属層4を構成する金属としては、Cとの親和力の強い金属、例えばCr、Ti、Nv、V、W、Mo等を選択するのが望ましい。上層の混合層5は、前記した金属とCとの混合層であり、金属層4に近接するほど金属の割合が多く、DLC皮膜3に近接するほどCの割合が多くなるように、金属とCとの混合比が設定されている。
中間層2を構成する金属層4並びに混合層5の厚さ、およびDLC皮膜3の厚さは、用途(使用条件)に応じて適宜大きさとするが、一例として金属層4、混合層5、DLC皮膜3の厚さは、それぞれ0.1〜0.5μm、1〜2μm、0.5〜1.5μmに設定される。
【0010】
上記DLC皮膜3の表面の凹部6は、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの極めて小さな大きさとなっている。凹部6の大きさ(直径および深さ)が前記した範囲の下限より小さい場合は、オイル溜りとしての機能が不十分であり、逆に前記した範囲の上限よりも大きい場合は、境界潤滑が多くなって摩擦係数が高くなり、その上、耐摩耗性も低下する。
【0011】
このように構成した摺動部材においては、DLC皮膜3の表面が微小な凹部6を集合させた形状となっているので、オイル溜りとしての機能は十分となる。また、この凹部6は、その大きさが極めて小さく、しかも集合する状態で存在するので、境界潤滑の発生が抑制され、したがって、油潤滑下での摩擦係数は十分に低くなる。さらに、この微小な凹部6は、スパッタリング法による成膜により形成されるので、後加工により凹部を形成する場合のようにDLC皮膜3が破損することはなく、したがって、耐摩耗性に優れたDLC皮膜3が安定維持される。また、本実施の形態においては特に、基材1とDLC皮膜3との間に金属を含む中間層2を介在させているので、基材1に対するDLC皮膜3の密着性は十分となり、摺動部材としての耐久性は著しく向上する。
【0012】
図3および図4は、上記した中間層2およびDLC皮膜3を基材1の表面に形成するためのアンバランストマグネトロンスパッタリング装置の1つの実施の形態を示したものである。両図において、10は真空槽であり、この真空槽10内の周辺側の4箇所には蒸発源11が配置され、また、真空槽10内の中央には、上記した基材1の多数を支持する基材ホルダ12が配設されている。
各蒸発源11は、ターゲット13とこのターゲット13の背面側に配置された磁石14とからなっており、そのターゲット13には、真空槽10外に配置した電源15から負のバイアス電圧が印加されるようになっている。本実施の形態において、前記4箇所のターゲット13のうちの2つは固体炭素から、残りの2つはCr,Ti等の純金属からそれぞれなっており、以下では、説明の便宜のため、炭素ターゲットを13A、金属ターゲットを13Bと表記する。
【0013】
一方、基材ホルダ12は、駆動手段により回転駆動される回転テーブル16を備えている。この回転テーブル16上の外周側には、駆動手段により回転駆動される複数の回転軸16が配列されており、各基材1は、この回転軸17にセットされるようになっている。すなわち、各基材1は、自転しながら回転テーブル16の軸線回りに公転運動をするようになっている。また、基材ホルダ12には、各基材1に負のバイアス電圧を印加する電源18が接続されている。
真空槽10には、該真空槽10内を排気するための排気口19と該真空槽10内にArガスを導入するためのガス導入口20とが設けられており、排気口19は真空ポンプに、ガス導入口20はArガス源にそれぞれ配管接続されている。なお、21は、真空槽10内を予熱するためのヒータである。
【0014】
成膜を行うには、蒸発源11のターゲット13に固体炭素および純金属を、基材ホルダ12に基材1をそれぞれセットした後、真空槽10内を所定の真空度となるまで真空排気し、さらにヒータ21により真空槽10内を所定の温度に予熱する。そして先ず、金属ターゲット13Bに所定の電力を供給し、基材1にバイアス電圧を印加することなくガス導入口20から真空槽10内にArガスを導入する。すると、イオン化したAr(Ar+)が金属ターゲット13Bに衝突して金属ターゲット13Bから金属原子がはじき飛ばされる。このとき、磁石14により形成される非平衡磁場によりArプラズマP(図3)が基材1側まで到達しており、これにより前記金属原子は、Ar+のアシストもあって効率よくかつ高密度に基材1の表面に堆積し、基材1の表面には、上記した下層の金属層4(図1)が形成される。
【0015】
そして、金属層4が所定厚さに形成されるタイミングで、金属ターゲット13Bに供給する電力を次第に低下させる一方で、炭素ターゲット13Aに供給する電力を次第に増加させる。すると、金属ターゲットBからはじき飛ばされた金属原子と炭素ターゲット13Aからはじき飛ばされた炭素原子とが、基材1側へ引き込まれ、混合する状態で基材1の上に堆積する。これにより、前記金属層4の表面には、上記した上層の混合層5(図1)が積層形成される。
【0016】
その後は、金属ターゲット13Bに供給する電力をゼロに落とす一方で、基材1に150〜600V範囲の負のバイアス電圧を印加する。すると、炭素ターゲット13Aからはじき出された炭素原子は、図4に示すように、Ar+のアシストもあって効率よくかつ高密度に基材1の表面に堆積し、これにより基材1の表面には、上記したDLC皮膜3(図1)が形成され、これにて成膜は完了する。
【0017】
なお、上記したスパッタリング法の実施に際しては、事前にイオンエッチング処理を行って基材1の表面を洗浄するのが望ましい。このイオンエッチング処理は、上記したArプラズマP(図3)を発生させ、このArプラズマP内のAr+を基材1に衝突させることにより実施可能である。
また、上記したDLC皮膜3の成膜に際しては、DLC皮膜3の硬さを高めるため、真空槽10内に、別途設けたガス導入口22(図3)から反応性ガスを導入するようにしもよい。
【0018】
図5は、本発明に係る摺動部材の他の実施の形態を示したものである。本実施の形態の特徴とするところは、上記アンバランストマグネトロンスパッタリング法により基材1の表面に形成したDLC皮膜3上にさらに、固体潤滑材(MoS2、NbS2等)の皮膜30を積層形成した点にある。
この固体潤滑材の皮膜(固体潤滑膜)30を形成する方法は任意であるが、上記したアンバランストマグネトロンスパッタリング装置(図3)をそのまま用いることができる。この場合は、蒸発源11を構成するターゲット13の1つを固体潤滑材に置換すればよく、これにより、真空槽10の真空を破ることなく効率よく固体潤滑膜30を形成することができる。
【0019】
このようにDLC皮膜3上に固体潤滑膜30を形成した場合は、固体潤滑膜30により摩擦係数が著しく低くなるので、無潤滑下での摺動においても低摩擦係数を確保できる。しかも、この固体潤滑膜30の下側には硬質のDLC皮膜3が存在するので、耐摩耗性も十分となる。また、このDLC皮膜3は、上記したようようにその表面形状が微小凹部6の集合となっているので、該微小凹部6のアンカー効果により基材1に対する固体潤滑膜30の密着性が向上し、摺動部材としての耐久性も十分となる。
【0020】
【実施例】
上記基材1としてSCM15の浸炭材からなるブロックを用いて、その表面を鏡面に仕上げ、図3に示したアンバランストマグネトロンスパッタリング装置を用いて、表1に示す条件で真空排気、予熱、前処理、成膜を順に行い、基材表面にDLC皮膜を μm厚さに形成した。表1から明らかなように、本実施例においては、成膜工程において基材1に印加する負のバイアス電圧を50V、100V、150V、200V、400V、600Vの6段階に変化させている。
【0021】
【表1】
【0022】
そして、得られた試料について、走査電子顕微鏡(SEM)により表面状態を観察するとともに、原子間力顕微鏡(AFM)により表面の凹凸の大きさを定量的に求めた。
また、得られた試料について、ブロックオンリング(LFW)摩擦摩耗試験を行い、DLC皮膜の表面凹凸の大きさと摩耗量並びに摩擦係数との相関を求めた。摩擦摩耗試験は、図6に示すように、SNCM420製のリング40を油浴(オイル:5W−30、浴温:室温)41中に半浸漬して、これを回転数160rpmで回転させ、この回転するリング40にブロック42のDLC皮膜面(摺動面)42aを1200Nの荷重で30分押付ける条件で行った。
【0023】
SEMによりDLC皮膜の表面状態を観察した結果、基材に印加する負のバイアス電圧が50Vおよび100Vでは微小な凸部を集合させた表面形状となっているのに対し、負のバイアス電圧が150V以上になると、逆に微小な凹部を集合させた表面形状となることが判った。また、負のバイアス電圧を200Vから600Vまで高めていくと、その凹形状が次第にならされ、負のバイアス電圧が800Vになると、著しい肌荒れを起こすことが判った。
また、AFMによりDLC皮膜の表面の凹凸の大きさを定量的に求めた結果、凸部および凹部の直径(最大径)は、負のバイアス電圧の変化(50〜800V)によらず、ほぼ0.5〜1.0μm範囲に収まっていたが、凸部の高さおよび凹部の深さは、負のバイアス電圧の変化に大きく依存することが判った。
【0024】
図7は、AFMによる凸部の高さおよび凹部の深さの測定結果を示したものである。これより、DLC皮膜は、負のバイアス電圧120V付近を境に、それよりも負のバイアス電圧が低い場合には凸部を集合させた表面形状に、それよりも負のバイアス電圧が大きい場合には凹部を集合させた表面形状になっていること明らかである。このように凸部の集合から凹部の集合へと変化するのは、負のバイアス電圧の上昇に応じて基材表面に対するAr+の衝撃エネルギーが強まる結果、一旦形成されたDLC皮膜表面から炭素原子が弾き飛ばされたためと推定される。
一方、凸部の高さは負のバイアス電圧が高くなるほど低くなるのに対し、凹部の深さは、負のバイアス電圧200V付近までは、負のバイアス電圧が高くなるほど深くなるが、200V付近から600V付近までは、逆に負のバイアス電圧が高くなるほど浅くなっている。このように凹部の深さが逆に浅くなるのは、イオン衝撃が強くなり過ぎる結果、DLC皮膜自体の結合の破壊が進むためと推定される。なお、負のバイアス電圧が800Vでは凹部の深さが著しく深くなっているが、この段階では、DLC皮膜の表面がランダムにえぐられ、全体として肌荒れを起こしている。
【0025】
図8は、摩擦摩耗試験により得られた摩耗量に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示したものである。これより、摩耗量は、凸部の高さが低く、凹部の深さが深いほど少なくなる傾向にあることが明らかである。ただし、凹部の深さが100nmでは摩耗量が著しく増加しており、凹部の深さが30nmを超えると、摩耗量が逆に増加することが予想されるので、凹部の深さは30nm以下にするのが望ましい。また、凹部の深さが10nmよりも浅いと、凸部を集合させた表面形状の摩耗量と大きな差がなくなるので、凹部の深さは10nm以上とするのが望ましい。
【0026】
図9は、摩擦摩耗試験により得られた摩擦係数に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示したものである。これより、摩擦係数は、凸部の高さが低く、凹部の深さが深いほど小さくなる傾向にあることが明らかである。ただし、凹部の深さが100nmでは摩擦係数が著しく高くなっており、凹部の深さが30nmを超えると、摩擦係数が逆に増加することが予想されるので、凹部の深さは、摩擦係数の面からも30nm以下にするのが望ましい。また、凹部の深さが10nmよりも浅いと、凸部を集合させた表面形状の摩擦係数と大きな差がなくなるので、凹部の深さは10nm以上とするのが望ましい。
【0027】
【発明の効果】
以上、説明したように、第1の発明としての摺動部材によれば、DLC皮膜を破損させることなくこれに微小な凹部を設けているので、油潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる。
また、第2の発明としての摺動部材によれば、基材に対する固体潤滑皮膜の密着性を犠牲にすることなくDLC皮膜と固体潤滑皮膜との被覆構造を実現できるので、無潤滑下で低い摩擦係数を確保できるとともに優れた耐摩耗性を確保できる。
さらに、第3の発明としての皮膜形成方法によれば、DLC皮膜に微小な凹部を容易にかつ安定して形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1つの実施形態である摺動部材の表層部の組織を模式的に示す断面図である。
【図2】本摺動部材の表面形状を原子間力顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡写真である。
【図3】本摺動部材を得るためのアンバランストマグネトロンスパッタリング装置の構造を模式的に示す平面図である。
【図4】アンバランストマグネトロンスパッタリング法による成膜原理を示す模式図である。
【図5】本発明の他の実施形態である摺動部材の表層部の組織を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施例で行った摩擦摩耗試験の方法を示す模式図である。
【図7】原子間力顕微鏡によるDLC皮膜の表面凹凸の観察結果を示したもので、凸部の高さおよび凹部の深さに及ぼす負のバイアス電圧の影響を示すグラフである。
【図8】摩擦摩耗試験の結果を示したもので、摩耗量に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示すグラフである。
【図9】摩擦摩耗試験の結果を示したもので、摩擦係数に及ぼすDLC皮膜の表面形状の影響を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基材
2 中間槽
3 DLC皮膜
4 金属層
5 混合層
6 凹部
10 アンバランストマグネトロンスパッタリング装置の真空槽
18 バイアス電圧印加用電源
Claims (5)
- 基材の表面に、スパッタリング法によりダイヤモンドライクカーボンの皮膜を形成してなる摺動部材において、前記ダイヤモンドライクカーボンの皮膜が、直径0.5〜1.0μm、深さ10〜30nmの微小な凹部を集合させた表面形状を有していることを特徴とする摺動部材。
- 基材とダイヤモンドライクカーボンの皮膜との間に、金属を含む中間層を介在させたことを特徴とする請求項1に記載の摺動部材。
- ダイヤモンドライクカーボンの皮膜の表面に、固体潤滑材の皮膜を積層形成したことを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材。
- 固体炭素をターゲットとして、スパッタリング法により基材表面にダイヤモンドライクカーボンの皮膜を成膜する際、基材に印加する負のバイアス電圧を150〜600Vに設定することを特徴とする皮膜形成方法。
- スパッタリング法として、アンバランストマグネトロンスパッタリング法を採用することを特徴とする請求項4に記載の皮膜形成方法。
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Legal Events
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