JP2011068940A - 硬質膜の成膜方法および硬質膜 - Google Patents

硬質膜の成膜方法および硬質膜 Download PDF

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Abstract

【課題】摺動部材の摺動面に成膜する場合などにおいても十分な耐摩耗性を有するDLC膜およびその成膜方法を提供する。
【解決手段】基材2の表面に形成された中間層3と表面層4とからなる硬質膜1の成膜方法であって、該成膜方法は、基材2上に金属系材料を主体とする中間層3を形成する中間層形成工程と、中間層3の上にDLCを主体とする表面層4を形成する表面層形成工程とを有し、中間層形成工程および表面層形成工程において、中間層3および表面層4は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用し、上記表面層形成工程は、上記装置内の真空度が0.2〜0.9Paであり、基材2に印加するバイアス電圧が70〜400Vである条件下で、炭素供給源となるターゲットから生じる炭素原子を、中間層3上に堆積させてDLCを主体とする表面層4を形成する工程である。
【選択図】図1

Description

本発明は、自動車部品や各種成形金型などの鉄系基材および超硬材基材の機械部品の耐摩耗性向上に寄与する硬質膜およびその製造法に関するものである。より詳細には、優れた耐摩耗性を有するダイヤモンドライクカーボン硬質膜を基材表面に密着性を高めてコーティングすることで、部品の耐摩耗性を向上させるものである。
硬質カーボン膜は、一般にダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)と呼ばれている硬質膜である。硬質カーボンはその他にも、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質無定形型炭素、i−カーボン、ダイヤモンド状炭素など、様々な呼称があるが、これらの用語は明確に区別されていない。
このような用語が用いられるDLCの本質は、構造的にはダイヤモンドとグラファイトが混ざり合った両者の中間構造を有するものである。DLC膜は、ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性などに優れることから、例えば、金型・工具類、耐摩耗性機械部品、研磨材、摺動部材、磁気・光学部品などの保護膜として利用されつつある。こうしたDLC膜を形成する方法として、スパッタリング法やイオンプレーティング法などの物理的蒸着(以下、PVDと記す)法、および化学的蒸着(以下、CVDと記す)法などが採用されている。
例えば、アークイオンプレーティングのフィルタードアーク法では、アーク放電部の陰極から発生するドロップレットと呼ばれる陰極材料粒子を除去できる機構を取り付け、表面に凹凸の少ないDLC膜が知られている(特許文献1参照)。アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング(以下、UBMSと記す)法でDLC膜を形成することで、密着性に優れるDLC膜が提案されている(特許文献2参照)。
特開2007−046144号公報 特開2002−256415号公報
しかしながら、特許文献1のフィルタードアーク法の場合、電磁気的空間フィルターを使用するため、装置が非常に高価であり、また、十分な除去効果を維持させる場合には大型化する必要がある。また、イオン化された炭素原子の直進性が強いため、成膜領域が限定されるので、大型部品や小型品を多数個処理するのには適していない。特許文献1の技術では、表面平滑性に優れたDLC膜を得ることに主眼が置かれており、得られたDLC膜の耐摩耗性に関しては言及されていない。また、特許文献2のUBMS法の場合、基材に対するDLC膜の密着性を向上することに主眼が置かれており、得られたDLC膜の耐摩耗性については言及されていない。
このように、特許文献1や特許文献2に記載された従来のDLC膜は、表面平滑性や基材との密着性の向上を目的としており、摺動部材の摺動面に成膜する場合などにおける十分な耐摩耗性を付与することができていない。また、耐摩耗性の指標として、DLC膜の硬さも明確に示されていない。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、摺動部材の摺動面に成膜する場合などにおいても十分な耐摩耗性を有するDLC膜およびその成膜方法を提供することを目的とする。
本発明の硬質膜の成膜方法は、基材の表面に形成された中間層と表面層とからなる硬質膜の成膜方法であって、該成膜方法は、上記基材上に金属系材料を主体とする中間層を形成する中間層形成工程と、この中間層の上にDLCを主体とする表面層を形成する表面層形成工程とを有し、上記中間層形成工程および上記表面層形成工程において、上記中間層および上記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴン(以下、Arと記す)ガスを用いたUBMS装置を使用し、上記表面層形成工程は、上記装置内の真空度が0.2〜0.9Paであり、上記基材に印加するバイアス電圧が70〜400Vである条件下で、炭素供給源となるターゲットから生じる炭素原子を、上記中間層上に堆積させて上記DLCを主体とする表面層を形成する工程であることを特徴とする。
なお、基材に対するバイアスの電位は、アース電位に対してマイナスとなるように印加しており、バイアス電圧400Vとは、アース電位に対して基材のバイアス電位が−400Vであることを示す。
また、この成膜方法は下記の物性を有する硬質膜を成膜するための方法であることを特徴とする。上記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が150×10−10mm/(N・m)未満であり、かつ、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする。
上記表面層形成工程において、上記基材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上昇させながら上記ダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層を形成することを特徴とする。
上記表面層形成工程における炭素供給源として、黒鉛ターゲットを用いることを特徴とする。また、上記表面層形成工程における炭素供給源として、上記黒鉛ターゲットと、炭素水素系ガスとを併用することを特徴とする。また、上記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする。また、上記Arガスの上記装置内への導入量100に対する上記炭化水素系ガスの導入量の割合が、1以上、5以下であることを特徴とする。
上記基材が、超硬合金材料または鉄系材料からなることを特徴とする。また、上記中間層形成工程の前に、上記鉄系材料からなる上記基材の中間層形成表面に窒化処理を施す工程を有することを特徴とする。また、上記窒化処理がプラズマ窒化処理であることを特徴とする。また、上記窒化処理後の上記基材における中間層形成表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする。
上記中間層形成工程において、少なくともクロム(以下、Crと記す)またはタングステン(以下、Wと記す)を含む金属系材料を用いて上記中間層を形成することを特徴とする。
本発明の硬質膜は、上記成膜方法により成膜されることを特徴とする。また、上記硬質膜は、摺動部材の摺動面に使用されるものであることを特徴とする。
本発明の硬質膜の成膜方法は、基材の表面に形成された中間層と表面層とからなる硬質膜の成膜方法であって、基材上に金属系材料を主体とする中間層を形成する中間層形成工程と、この中間層の上にDLCを主体とする表面層を形成する表面層形成工程とを有し、中間層および表面層は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用し、表面層形成工程は、装置内の真空度が0.2〜0.9Paであり、基材に印加するバイアス電圧が70〜400Vである条件下で、炭素供給源となるターゲットから生じる炭素原子を、中間層上に堆積させてDLCを主体とする表面層を形成する工程であるので、耐摩耗性に優れた硬質膜を成膜することができる。
本発明の硬質膜は、上記成膜方法により成膜されるので、耐摩耗性に優れる。具体的には、この硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、相手材を回転させたときの比摩耗量が150×10−10mm/(N・m)未満であり、かつ、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaである。このため、本発明の硬質膜は、摺動部材の摺動面に好適に使用することができる。
本発明の硬質膜の構成を示す断面図である。 摩擦試験機を示す図である。 ナノインデンタを用いた押し込み硬さの測定結果の一例(実施例3)を示す図である。 UBMS法の成膜原理を示す模式図である。 AIP機能を備えたUBMS装置の模式図である。
本発明における硬質膜を図面に基づいて説明する。図1は本発明の成膜方法により得られる硬質膜の構成の一例を示す断面図である。図1に示すように、硬質膜1は、基材2の表面に形成された中間層3と表面層4とからなる。硬質膜1の物性としては、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、上記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が150×10−10mm/(N・m)未満であり、かつ、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることが好ましい。また、硬質膜1の動摩擦係数は0.4以下であることが好ましい。
本発明の成膜方法は、このような物性の硬質膜1を得るための成膜方法であり、(1)基材2上に金属系材料を主体とする中間層3を形成する中間層形成工程と、(2)この中間層3の上に所定条件でDLCを主体とする表面層4を形成する表面層形成工程とを有する。
中間層形成工程および表面層形成工程において、中間層3および表面層4の形成は、スパッタリングガスとしてArガスを用いたUBMS装置を使用してなされる。UBMS装置を用いたUBMS法の成膜原理を図4に示す模式図を用いて説明する。図4に示すように、丸形ターゲット15の中心部と周辺部で異なる磁気特性を有する内側磁石14a、外側磁石14bが配置され、ターゲット15付近で高密度プラズマ19を形成しつつ、上記磁石14a、14bにより発生する磁力線16の一部16aがバイアス電源11に接続された基材12近傍まで達するようにしたものである。この磁力線16aに沿ってスパッタリング時に発生したArプラズマが基材12付近まで拡散する効果が得られる。このようなUBMS法により、基材12付近まで達する磁力線16aに沿ってArイオン17および電子が、通常のスパッタリングに比べてイオン化されたターゲット18をより多く基材12に到達させるイオンアシスト効果によって、緻密な膜(層)13を成膜できる。中間層形成工程および表面層形成工程では、中間層および表面層それぞれに応じたターゲット15を用いる。
(1)中間層形成工程について説明する。
この工程は、基材上に金属系材料を主体とする中間層を形成する工程である。金属系材料としては、基材2との密着性を増すため、基材2に超硬合金材料または鉄系材料を用いる場合には、該基材2と相性のよい、Cr、Al、W、Ta、Mo、Nb、Si、Tiから選択される1種類以上の金属を含むことが好ましい。より好ましいのはCrおよびWである。
中間層形成工程において、図1に示すように、中間層3は、金属層3aと、金属−炭素層3bとを含む層で構成することが好ましい。例えば、基材2の表面にCrを主体とする金属層3aを形成し、その上にW−炭素層3bを形成する。図1では中間層3として2層構造を例示したが、必要に応じて、1層または3層以上の数の層からなるものであってもよい。
また、金属−炭素層3bは、表面層4との密着性をさらに高めるため、表面層4側へ炭素の組成比を増加させる組成傾斜層とすることが好ましい。この組成傾斜層は、ターゲットである金属および黒鉛に印加するスパッタ電力を調整することで、金属−炭素の組成を傾斜させて形成することができる。
基材2の材質は、特に限定されず、例えば、超硬合金材料または鉄系材料を用いることができる。超硬合金材料としては、機械的特性が最も優れるWC−Co系合金の他に、切削工具として、耐酸化性を向上させた、WC−TiC−Co系合金、WC−TaC−Co系合金、WC−TiC−TaC−Co系合金などを挙げることができる。鉄系材料としては、炭素工具鋼、高速度工具鋼、合金工具鋼、ステンレス鋼、軸受鋼、快削鋼などを挙げることができる。本発明では、安価な鉄系材料を基材に用いた場合でも、その表面に硬質膜を成膜することができる。
基材2として鉄系材料を使用する場合、基材2と中間層3との密着性を高めるために、中間層形成工程の前に該基材の中間層形成表面に窒化処理を施す工程を組み入れることが好ましい。窒化処理としては、基材表面に密着性を妨げる酸化層が生じ難いプラズマ窒化処理を施すことが好ましい。また、表面に窒化層を形成された基材2はビッカース硬さでHv1000以上とすることが、中間層3との密着性を向上させるために好ましい。
(2)表面層形成工程について説明する。
この工程は、中間層の上に所定条件でDLCを主体とする表面層を形成する工程である。具体的には、UBMS装置内(チャンバー内)の真空度が0.2〜0.9Paであり、基材2に印加するバイアス電圧が70〜400Vである条件で、炭素供給源となるターゲットから生じる炭素原子を、中間層3上に堆積させてDLCを主体とする表面層4を形成する工程である。UBMS装置内の真空度、および基材に印加するバイアス電圧のいずれかが、上記範囲外であると、硬質膜において上述の物性を得ることができない。UBMS装置内の真空度は、0.25〜0.82Paであることがより好ましい。また、基材に印加するバイアス電圧は100〜400Vであることがより好ましい。
表面層4は、DLCを主体とする層であるため、成膜時の炭素供給源として黒鉛ターゲットを使用する。また、炭素供給源として、上記黒鉛ターゲットと、炭素水素系ガスとを併用することにより、中間層に対する表面層の密着性を向上させることができる。炭素水素系ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス、ベンゼン等で特に指定されないが、コストおよび取り扱い性の点からメタンガスが好ましい。
炭素供給源として、黒鉛ターゲットと炭素水素系ガスとを併用する場合、炭化水素系ガスの導入量の割合が、アルゴンガスのUBMS装置内(成膜チャンバー内)への導入量100に対して、1以上、5以下であることが好ましい。この範囲とすることで、密着性を向上させつつ、硬質膜の硬さを維持でき、比摩耗量の低減が可能となる。なお、スパッタリングガスであるArガスの導入量は、例えば、50〜200ml/minである。
表面層形成工程において、表面層は、中間層(図1では、金属−炭素層3b)との密着性を向上させるために、中間層側から最表層側へ、徐々に硬度を上げていき、中間層と表面層の急激な硬度差をなくすことが好ましい。具体的には、表面層を、UBMS法において黒鉛ターゲットを用い、基材に対するバイアス電圧を連続的または段階的に上昇させながら成膜することで得られるDLC傾斜層とする。このDLC傾斜層の硬度が連続的または段階的に上昇するのは、DLC構造におけるグラファイト構造(sp)とダイヤモンド構造(sp)との構成比率が、バイアス電圧の上昇により後者に偏っていくためである。
本発明の硬質膜は、中間層と表面層とからなる複層の膜厚の合計が0.5〜3.0μmとすることが好ましい。膜厚の合計が0.5μm未満であれば、耐摩耗性および機械的強度に劣り、3.0μmをこえると剥離し易くなるので好ましくない。
各実施例および比較例に用いた基材、UBMS装置、スパッタリングガスおよび中間層形成条件は以下のとおりである。
(1)基材材質:SUS440Cまたは超硬合金
(2)基材寸法;鏡面(Ra=0.005μm程度の)30mm角、厚さ5mm
(3)UBMS装置:神戸製鋼所製;UBMS202/AIP複合装置
(4)スパッタリングガス:Arガス
(5)中間層形成条件
Cr層:5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、UBMS法にてCr層を形成した。
WC−C層:5×10−3Pa程度まで真空引きし、ヒータで基材をベーキングして、Arプラズマにて基材表面(または上記Cr層表面)をエッチング後、WCと黒鉛に印加するスパッタ電力を調整し、WCとCの組成比を傾斜させた。
UBMS202/AIP複合装置の概要を図5に示す。図5はアークイオンプレーティング(以下、AIPと記す)機能を備えたUBMS装置の模式図である。図5に示すように、UBMS202/AIP複合装置は、円盤21上に配置された基材22に対し、真空アーク放電を利用して、AIP蒸発源材料20を瞬間的に蒸気化・イオン化し、これを基材22上に堆積させて被膜を成膜するAIP機能と、スパッタ蒸発源材料(ターゲット)23、24を非平衡な磁場により、基材22近傍のプラズマ密度を上げてイオンアシスト効果を増大することによって、基材上に堆積する被膜の特性を制御できるUBMS機能を備える装置である。この装置により、基材上に、AIP被膜および複数のUBMS被膜(組成傾斜を含む)を任意に組合わせた複合被膜を成膜することができる。
実施例1〜実施例4、実施例6〜実施例11、比較例1、比較例3〜比較例6
表1に示す基材をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置(UBMS202/AIP複合装置:神戸製鋼所製)に取り付けた後、上述の中間層形成条件にて表1に示すCr層および/またはWC−C層を形成した。その上に表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。なお、表1における「真空度」は上記装置における成膜チャンバー内の真空度である。得られた試験片を以下に示す摩耗試験、硬度試験および膜厚試験に供し、比摩耗量、動摩擦係数、押し込み硬さおよび膜厚を測定した。結果を表1に併記する。
<摩擦試験>
得られた試験片を、図2に示す摩擦試験機用いて摩擦試験を行なった。図2(a)は正面図を、図2(b)は側面図を、それぞれ表す。表面粗さRaが0.01μm以下であり、ビッカース硬度Hvが780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材7として回転軸5に取り付け、試験片6をアーム部8に固定して所定の荷重9を図面上方から印加して、ヘルツの最大接触面圧0.5GPa、室温(25℃)下、0.05m/sの回転速度で30分間、試験片6と相手材7との間に潤滑剤を介在させることなく、相手材7を回転させたときに、相手材7と試験片6との間に発生する摩擦力をロードセル10により検出する。比摩耗量が150×10−10mm/(N・m)未満の場合、耐摩耗性に優れると評価して「○」印を、150×10−10mm/(N・m)以上、300×10−10mm/(N・m)以下の場合、耐摩耗性に劣ると評価して「△」印を、300×10−10mm/(N・m)をこえる場合、耐摩耗性に著しく劣ると評価して「×」印を、それぞれ記録する。また、動摩擦係数を記録する。
<硬度試験>
得られた試験片の押し込み硬さをアジレントテクノロジー社製:ナノインデンタ(G200)を用いて測定した。測定結果を表1に併記する。なお、測定値は表面粗さの影響を受けない深さ(硬さが安定している箇所)の平均値を示しており、各試験片10箇所ずつ測定している。例えば、図3に示す測定例(実施例3)の場合、深さ0.12μmの位置硬さが安定しているため、この深さの硬さ23GPaを採用する。
<膜厚試験>
得られた試験片の膜厚を表面形状・表面粗さ測定器(テーラーホブソン社製:フォーム・タリサーフPGI830)を用いて測定した。膜厚は成膜部の一部にマスキングを施し、非成膜部と成膜部の段差から膜厚を求めた。
実施例5および比較例2
日本電子工業社製:ラジカル窒化装置を用いて表1に示すプラズマ窒素処理が施された基材(ビッカース硬さHv1000)をアセトンで超音波洗浄した後、乾燥した。乾燥後、基材をUBMS/AIP複合装置(UBMS202/AIP複合装置:神戸製鋼所製)に取り付けた後、上述の中間層形成条件にて表1に示すCr層およびWC−C層を形成した。その上に表1に示す成膜条件にて表面層であるDLC膜を成膜し、硬質膜を有する試験片を得た。得られた試験片を以下に示す摩耗試験、硬度試験および膜厚試験に供し、比摩耗量、動摩擦係数、押し込み硬さおよび膜厚を測定した。結果を表1に併記する。
Figure 2011068940
表1に示すように実施例1〜実施例11は、所定の条件下で成膜したため、比摩耗量が150×10−10mm/(N・m)未満であり、押し込み硬さの平均値と標準偏差の合計値が25GPa以上で耐摩耗性に優れるDLC膜を得ることができた。
これに対して、比較例1は、押し込み硬さの平均値と標準偏差の合計値が19.7GPaで下限値25GPa未満であり、耐摩耗性が劣っていた。比較例2は、押し込み硬さの平均値と標準偏差の合計値が23GPaで下限値25GPa未満であり、耐摩耗性が劣っていた。比較例3は、中間層に金属層を設けていないため、密着性が不十分であった。比較例4は、Arプラズマを発生させることができず成膜できなかった。比較例5は、バイアス電圧が低いため、押し込み硬さの平均値と標準偏差の合計値が24.5GPaで下限値25GPa未満であり、耐摩耗性が劣っていた。比較例6は、メタンガス導入割合が多いため、硬度が低く、耐摩耗性が劣っていた。
本発明の硬質膜の成膜方法は、高硬度で、耐摩耗性に優れる硬質膜を成膜することができるので、耐摩耗性が要求される軸受などの機械部品の摺動面に硬質膜を成膜する際に好適に利用できる。
1 硬質膜
2 基材
3 中間層
3a 金属層
3b 金属−炭素層
4 表面層
5 回転軸
6 試験片
7 相手材
8 アーム部
9 荷重
10 ロードセル
11 バイアス電源
12 基材
13 膜(層)
14a 内側磁石
14b 外側磁石
15 ターゲット
16 磁力線
16a 基材まで達する磁力線
17 Arイオン
18 イオン化されたターゲット
19 高密度プラズマ
20 AIP蒸発源材料
21 円盤
22 基材
23、24 スパッタ蒸発源材料(ターゲット)

Claims (14)

  1. 基材の表面に形成された中間層と表面層とからなる硬質膜の成膜方法であって、
    該成膜方法は、前記基材上に金属系材料を主体とする中間層を形成する中間層形成工程と、この中間層の上にダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層を形成する表面層形成工程とを有し、
    前記中間層形成工程および前記表面層形成工程において、前記中間層および前記表面層は、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いたアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング装置を使用し、
    前記表面層形成工程は、前記装置内の真空度が0.2〜0.9Paであり、前記基材に印加するバイアス電圧が70〜400Vである条件下で、炭素供給源となるターゲットから生じる炭素原子を、前記中間層上に堆積させて前記ダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層を形成する工程であることを特徴とする成膜方法。
  2. 前記硬質膜は、表面粗さRa:0.01μm以下、ビッカース硬度Hv:780であるSUJ2焼入れ鋼を相手材として、ヘルツの最大接触面圧0.5GPaの荷重を印加して接触させ、0.05m/sの回転速度で30分間、前記相手材を回転させたときの該硬質膜の比摩耗量が150×10−10mm/(N・m)未満であり、かつ、押し込み硬さの平均値と標準偏差値との合計が25〜45GPaであることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
  3. 前記表面層形成工程において、前記基材に印加するバイアス電圧を連続的または段階的に上昇させながら前記ダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層を形成することを特徴とする請求項1または請求項2記載の成膜方法。
  4. 前記表面層形成工程における炭素供給源として、黒鉛ターゲットを用いることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の成膜方法。
  5. 前記表面層形成工程における炭素供給源として、前記黒鉛ターゲットと、炭素水素系ガスとを併用することを特徴とする請求項4記載の成膜方法。
  6. 前記炭化水素系ガスが、メタンガスであることを特徴とする請求項5記載の成膜方法。
  7. 前記アルゴンガスの前記装置内への導入量100に対する前記炭化水素系ガスの導入量の割合が、1以上、5以下であることを特徴とする請求項5または請求項6記載の成膜方法。
  8. 前記基材が、超硬合金材料または鉄系材料からなることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の成膜方法。
  9. 前記中間層形成工程の前に、前記鉄系材料からなる前記基材の中間層形成表面に窒化処理を施す工程を有することを特徴とする請求項8記載の成膜方法。
  10. 前記窒化処理が、プラズマ窒化処理であることを特徴とする請求項9記載の成膜方法。
  11. 前記窒化処理後の前記基材における中間層形成表面の硬さが、ビッカース硬さでHv1000以上であることを特徴とする請求項9または請求項10記載の成膜方法。
  12. 前記中間層形成工程において、少なくともクロムまたはタングステンを含む金属系材料を用いて前記中間層を形成することを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の成膜方法。
  13. 請求項1ないし請求項12のいずれか一項記載の成膜方法により成膜されることを特徴とする硬質膜。
  14. 前記硬質膜は、摺動部材の摺動面に使用されるものであることを特徴とする請求項13記載の硬質膜。
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