JP3958838B2 - チタン硬化部材の硬化処理方法 - Google Patents

チタン硬化部材の硬化処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チタンおよびチタン合金からなり、その表面と内部が硬化処理されたチタン硬化部材に関するもので、特に装飾用品として用いられるチタンおよびチタン合金製の時計ケ−ス、時計バンド、ピアス、イアリング、指輪、眼鏡フレ−ムなどに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、チタンおよびチタン合金はメタルアレルギ−を起こしにくい、人にやさしい金属として注目されている。時計、眼鏡、宝飾などに代表される装飾用品についても上記のコンセプトは広く支持されているが、一方で使用中のキズ発生などによる外観品質の低下が大きな問題として指摘されている。これは主に、チタンおよびチタン合金からなる部材自身の表面硬度の低さに起因するものであり、解決を目指して種々の表面硬化処理が試みられている。表面硬化処理には、大きく分けて金属部材表面に硬質膜を被覆する方法と金属部材自身を硬化する方法がある。金属部材表面に硬質膜を被覆する方法としては電気メッキに代表されるウェットプロセス、真空蒸着・イオンプレ−ティング・スパッタリング・プラズマCVDなどに代表されるドライプロセスが公知であり、一方、金属部材自身を硬化する方法としてはイオン注入、イオン窒化、ガス窒化、浸炭などが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、チタンおよびチタン合金からなる部材の表面硬度を増加させるために部材上に硬質膜を被覆形成させた場合には、部材と被膜間の密着性に難があり膜剥離の問題に対しては完全に解決するまでには至っていないことや、部材上に直接被膜を施すことから、チタンおよびチタン合金の地金色のままでの表面硬化層が得られないという欠点があった。
【0004】
一般にチタンおよびチタン合金を硬化処理する方法としてイオン窒化、ガス窒化などの方法が広く採用されているが、これらの方法を採用した場合、表面でキズがつきにくい高硬度の表面硬化層を得るためには、表面のビッカ−ス硬度Hvが最低でもHv=450以上の硬度が必要である。このビッカ−ス硬度Hv=450以上を得るためには処理温度を850℃以上に設定しなければならないが、処理温度が850℃以上の高温度では部材の結晶粒が粗大化して表面粗れが生ずることや、部材の表面に窒化チタンに代表されるチタンと窒素の化合物を形成し黄色く着色してしまうため、処理前の表面状態を維持し、かつチタン地金色のままでの硬化処理ができないなどの問題があった。また、処理時間も長く生産性にも難点があった。従って、本発明の課題は、表面粗れを生じさせない温度で部材を硬化処理し、表面に窒化チタンなどの着色物質を形成させないためのチタン中での窒素の適正な濃度と、表面でのビッカ−ス硬度Hv=450以上を得るための硬化層の適正な厚みを見出すことである。
【0005】
本発明の目的は、チタンおよびチタン合金からなる部材において、表面粗れを生じさせず、表面に着色物質を形成させずに処理前の表面状態を維持したままで部材の表面と内部が硬化処理されたキズのつきにくい高硬度のチタンおよびチタン合金からなるチタン硬化部材とその硬化処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明において上記課題を解決するために、ガス導入口とガス排気口とを備えた真空槽に加熱手段とトレイとチタンおよびチタン合金からなる部材を配置し真空排気した後、真空雰囲気中またはヘリウムもしくはアルゴンを該真空槽内部に導入した減圧雰囲気中でトレイ上に載置されたチタンおよびチタン合金からなる部材を加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、窒素成分を含むガスを導入した減圧雰囲気中で加熱工程と同一温度で所定時間保持しチタンおよびチタン合金からなる部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させて窒素が固溶した硬化層を形成させる硬化処理工程と、窒素成分を含むガスの供給を停止し真空排気した後にヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で硬化処理工程と同一温度で所定時間保持した後に常温まで冷却する冷却工程とからなる3工程により硬化処理することを特徴とする硬化処理方法を採用することで、表面から深さ5μm以上に形成された表面硬化層を有するチタンおよびチタン合金からなる部材において、前記表面硬化層には0.2〜6.0重量%の窒素が化合物を形成せずに固溶した状態で含有されていることを特徴するチタンおよびチタン合金からなるチタン硬化部材が達成される。
【0007】
表面状態を維持したまま表面硬化層を有する硬化部材の構成を詳細に検討した結果、以下のようなことを見い出した。すなわち、表面粗れを生じさせずに処理前の表面状態を維持したまま表面の硬度を上昇させるためには、窒素が化合物を形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることである。窒素が化合物を形成した状態で硬化層に含有された場合には、表面に着色物質が形成され外観品質を低下させるため好ましくない。また、化合物を形成することで硬化部材上に界面を有する硬化層を形成することになり剥離などの問題が発生するため、窒素が化合物を形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが必要である。このように窒素が固溶した5μm以上の厚みがある硬化層を形成させることにより、表面粗れを生じさせずに処理前の表面状態を維持したままで、表面に窒化チタンなどの着色物質がなく、剥離の心配のない、表面のビッカ−ス硬度がHv=450以上の高硬度の表面硬化が達成されることが明らかになった。このような構成において、部材中に固溶させる窒素量と厚みを種々検討した結果、表面から深さ5μm以上に0.2〜6.0重量%の窒素が固溶した表面硬化層を形成させる必要があることが判明した。
【0008】
処理前の表面状態を維持したままで表面硬化層を有する硬化部材の硬化処理方法を種々検討した結果、以下の硬化処理方法を用いることによりチタンおよびチタン合金からなる部材の表面と内部を硬化処理することが可能であることを見い出した。すなわち、加熱手段とトレイとチタンおよびチタン合金からなる部材を配置した真空槽内部を残留ガスの影響が排除できる圧力まで真空排気した後に、真空雰囲気中またはヘリウムもしくはアルゴンを該真空槽内部に導入した減圧雰囲気中でトレイ上に載置されたチタンおよびチタン合金からなる部材を加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、窒素成分を含むガスを導入した減圧雰囲気中で加熱工程と同一温度で所定時間保持し硬化部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させて窒素化合物を形成させることなく窒素が固溶した硬化層を形成させる硬化処理工程と、窒素成分を含むガスの供給を停止し真空排気した後にヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で硬化処理工程と同一温度で所定時間保持した後に、加熱を停止し常温まで冷却させることにより部材の表面とその内部を硬化処理することが可能となる。
【0009】
本発明において、チタンおよびチタン合金からなる部材を硬化処理する硬化処理方法は、装飾部材を加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、窒素成分を含むガスを真空槽内部に導入した減圧雰囲気中で加熱工程と同一温度を所定時間保持しチタンおよびチタン合金からなる部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させ硬化層を形成させる硬化処理工程と、ヘリウムもしくはアルゴン雰囲気中で常温まで冷却させる冷却工程とからなることを特徴としている。
【0010】
チタンおよびチタン合金からなる部材を700〜800℃まで加熱し焼鈍処理する加熱工程は、熱間鍛造後の研磨加工でチタンおよびチタン合金からなる部材を加工するときに発生する加工ひずみ層を緩和させることを目的として行なうものである。加工ひずみ層は研磨加工時の応力が格子ひずみとなって残っている状態で結晶的にはアモルファス相である。研磨加工後のチタンおよびチタン合金からなる部材に対し焼鈍処理を行なわず硬化処理を施すと、加工ひずみ層を緩和しながら窒素の熱拡散による拡散、固溶を行なうことになるため、チタンおよびチタン合金からなる部材の最表面では窒素の反応量が高くなり、内部へ拡散、固溶する量よりも最表面層で反応する量の方が大きくなり、結果として最表面に着色物質である窒化物が形成される。この着色物質が形成されると外観品質が低下するため硬化部材として好ましい状態ではない。従って研磨加工したチタンおよびチタン合金からなる部材は本発明における硬化処理工程を施す前に加熱工程を施す必要がある。
【0011】
硬化処理工程は加熱工程が終了後、直ちに窒素成分を含むガスを真空槽内に導入した雰囲気中で加熱工程と同じ加熱状態を所定時間保持することを特徴としている。
【0012】
図1に鏡面外観を有するJIS規格で定義されたチタン第2種材を、窒素ガス雰囲気中で処理温度をパラメ−タ−にとり690〜810℃に変化させ7時間硬化処理した後のビッカ−ス硬度を測定した結果を示す。処理温度が690℃以下の温度では、ビッカ−ス硬度がHv=450以下となり充分な硬化処理がなされない。この原因は690℃以下の温度ではチタンおよびチタン合金からなる部材に対し窒素が充分に拡散、固溶しないため硬化層が形成されず表面硬度が上昇しないからである。一方、処理温度が810℃以上ではチタンおよびチタン合金からなる部材に対して窒素の拡散、固溶速度が大きく、厚い硬化層が得られるためビッカ−ス硬度はHv=1050以上となるが処理温度が高いために結晶粒が粗大化して表面粗れが発生してしまい、処理前の表面状態を維持することができない。
【0013】
図2(a)は鏡面外観を有するJIS規格で定義されたチタン第2種材の表面を、X線の入射角α=0.5°で薄膜X線回折により分析した結果を示す。同様に、図2(b)は窒素ガス雰囲気中でチタン第2種材を処理温度800℃で、図2(c)は窒素ガス雰囲気中でチタン第2種材を処理温度810℃で10時間処理した後の表面を薄膜X線回折により分析した結果を示す。処理温度800℃のピ−クはチタン第2種材とほぼ同等のピ−クを示していて、表面に着色物質である窒化チタンなどの窒素の化合物を形成していない。目視による外観検査でも表面は無着色である。これに対し、処理温度810℃ではチタン第2種材のピ−クと異なり、2Θで36.7°と42.6°の部分に明らかなピ−クが認められ、これは着色物質である窒化チタンのピ−クと一致する。目視による外観検査でも表面が黄色く着色していることから、表面に窒化チタンが形成されていることは明らかである。従って処理温度が810℃以上では、表面への窒素の供給量が過剰となり着色物質である窒化チタンを形成して外観品質を低下させるため硬化部材への適用は困難である。
【0014】
以上の理由から、本発明において硬化処理工程の処理温度は700〜800℃の範囲内とする必要がある。チタンおよびチタン合金からなる部材を処理前の表面状態を維持したままで部材の表面と内部を硬化処理するためには、表面粗れを生じさせないこと、部材の表面近傍で窒素が化合物を形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることである。このような構成の硬化層を形成させることにより、表面粗れを生じさせずに処理前の表面状態を維持したままでの表面硬化処理が可能となる。
【0015】
窒素成分を含むガスとして窒素ガスもしくはアンモニアガスを用いることができるが、窒素ガスもしくはアンモニアガスにヘリウムもしくはアルゴンを混合させたガスを用いてもかまわない。重要なことはチタンおよびチタン合金からなる部材に対し、表面から窒素が窒化チタンなどのような窒素化合物を形成することなく拡散、固溶していることである。
【0016】
冷却工程は硬化処理工程が終了したチタンおよびチタン合金からなる部材の表面に着色物質である窒化チタンなどの窒素化合物を形成させることなく、速やかに常温まで冷却させ真空槽内部から取り出すため工程である。冷却工程は硬化処理工程が終了後、窒素成分を含むガスの供給を停止し真空排気した後にヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で硬化処理工程と同一温度で所定時間保持した後に常温まで冷却することを特徴としている。冷却工程を硬化処理工程と同一のガス雰囲気とすると、冷却しながら窒素を供給していることになるため、チタンまたはチタン合金からなる部材の表面から窒素が拡散しなくなった後も吸着し続け、窒素が供給過多となり表面で着色物である窒化チタンなどの窒素化合物を形成する。この着色物質である窒化チタンなどの窒素化合物の形成を防止するために冷却工程の雰囲気はヘリウムもしくはアルゴン雰囲気とする必要がある。重要なことは冷却工程では、窒素成分を含むガス雰囲気としないことである。
【0017】
本発明において、チタンおよびチタン合金からなる硬化部材とは、その表面と内部が硬化処理されたものでチタンおよびチタン合金製の時計ケ−ス、時計バンド、ピアス、イアリング、指輪、メガネフレ−ムなどの装飾用品の他にも、処理前の表面状態を維持したまで硬化処理が可能な部材であれば、前記の装飾用品に限らず適用可能なもの全てを意味するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明においては、チタンおよびチタン合金からなる部材を処理前の表面状態を維持したままで、表面に着色物がなく、剥離の心配のない硬化処理することが目的であり、これに対しては、ガス導入口とガス排気口とを備えた真空槽に加熱手段とトレイとチタンおよびチタン合金からなる部材を配置し、高真空排気した後に真空雰囲気中またはヘリウムもしくはアルゴンを該真空槽に導入した減圧雰囲気中でトレイ上に載置された部材を加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼純処理する加熱工程と、窒素成分を含むガスを該真空槽内部に導入した減圧雰囲気中で加熱工程と同一温度で所定時間保持し部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させ硬化層を形成させる硬化処理工程と、ヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で常温まで冷却する冷却工程とからなること特徴とする硬化処理方法を採ることで、表面から深さ5μm以上に0.2〜6.0重量%の窒素が固溶した表面硬化層を形成され、その目的が達成される。
【0019】
【実施例】
(実施例1)
本発明の第1の実施例を図3、図4を用いて説明する。図3はチタンおよびチタン合金からなる部材を硬化処理するための装置構成を示す模式図で、図4は硬化処理された部材の構造を示す断面模式図である。ガス導入口10とガス排気口14を備えた真空槽6の内部には、基材支持台であるトレイ4上にチタンおよびチタン合金からなる部材2と、チタンおよびチタン合金からなる部材2を加熱して活性化するための加熱手段としてヒ−タ−8が配置されている。真空槽6の内部をガス排気口14を通じて真空ポンプ16により、残留ガス雰囲気の影響が排除される1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気した後にヒ−タ−8によりチタンおよびチタン合金からなる部材2を690〜810℃まで30分間加熱し焼鈍処理してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開け窒素ガスを導入し圧力を0.3Torrに調整した雰囲気中で焼鈍処理したときの温度を保ながら7時間一定に保持して、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面に窒素20を吸着及び拡散させて、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面から内部へ窒素20を拡散、固溶させ表面硬化層18を形成した。この後、ガス導入口10のガス導入弁12を閉じ、ガス排気口14を通じて真空ポンプ16により真空槽6の内部を1×10- 3 Torr以下の圧力まで真空排気してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムを導入し圧力を0.3Torrに調整した雰囲気中で硬化処理したときの温度を保ながら30分間一定に保持した後、ヒ−タ−8による加熱を停止しヘリウム雰囲気中で常温まで冷却した。
【0020】
被硬化処理部材には、鏡面外観を有するJIS規格で定義されたチタン第2種材からなる時計ケ−スを使用し、上記690〜810℃の温度範囲で処理温度を変化させて処理した。その後に硬さ、窒素の拡散深さと濃度、表面粗れ、表面組織の結晶粒の大きさ、着色物質である窒化チタンの有無を測定評価した。硬さはビッカ−ス硬度計により測定し、負荷荷重50gfで表面の硬度がHv=450以上であるものを合格とした。窒素の拡散深さと濃度は2次イオン質量分析計(SIMS)により測定し、表面から5μm以上の深さで0.2〜6.0重量%の窒素を含有しているものを合格とした。これらの結果を図5、図6、図7、表1に示す。表面粗れは表面粗さ計を使用して平均表面粗さRaを測定し、0.4μm以下のものを合格とした。結晶粒Rcの大きさは表面の結晶組織を電子顕微鏡により測定し、20〜65μmの範囲内にあるものを合格とした。着色物質である窒化チタンの有無はX線入射角α=0.5°の薄膜X線回折により測定し、窒化チタンのピ−クが存在しないものを合格とした。これらの測定結果を表1に示す。
【0021】
【表1】
Figure 0003958838
【0022】
試料番号a〜dはそれぞれ、690℃から810℃まで処理温度を変化させて処理したもので、試料番号eは未処理のチタン第2種材である。
【0023】
表1から明らかなように、試料番号a(処理温度690℃)では処理後の平均表面粗さRa、処理後の結晶粒の大きさRcともに試料番号eの未処理のチタン第2種材と同等で外観品質は良好であるが、表面の硬度がHv=340と低いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが2.1μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されていない。図5に試料番号aにおける窒素の拡散深さと濃度を2次イオン質量分析計(SIMS)により測定した結果を示す。試料番号d(処理温度810℃)では表面の硬度がHv=1050と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが11.4μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されているが、処理後の平均表面粗さがRa=1.0μmと大きく、処理後の結晶粒もRc=70〜220μmに粗大化していて処理後の表面粗れが顕著に認められ処理前の表面状態を維持した硬化処理がなされていない。また処理後の表面では窒化チタンのピ−クが明らかに認められるので窒素が固溶した状態での硬化層が形成されていない。これらに対し試料番号b(処理温度700℃)では表面での硬度がHv=500と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが5.2μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。図6に試料番号bにおける窒素の拡散深さと濃度を2次イオン質量分析計(SIMS)により測定した結果を示す。処理後の平均表面粗さはRa=0.25μm、処理後の結晶粒もRc=30〜50μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。同様に試料番号c(処理温度800℃)では表面での硬度がHv=900と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが9.9μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。図7に試料番号bにおける窒素の拡散深さと濃度を2次イオン質量分析計(SIMS)により測定した結果を示す。処理後の平均表面粗さはRa=0.35μm、処理後の結晶粒もRc=30〜60μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。以上、試料番号bとcは表面から5μm以上の深さに0.2〜6.0重量%の窒素を窒化チタンなどの化合物を形成せずに固溶した状態で含有している硬化層が形成されていることが明らかで、本発明で限定する窒素量を含有し充分な表面硬化層を有するものとなっていることが認められた。
【0024】
(実施例2)
本発明の第2の実施例を第1の実施例と同様に図3、図4を用いて説明する。図3はチタンおよびチタン合金からなる部材を硬化処理するための装置構成を示す模式図で、図4は硬化処理された部材の構造を示す断面模式図である。ガス導入口10とガス排気口14を備えた真空槽6の内部には、基材支持台であるトレイ4上にチタンおよびチタン合金からなる部材2と、チタンおよびチタン合金からなる部材2を加熱して活性化するための加熱手段としてヒ−タ−8が配置されている。真空槽6の内部をガス排気口14を通じて真空ポンプ16により、残留ガス雰囲気の影響が排除される1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気した後、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムを導入し圧力を0.5Torrに調整し、ヒ−タ−8によりチタンおよびチタン合金からなる部材2を690〜810℃まで30分間加熱し焼鈍処理してから、ガス導入口10のガス導入弁12を閉じ、ガス排気口14を通じて真空ポンプ16により真空槽6の内部を1×10- 3 Torr以下の圧力まで真空排気してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムに窒素ガスを混合させたガスを導入し圧力を0.5Torrに調整した雰囲気中で焼鈍処理したときの温度を保ながら7時間一定に保持して、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面に窒素20を吸着及び拡散させて、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面から内部へ窒素20を拡散、固溶させ表面硬化層18を形成した。この後、ガス導入口10のガス導入弁12を閉じ、ガス排気口14を通じて真空ポンプ16により真空槽6の内部を1×10- 3 Torr以下の圧力まで真空排気してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムを導入し圧力を0.5Torrに調整した雰囲気中で硬化処理したときの温度を保ながら30分間一定に保持した後、ヒ−タ−8による加熱を停止しヘリウム雰囲気中で常温まで冷却した。
【0025】
本実施例2においても、被硬化処理部材には実施例1と同様に鏡面外観を有するJIS規格に定義されたチタン第2種材からなる時計ケ−スを実施例1と全く同等な温度条件で処理した後、実施例1と同様に、硬さ、窒素の拡散深さと濃度、表面粗れ、表面組織の結晶粒の大きさ、着色物質である窒素の化合物の有無を測定した。これらの測定結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
Figure 0003958838
【0027】
試料番号f〜iはそれぞれ、690℃から810℃まで処理温度を変化させて処理したもので、試料番号eは未処理のチタン第2種材である。
【0028】
表2から明らかなように、試料番号f(処理温度690℃)では処理後の平均表面粗さRa、処理後の結晶粒の大きさRcともに試料番号eの未処理のチタン第2種材と同等で外観品質は良好であるが、表面の硬度がHv=390と低いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが2.0μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されていない。試料番号i(処理温度810℃)では表面の硬度がHv=1030と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが11.4μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されているが、処理後の平均表面粗さがRa=1.0μmと大きく、処理後の結晶粒もRc=70〜220μmに粗大化していて処理後の表面粗れが顕著に認められ処理前の表面状態を維持した硬化処理がなされていない。また処理後の表面では窒化チタンのピ−クが明らかに認められるので窒素が固溶した状態での硬化層が形成されていない。これらに対し試料番号g(処理温度700℃)では表面での硬度がHv=480と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが5.1μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。処理後の平均表面粗さはRa=0.25μm、処理後の結晶粒もRc=30〜50μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。同様に試料番号h(処理温度800℃)では表面での硬度がHv=880と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが9.8μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。処理後の平均表面粗さはRa=0.35μm、処理後の結晶粒もRc=35〜60μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。以上、試料番号gとhは表面から5μm以上の深さに0.2〜6.0重量%の窒素を窒化チタンなどの化合物を形成せずに固溶した状態で含有している硬化層が形成されていることが明らかで、本発明で限定する窒素量を含有し充分な表面硬化層を有するものとなっていることが認められた。
【0029】
(実施例3)
本発明の第3の実施例を第1の実施例と同様に図3、図4を用いて説明する。図3はチタンおよびチタン合金からなる部材を硬化処理するための装置構成を示す模式図で、図4は硬化処理された部材の構造を示す断面模式図である。ガス導入口10とガス排気口14を備えた真空槽6の内部には、基材支持台であるトレイ4上にチタンおよびチタン合金からなる部材2と、チタンおよびチタン合金からなる部材2を加熱して活性化するための加熱手段としてヒ−タ−8が配置されている。真空槽6の内部をガス排気口14を通じて真空ポンプ16により、残留ガス雰囲気の影響が排除される1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気した後、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムを導入し圧力を0.01Torrに調整し、ヒ−タ−8によりチタンおよびチタン合金からなる部材2を690〜810℃まで30分間加熱し焼鈍処理してから、ガス導入口10のガス導入弁12を閉じ、ガス排気口14を通じて真空ポンプ16により真空槽6の内部を1×10- 3 Torr以下の圧力まで真空排気してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムにアンモニアガスを混合させたガスを導入し圧力を0.01Torrに調整した雰囲気中で焼鈍処理したときの温度を保ながら5時間一定に保持して、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面に窒素20を吸着及び拡散させて、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面から内部へ窒素20を拡散、固溶させ表面硬化層18を形成した。この後、ガス導入口10のガス導入弁12を閉じ、ガス排気口14を通じて真空ポンプ16により真空槽6の内部を1×10- 3 Torr以下の圧力まで真空排気してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムを導入し圧力を0.1Torrに調整した雰囲気中で硬化処理したときの温度を保ながら30分間一定に保持した後、ヒ−タ−8による加熱を停止しヘリウム雰囲気中で常温まで冷却した。
【0030】
本実施例3においても、被硬化処理部材には実施例1、実施例2と同様に鏡面外観を有するJIS規格に定義されたチタン第2種材からなる時計ケ−スを実施例1、実施例2と全く同等な温度条件で処理した後、実施例1、実施例2と同様に、硬さ、窒素の拡散深さと濃度、表面粗れ、表面組織の結晶粒の大きさ、着色物質である窒素の化合物の有無を測定した。これらの測定結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
Figure 0003958838
【0032】
試料番号j〜mはそれぞれ、690℃から810℃まで処理温度を変化させて処理したもので、試料番号eは未処理のチタン第2種材である。
【0033】
表3から明らかなように、試料番号j(処理温度690℃)では処理後の平均表面粗さRa、処理後の結晶粒の大きさRcともに試料番号eの未処理のチタン第2種材と同等で外観品質は良好であるが、表面の硬度がHv=390と低いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが2.5μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されていない。試料番号m(処理温度810℃)では表面の硬度がHv=1100と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが12.0μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されているが、処理後の平均表面粗さがRa=1.0μmと大きく、処理後の結晶粒もRc=70〜250μmに粗大化していて処理後の表面粗れが顕著に認められ処理前の表面状態を維持した硬化処理がなされていない。また処理後の表面では窒化チタンのピ−クが明らかに認められるので窒素が固溶した状態での硬化層が形成されていない。これらに対し試料番号k(処理温度700℃)では表面での硬度がHv=550と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが5.5μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。処理後の平均表面粗さはRa=0.25μm、処理後の結晶粒もRc=30〜50μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。同様に試料番号l(処理温度800℃)では表面での硬度がHv=960と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが11.2μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。処理後の平均表面粗さはRa=0.35μm、処理後の結晶粒もRc=35〜60μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。以上、試料番号kとlは表面から5μm以上の深さに0.2〜6.0重量%の窒素を窒化チタンなどの化合物を形成せずに固溶した状態で含有している硬化層が形成されていることが明らかで、本発明で限定する窒素量を含有し充分な表面硬化層を有するものとなっていることが認められた。
【0034】
(実施例4)
本発明の第4の実施例を第1の実施例と同様に図3、図4を用いて説明する。図3はチタンおよびチタン合金からなる部材を硬化処理するための装置構成を示す模式図で、図4は硬化処理された部材の構造を示す断面模式図である。ガス導入口10とガス排気口14を備えた真空槽6の内部には、基材支持台であるトレイ4上にチタンおよびチタン合金からなる部材2と、チタンおよびチタン合金からなる部材2を加熱して活性化するための加熱手段としてヒ−タ−8が配置されている。真空槽6の内部をガス排気口14を通じて真空ポンプ16により、残留ガス雰囲気の影響が排除される1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気した後、ヒ−タ−8によりチタンおよびチタン合金からなる部材2を690〜810℃まで30分間加熱し焼鈍処理してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開け窒素ガスにアンモニアガスを混合させたガス導入し圧力を5×10- 3 Torrに調整した雰囲気中で焼鈍処理したときの温度を保ながら5時間一定に保持して、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面に窒素20を吸着及び拡散させて、チタンおよびチタン合金からなる部材2の表面から内部へ窒素20を拡散、固溶させ表面硬化層18を形成した。この後、ガス導入口10のガス導入弁12を閉じ、ガス排気口14を通じて真空ポンプ16により真空槽6の内部を1×10- 3 Torr以下の圧力まで真空排気してから、ガス導入口10のガス導入弁12を開けヘリウムを導入し圧力を0.1Torrに調整した雰囲気中で硬化処理したときの温度を保ながら30分間一定に保持した後、ヒ−タ−8による加熱を停止しヘリウム雰囲気中で常温まで冷却した。
【0035】
本実施例4においても、被硬化処理部材には実施例1、実施例2、実施例3と同様に鏡面外観を有するJIS規格に定義されたチタン第2種材からなる時計ケ−スを実施例1、実施例2、実施例3と全く同等な温度条件で処理した後、実施例1、実施例2、実施例3と同様に、硬さ、窒素の拡散深さと濃度、表面粗れ、表面組織の結晶粒の大きさ、着色物質である窒素の化合物の有無を測定した。これらの測定結果を表4に示す。
【0036】
【表4】
Figure 0003958838
【0037】
試料番号n〜qはそれぞれ、690℃から810℃まで処理温度を変化させて処理したもので、試料番号eは未処理のチタン第2種材である。
【0038】
表4から明らかなように、試料番号n(処理温度690℃)では処理後の平均表面粗さRa、処理後の結晶粒の大きさRcともに試料番号eの未処理のチタン第2種材と同等で外観品質は良好であるが、表面の硬度がHv=380と低いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが2.5μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されていない。試料番号q(処理温度810℃)では表面の硬度がHv=1120と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが12.1μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されているが、処理後の平均表面粗さがRa=1.0μmと大きく、処理後の結晶粒もRc=80〜250μmに粗大化していて処理後の表面粗れが顕著に認められ処理前の表面状態を維持した硬化処理がなされていない。また処理後の表面では窒化チタンのピ−クが明らかに認められるので窒素が固溶した状態での硬化層が形成されていない。これらに対し試料番号o(処理温度700℃)では表面での硬度がHv=560と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが5.5μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。処理後の平均表面粗さはRa=0.25μm、処理後の結晶粒もRc=30〜50μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。同様に試料番号p(処理温度800℃)では表面での硬度がHv=980と高いこと、0.2〜6.0重量%の窒素の含有深さが12.1μmであることから充分な厚みを有する硬化層が形成されている。処理後の平均表面粗さはRa=0.35μm、処理後の結晶粒もRc=35〜60μmと試料番号eの未処理のチタン第2種材と比較してほとんど変化がなく処理前の表面状態を維持したままの硬化処理がなされている。また、処理後の表面では窒化チタンのピ−クが認められないことから窒素が窒化チタンを形成せずに固溶した状態で硬化層を形成していることが明らかである。以上、試料番号oとpは表面から5μm以上の深さに0.2〜6.0重量%の窒素を窒化チタンなどの化合物を形成せずに固溶した状態で含有している硬化層が形成されていることが明らかで、本発明で限定する窒素量を含有し充分な表面硬化層を有するものとなっていることが認められた。
【0039】
これら実施例1、実施例2、実施例3、実施例4の結果から、チタンおよびチタン合金からなる部材を、真空雰囲気中またはヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、窒素成分を含むガスを真空槽内部に導入した減圧雰囲気中で加熱工程と同一温度で所定時間保持しチタンおよびチタン合金からなる部材の表面から内部へ窒素を熱拡散により拡散、固溶させ硬化層を形成させる硬化処理工程と、ヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で常温まで冷却させる冷却工程からなる3工程を通すことにより、チタンおよびチタン合金からなる部材の表面が処理前の表面状態を維持したままで、窒素が化合物を形成せずに固溶した状態の硬化層を形成させることが可能となった。また、表面硬化層の厚みと表面粗れ防止はガス雰囲気の温度により制御されることが明らかになった。処理温度は高温であるほど窒素の拡散速度が大きく深い硬化層が得られるが、その一方で結晶粒が粗大化して表面が粗れること、また810℃以上の温度ではチタンおよびチタン合金と窒素が反応し着色物質である窒化チタンなどの窒素化合物を形成することにより外観品質を劣化させるため、処理温度は結晶粒が粗大化せず窒化チタンなどの窒素化合物を形成しない800℃以下にする必要がある。一方、690℃以下の処理温度では窒素が十分に固溶せず表面硬度が上昇しないため700℃以上の温度が必要である。
【0040】
本発明の実施例において、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4ともに被硬化処理部材として時計ケ−スを用いたが、チタンおよびチタン合金からなる部材とは、時計ケ−スに限らず、その表面と内部が硬化処理されたものでチタンおよびチタン合金製の時計ケ−ス、時計バンド、ピアス、イアリング、指輪、メガネフレ−ムなどの装飾用品の他にも、処理前の表面状態を維持したまで硬化処理が可能な部材であれば、前記の装飾用品に限らず適用可能なもの全てを意味するものである。
【0041】
本発明の実施例の加熱工程において、実施例1では1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気した真空雰囲気中で、実施例2では1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気後にヘリウムを導入し0.5Torrの圧力に調整した雰囲気中で、実施例3では1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気後にヘリウムを導入し0.01Torrの圧力に調整した雰囲気中で、実施例4では1×10- 5 Torr以下の圧力まで真空排気した真空雰囲気中で加熱手段により700から800℃まで30分間加熱し焼鈍処理しているが、焼鈍時間は30分間に限らず、30分以上2時間以下であれば任意の時間でよい。加熱工程での焼鈍処理は熱間鍛造後の研磨加工により、チタンおよびチタン合金からなる部材上に生じた加工ひずみ層を緩和させることを目的として行なうもので、焼鈍温度は700〜800℃に限らず550〜800℃の範囲内の温度であれば任意の温度で焼鈍処理が可能であるが、加熱工程が終了後直ちに硬化処理工程に移行する必要があるため、加熱工程の処理温度と硬化処理工程の温度を同一にすることが好ましい。従って、加熱工程の処理温度は700〜800℃とする必要がある
【0042】
本発明の実施例の加熱工程において、実施例1と実施例3では1×10- 5 Torr以下の圧力の真空雰囲気中で、実施例2では0.5Torrの圧力に調整したヘリウムの減圧雰囲気中で、実施例3では0.01Torrの圧力に調整したヘリウムの減圧雰囲気中で、焼鈍処理しているが、圧力はこの範囲内の圧力に限らず減圧雰囲気であれば任意の圧力でかまわない。また真空雰囲気、ヘリウムの減圧雰囲気のいずれの雰囲気でもよく。ヘリウムにかえてアルゴンを用いても差し支えがない。
【0043】
本発明の実施例の硬化処理工程において、硬化処理工程の処理時間は窒素成分を含むガスを導入して所定の圧力に調整した後、実施例1と実施例2では加熱工程での温度と同一の温度で7時間、実施例3と実施例4では加熱工程での温度と同一の温度で5時間保持したが、硬化処理工程の処理時間が1時間以下では負荷荷重50gfでの表面のビッカース硬度Hv=450以上が得られない。また硬化処理工程の処理時間が10時間以上になると表面のビッカース硬度は飽和してしまう。従って、硬化処理工程の処理時間は1〜10時間の範囲内の任意の時間でよい。
【0044】
本発明の実施例2の硬化処理工程においては、チタンおよびチタン合金からなる部材に対しヘリウムに窒素ガスを混合させたガス雰囲気中で窒素の化合物を形成させずに窒素を固溶させることにより、処理前の表面状態を維持したままで無着色の表面硬化層を有する硬化部材を得ることが可能となったが、雰囲気ガスはヘリウムと窒素ガスの混合ガスに限らず、アルゴンと窒素ガスの混合ガスを用いてもよい。
【0045】
本発明の実施例3の硬化処理工程においては、チタンおよびチタン合金からなる部材に対しヘリウムにアンモニアガスを混合させたガス雰囲気中で窒素の化合物を形成させずに窒素を固溶させることにより、処理前の表面状態を維持したままで無着色の表面硬化層を有する硬化部材を得ることが可能となったが、雰囲気ガスはヘリウムとアンモニアガスの混合ガスに限らず、アルゴンとアンモニアガスの混合ガスを用いてもよい。
【0046】
本発明の実施例4の硬化処理工程においては、チタンおよびチタン合金からなる部材に対し窒素ガスにアンモニアガスを混合させたガス雰囲気中で窒素の化合物を形成させずに窒素を固溶させることにより、処理前の表面状態を維持したままで無着色の表面硬化層を有する硬化部材を得ることが可能となったが、雰囲気ガスは窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスに限らず、ヘリウムもしくはアルゴンを添加した混合ガスを用いてもよい。
【0047】
本発明の実施例の硬化処理工程においては、実施例1と実施例2では窒素成分を含むガスに窒素ガスを用い圧力を0.3〜0.5Torrに調整した減圧雰囲気で、実施例3と実施例4では窒素成分を含むガスにアンモニアガスを用い圧力を5×10- 3 〜0.01Torrに調整した減圧雰囲気で硬化処理を行なったが、ガス雰囲気の圧力はこの範囲内の圧力に限定する必要はなく、減圧雰囲気であれば任意の圧力でかまわない。
【0048】
本発明の実施例の冷却工程において、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4ともに硬化処理工程が終了後、窒素成分を含むガスの供給を停止し真空排気した後にヘリウムを導入した雰囲気中で硬化処理工程と同一温度で30分間保持した後、ヒ−タ−による加熱を停止しヘリウム雰囲気中で常温まで冷却したが、硬化処理工程と同一の温度で30分間保持したのは冷却工程で窒素成分を含むガスを供給しながら冷却すると窒素が熱拡散しなくなった後も表面に窒素が吸着し続け、窒素が供給過多となり表面で着色物である窒化チタンなどの窒素化合物を形成するため、加熱手段による加熱を停止する前に真空槽内から窒素成分を含むガス雰囲気からヘリウムもしくはアルゴン雰囲気切換えるためである。この硬化処理工程と同一の温度で保持する時間は30分間以上であれば任意の時間でよいが、冷却工程の時間があまり長くなると処理効率が低下するため、30分以上1時間以下が好ましい。重要なことは冷却工程おいては、窒素成分を含むガス雰囲気とせずにヘリウムもしくはアルゴン雰囲気として常温まで冷却することである。
【0049】
本発明の実施例の冷却工程において、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4ともにヘリウムを導入した0.1〜0.5Torrの減圧雰囲気で常温まで冷却を行なっているが、ヘリウム雰囲気の圧力は0.1〜0.5Torrに限らず減圧雰囲気であれば任意の圧力でかまわない。
【0050】
本発明においては、処理前の表面状態を維持したままで窒素が窒化チタンなどの化合物を形成せずに固溶した硬化層を有する硬化部材を得ることが目的であるため、その硬化処理方法は上記方法に限定することはなくプラズマを用いても良い。重要なことは処理前後で平均表面粗さがほとんど変化することなく、さらに結晶粒が粗大化せずに、窒素が固溶している構造をとることにある。
【0051】
本発明において、被硬化処理部材にはチタンおよびチタン合金を用いたが、チタンとは純チタンを主体とする金属部材を意味し、JIS規格で定義されているチタン第1種、チタン第2種、チタン第3種などをいう。またチタン合金とは、純チタンを主体とする金属にアルミニウム、バナジウム、鉄などを添加した金属部材をを意味し、JIS規格で定義されているチタン60種、チタン60E種などをいう。この他にも、各種チタン合金および各種チタン基の金属間化合物がチタン合金に含まれる。
【0052】
【発明の効果】
以上述べてきたように、本発明によればチタンおよびチタン合金からなる部材において、表面から深さ5μm以上に0.2〜6.0重量%の窒素が固溶した表面硬化層を形成させることにより、チタンおよびチタン合金からなる部材に対し、表面粗れを生じさせず、かつ表面に着色物質を形成させずに処理前の表面状態を維持したままで部材の表面と内部が硬化処理された傷のつきにくい高硬度のチタン硬化部材とその硬化処理方法を提供することが可能となった。また、本発明によって得られた硬化部材は硬化処理後も処理前の表面状態が維持されるため、装飾性を高めた実用域の硬化部材を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における処理温度とビッカ−ス硬度の相関関係を示す図である。
【図2】本発明における処理温度と表面での窒化チタンの形成の有無を示す薄膜X線回折によるピ−ク図である。
【図3】本発明の一実施例である硬化部材の硬化処理方法を説明するための装置構成を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施例である硬化部材の構造を示す断面模式図である。
【図5】本発明の一実施例であるチタン第2種材を処理温度690℃で硬化処理した後に、2次イオン質量分析計(SIMS)で窒素の拡散深さと濃度を測定した結果を示す図である。
【図6】本発明の一実施例であるチタン第2種材を処理温度700℃で硬化処理した後に、2次イオン質量分析計(SIMS)で窒素の拡散深さと濃度を測定した結果を示す図である。
【図7】本発明の一実施例であるチタン第2種材を処理温度800℃で硬化処理した後に、2次イオン質量分析計(SIMS)で窒素の拡散深さと濃度を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
2 硬化部材
4 トレイ
6 真空槽
8 ヒ−タ−
10 ガス導入口
12 ガス導入弁
14 ガス排気口
16 真空ポンプ
18 表面硬化層
20 窒素

Claims (6)

  1. ガス導入口とガス排気口とを備えた真空槽に加熱手段とトレイとチタンおよびチタン合金からなる部材を配置し真空槽内部を真空排気した後、真空雰囲気中でトレイ上に載置されたチタンおよびチタン合金からなる部材を加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、
    窒素成分を含むガスを導入した減圧雰囲気中で、窒素成分を含むガスに窒素ガスを用いた場合、圧力を0.3〜0.5Torrに調整した減圧雰囲気で、窒素成分を含むガスにアンモニアガスを用いた場合、圧力を5×10 - 3 〜0.01Torrに調整した減圧雰囲気で、加熱工程と同一温度で所定時間保持しチタンおよびチタン合金からなる部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させて窒素が固溶した硬化層を形成させる硬化処理工程と、
    窒素成分を含むガスの供給を停止し真空排気した後にヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で硬化処理工程と同一温度で所定時間保持した後に常温まで冷却する冷却工程と、
    からなることを特徴とするチタン硬化部材の硬化処理方法。
  2. ガス導入口とガス排気口とを備えた真空槽に加熱手段とトレイとチタンおよびチタン合金からなる部材を配置し真空槽内部を真空排気した後、ヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中でトレイ上に載置されたチタンおよびチタン合金からなる部材を加熱手段により700〜800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、
    窒素成分を含むガスを導入した減圧雰囲気中で、窒素成分を含むガスに窒素ガスを用いた場合、圧力を0.3〜0.5Torrに調整した減圧雰囲気で、窒素成分を含むガスにアンモニアガスを用いた場合、圧力を5×10 - 3 〜0.01Torrに調整した減圧雰囲気で、加熱工程と同一温度で所定時間保持しチタンおよびチタン合金からなる部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させて窒素が固溶した硬化層を形成させる硬化処理工程と、窒素成分を含むガスの供給を停止し真空排気した後にヘリウムもしくはアルゴンを導入した減圧雰囲気中で硬化処理工程と同一温度で所定時間保持した後に常温まで冷却する冷却工程とからなることを特徴とするチタン硬化部材の硬化処理方法。
  3. 硬化処理工程の雰囲気は窒素ガスであることを特徴とする請求項または請求項に記載のチタン硬化部材の硬化処理方法。
  4. 硬化処理工程の雰囲気は窒素ガスにヘリウムもしくはアルゴンを混合させたガスであることを特徴とする請求項または請求項に記載のチタン硬化部材の硬化処理方法。
  5. 硬化処理工程の雰囲気はアンモニアガスにヘリウムもしくはアルゴンを混合させたガスであることを特徴とする請求項または請求項に記載のチタン硬化部材の硬化処理方法。
  6. 硬化処理工程の雰囲気は窒素ガスにアンモニアガスを混合させたガスであることを特徴とする請求項または請求項に記載のチタン硬化部材の硬化処理方法。
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