JP3956423B2 - 車速制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の走行速度が目標値となるように制御する車速制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図11に示すように、無段変速機付き車両において、車速偏差が所定値よりも小さい場合はスロットル開度のみを制御し、車速偏差が所定値よりも大きい場合は変速比のみを制御するようにした車速制御装置が知られている(例えば、特開昭61−232927号公報参照)。この装置では、スロットル開度と変速比の2入力を同時に制御することはない。
【0003】
また、無段変速機付き車両において、車速指令値を維持するために必要な駆動力を実現するエンジントルクと変速比の組合せの中から、最適燃費を実現できる組合せを算出してスロットル開度と変速比を制御するようにした制御アルゴリズムが開示されている(例えば、自動車技術学会紙VOL.48,No.10,1994)。この制御では、スロットル開度と変速比の2入力を同時に制御することにより、車速指令値を達成している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、希薄燃焼型エンジンにおける空燃比の不連続的な切り換え(図12参照)、可変動弁機構付きエンジンにおける吸排気バルブ開閉タイミングの不連続的な切り換え(図13参照)、通常エンジンにおけるフューエルカット/リカバーの切り換え(図14参照)の際には、図15に示すようにエンジントルクに段差が発生する。
【0005】
このようなエンジンを従来の車速制御装置で制御する場合に、車速指令値と走行抵抗の関係から、運転状態が不連続的に切り換わる境界近傍でエンジン負荷がつりあうと、図16に示すように、車速フィードバック制御が働いてスロットル開度のハンチングが発生し、車速が変動する。
【0006】
本発明の目的は、エンジンの運転状態が不連続的に切り換わる境界の近傍における車速変動を抑制することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
(1) 請求項1の発明は、車速指令値を設定する車速設定手段と、車速を検出する車速検出手段と、車速検出値を車速指令値に一致させるための駆動力指令値を演算する駆動力演算手段と、駆動力指令値に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値および変速比指令値を演算するエンジントルク/変速比演算手段と、エンジントルク指令値に基づいてエンジンのスロットル開度を制御するスロットル制御手段と、変速比指令値に基づいて無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段とを備えた車速制御装置に適用される。
そして、エンジンの運転点がエンジンの運転状態が不連続に切り換わる領域内にあるかどうかを判定する判定手段を備えエンジントルク/変速比演算手段は、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定されると、前記領域内での運転を回避するためにエンジントルク指令値と変速比指令値を変更する。
(2) 請求項2の車速制御装置は、エンジントルク/変速比演算手段によって、駆動力指令値に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値とエンジン回転速度指令値を演算し、エンジン回転速度指令値に基づいて変速比指令値を演算するようにしたものである。
(3) 請求項3の車速制御装置は、判定手段によって、エンジンの運転点が前記領域内に停留する時間を計時し、停留時間が所定時間を超えたらエンジンの運転点が前記領域内にあると判定するようにしたものである。
(4) 請求項4の車速制御装置は、エンジントルク/変速比演算手段によって、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定されると変速比指令値を所定値だけ増加するようにしたものである。
(5) 請求項5の車速制御装置は、前記領域を、空燃比の切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域としたものである。
(6) 請求項6の車速制御装置は、前記領域を、吸排気バルブ駆動用カムの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域としたものである。
(7) 請求項7の車速制御装置は、前記領域を、エンジンのフューエルカット/フューエルカット・リカバーの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域としたものである。
【0008】
【発明の効果】
(1) 請求項1の発明によれば、車速検出値を車速指令値に一致させるための駆動力指令値に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値と変速比指令値を演算し、エンジンのスロットル開度と無段変速比の変速比を制御するときに、エンジンの運転点がエンジンの運転状態が不連続に切り換わる領域内にあるかどうかを判定し、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定されると、前記領域内での運転を回避するためにエンジントルク指令値と変速比指令値を変更するようにしたので、エンジンの運転状態が不連続的に切り換わる境界近傍でのエンジンの運転が避けられ、ハンチング状の車速変動が防止される。
(2) 請求項2の発明によれば、駆動力指令値に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値とエンジン回転速度指令値を演算し、エンジン回転速度指令値に基づいて変速比指令値を演算するようにしたので、請求項1と同様な効果が得られる。
(3) 請求項3の発明によれば、エンジンの運転点が前記領域内に停留する時間が所定時間を超えたら、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定するようにした。エンジンの運転点が急俊に変化して使用禁止領域を速やかに抜ける場合でも運転点の変更を行なうと、馬力(エンジントルク×エンジン回転速度)は同じでも運転点が不連続的に変化することによって駆動力に過渡的な影響を与えることがある。したがって、エンジンの運転点が所定時間より長く前記領域内に停留した場合だけ運転点の変更を行なうことにより、駆動力に与える影響を最少にすることができる。
(4) 請求項4の発明によれば、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定されると変速比指令値を所定値だけ増加するようにした。一般に、多くのエンジンでは高トルク領域と低回転速度領域に最適燃費線が来る場合が多いので、最適燃費線上で運転している時にシフトアップ側(高トルク、低回転速度側)に変更すると、エンジントルクや変速比がそれぞれリミット値に達してしまう可能性が高い。したがって、変速比指令値をシフトダウン側に変更することにより、エンジントルクや変速比をリミット値以内で制御することができる。
(5) 請求項5の発明によれば、前記領域を、空燃比の切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域としたので、空燃比が切り換えられるエンジンを走行駆動源とする車両でも安定な走行制御特性が得られる。
(6) 請求項6の発明によれば、前記領域を、吸排気バルブ駆動用カムの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域としたので、吸排気バルブ駆動用カムを切り換えるエンジンを走行駆動源とする車両でも安定な走行制御特性が得られる。
(7) 請求項7の発明によれば、前記領域を、エンジンのフューエルカット/フューエルカット・リカバーの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域としたので、フューエルカット/リカバーの切り換えを行なうエンジンを走行駆動源とする車両でも安定な走行制御特性が得られる。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は一実施の形態の構成を示す。
セットスイッチ1は、現在の車速を車速指令値に設定して車速制御を開始するためのスイッチである。アクセラレートスイッチ2は設定車速を増加するためのスイッチ、コーストスイッチ3は設定車速を低減するためのスイッチである。キャンセルスイッチ4は定速走行制御を解除するためのスイッチ、ブレーキスイッチ5はフットブレーキが操作された時に作動するスイッチである。このブレーキスイッチ5が作動したら、キャンセルスイッチ4が操作された場合と同様に定速走行制御を解除する。
【0010】
クランク角センサー6はエンジン回転速度に応じた周期のパルス列信号を出力し、車速センサー7は車速に応じた周期のパルス列信号を出力する。また、スロットルセンサー8はスロットルバルブの開度を検出する。
【0011】
希薄燃焼型エンジン9は、スロットルアクチュエータによる吸入空気制御と、インジェクターによる燃料噴射制御と、点火プラグによる点火時期制御とにより、エンジントルクが指令値に一致するように制御される。この希薄燃焼型エンジン9では、理想空燃比(ストイキ)状態と希薄燃焼用空燃比状態の切り換えが行なわれるととに、低回転用カムと高回転用カムの切り換えにより吸排気バルブの開閉タイミングが不連続的に切り換えられる。さらにまた、フューエルカット/フューエルカット・リカバーの切り換えが行なわれる。これらの切り換えによってエンジン9の運転状態は不連続的に切り換えられる。
【0012】
ベルト式無段変速機11は、プライマリー・プーリーとセカンダリー・プーリーの半径を油圧制御で変えることによって、変速比が指令値に一致するように制御される。また、ベルト式無段変速機11は発進用のロックアップクラッチ付きトルクコンバーター10を備えている。
【0013】
車速制御コントローラー12、エンジントルクコントローラー13および変速比コントローラー14はそれぞれ、マイクロコンピュータとその周辺部品や各種アクチュエータの駆動回路などを備え、互いに通信回路を介して通信を行なう。車速制御コントローラー12は、車速指令値の設定と変更、トルク指令値と変速比の演算などを行なう。トルクコントローラー13は、エンジン9のエンジントルク指令値に基づくスロットル開度制御と、空燃比、吸排気バルブ開閉タイミング、フューエルカット/リカバーなどのエンジン運転状態の切り換え制御を行なう。さらに、変速比コントローラー14は変速比指令値に基づいて無段変速機11の変速比を制御する。
【0014】
図2は車速制御プログラムを示すフローチャートである。
車速制御コントローラー10は、10msecごとにこの車速制御プログラムを実行する。ステップ1において、車速センサー7のパルス幅(n周期分)の逆数から実車速Vspを演算するとともに、クランク角センサー6のパルス数をカウントして平均エンジン回転速度Neを計測する。続くステップ2で、キャンセルスイッチ4またはブレーキスイッチ5がオン状態にあるか、すなわち定速走行制御が解除されたかどうかを確認する。定速走行制御が解除されたらステップ6へ進み、各種制御フラグやパラメーター変数の初期化を行なって車速制御を終了する。
【0015】
定速走行制御が解除されていない場合はステップ3へ進み、セットスイッチ1が操作されたかどうかを確認する。セットスイッチ1が操作されたら定速走行制御を開始するためにステップ4へ進み、現在の実車速Vspを車速指令値Vsprに設定して記憶する。さらにステップ5で、定速走行制御中を示すフラグをセットしていったん車速制御を終了する。
【0016】
セットスイッチ1が操作されていない場合はステップ7へ進み、定速走行制御中フラグにより定速走行制御中かどうかを確認する。定速走行制御中でなければステップ6へ進み、各種制御フラグやパラメーター変数の初期化を行なって車速制御を終了する。定速走行制御中の場合はステップ8へ進み、車速指令値Vsprに実車速Vspを一致させるための最終駆動力指令値y1を演算する。
【0017】
最終駆動力指令値y1の演算方法を説明する。
この演算は、図3に示すように、線形制御手法であるモデルマッチング手法と近似ゼロイング手法による車速フィードバック補償器を用いて行なう。車速フィードバック補償器に組み込まれた制御対象の車両モデルは、目標駆動力を操作量とし、車速を制御量としてモデル化することによって、相対的に応答性の速いエンジンやトルクコンバータの過渡特性、およびトルクコンバータの非線形定常特性を省略することができる。そして、例えば図4に示すような、予め計測されたエンジン非線形定常特性マップを用いて駆動力指令値に実駆動力が一致するようなスロットル開度指令値を算出し、スロットル開度をサーボコントロールすることにより、エンジン非線形定常特性を線形化することができる。したがって、駆動力指令値を入力とし、車速を出力とする車両モデルは積分特性となり、補償器ではこの車両モデルの伝達特性をパルス伝達関数P(z-1)とおくことができる。
【0018】
図3において、zは遅延演算子であり、z-1を乗ずると1サンプル周期前の値となる。また、C1(z-1)、C2(z-1)は近似ゼロイング手法による外乱推定器であり、外乱やモデル化誤差による影響を抑制する。さらに、C3(z-1)はモデルマッチング手法による補償器であり、図5に示すように、車速指令値Vsprを入力とし実車速Vspを出力とした場合の制御対象の応答特性を、予め定めた一次遅れとむだ時間要素を持つ規範モデルH(z-1)の特性に一致させる。
【0019】
制御対象の伝達特性は、パワートレインの遅れであるむだ時間を考慮する必要がある。駆動力指令値を入力とし実車速を出力とする制御対象のパルス伝達関数P(z-1)は、次式に示す積分要素P1(z-1)とむだ時間要素P2(z-1)(=z-n)の積で表わすことができる。
【数1】
P1(z-1)=T・z-1/{M・(1−z-1)}
ここで、Tはサンプル周期(この実施形態では10msec)、Mは平均車重である。
【0020】
このとき、補償器C1(z-1)は次式で表わされる。
【数2】
C1(z-1)=(1−γ)・z-1/(1−γ・z-1),
γ=exp(−T/Tb)
すなわち、補償器C1(z-1)は時定数Tbのローパスフィルタである。
【0021】
さらに、補償器C2(z-1)はC1/P1として次式で表わされる。
【数3】
C2(z-1)=M・(1−γ)・(1−z-1)/{T・(1−γ・z-1)}
なお、補償器C2は、車両モデルの逆系にローパスフィルタをかけたものであり、実車速Vspから逆算される外乱(走行抵抗)の影響を受けた駆動力、すなわち駆動力から走行抵抗を差し引いた駆動力を逆算することができる。
【0022】
また、制御対象のむだ時間を無視して、規範モデルH(z-1)を時定数Taの1次ローパスフィルタとすると、補償器C3は次のような定数となる。
【数4】
C3=K={1−exp(−T/Ta)}・M/T
【0023】
次に、モデルマッチング補償器C3(z-1)に相当する部分の演算を行ない、実車速Vspから車速指令値Vsprまで加速するための駆動力指令値y4を求める。データy(k−1)は1サンプル周期前のデータy(k)を表わすものとすると、
【数5】
y4(k)=K・{Vspr(k)−Vsp(k)}
【0024】
また、図3に示す外乱推定器の一部のロバスト補償器C2(z-1)に相当する部分の演算を行ない、実車速Vspに基づいて外乱(走行抵抗など)の影響を受けた駆動力y3を逆算する。
【数6】
y3(k)=γ・y3(k−1)+(1−γ)・M・{Vsp(k)−Vsp(k−1)}/T
【0025】
目標駆動力y4を走行抵抗推定値Frで補正して最終目標駆動力y1(k)を求める。
【数7】
Figure 0003956423
ここで、y2(k−2)は駆動力y2(k)の2サンプル周期前の値であり、駆動力y2(補償器C1の出力)の演算は上述した積分要素P1(z-1)の演算に相当し、その2サンプル周期前の値を用いることはむだ時間要素P2(z-1)の演算に相当する。y3(k)は実車速Vspから求めた走行抵抗の影響を受けた駆動力であり、駆動力y2(k−2)は補償器内で求めた走行抵抗の影響を受けない駆動力であるから、両者の差が走行抵抗推定値(外乱推定値)Frとなる。このように、近似ゼロイング手法で構成された外乱推定器は、制御対象モデルの出力と実際の制御対象の出力との差に基づいて走行抵抗などの外乱を正確に推定することができる。
【0026】
次に、最終目標駆動力y1を上下限値以内に制限する。まず、スロットル全開時および全閉時のエンジントルクをエンジン回転速度ごとに測定したデータテーブルを用いて、現在のエンジン回転速度Neに対応する最大エンジントルクTemaxと最小エンジントルクTeminを求める。さらに、最大エンジントルクTemaxと最小エンジントルクTeminから、次式により最大駆動力Fmaxと最小駆動力Fminを求める。
【数8】
Fmax=Temax・Gmax・Gf/Rt,
Fmin=Temin・Gmax・Gf/Rt
ここで、Gmaxは無段変速機11の最大ギア比、Gfはファイナルギア比、Rtは車輪の有効半径である。
【0027】
最終目標駆動力y1(k)を最大駆動力Fmaxと最小駆動力Fmin以内に制限して駆動力y5(k)を求める。
【数9】
y1(k)≧Fmaxの場合は、y5(k)=Fmax,
y1(k)≦Fminの場合は、y5(k)=Fmin,
Fmin<y1(k)<Fmaxの場合は、y5(k)=y1(k)
【0028】
また、外乱推定器の一部であるローパスフィルタとしての補償器C1(z-1)に相当する部分の演算を行なう。
【数10】
y2(k)=γ・y2(k−1)+(1−γ)・y5(k−1)
【0029】
最後に、最終目標駆動力(駆動力指令値)y1(k)に基づいて駆動トルク指令値Torを演算する。
【数11】
Tor=y1・Rt
【0030】
ふたたび図2に戻って車速制御の説明を続ける。ステップ9において、駆動トルク指令値Torと最適燃費とを両立させるための、エンジントルク指令値Terと変速比指令値Gcvtを演算する。ここで、目標駆動力(駆動力指令値)y1と駆動トルク指令値Torは車輪における駆動力とトルクであり、エンジントルク指令値Terはエンジン単体のトルクである。
まず、駆動トルク指令値Torと車速指令値Vsprとに基づいて出力の指令値Lを次式により求める。
【数12】
L=Tor・Vspr/Rt,
(または、L=y1・Vspr)
【0031】
図6は、エンジン回転速度とエンジントルクとにより表わされるエンジン特性図上に等出力線、等燃費線および最適燃費運転線を描いた図である。このようなエンジン特性図を用いて、出力指令値Lに応じた出力を維持しながら燃料消費が最低となる運転点(最適燃費運転点)を検索する。この最適燃費運転点は、等出力線と等燃費線の接点を連ねた最適燃費運転線上にある。実際には、出力に対するエンジントルク指令値Terとエンジン回転速度指令値Nerの最適燃費点を予めマップに記憶しておき、出力指令値Lに対応する指令値TerとNerを表引き演算する。
【0032】
変速比指令値Gcvtは、車輪における駆動トルク指令値Tor(数式11)とエンジンのトルク指令値Ter(ステップ9)とに基づいて次式により求められる。
【数13】
Gcvt=Tor/Ter/Gf,
(または、Gcvt=Ner・Rt/Vspr)
【0033】
ステップ10では、エンジン制御における不連続的な状態切り換えが上記最適燃費運転点の近傍で起きるか否かを判定する。この判定は、図7〜図9に示す空燃比、カム、フューエルカット状態の切り換えによって、エンジンの運転状態が不連続的に切り換わる使用禁止領域(図中のハッチング部分)をエンジン特性マップ上に記憶しておき、最適燃費運転点が使用禁止領域内にあるかどうかを確認する。最適燃費運転点が使用禁止領域内にあるときは、最適燃費運転点が使用禁止領域内に留まる停留時間を計時する。停留時間が所定時間T1より長くなれば、使用禁止領域内における不安定な運転を避けるために変速比を変更する必要があると判断し、ステップ11へ進む。ステップ11では、変速比指令値Gcvtをシフトダウン側に所定量だけ変更、すなわち変速比指令値Gcvtを所定値だけ増加してステップ10へ戻る。
【0034】
一方、最適燃費運転点が使用禁止領域内に留まる停留時間がT1時間以下の場合は、最適燃費運転点が急俊に変化して使用禁止領域を速やかに抜けると判断し、変速比の変更を行なわない。そして、ステップ12へ進み、エンジン9や無段変速機11の機械的な制約から、変速比指令値の上限と下限を制限して最終的な変速比指令値Gcvt’を求める。続くステップ13で、最終的な変速比指令値Gcvt’に基づいて最終的なエンジントルク指令値Ter’を演算する。
【数14】
Ter’=Tor/Gcvt’/Gf
ステップ14において、エンジントルクコントローラー13へエンジントルク指令値Ter’を送るとともに、変速比コントローラー14へ変速比指令値Gcvt’を送る。
【0035】
エンジントルクコントローラー13は、車速制御コントローラー12からのエンジントルク指令値Ter’と、車速センサー7の計測値に基づくエンジン回転速度Neと、スロットルセンサー8の検出値に基づくスロットル開度などにより、希薄燃焼型エンジン9のスロットル開度制御と、空燃比、吸排気バルブ開閉タイミング、フューエルカット状態などの運転状態の切り換え制御を行なう。
また、変速比コントローラー14は、無段変速機11の変速比に車速制御コントローラー12から送られた変速比指令値Gcvt’を設定するとともに、トルクコンバーター10のロックアップクラッチを駆動制御する。
【0036】
このように、実車速を車速指令値に一致させるための駆動力指令値y1を演算し、駆動力指令値y1に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値Terおよび変速比指令値Gcvtを演算する。具体的には、駆動力指令値y1を満足しながら燃料消費を最少に抑制するために、駆動力指令値y1と車速指令値Vsprとの積により出力指令値Lを求め、さらにエンジン定常特性マップ上の等出力線と等燃費線とにより最適燃費運転点を検索し、エンジントルク指令値Terとエンジン回転速度指令値Nerとを決定する。さらに、エンジン回転速度指令値Nerに基づいて変速比指令値Gcvtを演算し、エンジントルク指令値Terに基づいてエンジンのスロットル開度を制御するとともに、変速比指令値Gcvtに基づいて無段変速機の変速比を制御する。そして、エンジントルク指令値Terとエンジン回転速度指令値Nerとにより決るエンジンの最適燃費運転点が、予め設定した領域内に停留する時間が所定時間T1を超えたら、エンジントルク指令値Terと変速比指令値Gcvtを変更する。指令値の変更に際しては、例えば変速比指令値Gcvtを所定値だけ増加する。なお、上記設定領域は、空燃比の切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域、吸排気バルブ駆動用カムの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域、エンジンのフューエルカット/フューエルカット・リカバーの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域などである。
これにより、エンジンの運転状態が不連続的に切り換わる境界近傍でのエンジンの運転が避けられ、ハンチング状の車速変動が防止される。
【0037】
上記実施例では、変速比指令値Gcvtを所定値だけ増加してシフトダウン側に変更するようにした。
一般に、多くのエンジンでは高トルク領域と低回転速度領域に最適燃費線が来る場合が多いので、最適燃費線上で運転している時にシフトアップ側(高トルク、低回転速度側)に変更すると、エンジントルクや変速比がそれぞれリミット値に達してしまう可能性が高い。したがって、変速比指令値をシフトダウン側に変更することにより、エンジントルクや変速比をリミット値以内で制御することができる。
【0038】
さらに、上記実施例では、エンジンの最適燃費運転点が設定領域内に停留する時間が所定時間T1を超えたら、運転点を変更するようにした。
エンジンの運転点が急俊に変化して使用禁止領域を速やかに抜ける場合でも運転点の変更を行なうと、馬力(エンジントルク×エンジン回転速度)は同じでも運転点が不連続的に変化することによって駆動力に過渡的な影響を与えることがある。したがって、エンジンの運転点が所定時間より長く設定領域内に停留した場合だけ運転点の変更を行なうことにより、駆動力に与える影響を最少にすることができる。
なお、所定時間T1は、実機の運転試験やシミュレーションによって、定常的な車速ハンチングが発生しない、できる限り長い時間を設定することが望ましい。
【0039】
以上の一実施形態の構成において、セットスイッチ1が車速設定手段を、車速センサー7が車速検出手段を、車速コントローラー12が駆動力演算手段、エンジントルク/変速比演算手段、判定手段およびエンジントルク/変速比変更手段を、エンジントルクコントローラー13がスロットル制御手段を、変速比コントローラー14が変速比制御手段をそれぞれ構成する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】 一実施の形態の車速制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】 車速フィードバック補償器を示す図である。
【図4】 エンジン非線形定常特性マップを示す図である。
【図5】 モデルマッチング補償器を示す図である。
【図6】 最適燃費運転点の検索方法を示す図である。
【図7】 空燃比の切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる使用禁止領域を示す図である。
【図8】 吸排気バルブ駆動用カムの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる使用禁止領域を示す図である。
【図9】 フューエルカット/リカバーの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる使用禁止領域を示す図である。
【図10】 最適燃費運転点の変更方法を示す図である。
【図11】 従来の車速制御装置の構成を示す図である。
【図12】 空燃比の切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる境界を示す図である。
【図13】 吸排気バルブ駆動用カムの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる境界を示す図である。
【図14】 フューエルカット/リカバーの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる境界を示す図である。
【図15】 エンジンの運転状態を不連続的に切り換えた場合に発生するエンジントルクの段差を示す図である。
【図16】 エンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域でエンジンを運転した場合に発生する車速のハンチング変動を示す図である。
【符号の説明】
1 セットスイッチ
2 アクセラレートスイッチ
3 コーストスイッチ
4 キャンセルスイッチ
5 ブレーキスイッチ
6 クランク角センサー
7 車速センサー
8 スロットルセンサー
9 希薄燃焼型エンジン
10 ロックアップクラッチ付きトルクコンバーター
11 ベルト式無段変速機
12 車速制御コントローラー
13 エンジントルクコントローラー
14 変速比コントローラー

Claims (7)

  1. 車速指令値を設定する車速設定手段と、
    車速を検出する車速検出手段と、
    車速検出値を車速指令値に一致させるための駆動力指令値を演算する駆動力演算手段と、
    駆動力指令値に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値および変速比指令値を演算するエンジントルク/変速比演算手段と、
    エンジントルク指令値に基づいてエンジンのスロットル開度を制御するスロットル制御手段と、
    変速比指令値に基づいて無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段とを備えた車速制御装置において、
    エンジンの運転点がエンジンの運転状態が不連続に切り換わる領域内にあるかどうかを判定する判定手段を備え
    前記エンジントルク/変速比演算手段は、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定されると、前記領域内での運転を回避するためにエンジントルク指令値と変速比指令値を変更することを特徴とする車速制御装置。
  2. 請求項1に記載の車速制御装置において、
    前記エンジントルク/変速比演算手段は、駆動力指令値に基づいて燃料消費が最少となるエンジントルク指令値とエンジン回転速度指令値を演算し、エンジン回転速度指令値に基づいて変速比指令値を演算することを特徴とする車速制御装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載の車速制御装置において、
    前記判定手段は、エンジンの運転点が前記領域内に停留する時間を計時し、停留時間が所定時間を超えたらエンジンの運転点が前記領域内にあると判定することを特徴とする車速制御装置。
  4. 請求項1〜3のいずれかの項に記載の車速制御装置において、
    前記エンジントルク/変速比演算手段は、エンジンの運転点が前記領域内にあると判定されると変速比指令値を所定値だけ増加することを特徴とする車速制御装置。
  5. 請求項1〜4のいずれかの項に記載の車速制御装置において、
    記領域は、空燃比の切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域であることを特徴とする車速制御装置。
  6. 請求項1〜5のいずれかの項に記載の車速制御装置において、
    記領域は、吸排気バルブ駆動用カムの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域であることを特徴とする車速制御装置。
  7. 請求項1〜6のいずれかの項に記載の車速制御装置において、
    記領域は、エンジンのフューエルカット/フューエルカット・リカバーの切り換えによりエンジンの運転状態が不連続的に切り換わる領域であることを特徴とする車速制御装置。
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